(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024070095
(43)【公開日】2024-05-22
(54)【発明の名称】二次電池の制御方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/058 20100101AFI20240515BHJP
H01M 50/103 20210101ALI20240515BHJP
H01M 4/587 20100101ALI20240515BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20240515BHJP
H01M 10/04 20060101ALI20240515BHJP
H01M 4/48 20100101ALI20240515BHJP
H01M 4/58 20100101ALI20240515BHJP
H01G 11/78 20130101ALI20240515BHJP
H01G 11/32 20130101ALI20240515BHJP
【FI】
H01M10/058
H01M50/103
H01M4/587
H01M4/36 E
H01M10/04 Z
H01M4/48
H01M4/58
H01G11/78
H01G11/32
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022180476
(22)【出願日】2022-11-10
(71)【出願人】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【弁理士】
【氏名又は名称】山根 広昭
(74)【代理人】
【識別番号】100130605
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 浩治
(72)【発明者】
【氏名】大崎 真由子
【テーマコード(参考)】
5E078
5H011
5H028
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5E078AB02
5E078BA18
5E078BA44
5E078BA47
5E078BA53
5E078CA06
5E078CA10
5E078DA03
5E078DA06
5E078FA12
5E078FA13
5E078HA05
5E078HA12
5E078HA21
5H011AA01
5H011AA13
5H011CC06
5H011KK01
5H028AA07
5H028BB10
5H028BB15
5H028HH05
5H029AJ11
5H029AJ12
5H029AK03
5H029AL02
5H029AL07
5H029AL11
5H029AL18
5H029AM03
5H029AM07
5H029CJ16
5H029CJ28
5H029HJ01
5H029HJ04
5H050AA14
5H050AA15
5H050BA17
5H050CA08
5H050CB02
5H050CB08
5H050CB11
5H050CB29
5H050GA18
5H050GA27
5H050HA01
(57)【要約】
【課題】角形電池ケースの変形を抑制しつつ金属析出も抑えられた二次電池を提供する。
【解決手段】本発明により、正極と負極を含む扁平状の電極体と、上記電極体を収容する角形電池ケースとを備える、二次電池の制御方法であって、上記電極体は、充電レートを0.2C以上の所定の値として、横軸に「充電深度(SOC)」、縦軸に「上記電極体の厚みの変化」をプロットしたグラフにおいて、充電深度(SOC)が80%以上90%以下の範囲にピークを有し、充電深度(SOC)が60%未満の範囲にあるとき、上記電極体の厚み方向において、上記電極体と上記角形電池ケースとの間には隙間が存在し、上記ピークの頂点となる充電深度(SOC)のときに、上記電極体と上記角形電池ケースとの間の上記隙間が無くなるようにする、二次電池の制御方法が提供される。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と負極を含む扁平状の電極体と、
前記電極体を収容する角形電池ケースと、を備える、二次電池の制御方法であって、
前記電極体は、充電レートを0.2C以上の所定の値として、横軸に「充電深度(SOC)」、縦軸に「前記電極体の厚みの変化」をプロットしたグラフにおいて、充電深度(SOC)が80%以上90%以下の範囲にピークを有し、
充電深度(SOC)が60%未満の範囲にあるとき、前記電極体の厚み方向において、前記電極体と前記角形電池ケースとの間には隙間が存在し、
