(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024070092
(43)【公開日】2024-05-22
(54)【発明の名称】リチウム二次電池の充放電制御方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/052 20100101AFI20240515BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20240515BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20240515BHJP
H01M 4/587 20100101ALI20240515BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20240515BHJP
H01M 4/134 20100101ALI20240515BHJP
H01M 4/133 20100101ALI20240515BHJP
H01M 4/131 20100101ALI20240515BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20240515BHJP
H01M 10/44 20060101ALI20240515BHJP
【FI】
H01M10/052
H01M4/525
H01M4/38 Z
H01M4/587
H01M4/62 Z
H01M4/134
H01M4/133
H01M4/131
H01M4/36 E
H01M10/44 A
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022180473
(22)【出願日】2022-11-10
(71)【出願人】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【弁理士】
【氏名又は名称】山根 広昭
(74)【代理人】
【識別番号】100130605
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 浩治
(72)【発明者】
【氏名】大崎 真由子
【テーマコード(参考)】
5H029
5H030
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ03
5H029AJ05
5H029AK03
5H029AL02
5H029AL07
5H029AL11
5H029AM03
5H029AM07
5H029DJ08
5H029EJ04
5H029EJ12
5H029HJ01
5H029HJ02
5H029HJ08
5H029HJ19
5H030AA01
5H030BB01
5H030FF42
5H030FF52
5H050AA07
5H050AA08
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA08
5H050CB02
5H050CB08
5H050CB11
5H050CB29
5H050DA03
5H050DA10
5H050DA11
5H050EA08
5H050EA23
5H050HA01
5H050HA08
5H050HA19
(57)【要約】
【課題】高エネルギー密度を長期に亘って発揮できる充放電制御方法を提供する。
【解決手段】本発明により、正極および負極を含む電極体を備え、上記正極は、リチウム遷移金属複合酸化物を含み、上記リチウム遷移金属複合酸化物は、Niを含み、かつ全遷移金属元素に対するNiのモル比が70mol%以上であり、上記負極は、黒鉛と、Si含有材料と、を含み、上記黒鉛および上記Si含有材料の合計の質量を100質量%としたときに、上記Siの割合が、20質量%以上70質量%以下であり、充電時に上記SiにLiが吸蔵されてLi-Si合金(LixSi)となるとき、上記Siに対するLiのモル比Xの最大値が、1.3以上1.9以下となるように充電制御し、上記モル比Xの制御範囲において、上記正極の容量に対する上記負極の容量の比が、1.0以上1.3以下である、リチウム二次電池の充放電制御方法が提供される。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極および負極を含む電極体と、非水電解質と、を備え、
前記正極は、リチウム遷移金属複合酸化物を含み、
前記リチウム遷移金属複合酸化物は、Niを含み、かつ全遷移金属元素に対するNiのモル比が70mol%以上であり、
前記負極は、黒鉛と、Si含有材料と、を含み、
