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特開2024-70013情報処理装置、劣化推定方法およびプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024070013
(43)【公開日】2024-05-22
(54)【発明の名称】情報処理装置、劣化推定方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01N 11/00 20060101AFI20240515BHJP
   G01N 11/12 20060101ALI20240515BHJP
【FI】
G01N11/00 C
G01N11/12 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022180339
(22)【出願日】2022-11-10
(71)【出願人】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】ENEOS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】小早川 尚之
(57)【要約】
【課題】タンク内に保管されるアスファルトの劣化度を推定する。
【解決手段】情報処理装置10は、アスファルトが保管されるタンクの構造に関するタンクデータ20と、タンク内のアスファルトの保管量に関する保管量データ22とを用いて、タンク内におけるアスファルトの単位時間あたりの劣化割合を算出する劣化割合算出部30と、算出される劣化割合を用いて、所定期間の経過によるタンク内のアスファルトの劣化度を推定する劣化度推定部34と、を備える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アスファルトが保管されるタンクの構造に関するタンクデータと、前記タンク内のアスファルトの保管量に関する保管量データとを用いて、前記タンク内におけるアスファルトの単位時間あたりの劣化割合を算出する劣化割合算出部と、
前記算出される劣化割合を用いて、所定期間の経過による前記タンク内のアスファルトの劣化度を推定する劣化度推定部と、を備える情報処理装置。
【請求項2】
前記推定される劣化度と、アスファルトの針入度試験の測定値に関する針入度データとを用いて、前記所定期間の経過による前記タンク内のアスファルトの針入度の低下量を推定する針入度推定部をさらに備える、請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項3】
前記針入度推定部は、前記タンク内のアスファルトの初期針入度を用いて、前記所定期間の経過後の前記タンク内のアスファルトの針入度を推定する、請求項2に記載の情報処理装置。
【請求項4】
前記タンク内のアスファルトの温度に関する温度データを用いて、前記タンク内におけるアスファルトの劣化速度を算出する劣化速度算出部をさらに備え、
前記劣化度推定部は、前記算出される劣化速度をさらに用いて前記劣化度を推定する、請求項1から3のいずれか一項に記載の情報処理装置。
【請求項5】
前記劣化速度算出部は、アスファルトの加熱試験において測定される針入度の温度依存性に基づいて、前記タンク内のアスファルトの温度に応じた劣化速度を算出する、請求項4に記載の情報処理装置。
【請求項6】
前記劣化割合算出部は、前記タンク内にて空気と接触する部分のアスファルトの量を、前記タンク内のアスファルトの保管量で除算することにより前記劣化割合を算出する、請求項1から3のいずれか一項に記載の情報処理装置。
【請求項7】
前記劣化割合算出部は、前記タンク内のアスファルトの液面にて空気と接触する部分のアスファルトの量を、前記タンク内のアスファルトの保管量で除算した液面劣化割合を算出し、
前記劣化度推定部は、前記液面劣化割合を用いて前記劣化度を推定する、請求項6に記載の情報処理装置。
【請求項8】
前記タンク内のアスファルトの保管温度を用いて、前記液面にてアスファルトが劣化する液面劣化速度を算出する劣化速度算出部をさらに備え、
前記劣化度推定部は、前記液面劣化割合および前記液面劣化速度を用いて、前記劣化度を推定する、請求項7に記載の情報処理装置。
【請求項9】
前記劣化割合算出部は、前記タンクの吐出口から前記タンク内のアスファルトの液面に向けて注入される過程において空気と接触する部分のアスファルトの量を、前記タンク内のアスファルトの保管量で除算することにより吐出劣化割合を算出し、
前記劣化度推定部は、前記吐出劣化割合をさらに用いて前記劣化度を推定する、請求項6に記載の情報処理装置。
【請求項10】
前記劣化割合算出部は、前記吐出口の形状、前記吐出口のサイズ、前記吐出口におけるアスファルトの吐出量、および前記液面から前記吐出口までの高さの少なくとも一つに応じて前記吐出劣化割合を算出する、請求項9に記載の情報処理装置。
【請求項11】
前記吐出口におけるアスファルトの吐出温度を用いて、前記吐出口から前記液面に向けて注入される過程においてアスファルトが劣化する吐出劣化速度を算出する劣化速度算出部をさらに備え、
前記劣化度推定部は、前記吐出劣化割合および前記吐出劣化速度を用いて、前記劣化度を推定する、請求項9に記載の情報処理装置。
【請求項12】
前記劣化度推定部は、前記所定期間内において前記吐出口からアスファルトが吐出される累計時間をさらに用いて、前記劣化度を推定する、請求項9に記載の情報処理装置。
【請求項13】
アスファルトが保管されるタンクの構造に関するタンクデータと、前記タンク内のアスファルトの保管量に関する保管量データとを用いて、前記タンク内におけるアスファルトの単位時間あたりの劣化割合を算出することと、
前記算出される劣化割合を用いて、所定期間の経過による前記タンク内のアスファルトの劣化度を推定することと、を備える劣化推定方法。
【請求項14】
アスファルトが保管されるタンクの構造に関するタンクデータと、前記タンク内のアスファルトの保管量に関する保管量データとを用いて、前記タンク内におけるアスファルトの単位時間あたりの劣化割合を算出する機能と、
前記算出される劣化割合を用いて、所定期間の経過による前記タンク内のアスファルトの劣化度を推定する機能と、をコンピュータに実現させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、情報処理装置、劣化推定方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
