(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024070112
(43)【公開日】2024-05-22
(54)【発明の名称】イオン交換膜セル及びガスケット
(51)【国際特許分類】
B01D 61/50 20060101AFI20240515BHJP
B01D 61/46 20060101ALI20240515BHJP
B01D 61/52 20060101ALI20240515BHJP
C08J 5/22 20060101ALI20240515BHJP
【FI】
B01D61/50
B01D61/46 500
B01D61/52
C08J5/22 CER
C08J5/22 CEZ
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022180515
(22)【出願日】2022-11-10
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2020年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「ムーンショット型研究開発事業/地球環境再生に向けた持続可能な資源循環を実現」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】304020177
【氏名又は名称】国立大学法人山口大学
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100182305
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 鉄平
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【弁理士】
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【弁理士】
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100221958
【弁理士】
【氏名又は名称】篠田 真希恵
(74)【代理人】
【識別番号】100192441
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 仁
(72)【発明者】
【氏名】比嘉 充
【テーマコード(参考)】
4D006
4F071
【Fターム(参考)】
4D006GA17
4D006HA47
4D006JA08A
4D006JA10A
4D006JA23A
4D006JA43A
4D006JA44A
4D006MA03
4D006MA13
4D006MA14
4D006PA01
4D006PB03
4D006PB05
4F071AA22C
4F071FB01
4F071FB02
4F071FB06
4F071FB07
4F071FC02
4F071FC04
4F071FC13
(57)【要約】 (修正有)
【課題】イオン透過に有効な膜の面積を広くでき、形状の保持性に優れ、液の外部漏れや内部漏れを抑止できるイオン交換膜セルを提供する。
【解決手段】陽イオン交換膜と陰イオン交換膜が対向配置されたイオン交換膜セルであって、陽イオン交換膜及び陰イオン交換膜の少なくとも一方が凹凸形状を有するイオン交換膜であり、凸部が、他方のイオン交換膜と対向するように配置され、凹凸形状を有するイオン交換膜と、凸部が対向する他方のイオン交換膜との間にガスケットが配置され、ガスケットは、凹凸形状を有するイオン交換膜の凸部の高さより大きな厚みを有する枠体と、枠体に囲まれた開口部と、開口部に設けられ枠体の異なる辺をつなぐ補強部材を備え、凹凸形状を有するイオン交換膜の凸部は、枠体の開口部に挿入され、凸部と対向する他方のイオン交換膜との間に補強部材が配置されたイオン交換膜セル。
【選択図】
図13
【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽イオン交換膜と陰イオン交換膜が対向して配置されたイオン交換膜セルであり、以下の(i)~(iv)を満たすイオン交換膜セル。
(i)前記陽イオン交換膜及び前記陰イオン交換膜の少なくとも一方が凹凸形状を有するイオン交換膜である;
(ii)前記凹凸形状を有するイオン交換膜の凸部が、他方のイオン交換膜と対向するように配置される;
(iii)前記凹凸形状を有するイオン交換膜と、前記凹凸形状を有するイオン交換膜の凸部が対向する他方のイオン交換膜との間にガスケットが配置され、前記ガスケットは、前記凹凸形状を有するイオン交換膜の凸部の高さより大きな厚みを有する枠体と、前記枠体に囲まれた開口部と、前記開口部に設けられ前記枠体の異なる辺をつなぐ補強部材を備える;及び
(iv)前記凹凸形状を有するイオン交換膜の凸部は、前記枠体の前記開口部に挿入され、前記凸部と対向する他方のイオン交換膜との間に前記補強部材が配置される;
【請求項2】
以下の(v)をさらに満たす請求項1記載のイオン交換膜セル。
(v)凹凸形状を有するイオン交換膜は、端近傍に平坦部を有し、前記イオン交換膜自体の曲がりによる凸曲部と凹曲部が、それぞれ前記イオン交換膜の凹凸形状における凸部と凹部となり、前記凸部と前記凹部が直線状又は曲線状に延設され、前記凹部は平坦であり、前記凸部は長手方向に頂部と側面とを有し、前記側面が前記頂部から前記凹部に向かって傾斜する;
【請求項3】
凹凸形状を有するイオン交換膜が、支持体及び前記支持体の両面又は片面に設けられたイオン交換層から少なくとも構成され、前記支持体自体の曲がりによる凸曲部と凹曲部に、前記イオン交換膜の凸部と凹部がそれぞれ形成されたイオン交換膜である請求項2記載のイオン交換膜セル。
【請求項4】
凹凸形状を有するイオン交換膜の凹部は、凸部の長手方向に沿って前記凸部の短手方向に隣接する第1の凹部と前記凸部の長手方向の端面と向かい合う他の凸部の長手方向の端面との間の第2の凹部を含み、前記凸部は長手方向に頂部と側面とを有し、前記側面が前記頂部から前記第1の凹部に向かって傾斜している請求項1又は2記載のイオン交換膜セル。
【請求項5】
凹凸形状を有するイオン交換膜の凸部の長手方向の端面が、上端から隣接する端近傍の平坦部に向かって傾斜する面をなしている請求項1又は2記載のイオン交換膜セル。
【請求項6】
凹凸形状を有するイオン交換膜の凸部と第2の凹部がイオン交換膜の一方の端近傍から他方の端近傍まで、長手方向に交互に並んで配置された請求項4記載のイオン交換膜セル。
【請求項7】
凹凸形状を有するイオン交換膜の凸部の短手方向に隣り合う凸部間において、一方の凸部の長手方向の少なくとも一方の端部の短手方向には、他方の凸部の端部が配置されないように凹凸形状が形成された請求項6記載のイオン交換膜。
【請求項8】
陽イオン交換膜及び陰イオン交換膜のいずれもが凹凸形状を有するイオン交換膜であり、前記陽イオン交換膜の凸部と前記陰イオン交換膜の凸部との間に補強部材が配置された請求項1又は2記載のイオン交換膜セル。
【請求項9】
枠体、前記枠体に囲まれた開口部及び前記開口部に設けられ前記枠体の異なる辺をつなぐ補強部材を備えるガスケットであって、前記補強部材の厚みは枠体の厚みの60%以下であり、前記開口部の開口率は80~99%である電気透析又は逆電気透析用スタックのためのガスケット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はイオン交換膜セル及びガスケットに関する。
【背景技術】
【0002】
電気透析(ED:Electro-Dialysis)や逆電気透析(RED:Reverse Electro-Dialysis)は、
図1のように陽イオン交換膜(CEM)、高塩濃度側(濃縮側)流路スペーサ、陰イオン交換膜(AEM)、低濃度側(脱塩側)流路スペーサを1対としてセルを形成し、これらを何百対も2つの電極の間に設置したスタックを使用する。このセルにおいて、CEMとAEM及びAEMとCEMとの間の流路スペーサでは、イオン交換膜の間の膜間距離を一定に保ち、溶液が流れるようにスペーサ網が配置されている。このスペーサ網により膜間距離が一定に保たれ(
図2、特許文献1参照)、この間を溶液が流れる仕組みになっている。しかし、この流路スペーサはPPやPEなどの疎水性、絶縁性の網が使用されているため、流路の電気抵抗の増加、流路の圧損の増加、流路の汚染性の増加などの問題がある。
【0003】
これらの問題を解決するために、本発明者は、
図3に示すように膜に凹凸構造を形成したプロファイルCEM(PF-CEM)とプロファイルAEM(PF-AEM)を使用することを提案した(特許文献2参照)。この構造によれば、高塩濃度側(濃縮側)流路にスペーサ網を使用せずに、膜間距離を一定に保ち、この対向したPF-CEMとPF-AEMの間に溶液を流すことが出来る。
図4に、上記PF-CEMとPF-AEMとを使用して作製したスタックの一例(左側)と、比較のために平膜のCEMとAEMとを使用して作製したスタック(右側)を示す。
図4の右側の図では、平膜を使用したスタックでは、全ての流路においてスペーサ網(メッシュ)が存在するが、PF-CEMとPF-AEMとを使用した
図4の左側の図のスタックでは、PF-CEMとPF-AEMの凸部が対向した流路にはスペーサ網(メッシュ)が存在しない。この構造により、膜が低膜抵抗になるほかに、流路の電気抵抗の低減、流路の圧損の低減、流路の耐汚染性の向上等の利点が得られる。
【0004】
このように上記PF-CEMとPF-AEMとを使用して作製したスタックにおけるスペーサでは有効膜面積内にスペーサ網が存在しない。しかしながら、スタックの面積が大きくなると、すなわちイオン交換膜やスペーサの面積が大きくなると、スタックを構築する場合に、スペーサに歪みが生じ、多数使用するスペーサを各スペーサの横縦の縁に存在するガスケットの位置を合わせて重ねていくことが困難となる。さらに、最初の構築時だけでなく、スタックは定期的に解体洗浄を行う場合があるので、その都度に非常に高い技術力と労力とをかけてスタックを組み上げて構築する必要がある。また組み上げたスタックの移動、地震などの揺れ、さらに通液の圧力により、縁のガスケットがずれて、スタック外への液の外部漏れや高濃度側流路と低濃度側流路との間で液の内部漏れを生じる可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6-277458
【特許文献2】国際公開WO2021/090919パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、イオン透過に有効な膜の面積を広くでき、形状の保持性に優れ、液の外部漏れや内部漏れを抑止できるイオン交換膜セルを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するために、検討を進めたところ、従来使用されていたスペーサとは全く技術思想も形状も異なるガスケットを使用して、イオン交換膜セルを作製することにより、上記課題が解決できることを見いだした。そして、それは特許文献1に記載された本発明者が発明したイオン交換膜以外にも適用できるものであった。
【0008】
すなわち、本発明は以下に示す事項により特定されるものである。
(1)陽イオン交換膜と陰イオン交換膜が対向して配置されたイオン交換膜セルであり、以下の(i)~(iv)を満たすイオン交換膜セル。
(i)前記陽イオン交換膜及び前記陰イオン交換膜の少なくとも一方が凹凸形状を有するイオン交換膜である;
(ii)前記凹凸形状を有するイオン交換膜の凸部が、他方のイオン交換膜と対向するように配置される;
(iii)前記凹凸形状を有するイオン交換膜と、前記凹凸形状を有するイオン交換膜の凸部が対向する他方のイオン交換膜との間にガスケットが配置され、前記ガスケットは、前記凹凸形状を有するイオン交換膜の凸部の高さより大きな厚みを有する枠体と、前記枠体に囲まれた開口部と、前記開口部に設けられ前記枠体の異なる辺をつなぐ補強部材を備える;及び
