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特開2024-70018熱成形用積層体、それを用いた成形体および成形体の製造方法
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  • 特開-熱成形用積層体、それを用いた成形体および成形体の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024070018
(43)【公開日】2024-05-22
(54)【発明の名称】熱成形用積層体、それを用いた成形体および成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/00 20060101AFI20240515BHJP
   B32B 27/16 20060101ALI20240515BHJP
   B29C 51/14 20060101ALI20240515BHJP
   B29C 51/10 20060101ALI20240515BHJP
   B29C 45/14 20060101ALI20240515BHJP
【FI】
B32B27/00 B
B32B27/16 101
B29C51/14
B29C51/10
B29C45/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022180348
(22)【出願日】2022-11-10
(71)【出願人】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】597003516
【氏名又は名称】MGCフィルシート株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100110663
【弁理士】
【氏名又は名称】杉山 共永
(74)【代理人】
【識別番号】100227008
【弁理士】
【氏名又は名称】大賀 沙央里
(72)【発明者】
【氏名】山岸 宏章
(72)【発明者】
【氏名】亀井 将太
(72)【発明者】
【氏名】梶本 知宏
(72)【発明者】
【氏名】芳賀 亮一
【テーマコード(参考)】
4F100
4F206
4F208
【Fターム(参考)】
4F100AA17B
4F100AA20B
4F100AH03B
4F100AK25A
4F100AK25B
4F100AK45A
4F100AK52B
4F100AT00A
4F100BA03
4F100BA07
4F100CA05B
4F100CC00B
4F100EH36
4F100EH46B
4F100EJ08B
4F100EJ91C
4F100GB33
4F100GB41
4F100GB48
4F100JB14B
4F100JK12B
4F100JL09
4F100YY00B
4F206AA28
4F206AC03
4F206AD05
4F206AD08
4F206AD20
4F206AH17
4F206AH42
4F206JA07
4F206JB12
4F206JL02
4F206JQ81
4F206JW06
4F208AA21
4F208AA28
4F208AC03
4F208AG03
4F208MA02
4F208MB01
4F208MC01
4F208MC02
4F208MG04
4F208MH06
(57)【要約】      (修正有)
【課題】耐候性に優れた成形体を得られるアフターキュア型熱成形用積層体を提供する。
【解決手段】一実施形態によると、基材層22と、未硬化のハードコート層16と、保護フィルム12とがこの順に積層されてなるアフターキュア型熱成形用積層体10であって、前記保護フィルム12を除去して前記ハードコート層16を硬化させた後において、該ハードコート層16における耐候性試験前のナノインデンター硬度(Hi)および耐候性試験後のナノインデンター硬度(Hf)が以下の関係を満たす、アフターキュア型熱成形用積層体10が提供される。
0.9Hi<Hf<1.4Hi
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材層と、未硬化のハードコート層と、保護フィルムとがこの順に積層されてなるアフターキュア型熱成形用積層体であって、
前記保護フィルムを除去して前記ハードコート層を硬化させた後において、該ハードコート層における耐候性試験前のナノインデンター硬度(Hi)および耐候性試験後のナノインデンター硬度(Hf)が以下の関係を満たし、
0.9Hi<Hf<1.4Hi
前記ナノインデンター硬度は、30℃において、ISO14577-1に準拠して測定され、
前記耐候性試験は、照度50mW/cm、ブラックパネル温度63℃、相対湿度50%、50時間(連続照射)の条件で行われる
アフターキュア型熱成形用積層体。
【請求項2】
前記ハードコート層は、(メタ)アクリロイル基を有するポリマーおよび無機酸化物ナノ粒子を含み、
前記ハードコート層における前記(メタ)アクリロイル基を有するポリマーの含有量は、前記ポリマーと前記ナノ粒子の合計を100重量部としたときに、40~99重量部であり、前記無機酸化物ナノ粒子の含有量は、1~60重量部である、請求項1に記載のアフターキュア型熱成形用積層体。
【請求項3】
前記(メタ)アクリロイル基を有するポリマーは、250~700g/eqのアクリル当量を有し、前記無機酸化物ナノ粒子は、5~150nmの平均粒子径を有する、請求項2に記載のアフターキュア型熱成形用積層体。
【請求項4】
前記ハードコート層は、光安定剤および/または紫外線吸収剤をさらに含み、
前記光安定剤および/または紫外線吸収剤の合計含有量は、前記未硬化のハードコート層に含まれる前記ポリマーと前記ナノ粒子の合計を100重量部としたときに、0.1~10重量部である、請求項2に記載のアフターキュア型熱成形用積層体。
【請求項5】
前記未硬化のハードコート層は、30℃でのナノインデンター硬度が200N/mm以上である請求項1に記載のアフターキュア型熱成形用積層体。
【請求項6】
前記ハードコート層は活性エネルギー線硬化性である、請求項1に記載のアフターキュア型熱成形用積層体。
【請求項7】
前記基材層はポリカーボネート樹脂を含む、請求項1に記載のアフターキュア型熱成形用積層体。
【請求項8】
請求項1に記載のアフターキュア型熱成形用積層体を成形してなる成形中間体における未硬化のハードコート層を硬化させてなる成形体。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか一項に記載のアフターキュア型熱成形用積層体を熱成形することと、
前記熱成形されたアフターキュア型熱成形用積層体から保護フィルムを除去することと、
保護フィルムを除去することによって表面に露出したハードコート層を硬化させることと
を含む、成形体の製造方法。
【請求項10】
前記熱成形はインサート成形により行われる、請求項9に記載の方法。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アフターキュア型の熱成形用積層体、それを用いた成形体および成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチック製の家電や車載品等は、これまでプラスチックの成形品を必要に応じてコーティングして製造されることが一般的であった。しかし、そのような方法は環境負荷が大きいことから、熱成形可能な加飾フィルムをインサート成形する方法をはじめとして、種々の方法が検討されてきた。近年では、成形品の耐薬品性や耐擦傷性に対する要求が大きくなってきていることから、ハードコート付きの熱成形用積層体(例えばフィルム)の需要が特に増加している。ハードコート付きの熱成形用積層体は、一般的に、ハードコート液を基材上に塗布後、硬化させて製造される(特許文献1)。
【0003】
一般的なハードコートフィルムでは成形性と、耐薬品性および/または耐擦傷性とは、互いにトレードオフの関係にある。すなわち、通常、成形性を高めると耐薬品性および/または耐擦傷性は低下し、耐薬品性および/または耐擦傷性を向上させると成形性が悪化する。そこで、この問題を解決するため、ハードコート液を基材に塗布乾燥してハードコート層を形成した後、それを硬化させずに成形を行い、成形後にUV照射等によりハードコート層を硬化させるアフターキュア型の熱成形用積層体が提案されている。
【0004】
アフターキュア型の熱成形用積層体には、傷つき防止や異物の噛みこみを防止するため、ハードコート層表面に保護フィルムを貼り付けたものもある。成形工程で異物を噛みこむと歩留まりが大きく悪化する原因となるため、クリーン環境下、保護フィルムを貼り付けた状態で、熱成形用積層体の成形を行うことが望ましい。
しかしながら、熱成形を行うには、熱成形用積層体の基材のガラス転移温度(Tg)以上の温度となるように加熱して、積層体を軟化させる必要がある。従来のアフターキュア型熱成形用積層体において保護フィルムを貼り付けた状態で上記温度まで加熱を行うと、ハードコート層の硬化が進行し、熱成形性が大きく損なわれるという問題があった。
【0005】
また、従来のアフターキュア型熱成形用積層体において、保護フィルムを貼り付けたまま熱成形を行うと、保護フィルムの柄目が転写して外観が悪化するという問題も生じていた。
これらのことから、従来のアフターキュア型熱成形用積層体においては、保護フィルムを剥がしてから成形することが一般的であった。上記のような課題を解決すべく、保護フィルムを貼り付けたまま熱成形することが可能であり、熱成形性、耐薬品性、耐擦傷性等に優れた成形体を得られる熱成形用積層体が提案されている(特許文献2)。
【0006】
さらに、太陽光に暴露される環境で使用される物品においては、上記のような性質に加えて、耐候性を有することが望ましい。すなわち、ハードコート層を備えた積層体を用いて耐候性を有する成形体を製造できれば、太陽光に暴露される環境で使用しても劣化しにくい商品を提供することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2017-508828号公報
【特許文献2】国際公開第2021/157588号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、耐候性に優れた成形体を得られるアフターキュア型熱成形用積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意研究した結果、ハードコート層を硬化させて耐候性試験を行った場合に、耐候性試験前後でのハードコート層のナノインデンター硬度の変化が小さいアフターキュア型熱成形用積層体を得ることに成功した。そのような熱成形用積層体を用いると、耐候性に優れた成形体を製造することができる。本発明は、例えば以下のとおりである。
