(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024070051
(43)【公開日】2024-05-22
(54)【発明の名称】電子写真用感光体、その製造方法および電子写真装置
(51)【国際特許分類】
G03G 5/05 20060101AFI20240515BHJP
G03G 5/047 20060101ALI20240515BHJP
G03G 5/06 20060101ALI20240515BHJP
【FI】
G03G5/05 104B
G03G5/047
G03G5/05 102
G03G5/06 312
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022180408
(22)【出願日】2022-11-10
(71)【出願人】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096714
【弁理士】
【氏名又は名称】本多 一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100124121
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 由美子
(74)【代理人】
【識別番号】100176566
【弁理士】
【氏名又は名称】渡耒 巧
(74)【代理人】
【識別番号】100180253
【弁理士】
【氏名又は名称】大田黒 隆
(72)【発明者】
【氏名】北川 清三
(72)【発明者】
【氏名】大倉 健一
【テーマコード(参考)】
2H068
【Fターム(参考)】
2H068AA13
2H068AA19
2H068AA20
2H068AA34
2H068AA35
2H068AA36
2H068AA54
2H068BA12
2H068BA60
2H068BA63
2H068BA64
2H068BB25
2H068CA32
2H068EA16
2H068FA02
2H068FA03
2H068FC02
2H068FC08
(57)【要約】 (修正有)
【課題】動作安定性に優れるとともに、油脂若しくは皮脂などの汚染成分付着によって生じるクラックに起因する画像欠陥の発生がなく、オゾンによる電気特性の劣化が少なく、接触部材によって生じるクリープ変形に起因する画像欠陥の発生がなく、安定して高画像品質が得られる、高感度でかつ高耐久な正帯電積層型電子写真用感光体を提供する。
【解決手段】導電性基体1上に、少なくとも第一正孔輸送材料および第一樹脂バインダーを含む電荷輸送層3と、少なくとも第二正孔輸送材料、電子輸送材料、電荷発生材料および第二樹脂バインダーを含む電荷発生層4とが順次積層された正帯電積層型電子写真用感光体である。電荷輸送層が、下記一般式(AD1)で示される化合物を含有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性基体上に、少なくとも第一正孔輸送材料および第一樹脂バインダーを含む電荷輸送層と、少なくとも第二正孔輸送材料、電子輸送材料、電荷発生材料および第二樹脂バインダーを含む電荷発生層とが順次積層された正帯電積層型電子写真用感光体において、
前記電荷輸送層が、下記一般式(AD1)で示される化合物を含有する電子写真用感光体。
(式(AD1)中、R
1~R
10はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有する若しくは無置換の炭素数1~5のアルキル基、置換基を有する若しくは無置換のアリール基、または、炭素数1~5のアルコキシ基を表す。置換基はハロゲン原子、炭素数1~5のアルキル基、アリール基または炭素数1~5のアルコキシ基を表す。)
【請求項2】
前記電荷輸送層中の前記一般式(AD1)で示される化合物の含有量が、前記第一正孔輸送材料および前記第一樹脂バインダーの合計100質量部に対し、15質量部以上30質量部以下である請求項1記載の電子写真用感光体。
【請求項3】
前記電荷発生層が、下記一般式(AD2)で示される化合物を含有する請求項1記載の電子写真用感光体。
(式(AD2)中、R
11は水素原子、炭素数1~5のアルキル基、置換基を有する若しくは無置換のアリール基、または、置換基を有する若しくは無置換のアラルキル基を表し、X,Yは、置換基を有する若しくは無置換のアリール基を表し、n,mは1または2を表す。置換基はハロゲン原子、炭素数1~5のアルキル基、アリール基または炭素数1~5のアルコキシ基を表す。)
【請求項4】
前記電荷発生層中の前記一般式(AD2)で示される化合物の含有量が、前記第二正孔輸送材料、前記電子輸送材料、前記電荷発生材料および前記第二樹脂バインダーの合計100質量部に対し、0.5質量部以上5質量部以下である請求項3記載の電子写真用感光体。
【請求項5】
前記電荷輸送層が、さらに、前記一般式(AD2)で示される化合物を含有する請求項1記載の電子写真用感光体。
【請求項6】
前記電荷輸送層中の前記一般式(AD2)で示される化合物の含有量が、前記第一正孔輸送材料および前記第一樹脂バインダーの合計100質量部に対し、1質量部以上10質量部以下である請求項5記載の電子写真用感光体。
【請求項7】
前記第一正孔輸送材料および前記第二正孔輸送材料のうちのいずれか一方または双方が、下記構造式(HT1)で示される化合物を含む請求項1記載の電子写真用感光体。
(式(HT1)中、R
12は、水素原子または置換基を有してもよい炭素数1~3のアルキル基を示し、R
13~R
22は、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有してもよい炭素数1~6のアルキル基または置換基を有してもよい炭素数1~6のアルコキシ基を示し、pは0~4の整数、qは0~4の整数、rは0~5の整数であり、Rは水素原子または置換基を有してもよい炭素数1~3のアルキル基を示す。)
【請求項8】
前記電荷発生材料がチタニルフタロシアニンである請求項1記載の電子写真用感光体。
【請求項9】
前記一般式(AD1)中、R1~R10はそれぞれ独立して、水素原子またはメチル基を表す請求項1記載の電子写真用感光体。
【請求項10】
前記一般式(AD2)中、R11はベンジル基を表し、XおよびYは無置換のフェニル基を表し、nおよびmは1を表す請求項3記載の電子写真用感光体。
【請求項11】
前記電荷輸送層および前記電荷発生層が、浸漬塗工法により形成されている請求項1記載の電子写真用感光体。
【請求項12】
前記導電性基体が、直径28mm以上40mm以下の円筒状アルミニウム基体である請求項1記載の電子写真用感光体。
【請求項13】
前記導電性基体が、直径15mm以上28mm未満の円筒状アルミニウム基体である請求項1記載の電子写真用感光体。
【請求項14】
請求項1記載の電子写真用感光体を製造するにあたり、
少なくとも前記第一正孔輸送材料、前記第一樹脂バインダー、および、前記一般式(AD1)で示される化合物を含有する電荷輸送層塗布液を準備する工程と、
前記電荷輸送層塗布液を用いて、浸漬塗工法により前記電荷輸送層を形成する工程と、を含む電子写真用感光体の製造方法。
【請求項15】
請求項12記載の電子写真用感光体が搭載された印字速度50ppm以上のモノクロ方式の電子写真装置。
【請求項16】
請求項12記載の電子写真用感光体が搭載された感光体ドラム寿命5万枚以上のモノクロ方式の電子写真装置。
【請求項17】
請求項12記載の電子写真用感光体が搭載された印字速度30ppm以上のタンデムカラー方式の電子写真装置。
【請求項18】
請求項13記載の電子写真用感光体が搭載された印字速度30ppm以上のタンデムカラー方式の電子写真装置。
【請求項19】
請求項13記載の電子写真用感光体が搭載された感光体ドラム寿命3万枚以上のタンデムカラー方式の電子写真装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真方式のプリンタや複写機、ファクスなどの電子写真装置に用いられる電子写真用感光体(以下、単に「感光体」とも称する)、その製造方法および電子写真装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真用感光体は、導電性基体上に、光導電機能を有する感光層を設置した構造を基本構造とする。近年、電荷の発生や輸送を担う機能成分として有機化合物を用いる有機電子写真用感光体について、材料の多様性や高生産性、安全性などの利点により、研究開発が活発に進められ、複写機やプリンタなどへの適用が進められている。
