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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024070177
(43)【公開日】2024-05-22
(54)【発明の名称】樹脂組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 3/21 20060101AFI20240515BHJP
【FI】
C08J3/21 CEV
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022180640
(22)【出願日】2022-11-10
(71)【出願人】
【識別番号】390005267
【氏名又は名称】YKK AP株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110319
【弁理士】
【氏名又は名称】根本 恵司
(72)【発明者】
【氏名】野田 憲佑
(72)【発明者】
【氏名】大山 雄也
【テーマコード(参考)】
4F070
【Fターム(参考)】
4F070AA22
4F070AB26
4F070DA55
4F070FA03
4F070FB06
4F070FC03
(57)【要約】
【課題】硬質ポリ塩化ビニルを主成分とする樹脂形材をリサイクルして、軟質ポリ塩化ビニルの樹脂組成物を容易に製造する。
【解決手段】樹脂組成物の製造方法では、硬質ポリ塩化ビニルを主成分とする樹脂形材を原料に用いて、軟質ポリ塩化ビニルの樹脂組成物を製造する。樹脂組成物の製造方法は、樹脂形材を粉砕して粉砕材を形成する粉砕工程と、粉砕材と軟質ポリ塩化ビニル製のペレットを加熱しつつ混練して、粉砕材とペレットが混合された樹脂組成物を製造する混合工程と、を有する。混合工程は、粉砕材とペレットの混練物を加熱の温度を上昇させながら混練する工程を有する。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬質ポリ塩化ビニルを主成分とする樹脂形材を原料に用いて軟質ポリ塩化ビニルの樹脂組成物を製造する樹脂組成物の製造方法であって、
前記樹脂形材を粉砕して粉砕材を形成する粉砕工程と、
前記粉砕材と軟質ポリ塩化ビニル製のペレットを加熱しつつ混練して、前記粉砕材と前記ペレットが混合された前記樹脂組成物を製造する混合工程と、を有し、
前記混合工程は、前記粉砕材と前記ペレットの混練物を加熱の温度を上昇させながら混練する工程を有する樹脂組成物の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載された樹脂組成物の製造方法において、
前記加熱の温度を上昇させながら混練する工程では、前記粉砕材と前記ペレットの混練物を加熱の温度を第1温度に上昇させながら混練し、
前記混合工程は、前記粉砕材と前記ペレットの混練物を加熱の温度を前記第1温度から第2温度に低下させながら混練する工程を更に有する樹脂組成物の製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載された樹脂組成物の製造方法において、
前記第1温度は、160~200℃であり、
前記第2温度は、前記第1温度よりも10℃以上低い温度である樹脂組成物の製造方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載された樹脂組成物の製造方法において、
前記混合工程では、前記粉砕材の最大寸法が15mm以下である樹脂組成物の製造方法。
【請求項5】
請求項1ないし3のいずれかに記載された樹脂組成物の製造方法において、