前記黒鉛および前記Si含有材料の合計の質量を100質量%としたときに、前記Si含有材料に含まれるSiの割合が、20質量%以上70質量%以下であり、
充電時に前記SiにLiが吸蔵されてLi-Si合金(LixSi)となるとき、前記Siに対するLiのモル比Xの最大値が、1.3以上1.9以下となるように充電制御し、
前記モル比Xの制御範囲において、前記正極の容量に対する前記負極の容量の比が、1.0以上1.3以下である、
リチウム二次電池の充放電制御方法。
【請求項2】
前記負極は、負極バインダとして、セルロース系バインダ、ポリアクリル系バインダ、およびゴム系バインダのうちの少なくとも1つを含む、
請求項1に記載の充放電制御方法。
【請求項3】
前記負極バインダは、セルロース系バインダと、ポリアクリル系バインダと、ゴム系バインダと、を含み、
前記負極の固形分全体を100質量%としたときに、前記セルロース系バインダ、前記ポリアクリル系バインダ、および前記ゴム系バインダの割合が、それぞれ、0.5質量%以上3質量%以下である、
請求項2に記載の充放電制御方法。
【請求項4】
前記負極は、導電材として、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、および炭素繊維のうちの少なくとも1つを含む、
請求項1から3のいずれか1つに記載の充放電制御方法。
【請求項5】
前記正極の密度が、3.2g/cm3以上である、
請求項1から3のいずれか1つに記載の充放電制御方法。
【請求項6】
前記負極の密度が、1.4g/cm3以上である、
請求項1から3のいずれか1つに記載の充放電制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池の充放電制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高容量化等を目的として、負極にSi含有材料を含む二次電池が知られている。Si含有材料は、高い理論容量を有する一方で、充放電サイクルに伴う膨張収縮(体積変化)が大きく、充放電サイクルに伴う容量維持率の低下が課題である(特許文献1~4参照)。これに関連して、特許文献1には、負極にLiXSiで表される負極活物質を含んだリチウム二次電池を、上記Xの値が0≦X≦2.33となる範囲で充放電することにより、充放電サイクルに伴う容量維持率の低下を抑制し得ることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000-173669号公報
【特許文献2】特開2004-349016号公報
【特許文献3】特開2005-332805号公報
【特許文献4】特開2009-259695号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、リチウム二次電池には、さらなる高エネルギー密度化やサイクル特性の向上が望まれている。本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、充放電サイクルに伴う体積変化が抑えられ、高エネルギー密度を長期に亘って発揮できるリチウム二次電池の充放電制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者の鋭意検討により、負極にSi含有材料を含むリチウム二次電池で大きな体積変化が生じる要因として、SiそのものがLiと反応した際の膨張収縮が大きいことに加え、充放電電圧の分極が大きく、Liの固体内拡散が遅くなるために、反応のムラが起こり易いことが新たに判明した。そこで、高エネルギー密度が得られる電池構成とし、膨張収縮と分極とが共に小さく抑えられるSiの使用範囲で、二次電池を充放電することに想到した。そして、鋭意検討を重ね、本発明を完成させた。
【0006】
本発明により、正極および負極を含む電極体と、非水電解質と、を備え、上記正極は、リチウム遷移金属複合酸化物を含み、上記リチウム遷移金属複合酸化物は、Niを含み、かつ全遷移金属元素に対するNiのモル比が70mol%以上であり、上記負極は、黒鉛と、Si含有材料と、を含み、上記黒鉛および上記Si含有材料の合計の質量を100質量%としたときに、上記Si含有材料に含まれるSiの割合が、20質量%以上70質量%以下であり、充電時に上記SiにLiが吸蔵されてLi-Si合金(LixSi)となるとき、上記Siに対するLiのモル比Xの最大値が、1.3以上1.9以下となるように充電制御し、上記モル比Xの制御範囲において、上記正極の容量に対する上記負極の容量の比が、1.0以上1.3以下である、リチウム二次電池の充放電制御方法が提供される。
【0007】
