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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024070283
(43)【公開日】2024-05-22
(54)【発明の名称】排水処理方法及び排水処理装置
(51)【国際特許分類】
   C02F 11/04 20060101AFI20240515BHJP
   C02F 11/121 20190101ALI20240515BHJP
   C02F 11/143 20190101ALI20240515BHJP
【FI】
C02F11/04 A ZAB
C02F11/121
C02F11/143
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024046328
(22)【出願日】2024-03-22
(62)【分割の表示】P 2022160308の分割
【原出願日】2022-10-04
(71)【出願人】
【識別番号】591030651
【氏名又は名称】水ing株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100112634
【弁理士】
【氏名又は名称】松山 美奈子
(72)【発明者】
【氏名】松林 未理
(72)【発明者】
【氏名】森田 智之
(72)【発明者】
【氏名】蒲池 一将
(72)【発明者】
【氏名】高橋 惇太
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 博紀
(57)【要約】
【課題】従来の汚泥可溶化技術におけるコスト、オゾン発生器、臭気、分離水の色度などの問題を解決して、汚泥の脱水性を改善し、メタンガス生成速度及びメタン転換率を向上させることができる嫌気性処理を含む排水処理方法及び装置を提供する。
【解決手段】生物処理後に発生する余剰汚泥を嫌気性消化処理する嫌気性消化処理工程15と、嫌気性消化処理後の汚泥を脱水処理する脱水工程16と、を含む排水処理方法であって、嫌気性消化処理工程15の前に、余剰汚泥に無機酸を添加してpHを5以下に調整し、50℃以下で、余剰汚泥中の微生物の細胞外高分子物質を細分化して易分解化汚泥を得る前処理工程14を含み、前処理工程14における無機酸の添加量は、嫌気性消化処理工程15における汚泥のアルカリ度、有機酸濃度、メタンガス発生量、またはゼータ電位のうちいずれか1つ以上の値に基づいて制御されることを特徴とする排水処理方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生物処理後に発生する余剰汚泥を嫌気性消化処理する嫌気性消化処理工程と、嫌気性消化処理後の汚泥を脱水処理する脱水工程と、を含む排水処理方法であって、
当該嫌気性消化処理工程の前に、当該余剰汚泥に、無機酸を添加してpHを5以下に調整し、50℃以下で、当該余剰汚泥中の微生物の細胞外高分子物質を細分化して易分解化汚泥を得る前処理工程と、を含み、
当該前処理工程における無機酸の添加量は、当該嫌気性消化処理工程における汚泥のアルカリ度、有機酸濃度、メタンガス発生量、またはゼータ電位のうちいずれか1つ以上の値に基づいて制御されることを特徴とする排水処理方法。
【請求項2】
前記嫌気性消化処理工程における、前記無機酸の添加量は、汚泥のゼータ電位の値に基づいて制御すること特徴とする請求項1に記載の排水処理方法。
【請求項3】
排水処理装置であって、
生物処理槽からの余剰汚泥に、無機酸を添加してpHを5以下に調整し、50℃以下で、微生物の細胞外高分子物質を細分化して易分解化汚泥を得る前処理槽と、
当該前処理槽からの易分解化汚泥を嫌気性消化処理する嫌気性消化槽と、
当該嫌気性消化槽からの汚泥を脱水処理する脱水機と、
当該無機酸の添加量を当該嫌気性消化処理工程における汚泥のアルカリ度、有機酸濃度、メタンガス発生量、またはゼータ電位のうちいずれか1つ以上の値に基づいて制御する制御装置と、
を備えることを特徴とする嫌気性消化処理装置。
【請求項4】
前記制御装置は、前記前処理槽における汚泥のゼータ電位の値に基づいて前記無機酸添加量を制御すること特徴とする請求項3に記載の嫌気性消化処理装置。
【請求項5】
前記制御装置は、ゼータ電位計、無機酸の添加量を調整する酸添加量調整手段、およびpH調整剤添加量調整手段を備ええることを特徴とする請求項4に記載の嫌気性消化処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排水処理方法及び装置に関し、特に汚泥の脱水性を改善し、メタンガス生成速度及びメタン転換率を向上させることができる嫌気性処理を含む排水処理方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
汚泥減容化を図るため、メタン発酵槽に導入する汚泥を可溶化する方法が用いられている。汚泥の可溶化技術としては、マイクロ波、オゾン、熱、超音波、アルカリ処理などを利用する方法が知られている。
【0003】
たとえば、特開2009-255088号公報(特許文献1)には、オゾンを利用する可溶化処理において、オゾン処理化された余剰汚泥を圧縮空気により撹拌し、生物処理槽に送り戻す熟成槽と、熟成槽で発生するオゾンを含む気体からオゾンを吸着する脱オゾン槽を備える余剰汚泥可溶化装置により、少ないオゾンの消費量で十分に可溶化してから生物処理槽に戻すことによって、実質的に全ての余剰汚泥を生物分解することが開示されている。
【0004】
特開2016-221491号公報(特許文献2)には、汚泥をpH11以上のアルカリ性雰囲気で40℃以上100℃以下に加熱することにより汚泥を可溶化処理した後に、嫌気性生物処理することにより、可溶化汚泥の分解によるメタンガスを発生させ、嫌気処理におけるメタンガス発生量を向上させることが開示されている。