前記ピークの頂点となる充電深度(SOC)のときに、前記電極体と前記角形電池ケースとの間の前記隙間が無くなるようにする、
二次電池の制御方法。
【請求項2】
前記負極は、負極活物質として、黒鉛およびSi含有材料を含み、
前記負極活物質の総量を100質量%としたときに、前記Si含有材料が、Si換算で3質量%以上である、
請求項1に記載の二次電池の制御方法。
【請求項3】
充電深度(SOC)が0%のとき、前記厚み方向において、前記電極体と前記角形電池ケースとの間の隙間の幅が、前記負極の総厚みの5%以上である、
請求項1または2に記載の二次電池の制御方法。
【請求項4】
充電深度(SOC)が0%のとき、前記厚み方向において、前記電極体と前記角形電池ケースとの間の隙間の幅が、前記角形電池ケースの厚みの2.5%以上である、
請求項1または2に記載の二次電池の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
二次電池は、典型的には、正極と負極とが絶縁された状態で所定の厚み方向に積層された電極体と、電極体を収容する電池ケースと、を備える。このような二次電池において充電が行われると、電極体が厚み方向に膨張して、電池ケースが変形したり、電池ケースの溶接部等が破損したりすることがある(特許文献1、2参照)。これに関連して、特許文献1には、角形電池ケース内に、充電に起因する電極体の膨張体積に見合った分の余剰スペースを設けることで、角形電池ケースの変形や破損を抑え得ることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009-104902号公報
【特許文献2】特開2015-115203号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記技術を、例えば0.2C以上の比較的高い充電レートで充電されるような二次電池に適用する場合、改善の余地が認められた。すなわち、本発明者の検討により、新たに、電極体と角形電池ケースとの間に隙間を設けると、充電深度(SOC;State Of Charge)が高い状態、特にはSOCが80~90%の状態で、金属析出(例えばLi析出)が起きやすくなることが判明した。この傾向は、例えば車載用電池のように、0.2C以上の充電レートで充電を繰り返す態様で、特に顕著に認められた。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、角形電池ケースの変形を抑制しつつ、金属析出も抑えられた二次電池の制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明により、正極と負極を含む扁平状の電極体と、上記電極体を収容する角形電池ケースと、を備える、二次電池の制御方法であって、上記電極体は、充電レートを0.2C以上の所定の値として、横軸に「充電深度(SOC)」、縦軸に「上記電極体の厚みの変化」をプロットしたグラフにおいて、充電深度(SOC)が80%以上90%以下の範囲にピークを有し、充電深度(SOC)が60%未満の範囲にあるとき、上記電極体の厚み方向において、上記電極体と上記角形電池ケースとの間には隙間が存在し、上記ピークの頂点となる充電深度(SOC)のときに、上記電極体と上記角形電池ケースとの間の上記隙間が無くなるようにする、二次電池の制御方法が提供される。
【0007】
充電レートを0.2C以上とすると、上記電極体は、金属析出(例えばLi析出)が生じやすい充電深度(SOC)、すなわちSOCが80~90%の範囲で膨張し、厚みが大きく変化する。そこで、本発明では、SOCが低い状態では、電極体と角形電池ケースとの間に隙間を確保する一方、SOCが高い状態では、上記電極体の厚みの変化を利用して、電極体と角形電池ケースとの間の隙間を無くすようにしている。これにより、角形電池ケースの変形を抑制しつつ、金属析出(例えばLi析出)を効果的に抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1一実施形態に係る二次電池を模式的に示す斜視図である。
【
図2】
図1のII-II線に沿う模式的な縦断面図である。
【
図3】
図1のIII-III線に沿う模式的な縦断面図であり、(A)は第1SOC状態を、(B)は第2SOC状態を、表している。
【
図4】充電レートが1/3Cのときの、SOCと電極体の厚さ変化率との関係を表すグラフである。
【
図5】充電レートが1/20Cのときの、SOCと電極体の厚さ変化率との関係を表すグラフである。
【
図6】充電レートと電極体の厚さ変化率との関係を表すグラフである。
【
