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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024070296
(43)【公開日】2024-05-23
(54)【発明の名称】スラグのエージング方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 5/00 20060101AFI20240516BHJP
   F27D 15/00 20060101ALI20240516BHJP
【FI】
C04B5/00 C
F27D15/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022180671
(22)【出願日】2022-11-11
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105968
【弁理士】
【氏名又は名称】落合 憲一郎
(72)【発明者】
【氏名】曹 寧源
(72)【発明者】
【氏名】矢埜 泰武
(72)【発明者】
【氏名】大橋 知弘
(72)【発明者】
【氏名】小澤 典子
【テーマコード(参考)】
4G112
4K063
【Fターム(参考)】
4G112JE04
4G112JE06
4K063HA32
4K063HA38
(57)【要約】
【課題】路盤材として利用されるスラグの膨張及び崩壊を防止するために、積み付け後のスラグの粒度偏析から起因する蒸気偏流を低減した蒸気エージング方法を提供する。
【解決手段】スラグのエージング方法であって、原料であるスラグを、破砕し粒度調整する事前処理工程と、散水して水分を付与する散水工程と、エージング処理設備に積み付けする積付工程と、エージング工程とをこの順に有することを特徴とする。また、必要に応じて、前記散水工程後で前記積付工程前に、攪拌する攪拌工程を有し、さらに、前記積付工程後で前記エージング工程前に、昇温乾燥する昇温乾燥工程を有することが好ましい。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スラグのエージング方法であって、
原料であるスラグを、破砕し粒度調整する事前処理工程と、
散水して水分を付与する散水工程と、
エージング処理設備に積み付けする積付工程と、
エージング工程と、
をこの順に有することを特徴とするスラグのエージング方法。
【請求項2】
前記散水工程後であって前記積付工程前に、攪拌する攪拌工程を有することを特徴とする請求項1に記載のスラグのエージング方法。
【請求項3】
前記積付工程後であって前記エージング工程前に、昇温乾燥する昇温乾燥工程を有することを特徴とする請求項1又は2に記載のスラグのエージング方法。
【請求項4】
前記積付工程直前のスラグの含水率を、5wt%~12wt%とすることを特徴とする請求項1又は2に記載のスラグのエージング方法。
【請求項5】
前記昇温乾燥工程において、前記積付工程後のスラグを100℃以上の高温ガスを用いて昇温乾燥することを特徴とする請求項3に記載のスラグのエージング方法。
【請求項6】
前記スラグが製鋼スラグであって、前記エージング工程において、水蒸気を用いた蒸気エージング処理を行うことを特徴とする請求項1又は2に記載のスラグのエージング方法。
【請求項7】
前記スラグが製鋼スラグであって、前記エージング工程において、水蒸気を用いた蒸気エージング処理を行うことを特徴とする請求項3に記載のスラグのエージング方法。
【請求項8】
前記スラグが製鋼スラグであって、前記エージング工程において、水蒸気を用いた蒸気エージング処理を行うことを特徴とする請求項4に記載のスラグのエージング方法。
【請求項9】
前記スラグが製鋼スラグであって、前記エージング工程において、水蒸気を用いた蒸気エージング処理を行うことを特徴とする請求項5に記載のスラグのエージング方法。
【請求項10】
前記原料であるスラグは、下記の(2)式で求めた粒度分布指標kが0.4以上である粒度特性を有することを特徴とする請求項1又は2に記載のスラグのエージング方法。
【数1】
【数2】
ここで、Ds:上記の(1)式で求めた比表面積基準の平均粒径であり、wi:粒子群iの重量割合で、di:粒子群i粒径である。Dsf:最細粒度分布の比表面積基準の平均粒径で、DmaxとDmin:粒度分布の最大粒径と最小粒径である。
【請求項11】
前記原料であるスラグは、下記の(2)式で求めた粒度分布指標kが0.4以上である粒度特性を有することを特徴とする請求項3に記載のスラグのエージング方法。
【数1】
【数2】
ここで、Ds:上記の(1)式で求めた比表面積基準の平均粒径であり、wi:粒子群iの重量割合で、di:粒子群i粒径である。Dsf:最細粒度分布の比表面積基準の平均粒径で、DmaxとDmin:粒度分布の最大粒径と最小粒径である。
【請求項12】