【0005】
特開2012-183510号公報(特許文献3)には、嫌気性消化汚泥をpH5~7、50℃~90℃にて高温可溶化菌又は超高温可溶化菌の作用により可溶化して、可溶化有機性廃棄物と可溶化の際に発生したHを含むガスを嫌気性消化処理することにより、水素、メタンガスの増収及び有機性廃棄物の残渣の減容化率の向上を図ることが開示されている。
【0006】
特開2016-117066号公報(特許文献4)には、汚泥濃度4~12%の汚泥濃縮物を30~60℃、HRT1~3日の条件で可溶化および酸発酵処理した後にメタン発酵処理する嫌気性処理方法が開示されている。
【0007】
特開2004-275813号公報(特許文献5)には、汚泥に酸を加えpHが5以下になるように調整し、60℃以上に加熱処理する酸加熱法を適用した後、嫌気性消化処理を行う汚泥の処理方法が開示されている。
【0008】
特開昭56-16700号公報(特許文献6)には、余剰汚泥を50~100℃で3~24時間加熱する前処理を行って絶対嫌気性菌の活性を抑制した後、最初沈殿池引き抜き汚泥と混合して、酸生成工程及びガス生成工程からなる2相式嫌気性消化方法により処理する下水汚泥の嫌気性消化方法が開示されている。前処理としては、pH4以下で3~24時間の酸処理であってもよいことが記載されている。本公報には、酸生成工程を備える2相式(酸処理→酸生成→嫌気性消化)を前提としているため、前処理において達成すべき汚泥の可溶化の程度が小さく、前処理の時間を短縮できることが開示されているが、酸処理後に酸生成を行わずに直接、酸処理→嫌気性消化の場合には達成すべき汚泥の可溶化の程度が大きくなり、前処理の時間は長期化すると考えられる。
【0009】
特開2007-330881号公報(特許文献7)には、破砕した生ごみと汚泥濃縮装
置からの濃縮分離液の一部と余剰汚泥とを可溶化槽に導入して、pH低下を緩衝させて30~60℃で1~48時間の滞留時間で処理して、可溶化槽でのバイオガスの発生を抑止し、可溶化生ごみを得て、後段のメタン発酵槽にて可溶化生ごみをメタン発酵処理してバイオガスを発生させることが記載されている。
【0010】
特開昭52―5960号公報(特許文献8)には、pH3.5以下、60℃以上160℃以下、1分以上10分以内で行う酸加熱前処理を行った後、嫌気性条件下の液化槽にて一定温度で数日間保持する嫌気性消化方法が記載されている。
【0011】
しかし、従来の方法にはコストやオゾン発生器の問題、臭気、分離水の色度などに課題があり、実用的には普及していない。また、アルカリ処理では、汚泥脱水性の悪化や分離水の色度などに課題がある。
【0012】
高温処理及びオゾン処理の際に問題となるエネルギー使用量及び稼働コストを改善し、アルカリ処理の際に問題となる処理水の色度及び汚泥の脱水性を改善する方法として、OSAプロセスが提案されている。たとえば、特開2020―142168号公報(特許文献9)には、生物処理後の汚泥の一部を嫌気槽に導入して、鉄の存在下で微曝気処理して汚泥を分解し再基質化させた後に、活性汚泥槽に返送して再び生物処理する方法が開示されている。特許文献5に記載のOSAプロセスは、従来のOSAプロセスよりは滞留時間が短縮でき、嫌気槽も小型化できているが、他の処理方法と比較するとやはり滞留時間が長く、嫌気槽も大きいという問題が残る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2009-255088号公報
【特許文献2】特開2016-221491号公報
【特許文献3】特開2012-183510号公報
【特許文献4】特開2016-117066号公報
【特許文献5】特開2004-275813号公報
【特許文献6】特開昭56-16700号公報
【特許文献7】特開2007-330881号公報
【特許文献8】特開昭52―5960号公報
【特許文献9】特開2020―142168号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、従来の汚泥可溶化技術におけるコスト、オゾン発生器、臭気、分離水の色度などの問題を解決して、汚泥の脱水性を改善し、メタンガス生成速度及びメタン転換率を向上させることができる嫌気性処理を含む排水処理方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するため、本発明者らは鋭意研究した結果、嫌気性消化処理に供する余剰汚泥を、50℃以下で無機酸を添加してpHを5以下、好ましくは4以下、より好ましくは3以下の酸性雰囲気下で処理することにより、余剰汚泥中の微生物の細胞壁(細胞膜)を破壊せずに、細胞外高分子物質を1μm程度に細分化させることができ、微生物由来の有機物による色度の悪化を防止しながら、溶解性CODCr(S-CODCr)成分及び分解しやすいCODCr成分が増加した汚泥(易分解化汚泥)を得ることができ、易分解化汚泥を嫌気性消化処理することによって、メタンガス発生量を有意に増加できることを知見し、本発明を完成するに至った。
【0016】
本発明において、「易分解化」とは汚泥中の微生物の細胞外高分子物質を細分化させ分解しやすい汚泥にするが、細胞壁(細胞膜)は破壊せずに残し、細分化された細胞外高分子物質と、微生物とを含む、分解しやすい汚泥にすることであり、「易分解化汚泥」とは易分解化処理により得られる細分化された細胞外高分子物質と微生物とを含む分解しやすい汚泥であり、[(処理後S-CODCr)-(処理前S-CODCr)]/処理前CODCrで求められる可溶化度が10%未満である汚泥をいう。汚泥処理において一般的な「可溶化」は、汚泥中の微生物の細胞壁(細胞膜)を破壊して溶解性有機物を増加させ、固形物を減らすことで汚泥を減容化する技術であり、本発明における「易分解化」及び「易分解化汚泥」は「可溶化」及び「可溶化汚泥」とは区別される。
【0017】