【0003】
一般に、感光体には、暗所で表面電荷を保持する機能や、光を受容して電荷を発生する機能、さらには、発生した電荷を輸送する機能が必要である。感光層がこれらの役割を果たす。感光体は、感光層の態様により、積層型(機能分離型)感光体と、単層型感光体とに分類される。積層型感光体は、電荷発生層と電荷輸送層とを積層した感光層を備える。電荷発生層は、主として光受容時の電荷発生の機能を担う。電荷輸送層は、光受容時に電荷発生層にて発生した電荷を輸送する機能を担う。そして、積層した感光層にて、暗所で表面電荷を保持する機能を担う。単層型感光体は、電荷発生機能と電荷輸送機能とを併せ持ち、表面電荷保持機能を担う単層の感光層を備える。
【0004】
また、感光体には、感光体表面の帯電特性を正帯電とする正帯電型感光体と、負帯電とする負帯電型感光体とがある。現在の主流の電子写真装置は、負帯電方式の電子写真装置であり、負帯電型感光体が使用されている。負帯電型感光体においては、電荷発生材料を樹脂バインダーと共に分散した電荷発生層と、正孔輸送材料を樹脂バインダーと共に分散した電荷輸送層とを順次積層した負帯電積層型感光体が用いられる。一方で、正帯電方式の電子写真装置も実用化されており、正帯電型感光体が使用される。正帯電型感光体においては、主として、電荷発生材料、正孔輸送材料および電子輸送材料を樹脂バインダーと共に、同一層中に分散した構成からなる正帯電単層型感光体が、一般的に広く実用化が進められている。その大きな理由は、正孔輸送材料の正孔輸送機能と比較して、輸送機能において劣る電子輸送材料の電子輸送機能を、正孔輸送材料が補完する構成をとっていることにあると考えられる。この正帯電単層型感光体においては、電荷発生材料が単層膜中に分散されている故に、膜中内部でも電荷(電子および正孔)の発生は起きるが、感光層の表面近傍に近づくほど電荷発生量が大きく、表面近傍から基板までの正孔輸送距離と比較して表面近傍から表面までの電子輸送距離は小さくてすむので、電子輸送機能は正孔輸送機能ほど高い必要はないものと考えられる。これにより、実用上十分な環境安定性および疲労特性を実現している。
【0005】
しかし、この正帯電単層型感光体においては、単一膜に電荷発生および電荷輸送の両機能を持たせていることから、塗布工程の簡素化が可能であって高い良品率および工程能力を得やすいという長所を持つ反面、高感度化を図るために正孔輸送材料および電子輸送材料の両者を単一層内に多く含有させていることで樹脂バインダーの含有量が低下して、耐久性が低下するという問題があった。よって、正帯電単層型感光体において、高感度と高耐久との両立を図ることには限界があった。
【0006】
また、正帯電単層型感光体において樹脂バインダーの比率が低くなると、ガラス転移点が低くなって、接触部材に対する耐汚染性が悪化するという難点もあった。
【0007】
そのため、近年の装置の小型化や高速化、高解像度化、カラー化に対応する感度、耐久性および耐汚染性を両立させるためには、従来の正帯電単層型感光体では対応が困難であり、新たに、電荷輸送層と電荷発生層とを順次積層した正帯電積層型感光体についても提案されており(例えば、特許文献1参照)、実用化もされている。
【0008】
この正帯電積層型感光体において、上層の電荷発生層は、主として電荷発生材料と電子輸送材料と正孔輸送材料とを樹脂バインダーと共に含有させた層であり、下層の電荷輸送層は、主として正孔輸送材料を樹脂バインダーと共に含有させた層である。つまり、電荷発生層は、電荷発生機能と電子輸送機能と正孔輸送機能を有し、電荷輸送層は正孔輸送機能を有しており、正帯電積層型感光体は機能分離した層構成となっている。
【0009】
保護層を用いない場合は上層の電荷発生層が表面層となるため、電荷発生層の膜厚としては、実使用での削れを考慮した膜厚が必要となるが、下層に電荷輸送層が存在することから、正帯電単層型感光層ほどの膜厚は必要としないため、電荷発生材料を少なくできる。電荷発生層の主な構成材料は、正帯電単層型感光層と同じであるが、この場合、正孔輸送機能よりも電子輸送機能が重視されるため、正孔輸送材料の含有量を少なくできるので、電子輸送材料比率や樹脂バインダー比率を正帯電単層型感光層より高く設定できる。
【0010】
電荷輸送層は正孔輸送機能を有していればよく、電荷発生機能や電子輸送機能を必ずしも必要としないため、電荷発生材料および電子輸送材料を必須としない。さらに、表面層ではないため、実使用中に削れが生ずる部分ではなく、物理的耐久性を強く要求されないことから、樹脂バインダーの含有量を少なくできるために、正孔輸送材料比率を正帯電単層型感光層より高く設定できる。
【0011】
よって、正帯電積層型感光体は、機能分離型であるために電荷発生層と電荷輸送層とを個々に最適化することができることから、高感度化と高耐久化との両立が図りやすい構成となっている。
【0012】
有機電子写真用感光体では、負帯電型、正帯電型、積層型、単層型の別に関わらず、各感光層に、電荷発生材料、正孔輸送材料、電子輸送材料といった機能材料や樹脂バインダーの他に、感度の向上や残留電位の減少、耐環境性や有害な光に対する安定性の向上、耐摩擦性を含めた耐久性の向上などを目的として、各種添加剤を、所望に応じ添加することができる。
【0013】
例えば、オゾンによる感光体の劣化を防止するために、感光体の感光層に酸化防止剤等の添加剤を含有させることが知られている。代表的な酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系酸化防止剤であるジブチルヒドロキシトルエン(BHT)が知られている。他には、例えば、特許文献2では、特定のアミン化合物を感光層に添加することによって、著しく耐オゾン性が向上し、かつ、電気特性に優れた感光体が得られることが示されている。その添加量としては、その層内に重量比で1~16重量%の範囲がより好ましいことも示されている。
【0014】
また、特許文献3には、感光層の樹脂バインダーが膜を形成する際に分子レベルで膜中に生じる空隙を、添加剤として添加した特定のシクロヘキサンジメタノール-ジアリールエステル化合物が充填する作用を利用することで、より強固な膜を形成し、オゾンなどの有害気体や水蒸気などの低分子ガスの流出入を抑え、感光体の耐磨耗性を向上し電気特性の悪化を防止することが示されている。その添加量としては、添加される層の樹脂バインダー100重量部に対し0.5重量部以上20重量部以下の範囲がより好ましいことが示されている。
【0015】
さらに、特許文献4には、感光体表面に汚染成分が付着し、モノマー成分が溶出することによって感光層内部に空孔が形成された場合、この空孔に対して、添加剤としての特定の化合物が作用して局所的な応力を開放し、クラックの発生およびそれに伴う黒点の発生を抑制できることが示されている。また、添加剤としての特定の化合物の含有量が感光層の固形分に対し14重量%を超えると、感光層のガラス転移点が低下して、耐摩耗性が低下する場合や、樹脂バインダー内での当該化合物の分散性が低下して、結晶化する場合があり、そのため、添加剤の含有量を4~10重量%の範囲内の値とすることがさらに好ましいことも示されている。さらに、モノマー成分の溶出については、所定の溶解度を有する正孔輸送材料を用いることで、汚染成分への溶解性を制御して溶出量を規制できることも示されている。
【0016】
さらにまた、特許文献5には、正帯電積層型感光体の最表面層である電荷発生層の樹脂結着剤に比較的堅固なポリカーボネート等を用い、かつ、空間充填剤を添加することにより、この空間充填剤がポリカーボネート等の高分子構造に由来する分子レベルの空間を埋めることで、さらに堅固な塗布膜を形成し、クリープ変形がなく良好な感光体が得られることが示されている。
【0017】
一方、特許文献1には、正帯電積層型感光体において、減圧下で乾燥することで、電荷発生層および電荷輸送層に含まれる残留溶媒の合計量を50μg/cm2以下にすることにより、皮脂などの汚染成分付着によるクラック発生を防止できることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】国際公開第2013/021430号
