(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024070106
(43)【公開日】2024-05-22
(54)【発明の名称】平衡不平衡変換回路及び増幅回路
(51)【国際特許分類】
H01P 5/10 20060101AFI20240515BHJP
H03F 3/19 20060101ALI20240515BHJP
【FI】
H01P5/10 C
H03F3/19
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022180502
(22)【出願日】2022-11-10
(71)【出願人】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100105887
【弁理士】
【氏名又は名称】来山 幹雄
(74)【代理人】
【識別番号】100145023
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 学
(72)【発明者】
【氏名】長谷 昌俊
(72)【発明者】
【氏名】杉山 幸大
(72)【発明者】
【氏名】徳田 勝利
(72)【発明者】
【氏名】祢津 誠晃
【テーマコード(参考)】
5J500
【Fターム(参考)】
5J500AA01
5J500AA22
5J500AC44
5J500AC62
5J500AF07
5J500AF08
5J500AH25
5J500AH29
5J500AH33
5J500AK13
5J500AK68
(57)【要約】
【課題】広帯域化を図ることが可能な平衡不平衡変換回路を提供する。
【解決手段】伝送線路で構成された主線路が、第1端及び第2端を有する。主線路に結合する伝送線路で構成された副線路が、第3端及び第4端を有する。主線路の第1端から第2端に向かう向きと、副線路の第3端から第4端に向かう向きとが同じ向きになるように、主線路と副線路とが結合している。不平衡信号の入出力が行われる不平衡ノードが、第1端に接続されている。第1平衡ノード及び第2平衡ノードにおいて平衡信号の入出力が行われる。第1平衡ノードが第1端に接続され、第2平衡ノードが第4端に接続されている。第2端及び第3端は基準電位に接続されている。第1平衡ノードと不平衡ノードとの間、第2平衡ノードと第4端との間、及び第1端と不平衡ノードとの間の少なくとも1カ所に第1LC共振回路が接続されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1端及び第2端を有する伝送線路で構成された主線路と、
前記主線路に結合し、第3端及び第4端を有する伝送線路で構成された副線路と、
不平衡信号の入出力が行われ、前記第1端に接続された不平衡ノードと、
平衡信号の入出力が行われる第1平衡ノード及び第2平衡ノードと
を備え、
前記主線路の前記第1端から前記第2端に向かう向きと、前記副線路の前記第3端から前記第4端に向かう向きとが同じ向きになるように、前記主線路と前記副線路とが結合しており、
前記第1平衡ノードが前記第1端に接続され、前記第2平衡ノードが前記第4端に接続されており、
前記第2端及び前記第3端は基準電位に接続されており、
さらに、前記第1平衡ノードと前記不平衡ノードとの間、前記第2平衡ノードと前記第4端との間、及び前記第1端と前記不平衡ノードとの間の少なくとも1カ所に接続された第1LC共振回路と
を備えた平衡不平衡変換回路。
【請求項2】
前記第1LC共振回路はLC直列共振回路である請求項1に記載の平衡不平衡変換回路。
【請求項3】
前記第1LC共振回路はLC並列共振回路である請求項1に記載の平衡不平衡変換回路。
【請求項4】
前記第1平衡ノードと前記第1端との間、前記第2平衡ノードと前記第4端との間、及び前記第1端と前記不平衡ノードとの間のうち、前記第1LC共振回路が接続されていない少なくとも1つの箇所に接続された第2LC共振回路を、さらに備えた請求項1乃至3のいずれか1項に記載の平衡不平衡変換回路。
【請求項5】
不平衡信号を平衡信号に変換する第1平衡不平衡変換回路と、
前記第1平衡不平衡変換回路から出力された平衡信号を増幅する差動増幅器と、
前記差動増幅器から出力された平衡信号を不平衡信号に変換する第2平衡不平衡変換回路と
を備え、
前記第1平衡不平衡変換回路及び前記第2平衡不平衡変換回路のうち一方は、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の平衡不平衡変換回路であり、第1周波数の高周波信号及び第2周波数の高周波信号に対して平衡不平衡変換回路として動作し、
前記第1平衡不平衡変換回路及び前記第2平衡不平衡変換回路のうち他方は、前記第1周波数及び前記第2周波数の一方の周波数の高周波信号に対して平衡不平衡変換回路として動作し、他方の周波数の高周波信号に対しては、平衡不平衡変換回路として動作しない増幅回路。
【請求項6】
不平衡信号を平衡信号に変換する第1平衡不平衡変換回路と、
前記第1平衡不平衡変換回路から出力された平衡信号を増幅する差動増幅器と、
前記差動増幅器から出力された平衡信号を不平衡信号に変換する第2平衡不平衡変換回路と
を備え、
前記第1平衡不平衡変換回路及び前記第2平衡不平衡変換回路のうち一方は、請求項4に記載の平衡不平衡変換回路であり、第1周波数の高周波信号及び第2周波数の高周波信号に対して平衡不平衡変換回路として動作し、
前記第1平衡不平衡変換回路及び前記第2平衡不平衡変換回路のうち他方は、前記第1周波数及び前記第2周波数の一方の周波数の高周波信号に対して平衡不平衡変換回路として動作し、他方の周波数の高周波信号に対しては、平衡不平衡変換回路として動作しない増幅回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平衡不平衡変換回路及び増幅回路に関する。