本発明によれば、下記態様の排水処理方法及び排水処理装置が提供される。
[1] 生物処理後に発生する余剰汚泥を嫌気性消化処理する嫌気性消化処理工程と、嫌気性消化処理後の汚泥を脱水処理する脱水工程と、を含む排水処理方法であって、
当該嫌気性消化処理工程の前に、当該余剰汚泥に、無機酸を添加してpHを5以下に調整し、50℃以下で、当該余剰汚泥中の微生物の細胞外高分子物質を細分化して易分解化汚泥を得る前処理工程を含むことを特徴とする排水処理方法。
[2] 前記前処理工程において、易分解化汚泥は、[(処理後S-CODCr)-(処理前S-CODCr)]/処理前CODCrで求められる可溶化度が10%未満であることを特徴とする上記[1]に記載の排水処理方法。
[3] 前記前処理工程における滞留時間は0.01時間以上24時間以下であることを特徴とする上記[1]又は[2]に記載の排水処理方法。
[4] 前記前処理工程の前に、前記余剰汚泥を濃縮する余剰汚泥濃縮工程をさらに含み、
前記前処理工程において、濃縮された余剰汚泥を処理することを特徴とする上記[1]~[3]のいずれか1に記載の排水処理方法。
[5] 排水を汚泥と分離水とに固液分離する固液分離工程と、当該固液分離工程からの分離水を生物処理する生物処理工程と、当該固液分離工程からの分離汚泥を濃縮する分離汚泥濃縮工程と、前記嫌気性消化処理工程の前に、当該分離汚泥濃縮工程からの濃縮汚泥と前記前処理工程からの易分解化汚泥と混合する汚泥混合工程をさらに含むことを特徴とする上記[1]~[4]のいずれか1に記載の排水処理方法。
[6] 前記嫌気性消化処理工程からのバイオガス中の臭気成分を生物脱硫処理して得られる無機酸、及び/又は排水処理施設内で発生する臭気ガスを生物脱臭処理して得られる無機酸を前記前処理工程に供給することを特徴とする上記[1]~[5]のいずれか1に記載の排水処理方法。
[7] 排水処理装置であって、
生物処理槽からの余剰汚泥に、無機酸を添加してpHを5以下に調整し、50℃以下で、微生物の細胞外高分子物質を細分化して易分解化汚泥を得る前処理槽と、
当該前処理槽からの易分解化汚泥を嫌気性消化処理する嫌気性消化槽と、
当該嫌気性消化槽からの汚泥を脱水処理する脱水機と、
を備えることを特徴とする嫌気性消化処理装置。
[8] 前記前処理槽は、ラインミキサーであることを特徴とする徐器[7]に記載の嫌気性消化処理装置。
[9] 前記前処理槽の前段に、生物処理槽からの余剰汚泥を濃縮する余剰汚泥濃縮槽をさらに備えることを特徴とする上記[7]又は[8]に記載の嫌気性消化処理装置。
[10]さらに、排水を分離水と分離汚泥とに固液分離する固液分離手段が生物処理槽の前段に設けられており、
当該固液分離手段からの分離汚泥を濃縮する分離汚泥濃縮槽と、
当該分離汚泥濃縮槽からの濃縮汚泥と、前記前処理槽からの易分解化汚泥とを混合する汚泥濃縮混合槽と、が当該固液分離手段と前記嫌気性消化処理槽との間に設けられている
ことを特徴とする上記[7]~[9]のいずれか1に記載の排水処理装置。
[11] 前記嫌気性消化槽からのバイオガスを導入し、当該バイオガス中の臭気成分から無機酸を生成する生物脱硫装置、及び/又は排水処理施設内で発生する臭気ガスから無機酸を生成する生物脱臭装置と、
当該生物脱硫装置及び/又は生物脱臭装置からの無機酸を前記前処理槽に供給する無機酸供給ラインと、
を備えることを特徴とする上記[7]~[10]のいずれか1に記載の嫌気性消化処理装置。
【発明の効果】
【0018】
本発明の排水処理方法によれば、従来の汚泥可溶化技術と異なり、細胞外高分子物質を細分化させるが細胞壁を破壊しないため、従来の可溶化方法よりもエネルギー使用量及び稼働コストを低減し、嫌気性消化処理に要する時間(滞留時間)が短縮されるなど操作性に優れ、処理水の色度及び汚泥の脱水性を改善し、メタンガス生成速度及びメタン転換率を向上させることができる。前処理時に、微生物の細胞外高分子物質が細分化されると、細胞外高分子物質に抱えられていた結合水が遊離水となり、汚泥処理工程における脱水性を向上させることができる。特に高濃度汚泥をメタン発酵する嫌気性発酵処理において効果的である。
【0019】
本発明の処理装置は、余剰汚泥を易分解化汚泥に変換するために要する時間(滞留時間)が短いため、ラインミキサーなど管状構造の前処理槽とすることができ、従来の可溶化槽などの大容積の槽を用いる必要がない。また、ヒーターやオゾン発生器などの特別な機器を必要とせずに、簡易な構成でメタン生成速度及びメタン転換率の高い処理装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の排水処理方法の概略説明図である。
図2】本発明の排水処理方法の一実施形態の概略説明図である。
図3】本発明の排水処理方法の別の実施形態の概略説明図である。
図4】本発明の排水処理方法のまた別の実施形態の概略説明図である。
図5】汚泥のpHとゼータ電位との関係の一例を示すグラフである。
図6】本発明の排水処理装置の概略説明図である。
図7】生物処理槽内に浸漬型膜分離装置を設けた本発明の排水処理装置の概略説明図である。
図8】本発明の排水処理装置の一実施形態の概略説明図である。
図9】本発明の排水処理装置の別の実施形態の概略説明図である。
図10】本発明の排水処理装置のまた別の実施形態の概略説明図である。
図11】pHと溶解性鉄(S-Fe)濃度との関係を示すグラフである。
図12】pHと溶解性マンガン(S-Mn)濃度との関係を示すグラフである。
図13】pHと溶解性マグネシウム(S-Mg)濃度及び溶解性カルシウム(S-Ca)との関係を示すグラフである。
図14】pHとCODCrとの関係を示すグラフである。
図15】pHとCSTとの関係を示すグラフである。
図16】pHと色度との関係を示すグラフである。
図17】pHと可溶化度との関係を示すグラフである。
図18】pHとメタンガス累積発生量との関係を示すグラフである。
