(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024007020
(43)【公開日】2024-01-18
(54)【発明の名称】流通式水熱合成装置、流通式水熱合成装置に使用する配管構造およびナノ粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
B01J 19/00 20060101AFI20240111BHJP
B01J 2/00 20060101ALI20240111BHJP
C01G 1/02 20060101ALN20240111BHJP
【FI】
B01J19/00 N
B01J2/00 A
B01J19/00 301A
C01G1/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022108140
(22)【出願日】2022-07-05
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和3年12月28日に、令和3年度 中性子イメージング専門研究会京都大学複合原子力科学研究所主催、オンライン開催(Zoom)にて公開。
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】100167689
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 征二
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼見 誠一
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 公星
【テーマコード(参考)】
4G004
4G075
【Fターム(参考)】
4G004AA01
4G075AA13
4G075AA27
4G075BA06
4G075BA10
4G075BD15
4G075BD22
4G075CA02
4G075CA03
4G075DA02
4G075DA12
4G075EA06
4G075EB21
4G075FB02
(57)【要約】 (修正有)
【課題】製造したナノ粒子の平均粒子径を小さくできる、流通式水熱合成装置、流通式水熱合成装置に使用する配管構造およびナノ粒子の製造方法を提供する。
【解決手段】流通式水熱合成装置は、第1パイプ2と、第1パイプに加圧した水を供給するための第1加圧装置と、第1パイプに供給された水を加熱し、前記第1パイプ内で高温・高圧水を形成する第1加熱装置と、原料液投入口5aを有する第2パイプ5と、第2パイプに加圧した原料液13を供給するための第2加圧装置と、前記第1パイプおよび前記第2パイプが接続することで、高温・高圧水と原料液が混合する混合部7と、を少なくとも含み、混合部において、第1パイプおよび前記第2パイプは、原料液投入口から第1パイプ内に投入した原料液が、投入時に前記第1パイプの内壁2cに接触することなく、第1パイプ内に投入できるように接続している流通式水熱合成装置。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
流通式水熱合成装置であって、該流通式水熱合成装置は、
第1パイプと、
前記第1パイプに加圧した水を供給するための第1加圧装置と、
前記第1パイプに供給された水を加熱し、前記第1パイプ内で高温・高圧水を形成する第1加熱装置と、
原料液投入口を有する第2パイプと、
前記第2パイプに加圧した原料液を供給するための第2加圧装置と、
前記第1パイプおよび前記第2パイプが接続することで、高温・高圧水と原料液が混合する混合部と、
を少なくとも含み、
前記混合部において、前記第1パイプおよび前記第2パイプは、
前記原料液投入口から前記第1パイプ内に投入した原料液が、投入時に前記第1パイプの内壁に接触することなく、第1パイプ内に投入できるように接続している
流通式水熱合成装置。
【請求項2】
前記混合部において、前記第1パイプおよび前記第2パイプが、前記第2パイプの原料液投入口の外縁が前記第1パイプの内壁に接触しないように接続している
請求項1に記載の流通式水熱合成装置。
【請求項3】
原料液が、高温・高圧水が流れる方向に対して直交方向または下流方向に供給されるように前記原料液投入口が配置されている
請求項2に記載の流通式水熱合成装置。
【請求項4】
前記混合部の前記第1パイプが凸部を有し、前記第2パイプが前記凸部で接続している
請求項1~3の何れか一項に記載の流通式水熱合成装置。
【請求項5】
前記第2パイプに冷却装置が設けられている
請求項1~3の何れか一項に記載の流通式水熱合成装置。
【請求項6】
流通式水熱合成装置に使用する配管構造であって、該配管構造は、
高温・高圧水を供給する第1パイプと、
原料液投入口を有する第2パイプと、
前記第1パイプおよび前記第2パイプが接続することで、高温・高圧水と原料液が混合する混合部と、
を少なくとも含み、
前記混合部において、前記第1パイプおよび前記第2パイプは、
前記原料液投入口から前記第1パイプ内に投入した原料液が、投入時に前記第1パイプの内壁に接触することなく、第1パイプ内に投入できるように接続している
配管構造。
【請求項7】
前記混合部において、前記第1パイプおよび前記第2パイプが、前記第2パイプの原料液投入口の外縁が前記第1パイプの内壁に接触しないように接続している
請求項6に記載の配管構造。
【請求項8】
原料液が、高温・高圧水が流れる方向に対して直交方向または下流方向に供給されるように前記原料液投入口が配置されている
請求項7に記載の配管構造。
【請求項9】
前記混合部の前記第1パイプが凸部を有し、前記第2パイプが前記凸部で接続している