本発明によれば、負極におけるSiの含有割合を20質量%以上に増やし、Siの使用範囲をSiのモル比で1.3~1.9まで(Li12Si7相当まで)とし、かつ負極の容量に合わせて正極の設計を行うことで、例えば黒鉛のみを使用する場合と同等かそれ以上の高エネルギー密度を実現できる。また、例えば特許文献1に比べて充放電サイクルに伴う体積変化が抑えられ、高エネルギー密度を長期に亘って発揮できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】一実施形態に係る二次電池を模式的に示す斜視図である。
【
図2】
図1のII-II線に沿う模式的な縦断面図である。
【
図3】充放電中のNi含有リチウム遷移金属複合酸化物のc軸長の変化を表すグラフである。
【
図4】Siの含有割合とエネルギー密度との関係を表すグラフである。
【
図5】LixSiのLi挿入容量と膨張率との関係を表すグラフである。
【
図6】微分容量(dQ/dV)と電圧との関係を表すグラフである。
【
図7】実施例1と比較例6のセルの厚さの推移を表すグラフである。
【
図8】比較例3のセルの厚さの推移を表すグラフである。
【
図9】実施例1と比較例6の容量と容量維持率の推移を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら、ここで開示される技術の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄(例えば、本発明を特徴付けない電池の一般的な構成および製造プロセス)は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0010】
なお、本明細書において「二次電池」とは、繰り返し充放電が可能な蓄電デバイス全般を指す用語であって、リチウム二次電池等のいわゆる蓄電池(化学電池)と、電気二重層キャパシタ等のキャパシタ(物理電池)と、を包含する概念である。また、本明細書において「リチウム二次電池」とは、電解質イオンとしてリチウムイオン(Liイオン)を利用し、正負極間におけるLiイオンに伴う電荷の移動により充放電が実現される二次電池全般をいう。また、本明細書において範囲を示す「A~B」の表記は、A以上B以下の意と共に、「Aより大きい」および「Bより小さい」の意を包含するものとする。
【0011】
図1は、リチウム二次電池100(以下、単に「電池100」ということがある。)の斜視図である。
図2は、
図1のII-II線に沿う模式的な縦断面図である。なお、以下の説明において、図面中の符号L、R、F、Rr、U、Dは、左、右、前、後、上、下を表し、図面中の符号X、Y、Zは、電池100の長辺方向、上記長辺方向と直交する短辺方向、上下方向を、それぞれ表すものとする。短辺方向Yは積層方向の一例である。ただし、これらは説明の便宜上の方向に過ぎず、電池100の設置形態を何ら限定するものではない。
【0012】
図2に示すように、電池100は、外装体10と、電極体20と、正極端子30と、負極端子40と、非水電解質(図示せず)と、を備えている。電池100は、電極体20と非水電解質とが外装体10の内部に収容されて構成されている。
【0013】
外装体10は、電極体20と図示しない非水電解質とを収容する筐体である。
図1に示すように、外装体10は、ここでは扁平かつ有底の直方体形状(角形)に形成されている。電池100は、角形の外装体10を備えた角形二次電池であることが好ましい。ただし、外装体10の形状は角形に限定されず、円柱や袋状等の任意の形状であってよい。外装体10の材質は、従来から使用されているものと同じでよく、特に制限はない。外装体10は、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金、ステンレス鋼等の軽量で熱伝導性の良い金属材料で構成されている。外装体10は、所謂、ラミネートフィルム、例えば、アルミニウムを含む金属層と、樹脂を含む融着層と、を有するアルミラミネートフィルムであってもよい。
【0014】
図2に示すように、外装体10は、ここでは、開口部12hを有するケース本体12と、開口部12hを塞ぐ蓋体(封口板)14と、を備えている。ケース本体12は、
図1に示すように、平板状の底壁12aと、底壁12aから延び相互に対向する一対の長側壁12bと、底壁12aから延び相互に対向する一対の短側壁12cと、を備えている。蓋体14は、ケース本体12の開口部12hを塞ぐようにケース本体12に取り付けられている。蓋体14は、ケース本体12の底壁12aと対向している。外装体10は、ケース本体12の開口部12hの周縁に蓋体14が接合(例えば溶接接合)されることによって、一体化されている。外装体10は、気密に封止(密閉)されている。