図19】pHとメタンガス転換率との関係を示すグラフである。
図20】温度とメタンガス発生量との関係を示すグラフである。
【好ましい実施形態】
【0021】
以下、添付図面を参照しながら、本発明を詳細に説明する。添付図面に示す実施形態は本発明の代表例であり、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0022】
図1に、本発明の排水処理方法の基本の処理フローの概略を示す。本発明の排水処理方法は、生物処理後に発生する余剰汚泥を嫌気性消化処理する嫌気性消化処理工程15と、嫌気性消化処理後の汚泥を脱水処理する脱水工程16と、を含み、嫌気性消化処理工程15の前に、無機酸を添加してpHを5以下、好ましくは4以下、より好ましくは3以下に調整し、50℃以下、好ましくは10℃以上25℃以下で、当該余剰汚泥中の微生物の細胞外高分子物質を細分化して易分解化汚泥を得る前処理工程14を含むことを特徴とする。図1に示す実施形態においては、排水を汚泥と分離水とに固液分離する第1の固液分離工程11と、第1の固液分離工程11からの分離水を生物処理する生物処理工程12と、生物処理工程12からの生物処理水を汚泥と処理水とに分離する第2の固液分離工程13とを含み、第2の固液分離工程13からの汚泥の一部は返送汚泥として生物処理工程12に戻され、汚泥の残部は余剰汚泥として前処理工程15に供給される。第1の固液分離工程11は必須ではなく省略することができる。
【0023】
図2に、本発明の排水処理方法の一実施形態の処理フローの概略を示す。図2に示す排水処理方法は、排水を汚泥と分離水とに固液分離する第1の固液分離工程11と、第1の固液分離工程11からの分離水を生物処理する生物処理工程12と、生物処理後に発生する余剰汚泥を嫌気性消化処理する嫌気性消化処理工程15と、嫌気性消化処理後の汚泥を脱水処理する脱水工程16と、を含み、嫌気性消化処理工程15の前に、無機酸を添加してpHを5以下、好ましくは4以下、より好ましくは3以下に調整し、50℃以下、好ましくは10℃以上25℃以下で、当該余剰汚泥中の微生物の細胞外高分子物質を細分化して易分解化汚泥を得る前処理工程14を含み、第1の固液分離工程11からの分離汚泥を濃縮する分離汚泥濃縮工程17と、分離汚泥濃縮工程17からの濃縮汚泥と前処理工程14からの易分解化汚泥とを混合する汚泥混合工程18をさらに含み、濃縮汚泥及び易分解化汚泥の混合汚泥を嫌気性消化処理工程15に供給して処理することを特徴とする。生物処理工程12からの生物処理水は第2の固液分離工程13にて汚泥と処理水とに分離され、汚泥の一部は返送汚泥として生物処理工程12に返送され、残部は余剰汚泥として前処理工程14に送られる。余剰汚泥を前処理工程14に供給する前に濃縮する余剰汚泥濃縮工程19をさらに含むこともできる。前処理工程14の前段に、余剰汚泥濃縮工程19を含む場合には、前処理工程の効率化(酸使用量の削減、前処理槽の小型化)を図ることができる。
【0024】
図3に、本発明の排水処理方法の別の実施形態の処理フローの概略を示す。図3に示す排水処理方法は、生物処理後に発生する余剰汚泥を嫌気性消化処理する嫌気性消化処理工程15と、嫌気性消化処理後の汚泥を脱水処理する脱水工程16と、を含み、嫌気性消化処理工程15の前に、無機酸を添加してpHを5以下、好ましくは4以下、より好ましくは3以下に調整し、50℃以下、好ましくは10℃以上25℃以下で、当該余剰汚泥中の微生物の細胞外高分子物質を細分化して易分解化汚泥を得る前処理工程14を含み、嫌気性消化処理工程15からのバイオガスに含まれる硫化水素などの臭気成分を微生物により処理して硫酸などの酸を発生させる無機酸生成工程20をさらに含み、無機酸生成工程20からの無機酸を前処理工程14に添加することを特徴とする。図示した実施形態においては、排水を汚泥と分離水とに固液分離する第1の固液分離工程11と、第1の固液分離工程11からの分離水を生物処理する生物処理工程12と、生物処理工程12からの生物処理水を汚泥と処理水とに分離する第2の固液分離工程13と、を含み、第2の固液分離工程13からの汚泥の一部は返送汚泥として生物処理工程12に返送され、残部は余剰汚泥として前処理工程14に送られる。余剰汚泥を前処理工程14に供給する前に濃縮する余剰汚泥濃縮工程19をさらに含むこともできる。前処理工程14の前段に、余剰汚泥濃縮工程19を含む場合には、前処理工程の効率化(酸使用量の削減、前処理槽の小型化)
を図ることができる。第1の固液分離工程11は必須ではなく省略することができる。
【0025】
図4に、本発明の排水処理方法のまた別の実施形態の処理フローの概略を示す。図4に示す排水処理方法は、排水を汚泥と分離水とに固液分離する第1の固液分離工程11と、第1の固液分離工程11からの分離水を生物処理する生物処理工程12と、生物処理後に発生する余剰汚泥を嫌気性消化処理する嫌気性消化処理工程15と、嫌気性消化処理後の汚泥を脱水処理する脱水工程16と、を含み、嫌気性消化処理工程15の前に、無機酸を添加してpHを5以下、好ましくは3以下に調整し、50℃以下、好ましくは10℃以上25℃以下で、当該余剰汚泥中の微生物の細胞外高分子物質を細分化して易分解化汚泥を得る前処理工程14を含み、第1の固液分離工程11からの分離汚泥を濃縮する分離汚泥濃縮工程17と、分離汚泥濃縮工程17からの濃縮汚泥と前処理工程14からの易分解化汚泥とを混合する汚泥混合工程18をさらに含み、濃縮汚泥及び易分解化汚泥の混合汚泥を嫌気性消化処理工程15に供給して処理すること、及び嫌気性消化処理工程15からのバイオガスに含まれる硫化水素などの臭気成分を微生物により処理して硫酸などの酸を発生させる酸生成工程20をさらに含み、酸生成工程20からの酸を前処理工程14に添加することを特徴とする。生物処理工程12からの生物処理水は、第2の固液分離工程13にて汚泥と処理水とに分離され、汚泥の一部は返送汚泥として生物処理工程12に返送され、残部の余剰汚泥は前処理工程14に送られる。余剰汚泥を前処理工程14に供給する前に濃縮する余剰汚泥濃縮工程19をさらに含むこともできる。前処理工程14の前段に、余剰汚泥濃縮工程19を含む場合には、前処理工程の効率化(酸使用量の削減、前処理槽の小型化)を図ることができる。
