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  • 特開-シリンダヘッド 図1
  • 特開-シリンダヘッド 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024069996
(43)【公開日】2024-05-22
(54)【発明の名称】シリンダヘッド
(51)【国際特許分類】
   F02B 23/10 20060101AFI20240515BHJP
   F02F 1/24 20060101ALI20240515BHJP
【FI】
F02B23/10 310A
F02F1/24 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022180319
(22)【出願日】2022-11-10
(71)【出願人】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099966
【弁理士】
【氏名又は名称】西 博幸
(74)【代理人】
【識別番号】100134751
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 隆一
(72)【発明者】
【氏名】澤下 真人
【テーマコード(参考)】
3G023
3G024
【Fターム(参考)】
3G023AA07
3G023AB01
3G023AC02
3G023AD01
3G023AG02
3G023AG03
3G024AA02
3G024BA02
3G024DA10
(57)【要約】
【課題】高リーンバーン化、高EGR化に簡単な構造で対応できるシリンダヘッドを提供する。
【解決手段】ヘッド本体4に形成されたペントルーフ型の下向き凹所8に、一対ずつの吸気出口穴9aと排気入り口穴10aとが開口している。吸気出口穴9aには吸気用バルブシート13を嵌着しており、隣り合った吸気用バルブシート13の間の部位に、タンブル流を点火プラグ18に向けてガイドする凹部19が形成されている。吸気用バルブシート13の一部を利用して凹部19を形成しているため、吸気出口穴9aの内径や吸気用バルブシート13の外径を縮小することなく、必要な断面積の凹部19を形成できる。従って、吸気量低下やコストの大幅アップをもたらすことなく、タンブル流を点火プラグ18にしっかりと当てて燃焼性を向上できる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘッド本体のうちシリンダボアと対向した部位に、吸気用バルブシートを嵌着した複数の吸気出口穴がクランク軸線方向に並んで形成されているシリンダヘッドであって、
前記ヘッド本体のうち前記隣り合った吸気用バルブシートの間の部位に、前記シリンダボアと反対側に凹んだ凹部が、当該凹部に前記吸気用バルブシートの一部を露出させた状態で形成されている、
シリンダヘッド。
【請求項2】
前記凹部は、前記シリンダボアの外周側から軸心側に向けて断面積が小さくなるように形成されている、
請求項1に記載したシリンダヘッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、エンジン(内燃機関)のシリンダヘッドに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ガソリンエンジンにおいては、燃費の向上やNOxの低減のためにリーンバーン化や高EGR化が進んでいるが、リーンバーン化すると燃料への着火性が低下しやすい。従って、空燃比を低下させつつ燃焼を確実化できる技術が要請されている。
【0003】
他方、特許文献1には、タンブル流に着目し、シリンダヘッドに形成されているペントルーフ型の下向き凹所(燃焼室)の内面のうち吸気側の部位に、圧縮工程において、タンブル流を点火プラグのスパークギャップに誘導する凹部(溝)を形成することが開示されている。
【0004】
特許文献1は失火防止を主眼としており、着火後の火炎がシリンダヘッドのペントルーフ面に当たることを防止すべく、ペントルーフ面に形成した凹部により、タンブル流を、スパークギャップに当てつつ燃焼室の中央部に向かうようにガイドしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015-218621号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
シリンダヘッドのペントルーフ面に凹部を形成してタンブル流が点火プラグに向かうようにガイドすることは、高リーンバーン化・高EGR化しつつ着火性や燃焼速度を向上させる上で有益であるが、凹部がタンブル流のガイド機能を発揮するには凹部にはある程度の幅寸法が必要である一方、吸気出口穴には一般に吸気用バルブシートが嵌着されているため、凹部は僅かの幅寸法にしか形成できずにタンブル流のガイド機能を十分に発揮できない。
【0007】