請求項6~8の何れか一項に記載の配管構造。
【請求項10】
流通式水熱合成装置を用いたナノ粒子の製造方法であって、
流通式水熱合成装置は、
第1パイプと、
前記第1パイプに加圧した水を供給するための第1加圧装置と、
前記第1パイプに供給された水を加熱し、前記第1パイプ内で高温・高圧水を形成する加熱装置と、
原料液投入口を有する第2パイプと、
前記第2パイプに加圧した原料液を供給するための第2加圧装置と、
前記第1パイプおよび前記第2パイプが接続することで、高温・高圧水と原料液が混合する混合部と、
を少なくとも含み、
ナノ粒子の製造方法は、
前記第1パイプ内で高温・高圧水を形成する高温・高圧水形成工程と、
高温・高圧水に原料液を混合する混合工程と、
高温・高圧水と原料液を混合することで形成したナノ粒子を回収するナノ粒子回収工程と、
を少なくとも含み、
前記混合工程において、前記原料液投入口から前記第1パイプ内に投入した原料液は、投入時に前記第1パイプの内壁に接触することなく、前記第1パイプ内に投入される
ナノ粒子の製造方法。
【請求項11】
前記混合部において、前記第1パイプおよび前記第2パイプが、前記第2パイプの原料液投入口の外縁が前記第1パイプの内壁に接触しないように接続することで、前記原料液が前記第1パイプの内壁に接触することなく投入される
請求項10に記載のナノ粒子の製造方法。
【請求項12】
前記原料液が金属水溶液である
請求項10または11に記載のナノ粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願における開示は、流通式水熱合成装置、流通式水熱合成装置に使用する配管構造およびナノ粒子の製造方法に関する。
【0002】
流通式水熱合成装置を用いたナノ粒子の製造方法が知られている。例えば、非特許文献1には、高温水と金属塩水溶液とを混合することで、ナノ粒子を形成することが開示されている(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】高見誠一、「有機表面修飾金属酸化物ナノ粒子の水熱合成」、まてりあ、第59巻、第4号(2020)、第199~206頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記非特許文献1に記載のとおり、流通式水熱合成装置を用いてナノ粒子を合成することは知られている。ところで、水熱合成したナノ粒子を様々な用途に使用する場合、平均粒子径がより小さなナノ粒子を合成するための装置および製造方法の開発が求められる。
【0005】
本発明者らは鋭意研究を行ったところ、高温・高圧水と原料液を混合する際に、原料液を高温・高圧水が流れるパイプの内壁に接触することなく投入できる配管構造を流通式水熱合成装置に使用することで、製造したナノ粒子の平均粒子径を従来より小さくできることを新たに見出した。
【0006】
すなわち、本出願における開示の目的は、製造したナノ粒子の平均粒子径を小さくできる、流通式水熱合成装置、流通式水熱合成装置に使用する配管構造およびナノ粒子の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本出願の開示は、以下に示す、流通式水熱合成装置、流通式水熱合成装置に使用する配管構造およびナノ粒子の製造方法に関する。
【0008】
(1)流通式水熱合成装置であって、該流通式水熱合成装置は、
第1パイプと、
前記第1パイプに加圧した水を供給するための第1加圧装置と、
前記第1パイプに供給された水を加熱し、前記第1パイプ内で高温・高圧水を形成する第1加熱装置と、
原料液投入口を有する第2パイプと、
前記第2パイプに加圧した原料液を供給するための第2加圧装置と、
前記第1パイプおよび前記第2パイプが接続することで、高温・高圧水と原料液が混合する混合部と、
を少なくとも含み、
前記混合部において、前記第1パイプおよび前記第2パイプは、
前記原料液投入口から前記第1パイプ内に投入した原料液が、投入時に前記第1パイプの内壁に接触することなく、第1パイプ内に投入できるように接続している
流通式水熱合成装置。
(2)前記混合部において、前記第1パイプおよび前記第2パイプが、前記第2パイプの原料液投入口の外縁が前記第1パイプの内壁に接触しないように接続している
上記(1)に記載の流通式水熱合成装置。
(3)原料液が、高温・高圧水が流れる方向に対して直交方向または下流方向に供給されるように前記原料液投入口が配置されている
上記(2)に記載の流通式水熱合成装置。
(4)前記混合部の前記第1パイプが凸部を有し、前記第2パイプが前記凸部で接続している
上記(1)~(3)の何れか一つに記載の流通式水熱合成装置。
(5)前記第2パイプに冷却装置が設けられている
上記(1)~(3)の何れか一つに記載の流通式水熱合成装置。
(6)流通式水熱合成装置に使用する配管構造であって、該配管構造は、
高温・高圧水を供給する第1パイプと、
原料液投入口を有する第2パイプと、
前記第1パイプおよび前記第2パイプが接続することで、高温・高圧水と原料液が混合する混合部と、
を少なくとも含み、
前記混合部において、前記第1パイプおよび前記第2パイプは、
前記原料液投入口から前記第1パイプ内に投入した原料液が、投入時に前記第1パイプの内壁に接触することなく、第1パイプ内に投入できるように接続している
配管構造。
(7)前記混合部において、前記第1パイプおよび前記第2パイプが、前記第2パイプの原料液投入口の外縁が前記第1パイプの内壁に接触しないように接続している
上記(6)に記載の配管構造。
(8)原料液が、高温・高圧水が流れる方向に対して直交方向または下流方向に供給されるように前記原料液投入口が配置されている
上記(7)に記載の配管構造。