【0026】
まず、図1~4に示す本発明の排水処理方法における前処理工程14について説明する。前処理工程において、無機酸を添加してpH5以下、好ましくは4以下、より好ましくはpH3以下pH2以上の酸性雰囲気にて、50℃以下、好ましくは10℃以上25℃以下の室温にて余剰汚泥を処理することにより、活性汚泥を構成している微生物の細胞外高分子物質を細分化して、分解しやすい汚泥(易分解化汚泥)にすることができる。細胞外高分子物質により保持されていたリン酸性リン(PO-P)、アンモニア性窒素(NH-N)、Ca、Mg、Fe、Mnなどのスケール成分がイオンとして溶出し、活性汚泥粒子が細分化される。また、細胞外高分子物質が抱えていた結合水が遊離水に変化して放出されることで、脱水工程における嫌気性消化汚泥の脱水性も向上し、汚泥減容化に資する。
【0027】
前処理工程において、無機酸を添加して余剰汚泥のpHを5以下、好ましくは4以下、より好ましくは3以下に調整する。pHが低すぎると、嫌気性消化処理に最適なpH(中性)に調整するためにアルカリ剤を多量に添加する必要が生じ、コストが高くなるため、pHは2以上にすることが好ましい。無機酸添加による易分解化反応は即効性が高いため、前処理工程の滞留時間は0.01時間以上24時間以内、好ましくは12時間以内、特に好ましくは3時間以内と非常に短時間でよい。また、通常、高濃度汚泥を嫌気性消化処理に供すると、嫌気性消化に伴い生成するアンモニア性窒素(NH-N)によりアルカリ度が増加し、脱水性が悪化するため、嫌気性消化処理の前にpHを低下させることは高濃度汚泥を処理する上でも効果的である。また、従来のアルカリ処理や高温処理の課題であった色度悪化の原因となる細胞を構成している有機物が放出されることが防止され、さらにフミン質は酸性域で凝集しやすく、脱水工程で除去できるため、色度悪化を効果的に防止できる。さらに、従来のアルカリ処理による可溶化汚泥と比べて、本発明の無機酸添加による前処理で生成される易分解化汚泥は、臭気が少なく、粘性が低く、流動性が高いため、取り扱いが容易で、移送動力や撹拌動力を削減できる。
【0028】
前処理工程において添加する無機酸としては、塩酸、硫酸、硝酸、亜硝酸、リン酸などを用いることができる。なかでも塩酸は、嫌気性消化処理時に還元反応による有機物の消
費が少なく、メタンガス発生量を増加させることができるため、好ましい。他の酸は、塩酸よりはメタンガス発生量の増加が少ないが、汚泥減容効果は同等である。また、嫌気性消化処理工程にて発生するバイオガスに含まれる硫化水素などの臭気成分を生物脱硫して得られる硫酸を用いることや、排水処理施設内で発生する臭気成分を生物脱臭して得られる硫酸、硝酸や亜硝酸を用いることもできる。なお、酸はアルカリ剤より廉価であり、薬剤コストを抑制できるという利点もある。
【0029】
前処理工程における無機酸の添加量は、余剰汚泥に含まれる二価以上の溶解性金属(S-Ca、S-Mg、S-Fe、S-Mnなど)が余剰汚泥に含まれる金属の全量に対して30wt%以上、好ましくは40wt%以上となる添加量とすることが望ましい。嫌気性消化反応が進行するとアンモニア性窒素(NH-N)が生成しpH6~8.5に上昇するが、前処理工程においてpHを5以下に調整することで、嫌気性消化処理工程におけるpHの上昇を抑制することができる。嫌気性消化処理工程における汚泥のpHに応じて、前処理工程における無機酸の添加量を制御することもできる。例えば、嫌気性消化工程における汚泥のpHが7.5以上の場合には前処理工程における汚泥のpHが2~3となる添加量で無機酸を添加し、嫌気性消化工程における汚泥のpHが7.0~7.5の場合には前処理工程における汚泥のpHが3~4となる添加量で無機酸を添加する。嫌気性消化工程における汚泥のpHが7.0以下の場合には前処理工程に汚泥のpHが4~5となる添加量で無機酸を添加する。前処理工程において無機酸を添加して汚泥のpHを低下させることで、嫌気性消化工程における汚泥のpH上昇が抑制されるため、溶解性金属に由来するスケール成分の溶出を抑制でき、嫌気性消化工程におけるスケール発生を防止することができる。あるいは、嫌気性消化工程における汚泥のアルカリ度、有機酸濃度、メタンガス発生量などを指標にして前処理工程における無機酸の添加量を制御してもよい。さらに、嫌気性消化処理工程における汚泥のゼータ電位を測定して、無機酸の添加量を制御してもよい。汚泥の表面電荷はアルカリ性乃至中性付近でマイナスであるが、pHを下げるとゼロ(等電点)に近づく。等電点に近づくように無機酸の添加量を制御することが好ましい。ゼータ電位は汚泥の性状によって変動するため、たとえば図5(a)に示すゼータ電位とpHとの関係を有する汚泥の場合には、ゼータ電位が-4.5mV~1mVの範囲となるように無機酸を添加することができ、図5(b)に示すゼータ電位とpHとの関係を有する汚泥の場合には、ゼータ電位が-7mV~1mVの範囲となるように無機酸を添加することができる。前処理工程における無機酸の添加量は、処理対象となる余剰汚泥をあらかじめ採取して分析し、必要な酸添加量を求めて、適切な添加量とすることが好ましい。
【0030】
前処理工程は、-50mV以上150mV以下のORP(標準電極電位)で行うことができ、積極的な嫌気化又は曝気は必要ではない。また、50℃以下、好ましくは常温(10℃~25℃程度)でよいため、加温の必要はない。前処理工程からの易分解化汚泥は酸性であるため、嫌気性消化処理による嫌気性消化汚泥のアルカリ度が高くなり過ぎず、脱水処理時の凝集剤添加量も削減できる。本発明における前処理工程を含む排水処理方法は、従来の汚泥可溶化工程を含む嫌気性排水処理よりも、pH調整剤及び凝集剤の添加量、及び加温及びORP制御のためのエネルギー必要量を低減できるため、稼働コストを抑制することができる。
