(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024070166
(43)【公開日】2024-05-22
(54)【発明の名称】電磁式燃料噴射弁
(51)【国際特許分類】
F02M 51/06 20060101AFI20240515BHJP
F16K 31/06 20060101ALI20240515BHJP
【FI】
F02M51/06 A
F02M51/06 J
F16K31/06 305L
F16K31/06 385F
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022180612
(22)【出願日】2022-11-10
(71)【出願人】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】町田 啓介
(72)【発明者】
【氏名】吉田 賢人
【テーマコード(参考)】
3G066
3H106
【Fターム(参考)】
3G066BA51
3G066CE22
3H106DA07
3H106DA23
3H106DB02
3H106DB12
3H106DB22
3H106DB32
3H106DC02
3H106DC17
3H106DD07
3H106EE04
3H106EE20
3H106GB06
3H106GC02
3H106KK18
(57)【要約】
【課題】コイルの通電時,弁ばね及び補助ばねを備える電磁式燃料噴射弁において,コイルの通電時,弁体の過度のオーバシュートを抑止して,安定した燃料噴射特性を確保する。
【解決手段】弁体40の閉弁時,リテーナ50と弁体40のロッド43との対向面間には規制間隙Sが設けられ,この規制間隙Sは,コイル32の通電時,弁体40が規定の開弁ストロークvを超えてオーバシュートするとき,リテーナ50がロッド43を受け止めてオーバシュートを一定距離αに抑止すべくゼロになるように設定される。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
前端部に弁座(27)を有する弁ハウジング(9),該弁ハウジング(9)の後端に連設される中空の固定コア(14),及び該固定コア(14)の後端に連設される中空の燃料入口筒(16)よりなる燃料噴射弁本体(Ia)と,前記固定コア(14)の外周に配設されるコイル(32)と,前記弁座(27)と協働する弁部(42)にロッド(43)が連設されてなる弁体(40)と,前記固定コア(14)の前端面に対向しながら前記弁ハウジング(9)の内周及び前記ロッド(43)の外周に摺動可能に嵌装される可動コア(41)と,前記ロッド(43)に固定されて前記可動コア(41)の後端面に対向し,前記コイル(32)の通電時,前記固定コア(14)に吸引される前記可動コア(41)により押動されて前記弁体(40)を開弁作動させる開弁側ストッパ(48)と,前記可動コア(41)の前端面に対向して配設される閉弁側ストッパ(49)と,前記燃料入口筒(16)の内周面に固定されるリテーナ(50)と,該リテーナ(50)及び前記弁体(40)間に縮設されて該弁体(40)を閉弁方向に付勢する弁ばね(54)と,前記コイル(32)の非通電時,前記可動コア(41)を前記開弁側ストッパ(48)から離反させて前記閉弁側ストッパ(49)に当接させるように付勢する補助ばね(55)とを備える電磁式燃料噴射弁において,
前記弁体(40)の閉弁時,前記リテーナ(50)及び前記ロッド(43)の対向面間には規制間隙(S)が設けられ,該規制間隙(S)は,前記コイル(32)の通電時,前記弁体(40)が規定の開弁ストローク(v)を超えてオーバシュートするとき,前記リテーナ(50)が前記ロッド(43)を受け止めて前記オーバシュートを一定距離(α)に抑止すべくゼロになるように設定されることを特徴とする,電磁式燃料噴射弁。
【請求項2】
