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▶ 株式会社ナリス化粧品の特許一覧

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024070275
(43)【公開日】2024-05-22
(54)【発明の名称】ふき取り化粧水用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/9789 20170101AFI20240515BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20240515BHJP
   A61Q 1/14 20060101ALI20240515BHJP
   A61K 8/9794 20170101ALI20240515BHJP
【FI】
A61K8/9789
A61Q19/00
A61Q1/14
A61K8/9794
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024033479
(22)【出願日】2024-03-06
(62)【分割の表示】P 2022119132の分割
【原出願日】2022-07-27
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】591230619
【氏名又は名称】株式会社ナリス化粧品
(72)【発明者】
【氏名】河内 洋一
(57)【要約】      (修正有)
【課題】タンパク質を多く含有する植物種子の水溶性溶媒抽出物を配合した場合でも、アミノ酸、ペプチド及びタンパク質から選ばれる成分による保湿効果や生理活性を有しつつ、長期保管による浮遊物や澱の発生が起こらない安定なふき取り化粧水用組成物を提供する。
【解決手段】アミノ酸、ペプチド及びタンパク質から選ばれる成分を含有する植物種子の水溶性溶媒抽出物、及び非還元性糖類を配合したふき取り化粧料組成物とする。非還元性糖類を更に含むことで、長期保管しても浮遊物や澱の発生が起こらない。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書に記載の発明。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は植物種子の水溶性溶媒抽出物を含有する化粧水用組成物に関する。さらに詳しくは、植物種子の水溶性溶媒抽出物と非還元性糖類を配合することを特徴とするふき取り化粧水用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚の老化において、正常な新陳代謝においては垢となって落屑されるはずの角質層( 以後老化角質と称する)が、落屑せず滞留する現象がしばしば見られるようになる。この老化角質は固く乾燥した状態をしており、保湿能も著しく低下しているものである。また老化角質には排泄されるべきメラニン色素も含まれている。それ故、角質層全体としても固く肥厚した状態となる。その結果、皮膚は潤いや滑らかさを失い、また透明感の低下したくすみのある外観へと変化する。
【0003】
従来良く知られている老化角質除去の美容方法としては、アルカリ剤によるpHの高い化粧料で角質を溶解する方法やα―ヒドロキシ酸による角質剥離(ピーリング)効果によるもの、スクラブによる物理的除去効果によるものが知られている。しかしこれらは皮膚刺激があったり、直接皮膚を傷つける恐れもあり、いずれも安全性上好ましいものではなかった。
【0004】
肌に負担が少なく効率的に老化角質を除去する化粧料として、ふき取り化粧水は特に有用である。ふき取り化粧水は、化粧用コットン、ガーゼ、不織布等に組成物を浸潤させ、皮膚の表面を拭き取る様に使うものが効果的である。この使用方法により、化粧水の水和作用により皮膚を軟化することで物理的に汚れを絡めとりやすくする効果がある。これにより肌表面に固着した老化角質や時間がたって酸化が進んだ皮脂を、簡単に肌に負担をかけずに取り除くことができる。皮膚柔軟効果、老化角質除去効果に着目したふき取り化粧水として、竹酢液とアルギニンを配合した角質除去用ふき取り化粧水で化粧用コットンを用いて使用する方法が開示されている(特許文献1)。また、皮脂除去効果と、頬のリフトアップ効果を有するふき取り化粧水として、ポリオキシアルキレンメチルグルコシド、エタノール、ブドウの種子を含む果実部分の抽出物を所定の比率で組み合わせた組成物が開示されている(特許文献2)。
