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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024007025
(43)【公開日】2024-01-18
(54)【発明の名称】塗材仕上げ構造及び塗材仕上げ工法
(51)【国際特許分類】
   B32B 13/12 20060101AFI20240111BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20240111BHJP
   C09D 5/00 20060101ALI20240111BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20240111BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20240111BHJP
   C09D 5/14 20060101ALI20240111BHJP
   C09D 133/00 20060101ALI20240111BHJP
   C09D 7/43 20180101ALI20240111BHJP
   E04F 13/02 20060101ALI20240111BHJP
【FI】
B32B13/12
C09D5/02
C09D5/00 D
C09D7/61
C09D7/63
C09D5/14
C09D133/00
C09D7/43
E04F13/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022108162
(22)【出願日】2022-07-05
(71)【出願人】
【識別番号】000100698
【氏名又は名称】アイカ工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】松崎 亮弥
【テーマコード(参考)】
4F100
4J038
【Fターム(参考)】
4F100AA01B
4F100AA01H
4F100AA18B
4F100AA18H
4F100AC03B
4F100AC03H
4F100AC04B
4F100AC04H
4F100AC05B
4F100AC05H
4F100AE01A
4F100AJ04B
4F100AJ04H
4F100AK25B
4F100BA03
4F100CA12B
4F100CA13B
4F100CC012
4F100CC01B
4F100CC01C
4F100EH46B
4F100EH46C
4F100GB07
4F100JC00B
4F100JC00C
4F100JD16
4F100JL06
4J038BA022
4J038CG141
4J038CJ031
4J038HA216
4J038HA286
4J038HA446
4J038JC38
4J038KA06
4J038KA08
4J038MA08
4J038MA10
4J038NA05
4J038PA07
4J038PB05
(57)【要約】
【課題】防カビ及び/または防藻性を有し、周囲の植栽を枯らすことがない塗材仕上げ構造、及び塗材仕上げ工法を提供する。
【解決手段】下地の上、あるいは、該下地にシーラーを塗付して乾燥させた上に、アクリル樹脂系エマルジョンと、充填剤と、骨材と、顔料と、増粘剤と、成膜助剤と、防カビ及び/または防藻剤と、を含む水系下地調整材組成物であって、防カビ及び/または防藻剤は組成物100重量部中0.3~1.0重量部である水系下地調整材組成物を塗付して水系下地調整材組成物層を形成し、この上に、アクリル樹脂系エマルジョンと、充填材と、骨材と、顔料と、増粘剤と、成膜助剤と、を含む水系塗材組成物であって、更に防カビ及び/または防藻剤を組成物100重量部中1.0重量部未満含む、または、防カビ及び/または防藻剤を含まない水系塗材組成物を、少なくとも1回塗付して水系塗材組成物層を形成したことを特徴とする塗材仕上げ構造。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下地の上、あるいは、該下地にシーラーを塗付して乾燥させた上に、
アクリル樹脂系エマルジョンと、充填剤と、骨材と、顔料と、増粘剤と、成膜助剤と、防カビ及び/または防藻剤と、を含む水系下地調整材組成物であって、防カビ及び/または防藻剤は組成物100重量部中0.3~1.0重量部である水系下地調整材組成物を塗付して水系下地調整材組成物層を形成し、
