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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024070022
(43)【公開日】2024-05-22
(54)【発明の名称】操舵制御装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 6/00 20060101AFI20240515BHJP
   B62D 101/00 20060101ALN20240515BHJP
   B62D 113/00 20060101ALN20240515BHJP
   B62D 119/00 20060101ALN20240515BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D101:00
B62D113:00
B62D119:00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022180357
(22)【出願日】2022-11-10
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】三宅 純也
(72)【発明者】
【氏名】外山 英次
(72)【発明者】
【氏名】工藤 佳夫
【テーマコード(参考)】
3D232
【Fターム(参考)】
3D232CC02
3D232DA03
3D232DA04
3D232DA09
3D232DA15
3D232DA23
3D232DA36
3D232DA63
3D232DA64
3D232DC01
3D232DC02
3D232DC03
3D232DC33
3D232DC34
3D232DD17
3D232DE06
3D232EB04
3D232EB12
3D232EC23
3D232EC29
3D232EC37
3D232GG01
(57)【要約】
【課題】運転者によるステアリングホイールの操舵と干渉することなく、車両の横転を抑制することができる操舵制御装置を提供する。
【解決手段】操舵制御装置1は、転舵制御装置1Bを有する。転舵制御装置1Bは、転舵モータを制御するように構成される。転舵モータは、ステアリングホイールとの間の動力伝達が分離された車両の転舵輪を転舵させるためのトルクを発生する。転舵制御装置1Bは、ステアリングホイールの操舵状態、および前記車両の状態に基づき、車両の横転が発生するおそれがあると判定されるとき、ステアリングホイールの操舵に対して、転舵輪の転舵動作を鈍化させるための処理を実行するように構成される。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリングホイールとの間の動力伝達が分離された車両の転舵輪を転舵させるためのトルクを発生する転舵モータを制御するように構成される転舵制御部を有する操舵制御装置であって、
前記転舵制御部は、前記ステアリングホイールの操舵状態、および前記車両の状態のうち少なくとも一方に基づき、前記車両の横転が発生するおそれがあると判定されるとき、前記ステアリングホイールの操舵に対して、前記転舵輪の転舵動作を鈍化させるための処理を実行するように構成される操舵制御装置。
【請求項2】
前記転舵制御部は、定められた横転判定条件が成立するとき、前記車両の横転が発生するおそれがあると判定するように構成され、
前記横転判定条件は、前記転舵モータに供給される電流の値が、定められた電流しきい値以上であることを含んでいる請求項1に記載の操舵制御装置。
【請求項3】
前記転舵制御部は、前記ステアリングホイールの操舵状態に応じて、前記転舵輪の転舵動作に連動して回転するシャフトの目標角度を演算し、演算される前記目標角度に実角度を追従させるフィードバック制御を実行するように構成され、
前記転舵制御部は、前記車両の横転が発生するおそれがあると判定されるとき、定められた演算周期当たりの前記目標角度の変化量を制限するように構成される請求項1または請求項2に記載の操舵制御装置。
【請求項4】
前記転舵制御部は、前記ステアリングホイールの操舵状態に応じて前記転舵輪の転舵動作に連動して回転するシャフトの目標角度を演算し、演算される前記目標角度に実角度を追従させるフィードバック制御を実行することにより、前記転舵モータが発生するトルクに対する指令値である転舵トルク指令値を演算するように構成され、
前記転舵制御部は、前記車両の横転が発生するおそれがあると判定されるとき、定められた演算周期当たりの前記転舵トルク指令値の変化量を制限するように構成される請求項1または請求項2に記載の操舵制御装置。
【請求項5】
前記転舵制御部は、前記ステアリングホイールの操舵状態に応じて、前記転舵輪の転舵動作に連動して回転するシャフトの目標角度を演算し、演算される前記目標角度に実角度を追従させるフィードバック制御を実行するように構成され、
前記転舵制御部は、前記車両の横転が発生するおそれがあると判定されるとき、前記フィードバック制御の応答性に関する制御パラメータであるフィードバックゲインの値を減少させるように構成される請求項1または請求項2に記載の操舵制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、操舵制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の走行中に、車両の運転者がステアリングホイールを急激に操舵することにより車両の進行方向を変えようとする場合、車両が横転するおそれがある。横転は、車両が横倒しになることである。そこで、たとえば、特許文献1の車両制御装置は、車両が横転するおそれがあるとき、車輪のブレーキ力、および転舵輪の転舵角を制御することにより、車両の横転を抑制する。転舵角の制御は、電動パワーステアリング装置を介して実行される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008-24125号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の車両制御装置には、つぎのような懸念がある。すなわち、車両が横転するおそれがあるとき、電動パワーステアリング装置が実行する横転抑制のための転舵制御が、運転者のステアリングホイールの操舵による転舵輪の転舵動作と干渉するおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決し得る操舵制御装置は、ステアリングホイールとの間の動力伝達が分離された車両の転舵輪を転舵させるためのトルクを発生する転舵モータを制御するように構成される転舵制御部を有する。前記転舵制御部は、前記ステアリングホイールの操舵状態、および前記車両の状態のうち少なくとも一方に基づき、前記車両の横転が発生するおそれがあると判定されるとき、前記ステアリングホイールの操舵に対して、前記転舵輪の転舵動作を鈍化させるための処理を実行するように構成される。