【背景技術】
【0002】
ルスロフ型伝送線路トランスを用いた平衡不平衡変換回路が公知である(非特許文献1)。非特許文献1に開示された平衡不平衡変換回路においては、2つの平衡端子の一方と不平衡端子との間に位相補償用の伝送線路を接続することによって、不平衡端子から主線路と副線路とに分岐する分岐点における位相の不均衡を補償している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Hua-Yen Chung, et. al., Design of Step-Down Broadband and Low-Loss Ruthroff-Type Baluns Using IPD Technology, IEEE Trans. on Components, Packing and Manufacturing Technology, Vol. 4, No.6, JUNE (2014)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
伝送線路を伝送される高周波信号の位相の変化量は、高周波信号の周波数に対して単調増加の傾向を示す。このため、伝送線路を用いて、広い周波数帯域にわたって適切な位相補償を行うことが困難である。その結果、非特許文献1に記載の平衡不平衡変換回路の構成では、広帯域化が困難である。
【0005】
本発明の目的は、広帯域化を図ることが可能な平衡不平衡変換回路を提供することである。本発明の他の目的は、この平衡不平衡変換回路を用いて入力信号に重畳された妨害波の影響を受けにくい増幅回路を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一観点によると、
第1端及び第2端を有する伝送線路で構成された主線路と、
前記主線路に結合し、前記第1端の側の第3端及び前記第2端の側の第4端を有する伝送線路で構成された副線路と、
不平衡信号の入出力が行われ、前記第1端に接続された不平衡ノードと、
平衡信号の入出力が行われる第1平衡ノード及び第2平衡ノードと
を備え、
前記第1平衡ノードが前記第1端に接続され、前記第2平衡ノードが前記第4端に接続されており、
前記第2端及び前記第3端は基準電位に接続されており、
さらに、前記第1平衡ノードと前記不平衡ノードとの間、前記第2平衡ノードと前記第4端との間、及び前記第1端と前記不平衡ノードとの間の少なくとも1カ所に接続された第1LC共振回路と
を備えた平衡不平衡変換回路が提供される。
【0007】
本発明の他の観点によると、
不平衡信号を平衡信号に変換する第1平衡不平衡変換回路と、
前記第1平衡不平衡変換回路から出力された平衡信号を増幅する差動増幅器と、
前記差動増幅器から出力された平衡信号を不平衡信号に変換する第2平衡不平衡変換回路と
を備え、
前記第1平衡不平衡変換回路及び前記第2平衡不平衡変換回路のうち一方は、前記平衡不平衡変換回路であり、第1周波数の高周波信号及び第2周波数の高周波信号に対して平衡不平衡変換回路として動作し、
前記第1平衡不平衡変換回路及び前記第2平衡不平衡変換回路のうち他方は、前記第1周波数及び前記第2周波数の一方の周波数の高周波信号に対して平衡不平衡変換回路として動作し、他方の周波数の高周波信号に対しては、平衡不平衡変換回路として動作しない増幅回路が提供される。
【発明の効果】
【0008】
第1LC共振回路のインピーダンスは、共振周波数より低周波数側及び高周波数側の一方で誘導性になり、他方で容量性になる。インピーダンスが誘導性を示す周波数帯及び容量性を示す周波数帯の両方で、それぞれ適切な位相補償を行う条件を見出すことができる。これにより、平衡不平衡変換回路の広帯域化を図ることが可能になる。
【0009】
第1平衡不平衡変換回路及び第2平衡不平衡変換回路のうち両方が平衡不平衡変換回路として動作する周波数の高周波信号は増幅される。第1平衡不平衡変換回路が平衡不平衡変換回路として動作し、第2平衡不平衡変換回路が平衡不平衡変換回路として動作しない周波数の高周波信号は、第2平衡不平衡変換回路で不平衡信号に変換される際に、2つの平衡信号が相互に打ち消しあう。このため、入力信号を増幅し、妨害波を増幅しないような条件を見出すことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、第1実施例によるバランの等価回路図である。
【
図2】
図2は、第2実施例によるバランの等価回路図である。
【
図3】
図3Aは、第2実施例によるバランの主線路及び副線路の概略斜視図であり、
図3Bは、主線路、副線路、及び絶縁膜の概略斜視図である。
【
図4】
図4A及び
図4Bは、主線路及び副線路の線路長L及びオフセット量Offを変化させたときのコモンモード除去比(CMRR)のシミュレーション結果を示すグラフである。
【
図5】
図5A及び
図5Bは、主線路及び副線路の線路長L及びオフセット量Offを変化させたときのコモンモード除去比(CMRR)のシミュレーション結果を示すグラフである。
【
図6】
図6A及び
図6Bは、主線路及び副線路の線路長L及びオフセット量Offを変化させたときのコモンモード除去比(CMRR)のシミュレーション結果を示すグラフである。
【
図7】
図7は、CMRRの周波数依存性のシミュレーション結果を示すグラフである。
【
図9】
図9A及び
図9Bは、第2実施例の他の変形例によるバランの等価回路図である。
【
図10】
図10Aは、第3実施例によるバランの等価回路図であり、
図10Bは、第3実施例の変形例によるバランの等価回路図であり、
図10Cは、第3実施例の他の変形例によるバランの等価回路図である。
【
図11】
