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特開2024-70030マスコンクリート温度制御システム及びマスコンクリートの温度制御方法
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  • 特開-マスコンクリート温度制御システム及びマスコンクリートの温度制御方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024070030
(43)【公開日】2024-05-22
(54)【発明の名称】マスコンクリート温度制御システム及びマスコンクリートの温度制御方法
(51)【国際特許分類】
   E04G 21/02 20060101AFI20240515BHJP
   E01D 19/02 20060101ALI20240515BHJP
【FI】
E04G21/02 104
E01D19/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022180374
(22)【出願日】2022-11-10
(71)【出願人】
【識別番号】000166627
【氏名又は名称】五洋建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000752
【氏名又は名称】弁理士法人朝日特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】王 涛
(72)【発明者】
【氏名】酒井 貴洋
(72)【発明者】
【氏名】谷口 修
【テーマコード(参考)】
2D059
2E172
【Fターム(参考)】
2D059AA01
2D059AA03
2D059BB39
2E172AA05
2E172EA11
2E172EA13
(57)【要約】
【課題】マスコンクリートの温度制御において従来工法における問題を解消する。
【解決手段】マスコンクリート温度制御システムは、マスコンクリートCの表面側から鉛直方向下方に挿入される複数の温度制御装置10と、各温度制御装置10に対する通電を制御するコントローラ20と、各温度制御装置10及びコントローラ20を接続する通電線30とを備える。温度制御装置10は、例えばアルミニウム等の熱伝導性の高い素材で形成された筒状の挿入部材110と、挿入部材110の内周面に沿って配置されたペルチェ素子群100と、ペルチェ素子群100より内側の挿入部材110の両端部(上端部及び下端部)間に周方向及び軸方向に設けられた内壁120と、内壁120及び挿入部材110間の周方向の間隙を塞ぐ塞ぎ材130と、内壁120によって形成された空間の軸方向下端部の開口を塞ぐ底材140と備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
打設されたマスコンクリート内に挿入されたシース管に挿入される筒状の挿入部材と、前記挿入部材の内周面に沿って軸方向に配置された熱電素子群と、前記挿入部材内の前記熱電素子群より内側の前記挿入部材の両端部間に周方向及び軸方向に設けられた内壁材と、前記内壁材及び前記挿入部材の下端部間の間隙の両端部を塞ぐ塞ぎ材と、前記内壁材によって形成された空間の軸方向下端部の開口を塞ぐ底材とを有する温度制御装置と、
前記熱電素子群に対する通電を制御するコントローラと、を備え、
前記熱電素子群は、電流が通電されることにより、前記挿入部材側に吸熱効果又は放熱効果を発揮し、前記内壁材側に放熱効果又は吸熱効果を発揮するマスコンクリート温度制御装置。
【請求項2】
1の前記挿入部材、1の前記内壁材及び前記熱電素子群を、1セットとし、
前記セットが、前記シース管の前記マスコンクリートへの挿入長に応じて、軸方向に複数連結されて配置される
請求項1に記載のマスコンクリート温度制御装置。
【請求項3】
前記熱電素子群の吸熱効果又は放熱効果を発揮する両側面のそれぞれの少なくとも一部が、前記内周面及び前記内壁材に接するように配置され、
前記電流の通電方向によって、前記熱電素子群の吸熱効果又は放熱効果を発揮する面を切り替える、
請求項2に記載のマスコンクリート温度制御装置。
【請求項4】
前記挿入部材及び前記内壁材は水平断面が多角形の形状であり、