前記粉砕工程では、硬質ポリ塩化ビニルを主成分とする本体部に軟質ポリ塩化ビニルを主成分とする付属部が付属する前記樹脂形材を粉砕する樹脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟質ポリ塩化ビニルの樹脂組成物を製造する樹脂組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂窓等の建具では、硬質ポリ塩化ビニルを主成分とする樹脂形材が使用されている。樹脂形材は、硬質ポリ塩化ビニルの樹脂材料を加熱して溶融し、溶融した樹脂材料を押出成形して製造される。このような樹脂形材をリサイクルして、軟質ポリ塩化ビニルの樹脂組成物を製造する場合には、例えば、樹脂形材を粉砕した粉砕材と液体の可塑剤を混練し、粉砕材の硬質ポリ塩化ビニルを可塑剤により軟質化して、軟質ポリ塩化ビニルの樹脂組成物を製造する。
【0003】
ところが、製造後の樹脂形材では、樹脂の粒子が押出成形により潰れて、押出成形前に存在した樹脂の粒子内の空隙がほとんどなくなる。これに伴い、樹脂形材の粉砕材と可塑剤の混練中に、可塑剤が粉砕材に浸み込み難くなり、粉砕材同士が可塑剤によって滑り易くもなる。そのため、樹脂形材の粉砕材と可塑剤が混練され難くなり、粉砕材の硬質ポリ塩化ビニルを可塑剤により軟質化するのが困難となる。これに対し、従来、硬質塩化ビニル系樹脂成形品の粉砕物、可塑剤、及び、無機充填材を加熱混練機により混練して、塩化ビニル系樹脂組成物を製造する塩化ビニル系樹脂組成物の製造方法も知られている(特許文献1参照)。
【0004】
特許文献1に記載された従来の塩化ビニル系樹脂組成物の製造方法では、無機充填材により可塑剤を吸収して、粉砕物に可塑剤を無機充填材とともに混練する。しかしながら、可塑剤の吸収に無機充填材を必要とするため、可塑剤の添加量が制限されて、柔らかい塩化ビニル系樹脂組成物を製造するのが困難になる虞がある。また、可塑剤の添加量を増加させるためには、無機充填材の添加量も増加させる必要があり、塩化ビニル系樹脂組成物の物性に影響が生じる虞もある。可塑剤の添加量が無機充填材の種類等に依存するため、塩化ビニル系樹脂組成物の設計が制限されることもある。従って、従来の塩化ビニル系樹脂組成物の製造方法においては、塩化ビニル系樹脂組成物を容易に製造する観点から、改良の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5446104号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記従来の問題に鑑みなされたもので、その目的は、硬質ポリ塩化ビニルを主成分とする樹脂形材をリサイクルして、軟質ポリ塩化ビニルの樹脂組成物を容易に製造することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、
硬質ポリ塩化ビニルを主成分とする樹脂形材を原料に用いて軟質ポリ塩化ビニルの樹脂組成物を製造する樹脂組成物の製造方法であって、
前記樹脂形材を粉砕して粉砕材を形成する粉砕工程と、
前記粉砕材と軟質ポリ塩化ビニル製のペレットを加熱しつつ混練して、前記粉砕材と前記ペレットが混合された前記樹脂組成物を製造する混合工程と、を有し、
前記混合工程は、前記粉砕材と前記ペレットの混練物を加熱の温度を上昇させながら混練する工程を有する樹脂組成物の製造方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、硬質ポリ塩化ビニルを主成分とする樹脂形材をリサイクルして、軟質ポリ塩化ビニルの樹脂組成物を容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本実施形態の軟質ポリ塩化ビニルの樹脂組成物の製造手順を示すフローチャートである。
図2】本実施形態の軟質ポリ塩化ビニルの樹脂組成物の製造過程の各段階の状態を模式的に示す図である。
図3】本実施形態の加熱混練機により混練する粉砕材の例を示す図である。
図4】本実施形態の樹脂形材の他の例を示す図である。
図5】比較例と実施例の応力-ひずみ曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の樹脂組成物の製造方法の一実施形態について、図面を参照して説明する。