図11は、第4実施例による増幅回路のブロック図である。
【
図12】
図12Aは、
図11に示した増幅回路の入力バランの等価回路図であり、
図12Bは、入力バランのCMRRの周波数依存性の一例を示すグラフである。
【
図13】
図13は、第5実施例による増幅回路のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[第1実施例]
図1を参照して、第1実施例による平衡不平衡変換回路(以下、バラン(Balun)という。)について説明する。
【0012】
図1は、第1実施例によるバランの等価回路図である。第1実施例によるバランは、伝送線路で構成された主線路11及び副線路12を含む。
図1において、副線路12にハッチングを付している。主線路11及び副線路12は、ルスロフ(Ruthroff)型伝送線路トランスを構成する。主線路11の一方の端部を第1端EP1といい、他方の端部を第2端EP2ということとする。副線路12の一方の端部を第3端EP3といい、他方の端部を第4端EP4ということとする。主線路11の第1端EP1から第2端EP2に向かう向きと、副線路12の第3端EP3から第4端EP4に向かう向きとが同じ向きになるように、主線路11と副線路12とが結合している。
【0013】
主線路11の第1端EP1が、不平衡信号の入出力が行われる不平衡ノード21に接続されている。主線路11の第2端EP2は基準電位(グランド電位)に接続されている。不平衡ノード21は、平衡信号の入出力が行われる一対の平衡ノードの一方である第1平衡ノード22Aに接続されている。他方の平衡ノードである第2平衡ノード22Bは、副線路12の第4端EP4に接続されている。副線路12の第3端EP3は基準電位に接続されている。第1平衡ノード22Aと不平衡ノード21との間に、LC共振回路30が接続されている。LC共振回路30は、インダクタとキャパシタとを含み、少なくとも1つの共振周波数を有する。LC共振回路30のリアクタンスは、共振周波数より低周波数域及び高周波数域の一方で容量性、他方で誘導性になる。
【0014】
出力インピーダンスZSを有する高周波信号源15から不平衡ノード21に不平衡信号が入力される。第1平衡ノード22Aと第2平衡ノード22Bとの間に、負荷18が接続される。不平衡ノード21から流入した電流は、主線路11に向かう経路と副線路12に向かう経路とに分岐される。
【0015】
高周波信号源15の出力電圧をVSと標記し、不平衡ノード21から負荷側を見た入力インピーダンスをZinと標記する。負荷18の負荷インピーダンスをZLと標記する。第1平衡ノード22A及び第2平衡ノード22Bから入力側を見た出力インピーダンスをZoutと標記する。
【0016】
次に、第1実施例によるバランの動作について説明する。不平衡ノード21からバランに流入する電流をIと標記する。主線路11に高周波電流が流れると、副線路12にオッドモードの誘導電流が流れる。副線路12を流れる誘導電流の大きさは、主線路11を流れる高周波電流の大きさと等しく、副線路12を流れる誘導電流の位相は、主線路11を流れる高周波電流の位相に対して反転している。このため、不平衡ノード21に入力された高周波電流Iは、主線路11と副線路12とに等分に分岐される。すなわち、主線路11及び副線路12を流れる電流の大きさは、I/2に等しい。
【0017】
主線路11の第1端EP1の電圧をVと標記する。主線路11の第2端EP2の電圧は0である。すなわち、主線路11の両端の電位差はVに等しい。このとき、副線路12の両端の電位差もVに等しくなる。副線路12の第3端EP3の電圧が0であるため、第4端の電圧は-Vに等しい。すなわち、第1平衡ノード22Aの電圧がVであり、第2平衡ノード22Bの電圧が-Vである。また、負荷18を流れる電流はI/2に等しい。
【0018】
不平衡ノード21の電圧がV、不平衡ノード21から流入する電流がIであるとき、第1平衡ノード22Aと第2平衡ノード22Bとの電位差が2V、負荷18を流れる電流がI/2になる。このため、出力インピーダンスZoutは入力インピーダンスZinの4倍になる。第1実施例によるバランは、不平衡ノード21から入力される不平衡信号を平衡信号に変換するとともに、インピーダンス変換を行う。
【0019】
なお、第1平衡ノード22A及び第2平衡ノード22Bを入力ノードとして使用し、不平衡ノード21を出力ノードとして使用してもよい。この場合、第1実施例によるバランは、第1平衡ノード22A及び第2平衡ノード22Bから入力される平衡信号を不平衡信号に変換するとともに、インピーダンス変換を行う。
【0020】
LC共振回路30は、不平衡ノード21において、主線路11側に流れる電流と副線路12側に流れる電流との位相の不均衡を補償する。LC共振回路30に代えてインダクタのみ、またはキャパシタのみを接続すると、インダクタのインダクタンス、またはキャパシタのキャパシタンスに応じた1つの周波数域で位相の不均衡が補償される。LC共振回路30を用いると、LC共振回路30のリアクタンスが誘導性を示す周波数域と、容量性を示す周波数域との2つの周波数域で、位相の不均衡を補償することが可能になる。
【0021】
次に、第1実施例の優れた効果について説明する。
第1実施例では、上述のように2つの周波数域で、位相の不均衡を補償することができる。このため、平衡不平衡変換回路が平衡不平衡変換を行うことができる周波数域を広帯域化することが可能である。
【0022】
[第2実施例]
次に、
図2から
図7までの図面を参照して第2実施例によるバランについて説明する。以下、第1実施例によるバラン(
図1)と共通の構成については説明を省略する。
【0023】
図2は、第2実施例によるバランの等価回路図である。第1実施例(
