IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 学校法人産業医科大学の特許一覧 ▶ 株式会社 伊藤園の特許一覧

特開2024-69950自律神経調節剤、自律神経調節用飲料及び自律神経調節方法
<>
  • 特開-自律神経調節剤、自律神経調節用飲料及び自律神経調節方法 図1
  • 特開-自律神経調節剤、自律神経調節用飲料及び自律神経調節方法 図2
  • 特開-自律神経調節剤、自律神経調節用飲料及び自律神経調節方法 図3
  • 特開-自律神経調節剤、自律神経調節用飲料及び自律神経調節方法 図4
  • 特開-自律神経調節剤、自律神経調節用飲料及び自律神経調節方法 図5
  • 特開-自律神経調節剤、自律神経調節用飲料及び自律神経調節方法 図6
  • 特開-自律神経調節剤、自律神経調節用飲料及び自律神経調節方法 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024069950
(43)【公開日】2024-05-22
(54)【発明の名称】自律神経調節剤、自律神経調節用飲料及び自律神経調節方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/105 20160101AFI20240515BHJP
   A23L 2/52 20060101ALI20240515BHJP
   A23F 3/16 20060101ALI20240515BHJP
   A61K 36/82 20060101ALI20240515BHJP
   A61P 25/02 20060101ALI20240515BHJP
【FI】
A23L33/105
A23L2/00 F
A23L2/52
A23F3/16
A61K36/82
A61P25/02 106
A61P25/02 105
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022180260
(22)【出願日】2022-11-10
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】506087705
【氏名又は名称】学校法人産業医科大学
(71)【出願人】
【識別番号】591014972
【氏名又は名称】株式会社 伊藤園
(74)【代理人】
【識別番号】110000707
【氏名又は名称】弁理士法人市澤・川田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三宅 晋司
(72)【発明者】
【氏名】黒坂 知絵
(72)【発明者】
【氏名】田形 千佳
(72)【発明者】
【氏名】中川 沙恵
(72)【発明者】
【氏名】小林 誠
【テーマコード(参考)】
4B018
4B027
4B117
4C088
【Fターム(参考)】
4B018LB08
4B018LE01
4B018LE02
4B018LE03
4B018LE05
4B018MD18
4B018MD42
4B018MD59
4B018ME14
4B018MF01
4B018MF04
4B027FB01
4B027FB13
4B027FB17
4B027FC06
4B027FE02
4B027FE03
4B027FE04
4B027FE06
4B027FK09
4B027FP72
4B027FR05
4B117LC04
4B117LG17
4B117LK06
4B117LK11
4B117LL09
4B117LP01
4B117LP04
4C088AB45
4C088AC05
4C088BA09
4C088BA11
4C088BA14
4C088BA23
4C088BA32
4C088BA33
4C088CA05
4C088MA52
4C088NA14
4C088ZA24
4C088ZA27
(57)【要約】
【課題】作業負荷に起因する副交感神経が抑制された条件において摂取することにより、自律神経調節効果を得ることができる自律神経調節用飲料などを提供する。
【解決手段】自律神経調節用飲料は、ほうじ茶抽出物を有効成分とし、副交感神経活動を向上させるための摂取、特に作業負荷に起因する副交感神経が抑制された条件における摂取に適し、副交感神経活動の向上は、例えば、心拍変動性スペクトルHF成分、ポアンカレプロットCVI及び圧受容体反射感受性BRSのうちの少なくとも1つのスコアを向上させ、NASA-Task Load Index検査における時間切迫感のスコアの低下を伴うものである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ほうじ茶抽出物を有効成分とする自律神経調節剤。
【請求項2】
ほうじ茶抽出物を有効成分とする自律神経調節用飲料。
【請求項3】
副交感神経活動を向上させるための摂取用である、請求項1記載の自律神経調節剤又は請求項2記載の自律神経調節用飲料。
【請求項4】
前記副交感神経活動の向上は、心拍変動性スペクトルHF成分、ポアンカレプロットCVI及び圧受容体反射感受性BRSのうちの少なくとも1つのスコアを向上させるものである、請求項3に記載の自律神経調節剤又は自律神経調節用飲料。
【請求項5】
前記副交感神経活動の向上は、NASA-Task Load Index検査における時間切迫感のスコアの低下を伴うものである、請求項4に記載の自律神経調節剤又は自律神経調節用飲料。
【請求項6】
作業負荷に起因する副交感神経が抑制された条件における摂取用である、請求項1記載の自律神経調節剤又は請求項2記載の自律神経調節用飲料。
【請求項7】
前記ほうじ茶抽出物は、固形分濃度として、カテキン類1~20質量%、テアニンを0.01~10質量%及びカフェインを1~20質量%含み、ピラジン類を0.0005~0.1質量%含む、請求項1記載の自律神経調節剤又は請求項2記載の自律神経調節用飲料。
【請求項8】
カテキン類1~1000ppm、テアニンを1~50ppm及びカフェインを1~1000ppm含み、ピラジン類を10~200ppb含む、請求項2記載の自律神経調節用飲料。