[1] 基材層と、未硬化のハードコート層と、保護フィルムとがこの順に積層されてなるアフターキュア型熱成形用積層体であって、
前記保護フィルムを除去して前記ハードコート層を硬化させた後において、該ハードコート層における耐候性試験前のナノインデンター硬度(Hi)および耐候性試験後のナノインデンター硬度(Hf)が以下の関係を満たし、
0.9Hi<Hf<1.4Hi
前記ナノインデンター硬度は、30℃において、ISO14577-1に準拠して測定され、
前記耐候性試験は、照度50mW/cm、ブラックパネル温度63℃、相対湿度50%、50時間(連続照射)の条件で行われる
アフターキュア型熱成形用積層体。
[2] 前記ハードコート層は、(メタ)アクリロイル基を有するポリマーおよび無機酸化物ナノ粒子を含み、
前記ハードコート層における前記(メタ)アクリロイル基を有するポリマーの含有量は、前記ポリマーと前記ナノ粒子の合計を100重量部としたときに、40~99重量部であり、前記無機酸化物ナノ粒子の含有量は、1~60重量部である、[1]に記載のアフターキュア型熱成形用積層体。
[3] 前記(メタ)アクリロイル基を有するポリマーは、250~700g/eqのアクリル当量を有し、前記無機酸化物ナノ粒子は、5~150nmの平均粒子径を有する、[2]に記載のアフターキュア型熱成形用積層体。
[3-1] 前記(メタ)アクリロイル基を有するポリマーは、5,000~200,000の重量平均分子量を有する、[2]または[3]に記載のアフターキュア型熱成形用積層体。
[4] 前記ハードコート層は、光安定剤および/または紫外線吸収剤をさらに含み、
前記光安定剤および/または紫外線吸収剤の合計含有量は、前記未硬化のハードコート層に含まれる前記ポリマーと前記ナノ粒子の合計を100重量部としたときに、0.1~10重量部である、[2]~[3-1]のいずれかに記載のアフターキュア型熱成形用積層体。
[4-1] 前記ハードコート層は、レベリング剤および/または光重合開始剤をさらに含む、[2]~[4]のいずれかに記載のアフターキュア型熱成形用積層体。
[5] 前記未硬化のハードコート層は、30℃でのナノインデンター硬度が200N/mm以上である[1]~[4-1]のいずれかに記載のアフターキュア型熱成形用積層体。
[5-1] 前記保護フィルムを除去して前記ハードコート層を硬化させた後において、該ハードコート層の表面上で、スチールウールを100gf/cmの圧力下で15回往復させて擦傷した場合に、前記ハードコート層の擦傷前と擦傷後のヘーズ変化(ΔH)が、3.0%以下であり、
前記へーズ変化(ΔH)は、JIS K 7136:2000に基づいて評価される、
[1]~[5]のいずれかに記載のアフターキュア型熱成形用積層体。
[6] 前記ハードコート層は活性エネルギー線硬化性である、[1]~[5-1]のいずれかに記載のアフターキュア型熱成形用積層体。
[6-1] 前記ハードコート層の厚みは1~10μmである、[1]~[6]のいずれかに記載のアフターキュア型熱成形用積層体。
[7] 前記基材層はポリカーボネート樹脂を含む、[1]~[6-1]のいずれかに記載のアフターキュア型熱成形用積層体。
[7-1] 前記基材層は、ポリカーボネート樹脂層およびアクリル樹脂層を含む、[7]に記載のアフターキュア型熱成形用積層体。
[8] [1]~[7-1]のいずれかに記載のアフターキュア型熱成形用積層体を成形してなる成形中間体における未硬化のハードコート層を硬化させてなる成形体。
[9] [1]~[7-1]のいずれかに記載のアフターキュア型熱成形用積層体を熱成形することと、
前記熱成形されたアフターキュア型熱成形用積層体から保護フィルムを除去することと、
保護フィルムを除去することによって表面に露出したハードコート層を硬化させることと
を含む、成形体の製造方法。
[10] 前記熱成形はインサート成形により行われる、[9]に記載の方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、耐候性に優れた成形体を得られるアフターキュア型熱成形用積層体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施形態に係る熱成形用積層体の一例を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
一実施形態によると、本発明のアフターキュア型熱成形用積層体は、基材層と、未硬化のハードコート層と、保護フィルムとがこの順に積層されてなり、保護フィルムを除去してハードコート層を硬化させた後において、ハードコート層における耐候性試験前のナノインデンター硬度(Hi)および耐候性試験後のナノインデンター硬度(Hf)が以下の関係を満たす。
0.9Hi<Hf<1.4Hi
ここで、ナノインデンター硬度は、30℃において、ISO14577-1に準拠して測定され、耐候性試験は、照度50mW/cm、ブラックパネル温度63℃、相対湿度50%、50時間(連続照射)の条件で行われる。
【0013】
本発明者らは、硬化後のハードコート層について耐候性試験を行った場合に、耐候性試験前後でのハードコート層のナノインデンター硬度の変化が小さいアフターキュア型熱成形用積層体を得ることに成功した。そして、そのようなハードコート層を具備する積層体から得られた成形体は、ハードコート層と基材層の密着性に優れ、耐候性試験による基材層からのハードコート層の剥がれが有意に抑制されることを確認した。一般的に、ハードコート層の強度や耐擦傷性を確保するために硬度を上げようとすると、ハードコート層を硬化させる際の硬化収縮(寸法変化)によって、ハードコート層と基材層との密着性が悪くなる傾向にある。そのような状況にもかかわらず、本発明者らは、望ましい硬度や耐擦傷性を確保しながら、耐候性試験後においても基材層との密着性に優れるハードコート層を見出したのである。耐候性に優れた成形体は、太陽光に暴露される環境で使用される物品(例えば、自動車の内外装部材、建築材料、モバイル機器等)に好適に使用され得る。
【0014】
耐候性試験前後でのハードコート層のナノインデンター硬度の変化を抑える因子は、種々考えられるが、硬化収縮を抑制するようなハードコート層の組成や硬化条件等が挙げられる。例えば、ハードコート層の組成による硬化収縮の程度の差や、使用する添加剤の種類や量が、硬化収縮の程度に影響を及ぼし、その結果として耐候性試験前後でのナノインデンター硬度の変化量に影響を及ぼし得ると考えられる。具体的な例としては、ハードコート層に含まれる光安定剤および/または紫外線吸収剤が挙げられ、これらは耐候性試験によって生じたラジカルを補足し、ハードコート層に含まれる樹脂の重合および硬化収縮を抑制する働きを有すると推測される。また、光安定剤および紫外線吸収剤は、耐候性試験の後期において、ハードコート層の自動酸化による脆化(インデンター硬度の低下)を抑える働きも有すると推測される。しかし、要因はこれらに限定されるものではない。
【0015】
以下、実施形態に係るアフターキュア型熱成形用積層体の各構成要素、製造方法、物性、用途等について、詳細に説明する。
[1]熱成形用積層体
実施形態に係る熱成形用積層体は、(a)基材層、(b)硬化性(未硬化)のハードコート層、および(c)保護フィルムを含み、これらが、(a)基材層、(b)ハードコート層、および(c)保護フィルムの順に積層されている。すなわち、実施形態に係る熱成形用積層体は、(b)ハードコート層の一方の表面に(a)基材層が、(b)ハードコート層の他方の表面に(c)保護フィルムが、それぞれ積層されている。また、実施形態に係る積層体は、上記(a)~(c)以外の層を具備していてもよく、(a)~(c)の各層を複数具備していてもよい。
【0016】
図1は、実施形態に係る熱成形用積層体の一例を示す断面図である。図1において、積層体10は、基材層(例えば、ポリメチルメタクリレート層(PMMA樹脂層)20とポリカーボネート層(PC樹脂層)22とからなる基材層)上に、ハードコート層16が積層され、その上にさらに保護フィルム12が積層された構造を有する。すなわち、ハードコート層16は、その表面が保護フィルム12によって保護されている。このように基材層が2層以上からなる場合、その配置は特に限定されない。
【0017】
実施形態に係る熱成形用積層体は、アフターキュア型である。したがって、実施形態に係る熱成形用積層体は、未硬化のハードコート層を具備し、ハードコート層が未硬化のまま成形工程を行うこともできる。ハードコート層が未硬化のまま成形工程を行う場合、具体的には、熱成形用積層体を所望の形状に成形し、保護フィルムを剥がしてから、表面に露出したハードコート層を硬化させることができる。保護フィルムを剥がしてから成形してもよいが、後述するように、本発明の実施形態によると、保護フィルムを貼り付けたまま成形することができる。ハードコート層を硬化させる手段は、ハードコート層の材料に依存するが、例えば、活性エネルギー線または熱による硬化が挙げられる。従来、ハードコート層を硬化させてから成形を行うと、ハードコート層に微細なクラックが生じるという問題が生じていたが、アフターキュア型の熱成形用積層体を使用してハードコート層が未硬化のまま成形を行えば、このような問題は生じない。また、実施形態に係る熱成形用積層体は、保護フィルムを貼り付けたまま首尾よく成形することが可能である。したがって、成形時のハードコート層の傷付きや異物の噛みこみを防ぐことができる。
【0018】
以下、実施形態に係る熱成形用積層体の各層について順に説明する。本明細書において、基材層に塗布するハードコート層用混合液を「ハードコート組成物」と称し、ハードコート組成物を基材層に塗布して乾燥させた状態であって、硬化前の状態を「未硬化のハードコート層」と称し、ハードコート層を活性エネルギー線、熱等で硬化させた状態を「硬化後のハードコート層」と称する。また、硬化させた状態とは、完全硬化していない半硬化の状態を含む。
【0019】
[2]基材層
基材層は、ハードコート層の保護フィルムとは反対側の表面に接するように積層されていることが好ましい。ただし、これに限定されるものではなく、基材層とハードコート層との間に他の層が配置されていてもよい。
【0020】
基材層は、好ましくは熱可塑性樹脂を含む。熱可塑性樹脂の種類については特に限定されないが、ポリカーボネート(PC)樹脂、ポリメチルメタクリレート(PMMA)等のアクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)、トリアセチルセルロース(TAC)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリイミド(PI)、シクロオレフィンコポリマー(COC)、含ノルボルネン樹脂、ポリエーテルスルホン、セロファン、芳香族ポリアミド等の各種樹脂が用いられる。基材層は、上述した熱可塑性樹脂のうち、少なくともポリカーボネート樹脂を含むことが好ましく、靭性や耐熱性の観点から芳香族ポリカーボネート樹脂を含むことがより好ましい。
