(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024070110
(43)【公開日】2024-05-22
(54)【発明の名称】遠隔操作システム
(51)【国際特許分類】
F27D 1/16 20060101AFI20240515BHJP
E04G 21/16 20060101ALI20240515BHJP
B25J 3/00 20060101ALI20240515BHJP
【FI】
F27D1/16 Q
E04G21/16 ESW
B25J3/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022180509
(22)【出願日】2022-11-10
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【弁理士】
【氏名又は名称】川原 敬祐
(74)【代理人】
【識別番号】100180655
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 俊樹
(72)【発明者】
【氏名】谷口 佳
(72)【発明者】
【氏名】中村 善幸
(72)【発明者】
【氏名】日野 雄太
【テーマコード(参考)】
2E174
3C707
4K051
【Fターム(参考)】
2E174AA05
2E174BA02
2E174CA01
2E174CA11
2E174DA15
2E174DA52
3C707AS21
3C707BS12
3C707HS27
3C707JT05
3C707KS34
3C707KT01
3C707KT06
3C707LV04
3C707MT02
3C707NS06
4K051AA02
4K051AA06
4K051AB03
4K051BB02
4K051BB03
(57)【要約】
【課題】築炉工の技能を活用でき、築造に要する時間を短縮できる遠隔操作システムが提供される。
【解決手段】遠隔操作システムは、円筒形状である窯炉(1)に、定型耐火物(101)及び不定型耐火物(14)を含む耐火物を施工する遠隔操作システムであって、定型耐火物を作業対象物とし、作業対象物に対して所定の作業を行うロボット(17)と、作業対象物の位置を計測する計測器(16)と、ロボットに備えられて、作業対象物に接触する施工手段と、を備え、ロボットを操作する操作者が、施工手段が作業対象物から受ける反力を知覚するように構成される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒形状である窯炉に、定型耐火物及び不定型耐火物を含む耐火物を施工する遠隔操作システムであって、
前記定型耐火物を作業対象物とし、前記作業対象物に対して所定の作業を行うロボットと、
前記作業対象物の位置を計測する計測器と、
前記ロボットに備えられて、前記作業対象物に接触する施工手段と、を備え、
前記ロボットを操作する操作者が、前記施工手段が前記作業対象物から受ける反力を知覚するように構成される、遠隔操作システム。
【請求項2】
前記ロボットは、前記操作者によって操られるマスターロボットと、前記作業対象物に対して所定の作業を行うスレーブロボットを含み、
前記施工手段は、前記作業対象物に遠心力を作用させて、
前記スレーブロボットが前記施工手段の前記作業対象物から受けた反力に応じて反力指令値を出力し、前記マスターロボットが前記反力指令値に基づいて前記操作者に知覚させる反力を生成するように構成されている、請求項1に記載の遠隔操作システム。
【請求項3】
前記ロボットが、前記作業対象物についての位置、速度、力の制御目標値を任意の割合で合成してモーターを制御する制御手段を備える、請求項2に記載の遠隔操作システム。
【請求項4】
前記施工手段は、前記作業対象物の側面及び上面の少なくとも1つに遠心力を作用させる、請求項1から3のいずれか一項に記載の遠隔操作システム。
【請求項5】
前記定型耐火物の重量が30kg/個以上である、請求項4に記載の遠隔操作システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、遠隔操作システムに関する。本開示は、特に製鉄分野で用いられる転炉、トピードカーなどの精錬容器に定型耐火物及び不定型耐火物を含む耐火物を施工するための遠隔操作システムに関する。
【背景技術】
【0002】
