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  • 特開-自動二輪車用タイヤ 図1
  • 特開-自動二輪車用タイヤ 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024070144
(43)【公開日】2024-05-22
(54)【発明の名称】自動二輪車用タイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 11/00 20060101AFI20240515BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20240515BHJP
【FI】
B60C11/00 D
B60C11/00 B
B60C11/00 F
B60C1/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022180574
(22)【出願日】2022-11-10
(71)【出願人】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100156225
【弁理士】
【氏名又は名称】浦 重剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168549
【弁理士】
【氏名又は名称】苗村 潤
(74)【代理人】
【識別番号】100200403
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 幸信
(74)【代理人】
【識別番号】100206586
【弁理士】
【氏名又は名称】市田 哲
(72)【発明者】
【氏名】芝本 昇平
【テーマコード(参考)】
3D131
【Fターム(参考)】
3D131BA02
3D131BA03
3D131BA05
3D131BA18
3D131BA20
3D131BB06
3D131BB09
3D131BC12
3D131BC13
3D131BC15
3D131BC33
3D131EA02U
3D131EA03U
3D131EA10U
(57)【要約】
【課題】 グリップ性能をさらに向上することができる。
【解決手段】 自動二輪車用タイヤ1でる。トレッドゴム2は、トレッド踏面2aを形成する第1ゴムG1からなる第1ゴム層11と、第1ゴム層11のタイヤ半径方向の内側に隣接し、かつ、第2ゴムG2からなる第2ゴム層12とを含んでいる。第1ゴムG1の100℃での損失正接tanδaは、第2ゴムG2の100℃での損失正接tanδbよりも小さい。第1ゴムG1のガラス転移点は、第2ゴムG2のガラス転移点よりも小さい。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動二輪車用タイヤであって、
一対のトレッド端の間のトレッド部を含み、
前記トレッド部は、トレッド踏面を形成するトレッドゴムを含み、
前記トレッドゴムは、前記トレッド踏面を形成する第1ゴムからなる第1ゴム層と、前記第1ゴム層のタイヤ半径方向の内側に隣接し、かつ、第2ゴムからなる第2ゴム層とを含み、
前記第1ゴムの100℃での損失正接tanδaは、前記第2ゴムの100℃での損失正接tanδbよりも小さく、
前記第1ゴムのガラス転移点は、前記第2ゴムのガラス転移点よりも小さい、
自動二輪車用タイヤ。
【請求項2】
前記第1ゴムの300%モジュラスM300aは、前記第2ゴムの300%モジュラスM300bよりも大きい、請求項1に記載の自動二輪車用タイヤ。
【請求項3】
前記第1ゴムの複素弾性率E*aは、前記第2ゴムの複素弾性率E*bよりも大きい、請求項2に記載の自動二輪車用タイヤ。
【請求項4】
前記第2ゴム層の厚さは、前記第1ゴム層の厚さ以上である、請求項3に記載の自動二輪車用タイヤ。
【請求項5】
前記トレッドゴムは、前記第2ゴム層のタイヤ半径方向の内側に第3ゴムからなる第3ゴム層を含み、
前記第3ゴム層は、前記トレッドゴムの最もタイヤ半径方向内側に位置し、
