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特開2024-69958建築物の構造部材の損傷検知システムと損傷検知方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024069958
(43)【公開日】2024-05-22
(54)【発明の名称】建築物の構造部材の損傷検知システムと損傷検知方法
(51)【国際特許分類】
   G01M 99/00 20110101AFI20240515BHJP
   G01V 15/00 20060101ALI20240515BHJP
【FI】
G01M99/00 Z
G01V15/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022180277
(22)【出願日】2022-11-10
(71)【出願人】
【識別番号】390037154
【氏名又は名称】大和ハウス工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000110217
【氏名又は名称】TOPPANエッジ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】山田 拓久
(72)【発明者】
【氏名】大澤 淳司
(72)【発明者】
【氏名】今仲 雅之
(72)【発明者】
【氏名】湯淺 嵩之
(72)【発明者】
【氏名】白井 真彦
(72)【発明者】
【氏名】道坂 岳央
(72)【発明者】
【氏名】菰田 夏樹
【テーマコード(参考)】
2G024
2G105
【Fターム(参考)】
2G024AD34
2G024BA22
2G024CA18
2G024CA30
2G024FA11
2G105AA01
2G105BB11
2G105DD02
2G105EE01
(57)【要約】
【課題】大掛かりで手間のかかる取り付け施工を不要にしながら、地震時における建築物の構造部材の損傷の有無を検知することのできる、建築物の構造部材の損傷検知システムと損傷検知方法を提供すること。
【解決手段】建築物の構造部材の損傷検知システム100であり、構造部材16,17に損傷検知センサ80が取り付けられており、損傷検知センサ80が記憶している損傷の有無に関する検知データを、損傷検知センサ80と非接触の状態でリーダー装置90が取得するようになっている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
建築物の構造部材の損傷検知システムであって、
前記構造部材に損傷検知センサが取り付けられており、該損傷検知センサが記憶している損傷の有無に関する検知データを、該損傷検知センサと非接触の状態でリーダー装置が取得するようになっていることを特徴とする、建築物の構造部材の損傷検知システム。
【請求項2】
前記損傷検知センサが、アンテナと、制御部と、検知部とを有し、
基材の上に、前記アンテナと前記制御部と前記検知部が搭載され、該アンテナと該制御部と該検知部の一部が被覆部材により被覆されており、
前記検知部が前記被覆部材から露出している露出領域の導通もしくは非導通の状態により、損傷の有無が検知されるようになっており、
前記制御部は、前記リーダー装置から供給された電力によって動作し、前記検知部の導通もしくは非導通の状態を判定して記憶することを特徴とする、請求項1に記載の建築物の構造部材の損傷検知システム。
【請求項3】
前記基材が、前記アンテナ及び前記制御部と、前記構造部材との間に介在する、緩衝材として機能することを特徴とする、請求項2に記載の建築物の構造部材の損傷検知システム。
【請求項4】
前記構造部材がブレースである場合に、2箇所で支持される該ブレースの支点間距離の中央位置もしくは略中央位置に前記損傷検知センサが取り付けられていることを特徴とする、請求項3に記載の建築物の構造部材の損傷検知システム。
【請求項5】
上梁と下梁と一対の柱とにより構成され、該一対の柱の間に横架材が配設されている、前記建築物の架構において、その対角線に沿って前記ブレースが取り付けられており、
前記ブレースは、前記架構における2つの隅角部と、横架材との交点との3箇所で支持され、各隅角部と該交点の支点間の中央位置もしくは略中央位置に前記損傷検知センサが取り付けられており、
上方の前記損傷検知センサは、前記アンテナを下方に向けた姿勢で取り付けられ、
下方の前記損傷検知センサは、前記アンテナを上方に向けた姿勢で取り付けられていることを特徴とする、請求項4に記載の建築物の構造部材の損傷検知システム。