この上に、アクリル樹脂系エマルジョンと、充填材と、骨材と、顔料と、増粘剤と、成膜助剤と、を含む水系塗材組成物であって、更に防カビ及び/または防藻剤を組成物100重量部中1.0重量部未満含む、または、防カビ及び/または防藻剤を含まない水系塗材組成物を、少なくとも1回塗付して水系塗材組成物層を形成したことを特徴とする塗材仕上げ構造。
【請求項2】
下地の上、あるいは、該下地にシーラーを塗付して乾燥させた上に、
アクリル樹脂系エマルジョンと、充填剤と、骨材と、顔料と、増粘剤と、成膜助剤と、防カビ及び/または防藻剤と、を含む水系下地調整材組成物であって、防カビ及び/または防藻剤は組成物100重量部中0.3~1.0重量部である水系下地調整材組成物を塗付して水系下地調整材組成物層を形成し、
この上に、アクリル樹脂系エマルジョンと、充填材と、骨材と、顔料と、増粘剤と、成膜助剤と、を含む水系塗材組成物であって、更に防カビ及び/または防藻剤を組成物100重量部中1.0重量部未満含む、または、防カビ及び/または防藻剤を含まない水系塗材組成物を、少なくとも1回塗付して水系塗材組成物層を形成することを特徴とする塗材仕上げ工法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物の外壁に形成され、防カビ及び/または防藻性を有し、該外壁周辺の植栽を枯らすことがない塗材仕上げ構造、及び塗材仕上げ工法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、建物の外壁等に形成される塗材仕上げ構造は、下地調整材又は下塗り材、必要に応じて中塗り材、及び上塗り材を用いて仕上げられる。これらの塗材が水系であると塗材仕上げ表面にカビや藻が繁殖して意匠性が損なわれる場合があるが、上塗り材に防カビ剤や防藻剤を配合することで防いでいる。例えば、特許文献1では、合成樹脂エマルジョン、充填剤、顔料、増粘剤、分散剤、防カビ剤、防藻剤を少なくとも含む水系塗材であって、ホルムアルデヒド、トルエン、キシレン、パラジクロロベンゼン、エチルベンゼン、スチレンの揮発性有機化合物を含まない有機溶媒を含むことを特徴とする塗材組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007-023194号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の塗材組成物のように、上塗り材として使用する塗材組成物単体で防カビ性や防藻性を得ようとすると、防カビ剤や防藻剤の配合量、それらの成分、該塗材組成物が施工される外壁とその周囲の植栽との距離、等の諸条件によっては該植栽が枯れる場合があるという課題があった。
【0005】
そこで本発明が解決しようとする課題は、防カビ及び/または防藻性を有し、周囲の植栽を枯らすことがない塗材仕上げ構造、及び塗材仕上げ工法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために請求項1記載の発明は、下地の上、あるいは、該下地にシーラーを塗付して乾燥させた上に、
アクリル樹脂系エマルジョンと、充填剤と、骨材と、顔料と、増粘剤と、成膜助剤と、防カビ及び/または防藻剤と、を含む水系下地調整材組成物であって、防カビ及び/または防藻剤は組成物100重量部中0.3~1.0重量部である水系下地調整材組成物を塗付して水系下地調整材組成物層を形成し、
この上に、アクリル樹脂系エマルジョンと、充填材と、骨材と、顔料と、増粘剤と、成膜助剤と、を含む水系塗材組成物であって、更に防カビ及び/または防藻剤を組成物100重量部中1.0重量部未満含む、または、防カビ及び/または防藻剤を含まない水系塗材組成物を、少なくとも1回塗付して水系塗材組成物層を形成したことを特徴とする塗材仕上げ構造を提供する。
【0007】
また請求項2記載の発明は、下地の上、あるいは、該下地にシーラーを塗付して乾燥させた上に、
アクリル樹脂系エマルジョンと、充填剤と、骨材と、顔料と、増粘剤と、成膜助剤と、防カビ及び/または防藻剤と、を含む水系下地調整材組成物であって、防カビ及び/または防藻剤は組成物100重量部中0.3~1.0重量部である水系下地調整材組成物を塗付して水系下地調整材組成物層を形成し、