前記第3ゴムのオイル量は、前記第2ゴムのオイル量よりも小さい、請求項1に記載の自動二輪車用タイヤ。
【請求項6】
前記トレッドゴムにおいて、最大のゴム厚さを有するゴム層の厚さは、3~8mmである、請求項1に記載の自動二輪車用タイヤ。
【請求項7】
前記最大のゴム厚さを有する前記ゴム層は、前記第2ゴム層である、請求項6に記載の自動二輪車用タイヤ。
【請求項8】
前記トレッドゴムにおいて、最小のゴム厚さとなるゴム層の厚さは、0.3~1mmである、請求項1に記載の自動二輪車用タイヤ。
【請求項9】
前記最小のゴム厚さを有する前記ゴム層は、前記第1ゴム層である、請求項8に記載の自動二輪車用タイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、自動二輪車用タイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、センター領域と、このセンター領域の軸方向外側に位置するショルダー領域とを備えた自動二輪車用タイヤが記載れている。前記ショルダー領域は、下部層と上部層と中間層とを備えており、上記三層は、ゴムから構成されている。これらゴムの損失正接は、上部層<中間層であり、且つ、下部層<中間層とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014-162367号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、自動二輪車の高性能化に伴い、自動二輪車用タイヤ、とりわけ、レース用の自動二輪車用タイヤにおいてグリップ性能と摩耗外観性能とを両立することが望まれている。この摩耗外観性能は、タイヤに生じるアブレ―ジョン(ささくれ状の摩耗)が小さいほど、良いとされる。過度のアブレ―ジョンの発生は、グリップ性能を低下させる。
【0005】
本開示は、以上のような実状に鑑み案出されたもので、グリップ性能と摩耗外観性能とを両立することができる自動二輪車用タイヤを提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、自動二輪車用タイヤであって、一対のトレッド端の間のトレッド部を含み、前記トレッド部は、トレッド踏面を形成するトレッドゴムを含み、前記トレッドゴムは、前記トレッド踏面を形成する第1ゴムからなる第1ゴム層と、前記第1ゴム層のタイヤ半径方向の内側に隣接し、かつ、第2ゴムからなる第2ゴム層とを含み、前記第1ゴムの100℃での損失正接tanδaは、前記第2ゴムの100℃での損失正接tanδbよりも小さく、前記第1ゴムのガラス転移点は、前記第2ゴムのガラス転移点よりも小さい、自動二輪車用タイヤである。
【発明の効果】
【0007】
本開示の自動二輪車用タイヤは、上記の構成を採用することで、グリップ性能と摩耗外観性能とを両立することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本開示の自動二輪車用タイヤの一実施形態を示すタイヤ子午線断面図である。
図2】他の実施形態の自動二輪車用タイヤのタイヤ子午線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の実施の一形態が図面に基づき詳細に説明される。
図1は、本実施形態の自動二輪車用タイヤ(以下、単に「タイヤ」ということがある。)1の正規状態でのタイヤ回転軸(図示省略)を含むタイヤ子午線断面図である。本開示のタイヤ1は、例えば、サーキットでのレースを目的としたものに好適に用いられる。このようなタイヤ1は、一般のタイヤに比べて、走行可能距離が小さく設計されている。但し、本開示のタイヤ1は、このようなレース用のものに限定されるものではない。
【0010】
前記「正規状態」は、タイヤ1が正規リム(図示省略)にリム組みされ、かつ、正規内圧となるように調整され、しかも無負荷の状態である。本明細書では、特に断りがない限り、タイヤ1の各部の寸法は、正規状態で測定された値である。
【0011】