【請求項6】
建築物の構造部材の損傷検知方法であって、
前記構造部材に損傷検知センサを取り付けておき、該構造部材に外力が作用して変形した後、該損傷検知センサが該構造部材の損傷の有無に関する検知データを記憶し、該損傷検知センサと非接触の状態でリーダー装置にて損傷の有無を特定することを特徴とする、建築物の構造部材の損傷検知方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物の構造部材の損傷検知システムと損傷検知方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地震時における建築物の損傷度(もしくは被災度)を評価するに当たり、測定されている建築物の変位量(各階の変位量)や、この変位量に基づいて算定される層間変形角が一般に用いられる。複数階の建築物の2以上の階(例えば1階と最上階)に設置されている複数の地震計(加速度計)により地震時における加速度波形(地震波形)を取得し、各地震計による加速度波形を2回積分することにより、地震計設置階における地震時の変位量を算定する。
【0003】
算定された複数階の変位量に基づいて建築物の層間変形角を算定し、建築物の健全性評価が実行される。例えば、5階建ての建築物において、1階と最上階の2箇所に地震計が設置されている場合は、各階の変位量を算定した後、2階乃至4階の変位量は、算定されている1階と最上階の変位量を内挿することによって求めることができる。各階の変位量の差分値を階高で除すことにより、各階の層間変形角が算定される。5階の全ての階に地震計が設置されている場合は、各階にて測定された加速度波形に基づいて各階の変位量が算定され、各階の層間変形角が算定されることになる。
【0004】
このように、地震計により計測された加速度波形を用いて各階の変位量を算定し、各階の層間変形角を算定することにより、建築物の健全性評価を行う技術の一例が特許文献1に提案されている。
【0005】
特許文献1に提案されている建物損傷検知装置は、多層構造の建物の観測層に設けられているセンサにて得られた加速度データと、観測層における損傷の有無を示す損傷情報とを適用し、さらに、観測層における加速度データと当該観測層における損傷の有無の関係を学習した建物損傷検知モデルを適用して、判定対象の判定層における損傷の判定を行う判定部と、判定層に設けられているセンサから加速度データを取得する取得部と、取得された加速度データと損傷検知モデルを用いて、判定部にて行われた判定層における損傷に関する判定結果を出力する出力部とを備えている。
【0006】
特許文献1に記載の建物損傷検知装置をはじめとして、従来の地震時における建築物の損傷度評価方法は、あくまでも各階の損傷の程度を把握するものであり、具体的に各階の構成部材の損傷の有無を検知するものではない。
【0007】
そこで、建築物の構成部材の損傷の有無を検知する技術が特許文献2に提案されている。具体的には、1本の光ファイバーに、設置された測定対象物からの応力を伝達させないための保護部材により覆われた部分と、設置された測定対象物からの応力を伝達させるために光ファイバーを露出している部分とが形成されている、損傷検知用光ファイバーを測定対象物に設置する。光ファイバーの一端から入射した光が他端で検出されない場合は、光ファイバーを露出している部分が損傷したと推定し、逆に光ファイバーの一端から入射した光が他端で検出される場合は、少なくとも測定対象物は損傷を受けていないか、あるいは損傷箇所は光ファイバーの保護部材が施されている部分であると推定する、損傷検知方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2019-207128号公報
【特許文献2】特開2002-48676号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献2に記載の損傷検知方法によれば、建築物の構成部材の損傷の有無を検知することができる。ここでは、光ファイバーが適用されているが、建築物の構成部材にひずみゲージを取り付け、ひずみゲージを測定することにより構成部材の損傷の有無を検知する方法も一般に用いられている。しかしながら、光ファイバーやひずみゲージは有線の計測手段であることから、建築物内に配線経路を確保する施工が必要になり、さらには、光入射のための装置やデータ収集用の測定器が必要になるといった様々な課題が存在する。