前記原料であるスラグは、下記の(2)式で求めた粒度分布指標kが0.4以上である粒度特性を有することを特徴とする請求項4に記載のスラグのエージング方法。
【数1】
【数2】
ここで、Ds:上記の(1)式で求めた比表面積基準の平均粒径であり、wi:粒子群iの重量割合で、di:粒子群i粒径である。Dsf:最細粒度分布の比表面積基準の平均粒径で、DmaxとDmin:粒度分布の最大粒径と最小粒径である。
【請求項13】
前記原料であるスラグは、下記の(2)式で求めた粒度分布指標kが0.4以上である粒度特性を有することを特徴とする請求項5に記載のスラグのエージング方法。
【数1】
【数2】
ここで、Ds:上記の(1)式で求めた比表面積基準の平均粒径であり、wi:粒子群iの重量割合で、di:粒子群i粒径である。Dsf:最細粒度分布の比表面積基準の平均粒径で、DmaxとDmin:粒度分布の最大粒径と最小粒径である。
【請求項14】
前記原料であるスラグは、下記の(2)式で求めた粒度分布指標kが0.4以上である粒度特性を有することを特徴とする請求項6に記載のスラグのエージング方法。
【数1】
【数2】
ここで、Ds:上記の(1)式で求めた比表面積基準の平均粒径であり、wi:粒子群iの重量割合で、di:粒子群i粒径である。Dsf:最細粒度分布の比表面積基準の平均粒径で、DmaxとDmin:粒度分布の最大粒径と最小粒径である。
【請求項15】
前記原料であるスラグは、下記の(2)式で求めた粒度分布指標kが0.4以上である粒度特性を有することを特徴とする請求項7に記載のスラグのエージング方法。
【数1】
【数2】
ここで、Ds:上記の(1)式で求めた比表面積基準の平均粒径であり、wi:粒子群iの重量割合で、di:粒子群i粒径である。Dsf:最細粒度分布の比表面積基準の平均粒径で、DmaxとDmin:粒度分布の最大粒径と最小粒径である。
【請求項16】
前記原料であるスラグは、下記の(2)式で求めた粒度分布指標kが0.4以上である粒度特性を有することを特徴とする請求項8に記載のスラグのエージング方法。
【数1】
【数2】
ここで、Ds:上記の(1)式で求めた比表面積基準の平均粒径であり、wi:粒子群iの重量割合で、di:粒子群i粒径である。Dsf:最細粒度分布の比表面積基準の平均粒径で、DmaxとDmin:粒度分布の最大粒径と最小粒径である。
【請求項17】
前記原料であるスラグは、下記の(2)式で求めた粒度分布指標kが0.4以上である粒度特性を有することを特徴とする請求項9に記載のスラグのエージング方法。
【数1】
【数2】
ここで、Ds:上記の(1)式で求めた比表面積基準の平均粒径であり、wi:粒子群iの重量割合で、di:粒子群i粒径である。Dsf:最細粒度分布の比表面積基準の平均粒径で、DmaxとDmin:粒度分布の最大粒径と最小粒径である。
【請求項18】
前記積付工程後のスラグにおいて、下記の(5)式で求めた粒度偏析度合係数Isegを1.0~1.5の範囲に制御することを特徴とする請求項1又は2に記載のスラグのエージング方法。
【数3】
【数4】
【数5】
ここで、aij:分割領域(i:1~m、j:1~n)、m:x方向に沿った分割領域数、n:y方向に沿った分割領域数、Nk(aij):分割領域aijにあるk成分粒子の個数、Ck(aij):分割領域aijにあるk成分粒子の個数濃度、
【数6】
である。
【請求項19】
前記積付工程後のスラグにおいて、下記の(5)式で求めた粒度偏析度合係数Isegを1.0~1.5の範囲に制御することを特徴とする請求項3に記載のスラグのエージング方法。
【数3】
【数4】
【数5】
ここで、aij:分割領域(i:1~m、j:1~n)、m:x方向に沿った分割領域数、n:y方向に沿った分割領域数、Nk(aij):分割領域aijにあるk成分粒子の個数、Ck(aij):分割領域aijにあるk成分粒子の個数濃度、
【数6】
である。
【請求項20】
前記積付工程後のスラグにおいて、下記の(5)式で求めた粒度偏析度合係数Isegを1.0~1.5の範囲に制御することを特徴とする請求項4に記載のスラグのエージング方法。
【数3】
【数4】
【数5】
ここで、aij:分割領域(i:1~m、j:1~n)、m:x方向に沿った分割領域数、n:y方向に沿った分割領域数、Nk(aij):分割領域aijにあるk成分粒子の個数、Ck(aij):分割領域aijにあるk成分粒子の個数濃度、
【数6】
である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スラグのエージング方法に関し、特に、路盤材として使用されるスラグの膨張及び崩壊を防止するための蒸気偏流を低減した蒸気エージング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製鉄プロセスにおける転炉などから発生する多量の鉄鋼スラグ(以下、単に「スラグ」ともいう。)を利材化することは、重要な課題の一つである。スラグは固い石質であることから、道路などの路盤材や骨材などとして利用されているが、なかでも製鋼スラグは、特に遊離石灰(フリーライム)を含むことから、雨水などの水分と反応して膨張することが問題となる。スラグを道路用に用いる場合、JIS A 5015「道路用鉄鋼スラグ」において、所定の膨張特性(水浸膨張比で1.0%以下)を満たすことが規定されている。このため製鋼スラグは、使用前に遊離石灰を水分と反応させておく工程、すなわちエージング処理の工程が必要である。