【0021】
ポリカーボネート樹脂の種類としては、分子主鎖中に炭酸エステル結合-[O-R-OCO]-(Rは、脂肪族基、芳香族基、または脂肪族基と芳香族基の双方を含む基であり、直鎖構造であっても分岐構造であってもよい)を含むものであれば、特に限定されない。中でも、ビスフェノール骨格を有するポリカーボネート樹脂が好ましく、ビスフェノールA骨格を有するビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂、またはビスフェノールC骨格を有するビスフェノールC型ポリカーボネート樹脂が特に好ましい。ポリカーボネート樹脂として、ビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂とビスフェノールC型ポリカーボネート樹脂の混合物、またはビスフェノールAとビスフェノールCの共重合体を用いてもよい。基材層の硬度を向上させるためには、ビスフェノールC型のポリカーボネート樹脂(例えば、ビスフェノールCからなるポリカーボネート樹脂、ビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂とビスフェノールC型ポリカーボネート樹脂の混合物、またはビスフェノールAとビスフェノールCの共重合体)を用いることが好ましい。
【0022】
基材層に含まれる熱可塑性樹脂としては、アクリル樹脂も好ましい。具体的には、特に限定されないが、例えば、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、メチルメタクリレート(MMA)に代表される各種(メタ)アクリル酸エステルの単独重合体、またはPMMAやMMAもしくはこれらを構成する単量体と他の1種以上の単量体との共重合体が挙げられる。また、複数の樹脂の混合物を使用することもできる。これらの中でも、低複屈折性、低吸湿性、耐熱性に優れた環状アルキル構造を含む(メタ)アクリレートが好ましい。そのような(メタ)アクリレートの例として、アクリペット(三菱レイヨン製)、デルペット(旭化成ケミカルズ製)、パラペット(クラレ製)等があるが、これらに限定されるものではない。
【0023】
また、基材層は、異なる組成を有する複数の層で形成されていてもよい。例えば、上述したポリカーボネート樹脂の層と、アクリル樹脂の層とからなる基材層を使用することもできる。複数層からなる基材層は、2層構造に限定されるものではなく、3層以上であってもよい。例えばポリカーボネート樹脂層とアクリル樹脂層とを含む基材層を使用する場合、アクリル樹脂側にハードコート層が積層されることが好ましい。耐候性に劣るポリカーボネート樹脂層上に、耐候性に優れるハードコート層およびアクリル樹脂層を積層することで耐候性に優れたフィルムを得ることができる。ポリカーボネート樹脂層とアクリル樹脂層とを含む多層構造の基材層を用いることにより、基材層の表面硬度を向上させながら、基材層の熱成形性を維持することが可能である。
【0024】
基材層に含まれる熱可塑性樹脂の粘度平均分子量は、好ましくは15,000~40,000であり、より好ましくは20,000~35,000であり、さらに好ましくは22,500~25,000である。
【0025】
また、基材層は、熱可塑性樹脂以外の成分として添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、例えば、熱安定剤、酸化防止剤、難燃剤、難燃助剤、紫外線吸収剤、離型剤、着色剤等が挙げられ、基材層はこれらのうち1種または2種以上を含み得る。さらには、帯電防止剤、蛍光増白剤、防曇剤、流動性改良剤、可塑剤、分散剤、抗菌剤等を基材層に添加してもよい。
【0026】
基材層における熱可塑性樹脂の含有量は、基材層の質量に対して好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、特に好ましくは95質量%以上である。また、ポリカーボネート樹脂を主成分とする基材層においては、基材層に対するポリカーボネート樹脂の割合は、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、特に好ましくは95質量%以上である。アクリル樹脂を主成分とする基材層においては、基材層に対するアクリル樹脂の割合は、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、特に好ましくは95質量%以上である。
【0027】
基材層の厚さは、特に限定されないが、0.10mm~1.0mmであることが好ましい。基材層の厚さは、例えば、0.15mm~0.80mm、0.18mm~0.60mm、あるいは0.25mm~0.40mmである。このような厚みの基材層を使用することにより、成形性と硬度が優れたフィルムを実現できる。
基材層が複数の層からなる場合、各層の厚さが上述の範囲内であってもよく、基材層全体の厚さが上述の範囲内であってもよい。
【0028】
[3]ハードコート層
ハードコート層の組成は、耐候性試験前後でのナノインデンター硬度の変化が本明細書に記載の所定の範囲となる限り、特に限定されない。ハードコート層を構成する材料としては、例えば、活性エネルギー線硬化性樹脂または熱硬化性樹脂が挙げられる。ハードコート層がこのような硬化性樹脂を主に含む場合、硬化剤を使用しなくてもハードコート層を硬化させることができる点で望ましい。ハードコート層は、特性を向上させるための種々の添加剤をさらに含んでいてもよく、そのような添加剤としては、ナノ粒子、光安定剤、紫外線吸収剤、レベリング剤、光重合開始剤等が挙げられる。
【0029】
(1)硬化性樹脂
ハードコート層は、好ましくは活性エネルギー線硬化性樹脂または熱硬化性樹脂を含み、より好ましくは活性エネルギー線硬化性樹脂を含む。活性エネルギー線硬化性樹脂としては、活性エネルギー線硬化性を有する樹脂であればいずれも使用可能である。活性エネルギー線硬化性樹脂として、例えば(メタ)アクリレートポリマーが挙げられ、より具体的には、エポキシ(メタ)アクリレートポリマー、ウレタン(メタ)アクリレートポリマー、ポリエステル(メタ)アクリレートポリマーが挙げられる。特に、(メタ)アクリロイル基を有するポリマー、例えば(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレートポリマーが好適に用いられる。より具体的には、(メタ)アクリロイル基を有するエポキシ(メタ)アクリレートポリマー、(メタ)アクリロイル基を有するウレタン(メタ)アクリレートポリマー、(メタ)アクリロイル基を有するポリエステル(メタ)アクリレートポリマーが挙げられる。活性エネルギー線硬化性樹脂は各社から容易に入手することが可能である。以下、(メタ)アクリロイル基を有するポリマーを、(メタ)アクリロイルポリマーとも称する。
なお、本明細書において、(メタ)アクリレートとは、メタクリレートおよび/またはアクリレートを意味し、(メタ)アクリロイル基とは、メタクリロイル基および/またはアクリロイル基を意味する。その他の同様の記載も、上記のように解される。
【0030】
・エポキシ(メタ)アクリレートポリマー
活性エネルギー線硬化性樹脂は、例えば、エポキシ(メタ)アクリレートポリマーであってよい。中でも、(メタ)アクリロイル基を有するエポキシ(メタ)アクリレートポリマーが好ましい。エポキシ(メタ)アクリレートの合成例を式(1)に示す。エポキシ(メタ)アクリレートは、エポキシ化合物に不飽和結合を有するアクリル酸やメタクリル酸などを付加することで得ることができる。
【化1】
(式(1)において、Rは、炭素数1~12のアルキル基または水素原子であり、当該アルキル基は、エポキシ基、水酸基、アクリロイル基およびメタクリロイル基から選択される1つ以上の置換基で置換されていてもよく;R’は、メチル基または水素原子である。)
【0031】
エポキシ(メタ)アクリレートポリマーは、例えば、(メタ)アクリル酸と(メタ)アクリル酸グリシジルエーテルを共重合することで(メタ)アクリレート骨格を有するエポキシ樹脂を合成し、これにアクリル酸やメタクリル酸などを付加することで得ることができる。その合成例を式(2)に示す。
【化2】
【0032】
好適なエポキシ(メタ)アクリレートポリマーとして、例えば以下の式(I)で示される繰り返し単位を有するものが挙げられる。
【化3】
式(I)において、mは、炭素数1~4のアルキレン基または単結合であり;nは、炭素数1~4のアルキル基または水素原子であり;pは、単結合または炭素数1もしくは2のアルキレン基であり;qは、エポキシ基、水酸基、アクリロイル基およびメタクリロイル基から選択される1つ以上の置換基を有していてもよい炭素数1~12のアルキル基であるか、または水素原子である。
【0033】
上記式(I)において、好ましくは、mは、炭素数1または2のアルキレン基であり;nは、炭素数1または2のアルキル基であり;pは、単結合またはメチレン基であり;qは、エポキシ基、水酸基およびアクリロイル基から選択される1つ以上の置換基を有していてもよい炭素数が1~6のアルキル基であるか、または水素原子である。より好ましくは、mはメチレン基であり;nはメチル基であり;pは単結合であり;qは、メチル基およびエポキシ基から選択される1つ以上の置換基を有していてもよい炭素数5以下のアルキル基、または水酸基およびアクリロイル基から選択される1つ以上の置換基を有していてもよい炭素数8以下のアルキル基である。
【0034】
式(I)で表される繰り返し単位の具体例として、以下の式(II-a)、式(II-b)および式(II-c)で表されるものが挙げられる。
【化4】
【0035】
エポキシ(メタ)アクリレートポリマーが上記式(II-a)、式(II-b)および式(II-c)の繰り返し単位を含む場合、式(II-a)の繰り返し単位の割合は、式(II-a)の繰り返し単位、式(II-b)の繰り返し単位および式(II-c)の繰り返し単位の合計モル数を基準として30~85モル%であることが好ましく、40~80モル%であることがより好ましい。式(II-b)の繰り返し単位は、上記合計モル数を基準として、5~30モル%であることが好ましく、10~25モル%であることがより好ましい。また、式(II-c)の繰り返し単位は、上記合計モル数を基準として、10~40モル%であることが好ましく、10~35モル%であることがより好ましい。