【0005】
ふき取り化粧水用組成物を含む化粧料分野において、植物種子の水溶性溶媒抽出物は、優れた保湿効果や生理活性による多様な効果が期待され配合されるものである。例えば、マメ科植物シロハナマメ(学名:Phaseolus.coccineus L.var.albus Bailey)では、保湿効果以外でも、生理活性に伴う効果として、角質柔軟、角質除去、タンパク質溶解効果が得られる、加齢等を起因とするターンオーバー遅延による角質の肥厚の予防・改善効果が知られている(特許文献3)。マメ科植物ダイズ(学名:Glycine max)種子抽出物は保湿効果に優れている他、チロシナーゼ活性阻害による色素沈着抑制作用、コラーゲン合成促進による抗老化作用、皮脂腺抑制による皮脂抑制作用などが挙げられる。イネ科植物ハトムギ(学名:Coix lacryma-jobi var. ma-yuen)種子抽出物であるヨクイニン抽出物では、保湿作用、細胞賦活作用、肌のキメを整える、使用中のべたつきを抑えて使用感触を向上させる等の多様な効果が期待されている。イネ(学名:Oryza sativa L.)種子抽出物では、抗糖化作用といった効果が知られている。
【0006】
これら植物の種子には、発芽に栄養が必要なため他の植物部位と比べてアミノ酸、ペプチドやタンパク質が多く含まれている。特にマメ科植物の種子には、一般的に20~40%、イネ科植物の種子にも10%以上含まれているものがあることが知られている。これらの種子から、水、水溶性溶媒、又はその混合物を用いて抽出することでアミノ酸、ペプチドやタンパク質で構成された成分を含む抽出物を得ることができる。
【0007】
植物抽出物は多数の成分を含有するため、化粧水類に配合した場合に含有成分の不溶化による浮遊物や澱が発生しやすいことはよく知られている(特許文献4)。特にアミノ酸、ペプチドやタンパク質を含む植物種子抽出物を配合した場合、さらに浮遊物や澱が生じやすくなる。特にマメ科植物の種子にはタンパク質が多く含まれるためその傾向が強い。
【0008】
化粧水類の浮遊物や澱のもととなる不溶物が発生する原因には、(i)温度低下に伴う物質の溶解度低下により、温度低下前に溶解していた物質が不溶化し析出が起こること、(ii)成分内あるいは他の成分との反応に伴い不溶化が起こること、がある。
【0009】
一般的な澱の原因としては、例えば化粧水用組成物の製造時では、加熱滅菌の工程や、水溶性基剤(エタノールや多価アルコール、塩類等)の溶解熱により水温が上昇する。それによって、配合成分の溶解度が上昇するため溶解性が良くなる。工場では大量に製造されるため熱容量が大きく、温度の低下に時間がかかるため、温度が高く溶解性が良いため、本来であれば濾過時に除去される不溶成分が溶解したままで濾過されないといった場合がある。そのため時間がたって温度が低下した時に、配合成分が不溶化して浮遊物や澱が発生する。加えて市場での保管温度を考えると冬季の温度低下に伴い、さらに溶解度が低下するため、溶解しきれない配合成分による澱が発生することが考えられる。例えば低粘度の化粧水の場合、不溶物が発生するとそれらが凝集し浮遊物となる、さらに浮遊物が水より高比重の場合は、底部に濃縮され澱となる。
【0010】
従来、製造方法上で化粧水用組成物の浮遊物や澱の発生を防ぐ方法としては、(1)製造後、ある程度の期間(翌日以降等)をおいて濾過する、(2)一旦、冷蔵保管した後に濾過する、(3)沈殿の核となるようにカオリン等の粉体を入れ沈殿を促進した後、濾過する等の方法があるが、長い時間を要する点や煩雑であることが問題であった。
【0011】
一方、処方上で化粧水用組成物の浮遊物や澱の発生を防ぐ方法としては、(1)成分の配合量を溶解度以下にする。例えば、配合成分の低温での溶解度を調査して、低温になっても不溶化しないように配合量を決定する、(2)可溶化剤を配合して溶解量を上げる等の方法がある。例えば、ポリソルベート20やPEG-60水添ヒマシ油といった高HLBの界面活性剤を配合することで、不溶物を可溶化するといった方法が一般的である。
【0012】