【特許文献2】特開平3-172852号公報
【特許文献3】特開2007-279446号公報
【特許文献4】特開2007-256768号公報
【特許文献5】特開2009-288569号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
負帯電方式の電子写真装置に比べ、正帯電方式の電子写真装置では、オゾンの発生が少ない。そのため従来、正帯電型感光体においては、負帯電型感光体に比べて、オゾン耐性はあまり求められていなかった。
【0020】
しかしながら、近年の小型化された電子写真装置では排気が難しく、また、タンデム型のカラー機では帯電器が4つあることなどから、正帯電方式の1つの帯電器から発生するオゾンが少量であっても、感光体付近のオゾン濃度が高くなり、そのような環境で長時間、感光体がオゾンに晒されると、感光体が劣化して、電気特性の悪化を招く。よって、正帯電積層型感光体においても、高いオゾン耐性が求められており、特には、小型の電子写真装置に用いられる小口径の直径15mm以上28mm未満の円筒形状の感光体において、より高いオゾン耐性が求められている。
【0021】
また、感光体のクリープ強度が不足していると、トナーフィルミングや外部添加材、紙粉のフィルミングが起きやすくなり、高温高湿環境下でのトナーおよび紙粉の混合物の固着による微小黒点等の発生量が大きくなる。加えて、転写ローラー、クリーニングローラー、現像ローラーなどの接触部材によるクリープ変形が生じ易くなり、感光体がクリープ変形すると画像欠陥が発生する。よって、正帯電積層型感光体においても、高いクリープ強度が求められている。
【0022】
さらに、感光体に油脂や皮脂などの汚染成分が付着すると、感光層中でクラックが生じる場合があり、クラックが生じた箇所においては、黒点や白点等の画像欠陥が生じる。よって、正帯電積層型感光体においても、汚染成分が付着してもクラックが発生しないことが求められている。
【0023】
そこで、本発明の目的は、正帯電積層型電子写真用感光体において上記問題を解消して、高解像度かつ高速の正帯電方式の電子写真装置に適用され、動作安定性に優れるとともに、油脂若しくは皮脂などの汚染成分付着によって生じるクラックに起因する画像欠陥の発生がなく、オゾンによる電気特性の劣化が少なく、接触部材によって生じるクリープ変形に起因する画像欠陥の発生がなく、安定して高画像品質が得られる、高感度でかつ高耐久な正帯電積層型電子写真用感光体、その製造方法およびそれを用いた電子写真装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明者らは、正帯電積層型電子写真用感光体における、皮脂付着によるクラックが発生する原因につき、鋭意検討した。
【0025】
その結果、クラックが発生した感光体の断面観察から、表面が電荷発生層で、下層に電荷輸送層を設けた正帯電積層型感光体においては、クラック発生の起点が、表面付近の電荷発生層中ではなく、表面から離れた電荷発生層と電荷輸送層との界面、または、電荷輸送層中で、発生していることが類推された。
【0026】
これは、以下のメカニズムによるクラックが発生していると推測される。すなわち、表面に付着した皮脂中の成分は、徐々に電荷発生層の内部に染み込むが、電荷発生層内部に留まる間は、電荷発生層中の正孔輸送材料が多少溶解してもクラックを発生させるまでには至らない。しかし、皮脂中の成分が、電荷発生層と電荷輸送層との界面や、さらに、電荷輸送層に染み込むと、電荷輸送層中の正孔輸送材料が溶解し感光体表面に付着した皮脂に移動することにより空隙が発生し、その空隙に応力が集中することでクラック発生の起点となり電荷輸送層にクラックが発生し、そのクラックが上層の電荷発生層に伝播して、電荷発生層の表面にまで達するクラックが発生すると考えられる。特に、電荷発生層中の正孔輸送材料の含有量よりも、電荷輸送層中の正孔輸送材料の含有量のほうが多い正帯電積層型感光体において、このメカニズムによるクラックが顕著に発生すると推定される。
【0027】
かかる観点から、本発明者らは、正帯電積層型感光体の上層である電荷発生層におけるクラック発生の防止だけでなく、下層である電荷輸送層におけるクラック発生の防止についてもさらに検討した結果、電荷輸送層に、下記一般式(AD1)で示される化合物を添加剤として含有させることで、正帯電積層型感光体のクリープ強度を低下させることなく、皮脂付着によるクラック発生を防止することができ、同時にオゾン耐性が大きく向上することを見出して、本発明を完成するに至った。
【0028】
(式(AD1)中、R
1~R
10はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有する若しくは無置換の炭素数1~5のアルキル基、置換基を有する若しくは無置換のアリール基、または、炭素数1~5のアルコキシ基を表す。置換基はハロゲン原子、炭素数1~5のアルキル基、アリール基または炭素数1~5のアルコキシ基を表す。)
【0029】
また、本発明者らは、正帯電積層型感光体における、さらなるオゾン耐性の向上について、電荷発生層への添加剤に関して鋭意検討した。
【0030】
その結果、添加剤の種類や量が、正帯電積層型感光体のオゾン耐性だけでなく、電荷発生層のクリープ変形にも作用することが分かった。
【0031】
かかる観点から、本発明者らはさらに検討した結果、下記一般式(AD2)で示される化合物を電荷発生層に添加剤として含有させることで、正帯電積層型感光体のクリープ強度を低下させることなく、オゾン耐性がさらに向上することを見出して、本発明を完成するに至った。
【0032】
(式(AD2)中、R
11は水素原子、炭素数1~5のアルキル基、置換基を有する若しくは無置換のアリール基、または、置換基を有する若しくは無置換のアラルキル基を表し、X,Yは、置換基を有する若しくは無置換のアリール基を表し、n,mは1または2を表す。置換基はハロゲン原子、炭素数1~5のアルキル基、アリール基または炭素数1~5のアルコキシ基を表す。)
【0033】
すなわち、本発明の第一の態様は、導電性基体上に、少なくとも第一正孔輸送材料および第一樹脂バインダーを含む電荷輸送層と、少なくとも第二正孔輸送材料、電子輸送材料、電荷発生材料および第二樹脂バインダーを含む電荷発生層とが順次積層された正帯電積層型電子写真用感光体において、前記電荷輸送層が、上記一般式(AD1)で示される化合物を含有する電子写真用感光体である。
【0034】
前記電荷輸送層中の前記一般式(AD1)で示される化合物の含有量は、前記第一正孔輸送材料および前記第一樹脂バインダーの合計100質量部に対し、好適には、15質量部以上30質量部以下である。
【0035】
前記電荷発生層が、上記一般式(AD2)で示される化合物を含有することが好ましい。この場合、前記電荷発生層中の前記一般式(AD2)で示される化合物の含有量は、前記第二正孔輸送材料、前記電子輸送材料、前記電荷発生材料および前記第二樹脂バインダーの合計100質量部に対し、好適には、0.5質量部以上5質量部以下である。
【0036】
前記電荷輸送層が、さらに、前記一般式(AD2)で示される化合物を含有することも好ましい。
【0037】
前記電荷輸送層中の前記一般式(AD2)で示される化合物の含有量は、前記第一正孔輸送材料および前記第一樹脂バインダーの合計100質量部に対し、好適には、1質量部以上10質量部以下である。
【0038】
前記第一正孔輸送材料および前記第二正孔輸送材料のうちのいずれか一方または双方が、下記構造式(HT1)で示される化合物を含むことが好ましい。
(式(HT1)中、R
12は、水素原子または置換基を有してもよい炭素数1~3のアルキル基を示し、R
13~R
22は、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有してもよい炭素数1~6のアルキル基または置換基を有してもよい炭素数1~6のアルコキシ基を示し、pは0~4の整数、qは0~4の整数、rは0~5の整数であり、Rは水素原子または置換基を有してもよい炭素数1~3のアルキル基を示す。)
【0039】
前記電荷発生材料がチタニルフタロシアニンであることが好ましい。
【0040】
前記一般式(AD1)中、R1~R10はそれぞれ独立して、水素原子またはメチル基を表すことが好ましい。
【0041】