アスファルトの性状を示す指標の一つとして、アスファルトの硬さを示す針入度がある。舗装用アスファルトは、品質規格(例えば、JIS K2207)で定められる針入度の数値範囲に応じて10種類のアスファルトに分類される。アスファルトの製造所では、針入度別に用意されるタンク内にアスファルトが保管される。出荷頻度の少ないアスファルトの場合、タンク内でアスファルトが劣化することにより、針入度が低下して所定の数値範囲から外れてしまうことが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007-211173号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
タンク内でアスファルトを長期保管すると、アスファルトの針入度が低下することが経験的に知られている。しかしながら、アスファルトの劣化を評価するための適切なモデルがないため、アスファルトの劣化度を原理的かつ定量的に把握することが難しかった。
【0005】
本開示のある態様の例示的な目的の一つは、タンク内に保管されるアスファルトの劣化度を推定する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示のある態様の情報処理装置は、アスファルトが保管されるタンクの構造に関するタンクデータと、タンク内のアスファルトの保管量に関する保管量データとを用いて、タンク内におけるアスファルトの単位時間あたりの劣化割合を算出する劣化割合算出部と、算出される劣化割合を用いて、所定期間の経過によるタンク内のアスファルトの劣化度を推定する劣化度推定部と、を備える。
【0007】
本開示の別の態様は、劣化推定方法である。この方法は、アスファルトが保管されるタンクの構造に関するタンクデータと、タンク内のアスファルトの保管量に関する保管量データとを用いて、タンク内におけるアスファルトの単位時間あたりの劣化割合を算出することと、算出される劣化割合を用いて、所定期間の経過によるタンク内のアスファルトの劣化度を推定することと、を備える。
【0008】
本開示のさらに別の態様は、プログラムである。このプログラムは、アスファルトが保管されるタンクの構造に関するタンクデータと、タンク内のアスファルトの保管量に関する保管量データとを用いて、タンク内におけるアスファルトの単位時間あたりの劣化割合を算出する機能と、算出される劣化割合を用いて、所定期間の経過によるタンク内のアスファルトの劣化度を推定する機能と、をコンピュータに実現させる。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、タンク内に保管されるアスファルトの劣化度を推定できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施の形態に係る保管装置の構成を模式的に示す図である。
図2】実施の形態に係る情報処理装置の構成を模式的に示す図である。
図3】加熱試験にて測定される針入度の加熱時間依存性の一例を示すグラフである。
図4】複数の加熱温度に設定した加熱試験にて測定される針入度の一例を示す表である。
図5】加熱試験にて測定される針入度の加熱温度依存性の一例を示すグラフである。
図6】針入度の推定結果の一例を示すグラフである。
図7】針入度の推定値と実測値を比較したグラフである。
図8】実施の形態に係る劣化推定方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本開示の概要を説明する。本開示は、タンク内に保管されるアスファルトの劣化度を推定する技術に関し、特に、アスファルトの針入度の低下量を推定する技術に関する。アスファルトの保管施設では、加熱して液状にした溶融アスファルトがタンク内に保管されることがある。タンク内の溶融アスファルトは、タンク内の空気に触れることによって熱劣化し、アスファルトの針入度が低下すると考えられる。本開示では、タンクの構造に関するタンクデータと、タンク内のアスファルトの保管量に関する保管量データとを用いて、タンク内におけるアスファルトの単位時間あたりの劣化割合を算出し、算出した劣化割合を用いてアスファルトの劣化度を推定する。本開示によれば、タンク構造や保管量に応じて、タンク内にて空気と接触する部分のアスファルトの割合を算出することにより、劣化度の推定精度を向上できる。
【0012】
本開示における情報処理装置または方法の主体は、コンピュータを備える。このコンピュータがコンピュータプログラムを実行することによって、本開示における装置または方法の主体の機能が実現される。コンピュータは、コンピュータプログラムにしたがって動作するプロセッサを主なハードウェア構成として備える。プロセッサは、コンピュータプログラムを実行することによって機能を実現することができれば、その種類は問わない。プロセッサは、半導体集積回路(IC、LSI等)を含む一つまたは複数の電子回路で構成される。コンピュータプログラムは、コンピュータが読み取り可能なROM、光ディスク、ハードディスクドライブなどの非一時的な記録媒体に記録される。コンピュータプログラムは、記録媒体に予め格納されていてもよいし、インターネット等を含む広域通信網を介して記録媒体に供給されてもよい。
【0013】
以下、本開示の技術を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、各図に示す各部の縮尺や形状は、説明を容易にするために便宜的に設定されており、特に言及がない限り限定的に解釈されるものではない。また、本明細書または請求項中に「第1」、「第2」等の用語が用いられる場合には、特に言及がない限り、いかなる順序や重要度を表すものでもなく、ある構成と他の構成とを区別するためのものである。
【0014】
図1は、実施の形態に係る保管装置90の構成を模式的に示す図である。保管装置90は、アスファルト80を保管するための設備であり、アスファルト80の製造工場や配送拠点などに設置される。保管装置90は、自動車や船などの移動体に搭載されてもよい。保管装置90は、劣化度の推定対象となるアスファルト80を保管する。
【0015】
保管装置90は、タンク50と、受入口52と、取出口54と、吐出口56と、循環ライン58と、ポンプ60と、タンクヒータ62と、ラインヒータ64と、攪拌機66と、タンク温度センサ68と、ライン温度センサ70と、レベルセンサ72とを備える。
【0016】
タンク50は、アスファルト80を収容する内部空間を有する。タンク50の内部空間は、例えば円柱状であり、円柱の軸方向がタンク50の高さ方向Hと一致するように配置される。なお、タンク50の形状や配置は、特に限られない。例えば、タンク50の内部空間は、楕円柱状や多角柱状であってもよいし、球状であってもよい。タンク50の内部空間が柱状の場合、柱の軸方向が水平方向となるようにタンク50が設置されてもよい。