【請求項9】
前記ほうじ茶抽出物を1日あたり100~3000mg/60kg体重の用量で経口摂取する用の請求項1記載の自律神経調節剤又は請求項2記載の自律神経調節用飲料。
【請求項10】
ほうじ茶抽出物を摂取することを特徴とする自律神経調節方法。
【請求項11】
ほうじ茶抽出物を含有する飲料を摂取することを特徴とする自律神経調節方法。
【請求項12】
副交感神経活動を向上させるために摂取する、請求項10又は11記載の自律神経調節方法。
【請求項13】
前記副交感神経活動の向上は、心拍変動性スペクトルHF成分、ポアンカレプロットCVI及び圧受容体反射感受性BRSのうちの少なくとも1つのスコアを向上させるものである、請求項10又は11記載の自律神経調節方法。
【請求項14】
前記副交感神経活動の向上は、更にNASA-Task Load Index検査における時間切迫感のスコアを低下させるものである、請求項10又は11記載の自律神経調節方法。
【請求項15】
作業負荷に起因する副交感神経が抑制された条件において摂取する、請求項10又は11記載の自律神経調節方法。
【請求項16】
前記ほうじ茶抽出物は、固形分濃度として、カテキン類1~20質量%、テアニンを0.01~10質量%及びカフェインを1~20質量%含み、ピラジン類を0.0005~0.1質量%含む、請求項10又は11記載の自律神経調節方法。
【請求項17】
カテキン類1~1000ppm、テアニンを1~50ppm及びカフェインを1~1000ppm含み、ピラジン類を10~200ppb含む飲料を摂取する、請求項11記載の自律神経調節方法。
【請求項18】
前記ほうじ茶抽出物を1日あたり100~3000mg/60kg体重の用量で経口摂取する、請求項10又は11記載の自律神経調節方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然物由来の成分を有効成分とする自律神経調節剤、自律神経調節用飲料及び自律神経調節方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自律神経系は、血圧や呼吸数など、体内の特定のプロセスを調節している神経系であり、交感神経と副交感神経からなる。交感神経と副交感神経のバランスが崩れると、全身的症状としてだるい、眠れない、疲れがとれないなどの症状が現れ、器官的症状として頭痛、動機や息切れ、めまい、のぼせ、立ちくらみ、下痢や便秘、冷えなど多岐にわたる症状が現れることが知られている。また、精神的症状として、情緒不安定、イライラや不安感、うつなどの症状が現れることも知られている。
【0003】
過度なストレス状態が長く続くと、交感神経の緊張状態の継続や、副交感神経の働きの低下が見られ、交感神経と副交感神経のバランスが崩れることが知られている。反対に、ストレスを軽減することで、自律神経機能を改善させることができる。
【0004】
茶に含まれる成分、例えばテアニンには、リラックス効果があることが広く知られている。
例えば非特許文献1には、パソコンによる作業負荷後の緑茶摂取により、副交感神経が優位になり、注意力が改善され、精神疲労が回復することが報告されている。
特許文献1には、紅茶エキスを有効成分として含んでなる、自律神経調節用組成物が開示されており、特許文献2には、紅茶葉由来の香気成分、中でもホトリエノールやフラネオールを含有することを特徴とする自律神経調節剤が開示されている。
特許文献3には、茶葉抽出物の乾燥重量に対して、デルフィニジンまたはその配糖体0.13重量%以上と、カテキン類23.0重量%以下と、加水分解型タンニン0.6質量%以上とを含み、茶葉抽出物を温度100℃、時間120分の条件で加熱したとき、茶葉抽出物中のデルフィニジンまたはその配糖体の残存率が90%以上である、茶葉抽出物を含む自律神経系症状亢進剤が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】渡邉ら,日本補完代替医療学会誌第10巻第1号:9-16(2013)
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2017-109997号公報(特許第6964974号)
【特許文献2】特開2019-163248号公報(特許第6625775号)
【特許文献3】特開2018-138026号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、天然物由来の成分を有効成分とする新たな自律神経調節剤、自律神経調節用飲料及び新たな自律神経調節方法を提供せんとするものである。特に、作業負荷に起因する副交感神経が抑制された条件において摂取することにより、自律神経調節効果を得ることができる自律神経調節剤、自律神経調節用飲料及び新たな自律神経調節方法を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
[1] 本発明の第1の態様は、ほうじ茶抽出物を有効成分とする自律神経調節剤である。
[2] 本発明の第2の態様は、ほうじ茶抽出物を有効成分とする自律神経調節用飲料である。
【0009】
[3] 本発明の第3の態様は、前記第1の態様の自律神経調節剤又は前記第2の態様の自律神経調節用飲料において、副交感神経活動を向上させるための摂取用である。
[4] 本発明の第4の態様は、前記第3の態様の自律神経調節剤又は自律神経調節用飲料において、前記副交感神経活動の向上は、心拍変動性スペクトルHF成分、ポアンカレプロットCVI及び圧受容体反射感受性BRSのうちの少なくとも1つのスコアを向上させるものである。
[5] 本発明の第5の態様は、前記第4の態様の自律神経調節剤又は自律神経調節用飲料において、前記副交感神経活動の向上は、NASA-Task Load Index検査における時間切迫感のスコアの低下を伴うものである。
【0010】