(9)前記混合部の前記第1パイプが凸部を有し、前記第2パイプが前記凸部で接続している
上記(6)~(8)の何れか一つに記載の配管構造。
(10)流通式水熱合成装置を用いたナノ粒子の製造方法であって、
流通式水熱合成装置は、
第1パイプと、
前記第1パイプに加圧した水を供給するための第1加圧装置と、
前記第1パイプに供給された水を加熱し、前記第1パイプ内で高温・高圧水を形成する加熱装置と、
原料液投入口を有する第2パイプと、
前記第2パイプに加圧した原料液を供給するための第2加圧装置と、
前記第1パイプおよび前記第2パイプが接続することで、高温・高圧水と原料液が混合する混合部と、
を少なくとも含み、
ナノ粒子の製造方法は、
前記第1パイプ内で高温・高圧水を形成する高温・高圧水形成工程と、
高温・高圧水に原料液を混合する混合工程と、
高温・高圧水と原料液を混合することで形成したナノ粒子を回収するナノ粒子回収工程と、
を少なくとも含み、
前記混合工程において、前記原料液投入口から前記第1パイプ内に投入した原料液は、投入時に前記第1パイプの内壁に接触することなく、前記第1パイプ内に投入される
ナノ粒子の製造方法。
(11)前記混合部において、前記第1パイプおよび前記第2パイプが、前記第2パイプの原料液投入口の外縁が前記第1パイプの内壁に接触しないように接続することで、前記原料液が前記第1パイプの内壁に接触することなく投入される
上記(10)に記載のナノ粒子の製造方法。
(12)
前記原料液が金属水溶液である
上記(10)または(11)に記載のナノ粒子の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本出願で開示する流通式水熱合成装置、流通式水熱合成装置に使用する配管構造およびナノ粒子の製造方法により、製造したナノ粒子の平均粒子径を小さくできる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は合成装置1の概略を示す概略図である。
【
図2】
図2は実施形態に係る合成装置1の混合部7の概略を示す概略図で、
図2Aは混合部7をZ方向上流側から見た図、
図2Bは
図2Aのa-a矢視断面図である。
【
図3】
図3は従来の合成装置の混合部7の概略を示す概略図で、
図3Aは混合部7をZ方向上流側から見た図、
図3Bは
図3Aのa-a矢視断面図である。
【
図4】
図4は実施形態に係る合成装置1の混合部7の概略を示す概略図で、
図4Aは混合部7をZ方向上流側から見た図、
図4Bは
図4Aのa-a矢視断面図である。
【
図5】
図5Aおよび
図5Bは、
図2Bと同じ場所の矢視断面図であって、実施形態に係る合成装置1の原料液投入口のその他の例を示す図である。
【
図6】
図6Aおよび
図6Bは、
図2Bと同じ場所の矢視断面図であって、実施形態に係る合成装置1の原料液投入口のその他の例を示す図である。
【
図7】
図7Aは実施例2で合成したナノ粒子のSEM写真および粒子径の分布を示すグラフ、
図7Bは比較例2で合成したナノ粒子のSEM写真および粒子径の分布を示すグラフである。
【
図8】
図8Aは実施例3で合成したナノ粒子のSEM写真および粒子径の分布を示すグラフ、
図8Bは比較例3で合成したナノ粒子のSEM写真および粒子径の分布を示すグラフである。
【
図9】
図9Aは実施例4で合成したナノ粒子のSEM写真および粒子径の分布を示すグラフ、
図9Bは比較例4で合成したナノ粒子のSEM写真および粒子径の分布を示すグラフである。
【
図10】
図10は、混合部における超臨界水と原料液の混合状況を確認するための測定系の概略を示す図である。
【
図11】
図11は、混合部における超臨界水と原料液の混合状況を確認するための測定系の測定原理を説明するための図である。
【
図13】
図13Aは実施例4、
図13Bは比較例4の混合部における水密度像である。
図13Cは、比較例1の合成装置を用いて約30分ナノ粒子を連続合成した後の配管構造の分解写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本出願で開示する流通式水熱合成装置(以下、「合成装置」と記載することがある。)、流通式水熱合成装置に使用する配管構造(以下、「配管構造」と記載することがある。)およびナノ粒子の製造方法について、詳しく説明する。なお、図面において示す各構成の位置、大きさ、範囲などは、理解を容易とするため、実際の位置、大きさ、範囲などを表していない場合がある。このため、本出願の開示は、必ずしも、図面に開示された位置、大きさ、範囲などに限定されない。
【0012】
また、本明細書において、
(1)「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味し、
(2)数値、数値範囲、及び定性的な表現(例えば、「同一」、「同じ」等の表現)については、当該技術分野において一般的に許容される誤差を含む数値、数値範囲及び性質を示している、
(3)「略〇〇状」と記載した場合、正確な〇〇状に加え、凡そ〇〇状と把握される形状を含む、
と解釈される。
【0013】
(合成装置の実施形態)
図1乃至
図6を参照して、合成装置1の実施形態について説明する。
図1は合成装置1の概略を示す概略図である。
図2は実施形態に係る合成装置1の混合部7の概略を示す概略図で、
図2Aは混合部7をZ方向上流側から見た図、
図2Bは
図2Aのa-a矢視断面図である。
図3は従来の合成装置の混合部7の概略を示す概略図で、
図3Aは混合部7をZ方向上流側から見た図、
図3Bは
図3Aのa-a矢視断面図である。
図4は実施形態に係る合成装置1の混合部7の概略を示す概略図で、
図4Aは混合部7をZ方向上流側から見た図、
図4Bは
図4Aのa-a矢視断面図である。