【0017】
受入口52は、新たなアスファルトをタンク50の内部に注入するために用いられる。取出口54は、タンク50内で保管されたアスファルト80を外部に取り出すために用いられる。吐出口56は、取出口54からタンク50の外部に取り出されたアスファルト80を、循環ライン58を介してタンク50の内部に戻すために用いられる。取出口54の下流側にはポンプ60が接続されている。ポンプ60を駆動することにより、取出口54、循環ライン58および吐出口56を通じて、タンク50内のアスファルト80を循環させることができる。
【0018】
受入口52、取出口54および吐出口56は、タンク50の任意の位置に設けることができ、例えば、タンク50の側部50aに設けることができる。図1の例において、受入口52および取出口54は、タンク50の底部50bの近傍の位置に設けられ、吐出口56は、タンク50の底部50bから所定の高さhの位置に設けられる。
【0019】
タンクヒータ62は、タンク50の側部50aや底部50bに設けられる。タンクヒータ62は、タンク50内のアスファルト80を加熱し、アスファルト80の保管に適した温度(保管温度ともいう)が維持されるようにする。保管温度は、例えば、140℃~200℃程度である。ラインヒータ64は、循環ライン58に設けられる。ラインヒータ64は、循環ライン58を流れるアスファルト80を加熱し、アスファルト80のライン輸送に適した温度(輸送温度ともいう)となるようにする。輸送温度は、保管温度よりも高く設定されることが多い。輸送温度は、例えば、180℃~230℃程度である。
【0020】
攪拌機66は、タンク50の内部に設けられ、タンク50内のアスファルト80を撹拌する。攪拌機66を駆動することにより、タンク50内のアスファルト80を循環させ、タンク50内のアスファルト80の性状が均一となるようにする。なお、タンク50の内部に攪拌機66が設けられない構成としてもよい。この場合、タンクヒータ62の加熱による熱対流によってタンク50内のアスファルト80を撹拌してもよいし、循環ライン58を用いたアスファルト80の循環流によってタンク50内のアスファルト80を撹拌してもよい。
【0021】
タンク温度センサ68は、タンク50の内部に設けられ、タンク50内に保管されるアスファルト80の保管温度を測定する。ライン温度センサ70は、循環ライン58に設けられ、循環ライン58を流れるアスファルト80の輸送温度を測定する。アスファルト80の温度を測定する方法は特に問わず、任意の公知技術を用いることができる。
【0022】
レベルセンサ72は、タンク50内のアスファルト80の液面82の高さhを測定するために用いられる。レベルセンサ72は、例えば、タンク50の内部空間の天井部50cに設けられ、レベルセンサ72から液面82までの距離dを測定する。タンク50の底部50bからレベルセンサ72までの既知の高さhから測定される距離dを減算することにより、アスファルト80の液面82の高さh=h-dを得ることができる。なお、液面82の高さhを測定する方法は特に問わず、任意の公知技術を用いることができる。
【0023】
タンク50の内部空間の上方には空気78が存在する。タンク50内に保管されるアスファルト80は、タンク50内の空気と接触することにより酸化して劣化する。アスファルト80の劣化は、主に、液面近傍部84および吐出流部86にて生じると考えられる。液面近傍部84は、液面82の近傍に存在する部分であり、液面82からの所定の深さhの範囲に存在する部分である。吐出流部86は、吐出口56から液面82に向けて空気78を通過するアスファルト80の流れを構成する部分である。
【0024】
本実施の形態では、液面近傍部84および吐出流部86における劣化度を推定することにより、タンク50内のアスファルト80の全体の劣化度を推定する。以下、このような劣化度を推定する情報処理装置について説明する。
【0025】
図2は、実施の形態に係る情報処理装置10の機能構成を模式的に示す図である。情報処理装置10は、取得部12と、記憶部14と、演算部16と、出力部18とを備える。情報処理装置10は、ネットワーク40を介してユーザ端末42およびローカル装置44と接続する。
【0026】
本開示のブロック図で示される各ブロックは、ハードウェア的には、コンピュータのCPU(Central Processing Unit)などのプロセッサやROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)などのメモリをはじめとする素子や機械装置で実現でき、ソフトウェア的にはコンピュータプログラム等によって実現される。ここでは、ハードウェアおよびソフトウェアの連携によって実現される機能ブロックを描いている。これらの機能ブロックは、ハードウェアおよびソフトウェアの組み合わせによって、いろいろなかたちで実現できることは、当業者には理解されるところである。
【0027】
図2に示す複数の機能ブロックのうち少なくとも一部の機能ブロックの機能を実装したコンピュータプログラムが、1台または複数台のコンピュータのストレージにインストールされてもよい。1台または複数台のコンピュータのCPUは、自機にインストールされたコンピュータプログラムをメインメモリに読み出して実行することにより、図2に示す複数の機能ブロックの機能を発揮してもよい。
【0028】
また、図2に示す複数の機能ブロックの機能は、1台のコンピュータにより実行されてもよく、複数台のコンピュータにより分散して実行されてもよい。図2に示す複数の機能ブロックの機能が複数台のコンピュータにより分散して実行される場合、それら複数台のコンピュータは、LAN(Local Area Network)、WAN(Wide Area Network)、インターネットを含む通信網を介してデータを送受信してもよい。
【0029】
情報処理装置10は、例えば、サーバである。情報処理装置10は、ワークステーションまたはパーソナルコンピュータ等の汎用コンピュータであってもよい。情報処理装置10は、スマートフォンまたはタブレット型コンピュータ等の携帯端末であってもよい。情報処理装置10は、ネットワーク40を介してユーザ端末42にコンピュータ資源を提供するよう構成されるクラウド型のサーバであってもよい。
【0030】
