(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024070039
(43)【公開日】2024-05-22
(54)【発明の名称】複合材料製パネル構造体の製造方法および複合材料製パネル構造体
(51)【国際特許分類】
B29C 70/42 20060101AFI20240515BHJP
B29C 70/16 20060101ALI20240515BHJP
B29C 43/18 20060101ALI20240515BHJP
B29K 105/08 20060101ALN20240515BHJP
B29L 9/00 20060101ALN20240515BHJP
【FI】
B29C70/42
B29C70/16
B29C43/18
B29K105:08
B29L9:00
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022180388
(22)【出願日】2022-11-10
(71)【出願人】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100178582
【弁理士】
【氏名又は名称】行武 孝
(72)【発明者】
【氏名】市瀬 貴啓
(72)【発明者】
【氏名】木田 翔大
【テーマコード(参考)】
4F204
4F205
【Fターム(参考)】
4F204AC03
4F204AD16
4F204AG03
4F204AG28
4F204AJ08
4F204FA01
4F204FB01
4F204FB11
4F204FG09
4F204FH19
4F204FJ10
4F204FN11
4F204FN15
4F204FQ15
4F205AC03
4F205AD16
4F205AG03
4F205AG28
4F205AJ08
4F205HA08
4F205HA14
4F205HA25
4F205HA37
4F205HA45
4F205HB01
4F205HG06
4F205HK03
4F205HK04
4F205HK31
4F205HT13
4F205HT26
(57)【要約】
【課題】リブ内における繊維の充填率を維持しつつ、高い強度を備えた複合材料製パネル構造体の製造方法および複合材料製パネル構造体を提供する。
【解決手段】強化繊維として連続繊維を含む第1シート材101に、賦形性が高い第2シート材102を積層して積層体100を形成する。凹部K3を有する成形型Kによって積層体100をプレス成形し、第1シート材101および第2シート材102を含む基板部11と、少なくとも第2シート材102を含み凹部K3に対応して基板部11から立設するリブ12とを含むパネル構造体10を製造する。第2シート材102に予め切込みを形成することで、第2シート材102の賦形性を高める。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
強化繊維およびマトリクス樹脂を含有する複合材料製のパネル構造体を製造する複合材料製パネル構造体の製造方法であって、
前記強化繊維として連続繊維を含む第1シート材に、前記強化繊維を含み前記第1シート材よりも賦形性が高い第2シート材を積層して積層体を形成し、
凹部を有する成形型を前記凹部が前記第2シート材に対向するように配置して前記成形型によって前記積層体をプレス成形し、前記第1シート材および前記第2シート材を含む基板部と、少なくとも前記第2シート材を含み前記凹部に対応して前記基板部から立設するリブとを含む前記パネル構造体を製造する、複合材料製パネル構造体の製造方法。
【請求項2】
前記第2シート材として連続繊維を含むシート材を準備し、当該シート材に切込みを入れることで、前記第2シート材の賦形性を前記第1シート材よりも高く設定することを更に備える、請求項1に記載の複合材料製パネル構造体の製造方法。
【請求項3】
前記成形型として、複数の前記リブを形成するための複数の凹部を有するものを準備し、
前記プレス成形前に前記複数の凹部を前記第2シート材にそれぞれ投影した領域を複数の仮想リブ領域とすると、前記第2シート材のうち前記複数の仮想リブ領域によって囲まれた仮想内部領域を前記複数の凹部の数に応じて分断するように前記切込みを入れることを含む、請求項2に記載の複合材料製パネル構造体の製造方法。
【請求項4】
前記成形型として、接続された3以上の前記凹部を有するものを準備し、
前記仮想リブ領域同士の接続点と前記仮想内部領域の重心位置とを結ぶ複数の線分によって前記仮想内部領域を分断するように前記切込みを入れることを更に含む、請求項3に記載の複合材料製パネル構造体の製造方法。
【請求項5】
前記第2シート材として不連続繊維を含むシート材を用いることで、前記第2シート材の賦形性を前記第1シート材よりも高く設定することを更に備える、請求項1に記載の複合材料製パネル構造体の製造方法。