本実施形態の樹脂組成物の製造方法では、硬質ポリ塩化ビニルを主成分とする樹脂形材を原料に用いて、軟質ポリ塩化ビニルの樹脂組成物を製造する。これにより、一旦製造された樹脂形材を再利用して、樹脂形材を樹脂組成物にリサイクルし、新たに樹脂組成物を生成する。
【0011】
図1は、本実施形態の軟質ポリ塩化ビニルの樹脂組成物の製造手順(工程)を示すフローチャートである。図2は、本実施形態の軟質ポリ塩化ビニルの樹脂組成物の製造過程の各段階の状態を模式的に示す図である。
【0012】
図示のように、不用となった樹脂形材10(図2A参照)を回収する(図1のS101)。樹脂形材10は、樹脂の押出成形により成形された形材(押出形材)である。樹脂は、硬質ポリ塩化ビニルであり、樹脂形材10は、硬質ポリ塩化ビニルからなる硬質ポリ塩化ビニル形材である。硬質ポリ塩化ビニルは、可塑剤を混合していないポリ塩化ビニル(PVC)であり、ポリ塩化ビニルに他の成分(例えば、各種の安定剤、改良剤)が混合されていてもよい。なお、図2Aでは、樹脂形材10の長手方向に直交する断面を示している。
【0013】
ここでは、樹脂形材10は、建具である樹脂窓に使用される樹脂製の成形品(樹脂成形品)である。樹脂窓は、樹脂製の枠(樹脂枠)と、樹脂製の框(樹脂框)を含む障子と、を有しており、樹脂枠と樹脂框は、それぞれ樹脂形材10からなる。また、樹脂形材10として、樹脂窓の樹脂形材10の端材を回収する。樹脂形材10の端材は、例えば、樹脂窓の製造現場での端材、又は、市場屑として回収された端材である。これに対し、樹脂形材10は、廃棄される樹脂形材10であってもよい。
【0014】
次に、粉砕機により、回収された樹脂形材10を粉砕して、樹脂形材10の粉砕材20(図2B参照)を形成する(図1のS102)。粉砕機は、例えば、衝撃式粉砕機であるインパクトクラッシャーである。樹脂形材10が長い又は大きいときには、粉砕機による粉砕前に、樹脂形材10を切断する等して、樹脂形材10を粉砕機により粉砕可能な大きさに形成する。また、樹脂形材10は、2段階で粉砕してもよい。この場合には、第1段階の粗い粉砕用の粉砕機により、樹脂形材10を粗く粉砕した後に、第2段階の細かい粉砕用の粉砕機により、粗い粉砕材20を細かい粉砕材20に粉砕する。このようにして、樹脂形材10を粉砕した粉砕材20を生成する。
【0015】
樹脂形材10は、軟質ポリ塩化ビニルの樹脂組成物の原料の一部である。軟質ポリ塩化ビニルは、可塑剤を混合したポリ塩化ビニルであり、可塑剤を含有する。また、樹脂組成物は、軟質ポリ塩化ビニルを主成分とする組成物であり、軟質ポリ塩化ビニルの成形品の原料となる。可塑剤は、硬質ポリ塩化ビニルに柔軟性を与える添加剤であり、硬質ポリ塩化ビニルを軟質化する。
【0016】
可塑剤は、例えば、ジブチルフタレート(DBP)、ジイソデシルフタレート(DIDP)、ビス(2-エチルヘキシル)フタレート(DOP)、ブチルベンジルフタレート(BBP)、ジイソノニルフタレート(DINP)等のフタル酸エステル系可塑剤、トリス(2-エチルヘキシル)トリメリテート(TOTM)、ビス(2-エチルヘキシル)アジペート(DOA)、ジイソノニルアジペート(DINA)、ジシソデシルアジペート(DIDA)、ジブチルセバケート(DBS)等の脂肪族二塩基酸エステル系可塑剤、トリス(2-エチルヘキシル)ホスフェート(TOP)、トリフェニルホスフェート(TPP)等のリン酸エステル系可塑剤、又は、ポリエステル類、エポキシ化大豆油等の可塑剤である。
【0017】
樹脂形材10の粉砕後に、加熱混練機により、樹脂形材10の粉砕材20と、可塑剤を含有する軟質ポリ塩化ビニル製のペレット30(図2C参照)を加熱しつつ混練して、粉砕材20とペレット30が混合された軟質ポリ塩化ビニルの樹脂組成物を製造する(図1のS103)。加熱混練機は、例えば、バンバリーミキサー、ニーダー、ブラベンダーであり、混練中の混練物にせん断力を加える。加熱混練機により、粉砕材20とペレット30は、所定の温度条件で加熱されて、所定の温度条件で混練される。
【0018】