成分内あるいは他の成分との反応に伴う澱の原因として、タンパク質やペプチド等の重合物については、溶解する媒質によっては、水和が阻害され高次構造が変化することで溶解度が著しく低下する問題が起こる。さらに高次構造の安定化には時間がかかる場合があり、時間経過で不溶物による浮遊物や澱が発生してしまうといった問題が残されている。他の成分とタンパク質やペプチド等の重合物の不溶化の原因としては、塩の配合による水和状態の低下や、多糖類等の高分子との相互作用で不溶化することが考えられる。さらに低分子量で水溶性の高いアミノ酸やペプチド自体の水溶性は充分でも、両性イオンということで他の高分子や電解質と反応しやすく不溶物の原因となる。これらの原因による浮遊物、澱の発生に関して有効性のある解決技術は得られていない。
【0013】
植物種子の水溶性溶媒抽出物を配合し、肌への負担を少なくするため、アルカリ剤を配合しない角質除去効果を期待したふき取り化粧水用組成物としては、シロハナマメ抽出物の乾燥物を配合したふき取り化粧水用組成物が開示されている(特許文献3)。しかしシロハナマメ抽出物の乾燥物は、アミノ酸、ペプチドやタンパク質が多く含まれており、他成分との反応で不溶物を生じ浮遊物、澱が発生しやすい。
【0014】
一方、ふき取り化粧水用組成物は油性成分をほとんど含有しないため、塗布後の水分の蒸発を防ぐことができずに肌が乾燥しやすい。そのため肌の乾燥を防ぐため水和能力に優れた糖類や多価アルコール、ポリエーテル類等が配合される。糖類は水和効果が高く保湿実感が得られるが、塗布後に水分が蒸発することで濃度が高くなると、急激に粘度上昇し粘着性を示して使用感触が低下するので配合には注意を要する。トレハロースは非還元性糖類の一種であり、食品分野において安全性の高い甘味料、糊化したデンプンの老化抑制、タンパク質の熱変性抑制、凍結解凍時の組織保護などの目的で用いられる(非特許文献1)。しかしながら、このような長所は、ほとんどが低水分量の組成物中で水和を安定化するという効果によるものである。例えば、米粉ゲル(含水率50%程度)や、焼成前のパン生地(含水率30~50%程度)のように高粘度~固体、ゲルといった性状での有効性が知られているものである。(特許文献5、非特許文献2)化粧水用組成物など液状で高水分量の組成物で含有成分の溶解性を維持する効果は知られていない。
【0015】
このように、タンパク質を多く含有する植物種子の水溶性溶媒抽出物を配合しても、アミノ酸及び/又はペプチド、タンパク質による保湿効果や生理活性を有しつつ、長期保管しても浮遊物や澱の発生が起こらない安定な組成物について有用な処方化技術は知られていない。さらに酸やアルカリだけに頼らない安全性の高い老化角質除去効果を持ち、時間がたって酸化が進んだ皮脂汚れを、簡単に肌に負担をかけずに落とすことができるふき取り化粧水用組成物を実現することは急務であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開2008-174525号公報
【特許文献2】特開2019-182804号公報
【特許文献3】特開2017-95387号公報
【特許文献4】特開2009-213419号公報
【特許文献5】特開2007-195467号公報
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】吉備国際大学研究紀要(医療・自然科学系)第29号,41-49,2019 トレハロースの開発とその応用
【非特許文献2】食品総合研究所研究報告 No.67.1~8(2003) パン生地における発酵特性及び冷凍耐性に対するトレハロースの機能評価
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明は、タンパク質を多く含有する植物種子の水溶性溶媒抽出物を配合した場合、アミノ酸、ペプチド及びタンパク質による保湿効果や生理活性を有しつつ、長期保管しても浮遊物や澱の発生が起こらない安定なふき取り化粧水用組成物を提供することを課題とする。さらには老化角質除去のために用いられる酸やアルカリを低減することで安全性が高く、時間がたって酸化が進んだ皮脂汚れを、簡単に肌に負担をかけずに落とすことができるふき取り化粧水用組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者は鋭意研究を行った結果、アミノ酸、ペプチド及びタンパク質を含有する植物種子の水溶性溶媒抽出物を配合した場合でも、非還元性糖類を配合することでアミノ酸、ペプチド及びタンパク質による保湿効果や生理活性を有しつつ、長期保管しても浮遊物や澱の発生が起こらない安定なふき取り化粧水用組成物が提供できることを見出し、本発明を完成するに至った。さらに酸やアルカリだけに頼らない安全性の高い老化角質除去効果を持ち、時間がたって酸化が進んだ皮脂汚れを、簡単に肌に負担をかけずに落とすことができるふき取り化粧水用組成物が実現できた。