【請求項6】
前記第2シート材のうち前記凹部に対向する領域と前記第1シート材との間にフィラーを更に配置して前記積層体を形成することを備える、請求項1に記載の複合材料製パネル構造体の製造方法。
【請求項7】
少なくとも前記第2シート材のうち前記凹部に対向する領域と前記フィラーとの間に第3シート材を更に配置して前記積層体を形成することを備える、請求項6に記載の複合材料製パネル構造体の製造方法。
【請求項8】
前記成形型として前記凹部が前記第2シート材と平行な長手方向に延びるものを準備し、前記第3シート材として連続繊維を含むシート材を準備し、
前記第3シート材の前記連続繊維の配向方向が前記長手方向と交差するように、前記フィラーと前記第2シート材との間に前記第3シート材を配置して前記積層体を形成することを備える、請求項7に記載の複合材料製パネル構造体の製造方法。
【請求項9】
強化繊維およびマトリクス樹脂を含有する複合材料製のプレス成型品であるパネル構造体であって、
第1面と前記第1面とは反対の第2面とを有する基板部と、
前記基板部の前記第2面から立設するリブと、を備え、
前記基板部のうち少なくとも前記第1面を含む領域には、前記強化繊維として連続繊維を含む第1層が配置され、
前記基板部のうち前記第2面を含む領域および前記リブには、前記強化繊維を含み前記第1層よりもプレス成型時の賦形性が高い構造を有する第2層が配置されている、複合材料製パネル構造体。
【請求項10】
前記第2層は切込み入りの連続繊維を含む、請求項9に記載の複合材料製パネル構造体。
【請求項11】
前記第2層は不連続繊維を含む、請求項9に記載の複合材料製パネル構造体。
【請求項12】
前記リブの基端部において前記第1層および前記第2層に囲まれた三角形状の断面を有するフィラー領域に配置されたフィラー層を更に備える、請求項9に記載の複合材料製パネル構造体。
【請求項13】
前記第2層と前記フィラー層との間に配置され、前記第1層とともに前記フィラー領域を形成するフィラー押さえ層を更に備える、請求項12に記載の複合材料製パネル構造体。
【請求項14】
前記フィラー押さえ層は、前記リブが前記第2面に沿って延びる長手方向と交差する方向に配向された連続繊維を含む、請求項13に記載の複合材料製パネル構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、複合材料製パネル構造体の製造方法および複合材料製パネル構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、軽く強度の高い特性を有する複合材料は金属に代わる軽量化材料として、航空機、自動車をはじめとする各種の産業分野での利用が期待されている。このような複合材料の適用が進む中で、高い生産性と低コストでの製造が可能なプレス成形法が注目されている。更に、複合材料をプレス成形することによって製造されるパネル構造体として、軽量かつ高い剛性を有するためにリブなどの立設部位を有するものが知られている。
【0003】
リブなどの立設部位を有する成形体を製造する場合、特許文献1に記載されたようなランダムマット材が用いられることが多い。ランダムマット材の一例として、SMC(シート・モールディング・コンパウンド)が知られている。ランダムマット材は、不連続の強化繊維と樹脂組成物とを含む。ランダムマット材は、プレス成形時にリブの形状に応じて変形しやく、更に前記リブ内に繊維が入りやすいという、いわゆる賦形性を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような不連続繊維を含むランダムマット材のみから製造されるパネル構造体は、連続繊維を含む材料から構成されるものと比較して強度が劣るという問題があった。一方、連続繊維を含む材料のみから製造されるパネル構造体は、連続繊維が変形しにくいことに起因して、リブ内に繊維が流れ込みにくいという問題があった。
【0006】
本開示の目的は、リブ内における繊維の充填率を維持しつつ、高い強度を備えた複合材料製パネル構造体の製造方法および複合材料製パネル構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一の局面に係る複合材料製パネル構造体の製造方法は、強化繊維およびマトリクス樹脂を含有する複合材料製のパネル構造体を製造する複合材料製パネル構造体の製造方法であって、前記強化繊維として連続繊維を含む第1シート材に、前記第1シート材よりも賦形性が高い第2シート材を積層して積層体を形成し、凹部を有する成形型を前記凹部が前記第2シート材に対向するように配置して前記成形型によって前記積層体をプレス成形し、前記第1シート材および前記第2シート材を含む基板部と、少なくとも前記第2シート材を含み前記凹部に対応して前記基板部から立設するリブとを含む前記パネル構造体を製造するものである。