【0015】
電極体20は、正極および負極(図示せず)を有する。電極体20は、例えば、方形状(典型的には矩形状)の正極と、方形状(典型的には矩形状)の負極とが、セパレータを介して積層方向に積み重ねられてなる積層電極体であってもよいし、帯状の正極と帯状の負極とが帯状のセパレータを介して積層され、捲回軸を中心として捲回されてなる捲回電極体であってもよい。
【0016】
正極は、
図2に示すように、正極集電体21と、正極集電体21の少なくとも一方の表面上に固着された正極活物質層(図示せず)と、を有する。正極集電体21は、例えばアルミニウム、アルミニウム合金、ニッケル、ステンレス鋼等の導電性金属からなっている。正極の密度(正極活物質層の平均充填密度)は、3.2g/cm
3以上が好ましい。正極の密度を所定値以上とすることで、高容量の負極に合わせた正極の容量設計が容易となる。後述するSiの使用範囲において、正極の容量は180mAh/g以上であることが好ましい。
【0017】
正極活物質層は、電荷担体を可逆的に吸蔵および放出可能な正極活物質を含んでいる。正極活物質は、高Ni含有リチウム遷移金属複合酸化物、すなわち、リチウム遷移金属複合酸化物は、Niを必須として含み、かつ全遷移金属元素に対するNiのモル比が70mol%以上であるリチウム遷移金属複合酸化物を含んでいる。高Ni含有リチウム遷移金属複合酸化物は、層状化合物であることが好ましく、Li
aMO
2(ただし、aは、0<a<2であり、Mは、Niを含む、1種または2種以上の遷移金属である。)で表される化合物であることがより好ましい。高Ni含有リチウム遷移金属複合酸化物において、全遷移金属元素に対するNiのモル比は、80mol%以上がより好ましく、85mol%以上がさらに好ましく、90mol%以上が特に好ましい。この理由について、
図3を参照しつつ説明する。
【0018】
図3は、充放電中のNi含有リチウム遷移金属複合酸化物のc軸長の変化を表すグラフである。
図3に示すように、本発明者の検討によれば、高Ni含有リチウム遷移金属複合酸化物、すなわち、Niのモル比が70mol%以上、さらには80mol%以上(
図3のNi80)であると、リチウム金属基準の電位が4.1V(vs.Li/Li+)以上になったとき、c軸に大きな収縮が生じる。これにより、後述する負極の膨張を好適に吸収して、電極体20の体積変化を緩和できる。この傾向は、Niのモル比が57mol%(
図3のNi57)の場合は生じない。また、Niのモル比が90mol%以上(
図3のNi92)の場合は、さらに顕著になる。これはNi比率が高い組成では上記電位でH3構造が現れ、その際に大きな収縮が起きるためである。
【0019】
正極活物質の全質量を100質量%としたときに、高Ni含有リチウム遷移金属複合酸化物の割合は、60質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、85質量%以上であることがさらに好ましい。
【0020】
正極活物質層は、高Ni含有リチウム遷移金属複合酸化物以外の正極活物質や、正極活物質以外の任意成分、例えば、導電材、正極バインダ、各種添加成分等を含んでいてもよい。導電材としては、例えばアセチレンブラック(AB)等の炭素材料を使用し得る。正極活物質層は、正極バインダを含むことが好ましい。正極バインダとしては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)等のフッ素樹脂を使用し得、なかでもPVdFを含むことが好ましい。
【0021】
負極は、
図2に示すように、負極集電体22と、負極集電体22の少なくとも一方の表面上に固着された負極活物質層(図示せず)と、を有する。負極集電体22は、例えば銅、銅合金、ニッケル、ステンレス鋼等の導電性金属からなっている。負極の密度(負極活物質層の平均充填密度)は、典型的には正極活物質層よりも小さく、1.4g/cm
3以上が好ましい。これにより、高容量の負極の容量設計が容易となる。
【0022】
負極活物質層は、電荷担体を可逆的に吸蔵および放出可能な負極活物質を含んでいる。負極活物質は、黒鉛と、シリコンを含む化合物(Si含有材料)と、を含んでいる。Si含有材料としては、例えば、SiC、SiOx等、従来この種の用途に用いられている化合物を特に限定なく使用し得る。なかでも、SiCが好ましい。黒鉛は、例えばSiCのようにSi含有材料にコンポジット化された状態であってもよいし、Si含有材料とは別体でもよい。本実施形態では、黒鉛およびSi含有材料の合計の質量を100質量%としたときに、Si含有材料に含まれるSiの割合が、20~70質量%である。この理由について、表1、