[6] 本発明の第6の態様は、前記第1~第5のいずれか1の態様の自律神経調節剤又は前記第2~第5のいずれか1の態様の自律神経調節用飲料において、作業負荷に起因する副交感神経が抑制された条件における摂取用のものである。
【0011】
[7] 本発明の第7の態様は、前記第1~第6のいずれか1の態様の自律神経調節剤又は前記第2~第6のいずれか1の態様の自律神経調節用飲料において、前記ほうじ茶抽出物は、固形分濃度として、カテキン類1~20質量%、テアニンを0.01~10質量%及びカフェインを1~20質量%含み、ピラジン類を0.0005~0.1質量%含むものである。
【0012】
[8] 本発明の第8の態様は、前記第2~第7のいずれか1の態様の自律神経調節用飲料において、カテキン類1~1000ppm、テアニンを1~50ppm及びカフェインを1~1000ppm含み、ピラジン類を10~200ppb含む、ものである。
【0013】
[9] 本発明の第9の態様は、前記第1~第7のいずれか1の態様の自律神経調節剤又は前記第2~第8のいずれか1の態様の自律神経調節飲料において、前記ほうじ茶抽出物を1日あたり100~3000mg/60kg体重の用量で経口摂取する用のものである。
【0014】
[10] 本発明の第10の態様は、ほうじ茶抽出物を摂取することを特徴とする自律神経調節方法である。
[11] 本発明の第11の態様は、ほうじ茶抽出物を含有する飲料を摂取することを特徴とする自律神経調節方法である。
【0015】
[12] 本発明の第12の態様は、前記第10又は11の態様の自律神経調節方法において、副交感神経活動を向上させるために摂取することである。
[13] 本発明の第13の態様は、前記第12の態様の自律神経調節方法において、前記副交感神経活動の向上は、心拍変動性スペクトルHF成分、ポアンカレプロットCVI及び圧受容体反射感受性BRSのうちの少なくとも1つのスコアを向上させるものである。
[14] 本発明の第14の態様は、前記第13の態様の自律神経調節方法において、NASA-Task Load Index検査における時間切迫感のスコアの低下を伴うものである。
【0016】
[15] 本発明の第15の態様は、前記第10~第14のいずれか1の態様の自律神経調節方法において、作業負荷に起因する副交感神経が抑制された条件において摂取することである。
【0017】
[16] 本発明の第16の態様は、前記第10~第15のいずれか1の態様の自律神経調節方法において、前記ほうじ茶抽出物は、固形分濃度として、カテキン類1~20質量%、テアニンを0.01~10質量%及びカフェインを1~20質量%含み、ピラジン類を0.0005~0.1質量%含む、ものである。
【0018】
[17] 本発明の第17の態様は、前記第11~第16のいずれか1の態様の自律神経調整方法において、カテキン類1~1000ppm、テアニンを1~50ppm及びカフェインを1~1000ppm含み、ピラジン類を10~200ppb含む飲料を摂取する、ことである。
【0019】
[18] 本発明の第18の態様は、前記第10~第17のいずれか1の態様の自律神経調整方法において、前記ほうじ茶抽出物を1日あたり100~3000mg/60kg体重の用量で経口摂取する、ことである。
【発明の効果】
【0020】
本発明が提案する自律神経調節剤又は自律神経調節用飲料を摂取することにより、自律神経調節効果を得ることができる。例えば副交感神経の活性を高めて、交感神経と副交感神経のバランスを保つことができる。中でも、精神作業負荷などの影響で副交感神経が抑制された場合に摂取することで、自律神経調節効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の自律神経調節用飲料の一実施例を用いた実験の手順を示した図である。
図2】本発明の自律神経調節用飲料の一実施例を用いた実験において、暗算作業を説明するための図である。
図3】本発明の自律神経調節用飲料の一実施例を用いた実験において、生理反応における心拍変動制スペクトルHF成分の評価結果を示したグラフである。
図4】本発明の自律神経調節用飲料の一実施例を用いた実験において、生理反応におけるポアンカレプロットCVIの評価結果を示したグラフである。
図5】本発明の自律神経調節用飲料の一実施例を用いた実験において、生理反応における圧受容体反射感受性BRSの評価結果を示したグラフである。
図6】本発明の自律神経調節用飲料の一実施例を用いた実験において、主観評価における時間切迫感(TD)の評価結果を示したグラフである。
図7】本発明の自律神経調節用飲料の一実施例を用いた実験において、暗算作業における実正答率の評価結果を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に、本発明を、実施の形態例に基づいて説明する。但し、本発明が次に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0023】
<本自律神経調節剤>
本発明の実施形態の一例に係る自律神経調節剤(「本自律神経調節剤」と称する)は、ほうじ茶抽出物を有効成分として含有するものである。
【0024】
本発明において「ほうじ茶」とは、荒茶又は仕上げ茶を焙煎した茶葉の意である(以下、焙煎茶葉ともいう)。
当該「焙煎した茶葉」の「焙煎」とは、茶葉を焙じて煎ることであり、焙煎処理の程度は、焙煎前の茶葉と焙煎後の茶葉との色差ΔEが10以上であることが好ましく、12以上であることが更に好ましく、20以上であることが特に好ましい。
また、焙煎した茶葉のL値としては、25~50であることが好ましく、30~45がより好ましい。焙煎した茶葉のa値としては-10~5であることが好ましく、-7~3であることがより好ましい。焙煎した茶葉のb値としては1~30であることが好ましく、10~20であることが好ましい。
【0025】
(ほうじ茶抽出物)
本自律神経調節剤の有効成分である「ほうじ茶抽出物」は、焙煎茶葉を抽出原料として得られる抽出物、具体的には焙煎茶葉を水、温水又は熱水で抽出して得られる組成物である。
【0026】