ネットワーク40は、例えば、LAN(Local Area Network)、WAN(Wide Area Network)、インターネット、無線基地局によって構築される各種移動通信システム含む通信網で構成される。移動通信システムとしては、例えば、3G、4Gまたは5Gなどの移動通信システム、LTE(Long Term Evolution)および所定のアクセスポイントによってよってインターネットに接続可能な無線ネットワーク(例えば、Wi-Fi(登録商標))が挙げられる。
【0031】
ユーザ端末42は、例えば、パーソナルコンピュータ等の汎用コンピュータである。ユーザ端末42は、スマートフォンまたはタブレット型コンピュータ等の携帯端末であってもよい。ユーザ端末42は、例えば、保管装置90を備える工場や拠点等で使用される。
【0032】
ローカル装置44は、例えば、サーバである。ローカル装置44は、ワークステーションまたはパーソナルコンピュータ等の汎用コンピュータであってもよい。ローカル装置44は、例えば、保管装置90を備える工場や拠点等に設置される。ローカル装置44は、保管装置90に設けられるセンサ等からデータを取得して記憶する。ローカル装置44は、ネットワーク40を介してユーザ端末42にコンピュータ資源を提供するよう構成されるクラウド型のサーバであってもよい。この場合、ローカル装置44は、ユーザ端末42が設置される工場や拠点から離れた拠点に設置されてもよい。
【0033】
保管装置90からのデータは、ローカル装置44およびネットワーク40を介して情報処理装置10に送信される。保管装置90からのデータは、ローカル装置44を介さずに、ネットワーク40を介して情報処理装置10に直接送信されてもよい。
【0034】
取得部12は、ネットワーク40を介してユーザ端末42やローカル装置44から各種データを取得する。取得部12は、保管装置90から各種データを取得してもよい。取得部12は、情報処理装置10に接続されるキーボードやマウスといった任意の入力装置を通じてユーザが入力するデータを取得してもよい。
【0035】
記憶部14は、演算部16が実行する処理に必要なデータを記憶する。記憶部14は、取得部12が取得するデータを記録して管理する。記憶部14は、タンクデータ20と、保管量データ22と、温度データ24と、イベントデータ26と、針入度データ28とを記憶する。
【0036】
タンクデータ20は、アスファルト80が保管されるタンク50の構造に関するデータである。タンクデータ20は、タンク50の種類、タンク50の形状、タンク50のサイズ、タンク50に付帯する設備等に関するデータを含む。
【0037】
タンクデータ20は、液面近傍部84の容積Vの算出に必要なデータを含む。液面近傍部84の容積Vは、液面82の表面積Sと液面近傍部84の厚さhの積に相当し、V=S・hである。液面82の表面積Sは、タンク50が円柱形状である場合、タンク50の内部空間の直径φを用いて、S=π(φ/2)と表すことができる。タンクデータ20は、液面82の表面積Sを算出するためのタンク50の直径φの数値データを含む。
【0038】
タンク50が円柱形状ではない場合や不規則な形状をしている場合、液面82の高さhに応じて液面82の表面積Sが可変となりうる。この場合、タンクデータ20は、液面82の高さhを変数とする液面82の表面積S(h)の算出に必要なデータを含む。タンクデータ20は、S(h)の算出に必要なタンク50の形状やサイズに関する数値データを含んでもよい。タンクデータ20は、液面82の表面積Sと高さhを対応付ける関数やテーブルに関するデータを含んでもよい。
【0039】
タンクデータ20は、吐出流部86の容積Vの算出に必要なデータを含む。吐出流部86の容積Vは、例えば、吐出流部86の中央の軌跡である放物線の長さLを有し、吐出口56の内径φの円を底面積とする円柱の体積で近似することができ、V=π(φ/2)・Lと近似できる。放物線の長さLは、吐出流部86の流速vおよび液面82から吐出口56までの高さhを用いて、以下の式(1)で算出できる。
【数1】
ここで、gは、重力加速度である。吐出流部86の流速vは、吐出口56の流量fを用いて、v=f/{π(φ/2)}と表すことができる。液面82から吐出口56までの高さhは、吐出口56の高さhおよび液面82の高さhを用いて、h=h-hと表すことができる。タンクデータ20は、吐出流部86の容積Vの算出に必要なデータとして、例えば、吐出口56の内径φ、吐出口56の流量f、および吐出口56の高さhの数値データを含むことができる。
【0040】
吐出流部86の容積Vは、吐出口56の流量fと吐出口56から液面82までの落下時間tの積で近似することができ、V=f・tと近似できる。落下時間tは、液面82から吐出口56までの高さhを用いて、t=√(2h/g)と表すことができる。ここで、gは、重力加速度である。
【0041】
保管量データ22は、タンク50内のアスファルト80の保管量に関するデータを含み、タンク50内のアスファルト80の全容積Vに関するデータを含む。タンク50が円柱形状である場合、タンク50の直径φおよび液面82の高さhを用いて、V=π(φ/2)・hと表すことができる。タンク50内のアスファルト80の全容積Vは、液面82の高さhに比例し、液面82の高さhによって保管量を表すことができる。したがって、保管量データは、液面82の高さhを示すデータでもよく、レベルセンサ72によって測定される距離dを示すデータでもよい。保管量データ22は、所定の時間間隔(例えば、1時間や1日)ごとに取得されるアスファルト80の保管量の時系列データであってもよい。
【0042】
温度データ24は、タンク50内のアスファルト80の温度に関するデータである。温度データ24は、例えば、タンク温度センサ68によって測定される保管温度のデータと、ライン温度センサ70によって測定される輸送温度のデータとを含む。温度データ24は、所定の時間間隔(例えば、1時間や1日)ごとに取得されるアスファルト80の温度の時系列データであってもよい。
【0043】
イベントデータ26は、タンク50におけるアスファルト80の受入および取出に関するデータである。イベントデータ26は、受入口52を通じて受け入れたアスファルトに関するデータを含み、例えば、受入IDをキーとして、受入日時や受入量を示すデータを含む。イベントデータ26は、取出口54を通じて取り出したアスファルトに関するデータを含み、例えば、取出IDをキーとして、取出日時や取出量を示すデータを含む。イベントデータ26は、循環ライン58によるアスファルト80の循環の開始日時、停止日時、循環量を示すデータを含んでもよい。
【0044】