また、上(II-a)の繰り返し単位、式(II-b)の繰り返し単位、および式(II-c)の繰り返し単位のモル比は、好ましくは、4.5~5.5:1.5~2.5:2.5~3.5であり、例えば、約5:2:3である。
【0036】
・ウレタン(メタ)アクリレートポリマー
(メタ)アクリロイル基を有するポリマーは、ウレタン(メタ)アクリレートポリマーであってもよい。具体的には、以下に記載するようなウレタン(メタ)アクリレートポリマーが挙げられる。
【0037】
イソシアネート化合物
イソシアネート化合物としては、例えば、アルキル置換基(メチル基等)を有していてもよい芳香族イソシアネートであって、好ましくは炭素数6~16の芳香族イソシアネート、さらに好ましくは炭素数7~14の芳香族イソシアネート、特に好ましくは炭素数8~12の芳香族イソシアネートが用いられる。
イソシアネート化合物は、芳香族イソシアネートであることが好ましいものの、脂肪族系、脂環式系のイソシアネートも用いられる。
【0038】
イソシアネート化合物の具体例としては、例えば、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、水添化ジフェニルメタンジイソシアネート、ポリフェニルメタンポリイソシアネート、変性ジフェニルメタンジイソシアネート、水添化キシリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート、1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、フェニレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、リジントリイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート等のポリイソシアネート、これらポリイソシアネートの3量体化合物もしくは4量体化合物、ビューレット型ポリイソシアネート、水分散型ポリイソシアネート(例えば、日本ポリウレタン工業(株)社製、「アクアネート100」、「アクアネート110」、「アクアネート200」、「アクアネート210」等)、およびこれらポリイソシアネートとポリオールとの反応生成物等が挙げられる。
【0039】
これらのイソシアネート化合物の中で、特に好ましくは、ジフェニルメタンジイソシアネート、トルエンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、トルエンジイソシアネートのトリメチロールプロパン(TMP)アダクト体、トルエンジイソシアネートのイソシアネート体、キシレンジイソシアネートのTMPアダクト体、および下記式で表されるジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(H12MDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)等である。
【化5】
【0040】
アクリレート化合物
環状骨格の分子構造を含むウレタン(メタ)アクリレートポリマーを形成するためのアクリレート化合物としては、例えば、ペンタエリスリトールトリアクリレート(PETA)、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート(DPPA)、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル(アクリル酸ヒドロキシプロピル;HPA)等が挙げられる。
また、アクリレート化合物として、(メタ)アクリロイルオキシ基とヒドロキシル基とを有する化合物、例えば、ヒドロキシル基を有する単官能性(メタ)アクリル系化合物を用いることもできる。
【0041】
ヒドロキシル基を有する単官能性(メタ)アクリル系化合物としては、例えば、ヒドロキシル基含有モノ(メタ)アクリレート{例えば、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート[例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレートなどのヒドロキシC2~20アルキル-(メタ)アクリレート、好ましくはヒドロキシC2~12アルキル-(メタ)アクリレート、さらに好ましくはヒドロキシC2~6アルキル-(メタ)アクリレート]、ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート[例えば、ジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレートなどのポリC2~4アルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート]、3つ以上のヒドロキシル基を有するポリオールのモノ(メタ)アクリレート[例えば、グリセリンモノ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンモノ(メタ)アクリレートなどのアルカンポリオールモノ(メタ)アクリレート、ジグリセリンモノ(メタ)アクリレートなどのアルカンポリオールの多量体のモノ(メタ)アクリレート]}、N-ヒドロキシアルキル(メタ)アクリルアミド(例えば、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N-(2-ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミドなどのN-ヒドロキシC1~4アルキル(メタ)アクリルアミド)、これらの化合物(例えば、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート)のヒドロキシル基にラクトン(例えば、ε-カプロラクトンなどのC4~10ラクトン)が付加した付加体(例えば、ラクトンが1~5モル程度付加した付加体)などが挙げられる。
なお、これらのアクリレート化合物は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0042】
(メタ)アクリロイルオキシ基を形成するための化合物の好ましい具体例として、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピルアクリレートが挙げられる。
上述した中でも、特に、ペンタエリスリトールトリアクリレート(PETA)、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート(DPPA)、および(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル(アクリル酸ヒドロキシプロピル;HPA)が好ましい。
【0043】
イソシアネート化合物とアクリレート化合物との共重合体
イソシアネート化合物とアクリレート化合物との共重合体、すなわち、ウレタン(メタ)アクリレートポリマーの好ましい具体例としては、キシリレンジイソシアネート(XDI)とペンタエリスリトールトリアクリレート(PETA)との共重合体、XDIとジペンタエリスリトールペンタアクリレート(DPPA)との共重合体、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(H12MDI)とPETAとの共重合体、イソホロンジイソシアネート(IPDI)とPETAとの共重合体、XDIと(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル(HPA)との共重合体等が挙げられる。
【0044】
また、環状骨格の分子構造を含むウレタン(メタ)アクリレートポリマーとして、上述したイソシアネート化合物とアクリレート化合物に加え、ポリオール化合物を使用した共重合体も挙げられる。ポリオール化合物(多価アルコール)は1分子中に2個以上の水酸基を有する化合物であって、例えば、以下のものが挙げられる。すなわち、ポリオール化合物の例として、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,2-ブタンジオール、3-メチル-1,2-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,4-ペンタンジオール、2,4-ペンタンジオール、2,3-ジメチルトリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、3-メチル-4,3-ペンタンジオール、3-メチル-4,5-ペンタンジオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,5-ヘキサンジオール、1,4-ヘキサンジオール、2,5-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ヒドロキシピヴァリン酸ネオペンチルグリコールエステルなどの2価アルコール;これらの2価アルコールにε-カプロラクトンなどのラクトン類を付加したポリラクトンジオール;ビス(ヒドロキシエチル)テレフタレートなどのエステルジオール類;ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコールなどのポリエーテルジオール類;プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイドなどのα-オレフィンエポキシド;カージュラE10[シェル化学社製、合成高分岐飽和脂肪酸のグリシジルエステル]などのモノエポキシ化合物;グリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ジグリセリン、トリグリセリン、1,2,6-ヘキサントリオール、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、ソルビトール、マンニットなどの3価以上のアルコール;これらの3価以上のアルコールにε-カプロラクトンなどのラクトン類を付加させたポリラクトンポリオール類;1,4-シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール、水添ビスフェノールA、水添ビスフェノールF、水添ビスフェノールA、水添ビスフェノールFなど脂環族多価アルコールなどが挙げられる。
【0045】
ポリオール構成単位として、下記式で表されるトリシクロジデカンジメタノール(TCDDM)に由来する構成単位を含むウレタン(メタ)アクリレートポリマーが好適に使用される。
【化6】
【0046】