この上に、アクリル樹脂系エマルジョンと、充填材と、骨材と、顔料と、増粘剤と、成膜助剤と、を含む水系塗材組成物であって、更に防カビ及び/または防藻剤を組成物100重量部中1.0重量部未満含む、または、防カビ及び/または防藻剤を含まない水系塗材組成物を、少なくとも1回塗付して水系塗材組成物層を形成することを特徴とする塗材仕上げ工法を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の塗材仕上げ構造は、防カビ及び/または防藻性を有するという効果があり、また、本発明の塗材仕上げ構造が形成される壁の周囲にある植栽を枯らすことがない、という効果がある。従来、塗材仕上げ構造の表面にカビや藻が繁殖するのを防ぐために、上塗り材(本発明でいうところの水系塗材組成物)には防カビ性および/または防藻性を発揮するのに十分な量の防カビ及び/または防藻剤が添加されてきた。一方で、このような上塗り材を用いた塗材仕上げ構造の周囲では、植栽が枯れていることが確認される場合があった。本発明者は、このように植栽が枯れるのは上塗り材に含まれる防カビ及び/または防藻剤が、上塗り材層に浸潤した雨水や湿気等の水分に溶解して流出し、植栽に到達することで枯らしているのではないかと想到し、本発明をするに至った。上塗り材である水系塗材組成物に含ませる防カビ及び/または防藻剤の量を制限、または0とし、下塗り材である水系下地調整材組成物に防カビ及び/または防藻剤を含ませることにより、防カビ及び/または防藻剤が雨水等に溶解することを抑制、もしくは無くすことができていると推測している。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0010】
本発明の塗材仕上げ構造は、下地の上、あるいは、該下地にシーラーを塗付して乾燥させた上に、アクリル樹脂系エマルジョンと、充填剤と、骨材と、顔料と、増粘剤と、成膜助剤と、防カビ及び/または防藻剤と、を含む水系下地調整材組成物であって、防カビ及び/または防藻剤は組成物100重量部中0.3~1.0重量部である水系下地調整材組成物を塗付して水系下地調整材組成物層を形成し、この上に、アクリル樹脂系エマルジョンと、充填材と、骨材と、顔料と、増粘剤と、成膜助剤と、を含む水系塗材組成物であって、更に防カビ及び/または防藻剤を組成物100重量部中1.0重量部未満含む、または、防カビ及び/または防藻剤を含まない水系塗材組成物を、少なくとも1回塗付して水系塗材組成物層を形成したことを特徴とする塗材仕上げ構造であり、該塗材仕上げ構造を構成する該水系下地調整材組成物、及び該水系塗材組成物には、必要に応じてこれらの他に分散剤、消泡剤、防腐剤、凍結防止剤等の添加剤を配合することができる。
【0011】
まず、本発明に使用する水系下地調整材組成物、及び水系塗材組成物について説明する。
【0012】
<アクリル樹脂系エマルジョン>
本発明に使用する水系下地調整材組成物、及び水系塗材組成物を構成するアクリル樹脂系エマルジョンには、アクリル酸エステル系共重合樹脂、酢酸ビニル・アクリル酸エステル系共重合樹脂、シリコン変性アクリル樹脂等のアクリル樹脂系エマルジョンを使用することができる。アクリル樹脂とするアクリル系単量体としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n-プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n-ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、sec-ブチルアクリレート、t-ブチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、オクチルアクリレート、ノニルアクリレート、デシルアクリレート、ドデシルアクリレート、n-アミルアクリレート、イソアミルアクリレート、ラウリルアクリレート、ステアリルアクリレート、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、sec-ブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、n-アミル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシプロピル(メタ)アクリレート、エトキシプロピル(メタ)アクリレート、等を使用することができる。
【0013】