針入度データ28は、アスファルトの針入度試験の測定値に関するデータである。針入度データ28は、タンク50に受け入れる前のアスファルトやタンク50から取り出した後のアスファルトに対して実施した針入度試験の測定値を含む。針入度試験は、JIS K2207(石油アスファルト)に準拠して測定することができる。針入度は、所定温度(25℃)のアスファルト試料中に規定の針が垂直に進入した長さの0.1mmを1として表され、1/10mmを単位とする。
【0045】
針入度データ28は、アスファルトの加熱試験において測定される針入度に関するデータを含む。加熱試験は、JIS K2207(石油アスファルト)に定められる薄膜加熱試験に準拠して測定することができる。薄膜加熱試験では、膜厚3.2mmのアスファルト試料を163℃の恒温空気槽中で5時間加熱し、加熱前後に測定されるアスファルト試料の針入度を測定する。アスファルト試料の加熱前の針入度Pに対する加熱後の針入度Pの比率r=P/Pは、針入度残留率と呼ばれる。なお、JISに定められる薄膜加熱試験の代わりに、回転式薄膜加熱試験を用いることもできる。
【0046】
図3は、加熱試験にて測定される針入度の時間依存性を示すグラフである。図3は、JIS K2207に準拠した薄膜加熱試験の結果であり、膜厚3.2mmのアスファルト試料を163℃の恒温空気槽中で加熱したときの加熱後の針入度を示す。図3の例は、加熱時間を1時間~5時間の範囲で変化させた試験結果を示す。図3に示されるように、アスファルト試料の針入度は、加熱時間に対して線形的に低下することが分かる。したがって、アスファルト試料を加熱したときの単位時間(例えば1時間)あたりの針入度低下率ΔPは、加熱時間によらずに一定とみなすことができる。言い換えれば、アスファルト試料を加熱したときの劣化速度は、加熱時間によらずに一定とみなすことができる。図3の近似直線の傾きによって表される針入度低下率ΔPは、ΔP=6.6(1/10mm/h)である。
【0047】
図4は、複数の加熱温度Tに設定した加熱試験にて測定される針入度の一例を示す表である。図4の例では、加熱温度Tを123℃、143℃、163℃、183℃および198℃に設定した。針入度Pは、膜厚3.2mmのアスファルト試料を加熱温度Tに設定された恒温空気槽中で5時間加熱したときの加熱後の針入度を示す。針入度低下率ΔPは、加熱前の初期針入度85からの針入度低下量を加熱時間(5時間)で除算した値である。劣化速度βは、基準温度(163℃)における劣化速度βを1として、針入度低下率ΔPを規格化したものである。ln(β)は、劣化速度βの自然対数である。図4に示されるように、アスファルト試料の針入度低下率ΔPおよび劣化速度βは、加熱温度Tが高くなるほど大きくなる傾向にある。
【0048】
図5は、加熱試験にて測定される針入度の温度依存性の一例を示すグラフである。図5は、図4の加熱温度Tの逆数(1000/T)を横軸とし、図4の劣化速度βの自然対数ln(β)を縦軸としたグラフである。図5の加熱温度Tの単位は、摂氏(℃)ではなく、ケルビン(K)である。図5に示されるように、加熱温度Tの逆数(1000/T)とln(β)が比例関係にあることが分かる。したがって、劣化速度βは、アレニウスの式を用いて、β(T)=A・exp(-E/RT)と表現できる。針入度データ28は、加熱試験にて測定される針入度の温度依存性に関するデータを含み、例えば、劣化速度βを算出するための係数AおよびE/Rの数値データを含むことができる。係数AおよびE/Rの具体値は、図5に示されるグラフから算出できる。
【0049】
針入度データ28は、アスファルト試料の針入度低下率ΔPおよび劣化速度β(T)に関するデータを含むことができる。針入度データ28は、アスファルト試料の基準温度(例えば163℃)における針入度低下率ΔPの数値データを含むことができる。針入度データ28は、劣化速度β(T)を算出するための係数AおよびE/Rの数値データを含んでもよいし、劣化速度βと温度Tを対応付ける数値テーブルを含んでもよい。針入度データ28は、複数のアスファルト試料に対する加熱試験から算出される針入度低下率ΔPおよび劣化速度β(T)に関するデータを含んでもよい。
【0050】
図2に戻り、演算部16は、劣化割合算出部30と、劣化速度算出部32と、劣化度推定部34と、針入度推定部36とを備える。
【0051】
劣化割合算出部30は、タンク50内におけるアスファルト80の単位時間あたりの劣化割合を算出する。ここで、劣化割合とは、タンク50内のアスファルト80の総量に対する劣化が生じる部分の量の割合であり、空気78と接触する部分の量の割合ということができる。アスファルト80の量として容積を用いることができる。タンク50内のアスファルト80の総量に相当する総容積Vは、例えば、タンクデータ20および保管量データ22を用いて、V=π(φ/2)・hの式により算出できる。劣化割合は、後述するように、液面劣化割合Rと吐出劣化割合Rに分けて算出することもできる。
【0052】
劣化割合算出部30は、液面近傍部84の容積Vを算出し、タンク50内のアスファルト80の総容積Vで除算することにより、液面近傍部84における液面劣化割合R=V/Vを算出する。液面近傍部84の容積Vは、タンクデータ20および保管量データ22を用いて、V=π(φ/2)・hの式により算出できる。ここで、液面近傍部84の厚さhとして、薄膜加熱試験におけるアスファルト試料の厚さである3.2mmの値を用いることができる。なお、液面近傍部84の厚さhは、3.2mm以外の値としてもよく、例えば、1mm以上10mm以下の範囲で設定することができる。液面近傍部84の厚さhは、タンク50内で保管されたアスファルト80の針入度の実測値と推定値を一致させるための最適化手法を用いて適宜調整することができる。
【0053】
劣化割合算出部30は、吐出流部86の容積Vを算出し、タンク50内のアスファルト80の総容積Vで除算することにより、吐出流部86における吐出劣化割合R=V/Vを算出する。吐出流部86の容積Vは、タンクデータ20および保管量データ22を用いて、V=π(φ/2)・Lの式により算出できる。吐出流部86の容積Vは、タンクデータ20および保管量データ22を用いて、V=f・√(2h/g)の式により算出してもよい。
【0054】
なお、吐出流部86の全体が劣化すると仮定するのではなく、吐出流部86の表面近傍のみが劣化すると仮定して吐出劣化割合Rを算出してもよい。この場合、吐出流部86の表面近傍の厚みをhとすると、吐出流部86の劣化に寄与する容積Vは、V=π(φ/2)・L・hの式により算出できる。この場合、吐出劣化割合は、R=V/Vとなる。ここで、吐出流部86の表面近傍の厚みhは、薄膜加熱試験におけるアスファルト試料の厚さである3.2mmの値を用いることができる。吐出流部86の表面近傍の厚みhは、3.2mm以外の値としてもよく、例えば、1mm以上10mm以下の範囲で設定することができる。吐出流部86の表面近傍の厚みhは、タンク50内で保管されたアスファルト80の針入度の実測値と推定値を一致させるための最適化手法を用いて適宜調整することができる。