ほうじ茶抽出物は、固形分濃度として、カテキン類を1~20質量%、中でも2質量%以上或いは15質量%以下、中でも3質量%以上或いは10質量%以下の割合で含み、テアニンを0.01~10質量%、中でも0.03質量%以上或いは8質量%以下、中でも0.05質量%以上或いは5質量%以下の割合で含み、カフェインを1~20質量%、中でも2質量%以上或いは15質量%以下、中でも3質量%以上或いは10質量%以下の割合で含み、且つ、ピラジン類を0.0005~0.1質量%、中でも0.0006質量%以上或いは0.05質量%以下、中でも0.0007質量%以上或いは0.01質量%以下の割合で含むものであるのが好ましい。
【0027】
本発明において「カテキン類」とは、(-)カテキン(C)、(-)カテキンガレート(CG)、(-)ガロカテキン(GC)、(-)ガロカテキンガレート(GCG)、(-)エピカテキン(EC)、(-)エピカテキンガレート(ECG)、(-)エピガロカテキン(EGC)および(-)エピガロカテキンガレート(EGCG)を意味し、「カテキン類の含有量」とは、これらの合計含有量の意味である。
また、本発明において「ピラジン類」とは、2-エチル-3,5-ジメチルピラジン、テトラメチルピラジンおよび2,3-ジエチル-5-メチルピラジンを意味し、「ピラジン類の含有量」とは、これらの合計含有量の意味である。
【0028】
ほうじ茶抽出物は、固形分濃度として、カテキン類の含有量100質量部に対してピラジン類の含有量は0.0025~10質量部が好ましく、中でも0.005質量部以上或いは1質量部以下、中でも0.0075質量部以上或いは0.1質量部以下の割合で含むものであるのが好ましい。
【0029】
ほうじ茶抽出物は、上述のように、焙煎茶葉を抽出原料として得られる抽出物すなわち焙煎茶葉の抽出物であり、当該焙煎茶葉の抽出物には、焙煎茶葉を抽出原料として得られる抽出液、当該抽出液の希釈液若しくは濃縮液、当該抽出液を乾燥して得られる乾燥物またはこれらの粗精製物若しくは精製物のいずれもが含まれる。
【0030】
(ほうじ茶抽出物の製造方法)
ほうじ茶抽出物は、例えば、焙煎茶葉を抽出することにより抽出液、当該抽出液の希釈液若しくは濃縮液、当該抽出液を乾燥して得られる乾燥物等として得ることができ、必要に応じてピラジン類の濃度を増やすように処理して得ることができる。
【0031】
[焙煎茶葉]
焙煎茶葉は、荒茶又は仕上げ茶を焙煎した茶葉であればよい。
その際、荒茶又は仕上げ茶の品種、茶の栽培方法及び摘採時期を限定するものではない。例えば、一番茶、二番茶、三番茶、四番茶、秋冬番茶などを使用することもできる。また、茶の品種や、茶の栽培方法や、摘採時期などが異なる二種類以上の茶葉を組み合わせて使用することも可能である。本発明の自律神経調節を効果的に得る観点から、甘香ばしい香りを得るためには特に一番茶を使用することが好ましい。
なお、荒茶とは、生葉を蒸し、炒り等によって殺青した後、揉捻及び乾燥を施して得られる茶葉であり、仕上げ茶とは、該荒茶を更に仕上げ加工して得られる茶葉である。
【0032】
焙煎とは、茶葉を焙じて煎る処理を意味し、具体的にはフライパンなどの加熱体に直接接触させて加熱する方法のほか、熱風焙煎、砂炒焙煎、遠赤外線焙煎、開放釜焙煎、回転ドラム式焙煎、媒体焙煎など、当業者に公知の方法を採用することができる。
【0033】
[抽出]
焙煎茶葉の抽出は、焙煎茶葉を水、温水又は熱水による抽出処理をすればよい。水、温水又は熱水は、明確に区別できるものではないが、例えば、80℃以上を熱水、40℃以上80℃未満を温水、40℃未満を水とする。
【0034】
抽出温度としては、例えば、大気圧下においては20℃~100℃であることが好ましく、50℃~100℃であることがより好ましく、70℃~99℃は更に好ましく、90℃~99℃であることが最も好ましい。上記の温度範囲で抽出を行うことで、効率的に抽出物を得ることができる。
抽出pHとしては2.0~8.0で抽出することが好ましく、3.0から7.5で行うことが更に好ましい。
【0035】
抽出処理は、抽出原料である焙煎茶葉に含まれる可溶性成分を抽出溶媒に溶出させ得る限り特に限定はされず、常法、例えばバッチ式や連続式(ドリップ式)など、様々な方法に従って行うことができる。例えば、バッチ式の場合、抽出原料の10~50倍量(質量比)、好ましくは15~30倍量、さらに好ましくは15~25倍量の抽出溶媒に、抽出原料を浸漬し、常温、加温または還流加熱下で攪拌または静置して可溶性成分を抽出させた後、濾過して抽出残渣を除去することにより抽出液を得ることができる。
得られた抽出液から溶媒を留去するとペースト状の濃縮物が得られ、この濃縮物をさらに乾燥すると乾燥物が得られる。また抽出液から溶媒を全て留去せずに濃縮液あるいはペーストの状態にして次の分離工程に進めてもよい。
【0036】
[精製]
上述のようにして得られた焙煎茶葉の抽出物は、必要に応じて、活性向上や不要物の除去等を目的として精製するのが好ましい。
精製としては、液液分配を用いる方法のほか、吸着剤を用いて、水、水溶性溶媒またはこれらの混合溶媒で吸脱着する方法などが挙げられる。
【0037】
また、上述のようにして得られた焙煎茶葉の抽出物は、必要に応じて、例えば各種クロマトグラフィーに供するなどして、必要な成分にさらに精製することができる。
この際、クロマトグラフィーとして、例えば、オープンカラムクロマトグラフィー、フラッシュクロマトグラフィーとして中圧液体クロマトグラフィー(MPLC)や高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、担体を用いない遠心液液分配クロマトグラフィーなどの装置を用いることができる。
また、分離に用いる担体としては、逆相カラムクロマトグラフィー、順相カラムクロマトグラフィー、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)、イオン交換クロマトグラフィーなどの各種クロマトグラフィーに用いるもののほか、合成吸着剤等の各種クロマトグラフィーによる処理を組み合わせて行うことができる。溶出液の各種クロマトグラフィーによる処理の順番は、特に限定されるものではない。