(iv)前記凹凸形状を有するイオン交換膜の凸部は、前記枠体の前記開口部に挿入され、前記凸部と対向する他方のイオン交換膜との間に前記補強部材が配置される;
(2)以下の(v)をさらに満たす上記(1)のイオン交換膜セル。
(v)凹凸形状を有するイオン交換膜は、端近傍に平坦部を有し、前記イオン交換膜自体の曲がりによる凸曲部と凹曲部が、それぞれ前記イオン交換膜の凹凸形状における凸部と凹部となり、前記凸部と前記凹部が直線状又は曲線状に延設され、前記凹部は平坦であり、前記凸部は長手方向に頂部と側面とを有し、前記側面が前記頂部から前記凹部に向かって傾斜する;
(3)凹凸形状を有するイオン交換膜が、支持体及び前記支持体の両面又は片面に設けられたイオン交換層から少なくとも構成され、前記支持体自体の曲がりによる凸曲部と凹曲部に、前記イオン交換膜の凸部と凹部がそれぞれ形成されたイオン交換膜である上記(2)のイオン交換膜セル。
(4)凹凸形状を有するイオン交換膜の凹部は、凸部の長手方向に沿って前記凸部の短手方向に隣接する第1の凹部と前記凸部の長手方向の端面と向かい合う他の凸部の長手方向の端面との間の第2の凹部を含み、前記凸部は長手方向に頂部と側面とを有し、前記側面が前記頂部から前記第1の凹部に向かって傾斜している上記(1)又は(2)のイオン交換膜セル。
(5)凹凸形状を有するイオン交換膜の凸部の長手方向の端面が、上端から隣接する端近傍の平坦部に向かって傾斜する面をなしている上記(1)又は(2)のイオン交換膜セル。
(6)凹凸形状を有するイオン交換膜の凸部と第2の凹部がイオン交換膜の一方の端近傍から他方の端近傍まで、長手方向に交互に並んで配置された上記(4)のイオン交換膜セル。
(7)凹凸形状を有するイオン交換膜の凸部の短手方向に隣り合う凸部間において、一方の凸部の長手方向の少なくとも一方の端部の短手方向には、他方の凸部の端部が配置されないように凹凸形状が形成された上記(6)のイオン交換膜。
(8)陽イオン交換膜及び陰イオン交換膜のいずれもが凹凸形状を有するイオン交換膜であり、前記陽イオン交換膜の凸部と前記陰イオン交換膜の凸部との間に補強部材が配置された上記(1)又は(2)のイオン交換膜セル。
(9)枠体、前記枠体に囲まれた開口部及び前記開口部に設けられ前記枠体の異なる辺をつなぐ補強部材を備えるガスケットであって、前記補強部材の厚みは枠体の厚みの60%以下であり、前記開口部の開口率は80~99%である電気透析又は逆電気透析用スタックのためのガスケット。
【発明の効果】
【0009】
本発明のイオン交換膜セルは、イオン透過に有効な膜の面積を広くでき、形状の保持性に優れたイオン交換膜セルを提供できる。また、本発明のガスケットは、これを使用することにより、イオン透過に有効な膜の面積を広くでき、形状の保持性に優れ、液の外部漏れや内部漏れを抑止できるイオン交換膜セルを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、従来のイオン交換膜セルを示す図である。
【
図2】
図2は、従来のイオン交換膜セルのスペーサとイオン交換膜の関係を示す図である。
【
図3】
図3は、凹凸形状を有するイオン交換膜の一実施形態を示す図である。
【
図5】
図5は、本発明における好ましい形態のイオン交換膜の一実施形態の断面を示す模式図である。
【
図6】
図6は、本発明における好ましい形態のイオン交換膜における凸部形状の一実施形態を示す図である。
図6(a)及び(c)は凸部の形状を示す図であり、
図6(b)及び(d)は凸部をイオン交換膜に形成させた状態を示す図である。
【
図7】
図7は、本発明の凹凸形状の一実施形態を示す図である。
【
図8】
図8は、本発明の凹凸形状の一実施形態を示す図である。
【
図9】
図9は、本発明の凹凸形状の一実施形態を示す図である。
【
図10】
図10は、本発明の凹凸形状の一実施形態を示す図である。
【
図11】
図11は、本発明の凹凸形状の一実施形態を示す図である。
【
図12】
図12は、本発明の凹凸形状の一実施形態を示す図である。
【
図13】
図13は、本発明のイオン交換膜セルの一実施形態を示す断面図である。
【
図14】
図14は、本発明のガスケットの一実施形態を示す断面図である(補強部材が枠体の中まで伸びている部分は、枠体に埋め込まれていることを示す)。
【
図16】
図16は、本発明のガスケットの一実施形態を示す断面図である(補強部材が枠体の中まで伸びている部分は、枠体に埋め込まれていることを示す)。
【
図17】
図17は、本発明における好ましい形態のイオン交換膜の一実施形態を示す図である。
【
図18】
図18は、本発明における好ましい形態のイオン交換膜の一実施形態を示す図である。
【
図19】
図19は、本発明のイオン交換膜セルの構造の一実施形態を示す模式図である。
【
図20】
図20は、本発明のイオン交換膜セルの構造の一実施形態を示す模式図である。
【
図21】
図21は、本発明のイオン交換膜セルの構造の一実施形態を示す模式図である。上段の図は各イオン交換膜及びガスケットを示す図であり、中断の図はこれらが一体化した状態を示す図であり、下段の図は、各イオン交換膜をガスケットに組み込む様子を示した図である。
【
図22】
図22は、作製例1で使用したアルミ製型の写真である。
【
図23】
図23は、作製例1のイオン交換膜の凹凸形状を示す図である(図中の格子は1辺が10mmを表し、寸法の説明のために記載したものである)。
【
図24】
図24は、作製例1で得られたPF-AとPF-Cの写真である。
【
図25】
図25は、作製例1で得られたPF-AとPF-Cの一部の断面写真であり、
図25(a)はPF-Aの一部の断面写真、
図25(b)はPF-Cの一部の断面写真である。
【
図26】
図26は、作製例1で得られたPF-AとPF-Cの寸法測定箇所と測定結果を示す図である。
【
図29】
図29は、作製例2の
図27に示す金型を使用して凹凸を形成したCT-2膜の写真である。
【
図30】
図30は、作製例2の
図27に示す金型を使用して凹凸を形成したAT-2膜の写真である。
【
図31】
図31は、作製例2の
図28に示す金型を使用して凹凸を形成したCT-2膜の写真である。
【
図32】
図32は、作製例2の
図28に示す金型を使用して凹凸を形成したAT-2膜の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のイオン交換膜セルは、陽イオン交換膜と陰イオン交換膜が対向して配置されたイオン交換膜セルであり、(i)前記陽イオン交換膜及び前記陰イオン交換膜の少なくとも一方が凹凸形状を有するイオン交換膜であり、(ii)前記凹凸形状を有するイオン交換膜の凸部が、他方のイオン交換膜と対向するように配置され、(iii)前記凹凸形状を有するイオン交換膜と、前記凹凸形状を有するイオン交換膜の凸部が対向する他方のイオン交換膜との間にガスケットが配置され、前記ガスケットは、前記凹凸形状を有するイオン交換膜の凸部の高さより大きな厚みを有する枠体と、前記枠体に囲まれた開口部と、前記開口部に設けられ前記枠体の異なる辺をつなぐ補強部材を備え、(iv)前記凹凸形状を有するイオン交換膜の凸部は、前記枠体の前記開口部に挿入され、前記凸部と対向する他方のイオン交換膜との間に前記補強部材が配置されたイオン交換膜セルである。本発明のイオン交換膜セルにおける凹凸形状を有するイオン交換膜としては、凹凸形状を有するイオン交換膜であれば特に制限されないが、(v)端近傍に平坦部を有し、イオン交換膜自体の曲がりによる凸曲部と凹曲部が、それぞれ前記イオン交換膜の凹凸形状における凸部と凹部となり、前記凸部と前記凹部が直線状又は曲線状に延設され、前記凹部は平坦であり、前記凸部は長手方向に頂部と側面とを有し、前記側面が前記頂部から前記凹部に向かって傾斜するイオン交換膜が好ましい。
【0012】
本発明において好適なイオン交換膜は、イオン交換膜自体が曲がっており、その曲がりによってイオン交換膜に凹凸が形成されている。本願明細書で本発明に用いる「曲がり」、「曲がった」、「曲げる」等の曲げに関する表現は、屈曲(すなわち折れ曲がった状態)及び湾曲(すなわち明瞭な角を形成せずに曲がった状態)を含む。イオン交換膜の凸曲部とは、イオン交換膜の曲がりにより凸形状が形成された部分のことであり、イオン交換膜の凹曲部とは、イオン交換膜の曲がりにより平坦な凹形状が形成された部分のことである。イオン交換膜の曲がりにより凸形状又は平坦な凹形状が形成されていれば、凸曲部の形状は特に制限されない。本発明におけるイオン交換膜の実施形態には、凹凸形状を有するイオン交換膜であって支持体を有さないもの、及び凹凸形状を有するイオン交換膜であって、支持体及び前記支持体の両面又は片面に設けられたイオン交換層から少なくとも構成され、端近傍に平坦部を有し、前記支持体自体の曲がりによる凸曲部と凹曲部に、前記イオン交換膜の凸部と凹部がそれぞれ形成されているイオン交換膜が含まれる。ここで「支持体の両面又は片面に設けられたイオン交換層」とは、イオン交換層に支持体の全部または一部が埋め込まれている状態をいい、全部埋め込まれている場合は両面に設けられており、一部が埋め込まれている場合は片面に設けられていることを指す。イオン交換膜としては、電子線等を照射したグラフト重合を施した膜も含め均質膜が挙げられる。また、膜内にイオン交換樹脂を内在させた不均質膜で膜自体に曲がりを有しないものの凹凸形状を形成させたイオン交換膜であってもよい。以下では、凹凸形状を有するイオン交換膜として実用上より優れた性質をもつ均質膜を中心に例示する。
【0013】
本発明におけるイオン交換層としては、イオン交換能を有する層であれば特に制限されず、陽イオン(カチオン)交換層でもよく、陰イオン(アニオン)交換層でもよい。本発明において支持体とは、イオン交換膜の形状維持特性及び/又は強度をイオン交換層のみからなる場合よりも向上させる働きを有するものであり、本発明における支持体としては、イオン交換層を形成したときにイオンが通過できる支持体であれば特に制限されず、例えば、多孔質体を挙げることができ、多孔質体には織布、不織布等の形態も含まれる。支持体の材質としては高分子材料を好適に挙げることができる。支持体としては荷電基を有するポリマー層よりも機械的強度が必要であり、引っ張りやせん断強度などに優れているものが好ましい。本発明における好ましい形態では、イオン交換膜を構成する支持体自体が曲がっており、その曲がりによってイオン交換膜に凹凸が形成されている。すなわち、支持体を有するイオン交換膜自体の曲がりによる凸曲部と凹曲部が、それぞれイオン交換膜の凹凸形状における凸部と凹部となっている。支持体の凸曲部とは、支持体の曲がりにより凸形状が形成された部分のことであり、支持体の凹曲部とは、支持体の曲がりにより平坦な凹形状が形成された部分のことである。支持体の曲がりにより凸形状又は平坦な凹形状が形成されていれば、凸曲部の形状は特に制限されない。
【0014】
本発明における好ましい形態のイオン交換膜について図を用いて説明すると、例えば、
図5(A)(a)及び(c)は本発明におけるイオン交換膜の一実施形態であるイオン交換膜IEMを側面(厚み方向)から見た模式図であり、凸曲部の延長方向(以下「延長方向」を「長手方向」又は「延設方向」ともいう。)に垂直な断面の模式図である。上側をイオン交換膜IEMの前面、下側をイオン交換膜IEMの裏面とすると、
図5(A)(a)では、イオン交換膜IEMが平坦部から曲部Aで前面側に曲がり、曲部Bで裏面側に曲がり、曲部Cで平坦方向に曲がり、曲部Dで前面側に曲がっている。これを繰り返すことにより、曲部A~Cで形成される凸曲部IEM1と、曲部C~Dで形成され、凸曲部と凸曲部との間に形成される凹曲部IEM2とが交互に形成され、前記凸曲部IEM1がイオン交換膜の凸部になり、前記凹曲部IEM2がイオン交換膜の凹部になる。
図5(A)(a)の凹曲部(凹部)の形状は平坦な形状である。また、
図5(A)(c)は、凸曲部(凸部)の形状が台形の例である(凸曲部IEM1’)。
図5(A)(a)及び(c)では、イオン交換膜IEMの曲部は屈曲しているが、上記で述べたとおり、イオン交換膜IEMの曲部は湾曲していてもよく、曲部と曲部の間が湾曲していてもよい。