【0008】
また、本開示の他の局面に係る複合材料製パネル構造体は、強化繊維およびマトリクス樹脂を含有する複合材料製のプレス成型品であるパネル構造体であって、第1面と前記第1面とは反対の第2面とを有する基板部と、前記基板部の前記第2面から立設するリブと、を備え、前記基板部のうち少なくとも前記第1面を含む領域には、前記強化繊維として連続繊維を含む第1層が配置され、前記基板部のうち前記第2面を含む領域および前記リブには、前記第1層よりもプレス成型前の賦形性が高い構造を有する第2層が配置されている。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、リブ内における繊維の充填率を維持しつつ、高い強度を備えた複合材料製パネル構造体の製造方法および複合材料製パネル構造体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本開示に係るパネル構造体の模式的な平面図である。
【
図2】
図2は、
図1のパネル構造体の矢印II-II位置における模式的な断面図である。
【
図3】
図3は、本開示に係るパネル構造体の製造に用いられる積層体および成形型の模式的な断面図である。
【
図4】
図4は、本開示に係るパネル構造体の製造に用いられる積層体に切込みが形成された様子を示す模式的な平面図である。
【
図5】
図5は、
図3の積層体をプレス成形したパネル構造体の模式的な断面図である。
【
図6】
図6は、本開示に係るパネル構造体の断面図であって、フィラー押さえを有する場合の断面図である。
【
図7】
図7は、本開示に係るパネル構造体の断面図であって、フィラー押さえを有さない場合の断面図である。
【
図8】
図8は、本開示の変形例に係るパネル構造体におけるプレス成形前の積層体の切込みの配置を示す模式的な平面図である。
【
図9】
図9は、本開示の変形例に係るパネル構造体におけるプレス成形前の積層体の切込みの配置を示す模式的な平面図である。
【
図10】
図10は、本開示の変形例に係るパネル構造体におけるプレス成形前の積層体の切込みの配置を示す模式的な平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面に基づいて、本開示の一実施形態を詳細に説明する。
図1は、本開示に係るパネル構造体10の模式的な平面図である。
図2は、
図1のパネル構造体10の矢印II-II位置における模式的な断面図である。以下では、本実施形態に係る複合材料製のパネル構造体を略してパネル構造体10と称する。パネル構造体10は、強化繊維およびマトリクス樹脂を含有する複合材料製のプレス成形品である。パネル構造体10は、基板部11と、基板部11から立設する複数のリブ12とを有している。なお、
図1の平面図では、パネル構造体10の一部を波線で抜き出して図示している。本実施形態では、パネル構造体10は3つのリブ12を有しており、各々のリブ12の両端部は互いに接続され、平面視で三角形を形成している。パネル構造体10は、
図1に示す構造を1単位として、複数の前記構造を備えるものでも良い。
【0012】
図2に示すように、基板部11は、第1面11Aと、第1面11Aとは反対側の第2面11Bとを含む。リブ12は、基板部11の第2面11Bから立設する。各リブ12は、第2面11Bに沿って
図2の紙面と直交する長手方向にそれぞれ延びている。各リブ12は、パネル構造体10の剛性を高める機能を有している。なお、
図2に示すように、基板部11のうちリブ12が立設する部位をリブ底部14と称する。
【0013】
パネル構造体10は、第1層10Aおよび第2層10Bを含む積層構造を有している。第1層10Aは、基板部11の第1面11Aを含む領域に配置されている。第2層10Bは、基板部11の第2面11Bを含む領域およびリブ12に配置されている。第1層10Aおよび第2層10Bの各々は、複数の複合材料層21を含む。
図2では、複合材料層21に含まれる強化繊維を太線で示している。本実施形態では、当該強化繊維として、連続繊維が用いられている。また、第2層10Bは、第1層10Aと比較して、パネル構造体10のプレス成形時における賦形性が高い構造を有している。具体的に、第2層10Bは、切込み入りの連続繊維を含んでいる。当該切込みの形状については、後記で詳述する。
【0014】
更に、パネル構造体10は、連続繊維を含むフィラー押さえ層22と、フィラー層23とを有する。パネル構造体10のうちフィラー層23が配置される領域をフィラー領域15と称する。フィラー領域15は、リブ12の基端部において第1層10Aおよび第2層10Bに囲まれた領域である。フィラー押さえ層22は、第2層10Bとフィラー層23との間に配置され、