前記燃料入口筒(16)の内周面に固定されるリテーナ本体(51)と,このリテーナ本体(51)の前端に当接配置されるフランジ(52a)及び,該フランジ(52a)の前端面に突設される中空の円筒軸(52b)を有するばね受け(52)とで前記リテーナ(50)が構成され,前記円筒軸(52b)及び前記ロッド(43)の対向面間に前記規制間隙(S)が設定され,前記弁ばね(54)が,前記円筒軸(52b)を囲繞しながら前記フランジ(52a)及び前記弁体(40)間に縮設されることを特徴とする,請求項1に記載の電磁式燃料噴射弁。
【請求項3】
前記ロッド(43)の後端面が,該ロッド(43)と同心状の凸曲面(43a)に形成され,該凸曲面(43a)と前記円筒軸(52b)の内周縁との間に前記規制間隙(S)が設定されることを特徴とする,請求項2に記載の電磁式燃料噴射弁。
【請求項4】
前記円筒軸(52b)の側壁に,その内外を連通する通孔(53)が設けられることを特徴とする,請求項2に記載の電磁式燃料噴射弁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,主として内燃機関の燃料供給系に使用される電磁式燃料噴射弁に関し,特に,前端部に弁座を有する弁ハウジング,該弁ハウジングの後端に連設される中空の固定コア,及び該固定コアの後端に連設される中空の燃料入口筒よりなる燃料噴射弁本体と,前記固定コアの外周に配設されるコイルと,前記弁座と協働する弁部にロッドが連設されてなる弁体と,前記固定コアの前端面に対向しながら前記弁ハウジングの内周及び前記ロッドの外周に摺動可能に嵌装される可動コアと,前記ロッドに固定されて前記可動コアの後端面に対向し,前記コイルの通電時,前記固定コアに吸引される前記可動コアにより押動されて前記弁体を開弁作動させる開弁側ストッパと,前記可動コアの前端面に対向して配設される閉弁側ストッパと,前記燃料入口筒の内周面に固定されるリテーナと,該リテーナ及び前記弁体間に縮設されて該弁体を閉弁方向に付勢する弁ばねと,前記コイルの非通電時,前記可動コアを前記開弁側ストッパから離反させて前記閉弁側ストッパに当接させるように付勢する補助ばねとを備える電磁式燃料噴射弁の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
かかる電磁式燃料噴射弁は,下記特許文献1に開示されるように既に知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
かかる電磁式燃料噴射弁では,可動コアを閉弁側ストッパ側に付勢する補助ばねのセット荷重が,弁体を閉弁方向に付勢する弁ばねのセット荷重よりも小さく設定されるので,コイルの通電時,固定コアの,可動コアに対する吸引力の上昇過程で,可動コアは素早く補助ばねのセット荷重に抗して固定コアに近接し,それに伴い急増する固定コアの吸引力により可動コアは,直ちに弁ばねのセット荷重に抗して開弁側ストッパを突き上げながら固定コアに吸着されることで,弁体を素早く開弁させる。これにより弁体の開弁応答性を高めると共に,コイルの消費電力を軽減し得る利点がある。
【0005】
しかしながら,従来のかかる電磁式燃料噴射弁では,コイルの通電時,急増する固定コアの吸引力により可動コアが,開弁側ストッパを突き上げながら固定コアに吸着されるので,開弁側ストッパ及び,それと一体化している弁体は,その慣性により,
図4に示すように,規定の開弁ストロークvを大きく超えて作動する現象,即ちオーバシュートc~eを生じ,その後,反動によるオーバシュートもあるので,オーバシュート収束時間t1はかなり長いものとなり,燃料噴射特性に狂いを生じさせる虞れがある。