【0038】
(本自律神経調節剤の投与方法)
本発明自律神経調節剤は、経口投与剤または非経口投与剤(筋肉注射、静脈注射、皮下投与、直腸投与、経皮投与、経鼻投与など)として使用することができ、それぞれの投与に適した配合及び剤型とするのが好ましい。
【0039】
(形態)
本発明自律神経調節剤は、例えば、経口投与剤としての医薬品、医薬部外品、栄養補助食品(サプリメント)、飲食物などとして提供することができる。
【0040】
この際、形態としては、例えば液剤、錠剤、散剤、顆粒、糖衣錠、カプセル、懸濁液、乳剤、丸剤などの形態を挙げることができる。例えば経口投与剤用としては液剤、錠剤、散剤、顆粒、糖衣錠、カプセル、懸濁液、乳剤、丸剤などの形態に調製することができ、非経口投与剤用としては注射剤、アンプル剤、直腸投与剤、油脂性坐剤、水溶性坐剤などの形態に調製することができる。
【0041】
本自律神経調節剤は、医薬品、医薬部外品、栄養補助食品に通常用いられている添加剤、例えば賦形剤、増量剤、結合剤、湿潤化剤、崩壊剤、表面活性剤、潤滑剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、溶解補助剤、防腐剤、矯味矯臭剤、無痛化剤、安定化剤などを含有することが可能である。また、例えばでん粉、ゼラチン、炭酸マグネシウム、合成ケイ酸マグネシウム、タルク、ステアリン酸マグネシウム、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースまたはその塩、アラビアゴム、ポリエチレングリコール、シロップ、ワセリン、グリセリン、エタノール、プロピレングリコール、クエン酸、塩化ナトリウム、亜硫酸ソーダ、リン酸ナトリウムなどの無毒性の添加剤を配合することも可能である。
なお、医薬部外品として調製する場合には、例えば瓶ドリンク飲料等の飲用形態、或いはタブレット、カプセル、顆粒等の形態とすることにより、より一層摂取し易くすることができる。
【0042】
本自律神経調節剤は、医薬品のほか、医薬部外品、薬理効果を備えた健康食品・健康飲料・特定保健用食品・機能性食品、食品添加剤、その他ヒト以外の動物に対する薬剤や餌、餌用添加剤などとして提供することもできる。
例えば、医薬部外品として調製し、これを瓶ドリンク飲料等の飲用形態、或いはタブレット、カプセル、顆粒等の形態とすることにより、より一層摂取し易くすることができる。
【0043】
本自律神経調節剤には、酸化防止剤、乳化剤、保存料、pH調整剤、香料、調味料、甘味料、酸味料、品質安定剤等の添加剤を単独、あるいは併用して配合してもよい。例えば、酸化防止剤としてはビタミンC、ビタミンE、システインなどを用いることができ、特にビタミンCを0.005~0.05重量%含有するのがよい。また、例えば甘味料としてはぶどう糖、果糖、異性化液糖、フラクトオリゴ糖、乳化オリゴ糖、大豆オリゴ糖、サイクロデキストリン、アスパルテーム、ラカンカエキスなどを用いることができる。
【0044】
本自律神経調節剤を飲食物として提供する場合、特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品、いわゆる健康食品(機能性食品、健康補助食品)、清涼飲料水などとして提供することができる。但し、これらに限定するものではない。
この際、ほうじ茶抽出物が有する薬理作用を有する旨の表示を付した飲食物とすることも可能である。
【0045】
飲食物として好ましい形態は、例えば飴、ゼリー、錠菓、飲料、スープ、麺、煎餅、和菓子、冷菓、焼き菓子等を挙げることができる。好ましくは、果汁飲料、野菜ジュース、果物野菜ジュース、茶飲料(ほうじ茶飲料を含む)、コーヒー飲料、スポーツドリンク等の容器詰飲料である。
【0046】
(必要摂取量及び含有量)
本自律神経調節剤のほうじ茶抽出物の濃度は、使用方法によっても異なるが、医薬品であれば、乾燥質量換算で0.001~1質量%、中でも0.01質量%以上或いは0.5質量%以下の割合で配合するのが好ましく、飲食品であれば、0.001~1質量%、中でも0.01質量%以上或いは0.5質量%以下の割合で配合するのが好ましい。
【0047】
本自律神経調節剤の有効成分の摂取量又は投与量は、使用方法によっても異なるが、医薬品及び飲食品であれば、前記ほうじ茶抽出物を1日あたり100~3000mg/60kg体重の用量で経口摂取するのが好ましく、中でも110mg/60kg体重以上或いは2900mg/60kg体重以下、その中でも120mg/60kg体重以上或いは2800mg/60kg体重以下の用量で経口摂取するのがさらに好ましい。
なお、摂取回数又は投与回数は、特に限定されない。目安としては、1日1~5回を想定することができ、必要に応じて摂取回数を増減してもよい。
【0048】
<本自律神経調節用飲料>
本発明の実施形態の一例に係る自律神経調節用飲料(「本自律神経調節用飲料」と称する)は、ほうじ茶抽出物を有効成分として含有する飲料である。
【0049】
本発明において「自律神経調節用飲料」とは、自律神経調節効果を有する飲料の意である。
【0050】
(ほうじ茶抽出物)
本自律神経調節用飲料の有効成分である「ほうじ茶抽出物」は、上述した本自律神経調節剤の有効成分である「ほうじ茶抽出物」と同様である。
【0051】
(飲料組成)
本自律神経調節用飲料は、飲料中に、カテキン類を1~1000ppm、中でも10ppm以上或いは500ppm以下、中でも50ppm以上或いは300ppm以下の割合で含み、テアニンを1~50ppm、中でも3ppm以上或いは40ppm以下、中でも5ppm以上或いは30ppm以下の割合で含み、カフェインを1~1000ppm、中でも30ppm以上或いは500ppm以下、中でも50ppm以上或いは300ppm以下の割合で含み、且つ、ピラジン類を10~200ppb、中でも12ppb以上或いは150ppb以下、中でも15ppb以上或いは100ppb以下の割合で含むものであるのが好ましい。