精錬容器は容器の内張として耐火物を施工している。耐火物は、定型耐火物と不定型耐火物に分類することができる。定型耐火物の代表例は耐火レンガである。特にスラグによる化学的損傷が激しい部位、スクラップを装入する部位などは、定型耐火物であるレンガを用いる。築炉工と呼ばれる職人がレンガ1つ1つを積み上げて施工する。近年、築炉工の人数は減少傾向にある。
【0003】
耐火レンガの製造では、耐火性骨材を結合剤で粘結し、混合した坏土を金属製の枠内に充填し、プレス成型することが行われる。不焼成レンガは、プレス成型後に200℃程度で結合剤中の有機成分を揮発させて作られる。また焼成レンガは、プレス成型後に1000℃を超える高温で焼成されて作られる。不焼成レンガの代表例は、取鍋及び転炉でウェアレンガとして用いられるMgO-Cレンガである。また焼成レンガの代表例は、マグネシアレンガ又はハイアルミナレンガである。これら定型レンガは、1種類のレンガを製造する際に、複数のプレス成型用金属製枠を用いるため、金属製枠の大きさによって耐火レンガの大きさが異なる。また、成型後に生じるスプリングバック又は焼成による焼結収縮によってレンガごとの大きさが異なる。築造(築炉)時には、公差の範囲内の製品が使用される。ここで、公差は「JIS Z 8103:2000 計測用語」に示す意味を有する。
【0004】
容器の内張として用いられるレンガは、奥行方向を長くすると、容器の内径が小さくなり、容器に入る溶融金属の量が減るので好ましくない。一方で、奥行方向を短くすると、溶融金属から容器の鉄皮に伝熱するエネルギーによって、容器が耐久温度以上に高温になるおそれがある。したがって、レンガには適正な奥行方向の長さの範囲がある。また、レンガの幅は「セリ」を考慮して定められる必要がある。ここで「セリ」は、精錬容器の使用時に高温となったレンガが熱膨張して、円周方向に働く熱応力である。「セリ」が大きいとレンガが割れるおそれがある。一方で、「セリ」が小さすぎるとレンガが脱落するおそれがある。例えば隣接するレンガの間の隙間(目地)でレンガの膨張を吸収することによって、「セリ」の影響を低減することができる。レンガの高さも幅と同様に、「セリ」を考慮して定められる必要がある。このように、用いられる精錬容器の使用条件に応じて、容器の内張として用いられるレンガの適切な奥行方向、幅方向及び高さ方向の長さの範囲が決まってくる。一方で、築造の効率の観点からは、1つのレンガが大きいほど、施工で用いられるレンガの総数が減るため好ましい。ただし、1つのレンガが重すぎると築炉工が持てない、という制約がある。
【0005】
築造作業を機械化する方法として、例えば特許文献1は、築造後のウェアレンガの稼働面を基準にしてウェアレンガを築造する工程と、築造されたウェアレンガの背面と鉄皮との隙間にパーマキャスタブルを流し込む工程とを含む、耐火物築造方法を提案する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、精錬容器は、使用に伴う熱応力などによって変形する。精錬容器の変形が大きい場合に、部分的に鉄皮の金属を溶断して、新しい金属に交換する修理が行われる。このような修理では、新しい金属が溶接で接合されるため、10mm程度の段差が生じることがある。このように、容器は図面形状と異なることがあり、例えば容器の段差などの影響で隣接するレンガの間の隙間が大きくなると、レンガの剥離損傷が発生しやすくなる。これに対して、築炉工は、このような影響を考慮し、それぞれの容器形状に合わせて築造を行う。
【0008】
特許文献1に記載の技術では、ロボットアームを用いて築造するため、大きくて重いレンガを使用すれば、築造時間については短縮できる。しかし、築炉工のように精錬容器の変形を考慮した築造はできない。そのため、剥離損傷などが生じてレンガの寿命が短くなり、精錬容器の修理回数が増えるため、上記の築造時間の短縮の効果が損なわれる。
【0009】
本開示の目的は、築炉工の技能を活用でき、築造に要する時間を短縮できる遠隔操作システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)本開示の一実施形態に係る遠隔操作システムは、
円筒形状である窯炉に、定型耐火物及び不定型耐火物を含む耐火物を施工する遠隔操作システムであって、
前記定型耐火物を作業対象物とし、前記作業対象物に対して所定の作業を行うロボットと、
前記作業対象物の位置を計測する計測器と、
前記ロボットに備えられて、前記作業対象物に接触する施工手段と、を備え、