ペレット30は、粒状に成形された軟質ポリ塩化ビニルの粒材であり、軟質ポリ塩化ビニルを主成分とする。そのため、ペレット30は、軟質ポリ塩化ビニルに含まれる可塑剤を予め含有している。樹脂組成物は、硬質ポリ塩化ビニルからなる粉砕材20と軟質ポリ塩化ビニルからなるペレット30が混合された混合物であり、軟質ポリ塩化ビニルからなる。軟質ポリ塩化ビニルは、粉砕材20に含まれる硬質ポリ塩化ビニルとペレット30に含まれる軟質ポリ塩化ビニルを混合することで生成される。
【0019】
図3は、本実施形態の加熱混練機により混練する粉砕材20の例を示す図である。
図示のように、樹脂形材10の粉砕により、様々な形状及び最大寸法Rの粉砕材20が形成される。粉砕材20の最大寸法Rは、それぞれの粉砕材20の外形のうち最も寸法が大きい部分の寸法である。混練に用いる粉砕材20の最大寸法Rは、15mm以下である。そのため、樹脂形材10の粉砕時に、粉砕材20の最大寸法Rが15mm以下になるように、樹脂形材10を粉砕する。或いは、樹脂形材10の粉砕後に、分離装置等を用いて、最大寸法Rが15mmよりも大きい粉砕材20を分離して除去し、最大寸法Rが15mm以下の粉砕材20を選別する。最大寸法Rが15mm以下の粉砕材20をペレット30と混練する。
【0020】
粉砕材20とペレット30の混練により、粉砕材20とペレット30が混練された混練物が生じる。粉砕材20とペレット30の混練物を混練することで、粉砕材20の硬質ポリ塩化ビニルとペレット30の軟質ポリ塩化ビニルが混合されて、軟質ポリ塩化ビニルに含まれる可塑剤により硬質ポリ塩化ビニルが軟質化する。これにより、軟質ポリ塩化ビニルが生成される。
【0021】
粉砕材20に対するペレット30の割合を調整することで、軟質ポリ塩化ビニルの樹脂組成物が含有する可塑剤の濃度及び樹脂組成物の硬さが調整される。ペレット30が含有する可塑剤の濃度は様々である。そのため、ペレット30が含有する可塑剤の濃度に対応して、粉砕材20に対するペレット30の割合を調整して、樹脂組成物が含有する可塑剤の濃度を目標濃度に調整する。これにより、樹脂組成物の硬さを目標硬さに調整する。
【0022】
樹脂の軟化温度は、樹脂が軟化して変形を起こし始める温度(軟化点)である。硬質ポリ塩化ビニルからなる粉砕材20の軟化温度と軟質ポリ塩化ビニルからなるペレット30の軟化温度は、相違しており、硬質ポリ塩化ビニル及び粉砕材20の軟化温度は、軟質ポリ塩化ビニル及びペレット30の軟化温度よりも高い。
【0023】
そのため、粉砕材20とペレット30の混練物の混練中に、混練物の加熱の温度が軟質ポリ塩化ビニル及びペレット30の混練に適した温度(低い温度)であると、ペレット30は充分に柔らかくなって混練し易くなるものの、粉砕材20は充分に柔らかくならずに混練し難い。その結果、混練物の混練が進行し難くなる。これに対し、混練物の加熱の温度が硬質ポリ塩化ビニル及び粉砕材20の混練に適した温度(高い温度)であると、粉砕材20は充分に柔らかくなって混練し易くなるものの、ペレット30は柔らかくなり過ぎて混練し難い。その結果、混練物の混練が進行し難くなる。
【0024】
そこで、粉砕材20とペレット30の混練物を混練する際には、混練中の混練物の加熱の温度を変化させる。具体的には、混練物の混練を開始して、混練物の加熱の温度を上昇させながら、混練物を混練する。混練物の混練中に、混練物の加熱の温度を所定温度に次第に上昇させることで、混練物中の各部(粉砕材20の部分、ペレット30の部分、粉砕材20とペレット30が混練された部分)の粘度をそれぞれ変化させつつ、混練物の混練を進行させて、混練物を次第に均一に混練させる。
【0025】
ここでは、混練物を加熱の温度を上昇させながら混練する混練(昇温混練)を行った後に、混練物を加熱の温度を低下させながら混練する混練(降温混練)を行って、混練物の混練を進行させる。昇温混練では、混練物の加熱の温度を第1温度に上昇させ、降温混練では、混練物の加熱の温度を第1温度から第1温度よりも低い第2温度に低下させる。粉砕材20とペレット30の混練物の加熱の温度を第1温度と第2温度とに順次変化させて、混練物を混練する。