【0010】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、大掛かりで手間のかかる取り付け施工を不要にしながら、地震時における建築物の構造部材の損傷の有無を検知することのできる、建築物の構造部材の損傷検知システムと損傷検知方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成すべく、本発明による建築物の構造部材の損傷検知システムの一態様は、
前記構造部材に損傷検知センサが取り付けられており、該損傷検知センサが記憶している損傷の有無に関する検知データを、該損傷検知センサと非接触の状態でリーダー装置が取得するようになっていることを特徴とする。
【0012】
本態様によれば、建築物の構造部材に損傷検知センサが取り付けられ、損傷検知センサが記憶している損傷の有無に関する検知データを、損傷検知センサと非接触の状態でリーダー装置が取得することにより、損傷検知センサの設置に際して手間のかかる施工を不要としながら、地震時における建築物の構造部材の損傷の有無を高い精度で検知することが可能になる。
【0013】
ここで、「構造部材」とは、建築物の骨格を形成する柱や梁の他、柱と梁により形成される架構内に組み込まれるブレース(斜材)等を意味しており、一次部材などと称することもできる。尚、本来的には構造部材に含まれない、非構造部材である、床や外壁等に対して損傷検知センサが取り付けられ、非構造部材の損傷の有無が検知されてもよい。すなわち、地震後の建物の健全性を評価する上では、構造部材の損傷の有無の検知が肝要であり、本態様の損傷検知システムの検知対象もこの構造部材であるものの、非構造部材の検知を何ら排除するものでない。
【0014】
また、本発明による建築物の構造部材の損傷検知システムの他の態様は、
前記損傷検知センサが、アンテナと、制御部と、検知部とを有し、
基材の上に、前記アンテナと前記制御部と前記検知部が搭載され、該アンテナと該制御部と該検知部の一部が被覆部材により被覆されており、
前記検知部が前記被覆部材から露出している露出領域の導通もしくは非導通の状態により、損傷の有無が検知されるようになっており、
前記制御部は、前記リーダー装置から供給された電力によって動作し、前記検知部の導通もしくは非導通の状態を判定して記憶することを特徴とする。
【0015】
本態様によれば、検知部の被覆部材から露出している露出領域(検出領域)の導通もしくは非導通の状態をリーダー装置が読み取ることにより、例えば、地震時に検知部の一部が破断(断線)して非導通状態となった際に、構造部材の損傷を検知することが可能になる。例えば、検知部の一部が破断する際の引張力が構造部材の降伏強度程度に設定されていることにより、検知部の破断をもって構造部材が塑性域に達していると判断することができ、構造部材が損傷していると特定することができる。また、制御部が、リーダー装置から供給された電力によって動作し、検知部の導通もしくは非導通の状態を判定して記憶することにより、バッテリーレスの損傷検知センサを形成でき、建築物における構造部材の損傷有無に関する長期間の検知に際してバッテリー交換を不要にできる。
【0016】
また、本発明による建築物の構造部材の損傷検知システムの他の態様は、
前記基材が、前記アンテナ及び前記制御部と、前記構造部材との間に介在する、緩衝材として機能することを特徴とする。
【0017】
本態様によれば、例えば構造部材が金属部材(もしくは鋼材)である場合に、アンテナや制御部が搭載される基材が緩衝材として機能することにより、アンテナ等と金属部材が接触することに起因して電波干渉が生じ、リーダー装置による検知データの読み取り性が阻害されることを抑制できる。この観点から、基材には、非金属製の部材である、樹脂製プレートや木製プレートなどが好適に用いられる。
【0018】
また、本発明による建築物の構造部材の損傷検知システムの他の態様は、
前記構造部材がブレースである場合に、2箇所で支持される該ブレースの支点間距離の中央位置もしくは略中央位置に前記損傷検知センサが取り付けられていることを特徴とする。
【0019】
本態様によれば、構造部材がブレースである場合に、2箇所で支持されるブレースの支点間距離の中央位置もしくは略中央位置に損傷検知センサが取り付けられていることにより、支点間距離の中央位置やその近傍は、ブレースに引張力と圧縮力のいずれが作用する場合であっても最も変形し易い場所であることから、ブレースの損傷を効果的に特定することができる。損傷検知センサは、ブレースの中央位置もしくはその近傍であって、かつ当該ブレースが面外に変形する側面に取り付けられるのが望ましい。既述するように、構造部材には、梁や柱、ブレース等が含まれるが、地震時に作用する圧縮力や引張力による変形量が大きなブレースに損傷検知センサが設置されることにより、損傷検知センサの検知部の一部が破断し易く、損傷の有無を検知し易いことから、損傷検知センサの設置対象の構造部材にはブレースが好適である。