前記ロボットを操作する操作者が、前記施工手段が前記作業対象物から受ける反力を知覚するように構成される。
【0011】
(2)本開示の一実施形態として、(1)において、
前記ロボットは、前記操作者によって操られるマスターロボットと、前記作業対象物に対して所定の作業を行うスレーブロボットを含み、
前記施工手段は、前記作業対象物に遠心力を作用させて、
前記スレーブロボットが前記施工手段の前記作業対象物から受けた反力に応じて反力指令値を出力し、前記マスターロボットが前記反力指令値に基づいて前記操作者に知覚させる反力を生成するように構成されている。
【0012】
(3)本開示の一実施形態として、(1)又は(2)において、
前記ロボットが、前記作業対象物についての位置、速度、力の制御目標値を任意の割合で合成してモーターを制御する制御手段を備える。
【0013】
(4)本開示の一実施形態として、(1)から(3)のいずれかにおいて、
前記施工手段は、前記作業対象物の側面及び上面の少なくとも1つに遠心力を作用させる。
【0014】
(5)本開示の一実施形態として、(1)から(4)のいずれかにおいて、
前記定型耐火物の重量が30kg/個以上である。
【発明の効果】
【0015】
本開示によれば、築炉工の技能を活用でき、築造に要する時間を短縮できる遠隔操作システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、窯炉に施工した定型耐火物の断面を模式的に示す図である。
【
図2】
図2は、窯炉の高さ方向に垂直な面での断面を模式的に示す図である。
【
図4】
図4は、本開示の一実施形態に係る遠隔操作システムによる施工を説明するための模式図である。
【
図5】
図5は、本開示の一実施形態に係る遠隔操作システムの処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して本開示の一実施形態に係る遠隔操作システムが説明される。各図中、同一又は相当する部分には、同一符号が付されている。本実施形態の説明において、同一又は相当する部分については、説明を適宜省略又は簡略化する。
【0018】
図1は、窯炉1に施工した定型耐火物101の断面を模式的に示す図である。窯炉1は、例えば転炉、トピードカーなどの精錬容器である。窯炉1は、鉄皮11及び定型耐火物101で構成される。定型耐火物101は、鉄皮11に対して窯炉1の内側で、高さ方向に複数段に積んで施工される。定型耐火物101は、パーマレンガ12及びウェアレンガ13を含む。パーマレンガ12及びウェアレンガ13のそれぞれは1種類であってよいし、複数種類であってよい。パーマレンガ12及びウェアレンガ13は、不定型耐火物14によって接着される。本実施形態に係る遠隔操作システムは、定型耐火物101及び不定型耐火物14を含む耐火物を施工する。ここで、高さ方向に垂直で、窯炉1の内側から外側に向かう方向を奥行方向と称することがある。パーマレンガ12及びウェアレンガ13のそれぞれは、奥行方向に1つの層を構成してよいし、複数の層を構成してよい。不定型耐火物14として例えばモルタルが使用されるが、不定型耐火物14はこれに限定されず、スタンプ材、乾粉などであってよい。
【0019】
また、窯炉1は円筒形状である。
図2は、窯炉1の高さ方向に垂直な面での断面を模式的に示す図である。窯炉1を見る視線方向が高さ方向である場合に、窯炉1の断面は円の形状を有する。以下、
図2に示される窯炉1の断面を水平断面と称することがある。ここで、円は真円であってよいし、楕円であってよい。また、例えば窯炉1の水平断面で鉄皮11が奥行正方向又は奥行負方向に飛び出るように凹凸を有している状態又は窯炉1の水平断面で鉄皮11の曲率が一部で異なるような状態なども、本明細書で説明する円筒形状に含まれる。つまり、本明細書における円筒形状は、水平断面が概ね円形である形状(すなわち略円筒形状)を含む。
【0020】
図3は、ウェアレンガ13の拡大図である。記載の数値(単位:mm)は一例であって、これら値に限定されない。
図3の左図はウェアレンガ13の側面を示す。
図3の右図はウェアレンガ13の上面を示す。幅の広い(