【0055】
劣化割合算出部30は、吐出口56よりも液面82が上側に位置する場合、つまり、液面82から吐出口56までの高さhが0以下(つまり、h≦0)となる場合、吐出劣化割合R=0とする。吐出口56が液面82よりも下側に位置する場合、液面82の上方において空気78と接触する吐出流部86が存在しないためである。
【0056】
劣化速度算出部32は、温度データ24を用いて、アスファルト80の劣化速度を算出する。劣化速度算出部32は、タンク温度センサ68によって測定される保管温度Tを用いて、液面近傍部84における液面劣化速度βを算出する。液面劣化速度βは、温度データ24および針入度データ28を用いて、β=A・exp(-E/RT)の式により算出できる。劣化速度算出部32は、ライン温度センサ70によって測定される輸送温度Tを用いて、吐出流部86における吐出劣化速度βを算出する。吐出劣化速度βは、温度データ24および針入度データ28を用いて、β=A・exp(-E/RT)の式により算出できる。
【0057】
劣化度推定部34は、劣化割合算出部30によって算出される劣化割合Rと、劣化速度算出部32によって算出される劣化速度βと、経過時間tとを用いて、タンク50内のアスファルト80の劣化度Dを算出する。劣化度推定部34は、液面劣化割合R、液面劣化速度βおよび保管期間に相当する保管時間tを用いて、液面近傍部84に起因する第1劣化度DをD=R・β・tの式により算出する。劣化度推定部34は、吐出劣化割合R、吐出劣化速度βおよび保管期間内における吐出の累計時間tを用いて、吐出流部86に起因する第2劣化度DをD=R・β・tの式により算出する。劣化度推定部34は、第1劣化度Dと第2劣化度Dを加算することにより、タンク50内のアスファルト80の全体の劣化度D=D+Dを算出する。
【0058】
ここで、吐出の累計時間tとは、吐出流部86が形成されている時間の累積値である。吐出流部86が常時形成されている場合、吐出の累計時間tは、保管時間tと同じである。吐出流部86が間欠的に形成されている場合、例えば、循環ライン58による循環が一時的に停止する場合、吐出の累計時間tは、保管時間tよりも小さい。例えば、循環ライン58による循環が所定時間ごとに開始と停止を繰り返す場合、吐出の累計時間tは、保管時間tの半分となる。保管時間tおよび吐出の累計時間tは、例えば、イベントデータ26を用いて算出できる。
【0059】
劣化度推定部34によって推定される劣化度Dは、基準温度(例えば163℃)での薄膜加熱試験における加熱時間に相当する指標である。つまり、劣化度Dは、劣化度Dに一致する加熱時間でアスファルト試料を基準温度(例えば163℃)で加熱したときの針入度の低下量に相当する劣化が生じることを意味する。劣化度Dは、劣化割合Rに比例しており、空気78との接触により劣化する容積割合に応じて変化する。劣化度Dは、劣化速度βに比例しており、アスファルト80の温度に依存する劣化速度βに応じて変化する。劣化度Dは、経過時間tに比例しており、経過時間tに応じて変化する。
【0060】
劣化度推定部34は、保管量データ22および温度データ24の時系列データを用いて、劣化度Dを算出してもよい。劣化度推定部34は、例えば、保管量データ22および温度データ24の取得タイミングごとに劣化度Dを算出することによって劣化度Dの時系列データを算出してもよい。劣化度推定部34は、劣化度Dの時系列データを保管期間にわたって積分することにより、保管期間全体における劣化度Dを算出してもよい。
【0061】
劣化度推定部34は、タンク50内のアスファルト80に対する加熱試験の測定値から求めた劣化速度βを用いてもよいし、タンク50内のアスファルト80とは異なるアスファルトに対する加熱試験の測定値から求めた劣化速度βを用いてもよい。例えば、アスファルトの種類に応じた劣化速度βを用いてもよく、アスファルトの初期針入度の数値範囲ごとに劣化速度βを算出しておき、タンク50内のアスファルト80の初期針入度に対応する劣化速度βを用いてもよい。
【0062】
針入度推定部36は、劣化度推定部34によって推定される劣化度Dと、針入度データ28とを用いて、タンク50内に保管されるアスファルト80の針入度の低下量を推定する。針入度推定部36は、劣化度Dに針入度低下率ΔPを乗算することにより、針入度の低下量を算出する。劣化度Dは、薄膜加熱試験における加熱時間に相当するため、薄膜加熱試験における単位時間あたりの針入度低下率ΔPを乗算することにより、針入度の低下量を算出できる。
【0063】
針入度推定部36は、タンク50内のアスファルト80に対する加熱試験の測定値から求めた針入度低下率ΔPを用いてもよいし、タンク内のアスファルト80とは異なるアスファルトに対する加熱試験の測定値から求めた針入度低下率ΔPを用いてもよい。例えば、アスファルトの種類に応じた針入度低下率ΔPを用いてもよく、アスファルトの初期針入度の数値範囲ごとに針入度低下率ΔPを算出しておき、タンク50内のアスファルト80の初期針入度に対応する針入度低下率ΔPを用いてもよい。
【0064】
針入度推定部36は、タンク50内のアスファルト80の初期針入度Pを用いて、タンク内のアスファルト80の針入度Pを推定する。針入度推定部36は、針入度P=P-D・ΔPの式により算出できる。初期針入度Pは、タンク50に受け入れる前のアスファルトの針入度試験の測定値を用いて算出できる。タンク50内に存在する第1アスファルトに対し、受入口52から第2アスファルトを注入して混合する場合、第1アスファルトの針入度Pと第2アスファルトの初期針入度Pを加重平均することにより、混合後のアスファルトの初期針入度Pを算出できる。ここで、第1アスファルトの針入度Pは、測定値であってもよいし、針入度推定部36によって推定される推定値であってもよい。
【0065】
出力部18は、演算部16の処理結果を出力する。出力部18は、ネットワーク40を介してユーザ端末42やローカル装置44に処理結果を出力してもよいし、情報処理装置10に接続されるディスプレイなどの任意の出力装置に処理結果を出力してもよい。出力部18は、劣化度推定部34によって推定される劣化度Dを出力してもよいし、針入度推定部36によって推定される針入度Pを出力してもよい。出力部18は、推定される劣化度Dや針入度Pの時系列データを出力してもよく、時間軸に対する劣化度Dや針入度Pを示すグラフデータを出力してもよい。出力部18は、第1劣化度Dおよび第2劣化度Dのそれぞれの寄与を区別した推定結果を出力してもよい。出力部18は、推定される劣化度Dまたは針入度Pが所定の閾値に達するタイミングを出力してもよい。