他の不飽和単量体としては、スチレン、α-メチルスチレン、クロロスチレン、ビニルトルエン、メトキシスチレン等のスチレン誘導体;(メタ)アクリル酸、フマル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、及びクロトン酸等のカルボキシル基含有単量体;(メタ)アクリル酸や、クロトン酸、イタコン酸;2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートや、2(3)-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチルアクリレート、アリルアルコール、多価アルコールのモノ(メタ)アクリル酸エステル等の水酸基含有単量体;(メタ)アクリルアミドや、マレインアミド等のアミド基含有単量体;2-アミノエチル(メタ)アクリレートや、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、3-アミノプロピル(メタ)アクリレート、2-ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ビニルピリジン等のアミノ基含有単量体;グリシジル(メタ)アクリレートや、アリルグリシジルエーテル、2個以上のグリシジル基を有するエポキシ化合物と活性水素原子を有するエチレン性不飽和単量体との反応により得られるエポキシ基含有単量体やオリゴノマー;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、2-(メタ)アクリロキシエチルトリメトキシシラン、2- (メタ)アクリロキシエチルトリエトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジプロポキシシラン、3-(メタ)アクリロキシブチルフェニルジメトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルジメチルメトキシシラン、及び3-(メタ)アクリロキシプロピルジエチルメトキシシラン等のアルコキシシリル基含有単量体;その他、酢酸ビニル、塩化ビニル、更には、エチレン、ブタジエン、アクリロニトリル、ジアルキルフマレート等を使用することができる。
【0014】
アクリル樹脂系エマルジョン中の樹脂のガラス転移温度は-30~40℃が好ましい。ガラス転移温度が-30℃未満の場合は仕上がり表面にタックが生じて汚れやすくなり、40℃超の場合は成膜不良となる場合がある。ここでいうガラス転移温度は、示差走査熱量計(Differential scanning calorimetry、DSC)によって測定される値である。また、本発明に使用する各組成物100重量部中の樹脂固形分は5.0~25.0重量部が好ましく、5.0重量部未満では粘着性、塗付作業性が低下する場合があり、また25.0重量部超では粘度が上昇し塗付作業性が低下する場合がある。市販のアクリル樹脂系エマルジョンとしては、アクロナールYJ6235D(固形分:55%、樹脂のガラス転移温度:6℃、スチレン、アクリル酸エステルの共重合体、BASF社製、商品名)や、アクロナール7059(固形分:55重量%、樹脂のガラス転移温度:30℃、スチレン、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルの共重合体、BASF社製、商品名)や、ウルトラゾールC-326(固形分:48%、樹脂のガラス転移温度:15℃、アクリルの重合体、アイカ工業株式会社製、商品名)等がある。
【0015】
<充填材>
本発明に使用する水系下地調整材組成物、及び水系塗材組成物を構成する充填材は、平均粒径D50(重量による積算50%の粒径)が100μm未満のものを言い、組成物の粘度や塗付作業性の調整を目的として配合し、重質炭酸カルシウム、クレー、カオリン、タルク、沈降性硫酸バリウム、炭酸バリウム、硅砂粉等が使用でき、重質炭酸カルシウムが安価でコスト的負担を軽減させることが出来る。充填材の配合量は各組成物100重量部中5~20重量部が好ましく、8~15重量部であるとより好ましい。5重量部未満では下地の色が透けるなどの隠蔽性が不足し、20重量部超では粘度が高くなって塗付作業性が不良となる場合があり、8重量部未満では色調によっては隠蔽性が低下する場合があり、15重量部超では冬季等の低温環境での塗付作業性が低下する傾向にある。
【0016】
<骨材>