【0020】
また、本発明による建築物の構造部材の損傷検知システムの他の態様は、
上梁と下梁と一対の柱とにより構成され、該一対の柱の間に横架材が配設されている、前記建築物の架構において、その対角線に沿って前記ブレースが取り付けられており、
前記ブレースは、前記架構における2つの隅角部と、横架材との交点との3箇所で支持され、各隅角部と該交点の支点間の中央位置もしくは略中央位置に前記損傷検知センサが取り付けられており、
上方の前記損傷検知センサは、前記アンテナを下方に向けた姿勢で取り付けられ、
下方の前記損傷検知センサは、前記アンテナを上方に向けた姿勢で取り付けられていることを特徴とする。
【0021】
本態様によれば、架構の例えば中央レベルに横架材が設けられている形態において、架構の対角線に沿って配設されるブレースが、2つの隅角部と、横架材との交点の、計3点で支持される場合に、1つの隅角部と横架材との交点の間の中央位置もしくはその近傍に損傷検知センサ(計2つの損傷検知センサ)が取り付けられる際に、上方の損傷検知センサがアンテナを下方に向けた姿勢で取り付けられ、下方の損傷検知センサがアンテナを上方に向けた姿勢で取り付けられることにより、リーダー装置を把持した管理者等が、脚立に載って上方の損傷検知センサのアンテナの近傍にリーダー装置を近づけて検知データを取得したり、逆に、しゃがんで下方の損傷検知センサのアンテナの近傍にリーダー装置を近づけて検知データを取得することなく、自然な起立姿勢で上下の損傷検知センサの検知データを取得することが可能になる。
【0022】
また、本発明による建築物の構造部材の損傷検知方法の一態様は、
前記構造部材に損傷検知センサを取り付けておき、該構造部材に外力が作用して変形した後、該損傷検知センサが該構造部材の損傷の有無に関する検知データを記憶し、該損傷検知センサと非接触の状態でリーダー装置にて損傷の有無を特定することを特徴とする。
【0023】
本態様によれば、建築物の構造部材に損傷検知センサを取り付け、損傷検知センサが記憶している損傷の有無に関する検知データを、損傷検知センサと非接触の状態でリーダー装置が取得することにより、損傷検知センサの設置に際して手間のかかる施工を不要としながら、地震時における建築物の構造部材の損傷の有無を高い精度で検知することができる。
【発明の効果】
【0024】
以上の説明から理解できるように、本発明の建築物の構造部材の損傷検知システムと損傷検知方法によれば、大掛かりで手間のかかる取り付け施工を不要にしながら、地震時における建築物の構造部材の損傷の有無を高い精度で検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】実施形態に係る損傷検知システムと損傷検知方法の一例を説明する斜視図である。
図2】損傷検知センサの一例の構成を示す平面図である。
図3図2のIII-III矢視図であって、損傷検知センサの一例の構成を示す縦断面図である。
図4】リーダー装置と損傷検知センサの機能構成の一例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、実施形態に係る損傷検知システムと損傷検知方法の一例について、添付の図面を参照しながら説明する。尚、本明細書及び図面において、実質的に同一の構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省く場合がある。
【0027】
[実施形態に係る損傷検知システムと損傷検知方法]
図1乃至図4を参照して、実施形態に係る損傷検知システムと損傷検知方法の一例について説明する。ここで、図1は、実施形態に係る損傷検知システムと損傷検知方法の一例を説明する斜視図である。また、図2は、損傷検知センサの一例の構成を示す平面図であり、図3は、図2のIII-III矢視図であって、損傷検知センサの一例の構成を示す縦断面図である。さらに、図4は、リーダー装置と損傷検知センサの機能構成の一例を示すブロック図である。
【0028】
図1に示す構造部材の損傷検知システム100が適用される建築物30は、戸建ての鉄骨造建築物である。ここで、適用対象の建築物は、集合住宅や物流倉庫、各種公共施設であってもよいし、木造建築物、RC(Reinforced Concrete)造建物、SRC(Steel Reinforced Concrete)造建物等であってもよい。