【0006】
たとえば、車両の走行中に、車両の運転者がステアリングホイールを急激に操舵することにより車両の進行方向を変えようとする場合、車両が横転するおそれがある。
上記の構成によれば、車両の横転が発生するおそれがあるとき、ステアリングホイールの操舵に対して、転舵輪の転舵動作が鈍化する。このため、ステアリングホイールが急激に操舵される場合であれ、転舵輪が急激に転舵することが抑制される。したがって、車両の横転を抑制することができる。また、転舵輪とステアリングホイールとの間の動力伝達が分離されているため、運転者によるステアリングホイールの操舵と干渉することなく、車両の横転を抑制することができる。
【0007】
上記の操舵制御装置において、前記転舵制御部は、定められた横転判定条件が成立するとき、前記車両の横転が発生するおそれがあると判定するように構成されていてもよい。この場合、前記横転判定条件は、前記転舵モータに供給される電流の値が、定められた電流しきい値以上であることを含んでいてもよい。
【0008】
この構成によれば、転舵モータに供給される電流の値に基づき、車両の横転が発生する状況であるかどうかを判定することができる。転舵モータの電流の値には、ステアリングホイールの操舵状態、あるいは車両の挙動に応じて、転舵輪が路面から受ける力が反映される。したがって、車両の横転が発生するおそれがある状況を、より迅速に検出することができる。
【0009】
上記の操舵制御装置において、前記転舵制御部は、前記ステアリングホイールの操舵状態に応じて、前記転舵輪の転舵動作に連動して回転するシャフトの目標角度を演算し、演算される前記目標角度に実角度を追従させるフィードバック制御を実行するように構成されていてもよい。この場合、前記転舵制御部は、前記車両の横転が発生するおそれがあると判定されるとき、定められた演算周期当たりの前記目標角度の変化量を制限するように構成されるようにしてもよい。
【0010】
この構成によれば、車両の横転が発生するおそれがあるとき、定められた演算周期当たりの前記目標角度の変化量が制限される。これにより、目標角度の変化量が制限されない場合と比較して、目標角度の時間変化率である目標角速度、ひいては実角度の時間変化率である実角速度が遅くなる。すなわち、ステアリングホイールの操舵に対して、転舵輪の転舵動作が鈍化する。このため、ステアリングホイールが急激に操舵される場合であれ、転舵輪が急激に転舵することが抑制される。したがって、車両の横転を抑制することができる。
【0011】
上記の操舵制御装置において、前記転舵制御部は、前記ステアリングホイールの操舵状態に応じて前記転舵輪の転舵動作に連動して回転するシャフトの目標角度を演算し、演算される前記目標角度に実角度を追従させるフィードバック制御を実行することにより、前記転舵モータが発生するトルクに対する指令値である転舵トルク指令値を演算するように構成されていてもよい。この場合、前記転舵制御部は、前記車両の横転が発生するおそれがあると判定されるとき、定められた演算周期当たりの前記転舵トルク指令値の変化量を制限するように構成されるようにしてもよい。
【0012】
この構成によれば、車両の横転が発生するおそれがあるとき、定められた演算周期当たりの転舵トルク指令値の変化量が制限される。これにより、転舵トルク指令値の変化量が制限されない場合と比較して、目標角度の時間変化率である目標角速度、ひいては実角度の時間変化率である実角速度が遅くなる。すなわち、ステアリングホイールの操舵に対して、転舵輪の転舵動作が鈍化する。このため、ステアリングホイールが急激に操舵される場合であれ、転舵輪が急激に転舵することが抑制される。したがって、車両の横転を抑制することができる。
【0013】
上記の操舵制御装置において、前記転舵制御部は、前記ステアリングホイールの操舵状態に応じて、前記転舵輪の転舵動作に連動して回転するシャフトの目標角度を演算し、演算される前記目標角度に実角度を追従させるフィードバック制御を実行するように構成されていてもよい。この場合、前記転舵制御部は、前記車両の横転が発生するおそれがあると判定されるとき、前記フィードバック制御の応答性に関する制御パラメータであるフィードバックゲインの値を減少させるように構成されるようにしてもよい。
【0014】
この構成によれば、車両の横転が発生するおそれがあるとき、フィードバックゲインの値が減少される。このため、転舵制御部が実行するフィードバック制御の応答性が低下する。すなわち、目標角度に対する実角度の追従性が低下するため、ステアリングホイールの操舵に対して、転舵輪の転舵動作が鈍化する。したがって、たとえば、ステアリングホイールが急激に操舵される場合、転舵輪が急激に転舵することが抑制される。このため、車両の横転を抑制することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、運転者によるステアリングホイールの操舵と干渉することなく、車両の横転を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】転舵制御装置の第1の実施の形態が搭載される操舵装置の構成図である。
図2】第1の実施の形態にかかる反力制御装置および転舵制御装置のブロック図である。
図3】第2の実施の形態にかかるピニオン角フィードバック制御部のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、操舵制御装置の第1の実施の形態を説明する。
<全体構成>