【0006】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので,コイルの通電時,開弁側ストッパ及び弁体の過度のオーバシュートを抑制して,安定した燃料噴射特性を確保し得る前記電磁式燃料噴射弁を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために,本発明は,前端部に弁座を有する弁ハウジング,該弁ハウジングの後端に連設される中空の固定コア,及び該固定コアの後端に連設される中空の燃料入口筒よりなる燃料噴射弁本体と,前記固定コアの外周に配設されるコイルと,前記弁座と協働する弁部にロッドが連設されてなる弁体と,前記固定コアの前端面に対向しながら前記弁ハウジングの内周及び前記ロッドの外周に摺動可能に嵌装される可動コアと,前記ロッドに固定されて前記可動コアの後端面に対向し,前記コイルの通電時,前記固定コアに吸引される前記可動コアにより押動されて前記弁体を開弁作動させる開弁側ストッパと,前記可動コアの前端面に対向して配設される閉弁側ストッパと,前記燃料入口筒の内周面に固定されるリテーナと,該リテーナ及び前記弁体間に縮設されて該弁体を閉弁方向に付勢する弁ばねと,前記コイルの非通電時,前記可動コアを前記開弁側ストッパから離反させて前記閉弁側ストッパに当接させるように付勢する補助ばねとを備える電磁式燃料噴射弁において,前記弁体の閉弁時,前記リテーナ及び前記ロッドの対向面間には規制間隙が設けられ,該規制間隙は,前記コイルの通電時,前記弁体が規定の開弁ストロークを超えてオーバシュートするとき,前記リテーナが前記ロッドを受け止めて前記オーバシュートを一定距離に抑止すべくゼロになるように設定されることを第1の特徴とする。
【0008】
また,本発明は,第1の特徴に加えて,前記燃料入口筒の内周面に固定されるリテーナ本体と,このリテーナ本体の前端に当接配置されるフランジ及び,該フランジの前端面に突設される中空の円筒軸を有するばね受けとで前記リテーナが構成され,前記円筒軸及び前記ロッドの対向面間に前記規制間隙が設定され,前記弁ばねが,前記円筒軸を囲繞しながら前記フランジ及び前記弁体間に縮設されることを第2の特徴とする。
【0009】
さらに,本発明は,第2の特徴に加えて,前記ロッドの後端面が,該ロッドと同心状の凸曲面に形成され,該凸曲面と前記円筒軸の内周縁との間に前記規制間隙が設定されることを第3の特徴とする。尚,前記凸曲面は,後述する本発明の実施形態中の凸状球面43aに対応する。
【0010】
さらにまた,本発明は,第2の特徴に加えて,前記円筒軸の側壁に,その内外を連通する通孔が設けられることを第4の特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の第1の特徴によれば,コイルの通電時,急増する固定コアの吸引力により可動コアが,開弁側ストッパを突き上げながら固定コアに吸着される過程で,弁体のロッドが,リテーナとの間に設定される規制間隙を詰めていき,可動コアが固定コアに吸着された後,弁体のオーバシュートが一定距離に達すると,ロッドがリテーナに当接することにより,弁体の一定距離を超える過度のオーバシュートを抑止する。その結果,反動によるオーバシュートも極小に抑えて,オーバシュートの収束時間を大幅に短縮させ,燃料噴射特性の安定化を図ることができる。
【0012】
本発明の第2の特徴によれば,燃料入口筒の内周面に固定されるリテーナ本体と,リテーナ本体の前端に当接配置されるフランジ及び,フランジの前端面に突設される中空の円筒軸を有するばね受けとでリテーナが構成され,円筒軸及びロッド間に前記規制間隙が設定されるので,リテーナ本体は,その燃料入口筒の内面への固定位置を調節することにより前記規制間隙の設定を容易に行うことができ,またばね受けでは,弁ばねが,円筒軸を囲繞しながらフランジ及び弁体間に縮設されるので,弁ばねの伸縮姿勢の安定化を図り,弁ばねの弁体に対する閉弁荷重を適正に保つことができる。
【0013】
本発明の第3の特徴によれば,ロッドの後端面が,ロッドと同心状の凸曲面に形成され,この凸曲面と円筒軸の内周縁との間に規制間隙が設定されるので,弁体のオーバシュートを抑止すべく,ロッドの凸曲面が円筒軸の内周縁に当接したとき,その当接部に調心作用が働き,弁体の傾きを防ぐことができる。
【0014】
本発明の第4の特徴によれば,弁体の開弁時,リテーナ本体内から円筒軸内に流入した燃料の一部が透孔を通して円筒軸の外周側へと分流することになり,円筒軸による噴射弁本体内の流路抵抗の増加を抑え,適正な燃料噴射量を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施形態に係る内燃機関用電磁式燃料噴射弁の縦断面図。