図1に示すように、第1層10Aとともに三角形状の断面を有するフィラー領域15を形成している。フィラー押さえ層22は、連続繊維を含む。当該連続繊維は、リブ12が延びる方向と交差する方向に配向されている。一例として、フィラー押さえ層22に含まれる連続繊維は、リブ12の長手方向、すなわち、
図2の紙面と直交する方向に対して45度以上90度以下の角度で交差するように配置されている。
【0015】
図3は、本実施形態に係るパネル構造体10の製造に用いられる積層体100および成形型Kの模式的な断面図である。
図4は、積層体100に切込みJが形成された様子を示す模式的な平面図である。
図5は、
図2Aの積層体100をプレス成形したパネル構造体10の模式的な断面図である。
【0016】
図3に示すように、予め準備された積層体100を成形型Kによってプレス成形することで、パネル構造体10が製造される。積層体100は、第1シート材101と、第1シート材101上に積層された第2シート材102と、フィラー押さえ22Aと、フィラー23Aとを有する。なお、積層体100は、プリフォームとも言う。
【0017】
第1シート材101、第2シート材102およびフィラー押さえ22Aの各々は、強化繊維として連続繊維を含むプリプレグを積層したものである。第1シート材101はスキン材とも言う。また、第2シート材102はパッチ材とも言う。
【0018】
上記のプリプレグとして、パネル構造体10の複合材料層を構成する強化繊維および樹脂組成物の具体的な種類は特に限定されるものではない。強化繊維は、パネル構造体10が適用される部品において良好な物性を実現できるものであれば、その具体的な種類は特に限定されないが、例えば、炭素繊維、ポリエステル繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、ボロン繊維、アラミド繊維、ガラス繊維、シリカ繊維、炭化ケイ素繊維、ナイロン繊維、等を挙げることができる。これら強化繊維は、1種類のみが用いられてもよいし2種類以上が適宜組み合わせて用いられてもよい。本実施形態では、強化繊維として炭素繊維が好適に用いられる。また、強化繊維の使用形態は特に限定されないが、代表的には、組物、織物、編物、不織布等で構成された基材として用いることができる。
【0019】
また、強化繊維に含浸される樹脂組成物は、基材を支持するマトリクス材(母材)として使用可能な樹脂材料を含有していればよい。具体的な樹脂材料としては、熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂とが挙げられる。
【0020】
熱硬化性樹脂の具体的な種類は特に限定されないが、代表的には、例えば、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、シアネートエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂等が挙げられる。これら熱硬化性樹脂は単独種で用いられてもよいし、複数種が組み合わせられて用いられもよい。また、これら熱硬化性樹脂のより具体的な化学構造も特に限定されず、公知の種々のモノマーが重合されたポリマーであってもよいし、複数のモノマーが重合されたコポリマーであってもよい。また、平均分子量、主鎖および側鎖の構造等についても特に限定されない。
【0021】
また、熱可塑性樹脂の具体的な種類も特に限定されないが、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド等のエンジニアリングプラスチックが好適に用いられる。これら熱可塑性樹脂もより具体的な化学構造は特に限定されず、公知の種々のモノマーが重合されたポリマーであってもよいし、複数のモノマーが重合されたコポリマーであってもよい。また、平均分子量、主鎖および側鎖の構造等についても特に限定されない。
【0022】
複合材料のマトリクス材は、前述した熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂のみで構成されてもよいが、公知の硬化剤、硬化促進剤、繊維基材以外の補強材または充填材、その他公知の添加剤を含んでいてもよい。硬化剤、硬化促進剤等の添加剤の具体的な種類、組成等についても特に限定されず、公知の種類または組成のものを好適に用いることができる。
【0023】
すなわち、本開示においては、マトリクス材は、熱硬化性樹脂および他の成分を含有する熱硬化性樹脂組成物、あるいは、熱可塑性樹脂および他の成分を含有する熱可塑性樹脂組成物であってもよい。したがって、本開示においては、複合材料は、強化繊維と熱硬化性樹脂または熱硬化性樹脂組成物とで構成される「熱硬化型」であってもよいし、強化繊維と熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂組成物とで構成される「熱可塑型」であってもよい。