前記多角形の各面に前記熱電素子群が設けられている
請求項1または2に記載のマスコンクリート温度制御装置。
【請求項5】
前記熱電素子群の前記内壁材側端面が前記熱電素子群の放熱効果を発する面であるときに、
前記空間内に放熱される熱を前記マスコンクリート外に排熱するための冷却部材が前記空間内に配置される、
請求項1または2に記載のマスコンクリート温度制御装置。
【請求項6】
前記冷却部材は、ドライアイス、氷又は冷水である
請求項5に記載のマスコンクリート温度制御装置。
【請求項7】
打設されたマスコンクリート内にシース管を挿入するシース管挿入ステップと、
前記シース管内に請求項2に記載の温度制御装置を挿入する温度制御装置挿入ステップと、
前記シース管と前記温度制御装置との間に熱伝導液体を注入する注入ステップと、
前記温度制御装置の熱電素子群に通電する通電ステップと、
電流の通電方向により、前記熱電素子群の前記挿入部材側に吸熱効果又は放熱効果を発揮させ、前記熱電素子群の前記内壁材側に放熱効果又は吸熱効果を発揮させる熱制御ステップと、
を備えるマスコンクリート温度制御方法。
【請求項8】
前記熱制御ステップにおいて、前記マスコンクリートにおける前記温度制御装置の鉛直方向位置に応じて、前記熱電素子群の前記挿入部材側に吸熱効果又は放熱効果を発揮させる、
請求項7に記載のマスコンクリート温度制御方法。
【請求項9】
前記温度制御装置挿入ステップにおいて、前記温度制御装置を、前記マスコンクリート内に挿入された前記シース管に、所定の間隔及び挿入長で複数挿入する
請求項7又は8に記載のマスコンクリートの温度制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、打設されたマスコンクリートの温度を制御するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリートが硬化する過程で水とセメントが反応して水和熱が発生することにより、コンクリートにひび割れが発生することが知られている。特に多量のコンクリート(マスコンクリート)を打設して建造するダムや橋脚などのコンクリート構造物において、適切にマスコンクリートのひび割れ対策を行うことは当該構造物の品質面から重要である。そこで、マスコンクリートの温度を制御する工法として、パイプクーリング工法やヒートパイプ工法が知られている。しかしながら、パイプクーリング工法においては、通水設備が大掛かりになってしまうという欠点がある。ヒートパイプ工法においては、通水が不要であるが、冷却温度を正確に制御することが困難であること、ヒートパイプの挿入箇所上空の空間確保が必要となること、及び、ヒートパイプの運搬に労力・コストがかかること、といった課題がある。また、例えば特許文献1には、コンクリート型枠背面に冷却手段を設ける手法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2022-20817号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、本発明は、マスコンクリートの温度制御において従来工法における問題を解消し、簡便で有効な温度制御を行うシステム及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明のマスコンクリート温度制御システムは、打設されたマスコンクリート内に挿入されたシース管に挿入される筒状の挿入部材と、前記挿入部材の内周面に沿って軸方向に配置された熱電素子群と、前記挿入部材内の前記熱電素子群より内側の前記挿入部材の両端部間に周方向及び軸方向に設けられた内壁材と、前記内壁材及び前記挿入部材の下端部間の間隙の両端部を塞ぐ塞ぎ材と、前記内壁材によって形成された空間の軸方向下端部の開口を塞ぐ底材とを有する温度制御装置と、前記熱電素子群に対する通電を制御するコントローラと、を備え、前記熱電素子群は、電流が通電されることにより、前記挿入部材側に吸熱効果又は放熱効果を発揮し、前記内壁材側に放熱効果又は吸熱効果を発揮する。
【0006】
1の前記挿入部材、1の前記内壁材及び前記熱電素子群を、1セットとし、前記セットが、前記シース管の前記マスコンクリートへの挿入長に応じて、軸方向に複数連結されて配置されるようにしてもよい。
【0007】