【0026】
第1温度は、軟質ポリ塩化ビニル(ペレット30)よりも硬質ポリ塩化ビニル(粉砕材20)の混練に適した温度であり、硬質ポリ塩化ビニルの粘度が硬質ポリ塩化ビニルの混練に適した粘度となる。混練物の加熱の温度が第1温度であると、粉砕材20の硬質ポリ塩化ビニルがペレット30の軟質ポリ塩化ビニルよりも混練し易くなる。第2温度は、硬質ポリ塩化ビニルよりも軟質ポリ塩化ビニルの混練に適した温度であり、軟質ポリ塩化ビニルの粘度が軟質ポリ塩化ビニルの混練に適した粘度となる。混練物の加熱の温度が第2温度であると、ペレット30の軟質ポリ塩化ビニルが粉砕材20の硬質ポリ塩化ビニルよりも混練し易くなる。
【0027】
第1温度は、混練物の加熱の温度の上昇(昇温混練)を終了する温度であり、160~200℃である。第2温度は、混練物の加熱の温度の低下(降温混練)を終了する温度であり、第1温度よりも10℃以上低い温度である。ここでは、第1温度は、190℃であり、第2温度は、160℃である。また、混練物の昇温混練では、混練物の加熱の温度を5分間で160℃から190℃まで上昇させる。そのため、混練物の加熱の温度は、1分あたり6℃上昇し、混練物の昇温速度は、6℃/分となる。混練物の降温混練では、混練物の加熱の温度を5分間で190℃から160℃まで低下させる。そのため、混練物の加熱の温度は、1分あたり6℃低下し、混練物の降温速度は、6℃/分となる。
【0028】
粉砕材20とペレット30の混練物を混練する際には、混練物の混練を開始し、混練物の加熱の温度を次第に上昇させて、混練物を連続して混練する。これにより、混練中の混練物の加熱の温度を、第2温度を通過させて、第2温度よりも高い第1温度まで上昇させる。このように、昇温混練では、混練物の加熱の温度を第1温度に次第に上昇させながら、混練物を混練する。また、混練物の加熱の温度が第1温度に達したときに、混練物の加熱の温度の上昇を終了させる。続いて、降温混練に移行して、混練物の加熱の温度を第1温度から第2温度に次第に低下させながら、混練物を混練する。昇温混練と降温混練を順に行い、混練物中の各部の粘度を順次変化させつつ、混練物の混練を進行させて、混練物を次第に均一に混練させる。続いて、混練物の加熱の温度が第2温度に達した後に、混練物の加熱の温度の低下を終了させて、混練物の混練を完了させる。
【0029】
混練物の混練により、軟質ポリ塩化ビニルの樹脂組成物の製造が完了した後に、溶けた状態の樹脂組成物を加熱混練機から排出させて、樹脂組成物を並列したロール同士の間を通す(図1のS104)。その際、樹脂組成物を相対する2つ又は複数のロールの外周面の間を通して圧縮する。続いて、押出成形機により、樹脂組成物を押出成形し、押出成形された樹脂組成物を順次切断して、軟質ポリ塩化ビニルのペレットを成形する(図1のS105)。その後、軟質ポリ塩化ビニルのペレットを用いて、軟質ポリ塩化ビニルの成形品を成形する(図1のS106)。軟質ポリ塩化ビニルの成形品は、例えば、建具に使用されるエアタイト材、ガスケットである。
【0030】
以上説明した樹脂組成物の製造方法では、加熱の温度を上昇させながら粉砕材20とペレット30の混練物を混練することで、混練物を次第に均一に混練させることができる。そのため、硬質ポリ塩化ビニルを主成分とする樹脂形材10をリサイクルして、軟質ポリ塩化ビニルの樹脂組成物を容易に製造することができる。また、ペレット30が含有する可塑剤の濃度に対応して、粉砕材20に対するペレット30の割合を調整することで、軟質ポリ塩化ビニルの樹脂組成物の硬さを調整することもできる。
【0031】
混練物を加熱の温度を第1温度に上昇させながら混練する昇温混練に加えて、混練物を加熱の温度を第1温度から第2温度に低下させながら混練する降温混練を行うことで、混練物をより均一に混練させることができる。樹脂組成物の原料の樹脂形材10が樹脂形材10(ここでは、樹脂窓の樹脂形材10)の端材であるときには、樹脂形材10の端材をリサイクルに活用して、樹脂組成物のコストを削減することができる。