図7】負極活物質中のSi量と一時的な膨張が始まるSOCとの関係を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら、ここで開示される技術の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄(例えば、本発明を特徴付けない電池の一般的な構成および製造プロセス)は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0010】
なお、本明細書において「二次電池」とは、繰り返し充放電が可能な蓄電デバイス全般を指す用語であって、リチウムイオン二次電池やニッケル水素電池等のいわゆる蓄電池(化学電池)と、電気二重層キャパシタ等のキャパシタ(物理電池)と、を包含する概念である。また「充電深度(SOC)」とは、可逆的に充放電可能な稼動電圧の範囲において、その上限となる電圧が得られる充電状態を100%とし、下限となる電圧が得られる充電状態を0%としたときの充電状態をいう。また、本明細書において範囲を示す「A~B」の表記は、A以上B以下の意と共に、「Aより大きい」および「Bより小さい」の意を包含するものとする。
【0011】
<二次電池100>
図1は、二次電池100の斜視図である。
図2は、
図1のII-II線に沿う模式的な縦断面図である。
図3は、
図1のIII-III線に沿う模式的な縦断面図であり、(A)は、SOCが60%未満の第1SOC状態を、(B)は、SOCが80~90%のなかの所定のSOCである第2SOC状態を、それぞれ表している。なお、以下の説明において、図面中の符号L、R、F、Rr、U、Dは、左、右、前、後、上、下を表し、図面中の符号X、Y、Zは、二次電池100の幅方向、上記幅方向と直交する厚み方向、上下方向を、それぞれ表すものとする。ただし、これらは説明の便宜上の方向に過ぎず、二次電池100の設置形態を何ら限定するものではない。
【0012】
図2に示すように、二次電池100は、角形電池ケース10と、電極体20と、正極端子30と、負極端子40と、を備えている。図示は省略するが、二次電池100は、ここではさらに電解質を備えている。二次電池100は、電極体20と図示しない電解質とが角形電池ケース10の内部に収容されて構成されている。二次電池100は、ここでは非水電解質二次電池、詳しくはリチウムイオン二次電池である。なお、本明細書において「リチウムイオン二次電池」とは、電解質イオンとしてリチウムイオン(Liイオン)を利用し、正負極間におけるリチウムイオンに伴う電荷の移動により充放電が実現される二次電池全般をいう。
【0013】
角形電池ケース10は、電極体20と図示しない電解質とを収容する筐体である。
図1に示すように、角形電池ケース10は、扁平かつ有底の直方体形状(角形)に形成されている。角形電池ケース10の材質は、従来から使用されているものと同じでよく、特に制限はない。角形電池ケース10は、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金、ステンレス鋼等の軽量で熱伝導性の良い金属材料で構成されている。
【0014】
図2に示すように、角形電池ケース10は、ここでは、開口部12hを有するケース本体12と、開口部12hを塞ぐ蓋体(封口板)14と、を備えている。ケース本体12は、
図1に示すように、平板状の底壁12aと、底壁12aから延び相互に対向する一対の長側壁12bと、底壁12aから延び相互に対向する一対の短側壁12cと、を備えている。底壁12aは、略矩形状である。底壁12aは、開口部12hと対向している。長側壁12bおよび短側壁12cは、それぞれ平坦な面を有する。平面視において、長側壁12bの面積は、短側壁12cの面積よりも大きい。
図3(A)に示すように、長側壁12bは、電極体20の後述する平坦部20fと対向している。
【0015】
蓋体14は、ケース本体12の開口部12hを塞ぐようにケース本体12に取り付けられている。蓋体14は、ケース本体12の底壁12aと対向している。蓋体14は、ここでは略矩形状である。角形電池ケース10は、ケース本体12の開口部12hの周縁に蓋体14が接合(例えば溶接接合)されることによって、一体化されている。角形電池ケース10は、気密に封止(密閉)されている。
【0016】
電極体20は、外形が扁平状である。電極体20は、その厚み方向が一対の長側壁12bを結ぶ方向と一致するように、角形電池ケース10の内部に収容されている。
図3(A)に示すように、電極体20は、厚み方向Yの両端に一対の平坦部20fを有する。一対の平坦部20fは、角形電池ケース10の長側壁12bと対向している。また、電極体20の厚み方向Yと直交する端面は、底壁12a、蓋体14、および一対の短側壁12cとそれぞれ対向している。なお、
