(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024070221
(43)【公開日】2024-05-22
(54)【発明の名称】魚類α溶血性連鎖球菌症に対するワクチン
(51)【国際特許分類】
A61K 39/02 20060101AFI20240515BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20240515BHJP
【FI】
A61K39/02
A61P31/04 171
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023168662
(22)【出願日】2023-09-28
(31)【優先権主張番号】P 2022180621
(32)【優先日】2022-11-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】591193370
【氏名又は名称】株式会社微生物化学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】関口 洋介
(72)【発明者】
【氏名】岩田 晃
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 寿浩
(72)【発明者】
【氏名】池ヶ谷 健吾
【テーマコード(参考)】
4C085
【Fターム(参考)】
4C085AA03
4C085BA08
4C085CC07
4C085DD03
4C085DD23
4C085DD41
4C085DD90
4C085EE05
4C085EE06
4C085FF24
4C085GG06
(57)【要約】
【課題】魚類α溶血性連鎖球菌症に対するワクチンを提供する。
【解決手段】魚類α溶血性連鎖球菌症を起因するラクトコッカス属細菌の培養上清をワクチンの有効成分として利用する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
魚類α溶血性連鎖球菌症に対するワクチンであって、
魚類α溶血性連鎖球菌症を起因するラクトコッカス属細菌の培養上清を含有する、ワクチン。
【請求項2】
前記細菌が、ラクトコッカス・ガルビエ(Lactococcus garvieae)、ラクトコッカス・フォルモセンシス(Lactococcus formosensis)、ラクトコッカス・ペタウリ(Lactococcus petauri)、又はそれらの近縁種である、請求項1に記載のワクチン。
【請求項3】
前記細菌が、ラクトコッカス・ガルビエI型、ラクトコッカス・ガルビエII型、又は血清型不明ラクトコッカス・ガルビエである、請求項2に記載のワクチン。
【請求項4】
前記細菌の菌体を実質的に含有しない、請求項1~3のいずれか1項に記載のワクチン。
【請求項5】
前記培養上清が前記細菌の培養菌液から該細菌の菌体を除去することにより得られたものであり、且つ、前記除去前に前記菌体が不活化されていない、請求項1~3のいずれか1項に記載のワクチン。
【請求項6】
さらにアジュバントを含有する、請求項1~3のいずれか1項に記載のワクチン。
【請求項7】
さらに無毒化剤を含有する、請求項1~3のいずれか1項に記載のワクチン。
【請求項8】
魚類α溶血性連鎖球菌症に対するワクチンの製造方法であって、
魚類α溶血性連鎖球菌症を起因するラクトコッカス属細菌を培養して培養菌液を取得する工程、
前記培養菌液から前記細菌の菌体を除去して培養上清を取得する工程、および
前記培養上清を濃縮する工程、
を含む、方法。
【請求項9】
前記培養が、液体培地を用いて実施される、請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
前記除去前に、前記菌体を不活化する工程を含まない、請求項8または9に記載の製造方法。
【請求項11】
前記除去後に、さらに無毒化剤を添加する工程を含む、請求項8または9に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、魚類α溶血性連鎖球菌症に対するワクチンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
Lactococcus garvieae(ラクトコッカス・ガルビエ)等のラクトコッカス属細菌に起因する魚類α溶血性連鎖球菌症は、ブリ等の魚類の養殖における感染症として知られている(特許文献1~2および非特許文献1~5)。
【0003】
ラクトコッカス・ガルビエには、従来の血清型診断用抗血清(これはラクトコッカス・ガルビエKG-型菌株に対する抗血清である)に対する凝集性等の異なる複数の血清型が存在し(特許文献1および非特許文献1~5)、それら血清型は血清型判別用PCRにより判別することができる(非特許文献3~4)。
【0004】
魚類α溶血性連鎖球菌症に対するワクチンとしては、ラクトコッカス・ガルビエ等の魚類α溶血性連鎖球菌症の起因菌の菌体または不活化菌体を有効成分とするワクチンが知られている(特許文献1~2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015-038113
【特許文献2】特開平11-332558
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Fukuda et al., 魚病研究 Fish Pathology, 50(4), 200-206, 2015.12
【非特許文献2】Yoshida, 魚病研究 Fish Pathology, 51(2), 44-48, 2016.6
【非特許文献3】Ohbayashi et al., 魚病研究 Fish Pathology, 52(1), 46-49, 2017.3
【非特許文献4】2022年日本魚病学会大会要旨