【0052】
また、本自律神経調節用飲料は、飲料中に、カテキン類の含有量100質量部に対してピラジン類の含有量は0.0025~10質量部が好ましく、中でも0.005質量部以上或いは1質量部以下、中でも0.0075質量部以上或いは0.1質量部以下の割合で含むものであるのが好ましい。
【0053】
<可溶性固形分>
さらに、本自律神経調節用飲料の可溶性固形分量(Brix)は0.10~0.50%が好ましく、0.15~0.40%がより好ましく、0.20~0.30%が特に好ましい。
【0054】
<タンニン類>
本自律神経調節用飲料におけるタンニン類濃度は、20mg/100mL~70mg/100mLであるのが好ましい。
タンニン類濃度は、より好ましくは25mg/100mL~65mg/100mLであり、特に好ましくは30mg/100mL~60mg/100mLである。本ほうじ茶組成物におけるタンニン類とは、単一の成分名ではなく、植物に含有されタンパク質、アルカロイド、金属イオンと反応し、強く結合して難溶性の塩を形成する水溶性化合物であり、ポリフェノール類に含まれる成分の総称であり、カテキン類も含むものである。
【0055】
(製造方法)
本自律神経調節用飲料は、本自律神経調節剤のほうじ茶抽出物の製造方法と同様に、焙煎茶葉を抽出することにより抽出液を得、当該抽出液を必要に応じて希釈、濃縮又は成分調整することにより製造することができる。
【0056】
この際、成分調整としては、必要に応じて、純水、ミネラル成分のほか、アスコルビン酸やアスコルビン酸ナトリウム等の酸化防止剤、香料、炭酸水素ナトリウム等のpH調整剤、乳化剤、保存料、甘味料、着色料、増粘安定剤、調味料、強化剤等の添加剤を単独又は組み合わせて配合するようにしてもよい。
【0057】
上記のように調整した抽出液は、常法によって殺菌乃至容器詰めし、容器詰飲料の態様にすることもできる。充填容器としては、いわゆるPETボトルなどのプラスチック容器の他、瓶、缶、テトラパック(登録商標)などの紙容器を挙げることができる。
【0058】
殺菌方法及び充填方法に関しては、例えば、食品衛生法に定められた殺菌条件の下で、従来から行われている通常の方法を挙げることができる。プラスチック容器飲料(例えば、PETボトル飲料)であれば、高温で抽出液を殺菌し、そのままの温度で充填して冷却するホットパック充填、殺菌された容器に殺菌された抽出液を無菌環境下で常温充填するアセプティック充填、その他の充填方法を挙げることができる。より具体的には、プラスチック容器飲料の場合には、UHT殺菌(抽出液を120~150℃で1秒~数十秒保持する。)を行うようにすればよい。缶詰飲料であれば、容器充填後に加熱殺菌、例えばレトルト殺菌、例えば、適宜加圧下(1.2kg/cm2など)、121℃で7分間加熱殺菌すればよい。
【0059】
(必要摂取量及び含有量)
本自律神経調節用飲料のほうじ茶抽出物の濃度は、使用方法によっても異なるが、乾燥質量換算0.001~1質量%、中でも0.01質量%以上或いは0.5質量%以下の割合で配合するのが好ましい。
【0060】
本自律神経調節用飲料の有効成分の1日あたりの摂取量は、前記ほうじ茶抽出物を1日あたり100~3000mg/60kg体重の用量で経口摂取するのが好ましく、中でも110mg/60kg体重以上或いは2900mg/60kg体重以下、その中でも120mg/60kg体重以上或いは2800mg/60kg体重以下の用量で経口摂取するのがさらに好ましい。
また、本自律神経調節用飲料の1回あたり摂取量は、前記ほうじ茶抽出物を1回あたり100~250mg/60kg体重の用量で経口摂取するのが好ましく、中でも110mg/60kg体重以上或いは230mg/60kg体重以下、その中でも120mg/60kg体重以上或いは200mg/60kg体重以下の用量で経口摂取するのがさらに好ましい。
【0061】
<効果>
本自律神経調節剤又は本自律神経調節用飲料を体内に摂取することにより、自律神経調節効果を得ることができる。例えば副交感神経の活性を高めて、交感神経と副交感神経のバランスを保つことができる。中でも特に、作業負荷に起因する副交感神経が抑制された条件において、本自律神経調節剤又は本自律神経調節用飲料を体内に摂取することにより、副交感神経の活性を高めて、交感神経と副交感神経のバランスを保つことができる。よって、副交感神経活動向上剤又は副交感神経活動向上飲料として提供することもできる。
また、本自律神経調節剤又は本自律神経調節用飲料を体内に摂取した状態において、作業負荷が掛かったとしても、副交感神経の活性を維持することができる。
【0062】
また、本自律神経調節剤又は本自律神経調節用飲料を体内に摂取した状態において作業を行うと、或いは、本自律神経調節剤又は本自律神経調節用飲料を体内に摂取するのと、作業とを交互に行うことにより、作業効率を高めることができる。よって、作業効率改善剤又は作業効率改善飲料として提供することができる。
【0063】
前記副交感神経活動の向上は、心拍変動性スペクトルHF成分、ポアンカレプロットCVI及び圧受容体反射感受性BRSのうちの少なくとも1つのスコアを向上させるものである。よって、何れか1つのスコアを向上させることができれば、副交感神経活動が向上したと評価することができる。
よって、心拍変動性スペクトルHF成分のスコア向上剤、ポアンカレプロットCVIのスコア向上剤、圧受容体反射感受性BRSのスコア向上剤としても提供することができる。
【0064】
前記副交感神経活動の向上は、NASA-Task Load Index検査における時間切迫感のスコアの低下を伴うものであるのが好ましい。
よって、時間切迫感抑制剤又は時間切迫感抑制飲料としても提供することができる。
【0065】
以上の効果を得るためには、前記ほうじ茶抽出物を1日あたり100~3000mg/60kg体重の割合で摂取するように、若しくは、前記ほうじ茶抽出物を1回あたり100~250mg/60kg体重の割合で摂取するように、本自律神経調節剤又は本自律神経調節用飲料を経口摂取するのが好ましい。