図3(A)では角形電池ケース10と電極体20とが直接対向しているが、角形電池ケース10と電極体20との間には、絶縁シート(例えば、ポリプロピレン(PP)等の樹脂からなる樹脂シート。電極体ホルダともいう。)等が介在していてもよい。
【0017】
電極体20は、正極および負極(図示せず)を有する。電極体20は、ここでは方形状(典型的には矩形状)の正極と、方形状(典型的には矩形状)の負極とが、セパレータを介して厚み方向(積層方向)に積み重ねられてなる積層電極体である。電極体20の厚み方向は、正極と負極との積層方向であり、二次電池100の厚み方向Yと一致する方向である。なお、電極体20は、例えば、帯状の正極と帯状の負極とが帯状のセパレータを介して積層され、捲回軸を中心として捲回されてなる扁平な捲回電極体であってもよい。
【0018】
正極は、
図2に示すように、正極集電体21と、正極集電体21の少なくとも一方の表面上に固着された正極活物質層(図示せず)と、を有する。正極集電体21は、例えばアルミニウム、アルミニウム合金、ニッケル、ステンレス鋼等の導電性金属からなっている。正極活物質層の充填密度(平均充填密度)は、3.4g/cm
3以上が好ましい。正極活物質層の充填密度が所定値以上である場合、特に0.2C以上の充電レートで金属析出(例えばLi析出)が生じやすくなる。したがって、ここに開示される技術を適用することが殊に効果的である。
【0019】
正極活物質層は、電荷担体を可逆的に吸蔵および放出可能な正極活物質を含んでいる。正極活物質としては、例えば、リチウムニッケルコバルトマンガン含有複合酸化物等のリチウム遷移金属複合酸化物が挙げられる。正極活物質層は、正極活物質以外の任意成分、例えば、導電材、バインダ、各種添加成分等を含んでいてもよい。導電材としては、例えばアセチレンブラック(AB)等の炭素材料を使用し得る。バインダとしては、例えばポリフッ化ビニリデン(PVdF)等を使用し得る。
【0020】
負極は、
図2に示すように、負極集電体22と、負極集電体22の少なくとも一方の表面上に固着された負極活物質層(図示せず)と、を有する。負極集電体は、例えば銅、銅合金、ニッケル、ステンレス鋼等の導電性金属からなっている。負極活物質層の充填密度(平均充填密度)は、典型的には正極活物質層よりも小さく、1.4g/cm
3以上が好ましく、例えば1.4~1.6g/cm
3でありうる。負極活物質層の充填密度が所定値以上であると、負極の抵抗が高くなり、特に0.2C以上の充電レートで、負極側の容量が大きく減ってしまう。これにより、当該充電レートでは金属析出(例えばLi析出)が生じやすくなる。したがって、ここに開示される技術を適用することが殊に効果的である。正極に対する負極の理論容量比は、充電レートが0.2C以上の所定の値のときに、1~1.2であるとよい。これにより、ここに開示される技術の効果を、より安定して発揮できる。
【0021】
負極活物質層は、電荷担体を可逆的に吸蔵および放出可能な負極活物質を含んでいる。負極活物質としては、例えば、黒鉛等の炭素材料や、SiOx、Si-C複合体等のシリコンを含む材料(Si含有材料)が挙げられる。負極活物質は、Si含有材料を含むことが好ましい。本発明者の検討によれば、これにより、金属析出の生じやすいSOCが80~90%の範囲で電極体20(特には負極)が膨張しやすくなり、ここに開示される技術の効果を、より安定して発揮できる。負極活物質(例えばSi含有材料)は、ここに開示される技術の効果を、より良く発揮する観点から、BET比表面積が、3m2/g以下であることが好ましい。
【0022】
負極活物質は、黒鉛およびSi含有材料を含むことがより好ましい。Si含有材料の割合は、負極活物質の総量を100質量%としたときに、Si換算で、典型的には2質量%以上であり、3質量%以上であることが好ましい。これにより、SOCが80~90%の範囲で電極体20(特には負極)が膨張しやすくなり、ここに開示される技術の効果を、より安定して発揮できる。負極活物質の総量に占めるSi含有材料の割合は、Si換算で、20質量%以下、10質量%以下であってもよい。また、黒鉛の質量とSi含有材料の質量との合計を100質量%としたときに、Si含有材料の割合は、Si換算で3質量%以上であることが好ましい。
【0023】
負極活物質層は、負極活物質以外の任意成分、例えば、バインダ、各種添加成分等を含んでいてもよい。バインダとしては、例えばスチレンブタジエンゴム(SBR)等のゴム系バインダや、カルボキシメチルセルロース(CMC)等のセルロール系バインダ、ポリアクリル酸(PAA)等のアクリル系バインダ等を使用し得る。負極活物質層は、ゴム系バインダを含むことが好ましい。これにより、充放電に伴って電極体20をスムーズに膨張・収縮させることができる。上記観点から、負極活物質層全体に占めるバインダの割合は、0.5質量%以上であることが好ましい。