図5A、
図5B、
図6Aおよび
図6Bは、
図2Bと同じ場所の矢視断面図であって、実施形態に係る合成装置1の原料液投入口のその他の例を示す図である。なお、
図1乃至
図6において、高温・高圧水が流れる方向をZ方向と規定する。
【0014】
図1に示す実施形態に係る合成装置1は、第1パイプ2と、第1パイプ2に加圧した水12を供給するための第1加圧装置3と、第1パイプ2に供給された水12を加熱し第1パイプ2内で高温・高圧水を形成する第1加熱装置4と、原料投入口5aを有する第2パイプ5と、第2パイプ5に加圧した原料液13を供給するための第2加圧装置6と、第1パイプ2および第2パイプ5が接続することで高温・高圧水と原料液が混合する混合部7と、を少なくとも含んでいる。そして、混合部7において、第1パイプ2および第2パイプ5は、原料液投入口5aから第1パイプ2内に投入した原料液13が、投入時に第1パイプ2の内壁2cに接触することなく、第1パイプ2内に投入できるように接続している。なお、
図1に示す例では、任意付加的に、高温・高圧水と原料液13が混合した混合液の温度を保持するための第2加熱装置8、混合液を冷却する冷却装置9、系全体の圧力を調整する背圧弁10、フィルター11を含む。
【0015】
水熱合成は、高温高圧の熱水の存在下で行われる化合物の合成あるいは結晶成長を意味する。常温常圧では水に溶けない物質も溶解するため、水熱合成を用いることで、常温常圧では得られないような物質の合成、成長が可能である。本明細書において「高温・高圧水」とは、前記水熱合成が可能な温度、圧力を有する水を意味する。限定されるものではないが、高温・高圧水は、例えば、温度が100℃以上、150℃以上、200℃以上、250℃以上、300℃以上、350℃以上、圧力が0.1MPa以上、0.5MPa以上、1MPa以上、5MPa以上、10MPa以上、15MPa以上、20MPa以上、等が挙げられる。
【0016】
温度および圧力が高い高温・高圧水として、亜臨界水、超臨界水が知られている。超臨界水とは、気体と液体が共存できる限界の温度・圧力(臨界点)を超えた状態にある水を意味し、22.1MPa以上の圧力、374℃以上の温度で超臨界水となる。亜臨界水とは、臨界点よりもやや低い近傍の領域の高温・高圧水を意味する。
【0017】
第1パイプ2は、少なくとも上記温度に対し耐熱性があり、上記圧力に対して耐圧性がある材料で形成されれば特に制限はない。第1パイプ2は、例えば、ステンレス等の金属で形成されればよい。また、第1パイプ2は、第1加圧装置3から背圧弁10まで一本のパイプで形成されてもよいが、分割されたパイプを接続してもよい。本出願で開示する混合部7は、本発明者らが新たに見出した配管構造である。例えば、第1加熱装置4より下流側(つまり、第1パイプの中で高温・高圧水が流れる部分)と任意付加的な第2加熱装置8の上流側部分の第1パイプ2bを分離可能とし、混合部7以外の第1パイプ2aと接続できるように構成してもよい。混合部7を分離可能とした場合、従来の流通式水熱合成装置に混合部7を組み込むことで、本出願で開示する流通式水熱合成装置1を提供できる。また、第1パイプ2は直管であってもよいし、湾曲部分を含んでいてもよい。第1加熱装置4を形成する部分は、第1パイプ2に供給された水12を効率的に加熱し高温・高圧水を形成できるように、蛇腹状あるいは螺旋状等に形成されてもよい。
【0018】
第1加圧装置3は、水を第1パイプ2に水熱合成が可能な高温・高圧水となる圧力(超臨界水の場合は22.1MPa以上の圧力)となるように供給できる高圧ポンプであれば特に制限はない。また、第1加熱装置4は、高温・高圧水となる温度(超臨界水の場合は374℃以上)に第1パイプ2を加熱できる装置であれば特に制限はない。第1加圧装置3および第1加熱装置4は、本技術分野において公知の装置を用いればよい。
【0019】
第2パイプ2に供給される原料液13も加圧される。そして、加圧された高温・高圧水が流れる第1パイプ2に接続することから、第2パイプ5もステンレス等の耐圧性および耐熱性の金属で形成すればよい。
【0020】
第2加圧装置6も、第1加圧装置3と同様、本技術分野において公知の装置を用いればよい。
【0021】
第2加熱装置8は、混合部7で混合した高温・高圧水および原料液13との混合液を一定の時間にわたり反応温度に保つことで、反応の促進、合成したナノ粒子の結晶性の向上を目的として使用される。第2加熱装置8は、本技術分野において公知の装置を用いればよい。
【0022】
冷却装置9は、混合液を冷却することで、第1パイプ2内の温度を下げる機能を有する。温度が100℃以上の混合液を第1パイプ2から排出すると、混合液が水蒸気になり危険である。冷却装置9を設け混合液を100℃以下に冷却した後に第1パイプ2から排出することで、混合液が水蒸気化することを防止できる。冷却装置9は、第1パイプ2を冷却できるものであれば特に制限はない。例えば、中空パイプで第1パイプ2を覆い、水冷により第1パイプ2を冷却すればよい。なお、混合部7から混合液が排出される部分までの第1パイプ2の長さが十分長ければ、混合液は自然冷却されることから、冷却装置9は形成されなくてもよい。
【0023】
背圧弁10は、第1パイプ2内の圧力が設定された圧力より高くなった場合に、第1パイプ2からナノ粒子を含む混合液を排出できる。したがって、背圧弁10を設けた場合は、第1パイプ2の圧力を簡単に調整できる。なお、第1パイプ2の圧力を調整する必要がない場合は、第1パイプ2の直径等を考慮し、第1パイプ2の排出部分に狭窄部を形成することで、第1パイプ2内を高圧にできるようにすればよい。
【0024】