図1に示すように、操舵制御装置1の制御対象は、ステアバイワイヤ式の操舵装置2である。操舵装置2は、操舵機構3と、転舵機構4とを有している。操舵機構3は、ステアリングホイール5を介して、運転者により操舵される機構部分である。転舵機構4は、ステアリングホイール5の操舵に応じて、車両の転舵輪6を転舵させる機構部分である。操舵制御装置1は、反力制御装置1Aと、転舵制御装置1Bとを含む。反力制御装置1Aの制御対象は、操舵機構3である。反力制御装置1Aは、反力制御を実行する。転舵制御装置1Bの制御対象は、転舵機構4である。転舵制御装置1Bは、転舵制御を実行する。転舵制御装置1Bは、転舵制御部に相当する。
【0018】
操舵機構3は、ステアリングシャフト11と、反力モータ12と、減速機13と、を有している。ステアリングホイール5は、ステアリングシャフト11に一体回転可能に連結される。反力モータ12は、ステアリングシャフト11に付与する操舵反力の発生源である。操舵反力は、ステアリングホイール5の操舵方向と反対方向の力である。反力モータ12は、たとえば三相のブラシレスモータである。減速機13は、反力モータ12の回転を減速し、減速された回転をステアリングシャフト11に伝達する。
【0019】
転舵機構4は、ピニオンシャフト21と、転舵シャフト22と、ハウジング23と、を有している。ハウジング23は、ピニオンシャフト21を回転可能に支持する。また、ハウジング23は、転舵シャフト22を往復動可能に収容する。ピニオンシャフト21は、転舵シャフト22に対して交わるように設けられている。ピニオンシャフト21のピニオン歯21aは、転舵シャフト22のラック歯22aと噛み合う。転舵シャフト22の両端には、ボールジョイントからなるラックエンド24を介して、タイロッド25が連結されている。タイロッド25の先端は、転舵輪6が組み付けられた図示しないナックルに連結される。
【0020】
転舵機構4は、転舵モータ31と、伝動機構32と、変換機構33とを備えている。転舵モータ31は、転舵シャフト22に付与する転舵力の発生源である。転舵力は、転舵輪6を転舵させるための力である。転舵モータ31は、たとえば三相のブラシレスモータである。伝動機構32は、たとえばベルト伝動機構である。伝動機構32は、転舵モータ31の回転を変換機構33に伝達する。変換機構33は、たとえばボールねじ機構である。変換機構33は、伝動機構32を介して伝達される回転を、転舵シャフト22の軸方向の運動に変換する。
【0021】
転舵シャフト22が軸方向に移動することによって、転舵輪6の転舵角θが変更される。ピニオンシャフト21のピニオン歯21aは、転舵シャフト22のラック歯22aと噛み合っているため、転舵シャフト22の移動に連動して回転する。ピニオンシャフト21は、転舵輪6の転舵動作に連動して回転するシャフト、あるいは回転体である。
【0022】
反力制御装置1Aは、反力モータ12の動作を制御する。反力制御装置1Aは、つぎの3つの構成A1,A2,A3のうちいずれか一つを含む処理回路を有している。
A1.ソフトウェアであるコンピュータプログラムに従って動作する1つ以上のプロセッサ。プロセッサは、CPU(central processing unit)およびメモリを含む。
【0023】
A2.各種処理のうち少なくとも一部の処理を実行する特定用途向け集積回路(ASIC)などの1つ以上の専用のハードウェア回路。ASICは、CPUおよびメモリを含む。
【0024】
A3.構成A1,A2を組み合わせたハードウェア回路。
メモリは、コンピュータで読み取り可能とされた媒体であって、コンピュータに対する処理あるいは命令を記述したプログラムを記憶している。本実施の形態では、コンピュータは、CPUである。メモリは、RAM(random access memory)およびROM(read only memory)を含む。CPUは、メモリに記憶されたプログラムを定められた演算周期で実行することによって各種の制御を実行する。
【0025】
反力制御装置1Aは、車載のセンサの検出結果を取り込む。センサは、車速センサ41、トルクセンサ42、および回転角センサ43を含む。
車速センサ41は、車速Vを検出する。車速Vは、車両の走行状態が反映される状態変数である。トルクセンサ42は、ステアリングシャフト11に設けられている。トルクセンサ42は、ステアリングシャフト11における減速機13の連結部分に対して、ステアリングホイール5側に位置している。トルクセンサ42は、ステアリングシャフト11に付与される操舵トルクThを検出する。操舵トルクThは、ステアリングシャフト11に設けられるトーションバー42aのねじれ量に基づき演算される。回転角センサ43は、反力モータ12に設けられている。回転角センサ43は、反力モータ12の回転角θを検出する。
【0026】
操舵トルクTh、および反力モータ12の回転角θは、たとえば、ステアリングホイール5を右に操舵する場合は正の値であり、ステアリングホイール5を左に操舵する場合は負の値である。
【0027】
反力制御装置1Aは、車速センサ41、トルクセンサ42、および回転角センサ43の検出結果を使用して、反力モータ12の動作を制御する。反力制御装置1Aは、操舵トルクThに応じた操舵反力を反力モータ12に発生させるように、反力モータ12に対する給電を制御する。
【0028】
転舵制御装置1Bは、転舵モータ31の動作を制御する。転舵制御装置1Bは、反力制御装置1Aと同様に、先の3つの構成A1,A2,A3のうちいずれか一を含む処理回路を有している。
【0029】
転舵制御装置1Bは、車載のセンサの検出結果を取り込む。センサは、回転角センサ44と、ロールレートセンサ45とを含む。回転角センサ44は、転舵モータ31に設けられている。回転角センサ44は、転舵モータ31の回転角θを検出する。転舵モータ31の回転角θは、たとえば、ステアリングホイール5を右に操舵する場合は正の値であり、ステアリングホイール5を左に操舵する場合は負の値である。ロールレートセンサ45は、ロールレートRRを検出する。ロールレートRRは、ロール軸回りの回転角速度である。ロール軸は、車両の重心点を通り、かつ車両の前後方向に延びる軸線である。
【0030】
転舵制御装置1Bは、回転角センサ44の検出結果を使用して、転舵モータ31の動作を制御する。転舵制御装置1Bは、ステアリングホイール5の操舵状態に応じて転舵輪6が転舵されるように、転舵モータ31に対する給電を制御する。
【0031】
<反力制御装置1Aの構成>
つぎに、反力制御装置1Aの構成について説明する。
図2に示すように、反力制御装置1Aは、操舵角演算部51、反力トルク指令値演算部52、および通電制御部53を有している。