【0024】
セパレータは、厚み方向Yにおいて正極の正極活物質層と負極の負極活物質層との間に介在し、これらを絶縁する部材である。セパレータとしては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン樹脂からなる樹脂製の多孔性シートが好適である。セパレータは、総厚みが20μm以下であることが好ましい。これにより、SOCが80~90%の範囲でセパレータの反力吸収効果が小さく抑えられ、電極体20をより大きく膨張させることができる。セパレータは、PE等の樹脂製の多孔性シートからなる基材部と、基材部の少なくとも一方の表面上に設けられた耐熱層と、を有する耐熱セパレータであることが好ましい。
【0025】
セパレータは、上記基材部および/または耐熱層の少なくとも一方の表面上に設けられた接着層を有する接着セパレータであることが好ましい。接着層は、融点が100℃以下で粘着性(あるいは接着性)の樹脂材料を含む層である。接着層に含まれ得る樹脂材料としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素樹脂が挙げられる。セパレータは、接着層を介して、正極および/または負極と接着され、一体化されていることが好ましい。これにより、電極体20を、厚み方向Yが一対の長側壁12bを結ぶ方向と一致する向きで自立させることができ、角形電池ケース10内での位置を安定させることができる。
【0026】
本実施形態において、電極体20は、充電レートを0.2C以上の所定の値として、横軸に「充電深度(SOC)」、縦軸に「電極体20の厚みの変化(膨張量)」をプロットしたグラフにおいて、SOCが80~90%の範囲にピークを有する。当該SOCの範囲は、金属析出(例えばLi析出)が生じやすいSOC領域である。上記充電レートは、0.3C以上がより好ましい。上記充電レートは、負極活物質層の目付が大きくなりすぎることを抑えて、高エネルギー密度を実現する観点から、3C以下が好ましく、1C以下がさらに好ましい。
【0027】
SOCが80~90%の範囲に現れるピークは、当該SOC領域で電極体20が急激に膨張して、電極体20の厚み(厚み方向Yの長さ)が大きく変化することを表す。当該SOC領域における電極体20の膨張は、主に負極(例えば、負極活物質層中のSi含有材料)の膨張であることが好ましい。なお、「ピークを有する」とは、SOC80~90%の範囲内に、ピークの最大値があることをいう。また、上記グラフの具体的な作成方法等については、後述する実施例で詳しく述べる。
【0028】
図2に示すように、電極体20の幅方向Xの中央部(斜線部)には、正極活物質層と負極活物質層とが絶縁された状態で積層された積層部が形成されている。一方、電極体20の幅方向Xの左端部には、正極集電体21の一部分(正極集電体露出部)が積層部からはみ出している。正極集電体露出部には、正極リード部材23が付設されている。また、電極体20の幅方向Xの右端部には、負極集電体22の一部分(負極集電体露出部)が積層部からはみ出している。負極集電体露出部には、負極リード部材24が付設されている。
【0029】
正極端子30および負極端子40は、
図1に示すように、蓋体14の幅方向Xの両端部に配置されている。正極端子30および負極端子40は、角形電池ケース10の外部に突出している。正極端子30および負極端子40は、ここでは、角形電池ケース10の同じ面(具体的には蓋体14)からそれぞれ突出している。ただし、正極端子30および負極端子40は、角形電池ケース10の異なる面からそれぞれ突出していてもよい。
図2に示すように、正極端子30は、角形電池ケース10の内部で、正極リード部材23を介して、電極体20の正極と電気的に接続されている。負極端子40は、角形電池ケース10の内部で、負極リード部材24を介して、電極体20の負極と電気的に接続されている。
【0030】
電解質は従来と同様でよく、特に制限はない。電解質は、例えば、非水系溶媒と支持塩とを含有する非水系の液状電解質(非水電解液)である。非水系溶媒は、例えば、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等のカーボネート類を含んでいる。支持塩は、例えば、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)等のフッ素含有リチウム塩である。ただし、電解質は、固体状(固体電解質)で、電極体20に一体化されていてもよい。