図3の右図で162.5mm)側が、奥行方向で鉄皮11に近いように配置される。つまり、鉄皮11の側が大きく、炉内の側が小さくなるようなテーパがつけられている。ここで、炉内は、転炉などの容器内すなわち窯炉1内を意味する。上記のように窯炉1は円筒形状であって、炉の大きさも様々である。また、定型耐火物101は、曲面でなく平面で構成される立体物である。そのため、窯炉1の断面である円に沿って定型耐火物101を施工すると、隣接する定型耐火物101の間に隙間が生じる。本実施形態に係る遠隔操作システムは、円筒形状である窯炉1に、隣との隙間が生じる定型耐火物101を施工する築造用の遠隔操作システムである。
【0021】
再び
図1を参照すると、本実施形態において定型耐火物101はロボット17を利用して施工される。また、施工において計測器16が用いられる。
【0022】
ロボット17は定型耐火物101の施工手段を備え、作業対象物に対して所定の作業を行う。作業対象物は、ロボット17が施工の対象としている定型耐火物101を指す。ロボット17は、作業対象物である1つの定型耐火物101の施工作業が完了すると、作業対象物を次の定型耐火物101に変更する。ロボット17は例えばロボットアーム(マニピュレーター)であるが、ロボットアームに限定されない。また施工手段は、特に限定されるものでなく、定型耐火物101を把持し、定型耐火物101を積み上げて、定型耐火物101に不定型耐火物14を塗布し、定型耐火物101に応力を加えることができる手段であればよい。一般に定型耐火物101を施工する場合に、これから施工する定型耐火物101に不定型耐火物14を予め塗布する「付けとろ作業」が行われる。ただし、これに限定されず、施工済みの定型耐火物101に不定型耐火物14を予め塗布する「敷とろ作業」が行われてよい。本実施形態において、ロボット17は、施工手段の一部としてハンマーを備える。ロボット17は、ハンマーを用いてレンガの側面、上面などをたたくことで、レンガの位置を調整できる機能を有する。ハンマーは、作業対象物に直接的に接触する。また、ハンマーは、ロボット17の回転部分に設けられて、作業対象物に遠心力を作用させる。例えばハンマーは、作業対象物の位置調整のために、作業対象物の側面及び上面の少なくとも1つに遠心力を作用させる。
【0023】
ロボット17は、例えば6軸の垂直多関節ロボットであってよい。ロボットハンド(施工手段の一例)として、2本掴み把持ハンド又は6点式吸着ハンドが用いられてよい。定型耐火物101を把持する場合に、定型耐火物101が損傷しないように、指部にゴム製のパッキン等が使用されてよい。ロボット17のサイズは、窯炉1のサイズ及び把持する定型耐火物101の重量に合わせて選定すればよい。
【0024】
ロボット17は、例えば機側の操作者によってコントローラーで操作されるものであってよい。また、ロボット17は、例えば操作者によって操られるマスターロボットと、作業対象物に対して所定の作業を行うスレーブロボットを含んで構成されてよい。スレーブロボットは、定型耐火物101を施工する際に生じる反力を知覚する機能があってよい。スレーブロボットが知覚した反力に応じて反力指令値を出力し、マスターロボットが反力指令値に基づいて操作者に知覚させる反力を生成してよい。
【0025】
ロボット17は、作業対象物である定型耐火物101についての位置、速度、力の制御目標値を任意の割合で合成してモーターを制御する制御手段を備えていてよい。制御手段はプロセッサなどの演算装置で実現されてよい。このようにモーターを制御することで、レンガを施工する際のレンガ破損を防止することができる。また、熟練の築炉工のような細やかな動きを再現することができる。
【0026】
ここで、定型耐火物101の1つの重量は、築炉工が施工しやすいように30kg未満であることが多い。しかし、本実施形態に係る定型耐火物101の築造方法では、ロボット17が施工するため重量に制限がない。つまり、定型耐火物101の重量が30kg/個以上であってよい。ここで、定型耐火物101の大きさは、容器の損傷要因に合わせて決められてよい。例えば化学的な損傷が主要因で、熱応力を原因とする割れが生じない容器などでは、大型の定型耐火物101を使用することによって、目地部分の溶損による損耗を低減することができる。
【0027】