【非特許文献5】農林水産省 消費・安全局 畜水産安全管理課課長通知 令和4年6月9日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、魚類α溶血性連鎖球菌症に対するワクチンを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、魚類α溶血性連鎖球菌症を起因するラクトコッカス属細菌の培養上清が魚類α溶血性連鎖球菌症に対するワクチンとして機能することを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は以下の通り例示できる。
[1]
魚類α溶血性連鎖球菌症に対するワクチンであって、
魚類α溶血性連鎖球菌症を起因するラクトコッカス属細菌の培養上清を含有する、ワクチン。
[2]
前記細菌が、ラクトコッカス・ガルビエ(Lactococcus garvieae)、ラクトコッカス・フォルモセンシス(Lactococcus formosensis)、ラクトコッカス・ペタウリ(Lactococcus petauri)、又はそれらの近縁種である、前記ワクチン。
[3]
前記細菌が、ラクトコッカス・ガルビエI型、ラクトコッカス・ガルビエII型、又は血清型不明ラクトコッカス・ガルビエである、前記ワクチン。
[4]
前記細菌の菌体を実質的に含有しない、前記ワクチン。
[5]
前記培養上清が前記細菌の培養菌液から該細菌の菌体を除去することにより得られたものであり、且つ、前記除去前に前記菌体が不活化されていない、前記ワクチン。
[6]
さらにアジュバントを含有する、前記ワクチン。
[7]
さらに無毒化剤を含有する、前記ワクチン。
[8]
魚類α溶血性連鎖球菌症に対するワクチンの製造方法であって、
魚類α溶血性連鎖球菌症を起因するラクトコッカス属細菌を培養して培養菌液を取得する工程、
前記培養菌液から前記細菌の菌体を除去して培養上清を取得する工程、および
前記培養上清を濃縮する工程、
を含む、方法。
[9]
前記培養が、液体培地を用いて実施される、前記製造方法。
[10]
前記除去前に、前記菌体を不活化する工程を含まない、前記製造方法。
[11]
前記除去後に、さらに無毒化剤を添加する工程を含む、前記製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、魚類α溶血性連鎖球菌症に対するワクチンを提供することができる。同ワクチンを利用することにより、ラクトコッカス・ガルビエI型、ラクトコッカス・ガルビエII型、又は血清型不明ラクトコッカス・ガルビエを起因菌とする魚類α溶血性連鎖球菌症等の魚類α溶血性連鎖球菌症の発生、伝播、または蔓延を予防することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】不活化工程を含むL. garvieae II型培養上清ワクチンを利用した魚類α溶血性連鎖球菌症の発症防御試験の結果を示す図。
【
図2】不活化工程を含まないL. garvieae II型培養上清ワクチンを利用した魚類α溶血性連鎖球菌症の発症防御試験の結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<1>魚類α溶血性連鎖球菌症に対するワクチン
本明細書に記載のワクチンは、魚類α溶血性連鎖球菌症に対するワクチンである。
【0013】
「魚類α溶血性連鎖球菌症」とは、魚類におけるα溶血性連鎖球菌に起因する感染症を意味する。「α溶血性連鎖球菌」とは、血液寒天培地上でコロニー周辺にメトヘモグロビンの緑色帯を生じる連鎖球菌を意味する。魚類α溶血性連鎖球菌症を起因するα溶血性連鎖球菌としては、後述する魚類α溶血性連鎖球菌症を起因するラクトコッカス属細菌が挙げられる。「魚類α溶血性連鎖球菌症を起因する細菌」とは、言い換えると、「魚類α溶
血性連鎖球菌症の起因菌である細菌」であり、「魚類α溶血性連鎖球菌症を引き起こす細菌」である。
【0014】
本明細書に記載のワクチンは、魚類α溶血性連鎖球菌症に適用することができる。本明細書に記載のワクチンは、具体的には、魚類α溶血性連鎖球菌症の予防に利用することができる。魚類α溶血性連鎖球菌症の予防としては、魚類α溶血性連鎖球菌症の発生、伝播、または蔓延の予防が挙げられる。本明細書に記載のワクチンの適用対象となる魚類α溶血性連鎖球菌症を起因するα溶血性連鎖球菌を、「ワクチンの適用対象となるα溶血性連鎖球菌」ともいう。ワクチンの適用対象となるα溶血性連鎖球菌は、1種類の細菌であってもよく、2種類またはそれ以上の細菌であってもよい。
【0015】
本明細書に記載のワクチンの適用対象となる魚類は、本明細書に記載のワクチンの効果の発揮(例えば、魚類α溶血性連鎖球菌症の予防)を希望するものであれば、特に制限されない。本明細書に記載のワクチンの適用対象となる魚類としては、α溶血性連鎖球菌症に罹患し得る魚類が挙げられる。α溶血性連鎖球菌症に罹患し得る魚類は、海水魚であってもよく、淡水魚であってよく、通し回遊魚であってもよい。α溶血性連鎖球菌症に罹患し得る魚類として、具体的には、ブリ属魚類(ブリ、カンパチ、ヒラマサなど)、マダイ、チダイ、ヒラメ、シマアジ、マアジ、サバ、マグロ、クロマグロ、イサキ、フグ、カワハギ、ウナギ、ニジマスが挙げられる。本明細書に記載のワクチンの適用対象となる魚類は、1種類の魚類であってもよく、2種類またはそれ以上の魚類であってもよい。
【0016】
本明細書に記載のワクチンは、魚類α溶血性連鎖球菌症を起因するラクトコッカス(Lactococcus)属細菌の培養上清を含有する。同ラクトコッカス属細菌を、「ワクチン製造用のラクトコッカス属細菌」ともいう。同培養上清を、「ラクトコッカス属細菌の培養上清」ともいう。
【0017】