【0066】
<安全性>
本自律神経調節剤及び本自律神経調節用飲料の有効成分は、長年に渡って人類が経口摂取している成分であるから、安全性は食経験の観点から保証されていると言える。
【0067】
<語句の説明>
本発明において「X~Y」(X,Yは任意の数字)と表現する場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」の意と共に、「好ましくはXより大きい」或いは「好ましくはYより小さい」の意も包含する。
また、「X以上」(Xは任意の数字)或いは「Y以下」(Yは任意の数字)と表現した場合、「Xより大きいことが好ましい」或いは「Y未満であることが好ましい」旨の意図も包含する。
【実施例0068】
以下に本発明を実施例によってさらに具体的に説明する。ただし、本発明は実施例に限定されるものではない。
下記実施例において「%」は、特に言及しなければ「質量%」を示す。
【0069】
<経口投与サンプル>
経口投与サンプルとして、白湯、緑茶飲料、ほうじ茶飲料の3種類の飲料を用意した。
【0070】
(1)白湯
白湯として純水を55℃±1℃に加温した。
【0071】
(2)緑茶飲料
緑茶抽出物として株式会社伊藤園製「お~いお茶緑茶」を用意した。
【0072】
(3)ほうじ茶飲料
荒茶(静岡県産、一番茶)50gを表面温度が100℃のフライパンに投入し、表面温度が250℃に達するまで加熱してから更に1分間焙煎し、焙煎茶葉を得た。得られた焙煎茶葉24gを90℃の熱水1Lで8分間抽出し、ほうじ茶抽出液を得た。
ほうじ茶抽出液を連続遠心機SA1(ウエストファリア社製)に通液し、濾過液を得、濾過液にビタミンCを添加した後、重曹を添加してpHが6.20となるように調整した後、イオン交換水で3Lにメスアップして調合液とした。
調合液をUHT殺菌機(131℃、30秒)で殺菌し、PETボトルに充填し、ほうじ茶飲料を得た。
【0073】
(飲料の成分分析)
上記3種類の飲料における成分分析は、一般財団法人日本食品分析センター、昭和電工マテリアルズ・テクノサービス株式会社及び株式会社伊藤園にて行った。その結果を下記表1に示す。
【0074】
【表1】
【0075】
<試験>
20名の被験者に対して、図1に示した実験手順に従って試験を行った。白湯、緑茶飲料又はほうじ茶飲料を摂取し、5分間の暗算作業を交互に3回行い、生理反応(心電図、血圧)、暗算作業の成績、主観評価を計測した。生理反応、暗算作業、主観評価の詳細については後述する。
【0076】
(被験者)
18~30歳の健康な男性20名を対象とした。
また、被験者には、試験前夜に大量飲酒をせず十分な睡眠をとること、試験当日には強い運動をしないこと、実験終了後まではカフェインを摂取しないことを指示した。
各被験者が、条件および実験日を変えて2回の試験に参加した。被験者の半分は、1回目の試験で白湯とほうじ茶飲料とを摂取し、2回目の試験で白湯と緑茶飲料とを摂取してもらい、被験者の残りの半分は、1回目の試験で白湯と緑茶飲料とを摂取し、2回目の試験で白湯とほうじ茶飲料とを摂取してもらった。
なお、各飲料は、それぞれの被験者に、55℃±1℃の温度で提供できるように温度管理して摂取してもらった。
【0077】
(実験手順)
実験手順は図1に示すとおり、飲料50mLの摂取と、5分間の暗算作業とを交互に3回行い、生理反応(心電図、血圧)、暗算作業の成績、主観評価を計測した。
より詳しくは、被験者に生理反応を測定するための電極センサを取付け、順応するために10分間時間をおいた。その後、被験者は、主観評価(SFF、BJSQ)に関する事項に回答をし、5分間安静にした後、白湯を摂取し、味や香りに関する飲料評価に回答した。回答後に1回目の暗算作業をし、主観評価(NASA-TLX、Flow State Scale)に関する事項に回答した。その後、白湯の摂取と主観評価を2回繰り返し行い、計3回の暗算作業を行った。暗算作業後に主観評価(NASA-TLX、Flow State Scale)に関する事項に回答し、4回目の白湯の摂取を行い5分間安静にし、主観評価(SFF、BJSQ)に関する事項に回答をした。
10分間の休憩をした後、今度は白湯を緑茶飲料又はほうじ茶飲料に変えて、上記と同様に実験を行った。
【0078】
生理反応(心電図、血圧)、暗算作業の成績、主観評価の計測方法は以下のとおりである。
【0079】
(生理反応)
<心電図(ECG:electrocardiogram)>
心電図波形より、以下の8指標を算出した。
・R-R間隔(R-R interval:RRI)
・心電図のR波とR波の間隔[ms]。心拍数と同じ情報である。
・HR=60000/RRI[拍/分]
・RRI周波数成分
・LF(0.04-0.15Hz):迷走神経活動と交感神経活動の両方が関与している。
・HF(0.15-0.4Hz):呼吸活動に伴う胸腔内圧の変化と呼吸中枢からの信号による心拍変動で、副交感神経のみが関与している。
・ポアンカレプロット指標
・SD1:RRI(i)とRRI(i+1)の散布図を描いた楕円の短辺の長さ。急なRRI変化を捉える。
・SD2:楕円の長辺の長さ、緩やかなRRI変化を捉える。
・CVI(cardiac vagal index):副交感神経活動の指標といわれている。
CVI=log(SD2×SD1)で算出される。
・CSI(cardiac sympathetic index):交感神経活動の指標といわれている。
CSI=SD2/SD1で算出される。
【0080】
<血圧(Blood Pressure:BP)>
総末梢血管抵抗と心拍出量の積。最重要な生体変数とされており、これを一定に保とうとするホメオスタシスによりネガティブフィードバックが起きる。
・収縮期血圧(Systolic Blood Pressure:SBP):心臓から拍出された血流が大動脈壁に与える圧力。最高血圧ともよばれる。
・拡張期血圧(Diastolic Blood Pressure:DBP):心臓に向かう血液が血管壁に与える圧力。最低血圧ともよばれる。