フィルター11は、合成装置1が背圧弁10を具備する場合に好適に用いられる。背圧弁10は、内部に設置された2つの面の間の距離を調整することで圧力を制御している。何らかの理由で偶然生成された粗大粒子が2つの面の間に詰まると、背圧弁10の機能が低下する可能性がある。フィルター11を設けることで背圧弁10の機能が低下することを防止できる。
【0025】
次に、
図2乃至
図6を参照して、混合部7について詳しく説明する。実施形態に係る合成装置1の混合部7では、第1パイプ2および第2パイプ5は、原料液投入口5aから第1パイプ2内に投入した原料液13が、投入時に第1パイプ2の内壁2cに接触することなく、第1パイプ2内に投入できるように接続している。
図2Aおよび
図2Bに示す例では、第2パイプ5が第1パイプ2の側方から第1パイプ2の内部まで貫通している。つまり、第2パイプ5に形成されている原料液投入口5aは、第1パイプ2の内壁2cより中心側に位置する。そのため、第2パイプ5を流れてきた原料液13が原料液投入口5aから投入されると、第1パイプ2の上流側から流れてきた高温・高圧水に瞬時に交わりながら下流方向に流れていくことから、混合部7において、原料液13は第1パイプ2の内壁2cに接触しない。
【0026】
一方、
図3Aおよび
図3Bに示す従来の混合部7は、第1パイプ2の側面に形成した孔に第2パイプ5を接続している。そのため、第2パイプ5を流れてきた原料液13が原料液投入口5aから投入されると、原料液13は第1パイプ2の内壁2cに沿って流れてきた高温・高圧水と先ず接触することから、原料液13は壁面2cに沿うように下流方向に流れながら高温・高圧水と混合する。後述する実施例および比較例に示すように、実施形態に係る合成装置1の混合部7の配管構造により、製造したナノ粒子の平均粒子径を小さくできると共に、ナノ粒子のサイズのばらつきを小さくできる。その理由としては、(1)水熱合成は、投入した原料液が急速に加熱されるほど粒子径をそろえることができるが、(2)従来技術では、原料液13が内壁2cに沿って流れることから、本出願で開示する合成装置1と比較して、原料液13と高温・高圧水とが混合され難く、また、内壁2cからの伝熱は混合による加熱より遅いため、急速な温度上昇ができなくなるため、と考えられる。
【0027】
なお、
図4Aおよび
図4Bに示す例のように、第2パイプ5の先端部分を、第1パイプ2の内壁2cに当接する近傍まで第1パイプ2内に挿入した場合を想定する。その場合、高温・高圧水の流体力に比べて原料液13を高い流体力で投入すると、投入された原料液13は、第1パイプ2の内壁2cに当接し壁面2cに沿うように下流方向に流れながら高温・高圧水と混合する恐れがある。第2パイプ5をどの程度第1パイプ2内に挿入するのかは、高温・高圧水の流体力および原料液13の流体力、並びに、第1パイプ2の内径と第2パイプ5の外径を考慮しながら適宜設計すればよい。第2パイプ5を挿入する方向の第1パイプ2の対向する内壁2c間の長さをd(第1パイプ2の断面が円形の場合は直径)、dの中間点をo、oから第1パイプ2と第2パイプ5の接続方向をd1、d1と反対方向(原料液13が投入される方向)をd2と規定する。限定されるものではないが、例えば、第2パイプ5の先端が配置される位置は、o、または、oからd1方向に0.1d、0.2d、0.3d、0.4d等の位置、または、oからd2方向に0.1d、0.2d、0.3d、0.4d等の位置、に配置すればよい。
【0028】
以上のとおり、本明細書において「原料液投入口5aから第1パイプ2内に投入した原料液13が、投入時に第1パイプ2の内壁2cに接触する」とは、(1)原料液投入口5aから投入した原料液13が、原料液投入口5aから流れ出た後、接続している第1パイプ2の内壁2cに直接沿うように流れること、および、(2)原料液投入口5aから投入した原料液13が、原料液13の投入方向の第1パイプ2の内壁2cに当接すること、を意味する。なお、前記(2)の場合について、原料液13と高温・高圧水が十分混合した後であれば、原料液13と高温・高圧水の混合液が内壁2cに接触しても問題はない。したがって、前記(2)の「原料液13の投入方向の第1パイプ2の内壁2c」とは、第2パイプ5の内壁を仮想的に第1パイプ2の内壁2cに延長した際に交差する領域と定義すればよい。
【0029】
図2乃至
図4に示す例では、原料液投入口5aは、第2パイプ5の先端に第2パイプ5の中心軸と略直交する略円形状の断面で形成されているが、原料液投入口5aの形状および配置は、本出願で開示する技術思想の範囲内であれば、
図2乃至
図4に示す例に限定されない。
図5および
図6に、原料液投入口5aのその他の例を示す。
図5Aに示す例では、原料液投入口5aは、第2パイプ5の先端から中心軸Xに対して角度を持った傾斜面(竹槍状)として形成されている。また、
図5Bに示す例では、第2パイプ5の先端は閉塞されており、原料液投入口5aは高温・高圧水の下流側方向に開口するように第2パイプ5の側面に形成されている。
図6Aに示す例では、第2パイプ5の先端部分は略L字状となっており、原料液13は、原料液投入口5aから高温・高圧水の流れと略同方向に投入される。
図6Bに示す例では、第1パイプ2は凸部2dを有し、第2パイプ5が、凸部2dで接続している。
【0030】
図5A、
図5B、
図6Aおよび
図6Bに示す混合部7は、
図3に示す従来技術と比較した場合、
図2に示す混合部7と同様の効果を奏する。加えて、
図5Bおよび
図6Aに示す例では、原料液13の投入方向は高温・高圧水が流れる方向と同じになることから、第2パイプ5の先端の配置位置を精密に調整しなくてもよい。したがって、製造の利便性が向上する。また、
図6Bに示す例では、第2パイプ5が凸部2dで接続している。
図2、
図5A、
図5Bおよび