魚類α溶血性連鎖球菌症を起因するラクトコッカス属細菌(すなわちワクチン製造用のラクトコッカス属細菌)としては、Lactococcus garvieae(ラクトコッカス・ガルビエ)、Lactococcus formosensis(ラクトコッカス・フォルモセンシス)、Lactococcus petauri(ラクトコッカス・ペタウリ)、それらの近縁種が挙げられる。ワクチン製造用のラクトコッカス属細菌としては、特に、ラクトコッカス・ガルビエやその近縁種が挙げられる。ワクチン製造用のラクトコッカス属細菌としては、さらに特には、ラクトコッカス・ガルビエが挙げられる。ワクチン製造用のラクトコッカス属細菌(特にラクトコッカス・ガルビエ)としては、ラクトコッカス・ガルビエI型、ラクトコッカス・ガルビエII型、血清型不明ラクトコッカス・ガルビエが挙げられる。ワクチン製造用のラクトコッカス属細菌としては、1種類のラクトコッカス属細菌を用いてもよく、2種類またはそれ以上のラクトコッカス属細菌を用いてもよい。また、培養上清としては、1種類の培養上清(例えば、1種類のラクトコッカス属細菌の培養上清)を用いてもよく、2種類またはそれ以上の培養上清(例えば、2種類またはそれ以上のラクトコッカス属細菌の培養上清)を用いてもよい。
【0018】
ワクチンの適用対象となるα溶血性連鎖球菌としては、ワクチン製造用のラクトコッカス属細菌として上記例示したラクトコッカス属細菌が挙げられる。ワクチンの適用対象となるα溶血性連鎖球菌は、ワクチン製造用のラクトコッカス属細菌と同一であってもよく、なくてもよい。本明細書に記載のワクチンは、例えば、少なくとも、ワクチン製造用のラクトコッカス属細菌と同一株に起因するα溶血性連鎖球菌症に適用されてよい。また、本明細書に記載のワクチンは、例えば、少なくとも、ワクチン製造用のラクトコッカス属細菌と同一種で同一血清型の株に起因するα溶血性連鎖球菌症に適用されてよい。また、本明細書に記載のワクチンは、例えば、少なくとも、ワクチン製造用のラクトコッカス属細菌と同一種の株に起因するα溶血性連鎖球菌症に適用されてよい。
【0019】
ワクチン製造用のラクトコッカス属細菌は、例えば、上記例示したような本明細書に記載のワクチンの適用対象となる魚類のいずれかから分離されたものであってよい。その場合、本明細書に記載のワクチンの適用対象となる魚類は、ワクチン製造用のラクトコッカス属細菌が分離された魚類と同一であってもよく、なくてもよい。
【0020】
「或る細菌種Xの近縁種」とは、細菌種Xと同属別種に分類される細菌または細菌種Xと同属に分類され且つ種が未同定の細菌であって、細菌種Xに属するいずれかの株(例えば細菌種Xの基準株)に対し16S rRNA遺伝子の塩基配列の同一性が90%以上、95%以上、または97%以上であるものを意味する。
【0021】
「ラクトコッカス・ガルビエI型」とは、ラクトコッカス・ガルビエの血清型診断用抗血清に対して凝集性を示し、かつ、ラクトコッカス・ガルビエの血清型判別用PCRで285±10bp、285±5bp、または285bpの増幅産物が得られるラクトコッカス属細菌(特にラクトコッカス・ガルビエ)を意味する。「ラクトコッカス・ガルビエの血清型判別用PCR」とは、Ohbayashi et al., 魚病研究 Fish Pathology, 52(1), 46-49, 2017.3(以下、Ohbayashi et al.)に記載のラクトコッカス・ガルビエの血清型判別用PCRを意味する。「ラクトコッカス・ガルビエの血清型診断用抗血清」とは、ラクトコッカス・ガルビエKG-型菌株に対する抗血清を意味する。ラクトコッカス・ガルビエの血清型診断用抗血清としては、Oinaka et al., 魚病研究 Fish Pathology, 50(2), 37-43, 2015.6に記載のものが挙げられる。
【0022】
「ラクトコッカス・ガルビエII型」とは、ラクトコッカス・ガルビエの血清型診断用抗血清に対して凝集性を示さず、かつ、ラクトコッカス・ガルビエの血清型判別用PCRで1285±10bp、1285±5bp、または1285bpの増幅産物が得られるラクトコッカス属細菌(特にラクトコッカス・ガルビエ)を意味する(Ohbayashi et al.)。なお、従来「ラクトコッカス・ガルビエII型」とされていたラクトコッカス属細菌は、2022年日本魚病学会大会要旨107によると、全ゲノムシーケンス等に基づく系統解析結果によってはLactococcus formosensis(ラクトコッカス・フォルモセンシス)に分類され得るが、本明細書では「ラクトコッカス・ガルビエII型」として取り扱う。
【0023】
「血清型不明ラクトコッカス・ガルビエ」とは、ラクトコッカス・ガルビエの血清型診断用抗血清に対して凝集性を示さないか、ラクトコッカス・ガルビエの血清型診断用抗血清に対する凝集性の判断が困難であり、かつ、ラクトコッカス・ガルビエの血清型判別用PCRで628±10bp、628±5bp、または628bpの増幅産物が得られるとして、ラクトコッカス属細菌(特にラクトコッカス・ガルビエ)と分類された細菌を意味する(2022年日本魚病学会大会要旨107)。血清型不明ラクトコッカス・ガルビエは、16S
rRNA、pheS、recA、rpoA、およびrpoB遺伝子の塩基配列を用いた多遺伝子座配列解析(MLSA)により、ラクトコッカス・ガルビエI型およびII型とは異なるクラスタに位置してよい。
【0024】
ワクチン製造用のラクトコッカス属細菌の取得方法は、特に制限されない。ワクチン製造用のラクトコッカス属細菌としては、例えば、市販株や寄託株等の既存の株を利用することができる。また、ワクチン製造用のラクトコッカス属細菌は、例えば、魚類α溶血性連鎖球菌症の発症が疑われたブリ等の魚類から分離することにより取得することができる。
【0025】
ラクトコッカス・ガルビエI型は、例えば、日本国のブリ等の魚類の養殖現場において魚類α溶血性連鎖球菌症の発症が疑われたブリ等の魚類の腎臓を採取し、これを寒天培地で培養して細菌を分離し、ラクトコッカス・ガルビエの血清型診断用抗血清および/また