【0015】
支持体を有するイオン交換膜における支持体を
図5(A)とみなして説明すると、例えば、
図5(A)は支持体S(IEをSと読み替える)を側面(厚み方向)から見た模式図であり、凸曲部の延長方向である長手方向に垂直な断面の模式図である。上側を支持体の前面、下側を支持体の裏面とすると、
図5(A)(a)では、支持体が平坦部から曲部a(Aをaと読み替える)で前面側に曲がり、曲部b(Bをbと読み替える)で裏面側に曲がり、曲部c(Cをcと読み替える)で平坦方向に曲がり、曲部d(Dをdと読み替える)で前面側に曲がっている。これを繰り返すことにより、曲部a~cで形成される凸曲部S1(IEM1をS1と読み替える)と、曲部c~dで形成され、凸曲部と凸曲部との間に形成される凹曲部S2(IEM2をS2と読み替える)とが交互に形成される。
図9(A)(a)の凹曲部の形状は平坦な形状である。また、
図5(A)(c)は、凸曲部の形状が台形の例である(凸曲部S1’(IEM1’をS1’と読み替える))。
図5(A)(a)及び(c)では、支持体Sの曲部は屈曲しているが、上記で述べたとおり、支持体Sの曲部は湾曲していてもよく、曲部と曲部の間が湾曲していてもよい。ここで支持体の有無によらず凹曲部(凹部)が「平坦」とは、製膜時あるいは膜保管状態や膜の使用中の条件で意図しない変形により湾曲が生じた場合も「平坦」に含む。後述の端近傍の平坦部も同様である。
【0016】
本発明における好ましい形態の支持体を有するイオン交換膜は、凸曲部と凹曲部を有する支持体の両面又は片面にイオン交換層が設けられているので、支持体の凸形状及び凹形状を反映した凹凸形状を有する。図を用いて説明すると、例えば、
図5(B)はイオン交換膜IEMを側面(厚み方向)から見た模式図であり、凸部の延長方向である長手方向に垂直な断面の模式図である。上側をイオン交換膜IEMの前面、下側をイオン交換膜IEMの裏面とすると、
図5(B)(a)のイオン交換膜IEMは、曲がった支持体Sと支持体Sの両面に設けられたイオン交換層IEから構成されている。
図5(B)(a)のイオン交換膜IEMでは、イオン交換膜IEMが平坦部から曲部Aで前面側に曲がり、曲部Bで裏面側に曲がり、曲部Cで平坦方向に曲がり、曲部Dで前面側に曲がっている。これを繰り返すことにより、曲部A~Cで形成されるイオン交換膜IEMの凸部IEM1と、曲部C~Dで形成され、凸部と凸部との間に形成されるイオン交換膜IEMの平坦な凹部IEM2とが交互に形成される。イオン交換膜IEMの曲部A~Dは、それぞれ支持体Sの曲部a~dに対応しているので、支持体Sの凸曲部と凹曲部が、それぞれイオン交換膜IEMの凸部と凹部に対応し、支持体Sの凸曲部と凹曲部の箇所が、それぞれイオン交換膜IEMの凸部と凹部になる。このようにイオン交換膜IEMでは、支持体Sの凸曲部と凹曲部に、イオン交換膜IEMの凸部と凹部がそれぞれ形成されている。そのため、イオン交換膜IEMの凸部と凹部は、それぞれ支持体Sの凸曲部と凹曲部と同様の形状となる。
【0017】
図5(B)(c)は、凸部の形状が台形の例である。
図5(B)では、イオン交換膜IEMの曲部は屈曲しているが、上記で述べたとおり、イオン交換膜IEMの曲部は湾曲していてもよく、曲部と曲部の間が湾曲していてもよい。本発明におけるイオン交換膜では、凸部と凸部の間の凹部が平坦であるため、凹部でよどみが生じにくく付着物が生じにくい、また、出力の低下が生じにくい。
図5(A)(b)は、凹曲部(凹部)の形状が凸曲部(凸部)の反対側に突き出た形状の参考例である(凹曲部IEM2’)。この場合、凹部が平坦である本発明におけるイオン交換膜と異なり、凸部と凸部の間(凹部)でよどみが生じやすく付着物が生じやすい。また、RED発電の場合には低濃度側溶液のイオン濃度が上がり、溶液の電気抵抗は下がるが、一方、高濃度側溶液と低濃度側溶液の濃度差が低下するために発生電圧が低下するため、出力の低下の原因となる。またEDの場合にはよどみにより、その部分が局所的に脱塩されて塩濃度が低下する結果、電気抵抗の増大を生じ、ジュール熱のために膜の焼け、場合によっては膜の破壊の原因となる。
図5(A)を支持体とみなして説明した場合の
図5(A)(b)は、支持体の凹曲部の形状が凸曲部の反対側に突き出た形状の参考例である(凹曲部S2’(IEM2’をS2’と読み替える))。このような支持体にイオン交換層を形成した場合も、凹部が平坦である本発明におけるイオン交換膜と異なり、上記の問題点が生じる。また、凸部だけを並べた場合も同様である。
図5(B)(b)は、曲がった支持体Sの片面にイオン交換層IEが設けられたイオン交換膜IEMの参考例である。
【0018】
本発明におけるイオン交換膜の凸部の上端の幅は、下端の幅の50%以下であることが好ましく、30%以下であることがより好ましく、20%以下であることが更に好ましい。凸部の上端の幅とは、凸部の長手方向に垂直な断面における上端の幅であり、凸部の下端の幅とは、凸部の長手方向に垂直な断面における凸部と凹部の境の位置での幅aである。ここで例えば、
図5(A)及び
図5(B)のイオン交換膜において、図中の曲部Aと曲部Cの間の距離が、凸部の下端の幅aとなる。凸部の上端が湾曲している場合、上端の幅とは、上端を他のイオン交換膜やガスケット等に接触させたときに接触する幅をいう。上述のように本発明におけるイオン交換膜は、凸部の上端の幅を狭くしやすいから、セルに使用する場合、溶液が流れる有効な流路部の断面積を広くできる。また、凹凸形状を有するイオン交換膜は、凸部が柱状に盛り上がると流体中の有機物や無機粒子等の汚れが凸部の根元に付着しやすく、この付着が流路を狭くして流体の流れを妨げる。本発明におけるイオン交換膜は、イオン交換膜又は支持体を有する場合は支持体を曲げて凸部の斜面を形成するため、緩やかな傾斜の凸部を形成しやすい。そのため、流体中の汚れの付着を防止できるので、流路を広くでき、流路の圧損や汚れによる詰まりが少ないセルのメリットをも提供することができる。本発明におけるイオン交換膜の凸部は、上端において両斜面がなす角度が10~176°が好ましく、30~150°がより好ましく、60~120°が更に好ましい。本願明細書において、「P~Q」という表記はP以上Q以下を表しPとQを含む。上端において両斜面がなす角度とは、凸部の長手方向に垂直な断面において上端で左右の面(側面)がなす角度をいう。すなわち、かかる左右の面がイオン交換膜の平坦部もしくは端近傍の面に対して前面側に向かって曲がり始めを示す線分(かかる線分は凸部の長手方向)をそれぞれ通り、凸部の頂部の線分(稜)で交差する角度である。ここで曲がり始めとは、凸部の立ち上がり開始部とも言い得るが、長手方向に平行に並ぶ凸部と凹部の境の位置を指す。曲がり始めを示す線分は、イオン交換膜の端近傍又は凹部の平坦部の上面から凸部斜面に切り替わる線分であり、凹凸形状の長手方向の断面におけるその線分の位置(図上は点で示される)は、端近傍又は凹部の平坦部の上面と平行にその上面から延長する直線を引くことで求められる。上端部が湾曲して明瞭な角を形成していない場合又は凸部の形状が台形の場合等のように幅を有する場合は、上端において両斜面がなす角度とは、前記左右の面が凸部頂部で交差する位置での角度をいい、頂部に平坦部分がある場合は側面からみたその平坦を示す線分の中心位置における角度をいう。
【0019】
凸部の下端における両斜面の立ち上がりの角度(傾斜角)は好ましくは2~85°、15~75°、30~60°であり、両斜面の傾斜角の差は0~15°であることが好ましい。凸部の下端における両斜面の立ち上がりの角度(傾斜角)とは、凸部の長手方向に垂直な断面において、凸部の両方の下端を結んだ下端の線分と凸部の側面(斜面)との角度をいう。膜が湾曲した場合など、凸部の下端の位置が不明瞭な場合は、斜面の立ち上がり部が徐々に立ち上がる途中で平坦部の膜厚を100%としたときにこの厚みよりも10%高い高さになる位置を下端の位置としてもよい。本発明におけるイオン交換膜の厚さは、使用に適する強度を維持しつつ抵抗の増加を抑制する観点から、5~1000μmが好ましく、10~200μmがより好ましい。
図5(A)(d)又は
図5(B)(d)を用いて説明すると、θ1が上端において両斜面がなす角度であり、θ2及びθ3が凸部の下端における両斜面の立ち上がりの角度(傾斜角)である。なお、
図5(B)(d)では、角度の表示を分かりやすくするためにイオン交換層の内部に埋め込まれた支持体の記載を省略している。
【0020】
本発明におけるイオン交換膜の凸部及び凹部は、直線状又は曲線状に延設されている。他の態様として、凸部及び凹部のうち少なくとも凸部が直線状又は曲線状に延設されていてもよい。凸部及び凹部が直線状又は湾曲状、弧状等の曲線状に延設されていると、本発明におけるイオン交換膜を、上記イオン交換膜セルに使用した場合、流れる流体とイオン交換膜との接触面積を増加させながら、流路の送液抵抗を少なくすることができる。直線状又は曲線状に延設とは、凸部及び凹部が直線状又は曲線状に伸びて設けられていればよく、イオン交換膜の一方の端近傍から他方の端近傍までつながっていてもよく、つながっていなくてもよい。例えば、所定の長さの凸部が、その長手方向に一方の端近傍から他方の端近傍まで複数、つまり2つ以上並んでいてもよい。本発明におけるイオン交換膜は、セルに取り付けるために膜の端近傍は平坦であることが好ましい。端近傍とは、イオン交換膜の端から前記イオン交換膜をセルに取り付けるために必要な領域をいい、例えば、ガスケットのような枠体で固定する場合には、前記枠が接することができる領域となる。この領域を端近傍の平坦部とよぶ。この平坦部の内側に凹凸が形成される。言い換えると、端近傍とは、イオン交換膜のそれぞれの端に最も近い凸部の前記端に最も近い部分より外側(イオン交換膜の端側)のイオン交換膜の端に沿った領域ともいえる。本発明においては、この領域が平坦であることが好ましい。また、端近傍から離れた凸部の部位又は凸部であって、凸部の長手方向の側面と端近傍との間に他の凸部がない場合、及び長手方向の端面と端近傍との間に他の凸部がない場合は、その側面及び端面と端近傍との間も平坦である。凸部の長手方向の側面と端近傍との間に他の凸部がない場合、その凸部の側面も端近傍に隣接する側面といい、凸部の長手方向の端面と端近傍との間に他の凸部がない場合、その凸部の端面も端近傍に隣接する端面という。
【0021】
本発明においては、凸部の長手方向の側面に沿って凸部の短手方向に隣接する凹部を第1の凹部という。また本発明においては、一方の凸部の長手方向の端面と、これと向かい合う他方の凸部の長手方向の端面との間に凹部ができる場合、この凹部を第2の凹部という。ここで向かい合うとは、端面が長手方向に正対する場合だけでなく、斜め方向にずれて向かい合う場合、凸部の短手方向に向かい合う場合等を含む。また、本発明におけるイオン交換膜は、端近傍の平坦部に隣接する凸部の長手方向の端面が、上端から隣接する前記平坦部に向かって傾斜する面をなしていることが好ましい。このような形状とすることにより、凹凸部と平坦部で表面積と投影面積に大きな差異があっても比較的緩やかな傾斜の面をなすことにより膜のひずみを分散して膜の端近傍の平坦部へつづく凸構造を保つことが出来る。上記凸部の長手方向の端面は、平坦であっても、凸部の長手方向とは反対方向にくぼんでいても、凸部の長手方向に盛り上っていてもよい。また、端面と、端面を挟む長手方向の側面との境目の曲部は屈曲していてもよく湾曲していてもよい。端近傍の平坦部に隣接する凸部以外の他の凸部の端面の形状は特に制限されないが、凸部と凹部が直線状に延設され、前記凹部は平坦であり、前記凸部は長手方向の両端面が上端からイオン交換膜の端近傍の平坦部に向かって傾斜する面をなしていることが好ましい。これにより、イオン交換膜の投影面積と表面積の差によるゆがみやひずみを平均化できる。また、凸部と凸部の間(凹部)でよどみが生じにくいため付着物が生じにくい。さらに、発電出力や処理効率の低下、強度不足の問題が生じにくい。
【0022】