前記一般式(AD2)中、R11はベンジル基を表し、XおよびYは無置換のフェニル基を表し、nおよびmは1を表すことが好ましい。
【0042】
前記電荷輸送層および前記電荷発生層は、浸漬塗工法により形成することができる。
【0043】
前記導電性基体は、好適には、直径28mm以上40mm以下の円筒状アルミニウム基体、または、直径15mm以上28mm未満の円筒状アルミニウム基体である。
【0044】
本発明の第二の態様は、上記電子写真用感光体を製造するにあたり、少なくとも前記第一正孔輸送材料、前記第一樹脂バインダー、および、前記一般式(AD1)で示される化合物を含有する電荷輸送層塗布液を準備する工程と、前記電荷輸送層塗布液を用いて、浸漬塗工法により前記電荷輸送層を形成する工程と、を含む電子写真用感光体の製造方法である。
【0045】
本発明の第三の態様は、上記電子写真用感光体が搭載された印字速度50ppm(page per minute)以上のモノクロ方式の電子写真装置、上記電子写真用感光体が搭載された感光体ドラム寿命5万枚以上のモノクロ方式の電子写真装置、上記電子写真用感光体が搭載された印字速度30ppm以上のタンデムカラー方式の電子写真装置、または、上記電子写真用感光体が搭載された感光体ドラム寿命3万枚以上のタンデムカラー方式の電子写真装置である。
【発明の効果】
【0046】
本発明によれば、特に小型のタンデムカラープリンタなどの高解像度かつ中高速の正帯電方式の電子写真装置に適用した場合においても、動作安定性に優れるとともに、油脂若しくは皮脂などの汚染成分付着によって生じるクラックに起因する画像欠陥の発生がなく、オゾンによる電気特性の劣化が少なく、接触部材によって生じるクリープ変形に起因する画像欠陥の発生がなく、安定して高画像品質が得られる、高感度でかつ高耐久な正帯電積層型電子写真用感光体、その製造方法およびそれを用いた電子写真装置を実現できた。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【
図1】本発明の実施形態に係る電子写真用感光体の一例を示す模式的断面図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る電子写真装置の一構成例を示す概略構成図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る電子写真装置における電子写真プロセス配置図の他の例を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0048】
以下、本発明の実施形態に係る電子写真用感光体の具体的な実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。本発明は、以下の説明により何ら限定されるものではない。
【0049】
(電子写真用感光体)
図1は、本発明の実施形態に係る電子写真用感光体の一例を示す模式的断面図であり、正帯電積層型電子写真用感光体を示す。図示するように、正帯電積層型感光体は、積層型正帯電の感光層5を備える。感光層5は、円筒形の導電性基体1の表面上に、下引き層2を介して順次積層された、電荷輸送機能を備えた電荷輸送層3と、電荷発生機能を備えた電荷発生層4と、からなる。なお、
図1に示す感光体において、下引き層2は、必要に応じ設ければよい。図示はしないが、
図1に示す感光体において、感光体の最表面に、表面保護層を設けることもできる。
【0050】
本発明の実施形態に係る正帯電積層型電子写真用感光体においては、電荷輸送層3が、下記一般式(AD1)で示される化合物を含有する。
(式(AD1)中、R
1~R
10はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有する若しくは無置換の炭素数1~5のアルキル基、置換基を有する若しくは無置換のアリール基、または、炭素数1~5のアルコキシ基を表す。置換基はハロゲン原子、炭素数1~5のアルキル基、アリール基または炭素数1~5のアルコキシ基を表す。)
【0051】
上記一般式(AD1)で表される構造の化合物の具体例としては、以下のようなものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。上記一般式(AD1)で表される構造の化合物としては、R1~R10がそれぞれ独立して、水素原子またはメチル基を表すものが好ましい。
【0052】
【0053】
【0054】
また、本発明の他の実施形態に係る正帯電積層型電子写真用感光体においては、電荷発生層4が、下記一般式(AD2)で示される化合物を含有することが好ましい。
(式(AD2)中、R
11は水素原子、炭素数1~5のアルキル基、置換基を有する若しくは無置換のアリール基、または、置換基を有する若しくは無置換のアラルキル基を表し、X,Yは、置換基を有する若しくは無置換のアリール基を表し、n,mは1または2を表す。置換基はハロゲン原子、炭素数1~5のアルキル基、アリール基または炭素数1~5のアルコキシ基を表す。)
【0055】
上記一般式(AD2)で表される構造の化合物の具体例としては、以下のようなものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。上記一般式(AD2)で表される構造の化合物としては、R11がベンジル基を表し、XおよびYが無置換のフェニル基を表し、nおよびmが1を表すものが好ましい。
【0056】
【0057】
電荷輸送層3中に、上記一般式(AD1)で示される化合物を含有させることで、感光体のクリープ強度を低下させることなく、皮脂付着によるクラック発生を防止することができ、同時にオゾン耐性を大きく向上させることができる。さらに、電荷発生層4中に、上記一般式(AD2)で示される化合物を含有させることで、上記効果を、より良好に得ることができる。また、電荷輸送層3中に、さらに、上記一般式(AD2)で示される化合物を含有させることもでき、これにより、上記効果を損なうことなく、さらに初期電気特性を向上させることができる。
【0058】
以下、本発明の正帯電積層型感光体の具体的構成について、詳細に説明する。
【0059】
導電性基体1は、感光体の電極としての役目と同時に感光体を構成する各層の支持体ともなっており、円筒状、板状、フィルム状などのいずれの形状でもよい。導電性基体1の材質としては、アルミニウム、ステンレス鋼、ニッケルなどの金属類、または、ガラス、樹脂などの表面に導電処理を施したもの等を使用できる。
【0060】
特には、導電性基体1として、直径28mm以上40mm以下、または、直径15mm以上28mm未満の円筒状アルミニウム基体を用いる場合に、感光体のクリープ強度を低下させることなく、皮脂付着によるクラック発生を防止し、同時にオゾン耐性を大きく向上させるとの効果を良好に得ることができる。
【0061】
下引き層2は、樹脂を主成分とする層やアルマイト(陽極酸化処理)などの金属酸化皮膜からなるものである。下引き層2は、導電性基体1から感光層への電荷の注入性の制御や、導電性基体1の表面の欠陥の被覆、感光層と導電性基体1との接着性の向上などの目的で、必要に応じて設けられる。下引き層2に用いられる樹脂材料としては、カゼイン、ポリビニルアルコール、ポリアミド、メラミン、セルロースなどの絶縁性高分子や、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリンなどの導電性高分子が挙げられ、これらの樹脂は単独、または、適宜組み合わせて混合して用いることができる。また、これらの樹脂に、二酸化チタン、酸化亜鉛などの金属酸化物を含有させて用いてもよい。
【0062】
正帯電積層型感光体において、感光層5は、導電性基体1上に形成され、電荷輸送層3と、電荷発生層4とが順次積層された構成を有する。電荷輸送層3は、少なくとも第一正孔輸送材料および第一樹脂バインダーを含み、電荷発生層4は、少なくとも電荷発生材料、第二正孔輸送材料、電子輸送材料、および、第二樹脂バインダーを含む。正帯電積層型感光体においては、電子輸送材料を、さらに、電荷輸送層3に含んでもよい。
【0063】