はラクトコッカス・ガルビエの血清型判別用PCRによりラクトコッカス・ガルビエI型であることを同定することにより取得することができる。
【0026】
ラクトコッカス・ガルビエII型は、例えば、日本国のブリ等の魚類の養殖現場においてラクトコッカス・ガルビエI型に対する従来の不活化ワクチンを投与したにもかかわらず魚類α溶血性連鎖球菌症の発症が疑われたブリ等の魚類の腎臓を採取し、これを寒天培地で培養して細菌を分離し、ラクトコッカス・ガルビエの血清型診断用抗血清および/またはラクトコッカス・ガルビエの血清型判別用PCRによりラクトコッカス・ガルビエII型であることを同定することにより取得することができる。ラクトコッカス・ガルビエI型に対する従来の不活化ワクチンとしては、ピシバック(登録商標)ビブリオ+レンサ(共立製薬)が挙げられる。また、ラクトコッカス・ガルビエII型は、例えば、日本国のブリ等の魚類の養殖現場において、ラクトコッカス・ガルビエI型及びラクトコッカス・ガルビエII型に対する従来の不活化ワクチンを投与したにもかかわらず魚類α溶血性連鎖球菌症の発症が疑われたブリ等の魚類の腎臓を採取し、これを寒天培地で培養して細菌を分離し、ラクトコッカス・ガルビエの血清型診断用抗血清および/またはラクトコッカス・ガルビエの血清型判別用PCRによりラクトコッカス・ガルビエII型であることを同定することにより取得することもできる。ラクトコッカス・ガルビエI型及びラクトコッカス・ガルビエII型に対する従来の不活化ワクチンとしては、ピシバック(登録商標)注4(共立製薬)が挙げられる。
【0027】
血清型不明ラクトコッカス・ガルビエは、例えば、日本国のブリ等の魚類の養殖現場において、ラクトコッカス・ガルビエI型及びラクトコッカス・ガルビエII型に対する従来の不活化ワクチンを投与したにもかかわらず魚類α溶血性連鎖球菌症の発症が疑われたブリ等の魚類の腎臓を採取し、これを寒天培地で培養して細菌を分離し、α溶血性を示すラクトコッカス属細菌として同定されたにも関わらず、血清型診断用抗血清および/またはラクトコッカス・ガルビエの血清型判別用PCRにより血清型の分類ができなかった(すなわち血清型不明と判別された)細菌として取得することができる。ラクトコッカス・ガルビエI型及びラクトコッカス・ガルビエII型に対する従来の不活化ワクチンとしては、ピシバック(登録商標)注4(共立製薬)が挙げられる。
【0028】
現在市販されているワクチンは、いずれも、不活化菌体を主成分としたワクチンである。菌体は多くの抗原を含むため、一般的に、有効な免疫応答を誘導することができる。一方、培養上清には菌体からの分泌物や代謝産物が含有されているが、培養上清中の抗原の含有量は乏しいことが予想された。しかしながら、驚くべきことに、発明者がラクトコッカス属細菌の培養菌液から同細菌の菌体を除去したのち、濃縮し、ワクチン抗原として使用したところ、ラクトコッカス・ガルビエII型等の魚類α溶血性連鎖球菌症を起因するラクトコッカス属細菌に対する防御免疫を誘導できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0029】
「ラクトコッカス属細菌の培養上清」とは、ラクトコッカス属細菌の培養菌液から同細菌の菌体を除去して得られる液体画分を意味する。「ラクトコッカス属細菌の培養菌液」とは、ラクトコッカス属細菌を培養して得られる、同細菌の菌体を含有する懸濁液を意味する。液体培養の場合、ラクトコッカス属細菌の培養菌液としては、ラクトコッカス属細菌を液体培地で培養して得られる培養物が挙げられる。固体培養の場合、ラクトコッカス属細菌の培養菌液としては、ラクトコッカス属細菌を固体培地で培養し、固体培地上の同細菌の菌体を回収して得られる懸濁液が挙げられる。固体培地上の菌体は、例えば、液体媒体に懸濁することで懸濁液として回収することができる。液体媒体としては、水や水性緩衝液等の水性媒体が挙げられる。ラクトコッカス属細菌の培養菌液は、ラクトコッカス属細菌の菌体に加えて、同菌体からの分泌物等の種々の成分を含有してよい。
【0030】
すなわち、本明細書に記載のワクチンは、具体的には、例えば、魚類α溶血性連鎖球菌症を起因するラクトコッカス属細菌(すなわちワクチン製造用のラクトコッカス属細菌)を培養し、得られた培養菌液から同細菌の菌体を除去することにより製造することができる。すなわち、本明細書に記載のワクチンの製造方法は、例えば、魚類α溶血性連鎖球菌症に対するワクチンの製造方法であって、魚類α溶血性連鎖球菌症を起因するラクトコッカス属細菌(すなわちワクチン製造用のラクトコッカス属細菌)を培養して培養菌液を取得する工程(「培養工程」ともいう)、および前記培養菌液から前記細菌の菌体を除去して培養上清を取得する工程(「菌体除去工程」ともいう)を含む方法であってよい。培養工程は、例えば、魚類α溶血性連鎖球菌症を起因するラクトコッカス属細菌を液体培地で培養して培養物(すなわち培養菌液)を取得する工程であってよい。また、培養工程は、例えば、魚類α溶血性連鎖球菌症を起因するラクトコッカス属細菌を固体培地で培養し、固体培地から同細菌の菌体を回収して同菌体を含有する懸濁液(すなわち培養菌液)を取得する工程であってよい。
【0031】
ラクトコッカス属細菌の培養方法は、特に制限されない。ラクトコッカス属細菌の培養は、例えば、ラクトコッカス属細菌の培養に利用される公知の条件またはそれを適宜改変した条件で実施してよい。ラクトコッカス属細菌の培養は、固体培地や液体培地等のいずれの培地を用いて実施してもよい。ラクトコッカス属細菌の培養は、特に、大量培養が可能な点で、液体培地を用いて実施するのが好ましい。固体培地や液体培地等の培地としては、例えば、ラクトコッカス属細菌の培養に利用される公知の培地またはそれを適宜改変した培地を用いてよい。例えば、液体培地としては、肉エキス液状培地(BHI)やカゼイン・ダイズ混合ペプトン液状培地(TPB、TSB)が挙げられる。好ましい液体培地としては、製造コストの削減の観点から、カゼイン・ダイズ混合ペプトン液体培地が挙げられる。また、例えば、固体培地としては、上記例示した液体培地を寒天やゲランガム等のゲル化剤で固化したものが挙げられる。