図6Aに示す例では、第2パイプ5は第1パイプ2に直接接続している。したがって、第1加熱装置4により加熱された第1パイプ2の熱が第2パイプ5に伝熱しやすい。一方、
図6Bに示す例では、凸部2dの部分で加熱された第1パイプ2の熱が外部へ熱移動し、凸部2dの部分が冷却される。そのため、第1パイプ2の熱は、第2パイプ5に伝熱し難くなる。水熱合成は、一般的に、高温・高圧水と原料液を混合する際の温度差が大きいほど、平均粒子径が小さく且つばらつきの小さいナノ粒子が合成できるとされている。したがって、
図6Bに示す例では、混合部7で混合される直前の原料液13の温度上昇が抑制されることから、混合部7における急速な原料液13の加熱により、平均粒子径が小さく且つばらつきの小さいナノ粒子が合成できる。
【0031】
また、
図2乃至
図6から明らかなように、実施形態に係る合成装置1の混合部7において、原料液投入口5aの外縁5bは、第1パイプ2の内壁2cに接触していない。したがって、実施形態に係る合成装置1の混合部7は、第1パイプ2および第2パイプ5が、第2パイプ5の原料液投入口5aの外縁5bが第1パイプ2の内壁2cに接触しないように接続していると言ってもよい。
【0032】
図2乃至
図6に示す例では、原料液投入口5aは、原料液13が高温・高圧水が流れる方向に対して直交方向または下流方向に投入されるように配置されている。原料液投入口5aが、高温・高圧水が流れる方向に開口していても原料液13と高温・高圧水を混合することは可能であるが、本出願で開示する合成装置1は流通式である。したがって、限定されるものではないが、高温・高圧水の流れに逆行する方向に原料液13が投入されないように原料液投入口5aを配置することが好ましい。
【0033】
なお、
図2乃至
図6に示す例では、第1パイプ2および第2パイプ5の断面は略円形状である。代替的に、高温・高圧水12および原料液13の流れに悪影響(攪拌流の発生等)がない範囲内であれば、第1パイプ2および第2パイプ5の断面は略楕円形状等、非円形状であってもよい。また、図示は省略するが、第2パイプ5に、冷却装置を設けてもよい。高温・高圧水と原料液13の温度差があるほど、混合時に原料液13が急速に加熱され平均粒子径が小さく且つばらつきも小さいナノ粒子を合成できる。
【0034】
実施形態に係る合成装置1を使用してナノ粒子を製造することで、以下の(1)および(2)に記載のとおり、合成したナノ粒子に対する効果と合成装置1に対する効果とを同時に奏する。
(1)従来の合成装置で合成したナノ粒子と比較して、ナノ粒子の平均粒子径を小さくできる。また、合成したナノ粒子サイズのばらつきも小さくできる。更に、高温・高圧水および原料液の単位時間当たりの流量や比を調整することで、従来の合成装置による合成と比較して、ナノ粒子の平均粒子径のサイズを調整し易くなる。
(2)
図3Bに示すように、従来の合成装置では、原料液投入口5aから投入した原料液13は、第2パイプ5から流れ出た後、接続している第1パイプ2の内壁2cに沿うように流れることから、内壁2cに粒子が付着し第1パイプ2が詰まることがあった。一方、実施形態に係る合成装置1では、混合部7付近において、第1パイプ2が詰まる恐れをより軽減できる。
【0035】
(配管構造の実施形態)
次に、配管構造の実施形態について説明する。実施形態に係る配管構造は、流通式水熱合成装置に使用することができる。配管構造は、高温・高圧水を供給する第1パイプ2と、原料液投入口5aを有する第2パイプ5と、第1パイプ2および第2パイプ5が接続することで高温・高圧水と原料液13が混合する混合部7と、を少なくとも含む。そして、混合部7において、第1パイプ2および第2パイプ5は、原料液投入口5aから第1パイプ2内に投入した原料液13が、投入時に第1パイプ2の内壁2cに接触することなく第1パイプ2内に投入できるように接続している。配管構造の実施形態において、「第1パイプ2」、「第2パイプ5」、「混合部7」、「原料液投入口5a」は、実施形態に係る合成装置1で説明した「第1パイプ2」、「第2パイプ5」、「混合部7」、「原料液投入口5a」と同じである。したがって、重複記載となることから配管構造が具備する構成の詳細な説明は省略する。実施形態に係る配管構造を用いて流通式水熱合成装置を作製することで、実施形態に係る合成装置1と同様の効果を奏する。
【0036】
(ナノ粒子の製造方法の実施形態)
次に、
図1乃至
図6を参照し、ナノ粒子の製造方法(以下、単に「製造方法」と記載することがある)の実施形態について説明する。製造方法は、実施形態に係る合成装置1、または、実施形態に係る配管構造を組み込んだ合成装置を用いて実施することができる。製造方法は、
・第1パイプ2内で高温・高圧水を形成する高温・高圧水形成工程と、
・高温・高圧水に原料液13を混合する混合工程と、
・高温・高圧水と原料液13を混合することで形成したナノ粒子を回収するナノ粒子回収工程と、を少なくとも含む。そして、
・混合工程は、原料液投入口5aから第1パイプ2内に投入した原料液13が、投入時に第1パイプ2の内壁2cに接触することなく第1パイプ2内に投入される。
【0037】
高温・高圧水形成工程において、高温・高圧水は、上記のとおり、水熱合成が可能な程度に水を加圧すると共に加熱すればよい。超臨界水を用いる場合は、水を22.1MPa以上に加圧し、374℃以上に加熱することで超臨界水を形成できる。
【0038】
原料液13は、高温・高圧水と反応することで、ナノ粒子が形成できるものであれば特に制限はない。限定されるものではないが、例えば、金属水溶液、非金属水溶液、等が挙げられる。金属水溶液としては、Ceイオン、Hfイオン、Tiイオン、Gdイオン、Zrイオン、Cuイオン、Mnイオン、Coイオン、Niイオン、Znイオン、Baイオン、Yイオン、Alイオン、Ndイオン等が挙げられる。なお、金属イオンは、単独で用いてもよいし、混合して用いてもよい。これらを水熱合成することで、例えば、CeO2、HfO2、TiO2、Gd(OH)3、ZrO2、CuO2、MnO2、Co3O4、NiO、ZnO、BaTiO3、YAG等の金属酸化物ナノ粒子を合成できる。