【0066】
図6は、針入度Pの推定結果の一例を示すグラフであり、出力部18の出力結果の一例である。図6は、第1日時tから保管を開始したアスファルト80の針入度Pの時系列データを示す。第2日時tは、現在日時であり、現在日時において推定される針入度P=84.6が表示される。第3日時tは、所定の閾値Pthに到達する日時であり、図6の例では、Pth=80が設定されている。図6のグラフが表示されることにより、タンク50内の現在の針入度の推定値を把握できるとともに、所定の閾値Pthに到達するタイミングを把握できる。
【0067】
図7は、針入度の推定値と測定値を比較したグラフである。推定値は、針入度推定部36によって推定される針入度の値であり、測定値は、タンク50から取り出したアスファルト80に対して針入度試験を実施することによって得られた値である。タンク50内の保管期間は、プロットによって異なり、1週間から3ヶ月程度である。図7のグラフは、吐出流部86による劣化の寄与があったプロットと、吐出流部86による劣化の寄与がなかったプロットとを含む。図7の直線は、推定値と測定値が一致する傾きが1の直線である。図7の直線に沿ってプロットが並んでいることから、アスファルト80の針入度を高い精度で推定できていることが分かる。
【0068】
図8は、実施の形態に係る劣化推定方法を示すフローチャートである。劣化割合算出部30は、タンクデータ20および保管量データ22を用いて液面劣化割合Rを算出する(S10)。劣化速度算出部32は、温度データ24を用いて液面劣化速度βを算出する(S12)。劣化度推定部34は、液面劣化割合Rおよび液面劣化速度βを用いて、所定期間経過後のアスファルト80の第1劣化度Dを算出する(S14)。
【0069】
タンク50の吐出口56の高さhがタンク50内のアスファルト80の液面82の高さhより大きい(つまり、h>h)の場合(S16のY)、劣化割合算出部30は、タンクデータ20および保管量データ22を用いて吐出劣化割合Rを算出する(S18)。劣化速度算出部32は、温度データ24を用いて吐出劣化速度βを算出する(S20)。劣化度推定部34は、吐出劣化割合Rおよび吐出劣化速度βを用いて、所定期間経過後のアスファルト80の第2劣化度Dを算出する(S22)。劣化度推定部34は、イベントデータ26をさらに用いて第2劣化度Dを算出してもよい。S16において、タンク50の吐出口56の高さhがタンク50内のアスファルト80の液面82の高さh以下(つまり、h≦h)の場合(S16のN)、S18~S22の処理をスキップする。
【0070】
つづいて、針入度推定部36は、針入度データ28および算出した劣化度を用いて所定期間経過後のアスファルト80の針入度を推定する(S24)。針入度推定部36は、第1劣化度Dおよび第2劣化度Dの双方が算出されている場合、第1劣化度Dと第2劣化度Dを加算した劣化度Dを用いて針入度Pを推定する。針入度推定部36は、第2劣化度Dが算出されていない場合、第1劣化度Dを劣化度Dとし、劣化度Dを用いて針入度Pを推定する。
【0071】
以上、本開示を実施の形態に基づいて説明した。この実施の形態は例示であり、各構成要素あるいは各処理プロセスの組み合わせにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本開示の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0072】
上述の実施の形態において、タンク50内のアスファルト80の温度が一定であり、温度依存性を考慮しなくてもよい場合、劣化速度βを用いずに劣化度Dを推定してもよい。
【0073】
上述の実施の形態では、タンク50に一つの吐出口56が設けられる場合について説明した。タンク50に複数の吐出口56が設けられる場合、複数の吐出口56のそれぞれについて第2劣化度を算出して加算することにより、タンク50内のアスファルト80の全体の劣化度を推定してもよい。また、タンク50に吐出口56が設けられない場合、第2劣化度を用いず、第1劣化度のみを用いてタンク50内のアスファルト80の全体の劣化度を推定してもよい。
【0074】
実施の形態は、上述の方法を実現するための機能をコンピュータに実現させるためのプログラムであってもよいし、プログラムを格納する記録媒体であってもよい。このようなプログラムを格納する記録媒体は、非一時的(non-transitory)かつ有形(tangible)なコンピュータ読み取り可能(computer readable)である記録媒体(storage medium)であってもよく、不揮発性メモリ、磁気テープや磁気ディスクなどの磁気記録媒体、または、光学ディスクなどの光学記録媒体であってもよい。
【0075】
以下、本開示のいくつかの態様について説明する。
【0076】
本開示の第1の態様は、アスファルトが保管されるタンクの構造に関するタンクデータと、前記タンク内のアスファルトの保管量に関する保管量データとを用いて、前記タンク内におけるアスファルトの単位時間あたりの劣化割合を算出する劣化割合算出部と、前記算出される劣化割合を用いて、所定期間の経過による前記タンク内のアスファルトの劣化度を推定する劣化度推定部と、を備える情報処理装置である。第1の態様によれば、タンクの構造とタンク内のアスファルトの保管量に応じて算出される劣化割合を用いて劣化度を推定することにより、アスファルトの劣化度の推定精度を向上できる。
【0077】
本開示の第2の態様は、前記推定される劣化度と、アスファルトの針入度試験の測定値に関する針入度データとを用いて、前記所定期間の経過による前記タンク内のアスファルトの針入度の低下量を推定する針入度推定部をさらに備える、第1の態様に記載の情報処理装置である。第2の態様によれば、推定した劣化度を用いて、アスファルトの針入度の低下量を推定できる。
【0078】
本開示の第3の態様は、前記針入度推定部は、前記タンク内のアスファルトの初期針入度を用いて、前記所定期間の経過後の前記タンク内のアスファルトの針入度を推定する、第2の態様に記載の情報処理装置である。第3の態様によれば、劣化したアスファルトの針入度を推定できる。
【0079】
本開示の第4の態様は、前記タンク内のアスファルトの温度に関する温度データを用いて、前記タンク内におけるアスファルトの劣化速度を算出する劣化速度算出部をさらに備え、前記劣化度推定部は、前記算出される劣化速度をさらに用いて前記劣化度を推定する、第1から第3のいずれか一つの態様に記載の情報処理装置である。第4の態様によれば、アスファルトの劣化の温度依存性を考慮することができ、アスファルトの劣化度の推定精度を向上できる。