・平均血圧(Mean BP:MBP):MBP=DBP+(SBP-DBP)/3で求められる。
【0081】
(圧受容体反射感受性(Baroreceptor Reflex Sensitivity:BRS))
血圧の上昇・下降を検出し、血圧を一定に保つために心拍を制御する機能の程度である、副交感神経系のみが関与するため、副交感神経系活動を評価できる有力な指標であると考えられている。
血圧の変化に対するRR間隔(心拍数)の変化の割合で評価し、以下の算出式で得られる。ここで、LFRRIとLFSBPは、それぞれRRIおよびSBPの周波数解析のLF成分である。
BRS=√LFRRI/LFSBP
※ここでのLF周波数帯域=0.05~0.15Hz
【0082】
(暗算作業)
暗算作業は、パソコン画面に、加算・減算の計算式が2秒間表示され、1.5秒間の間隔をあけて、数値が1.5秒間提示される。被験者は、その数値が計算式の答えと一致するかどうかを判断し、一致する場合は左クリック、一致しない場合は右クリックで回答する(図2参照)。被験者の回答の有無にかかわらず、すべての問題は5秒毎に出題される。計算式は、表2に示すとおり、5段階のレベルが設定されており、被験者の回答が正しければレベルがあがり、誤っているか無回答の場合はレベルが下がる。なお、いずれの試行においてもレベル3から開始される。被験者には、数値が提示されている1.5秒間にマウスで回答し、時間内に回答できなかった場合であっても次の暗算作業を続けるように教示した。なお、レベルのことは伝えなかった。
【0083】
【表2】
【0084】
(主観評価)
<SFF:自覚症しらべ(25項目)>
25の質問について5段階評定尺度で評価させ、ねむけ感・不安定感・不快感・だるさ感・ぼやけ感を評価した。
【0085】
<BJSQ:職業性ストレス簡易調査票(心理的ストレス反応18項目)>
今の状態について4段階評定尺度で回答させ、活気・イライラ感・疲労感・不安感・抑うつ感の5尺度を評価した。
【0086】
<NASA-Task Load Index(NASA-TLX)>
メンタルワークロードの主観的評価である。精神的要求(Mental Demand:MD)、身体的要求(Physical Demand:PD)、時間切迫感(Temporal Demand:TD)、作業達成感(Own Performance:OP)、努力(Effort:EF)、不満(Frustration level:FR)の6つの尺度と全体的負担感について「高い」-「低い」(作業達成感は「良い」-「悪い」)をVASで評価した。
【0087】
<Flow State Scale(12 項目簡易版)>
作業中にどの程度フロー状態(目標に向かって集中し、時間を忘れて行動している状態)であったかを7段階評定尺度で回答させ、全項目の平均値(FLOW)および4つの副項目(明確な目標、明瞭なフィードバック、時間感覚の変化、挑戦とスキルのバランス)を評価した。
【0088】
(実験結果)
<生理反応>
生理反応における副交感神経活動の指標である、心拍変動制スペクトルHF成分、ポアンカレプロットCVI、圧受容体反射感受性BRSの評価結果を図3~5に示す。
これらの生理指標は5分毎のブロックに分けて平均値を算出した後に、各日の10ブロックで被験者毎に標準得点化を行ない、その平均値を算出した。
なお、図中、REST1,2は、それぞれ前後の安静時間を示し、TASK1~3は、それぞれ1~3回目の暗算作業後の生理反応の評価を示す。また、GT-W、GT-Tは、それぞれ白湯+緑茶飲料での実験における白湯、緑茶飲料を摂取した場合を表し、RGT-W、RGT-Tは、それぞれ白湯+ほうじ茶飲料での実験における白湯、ほうじ茶飲料を摂取した場合を表す。
【0089】
図3~5に示されるとおり、白湯摂取に比較して、緑茶飲料又はほうじ茶飲料摂取では各評価が高くなった。特に、BRS(図5)では、ほうじ茶飲料が緑茶飲料に比較しても高くなることが見出せた。
【0090】
<主観評価>
主観評価における時間切迫感(Temporal Demand: TD)の評価結果を図6に示す。
主観評価について、正常に反応が取得できなかった3名を除いた17名について生データとともに被験者毎に全12ブロック(作業3回×飲料4条件)の標準得点を算出した。作業に対する習熟効果が大きく発現しているため、TASK1を除いてTASK2とTASK3のみ(8ブロックの標準得点)について検定を行った。まず、各々の作業(TASK2とTASK3)について同日試行内で湯と茶の差について対応のあるt-検定を行った。次に、各飲料条件においてTASK2とTASK3の比較を検討した(対応のあるt-検定)。なお、検定は条件間比較のみとし、順序間の検定は行わなかった。図中の表記は† p<0.10であり、誤差表示は標準誤差である。
【0091】
図6に示されるとおり、白湯摂取と比較して、緑茶飲料摂取では変化が見られないが、ほうじ茶飲料摂取では暗算作業中の時間切迫感(TD)が有意に低くなることが見出せた。
【0092】
<暗算作業>
暗算作業における実正答率の評価結果を図7に示す。
暗算作業における実正答率は、以下の式で算出した。なお、制限時間内に反応がなかったものをタイムアウトとし、また、プログラムのバグと思われる反応時間が0msecのものについては、ノーカウントとした。
・実正答率:時間内に回答したうちの正答率=正答数/(問題数-タイムアウト-反応時間0)
【0093】
図7に示されるとおり、白湯摂取に比較して、緑茶飲料摂取、ほうじ茶飲料摂取ともに暗算作業の実正答率が高くなった。また、白湯摂取、緑茶飲料摂取では2回目の暗算作業において実正答率の低下が見られるが、ほうじ茶飲料摂取では、3回ともに実正答率が高く、高いパフォーマンスを維持できることが見出せた。
【0094】
これらの結果から、ほうじ茶抽出物は、特に、作業負荷に起因する副交感神経が抑制された条件において摂取することにより、自律神経調節効果を得ることができることが見出せた。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7