【0039】
非金属(半導体を含む)水溶液としては、Siイオン、Geイオン等を含む水溶液が挙げられる。これらを水熱合成することで、例えば、SiO2、GeO2等の非金属酸化物ナノ粒子を合成できる。なお、金属水溶液または非金属水溶液に還元剤を添加した場合、酸化物ではなく、金属ナノ粒子または非金属ナノ粒子を合成できる。また、原料液に硫化物イオンを含有すると、金属硫化物ナノ粒子、非金属硫化物ナノ粒子を合成できる。
【0040】
なお、一部重複はするが、非特許文献1には以下の表1に記載のナノ粒子を合成できることが記載されている。また、非特許文献1には、本出願で開示する混合部7は記載されていないが、その他の記載事項は本出願で開示する合成装置、製造方法にも適用可能である。非特許文献1に記載されている事項は、参照により本明細書に含まれる。
【表1】
【0041】
混合工程では、原料液投入口5aから第1パイプ2内に投入した原料液13が、投入時に第1パイプ2の内壁2cに接触することなく第1パイプ2内に投入される。上記したとおり、実施形態に係る合成装置1または実施形態に係る配管構造を用いた合成装置を用いることで、原料液投入口5aから投入した原料液13が第2パイプ5から流れ出た後、接続している第1パイプ2の内壁2cに沿うように流れることはない。また、混合部7における第2パイプ5の先端の配置位置、原料液投入口5aの形状、高温・高圧水の流体力(第1パイプ2の断面積、単位面積当たりの流量、圧力等を考慮した高温・高圧水の流れの強さ)および原料液13を投入する際の流体力(第2パイプ5の断面積、単位面積当たりの流量、圧力等を考慮した原料液13の流れの強さ)に基づき、高温・高圧水の流体力と原料液13の流体力を適宜調整することで、原料液投入口5aから投入した原料液13が、原料液13の投入方向の第1パイプ2の内壁2cに当接することなく、原料液13と高温・高圧水を混合できる。
【0042】
ナノ粒子回収工程では、高温・高圧水と原料液13を混合することで形成したナノ粒子を回収する。ナノ粒子は、混合液中に分散された形、または、合成装置1がフィルター11を具備する場合はフィルター11に捕捉された形で得られる。ナノ粒子が混合液に分散されている場合は、先ず、第1パイプ2の端部から混合液を回収し、次いで、遠心分離によりナノ粒子を回収すればよい。ナノ粒子がフィルター11に捕捉されている場合は、フィルター11を合成装置1から取り外し、ナノ粒子を回収すればよい。なお、合成したナノ粒子の全てがフィルター11に捕捉されない可能性もある。したがって、合成装置1がフィルター11を具備する場合でも、混合液を遠心分離してもよい。
【0043】
以下に実施例を掲げ、本出願で開示する実施形態を具体的に説明するが、この実施例は単に実施形態の説明のためのものである。本出願で開示する発明の範囲を限定したり、あるいは制限することを表すものではない。
【実施例0044】
[配管構造、合成装置1の作製]
<実施例1>
図6Bに示す実施形態の混合部7を有する配管構造を作製した。より具体的には、外径1/8インチのSUS316管を固定することが可能な略T字状の配管構造(Swagelok社製SS-200-3)に、外径1/8インチのSUS316管(第1パイプ2)を固定した。なお、外径1/16インチのSUS316管(第2パイプ5)は、外径を変換するレデューサー(Swagelok社製SS-100-R-4)を用いて、上記の略T字状配管構造に固定した。なお、外径1/16インチのSUS316管(第2パイプ5)は、第1パイプ2の接続部側の内壁2cから、第1パイプ2の直径の約2/5程度、第1パイプ2に挿入した位置に配置した。次に、作製した配管構造を用い、非特許文献1と同様の装置を作製した。
【0045】
<比較例1>
レデューサーおよび外径1/16インチのSUS316管(第2パイプ5)を用いず、外径1/8インチのSUS316管を固定することが可能な略T字状の配管構造を用いた以外は、実施例1と同様の手順で合成装置を作製した。
【0046】
[ナノ粒子の合成]
(1)原料水溶液
原料水溶液には、0.01mol/LのCe(NO3)3・6H2O水溶液を用いた。
(2)合成条件
第1パイプ2に水を圧力25MPaとなるように供給した。また、第1パイプ2を385℃で加熱することで、超臨界水を形成した。
【0047】
<実施例2>
実施例1で作製した合成装置を用い、超臨界水の流量を8.0g/min、原料液の投入流量を2.0g/minに設定し、ナノ粒子を合成した。
【0048】
<実施例3>
原料液の投入流量を4.0g/minとした以外は、実施例2と同様の手順でナノ粒子を合成した。
【0049】
<実施例4>
超臨界水の流量を12.0g/min、原料液の投入流量を3.0g/minとした以外は、実施例2と同様の手順でナノ粒子を合成した。
【0050】
<比較例2>
比較例1で作製した合成装置を用いた以外は、実施例2と同様の手順でナノ粒子を合成した。
【0051】
<比較例3>
比較例1で作製した合成装置を用いた以外は、実施例3と同様の手順でナノ粒子を合成した。
【0052】
<比較例4>
比較例1で作製した合成装置を用いた以外は、実施例4と同様の手順でナノ粒子を合成した。
【0053】
図7Aに実施例2で合成したナノ粒子のSEM写真および粒子径の分布を示す。
図7Bに比較例2で合成したナノ粒子のSEM写真および粒子径の分布を示す。
図8Aに実施例3で合成したナノ粒子のSEM写真および粒子径の分布を示す。