【0031】
図3(A)に示すように、本実施形態では、SOCが60%未満の第1SOC状態のとき(例えば、SOCが20~30%の状態のとき)、言い換えれば、電極体20が大きく膨張する前の状態のとき、厚み方向Yにおいて、電極体20の平坦部20fと角形電池ケース10の長側壁12bとの間には、隙間Sが存在している。これにより、充電に伴って電極体20が膨張しても、角形電池ケース10への負荷を軽減でき、角形電池ケース10の変形ないし損傷を抑制できる。
【0032】
隙間Sの幅は、SOCが0%(完全放電状態)のとき、厚み方向Yにおいて、負極の総厚みの5%以上であることが好ましく、6%以上であることがより好ましい。隙間Sの幅は、負極の総厚みの15%以下、10%以下、8%以下でありうる。また、隙間Sの幅は、SOCが0%(完全放電状態)のとき、厚み方向Yにおいて、角形電池ケース10の厚みの2.5%以上であることが好ましく、3%以上であることがより好ましい。上記のうちの少なくとも一方を満たすことで、角形電池ケース10への負荷をより良く軽減でき、角形電池ケース10の変形ないし損傷を高いレベルで抑制できる。
【0033】
なお、本実施形態において、SOC0%(完全放電状態)と定める電圧は、3Vである。また、上記SOCは、より好ましくは、初回の充放電時のSOCである。この場合、初回の放電時の放電(終止)電圧は、3Vであり、放電レートは、1/10C~1/2C程度とするとよい。また、「隙間Sの幅」は、
図3(A)に示すように厚み方向Yの前側および後側にそれぞれ隙間Sが設けられている場合には、その合計の幅をいう。また、「負極の総厚み」は、厚み方向Yにおける負極の1枚当たりの厚み(負極集電体22および負極活物質層の合計厚み)と、厚み方向Yの積層枚数との積で求めることができる。
【0034】
二次電池100を第1SOC状態から充電すると、電極体20は膨張する。そして、
図3(B)に示すように、SOCが80~90%のなかで上記グラフのピークの頂点となる第2SOC状態のとき、言い換えれば、電極体が最も膨張する状態のとき、厚み方向Yにおいて、電極体20の平坦部20fと角形電池ケース10の長側壁12bとの間の隙間が無くなるようにしている。SOCが80%以上、特にはSOCが80~90%の範囲は、金属析出(例えばLi析出)が生じやすいSOC領域である。電極体20が最も膨張するタイミングで、電極体20と角形電池ケース10との間の隙間Sが無くなるようにすることで、角形電池ケース10の変形ないし損傷を抑制しつつ、金属析出(例えばLi析出)を効果的に抑えられる。
【0035】
なお、第1SOC状態から第2SOC状態までの充電レートは、0.2C以上であるとよく、0.3C以上がより好ましい。第1SOC状態から第2SOC状態までの充電レートは、一定であってもよい。また、SOCが80~90%の範囲における充電レートは、0.2C以上とし、0.3C以上がより好ましい。充電レートは、3C以下が好ましく、1C以下がさらに好ましい。
【0036】
SOCが80~90%の範囲(例えば、第2SOC状態)において、電極体20は角形電池ケース10を弱い力で押圧していてもよい。電極体20が角形電池ケース10を押圧する力(押圧力)は、1MPa以下が好ましく、例えば初回の充電時には、0.4MPa以下がより好ましい。これにより、角形電池ケース10の変形ないし損傷を高いレベルで抑制でき、二次電池100の耐久性を向上できる。
【0037】
二次電池100を第2SOC状態からさらに充電すると、電極体20は収縮しうる。SOCが100%のとき、電極体20と角形電池ケース10とは接触していないことが好ましい。ただし、SOC100%において、電極体20と角形電池ケース10とは接触していてもよい。
【0038】
<二次電池100の制御方法(設計方法、製造方法)>
二次電池100は、例えば上記したような構成の電極体を用い、SOCが0%のとき(3Vまで放電した状態)に上記したような隙間Sが確保されるように制御(設計ないし製造)することで、実現できる。また、上記以外の構成については、当業者の設計事項として適宜調整することができる。制御方法(設計方法、製造方法)の一例では、予備的に上記のような二次電池を作製して、試しに制御してみるとよい。
【0039】
その結果、電極体20の膨張が足りない(例えば押圧力が足りない)場合や、電極体20と角形電池ケース10とが接するタイミングが遅すぎる場合には、例えば、電極体20をより膨張し易い構成にしたり、SOCが0%のとき(3Vまで放電した状態)の隙間Sを小さくしたりするように、調整すればよい。より具体的には、例えば、負極に含まれるSi含有材料の含有量を増やしたり、負極活物質層の充填密度を高めたり、角形電池ケース10のサイズを小さくしたりすればよい。