【0032】
操舵角演算部51は、回転角センサ43を通じて検出される反力モータ12の回転角θに基づき、ステアリングホイール5の操舵角θを演算する。
反力トルク指令値演算部52は、操舵トルクThおよび車速Vに基づき反力トルク指令値Tを演算する。反力トルク指令値Tは、反力モータ12に発生させるべき、操舵反力の目標値である。操舵反力は、ステアリングホイール5の操舵方向と反対方向のトルクである。操舵トルクThの絶対値が大きいほど、また車速Vが遅いほど、反力トルク指令値Tの絶対値は、より大きくなる。
【0033】
通電制御部53は、反力トルク指令値Tに応じた電力を反力モータ12へ供給する。具体的には、通電制御部53は、反力トルク指令値Tに基づき、反力モータ12に対する電流指令値を演算する。通電制御部53は、反力モータ12に対する給電経路に設けられた電流センサ54を通じて、給電経路に生じる電流Iの値を検出する。電流Iの値は、反力モータ12に供給される電流の値である。通電制御部53は、電流指令値と電流Iの値との偏差を求め、当該偏差を無くすように反力モータ12に対する給電を制御する。これにより、反力モータ12は、反力トルク指令値Tに応じたトルクを発生する。
【0034】
<転舵制御装置1Bの構成>
つぎに、転舵制御装置1Bの構成について説明する。
図2に示すように、転舵制御装置1Bは、ピニオン角演算部61、目標ピニオン角演算部62、ピニオン角フィードバック制御部63、および通電制御部64を有している。
【0035】
ピニオン角演算部61は、回転角センサ43を通じて検出される転舵モータ31の回転角θに基づき、ピニオン角θを演算する。ピニオン角θは、ピニオンシャフト21の回転角であって、ピニオンシャフト21の実際の角度である実角度に相当する。転舵モータ31とピニオンシャフト21とは、伝動機構32、変換機構33、および転舵シャフト22を介して連動する。このため、転舵モータ31の回転角θとピニオン角θとの間には相関関係がある。この相関関係を利用して、転舵モータ31の回転角θからピニオン角θを求めることができる。ピニオンシャフト21は、転舵シャフト22に噛合されている。このため、ピニオン角θと転舵シャフト22の移動量との間にも相関関係がある。すなわち、ピニオン角θは、転舵輪6の転舵角θを反映する値である。
【0036】
目標ピニオン角演算部62は、操舵角演算部51により演算される操舵角θに基づき目標ピニオン角θ を演算する。目標ピニオン角θ は、ピニオン角θの目標角度である。目標ピニオン角演算部62は、製品仕様などに応じて設定される舵角比が実現されるように、目標ピニオン角θ を演算する。舵角比は、操舵角θに対する転舵角θの比である。
【0037】
目標ピニオン角演算部62は、たとえば、車速Vなどの車両の走行状態に応じて舵角比を設定し、この設定される舵角比に応じて目標ピニオン角θ を演算する。目標ピニオン角演算部62は、車速Vが遅くなるにつれて操舵角θに対する転舵角θが大きくなるように、目標ピニオン角θ を演算する。目標ピニオン角演算部62は、車速Vが速くなるにつれて操舵角θに対する転舵角θが小さくなるように、目標ピニオン角θ を演算する。目標ピニオン角演算部62は、車両の走行状態に応じて設定される舵角比を実現するために、操舵角θに対する補正角度を演算し、この演算される補正角度を操舵角θに加算することにより舵角比に応じた目標ピニオン角θ を演算する。
【0038】
なお、製品仕様などによっては、目標ピニオン角演算部62は、車両の走行状態にかかわらず、舵角比が「1:1」となるように、目標ピニオン角θ を演算するようにしてもよい。
【0039】
ピニオン角フィードバック制御部63は、目標ピニオン角演算部62により演算される目標ピニオン角θ 、およびピニオン角演算部61により演算されるピニオン角θを取り込む。ピニオン角フィードバック制御部63は、ピニオン角θが目標ピニオン角θ に追従するように、ピニオン角θのフィードバック制御を通じて、転舵トルク指令値T を演算する。転舵トルク指令値T は、転舵モータ31が発生するトルクに対する指令値であって、転舵力の目標値である。
【0040】
通電制御部64は、転舵トルク指令値T に応じた電力を転舵モータ31へ供給する。具体的には、通電制御部64は、転舵トルク指令値T に基づき、転舵モータ31に対する電流指令値を演算する。通電制御部64は、転舵モータ31に対する給電経路に設けられた電流センサ65を通じて、給電経路に生じる電流Iの値を検出する。電流Iの値は、転舵モータ31に供給される電流の値である。通電制御部64は、電流指令値と電流Iの値との偏差を求め、当該偏差を無くすように転舵モータ31に対する給電を制御する。これにより、転舵モータ31は転舵トルク指令値T に応じたトルクを発生する。
【0041】
<車両の横転について>
ここで、車両には、つぎのような懸念がある。すなわち、車両の走行中に、車両の運転者がステアリングホイール5を急激に操舵することにより車両の進行方向を変えようとする場合、車両が横転するおそれがある。そこで、本実施の形態では、車両の横転を抑制するために、操舵制御装置1として、つぎの構成を採用している。
【0042】
<横転抑制処理>
図2に示すように、転舵制御装置1Bは、微分器66および横転判定部67を有している。
【0043】
微分器66は、操舵角演算部51により演算される操舵角θを取り込む。微分器66は、操舵角θを微分することにより、操舵角速度ωを演算する。
横転判定部67は、車両の横転が発生するおそれがあるかどうかを判定する。横転判定部67は、車速センサ41を通じて検出される車速V、電流センサ65を通じて検出される電流I、微分器66により演算される操舵角速度ωを取り込む。電流Iは、転舵モータ31に供給される電流である。また、横転判定部67は、ロールレートセンサ45を通じて検出されるロールレートRRを取り込む。
【0044】
横転判定部67は、定められた横転判定条件が成立するとき、車両の横転が発生するおそれがあると判定する。横転判定条件は、車両の横転が発生するおそれがあるかどうかを判定するための条件であって、たとえば、つぎの関係式(1)~(4)を含む。横転判定部67は、4つの関係式(1)~(4)の全部が成立するとき、車両の横転が発生するおそれがあると判定する。
【0045】
V≧Vth …(1)