図4を参照しつつ説明する。
【0023】
表1は、Siの含有割合と容量、エネルギー密度を纏めた表である。
図4は、Siの含有割合とエネルギー密度との関係を表すグラフである。表1および
図4に示すように、本発明者の検討によれば、Siの割合を20質量%以上に高めることにより、後述するSiの使用範囲を限定した充放電制御であっても、黒鉛のみを使用する場合(容量:372mAh/g、エネルギー密度:1.38Wh/g-負極活物質)と同等か、それ以上の高エネルギー密度を実現できる。Siの割合は、負極の膨張を抑制する観点から、70質量%であり、概ね50質量%以下、例えば30質量%以下であってもよい。
【0024】
【0025】
負極活物質層は、黒鉛およびSi含有材料以外の負極活物質や、負極活物質以外の任意成分、例えば、導電材、負極バインダ、各種添加成分等を含んでいてもよい。負極活物質層は、導電材を含むことが好ましい。導電材としては、例えば、アセチレンブラック(AB)やケッチェンブラック等のカーボンブラック、カーボンナノチューブ(CNT)、気相法炭素繊維(VGCF)等の炭素繊維、活性炭、黒鉛等の炭素材料を好適に使用し得、なかでも、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、および炭素繊維のうちの少なくとも1つを含むことが好ましい。これにより、Si含有材料の導電性を好適に高めて内部抵抗を低減すると共に、体積変化を緩和できる。
【0026】
負極活物質層は、負極バインダを含むことが好ましい。負極バインダとしては、例えば、セルロース系バインダ、ポリアクリル系バインダ、ゴム系バインダ、等を使用し得る。これらの負極バインダとしては、従来からリチウム二次電池で用いられているものを特に制限なく使用できる。負極活物質層は、セルロース系バインダ、ポリアクリル系バインダ、およびゴム系バインダのうちの少なくとも1つを含むことが好ましく、セルロース系バインダと、ポリアクリル系バインダと、ゴム系バインダと、をいずれも含むことがより好ましい。また、負極の固形分全体を100質量%としたときに、セルロース系バインダ、ポリアクリル系バインダ、およびゴム系バインダの割合は、それぞれ、0.5~3質量%であることが好ましい。これにより、充放電に伴うSi含有材料の膨張・収縮に追従しやすくなり、サイクル特性を向上できる。
【0027】
セルロース系バインダは、β-グルコースを少なくとも繰り返し単位として含む直鎖の重合体およびその誘導体の全般を包含する。典型的には、繰り返し単位であるβ-グルコース構造におけるヒドロキシ基の一部または全部をアルコキシ基に置換した化合物およびその誘導体である。セルロース系バインダとしては、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、カルボキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等を使用し得、なかでもCMCが好ましい。
【0028】
ポリアクリル系バインダは、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルおよびアクリロニトリルからなる群より選択される少なくとも1種の単量体が重合することにより形成された高分子化合物の全般を包含する。ポリアクリル系バインダとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、アクリル酸塩、またはメタクリル酸塩の単位(以下「アクリル単位」という)を含む重合体(単独重合体または共重合体)等を使用し得、なかでもポリアクリル酸(PAA)が好ましい。共重合体としては、アクリル単位とスチレン単位を含む共重合体、アクリル単位とシリコン単位を含む共重合体、等を使用し得る。負極バインダにポリアクリル系バインダを含むことで、接着性を向上でき、充放電に伴って負極をスムーズに膨張・収縮させることができる。
【0029】
ゴム系バインダは、主鎖に炭素-炭素二重結合を含むゴム状高分子材料全般を包含する。ゴム系バインダとしては、例えば、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブチルゴム(IIR)、ブタジエンゴム(BR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)等を使用し得る。負極バインダにゴム系バインダを含むことで、引張強度や弾性率を向上でき、特にポリアクリル系バインダと併用することで、サイクル劣化を効果的に抑制できる。また、内部抵抗の上昇が抑えられ、エネルギー密度やサイクル特性を向上できる。