本発明に使用する水系下地調整材組成物、及び水系塗材組成物を構成する骨材は、平均粒径D50(重量による積算50%の粒径)が100μm以上のものを言い、仕上がり表面に凹凸を付与することを目的として配合されるが、平均粒径が100μm以上であればその粒径は任意に選択することができ、例えば硅砂、ガラス、シリカ、タルク、重質炭酸カルシウムなどが使用可能である。市販の骨材としては例えば、東北硅砂7号(硅砂、平均粒径D50:150μm、東北硅砂株式会社製、商品名)がある。また、骨材の配合量は水系下地調整材組成物においては組成物100重量部中25~45重量部が好ましく、25重量部未満では意匠性(塗材の凹凸感)が不足する場合があり、45重量部超では塗付作業性が低下する場合がある。水系塗材組成物においては組成物100重量部中35~55重量部が好ましく、35重量部未満では意匠性(塗材の凹凸感)が不足する場合があり、55重量部超では塗付作業性が低下する場合がある。
【0017】
<顔料>
本発明に使用する水系下地調整材組成物、及び水系塗材組成物を構成する顔料は、酸化チタン、酸化亜鉛、カーボンブラック、酸化第二鉄(弁柄)、クロム酸鉛、黄鉛、黄色酸化鉄等の無機系顔料等が使用できるが、中でも酸化チタンは下地の隠蔽性に優れ、白色であるため隠蔽性を付与するための主たる顔料として使用することが出来る。
【0018】
<増粘剤>
本発明に使用する水系下地調整材組成物、及び水系塗材組成物を構成する増粘剤は、鏝塗り作業性や保水性の向上を目的として配合し、水溶性セルロースエーテル、ウレタン変性ポリエーテル、ポリカルボン酸等が使用できる。水溶性セルロースエーテルとしてはhiメトローズ90SH-15000(信越化学株式会社製、商品名)がある。増粘剤の配合量は各組成物100重量部中0.1~5.0重量部が好ましく、0.1重量部未満では十分な増粘効果が得られず塗付作業性が不良となる場合があり、5.0重量部超では塗付作業性が低下する。
【0019】
<成膜助剤>
本発明に使用する水系下地調整材組成物、及び水系塗材組成物を構成する成膜助剤は、エマルジョンのポリマー粒子の融着を促進し、ポリマーによる均一な皮膜を形成させることを目的で配合する。例えば、エチレングリコールジエチルエーテル、ベンジルアルコール、ブチルセロソルブ、エステルアルコール等を使用することが出来る。成膜助剤の配合量は各組成物100重量部中0.5~10重量部が好ましく、0.5重量部未満では低温での成膜が不十分となる場合があり、10重量部超では塗材の表面に汚れが付着し易くなる場合がある。
【0020】
<防カビ及び/または防藻剤>
本発明に使用する水系下地調整材組成物、及び水系塗材組成物を構成する防カビ及び/または防藻剤は、塗材仕上げ構造にカビや藻が繁殖することを防ぎ、美観を維持することを目的に配合する。防カビ剤と防藻剤は成分を共にするものがあり、このような防カビ剤や防藻剤は1種のみの使用で防カビ性も防藻性も得られるため、防カビ剤及び/または防藻剤を使用する際には1種のみを使用してもよく、防カビ性しか有さないものと防藻性しか有さないものとを合わせて使用してもよい。勿論、防カビ性と防藻性のうちいずれかしか必要としない場合には、いずれかのみを有するもののみを使用してもよい。防カビ及び/または防藻剤としては例えば、3-(3,4-ジクロロフェニル)-1,1-ジメチル尿素(別名:DCMU、ジウロン)、2-(メトキシカルボニルアミノ)-1H-ベンゾイミダゾール(別名:BCM、カルベンダジム)、2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン(別名:OIT、オクチリオン)、及びジンクピリチオン等の水溶性の成分を含むものを使用できる。中でもDCMUは水溶性が高く、塗材仕上げ構造に含まれると、塗材に浸潤した雨水や湿気の水分に容易に溶解し、優れた防カビ及び/または防藻性を発揮するため好ましい。しかしその一方で植栽への影響も大きくなると考えられるが、このような成分を含んだ防カビ及び/または防藻剤であっても植栽への悪影響を気にすることなく使用できるようにしたのが本発明である。
【0021】
防カビ及び/または防藻剤の配合量は、水系下地調整材組成物においては組成物100重量部中0.3~1.0重量部であることが好ましく、0.3重量部未満では防カビ及び/または防藻性が不十分となる場合があり、1.0重量部超では耐候性が低下し黄変や白化等が生じて塗材仕上げ構造の意匠性が損なわれる場合がある。また、水系塗材組成物においては組成物100重量部中1.0重量部未満であることが好ましく、より好ましくは0.5重量部以下、更に好ましくは0.05重量部以下であるとよい。本発明の性質上、植栽影響性の観点から、水系塗材組成物に含まれる防カビ及び/または防藻剤の配合量は少ないほどよいため、水系塗材組成物に防カビ及び/または防藻剤を含ませなくても良い。