図8Bに比較例3で合成したナノ粒子のSEM写真および粒子径の分布を示す。
図9Aに実施例4で合成したナノ粒子のSEM写真および粒子径の分布を示す。
図9Bに比較例4で合成したナノ粒子のSEM写真および粒子径の分布を示す。
図7A~
図9Bから明らかなように、実施例1の合成装置1を用いて合成した実施例2~4のナノ粒子は、比較例1の合成装置を用いて合成した比較例2~4のナノ粒子に比べ、何れの実施例においても、合成したナノ粒子の平均粒子径を小さくすることができた。また、実施例2~4で合成したナノ粒子のサイズのばらつきも、比較例2~4で合成したナノ粒子のばらつきより小さくできた。更に、実施例2~4では、超臨界水の流量と原料液の投入量の比について、原料液の投入量を小さくするほど平均粒子径が小さくなること、および、超臨界水の流量と原料液の投入量の比が同じ場合は絶対量を小さくするほど平均粒子径が小さくなること、を確認した。本出願で開示する製造方法を実施する際には、所望の粒子径となるように、超臨界水と原料液の流量および比を調整すればよい。一方、比較例2~4の超臨界水と原料液の流量および比は実施例2~4と同じであったが、合成したナノ粒子の平均粒子径の差はあまり見られなかった。当該結果から、本出願で開示する合成装置1および製造方法を用いることで、合成するナノ粒子の平均粒子径のサイズを調整し易くなることを確認した。
【0054】
[混合部における超臨界水と原料液の混合状況の確認]
(1)実験手順および原理について
非特許文献1に記載されている中性子ラジオグラフィー(原子炉から発生する中性子束を用いた測定)と同様の測定系を構築し、実施例1および比較例1で作製した合成装置の混合部7における超臨界水と原料液(ただし、本実験では、原料液に替え、25℃の室温水を用いた。)の混合の様子を観察した。
図10に測定系の概略図を示す。測定系の装置および条件は、以下のとおり。
・カメラ:BITRAN BU-53LN
・レンズ:シグマ光機180mm F2.8
・コンバータ:トライテック6LiF/ZnS 200μm
・測定タイミング:原子炉の運転出力が5MWの時
・露光時間:30s
・撮像枚数:10枚
・1024×1024 pixel
・ポートからの距離:~2m
【0055】
図11を参照して測定原理を説明する。
図11Aは超臨界水および室温水を詰めていない空の状態の混合部の吸光度像である。
図11Bは、第1パイプ2および第2パイプ5に室温水を詰めた時の混合部の吸光度像である。
図11Cは、第1パイプ2および第2パイプ5に、以下に記載する各条件で超臨界水および室温水を流した際の混合部の吸光度像である。そして、
図11A乃至
図11Cの吸光度像を(C-A)/(B-A)で解析することで、
図11Dに示すような水密度の像が得られる。
【0056】
(2)実施例2および4、並びに、比較例2および4の混合状況
先ず、実施例2および4、並びに、比較例2および4と同じ条件(ただし、原料液に替え、25℃の室温水を用いた。)の水密度像を得る実験を行った。
図12Aは実施例2、
図12Bは比較例2、
図13Aは実施例4、および、
図13Bは比較例4、の混合部における水密度像である。
図12Aおよび
図13Aの水密度像(特に四角で囲った部分)から明らかなように、実施例1で作製した合成装置1を用いた場合、第2パイプから投入された原料液(室温水)は、投入時に第1パイプの内壁に接触することなく第1パイプ内に投入されることを確認した。一方、
図12Bおよび
図13Bの水密度像(特に矢印で示す部分)から明らかなように、比較例1で作製した合成装置を用いた場合、第2パイプから投入された室温水は第1パイプの内壁に沿って流れたことを確認した。
図12A~
図13Bに示す結果から、混合部における超臨界水と原料液の混合状況が、製造するナノ粒子の粒子サイズやサイズの分布に影響を与えることを確認した。なお、
図13Cに、比較例1の合成装置を用いて、約30分ナノ粒子を連続合成した後の配管構造の分解写真を示す。
図13Cの右側の部材の白色の円で囲った部分の内側が、第1パイプ2の内壁2cに付着した粒子(閉塞物)である。
図13Cの右側の写真に示すように、白色の円の中央のわずかな部分を残しパイプが閉塞物で詰まっていることを確認した。一方、実施例1の合成装置1を用いた場合は、同じ時間連続合成した後でも閉塞物は見られなかった。
【0057】
(3)超臨界水の流量と室温水の投入流量を変えた際の混合状況
次に、実施例1で作製した合成装置1を用い、超臨界水の流量と室温水の投入流量を様々に変化した実験を行った。表2に超臨界水の流量および室温水の投入流量、並びに、該当する図の番号を示す。
【表2】
【0058】
図14A~
図17Cに示す結果より、超臨界水の流量に対する室温水の投入流量の比を大きくすると、原料液投入口5aから投入した室温水が、室温水の投入方向の第1パイプ2の内壁に当接することを確認した。したがって、第1パイプ内の原料液投入口の配置位置により異なるものの、超臨界水の流量に対する原料液の投入流量の比を調整することで、投入時に原料液が第1パイプの内壁に接触することなく第1パイプ内に投入できることを確認した。
本出願で開示する、流通式水熱合成装置、流通式水熱合成装置に使用する配管構造およびナノ粒子の製造方法を用いることで、平均粒子径の小さなナノ粒子を合成できる。したがって、エレクトロニクス、光学デバイス、触媒、医療応用の分野にとって有用である。
1…流通式水熱合成装置、2、2a、2b…第1パイプ、2c…第1パイプの内壁、2d…凸部、3…第1加圧装置、4…第1加熱装置、5…第2パイプ、5a…原料液投入口、5b…原料液投入口の外縁、6…第2加圧装置、7…混合部、8…第2加熱装置、9…冷却装置、10…背圧弁、11…フィルター、12…水、13…原料液、14…ナノ粒子