また、「正規リム」は、タイヤ1が基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めているリムであり、例えばJATMAであれば "標準リム" 、TRAであれば "Design Rim" 、ETRTOであれば"Measuring Rim" である。
【0012】
また、「正規内圧」は、タイヤ1が基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、JATMAであれば "最高空気圧" 、TRAであれば表 "TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "INFLATION PRESSURE" である。
【0013】
図1に示されるように、本実施形態のタイヤ1は、一対のトレッド端Te、Teの間のトレッド部2を含んでいる。トレッド部2の外表面であるトレッド踏面2aは、例えば、一対のトレッド端Te間を、タイヤ半径方向外側に凸となる円弧状に湾曲して延びている。このようなタイヤ1は、大きなキャンバー角で旋回することができる。
【0014】
ここで、トレッド端Teは、キャンバー角が最大となるときに接地するタイヤ軸方向の外端である。両トレッド端Te、Te間をトレッド踏面2aに沿って測定された長さが、トレッド展開幅TWeである。また、両トレッド端Te、Te間のタイヤ軸方向の中心がタイヤ赤道Cである。
【0015】
トレッド部2は、トレッド踏面2aを形成するトレッドゴムGを含んでいる。トレッドゴムGは、トレッド踏面2aを形成する第1ゴムG1からなる第1ゴム層11と、第1ゴム層11のタイヤ半径方向の内側に隣接し、かつ、第2ゴムG2からなる第2ゴム層12とを含んでいる。
【0016】
第1ゴムG1の100℃での損失正接tanδaは、第2ゴムG2の100℃での損失正接tanδbよりも小さく形成されている。このような第2ゴムG2は、ヒステリシスロスが大きく、基本的なグリップ性能を発揮する。また、第1ゴムG1は、発熱量が小さいので、摩耗を小さくすることができる。損失正接tanδaが損失正接tanδbよりも過度に小さい場合、路面と接地する第1ゴムG1のグリップが極度に悪化するおそれがある。このため、損失正接tanδaと損失正接tanδbとの差(tanδb-tanδa)は、0.02以上が望ましく、0.04以上がさらに望ましく、0.1以下が望ましく、0.08以下がさらに望ましい。また、損失正接tanδaは、0.15以上が望ましく、0.20以上がさらに望ましく、0.35以下が望ましく、0.30以下がさらに望ましい。
【0017】
本明細書では、損失正接tanδ及び後述する複素弾性率E*は、JISK6394「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム-動的性質の求め方-一般指針」の規定に準拠して、粘弾性スペクトロメーターを用い、以下に示される条件下で測定された値である。
初期歪:10%
振幅:±2%
周波数:10Hz
変形モード:引張
温度:100℃
粘弾性スペクトロメーター:GABO社製「イプレクサー(登録商標)」
【0018】
第1ゴムG1のガラス転移点Tgaは、第2ゴムG2のガラス転移点Tgbよりも小さい。これにより、走行初期のようなタイヤ温度が相対的に小さい状態において、路面と直接接触する第1ゴム層11は柔らかい状態に保たれ、ひいては高いグリップ性能を発揮する。したがって、本開示の自動二輪車用タイヤは、さらに優れたグリップ性能を発揮する。ガラス転移点Tgaがガラス転移点Tgbよりも過度に小さい場合、第1ゴムG1での摩耗(アブレ―ジョン等)の発生が早くなり、摩耗外観性能が悪化するおそれがある。このため、ガラス転移点Tgaとガラス転移点Tgbとの差(Tgb-Tga)は、3℃以上が望ましく、7℃以上がさらに望ましく、30℃以下が望ましく、20℃以下がさらに望ましい。第1ゴムG1のガラス転移点Tgaは、-10℃以上が望ましく、5℃以上がさらに望ましく、30℃以下が望ましく、20℃以下がさらに望ましい。このように、本実施形態のタイヤ1は、グリップ性能と摩耗外観性能とを両立することができる。
【0019】