【0031】
次に、図1~4における他の処理工程について説明する。
第1の固液分離工程11は、処理対象の排水を汚泥と分離水とに固液分離する工程であり、処理対象の排水量が多量であるため、重力沈降分離が好ましい。
【0032】
生物処理工程12は、活性汚泥処理による好気性生物処理が好ましい。
第2の固液分離工程13は、活性汚泥を含む生物処理水を汚泥と処理水とに固液分離する工程であり、重力沈降分離や膜分離を好ましく用いることができる。
【0033】
余剰汚泥濃縮工程19は、余剰汚泥を前処理に供する前に、余剰汚泥を濃縮する工程であり、機械濃縮が好ましい。濃縮余剰汚泥を前処理に供することにより、単位容積当たりの細胞外高分子由来の有機物(可溶性CODCr成分)が増え、嫌気性消化処理によるメタンガス発生効率を向上させることができる。
【0034】
嫌気性消化工程15は、余剰汚泥を嫌気性消化処理してメタンガスを発生させる工程である。本発明においては、易分解化汚泥を嫌気性消化処理することにより、メタンガスの発生量を増加させることができる。通常、嫌気性消化工程はpH6~8.5で行われる。本発明においては、前処理工程において50℃以下、好ましくは常温で、pHを5以下、好ましくは4以下、より好ましくは3以下に調整して得た易分解化汚泥を嫌気性消化工程に導入するため、遊離アンモニア濃度が下がり、嫌気性消化槽内でのアンモニア阻害を低減することができる。たとえば一般的な嫌気性消化工程における汚泥のアルカリ度が3000mg/Lの場合、アンモニア性窒素濃度は500~1000mg/L程度であり、高濃縮汚泥を嫌気性消化処理する場合には嫌気性消化工程における汚泥のアルカリ度が6000mg/L、アンモニア性窒素濃度は5000mg/L程度に上昇することが多いが、本発明の易分解化汚泥を嫌気性消化工程に供給する場合には、嫌気性消化工程における汚泥のアルカリ度が上昇し過ぎず、通常はpHを低下させるために必要となるpH調整剤を低減できる。嫌気性消化汚泥のアルカリ度が高すぎないため、脱水処理時の凝集剤の添加量を削減することができる。
【0035】
脱水工程16は、嫌気性消化処理後の汚泥を脱水処理して、脱水汚泥と分離液とに分離する工程である。本発明においては、易分解化汚泥を嫌気性消化処理することにより、嫌気性消化工程からの汚泥が減少するため、脱水工程における脱水効率も上がり、最終的に排出される脱水汚泥も減少する。易分解化汚泥の嫌気性処理による嫌気性処理汚泥のアンモニア濃度が高すぎないため、凝集剤の添加量を削減でき、稼働コストを抑制することができる。
【0036】
分離汚泥濃縮工程17は、第1の固液分離工程11からの汚泥を濃縮する工程であり、重力濃縮を好ましく用いることができる。汚泥混合工程18は、嫌気性消化処理の前に、濃縮汚泥及び易分解化汚泥を混合する工程であり、嫌気性消化処理する際の汚泥濃度を好適範囲に調整することができる。
【0037】
図1~4には図示していないが、脱水工程16の前の嫌気性消化処理工程15の直後に、脱炭酸用曝気処理工程を設け、嫌気性消化汚泥を曝気して脱炭酸処理し、嫌気性消化汚泥のpHを上昇させてCaCOの生成を促進させて沈降分離し、後段でのスケール発生を抑制することも好ましい。また、マグネシウムを添加してMAPを晶析させて回収する工程を設けてもよい。
【0038】
次に、図6~10を参照しながら、本発明の排水処理装置を説明する。
図6~10は、図1~4に示す排水処理方法を実施するに適した排水処理装置の構成を示す概略説明図である。図6~10は、図1~4に示す各工程を実施するための装置構成を具体的に記載したものであり、各工程を実施するための構成には同じ符号を用いる。
【0039】
本発明の排水処理装置は、図6に示すように、生物処理槽12からの余剰汚泥に、無機酸を添加してpHを5以下、好ましくは4以下、より好ましくは3以下に調整し、50℃以下、好ましくは10℃以上25℃以下で、余剰汚泥中の微生物の細胞外高分子物質を細分化して易分解化汚泥を得る前処理槽14と、前処理槽14からの易分解化汚泥を嫌気性消化処理する嫌気性消化槽15と、嫌気性消化槽15からの汚泥を脱水処理する脱水機16と、を備えることを特徴とする。図示した実施形態では、排水を固液分離する第1の固
液分離手段11と、第1の固液分離手段11からの分離水を生物処理する生物処理槽12と、生物処理槽12からの生物処理水を汚泥と分離水とに分離する第2の固液分離手段13と、第2の固液分離手段13からの返送汚泥を生物処理槽12に返送するライン12aが設けられ、余剰汚泥の発生量を抑制し、生物処理時の汚泥濃度を十分に高く維持するように構成されている。第1の固液分離手段11は省略することもできる。第2の固液分離手段13は、図示したように生物処理槽12とは別に設けてもよいが、図7に示すように生物処理槽12内に設けてもよい。
【0040】
本発明の排水処理装置は、図8に示すように、第1の固液分離手段11と、嫌気性消化処理槽15との間に、第1の固液分離手段11からの分離汚泥を濃縮する分離汚泥濃縮槽17と、分離汚泥濃縮槽17からの濃縮汚泥と、前処理槽14からの易分解化汚泥とを混合する汚泥濃縮混合槽18と、をさらに含むこともできる。あるいは、余剰汚泥を前処理槽14に供給する前に濃縮する余剰汚泥濃縮装置19を含むこともできる。
【0041】
本発明の排水処理装置は、図9に示すように、嫌気性消化槽15からのバイオガスに含まれる硫化水素などの臭気成分を、充填材に担持された微生物と接触させて脱臭して、硫酸などの無機酸を生成させる生物脱硫装置20、及び/又は排水処理施設で発生する臭気ガスから無機酸を生成させる生物脱臭装置(図示せず)をさらに含み、前処理槽14に、生物脱硫装置20及び/又は生物脱臭装置からの無機酸を添加する構成としてもよい。生物脱硫装置又は生物脱臭装置としては、排水処理施設内で発生する臭気成分の脱臭に用いられる一般的な生物脱硫装置又は生物脱臭装置を制限なく用いることができる。排水処理施設内で発生する臭気成分を再利用することで、無機酸の必要量を削減することができる。