ポリオール構成単位を含むウレタン(メタ)アクリレートポリマーの好ましい具体例としては、トリシクロジデカンジメタノール(TCDDM)とIPDIとPETAとの共重合体、TCDDMとH12MDIとPETAとの共重合体、これらの共重合体のうちPETAの代わりに、あるいはPETAとともにDPPAを使用した共重合体、TCDDMとキシリレンジイソシアネート(XDI)と(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル(HPA)との共重合体等が挙げられる。
【0047】
イソシアネート化合物と、(メタ)アクリロイルオキシ基およびヒドロキシル基を有する化合物とに加え、ポリオール化合物に由来する構成単位を含むウレタン(メタ)アクリレートポリマーは、下記式(i)で表される成分を少なくとも含むことが好ましい。
(A3)-O(OC)HN-A2-HN(OC)-O-A1-O-(CO)NH-A2-NH-(CO)O-(A3) ・・・(i)
(式(i)において、
A1は、上述のポリオール化合物に由来するアルキレン基であり、
A2は、それぞれ独立して、上述のイソシアネート化合物に由来するアルキレン基であり、
A3は、それぞれ独立して、上述した(メタ)アクリロイルオキシ基とヒドロキシル基とを有する化合物に由来するアルキル基である。
A3を形成するための化合物として、例えば、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピルアクリレートが挙げられる。
【0048】
ウレタン(メタ)アクリレートポリマーのさらなる具体例として、エチレングリコール、ペンタエリスリトールトリアクリレート、およびイソホロンジイソシアネートに由来する構成単位を含む以下の化合物が挙げられる。下記式において、nは0~10の整数であり、好ましくは1~5の整数であり、より好ましくは1~3の整数である。
【化7】
【0049】
ウレタン(メタ)アクリレートポリマーにおいて、(メタ)アクリロイルオキシ基およびヒドロキシル基を有する化合物に由来する構成単位と、イソシアネート化合物に由来する構成単位との比率は、99:1~30:70(重量比)であることが好ましく、より好ましくは97:3~60:40であり、さらに好ましくは95:5~80:20である。
【0050】
(アクリレートを含むウレタン(メタ)アクリレートポリマー)
ウレタン(メタ)アクリレートポリマーの好ましい具体例として、ウレタン(メタ)アクリレートに由来する構成単位と(メタ)アクリレートに由来する構成単位とを含むものが挙げられる。このようなウレタン(メタ)アクリレートポリマーのより好ましい具体例として、6官能ウレタン(メタ)アクリレートに由来する構成単位と2官能(メタ)アクリレートに由来する構成単位とを含むものが挙げられる。
【0051】
(6官能)ウレタンアクリレート
上述のように、ウレタン(メタ)アクリレートポリマーは、ウレタン(メタ)アクリレート、特に、6官能ウレタン(メタ)アクリレートに由来する構成単位を含むことが好ましい。
6官能ウレタンアクリレートの好ましい例として、以下の式で表されるもの、すなわち、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(H12MDI)とペンタエリスリトールトリアクリレート(PETA)との反応生成物、イソホロンジイソシアネート(IPDI)とPETAとの反応生成物等が挙げられる。これらの6官能ウレタンアクリレートの好ましい製品の具体例としては、UN-3320HC(H12MDIとPETAとの反応生成物:根上工業株式会社製)、CN-968(IPDIとPETAとの反応生成物:サートマー・ジャパン株式会社製)、CN-975(サートマー・ジャパン株式会社製)等が挙げられる。
【化8】
【化9】
【0052】
(メタ)アクリレート(2官能(メタ)アクリレート等)
ウレタン(メタ)アクリレートポリマーを構成し得る(メタ)アクリレート構成単位は、少なくとも1つの(メタ)アクリロイルオキシ基と、少なくとも1つのビニルエーテル基とを含み、置換基を有していてもよい炭素数4~20の化合物に由来する構成単位であることが好ましい。(メタ)アクリレートの炭素数は、好ましくは6~18であり、より好ましくは8~16である。(メタ)アクリレートの置換基としては、アルキル基などが挙げられる。
また、(メタ)アクリレートは、2官能であることが好ましい。
(メタ)アクリレートとして、例えば、下記式の(メタ)アクリル酸2-(2-ビニロキシエトキシ)エチル[アクリル酸2-(2-ビニロキシエトキシ)エチル:VEEA]が好適に用いられる。
【化10】
(上記式中、Rは、水素原子またはメチル基である。)
【0053】
ウレタン(メタ)アクリレートポリマーにおいて、ウレタンアクリレートに由来する構成単位と(メタ)アクリレートに由来する構成単位との比率は、99:1~30:70(重量比)であることが好ましく、より好ましくは97:3~60:40であり、さらに好ましくは95:5~80:20である。
【0054】
(含フッ素ウレタン(メタ)アクリレートポリマー)
(メタ)アクリレートポリマーとして、含フッ素ウレタンアクリレートポリマーを用いてもよい。含フッ素ウレタンアクリレートポリマーは、下記式(ii)で表される成分を少なくとも含むことが好ましい。
(A3)-O(OC)HN-A2-HN(OC)-O-A1-O-(CO)NH-A2-NH-(CO)O-(A3)・・・(ii)
上記式(ii)において、A1は、置換基を有していてもよい、炭素数8以下の含フッ素ジオール由来のアルキレン基であることが好ましく、炭素数は、好ましくは6以下、例えば1~4である。A1のアルキレン基に含まれる置換基としては、アルキル基などが挙げられる。
【0055】
上記式(ii)において、A2は、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい、炭素数4~20の脂肪族または脂環式のイソシアネート由来のアルキレン基である。A2の炭素数は、好ましくは6~16であり、より好ましくは8~12である。A2のアルキレン基の置換基としては、アルキル基などが挙げられる。
また、A2を形成する脂環式のイソシアネートとして、例えば、下記式のイソホロンジイソシアネートが挙げられる。
【化11】
【0056】
上記式(ii)において、A3は、それぞれ独立して、少なくとも1つの(メタ)アクリロイルオキシ基を含み、さらに置換基を有していてもよい炭素数4~30のアルキル基である。A3の炭素数は、好ましくは6~20であり、より好ましくは8~16である。A3のアルキル基の置換基としては、分岐状のアルキル基などが挙げられる。A3は、少なくとも2つの(メタ)アクリロイルオキシ基を含むことが好ましく、例えば3つの(メタ)アクリロイルオキシ基を含んでいてもよい。
また、A3は、例えば、下記式のペンタエリスリトールトリアクリレートに由来する。
【化12】
【0057】
含フッ素ウレタンアクリレートポリマーとしては、上述の各化合物から形成されているものが好ましく、含フッ素ウレタンアクリレートは、例えば下記式(IV)で表される化合物を含む。
【化13】
【0058】
・ポリエステル(メタ)アクリレートポリマー
(メタ)アクリロイル基を有するポリマーは、ポリエステル(メタ)アクリレートポリマーであってもよい。ポリエステル(メタ)アクリレートポリマーとしては、(メタ)アクリル酸、多塩基性カルボン酸(無水物)およびポリオールの脱水縮合反応により得られるポリマーが挙げられる。このような脱水縮合反応に用いられる多塩基性カルボン酸(無水物)としては、(無水)コハク酸、アジピン酸、(無水)マレイン酸、(無水)イタコン酸、(無水)トリメリット酸、(無水)ピロメリット酸、ヘキサヒドロ(無水)フタル酸、(無水)フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸などが挙げられる。また、脱水縮合反応に用いられるポリオールとしては1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、ジメチロールヘプタン、ジメチロールプロピオン酸、ジメチロールブチリオン酸、トリメチロールプロパン、ジトリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトールなどが挙げられる。
【0059】
ポリエステル(メタ)アクリレートポリマーとして、具体的には、アロニックスM-6100、アロニックスM-7100、アロニックスM-8030、アロニックスM-8060、アロニックスM-8530、アロニックスM-8050(以上、東亞合成株式会社製ポリエステル(メタ)アクリレート系のオリゴマーの商品名)、Laromer PE44F、Laromer LR8907、Laromer PE55F、LaromerPE46T、Laromer LR8800(以上、BASF社製ポリエステル(メタ)アクリレート系のオリゴマーの商品名)、Ebecryl80、Ebecryl 657、Ebecryl 800、Ebecryl 450、Ebecryl 1830、Ebecryl 584(以上、ダイセル・ユー・シー・ビー株式会社製ポリエステル(メタ)アクリレート系のオリゴマーの商品名)、フォトマーRCC13-429、フォトマー 5018(以上、サンノプコ株式会社製ポリエステル(メタ)アクリレート系のオリゴマーの商品名)等が挙げられる。
【0060】
・その他の活性エネルギー線硬化性樹脂
活性エネルギー線硬化性樹脂として、上記以外の(メタ)アクリレートポリマー、例えば、(メタ)アクリロイル基を含まない(メタ)アクリレートポリマー、あるいは(メタ)アクリレート骨格を含まない(メタ)アクリレートポリマーなども使用できる。
また、活性エネルギー線硬化性樹脂として、(メタ)アクリレート化合物以外のもの、例えば、エポキシ化合物、オキセタン化合物等も使用できる。
【0061】
ハードコート層に含まれる樹脂は、1種類であっても、2種以上であってもよい。ハードコート層における樹脂の含有量は、樹脂とナノ粒子の合計を100重量部としたとき、好ましくは40~99重量部、より好ましくは50~95重量%、さらに好ましくは60~90重量部である。
【0062】
活性エネルギー線硬化性樹脂として、(メタ)アクリロイル基を有するポリマー、好ましくは(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレートポリマーを使用する場合、当該ポリマーは250~700g/eqの(メタ)アクリル当量を有することが好ましい。(メタ)アクリロイル基を有するポリマーの(メタ)アクリル当量は、好ましくは250~700g/eqであり、より好ましくは、300~600g/eqである。ここで、(メタ)アクリル当量(g/eq)は、[分子量/(メタ)アクリロイル基数]で定義される、(メタ)アクリロイル基1つあたりの分子量を意味する。