本発明におけるイオン交換膜は、凸部の長手方向の左右の側面が上端から、凸部に並行して隣接する平坦な凹部(第1の凹部)に向かって傾斜している、又は凸部の長手方向の端面が上端から、その端面が隣接する端近傍の平坦部若しくは凸部の長手方向の端面と向かい合う他の凸部の長手方向の端面との間の平坦な凹部(第2の凹部)に向かって傾斜する面をなしている。本発明におけるイオン交換膜においては、凸部と凸部の間の凹部が平坦であることに加えて、凸部の側面が上端から隣接する凹部に向かって傾斜していると、セルに使用したときに膜表面積を増してイオンの流れを促進すると共に、液が凸部を乗り越えて隣のレーンともいえる平坦な凹部にも流れやすくなり、イオンのよどみが低減することで、RED発電の場合には発生電圧の低下の原因となる局所的な溶液の濃度増加、EDの場合には膜焼けや膜破壊の原因となる局所的な塩分濃度の低下を少なくすることができる。また、よどみを少なくすることにより、汚れ物質の付着を防止することもできる。さらには矩形(コの字状)の凸部を形成したイオン交換膜に比べてひずみにくい。かかる矩形の膜はその表面積と投影面積との差が大きいためひずみが大きいからである。また、凸部のイオン交換膜の端近傍に隣接する側面も端近傍に向かって傾斜していることが好ましい。あるいは、本発明におけるイオン交換膜においては、凸部と凸部の間の凹部が平坦であることに加えて、凸部の長手方向の端面が、その上端から前記端面が隣接する端近傍の平坦部、又は第2の凹部に向かって傾斜する面をなしていると、上記と同様にセルに使用したときに膜表面積を増してイオンの流れを促進すると共に、液が凸部を乗り越えて隣のレーンともいえる凹部にも流れやすくなり、上述のRED発電の場合の局所的な溶液の濃度の増加やEDの場合の局所的な塩分濃度の低下を少なくすることができる。また、よどみを少なくすることにより、汚れ物質の付着を防止することもできる。さらには上述のように矩形(コの字状)の凸部を形成したイオン交換膜に比べてひずみにくい。本発明におけるイオン交換膜においては、凸部と凸部の間の凹部が平坦であることに加えて、凸部の側面が上端から隣接する第1の凹部に向かって傾斜し、かつ凸部の長手方向の端面が、その上端から前記端面が隣接する端近傍の平坦部、又は第2の凹部に向かって傾斜する面をなしていることが好ましい。
【0023】
図6(a)~(d)は本発明における凸部の形状の一実施形態を示す図であり、長手方向の両端面が上端から平坦部に向かって傾斜する面をなしている。
図6(a)の上の図は凸部を上から見た図であり、下の図は凸部を横から見た図である。
図6(a)の凸部では、長手方向の端面が平坦となっている。
図6(b)は
図6(a)の凸部を形成したイオン交換膜の一部分を示す図であり、溶液が導入される導水口の周囲を示している。
図6(b)の左の図は凸部を上から見た図であり、右の図は凸部を長手方向から見た図である。
図6(c)は凸部の長手方向に盛り上がっており、端面中央付近が膜の端近傍へ張り出すように広がっている例である。
図6(d)は
図6(c)の凸部を形成したイオン交換膜の一部分を示す図であり、右の図は凸部を横(長手方向に垂直な方向)から見た図である。これらの形状の1つの凸部が、イオン交換膜の一方の端近傍から他方の端近傍まで延設されていてもよく、これらの形状の複数の凸部が一方の端近傍から他方の端近傍まで並んでいてもよい。また、凹部の幅が凸部の下端の幅より小さいと、イオン交換膜セルに使用した場合に、凸部が接触する箇所が増えるため、流路間の高塩濃度側流路と低塩濃度側流路の間の圧力差に対する膜の組合せによる構造の強度が高くなる、一方で流路断面積が小さくなる。これらのことから、凹部の幅をbとすると、凹部の幅bは0超3×a以下とするのが好ましく、0超2×a以下とするのがより好ましく、0超1×a以下とするのが更に好ましい。凸部の下端の幅aは上記で定義したとおりであり、凹部の幅とは、凹部の長手方向に垂直な断面における凸部と凹部の境の位置での幅であり、平坦な部分の幅である。例えば、
図5のイオン交換膜において、曲部Cと曲部Dの間の距離がbとなる。bが0の場合とは凸部が連続し、凹部が隣り合う凸部の斜面と凸部の斜面との角となっている場合である。さらに本発明における支持体を有するイオン交換膜は、凸部及び凹部の形状に沿って支持体が配置されているため膜強度に優れる。そのため、スペーサとしての機能を兼ねて使用した場合でもイオン交換膜が変形や破損することを防止できる。特に、凸部の根元の亀裂や、凸部の上端の幅が狭いと起こりやすい上端の破損を防止できる。
【0024】
図7~12に本発明におけるイオン交換膜の凹凸形状の実施形態の例を挙げる。
図7は、凸部がイオン交換膜の一方の端近傍から他方の端近傍まで直線状に延設され、凸部の長手方向の両端面が、上端から隣接する端近傍の平坦部に向かって傾斜する面をなしている例である。
図8~10及び12は、凸部がイオン交換膜の一方の端近傍から他方の端近傍まで、長手方向に複数並んで配置された例であり、
図11は、凸部がイオン交換膜の一方の端近傍から他方の端近傍まで直線状に延設された例である。これらの例では、凸部の長手方向の端部は、イオン交換膜の端近傍の平坦部に隣接する場合は、前記平坦部に向かって傾斜する面をなし、長手方向に隣り合う凸部間の凹部に隣接する場合は、前記凹部に向かって傾斜する面をなしている。長手方向に複数の凸部を設けることにより、凸部の形状の保持力ととともに
膜の強度を高くすることができ、加えて各凸部の端部を傾斜面とすることで、より膜の強度を高くすることができる。また、溶液の一部は凸部の山を越えることなく、短い距離で流れるため圧損が少なくなる。
図8は、各凸部が長手方向に同じ角度で一直線に並ぶように配置した例であり、
図9は、各凸部の長手方向における角度を変えて配置した例である。
図10は、凸部の短手方向に隣り合う凸部間において、一方の凸部の長手方向の端部の短手方向、つまりその端部における長手方向にほぼ垂直な方向には、他方の凸部の端部が配置されないように凹凸形状を形成した例である。この図には、短手方向に隣り合う凸部の端近傍の平坦部側の端部が、膜の端側に張り出す態様と端近傍の平坦部からより膜面の内側に引っ込む態様を交互に示している。長手方向に隣り合う凸部間の凹部が短手方向において互い違いとなり一直線に並ばなくなる、すなわち凹部と凸部が交互に並ぶため、凸部の短手方向に複数の凸部を横断して集中して圧力がかかっても膜全体の変形に対する膜強度をより高め、平坦部と凸部の表面積と投影面積の差がより減少するのでひずみを低減できる。したがって、膜を使った逆電気透析発電や電気透析の装置運転の安定化に寄与する。
図10の変形例として、膜の一方の端近傍の平坦部に最も寄っている凸部の長手方向の端部と、一方の端近傍の平坦部と反対側にある他方の端近傍の平坦部に最も寄っている凸部の長手方向の端部のうちいずれか一方の端部の短手方向は他のレーンの凸部の端部の一部または全部と同じ位置に並んでいても上記ひずみの低減効果がある。
図11は、凸部がイオン交換膜の一方の端近傍から他方の端近傍まで直線状に延設された例であるが、凸部の長さを変えて、凸部の長手方向の端部とイオン交換膜の端との距離を変え、前記距離が近い凸部と、これより遠い凸部とを一つおきに並べた例である。この場合も端近傍の平坦部と凸部の表面積と投影面積の差がより減少するのでひずみを低減できる。
図12は、各凸部を長手方向に一直線に並べるのではなく、長手方向に隣り合う凸部の一方の位置を短手方向にずらして配置し、さらに長手方向に隣り合う凸部の端部同士が短手方向に隣り合うようにした例である。
【0025】
本発明におけるイオン交換膜は、イオン交換膜自体が曲がって凹凸を形成しているので、凸部の膜厚を凹部の膜厚より厚くする必要はなくイオン交換膜の膜厚をほぼ一定にできる。そのため、膜の平均の電気抵抗を上げることなく、また膜厚の差により、膨潤による寸法変化の差が生じるのを防ぐことができ、イオン交換膜の変形や破損を防ぐことができる。特に、膨潤の差による凸部の根元の亀裂や破損を防止できる。ここで膜厚がほぼ一定とは、イオン交換膜の膜厚について端近傍の平坦部と凸部の間、凸部と平坦な凹部の間及び端近傍の平坦と平坦な凹部の間の3通りの部位間のいずれか1以上の部位間で幾分かの厚み差を設けることを排除しない。むしろこれらの部位で膜厚差ができたほうが好ましい。ここで平坦な凹部とは、直線状又は曲線状の凸部の長手方向の膜の横断面をみた場合の凸部間の平坦な凹部となる上述の第1の凹部だけではなく、ある凸部が長手方向に所定の間隔で複数延設されている場合に長手方向の凸部間に設けられる場合がある平坦な凹部となる上述の第2の凹部も含む。単に膜厚がほぼ完全に均一のまま曲がるのではなく、例えば、イオン交換膜の平坦な部分、つまり膜の端近傍及び凹部平坦部分の膜厚よりも凸部上端における短手方向の両斜面及び長手方向の端部の傾斜する面の両方又は両斜面もしくは傾斜する面のいずれかの面の膜厚(以下「凸部の膜厚」という。)に薄い部分あるいは厚い部分があってもよい。イオン交換膜の凸部の立ち上がり開始部からその膜厚が凸部の上端おける両斜面の上方に向かって連続的に薄くなるか又は厚くなってもよい。凸部の膜厚が厚くなる場合には逆に凹部が幾分薄くなる場合があってもよい。
【0026】
上記の3通りのそれぞれの部位の間で、一方の部位の膜厚を100%とすると他方の部位の厚みの割合は30~95%が好ましく、50~95%がより好ましく、80~95%がさらに好ましい。薄いほうの膜厚の下限値は膜の力学的強度から決められる。イオン交換膜の膜厚が部位によって異なるようにするため、本発明におけるイオン交換膜は全面が平坦な膜と比べて投影面積がほぼ同一でも歪を小さくして表面積を増加させることができる特徴がある。後述のイオン交換膜の凹凸形成時にイオン交換膜の平坦な部分よりも凸部の上端における両斜面や長手方向の端部の傾斜する面の膜厚をその一部でも上述の比率で薄くするように膜厚の差を設けることが好ましい。膜全体でみると構造が安定すること、膜の平均的な電気抵抗が下がる方向になるからである。なお、凸部の膜厚の一部に端近傍又は凹部の平坦な部分の膜厚に比べて薄い部分の他に厚い部分があってもこの技術思想の範囲内である。なお、支持体が後述の可塑性をもち凹凸を形成させてから製膜する場合は支持体自体の上記3通りの部位の間に上述の比率で膜厚の差をもうけてもよく、その結果製膜後に3通りの部位の間のいずれか1通り以上において膜厚の差が生じても同様の特徴を有する。
【0027】
本発明のイオン交換膜セルでは、凹凸形状を有するイオン交換膜の凸部が、他方のイオン交換膜と対向するように配置されている。さらに、本発明のイオン交換膜セルでは、凹凸形状を有するイオン交換膜と、対向する他方のイオン交換膜との間にガスケットが配置され、ガスケットは、凹凸形状を有するイオン交換膜の凸部の高さより大きな厚みを有する枠体と、枠体に囲まれた開口部と、開口部に設けられ枠体の異なる辺をつなぐ補強部材を備え、凸部は、枠体の開口部に挿入され、凸部と対向する他方のイオン交換膜との間に補強部材が配置されている。
図13は、本発明のイオン交換膜セルの一実施形態を示す断面図である。
図13のイオン交換膜セルでは、対向するイオン交換膜の両方が凹凸形状を有するイオン交換膜であり、それぞれの凸部が互いに対向している。さらに、ガスケットの枠体の異なる辺、すなわち
図13では左右の辺が補強部材でつながれている。ガスケットの枠体は、CEMの端近傍の平坦部とAEMの端近傍の平坦部との間に挟まれるように配置され、陽イオン交換膜(CEM)の凸部と、陰イオン交換膜(AEM)の凸部は、ガスケットの開口部に挿入され、補強部材は、CEMの凸部とAEMの凸部との間に配置されている。CEMの凸部とAEMの凸部の両方が補強部材に接していてもよく、CEMの凸部とAEMの凸部のどちらか片方が補強部材に接していてもよく、CEMの凸部とAEMの凸部の両方が補強部材に接していなくてもよい。また、
図13のイオン交換膜セルは、CEMとAEMの両方を凹凸形状を有するイオン交換膜とした例であるが、CEMとAEMのどちらか片方を凹凸形状を有するイオン交換膜とし、他方を平坦な平板のイオン交換膜としてもよい。
図14は、