【0042】
図6~10に示す実施形態では、第1の固液分離手段11として最初沈殿池、第2の固液分離手段13として最終沈殿池を用いているが、これらに限らず、排水処理において通常用いられる固液分離手段、たとえば重力ろ過装置、圧縮ろ過装置、真空ろ過装置、常圧浮上濃縮装置、遠心濃縮装置、ベルト式ろ過濃縮装置、浸漬型膜分離装置、槽外型膜分離装置などを用いることができる。また、固液分離手段11及び13に、汚泥を沈殿させやすくするために凝集剤を添加する凝集剤添加手段を設けることもできる。あるいは、固液分離手段11及び13の前段に、汚泥に凝集剤を添加して凝集させる凝集槽を備えることもできる。
【0043】
生物処理槽12としては、活性汚泥槽、散水ろ床、オキシデーションディッチ槽などを好ましく用いることができる。生物処理槽12内部に浸漬型膜分離装置を浸漬させてもよい。嫌気性消化槽15としては、UASB型嫌気槽、嫌気性膜分離槽、担体投入型消化槽などを好ましく用いることができる。脱水機16としては、通常の汚泥処理に用いられる脱水機、たとえば重力ろ過脱水装置、圧縮ろ過脱水装置、真空ろ過脱水装置、スクリュープレス型脱水装置、遠心脱水装置、フィルタープレス脱水装置、ベルトプレス脱水装置などを好ましく用いることができる。
【0044】
前処理槽14は、生物処理槽12からの余剰汚泥をpH5以下、好ましくはpH2以上3以下、50℃以下、好ましくは常温(10℃~25℃)で処理して、余剰汚泥中の微生物の細胞外高分子物質を細分化させるために必要な滞留時間を確保できる容積を有するものであればよく、槽形状に限定されず、ラインミキサーなどの管形状でもよい。前処理工程は、微生物の細胞該高分子物質を細分化させるが細胞壁を完全に溶解させる処理ではないため、短時間での処理が好ましく、滞留時間は0.01時間以上24時間以下、好ましくは12時間以下、より好ましくは3時間以下、さらに好ましくは0.01時間以上2時間以下とすることが望ましく、前処理槽の容積は小さくてよい。前処理槽14は、酸添加手段14aに加えて、pH調整剤添加手段(図示せず)を備えていてもよい。また、汚泥
と酸を均一に接触させるために、撹拌手段(図示せず)を備えていることが好ましい。加温の必要がなく、滞留時間も短いため、配管に設けることができるラインミキサーが特に好ましい。さらに、図示してはいないが、前処理槽14は、無機酸の添加量を適切に制御するため、pH計やゼータ電位計などの汚泥の分析手段、無機酸の添加量を調整する酸添加量調整手段、pH調整剤添加量調整手段を備えることが好ましい。無機酸による易分解化反応は即効性が高いため、無機酸の添加位置は、汚泥濃度の高い前処理槽14の入口付近とすることが効率的である。前処理槽14の前段に余剰汚泥濃縮槽19を設ける場合には、余剰汚泥濃縮槽19の前段でも無機酸を添加してもよい。
【実施例0045】
表1に示す性状の余剰汚泥に、温度25℃で、塩酸を添加してpH2または4に調整し、易分解化処理した後に、表1に示す消化汚泥が入っている容器に添加し、35℃、0.3g―VS/g-VSS程度の負荷で嫌気性消化処理した。余剰汚泥と消化汚泥の性状を表1に示す。
【0046】
【表1】
【0047】
表1に示す性状の余剰汚泥(pH6)に、塩酸又は水酸化ナトリウムを添加してpHを2、4、6、9及び12に調整し、25℃の恒温槽で24時間振とうした後、各溶解性金属濃度、EPS-CODCr、脱水性、色度を測定した。
【0048】
[溶解性金属濃度]
ICP発光分析装置を用いて 各溶解性金属(S-Mn、S-Fe、S-Mg、S-C
a)を分析した。pHとS-Feの関係を図11に、pHとS-Mnの関係を図12に、pHとS-Mg及びS-Caの関係を図13に示す。pHが9又は12では各溶解性金属濃度は低いが、pHが4及び2の場合には各溶解性金属濃度が高くなることがわかる。
【0049】
[EPS-CODCr
細胞外高分子由来のCODCr(EPS-CODCr)を下記の手順で測定した。
測定用液50mLを2回遠心分離(3000rpm×10分)にかけ、上澄みを捨てて、沈殿物に純水を40mL程度加えて混合し、オートクレーブ処理(105℃×30分)を行い、50mLにメスアップした。その後、遠心分離(15000rpm×10分)にかけて、上澄み液を採取し、孔径1μmのろ過ゴマでろ過し、ろ液のCODCrを測定した。
【0050】
[CODCr
各pHにおけるEPS-CODCrの測定結果を図14に示す。pH6の未処理汚泥のEPS-CODCrよりもpH2及び4のEPS-CODCrが低いことから、pH2及び4では細胞外高分子の一部が破壊されて溶出して、遠心分離により上澄みとして除外されてしまい、ろ液に含まれないと考えられる。一方、pH6の未処理汚泥のEPS-CODCrよりもpH9及び12のEPS-CODCrは高く、pH9及び12では細胞外高分子ばかりでなく細胞壁(細胞膜)まで破壊されて有機物が放出され、放出された有機物は粘着性が非常に高く、汚泥と強固に結合した状態で存在し、オートクレーブ処理で汚泥と溶解性有機物が分離され、ろ液中に溶解性有機物が含まれて、EPS-CODCrが増加したと考えられる。
【0051】
[脱水性]
下水試験方法 第1章 一般汚泥試験 3.CST試験に準拠して、CST(毛管吸引時間)を測定し、汚泥ろ過特性を評価した。結果を図15に示す。CST時間が短いほど脱水性が良好であると評価できる。pH9及び12ではCSTが3000秒以上であるが、pH2及び4で処理した場合にCSTは400秒以下であり、脱水性が非常に良好であることがわかる。
【0052】
[色度]