前記熱電素子群の吸熱効果又は放熱効果を発揮する両側面のそれぞれの少なくとも一部が、前記内周面及び前記内壁材に接するように配置され、前記電流の通電方向によって、前記熱電素子群の吸熱効果又は放熱効果を発揮する面を切り替えるようにしてもよい。
【0008】
前記挿入部材及び前記内壁材は水平断面が多角形の形状であり、前記多角形の各面に前記熱電素子群が設けられているようにしてもよい。
【0009】
前記熱電素子群の前記内壁材側端面が前記熱電素子群の放熱効果を発する面であるときに、前記空間内に放熱される熱を前記マスコンクリート外に排熱するための冷却部材が前記空間内に配置されるようにしてもよい。
【0010】
前記冷却部材は、ドライアイス、氷又は冷水であってもよい。
【0011】
本発明のコンクリート温度制御方法は、打設されたマスコンクリート内にシース管を挿入するシース管挿入ステップと、前記シース管内に請求項2に記載の温度制御装置を挿入する温度制御装置挿入ステップと、前記シース管と前記温度制御装置との間に熱伝導液体を注入する注入ステップと、前記温度制御装置の熱電素子群に通電する通電ステップと、電流の通電方向により、前記熱電素子群の前記挿入部材側に吸熱効果又は放熱効果を発揮させ、前記熱電素子群の前記内壁材側に放熱効果又は吸熱効果を発揮させる熱制御ステップとを備える。
【0012】
前記熱制御ステップにおいて、前記マスコンクリートにおける前記温度制御装置の鉛直方向位置に応じて、前記熱電素子群の前記挿入部材側に吸熱効果又は放熱効果を発揮させるようにしてもよい。
【0013】
前記温度制御装置挿入ステップにおいて、前記温度制御装置を、前記マスコンクリート内に挿入された前記シース管に、所定の間隔及び挿入長で複数挿入するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、マスコンクリートの温度制御において熱電子群への電流の通電方向によって、熱電素子群の吸熱効果又は放熱効果を発揮する面を簡便に切り替えることでマスコンクリートの内部温度への対応ができることから従来工法における問題を解消することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施形態に係るマスコンリート温度制御システムの構成の一例を示す図。
図2】同実施形態に係る温度制御装置の配置を例示する平面図。
図3】ペルチェ素子の放熱及び吸熱効果を説明する図。
図4】同実施形態に係る熱電素子群の配置を示す、温度制御装置の縦(鉛直)断面図。
図5】同実施形態に係る熱電素子群の配置を示す、温度制御装置の横(水平)断面図。
図6】変形例に係る温度制御装置の機能効果を例示する平面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明を実施するための形態の一例について説明する。図1は、本発明の実施形態に係るマスコンリート温度制御システムの構成の一例を示す図である。マスコンリート温度制御システムは、マスコンクリートCの表面側から鉛直方向下方に挿入される複数のシース管11及びそのシース管11内にそれぞれ挿入された複数の温度制御装置10と、各温度制御装置10に対する通電を制御するコントローラ20と、各温度制御装置10及びコントローラ20を接続する通電線30とを備える。各シース管11及びそのシース管11に挿入された温度制御装置10は、図2に例示するように、マスコンクリートCの型枠内において互いに所定の間隔を空けて配置される。
【0017】
各温度制御装置10には、本発明の熱電素子としてのペルチェ素子100が内蔵されている。以下、熱電素子としてペルチェ素子とも記載する。図3に例示するように、ペルチェ素子100は、P型半導体101、N型半導体102、金属103,104,105からなる。ペルチェ素子100は、直流電流が通電されると、その通電方向に応じて放熱効果及び吸熱効果を発揮する熱電素子である。具体的には、図3に例示するように電源106からの通電方向が方向Aの場合には、金属103側に吸熱効果が発揮され、金属104,105側に放熱効果が発揮される。一方、通電方向が方向Aとは逆方向に通電された場合には、金属103側に放熱効果が発揮され、金属104,105側に吸熱効果が発揮される。コントローラ20はペルチェ素子群100に対する通電、具体的には、通電する直流電流の大きさとその通電方向とを制御することで、吸熱効果又は放熱効果の大きさ、及び、吸熱効果又は放熱効果を発揮する側面を制御する。このように熱電素子としてペルチェ素子を利用することで、電源として比較的小型のバッテリーを用いることが可能となる。