【0032】
粉砕材20とペレット30の混練物を第1温度で加熱する際に、第1温度が200℃よりも高い温度であると、粉砕材20の硬質ポリ塩化ビニルの粘度が低くなることで、混練物を練り難くなる虞があり、第1温度が160℃よりも低い温度であると、硬質ポリ塩化ビニルの粘度が高くなることで、混練物が混ざり難くなる虞がある。これに対し、第1温度が160~200℃の範囲内(160℃以上200℃以下)の温度であると、硬質ポリ塩化ビニルが混練し易い粘度になり、混練物の混練を円滑に進行させることができる。
【0033】
粉砕材20とペレット30の混練物を第2温度で加熱する際に、第1温度と第2温度の差が10℃未満であると、ペレット30の軟質ポリ塩化ビニルの粘度が低くなることで、混練物を練り難くなる虞がある。これに対し、第2温度が第1温度よりも10℃以上低い温度であると、混練物の加熱の温度を第1温度から第2温度まで低下させる間に、軟質ポリ塩化ビニルが混練し易い粘度になり、混練物の混練を円滑に進行させることができる。第1温度は、190℃であるのがより好ましく、第2温度は、160℃であるのがより好ましい。これにより、混練物の混練をより円滑に進行させることができる。
【0034】
樹脂形材10の粉砕材20の最大寸法Rが15mmよりも大きいときには、粉砕材20が大きくなることで、粉砕材20とペレット30を混練し難くなる虞がある。これに対し、粉砕材20の最大寸法Rが15mm以下のときには、粉砕材20とペレット30を分散させて、粉砕材20とペレット30を円滑に混練することができる。粉砕材20の最大寸法Rは、8mm以下であるのがより好ましい。これにより、粉砕材20とペレット30をより円滑に混練することができる。
【0035】
なお、本実施形態では、混練物の昇温混練に続けて、混練物の降温混練を行う。これに対し、混練物の昇温混練のみにより、混練物が均一に混練される場合には、混練物の降温混練を行わないようにしてもよい。この場合には、混練物の昇温混練により、混練物を加熱の温度を上昇させながら混練して、混練物の混練を終了させる。これに対し、混練物の昇温混練のみでは、混練物の混練が不充分となる場合には、混練物の昇温混練と降温混練を順に行うことで、混練物の混練を充分に進行させることができる。
【0036】
図4は、本実施形態の樹脂形材10の他の例を示す図であり、樹脂形材10の長手方向に直交する断面を示している。
図示のように、ここでは、樹脂形材10は、硬質ポリ塩化ビニルを主成分とする本体部11と、軟質ポリ塩化ビニルを主成分とする付属部12を有している。付属部12は、硬質部である本体部11に付属する軟質部であり、本体部11よりも小さく形成されて、本体部11から突出する。樹脂形材10を粉砕する際には(図1のS102)、本体部11から付属部12を除去せずに、本体部11に付属部12が付属する樹脂形材10を粉砕して、樹脂形材10の粉砕材20を形成する。
【0037】
形成される粉砕材20には、本体部11のみの粉砕材20、付属部12のみの粉砕材20、及び、本体部11と付属部12の両方を含む粉砕材20が含まれる。粉砕材20をペレット30と混練して、軟質ポリ塩化ビニルの樹脂組成物を製造する。このように、樹脂形材10の硬質ポリ塩化ビニルからなる本体部11から軟質ポリ塩化ビニルからなる付属部12を分別せずに、樹脂形材10を容易にリサイクルすることができる。
【0038】
次に、軟質ポリ塩化ビニルの樹脂組成物の製造方法の実施例と比較例について説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されることはない。実施例では、図1に示すフローチャートに従って、軟質ポリ塩化ビニルの樹脂組成物を製造した。その際、粉砕材20とペレット30の混練物を加熱の温度を第1温度に上昇させながら混練した後に、混練物を加熱の温度を第1温度から第2温度に低下させながら混練して、樹脂組成物を製造した。また、実施例との比較のため、比較例では、ペレット30のみを混練して、軟質ポリ塩化ビニルの樹脂組成物を製造した。