また、活性エネルギー線硬化性樹脂としての(メタ)アクリレートポリマーは、5,000~200,000の重量平均分子量を有することが好ましい。(メタ)アクリレートポリマーの重量平均分子量は、好ましくは10,000~150,000であり、より好ましくは15,000~100,000であり、さらに好ましくは20,000~50,000である。
【0063】
重量平均分子量は、特開2007-179018号公報の段落[0061]~[0064]の記載に基づいて測定できる。測定法の詳細を以下に示す。
【表1】
【0064】
すなわち、まず、ポリスチレンを標準ポリマーとしたユニバーサルキャリブレーション法により、溶出時間とポリマーの分子量との関係を示す検量線を作成する。そして、(メタ)アクリレートポリマーの溶出曲線(クロマトグラム)を、上述の検量線の場合と同一の条件で測定する。さらに、ポリカーボネート樹脂の溶出時間(分子量)およびその溶出時間のピーク面積(分子数)から、重量平均分子量(Mw)を算出する。重量平均分子量は、以下の式(A)で表され、式(A)において、Niは分子量Miを有する分子数を意味する。
Mw=Σ(NiMi)/Σ(NiMi)・・・・(A)
【0065】
上記のような(メタ)アクリル当量と重量平均分子量を有する(メタ)アクリレートポリマーを含むハードコート層は、硬化前のタックフリー性、硬化後の耐擦傷性等が良好であり、硬化および重合反応を首尾よく進行させることも可能である。また、ハードコート層に、(メタ)アクリロイル基を有するポリマーを用いることで、タックフリー性(べたつき防止性)が良好になり、保護フィルムを貼り付けた状態で熱成形を行っても外観の悪化を抑制することが可能である。これは、熱成形後の積層体から保護フィルムが容易に剥離されるからである。なお、このような(メタ)アクリロイル基を有するポリマーは市販されており、容易に入手することが可能である。例えば、大日本インキ、共栄社化学、DSP五協フード&ケミカルなどから入手可能である。
【0066】
(2)多官能性アクリレート化合物
ハードコート層は、ペンタエリスリトール系の多官能性アクリレート化合物を含んでいてもよい。複数のアクリレート基、好ましくは3つ以上のアクリレート基を有する多官能性アクリレート化合物としては、例えば、以下の式(3)および(4)でそれぞれ示される、ペンタエリスリトールテトラアクリレートおよびジペンタエリスリトールヘキサアクリレートが挙げられる。その他、ペンタエリスリトールトリアクリレート等が用いられる。
【化14】
【化15】
【0067】
ハードコート層における多官能性アクリレート化合物の含有量は、ハードコート層に含まれる硬化性樹脂と多官能性アクリレート化合物の合計を100重量部としたときに、好ましくは70重量部以下、より好ましくは50重量部以下、さらに好ましくは30重量部以下である。このように、多官能性アクリレート化合物をハードコート組成物に加え、樹脂(例えば(メタ)アクリレートポリマー)の側鎖に含まれるアクリロイル基、グリシジル基(エポキシ基)、水酸基等と反応させることにより、より高い耐擦傷性を有するハードコート層を形成することができる。
【0068】
(3)ナノ粒子
ハードコート層は、ナノ粒子を含んでいてもよい。それにより、ハードコート層の耐擦傷性や硬度を向上させることができる。ナノ粒子は、無機粒子であっても有機粒子であっても構わないが、好ましくは無機ナノ粒子であり、より好ましくは無機酸化物ナノ粒子である。例えば、ナノシリカ、ナノアルミナ、ナノチタニア、ナノジルコニアなどの金属酸化物ナノ粒子が用いられる。またナノダイヤモンドなどを用いても良い。
【0069】
ハードコート層は、ナノ粒子としてシリカ粒子を含むことが好ましい。ハードコート層に含まれるナノ粒子は、好ましくは、表面処理剤で処理される。表面処理により、無機ナノ粒子をハードコート組成物中、特に樹脂(例えば(メタ)アクリレートポリマー)中に安定した状態で分散させることができる。
【0070】
ナノ粒子に対する表面処理剤としては、ナノ粒子の表面に結合可能な置換基と、ナノ粒子を分散させるハードコート層の成分(例えば、(メタ)アクリレートポリマー、(メタ)アクリロイル基を有するポリマー等)との相溶性の高い置換基とを有する化合物が好適に用いられる。例えば、表面処理剤として、シラン化合物、アルコール、アミン、カルボン酸、スルホン酸、ホスホン酸等が用いられる。
【0071】
無機ナノ粒子は、好ましくは、表面に重合性基を有する。重合性基は、無機ナノ粒子の表面処理によって導入可能であり、重合性基の具体例として、ビニル基、メタ(アクリル)基、フリーラジカル重合性基等が挙げられる。
ナノ粒子の平均粒子径は、好ましくは1~150nm、より好ましくは10~100nm、特に好ましくは30~60nmである。なお、ナノ粒子の平均粒子径はハードコート層の断面を電子顕微鏡写真で観察することにより測定することが出来る。例えばFIB加工などによって作成した粒子断面のTEM像を撮影し、観察された粒子50個の直径を測長して平均値を計算することで平均粒子径とすることができる。粒子が球形でない場合には長径と短径の平均値をその粒子の直径と見なす。
【0072】
ハードコート層は、未硬化のハードコート層に含まれる樹脂とナノ粒子の合計を100重量部としたときに、1~60重量部のナノ粒子、例えば無機ナノ粒子を含むことが好ましい。より好ましくは、10~50重量部の無機ナノ粒子を含み、さらに好ましくは、20~40重量部の無機ナノ粒子を含む。
【0073】
(4)光安定剤
ハードコート層は、光安定剤を含んでいてもよい。それにより耐候性試験中の紫外線照射による樹脂の変質を抑制することができる。光安定剤としては、Tinuvin123(BASF社製)、Tinuvin770DF(BASF社製)、Tinuvin144(BASF社製)、LA-81(ADEKA社製)等、ヒンダードアミン系の化合物を使用可能である。
ハードコート層における光安定剤の含有量は、未硬化のハードコート層に含まれる樹脂とナノ粒子の合計を100重量部としたときに、好ましくは0.1~10重量部、より好ましくは0.1~7重量部、特に好ましくは0.3~5重量部である。
【0074】
(5)紫外線吸収剤
ハードコート層は、紫外線吸収剤を含んでいてもよい。それにより耐候性試験中の紫外線照射による樹脂の変質を抑制することができる。紫外線吸収剤としては、DAINSORB-T0(大和化成社製)、Tinuvin405(BASF社製)、Tinuvin477(BASF社製)、Tinuvin479(BASF社製)、Tinuvin928(BASF社製)、UVA-903KT(BASF社製)等を使用可能である。
ハードコート層における紫外線吸収剤の含有量は、未硬化のハードコート層に含まれる樹脂とナノ粒子の合計を100重量部としたときに、好ましくは0.1~10重量部、より好ましくは0.5~10重量%、特に好ましくは1~10重量%である。ハードコート層が光安定剤と紫外線吸収剤を共に含む場合、その合計含有量は、未硬化のハードコート層に含まれる樹脂とナノ粒子の合計を100重量部としたときに、好ましくは0.1~10重量部、より好ましくは0.5~7重量部、特に好ましくは1~10重量部である。
【0075】
(6)レベリング剤
ハードコート層は、レベリング剤を含んでいてもよい。それにより、ハードコート層のレベリング性、防汚性、耐摩耗性が向上する。レベリング剤としては、シリコーン系添加剤、フッ素系添加剤等が好ましく使用される。フッ素系添加剤に含まれるフッ素系化合物としては、例えば、パーフルオロポリエーテル結合を有する化合物が挙げられる。フッ素系添加剤は自分で合成することも可能であるが、市販品を容易に入手することが可能である。例えばDIC社のメガファックRSシリーズ、信越化学社のKYシリーズ、ダイキン社のオプツールシリーズなどが使用可能である。
シリコーン系添加剤に含まれるシリコーン系化合物としては、ポリアルキルシロキサン結合を有する化合物が挙げられる。シリコーン系添加剤は自分で合成することも可能であるが、市販品を容易に入手することが可能である。例えば信越シリコーン社のKPシリーズ、ビックケミージャパン社のBYKシリーズ、EVONIK社のTEGO Glideシリーズなどが使用可能である。
【0076】
レベリング剤の含有量は、未硬化のハードコート層に含まれる樹脂とナノ粒子の合計を100重量部としたときに、好ましくは0.001~10重量部、より好ましくは0.005~5重量部、特に好ましくは0.01~5重量部である。
【0077】
(7)光重合開始剤
上述したように、ハードコート層に含まれる樹脂は、好ましくは活性エネルギー線硬化性または熱硬化性であり、より好ましくは活性エネルギー線硬化性であり、特に好ましくは、紫外線硬化性である。よってハードコート層は、光重合開始剤をさらに含んでいてもよい。光重合開始剤としては、IRGACURE 184(1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン)、IRGACURE 1173(2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1- オン)、IRGACURE TPO(2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイド)、IRGACURE 819(ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド)、EsacureONE(オリゴ(2-ヒドロキシ-2-メチル-1-[4-(1-メチルビニル)フェニル]プロパノン)等が用いられる。これらの中で、耐熱性の観点から、Esacure One等が光重合開始剤として好ましい。
【0078】
ハードコート層における光重合開始剤の含有量は、未硬化のハードコート層に含まれる樹脂とナノ粒子の合計を100重量部としたときに、好ましくは1~6重量部、より好ましくは2~5重量部であり、特に好ましくは2~4重量部である。
【0079】
(8)その他の添加剤
ハードコート層は、その他の添加剤、例えば、熱安定剤、酸化防止剤、難燃剤、難燃助剤、離型剤、重合禁止剤、着色剤等を含んでいてもよい。所望の物性を著しく損なわない限り、帯電防止剤、蛍光増白剤、防曇剤、流動性改良剤、可塑剤、分散剤、抗菌剤等をハードコート層に添加してもよい。
【0080】
ハードコート組成物の調製に用いられる希釈溶剤は、粘度を調整するために用いられ、非重合性のものであれば特に制限なく使用することができる。希釈溶剤を使用することにより、ハードコート組成物を基材層上に容易に塗布することができる。
【0081】