ただし、「Vth」は、車速しきい値である。車速しきい値Vthは、車両の横転が発生するおそれがあるとされる車速を基準として設定される。車速Vが速くなるほど、車両が横転するリスクが高くなる。このため、車速しきい値Vthは、中速域あるいは高速域の速度に設定される。中速域は、たとえば、40km/h以上、かつ60km/h未満の速度域である。高速域は、たとえば、60km/h以上の速度域である。
【0046】
≧Ibth …(2)
ただし、「Ibth」は、電流しきい値である。電流しきい値Ibthは、たとえば、ステアリングホイール5が急激に操舵されたときの転舵モータ31の電流Iの値を基準として設定される。転舵モータ31の電流Iの値は、路面摩擦抵抗などの路面状態に応じた外乱が転舵輪6に作用することに起因して、目標ピニオン角θ と実際のピニオン角θとの間に差が発生することによっても変化する。すなわち、転舵モータ31の電流Iの値には、実際の路面状態、あるいは転舵輪6が路面から受ける力が反映される。転舵モータ31の電流Iは、ステアリングホイール5の操舵状態、あるいは車両の挙動が反映される状態変数である。
【0047】
ω≧ωsth …(3)
ただし、「ωsth」は、操舵角速度しきい値である。角速度しきい値ωsthは、ステアリングホイール5が急激に操舵されたかどうかを判定する際の基準である。角速度しきい値ωsthは、たとえばステアリングホイール5が急激に操舵されたときの操舵角速度ωの値を基準として設定される。操舵角速度ωは、ステアリングホイール5の操舵状態が反映される状態変数である。
【0048】
RR≧RRth …(4)
ただし、「RRth」は、ロールレートしきい値である。ロールレートしきい値RRthは、車両の横転が発生するおそれがあるとされるロールレートRRを基準として設定される。ロールレートRRは、車両の挙動が反映される状態変数である。
【0049】
横転判定部67は、4つの関係式(1)~(4)のうち少なくとも1つが成立しないとき、車両の横転が発生するおそれがないと判定し、判定フラグF1の値を「0」にセットする。横転判定部67は、4つの関係式(1)~(4)の全部が成立するとき、車両の横転が発生するおそれがあると判定し、判定フラグF1の値を「1」にセットする。
【0050】
目標ピニオン角演算部62は、横転判定部67によりセットされる判定フラグF1の値を取り込む。目標ピニオン角演算部62は、判定フラグF1の値が「0」であるとき、すなわち車両の横転が発生するおそれがないとき、操舵角θに応じて演算される目標ピニオン角θ を、ピニオン角フィードバック制御部63が使用する最終的な目標ピニオン角θ として設定する。
【0051】
目標ピニオン角演算部62は、判定フラグF1の値が「1」であるとき、すなわち車両の横転が発生するおそれがあるとき、操舵角θに応じて演算される目標ピニオン角θ に対する補正処理を実行する。補正処理は、ピニオン角フィードバック制御部63が使用する最終的な目標ピニオン角θ を、目標ピニオン角演算部62が操舵角θに応じて演算する目標ピニオン角θ よりも小さい値に制限するための処理である。
【0052】
目標ピニオン角演算部62は、時間に対する変化量ガード処理を実行する。変化量ガード処理は、定められた演算周期当たり、たとえば1演算周期当たりの目標ピニオン角θ の変化量を所定の制限値に制限する処理である。制限値は、定められた演算周期当たりの目標ピニオン角θ の変化量であって、たとえば、車両の横転に対するコンピュータシミュレーション、あるいは実機を使用した実験に基づき設定される固定値である。
【0053】
目標ピニオン角演算部62は、制限値に基づき、操舵角θに応じて演算される目標ピニオン角θ の変化量を制限する。この変化量ガード機能を通じて、ピニオン角フィードバック制御部63が使用する最終的な目標ピニオン角θ の値は、操舵角θに応じて演算される目標ピニオン角θ に向けて徐々に増加する。具体的には、ピニオン角フィードバック制御部63が使用する最終的な目標ピニオン角θ の値は、定められた演算周期前の目標ピニオン角θ を基準として、定められた演算周期ごとに制限値だけ増加する。すなわち、ステアリングホイール5の操舵に対して、転舵輪6の転舵動作が鈍化する。制限値に基づき制限された後の目標ピニオン角θ は、車両の横転を抑制するために補正された補正後の目標ピニオン角θ である。
【0054】
なお、目標ピニオン角演算部62は、車速V、転舵モータ31の電流Iの値、操舵角速度ω、あるいはロールレートRRに応じて、制限値を変更するようにしてもよい。
<第1の実施の形態の作用および効果>
第1の実施の形態は、以下の作用および効果を奏する。
【0055】
(1-1)車両の横転が発生するおそれがある場合、定められた演算周期当たり、たとえば1演算周期当たりの目標ピニオン角θ の変化量が制限される。このため、目標ピニオン角θ の変化量が制限されない場合と比較して、ステアリングホイール5の操作量に対する転舵角θの変化量が少なくなる。すなわち、ステアリングホイール5がより大きく操舵されたとしても、ステアリングホイール5の操作量に応じて、転舵角θが大きく変化することがない。また、目標ピニオン角θ の変化量が制限されない場合と比較して、目標ピニオン角θ の時間変化率である目標ピニオン角速度、ひいてはピニオン角θの時間変化率であるピニオン角速度が遅くなる。すなわち、ステアリングホイール5が急激に操舵されたとしても、ステアリングホイール5の操舵速度に応じて、転舵角θの転舵速度が速くなることがない。したがって、車両の走行中にステアリングホイール5が急激に、かつ大きく操舵された場合であれ、車両の横転を抑制することができる。また、転舵輪6とステアリングホイール5との間の動力伝達が分離されているため、運転者によるステアリングホイール5の操舵と干渉することなく、車両の横転を抑制することができる。
【0056】
(1-2)横転判定部67は、電流センサ65を通じて検出される電流Iの値に基づき、車両の横転が発生するおそれがあるかどうかを判定する。電流Iは、転舵モータ31に供給される電流である。転舵モータ31の電流Iの値には、実際の路面状態が反映される。また、転舵モータ31の電流Iの値には、ステアリングホイール5の操舵状態、あるいは車両の挙動に応じて、転舵輪6が路面から受ける力が反映される。したがって、車両の横転が発生するおそれがある状況を、より迅速に検出することができる。
【0057】
<第2の実施の形態>