【0039】
【表1】
【0040】
表1は、1つの比較例と7つの実施例(実施例1~7)における樹脂形材10の粉砕材20と軟質ポリ塩化ビニル製のペレット30のそれぞれの重量部(phr)を示している。
粉砕材20とペレット30の重量部は、軟質ポリ塩化ビニルの樹脂組成物を100重量部としたときの重量部であり、合算して100重量部となる。また、比較例及び実施例1~7で用いたペレット30は、同じペレット30である。
【0041】
製造後の樹脂組成物で試験片を作製し、試験片の引張試験を行った。引張試験では、日本産業規格(JIS K 6251:2017)の「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム-引張特性の求め方」に準拠して、試験片の引張試験を行い、試験片における応力-ひずみ曲線(S-S曲線)を求めた。
【0042】
図5は、比較例と実施例1~7の応力-ひずみ曲線である。図5の8つの応力-ひずみ曲線に付した符号H、F1、F2、F3、F4、F5、F6、F7は、表1に示す符号に対応しており、それぞれ比較例、実施例1、実施例2、実施例3、実施例4、実施例5、実施例6、実施例7の応力-ひずみ曲線であることを示す。
図示のように、粉砕材20とペレット30の割合に対応して、製造後の樹脂組成物の引張特性及び軟質化の程度が変化した。
【0043】
以上のとおり、本実施形態では、以下の(1)~(5)に記載された樹脂組成物の製造方法を開示している。
【0044】
(1) 硬質ポリ塩化ビニルを主成分とする樹脂形材を原料に用いて軟質ポリ塩化ビニルの樹脂組成物を製造する樹脂組成物の製造方法であって、
前記樹脂形材を粉砕して粉砕材を形成する粉砕工程と、
前記粉砕材と軟質ポリ塩化ビニル製のペレットを加熱しつつ混練して、前記粉砕材と前記ペレットが混合された前記樹脂組成物を製造する混合工程と、を有し、
前記混合工程は、前記粉砕材と前記ペレットの混練物を加熱の温度を上昇させながら混練する工程を有する樹脂組成物の製造方法。
(1)に記載された樹脂組成物の製造方法では、硬質ポリ塩化ビニルを主成分とする樹脂形材をリサイクルして、軟質ポリ塩化ビニルの樹脂組成物を容易に製造することができる。
【0045】
(2) (1)に記載された樹脂組成物の製造方法において、
前記加熱の温度を上昇させながら混練する工程では、前記粉砕材と前記ペレットの混練物を加熱の温度を第1温度に上昇させながら混練し、
前記混合工程は、前記粉砕材と前記ペレットの混練物を加熱の温度を前記第1温度から第2温度に低下させながら混練する工程を更に有する樹脂組成物の製造方法。
(2)に記載された樹脂組成物の製造方法では、粉砕材とペレットの混練物をより均一に混練させることができる。
【0046】
(3) (2)に記載された樹脂組成物の製造方法において、
前記第1温度は、160~200℃であり、
前記第2温度は、前記第1温度よりも10℃以上低い温度である樹脂組成物の製造方法。
(3)に記載された樹脂組成物の製造方法では、粉砕材とペレットの混練物の混練を円滑に進行させることができる。
【0047】
(4) (1)ないし(3)のいずれかに記載された樹脂組成物の製造方法において、
前記混合工程では、前記粉砕材の最大寸法が15mm以下である樹脂組成物の製造方法。
(4)に記載された樹脂組成物の製造方法では、粉砕材とペレットを分散させて、粉砕材とペレットを円滑に混練することができる。
【0048】
(5) (1)ないし(4)のいずれかに記載された樹脂組成物の製造方法において、
前記粉砕工程では、硬質ポリ塩化ビニルを主成分とする本体部に軟質ポリ塩化ビニルを主成分とする付属部が付属する前記樹脂形材を粉砕する樹脂組成物の製造方法。
(5)に記載された樹脂組成物の製造方法では、樹脂形材の本体部から付属部を分別せずに、樹脂形材を容易にリサイクルすることができる。
【符号の説明】
【0049】
10・・・樹脂形材、11・・・本体部、12・・・付属部、20・・・粉砕材、30・・・ペレット、R・・・最大寸法。
図1
図2
図3
図4
図5