下水試験方法 第2章 水質試験 4.色度に準拠して、色度を測定した。結果を図16に示す。pH2及び4では色度は80度及び120度であって、未処理のpH6の色度120度より低いが、pH9では600度、pH12では1250度と高くなる。酸性域での処理により色度の上昇を抑制できることが確認された。
【0053】
表2に、色度、脱水性(CST)、EPS-CODCrの測定結果をまとめて示す。pH2及び4の酸性域で処理した場合は、色度及びCSTが未処理汚泥より低くなり、色度及び脱水性が向上することがわかる。
【0054】
【表2】
【0055】
[可溶化度]
表3に示す余剰汚泥を用いて、塩酸又は水酸化ナトリウムを添加してpHを2、4、6、9及び12に調整し、25℃の恒温槽で24時間振とうした後、余剰汚泥のCODCr(処理前CODCr)、余剰汚泥の溶解性CODCr(処理前S-CODCr)、処理後の汚泥の溶解性CODCr(処理後S-CODCr)を測定し、可溶化度を算出した。溶解性CODCr(S-CODCr)は、孔径1μmのろ紙を用いてろ過したろ液を用いて測定した。結果を図17に示す。pH6の未処理汚泥の可溶化度が0.48%と最も低く、pHが低くなるほど又は高くなるほど可溶化度が高くなる。pH2では可溶化度は3.76%、pH4では可溶度は1.10%であった。pH12のアルカリ処理では、細胞外高分子物質だけではなく、細胞壁(細胞膜)が破壊されて細胞内の有機物が放出されたことにより、可溶化度が13%以上に高くなった。pHが5以下の場合には、細胞外高分子物質が細分化されるが、細胞壁(細胞膜)が破壊されて有機物が放出されない程度の10%未満の可溶化度が達成されることが確認できる。
【数1】
【0056】
【表3】
【0057】
[メタン転換率]
嫌気性消化処理した嫌気性消化汚泥400mLに、pH2及び4で処理した易分解化汚泥、pH6の未処理汚泥、pH9及び12でアルカリ処理した汚泥を100mLずつ分注し、35℃の恒温槽で撹拌しながら約1か月間運転し、CODCrとガス発生量を測定し、下記式によりCODCrメタン転換率を求めた。式中、メタンガス転換係数は定数(0.35)である。メタンガス累積発生量の測定結果を図18に示し、メタン転換率の計算結果を図19に示す。メタンガス累積発生量については、pH2とpH12の処理でほぼ同様の傾向を示し、pH4とpH9の処理でほぼ同様の傾向を示し、いずれも未処理の場合よりもメタンガス累積発生量が増加している。pH2で易分解化処理した汚泥では、150時間経過時に35%のメタン転換率が達成され、400時間経過時には45%のメタン転換率が達成された。pH12でアルカリ処理した汚泥では35%のメタン転換率を達成するまでに200時間を要し、400時間経過時に40%のメタン転換率であった。pH2で酸処理すると、短時間でメタン転換率の上昇が認められ、即効性があることが確認できる。pH4での易分解化処理とpH9でのアルカリ処理では顕著な差はなく、35%のメタン転換率を達成するために300時間を要し、400時間経過時に38%のメタン転換率であった。pH6の未処理汚泥と比べると、酸性域での易分解化処理でもアルカリ性域でのアルカリ処理でもメタン転換率は優位に改善されている。しかし、色度測定結果から明らかなように、アルカリ処理では色度が非常に悪化する。よって、酸処理はアルカリ処理よりも短時間でメタン転換率を向上させることができるといえる。
【数2】
【0058】
[メタンガス発生量]
嫌気性消化処理した嫌気性消化汚泥300mLに、pH6.5で温度25℃、50℃及び75℃で処理した汚泥を60mLずつ分注し、35℃の恒温槽で撹拌しながら約1か月間運転し、ガス発生量を測定した。結果を図20に示す。温度が異なってもメタンガス発生量に有意な違いは認められない。よって、50℃以下の場合には、同等のメタンガス発生量でありながら、加温エネルギーが低く、稼働コストを低減できるといえる。
【0059】
[色度、脱水性、粘度及び臭気]
表4に示す性状の余剰汚泥(pH6)に、塩酸又は水酸化ナトリウムを添加してpHを2又は12に調整し、25℃の恒温槽で24時間振とうした後、色度、CST、粘度及び臭気を評価した結果を表5に示す。色度及びCSTは上述した方法で測定し、粘度はB形粘度計(RB80L:東機産業)で測定し、臭気は官能試験とした。
【0060】
【表4】
【0061】
【表5】
【0062】
表5より、25℃、pH2では色度、CST及び粘度が最も低く、脱水性及び取り扱い性に優れ、色度問題を解消し、悪臭の発生もなかったことが確認できる。一方、pH又は温度のいずれか一方が本発明の範囲を逸脱すると、色度、CST、及び粘度が高くなり、悪臭の発生も認められる。
【0063】
表6に示すように、本発明の前処理を用いる排水処理方法においては、従来の可溶化処理を用いる排水処理よりもエネルギー使用量が少なく、稼働コストを低減でき、操作性が良好で、処理水の色度もクリアで、汚泥の脱水性も良好である。
【0064】
【表6】
【0065】
以上、本発明の排水処理方法によれば、従来の可溶化方法を用いる排水処理方法よりも少ないエネルギー使用量及び稼働コストにも関わらず、脱水性に優れ、色度及び粘度が低い嫌気性消化汚泥が得られ、従来のアルカリ処理と同等以上のメタン転換率を短時間で達成することができる。
【符号の説明】
【0066】
11:第1の固液分離工程(最初沈殿池)
12:生物処理工程(生物処理槽)
13:第2の固液分離工程(最終沈殿池、浸漬型膜分離装置)
14:前処理工程(前処理槽、ラインミキサー)
15:嫌気性消化処理工程(嫌気性消化処理槽)
16:脱水工程(脱水機)
17:分離汚泥濃縮工程(重力濃縮装置)
18:汚泥混合工程(汚泥混合貯槽)
19:余剰汚泥濃縮工程(機械濃縮装置)
20:酸生成工程(生物脱硫装置)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20