【0030】
セパレータは、正極の正極活物質層と負極の負極活物質層との間に介在し、これらを絶縁する部材である。セパレータとしては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン樹脂からなる樹脂製の多孔性シートが好適である。セパレータは、総厚みが20μm以下であることが好ましい。セパレータは、PEやPP等の樹脂製の多孔性シートからなる基材部と、基材部の少なくとも一方の表面上に設けられた耐熱層と、を有する耐熱セパレータであることが好ましい。
【0031】
図2に示すように、電極体20の長辺方向Xの中央部(斜線部)には、正極活物質層と負極活物質層とが絶縁された状態で積層された積層部が形成されている。一方、電極体20の長辺方向Xの左端部には、正極集電体21の一部分(正極集電体露出部)が積層部からはみ出している。正極集電体露出部には、正極リード部材23が付設されている。また、電極体20の長辺方向Xの右端部には、負極集電体22の一部分(負極集電体露出部)が積層部からはみ出している。負極集電体露出部には、負極リード部材24が付設されている。
【0032】
正極端子30および負極端子40は、
図1に示すように、蓋体14の長辺方向Xの両端部に配置されている。正極端子30および負極端子40は、外装体10の外部に突出している。正極端子30および負極端子40は、ここでは、外装体10の同じ面(具体的には蓋体14)からそれぞれ突出している。ただし、正極端子30および負極端子40は、外装体10の異なる面からそれぞれ突出していてもよい。
図2に示すように、正極端子30は、外装体10の内部で、正極リード部材23を介して、電極体20の正極と電気的に接続されている。負極端子40は、外装体10の内部で、負極リード部材24を介して、電極体20の負極と電気的に接続されている。
【0033】
非水電解質は従来と同様でよく、特に制限はない。非水電解質は、例えば、非水系溶媒と支持塩とを含有する液状電解質(非水電解液)である。非水系溶媒は、例えば、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等のカーボネート類を含んでいる。支持塩は、例えば、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)等のフッ素含有リチウム塩である。ただし、非水電解質は、固体状(固体電解質)で、電極体20に一体化されていてもよい。
【0034】
以上のような電池100を充電すると、負極ではSiにLiが吸蔵され、Siが、Li-Si合金(LixSi)となる。
図5は、Li-Si合金のLi挿入容量と膨張率(体積変化率)との関係を表すグラフである。
図5に示すように、Siは、Liのモル比Xが大きい程、Li挿入容量が高くなるが、その一方で膨張率も大きくなる。そこで、本実施形態では、充電時のSiの使用範囲を、Siに対するLiのモル比Xの最大値が1.3~1.9となるよう(Li
12Si
7相当まで)に制御する。これにより、充放電サイクルに伴う体積変化が抑えられ、高エネルギー密度を長期に亘って発揮できる。上記効果を高いレベルで発揮する観点から、モル比Xの最大値は、1.5~1.8の範囲がより好ましい。高エネルギー密度化の観点から、モル比Xの最大値は、1.6以上、1.7以上であってもよい。
【0035】
一方、電池100を放電すると、負極ではLi-Si合金(LixSi)からLiが放出される。放電時のSiの使用範囲は、Siに対するLiのモル比Xの最小値が0となるよう(Si相当まで)に制御してもよい。
【0036】
充放電は、電圧制御が望ましい。
図6は、負極にSi含有材料を含む二次電池の微分容量(dQ/dV)と電圧との関係を表すグラフである。「微分容量(dQ/dV)」は、単位電圧あたりの容量変化量を示す。dQ/dVが上昇しているピークは、何らかの原因で充放電が他の電圧領域に比べて活発に行われたことを示している。このような知見に基づいて、電圧制御においては、dQ/dVが上昇するピーク(
図6の反応ピーク)を超えないように、例えば
図6の矢印の電圧範囲で、充放電電圧を設定すればよい。充放電レート(Cレート)は、0.2C以上であるとよく、0.3C以上がより好ましい。充放電レートは、2C以下が好ましく、1C以下がさらに好ましい。
【0037】
なお、Siに対するLiのモル比Xが1.3~1.9の場合の負極容量は、簡易には、Siの含有量に対する理論容量(表1参照)で求めることができる。また、より詳細には、Si含有材料を用いてLi金属を対極としたハーフセルを作製して初回充放電を行い、dQ/dV曲線(
図6参照)ないしdV/dQ曲線を表すと、Si→Li