【0024】
フィラー押さえ22Aは、本開示における第3シート材に相当する。このフィラー押さえ22Aは、単層のプリプレグでもよい。また、フィラー押さえ22Aは、フィラー層23が配置される領域に限定して設けられても良い。
【0025】
フィラー23Aは、第1シート材101と第2シート材102との間において、パネル構造体10のリブ12が形成される領域に配置される。フィラー23Aは、連続繊維または不連続繊維のいずれを含むものでもよい。本実施形態では、
図3に示すように、長さが異なる複数のフィラーが三角形状に積層されている。
【0026】
一方、成形型Kは、第1型K1と、第2型K2とを有し、第2型K2はリブ12を成形するための凹部K3を有している。なお、
図1に示すように本実施形態に係るパネル構造体10は互いに接続された3つのリブ12を有している。したがって、第2型K2は、各リブ12に対応するように3つの凹部K3を有している。
図4に示す積層体100の平面図には、
図1の3つのリブ12に対応する3つの仮想リブ領域12Sが破線で描かれている。3つの仮想リブ領域12Sは、プレス成形前において、上記の3つの凹部K3をプレス方向に沿って積層体100の第2シート材102上に投影した領域に相当する。なお、第2シート材102のうち複数の仮想リブ領域12Sによって囲まれた領域を仮想内部領域Rと称する。
【0027】
図4に示すように、プレス成形前に、第2シート材102には3つの切込みJが形成される。当該3つの切込みJは、凹部K3の数に応じて仮想内部領域Rを分断するように設定されている。具体的に、各切込みJは、仮想リブ領域12S同士の接続点Pと仮想内部領域Rの重心位置Qとを結ぶ線分上に形成されている。この結果、1つの仮想リブ領域12Sと2つの切込みJとによって小さな三角形が形成される。仮想内部領域Rには、3つの前記三角形が形成される。
【0028】
図3に示すように、凹部K3の下方の仮想リブ領域12S周辺では、積層体100として第1シート材101、フィラー23A、フィラー押さえ22Aおよび第2シート材102が順に積層されている。この状態で、第1型K1および第2型K2を含む成形型Kによって、
図3の上下方向に沿って積層体100がプレス成形されると、
図5に示すようにパネル構造体10が製造される。パネル構造体10の基板部11は、第1シート材101を材料とする第1層10A、第2シート材102を材料とする第2層10Bを含む。リブ12は、主に第2シート材102を材料とする第2層10Bによって形成される。リブ12の基端部には、フィラー層23が形成され、フィラー層23の直上をフィラー押さえ層22が覆っている。
【0029】
本実施形態では、上記のプレス成形時に、第2シート材102のうち切込みJによって分断された各領域が、
図4の白抜き矢印で示すように、仮想リブ領域12S、すなわち凹部K3に向かってスムーズに流れ込むことができる。換言すれば、第2シート材102のうち複数の凹部K3に流れ込もうとする各領域が互いに引っ張り合うことが抑制される。この結果、第2シート材102に含まれる連続繊維をリブ12の内部に広く充填させることができる。
【0030】
このように、本実施形態では、強化繊維として連続繊維を含む第2シート材102に複数の切込みJが形成されることで、第2シート材102の賦形性、すなわち、凹部K3への入り込みやすさが第1シート材101の賦形性よりも高く設定される。なお、切込みJは、第2シート材102のみならず、フィラー押さえ22Aおよびフィラー23Aのうちの少なくとも一方にも形成されてもよい。
【0031】
また、第1シート材101および第2シート材102は、強化繊維として連続繊維を含んでいるため、成形後の積層体100の強度、剛性を高く維持することができる。特に、従来のように、積層体100としてランダムマット材を積層したものを使用する場合と比較して、強度、剛性が向上したパネル構造体10を製造することができる。更に、積層体100の積層時に、第1シート材101および第2シート材102の連続繊維の方向を適宜設定することによって、異方性を考慮したパネル構造体10の設計、製造を行うことができる。
【0032】
また、リブ12の基端部にはフィラー層23が形成されているため、第1層10Aすなわちプレス成形前の第1シート材101がリブ12側に引き込まれることを防ぐことができる。なお、第2シート材102の厚さを大きくして第1シート材101の引き込みを防いでも良いが、この場合、パネル構造体10の板厚が大きくなってしまう。したがって、パネル構造体10の板厚を薄くしたい場合には、リブ12の基端部にフィラー層23を形成することが望ましい。
【0033】
図6は、本実施形態に係るパネル構造体10の断面図であって、フィラー押さえ層22を有する場合の断面図である。