つぎに、操舵制御装置の第2の実施の形態を説明する。本実施の形態は、基本的には、図1および図2に示される第1の実施の形態と同様の構成を有している。したがって、第1の実施の形態と同一の部材および構成については同一の符号を付し、その詳細な説明を割愛する。
【0058】
本実施の形態は、車両の横転を抑制するための処理である横転抑制処理の内容の点で、第1の実施の形態と異なる。本実施の形態では、車両の横転が発生するおそれがある場合、目標ピニオン角θ の変化量ではなく、転舵トルク指令値T の変化量を制限する。目標ピニオン角演算部62は、目標ピニオン角θ に対する補正処理を実行しないようにしてもよい。
【0059】
図1に二点鎖線で示すように、ピニオン角フィードバック制御部63は、横転判定部67によりセットされる判定フラグF1の値を取り込む。
ピニオン角フィードバック制御部63は、判定フラグF1の値が「0」であるとき、すなわち車両の横転が発生するおそれがないとき、目標ピニオン角θ に応じて演算される転舵トルク指令値T を、通電制御部64が使用する最終的な転舵トルク指令値T として設定する。
【0060】
ピニオン角フィードバック制御部63は、判定フラグF1の値が「1」であるとき、すなわち車両の横転が発生するおそれがあるとき、目標ピニオン角θ に応じて演算される転舵トルク指令値T に対する補正処理を実行する。補正処理は、通電制御部64が使用する最終的な転舵トルク指令値T を、ピニオン角フィードバック制御部63が目標ピニオン角θ に応じて演算する転舵トルク指令値T よりも小さい値に制限するための処理である。
【0061】
ピニオン角フィードバック制御部63は、時間に対する変化量ガード処理を実行する。変化量ガード処理は、定められた演算周期当たり、たとえば1演算周期当たりの転舵トルク指令値T の変化量を所定の制限値に制限する処理である。制限値は、定められた演算周期当たりの転舵トルク指令値T の変化量であって、たとえば、車両の横転に対するコンピュータシミュレーション、あるいは実機を使用した実験に基づき設定される固定値である。
【0062】
ピニオン角フィードバック制御部63は、制限値に基づき、目標ピニオン角θ に応じて演算される転舵トルク指令値T の変化量を制限する。この変化量ガード機能を通じて、通電制御部64が使用する最終的な転舵トルク指令値T は、目標ピニオン角θ に応じて演算される転舵トルク指令値T に向けて徐々に増加する。具体的には、通電制御部64が使用する最終的な転舵トルク指令値T は、定められた演算周期前の目標ピニオン角θ を基準として、定められた演算周期ごとに制限値だけ増加する。すなわち、ステアリングホイール5の操舵に対して、転舵輪6の転舵動作が鈍化する。制限値に基づき制限された後の転舵トルク指令値T は、車両の横転を抑制するために補正された補正後の転舵トルク指令値T である。
【0063】
なお、ピニオン角フィードバック制御部63は、車速V、転舵モータ31の電流Iの値、操舵角速度ω、あるいはロールレートRRに応じて、制限値を変更するようにしてもよい。
【0064】
<第2の実施の形態の作用および効果>
第2の実施の形態は、第1の実施の形態の(1-2)欄に記載の作用および効果に加え、以下の作用および効果を奏する。
【0065】
(2-1)車両の横転が発生するおそれがある場合、定められた演算周期当たり、たとえば1演算周期当たりの転舵トルク指令値T の変化量が制限される。このため、転舵トルク指令値T の変化量が制限されない場合と比較して、ステアリングホイール5の操作量に対する転舵角θの変化量が少なくなる。すなわち、ステアリングホイール5がより大きく操舵されたとしても、ステアリングホイール5の操作量に応じて、転舵角θが大きく変化することがない。また、転舵トルク指令値T の変化量が制限されない場合と比較して、ピニオン角θの時間変化率であるピニオン角速度が遅くなる。すなわち、ステアリングホイール5が急激に操舵されたとしても、ステアリングホイール5の操舵速度に応じて、転舵角θの転舵速度が速くなることがない。したがって、車両の走行中にステアリングホイール5が急激に、かつ大きく操舵された場合であれ、車両の横転を抑制することができる。また、転舵輪6とステアリングホイール5との間の動力伝達が分離されているため、運転者によるステアリングホイール5の操舵と干渉することなく、車両の横転を抑制することができる。
【0066】
<第3の実施の形態>
つぎに、操舵制御装置の第2の実施の形態を説明する。本実施の形態は、基本的には、図1および図2に示される第1の実施の形態と同様の構成を有している。したがって、第1の実施の形態と同一の部材および構成については同一の符号を付し、その詳細な説明を割愛する。
【0067】
本実施の形態は、車両の横転を抑制するための処理である横転抑制処理の内容の点で、第1の実施の形態と異なる。本実施の形態では、車両の横転が発生するおそれがある場合、目標ピニオン角θ の変化量ではなく、ピニオン角フィードバック制御部63のフィードバックゲインの値を変更する。目標ピニオン角演算部62は、目標ピニオン角θ に対する補正処理を実行しないようにしてもよい。
【0068】
図3に示すように、ピニオン角フィードバック制御部63は、減算器63A、比例制御部63B、積分制御部63C、微分制御部63D、ダンピング制御部63E、および演算器63Fを有している。
【0069】
減算器63Aは、目標ピニオン角演算部62により演算される目標ピニオン角θ と、ピニオン角演算部61により演算されるピニオン角θとを取り込む。減算器63Aは、角度偏差Δθを演算する。角度偏差Δθは、目標ピニオン角θ とピニオン角θとの差である。
【0070】
比例制御部63Bは、減算器63Aによって演算される角度偏差Δθに対して比例演算を実行することにより、角度偏差Δθに比例した値の第1のトルク指令値Tp1を演算する。比例制御部63Bは、たとえば、車両の走行状態に応じて比例ゲインを演算する。車両の走行状態は、たとえば、車速Vに反映される。比例制御部63Bは、角度偏差Δθに比例ゲインを乗算することにより、第1のトルク指令値Tp1を演算する。
【0071】
積分制御部63Cは、減算器63Aによって演算される角度偏差Δθに対して積分演算を実行することにより、角度偏差Δθの積分値に比例した値の第2のトルク指令値Tp2を演算する。積分制御部63Cは、たとえば、車両の走行状態に応じて積分ゲインを演算する。車両の走行状態は、たとえば、車速Vに反映される。積分制御部63Cは、角度偏差Δθを時間で積分し、その積分値に積分ゲインを乗算することにより、第2のトルク指令値Tp2を演算する。