希釈溶剤としては、例えばトルエン、キシレン、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、メチルセルソルブ、エチルセルソルブ、エチルセルソルブアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、ジアセトンアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、ドデカン、プロピレングリコールモノメチルエーテル、3-メトキシブタノール等が挙げられる。
【0082】
<ハードコート層の製造>
ハードコート層は、上述したような材料を含むハードコート組成物を、ハードコート層に隣接する層(例えば基材層)上に塗布することにより製造される。例えば、各材料を混合し、さらにディスパーにより撹拌して、ハードコート組成物を調製することができる。
【0083】
ハードコート組成物を塗布する方法として、バーコーター、グラビアコーター、ダイコーター、ディップコート、スプレーコートなどを使用する方法が例示される。このとき、ハードコート組成物を塗工後、所定の温度で乾燥を行う。乾燥温度としては30~150℃が好ましく、60~130℃がより好ましい。上記範囲の温度で乾燥することにより、ハードコート層から有機溶媒を除去することができ、また加熱による他の層の変形を防止することができる。
【0084】
ハードコート層の膜厚は、特に限定されないが、好ましくは1~10μm、より好ましくは2~7μmである。膜厚を上記範囲とすることにより、ハードコート層としての所望の性能を得ることができ、密着性や成形性における問題も生じにくい。
【0085】
<ハードコート層の物性>
(i)耐候性
実施形態に係るハードコート層は、耐候性に優れる。すなわち、例えば、耐候性試験後においても、ハードコート層の基材層に対する密着性が維持される。これは、硬化後のハードコート層について耐候性試験を行った場合に、耐候性試験前後でのハードコート層のナノインデンター硬度の変化が小さいことによる。硬化後のハードコート層における耐候性試験前のナノインデンター硬度(Hi)および耐候性試験後のナノインデンター硬度(Hf)は、0.9Hi<Hf<1.4Hiを満たし、好ましくは0.95Hi<Hf<1.4Hiを満たし、より好ましくは0.95Hi<Hf<1.3Hiを満たす。また、耐候性試験前後のナノインデンター硬度の変化率は、好ましくは-10~40%、より好ましくは-5~40%、特に好ましくは-5~30%である。ハードコート層における耐候性試験前後のナノインデンター硬度の変化量が上記範囲にあることにより、耐候性試験後においても基材層に対する密着性に優れ、すなわち耐候性に優れるハードコート層であると言える。0.9Hi<Hfを満たすことは、硬化後のハードコート層の硬度が耐候性試験後に大きく低下せず、アフターキュア型熱成形用積層体の耐候性および密着性が優れることを意味する。また、Hf<1.4Hiを満たすことは、耐候性試験を行うことによる硬度増加がそれほど大きくないことを意味し、耐候性試験前のハードコート層の硬化が不十分であることに起因する耐擦傷性の低下も生じない。対候性試験後の硬度増加が著しく大きい場合、ハードコート層の硬化が不十分である可能性が考えられる。耐擦傷性を高めるため高硬度化が求められる現在の状況において、硬化不十分なハードコート層は実用性に劣る。なお、ナノインデンター硬度の具体的な測定方法は、後述する実施例に記載のとおりである。
【0086】
(ii)密着性
実施形態に係るハードコート層は、基材層に対する密着性に優れる。具体的には、詳細を後述するように、PMMA基材上にハードコート層を塗工し、硬化させた後、JISK 5600-5-6:1999の評価方法によって試験した場合に、カットの縁が完全に滑らかで、どの格子にも剥がれがないハードコート層を実現できる。
【0087】
(iii)硬度
実施形態に係るハードコート層は、好ましいナノインデンター硬度を有する。すなわち、未硬化のハードコート層のナノインデンター硬度を測定した場合、30℃でのナノインデンター硬度が200N/mm以上(例えば200~1000N/mm、210~800N/mm、200~500N/mm)である。未硬化のハードコート層のナノインデンター硬度が高いほど、未硬化状態での耐擦傷性と射出成形後外観に優れたフィルムを得ることができる。しかしインデンター硬度が高くなりすぎると成形性が悪くなる。なお、ナノインデンター硬度の具体的な測定方法は、後述する実施例に記載のとおりである。
【0088】
(iv)耐擦傷性
実施形態に係るハードコート層は、優れた耐擦傷性を有する、すなわち傷が付きにくいという特性を有する。具体的には、保護フィルムを除去してハードコート層を硬化させた後において、ハードコート層の表面上で、スチールウールを100gf/cmの圧力下で15回往復させて擦傷した場合に、ハードコート層の擦傷前と擦傷後のヘーズ変化(ΔH)が、3%以下である。このヘーズ変化は、好ましくは2%以下、より好ましくは1%以下である。具体的な測定方法は後述する実施例に記載するとおりであるが、へーズ変化(ΔH)は、JIS K 7136:2000に基づいて評価される。
【0089】
[4]保護フィルム
ハードコート層表面には、成形工程等におけるハードコート層表面の傷つきを防止するため、保護フィルムが配置される。保護フィルムは、例えば基材層上にハードコート組成物を塗布して乾燥させた後、ハードコート層表面に貼り付けられる。保護フィルムのハードコート層に接する表面は、適度な粘着力を有する粘着面であり、ハードコート層の表面に貼り付けられるようになっていることが好ましい。保護フィルムの構成は特に限定されないが、粘着層のみの単層フィルムであるか、基材と粘着層との2層構造を有するフィルムであることが好ましい。2層構造の保護フィルムにおいては、粘着層の粘着面がハードコート層に接するようにハードコート層上に積層される。保護フィルムは、上述の基材と粘着層以外の層をさらに含む多層構造であっても良い。また、保護フィルムは、単層構造であってもよく、単層構造の保護フィルムにおいても、ハードコート層側の表面である粘着面が適度な粘着力を有している。
【0090】
保護フィルムが基材を有する場合、基材は熱可塑性樹脂を含むことが好ましく、ポリオレフィン樹脂を含むことがさらに好ましい。保護フィルムに含まれるポリオレフィン樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等が挙げられ、単独重合体であっても共重合体であってもよい。ポリオレフィン樹脂の中でもポリエチレンが好ましい。
ポリエチレンとしては、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、超低密度ポリエチレン(VLDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)等を用いることができるが、低密度ポリエチレンが好ましい。
【0091】
また、ポリオレフィン共重合体としては、エチレンまたはプロピレンと、これらと共重合可能な単量体との共重合体を用いることができる。エチレンまたはプロピレンと共重合することができる単量体として、例えば、α-オレフィン、スチレン類、ジエン類、環状化合物、酸素原子含有化合物等が挙げられる。
【0092】
α-オレフィンとしては、1-ブテン、3-メチル-1-ブテン、3-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-デセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン、1-エイコセン等が挙げられる。スチレン類としては、スチレン、4-メチルスチレン、4-ジメチルアミノスチレン等が挙げられる。ジエン類としては、1,3-ブタジエン、1,5-ヘキサジエン、1,4-ヘキサジエン、1,7-オクタジエン等が挙げられる。環状化合物としては、ノルボルネン、シクロペンテン等が挙げられる。酸素原子含有化合物としては、ヘキセノール、ヘキセン酸、オクテン酸メチル等が挙げられる。これら共重合することができる単量体は、単独で使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。また、エチレンとプロピレンとの共重合体であってもよい。
また、共重合体は、交互共重合、ランダム共重合、ブロック共重合のいずれであってもよい。
【0093】
保護フィルムの基材に含まれるポリオレフィン樹脂には、少量のアクリル酸、マレイン酸、メタクリル酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等のカルボキシル基含有単量体によって変性された変性ポリオレフィン樹脂が含まれていてもよい。変性は、通常、共重合またはグラフト変性により可能である。
【0094】
保護フィルムの基材における熱可塑性樹脂(例えばポリオレフィン樹脂)の含有量は、基材の全重量に対して、好ましくは80重量%以上、より好ましくは90重量%以上、特に好ましくは95重量%以上である。
【0095】
保護フィルムの粘着層は、エラストマーまたは熱可塑性樹脂を含むことが好ましい。粘着層に含まれる熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂が挙げられ、単独重合体であっても共重合体であってもよい。ポリオレフィン樹脂の中でもポリエチレンが好ましい。
【0096】
保護フィルムの粘着層におけるエラストマーまたは熱可塑性樹脂の含有量は、粘着層の全重量に対して、好ましくは80重量%以上、より好ましくは90重量%以上、特に好ましくは95重量%以上である。
【0097】
保護フィルムの厚さは、好ましくは10~100μm、より好ましくは20~80μmである。保護フィルムが2層以上で構成される場合であっても、各層の厚さの合計が上記範囲内であることが好ましい。
【0098】
保護フィルムにおいては、ハードコート層に貼付される前(未貼付)の状態において、ハードコート層に接することとなる粘着面における表面粗さSaの値(ISO 25178)が、0.100μm以下であることが好ましい。保護フィルムの粘着面における未貼付の状態の表面粗さSaの値は、より好ましくは0.090μm以下であり、さらに好ましくは0.080μm以下であり、特に好ましくは0.070μm以下である。
【0099】
保護フィルムの粘着面における粘着力の値は、PMMA(ポリメタクリル酸メチル樹脂層)の表面に対し、5(mN/25mm)以上かつ5000(mN/25mm)以下であることが好ましく、より好ましくは9(mN/25mm)以上かつ3000(mN/25mm)以下である。
【0100】
[5]熱成形用積層体の製造方法