【0020】
すなわち本発明は、次の成分(A),(B)を含むふき取り化粧水である。
(A)植物種子の水溶性溶媒抽出物
(B)非還元性糖類
を含有することを特徴とするふき取り化粧水用組成物。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、アミノ酸、ペプチド及びタンパク質を含有する植物種子の水溶性溶媒抽出物を配合しても、保湿効果や生理活性を有しつつ、長期保管しても浮遊物や澱の発生が起こらない安定な化粧水用組成物が提供される。さらに酸やアルカリだけに頼らない安全性の高い老化角質除去効果を持ち、時間がたって酸化が進んだ皮脂汚れを、簡単に肌に負担をかけずに落とすことができるふき取り化粧水用組成物が実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明について詳細に説明する。なお、本明細書において、「~」はその前後の数値を含む範囲を意味するものとする。また、%で表記する数値は、特に記載した場合を除き、質量%である。
【0023】
本発明に係るふき取り化粧水用組成物は、水を主成分とする低粘度の化粧料である。粘度は例えば流動性が高い1000mPa.s以下であれば感触や使用性上好適である、
【0024】
本発明のふき取り化粧水用組成物に含まれる成分(A)植物種子の水溶性溶媒抽出物は、植物の種類について特に制限されないが、アミノ酸、ペプチド及びタンパク質に由来の効果を発揮させるために配合される。
【0025】
成分(A)として特に好ましい例としては
(A-1)マメ科植物種子抽出物に用いる植物としては、シロハナマメ(Phaseolus. coccineus L. var.albus Bailey) 、紫花豆(Phaseolus.coccineus L.)、小豆(Vigna Vigna angularis) 、ヒヨコ豆(Cicer Cicer arietinum L.)、緑豆(Vigna Vignaradiata)、なた豆(Canavalia Canavalia gladiata)、ダイズ(Glycine max Merrill(LegumInosae)等が挙げられる。
(A-2)マメ科植物以外の種子抽出物に用いる植物としては、ハトムギ(学名:Coix lacryma-jobi vai.ma-yuen)、イネ:(Oryza sativa L.)等が挙げられる。特にハトムギの種皮を除いたヨクイニンが好適に用いられる。他の例として、アカバナ科(Onagraceae)マツヨイグサ属(Oenothera)メマツヨイグサ(Oenothera biennis)等が挙げられる。
【0026】
これら植物種子の水溶性溶媒抽出物の市販品としては、ダイズ:(Glycine max Merrill(LegumInosae)の種子から水で抽出して得られたエキスに1,3ブチレングリコールを加えたダイズ種子抽出物(エキス純分:0.4質量%)であるフラボステロン SB(一丸ファルコス社製)、ハトムギ:(Coix lacryma-jobi vai.ma-yuen)の種皮を除いた種子を粉末としたものの1,3ブチレングリコール溶液による抽出液(エキス純分:2.5質量%)であるハトムギ種子抽出物のヨクイニン リキッドB(一丸ファルコス社製)、アカバナ科(Onagraceae)マツヨイグサ属(Oenothera)メマツヨイグサ(Oenothera biennis)の種子から得られた抽出液に1,3ブチレングリコール溶液を加え、溶解処理した後、冷凍処理し濾過したメマツヨイグサ種子抽出物(エキス純分:1.0質量%)のルナホワイトB(一丸ファルコス社製)等が挙げられる。
【0027】