電荷輸送層3の第一正孔輸送材料、および、電荷発生層4の第二正孔輸送材料としては、例えば、ヒドラゾン化合物、ピラゾリン化合物、ピラゾロン化合物、オキサジアゾール化合物、オキサゾール化合物、アリールアミン化合物、ベンジジン化合物、スチルベン化合物、スチリル化合物、ポリ-N-ビニルカルバゾール、ポリシラン等の正孔輸送材料を使用することができ、中でも、アリールアミン化合物が好ましい。これらの正孔輸送材料は、単独で、または、2種以上を組み合わせて使用することが可能である。正孔輸送材料としては、光照射時に発生する正孔の輸送能力が優れている他、電荷発生材料との組み合せにおいて好適なものが好ましい。また、好適には、正孔輸送材料としては、電界強度を20V/μmとしたときの正孔移動度が15×10-6[cm2/V・s]以上、特には20×10-6~80×10-6[cm2/V・s]のものを用いる。正孔移動度が15×10-6[cm2/V・s]未満であると、ゴーストが発生し易くなる。ここで、上記正孔移動度は、正孔輸送材料を、樹脂バインダー中に50質量%となるよう添加して得られた塗布液を用いて測定することができる。正孔輸送材料と樹脂バインダーとの比は50:50である。樹脂バインダーはビスフェノールZ型ポリカーボネート樹脂でよい。例えば、ユピゼータPCZ-500(商品名、三菱ガス化学(株)製)でよい。具体的には、この塗布液を基材上に塗布し、120℃で30分間乾燥して膜厚7μmの塗膜を作製し、TOF(Time of Flight)法を用いて、一定の電界強度20V/μmにおける正孔移動度を測定することができる。測定温度は300Kである。
【0064】
正孔輸送材料としては、具体的には例えば、下記一般式(HT1)で示される構造を有する化合物が挙げられる。第一正孔輸送材料および前記第二正孔輸送材料のうちのいずれか一方または双方が、下記構造式(HT1)で示される化合物を含むことが好ましい。
【0065】
(式(HT1)中、R
12は、水素原子または置換基を有してもよい炭素数1~3のアルキル基を示し、R
13~R
22は、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有してもよい炭素数1~6のアルキル基または置換基を有してもよい炭素数1~6のアルコキシ基を示し、pは0~4の整数、qは0~4の整数、rは0~5の整数であり、Rは水素原子または置換基を有してもよい炭素数1~3のアルキル基を示す。)
【0066】
正孔輸送材料としての、上記一般式(HT1)で示される構造を有する化合物の具体例としては、以下のようなものが挙げられる。
【0067】
【0068】
【0069】
【0070】
【0071】
【0072】
【0073】
正孔輸送材料の具体例としては、さらに、以下のような化合物も挙げられる。
【0074】
【0075】
電荷輸送層3の第一樹脂バインダーおよび電荷発生層4の第二樹脂バインダーとしては、ビスフェノールA型、ビスフェノールZ型、ビスフェノールA型-ビフェニル共重合体、ビスフェノールZ型-ビフェニル共重合体などの各種ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリスルホン樹脂、メタクリル酸エステルの重合体およびこれらの共重合体などを用いることができる。さらに、分子量の異なる同種の樹脂を混合して用いてもよい。
【0076】
好適な樹脂バインダーとしては、下記一般式(BD1)で示される繰り返し単位を有する樹脂が挙げられる。好適な樹脂バインダーのより具体的な例としては、下記構造式(BD1-1)~(BD1-3)で示される繰り返し単位を有するポリカーボネート樹脂が挙げられる。
【0077】
(式中、R
31およびR
32は、水素原子、メチル基またはエチル基であり、X
1は酸素原子、硫黄原子または-CR
33R
34であり、R
33およびR
34は、水素原子、炭素数1~4のアルキル基若しくは置換基を有してもよいフェニル基であるか、または、R
33とR
34とが環状に結合して炭素数4~6の置換基を有してもよいシクロアルキル基を形成していてもよく、R
33とR
34とは同一であっても異なっていてもよい。)
【0078】
【0079】
電荷発生層4の電荷発生材料としては、特に制限されず、公知の材料のうちから適宜選択して用いることができる。具体的には、電荷発生材料としては、露光光源の波長に光感度を有する材料であれば特に制限を受けるものではなく、例えば、フタロシアニン顔料、アゾ顔料、キナクリドン顔料、インジゴ顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、スクアリリウム顔料、チアピリリウム顔料、多環キノン顔料、アントアントロン顔料、ベンゾイミダゾール顔料などの有機顔料が使用できる。特に、フタロシアニン顔料としては、無金属フタロシアニン、チタニルフタロシアニン、クロロガリウムフタロシアニン、ヒドロキシガリウムフタロシアニン、銅フタロシアニン、アゾ顔料としては、ジスアゾ顔料、トリスアゾ顔料、ペリレン顔料としては、N,N’-ビス(3,5-ジメチルフェニル)-3,4:9,10-ペリレン-ビス(カルボキシイミド)が挙げられる。中でも、無金属フタロシアニンまたはチタニルフタロシアニンを用いることが好ましく、チタニルフタロシアニンを用いることがより好ましい。無金属フタロシアニンとしては、例えば、X型無金属フタロシアニン、τ型無金属フタロシアニン等を用いることができ、チタニルフタロシアニンとしては、α型チタニルフタロシアニン、β型チタニルフタロシアニン、Y型チタニルフタロシアニン、アモルファス型チタニルフタロシアニン、特開平8-209023号公報、米国特許第5736282号明細書および米国特許第5874570号明細書に記載のCuKα:X線回析スペクトルにてブラッグ角2θが9.6°を最大ピークとするチタニルフタロシアニン等を用いることができる。昨今の高速印字装置、つまりモノクロ高速機(特に、印字速度50ppm以上で直径30mmの円筒形状の電子写真用感光体を搭載した印字装置)や中速タンデムカラー機(特に、印字速度30ppm以上で直径24mmの円筒形状の電子写真用感光体を搭載した印字装置)で用いる電子写真用感光体では、印字速度を上げるために、低露光エネルギーに十分な感度を有す上記チタニルフタロシアニンが好適である。電荷発生材料は、上記のうちいずれか1種を用いることができ、2種以上を併用してもよい。
【0080】
電荷発生層4の電子輸送材料としては、特に制限されず、例えば、無水琥珀酸、無水マレイン酸、ジブロモ無水琥珀酸、無水フタル酸、3-ニトロ無水フタル酸、4-ニトロ無水フタル酸、無水ピロメリット酸、ピロメリット酸、トリメリット酸、無水トリメリット酸、フタルイミド、4-ニトロフタルイミド、テトラシアノエチレン、テトラシアノキノジメタン、クロラニル、ブロマニル、o-ニトロ安息香酸、マロノニトリル、トリニトロフルオレノン、トリニトロチオキサントン、ジニトロベンゼン、ジニトロアントラセン、ジニトロアクリジン、ニトロアントラキノン、ジニトロアントラキノン、チオピラン系化合物、キノン系化合物、ベンゾキノン系化合物、ジフェノキノン化合物、ナフトキノン系化合物、アントラキノン系化合物、スチルベンキノン化合物、アゾキノン化合物、ナフタレンテトラカルボン酸ジイミド化合物等を使用することができる。
【0081】
特には、電子輸送材料としては、電界強度を20V/μmとしたときの電子移動度が15×10-8[cm2/V・s]以上、特には17×10-8~35×10-8[cm2/V・s]のものを用いることが好ましい。ここで、上記電子移動度は、電子輸送材料を、樹脂バインダー中に50質量%となるよう添加して得られた塗布液により作製された試料を用いて測定することができる。電子輸送材料と樹脂バインダーとの比は50:50である。樹脂バインダーはビスフェノールZ型ポリカーボネート樹脂でよい。例えば、ユピゼータPCZ-500(商品名、三菱ガス化学(株)製)でよい。具体的には、この塗布液を基材上に塗布し、120℃で30分間乾燥して膜厚7μmの塗膜を作製し、TOF(Time of Flight)法を用いて、一定の電界強度20V/μmにおける電子移動度を測定することができる。測定温度は300Kである。
【0082】
さらには、電子輸送材料としては、下記一般式(ET1)で示される構造を有するアゾキノン化合物や、下記一般式(ET2)で示される構造を有するナフタレンテトラカルボン酸ジイミド化合物を用いることが好ましい。
【0083】
(式(ET1)中、R
41,R
42は、同一または異なって、水素原子、炭素数1~12のアルキル基、炭素数1~12のアルコキシ基、置換基を有してもよいアリール基、シクロアルキル基、置換基を有してもよいアラルキル基またはハロゲン化アルキル基を表し、R