【0040】
一方、電極体20が膨張しすぎる(例えば押圧力が強すぎる)場合や、電極体20と角形電池ケース10とが接するタイミングが早すぎる場合には、例えば、電極体20をより膨張しにくい構成にしたり、SOCが0%のとき(3Vまで放電した状態)の隙間Sを大きくしたりするように、調整すればよい。より具体的には、例えば、負極に含まれるSi含有材料の含有量を減らしたり、負極活物質層の充填密度を減らしたり、角形電池ケース10のサイズを大きくしたりすればよい。
【0041】
<二次電池100の用途>
二次電池100は各種用途に利用可能であるが、例えば、乗用車、トラック等の車両に搭載されるモータ用の動力源(駆動用電源)として好適に用いることができる。車両の種類は特に限定されないが、例えば、プラグインハイブリッド自動車(PHEV;Plug-in Hybrid Electric Vehicle)、ハイブリッド自動車(HEV;Hybrid Electric Vehicle)、電気自動車(BEV;Battery Electric Vehicle)等が挙げられる。
【0042】
以下、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に限定することを意図したものではない。
【0043】
〔試験I:電極体の厚みの変化の測定〕
まず、正極活物質としてのリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(LiNiCoMnO2)を含む正極活物質層(充填密度:3.5g/cm3)を備えた正極を作製した。また、負極活物質としての黒鉛(負極活物質全体の90質量%)およびLiドープしたSiOx(負極活物質全体の10質量%、Si換算で3.2%相当)と、バインダとしてのSBRと、を含む負極活物質層(充填密度:1.6g/cm3)を備えた負極を作製した。次に、これら正極および負極を矩形状に切りだし、セパレータを介して交互に積層して、電極体を作製した。なお、セパレータとしては、PVdFを含む接着層が両側に塗布されたもの(総厚み:20μm)を用いた。そして、上記電極体をプレスして、正極とセパレータと負極とを相互に接着させ、一体化させた。
【0044】
次に、電池ケースとして、袋状のアルミラミネートフィルムを用意した。そして、ラミネートフィルムに、電極体と、電極体が浸漬する量の非水電解液を入れて封止した。これにより、予備的に試験用のラミネートセルを作製した。
【0045】
次に、作製したラミネートセルの上に、ラミネートセルを覆う面積の金属板(SUS板)を置き、その上に厚さ計を当てた。そして、1/3Cまたは1/20Cの充電レートで、SOCが20~95%または0~100%の電圧範囲にて充放電を行い、このときのラミネートセルの膨れ量(厚みの変化)を計測した。なお、アルミラミネートフィルムの厚みは、数十ミクロン程度であり、電極体の積層方向の厚み(数十mm)に比べて極薄いため、ここでは、セルの膨れ量≒電極体の厚みの変化とみなしている。結果を、
図4、
図5に示す。なお、
図4、
図5では、電極体の厚みの変化を、負極の総厚みを100%としたときの割合(厚さ変化率、%)で表している。
【0046】
図4は、充電レートが1/3C(約0.33C、すなわち0.2C以上の所定の値)のときの、SOCと電極体の厚さ変化率との関係を表すグラフである。
図4に示すように、SOC80~90%の領域を0.2C以上(好ましくは0.3C以上)の充電レートで充電すると、SOC80%前後で電極体に顕著な膨張が生じて、SOC85%付近に最大値を有するピークが確認された。また、電極体の膨張は、SOC85%を超えると小さくなったことから、一時的なものであったことがわかる。
【0047】
特に限定解釈されるものではないが、本発明者の検討によれば、この一時的な電極体の膨張は、負極、特には負極に含まれるシリコン(Si)に起因すると考えられる。詳しくは、負極活物質層内のSiと黒鉛との抵抗差、ならびにSi粒子の反応ムラに起因することが考えられる。すなわち、負極では、SOC80%前後で反応し易い部分の反応が進行したことにより一時的に膨張が生じ、その後、負極内の電位差でLiイオンが移動して均質化されたことにより、一時的な膨張が収まったことが考えられる。特にSiは固体内の拡散が遅く反応ムラが生じやすいため、このようなピークが顕著に表れたと考えられる。
【0048】
図5は、充電レートが1/20C(0.05C、すなわち0.2C未満)のときの、SOCと電極体の厚さ変化率との関係を表すグラフである。