計測器16は炉内を計測する。本実施形態において、計測器16は、炉内の施工状態などを把握するための炉内計測を行う。また、計測器16は作業対象物の位置を計測する。作業対象物の位置が計測されることによって、施工済みの隣接する定型耐火物101との間の隙間を把握することができる。計測器16はレーザー式又は白色光干渉式の計測機器であってよい。また、操作者がロボット17を遠隔から操作する場合に、計測器16からの視覚情報(例えば画像)に基づいて操作を行うことができる。本実施形態において、計測器16はカメラを含んで構成される。カメラは、一般的な撮像を行うカメラであってよいし、奥行き情報が得られる3Dカメラであってよい。計測器16の計測方式は、複数台のカメラを用いて撮影するステレオ方式、パルス光を利用し反射光が戻ってくる時間を計算するToF方式、光の干渉を利用した構造化照明による方式などから選ぶことができる。
【0028】
本実施形態において、操作者は築炉工であって、上記のマスターロボット及びスレーブロボットの構成によって反力を知覚することができる。築炉工は、知覚した反力に応じて適切な力で施工を行い、レンガ破損を防止することができる。築炉工は、計測器16からの視覚情報に基づいて操作を行うことができるため、作業対象物の位置及び施工済みの隣接する定型耐火物101との間の隙間を把握し、適切であるかを容易に判定することができる。また、築炉工は、ロボット17を遠隔操作することによって、例えば30kg/個以上の重い定型耐火物101を用いた施工が可能である。そのため、本実施形態に係る遠隔操作システムによって、築炉工の技能を活用でき、築造(築炉)に要する時間を短縮することができる。
【0029】
図4は、本実施形態に係る遠隔操作システムによる施工を説明するための模式図である。
図4に示されるウェアレンガ13は、
図2と同様に窯炉1の水平断面での並びで示されており、施工途中の状態を示す。
図4において13Aとも示されているウェアレンガ13は、ロボット17によって作業が行われている作業対象物を示す。
図4のPで示すように、鉄皮11側の変形などによって、定型耐火物101の配置がずれると隙間Sの形状に影響する。例えば
図4の左図のように、作業対象物の仮設置では、鉄皮11側の変形の影響で隙間Sが、施工済みの定型耐火物101の間の隙間に比べて大きくなっている。隙間Sの形状が他と大きく異なった状態で施工が継続されると、「セリ」の影響によって作業対象物が脱落しやすいなどの問題が生じる。本実施形態に係る遠隔操作システムを用いる施工では、計測器16によって作業対象物の位置及び隙間Sの形状が計測される。
【0030】
定型耐火物101の形状に従って施工すると、背面(奥行正方向)側に隙間が大きくなる鉄皮11の形状の場合に、定型耐火物101の背面を不定型耐火物14で埋めることになるが、不定型耐火物14の厚みが厚くなり、稼働時に熱応力で大きく収縮する。収縮することで定型耐火物101が背面側に移動し、回転する力が作用することもある。背面側に移動した定型耐火物101に接触している隣の定型耐火物101は、背面側に移動した定型耐火物101から垂直応力を受ける。これらの定型耐火物101の位置関係によっては、隣の定型耐火物101に炉内(奥行負方向)側に向かう垂直応力がかかることがある。隣の定型耐火物101に炉内側に向かう垂直応力がかかることは、背面側に粘度が高い不定型耐火物14を施工すること、背面側の隙間が大きい定型耐火物101と隣の定型耐火物101の隙間を調整することによって防止することが可能である。背面側の不定型耐火物14はさらに、高強度で低収縮であることが好ましい。
図6は隙間の調整を例示する図である。
図6の例では、3つの定型耐火物101の隙間が同じでなく、中央の定型耐火物101の背面の不定型耐火物14が熱収縮したとしても、脱落方向の力がかからないように隙間が調整されている。
【0031】
操作者である築炉工は、計測器16からの視覚情報に基づいて、ロボット17を用いる遠隔操作によって作業対象物の位置を調整することができる。ここで、ロボット17は、操作者によって操られるマスターロボットと、作業対象物に対して調整作業を行うスレーブロボットを含むとする。また、ロボット17では、スレーブロボットの先に施工手段の一部としてハンマーが設けられている。
図4の右図のように、施工手段(ハンマー)は作業対象物に遠心力を作用させて、作業対象物の位置を調整する。この場合に、マスターロボットを操作する操作者が、ハンマーが作業対象物から受ける反力を知覚する。詳細に述べると、スレーブロボットがハンマーの作業対象物から受けた反力を計測し、計測した反力に応じて反力指令値を出力し、マスターロボットが反力指令値に基づいて操作者に知覚させる反力を生成する。操作者は、知覚した反力に応じて、作業対象物に作用させる遠心力の強さを調整したり、作業対象物のたたく面(側面又は上面)を変更したりすることができる。従来技術では鉄皮11側の変形の影響を考慮した築造ができなかった。本実施形態に係る遠隔操作システムでは、遠隔操作でありながら、操作者(築炉工)が作業対象物の位置及び反力を把握可能であって、築炉工の技能を活用でき、築造に要する時間を短縮できる。