図1)では、LC共振回路30の具体的な回路構成について言及していないが、第2実施例では、LC共振回路30としてLC直列共振回路が用いられる。
【0024】
図3Aは、主線路11及び副線路12の概略斜視図であり、
図3Bは、主線路11、副線路12、及び絶縁膜の斜視図である。主線路11及び副線路12は、基板50の一方の面である上面の上に配置された多層配線構造内の配線で構成される。主線路11と副線路12とは、相互に異なる配線層に配置されており、例えば、基板50の上面を高さの基準として、副線路12は主線路11より低い位置に配置されている。また、平面視において、主線路11と副線路12とは相互に平行である。
【0025】
図3Aに示すように、主線路11の線路長、幅、及び高さを、それぞれL、W、Hと標記する。副線路12の線路長L、幅W、高さHは、それぞれ主線路11の線路長L、幅W、高さHと等しい。副線路12は主線路11に対して幅方向にオフセットして配置されている。このオフセット量をOffと標記する。主線路11と副線路12との高さ方向の間隔をGと標記する。
図3では、主線路11及び副線路12が直線状に延びているが、両者をスパイラル形状にしてもよい。
【0026】
図3Bに示すように、基板50の一方の面である上面に、副線路12及び1層目の絶縁膜51が配置されている。1層目の絶縁膜51の厚さは副線路12の高さH(
図3A)と等しい。副線路12及び絶縁膜51の上に、2層目の絶縁膜52が配置されている。2層目の絶縁膜52の厚さは、間隔G(
図3A)と等しい。絶縁膜52の上に、主線路11及び3層目の絶縁膜53が配置されている。3層目の絶縁膜53の厚さは、主線路11の高さH(
図3A)と等しい。主線路11及び絶縁膜53の上に、4層目の絶縁膜54が配置されている。
【0027】
次に、
図4Aから
図7までの図面を参照して第2実施例の優れた効果について説明する。
図4Aから
図6Bまでの図面は、主線路11及び副線路12の線路長L及びオフセット量Offを変化させたときのコモンモード除去比(CMRR)のシミュレーション結果を示すグラフである。横軸は線路長Lを正規化した値(正規化線路長Ln)で表し、縦軸はオフセット量Offを正規化した値(正規化オフセット量Offn)で表す。なお、正規化線路長Lnと正規化オフセット量Offnとは、それぞれ
図4Aにおいて周波数fが6150MHzのときにCMRRが最大値を示す線路長L及びオフセット量Offが基準値1になるように正規化したものである。
【0028】
図4Aから
図6Bまでのグラフにおいて、黒色の実線は、周波数がf=6150MHzのときのCMRRの等値線を示し、灰色の実線は、周波数がf/2=3075MHzのときのCMRRの等値線を示す。CMRRの各等値線に付した数値は、CMRRの値を単位[dB]で示したものである。なお、
図3Bに示した基板50、絶縁膜51、52、53、54の比誘電率を、それぞれ3.901、3.700、3,848、3,700、及び5.723とした。
【0029】
図4A及び
図4Bは、それぞれLC共振回路30(
図2)に代えてインダクタンスが1.0nH及び0.2nHのインダクタを接続した場合のCMRRを示す。
図5A及び
図5Bは、それぞれLC共振回路30(
図2)に代えてキャパシタンスが10pF及び5pFのキャパシタを接続した場合のCMRRを示す。
【0030】
図6Aは、LC共振回路30(
図2)の箇所を短絡した場合のCMRRを示す。
図6Bは、LC共振回路30(
図2)のインダクタンスを0.5nH、キャパシタンスを3pFとした場合のCMRRを示す。
【0031】
図4Aから
図6Bまでのグラフにおいて、正規化オフセット量Offnが1.25となる条件が、オフセット量Offが主線路11及び副線路12の幅Wと等しい条件に相当する。すなわち、正規化オフセット量Offnが1.25未満の範囲では、平面視において主線路11の幅方向の一部が副線路12の幅方向の一部と重なっている。正規化オフセット量Offnが1.25より大きい範囲では、平面視において副線路12が主線路11に重なっていない。
【0032】
図6Aに示すように、LC共振回路30の箇所を短絡状態にした場合、バランを周波数f/2で動作させたとき、正規化線路長Lnが約0.7、正規化オフセット量Offnが2.5の近傍でCMRRが極大値を示している。ところが、周波数fで動作させたときは、この範囲においてCMRRが低い。すなわち、このバランは、周波数f/2ではバランとして動作するが、周波数fでは、バランとして動作しない。
【0033】
図4A及び
図4Bに示すように、LC共振回路30の箇所にインダクタを接続すると、正規化線路長Lnが0.5以上1.1以下、正規化オフセット量Offnが0以上1.2以下の範囲で、周波数fの高周波信号に対してCMRRが極大値を示す条件を実現することができる。ところが、この範囲では、周波数f/2の高周波信号に対してはCMRRが低下してしまう。これは、周波数fの高周波信号に対しては、不平衡ノード21において、主線路11側に流れる電流と副線路12側に流れる電流との位相の不均衡が補償されるが、周波数f/2の高周波信号に対しては、位相の不均衡が補償されないためである。本明細書において、「位相の不均衡の補償」は、主線路11側に流れる電流と副線路12側に流れる電流との位相を完全に均衡させる補償の他に、位相の不均衡の程度を小さくし、位相の均衡の程度を高める補償を含む。「位相の不均衡の補償」を、単に「位相補償」という場合がある。
【0034】
図5A及び
図5Bに示すように、LC共振回路30の箇所にキャパシタを接続すると、正規化線路長Lnが約0.7の条件で、周波数f/2の高周波信号に対してCMRRが極大値を示す条件を実現することができる。ところが、この条件では、周波数fの高周波信号に対してはCMRRが低下してしまう。これは、周波数f/2の高周波信号に対しては、不平衡ノード21における位相の均衡が補償されるが、周波数fの高周波信号に対しては、不平衡ノード21における位相の不均衡が補償されないためである。