実施形態に係る熱成形用積層体は、以下のように製造される。まず、基材層の材料を従来の手法で層状(シート状)に加工し、基材層を作製する。例えば、押出成形、キャスト成形等を用いることができる。押出成形の例としては、樹脂組成物のペレット、フレークあるいは粉末を押出機で溶融、混練後、Tダイ等から押し出し、得られた半溶融状のシートをロールで挟圧しながら、冷却、固化してシートを形成する方法が挙げられる。
そして得られた単一または複数の層を有する基材層の外側表面に、上述した材料を混合して得られたハードコート組成物を塗布して、ハードコート層を形成する。
さらに、ハードコート層上に上述の保護フィルムを貼り合わせて、熱成形用積層体が製造される。
【0101】
[6]積層体の熱成形
実施形態に係る熱成形用積層体は、アフターキュア型である。したがって、実施形態に係る熱成形用積層体は、ハードコート層が未硬化のまま成形を行うことができる。具体的には、例えば、熱成形用積層体を所望の形状に成形し(成形中間体)、保護フィルムを剥がしてから、表面に露出したハードコート層を硬化させる。すなわち、本発明の一実施形態によると、アフターキュア型熱成形用積層体を成形してなる成形中間体における未硬化のハードコート層を硬化させてなる成形体が提供される。また、他の実施形態によると、アフターキュア型熱成形用積層体を熱成形することと、熱成形されたアフターキュア型熱成形用積層体から保護フィルムを除去することと、保護フィルムを除去することによって表面に露出したハードコート層を硬化させることとを含む、成形体の製造方法が提供される。積層体の成形方法としては、フィルムを加熱して成形する方法であれば、いずれの方法も使用可能である。例えば、基材を加熱し、空気圧で成形する圧空成形、真空条件で成形する真空圧空成形、TOM成形、インサート成形などにより、所望の形状に熱成形することができる。中でも、環境負荷の観点から、インサート成形を用いることが望ましい。
【0102】
成形温度は、主として基材層に含まれる熱可塑性樹脂のTg(ガラス転移温度)によって決定される。成形温度は、好ましくは基材層に含まれる熱可塑性樹脂のTgよりも約0~70℃高い温度、より好ましくは約20~40℃高い温度である。例えば、積層体が一般的なビスフェノールA型のポリカーボネート樹脂を含む基材層を具備する場合、170~190℃の範囲で成形を行うことが最適である。実施形態に係る熱成形用積層体は、上記のような温度下においてもハードコート層の重合反応(硬化)が進行しづらいため、保護フィルムを貼り付けた状態で成形を行うことができる。保護フィルムを貼り付けた状態で一連の操作を行うことで、成形時のハードコート層の傷付きや異物の噛みこみを防ぐことができる。
【0103】
[7]成形体の製造
上述のように、所定の形状となるように熱成形した積層体から保護フィルムを除去してハードコート層を硬化させると、硬化フィルム等の成形体を得ることができる。ハードコート層を硬化させる手段は、ハードコート層の組成に応じて適宜決定することができる。得られた成形体は、例えば、モバイル機器、自動車内装部材、家電等において用いられる樹脂フィルム積層体として使用され得る。
【実施例0104】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明の内容がこれにより限定されるものではない。
(実施例1)
紫外線硬化性アクリロイルポリマー(共栄社化学製、SMP-360A、アクリル当量360g/eq)70重量部に、ナノシリカ粒子(日産化学工業製、オルガノシリカゾルMEK-AC-4130Y:平均粒子径40~50nm)30重量部を混合した。さらに、光重合開始剤ESACURE-ONE 3重量部、シリコーン系レベリング剤BYK-UV3575 4重量部、ヒンダートアミン系光安定剤LA-81(ADEKA社製)1重量部を添加した。その後、希釈溶剤としてシクロヘキサノンを固形分濃度が25重量%となるように加えて撹拌し、ハードコート組成物を得た。
【0105】
基材層として、ポリカーボネート樹脂とPMMA樹脂とが積層された樹脂フィルムを準備した。上記で得られたハードコート組成物を、基材層上(アクリル樹脂側)に塗布した。塗布工程は、バーコーターを用いて行い、塗布したハードコート組成物を130℃で3分間乾燥した。形成されたハードコート層の厚さは、約4μmであった。
【0106】
(実施例2)
光安定剤LA-81の代わりに紫外線吸収剤Tinuvin477(BASF社製)5重量部を使用したことを除き、実施例1と同様に熱成形用積層体を作製した。
(実施例3)
光安定剤LA-81の代わりに光安定剤Tinuvin123(BASF社製)1重量部を使用したことを除き、実施例1と同様に熱成形用積層体を作製した。
【0107】
(実施例4)
光安定剤LA-81の代わりに光安定剤Tinuvin770DF(BASF社製)1重量部を使用したことを除き、実施例1と同様に熱成形用積層体を作製した。
(実施例5)
紫外線硬化性アクリロイルポリマーとして、共栄社化学製 SMP-550AP(アクリル当量550g/eq)を使用し、光安定剤を使用せずに、実施例1と同様に熱成形用積層体を作製した。
【0108】
(実施例6)
ナノシリカ粒子としてMEK-ST-L(日産化学社製、平均粒子径45nm)30重量部を使用したことを除き、実施例3と同様に熱成形用積層体を作製した。
(比較例1)
光安定剤を使用せず、実施例1と実施例1と同様に熱成形用積層体を作製した。
【0109】
<物性の評価>
上記のように作製した熱成形用積層体、熱成形用積層体の各構成部材、および硬化後のハードコート層について、以下のとおり種々の物性を評価した。
【0110】
(1)未硬化のハードコート層のナノインデンター硬度
実施例および比較例で得られた未硬化のハードコート層について、厚み方向に押し込んだ際のナノインデンター硬度を、超微小押し込み硬さ試験機(エリオニクス社製の ENT-NEXUS)を使用し、以下の条件で測定した。測定位置はハードコート層の中央部とし、25点の測定平均値を押し込み硬さ(N/mm)とした。
圧子:バーコビッチ圧子(対頂角65.03°)
表面検出:変位量がハードコート層の1/10となるように負荷荷重を設定した(0.5mN)
負荷曲線:10秒間 0.5mN(線形)
保持時間:5秒間 0.5mN
除荷曲線:10秒間 0mN(線形)
試料温度:30℃
装置設置環境:23℃、50%RH
上記の測定結果を用いて、ISO14577-1 2002-10-01 Part1に準拠した計算(装置内蔵ソフトによる計算)により、ナノインデンター硬度を算出した。
なお試料は吸湿の影響で硬度が変化するため、23℃50%RHの環境で24時間以上静置した後に測定した。
【0111】
(2)耐候性試験
まず、実施例および比較例で得られた熱成形用積層体のハードコート層に紫外線を照射して、ハードコート層を硬化させた。紫外線照射は、アイグラフィック社製コンベア型UV照射機ECS-401GXを用いて、700mj/cm(測定波長360nm、高圧水銀ランプ)の条件で行った。
耐候性試験は、岩崎電気株式会社製 SUV-W161を用いて、以下の条件で行った。
光源:メタルハライドランプ
試験環境:63℃(ブラックパネル温度)、50%RH
照度:50mW/cm(365nm)
照射サイクル:50時間(連続照射)
照度計:ハンディタイプ照度計(型式:UVP-365-01)
[メタルハライドランプ方式試験用高エネルギー紫外線照度計 JIS C 1613対応]
温度コントロール:密閉循環式(ブラックパネル温度PID方式)
湿度コントロール:静電容量式湿度センサーによる加湿器制御
対候性試験の前後で、上記(1)に記載した方法(ISO14577-1)に従って、硬化後のハードコート層のナノインデンター硬度を測定した。
【0112】
(3)耐候性試験後の密着性
上記(2)に記載した方法で耐候性試験を実施した後のサンプルについて基材層とハードコート層との間の密着性を評価した。密着性はJIS K5600-5-6:1999の評価方法によって評価した。カットの縁が完全に滑らかで、どの格子にも剥がれがない場合をA、剥がれの起こったマス目が40%以下の場合をB、40%以上の場合をCとして評価した。
【0113】
(4)耐擦傷性
硬化後のハードコート層の表面に、#0000のスチールウールを100gf/cmの圧力下で15回往復させ、ハードコート層を擦傷した。ヘイズメーター(村上色彩社製 HM-150)を用いて、JIS K 7136:2000に準拠して、擦傷前と後のヘーズ値を測定した。そして、擦傷前と擦傷後のヘーズ変化の絶対値(ΔH)を算出した。ΔHの値が3.0%以下である場合に、耐擦傷性が良好(A)であると評価した。
【0114】
(5)射出成形後の外観
上記で作製した熱成形用積層体を以下の手順で射出成形し、射出成形後の外観を評価した。
(a)圧空成形
未硬化状態の熱成形用積層体を190℃で約40秒予熱した。その直後に1.5MPaの高圧空気によりフィルムを金型に押し当て賦形を行った。この時、深絞り高さで、直角形状の突起部を有する金型を用いた。なお、圧空成形においては、縦と横のサイズがいずれも100mmである直角形状金型であって、金型の直角形状部に接する領域の半径Rが2mm、高さが7mmのものを使用した。
(b)射出成形
上記賦形後のフィルムを、上記圧空成形と同様の射出成形金型のキャビティ面に配置して、溶融された熱可塑性樹脂を射出して、フィルムインサート成形品を作製した。射出樹脂として、ポリカーボネート樹脂(三菱エンプラ社製:ユーピロンH-3000)を用いた。この時のハードコート層側の金型温度を60℃に設定した。射出成形後の外観を評価し、表面に白化などの外観異常がないかを確認した。
【0115】
実施例および比較例に係る熱成形用積層体の組成および評価結果を、以下の表2および表3にまとめる。表2において、各数値の単位は「重量部」である。
【表2】
【表3】
【0116】
表2および表3より、実施例のハードコート層は、耐候性に優れ、その結果基材層に対する密着性にも優れることが分かる。この特性は、耐候性試験前後でのナノインデンター硬度の変化量が少ないことに由来すると考えられる。また、実施例のハードコート層は、耐擦傷性にも優れるため、傷がつきにくい。これらの特性は、特に太陽光に暴露される環境で使用される製品(例えば、自動車の内外装部材、建築材料、モバイル機器等)において非常に有益であり得る。さらに、実施例の熱成形用積層体は、未硬化のハードコート層のナノインデンター硬度が高いため、未硬化状態での耐擦傷性と射出成形後外観に優れた積層体であると言え、また成形性にも優れる。
【0117】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0118】
10…熱成形用積層体、12…保護フィルム、16…ハードコート層、20…ポリメチルメタクリレート層(基材層)、22…ポリカーボネート層(基材層)。
図1