図13のイオン交換膜セルで使用したガスケットを上方から見た図である(ただし、配流部等の構造は省略している)。
図14のガスケットは、上から見ると長方形の形状であり、外周に沿って枠体が形成され、内部には枠体に囲まれた開口部を有している。開口部に設けられた補強部材は、直径の小さな糸状の部材であり、この補強部材により、枠体の異なる辺、すなわち
図14では上から見て左側の辺と右側の辺の間、及び上側の辺と下側の辺の間が補強部材でつながれている。
【0028】
本発明のイオン交換膜セルでは、陽イオン交換膜と陰イオン交換膜が対向して配置され、少なくとも一方のイオン交換膜が凹凸形状を有するイオン交換膜であり、凸部が他方のイオン交換膜に対向するように配置されるので、両イオン交換膜間の間隔を固定でき、両イオン交換膜間の流路を確保することができる。したがって、従来のように陽イオン交換膜と陰イオン交換膜との間の膜間距離を一定に保つためのスペーサを必ずしも必要としない。
図15は、従来のスペーサの構造を示す断面図であるが、ガスケットの厚みと同じ厚みの網が開口部に設けられ、この網によって、イオン交換膜セルの全面にわたって、陽イオン交換膜と陰イオン交換膜との間に一定の膜間距離(すなわち網の厚さの距離)が保たれるようになっている。本発明におけるガスケットの補強部材は、陽イオン交換膜と陰イオン交換膜との間の膜間距離を一定に保つためでなく、枠体の形状を保持するためのものであるので、従来技術のように補強部材の厚みを枠体の厚みと同じにする必要はなく、さらに従来技術のように密に設ける必要はないので、開口部の開口率を大きくできる。本発明において、「イオン交換膜の凸部の高さより大きな厚みを有する枠体」におけるイオン交換膜の凸部の高さとは、陽イオン交換膜及び陰イオン交換膜の一方のみが凹凸形状を有するイオン交換膜の場合は、一方の凸部の高さをいい、陽イオン交換膜及び陰イオン交換膜の両方が凹凸形状を有するイオン交換膜の場合は、両方の凸部の高さの合計をいう。また、各イオン交換膜の凸部の高さは、1枚のイオン交換膜において異なる高さの凸部が混在する場合は、最も高い凸部の高さをいう。本発明のイオン交換膜セルにおいて、凹凸形状を有するイオン交換膜と、その凸部が対向するイオン交換膜との間の距離である膜間距離は、イオン交換膜の一方のみが凹凸形状を有するイオン交換膜である場合は、例えば、15~3000μm、25~3000μm等を挙げることができ、イオン交換膜の両方が凹凸形状を有するイオン交換膜である場合は、例えば、30~3000μm、50~3000μm等を挙げることができる。したがって、本発明におけるガスケットの枠体の厚みも、例えば、15~3000μm、25~3000μm、30~3000μm、50~3000μm等を挙げることができる。本発明における凹凸形状を有するイオン交換膜の凸部の高さとしては、例えば、15~1000μm、又は25~300μmを挙げることができる。
【0029】
本発明における補強部材は、その材質、形状等、特に制限されないが、塩水等による膨潤などの物理変化、分解などの化学変化が長期間において生じない材料が好ましい。また、形状としては、例えば、断面の形状が円形、多角形等の糸状体などを挙げることができる。本発明における補強部材としては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン系の部材、ポリエステル、ポリスチレン、ナイロン、ポリフッ化ビニリデン(フルオロカーボン)、グラスファイバー等のガラス繊維、アラミド繊維、炭化ケイ素で構成される連続無機繊維の部材などを挙げることができる。これらの材料のうち、交差する糸状体の交点を溶融することで固定できるポリオレフィン系等の部材が好ましい。補強部材で枠体の異なる辺をつなぐ方法は、特に制限されず、例えば、補強部材の端部を枠体に埋め込む、接着する、結びつける等の方法を挙げることができる。また、開口部を上から見たときに、碁盤目状、各種形状の網目状等になるように補強部材を配置してもよく、補強部材同士が交差しないように配置してもよい。補強部材の厚み(断面の形状が円形の場合は直径)が小さい方が、また開口部における補強部材の密度が低く開口部の開口率が高い方が、流路部の電気抵抗や流路部の流水抵抗(圧力損失)が低くなるので好ましく、一方で、補強部材の厚みが大きい方が、また開口部における補強部材の密度が高く開口部の開口率が低い方が、ガスケットの枠体の形状を保持する強度が高まる。それらの点を考慮すると、補強部材の厚みは、10~200μmが好ましく、20~150μmがより好ましく、30~130μmがより好ましく、50~110μmが更に好ましい。補強部材と補強部材との間隔は、5~50mmが好ましく、10~40mmがより好ましく、20~35mmが更に好ましい。補強部材と補強部材との間隔が狭すぎると流路部の電気抵抗や流路部の流水抵抗が増大するおそれがあり、広すぎると強度が低下するおそれがある。また、開口部の開口率は80~99%が好ましく、85~98%がより好ましく、90~97%がより好ましく、92~96%が更に好ましい。ガスケットの枠体の厚みは、100~700μmが好ましく、150~500μmがより好ましく、200~400μmが更に好ましい。補強部材で形成される網(補強網)は、従来のスペーサの網を使う場合に比べ開口率は大きくとれるため、汚れの付着による目詰まりを低減できる。スケットの枠体の厚みが薄すぎると圧力損失が増大するおそれがあり、厚すぎると流路部の電気抵抗が増大するおそれがある。また、両イオン交換膜間の塩溶液の流れをスムーズとし、流路部の電気抵抗が低くする観点から枠体の厚みに対する補強部材の厚みの比率は、60%以下が好ましく、55%以下がより好ましく、50%以下がより好ましく、30%以下がより好ましく、20%以下が更に好ましい。枠体の厚みに対する補強部材の厚みの比率の下限値は5%程度が好ましい。開口部の開口率とは、開口部を上から見たときの開口部全体の面積に対する、補強部材が存在しない部分(開口)の面積の比率をいう。イオン交換膜セルの組立て時や使用時の圧力はガスケットの外側に向かってかかるので、補強部材の張力は、低いと枠体の形状保持性が低くなり、高すぎるとやはり枠体の形状保持性が低くなり、枠体との接合性も低下する。そのため、伸び性が低いPEやPPを糸状体として使用する場合は、枠体が所定の形になった状態で、糸がほぼ直線状になる張力が望ましい。補強部材として糸状体を碁盤目状に枠体につなげる場合は、縦糸と横糸の交差角度は枠体の形状保持性からは直角が望ましいが、液の流れる方向に対して互いに反対方向に20°から80°の角度を有しても良い。
【0030】
本発明におけるガスケットは、枠体及び補強部材以外に、塩溶液が通過する連通孔と、イオン交換膜間に塩溶液を流す通液部とを有していてもよい。本発明におけるガスケットは、例えば、補強部材を碁盤目状又は各種形状の網目状にした網を枠体に埋め込み、その後、連通孔や通液部を形成してもよい。また、枠体の材質としては、特に制限されないが、例えば、ポリスチレン系、ポリオレフィン系、ポリエステル系、フッ素ゴム系等の熱可塑性エストラマー、CRゴムなどを用いることができる。また、枠体により形成されるガスケットの外形は特に制限されず、使用するイオン交換膜の形状に合わせた形状とすることができ、開口部の形状も特に制限されず、使用するイオン交換膜の凸部が形成された部分が挿入できる形状であればよい。なお、
図16は、本発明におけるガスケットにおいて、通液部には従来の網(メッシュ)を使用し、開口部には本発明における補強部材を使用した例である。本発明のガスケットとしては、枠体、枠体に囲まれた開口部及び開口部に設けられ枠体の異なる辺をつなぐ補強部材を備えるガスケットであって、枠体の厚みに対する補強部材の厚みの比率は、60%以下が好ましく、55%以下がより好ましく、50%以下がより好ましく、30%以下がより好ましく、20%以下が更に好ましく、下限値は5%程度が好ましい。本発明のガスケットとしては、開口部の開口率は、80~99%が好ましく、85~98%がより好ましく、90~97%がより好ましく、92~96%が更に好ましい。また、本発明のガスケットは、電気透析又は逆電気透析用スタックのためのガスケットとして好適に用いることができる。
【0031】
本発明のイオン交換膜セルでは、凹凸形状を有するイオン交換膜を使用するので、膜の表面積が大きくなる。そのため、イオン透過に有効な膜の表面積を大きくすることができる。また、イオン交換膜が補強部材に接触する場合でも、凸部が接触するので、イオンが流れない接触部分の面積を狭くでき、イオン透過に有効な膜の表面積を大きくすることができる。さらに、本発明における好ましい形態のイオン交換膜は、イオン交換膜又は支持体を有する場合は支持体の曲がった角を凸部の上端とできるため、角が屈曲した場合、湾曲した場合、また上端に平面部を設ける場合にかかわらず、凸部の上端の幅を狭くしやすい。本発明における好ましい形態のイオン交換膜は、凸部の上端の幅を狭くでき上端の面積を小さくできるので、イオン交換膜の凸部が補強部材に接触する場合でも、イオンが流れない接触部分の面積を狭くでき、イオン透過に有効な膜の表面積を大きくすることができる。本発明のイオン交換膜セルでは、対向するイオン交換膜の両方が凹凸形状を有するイオン交換膜であり、両方のイオン交換膜の凸部の上端が補強部材に接触しているか、又は凸部の上端と補強部材との距離が非常に近い場合、両方のイオン交換膜の凸部が補強部材を介してお互いに支え合い、両イオン交換膜間の流路を確保することができる。また、片方のイオン交換膜のみが凹凸形状を有するイオン交換膜の場合であっても、本発明におけるイオン交換膜は、変形や破損が少ないため両イオン交換膜間の間隔を確保できる。本発明におけるイオン交換膜は、特に、凸部の根元の亀裂や、凸部の上端の幅が狭いと起こりやすい上端の破損を防止できる。
【0032】
本発明のイオン交換膜セルは、RED発電及びEDのセルとして好適である。特に、本発明における好ましい形態のイオン交換膜は、凸部と他の部分との膜厚の差が少ないため、膜における場所の違い(膜厚の違い)による膨潤の違いを防ぐことができる。したがって、本発明のイオン交換膜を使用したイオン交換膜セルは、広範囲な塩濃度、及び膜が接触している2つの溶液間の塩濃度差が大きな場合においても、イオン交換膜の膨潤による変形や破損が少ない。そのため、本発明のイオン交換膜セルは、塩濃度(イオン濃度)の低い溶液に使用できるだけでなく、例えば、電導度が0.05mS/cm以上、又は0.1mS/cm以上の溶液に用いることができる。本発明のイオン交換膜セルは、塩分の溶解が飽和状態に達しない範囲の溶液であれば使用できるので、使用できる溶液の電導度の最大は塩分の溶解が飽和状態における電導度未満である。また、本発明のイオン交換膜セルは、膜が接触している塩濃度が異なる2種類の溶液間において、例えば、低濃度側の溶液の電導度が0.05~50mS/cmであり、高濃度側の溶液の電導度が低濃度側の2倍以上、20倍以上、50倍以上又は600倍以上の場合でも使用できる。高濃度側の溶液の電導度の上限は塩分の溶解が飽和状態に達しない範囲であれば特に制限されないが、例えば、低濃度側の4000倍以下、1000倍以下又は700倍以下を挙げることができる。また、本発明のイオン交換膜セルは、例えば、TDS(Total Dissolved Solid:総溶解固形分)が10ppm(0.001%)以上、又は20ppm(0.002%)以上の溶液に用いることができ、膜が接触している塩濃度が異なる2種類の溶液間において、例えば、低濃度側の溶液のTDSが10ppm(0.001%)~35,000ppm(3.5%)であり、高濃度側の溶液のTDSが低濃度側の2倍以上、20倍以上、50倍以上又は100倍以上の場合でも使用できる。高濃度側の溶液の電導度としては、例えば、10~200mS/cmを挙げることができ、TDSとしては、例えば、7000ppm(0.7%)~200000ppm(20%)を挙げることができる。なお、河川水の電導度は0.1~0.25mS/cm程度の範囲にあり、海水の電導度は50mS/cm程度である。RED発電のセルとして使用する場合、例えば、低塩濃度側の溶液として、電導度が0.05~50mS/cmの溶液を挙げることができ、高塩濃度側の溶液として、電導度が10~200mS/cmの溶液を挙げることができる。