【0022】
本発明において防カビ及び/または防藻性が得られるのは、水系下地調整材組成物層に含まれる防カビ及び/または防藻剤が、塗材仕上げに浸潤した雨水や湿気の水分等に溶解し、防カビ及び/または防藻剤の濃度の高い水系下地調整材組成物層から、防カビ及び/または防藻剤の濃度の低い水系塗材組成物層へ移動し、カビ及び/または藻に働きかける、というメカニズムによると推測している。該メカニズムにより、上塗りである水系塗材組成物に含まれる防カビ及び/または防藻剤が、水系塗材組成物単体で防カビ及び/または防藻性が得られる量だけ含まれていなくても、塗材仕上げ構造の表面にカビ及び/または藻が繁殖しないものである。
【0023】
本発明に使用する水系下地調整材組成物、及び水系塗材組成物には、上記の他に、一般的な水系組成物に使用される消泡剤、防腐剤、分散剤、凍結防止剤等を配合することができる。
【0024】
本発明の塗材仕上げ構造は、モルタル下地、コンクリート下地、プレキャスト・コンクリートパネル(PCパネル)下地、窯業系サイディング下地等の上に形成することが出来る。十分な付着性を確保するために各下地に適したシーラーを塗付できるが、下地に直接本発明の塗材仕上げ構造を構成する水系下地調整材組成物を塗付した際の下地との付着性が十分である場合は、シーラーは不要である。使用できるシーラーとしては、JS-800(水系アクリル樹脂シーラー、アイカ工業株式会社製、商品名)、JS-410(溶剤型塩化ゴム系下塗り材、アイカ工業株式会社製、商品名)、JS-90(水系アクリル樹脂系下塗り材、アイカ工業株式会社製、商品名)等が挙げられる。
【0025】
本発明の塗材仕上げ構造を構成する水系下地調整材組成物、及び水系塗材組成物の塗付においては、金鏝や建築塗材用スプレーガンを使用することができる。金鏝は厚みが0.3~0.7mmのステンレスから成るものであると作業性良く塗付できるため好ましい。建築塗材用スプレーガンは口径のサイズによって吹付けられる組成物の粒のサイズが変化し得られる意匠も変化するため、目的とする意匠を形成するのに適当な口径のサイズを適宜選択する。また、各施工道具で施工することに適した粘度となるように、下記の評価試験の結果に影響を与えない範囲で水系下地調整材組成物、及び水系塗材組成物に水を加えることができる。
【0026】
以下、実施例及び比較例にて具体的に説明する。
【実施例0027】
<水系下地調整材組成物及び水系塗材組成物>
表1の配合に従って、水系下地調整材組成物、及び水系塗材組成物を作製した。表1において、アクリル樹脂系エマルジョンAとしてアクロナールYJ6235D(固形分:55%、樹脂のガラス転移温度:6℃、スチレン、アクリル酸エステルの共重合体、BASF社製、商品名)を、アクリル樹脂系エマルジョンBとしてウルトラゾールC-326(固形分:48%、樹脂のガラス転移温度:15℃、アクリルの重合体、アイカ工業株式会社製、商品名)を、アクリル樹脂系エマルジョンCとしてアクロナール7059(固形分:55重量%、樹脂のガラス転移温度:30℃、スチレン、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルの共重合体、BASF社製、商品名)を使用し、充填剤として炭酸カルシウムBF200(平均粒径D50:5μm、備北粉化工業株式会社製、商品名)を使用し、骨材Aとして炭酸カルシウムK-250(平均粒径D50:200μm、旭鉱末株式会社製、商品名)を、骨材Bとして東北硅砂7号(平均粒径D50:150μm、東北硅砂株式会社製、商品名)を使用し、顔料として酸化チタンTi-PureR-960(デュポン株式会社製、商品名)を使用し、増粘剤として水溶性セルロースエーテルhiメトローズ90SH-15000(信越化学株式会社製、商品名)を使用し、成膜助剤としてテキサノールCS-12(チッソ株式会社製、商品名)を使用し、防カビ及び/または防藻剤AとしてACTICIDEEPW(BCM:9重量%、DCMU:20重量%、OIT:2.5~10重量%、ソー・ジャパン株式会社製、商品名)を、防カビ及び/または防藻剤Bとしてビオサイド7700W(ジンクピリチオン系、株式会社タイショーテクノス製、商品名)を使用した。その他添加剤として、消泡剤及び分散剤を使用したが、これらは水系組成物用の市販品より適宜選択されるものである。これらの原料を均一に混合分散させ、水系下地調整材組成物AからE、及び水系塗材組成物IからVを作製した。