【
図2】上記燃料噴射弁の閉弁状態を示す,
図1の2矢視部拡大断面図。
【
図3】上記燃料噴射弁の開弁状態を示す,
図2との対応図。
【
図4】可動コア及び弁体の挙動特性線図で,本発明と従来技術との比較を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施形態について添付の
図1~
図3を参照しながら説明する。
【0017】
先ず
図1及び
図2において,内燃機関Eのシリンダヘッド5には,燃焼室6に開口する装着孔7が設けられており,燃焼室6に向かって燃料を噴射し得る本発明の電磁式燃料噴射弁Iが上記装着孔7に装着される。本発明の電磁式燃料噴射弁Iでは,燃料噴射側を前方,その反対側を後方とする。
【0018】
この電磁式燃料噴射弁Iの弁ハウジング9は,中空円筒状のハウジングボディ10と,このハウジングボディ10の前端部内周に嵌合して溶接される弁座部材11と,ハウジングボディ10の後端部外周に前端部を嵌合させてハウジングボディ10に溶接される磁性円筒体12と,この磁性円筒体12の後端部に前端部が同軸に結合される非磁性円筒体13とで構成される。非磁性円筒体13の後端部には,中空部15aを有する円筒状の固定コア14の前端部が同軸に結合され,この固定コア14の後端部には,前記中空部15aよりもやや小径の中空部15bを有する燃料入口筒16が一体に且つ同軸に連設される。而して,上記弁ハウジング9,固定コア14及び燃料入口筒16により燃料噴射弁本体Iaが構成される。
【0019】
磁性円筒体12は,その軸方向中間部にフランジ状のヨーク部12aを一体に有しており,装着孔7の外端を囲繞するようにしてシリンダヘッド5に設けられる環状凹溝17に収容されるクッション材18が,シリンダヘッド5及びヨーク部12a間に介装される。
【0020】
燃料入口筒16の入口には,オリフィス部材24と,その下流側に位置する燃料フィルタ19とが装着される。この燃料入口筒16には,図示しない燃料ポンプの吐出口に連なる燃料分配管20から分岐した燃料供給キャップ21が環状のシール部材22を介して嵌合される。燃料供給キャップ21の頂部にはブラケット23が係止され,このブラケット23は,シリンダヘッド5に立設される不図示の支柱に適当な固定手段(例えばボルト)を以てシリンダヘッド5に着脱可能に締結される。
【0021】
燃料供給キャップ21と,燃料入口筒16の中間部に設けられて燃料供給キャップ21側に臨む環状段部25との間には,板ばねからなる弾性部材26が介装される。この弾性部材26が発揮する弾発力で電磁式燃料噴射弁Iがシリンダヘッド5に保持される。
【0022】
弁座部材11は,端壁部11aを前端部に有して有底円筒状に形成されており,前記端壁部11aには,円錐状の弁座27が形成されると共に,その弁座27の中心近傍に開口する複数の燃料噴孔28が設けられる。この弁座部材11は,燃料噴孔28を燃焼室6に向けて開口するようにしてハウジングボディ10の前端部に嵌合,溶接される。即ち弁ハウジング9が,その前端部に弁座27を有するように構成される。
【0023】
磁性円筒体12の後端部から固定コア14に至る外周面にはコイル組立体30が嵌装される。このコイル組立体30は,上記外周面に嵌合するボビン31と,このボビン31に巻装されるコイル32とからなり,このコイル組立体30を囲繞する磁性体のコイルハウジング33の前端部が磁性円筒体12と結合される。
【0024】
固定コア14の後端部外周は,コイルハウジング33の後端部に連なってモールド成形される合成樹脂製の被覆層34で被覆されており,この被覆層34には,コイル32に連なる端子35を保持するカプラ34aが電磁式燃料噴射弁Iの一側方に突出するようにして一体に形成される。
【0025】
固定コア14の前端小径部に,固定コア14に外周面を連ならせるようにして非磁性円筒体13の後端部が嵌合され,液密に溶接される。