本明細書では、ガラス転移点は、JIS-K7121に従い、ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン(株)製の示差走査熱量計(Q200)を用いて、昇温速度10℃/分で昇温しながら測定した値である。
【0020】
本実施形態のトレッド部2は、カーカス6と、カーカス6のタイヤ半径方向の外側に隣接するベルト層7とが埋設されている。ベルト層7は、トレッドゴムGのタイヤ半径方向の内側に隣接している。カーカス6及びベルト層7は、本実施形態では、周知の構造を有している。
【0021】
トレッドゴムGは、第2ゴム層12のタイヤ半径方向の内側に第3ゴムG3からなる第3ゴム層13をさらに含んでいる。第3ゴム層13は、本実施形態では、トレッドゴムGの最もタイヤ半径方向内側に位置している。第3ゴム層13は、例えば、ベルト層7とタイヤ半径方向で隣接している。トレッドゴムGは、例えば、第3ゴム層13のタイヤ半径方向の内側に第4ゴム層(図示省略)を有していても良い。
【0022】
第1ゴムG1の300%モジュラスM300aは、第2ゴムG2の300%モジュラスM300bよりも大きいのが望ましい。第1ゴム層11は、トレッド踏面2aを形成している。このため、第1ゴムG1は、トレッド踏面2aに生じるアブレ―ジョンを抑えて、接地面積を大きく維持するので、グリップ性能をさらに高める。300%モジュラスM300aが300%モジュラスM300bよりも過度に大きい場合、グリップ性能が悪化するおそれがある。このため、300%モジュラスM300aと300%モジュラスM300bとの差(M300a-M300b)は、1.0MPa以上が望ましく、1.5MPa以上がさらに望ましく、6.0MPa以下が望ましく、5.5MPa以下がさらに望ましい。300%モジュラスM300aは、3.0MPa以上が望ましく、4.0MPa以上がさらに望ましく、7.0MPa以下が望ましく、6.0MPa以下がさらに望ましい。本明細書では、300%モジュラスは、300%伸張時のモジュラスであって、JISK6251「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム-引張特性の求め方」に準拠して、30℃の条件下で測定された値である。なお、100℃での損失正接tanδが相対的に大きなゴムは、300%モジュラスM300が相対的に小さく、100℃での損失正接tanδが相対的に小さなゴムは、300%モジュラスM300が相対的に大きくなる傾向にある。
【0023】
第1ゴムG1の複素弾性率E*aは、第2ゴムG2の複素弾性率E*bよりも大きいのが望ましい。このような第1ゴムG1は、走行時のトレッド踏面2aのヨレを抑えてグリップ性能やハンドリング性能を高める。複素弾性率E*aが複素弾性率E*bよりも過度に大きいと、第2ゴムG2が変形しやすくなり、かえって、グリップ性能が悪化するおそれがある。このため、複素弾性率E*aと複素弾性率E*bとの差(E*a-E*b)は、0.1MPa以上が望ましく、0.2MPa以上がさらに望ましく、1.0MPa以下が望ましく、0.8MPa以下がさらに望ましい。また、第1ゴムG1の複素弾性率E*aは、1.0MPa以上が望ましく、1.5MPa以上がさらに望ましく、3.0MPa以下が望ましく、2.5MPa以下がさらに望ましい。
【0024】
第2ゴムG2からなる第2ゴム層12は、例えば、走行初期から走行終期までのグリップ性能を高める効果が求められる。他方、第1ゴムG1からなる第1ゴム層11は、例えば、アブレ―ジョンを抑えて摩耗外観性能を向上しつつ、走行初期のようなタイヤ温度が相対的に小さい状態でのグリップ性能を高める効果が求められる。このため、第2ゴム層12の厚さd2は、第1ゴム層11の厚さd1以上であるのが望ましい。
【0025】
本実施形態では、第1ゴム層11の厚さd1と第2ゴム層12の厚さd2とが同じとされている。このようなタイヤ1は、アブレ―ジョンを比較的長期に亘って抑制することができるので、例えば、予選よりも走行距離の大きな決勝でのレース用のタイヤ1に好適である。前記「同じ」とは、第1ゴム層11の厚さd1と第2ゴム層12の厚さd2との差(d1-d2)が、0mmであるのは勿論、1.0mm以下のものを含む。また、この実施形態では、第1ゴム層11の厚さd1、及び、第2ゴム層12の厚さd2は、2.0mm以上が望ましく、2.5mm以上がさらに望ましく、5.0mm以下が望ましく、4.5mm以下がさらに望ましい。