図7は、本実施形態に係るパネル構造体10と比較される他のパネル構造体10の断面図であって、フィラー押さえ層22を有さない場合の断面図である。
図6、
図7は、いずれも実際に試作したパネル構造体10の断面写真を模式的に図示したものである。
【0034】
図3のように、本実施形態では、積層体100の仮想リブ領域12Sでは、フィラー23Aの上方に連続繊維を含むフィラー押さえ22Aが配置されている。このため、プレス成形時にフィラー23Aが凹部K3に向かって押し上げられることが抑制される。この結果、
図6に示すように、リブ12の先端部分には第2シート材102に基づく第2層10Bが安定して配置される。また、リブ12の基端部にフィラー層23が略三角形状に形成されており、その下方に、第1シート材101に基づく第1層10Aが略平板状に安定して形成されている。なお、フィラー押さえ22Aの連続繊維の配向方向は、凹部K3すなわちリブ12の長手方向と交差するように配置されることが望ましい。特に、凹部K3の長手方向と前記配向方向とが45度以上90度以下の鋭角で交差することが望ましい。この場合、フィラー押さえ22Aの連続繊維が、フィラー23Aを安定して押さえつけることができる。
【0035】
一方、積層体100の仮想リブ領域12Sにおいて、フィラー23Aの上方にフィラー押さえ22Aが配置されない場合、プレス成形時に、フィラー23Aが凹部K3に向かって押し上げられるため、
図7に示すように、リブ12の先端部にフィラー層23が配置される場合がある。この場合、第1層10Aの一部がリブ12の中央部まで分布する。なお、
図7に示す状態でも、リブ12の内部には第2層10Bおよびフィラー層23の繊維が充填されるため、リブ12の強度を保つことが可能である。ただし、第1層10Aの一部がリブ12内に流れ込むため、
図2のリブ底部14付近に窪みが発生するとともに第1シート材101の繊維(スキン)にうねりが発生するため、スキンの強度が低下する可能性がある。このため、
図3に示すように、フィラー23Aの上方にフィラー押さえ22Aが配置されることが望ましい。ただし、
図2におけるフィラー押さえ22Aおよびフィラー23Aは必須の構成ではない。
【0036】
図8、
図9、
図10は、上記の実施形態の各変形例に係るパネル構造体10におけるプレス成形前の積層体100の切込みの配置を示す模式的な平面図である。
【0037】
図8に示す変形例では、パネル構造体10が2つのリブ12を有し、第2シート材102の仮想内部領域Rが1つの切込みJによって二分される。この場合も、成形型Kによって積層体100がプレス成形されると、第2シート材102のうち切込みJによって二分された各領域が、
図8の白抜き矢印で示すように
図3の凹部K3に向かってスムーズ流れ込むことができる。
【0038】
同様に、
図9に示す例では、パネル構造体10が4つのリブ12を有し、第2シート材102の仮想内部領域Rが4つの切込みJによって分断される。この場合も、成形型Kによって積層体100がプレス成形されると、第2シート材102のうち切込みJによって分断された各領域が、
図9の白抜き矢印で示すように
図3の凹部K3に向かってスムーズ流れ込むことができる。
【0039】
更に、
図10に示す例では、パネル構造体10が6つのリブ12を有し、第2シート材102の仮想内部領域Rが6つの切込みJによって分断される。この場合も、成形型Kによって積層体100がプレス成形されると、第2シート材102のうち切込みJによって分断された各領域が、
図10の白抜き矢印で示すように
図3の凹部K3に向かってスムーズ流れ込むことができる。
【0040】
以上、本開示に係るパネル構造体10およびその製造方法について説明したが、本開示は上掲の実施形態に何ら限定されない。例えば、上述のパネル構造体10などについて、次のような変形実施形態を取ることができる。
【0041】
上記の説明では、第2シート材102の賦形性を第1シート材101よりも高く設定し、凹部K3への流れ込みを促進する構造として、第2シート材102に切込みJが形成される態様にて説明したが、本開示はこれに限定されるものではない。一例として、強化繊維として連続繊維を含む第1シート材101に対して、第2シート材102が強化繊維として不連続繊維を含むことで、第2シート材102の賦形性を高める態様でもよい。
【0042】
この場合、第2シート材102として公知のSMC(シート・モールディング・コンパウンド)などのランダムマット材を用いることができる。例えば、第2シート材102は、強化材となる炭素繊維を長さ10mmから50mm程に裁断し、樹脂、硬化剤、内部離型剤などを混合した樹脂ペーストに含浸させ、さらに加熱し増粘させることで、シート状に成形される。このような、第2シート材102を第1シート材101上に積層して積層体100を形成した場合、第2シート材102内の強化繊維が比較的短いため、プレス成形時に、第2シート材102が凹部K3内に流れ込みやすい。したがって、成形後のパネル構造体10のリブ12内に強化繊維を広く充填させることができる。