【0032】
培養菌液からの菌体の除去方法は、特に制限されない。菌体の除去方法としては、フィルターろ過や遠心分離が挙げられる。菌体の除去におけるフィルターろ過に使用されるフィルターを、「除菌フィルター」ともいう。これらの菌体の除去方法は、単独で、あるいは適宜組み合わせて利用してよい。菌体の除去は、例えば、少なくとも、フィルターろ過により実施されてよい。菌体の除去は、具体的には、例えば、除菌フィルターを通して培養菌液を遠心ろ過することにより実施してよい。また、菌体の除去は、具体的には、例えば、培養菌液を遠心し、その後、遠心上清を除菌フィルターでろ過することにより実施してよい。除菌フィルターは、例えば、孔径が0.45 μm以下であるのが好ましい。「菌体が除去された」とは、菌体の除去後の培養菌液(すなわち培養上清)中の生菌数が平板塗抹培養法の検出限界である100 cfu/mL以下であることを意味し、好ましくは10 cfu/mL以下であることを意味してよい。また、菌体の除去後の培養菌液(すなわち培養上清)中の総菌数は、例えば、100 cells/mL以下であってよく、好ましくは10 cells/mLであってよい。
【0033】
菌体は、培養菌液からの除去前に不活化されていてもよく、いなくてもよい。すなわち、培養菌液から除去される菌体は、不活化菌体であってもよく、そうでなくてもよい。また、本明細書に記載のワクチンの製造方法は、菌体除去工程の前に、菌体を不活化する工程(「不活化工程」ともいう)を含んでいてもよく、いなくてもよい。
【0034】
菌体の不活化は、例えば、培養菌液を不活化処理に供することにより実施できる。すなわち、菌体の除去前の培養菌液は、不活化処理に供されたものであってもよく、そうでなくてもよい。また、不活化工程は、例えば、培養菌液を不活化処理に供する工程であってもよい。不活化処理としては、物理的処理(紫外線照射、X線照射、熱処理、超音波処理など)、化学的処理(ホルマリンやクロロホルム等の有機溶媒による処理、酢酸等の弱酸
による処理、アルコール、塩素、水銀等の他の薬品による処理など)が挙げられる。例えば、培養菌液にホルマリンを0.001~2.0v/v%、より好適には0.01~1.0v/v%の終濃度で添加し、培養菌液を4~30℃で、1~3日間感作することにより、ホルマリンによる菌体の不活化を実施することができる。
【0035】
本明細書に記載のワクチンは、ラクトコッカス属細菌の培養上清からなるものであってもよく、そうでなくてもよい。すなわち、本明細書に記載のワクチンは、ラクトコッカス属細菌の培養上清に加えて、他の成分を含有していてもよい。
【0036】
ただし、本明細書に記載のワクチンは、ワクチン製造用のラクトコッカス属細菌の菌体を実質的に含有しなくてよい。「本明細書に記載のワクチンがワクチン製造用のラクトコッカス属細菌の菌体を実質的に含有しない」とは、本明細書に記載のワクチンにおけるワクチン製造用のラクトコッカス属細菌の菌体の含有量が10000 cells/g以下、1000 cells/g以下、100 cells/g以下、または10 cells/g以下であることを意味する。
【0037】
本明細書に記載のワクチンにおけるラクトコッカス属細菌の培養上清の含有量は、本明細書に記載のワクチンが魚類α溶血性連鎖球菌症に対するワクチンとして機能する限り、特に制限されない。本明細書に記載のワクチンにおけるラクトコッカス属細菌の培養上清の含有量は、例えば、同培養上清に由来する抗原の量、ワクチンの投与量、ワクチンの投与方法、ワクチンの投与対象の魚類等の諸条件に応じて適宜設定できる。
【0038】
本明細書に記載のワクチンにおけるラクトコッカス属細菌の培養上清の含有量は、例えば、培養上清が由来する培養菌液の生菌数に換算して、1×107 cfu/g以上、1×108 cfu/g以上、1×109 cfu/g以上、1×1010 cfu/g以上、1×1011 cfu/g以上、1×1012 cfu/g以上、または1×1013 cfu/g以上であってもよく、1×1014 cfu/g以下、1×1013 cfu/g以下、1×1012 cfu/g以下、1×1011 cfu/g以下、1×1010 cfu/g以下、1×109 cfu/g以下、または1×108 cfu/g以下であってもよく、それらの矛盾しない組み合わせの範囲であってもよい。本明細書に記載のワクチンにおけるラクトコッカス属細菌の培養上清の含有量は、具体的には、例えば、培養上清が由来する培養菌液の生菌数に換算して、1×107~1×1014 cfu/g、1×108~1×1013cfu/g、または1×109~1×1012 cfu/gであってもよい。「本明細書に記載のワクチンにおけるラクトコッカス属細菌の培養上清の含有量が、培養上清が由来する培養菌液の生菌数に換算してN cfu/g(Nは正の数)である」とは、N cfuのラクトコッカス属細菌を含有する量の培養菌液(不活化処理が実施される場合は不活化処理の実施前の培養菌液)から得られた培養上清全量が本明細書に記載のワクチン1 gに含有されていることを意味する。例えば、1×108 cfu/mLの培養菌液100 mL(総生菌数として1×1010 cfu)から取得した培養上清全量を濃縮し、任意(optionally)にアジュバント等の添加剤を配合して、最終的に0.5 gのワクチンを取得した場合、同ワクチンにおける培養上清の含有量は、培養上清が由来する培養菌液の生菌数に換算して、2×1010 cfu/gである。
【0039】