【0072】
微分制御部63Dは、減算器63Aによって演算される角度偏差Δθに対して微分演算を実行することにより、角度偏差Δθの微分値に比例した値の第3のトルク指令値Tp3を演算する。微分制御部63Dは、たとえば、車両の走行状態に応じて微分ゲインを演算する。車両の走行状態は、たとえば、車速Vに反映される。微分制御部63Dは、角度偏差Δθを時間で微分し、その微分値に微分ゲインを乗算することにより、第3のトルク指令値Tp3を演算する。
【0073】
ちなみに、微分制御部63Dは、目標ピニオン角速度とピニオン角速度との差である角速度偏差に対して微分演算を実行することにより、角速度偏差の微分値に比例した値の第3のトルク指令値Tp3を演算するようにしてもよい。目標ピニオン角速度は、目標ピニオン角演算部62により演算される目標ピニオン角θ を微分することにより得られる。ピニオン角速度は、ピニオン角演算部61により演算されるピニオン角θを微分することにより得られる。
【0074】
ダンピング制御部63Eは、減算器63Aによって演算される角度偏差Δθに基づき、第4のトルク指令値Tp4を演算する。第4のトルク指令値Tp4は、転舵機構4が有する粘性を補償するための補償値であって、転舵輪6の転舵角速度を抑制するために演算される補償値である。ダンピング制御部63Eは、たとえば、車両の走行状態に応じてダンピングゲインを演算する。車両の走行状態は、たとえば、車速Vに反映される。ダンピング制御部63Eは、たとえば、減算器63Aによって演算される角度偏差Δθに対してダンピングゲインを乗算することにより、第4のトルク指令値Tp4を演算する。
【0075】
ちなみに、ダンピング制御部63Eは、ピニオン角速度、または目標ピニオン角速度に基づき、第4のトルク指令値Tp4を演算するようにしてもよい。ピニオン角速度は、ピニオン角演算部61により演算されるピニオン角θを微分することにより得られる。目標ピニオン角速度は、目標ピニオン角演算部62により演算される目標ピニオン角θ を微分することにより得られる。
【0076】
演算器63Fは、比例制御部63Bにより演算される第1のトルク指令値Tp1と、積分制御部63Cにより演算される第2のトルク指令値Tp2と、微分制御部63Dにより演算される第3のトルク指令値Tp3と、ダンピング制御部63Eにより演算される第4のトルク指令値Tp4とを取り込む。演算器63Fは、第1のトルク指令値Tp1と、第2のトルク指令値Tp2と、第3のトルク指令値Tp3とを加算するとともに、加算した値から第4のトルク指令値Tp4を減算することにより、転舵トルク指令値T を演算する。
【0077】
ピニオン角フィードバック制御部63は、横転判定部67によってセットされる判定フラグF1の値に応じて、比例ゲイン、積分ゲイン、微分ゲイン、およびダンピングゲインの値を設定する。各ゲインは、ピニオン角フィードバック制御部63が実行するフィードバック制御の応答性に関する制御パラメータであるフィードバックゲインである。
【0078】
比例制御部63Bは、判定フラグF1の値を取り込む。比例制御部63Bは、判定フラグF1の値が「0」であるとき、すなわち、車両の横転が発生するおそれがないとき、比例ゲインの値を初期値に設定する。初期値は、比例制御部63Bが車両の走行状態に応じて演算する比例ゲインの値である。
【0079】
比例制御部63Bは、判定フラグF1の値が「1」であるとき、すなわち、車両の横転が発生するおそれがあるとき、比例ゲインの値を、初期値よりも小さい値に設定する。比例ゲインの値の減少量は、製品仕様などによって決まる。
【0080】
比例制御部63Bは、判定フラグF1の値が「1」であるとき、比例ゲインの初期値に、第1の調整ゲインを乗算することにより、第1の横転抑制用設定値を演算する。第1の調整ゲインは、「1」よりも小さい値であって、たとえば、「0.1~0.9」の範囲内の値である。比例制御部63Bは、車速V、転舵モータ31の電流Iの値、操舵角速度ω、あるいはロールレートRRに応じて、第1の調整ゲインの値を変更するようにしてもよい。
【0081】
第1の横転抑制用設定値は、比例ゲインの初期値よりも小さい値を有する。比例制御部63Bは、判定フラグF1の値が「1」であるとき、比例ゲインの値を、初期値から第1の横転抑制用設定値に切り替える。第1の横転抑制用設定値と初期値との差が、比例ゲインの減少量である。
【0082】
積分制御部63Cは、判定フラグF1の値を取り込む。積分制御部63Cは、判定フラグF1の値が「0」であるとき、すなわち、車両の横転が発生するおそれがないとき、積分ゲインの値を、初期値に設定する。初期値は、積分制御部63Cが車両の走行状態に応じて演算する積分ゲインの値である。
【0083】
積分制御部63Cは、判定フラグF1の値が「1」であるとき、すなわち、車両の横転が発生するおそれがあるとき、積分ゲインの値を、初期値よりも小さい値に設定する。積分ゲインの値の減少量は、製品仕様などによって決まる。
【0084】
積分制御部63Cは、判定フラグF1の値が「1」であるとき、積分ゲインの初期値に、第2の調整ゲインを乗算することにより、第2の横転抑制用設定値を演算する。第2の調整ゲインは、「1」よりも小さい値であって、たとえば、「0.1~0.9」の範囲内の値である。積分制御部63Cは、車速V、転舵モータ31の電流Iの値、操舵角速度ω、あるいはロールレートRRに応じて、第2の調整ゲインの値を変更するようにしてもよい。
【0085】
第2の横転抑制用設定値は、積分ゲインの初期値よりも小さい値を有する。積分制御部63Cは、判定フラグF1の値が「1」であるとき、積分ゲインの値を、初期値から第2の横転抑制用設定値に切り替える。第2の横転抑制用設定値と初期値との差が、積分ゲインの減少量である。
【0086】
微分制御部63Dは、判定フラグF1の値を取り込む。微分制御部63Dは、判定フラグF1の値が「0」であるとき、すなわち、車両の横転が発生するおそれがないとき、微分ゲインの値を、初期値に設定する。初期値は、微分制御部63Dが車両の走行状態に応じて演算する微分ゲインの値である。
【0087】
微分制御部63Dは、判定フラグF1の値が「1」であるとき、すなわち、車両の横転が発生するおそれがあるとき、微分ゲインの値を、初期値よりも小さい値に設定する。微分ゲインの値の減少量は、製品仕様などによって決まる。