成分(A)の抽出方法は特に限定されないが、水もしくは水に任意の比率で溶解する成分で構成された抽出溶媒を用いて抽出できる。抽出溶媒は、例えばエタノール、ブチレングリコール、グリセリン等であり、それらの混合物も含まれる。さらに、pHを調整するために酸やアルカリを配合したもの、界面活性剤や塩等を配合したものも含まれる。これらの水溶性溶媒を用いることでアミノ酸、ペプチドやタンパク質を含有する抽出物とすることができる。抽出方法は、例えば乾燥した植物種子であれば質量比で1~1000倍量、特に10~100倍量の水溶性溶媒を用い、0℃以上、特に20℃~40℃ で1時間以上、特に3~7日間行うのが好ましく、さらには60~100℃で3時間、加熱抽出する等比較的緩和な条件で抽出したものであれば、本来のアミノ酸、ペプチドやタンパク質による効果が無くなってしまうことも避けられるため好適である。これらの条件で得られる植物種子抽出物は、抽出された溶液のまま用いても良いが、さらに必要により、高濃度エタノールの添加や限外濾過等の処理や、濃縮、粉末化したものも用いることもできる。
【0028】
本発明のふき取り化粧水用組成物における成分(A)の配合量は、有効量存在すれば良い。一般的には各剤における組成物全体に対してエキス純分で換算し0.0001~10質量%が好ましく、特に0.001~1.0質量%の範囲が最適である。
【0029】
本発明のふき取り化粧水用組成物において成分(A)は1種または2種以上を使用することができる。成分(A)は2種類以上を組み合わせることで、化粧水用組成物を処方化した場合に充分な保湿効果や使用感が向上し肌荒れ防止、肌弾力の回復等でも高い効果が得られる。また、マメ科植物の種子抽出物とヨクイニンの抽出物を組み合わせて配合するふき取り化粧水用組成物は、コットン等で皮膚の老化角質を拭き取る様に使用することで、皮膚に対する刺激が無く優れた皮膚柔軟効果と老化角質除去効果を両立しており好適であった。
【0030】
成分(A)には澱の発生原因であるアミノ酸、ペプチドまたはタンパク質が含まれる。アミノ酸、ペプチド及びタンパク質を含有することの確認方法としては、例えば以下のものがある。
・ニンヒドリン反応:アミノ基の呈色反応
アミノ酸の中性水溶液にニンヒドリン(2,2-ジヒドロキシ-1,3-インダンジオン)を添加し,加熱すると酸化的脱アミノ反応が起こりアルデヒドとルーエマン紫(Ruhemann´s purple)が生成し,青~紫(λmax 570 nm)に発色する反応。
・キサントプロテイン反応:アミノ基の呈色反応
濃硝酸を加えて加熱すると淡黄色を呈する.さらに,冷却後アンモニア水を加えてアルカリ性にすると黄橙色を呈する。
この時のタンパク質、ペプチド、アミノ酸の重合度による呼称の違いは、一般的に用いられているアミノ酸が50個以上結合したものをタンパク質、50個未満のものはペプチドと呼ぶこととする。
【0031】
本発明のふき取り化粧水用組成物に含まれる成分(B)非還元性糖類とは、還元性を有さない糖である。例えば単糖類では、開環して鎖状構造になるとアルデヒド基やケトン基を持つ。それぞれを持つ糖をアルドース(グルコース等)とケトース(フルクトース等)と呼ぶ。アルデヒド基は還元性をもつためアルドースは還元性である。普通ケトン基は還元性を示さないため非還元性であるが、-CO-CH2OH基を持つケトースでは、ケト-エノール互変異性によってエンジオールと呼ばれる構造を経由してアルドースに異性化するため還元性を有することになる。具体的な成分(B)非還元性糖類としては、トレハロースまたは、スクロースなどが挙げられる。トレハロースは特に浮遊物、澱の発生を防ぐ効果が高い。さらにスクロースと比べてべたつきが少ないため使用感も良好であり好適である。
【0032】
本発明で用いられる成分(B)非還元性糖類全体の含有量は、ふき取り化粧水用組成物の総量を基準として、0.05~5.0質量%が好ましく、さらに好ましくは0.1~3.0質量%、特に好ましくは0.1~1.0質量%である。この配合量とすることで、低粘度の化粧水用組成物であっても、植物種子の水溶性溶媒抽出物に起因する浮遊物、澱の発生が充分に抑制される。さらに充分な浮遊物、澱の抑制効果を得るための成分(B)非還元性糖類の配合比は、成分(A)植物種子の水溶性溶媒抽出物の総エキス純分:成分(B)非還元性糖類総質量が1:1~1:500であることが望ましい。この範囲で、酸やアルカリのような肌に負担の大きい角質溶解剤を配合しなくても高い角質柔軟効果と老化角質除去効果を持つふき取り化粧水用組成物でありながら、低温保管で澱の発生がない安定性の良好な組成物が得られる。さらに、皮膚刺激が無く皮膚の柔軟性が高まり使用後の肌の感触が良好なふき取り化粧水用組成物が得られる。