【0029】
鉄骨造建築物30は、RC造の基礎10(布基礎等)の天端に鋼製の土台12(下梁の一例)が固定され、土台12に対して鋼製の通し柱13と間柱14が立設し、通し柱13と間柱14に対して梁15(上梁の一例)が固定されることにより、複数の架構20A,20Bを備えている。土台12,梁15,通し柱13や間柱14は、H形鋼等の形鋼材や、角形鋼管等により形成される。
【0030】
各架構20A、20Bは、それぞれの内部に平鋼やターンバックル等により形成されるブレース16、17を備えて耐力壁を形成している。通し柱13や間柱14,梁15、土台12のそれぞれの屋外側の側面には不図示の外壁が取り付けられるが、図1では、システムの構成を理解し易くするために、外壁の図示を省略している。
【0031】
土台12,梁15,通し柱13や間柱14、ブレース16,17はいずれも、鉄骨造建築物30を構成する構造部材(一次部材)である。
【0032】
各構造部材の中で、地震時に各架構20A,20Bが変形し、圧縮力Nや引張力が作用した際の変形量が最も大きなブレース16,17に対して、損傷検知センサ80が設置されている。さらに、ブレース16,17がいずれも鋼材であることから、他の素材(木製等)のブレースに比べて変形量が大きくなる。
【0033】
架構20Aを構成するブレース16は、架構20Aの対角位置にある隅角部P1,P2間の長さである支点間距離t1を有しており、その中央位置に損傷検知センサ80Aが取り付けられている。より詳細には、ブレース16の長手方向の中央位置であって、圧縮力Nが作用した際にブレース16が面外方向に曲げ変形する、屋外側もしくは屋内側に面する広幅面に損傷検知センサ80Aが取り付けられる。
【0034】
他の構造部材に比べて地震時の変形量が大きなブレース16のうち、特に変形量の大きな長手方向の中央位置に損傷検知センサ80Aが取り付けられていることにより、以下で説明する検知部の一部が破断し易いことから、ブレース16の損傷の有無が効果的に検知される。
【0035】
さらに、ブレース16の中央位置は、隅角部P1,P2に対する接続位置(端部位置)に比べて、周辺に鉄骨部材(梁15や通し柱13,間柱14等)が存在しないことから、電波干渉が生じ難く、損傷検知センサ80Aに記憶されている検知データをリーダー装置90にて読み取り易くなる。
【0036】
一方、他方の架構20Bは、架構内に横架材18が配設され、架構20Bの対角位置にある隅角部P3,P4間に架け渡されているブレース17が、横架材18と交点P5において固定される点において、架構20Aと相違する。
【0037】
ブレース17のうち、横架材18よりも上方の領域は、隅角部P4と交点P5により支持されており、その支点間距離はt2である。一方、ブレース17のうち、横架材18よりも下方の領域は、隅角部P3と交点P5により支持されており、その支点間距離はt3である。
【0038】
架構20Bが地震時に変形した際は、ブレース17の上方領域と下方領域がそれぞれに固有の支点間で変形し得ること、各支点間の中央位置における面外への変形量が最も大きいことから、ブレース17の上方領域では、支点間距離t2の中央位置に損傷検知センサ80Bが取り付けられ、ブレース17の下方領域では、支点間距離t3の中央位置に損傷検知センサ80Cが取り付けられる。
【0039】
梁15までの高さ(階高)は一般に3m程度であることから、架構20Aはその高さ中央位置に損傷検知センサ80Aが位置合わせされており、リーダー装置90を把持した管理者等は、自然な起立姿勢で損傷検知センサ80Aの検知データを取得することができる。
【0040】
それに対して、架構20Bのうち、ブレース17の上方領域にある損傷検知センサ80Bはデータ取得の際に高過ぎる位置にあり、ブレース17の下方領域にある損傷検知センサ80Cはデータ取得の際に低過ぎる位置にある。
【0041】
そこで、上方の損傷検知センサ80Bは、その構成要素であるアンテナ50(図2,3参照)を下方に向けた状態でブレース17に取り付け、下方の損傷検知センサ80Cは、アンテナ50を上方に向けた状態でブレース17に取り付けることにより、管理者等の計測の際の負荷を軽減することができて好ましい。
【0042】