【0033】
本発明のイオン交換膜セルにおける陽イオン交換膜と陰イオン交換膜との間の距離(膜間距離)は、特に低濃度側溶液の流路の電気抵抗および圧力損失の観点から、イオン交換膜の一方のみが凹凸形状を有するイオン交換膜である場合は、例えば、15μm超3000μm以下、又は25μm超3000μm以下を挙げることができ、イオン交換膜の両方が凹凸形状を有するイオン交換膜である場合は、例えば、30μm超3000μm以下、又は50μm超3000μm以下を挙げることができる。凹凸形状を有するイオン交換膜の凸部の高さとしては、例えば、15~1000μm、又は25~300μmを挙げることができる。イオン交換膜の両方が凹凸形状を有するイオン交換膜である場合は、両イオン交換膜の凸部の高さは必ずしも同じでなくてよい。一方のイオン交換膜の凸部の高さを、他方のイオン交換膜の凸部の高さに比べて高くしてもよい。
【0034】
本願明細書では、直線状又は曲線状に伸びた凸部の上端を稜とも表現するが(稜は幅を有していてもよい)、両イオン交換膜の稜と稜が一致するように重ねてもよく、稜と稜が交差するように重ねてもよい。
図17及び18は、稜と稜を交差させた例である。本発明において、稜と稜が交差するとは、対向して配置される陽イオン交換膜の稜の延設方向と陰イオン交換膜の稜の延設方向が異なり、両イオン交換膜の上方から両イオン交換膜の稜を見たときに交差して見えることをいう。
図17及び18は、イオン交換膜の互いの位置関係を示すために、補強部材の記載を省略しているが、補強部材は各イオン交換膜の凸部と凸部との間に配置される。
図19及び20は、両イオン交換膜を重ねたときに稜と稜が交差するように、陽イオン交換膜の凸部の延設方向と陰イオン交換膜の凸部の延設方向とをずらして(延設方向の角度を変えて)凸部を形成した一実施形態の例である。
図19及び20は、一方のイオン交換膜(CEM)の傾きの方向と他方のイオン交換膜(AEM)の傾きの方向とが逆になるように凸部を形成している。こうすることにより、稜と稜とを交差させることができる。
図19及び20では、イオン交換膜の凹凸形状部に対応する部分が中抜きになった開口部となり、開口部に枠の異なる辺をつなぐ補強部材を設けたガスケットを挟んで両イオン交換膜が固定される。イオン交換膜の前記ガスケットの四方の枠に接する部分、すなわち本発明におけるイオン交換膜の端近傍は平坦となっている。セルに組立てた時に、溶液はガスケットに形成された配流部開口(図中の上端付近及び下端付近の円形の開口)から両イオン交換膜の間に供給される。
図19は配流部もイオン交換膜の凹凸構造で一定の間隔を保たせる場合であり、
図20は配流部を補強網を用いて膜間隔を一定に保たせた場合である。前者のほうが配流部の圧損が低くなるという利点があるが、製造上の複雑さから配流部は従来の網スペーサを用いてもよい。
【0035】
本発明のイオン交換膜セルでは、陽イオン交換膜と陰イオン交換膜、あるいは各イオン交換膜とガスケットの補強部材とが接触する面積が少なくなるので、イオンが透過する有効膜面積を大きくできる。また、両イオン交換膜間の塩溶液の流れはスムーズであり、汚れ物質の流れを邪魔する凸構造ではないため、汚れ物質の付着による流路の詰まりが少ない。さらに、液が凸部を乗り越えて隣のレーンともいえる平坦な凹部にも流れやすくなる。このような液の流れが、陽イオン交換膜と陰イオン交換膜の両方のイオン交換膜の間で生じるため、イオンのよどみが低減することで、RED発電の場合には発生電圧の低下の原因となる局所的な溶液の濃度増加、EDの場合には膜焼けや膜破壊の原因となる局所的な塩分濃度の低下を少なくすることができる。これらのことから流路の高さ(ここでは陽イオン交換膜と陰イオン交換膜の間隔)を狭めても汚れ物質の付着する可能性が低くなるので、この幅を狭めることができ、有効膜面積の増大との相乗効果で流路における電気抵抗の大幅な低減を適切に行うことが可能となる。また、特に凹凸形状を有する陽イオン交換膜と凹凸形状を有する陰イオン交換膜とを、凸部が対向するように配置した場合には従来のプロファイル膜と比較して流路断面積が大きくとれることより、圧損の増加が抑制できるため必要なポンプエネルギーを低減することもできる。この構造は高強度で大面積化が容易であり、低コストでのセルが製造可能となる。
【0036】
各イオン交換膜の稜が、溶液の流れる方向に対してなす角度は特に制限されない。ここで溶液が流れる方向は次とおりである。後述のイオン交換膜のスタック(セル)を構成した際に1対のイオン交換膜が平行にかつ凸部が対向して配置される膜間において、膜間をその各膜の端近傍をシールするガスケット(枠体)で挟んだ際にできる溶液の流路を、溶液が入口から出口に向って流れる。このとき、溶液は流路を挟んで互いに対向する平行なガスケットの二辺に沿って、入口側から出口側に向かって流れる。これらの辺に平行な方向が溶液の流れ方向となる。
図19のガスケットの図に矢印で模式的に溶液の流れ方向を示す。イオン交換膜の稜と溶液の流れる方向とのなす角度が大きくなると、溶液が流れる距離が長くなるため流路での送液抵抗が高くなる。イオン交換膜の稜と溶液の流れる方向とのなす角度は、0~45°(0°は溶液の流れ方向と平行)が好ましく、より好ましくは0~30°、0~15°、1~9°である。また、陽イオン交換膜と陰イオン交換膜の両方が凹凸形状を有するイオン交換膜である場合は、両イオン交換膜の稜がなす角度の好ましい範囲は、0~90°、より好ましくは0~45°、2~30°、2~18°、2~15°を挙げることができる。ここで、両イオン交換膜の稜がなす角度とは、異なる平面上で交差している稜と稜の交差角度のことである。また、互いに向かい合う両方のイオン交換膜の面が互いに平行であり、かつ向かい合うそれぞれの稜のなす角度を2等分する線分が溶液の流れ方向と一致するように各イオン交換膜を設けることが好ましい。このようにイオン交換膜の稜が互いに平行に向かい合う際に線対称になるように配置することによりイオン交換膜を製造する際に必要となる型を1種類にすることができる。
【0037】
RED発電に使用する場合、高濃度側流路は従来型の網スペーサを用いて、セルの強度を十分に保つ方が、コスト、強度面等から望ましい。またこの時、低濃度側を高濃度側より少しだけ圧力を高くすることで、CEMとAEMが高濃度側の網スペーサに支えられている状態が好ましい。なぜならば、逆にした場合、CEMとAEMの凸部が部分的に変形したり破損したりする可能性があるからである。ただし、部分的にここが変形しても、膜が破損しない限り大きな問題にはならない。従来の平膜同士の間にスペーサを設けるセル構造では通常圧力差をつけることは、液漏れなどのトラブルにつながるため積極的には行われていない。従来セルは汚染物質を除去するために、セルの解体洗浄を行っている。しかしこれは労力とコストがかかる上に、膜やスペーサ部材の破損につながるおそれがある。本技術では上記のように汚染物質が堆積しにくく、また堆積した場合においても逆洗などの物理的洗浄や酸、アルカリ、塩素注入などの化学洗浄で容易に汚染物質の除去が可能となるため無解体で洗浄することが可能となる。この場合はセルを解体する必要がないため陽イオン交換膜と陰イオン交換膜をガスケットを挟んでガスケットと接合する一体型セルとすることが可能となる。一体型セルにした場合は淡水など低塩濃度側流路からの液漏れがなくなるため、EDの場合は高い電流効率が得られ、またREDの場合は高いエネルギー変換率が得られる。その上にセルの部品点数が半分となるため、より低コストになるという利点がある。
【0038】
図21は本発明のイオン交換膜セルの一実施形態を示す図であり、一体型セルとした例である。ここでは、例えば図中上段左側の凹凸形状を有する陰イオン交換膜(PF-AEM)の前面の上に本発明のガスケットを載せて、次に右側の凹凸形状を有する陽イオン交換膜(PF-CEM)を図面上の向き(右側の図は裏面から見た図である)のままPF-AEMに対向させるように載せて作製した例である。「PF」はプロファイルの略称である。
図21の一体型半セル(セルの一部を半セルという。以下同じ。)では、中段の図(補強部材の記載は省略)が示すように陽イオン交換膜の凸部と陰イオン交換膜の凸部が1点又は2点以上で交差するように配置され、それぞれが両イオン交換膜の間にある本発明のガスケットと接合されている。下段の図は、PF-AEMとPF-CEMを本発明のガスケットに組み込む様子を断面で示しており、一方のイオン交換膜の上に本発明のガスケットを置き、その上に他方のイオン交換膜を置いて接合することにより一体型半セルを作製している。以上のべた各図面においては、大小関係を誇張して表現して描いている部分がある。
【0039】
本発明における凹凸形状を有するイオン交換膜の製造方法の一実施形態は、(i)荷電基を有する可塑性のポリマーの膜を凹凸が形成され凹部が平坦である型に押し付けて曲げることにより前記膜に凹凸を形成する工程、(ii)荷電基を有する可塑性のポリマーの膜を凹凸が形成され凹部が平坦である型に押し付けて曲げることにより前記膜に凹凸を形成し、その後前記ポリマーを架橋させる工程、及び(iii)荷電基を有さない可塑性のポリマーの膜を凹凸が形成され凹部が平坦である型に押し付けて曲げることにより前記膜に凹凸を形成し、その後荷電基を導入する工程のいずれか1つの工程を含む。前記製造方法において、イオン交換膜の端近傍及び凹部に相当する部分が平坦である凹凸型を使用することにより、凹凸形状を有するイオン交換膜であって、端近傍に平坦部を有し、前記イオン交換膜自体の曲がりによる凸曲部と凹曲部が、それぞれ前記イオン交換膜の凹凸形状における凸部と平坦な凹部となっているイオン交換膜を製造することができる。前記製造方法は、電導度が0.05mS/cm以上の溶液のイオン交換に用いるためのイオン交換膜の製造方法として好適である。
【0040】
本発明におけるイオン交換膜を製造する方法は特に制限されないが、前記製造方法は本発明のイオン交換膜の製造方法として好適である。前記製造方法における膜への凹凸形成方法は、膜を凹凸が形成された型に押し付けて曲げる方法であれば特に制限されないが、例えば、プレス法を挙げることができ、プレス時に熱を加える熱プレス法を挙げることができる。例えば、膜を下型と上型で挟み熱プレスすることにより前記膜を曲げて凹凸を形成することができる。その後、前記膜を型から取り出すことにより凹凸が形成された膜が得られる。前記工程においては、イオン交換層となる荷電基を有する可塑性のポリマーの膜を凹凸が形成された型に押し付けて曲げることにより、凸曲部と凹曲部が凸部と凹部となるイオン交換膜を製造できる。また、荷電基を有する可塑性のポリマーの膜に凹凸を形成した後に、必要に応じて架橋させてイオン交換膜を得てもよい。あるいは既に架橋されている荷電基を有する可塑性のポリマーに凹凸を形成してイオン交換膜を得てもよい。工程(iii)における、荷電基を有さない可塑性のポリマーの膜とは、そのままではイオン交換膜として実質的に使用できない膜のことであり荷電基を全く含まない膜のみを意味するものではない。工程(iii)では、このような荷電基を有さない可塑性のポリマーの膜に凹凸を形成し、その後荷電基を導入することによりイオン交換作用を付与してイオン交換膜とする。荷電基を導入する前又は荷電基を導入した後に、必要に応じて架橋を行ってもよい。架橋されたポリマーの層、つまり架橋された膜に凹凸を形成する工程は、次の3つの利点がある。第1に架橋された市販のイオン交換膜をそのまま使用できる。第2に従来の平膜のイオン交換膜の製造工程の後に凹凸形成工程を入れることで、既存の製造ラインの変更が少なくなり生産効率がよい。第3に架橋をしていないポリマー層に凹凸形成するときにポリマー層を水に浸す場合があり、その場合はポリマー層の膨潤状態によって型で形成される凹凸の寸法を設計値にあわせにくい場合があるが、架橋された膜は膨潤し難いため、設計寸法と実寸の差が小さくなる。この工程によって架橋され荷電基を有する可塑性のポリマーの平面状の膜に曲がりによる凸曲部と凹曲部によって凸部と凹部が形成されたイオン交換膜が得られる。