【0033】
本発明で用いられる成分(B)非還元性糖類は、ふき取り化粧水用組成物中に1種以上を使用することができる。
【0034】
本発明のふき取り化粧水用組成物には、上記必須成分の他、必要に応じて本発明の効果を阻害しない質的、量的範囲内で界面活性剤、多価アルコール、低級アルコール、pH調整剤、増粘剤、水溶性高分子、防腐剤、キレート剤、薬効成分、保湿剤、シリコーン、酸化防止剤、紫外線吸収剤、塩類、香料、色素等、通常化粧品に用いられている成分も配合することができる。
【0035】
本発明のふき取り化粧水用組成物には、さらに水に不溶性の油剤を配合することもできる。油剤を配合する場合、乳化剤を用いて乳化又は可溶化により均一化する。具体的には油剤を配合する場合は、組成物全体の1%以下である。
【実施例0036】
以下に実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。
【0037】
[試験に用いた植物抽出物および、糖類]
(1)シロハナマメ種子抽出物*1(エキス純分:0.6質量%)
(調整方法)
シロハナマメの乾燥物1に対し水20倍量を加え浸漬した。
充分吸水させたシロハナマメを粉砕後、加温しながら3時間抽出した。
抽出後、濾過をし、不溶物を取り除いた後、エタノール濃度が70%(v/v)となるようにエタノールを加え静置した後、沈殿物を濾過し、溶媒を留去する。その後30% 1,3-ブチレングリコール溶液に調整し静置した後、濾過をおこないシロハナマメ種子抽出物とした。
【0038】
以下は、市販品を用いた
(2)ダイズ種子抽出物*2 フラボステロン SB(一丸ファルコス社製)
(3)ハトムギ種子抽出物*3 ヨクイニン リキッドB(一丸ファルコス社製)
(4)メマツヨイグサ種子抽出物*4 ルナホワイトB(一丸ファルコス社製)
(5)ダイズ種子タンパク加水分解物*5 プロモイス WS-H(成和化成社製)
(6)甘草葉エキス*6 甘草葉抽出液BG(丸善製薬社製)マメ科Fabaceae 甘草Glycyrrhiza glabra/Glycyrrhiza uralensis又はその他同属植物
(7)クマザサ葉エキス*7 ファルコレックス クマザサ E(一丸ファルコス社製)イネ科Poaceae クマザサSasa veitchii
(8)トレハロース液*8 トレハロース 30H(一丸ファルコス社製)非還元性糖類/2糖
(9)スクロース*9 白ザラ糖AA(三井製糖社製)非還元性糖類/2糖
(10)グリセリン*10 濃グリセリン(阪本薬品工業社製)
(11)メチルグルセス-20*11 マクビオブライドMG-20(日油社製)
(12)マルトース*11 サンマルト-S(三和澱粉工業社製)還元糖/2糖
【0039】
低温安定性:透明ポリエチレンテレフタレート製容器に5℃で3か月間、静置保管した後に、少し揺らして底部に澱が無いか目視にて確認した。
◎:澱の発生は見られなかった
○:底部にわずかな澱が見られるが外観上問題ないレベル
△:底部に澱が確認できる
×:底部に多量の澱が確認される
【0040】
各実施例および比較例のふき取り化粧水をコットンに適量含ませ、顔面を拭き取るように使用した。女性専門パネル20名の官能評価は、保湿効果、コットンの汚れの程度(皮脂除去効果)、使用後の皮膚の柔軟性(角質柔軟効果)について評価後、各データを平均し◎、〇、△、×の4段階で示した。なお、皮膚刺激の有無については、同じ女性専門パネラーから聞き取りで、その有無を集計した(表1)。
【0041】
【表1】
【0042】
老化角質除去効果:各ふき取り化粧水を20μL含ませた1cm×1cmの不織布(コットン100%、目付30g/m2)で健常人男性5名(n=5)の前腕内側部を拭きとり、とれた角質細胞を、10mLのTriton Xの1%水溶液に分散した。分散した液を各々正確に5マイクロリットル採取し、メチレンブルー・ローダミン飽和溶液(1:1)にて染色・検鏡し角質細胞数を計測した。5名の細胞数の平均値を評価とした。

評価基準:角質細胞数(n=5 平均値)