本明細書に記載のワクチンは、例えば、さらに、上記例示したような不活化処理に用いられた成分を含有していてもよく、いなくてもよい。
【0040】
本明細書に記載のワクチンは、例えば、さらに、アジュバントを含有していてもよく、いなくてもよい。すなわち、本明細書に記載のワクチンの製造方法は、例えば、アジュバントを添加する工程(「アジュバント添加工程」ともいう)を含んでいてもよく、いなくてもよい。本明細書に記載のワクチンの製造方法は、例えば、菌体除去工程の後に、アジュバント添加工程を含んでいてもよい。アジュバントの添加により、例えば、本明細書に記載のワクチンを利用する際の免疫応答の増強が期待できる。よって、アジュバントの添加により、本明細書に記載のワクチンに含有されるラクトコッカス属細菌の培養上清の量を少なくすること、具体的には、本明細書に記載のワクチンに含有される同培養上清に由来する抗原の量を少なくすることが可能であると期待される。
【0041】
アジュバントとしては、沈降性アジュバント、油性アジュバント、水性アジュバントが挙げられる。「沈降性アジュバント」とは、ペプチドを吸着する無機物の懸濁剤を意味する。沈降性アジュバントとしては、水酸化アルミニウム(「アラム(Alum)」ともいう)、リン酸カルシウム、リン酸アルミニウム、ミョウバンが挙げられる。「油性アジュバント」とは、ペプチドを含む水溶液を乳化する油乳剤を意味する。油性アジュバントとしては、流動パラフィン、ラノリン、O/Wエマルジョン、W/Oエマルジョン、W/O/Wエマルジョンが挙げられる。水性アジュバントとしては、サポニン、グルコン酸マンガン、グルコン酸カルシウム、グリセロリン酸マンガン、可溶性酢酸アルミニウム、サリチル酸アルミニウム、アクリル酸コポリマー、メタクリル酸コポリマー、無水マレイン酸コポリマー、アルケニル誘導体ポリマーが挙げられる。アジュバントとして、さらに具体的には、公知の水酸化アルミニウムおよびリン酸アルミニウム等のアルミニウム化合物、AS04(登録商標)等の細菌由来物質、MF59(登録商標)およびAS03(登録商標)等のO/Wエマルジョン、モンタナイド(商標)ISAシリーズのO/WエマルジョンおよびW/Oエマルジョンが挙げられる。中でも、好ましいアジュバントとしては、魚用アジュバントでW/Oエマルジョンであるモンタナイド(商標)ISA 761VG、78VG、660VGが挙げられる。アジュバントとしては、1種のアジュバントを用いてもよく、2種またはそれ以上のアジュバントを用いてもよい。
【0042】
本明細書に記載のワクチンは、例えば、さらに、無毒化剤を含有していてもよく、いなくてもよい。本明細書に記載のワクチンは、魚類α溶血性連鎖球菌の培養上清を含有するので、溶血性毒素を含有し得る。一般的に溶血性毒素は細胞に毒性を示す。したがって、本明細書に記載のワクチンは、例えば、溶血性毒素の作用を抑制するために無毒化剤を含有していてよい。また、本明細書に記載のワクチンの製造方法は、例えば、無毒化剤を添加する工程(「無毒化剤添加工程」ともいう)を含んでいてもよく、いなくてもよい。本明細書に記載のワクチンの製造方法は、例えば、菌体除去工程の後に、無毒化剤添加工程を含んでいてもよい。
【0043】
無毒化剤は、本明細書に記載のワクチンの免疫原性を損なうことなく、且つ、毒素を失活させるものであれば、特に制限されない。無毒化剤としては、ホルマリン等の保存剤が挙げられる。
【0044】
本明細書に記載のワクチンにおける無毒化剤(例えばホルマリン)の含有量は、例えば、0.05~0.3w/w%であってよく、好ましくは0.1w/w%であってよい。2種またはそれ以上の無毒化剤を用いる場合、「無毒化剤の含有量」とは、特記しない限り、それら無毒化剤の総含有量を意味する。しかし、2種またはそれ以上の無毒化剤を用いる場合に、それら無毒化剤の含有量をそれぞれ独立に上記例示した無毒化剤の含有量の範囲に設定してもよい。
【0045】
培養上清は、本明細書に記載のワクチンの免疫原性を損なわない限り、濃縮等の処理がなされていてもよく、いなくてもよい。すなわち、本明細書に記載のワクチンの製造方法は、例えば、培養上清を濃縮する工程(「濃縮工程」ともいう)を含んでいてもよく、いなくてもよい。培養上清の濃縮の程度は、特に制限されない。培養上清の濃縮の程度は、容量比で、例えば、2倍以上、5倍以上、10倍以上、100倍以上、または1000倍以上であってもよく、10000倍以下、1000倍以下、100倍以下、10倍以下、または5倍以下であってもよく、それらの矛盾しない組み合わせであってもよい。培養上清の濃縮の程度は、容量比で、具体的には、例えば、2~5倍、5~10倍、10~100倍、100~1000倍、または1000~10000倍であってもよい。培養上清の濃縮の程度は、容量比で、具体的には、例えば、5~1000倍であってもよい。「濃縮」には、乾燥も包含されてよい。「培養上清の濃縮」には、培養上清と他の成分との混合物の濃縮も包含されてよい。本明細書に記載のワクチンの製造方法は、例えば、菌体除去工程の後に、濃縮工程を含んでいてもよい。本明細書に記載のワクチンの製造方法は、例えば、アジュバント添加工程の前に、濃縮工程を含んでいてもよい。本明細書に記載のワクチンの製造方法は、例えば、無毒化剤添加工程の前に、濃縮工程を含んでいてもよい。本明細書に記載のワクチンの製造方法は、例えば、アジュバント添加工程や無毒化剤添加工程等の他の成分を添加する工程の後に濃縮工程を含んでいてもよい。濃縮工程は、1回実施してもよく、2回以上実施してもよい。例えば、濃縮工程により培養上清をある程度濃縮してからアジュバント添加工程や無毒化剤添加工程等の他の成分を添加する工程を実施し、次いでさらに濃縮工程(例えば乾燥工程)を実施してもよい。
【0046】
培養上清の濃縮方法は、特に制限されない。培養上清の濃縮方法としては、限外濾過、減圧濃縮、噴霧乾燥、凍結乾燥が挙げられる。
【0047】