【0035】
このように、LC共振回路30に代えてインダクタまたはキャパシタを接続した構成では、周波数fとf/2との両方の高周波信号に対して、不平衡ノード21における位相の不均衡を補償することが困難である。
【0036】
図6Bのグラフに示した条件では、LC共振回路30の共振周波数4109MHzが、周波数f=6150MHzとf/2=3075MHzとの間に位置する。このため、LC共振回路30のインピーダンスは、周波数fにおいて誘導性であり、周波数f/2において容量性である。このため、周波数fの高周波信号及び周波数f/2の高周波信号の両方に対して、不平衡ノード21における位相の不均衡を補償することが可能である。
【0037】
図6Bに示すように、正規化線路長Lnが約0.7、正規化オフセット量Offnが約0.5以上1以下の範囲で、周波数f及びf/2の両方の高周波信号に対して高いCMRRが得られている。このように、LC共振回路30を接続することにより、共振周波数の両側の2つの周波数の高周波信号に対して、不平衡ノード21における位相の不均衡を補償し、高いCMRRを得ることができる。言い換えると、2つの周波数帯において平衡不平衡変換を行うことが可能な広帯域のバランを実現することができる。
【0038】
図7は、CMRRの周波数依存性のシミュレーション結果を示すグラフである。横軸は周波数を単位[GHz]で表し、縦軸はCMRRを単位[dB]で表す。グラフ中の実線は、LC共振回路30のキャパシタンスを3.0pF、インダクタンスを0.5nHとした構成のCMRRを示し、破線は、LC共振回路30に代えてインダクタンス1.0nHのインダクタを接続した構成(すなわち、キャパシタを短絡した構成)のCMRRを示す。
【0039】
LC共振回路30に代えてインダクタを接続した構成では、周波数f=6150MHzを含む周波数帯fcで高いCMRRが得られているが、周波数f/2=3075NHzを含む周波数帯fiでは、CMRRが低い。これに対して第2実施例のようにLC共振回路30を接続した構成では、周波数帯fcにおいて破線で示した特性と同等のCMRRを維持し、かつ周波数帯fiでは、破線で示した特性と比べて十分高いCMRRが得られている。具体的には、周波数帯fiにおいて、CMRRが最大20dB程度改善されている。
【0040】
なお、
図4Aから
図7までに示したシミュレーションにおけるシミュレーション条件は一例である。主線路11及び副線路12の線路長L、幅W、高さH、間隔G、オフセット量Offの好ましい値は、取り扱う周波数帯及び目標とするCMRRに応じて、種々のシミュレーションまたは評価実験を行うことにより決定することができる。
【0041】
このように、第2実施例においては、LC共振回路30を接続することにより、LC共振回路30の共振周波数の両側の2つの周波数帯において、高いCMRRを実現することができる。すなわち、第2実施例によるバランは、2つの周波数帯において平衡不平衡変換を行うことが可能である。
【0042】
【0043】
第2実施例(
図2)では、LC共振回路30として、LC直列共振回路を用いている。これに対して
図8Aに示した変形例では、LC共振回路30として、LC並列共振回路を用いている。LC並列共振回路においても、共振周波数を境界として容量性インピーダンスと誘導性インピーダンスとの両方が実現される。このため、第2実施例と同様に、不平衡ノード21から主線路11と副線路12とに分岐する分岐点における位相の不均衡を、2つの周波数で適切に補償することができる。これにより、
図8に示した変形例によるバランは、2つの周波数帯で平衡不平衡変換を行うことができる。
【0044】
第2実施例(
図2)では、LC共振回路30を、第1平衡ノード22Aと不平衡ノード21との間に接続している。これに対して
図8B及び
図8Cに示した変形例では、第1平衡ノード22Aと不平衡ノード21とが相互に短絡されており、第2平衡ノード22Bと副線路12の第4端EP4との間に、LC共振回路31が接続されている。
図8Bに示した変形例では、LC共振回路31としてLC直列共振回路が用いられており、
図8Cに示した変形例では、LC共振回路31としてLC並列共振回路が用いられている。
【0045】
図9A及び
図9Bに示した変形例では、不平衡ノード21と主線路11の第1端EP1との間に、LC共振回路32が接続されている。第1平衡ノード22Aは不平衡ノード21に短絡され、第2平衡ノード22Bは第4端EP4に短絡されている。
図9Aに示した変形例では、LC共振回路32としてLC直列共振回路が用いられており、
図9Bに示した変形例では、LC共振回路32としてLC並列共振回路が用いられている。
【0046】
図8B、
図8C、
図9A、及び
図9Bに示した変形例においても、不平衡ノード21における位相の不均衡を補償することができる。
【0047】
第2実施例(
図2)、及び
図8Aから
図9Bまでの図面を参照して説明した第2実施例の変形例においては、LC共振回路30、31、32として、LC直列共振回路またはLC並列共振回路が用いられているが、その他の構成のLC共振回路を用いてもよい。例えば、1つ以上のインダクタ及び1つ以上のキャパシタを含み、1つ以上の共振周波数を持ち、共振周波数を境界として容量性インピーダンスと誘導性インピーダンスとの両方が実現される回路を用いるとよい。
【0048】
[第3実施例]
次に、
図10Aを参照して第3実施例によるバランについて説明する。以下、
図2から
図9Bまでの図面を参照して説明した第2実施例及びその変形例によるバランと共通の構成については説明を省略する。
【0049】