【0043】
一方、パネル構造体10の基板部11には、連続繊維を含む第1シート材101が配置されているため、パネル構造体10の強度、剛性を高く維持することができる。なお、本実施形態においても、先の実施形態と同様に、フィラー押さえ22A、フィラー23Aを配置することで、成形後のパネル構造体10にフィラー押さえ層22およびフィラー層23を形成することが可能となり、先の実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0044】
また、上記の各実施形態では、第2シート材102に比較的大きな切込みJを入れることで、賦形性を高める態様にて説明したが、複数のスリットを入れることで賦形性を高めるものでもよい。この場合、スリットは、例えば1mm以上50mm以下程度の長さを有し、第2シート材102に含まれる連続繊維の繊維方向に対して0度よりも大きく90度以下の鋭角で交差する方向に沿って形成されることが望ましい。
【0045】
[本開示のまとめ]
以上説明した具体的実施形態には、以下の構成を有する開示が含まれている。
【0046】
本開示の第1の局面に係る複合材料製パネル構造体の製造方法は、強化繊維およびマトリクス樹脂を含有する複合材料製のパネル構造体を製造する方法である。当該製造方法では、前記強化繊維として連続繊維を含む第1シート材に、前記強化繊維を含み前記第1シート材よりも賦形性が高い第2シート材を積層して積層体を形成し、凹部を有する成形型を前記凹部が前記第2シート材に対向するように配置して前記成形型によって前記積層体をプレス成形し、前記第1シート材および前記第2シート材を含む基板部と、少なくとも前記第2シート材を含み前記凹部に対応して前記基板部から立設するリブとを含む前記パネル構造体を製造する。
【0047】
本方法によれば、パネル構造体のリブ側に第1シート材よりも賦形性の高い第2シート材を用いることで、成形時に第2シート材の凹部への流れ込みが促進され、リブ内の広い範囲に強化繊維を充填することができる。更に、第1シート材、第2シート材ともに、内部に強化繊維を含む層を有している。このため、リブを備えながら、強度、剛性が高いパネル構造体を製造することができる。
【0048】
また、本開示の第2の局面に係る複合材料製パネル構造体の製造方法は、第1の局面に係る製造方法において、前記第2シート材として連続繊維を含むシート材を準備し、当該シート材に切込みを入れることで、前記第2シート材の賦形性を前記第1シート材よりも高く設定することを更に備える。
【0049】
本方法によれば、第2シート材に予め切込みを入れることで、その賦形性を高めて、成形時に第2シート材の凹部への流れ込みを促進することができる。
【0050】
また、本開示の第3の局面に係る複合材料製パネル構造体の製造方法は、第2の局面に係る製造方法において、前記成形型として、複数の前記リブを形成するための複数の凹部を有するものを準備し、前記プレス成形前に前記複数の凹部を前記第2シート材にそれぞれ投影した領域を複数の仮想リブ領域とすると、前記第2シート材のうち前記複数の仮想リブ領域によって囲まれた仮想内部領域を前記複数の凹部の数に応じて分断するように前記切込みを入れることを含む。
【0051】
本方法によれば、第2シート材の仮想内部領域を切込みによって分断することで、分断された各領域が凹部内にスムーズに流れ込むため、連続繊維を広く分布させつつ複数のリブを安定して形成することができる。
【0052】
また、本開示の第4の局面に係る複合材料製パネル構造体の製造方法は、第3の局面に係る製造方法において、前記成形型として、接続された3以上の前記凹部を有するものを準備し、前記仮想リブ領域同士の接続点と前記仮想内部領域の重心位置とを結ぶ複数の線分によって前記仮想内部領域を分断するように前記切込みを入れることを更に含む。
【0053】
本方法によれば、成形型が3以上の凹部を有する場合であっても、第2シート材が各凹部内にスムーズに流れ込むことができる。
【0054】
また、本開示の第5の局面に係る複合材料製パネル構造体の製造方法は、第1の局面に係る製造方法において、前記第2シート材として不連続繊維を含むシート材を用いることで、前記第2シート材の賦形性を前記第1シート材よりも高く設定することを更に備える。
【0055】
本方法によれば、第2シート材に不連続繊維を含む材料を用いることで、その賦形性を高めて、成形時に第2シート材の凹部への流れ込みを促進することができる。
【0056】
また、本開示の第6の局面に係る複合材料製パネル構造体の製造方法は、第1から第5の局面に係る製造方法において、前記第2シート材のうち前記凹部に対向する領域と前記第1シート材との間にフィラーを更に配置して前記積層体を形成することを備える。