【0018】
図4は、温度制御装置10の構造を示す縦断面図であり、図5は温度制御装置10内の熱電素子であるペルチェ素子の配置を示す横断面図である。マスコンクリートCに挿入されたシース管11に温度制御装置10が挿入される。温度制御装置10は、例えばアルミニウム等の熱伝導性の高い素材で形成された筒状の挿入部材110と、挿入部材110の内周面に沿って配置されたペルチェ素子群100,100,100…(以下、ペルチェ素子群100と総称する)と、ペルチェ素子群100より内側の挿入部材110の両端部(上端部及び下端部)間に周方向及び軸方向に設けられた内壁材120と、内壁材120及び挿入部材110の下端部間の周方向の間隙並びに挿入部材110及びシース管11間の周方向の間隙を塞ぐ塞ぎ材130と、内壁材120によって形成された空間の軸方向下端部の開口を塞ぐ底材140と備える。なお、図4及び図5においては、温度制御装置10の構造を分かりやすく図示するために、各部のサイズが現実の実施とは異なっている。
なお、挿入部材110及びシース管11間の周方向の間隙を塞ぐ塞ぎ材130は必要に応じて設けてもよい。
【0019】
各ペルチェ素子100は、図示せぬ通電線により、コントローラ20に接続されている。各ペルチェ素子の吸熱効果又は放熱効果を発揮する両側面は、挿入部材110の内周面及び内壁材120の外周面に少なくとも一部がそれぞれ接するように配置されている。各ペルチェ素子100は、コントローラにより或る方向に電流が通電されることにより、挿入部材110側に吸熱効果を発揮し、内壁材120側に放熱効果を発揮するようになっている。また、各ペルチェ素子100は、コントローラ20により上記の或る方向とは逆方向に電流が通電されることにより、挿入部材110側に放熱効果を発揮し、内壁材120側に吸熱効果を発揮することもできる。なお、挿入部材110及び内壁材120は、ペルチェ素子100の吸熱・放熱効果を考慮し、金属製が望ましく、熱伝導性のよい金属製がより望ましい。また、挿入部材110とシース管11との間隙には蓄熱材の硫酸ナトリウムと水和溶液を混合した溶液が熱伝導液体12として充填されている。
【0020】
本実施形態において、ペルチェ素子群100が、銅製の基板上にモジュール化されている。基板を銅製とすることで、低熱容量と均熱性に優れ、温度応答性の速さと温度ばらつきの少なさに寄与する。また、各モジュールは樹脂でコーティングされており、これにより、結露水による腐食への耐性が向上している。
【0021】
マスコンクリートCに挿入されたシース管11への温度制御装置10の軸方向挿入長の全長が数mとなる場合には、所定長さ(例えば1m)の挿入部材110及び内壁材120を長手方向に複数連結して構成する。つまり、この場合、1つの挿入部材110と、1つの内壁材120と、挿入部材110及び内壁材120間に配置されたペルチェ素子群100とを1セットとし、そのセットが、マスコンクリートCへの挿入範囲において軸方向に複数セット連結されて配置されることになる。このように所定長さの温度制御装置を複数連結することにより、マスコンクリートの打設高さに柔軟に適応することができる。また、マスコンクリート打設領域の上空空間に制限がある場合であっても、複数の温度制御装置を連結してその全長を調整可能であるから、その運搬から設置にかかる作業の省力化・省人化を図ることが可能となる。
【0022】
なお、挿入部材110と内壁材120を複数連結して配置する際には、内壁材120の内周面側の空間内に放熱された熱を上方に排熱するため、底材140は最下端の内壁材120にだけ設ける。また、挿入部材110及び内壁材120間の間隙の下端部にある塞ぎ材130も同様に最下端部だけに設けられる。
【0023】
内壁材120側がペルチェ素子群100の放熱効果を発する面である場合、内壁材120によって形成される空間には、ドライアイス、氷又は冷水等の冷却部材150が配置される。この冷却部材150は、空間内に放熱される熱をマスコンクリート外に排熱するために用いられる。
【0024】