【0088】
微分制御部63Dは、判定フラグF1の値が「1」であるとき、微分ゲインの初期値に、第3の調整ゲインを乗算することにより、第3の横転抑制用設定値を演算する。第3の調整ゲインは、「1」よりも小さい値であって、たとえば、「0.1~0.9」の範囲内の値である。微分制御部63Dは、車速V、転舵モータ31の電流Iの値、操舵角速度ω、あるいはロールレートRRに応じて、第3の調整ゲインの値を変更するようにしてもよい。
【0089】
第3の横転抑制用設定値は、微分ゲインの初期値よりも小さい値を有する。微分制御部63Dは、判定フラグF1の値が「1」であるとき、微分ゲインの値を、初期値から第3の横転抑制用設定値に切り替える。第3の横転抑制用設定値と初期値との差が、微分ゲインの減少量である。
【0090】
ダンピング制御部63Eは、判定フラグF1の値を取り込む。ダンピング制御部63Eは、判定フラグF1の値が「0」であるとき、すなわち、車両の横転が発生するおそれがないとき、ダンピングゲインの値を、初期値に設定する。初期値は、ダンピング制御部63Eが車両の走行状態に応じて演算するダンピングゲインの値である。
【0091】
ダンピング制御部63Eは、判定フラグF1の値が「1」であるとき、すなわち、車両の横転が発生するおそれがあるとき、ダンピングゲインの値を、初期値よりも小さい値に設定する。ダンピングゲインの値の減少量は、製品仕様などによって決まる。
【0092】
ダンピング制御部63Eは、判定フラグF1の値が「1」であるとき、ダンピングゲインの初期値に、第4の調整ゲインを乗算することにより、第4の横転抑制用設定値を演算する。第4の調整ゲインは、「1」よりも小さい値であって、たとえば、「0.1~0.9」の範囲内の値である。ダンピング制御部63Eは、車速V、転舵モータ31の電流Iの値、操舵角速度ω、あるいはロールレートRRに応じて、第4の調整ゲインの値を変更するようにしてもよい。
【0093】
第4の横転抑制用設定値は、ダンピングゲインの初期値よりも小さい値を有する。ダンピング制御部63Eは、判定フラグF1の値が「1」であるとき、ダンピングゲインの値を、初期値から第4の横転抑制用設定値に切り替える。第4の横転抑制用設定値と初期値との差が、ダンピングゲインの減少量である。
【0094】
したがって、車両の横転が発生するおそれがあるとき、比例ゲイン、積分ゲイン、微分ゲイン、およびダンピングゲインの値の減少量に応じて、ピニオン角フィードバック制御部63が実行するフィードバック制御の応答性が低下する。すなわち、車両の横転が発生するおそれがあるとき、各ゲインの値を減少させることにより、サーボ剛性がより低くなる。このため、ステアリングホイール5の操舵に対して、転舵輪6の転舵動作が鈍化する。
【0095】
<第3の実施の形態の作用および効果>
第3の実施の形態は、第1の実施の形態の(1-2)欄に記載の作用および効果に加え、以下の作用および効果を奏する。
【0096】
(3-1)車両の横転が発生するおそれがある場合、ピニオン角フィードバック制御部63のフィードバックゲインの値が減少される。フィードバックゲインは、比例ゲイン、積分ゲイン、微分ゲイン、およびダンピングゲインを含む。このため、ピニオン角フィードバック制御部63が実行するフィードバック制御の応答性が低下する。すなわち、目標ピニオン角θ に対するピニオン角θの追従性が低下する。したがって、ステアリングホイール5の急激な操舵に対して、転舵輪6が急激に転舵することが抑制される。このため、車両の横転を抑制することができる。また、転舵輪6とステアリングホイール5との間の動力伝達が分離されているため、運転者によるステアリングホイール5の操舵と干渉することなく、車両の横転を抑制することができる。
【0097】
<他の実施の形態>
なお、各実施の形態は、つぎのように変更して実施してもよい。
図1に示すように、車両に接地荷重センサ46が設けられることがある。接地荷重センサ46は、たとえば、車両の各車輪に組み込まれたハブユニット軸受に設けられる。車輪は、転舵輪6を含む。接地荷重センサ46は、接地荷重Fを検出する。接地荷重Fは、路面から車両の各車輪に作用する力のうち、鉛直方向に作用する力である。車両に接地荷重センサ46が設けられている場合、転舵制御装置1Bは、ロールレートセンサ45を通じて検出されるロールレートRRに代えて、接地荷重センサ46を通じて検出される接地荷重Fzを取り込むようにしてもよい。この場合、横転判定条件は、先の関係式(4)に代えて、つぎの関係式(5)を含む。横転判定部67は、4つの関係式(1)~(3),(5)の全部が成立するとき、車両の横転が発生するおそれがあると判定する。
【0098】
≧Fzth …(5)
ただし、「Fzth」は、接地荷重しきい値である。接地荷重しきい値Fzthは、車両の横転が発生するおそれがあるとされる接地荷重Fを基準として設定される。車両の横転が発生するおそれがある場合、車両の進行方向に対する左右の車輪のいずれか一方の車輪の接地荷重Fが増加し、左右の車輪のいずれか他方の車輪の接地荷重Fが減少する。接地荷重Fは、車両の状態、あるいは車両の挙動が反映される状態変数である。
【0099】
・横転判定において、必ずしも関係式(1)~(4)、あるいは関係式(1)~(3),(5)のすべてが成立する必要はない。横転判定部67は、たとえば、関係式(1),(3)、関係式(1),(4)、または関係式(1),(5)が成立するとき、車両の横転が発生するおそれがあると判定してもよい。
【0100】
・車速センサ41は、車輪速センサであってもよい。操舵制御装置1は、車輪速センサを通じて検出される車輪速に基づき車速Vを演算し、演算される車速Vを使用して各種の制御を実行する。
【0101】
・ピニオン角フィードバック制御部63として、ダンピング制御部63Eを割愛した構成を採用してもよい。この場合、演算器63Fは、比例制御部63Bにより演算される第1のトルク指令値Tp1と、積分制御部63Cにより演算される第2のトルク指令値Tp2と、微分制御部63Dにより演算される第3のトルク指令値Tp3とを加算することにより、転舵トルク指令値T を演算する。
【符号の説明】
【0102】
1…操舵制御装置
1B…転舵制御装置(転舵制御部)
5…ステアリングホイール
6…転舵輪
21…ピニオンシャフト
31…転舵モータ
図1
図2
図3