このように、損傷検知システム100は、建築物30を構成する架構20Aを形成する構造部材であるブレース16の長手方向の中央位置であって、面外方向へ曲げ変形する広幅面に取り付けられている損傷検知センサ80Aや、他の架構20Bを形成するブレース17の長手方向の2支点間の中央位置であって、面外方向へ曲げ変形する広幅面に取り付けられている損傷検知センサ80B,80Cと、これらの損傷検知センサ80による検知データを取得するリーダー装置90とにより形成されるシステムである。
【0043】
図示例では、ブレース16に取り付けられている損傷検知センサ80Aに対して、リーダー装置90(もしくは、リーダー・ライタ装置)から指令信号がX1方向に送信され、指令信号を受信した損傷検知センサ80Aがブレース16の損傷の有無に関する検知データを電波としてX2方向に送信し、リーダー装置90にて損傷の有無に関する検知データを取得する。すなわち、リーダー装置90は、損傷検知センサ80と非接触の状態で構造部材の損傷の有無を特定するものである。図1では、リーダー装置90にある表示画面96に、「損傷有」が表示されている状態を一例として示している。
【0044】
損傷検知センサ80はプレート状を呈しており、プレート状の損傷検知センサ80が構造部材16,17の表面に固定される。この損傷検知センサ80の取り付けに際して、配線経路の確保等の大掛かりな施工は一切不要である。
【0045】
次に、図2乃至図4を参照して、損傷検知システム100を形成する、損傷検知センサ80とリーダー装置90のそれぞれの構成について詳説する。
【0046】
損傷検知センサ80は、基材71の上に、アンテナ50と、制御部40と、検知部60が搭載されることにより形成される。アンテナ50と制御部40と検知部60の一部は、被覆部材72により覆われており、これらの各要素の防水が図られている。また、検知部60のうち、被覆部材72から露出している露出領域60Aは、構造部材の損傷の有無を検知する検知領域となっている。ここで、被覆部材72としては、ポリエステル等のフィルムの他、高分子膜によるコーティング材等が適用できる。
【0047】
基材71は、耐水性を備えたプラスチックフィルム等により形成され、基材71の背面は、不図示の接着剤等を介して構造部材16,17の表面に接着される。基材71は、アンテナ50及び制御部40と、鋼製の構造部材16,17との間に介在する、緩衝材として機能する。すなわち、樹脂性の基材71が介在することにより、アンテナ50と鋼製の構造部材16,17が接触することが防止されるため、接触に起因した電波干渉によって、リーダー装置90による検知データの読み取り性が阻害されることを抑制できる。
【0048】
検知部60は、相互に離間する第1電極61及び第2電極62と、これらを繋ぐ繋ぎ導線63とを有する。第1電極61、第2電極62、及び繋ぎ導線63はいずれも、導電性ペーストや金属箔等により形成される。
【0049】
損傷検知センサ80が曲げ変形した際に、検知領域60Aにおける第1電極61と第2電極62、及び繋ぎ導線63の任意箇所が破断する。この破断強度は、例えば、損傷検知対象の構造部材の降伏強度(弾性域と塑性域の境界強度)に設定されている。
【0050】
検知領域60Aの一部が破断していない段階では、第1電極61と第2電極62の間に電流が流れており(導通状態)、電気回路として閉回路を形成する。一方、検知領域60Aの一部が破断すると、第1電極61と第2電極62の間に電流は流れず(非導通状態)、電気回路として開回路を形成する。
【0051】
検知領域60Aの一部が破断し、非導通状態となった段階で、損傷検知対象の構造部材が塑性域に入り、損傷していると見なすことができる。
【0052】
制御部40は、通信回路42、制御回路44、及び記憶回路46を有する。通信回路42は、制御回路44から出力される信号を、アンテナ50に出力する。
【0053】
制御回路44はメモリを含み、メモリは検知部60の検知領域60Aの状態を記憶する。例えば、検知領域60Aに閉回路が形成されている場合は、損傷なしに相当するフラグ「0」を記憶回路46に記憶し、検知領域60Aに開回路が形成されている場合は、損傷有りに相当するフラグ「1」を記憶回路46に記憶する。
【0054】
アンテナ50は、制御部40がリーダー装置90と無線通信を実行するための機器である。アンテナ50は、リーダー装置90から出力される電波(電磁波等)を受信し、制御部40の動作に必要な電力を生成する。また、アンテナ50は、リーダー装置90から出力される指令信号を受信し、制御部40から出力される検知データをリーダー装置90に送信する。
【0055】
このように、損傷検知センサ80は、リーダー装置90から供給された電力によって動作し、検知部60の導通もしくは非導通の状態を判定して記憶することにより、バッテリーレスの損傷検知センサとして機能する。