また、温度制御装置10が挿入されるシース管11と挿入部材110との間に間隙があるときには、ペルチェ素子群100の放熱、吸熱効果をシース管11に伝達するために、蓄熱材の硫酸ナトリウムと水和溶液を混合した溶液を熱伝導液体12として充填している。
【0025】
挿入部材110は、図5(A)に例示するように、横断面(水平断面)が円形のシース管11と同様に、その横断面(水平断面)が円形の中空管状であってもよいし、図5(B)に例示するように、横断面(水平断面)が円形のシース管11とは異なり、その横断面(水平断面)が多角形(例えば六角形)の中空管状であってもよい。このように挿入部材110の横断面を柱形状にすることで、応力集中を緩和し、長期耐久性能を向上させることができる。図5(B)の場合、多角形(図では六角形)の各面にペルチェ素子群100のモジュールが設けられる。図5(A)の場合、つまり挿入部材110と内壁材120が円形のときには、ペルチェ素子群100は、少なくともその一部が挿入部材110の内周面及び内壁材120に接するように配置されるか、挿入部材110と内壁材120間の間隙も円形となるため、当該間隙に設置するペルチェ素子100として、ペルチェ素子とゴムを組み合わせたやわらかいペルチェ素子群100(例えば株式会社朝日ラバー社製フレキシブルペルチェモジュールAR-TEM-es-02等)を用いることで曲面に対応することができる。
【0026】
本実施形態に係る方法の手順は次のとおりである。まず、作業者は、打設されたマスコンクリート内に複数のシース管11を挿入し、さらに各シース管11に温度制御装置10を挿入する。このとき、作業者は各温度制御装置10を、打設されたマスコンクリート内に対して、所定の間隔及び挿入長で複数挿入する。ここでいう所定の間隔及び挿入長とは、打設されたコンリートの内部温度制御を行うのに十分となるような間隔及び挿入長である。また、温度制御装置10が挿入されるシース管11と挿入部材110との間に間隙がある場合には、作業者は、その間隙に熱伝導液体12を充填する。
【0027】
また、マスコンクリートにシース管11を挿入してから温度制御装置10をシース管11に挿入するとしたが、事前にシース管11内に温度制御装置10を挿入しておいてから温度制御装置10が挿入されているシース管11をマスコンクリートに所定の間隔及び挿入長で挿入するようにしてもよい。
【0028】
次に、作業者は、コントローラ20を操作して、各温度制御装置10に内蔵されたペルチェ素子群100に通電する。この電流の通電方向により、ペルチェ素子群100の挿入部材110側に吸熱効果を発揮させ、且つ、ペルチェ素子群100の内壁材120側に放熱効果を発揮させるか、又は、ペルチェ素子群100の挿入部材110側に放熱効果を発揮させ、且つ、ペルチェ素子群100の内壁材120側に吸熱効果を発揮させることになる。このとき、作業者は、コントローラ20から通電する直流電流の大きさとその通電方向とを調整することで、吸熱効果又は放熱効果の大きさ、及び、吸熱効果又は放熱効果を発揮する側面を設定する。これにより、マスコンクリートの内部温度を適切に制御することができる。
【0029】
上述した実施形態によれば、温度制御装置10の吸熱効果又は放熱効果を通電電流により適切に制御することで、正確な温度コントロールを実現することが可能となる。このような正確な温度コントロールを実現できるので、温度制御装置10の設置本数も少なくすることが可能となり、作業効率を向上させられる。
【0030】
また、挿入部材110とシース管11との間に間隙があったとしても、当該間隙に充填される熱伝導液体12によりペルチェ素子群100による放熱又は吸熱効果はシース管11経由でマスコンクリートCに伝達されるので、マスコンクリートCの内部温度を適切に制御することができる。
【0031】
また、マスコンクリートをその内部から温度コントロールするので、例えば型枠外から温度コントロールする場合に比べて、効率的に内外温度差を解消することが可能となる。
【0032】
さらに、ペルチェ素子100をモジュール化しているので、仮に一部のペルチェ素子100の損傷が発生した場合であっても、モジュール単位で交換することが可能となり、結果として、コストの削減に寄与する。
【0033】
[変形例]
上述した実施形態を以下のように変形してもよい。