43は、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、置換基を有してもよいアリール基、シクロアルキル基、置換基を有してもよいアラルキル基またはハロゲン化アルキル基を表し、R
44~R
48は、同一または異なって、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~12のアルキル基、炭素数1~12のアルコキシ基、置換基を有してもよいアリール基、置換基を有してもよいアラルキル基、置換基を有してもよいフェノキシ基、ハロゲン化アルキル基、シアノ基またはニトロ基を表し、また、2つ以上の基が結合して環を形成してもよく、置換基は、ハロゲン原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、水酸基、シアノ基、アミノ基、ニトロ基またはハロゲン化アルキル基を表す。)
【0084】
上記一般式(ET1)で示される構造を有するアゾキノン化合物の具体例としては、以下のようなものが挙げられる。
【0085】
【0086】
【0087】
【0088】
【0089】
【0090】
(式(ET2)中、R
51およびR
52は、同一であっても異なっていてもよく、水素原子、炭素数1~10のアルキル基、アルキレン基、アルコキシ基、アルキルエステル基、置換基を有してもよいフェニル基、置換基を有してもよいナフチル基またはハロゲン原子を示し、R
51およびR
52は、互いに結合して、置換基を有してもよい芳香環を形成していてもよい。)
【0091】
上記一般式(ET2)で示される構造を有するナフタレンテトラカルボン酸ジイミド化合物の具体例としては、以下のようなものが挙げられる。
【0092】
【0093】
これらの電子輸送材料を適宜組み合わせで併用することで、感光体表面の、周辺部材からの耐汚染性の改善や、装置プロセスとの合わせ込みの際の感度特性の調整が、容易となる場合がある。
【0094】
電子輸送材料として、上記一般式(ET1)で示される構造を有するアゾキノン化合物と上記一般式(ET2)で示される構造を有するナフタレンテトラカルボン酸ジイミド化合物とを併用する場合、その質量比ET1:ET2は、好適には5:95~95:5であり、より好適には20:80~80:20である。
【0095】
電荷輸送層3における第一正孔輸送材料の含有量としては、電荷輸送層3の固形分に対して、好適には10~80質量%、より好適には20~70質量%である。電荷輸送層3における第一樹脂バインダーの含有量としては、電荷輸送層3の固形分に対して、好適には20~90質量%、より好適には30~80質量%である。電荷輸送層3に電子輸送材料を含有する場合の電荷輸送層3における電子輸送材料の含有量としては、電荷輸送層3の固形分に対して、好適には40質量%以下、より好適には20質量%以下である。
【0096】
電荷輸送層3中の上記一般式(AD1)で示される化合物の含有量は、第一正孔輸送材料および第一樹脂バインダーの合計100質量部に対し、好適には1質量部以上40質量部以下であり、より好適には15質量部以上30質量部以下である。一般式(AD1)で示される化合物を上記範囲で含有させることで、感光体のクリープ強度を低下させることなく皮脂付着によるクラック発生を防止し、同時にオゾン耐性を大きく向上させるとの効果を、良好に得ることができる。また、電荷輸送層3中に、さらに、上記一般式(AD2)で示される化合物を含有する場合のその含有量は、第一正孔輸送材料および第一樹脂バインダーの合計100質量部に対し、好適には1質量部以上20質量部以下であり、より好適には1質量部以上10質量部以下である。これにより、上記効果をより良好に得ることができる。
【0097】
電荷輸送層3の膜厚としては、3~50μmの範囲が好ましく、5~40μmの範囲がより好ましい。
【0098】
なお、電荷輸送層3に使用される材料は、電荷発生層塗布液の溶媒に溶出しにくい材料が望ましく、電荷輸送層3は、電荷発生層塗布液の溶媒に溶出しにくい膜質であることが望ましい。
【0099】
電荷発生層4における電荷発生材料の含有量は、電荷発生層4の固形分に対して、好適には0.1~5質量%、より好適には0.5~3質量%である。電荷発生層4における第二正孔輸送材料の含有量は、電荷発生層4の固形分に対して、好適には1~30質量%、より好適には5~20質量%である。電荷発生層4における電子輸送材料の含有量は、電荷発生層4の固形分に対して、好適には5~65質量%、より好適には10~60質量%である。複数種の電子輸送材料を混合して用いる場合、電子輸送材料の含有量は、電荷発生層4の固形分に対して、50~60質量%であってよい。第二正孔輸送材料および電子輸送材料の含有量の比は1:3~1:10の範囲であってよい。電荷発生層4における第二樹脂バインダーの含有量は、電荷発生層4の固形分に対して、好適には20~80質量%、より好適には30~70質量%である。
【0100】
電荷発生層4中の上記一般式(AD2)で示される化合物の含有量は、第二正孔輸送材料、電子輸送材料、電荷発生材料および第二樹脂バインダーの合計100質量部に対し、好適には0.5質量部以上15質量部以下であり、より好適には0.5質量部以上5質量部以下である。一般式(AD2)で示される化合物を上記範囲で含有させることで、感光体のクリープ強度を低下させることなく皮脂付着によるクラック発生を防止し、同時にオゾン耐性を大きく向上させるとの効果を、より良好に得ることができる。
【0101】
電荷発生層4の膜厚としては、3~50μmの範囲が好ましく、実用的に有効な表面電位を維持するためには5~40μmの範囲が好ましく、8~30μmの範囲がより好ましい。
【0102】
本発明の実施形態に係る感光体においては、形成した膜のレベリング性の向上や潤滑性の付与を目的として、感光層5中に、シリコーンオイルやフッ素系オイル等のレベリング剤を含有させることができる。また、膜硬度の調整や摩擦係数の低減、潤滑性の付与等を目的として、複数種の無機酸化物を含有させることができる。シリカ、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化カルシウム、アルミナ、酸化ジルコニウム等の金属酸化物、硫酸バリウム、硫酸カルシウム等の金属硫酸塩、窒化ケイ素、窒化アルミニウム等の金属窒化物の微粒子、または、4フッ化エチレン樹脂等のフッ素系樹脂粒子、フッ素系クシ型グラフト重合樹脂粒子等を含有させてもよい。さらに、必要に応じて、電子写真特性を著しく損なわない範囲で、その他公知の添加剤を含有させることもできる。
【0103】
また、感光層5中には、耐環境性や有害な光に対する安定性をさらに向上させる目的で、追加の添加剤として、酸化防止剤や光安定剤などの劣化防止剤を含有させることができる。このような目的に用いられる化合物としては、トコフェロールなどのクロマノール誘導体およびエステル化化合物、ポリアリールアルカン化合物、ハイドロキノン誘導体、エーテル化化合物、ジエーテル化化合物、ベンゾフェノン誘導体、ベンゾトリアゾール誘導体、チオエーテル化合物、フェニレンジアミン誘導体、ホスホン酸エステル、亜リン酸エステル、フェノール化合物、ヒンダードフェノール化合物、直鎖アミン化合物、環状アミン化合物、ヒンダードアミン化合物等が挙げられる。
【0104】
正帯電積層型感光体は、正帯電単層型感光体と同様に、量産する際には、感光層は浸漬塗工法によって製造されることが一般的である。そのため、感光層を構成する電荷輸送層3および電荷発生層4の各材料を溶剤に溶解または分散させた電荷輸送層塗布液および電荷発生層塗布液が用いられる。
【0105】
電荷輸送層3の溶剤としては、ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム、四塩化炭素、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素;ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジオキソラン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類等が挙げられる。電荷輸送層3に用いる溶剤は、正孔輸送材料や結着樹脂の溶解性、塗工性および保管安定性を考慮して選択される。