◎:20以上
○:10以上20未満
△:5以上10未満
×:5未満
【0043】
【表2】
【0044】
実施例1~11については、低温安定性で澱の発生が無く、優れた皮膚柔軟効果と老化角質除去効果、皮脂除去効果を有し、皮膚刺激がなく安全性を兼ね備えたふき取り化粧水であった。特に実施例1,3,5、6,8,10においては、植物種子の水溶性溶媒抽出物としてシロハナマメ種子エキスとハトムギ種子抽出物、非還元性糖類としてトレハロースを組み合わせたものであり、高い角質柔軟効果と老化角質除去効果、皮脂除去効果を持ち、低温保管で澱の発生はなかった。さらに使用感が良く、皮膚刺激が無いなど、全てにおいて評価の高いふき取り化粧水であった。実施例11は実施例4に比べ種子エキス純分合計質量:非還元糖質量を1:0.8とした処方である。実施例11は本願の課題は全て解決した問題のない処方であるが、やや低温安定性の評価で劣る内容であった。
【0045】
【表3】

【0046】
比較例1は、実施例1(皮脂除去効果◎、角質柔軟効果◎、老化角質除去効果◎(角質細胞数:37.5)から、非還元性糖類である(B)トレハロースを削除したものである。実施例1と同様に、比較例1は、皮脂除去効果、角質柔軟効果、老化角質除去効果(角質細胞数:36.1)とふき取り化粧水としての効果は良好であったが、低温安定性で底部に多量の澱が確認された。比較例2は、比較例1の処方から可溶化効果の高い界面活性剤であるポリソルベート20を10倍量配合したものであるが、可溶化剤が増えても低温安定性での澱について、ほとんど改善が見られなかった。比較例3は、実施例1から植物種子の水溶性溶媒抽出物として(A-1)シロハナマメ種子抽出物単独の配合である。非還元性糖類であるトレハロースを削除して多価アルコールである(B’)グリセリンを配合したが低温安定性の澱の発生は防げなかった。
【0047】
比較例4は、植物種子の水溶性溶媒抽出物がなく、非還元性糖類である(B)トレハロースが配合されたものである。安定性については一切問題ないが、皮脂除去効果、角質柔軟効果、老化角質除去効果(角質細胞数:3.7)に劣る。皮脂除去効果は感じられずに老化角質除去効果がないというふき取り化粧水として不適な組成物だった。比較例5は、実施例1から非還元性糖類である(B)トレハロースを、多価アルコールである(B’)グリセリンに変えたものである。ふき取り効果は良好であったが低温安定性で澱が見られた。比較例6は、非還元性糖類である(B)トレハロースの代わりに、グルコースのポリエーテル誘導体である(B’)メチルグルセス-20を配合したものである。低温安定性は向上せず澱の発生が見られた。
【0048】
比較例7は、実施例2の(B)スクロース(非還元性糖類/2糖)を(B’)マルトース(還元糖/2糖)に変更したものである。低温保管で澱の発生は無かったが、皮脂除去効果が低い評価であり、3か月間室温で保管しただけで外観不良が生じた。比較例8は、実施例5で糖類を配合しない場合であり、低温安定性で底部に多量の澱が確認された。比較例9は、実施例4の角質溶解効果を持つ成分である(A-1)シロハナマメ種子抽出物から、同様の効果を持つL-アルギニンに変更したものである。ふき取り効果に関しては良好であった。ところが非還元性糖類である(B)スクロースを、多価アルコールである(B’)グリセリンに置き換えたため比較例10は、実施例4の角質溶解効果を持つ成分である(A-1)シロハナマメ種子抽出物を、同様の効果を持つサリチル酸に変更したものである。ふき取り効果は良好であったが、比較例9と同様に低温保管で澱が発生した。さらに女性専門パネラーから聞き取りで、サリチル酸によると思われるヒリヒリした皮膚刺激が多数見られ、市場での安全性が確保できていないと考える。
【0049】
比較例11は、加水分解し低分子量化して溶解性を向上させた(A-1’)ダイズ種子タンパク加水分解物と非還元性糖類である(B)トレハロースを配合した組成物であるが低温安定性での澱の発生はなかったが、皮脂除去効果が劣っていた。比較例12では、比較例11から非還元性糖類である(B)トレハロースを削除したが澱の発生はなかった。このことにより植物種子の水溶性溶媒抽出物であっても、化学的、生化学的な低分子化処理等により水溶性を増大させた場合には、澱を防ぐという課題が存在しないことが示唆された。比較例11、12で配合した(A-1’)ダイズ種子タンパク加水分解物は、高濃度の低分子成分(タンパク加水分解物)を含むため使用感的にべたつきが大きく、乾燥する時の粘着性(タック性)が強いため使用後の感触が良くなかった。