【0057】
本方法によれば、プレス成形時に、第1シート材が凹部に流れ込むことを抑制することができる。
【0058】
また、本開示の第7の局面に係る複合材料製パネル構造体の製造方法は、第6の局面に係る製造方法において、少なくとも前記第2シート材のうち前記凹部に対向する領域と前記フィラーとの間に第3シート材を更に配置して前記積層体を形成することを備える。
【0059】
本方法によれば、プレス成形時に、フィラーが凹部に流れ込むことを抑制することができる。
【0060】
更に、本開示の第8の局面に係る複合材料製パネル構造体の製造方法は、第7の局面に係る製造方法において、前記成形型として前記凹部が前記第2シート材と平行な長手方向に延びるものを準備し、前記第3シート材として連続繊維を含むシート材を準備し、前記第3シート材の前記連続繊維の配向方向が前記長手方向と交差するように、前記フィラーと前記第2シート材との間に前記第3シート材を配置して前記積層体を形成することを備える。
【0061】
本方法によれば、第3シート材の連続繊維の配向方向を調整することで、プレス成形時に、フィラーが凹部に流れ込むことを更に抑制することができる。なお、第3シート材として織物材を用いてもよい。この場合、繊維の方向は一方向ではないため、織物材を積層する際の角度を規定する必要はない。
【0062】
また、本開示の第9の局面に係る複合材料製パネル構造体は、強化繊維およびマトリクス樹脂を含有する複合材料製のプレス成型品であるパネル構造体である。当該パネル構造体は、第1面と前記第1面とは反対の第2面とを有する基板部と、前記基板部の前記第2面から立設するリブと、を備え、前記基板部のうち少なくとも前記第1面を含む領域には、前記強化繊維として連続繊維を含む第1層が配置され、前記基板部のうち前記第2面を含む領域および前記リブには、前記強化繊維を含み前記第1層よりもプレス成型時の賦形性が高い構造を有する第2層が配置されている。
【0063】
本構成によれば、パネル構造体のリブ側に第1層よりもプレス時の賦形性が高い第2層を配置することで、リブ内の広い範囲に強化繊維を充填することができる。更に、第1層、第2層ともに内部に強化繊維を有しているため、リブを備え、強度、剛性が高いパネル構造体を取得することができる。
【0064】
本開示の第10の局面に係る複合材料製パネル構造体は、第9の局面に係るパネル構造体において、前記第2層は切込み入りの連続繊維を含むものである。
【0065】
本構成によれば、切込み入りの連続繊維を含む材料によって第2層を形成することで、その賦形性を高めて、第2層の連続繊維をリブ内に広く分布させることができる。
【0066】
本開示の第11の局面に係る複合材料製パネル構造体は、第9の局面に係るパネル構造体において、前記第2層は不連続繊維を含むものである。
【0067】
本構成によれば、不連続繊維を含む材料によって第2層を形成することで、当該第2層の賦形性を高めて、強化繊維をリブ内に広く分布させることができる。
【0068】
本開示の第12の局面に係る複合材料製パネル構造体は、第9から第11の局面に係るパネル構造体において、前記リブの基端部において前記第1層および前記第2層に囲まれた三角形状の断面を有する領域に配置されたフィラー層を更に備える。
【0069】
本構成によれば、プレス成形時に、第1層がリブに流れ込むことを抑制し、基板部に第1層を安定して分布させることができる。
【0070】
本開示の第13の局面に係る複合材料製パネル構造体は、第12の局面に係るパネル構造体において、前記第2層と前記フィラー層との間に配置され、前記第1層とともに前記三角形状の断面を有する領域を形成するフィラー押さえ層を更に備える。
【0071】
本構成によれば、プレス成形時にフィラー層がリブ内に流れ込むことを抑制することができる。
【0072】
本開示の第14の局面に係る複合材料製パネル構造体は、第13の局面に係るパネル構造体において、前記フィラー押さえ層は、前記リブが前記第2面に沿って延びる方向と交差する方向に配向された連続繊維を含むものである。
【0073】
本構成によれば、フィラー押さえ層の連続繊維の配向方向を調整することで、プレス成形時にフィラー層がリブ内に流れ込むことを更に抑制することができる。
【符号の説明】
【0074】
10 パネル構造体
100 積層体
101 第1シート材
102 第2シート材
10A 第1層
10B 第2層
11 基板部
11A 第1面
11B 第2面
12 リブ
12S 仮想リブ領域
14 リブ底部
15 フィラー領域
21 複合材料層
22 フィラー押さえ層
22A フィラー押さえ
23 フィラー層
23A フィラー
J 切込み
K 成形型
K1 第1型
K2 第2型
K3 凹部
P 接続点
Q 重心位置
R 仮想内部領域