【0106】
電荷発生層4の溶剤についても、電荷輸送層3に用いられるのと同様のものが挙げられる。このうち、一般的に、沸点が高いものが好ましく、具体的には沸点が60℃以上のもの、特には沸点が80℃以上のものを用いることが好適である。中でも、高感度化のために高量子効率のチタニルフタロシアニンを電荷発生材料に用いた場合には、比重が重く、かつ沸点が80℃以上であるジクロロエタンを、電荷発生層4を形成する際の溶媒として用いることが、分散安定性および電荷輸送層3の溶出しにくさの点で好適である。
【0107】
(感光体の製造方法)
本発明の実施形態に係る感光体の製造方法は、上記電子写真用感光体を製造するにあたり、少なくとも第一正孔輸送材料、第一樹脂バインダー、および、上記一般式(AD1)で示される化合物を含有する電荷輸送層塗布液を準備する工程と、準備した電荷輸送層塗布液を用いて、浸漬塗工法により電荷輸送層を形成する工程と、を含む。
【0108】
具体的には、まず、任意の第一正孔輸送材料、任意の第一樹脂バインダー、および、上記一般式(AD1)で示される化合物を溶媒に溶解させて電荷輸送層塗布液を調製し準備する工程と、この電荷輸送層塗布液を、導電性基体の外周に、所望に応じ下引き層を介して浸漬塗工法により塗工、乾燥させて電荷輸送層を形成する工程と、を含む方法により、電荷輸送層を形成する。次に、任意の第二正孔輸送材料、任意の電子輸送材料、任意の電荷発生材料および任意の第二樹脂バインダーを、溶媒中に溶解、分散させて電荷発生層塗布液を調製し準備する工程と、この電荷発生層塗布液を、上記電荷輸送層上に浸漬塗工法により塗工、乾燥させて電荷発生層を形成する工程と、を含む方法により電荷発生層を形成する。このような製造方法により、本発明の実施形態に係る積層型感光体を製造することができる。ここで、塗布液の調製に用いる溶媒の種類や、塗工条件、乾燥条件等については、常法に従い適宜選択することができ、特に制限されるものではない。
【0109】
本発明の実施形態に係る感光体は、各種マシンプロセスに適用することにより所期の効果が得られるものである。具体的には、ローラやブラシなどの帯電部材を用いた接触帯電方式、コロトロンやスコロトロンなどを用いた非接触帯電方式等の帯電プロセス、並びに、非磁性一成分、磁性一成分、二成分などの現像剤を用いた接触現像および非接触現像方式などの現像プロセスにおいても、十分な効果を得ることができる。
【0110】
(電子写真装置)
本発明の実施形態に係る電子写真装置は、上記電子写真用感光体が搭載されてなる。本発明の実施形態に係る電子写真装置は、特に、モノクロ高速プリンタや小型の中速タンデムカラープリンタに適用した場合においても、十分な高感度を有するとともに、多様な環境下における繰り返し印字時の電位安定性に優れ、階調性の悪化やメモリー画像の発生等の問題を生じない。
【0111】
図2に、本発明の実施形態に係る電子写真装置の一構成例の概略構成図を示す。図示する電子写真装置30は、導電性基体1と、その外周面上に被覆された下引き層2並びに電荷輸送層3および電荷発生層4からなる感光層5とを含む、本発明の実施形態に係る感光体20を搭載する。この電子写真装置30は、感光体20の外周縁部に配置された、図示する例ではスコロトロンの帯電部材21と、この帯電部材21に印加電圧を供給する高圧電源22と、像露光部材23と、現像部材24と、転写部材25と、から構成される。電子写真装置30は、さらに、クリーニング部材26を含んでもよい。また、電子写真装置30は、カラープリンタとすることができる。
【0112】
図3に、本発明の実施形態に係る電子写真装置における電子写真プロセス配置図の他の例を示す概略構成図を示す。図示する電子写真プロセスは、タンデムカラープリンタを示す。図示する電子写真装置70は、導電性基体1と、その外周面上に被覆された下引き層2並びに電荷輸送層3および電荷発生層4からなる感光層5とを含む、本発明の実施形態に係る感光体20を4つ搭載する。この電子写真装置70は、感光体20の外周縁部に配置された、帯電部材21と、この帯電部材21に印加電圧を供給する図示しない帯電電源と、像露光部材23と、現像部材24と、転写部材25と、さらに、転写ベルト12および転写紙13と、を含む。電子写真装置70は、さらに、クリーニング部材26を含んでもよい。
【0113】
導電性基体1として、直径28mm以上40mm以下の円筒状アルミニウム基体を用いる場合には、印字速度50ppm以上のモノクロ方式の電子写真装置や、感光体ドラム寿命5万枚以上のモノクロ方式の電子写真装置、印字速度30ppm以上のタンデムカラー方式の電子写真装置とすることができる。導電性基体1として、直径15mm以上28mm未満の円筒状アルミニウム基体を用いる場合には、印字速度30ppm以上のタンデムカラー方式の電子写真装置、感光体ドラム寿命3万枚以上のタンデムカラー方式の電子写真装置とすることができる。
【実施例0114】
以下、本発明の具体的態様を、実施例を用いてさらに詳細に説明する。本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例によって限定されるものではない。
【0115】
<正帯電積層型感光体>
(実施例1)
導電性基体としては、直径30mm×長さ244.5mm、表面粗さ(RZ)1.2μmに切削加工されたアルミニウム製の0.75mm肉厚管(円筒状アルミニウム基体)を用いた。この導電性基体について、常法に従い、陽極酸化被膜を形成した。処理時の電流密度は0.5A/dm2、通電時間30分間、95℃30分間の純水封孔処理を行い、厚さ5μmの陽極酸化被膜を得た。
【0116】
[電荷輸送層]
第一正孔輸送材料としての上記構造式(HT1-5)で示される化合物30質量部および上記構造式(HT-1)で示される化合物30質量部と、第一樹脂バインダーとしての上記構造式(BD1-2)で示される繰り返し単位を有するポリカーボネート樹脂(粘度平均分子量:52,500)40質量部と、下記の表1,2に示す配合量の添加剤とを、溶剤としてのテトラヒドロフラン400質量部に溶解して、電荷輸送層塗布液を調製した。この電荷輸送層塗布液を、上記導電性基体上に浸漬塗工法により塗工し、100℃で30分間乾燥して、膜厚12μmの電荷輸送層を形成した。なお、溶剤の配合量は、所望の膜厚が得られるように調整した。
【0117】
[電荷発生層]
第二正孔輸送材料としての上記構造式(HT1-5)で示される化合物5質量部および上記構造式(HT-1)で示される化合物5質量部と、電子輸送材料としての上記構造式(ET1-4)で示される化合物30質量部および上記構造式(ET2-4)で示される化合物15質量部と、第二樹脂バインダーとしての上記構造式(BD1-3)で示される繰り返し単位を有するポリカーボネート樹脂(粘度平均分子量:54,500)44質量部と、下記の表1,2に示す配合量の添加剤とを、溶剤としてのテトラヒドロフラン380質量部に溶解させ、電荷発生材料としての下記構造式(CG1)で示されるY型チタニルフタロシアニン1質量部を添加した後、分散機(ウィリー・エ・バッコーフェン社製DYNO-MILLリサーチラボ型)にて、ビーズ:φ0.4ZrO、充填率:70%、回転数:3000rpm、3パスの条件で分散処理を行うことにより、電荷発生層塗布液を調製した。この電荷発生層塗布液を、上記電荷輸送層上に浸漬塗工法により塗布し、温度110℃で30分間乾燥することにより膜厚12μmの電荷発生層を形成した。なお、溶剤の配合量は、所望の膜厚が得られるように調整した。これにより、合計膜厚24μmの感光層を有する正帯電積層型電子写真用感光体を得た。
【0118】
【0119】
(実施例2~27および比較例1~23)
下記の表1,2に従い、各添加剤の種類、配合量を変えた以外は実施例1と同様にして、正帯電積層型電子写真用感光体を得た。なお、溶剤の配合量は、所望の膜厚が得られるように適宜調整を行った。
【0120】
【0121】
【0122】
表中のBHTは、ジブチルヒドロキシトルエン(ヒンダードフェノール系酸化防止剤)を示す。
【0123】
[初期電気特性]
上記実施例1~27および比較例1~23において作製した感光体の電子写真特性を、下記の方法で評価した。すなわち、まず、評価装置(ジェンテック社製のCynthia)において感光体表面を暗所にてコロナ放電により+650Vに帯電せしめた後、帯電直後の表面電位V0を測定した。続いて、暗所で5秒間放置後、表面電位V5を測定し、V0に対するV5の割合を求め、帯電後5秒後における電位保持率Vk5(%)とした。