【0028】
【表1】
【0029】
<塗材仕上げ構造>
表1の水系下地調整材組成物、及び水系塗材組成物を用い、表2に示す実施例1から6、及び表3に示す比較例1から8の塗材仕上げ構造とした。
【0030】
【表2】
【0031】
【表3】
【0032】
<評価方法>
上記の実施例及び比較例について、以下の評価を行った。尚、特に記載のない限り、試験体の作製、養生、評価試験は23℃、50%RHの環境下にて行った。
【0033】
<防カビ性>
JIS Z 2911:2018に準拠して行った。ろ紙(直径3.0cm)に実施例及び比較例の水系下地調整材組成物を塗付量1.0kg/mで塗付して乾燥させ、さらに実施例及び比較例の水系塗材組成物を塗付量2.0kg/mで塗付して7日間養生し、試験体とした。該試験体を18時間水浸漬させ、23℃、50%RHで2時間乾燥させ、更に80℃で2時間乾燥させ、グルコース‐ペプトン寒天培地の上に置いた。その後、培地一面にかび胞子懸濁液(10cfu/ml程度)を1.0ml蒔きかけ、26±2℃で7日間養生した。かびの種類は、Aspergillus niger、Cladosporium cladosporioides、Penicillium funiculosum、Aureobasidium pullulans、Gliocladium virensの5種類を使用した。防カビ性は以下の基準に従い評価した。
〇:試験体の接種した部分に菌糸の発育が認められない
△:試験体の接種した部分に認められる菌糸の発育部分の面積は、全面積の3分の1を超えない
×:試験体の接種した部分に認められる菌糸の発育部分の面積は、全面積の3分の1を超える
【0034】
<防藻性>
JIS Z 2911:2018に準拠して行った。ろ紙(直径3.0cm)に実施例及び比較例の水系下地調整材組成物を塗付量1.0kg/mで塗付して乾燥させ、さらに実施例及び比較例の水系塗材組成物を塗付量2.0kg/mで塗付して7日間養生し、試験体とした。該試験体を18時間水浸漬させ、23℃、50%RHで2時間乾燥させ、更に80℃で2時間乾燥させ、清浄化したプラスチック容器に試験体を置いた。その後、藻懸濁液(10cfu/ml)を試験体の表面を覆うまで静かに注ぎ、プラスチック容器に蓋をして4週間養生した。尚、培養条件は昼光色蛍光灯1000Lx照射下で16時間照射、8時間暗黒のスケジュールで試験を行った。藻の種類は、Chlorella emersonii、Stichococcus bacillaris、Trentepohlia odorata、Gloeocapsa sp.、Stigeoclonium tenue、Nostoc commune、Trentepohlia aureaの7種類を使用した。防藻性は以下の基準に従い評価した。
〇:試験体の接種した部分に藻の発育が認められない
△:試験体の接種した部分に認められる藻の発育部分の面積は、全面積の3分の1を超えない
×:試験体の接種した部分に認められる藻の発育部分の面積は、全面積の3分の1を超える
【0035】
<植栽影響性>
下地としてJIS A 5430規定のフレキシブルボード(600mm×450mm、厚さ4mm)を使用し、シーラーとして溶剤型塩化ゴム系下塗り材(JS-410、アイカ工業株式会社製、商品名)を塗付量0.2kg/mで塗付して4時間以上乾燥させた後、実施例及び比較例の水系下地調整材組成物を塗付量1.0kg/mで塗付して乾燥させ、さらに実施例及び比較例の水系塗材組成物を塗付量2.0kg/mで塗付して7日間養生し、試験体とした。該試験体を水平面に対して70度の角度で、塗装仕上げ面を上向きとし、長辺を横向きにして、植栽から高さ1.0mの位置に設置した。該植栽としては、視覚的に影響を確認しやすいことから芝を選択し、高麗芝(Zoysiatenuifolia)を使用した。該試験体の塗膜面の上部から高さ300mmの位置には、水平面に対して10度の角度で設置された波板(波の幅32mm、長さ500mm)の下端部を配設させ、波板の波底部を流下してくる雨水が、試験体の塗膜上部に落下し、当該雨水が試験体の塗膜下部に自重で流下し、最終的に前記芝に滴るようにした。60日後に観察し、芝が枯れていないものを〇と、芝が一部でも枯れているものを×と評価した。
【0036】
<評価結果>
評価結果を表4、及び表5に示す。
【0037】
【表4】
【0038】
【表5】