【0041】
可塑性とは、固体に外力を加えて変形させ、力を取り去ってももとにもどらない性質をいう。本発明における可塑性のポリマーとは、常温で可塑性を有するポリマー及び加熱により軟化して成形しやすくなり冷やすと再び硬くなる熱可塑性を有するポリマーを含む。すなわち、本発明における可塑性のポリマー(可塑性のポリマーが支持体の場合及び支持体を有する場合を含む)とは、外力を加えて変形させ、力を取り去ってももとにもどらない性質を有するものであり(支持体を有する場合は、支持体と共に前記特性を有するものであり)、常温で可塑性を有するポリマー及び加熱により軟化して成形しやすくなり冷やすと再び硬くなる熱可塑性を有するポリマーを含む。
【0042】
荷電基を有する可塑性のポリマーとして、化学的架橋を行える部位を有する高分子を使用すると、凹凸形状を形成後に、熱や光照射で架橋したり、あるいはポリビニルアルコールなどの水酸基を有する高分子の場合はグルタルアルデヒド(GA)、エチレングリコールジグリシジルエーテルなどの架橋剤を含む溶液に浸漬させて化学的架橋を行うことが可能である。無架橋の場合、低膜抵抗となり、凹凸形成後に架橋を行うと、無架橋に比べて膜抵抗は高くなる傾向にあるが、膜含水率が低くなり、イオン選択性が高くなり、機械的強度も向上する。前記工程における荷電基を有する可塑性のポリマーの膜の作製方法は特に制限されないが、例えば、荷電基を有する可塑性のポリマーをキャストしてフィルムを作製する、荷電基を有する可塑性のポリマーを基材上に塗布して乾燥させた後基材から剥離させてフィルムを作製する等の方法を挙げることができる。
【0043】
本発明におけるイオン交換膜の製造方法の一実施形態は、(a)荷電基を有する可塑性のポリマー層が両面又は片面に設けられた可塑性の支持体を凹凸が形成され凹部が平坦である型に押し付けて曲げることにより、前記支持体に凹凸を形成する工程、若しくは荷電基を有さない可塑性のポリマー層が両面又は片面に設けられた可塑性の支持体を凹凸が形成された型に押し付けて曲げることにより前記支持体に凹凸を形成し、その後荷電基を導入する工程、又は(b)可塑性の支持体を凹凸が形成され凹部が平坦である型に押し付けて曲げることにより、前記支持体に凹凸を形成し、前記凹凸の形成後に前記支持体の両面又は片面に荷電基を有するポリマー層を設ける工程、可塑性の支持体の片面又は両面に荷電基を有さない可塑性のポリマー層を設け荷電基を導入した後、凹凸を形成する工程、若しくは可塑性の支持体の片面又は両面に荷電基を有さない可塑性のポリマー層を設け凹凸を形成した後、荷電基を導入する工程を含む。前記製造方法において、イオン交換膜の端近傍及び凹部に相当する部分が平坦である凹凸型を使用することにより、凹凸形状を有するイオン交換膜であって、支持体及び前記支持体の両面又は片面に設けられたイオン交換層から少なくとも構成され、前記支持体の曲がりによる凸曲部と凹曲部に、前記イオン交換膜の凸部と平坦な凹部がそれぞれ形成されたイオン交換膜を製造することができる。
【0044】
前記製造方法は、電導度が0.05mS/cm以上の溶液のイオン交換に用いるためのイオン交換膜の製造方法として好適である。本発明における支持体を有するイオン交換膜を製造する方法は特に制限されないが、前記製造方法は本発明の支持体を有するイオン交換膜の製造方法として好適である。上記(a)又は(b)工程における支持体への凹凸形成方法は、支持体を凹凸が形成された型に押し付けて曲げる方法であれば特に制限されないが、例えば、プレス法を挙げることができ、プレス時に熱を加える熱プレス法を挙げることができる。例えば、(a)又は(b)工程における支持体を下型と上型で挟み熱プレスすることにより前記支持体を曲げて凹凸を形成できる。その後、前記支持体を型から取り出すことにより凹凸が形成された支持体が得られる。可塑性とは、固体に外力を加えて変形させ、力を取り去ってももとにもどらない性質をいうが、本発明における可塑性の支持体及び可塑性のポリマーとは、常温で可塑性を有する支持体及びポリマー並びに加熱により軟化して成形しやすくなり冷やすと再び硬くなる熱可塑性を有する支持体及びポリマーを含む。以下に(a)及び(b)の各工程を更に説明する。
【0045】
[(a)工程を含む場合]
予め両面又は片面に荷電基を有する可塑性のポリマー層が設けられた可塑性の支持体を、凹凸が形成され凹部が平坦である型に押し付けて曲げることにより、前記支持体に凹凸を形成する。又は荷電基を有さない可塑性のポリマー層が両面又は片面に設けられた可塑性の支持体を凹凸が形成され凹部が平坦である型に押し付けて曲げることにより前記支持体に凹凸を形成し、その後荷電基を導入する。この方法によれば、イオン交換層となる前記ポリマー層と支持体とを一体として曲げることにより、支持体の凸曲部と凹曲部に凸部と凹部が形成されたイオン交換膜を製造できる。また、支持体に凹凸を形成した後又は荷電基を導入した後に、必要に応じてポリマー層を架橋させて、本発明のイオン交換膜を得てもよい。なお、ポリマー層を架橋してから凹凸形成する工程の利点は上述した3つの利点と同様であり、この工程によって荷電基を有し架橋された可塑性のポリマー層が両面又は片面に設けられた平面状の支持体に曲がりによる凸曲部と凹曲部によって凸部と凹部が形成されたイオン交換膜が得られる。このような凹凸形状を有するイオン交換膜の製造方法として、荷電基を有する可塑性のポリマー層を可塑性の支持体の両面又は片面に設けるとともに前記ポリマー層を架橋した後、前記支持体を凹凸が形成され凹部が平坦である型に押し付けて曲げることにより、前記支持体に凹凸を形成するイオン交換膜の製造方法を挙げることができる。
[(b)工程を含む場合]
用意した可塑性の支持体を凹凸が形成され凹部が平坦である型に押し付けて曲げることにより、前記支持体に凹凸を形成し、前記凹凸の形成後に前記支持体の両面又は片面に荷電基を有するポリマー層を設ける。又は、可塑性の支持体の片面又は両面に荷電基を有さない可塑性のポリマー層を設け荷電基を導入する、若しくは凹凸を形成する工程、若しくは可塑性の支持体の片面又は両面に荷電基を有さない可塑性のポリマー層を設け凹凸を形成した後、荷電基を導入する。この方法によれば、凹凸が形成された支持体に、支持体の形状に合わせて前記ポリマー層を設けることにより、支持体の凸曲部と凹曲部に凸部と凹部が形成されたイオン交換膜を製造できる。(b)工程では、支持体に凹凸を形成した後に、荷電基を有するポリマー層を形成し、このポリマー層を必要に応じて架橋させて、本発明におけるイオン交換膜を得てもよい。
【0046】
支持体を有するイオン交換膜において支持体の両面にイオン交換層を設ける場合は、膜強度のより高いイオン交換膜を得ることができる。支持体の片面にイオン交換層を設ける場合は、イオン交換層を薄くすることができ(例えば5~50μm)、低膜抵抗のイオン交換膜を得ることができる。支持体としては、イオン交換層を透過したイオンの通過を妨げないものであれば特に制限されず、例えば、熱可塑性多孔性フィルム、網、織布、不織布等を挙げることができる。なお、支持体の両面にイオン交換層を設ける場合とは、例えば、支持体にポリマーを含侵させる場合のように、支持体中にイオン交換層が形成される場合や支持体がイオン交換層に埋め込まれた状態になっている場合も含む。
【0047】
(a)工程における荷電基を有するポリマー層が設けられた支持体の作製方法は特に制限されないが、例えば、熱可塑性支持体に荷電基を有するポリマーを含浸させる又は塗布することにより作製できる。前記作製方法としては、例えば、ポリマーをキャスト板(例えば、PET等)に流してポリマー層とし、半分乾いた状態で支持体を上に乗せ、完全に乾燥した後にキャスト板から剥がす転写法等を挙げることができる。また、荷電基を有するモノマーを支持体に塗布又は含侵させて重合させる方法、荷電基を有さないポリマーを支持体に塗布又は含侵させた後に荷電基を導入する方法等を挙げることができる。荷電基を導入する前又は後、あるいは凹凸形成後に架橋させてもよい。また、荷電基を有さないポリマー層が設けられた支持体の作製方法は特に制限されないが、例えば、熱可塑性支持体に荷電基を有さないポリマーを含浸させる又は塗布することにより作製できる。
【0048】
(b)工程における凹凸が形成された支持体に荷電基を有するポリマー層を設ける方法は特に制限されないが、例えば、凹凸が形成された支持体に荷電基を有するポリマーを含浸させる、荷電基を有するポリマーを塗布する等を挙げることができる。また、荷電基の導入可能な可塑性のポリマー層が設けられた支持体に、凹凸を形成させた後に荷電基を導入する方法、凹凸が形成された支持体に荷電基を有さないポリマーを塗布又は含侵させた後に荷電基を導入する方法、凹凸形成前の支持体に荷電基を有さないポリマーを塗布又は含侵させておき、凹凸形成後に前記ポリマーに荷電基を導入する方法等を挙げることができる。また、可塑性の支持体の片面又は両面に荷電基を有さない可塑性のポリマー層を設ける方法は特に制限されないが、例えば、熱可塑性支持体に荷電基を有さないポリマーを含浸させる又は塗布する方法を挙げることができる。荷電基を導入する前又は後に架橋させてもよい。(a)工程及び(b)工程における荷電基を有さないポリマーとは、そのままではイオン交換膜として実質的に使用できないポリマーのことであり、荷電基を全く含まないポリマーのみを意味するものではない。本発明の製造方法の(a)及び(b)工程のいくつかの例を表1に示す。表1における荷電層とは荷電基を有するポリマー層のことであり、無荷電ポリマー層とは荷電基を有さないポリマー層のことである。ただし、(a)及び(b)の具体的工程はこれに限られるものではない。
【0049】
【0050】
本発明における凹凸形状を有するイオン交換膜の製造方法の一実施形態は、(A)荷電基を有さない可塑性のポリマーの膜を凹凸が形成され凹部が平坦である型に押し付けて曲げることにより前記膜に凹凸を形成し、その後荷電基を導入する工程、(B)可塑性の支持体の両面又は片面に荷電基を有さないポリマー層を設け、前記ポリマー層に荷電基を導入することにより荷電基を有する可塑性のポリマー層が両面又は片面に設けられた可塑性の支持体を形成し、前記支持体を凹凸が形成され凹部が平坦である型に押し付けて曲げることにより、前記支持体に凹凸を形成する工程、及び(C)可塑性の支持体を凹凸が形成され凹部が平坦である型に押し付けて曲げることにより、前記支持体に凹凸を形成し、前記凹凸の形成後に前記支持体の両面又は片面に荷電基を有さないポリマー層を設け、前記ポリマー層に荷電基を導入することにより前記支持体の両面又は片面に荷電基を有するポリマー層を設ける工程のいずれか1つの工程を含む。前記(A)工程は上記(iii)工程に該当し、前記(B)工程は上記(a)工程で荷電基を導入する場合に該当し、前記(C)工程は上記(b)工程で荷電基を導入する場合に該当する。前記製造方法により、凹凸形状を有するイオン交換膜であって、端近傍に平坦部を有し、前記イオン交換膜自体の曲がりによる凸曲部と凹曲部が、それぞれ前記イオン交換膜の凹凸形状における凸部と凹部となっているイオン交換膜、及び前記イオン交換膜の中でも支持体及び前記支持体の両面又は片面に設けられたイオン交換層から少なくとも構成され、前記支持体の曲がりによる凸曲部と凹曲部に、前記イオン交換膜の凸部と凹部がそれぞれ形成されたイオン交換膜(以下、これらを合わせて「凹凸形状を有するイオン交換膜」ともいう。)を製造することができる。前記製造方法は、凹凸形状を有するイオン交換膜の製造方法として好適である。
【0051】