【0124】
次に、ハロゲンランプを光源とし、フィルターを用いて780nmに分光した露光光を、表面電位が+600Vになった時点から5秒間感光体に照射し、表面電位が+300Vとなるまでの時間を測定し、光減衰するのに要する露光量を求め、感度E1/2(μJcm-2)とした。0.30(μJcm-2)の露光エネルギーで光照射後の表面電位を測定し、残留電位VR0.30(V)とした。
【0125】
[オゾン耐性評価]
感光体周囲が高いオゾン濃度となる小型の電子写真装置の環境を想定し、感光体をオゾン雰囲気下に放置できるオゾン曝露装置内に、各実施例および比較例の感光体を設置し、濃度50ppm(parts per million)、30分間にてオゾン曝露し、オゾン曝露装置外で4時間暗中で放置した後の上記電位保持率を測定し、オゾン曝露前の保持率Vk51に対するオゾン曝露放置4時間後の保持率Vk52を求め、オゾン曝露保持回復率ΔVk5(%)=(Vk52/Vk51)×100とした。そして、ΔVk5の値が90%以上の場合をレベル5、80%以上90%未満の場合をレベル4、70%以上80%未満の場合をレベル3、60%以上70%未満の場合をレベル2、60%未満の場合をレベル1として、5段階評価した。なお、実用可能なレベルは、前記レベル3から前記レベル5である。
【0126】
[クラック発生評価]
人体由来の皮脂を感光体表面の10箇所に付着させて、10日間放置した後の付着部分のクラックおよびシミ(着色)発生の有無を100倍の倍率で光学顕微鏡により調査した。そして、10箇所すべてクラック発生なしかつシミなしの場合をレベル5、10箇所すべてクラック発生なしかつシミ発生5箇所未満の場合をレベル4、10箇所すべてクラック発生なしかつシミ発生5箇所以上の場合をレベル3、クラック発生5箇所未満の場合をレベル2、クラック発生5箇所以上の場合をレベル1として、5段階評価した。なお、実用可能なレベルは、前記レベル3から前記レベル5である。
【0127】
[クリープ変形評価]
直径60μm、長さ10cmのタングステンワイヤーの両端に100gの錘を付け、これを感光体に掛けて、50℃の高温常湿環境下で1週間放置した後、クリープ変形量(窪み)を触針式形状測定器で測定した。クリープ変形量が0μm以上1μm未満のものをレベル5、1μm以上2μm未満のものをレベル4、2μm以上3μm未満のものをレベル3、3μm以上4μm未満のものをレベル2、4μm以上のものをレベル1として、5段階評価した。なお、実用可能なレベルは、前記レベル3から前記レベル5である。
【0128】
これらの評価結果を、下記表3,4中に示す。電荷輸送層に添加剤として一般式(AD1)で示される化合物を含む実施例1~27では、初期電気特性が良好であり、オゾン耐性、クラック発生、クリープ変形の3種の評価において、いずれの評価でもレベル3以上であり、各評価特性を兼ね備えた感光体が得られている。これに対し、電荷輸送層に添加剤として一般式(AD1)で示される化合物を含まない比較例1~23では、初期電気特性は比較的良好ではあるものの、オゾン耐性、クラック発生、クリープ変形の3種の評価において、いずれかもしくは全てがレベル2以下であり、3種の各評価特性を兼ね備えた感光体は得られていない。
【0129】
中でも、電荷輸送層に添加剤として、一般式(AD1)で示される化合物を、第一正孔輸送材料および第一樹脂バインダーの合計100質量部に対し15質量部以上30質量部以下で含み、電荷発生層に添加剤として一般式(AD2)で示される化合物を、電荷発生材料と第二正孔輸送材料と電子輸送材料と第二樹脂バインダーの合計100質量部に対し0.5質量部以上5質量部以下で含む実施例8~10、15~19では、オゾン耐性、クラック発生、クリープ変形の3種の評価において、いずれの評価もレベル5であり、実施例20~22では、1種の評価でレベル4で、2種の評価でレベル5であり、各評価特性を高レベルで兼ね備えた感光体が得られている。特に、電荷輸送層に、添加剤として一般式(AD2)で示される化合物を、第一正孔輸送材料および第一樹脂バインダーの合計100質量部に対し、1質量部以上10質量部以下で含む実施例17~20,22の感光体は、初期電気特性がさらに良好である。
【0130】
一方、電荷輸送層に添加剤として一般式(AD1)で示される化合物を含まない比較例同士を対比すると、電荷発生層にも添加剤として一般式(AD1)で示される化合物を含まない比較例1に対し、電荷発生層に添加剤として一般式(AD1)で示される化合物を含有させた比較例10~16でも、クラック発生の評価の向上は見られない。中でも、電荷発生層に添加剤として一般式(AD1)で示される化合物を1質量部含有させた比較例10では、比較例1と比較して、クリープ変形の評価の向上は見られるがオゾン耐性の評価の向上が見られない。また、電荷発生層に添加剤として一般式(AD1)で示される化合物を10質量部以上含有させた比較例12~16では、比較例1と比較して、オゾン耐性の評価の向上は見られるものの、クリープ変形の評価が悪化しており、オゾン耐性とクリープ変形との評価特性の両立も見られない。電荷輸送層に、添加剤として、一般式(AD2)の代わりに代表的な酸化防止剤であるBHTを含有させた比較例21~23では、オゾン耐性の評価およびクラック発生の評価の向上は見られない。なお、一般式(AD1)で示される添加剤としてAD1-2を、一般式(AD2)で示される添加剤としてAD2-4を用いたが、他の材料においても同様の効果が認められた。
【0131】
【0132】
【0133】
[電子写真装置での印字評価]
実施例1、実施例7、実施例15および実施例27の感光体を、市販のブラザー工業社製の50ppmのモノクロ高速プリンタHL-L6400DWに搭載して、低温低湿(10℃、20%)、常温常湿(24℃、50%)および高温高湿(35℃、80%)の3環境でそれぞれ、10秒間欠で印字面積率4%のA4モノクロ画像を1日0.5万枚で7.5万枚間欠印字する耐久試験を行った。いずれの感光体においても、実使用で問題になるような、オゾン劣化、クラック発生、クリープ変形に起因する画像品質の劣化が見られないことを確認した。
【0134】
導電性基体として、直径30mm×長さ252.6mm、表面粗さ(Rz)1.0μmに切削加工されたアルミニウム製の0.75mm肉厚管(円筒状アルミニウム基体)を用いた以外は、実施例18と同様に作製した感光体4本を、市販のブラザー工業社製の31ppmのタンデムカラー中速プリンタHL-L8360CDWに搭載して、低温低湿(10℃、20%)、常温常湿(24℃、50%)および高温高湿(35℃、80%)の3環境で、それぞれ、10秒間欠で印字面積率4%のA4カラー画像を1日0.3万枚で4.0万枚間欠印字する耐久試験を行った。実使用で問題になるような、オゾン劣化、クラック発生、クリープ変形に起因する画像品質の劣化が見られないことを確認した。
【0135】
以上より、正帯電積層型電子写真用感光体においては、クリープ変形は、表面層となる電荷発生層の膜質により大きく影響を受け、下層となる電荷輸送層の膜質によってはあまり影響を受けないと考えられ、本発明の条件を満足する添加剤を用いるものとすることによって、オゾン耐性の向上とクラック発生の抑制効果が見られ、クリープ変形を悪化させることはほとんどないことがわかった。つまり、オゾン耐性とクラック発生の抑制効果とクリープ変形の抑制効果とをいずれも良好に兼ね備えるとともに、良好な電気特性を有する電子写真用感光体が得られることが確かめられた。
前記電荷輸送層中の前記一般式(AD1)で示される化合物の含有量が、前記第一正孔輸送材料および前記第一樹脂バインダーの合計100質量部に対し、15質量部以上30質量部以下である請求項1記載の電子写真用感光体。
前記電荷発生層中の前記一般式(AD2)で示される化合物の含有量が、前記第二正孔輸送材料、前記電子輸送材料、前記電荷発生材料および前記第二樹脂バインダーの合計100質量部に対し、0.5質量部以上5質量部以下である請求項3記載の電子写真用感光体。
前記電荷輸送層中の前記一般式(AD2)で示される化合物の含有量が、前記第一正孔輸送材料および前記第一樹脂バインダーの合計100質量部に対し、1質量部以上10質量部以下である請求項5記載の電子写真用感光体。