この点については、吸気出口穴及び吸気用バルブシートの直径を小さくして吸気用バルブシート間の間隔を広げることが考えられるが、この対策では、吸気量が低下して出力の低下を招くおそれがあり、得策でない。他方、吸気用バルブシートを使用せずに吸気出口穴の開口縁を硬化処理することも一部で試みられているが、この方法はコストが嵩むという別の問題が発生する。
【0008】
本願発明はこのような現状を背景に成されたものであり、従来の構造を大きく変更することなくタンブル流のガイド機能を確保せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明は、請求項1のとおり、
「ヘッド本体のうちシリンダボアと対向した部位に、吸気用バルブシートを嵌着した複数の吸気出口穴がクランク軸線方向に並んで形成されているシリンダヘッドであって、
前記ヘッド本体のうち前記隣り合った吸気用バルブシートの間の部位に、前記シリンダボアと反対側に凹んだ凹部が、当該凹部に前記吸気用バルブシートの一部を露出させた状態で形成されている」
という構成になっている。
【0010】
本願発明においては、吸気用バルブシートの一部によって凹部が形成されているが、吸気用バルブシートの強度を確保するためには、従来よりも軸方向の長さを長くしたらよい(ヘッド本体に対する嵌め込み深さを深くしたらよい。)。
【0011】
本願発明は様々に具体化できる。その例として請求項2では、
「前記凹部は、前記シリンダボアの外周側から軸心側に向けて断面積が小さくなるように形成されている」
という構成になっている。
【発明の効果】
【0012】
本願発明では、吸気用バルブシートを利用して凹部を形成するものであるため、吸気用バルブシートの外径は縮小することなく、タンブル流のガイド機能が発揮される凹部を形成できる。従って、吸気量の確保とコスト抑制とを図りつつ、着火性の向上や燃焼速度の向上を図って高リーンバーン化・高EGR化を促進できる。
【0013】
請求項2のように凹部の断面積がシリンダボアの軸心に向けて(点火プラグに向けて)小さくなるように設定すると、タンブル流(正確には、タンブル流が崩壊して生成された渦流の集合体の余流)の流速を加速できるため、着火性の向上や燃焼速度の向上を更に促進できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施形態を示す図で、(A)は縦断正面図で図2(A)のIA-IA 視底面図、(B)は図2(A)のIB-IB 視断面である。
図2】(A)は図1(A)のIIA-IIA 視底面図、(B)は(A)のB-B視断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本願発明の実施形態を図面に基づいて説明する。本実施形態は、自動車用の多気筒エンジンに適用している。以下では、方向を特定するため前後・左右の文言を使用するが、前後方向はクランク軸線方向で、左右方向はクランク軸線及びシリンダボア軸線と直交した方向である。
【0016】
(1).構造の説明
エンジンの基本構造は従来と同様であり、図1(A)に示すように、シリンダボア1が形成されたシリンダブロック2と、シリンダブロック2の上面にガスケット3を介して固定されたヘッド本体4とを有しており、シリンダボア1にはピストン5が摺動自在に嵌挿れている。ピストン5にはコンロッド6がピストンピン7によって連結されており、コンロッド6はクランクピン(図示せず)に連結されている。
【0017】
ヘッド本体4には、シリンダボア1に向けて開口した下向き凹所(燃焼室)8が形成されている。下向き凹所8は、吸気側テーパ面8aと排気側テーパ面8bとを有するペントルーフ型に形成されており、図2(A)に示すように、底面視ではクランク軸線方向に長い形態を成している。
【0018】
そして、ヘッド本体4には、下向き凹所8に向けて開口した前後一対ずつの吸気ポート9と排気ポート10とが左右に振り分けて形成されており、かつ、図1(A)に示すように、吸気ポート9の吸気出口穴9aを開閉する吸気バルブ11と、排気ポート10の排気入り口穴10a開閉する排気バルブ12とが摺動自在に装着されている。各図に示すように、吸気ポート9の吸気出口穴9aには吸気用バルブシート13を嵌着して、排気ポート10の排気入り口穴10aには排気用バルブシート14を嵌着している。なお、ピストン5の冠面には、概ねヘッド本体4の下向き凹所8と平面視で重なる上向き凹所15が形成されている。
【0019】
ヘッド本体4の下向き凹所8のうち吸気ポート9及び排気ポート10で囲われた部位に、点火プラグ18が配置されている。点火プラグ18は、前後方向から見た状態で、その軸心をシリンダボア1の軸心に対してある程度の角度だけ傾けた状態(上に向けて広がるように)に配置されている。また、点火プラグ18の軸心は若干の寸法だけ排気側にずれている。
【0020】