【0026】
弁座部材11から非磁性円筒体13に至る弁ハウジング9内には,弁体40の一部と可動コア41とが収容される。弁体40は,弁座27と協働して燃料噴孔28を開閉する弁部42に,固定コア14内まで延びるロッド43が連設されてなる。そして,弁部42は,弁座部材11内で摺動するように,球状に形成され,ロッド43は弁部42よりも小径に形成される。弁座部材11及びロッド43間には環状の燃料通路44が画成され,弁部42の外周面には,弁座部材11との間に燃料通路を画成する複数の平面部45が形成される。したがって弁座部材11は,弁体40の開閉動作を案内しながら燃料の通過を許容する。
【0027】
前記可動コア41は,その後端面(被吸引面)41aを固定コア14の前端面(吸引面)14aに対向させながら,弁ハウジング9の内周面とロッド43の外周面とに摺動及び回転可能に嵌装される。したがって,可動コア41の外周面及び弁ハウジング9の内周面間には摺動間隙56aが,また可動コア41の内周面及びロッド43の外周面間には摺動間隙56bがそれぞれ設けられる。また,可動コア41は,磁性円筒体12及び非磁性円筒体13に跨がって配置される。
【0028】
この可動コア41のロッド43上での摺動ストロークを一定に規制するために,可動コア41を挟むように並ぶ開弁側ストッパ48及び閉弁側ストッパ49がロッド43に溶接により固着される。その際,開弁側ストッパ48は,可動コア41の,固定コア14に対向する後端面41aに当接可能に対向し,閉弁側ストッパ49は,可動コア41の前端面に当接可能に対向するように配置される。
【0029】
而して,弁体40の閉弁状態では(
図2参照),可動コア41は,閉弁側ストッパ49に当接していて,開弁側ストッパ48との間に前記摺動ストロークに対応する間隙gを挟んで対向し,この間隙g即ち摺動ストロークgは,閉弁側ストッパ49に当接状態の可動コア41と固定コア14との間に設けられる間隙m,即ち可動コア41の可動ストロークmよりも小さく設定される。したがって,コイル32の通電に伴い固定コア14が可動コア41を吸引したときは,可動コア41は,先ず開弁側ストッパ48に当接し,次いで固定コア14に吸着されるタイミングとなる。
【0030】
開弁側ストッパ48は,固定コア14の内周面に摺動自在に嵌合するフランジ部48aと,このフランジ部48aから可動コア41側に突出する円筒状の軸部48bとで構成される。そして,フランジ部48aが溶接によりロッド43に固着され,弁体40の閉弁位置では軸部48bの一部が吸引面14aよりも可動コア41側に突出するように配置される。
【0031】
再び
図1及び
図2において,燃料入口筒16の中空部15bにはリテーナ50が配置される。このリテーナ50は,リテーナ本体51及びばね受け52の2部材より構成される。リテーナ本体51は,すり割り51a付きで拡径方向に弾性を有する円筒体よりなっていて,燃料入口筒16の内周面に圧入され,さらにかしめて固定される。ばね受け52は,リテーナ本体51の前端に当接配置されるフランジ52a及び,このフランジ52aの前端面に突設される中空の円筒軸52bよりなっている。そして,弁ばね54が,上記ばね受け52の円筒軸52bを囲繞しながらフランジ52a及び開弁側ストッパ48間に縮設されて,弁体40を閉弁方向へ付勢する。円筒軸52bの側壁には,その内外を連通する透孔53が,1個,望ましく複数個(図示例では2個)設けられる。
【0032】
上記円筒軸52b及びロッド43の対向面間には規制間隙Sが設定される。この規制間隙Sは,コイル32の通電により,コイル32の通電時,可動コア41が開弁側ストッパ48を押し上げながら固定コア14に吸着されるまでの弁体40の開弁ストロークvに僅かな一定距離αを加えた距離に設定される。したがって,この規制間隙Sは,コイル32の通電により可動コア41が固定コア14に吸着された後,弁体40が開弁ストロークvを超えてオーバシュートするときには,そのオーバシュートを一定距離αに抑止するように円筒軸52bがロッド43を受け止めてゼロとなる。