【0026】
第3ゴムG3のオイル量AEcは、第2ゴムG2のオイル量AEbよりも小さいのが望ましい。これにより、第3ゴムG3のオイルがベルト層7へ移行することが抑えられるとともに、第2ゴムG2のオイルは、第3ゴムG3によってせき止められるので、ベルト層7のベルトコード(図示省略)の損傷が抑制される。このため、グリップ性能が高く維持される。特に、限定されるものではないが、第3ゴムG3のオイル量AEcは、第2ゴムG2のオイル量AEbの0.15倍以上が望ましく、0.2倍以上がさらに望ましく、0.45倍以下が望ましく、0.40倍以下がさらに望ましい。本明細書では、オイル量(%)は、ゴム組成物の質量に対するこのゴム組成物に含有されるオイルの質量の割合の100分率である。
【0027】
第3ゴムG3の100℃での損失正接tanδcは、0.05以上が望ましく、0.07以上がさらに望ましく、0.20以下が望ましく、0.25以下がさらに望ましい。また、第3ゴムG3のガラス転移点Tgcは、-20℃以上が望ましく、-15℃以上がさらに望ましく、5℃以下が望ましく、0℃以下がさらに望ましい。さらに、第3ゴムG3の300%モジュラスM300cは、2.0MPa以上が望ましく、2.5MPa以上がさらに望ましく、4.0MPa以下が望ましく、3.5MPa以下がさらに望ましい。また、第3ゴムG3の複素弾性率E*cは、1.0MPa以上が望ましく、1.5MPa以上がさらに望ましく、3.0MPa以下が望ましく、2.5MPa以下がさらに望ましい。第3ゴム層13の厚さd3は、例えば、0.3mm以上が望ましく、0.5mm以上がさらに望ましく、1.0mm以下が望ましく、0.8mm以下がさらに望ましい。このような第1ゴムG1、第2ゴムG2及び第3ゴムG3は、周知のゴム材料を用いることで製造することができる。
【0028】
第1ゴム層11、第2ゴム層12及び第3ゴム層13は、例えば、それぞれ、タイヤ赤道Cを中心としてタイヤ軸方向の両側に延びている。第1ゴム層11、第2ゴム層12及び第3ゴム層13は、本実施形態では、それぞれ、トレッド踏面2aに沿った展開長さLa(図2に示す)が、トレッド展開幅TWeの80%以上の長さを有している。これにより、上述の作用が直進走行及び旋回走行のいずれにおいても発揮される。各展開長さLaは、トレッド展開幅TWeの90%以上が望ましく、95%以上がさらに望ましい。第1ゴム層11は、本実施形態では、両トレッド端Teに亘って配されている。第3ゴム層13は、例えば、ベルト層7よりもタイヤ軸方向の両外側に外端13eを有している。
【0029】
図2は、他の実施形態のタイヤ1のタイヤ子午線断面である。本実施形態の構成と同じ構成には同じ符号が付されて、その説明が省略される場合がある。図2に示されるように、この実施形態では、トレッドゴムGにおいて、最大のゴム厚さを有するゴム層10Aと、最小のゴム厚さを有するゴム層10Bとが設けられている。
【0030】
最大のゴム厚さを有するゴム層10Aは、本実施形態では、第2ゴム層12である。これにより、第2ゴムG2によるグリップ性能の向上効果がより高く発揮される。ゴム層10Aの厚さdmが過度に大きいと、スムーズな旋回がしづらくハンドリング性能が悪化するおそれがある。また、このようなタイヤ1は、質量が大きくなり、とりわけ、レース用に不向きとなる。このため、ゴム層10Aの厚さdmは、3mm以上が望ましく、4mm以上がさらに望ましく、8mm以下が望ましく、7mm以下がさらに望ましい。
【0031】
最小のゴム厚さを有するゴム層10Bは、本実施形態では、第1ゴム層11である。このような第1ゴム層11は、アブレ―ジョンの抑制効果が小さくなるので、相対的に走行距離の小さいレースの予選用のタイヤ1に好適である。特に、限定されるものではないが、レースの予選での走行距離を鑑みると、ゴム層10Bの厚さdnは、0.3mm以上が望ましく、0.5mm以上がさらに望ましく、1mm以下が望ましく、0.8mm以下がさらに望ましい。なお、最小のゴム厚さを有するゴム層10Bは、例えば、第1ゴム層11と第3ゴム層13とであってもよい。