2Siのピークと、Li
2Si→Li
3.25Siのピークとが、二つに分かれることから、これに基いてx=2.0(Li
2Si)の容量(
図6の矢印の範囲)を算出し、容量比率からモル比Xが1.3~1.9の場合の負極容量(初回負極放電容量)を求めることもできる。
【0038】
本実施形態では、上記モル比Xの制御範囲において、正極の容量に対する負極の容量の比(正負極容量比)が、1.0~1.3である。正負極容量比を上げるために負極の目付量を増やすと、エネルギー密度が低下する。そのため、正負極容量比は、1.3以上とする。また、正負極容量比が1.0未満になると、Li析出が起こりやすくなり、サイクル特性が低下する。そのため、正負極容量比は、1.0以上とする。上記効果を高いレベルで発揮する観点から、正負極容量比は、1.0~1.2がより好ましい。正負極容量比は、例えば高電流充放電時の容量比率の変化等を考慮すると、1.05以上が好ましく、1.1以上がさらに好ましい。
【0039】
なお、正負極容量比は、正極の容量と負極の容量とを別々に求め、次式:負極の容量÷正極容量;で求めることができる。正極の容量は、Li金属を対極としたハーフセルを作製して、フルセルと対応する電圧範囲(例えば2.5~4.3V)の電圧範囲で初回充電を行ったときの容量(初回正極充電容量)で求められる。負極の容量は、上記したSi使用容量(Siに対するLiのモル比Xが1.3~1.9の場合の初回負極放電容量)と、Siの使用電圧範囲(上記モル比Xの制御範囲)における黒鉛の容量)と、を合計することで求められる。なお、負極の充放電の不可逆容量が正極よりも多い場合には、不可逆容量を引いた上で求めることが好ましい。
【0040】
電池100は各種用途に利用可能であるが、例えば、乗用車、トラック等の車両に搭載されるモータ用の動力源(駆動用電源)として好適に用いることができる。車両の種類は特に限定されないが、例えば、プラグインハイブリッド自動車(PHEV;Plug-in Hybrid Electric Vehicle)、ハイブリッド自動車(HEV;Hybrid Electric Vehicle)、電気自動車(BEV;Battery Electric Vehicle)等が挙げられる。
【0041】
以下、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に限定することを意図したものではない。
【0042】
まず、正極活物質としてのNi含有リチウム遷移金属複合酸化物と、正極バインダとしてのPVdFと、を含む正極活物質層(密度:3.5g/cm3)を備えた正極を作製した。なお、Ni含有リチウム遷移金属複合酸化物は、全遷移金属元素に対するNiのモル比(%)を、表2に示す通りとした。また、表2に示す負極活物質と、負極バインダとしてのCMCとSBRとPAAと、導電材としてのカーボンブラックと、を含む負極活物質層(密度:1.6g/cm3)を備えた負極を作製した。なお、負極活物質全体に占めるSiの割合は、表2に示す通りとした。次に、これら正極および負極を矩形状に切りだし、セパレータを介して交互に積層して、表2に示す正負極容量比の電極体を作製した。
【0043】
次に、電池ケースとして、袋状のアルミラミネートフィルムを用意した。そして、ラミネートフィルムに、電極体と、電極体が浸漬する量の非水電解液を入れて封止した。これにより、ラミネートセルを作製した。
【0044】
<初期特性の評価> 次に、作製したラミネートセルの上に、ラミネートセルを覆う面積の金属板(SUS板)を置き、その上に厚さ計を当てた。そして、0.2Cの充放電レートで、Siに対するLiのモル比Xが表2に示す範囲となるように初回充放電を行い、このときのエネルギー密度と、ラミネートセルの膨張率(厚みの変化率)を計測した。なお、比較例6については、実施例1と同様の電圧範囲で充放電を行った。結果を表2に示す。なお、表2において、エネルギー密度は、負極活物質の単位質量当たりで表している。また、膨張率は、充電時のものであり、充電前の厚みを基準(100%)とした割合で表している。
【0045】
表2に示すように、負極活物質中のSiの割合が10質量%と低い比較例1、Siの使用範囲を、0≦x≦1.2と狭くした比較例2、正負極容量比を1.4と高くした比較例4、Niのモル比が57mol%と低い比較例5は、負極活物質として黒鉛のみを用いた比較例6に比べてエネルギー密度が低かった。また、Siの使用範囲を、0≦x≦2.0と広くした比較例3、負極活物質として黒鉛のみを用いた比較例6は、膨張率が高かった。比較例6(黒鉛100%)で膨張率が高かった理由として、黒鉛はSiと同様にStage構造を取り、中間のStage2以外は、Siほどではないものの膨張収縮を生じたことが考えられる。