【0033】
上記ロッド43の後端面は,ロッド43と同心状の凸状球面43aに形成され,この凸状球面43aと前記円筒軸52bの内周縁との間に上記規制間隙Sが設定される。
【0034】
ここで,前記一定距離αをゼロにして,弁体40のオーバシュートを完全に抑止することが理想的ではあるが,そのようにすると,各部の加工誤差等により弁体40の開弁ストロークvを規定値に保持することが困難となる。したがって,前記一定距離αは,加工誤差等を考慮しながら,弁体40の規定の開弁ストロークvを確保し得る範囲で,極力小さく設定されるものである。
【0035】
また開弁側ストッパ48のフランジ部48aと可動コア41との間には,開弁側ストッパ48の軸部48bを囲繞する補助ばね55が縮設される。この補助ばね55は,弁ばね54のセット荷重よりも小さいセット荷重を付与されており,可動コア41を開弁側ストッパ48から離反させて閉弁側ストッパ49に当接させる側に付勢する。
【0036】
ロッド43の後端部は,開弁側ストッパ48のフランジ部48aよりも突出し,弁ばね54の可動端部の内周面に嵌合して,その位置決めの役割を果たしている。また開弁側ストッパ48の軸部48bは,補助ばね55の内周面に嵌合して,その位置決めの役割を果たしている。
【0037】
開弁側ストッパ48のフランジ部48aの外周の複数箇所には,固定コア14の内周面との間に燃料通路を画成する平面部57が設けられ,また可動コア41には,環状配列の複数の燃料通孔58が設けられる。
【0038】
次に,この実施形態の作用について説明する。
【0039】
電磁式燃料噴射弁Iにおいて,コイル32の非通電状態では,弁体40は,弁ばね54のセット荷重によって押圧されることで,弁座27に着座して燃料噴孔28を閉鎖する閉弁状態となる。一方,可動コア41は,補助ばね55のセット荷重により閉弁側ストッパ49との当接位置に保持され,固定コア14に対して間隙mを挟んで対向する。また,弁体40のロッド43は,規制間隙Sを挟んでリテーナ50の円筒軸52bに対して対向する。
【0040】
この閉弁状態では,図示しない燃料ポンプから燃料分配管20に吐出される高圧燃料が燃料供給キャップ21を通して燃料入口筒16に供給され,燃料噴射弁本体Iaの内部,即ち燃料入口筒16,パイプ状のリテーナ50,固定コア14,可動コア41,弁ハウジング9等の内部を満たして待機する。
【0041】
その際,燃料ポンプの吐出圧変動等に起因して燃料分配管20内に発生する燃料圧力の脈動は,燃料入口筒16の入口のオリフィス部材24のオリフィスにより減衰され,燃料噴射弁I内部への影響を解消,もしくは軽減している。
【0042】
このような閉弁状態でコイル32に通電すると,固定コア14及び可動コア41間に生じる磁力により,可動コア41は,固定コア14に吸引されるので,先ず,補助ばね55を圧縮しながら,ロッド43上を
図2で上方へ摺動して開弁側ストッパ48に当接させる(
図4のa~b参照)。即ち可動コア41は,その初動時,弁ばね54よりセット荷重が小さい補助ばね55を素早く圧縮しながら固定コア14に近接し,固定コア14からの吸引力の急増を得て,開弁側ストッパ48を勢いよく突き上げる。
【0043】
したがって,
図3に示すように,可動コア41は,開弁側ストッパ48を伴いながら,弁ばね54の大なるセット荷重に抗して速やかに更に後方へ移動して可動コア41に吸着される(
図4のb~c参照)。
【0044】
こうして可動コア41と共に後方へ移動する開弁側ストッパ48は,弁体40のロッド43と一体化されているので,弁体40は,規定の開弁ストロークvを移動して弁部42を弁座27から離座させ,開弁状態とすることができる(
図4のb~c参照)。弁体40が開弁すると,弁ハウジング9等の内部で待機する高圧燃料が燃料噴孔28から内燃機関Eの燃焼室6に直接噴射される。このようにして,弁体40の開弁応答性が高められると共に,コイル32の消費電力の軽減を図ることができる。
【0045】