【0032】
以上、本開示の特に好ましい実施形態について詳述したが、本開示は、上述の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施され得る。
【実施例0033】
図1の基本構造を有する自動二輪車用タイヤが、表1の仕様に基づき試作された。このテストタイヤが自動二輪車の前後輪に装着されて、テストライダーが乾燥アスファルトのサーキットコースにて走行させた。そして、テストライダーが、グリップ性能、及び、摩耗外観性能について、官能により評価した。摩耗外観性能は、走行後のトレッド踏面に生じたアブレ―ジョンの発生状況を目視によって評価した。結果は、10点を満点とする10点法で示され、数値が大きいほど優れている。なお、主な共通事項は、以下のとおりである。
【0034】
<共通事項>
前輪タイヤサイズ : 120/70R17
前輪空気圧 : 240kPa
後輪タイヤサイズ : 200/60R17
後輪空気圧 : 160kPa
自動二輪車の排気量 : 1000cc
結果が表1に示される。
【0035】
【表1】
【0036】
テストの結果、実施例のタイヤは、比較例のタイヤに比して、優れたグリップ性能及び摩耗外観性能を発揮できることが確認された。なお、図2の基本構造を有するタイヤにおいても、同様に、グリップ性能についてテストがされたが、このタイヤでは、グリップ性能が高く、レースの決勝よりもさらに走行距離の小さい予選での走行に適していることが確認された。また、ハンドリング性能についてもテストが行われたが、実施例のタイヤは、比較例のタイヤよりも優れていた。
【0037】
[付記]
本開示は以下の態様を含む。
【0038】
[本開示1]
自動二輪車用タイヤであって、
一対のトレッド端の間のトレッド部を含み、
前記トレッド部は、トレッド踏面を形成するトレッドゴムを含み、
前記トレッドゴムは、前記トレッド踏面を形成する第1ゴムからなる第1ゴム層と、前記第1ゴム層のタイヤ半径方向の内側に隣接し、かつ、第2ゴムからなる第2ゴム層とを含み、
前記第1ゴムの100℃での損失正接tanδaは、前記第2ゴムの100℃での損失正接tanδbよりも小さく、
前記第1ゴムのガラス転移点は、前記第2ゴムのガラス転移点よりも小さい、
自動二輪車用タイヤ。
[本開示2]
前記第1ゴムの300%モジュラスM300aは、前記第2ゴムの300%モジュラスM300bよりも大きい、本開示1に記載の自動二輪車用タイヤ。
[本開示3]
前記第1ゴムの複素弾性率E*aは、前記第2ゴムの複素弾性率E*bよりも大きい、本開示2に記載の自動二輪車用タイヤ。
[本開示4]
前記第2ゴム層の厚さは、前記第1ゴム層の厚さ以上である、本開示3に記載の自動二輪車用タイヤ。
[本開示5]
前記トレッドゴムは、前記第2ゴム層のタイヤ半径方向の内側に第3ゴムからなる第3ゴム層を含み、
前記第3ゴム層は、前記トレッドゴムの最もタイヤ半径方向内側に位置し、
前記第3ゴムのオイル量は、前記第2ゴムのオイル量よりも小さい、本開示1ないし4のいずれかに記載の自動二輪車用タイヤ。
[本開示6]
前記トレッドゴムにおいて、最大のゴム厚さを有するゴム層の厚さは、3~8mmである、本開示1ないし5のいずれかに記載の自動二輪車用タイヤ。
[本開示7]
前記最大のゴム厚さを有する前記ゴム層は、前記第2ゴム層である、本開示6に記載の自動二輪車用タイヤ。
[本開示8]
前記トレッドゴムにおいて、最小のゴム厚さとなるゴム層の厚さは、0.3~1mmである、本開示1ないし7のいずれかに記載の自動二輪車用タイヤ。
[本開示9]
前記最小のゴム厚さを有する前記ゴム層は、前記第1ゴム層である、本開示8に記載の自動二輪車用タイヤ。
【符号の説明】
【0039】
1 自動二輪車用タイヤ
2a トレッド踏面
11 第1ゴム層
12 第2ゴム層
G1 第1ゴム
G2 第2ゴム
図1
図2