以上のようにイオン交換膜の凹凸をイオン交換膜に形成できるのみならず、イオン交換膜の製造途中のいわゆる前駆体にも形成させることができる。ここで前駆体とは、(I)可塑性の支持体、(II)荷電基を有さない可塑性ポリマーの膜であって架橋前後の膜、(III)荷電基を有する可塑性ポリマーの膜で架橋前の膜、並びに(IV)上記(II)及び(III)の膜であって可塑性の支持体が含まれる膜を指し、前駆体膜とは、上記(II)~(IV)の膜を指す。荷電基を有する可塑性のポリマーとしては、イオン交換層を形成できるものであれば特に制限されないが、陰イオン交換能を有するポリマーとしては、分子鎖中にカチオン基(正荷電基)を含有する重合体であるカチオン性重合体を挙げることができ、前記カチオン基は、主鎖、側鎖及び末端のいずれに含まれていてもよい。
【0052】
前記カチオン基としては、アンモニウム基、イミニウム基、スルホニウム基、ホスホニウム基等が例示される。また、アミノ基やイミノ基のように、水中においてその一部が、アンモニウム基やイミニウム基に変換し得る官能基を含有する重合体も、本発明におけるカチオン性重合体に含まれる。この中で、工業的に入手し易い観点から、アンモニウム基が好ましい。アンモニウム基としては、1級アンモニウム基(アンモニウム基)、2級アンモニウム基(アルキルアンモニウム基等)、3級アンモニウム基(ジアルキルアンモニウム基等)、4級アンモニウム基(トリアルキルアンモニウム基等)のいずれを用いることもできるが、4級アンモニウム基(トリアルキルアンモニウム基等)がより好ましい。カチオン性重合体は、1種類のみのカチオン基を含有していてもよいし、複数種のカチオン基を含有していてもよい。また、カチオン基の対アニオンは特に限定されず、ハロゲン化物イオン、水酸化物イオン、リン酸イオン、カルボン酸イオンなどが例示される。この中で、入手の容易性の点から、ハロゲン化物イオンが好ましく、塩化物イオンがより好ましい。カチオン性重合体は、1種類のみの対アニオンを含有していてもよいし、複数種の対アニオンを含有していてもよい。本発明で用いられるカチオン性重合体は、カチオン基を含有する構造単位のみからなる重合体であってもよいし、カチオン基を含有する構造単位とカチオン基を含有しない構造単位の両方からなる重合体であってもよい。また、これらの重合体は架橋性を有するものであることが好ましい。カチオン性重合体は、1種類のみの重合体からなるものであってもよいし、複数種の重合体を含むものであってもよい。また、これらカチオン基を含有する重合体とカチオン基を含有しない重合体との混合物であっても構わない。
【0053】
陽イオン交換能を有するポリマーとしては、分子鎖中にアニオン基(負荷電基)を含有する重合体であるアニオン性重合体を挙げることができ、前記アニオン基は、主鎖、側鎖及び末端のいずれに含まれていてもよい。前記アニオン基としては、スルホネート基、カルボキシレート基、ホスホネート基等が例示される。また、スルホン酸基、カルボキシル基、ホスホン酸基のように、水中においてその一部が、スルホネート基、カルボキシレート基、ホスホネート基に変換し得る官能基を含有する重合体も、本発明におけるアニオン性重合体に含まれる。この中で、イオン解離定数が大きい点から、スルホネート基が好ましい。アニオン性重合体は、1種類のみのアニオン基を含有していてもよいし、複数種のアニオン基を含有していてもよい。また、アニオン基の対アニオンは特に限定されず、水素イオン、アルカリ金属イオン、などが例示される。この中で、設備の腐蝕問題が少ない点から、アルカリ金属イオンが好ましい。アニオン性重合体は、1種類のみの対カチオンを含有していてもよいし、複数種の対カチオンを含有していてもよい。本発明で用いられるアニオン性重合体は、アニオン基を含有する構造単位のみからなる重合体であってもよいし、アニオン基を含有する構造単位とアニオン基を含有しない構造単位の両方からなる重合体であってもよい。また、これらの重合体は架橋性を有するものであることが好ましい。アニオン性重合体は、1種類のみの重合体からなるものであってもよいし、複数種の重合体を含むものであってもよい。また、これらアニオン基を含有する重合体とアニオン基を含有しない重合体との混合物であっても構わない。
【0054】
荷電基を有さないポリマーとしては、後から荷電基を導入できるものであれば特に制限されない。例えば、陽イオン交換基を導入可能な官能基を有するポリマーとしては、スルホン酸基が導入されやすい芳香族環を有する単量体としてスチレン、ビニルトルエン等を重合して得られるポリマー、カルボン酸基又はニトリル基を有する単量体としてアクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、アクリロニトリル等を重合して得られるポリマーが使用できる。これらの重合性単量体は、架橋性単量体又は膨潤溶媒と混合して重合性混合物として用いてもよい。本発明において使用することができる架橋性単量体としては、以下に列記する単量体が挙げられる。例えば、架橋構造を導入できる単量体、すなわちビニル基を少なくとも2個有するもの、具体例としては、例えばジビニルベンゼン(DVB)、トリビニルベンゼン、ジビニルトルエン、ジビニルナフタレン、エチレングリコールジメタクリレート等である。また、陰イオン交換基を導入可能な官能基を有するポリマーとしては、その単量体としてクロロメチルスチレンを用いるのが一般的であるが、スチレン、ビニルトルエン、ビニルキシレン、α-メチルスチレン、アセナフチレン、ビニルナフタレン、α-ハロゲン化スチレン等、α,β,β’-トリハロゲン化スチレン、クロロスチレン、ビニルピリジン、メチルビニルピリジン、エチルビニルピリジン、ビニルピロリドン、ビニルカルバゾール、ビニルイミダゾール、アミノスチレン、アルキルアミノスチレン、トリアルキルアミノスチレン、アクリル酸アミド、アクリルアミド、オキシウム等の単量体を重合して得られるポリマーが使用できる。さらに荷電基を有さないポリマーとしてポリビニルアルコールも使用することができる。なお、支持体を有さない本発明のイオン交換膜に用いるイオン交換膜(荷電シート)及び荷電基を導入可能な可塑性のポリマーの膜(無荷電シート)、並びに支持体を有する本発明のイオン交換膜に用いる支持体が設けられたイオン交換膜(荷電シート)及び支持体が設けられた荷電基を導入可能な可塑性のポリマーの膜(無荷電シート)については、製膜する際に用いられるモノマーの種類によってはあらかじめ架橋させることが必要な場合がある。この架橋が既に施された膜についても再度架橋を施してもよい。
【0055】
以下に本発明のイオン交換膜セルに使用する凹凸形状を有するイオン交換膜の好ましい作製例を示すが、本発明のイオン交換膜セルに使用する凹凸形状を有するイオン交換膜はかかる作製例に限定されるものではない。
【0056】
[作製例1]
作製例1に使用する陰イオン交換膜(AEM)及び陽イオン交換膜(CEM)として、ポリオレフィンフィルム基材のAEM開発膜(AEM-1、株式会社アストム)、ポリオレフィンフィルム基材のCEM開発膜(CEM-1、株式会社アストム)を用いた。AEM-1は、ポリオレフィン系の支持体にクロロメチルスチレンのモノマーとジビニルベンゼンのモノマーで架橋された前駆膜を作製し、4級化して陰イオン交換膜にしたものである。CEM-1は、ポリオレフィン系の支持体にスチレンモノマーとジビニルベンゼンのモノマーで架橋された前駆膜を作製し、スルホン化して陽イオン交換膜にしたものである。
【0057】
(膜の凹凸形状の形成)
CEM-1及びAEM-1を
図22に示すアルミ製型の上に試料膜を載せて、所定温度に設定した電気こてで熱プレスすることで膜上に凹凸構造を形成した。AEM-1は200℃で30秒、CEM-1は100℃で10秒の熱プレスを行った。熱プレスしたAEM-1とCEM-1をトムソン打ち抜き型で打ち抜くことでそれぞれ
図23に示す寸法の作製例1の凹凸構造陰イオン交換膜(PF-A)、凹凸構造陽イオン交換膜(PF-C)を得た。
【0058】
図24に作製例1のPF-A、PF-Cの全体写真の1例を示す。
図25に1例としてPF-Aの一部の表面写真を示す。写真手前が凸部で、奥側が平坦部になっているまた凸部の裏側が凹になっていることを示すために、気泡を入れた状態で写真を撮影しており、この写真から明らかに凸部の裏側は凹になっていることがわかる。この写真から凸部(A部)、平坦部(B部)、凸部高さ、膜厚を測定して
図26に示す。また、使用したCEM-1は、膜荷電密度が0.86mol/dm
3、膜抵抗が0.18Ωcm
2、輸率が0.94、含水率が0.37、イオン交換容量が2.42meq/g、膜厚が36μmであり、使用したAEM-1は、膜荷電密度が0.98mol/dm
3、膜抵抗が1.25Ωcm
2、輸率が0.98、含水率が0.29、イオン交換容量が1.03meq/g、膜厚が36μmであった。
【0059】
[作製例2]
(使用したイオン交換膜)
作製例2に使用する陰イオン交換膜(AEM)及び陽イオン交換膜(CEM)として、それぞれ平膜のAT-2(株式会社アストム)及びCT-2(株式会社アストム)を用いた。AT-2、CT-2それぞれの作製方法は作製例1で使用したAEM-1、CEM-1の作製方法と一部を除き同様である。また、使用したCT-2は、膜荷電密度が0.43mol/dm3、膜抵抗が0.21Ωcm2、輸率が0.94、膜厚が34μmであり、使用したAT-2は、膜荷電密度が0.7mol/dm3、膜抵抗が0.28Ωcm2、輸率が0.99、膜厚が34μmであった。
【0060】
(膜の凹凸形状の形成)
平膜のAT-2膜とCT-2膜を、それぞれ金型の上に置き、これを高周波融着装置内で処理することによりAT-2膜とCT-2膜に凹凸を形成した。高周波融着とはプラスチック素材、フィルム、シートなどの電気的絶縁体に電波の一種である高周波誘電加熱することで、分子レベルでの衝突、振動、摩擦が物質の内部で発生し自己発熱が生じてフィルムが融合、融着することであるが、この装置内に平膜のAT-2膜とCT-2膜を載せた金型を置き平膜のAT-2膜とCT-2膜を金型に押し付けて凹凸を形成した。金型の模式図と寸法を
図27及び
図28に示す。
【0061】
高周波誘電加熱処理による熱プレス後、どちらの膜も、油圧式抜型裁断機によるトムソン加工を行い、外枠、流路穴および位置決め用の竹串を指すための穴を打ち抜いた。こうして作製例2のイオン交換膜を作製した。
図27に示す金型を使用して凹凸を形成したCT-2膜とAT-2膜を
図29及び
図30にそれぞれ示し、
図28に示す金型を使用して凹凸を形成したCT-2膜とAT-2膜を
図31及び
図32にそれぞれ示す。
図27に示す金型を使用して得られた凹凸形状(
図29及び
図30)は、凸部がイオン交換膜の一方の端近傍から他方の端近傍までつながって延設されている形状であり、第1の凹部のみを有する。
図28に示す金型を使用して得られた凹凸形状(
図31及び
図32)は、凸部がイオン交換膜の一方の端近傍から他方の端近傍まで長手方向に複数並んで延設されている形状であり、第1の凹部と第2の凹部を有する。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明のイオン交換膜セルは、イオン透過に有効な膜の表面積を広くでき、膜間の流路の電気抵抗および付着物の付着を適切に減少させ、さらには膜自体の機械的強度を高めることができる。また、対向する陽イオン交換膜と陰イオン交換膜の間の溶液の流路における電気抵抗及び付着物の付着を適切に減少させることができる。そのため、イオン交換膜を利用する各種分野で好適に使用でき、特に電気透析(ED)、逆電気透析(RED)発電、RED発電と水電気分解を組み合わせた水素製造等に好適に使用できる。REDは、海水、鹹水(天然鹹水、人工鹹水)、Na塩含有工場排水、海水淡水化施設からの高濃度排出水、温泉水等の電導度が10~200mS/cmの高濃度の塩含有水と、淡水、河川水、下水処理水、工業用水、温泉水等の電導度が0.05~50mS/cmの低濃度の塩含有水とを使用するため、使用する塩含有水の濃度差が大きいが、本発明のイオン交換膜セルであれば好適に使用できる。EDは、海水、鹹水、下水処理水の脱塩や濃縮、下水、工業や産業廃棄物処理施設の排水の処理、食品や医薬品原料の脱塩などに適用できる。
【符号の説明】
【0063】
IEM イオン交換膜
IE イオン交換層
IEM1、IEM1’ 凸部(凸曲部)
IEM2、IEM2’ 凹部(凹曲部)
S 支持体
A、B、C、D 曲部