【0080】
本開示の第5の態様は、前記劣化速度算出部は、アスファルトの加熱試験において測定される針入度の温度依存性に基づいて、前記タンク内のアスファルトの温度に応じた劣化速度を算出する、第4の態様に記載の情報処理装置である。第5の態様によれば、加熱試験の測定結果から得られる温度依存性を考慮することにより、アスファルトの劣化度の推定精度を向上できる。
【0081】
本開示の第6の態様は、前記劣化割合算出部は、前記タンク内にて空気と接触する部分のアスファルトの量を、前記タンク内のアスファルトの保管量で除算することにより前記劣化割合を算出する、第1から第5のいずれか一つの態様に記載の情報処理装置である。第6の態様によれば、タンク内で空気と接触する部分のアスファルトの割合を用いて劣化度を推定することにより、タンク内のアスファルト全体の劣化度の推定精度を向上できる。
【0082】
本開示の第7の態様は、前記劣化割合算出部は、前記タンク内のアスファルトの液面にて空気と接触する部分のアスファルトの量を、前記タンク内のアスファルトの保管量で除算した液面劣化割合を算出し、前記劣化度推定部は、前記液面劣化割合を用いて前記劣化度を推定する、第6の態様に記載の情報処理装置である。第7の態様によれば、タンク内のアスファルトの液面近傍部の割合を用いて劣化度を推定することにより、タンク内のアスファルト全体の劣化度の推定精度を向上できる。
【0083】
本開示の第8の態様は、前記タンク内のアスファルトの保管温度を用いて、前記液面にてアスファルトが劣化する液面劣化速度を算出する劣化速度算出部をさらに備え、前記劣化度推定部は、前記液面劣化割合および前記液面劣化速度を用いて、前記劣化度を推定する、第7の態様に記載の情報処理装置である。第8の態様によれば、タンク内のアスファルトの液面近傍部の温度を考慮することができ、アスファルトの劣化度の推定精度を向上できる。
【0084】
本開示の第9の態様は、前記劣化割合算出部は、前記タンクの吐出口から前記タンク内のアスファルトの液面に向けて注入される過程において空気と接触する部分のアスファルトの量を、前記タンク内のアスファルトの保管量で除算することにより吐出劣化割合を算出し、前記劣化度推定部は、前記吐出劣化割合をさらに用いて前記劣化度を推定する、第6から第8のいずれか一つの態様に記載の情報処理装置である。第9の態様によれば、タンク内の吐出口から液面に向けて注入される吐出流部の割合を用いて劣化度を推定することにより、タンク内のアスファルト全体の劣化度の推定精度を向上できる。
【0085】
本開示の第10の態様は、前記劣化割合算出部は、前記吐出口の形状、前記吐出口のサイズ、前記吐出口におけるアスファルトの吐出量、および前記液面から前記吐出口までの高さの少なくとも一つに応じて前記吐出劣化割合を算出する、第9の態様に記載の情報処理装置である。第10の態様によれば、吐出流部の形状およびサイズの変化に応じた吐出流部の割合を算出することができ、劣化度の推定精度を向上できる。
【0086】
本開示の第11の態様は、前記吐出口におけるアスファルトの吐出温度を用いて、前記吐出口から前記液面に向けて注入される過程においてアスファルトが劣化する吐出劣化速度を算出する劣化速度算出部をさらに備え、前記劣化度推定部は、前記吐出劣化割合および前記吐出劣化速度を用いて、前記劣化度を推定する、第9または第10の態様に記載の情報処理装置である。第11の態様によれば、吐出流部の温度を考慮することができ、アスファルトの劣化度の推定精度を向上できる。
【0087】
本開示の第12の態様は、前記劣化度推定部は、前記所定期間内において前記吐出口からアスファルトが吐出される累計時間をさらに用いて、前記劣化度を推定する、第9から第11のいずれか一つの態様に記載の情報処理装置である。第12の態様によれば、吐出流部が形成される累計時間を用いることにより、吐出流部における劣化の寄与をより適切に考慮することができ、劣化度の推定精度を向上できる。
【0088】
本開示の第13の態様は、アスファルトが保管されるタンクの構造に関するタンクデータと、前記タンク内のアスファルトの保管量に関する保管量データとを用いて、前記タンク内におけるアスファルトの単位時間あたりの劣化割合を算出することと、前記算出される劣化割合を用いて、所定期間の経過による前記タンク内のアスファルトの劣化度を推定することと、を備える劣化推定方法である。第13の態様によれば、タンクの構造とタンク内のアスファルトの保管量に応じて算出される劣化割合を用いて劣化度を推定することにより、アスファルトの劣化度の推定精度を向上できる。
【0089】
本開示の第14の態様は、アスファルトが保管されるタンクの構造に関するタンクデータと、前記タンク内のアスファルトの保管量に関する保管量データとを用いて、前記タンク内におけるアスファルトの単位時間あたりの劣化割合を算出する機能と、前記算出される劣化割合を用いて、所定期間の経過による前記タンク内のアスファルトの劣化度を推定する機能と、をコンピュータに実現させるプログラムである。第14の態様によれば、タンクの構造とタンク内のアスファルトの保管量に応じて算出される劣化割合を用いて劣化度を推定することにより、アスファルトの劣化度の推定精度を向上できる。
【0090】
上述した実施の形態または態様に係る構成の任意の組み合わせもまた本開示の実施の形態として有用である。組み合わせによって生じる新たな実施の形態は、組み合わされる実施例および変形例それぞれの効果をあわせもつ。また、請求項に記載の各構成要件が果たすべき機能は、実施例および変形例において示された各構成要素の単体もしくはそれらの連携によって実現されることも当業者には理解されるところである。
【符号の説明】
【0091】
10…情報処理装置、12…取得部、14…記憶部、16…演算部、18…出力部、20…タンクデータ、22…保管量データ、24…温度データ、26…イベントデータ、28…針入度データ、30…劣化割合算出部、32…劣化速度算出部、34…劣化度推定部、36…針入度推定部、50…タンク、52…受入口、54…取出口、56…吐出口、58…循環ライン、60…ポンプ、62…タンクヒータ、64…ラインヒータ、66…攪拌機、68…タンク温度センサ、70…ライン温度センサ、72…レベルセンサ、78…空気、80…アスファルト、82…液面、84…液面近傍部、86…吐出流部、90…保管装置。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8