本明細書に記載のワクチンの形状は、特に制限されない。本明細書に記載のワクチンは、液体や粉末等の任意の形状であってよい。本明細書に記載のワクチンは、例えば、そのまま使用できる形態で製造および提供されてもよく、使用時に調製が必要な形態で製造および提供されてもよい。本明細書に記載のワクチンは、例えば、使用時に溶媒で希釈して使用される形態で製造および提供されてもよい。使用時に溶媒で希釈して使用される形態としては、乾燥物や濃縮液等の濃縮された形態が挙げられる。一態様において、本明細書に記載のワクチン(例えば、そのまま使用できる形態のワクチン)は、特に、液体であってよい。別の態様において、本明細書に記載のワクチン(例えば、乾燥物であるワクチン)は、特に、凍結乾燥品であってよい。
【0048】
菌体を含有するワクチンでは、抗原成分以外の菌体成分が副作用やアレルギー反応の原因となることがある。一方、本明細書に記載のワクチンでは、菌体を除去しているため、副作用やアレルギー反応を抑えることができると期待される。
【0049】
本明細書に記載のワクチンは、単独で利用してもよく、他のワクチンとの混合ワクチン製剤として利用してもよい。すなわち、本発明は、本明細書に記載のワクチンと他のワクチンとの混合ワクチン製剤も開示する。異なる抗原を混合した多価ワクチンでは、抗原の干渉による免疫原性の低下が起こる場合がある。一方、本明細書に記載のワクチンでは、菌体を除去しているため、干渉効果を抑えることができると期待される。よって、本明細書に記載のワクチンは、他のワクチンとの混合ワクチン製剤としても効果的に機能すると期待される。他のワクチンは、不活化菌体を含有するワクチンであってもよく、そうでなくてもよい。他のワクチンとしては、魚類の疾病に対するワクチンが挙げられる。他のワクチン(特に魚類の疾病に対するワクチン)として、具体的には、α溶血性連鎖球菌症不活化ワクチン、β溶血性連鎖球菌症不活化ワクチン、ビブリオ病不活化ワクチン、イリドウイルス病不活化ワクチン、類結節症不活化ワクチン、ストレプトコッカス・ジスガラクチエ感染症不活化ワクチンが挙げられる。他のワクチンとしては、1種類のワクチンを用いてもよく、2種類またはそれ以上のワクチンを用いてもよい。
【0050】
<2>魚類α溶血性連鎖球菌症の予防
本明細書に記載の予防方法は、魚類α溶血性連鎖球菌症を予防する方法であって、本明細書に記載のワクチンを魚類に投与する工程を含む方法である。
【0051】
本明細書に記載の予防方法の適用対象となる魚類α溶血性連鎖球菌症を起因するα溶血性連鎖球菌については、本明細書に記載のワクチンの適用対象となる魚類α溶血性連鎖球菌症を起因するα溶血性連鎖球菌について上述した通りである。
【0052】
本明細書に記載の予防方法の適用対象となる魚類については、本明細書に記載のワクチンの適用対象となる魚類について上述した通りである。
【0053】
ワクチンの投与方法は、魚類α溶血性連鎖球菌症を予防できる限り、特に制限されない。
【0054】
ワクチンの投与方法としては、注射法、浸漬法、経口法が挙げられる。ワクチンの投与量は、ワクチンの投与方法、ワクチンの投与対象の魚類、ワクチンにおけるラクトコッカス属細菌の培養上清の含有量、同培養上清に由来する抗原の量等の諸条件に応じて適宜設定できる。本明細書に記載のワクチンは、そのまま、あるいは投与に適した形状に適宜調製して、魚類に投与することができる。例えば、液体である本明細書に記載のワクチンを、そのまま、あるいは適宜希釈等して、魚類に投与してよい。また、例えば、液体でない本明細書に記載のワクチンを、そのまま、あるいは適宜液体に調製して、魚類に投与してよい。ワクチンは、1回のみ投与してもよく、2回またはそれ以上投与してもよい。
【0055】
注射法の場合、例えば、本明細書に記載のワクチンを魚類の筋肉内または腹腔内に投与してよい。ワクチンの投与量は、例えば、0.05 mL以上、0.07 mL以上、0.1 mL以上、0.3 mL以上、0.5 mL以上、または1 mL以上であってもよく、3.0 mL以下、2.5 mL以下、2.0 mL以下、1.5 mL以下、1.0 mL以下、または0.5 mL以下であってもよく、それらの矛盾しない組み合わせであってもよい。ワクチンの投与量は、具体的には、例えば、0.05~3.0 mLであってもよい。ワクチンの投与量は、例えば、培養上清が由来する培養菌液の生菌数に換算して、1×107 cfu以上、1×108 cfu以上、または1×109 cfu以上であってもよく、1×1012 cfu以下、1×1011 cfu以下、1×1010 cfu以下であってもよく、それらの組み合わせであってもよい。ワクチンの投与量は、具体的には、例えば、培養上清が由来する培養菌液の生菌数に換算して、1×107 cfu~1×1012 cfu、1×108 cfu~1×1011 cfu、または1×109 cfu~1×1010 cfuであってもよい。「ワクチンの投与量が、培養上清が由来する培養菌液の生菌数に換算してN cfu(Nは正の数)である」とは、N cfuのラクトコッカス属細菌を含有する量の培養菌液(不活化処理が実施される場合は不活化処理の実施前の培養菌液)から得られた培養上清全量を含むワクチンが投与されることを意味する。
【0056】
浸漬法の場合、例えば、本明細書に記載のワクチンを希釈して得た浸漬液に魚類を浸漬してよい。浸漬時間は、例えば、0.05~48時間であってよい。
【0057】
経口法の場合、例えば、本明細書に記載のワクチンを混合した飼料を魚類に自由摂餌させてよい。本明細書に記載のワクチンを混合した飼料は、例えば、1~20日間継続して給餌してよい。
【0058】
中でも、注射法による腹腔内投与が、感染予防効果が高く、免疫持続期間が長いため好適である。
【実施例0059】
以下、非限定的な実施例を参照して、本発明をさらに具体的に説明する。
【0060】
実施例1 不活化工程を含むL. garvieae II型培養上清ワクチンの製造と利用