【0056】
リーダー装置90は、通信部92、指令部94、及び表示部96を有する。指令部94にて出力された、検知データの読み出しを実行する指令信号は、通信部92を介して損傷検知センサ80のアンテナ50に送信される。損傷検知センサ80では、受信した指令信号の内容を制御回路44が判断し、記憶回路46に記憶されている検知データを、アンテナ50を介してリーダー装置90の通信部92に送信する。
【0057】
ここで、指令部94から出力される指令信号には、検知データの読み出しを実行する指令信号の他に、検知部60に対して構造部材の損傷の有無を測定させる、測定実行指令信号が含まれていてもよい。このように、指令信号に複数種の信号が存在する場合は、損傷検知センサ80の制御回路44において、指令信号の内容が判断され、指令信号に応じた制御が実行されることになる。
【0058】
表示部96は、図1に示すように表示画面(モニタ)を含んでおり、構造部材の損傷の有無に関する検知結果が表示される。表示部96では、構造部材の損傷有りの場合に、赤色のアラーム表示や点灯表示がなされてよく、その他、ブザーによる報知が実行されてもよい。
【0059】
また、図示を省略するが、リーダー装置90にも記憶部があり、建築物30に設置される損傷検知センサ80の設置位置が建築物をトレースした図形データに描画され、各設置位置における損傷検知センサ80ごとに、構造部材の損傷の有無に関する検知結果がプロットされてよい。表示画面96に表示された建築物30のトレース画像において、各損傷検知センサ80における構造部材の損傷の有無(例えば、損傷無しの場合は「○」、損傷有りの場合は「×」で表示)が表示されることにより、建築物30のどの領域のどの構造部材に損傷があるかといった、損傷領域や損傷部材の傾向を特定することができ、補修施工の際の目安となり得る。
【0060】
以上で説明した損傷検知システム100を適用することにより、建築物30を構成する構造部材に取り付けられている損傷検知センサ80に対して、リーダー装置90が非接触の状態で構造部材の損傷の有無に関する検知データを取得することができるため、スムーズな損傷有無検知を実現できる。
【0061】
また、損傷検知センサ80が有線を必要としないことから、建築物内に配線経路を確保する等の大掛かりな取り付け施工は不要であり、構造部材に対してスムーズに設置することができる。
【0062】
また、検知対象の構造部材が、鋼製のブレースである場合は、他の構造部材に比べて変形し易いことから、損傷の有無を検知し易くなる。
【0063】
また、例えばブレースの長手方向の中央位置やその近傍に損傷検知センサ80が取り付けられることにより、ブレースに作用する圧縮力等に起因した面外変形量が他の位置よりも大きくなり、ブレースの損傷の有無を検知し易くなる。さらに、ブレースの隅角部等に比べて、周辺に鉄骨部材が存在しないことから、電波干渉が生じ難く、損傷検知センサ80に記憶されている検知データをリーダー装置90にて読み取り易くなる。
【0064】
さらに、損傷検知システム100を構成する損傷検知センサ80がバッテリーレスの損傷検知センサであることから、建築物30における構造部材の損傷有無に関する長期間の検知に際してバッテリー交換を不要にできる。
【0065】
尚、上記実施形態に挙げた構成等に対し、その他の構成要素が組み合わされるなどした他の実施形態であってもよく、ここで示した構成に本発明が何等限定されるものではない。この点に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更することが可能であり、その応用形態に応じて適切に定めることができる。
【符号の説明】
【0066】
10:基礎(布基礎)
12:土台(構造部材、下梁)
13:通し柱(構造部材)
14:間柱(構造部材)
15:梁(構造部材、上梁)
16,17:ブレース(構造部材)
18:横架材
20A,20B:架構
30:建築物(鉄骨造建築物、戸建て住宅)
40:制御部
42:通信回路
44:制御回路
46:記憶回路
50:アンテナ
60:検知部
60A:露出領域(検知領域)
61:第1電極
62:第2電極
63:繋ぎ導線
71:基材
72:被覆部材
80、80A,80B,80C:損傷検知センサ
90:リーダー装置
92:通信部
94:指令部
96:表示部(表示画面)
100:建築物の構造部材の損傷検知システム(構造部材の損傷検知システム)
P1,P2,P3,P4:隅角部
P5:交点
図1
図2
図3
図4