【0032】
図5は、本実施形態に係る遠隔操作システムを用いた定型耐火物101の築造方法の処理を示すフローチャートである。
【0033】
まず計測器16によって炉内計測が実行される(ステップS1)。ここで、炉内の状態を確認する必要がない場合に、ステップS1は省略可能である。
【0034】
次に作業対象物がロボット17によって仮設置される(ステップS2)。例えば操作者がマスターロボットを操作して、スレーブロボットのロボットハンドによって作業対象物である定型耐火物101を把持して、作業対象物の位置を目視確認しつつ設置場所に置く操作を行う。
【0035】
仮設置された作業対象物の位置が、ロボット17の施工手段によって調整される(ステップS3)。調整に用いられるロボット17の施工手段は、具体的にはハンマーである。操作者は、隙間S(
図4参照)の形状を他と揃えるように、ロボット17を操作して作業対象物の位置を調整する。
【0036】
作業対象物からの反力及び作業対象物の位置が計測されて(ステップS4)、操作者にフィードバックされる。上記のように、操作者は、知覚した反力に応じて、作業対象物に作用させる遠心力の強さを調整したり、作業対象物のたたく面を変更したりすることができる。また、操作者は、計測器16からの視覚情報に基づいて隙間の状態を確認しながらロボット17を操作できる。
【0037】
作業対象物の位置が適切でなければ(ステップS5のNo)、ステップS3の処理に戻ってハンマーによる位置の調整が再び行われる。作業対象物の位置が適切であれば(ステップS5のYes)、設置した作業対象物が最後であるかを確認する(ステップS6)。
【0038】
設置した作業対象物が最後であれば(ステップS6のYes)、一連の処理を終了する。設置した作業対象物が最後でなければ(ステップS6のNo)、作業対象物の変更を行う(ステップS7)。すなわち、別の定型耐火物101が新たな作業対象物に設定される。そして、ステップS1に戻って処理が継続される。
【0039】
以上のように、本実施形態に係る遠隔操作システムは、上記の構成によって、築炉工の技能を活用でき、築造に要する時間を短縮できる。
【0040】
本開示に係る実施形態について、諸図面及び実施例に基づき説明してきたが、当業者であれば本開示に基づき種々の変形又は修正を行うことが容易であることに注意されたい。従って、これらの変形又は修正は本開示の範囲に含まれることに留意されたい。
【0041】
例えば簡便な方法として、ロボット17としてハンドリフターを用いて、築造することができる。この場合、ハンドリフターが受ける反力信号を操作者が感じて作業を行う。また、ロボット17が操作側(例えばマスターロボット又はコントローラー)とマニピュレータ側(例えばスレーブロボット)で構成される場合に、操作側とマニピュレータ側とが相似形であってよい。相似形である場合に操作者の遠隔操作が容易になるが、相似形で構成されることは必須でない。また、マニピュレータ側の設置方式は限定されず、例えば窯炉1の上部から吊り下げるように設けられてよいし、自由に移動できる台車に設けられてよい。
【0042】
上記の実施形態では、定型耐火物101の重量が30kg/個以上である例について説明したが、さらに重い定型耐火物101を用いてよい。例えば1個あたり100kgのレンガも施工することができる。
【0043】
上記の実施形態において、計測器16の数及び位置は限定されない。例えば計測器16の数は1つであってよいし、2つ以上であってよい。例えば、高さ方向の上方から炉内の全体を計測できる1つ目の計測器16が設置され、ロボット17に作業対象物を含む領域を計測できる2つ目の計測器16が設置されて、組み合わせて使用されてよい。ここで、計測したい領域が影にならないようにすることが好ましい。2つ目の計測器16は、例えば施工手段から上方に0.5m程度、水平方向に0.7m程度離された位置に設置されてよい。
【符号の説明】
【0044】
1 窯炉
11 鉄皮
12 パーマレンガ(permanent brick)
13 ウェアレンガ(wear brick)
14 不定型耐火物
16 計測器
17 ロボット
101 定型耐火物