図10Aは、第3実施例によるバランの等価回路図である。第2実施例(
図2)では、第1平衡ノード22Aと不平衡ノード21との間にLC共振回路30が接続されている。また、
図8Bに示した変形例では、第2平衡ノード22Bと第4端EP4との間にLC共振回路31が接続されており、
図9Aに示した変形例では、第1端EP1と不平衡ノード21との間にLC共振回路32が接続されている。
【0050】
これに対して第3実施例においては、第1平衡ノード22Aと不平衡ノード21との間、及び第2平衡ノード22Bと第4端EP4との間に、それぞれLC共振回路30、31が接続されている。LC共振回路30、31の各々は、LC直列共振回路である。
【0051】
次に、第3実施例の優れた効果について説明する。
第3実施例においても第2実施例と同様に、不平衡ノード21における位相の不均衡を補償することにより、2つの周波数帯において平衡不平衡変換を行うことができる。また、第3実施例においては、第1平衡ノード22A及び第2平衡ノード22Bのそれぞれで、位相補償量を個別に最適化可能である。このため、不平衡信号の位相に対して平衡信号の位相の調整の自由度が高くなるという優れた効果が得られる。
【0052】
一方のLC共振回路30と他方のLC共振回路31との共振周波数を異ならせると、一方の共振周波数の低周波数側及び高周波数側の2つの周波数帯、及び他方の共振周波数の低周波数側及び高周波数側の2つの周波数帯において、位相の不均衡を補償することが可能になる。これにより、2つよりも多い周波数帯において、平衡不平衡変換を行うバランを実現することが可能である。すなわち、より広帯域のバランを実現することが可能になる。
【0053】
次に、
図10Bを参照して第3実施例の変形例によるバランについて説明する。
図10Bは、第3実施例の変形例によるバランの等価回路図である。第3実施例では、LC共振回路30、31の各々にLC直列共振回路を用いているが、
図10Bに示した変形例では、LC共振回路30、31の各々にLC並列共振回路を用いている。また、LC共振回路30、31の一方にLC直列共振回路を用い、他方にLC並列共振回路を用いてもよい。
【0054】
次に、
図10Cを参照して第3実施例の他の変形例によるバランについて説明する。
図10Cは、第3実施例の他の変形例によるバランの等価回路図である。第3実施例(
図10A)では、第1平衡ノード22Aと不平衡ノード21との間、及び第2平衡ノード22Bと第4端EP4との間に、それぞれLC共振回路30、31が接続されている。これに対して
図10Cに示した変形例では、さらに第1端EP1と不平衡ノード21との間にも、LC共振回路32が接続されている。すなわち、3箇所にLC共振回路30、31、32が接続されている。LC共振回路30、31、32には、LC直列共振回路を用いてもよいし、LC並列共振回路を用いてもよい。また、両者を混在させてもよい。
【0055】
このように、3カ所にLC共振回路30、31、32を接続することにより、バランのさらなる広帯域化を図ることが可能になる。
【0056】
[第4実施例]
図11、
図12A、及び
図12Bを参照して第4実施例による増幅回路について説明する。第4実施例による増幅回路には、第2実施例、第3実施例、またはその変形例のいずれかのバランが搭載されている。
【0057】
図11は、第4実施例による増幅回路のブロック図である。第4実施例による増幅回路は、入力バラン41、差動増幅器43、及び出力バラン42を含む。入力端子RFinから入力された不平衡信号が入力バラン41の不平衡ノード41iに入力される。入力バラン41は、不平衡周波信号を平衡信号に変換する。変換された平衡信号が、一対の平衡ノード41oa、41obから出力される。入力バラン41から出力された平衡信号が差動増幅器43で増幅され、出力バラン42の平衡ノード42ia、42ibに入力される。出力バラン42は、平衡信号を不平衡信号に変換する。変換された不平衡信号が、不平衡ノード42oから出力される。出力バラン42の不平衡ノードが出力端子RFoutに接続されている。
【0058】
入力バラン41は、周波数帯fcの高周波信号に対してバランとして動作するが、周波数帯fcの1/2の周波数帯fiの高周波信号に対してはバランとして動作しない。例えば、CMRRが20dB以下である場合、バランとして動作しないということができる。
【0059】
出力バラン42として、第2実施例、第3実施例、またはその変形例によるバランが用いられる。例えば、出力バラン42の不平衡ノード42o、平衡ノード42ia、42ibが、それぞれ第2実施例、第3実施例、及びその変形例によるバラン(
図10A)の不平衡ノード21、第1平衡ノード22A、及び第2平衡ノード22Bに対応する。出力バラン42は、周波数帯fc、及び周波数帯fcの1/2の周波数帯fiのいずれにおいてもバランとして動作する。
【0060】
図11において、入力端子RFinと入力バラン41との間、入力バラン41と差動増幅器43との間、差動増幅器43と出力バラン42との間、及び出力バラン42と出力端子RFoutとの間に表示されたグラフは、周波数帯fi及びfcの高周波信号の大きさ及び位相を模式的に示したものである。横軸は周波数を表す。縦軸は信号の大きさを表す。上向きの矢印と下向きの矢印とは、位相が相互に反転していることを意味する。
【0061】
次に、第4実施例による増幅回路の動作について説明する。入力バラン41に、周波数帯fcの入力信号Sが入力される。なお、入力信号Sの他に、周波数帯fiの妨害波Sjも入力される。例えば、妨害波Sjの周波数帯fiの周波数は、入力信号Sの周波数帯fcの周波数の1/2である。
【0062】