【0046】
<サイクル特性の評価> 次に、0.2Cの充放電レートで、200サイクルの充放電サイクル試験を行い、サイクル膨張速度と容量維持率を測定した。なお、サイクル膨張速度は、横軸を√サイクルにした時の膨張量(%/Ah)の傾きである。結果を表2に示す。また、一例として、
図7~
図9には、15サイクルまでの結果を表している。
図7は、実施例1と比較例6(黒鉛100%)のセルの厚さの推移を表すグラフである。
図8は、比較例6(Siの使用範囲:0≦x≦2.0)のセルの厚さの推移を表すグラフである。また、
図9は、実施例1と比較例6(黒鉛100%)の容量と容量維持率の推移を表すグラフである。なお、上述の通り、比較例6については、実施例1と同様の電圧範囲で充放電を行った。
【0047】
表2、
図7に示すように、負極活物質として黒鉛のみを用いた比較例6は、Siを30質量%含んだ実施例1に比べてグラフの傾きが大きく、すなわち相対的にサイクル膨張速度が大きかった。また、表2、
図7、
図8に示すように、Siの使用範囲を、0≦x≦2.0として(Li
13Si
4相当までとして)充放電サイクルを行った比較例3は、Siの使用範囲を、0≦x≦1.7として(Li
12Si
7相当までとして)充放電サイクルを行った実施例1に比べてグラフの傾きが大きく、すなわち相対的にサイクル膨張速度が大きかった。また、表2、
図9に示すように、比較例6(黒鉛100%)は、実施例1に比べて相対的に容量維持率が低かった。
【0048】
これら比較例1~6に対して、実施例1、すなわち、Niのモル比が70mol%以上(ここでは85mol%)であり、Siの割合が20質量%以上(ここでは30質量%)であり、Siの使用範囲を0≦x≦1.7として(Li12Si7相当までとして)充放電サイクルを行い、かつ、正負極容量比を1.0以上(ここでは1.1)とした電池セルでは、比較例6(黒鉛100%)よりも絶対容量が多いにも関わらず、サイクル膨張速度が小さく、かつ容量維持率も優れていた。かかる結果は、ここに開示される技術の意義を示すものである。
【0049】
【0050】
以上の通り、ここで開示される技術の具体的な態様として、以下の各項に記載のものが挙げられる。
項1:正極および負極を含む電極体と、非水電解質と、を備え、上記正極は、リチウム遷移金属複合酸化物を含み、上記リチウム遷移金属複合酸化物は、Niを含み、かつ全遷移金属元素に対するNiのモル比が70mol%以上であり、上記負極は、黒鉛と、Si含有材料と、を含み、上記黒鉛および上記Si含有材料の合計の質量を100質量%としたときに、上記Si含有材料に含まれるSiの割合が、20質量%以上70質量%以下であり、充電時に上記SiにLiが吸蔵されてLi-Si合金(LixSi)となるとき、上記Siに対するLiのモル比Xの最大値が、1.3以上1.9以下となるように充電制御し、上記モル比Xの制御範囲において、上記正極の容量に対する上記負極の容量の比が、1.0以上1.3以下である、リチウム二次電池の充放電制御方法。
項2:上記負極は、負極バインダとして、セルロース系バインダ、ポリアクリル系バインダ、およびゴム系バインダのうちの少なくとも1つを含む、
項1に記載の充放電制御方法。
項3:上記負極バインダは、セルロース系バインダと、ポリアクリル系バインダと、ゴム系バインダと、を含み、上記負極の固形分全体を100質量%としたときに、上記セルロース系バインダ、上記ポリアクリル系バインダ、および上記ゴム系バインダの割合が、それぞれ、0.5質量%以上3質量%以下である、
項1または項2に記載の充放電制御方法。
項4:上記負極は、導電材として、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、および炭素繊維のうちの少なくとも1つを含む、
項1~項3のいずれか一つに記載の充放電制御方法。
項5:上記正極の密度が、3.2g/cm3以上である、
項1~項4のいずれか一つに記載の充放電制御方法。
項6:上記負極の密度が、1.4g/cm3以上である、
項1~項5のいずれか一つに記載の充放電制御方法。
【0051】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は一例に過ぎない。本発明は、他にも種々の形態にて実施することができる。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。請求の範囲に記載の技術には、上記に例示した実施形態を様々に変形、変更したものが含まれる。
【符号の説明】
【0052】
10 外装体
20 電極体
100 電池(リチウム二次電池)