ところで,可動コア41が開弁側ストッパ48を突き上げたときに,開弁側ストッパ48がロッド43即ち弁体40を伴って,慣性により弁体40の規定の開弁ストロークvを超えて作動すること,即ちオーバシュートを生じることがある。
【0046】
そのようなオーバシュートが一定距離αに達すると,ロッド43が,
図3の鎖線示のように,また
図4のc~dのように前記規制間隙Sをゼロにして円筒軸52bに受け止められることになる。これにより,弁体40のオーバシュートを,
図4のc~eで示すように従来のオーバシュートよりも遥かに小さい一定距離αに抑止することができる。その結果,反動によるオーバシュートも極小に抑えて,オーバシュートの収束時間を,
図4に示すように,従来のt1より遥かに短いt2に抑えることが可能となり,燃料噴射特性の安定化に寄与し得る。
【0047】
しかも,上記リテーナ50は,燃料入口筒16の内周面に圧入して,かしめ固定されるリテーナ本体51と,リテーナ本体51の前端に当接配置されるフランジ52a及び,フランジ52aの前端面に突設される中空の円筒軸52bを有するばね受け52とで構成され,円筒軸52b及びロッド43間に前記規制間隙Sが設定されるので,リテーナ本体51は,その燃料入口筒16の内周面への圧入位置を調節することにより前記規制間隙Sの設定を容易に行うことができ,また,ばね受け52では,弁ばね54が,円筒軸52bを囲繞しながらフランジ52a及び,弁体40と一体の開弁側ストッパ48間に縮設されるので,弁ばね54の伸縮姿勢の安定化を図り,弁ばね54の弁体40に対する閉弁荷重を適正に発揮させることができる。
【0048】
さらに,ロッド43の後端面が,ロッド43と同心状の凸状球面43aに形成され,この凸状球面43aと円筒軸52bの内周縁との間に規制間隙Sが設定されるので,弁体40のオーバシュートを抑制すべく,ロッド43の凸状球面43aが円筒軸52bの内周縁に当接したとき,その当接部に調心作用が働き,弁体40の傾きを防ぎ,適正な開弁姿勢を確保することができる。
【0049】
また,前記円筒軸52bの側壁には,その内外を連通する透孔53が設けられるので,リテーナ本体51内から円筒軸52b内に流入した燃料の一部が透孔53を通して円筒軸52bの外周側へと分流することになり,円筒軸52bによる燃料噴射弁本体Ia内の流路抵抗の増加を抑え,適正な燃料噴射量を確保することができる。
【0050】
次に,コイル32への通電を遮断すると,弁ばね54の大なるセット荷重により開弁側ストッパ48が押動されるので,開弁側ストッパ48は可動コア41及び弁体40を伴なって弁座27側に直ちに移動し,弁部42を弁座27に着座させ,閉弁状態となって燃料噴孔28からの燃料噴射を停止する。この弁体40の閉弁状態は,弁ばね54の大なるセット荷重により確実に保持される。
【0051】
一方,可動コア41は,補助ばね55のセット荷重により押圧され,閉弁側ストッパ49に支承される。
【0052】
以上,本発明の実施の形態について説明したが,本発明は上記実施形態に限定されるものではなく,特許請求の範囲に記載された本発明を逸脱することなく種々の設計変更を行うことが可能である。例えば,前記閉弁側ストッパ49は,ロッド43に固定することに代えて,弁ハウジング9の内周面に嵌合,固定することもできる。
【符号の説明】
【0053】
I・・・・電磁式燃料噴射弁
Ia・・・燃料噴射弁本体
g・・・・閉弁側ストッパ及び開弁側ストッパ間での可動コアの移動ストローク
m・・・・可動コアの全移動ストローク
v・・・・弁体の開弁ストローク
S・・・・規制間隙
α・・・・一定距離
9・・・・弁ハウジング
14・・・固定コア
16・・・燃料入口筒
27・・・弁座
32・・・コイル
40・・・弁体
41・・・可動コア
42・・・弁部
43・・・ロッド
43a・・凸曲面(凸状球面)
48・・・開弁側ストッパ
49・・・閉弁側ストッパ
50・・・リテーナ
51・・・リテーナ本体
52・・・ばね受け
52a・・フランジ
52b・・円筒軸
53・・・透孔
54・・・弁ばね
55・・・補助ばね