そして、図1(A)及び図2(A)に示すように、ヘッド本体4における下向き凹所8の吸気側テーパ面8aのうち隣り合った吸気用バルブシート13の間の部位に、左右長手の中心線O1上に位置した左右長手の凹部(ガイド溝)19を形成している。凹部19の相当範囲は、一対の吸気用バルブシート13を利用して形成されている。すなわち、凹部19の内側面の一部が吸気用バルブシート13の外周面の一部で構成されている。従って、図2に明示するように、吸気用バルブシート13の外周面の一部が凹部19に露出している。
【0021】
図2(A)に示すように、凹部19は、底面視で三味線のバチのような形態を成しており、シリンダボア1の外周側から軸心側に向かって、隣り合った吸気用バルブシート13の間隔が最も狭まる部位までは溝幅が徐々に小さくなって、吸気用バルブシート13の間隔が最も狭まった部位を越えると、等しい幅で点火プラグ18(の電極)に向かっている。また、凹部19は、シリンダボア1の外周側に位置した端部を始端(一端)として、シリンダボア1の軸心に近い端部を終端(他端)とすると、始端から深さが急激に深くなって、それから深さは徐々に小さくなっている。このため、凹部19の断面積は、大まかには始端側から終端側に向けて小さくなっている。
【0022】
凹部19のうち深さが徐々に浅くなっている上底面19aの延長線20が、クランク軸線方向から見て、下向き凹所8の排気側テーパ面8bと略平行になるように設定している。図2(B)のとおり、凹部19の断面形状は全体としてU形になっているが、全体として角形に形成したり、ヘッド本体4の箇所をV形に形成したりすることも可能である。
【0023】
本実施形態では、吸気用バルブシート13を利用して凹部19を形成していることから、吸気用バルブシート13の変形防止及びヘッド本体4に対する固定強度確保のために、吸気用バルブシート13は通常よりも軸方向の長さLが長くなっている。この点は、排気用バルブシート14と対比すると容易に理解できる。なお、図1に示す符号21は冷却水ジャケットである。
【0024】
(2).まとめ
以上の構成において、シリンダボア1に吸引された混合気は、吸気行程において直進性によってタンブル流となり、次いで、圧縮行程では、混合気はタンブル流を残しながら加圧されていく。そして、上死点付近では、タンブル流22は多数の乱流に崩壊しつつ、余流として、ヘッド本体4における下向き凹所8の下面に沿って吸気側から排気側に流れていく。
【0025】
そして、本実施形態では、タンブル流22の余流が凹部19を通って点火プラグ18の電極23に向かい、凹部19から放出されたタンブル流22は点火プラグ18のスパークギャップに向かう流れとなり、これにより、点火プラグ18の下方部に塊状の初期火炎が生成されて、次いで、火炎が燃焼室の全体に伝播していく。
【0026】
そして、本願発明では、吸気用バルブシート13を利用して凹部19を形成しているため、吸気出口穴9aの内径や凹部19の外径を縮小することなく、凹部19はタンブル流22をガイドするのに必要な断面積に形成できる。従って、吸気量の低下による出力の低下といった問題が生じることはない。また、吸気用バルブシート13の長さLを長くすることで対応できるため、コストが大幅にアップすることはない。従って、現実性に優れている。
【0027】
本実施形態では、凹部19の断面積は、シリンダボア1の外周側の始端からシリンダボア1の軸心側の終端に向けて小さくなっているため、タンブル流22は凹部19において加速されながら点火プラグ18に向かう。このため、着火速度と火炎の広がり速度とを向上させて、燃焼時間を短縮できる。
【0028】
実施形態のように、凹部19の上底面19aの延長線20を下向き凹所8の排気側テーパ面8bと略平行になるように設定すると、点火プラグ18のスパークによって生成された初期火炎が下向き凹所8の排気側テーパ面8bに接触することはないため、初期火炎の熱が下向き凹所8に火炎の熱がヘッド本体4に奪われることはない。従って、失火防止に有益である。
【0029】
さて、タンブル流22の余流は微細な乱流で構成されていることから、初期火炎は乱流強度が高くなっているため、燃焼室の全体に火炎を急速に広がらせることができる。従って、失火をもたらすことなく燃焼できる空燃比の限界(希釈限界)を引き下げて、高リーンバーン化、高EGR化を促進できるのであり、その結果、熱効率(燃費)の向上やNoxの低減に大きく貢献できる。CO2削減にも貢献できる。
【0030】
以上、本願発明の実施形態を説明したが、本願発明は他にも様々に具体化できる。例えは、実施形態では、接地電極の先端が吸気側に向いているが、接地電極の先端を前後方向に向けることも可能である。この場合は、混合気がスパークギャップを通過する傾向を呈するため、着火性を更に向上できると云える。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本願発明は、エンジンに具体化できる。従って、産業上利用できる。
【符号の説明】
【0032】
1 シリンダボア
4 ヘッド本体
8 ペントルーフ型の下向き凹所
8a 吸気側テーパ面
8b 排気側テーパ面
9 吸気ポート
11 吸気バルブ
13 吸気用バルブシート
18 点火プラグ
19 凹部
19a 上底面
22 タンブル流
図1
図2