図5に示すように、SOC80~90%の領域を0.2C未満の充電レートで充電すると、SOC80~90%の領域にピークは見られなかった。
図6は、充電レートと電極体の厚さ変化率との関係を纏めたグラフである。
図6に示すように、上記した一時的な電極体の膨張は、充電レートを0.2C以上の所定の値、例えば0.2~1Cとしたときに、特異的に現れることがわかった。
【0049】
図7は、負極活物質中のSi量(Si換算)と、電極体の一時的な膨張が始まるSOCと、の関係をさらに調査したグラフである。なお、グラフ中の「正負極比」とは、正極に対する負極の理論容量比を表している。
図7から、理論容量比が1.0~1.2の場合、例えば負極にSiを添加して、負極の膨張によってSOCが80~90%の範囲におけるLi析出を抑えるためには、Si量を2%以上とするとよく、3%以上とすることがより好ましいことがわかった。
【0050】
以上のように、本試験例では、一時的な膨張が起きるSi材料を適切な量で混合し、Li析出が起き易いSOC80~90%の範囲で一時的に急膨張させることにより、電極体と角形電池ケースとの隙間をなくすことができることがわかった。これにより、SOC60%未満で隙間を確保しつつ、Li析出を抑えることができる。
【0051】
〔試験II:具体的実施例〕
上記した試験Iの予備的な結果を踏まえて、角形電池ケースを用い、Si換算のSi含有材料の含有量と、負極活物質層の充填密度と、隙間の幅とを調整して、いくつかの二次電池を制御した。以下の表1に、結果を示す。なお、表1に示す以外の事項については、試験Iに記載した構成と同じである。
【0052】
【0053】
表1に示すように、比較例1では、第1SOC状態および第2SOC状態を含むいずれのSOC状態においても、電極体と角形電池ケースとの間に隙間がなかった。このため、比較例1では、セルの反力(EOL:End Of Lifeにおける反力)が上昇しやすく、本願の課題の一つである電池ケースの変形が起こりやすかった。また、比較例2では、第1SOC状態での隙間が大きすぎたために、第2SOC状態では、例えば充放電反応が不均一になって、Li析出が起こり、析出したLiが隙間に堆積していた。その結果、サイクル充放電を繰り返すと、最終的にセルの反力が高い値になった。また、比較例3では、第1SOC状態における隙間は、実施例1~5と同じであったが、負極活物質層の充填密度が低いために、第2SOC状態での膨張が小さかった。その結果、比較例2と同様に、第2SOC状態ではLi析出が起こった。
【0054】
一方、実施例1~5では、第1SOC状態において電極体と角形電池ケースとの間に隙間が確保され、かつ第2SOC状態では上記隙間が無く、Li析出も抑えられていた。
【0055】
以上の通り、ここで開示される技術の具体的な態様として、以下の各項に記載のものが挙げられる。
項1:正極と負極を含む扁平状の電極体と、上記電極体を収容する角形電池ケースと、を備える、二次電池の制御方法であって、上記電極体は、充電レートを0.2C以上の所定の値として、横軸に「充電深度(SOC)」、縦軸に「上記電極体の厚みの変化」をプロットしたグラフにおいて、充電深度(SOC)が80%以上90%以下の範囲にピークを有し、充電深度(SOC)が60%未満の範囲にあるとき、上記電極体の厚み方向において、上記電極体と上記角形電池ケースとの間には隙間が存在し、上記ピークの頂点となる充電深度(SOC)のときに、上記電極体と上記角形電池ケースとの間の上記隙間が無くなるようにする、二次電池の制御方法。
項2:上記負極は、負極活物質として、黒鉛およびSi含有材料を含み、上記負極活物質の総量を100質量%としたときに、上記Si含有材料が、Si換算で3質量%以上である、項1に記載の二次電池の制御方法。
項3:充電深度(SOC)が0%のとき、上記厚み方向において、上記電極体と上記角形電池ケースとの間の隙間の幅が、上記負極の総厚みの5%以上である、項1または項2に記載の二次電池の制御方法。
項4:充電深度(SOC)が0%のとき、上記厚み方向において、上記電極体と上記角形電池ケースとの間の隙間の幅が、上記角形電池ケースの厚みの2.5%以上である、項1~項3のいずれか一つに記載の二次電池の制御方法。
【0056】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は一例に過ぎない。本発明は、他にも種々の形態にて実施することができる。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。請求の範囲に記載の技術には、上記に例示した実施形態を様々に変形、変更したものが含まれる。
【符号の説明】
【0057】
10 角形電池ケース
20 電極体
100 二次電池