一例として、WiFiのバンドUNII-1(5150MHz以上5250MHz以下)及びバンドUNII-2(5250MHz以上5350MHz以下)の周波数の1/2の周波数帯と、セルラーバンドB41(周波数2496MHz以上2690MHz以下)とが重複する。このため、WiFiのバンドUNII-1、UNII-2の高周波信号に対して、セルラーバンドB41の高周波信号が妨害波となり得る。また、WiFiのバンドUNII-7(6525MHz以上6875MHz以下)及びバンドUNII-8(6875MHz以上7125MHz以下)の周波数の1/2の周波数帯と、セルラーバンドN77(周波数3300MHz以上4200MHz以下)とが重複する。このため、WiFiのバンドUNII-7、UNII-8の高周波信号に対して、セルラーバンドN77の高周波信号が妨害波となり得る。
【0063】
入力信号Sは入力バラン41によって平衡信号に変換され、平衡ノード41oa、41obからそれぞれ高周波信号Sa、Sbが出力される。高周波信号Sa、Sbの位相は、相互に反転している。妨害波Sjの周波数帯fiにおいては、入力バラン41がバランとして動作しないため2つの平衡ノード41oa、41obから、それぞれ同相の妨害波Sja、Sjbが出力される。
【0064】
高周波信号Sa及び妨害波Sjaが差動増幅器43の一方の増幅器で増幅され、増幅された高周波信号Sa及び妨害波Sjaが出力される。高周波信号Sb及び妨害波Sjbが差動増幅器43の他方の増幅器で増幅され、増幅された高周波信号Sb及び妨害波Sjbが出力される。差動増幅器43を構成する2つの増幅器のゲイン及び位相特性は等しい。このため、増幅された高周波信号SaとSbとの大きさは等しく、増幅された高周波信号Sbの位相は、高周波信号Saの位相に対して反転したままである。増幅された妨害波SjaとSjbとの大きさは等しく、両者は同相のままである。
【0065】
さらに、差動増幅器43の非線形性により、妨害波Sja、Sjbの2次高調波Sha、Shbが現れる。妨害波Sja、Sjbの偶数次の高調波の位相は、妨害波Sja、Sjbの位相関係によらず同相になる。このため、2次高調波Sha、Shbは同相である。
【0066】
差動増幅器43から出力された高周波信号Sa、妨害波Sja、2次高調波Shaが、出力バラン42の一方の平衡ノード42iaに入力され、高周波信号Sb、妨害波Sjb、2次高調波Shbが、出力バラン42の他方の平衡ノード42ibに入力される。これらの信号が、出力バラン42によって不平衡信号に変換される。出力バラン42は、周波数帯fi、fcのいずれの信号に対してもバランとして動作する。このため、一方の平衡ノード42iaに入力される高周波信号Sa、妨害波Sja、2次高調波Shaの位相は反転せず、他方の平衡ノード42ibに入力される高周波信号Sb、妨害波Sjb、2次高調波Shbは、位相が反転して出力される。
【0067】
出力バラン42の不平衡ノード42oから出力された妨害波Sja、Sjbは、位相が相互に反転しているため打ち消し合う。出力バラン42の不平衡ノード42oから出力された2次高調波Sha、Shbも、位相が相互に反転しているため打ち消し合う。出力バラン42の不平衡ノード42oから出力された高周波信号Sa、Sbは同相になるため、足し合わされる。
【0068】
次に、
図12A及び
図12Bを参照して、入力バラン41(
図11)の一例について説明する。
図12Aは、入力バラン41(
図11)の等価回路図である。主線路11及び副線路12がルスロフ型伝送線路トランスを構成している。主線路11の第1端EP1が不平衡ノード41iに接続されており、第2端EP2がLC共振回路35を介して基準電位に接続されている。LC共振回路35には、LC並列共振回路が用いられる。
【0069】
副線路12の第3端EP3が基準電位に接続され、第4端EP4が一方の平衡ノード41obに接続されている。他方の平衡ノード41oaが、不平衡ノード41iに接続されている。平衡ノード41oa、41obは、差動増幅器43の入力端子に接続されている。
【0070】
LC共振回路35は、その共振周波数においてインピーダンスが無限大になる。このため、LC共振回路35の共振周波数において、主線路11の第2端EP2が基準電位から切り離される。したがってLC共振回路35の共振周波数において、出力バラン42はバランとして動作しなくなる。
【0071】
図12Bは、入力バラン41のCMRRの周波数依存性の一例を示すグラフである。横軸は周波数を単位[GHz]で表し、縦軸はCMRRを単位[dB]で表す。
図12Bのグラフ中の実線は、
図12Aに示したバランのCMRRを示し、破線(
図7において実線で示したグラフと同一)は、
図2に示した第2実施例によるバランのCMRRを示す。LC共振回路35の共振周波数は約3GHzである。
【0072】
図12Aに示したバランにおいては、周波数3GHzを含む周波数帯fiにおいて、CMRRが極小値を示しており、入力バラン41がバランとして動作していないことがわかる。なお、入力信号Sの周波数帯fcにおいては、CMRRが高く、入力バラン41がバランとして動作している。
【0073】
次に、第4実施例の優れた効果について説明する。
第4実施例による増幅回路においては、妨害波Sja、Sjbが相殺され、2次高調波Sha、Shbも相殺される。このため、雑音指数の劣化を抑制することが可能である。これにより、妨害波Sjの影響を受けにくい増幅器、例えば高周波増幅器を実現することが可能である。さらに、差動増幅器43の入力側の回路に妨害波抑制のためのフィルタを挿入する必要がなくなることから、フィルタの挿入損失が生じなくなる。その結果、差動増幅器43の必要ゲインが小さくなり、消費電流を低減させることが可能になる。
【0074】
[第5実施例]
次に、
図13を参照して第5実施例による増幅回路について説明する。以下、
図11、
図12A、及び