1.L. garvieae II型HY21-1K株(愛媛分離株)の取得
日本国愛媛県の養殖現場において、L. garvieaeに対する従来の不活化ワクチン(共立製薬ピシバック(登録商標)注4)を投与したにもかかわらずレンサ球菌症の発症が疑われたブリの腎臓より、グラム陽性菌を純粋に分離し、L. garvieaeのPCRを実施した結果、全てがL. garvieae II型であると同定した。この分離・同定した菌株をHY21-1K株と命名した。L. garvieae II型は、同様の手順により再現的に取得できる。
【0061】
2.培養工程
種菌(L. garvieae II型HY21-1K株)をTPB(Tryptose Phosphate Broth BD社製)1,000 mLに1.0 mL接種し、30℃で24時間攪拌培養(150 rpm)した。次いで、得られた培養菌液について塗抹平板培養法により、生菌数測定試験を行った。すなわち、培養菌液の一部を寒天平板培地上に塗抹し、培養後発生した集落数から培養菌液中の生菌数を測定した。生菌数測定試験の結果は2.2×108 cfu/mLであった。
【0062】
3.不活化工程
培養菌液にホルマリンを0.3vol%の割合(3.0 mL/1,000 mL)で加えて30℃で攪拌(150 rpm)しながら48時間感作した。次いで、塗抹平板培養法により生菌数測定試験を行った。生菌数測定試験の結果、生菌数が検出限界以下であり、不活化されていることを確認した。
【0063】
4.上清採取(遠心)工程
不活化培養菌液800 mLを遠心(8,000Gで20分間)し、上清を採取した。
【0064】
5.上清ろ過工程
採取した遠心上清800 mLをフィルターろ過(Millex(登録商標) -HV フィルター0.45 μm)した。
【0065】
6.ろ過上清濃縮工程
ろ過上清770 mLを遠心式限外ろ過フィルター(Amicon(登録商標) Ultra-15 10kDa Merck社)により7.7 mLまで濃縮(100倍濃縮)した。ろ過上清濃縮液7.7 mLを15 mL遠心管に移し、4℃で保管し、免疫材料とした。
【0066】
7.魚類α溶血性連鎖球菌症の発症防御試験
ブリ32尾を16尾ずつ2群(試験群および対照群)に分けた。試験群では、免疫材料を腹腔内に0.1 mL/尾の量で注射した。対照群では、PBSを腹腔内に0.1 mL/尾の量で注射した。注射の2週間後に、攻撃材料(L. garvieae II型HY21-1K株の培養菌液をPBSで100倍希釈したもの)を腹腔内に0.1 mL/尾(培養直後の生菌数に換算して1.5×106 cfu/尾)の量で注射した。攻撃材料の注射から2週間、各群の生死を観察した。
【0067】
結果を表1および
図1に示す。試験群の死亡率は、対照群の死亡率と比較して有意に低かった。よって、魚類α溶血性連鎖球菌症を起因するラクトコッカス属細菌の培養上清が魚類α溶血性連鎖球菌症に対するワクチンとして機能することが確認された。
【0068】
【0069】
実施例2 不活化工程を含まないL. garvieae II型培養上清ワクチンの製造と利用
1.L. garvieae II型HY21-1K株(愛媛分離株)の取得
実施例1においてL. garvieae II型HY21-1K株を取得した。
【0070】
2.培養工程
種菌(L. garvieae II型HY21-1K株)をTPB(Tryptose Phosphate Broth BD社製)200 mLに0.2 mL接種し、30℃で約20時間静置培養したものを元培養菌液とした。元培養菌液の寒天平板希釈法による生菌数は5.5×108 cfu/mLであった。次いで、TPB 4,000 mLに元培養菌液4.0 mLを接種し、30℃で27時間撹拌培養(150 rpm)した。得られた培養菌液の寒天平板希釈法による生菌数は1.4×109 cfu/mLであった。
【0071】
3.上清採取(遠心)工程
培養菌液4,000 mLを遠心(8,000 rpmで20分間)し、上清を採取した。
【0072】
4.上清ろ過工程
採取した遠心上清4,000 mLをフィルターろ過(Thermo Scientific(登録商標) Nalgene(登録商標) Rapid-Flow(登録商標)PES メンブレンフィルターユニット フィルター0.2 μm)した。ろ過上清について生菌数測定試験を実施し、生菌数が検出限界以下であることを確認した。
【0073】
5.ろ過上清無毒化工程
ろ過上清にホルマリンを0.1vol%の割合(4.0 mL/4,000 mL)で加えた後、30℃で18時間感作し、無毒化を行った。
【0074】
6.無毒化ろ過上清濃縮工程
無毒化したろ過上清4,000 mLを中空糸膜モジュール(microzaペンシル型モジュールシリーズ 旭化成ケミカルズ(株)製)により100 mLまで限外ろ過濃縮(40倍濃縮)した。無毒化ろ過上清濃縮液をPBSで4倍希釈したもの(最終無毒化ろ過上清10倍濃縮)を4℃で保管し、免疫材料とした。
【0075】
7.魚類α溶血性連鎖球菌症の発症防御試験
ブリ30尾を15尾ずつ2群(試験群および対照群)に分けた。試験群では、免疫材料を腹腔内に0.1 mL/尾の量で注射した。対照群では、PBSを腹腔内に0.1 mL/尾の量で注射した。注射の4週間後に、攻撃材料(L. garvieae II型HY21-1K株の培養菌液をPBSで100,000倍希釈したもの)を腹腔内に0.1 mL/尾(培養直後の生菌数に換算して6.4×102 cfu/尾)の量で注射した。攻撃材料の注射から2週間、各群の生死を観察した。
【0076】
結果を表2および
図2に示す。試験群の死亡率は、対照群の死亡率と比較して有意に低かった。よって、不活化工程を実施しない場合でも、魚類α溶血性連鎖球菌症を起因するラクトコッカス属細菌の培養上清が魚類α溶血性連鎖球菌症に対するワクチンとして機能することが確認された。
【0077】