前述したとおり、ペルチェ素子100に対する電流の通電方向によって吸熱効果又は放熱効果を発揮する面を切り替えることができる。周知のように、打設されたマスコンクリートの表面温度は外気との接触により外気への放熱(熱伝達)により温度上昇が抑えられるが、マスコンクリートの中心方向に向かうほど温度の放熱がなされにくいため、マスコンクリートの内部と外周部では顕著な温度差が生じ、内部では熱膨張し、外周部ではさほど熱膨張しないため内部拘束による温度ひび割れが生ずる。そこで、マスコンクリートに対する温度制御装置10の鉛直方向位置に応じて、吸熱効果又は放熱効果を発揮する側面を切り替えるようにしてもよい。
【0034】
具体的には、図6の例示において、所定の長さの挿入部材110a、110b、内壁材120a、120bが連結されて1本の温度制御装置10が構成されており、内壁材120a、120bによって形成された空間が繋がっている。この場合に、マスコンクリートCの中心方向にある温度制御装置10bにおいては、挿入部材110b側に吸熱効果を発揮させ、内壁材120b側に放熱効果を発揮させる。一方、マスコンクリートCの外周部にある温度制御装置10aにおいては、挿入部材110a側に放熱効果を発揮させ、内壁材120a側に吸熱効果を発揮させる。つまり、マスコンクリートCの中心部の範囲では挿入部材110b側に吸熱効果を、内壁材120b側に放熱効果を発揮させる一方、マスコンクリートCの外周部では内壁材120a側に吸熱効果を、挿入部材110a側に放熱効果を発揮させる。これにより、マスコンクリートCの外周部に配置されたペルチェ素子100aにおいては、マスコンクリートの中心方向に配置されたペルチェ素子100bによって内壁材120bの空間に放熱された熱を利用して、内壁材120a側から吸熱して挿入部材110a側に放熱を行うことが可能となる。これによって、マスコンクリートの中心部と外周部間の温度差を少なくすることができるので、内部拘束による温度ひび割れの防止のより高い効果を得られる。なお、当該変形例を用いる際には、挿入部材110とシース管11との間隙に充填される熱伝導液体12に吸熱効果と放熱効果が影響しないようペルチェ素子群100bとペルチェ素子群100aの位置に応じて熱伝導率の低い素材(例えばアクリルなど)による区分けの壁体を挿入部材110の外周部に設け、対流による熱の移動を遮断するようにすることが望ましく、必要に応じて間隔をあけて複数の区分けの壁体を設けることがより望ましい。
【0035】
以上のように本発明を実施するための形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で各種の変形が可能である。たとえば、温度制御装置10は打設されたマスコンクリートに対し垂直方向に挿入するとしているが、内壁材120による空間により外部に排熱できるよう上方向に開口となるように斜めに挿入するようにしてもよい。
【0036】
また、打設されたマスコンクリートへの温度制御装置10の平面配置は中心方向に向かうほど多く配置し、外周部は少なく配置するようにしてもよい。
【0037】
本発明によれば、打設されたマスコンクリートにおいて簡便に温度制御を行うことや、コンクリートの位置に応じた熱制御を行うことができるので最適なひび割れ防止効果をもたらすことができる。
【0038】
また、本発明は、打設されたマスコンクリート内にシース管を挿入するシース管挿入ステップと、前記シース管内に請求項2に記載の温度制御装置を挿入する温度制御装置挿入ステップと、前記シース管と前記温度制御装置との間に熱伝導液体を注入する注入ステップと、前記温度制御装置の熱電素子群に通電する通電ステップと、電流の通電方向により、前記熱電素子群の前記挿入部材側に吸熱効果又は放熱効果を発揮させ、前記熱電素子群の前記内壁材側に放熱効果又は吸熱効果を発揮させる熱制御ステップとを備えるマスコンクリートの温度制御方法であってもよい。
【符号の説明】
【0039】
10,10a,10b:温度制御装置、11:シース管、12:熱伝導液体、20:コントローラ、30:通電線、100,100a,100b:ペルチェ素子、110,110a,110b:挿入部材、120,120a,120b:内壁材、130:塞ぎ材、140:底材、150:冷却部材、C:マスコンクリート。
図1
図2
図3
図4
図5
図6