図12Bを参照して説明した第4実施例による増幅回路と共通の構成については説明を省略する。
【0075】
図13は、第5実施例による増幅回路のブロック図である。第4実施例(
図11)では、入力バラン41が、周波数帯fcでバランとして動作し、周波数帯fiではバランとして動作しない。これに対して第5実施例では、入力バラン41として、第2実施例、第3実施例、またはその変形例によるバランが用いられ、入力バラン41は、周波数帯fc、fiの両方でバランとして動作する。また、第4実施例(
図11)では、出力バラン42が、周波数帯fc、fiの両方においてバランとして動作する。これに対して第5実施例では、出力バラン42は、周波数帯fcでバランとして動作し、周波数帯fiではバランとして動作しない。出力バラン42として、例えば
図12Aに示したバランが用いられる。
【0076】
第4実施例(
図11)では、入力バラン41が周波数帯fiでバランとして動作しないため、一対の平衡ノード41oa、41obから出力された妨害波Sja、Sjbは同相である。これに対して第5実施例では、入力バラン41が周波数帯fiでもバランとして動作する。このため、一方の平衡ノード41obから出力された妨害波Sjbの位相は、他方の平衡ノード41oaから出力された妨害波Sjaの位相に対して反転している。差動増幅器43で増幅された妨害波Sjbの位相も、妨害波Sjaの位相に対して反転している。
【0077】
妨害波Sja、Sjbの位相が相互に反転した関係であっても、妨害波Sja、Sjbの2次高調波Sha、Shbは同相になる。
【0078】
出力バラン42は、周波数帯fiにおいてバランとして動作しないため、出力バラン42の不平衡ノード42oから出力される妨害波Sjbの位相は、妨害波Sjaの位相に対して反転したままである。出力バラン42は、周波数帯fcにおいてバランとして動作するため、出力バラン42に入力された同相の妨害波Sja、Sjbは、不平衡ノード42oから出力されると、両者の位相は相互に反転した関係になる。高周波信号Sa、Sbの位相関係は、第4実施例による増幅回路(
図11)のこれらの信号の位相関係と同一である。
【0079】
したがって、第5実施例においても、不平衡ノード42oから出力された妨害波Sja、Sjbが相互に打ち消しあい、2次高調波Sha、Shbも相互に打ち消しあう。このため、雑音指数の劣化や消費電流の増加を抑制することが可能である。これにより、妨害波Sjの影響を受けにくい増幅器、例えば高周波増幅器を実現することが可能である。
【0080】
上述の各実施例は例示であり、異なる実施例で示した構成の部分的な置換または組み合わせが可能であることは言うまでもない。複数の実施例の同様の構成による同様の作用効果については実施例ごとには逐次言及しない。さらに、本発明は上述の実施例に制限されるものではない。例えば、種々の変更、改良、組み合わせ等が可能なことは当業者に自明であろう。
【0081】
本明細書に記載した上記実施例に基づき、以下の発明を開示する。
<1>
第1端及び第2端を有する伝送線路で構成された主線路と、
前記主線路に結合し、第3端及び第4端を有する伝送線路で構成された副線路と、
不平衡信号の入出力が行われ、前記第1端に接続された不平衡ノードと、
平衡信号の入出力が行われる第1平衡ノード及び第2平衡ノードと
を備え、
前記主線路の前記第1端から前記第2端に向かう向きと、前記副線路の前記第3端から前記第4端に向かう向きとが同じ向きになるように、前記主線路と前記副線路とが結合しており、
前記第1平衡ノードが前記第1端に接続され、前記第2平衡ノードが前記第4端に接続されており、
前記第2端及び前記第3端は基準電位に接続されており、
さらに、前記第1平衡ノードと前記不平衡ノードとの間、前記第2平衡ノードと前記第4端との間、及び前記第1端と前記不平衡ノードとの間の少なくとも1カ所に接続された第1LC共振回路と
を備えた平衡不平衡変換回路。
【0082】
<2>
前記第1LC共振回路はLC直列共振回路である<1>に記載の平衡不平衡変換回路。
【0083】
<3>
前記第1LC共振回路はLC並列共振回路である<1>に記載の平衡不平衡変換回路。
【0084】
<4>
前記第1平衡ノードと前記第1端との間、前記第2平衡ノードと前記第4端との間、及び前記第1端と前記不平衡ノードとの間のうち、前記第1LC共振回路が接続されていない少なくとも1つの箇所に接続された第2LC共振回路を、さらに備えた<1>乃至<3>のいずれか1つに記載の平衡不平衡変換回路。
【0085】
<5>
不平衡信号を平衡信号に変換する第1平衡不平衡変換回路と、
前記第1平衡不平衡変換回路から出力された平衡信号を増幅する差動増幅器と、
前記差動増幅器から出力された平衡信号を不平衡信号に変換する第2平衡不平衡変換回路と
を備え、
前記第1平衡不平衡変換回路及び前記第2平衡不平衡変換回路のうち一方は、<1>乃至<4>のいずれか1つに記載の平衡不平衡変換回路であり、第1周波数の高周波信号及び第2周波数の高周波信号に対して平衡不平衡変換回路として動作し、
前記第1平衡不平衡変換回路及び前記第2平衡不平衡変換回路のうち他方は、前記第1周波数及び前記第2周波数の一方の周波数の高周波信号に対して平衡不平衡変換回路として動作し、他方の周波数の高周波信号に対しては、平衡不平衡変換回路として動作しない増幅回路。
【符号の説明】
【0086】
11 主線路
12 副線路
15 高周波信号源
18 負荷
21 不平衡ノード
22A 第1平衡ノード
22B 第2平衡ノード
30、31、32、35 LC共振回路
41 入力バラン
41i 不平衡ノード
41oa、41ob 平衡ノード
42 出力バラン
42ia、42ib 平衡ノード
42o 不平衡ノード
43 差動増幅器
50 基板
51、52、53、54 絶縁膜