【0050】
比較例13では、(A-1)シロハナマメ種子抽出物の代わりに同じマメ科植物であるが、種子以外の部位の抽出物である(A-1’)甘草葉エキスを配合したものである。非還元性糖類である(B)トレハロースの代わりに多価アルコールである(B’)グリセリンを配合したため澱が発生した。ところが(A-1’)甘草葉エキスでは、充分な角質柔軟作用、老化角質除去効果は得られなかったためふき取り用化粧水には不向きな組成物だった。さらに皮脂除去効果も感じられず、保湿効果も低かった。比較例14では、(A-2)ハトムギ種子抽出物の代わりに同じイネ科植物であるが、種子以外の部位の抽出物である(A-2’)クマザサ葉エキスを配合したものである。最低限の皮脂除去効果、角質柔軟作用、老化角質除去効果は得られたが、比較例13と同様に低温保管で澱が発生した。比較例15は、(A-1)シロハナマメ種子抽出物と(A-2)ハトムギ種子抽出物をそれぞれ1/5に減量して(C)トレハロースを配合しなかったものである。この時、他の(A-1)シロハナマメ種子抽出物と(A-2)ハトムギ種子抽出物を配合した比較例と比べて多量の澱が発生した。例えば比較例16の(A)シロハナマメ種子抽出物をダイズ種子抽出物に置き換えたものと比べた場合にも顕著である。したがって、(A-1)シロハナマメ種子抽出物と(A-2)ハトムギ種子抽出物の間に、特に澱が発生しやすくなる相互作用があると考えられる。このことから澱の発生が顕著である(A-1)シロハナマメ種子抽出物と(A-2)ハトムギ種子抽出物を併用した場合でも、非還元性糖類である(C)トレハロースの配合により澱の発生が完全に抑制されており本発明の効果が発揮されている。
【0051】
老化角質除去効果が主たる効果である従来のふき取り化粧水として、L-アルギニンやサリチル酸という角質溶解剤を配合した組成物と比較したところ、本発明の組成物である実施例1のような(A-1)シロハナマメ種子抽出物と(A-2)ハトムギ種子抽出物を併用したふき取り化粧水は、L-アルギニンやサリチル酸のような角質溶解剤を配合したものと遜色ない皮脂除去効果、角質柔軟効果、老化角質除去効果があるふき取り化粧水であった。
【0052】
処方例1:粘性ふき取り用化粧水
(1)水 80.464%
(2)1,3-ブチレングリコール 7.0%
(3)エタノール 5.0%
(4)シロハナマメ種子エキス*1 3.0%
(5)イネ種子エキス*12 1.0%
(6)トレハロース液*8 1.0%
(7)PPG-6デシルテトラデセス-30 0.5%
(8)イソステアリン酸PEG-20ソルビタン 0.5%
(9)エチルヘキシルグリセリン 0.3%
(10)ペンチレングリコール 0.3%
(11)フェノキシエタノール 0.3%
(12)ハトムギ種子エキス*3 0.3%
(13)ヒドロキシプロピルメチルセルロース 0.05%
(14)ヒアルロン酸Na 0.05%
(15)シロキクラゲ多糖体 0.05%
(16)L-アルギニン 0.05%
(17)グリチルリチン酸2K 0.05%
(18)炭酸水素Na 0.05%
(19)炭酸Na 0.025%
(20)メタリン酸Na 0.01%
(21)オウレンエキス 0.001%

イネ種子エキス*12 オリザポリアミン-LC(BG30)(オリザ油化社製)イネ科Poaceae イネOryza sativa L. (Gramineae)
【0053】
処方例1は、高い角質柔軟効果と老化角質除去効果を持つふき取り化粧水用組成物であった。さらに低温保管で澱の発生はない安定性の良好な組成物だった。使用感が良く、皮膚刺激が無いなど、全てにおいて評価の高いふき取り化粧水用組成物であった。ハトムギ種子エキスとシロハナマメ種子抽出物、イネ種子エキスを配合しているため、ふき取り用化粧水の効果に加えて保護化粧水的な効果も期待される。具体的には、加齢等を起因とするターンオーバー遅延による角質の肥厚の予防・保湿作用、皮膚バリア機能を向上する、抗アレルギー作用、細胞賦活作用、肌のキメを整える、毛乳頭細胞増殖作用、抗糖化作用といったふき取り化粧水以外にも多目的に使用できる化粧水用組成物だった。