【0003】
スラグを効率的にエージング処理する方法としては、水蒸気を用いて高温で水との反応を促進する方法、すなわち蒸気エージング方法が広く知られている。この蒸気エージング方法に関して、例えば、特許文献1には、水分を添加して製鋼スラグの水分含有量が10重量%以上になるまで含水させた後に蒸気エージング処理を行う技術が開示されている。また、特許文献2及び3には、水を散布して製鋼スラグに水を均一に付与した後に蒸気エージング処理を行う技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8-12384号公報
【特許文献2】特開2017-149637号公報
【特許文献3】特開2017-7880号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
路盤材用のスラグにおいて、個々のスラグ粒子の粒径は、数μmから数十mmと広い範囲で分布している。したがって、スラグのエージング方法において、スラグをエージング設備へ搬送し、充填し、積み付けする際に、充填することで充填山の傾斜が形成される。この形成された傾斜により、粒径の大きいスラグ粗粒が充填山の端部へ転がり落ちやすく、粒径の小さいスラグ細粒が充填山の中心部に集中するような粒度偏析が、エージング設備に充填されたスラグの層(以下、「スラグ充填層」ともいう。)に発生する。蒸気エージング方法の場合には、このような粒度偏析により、スラグ粗粒が集中する部分では、空隙率が大きいため、蒸気が通りやすく、一方、細粒が集中する部分では、蒸気が通りにくくなる。この粒度偏析に起因して蒸気の偏流が発生するため、蒸気エージング後において十分に反応していないスラグが存在する。このような未反応スラグの存在が、路盤材品質のばらつきを影響する要因の一つになる。
【0006】
前述の特許文献1、2及び3は、蒸気エージングする前に水分を含ませて、事前に反応を促進した後に、水蒸気と接触させることにより、蒸気エージング効率を向上させることが記載されている。しかしながら、上述した粒度偏析が、蒸気エージングの効率向上に及ぼす影響については、何も考慮されていない。
【0007】
本発明は、上記のような問題点に対してなされたものであり、路盤材として利用されるスラグの膨張及び崩壊を防止するために、積み付け後のスラグの粒度偏析から起因する蒸気偏流を低減した蒸気エージング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上述した課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、蒸気エージング方法において、上記のようなスラグの積み付け工程における粒度偏析を制御することが、路盤材製品の品質管理において重要であることを見出した。
【0009】
本発明は、かかる知見に基づき、さらに検討を加えて完成されたものであり、本発明の要旨は、次のとおりである。
〔1〕スラグのエージング方法であって、
原料であるスラグを、破砕し粒度調整する事前処理工程と、
散水して水分を付与する散水工程と、
エージング処理設備に積み付けする積付工程と、
エージング工程と、
をこの順に有することを特徴とするスラグのエージング方法。
〔2〕前記〔1〕において、前記散水工程後であって前記積付工程前に、攪拌する攪拌工程を有することを特徴とするスラグのエージング方法。
〔3〕前記〔1〕又は〔2〕において、前記積付工程後であって前記エージング工程前に、昇温乾燥する昇温乾燥工程を有することを特徴とするスラグのエージング方法。
〔4〕前記〔1〕又は〔2〕において、前記積付工程直前のスラグの含水率を、6wt%~12wt%とすることを特徴とするスラグのエージング方法。
〔5〕前記〔3〕に記載の前記昇温乾燥工程において、前記積付工程後のスラグを100℃以上の高温ガスを用いて昇温乾燥することを特徴とするスラグのエージング方法。
〔6〕前記〔1〕ないし〔5〕のいずれか一つにおいて、前記スラグが製鋼スラグであって、前記エージング工程において、水蒸気を用いた蒸気エージング処理を行うことを特徴とするスラグのエージング方法。
〔7〕前記〔1〕ないし〔6〕のいずれか一つにおいて、前記原料であるスラグは、下記の(2)式で求めた粒度分布指標kが0.4以上である粒度特性を有することを特徴とするスラグのエージング方法。
【0010】
【数1】
【0011】
【数2】
ここで、Ds:上記の(1)式で求めた比表面積基準の平均粒径であり、wi:粒子群iの重量割合で、di:粒子群i粒径である。Dsf:最細粒度分布の比表面積基準の平均粒径で、DmaxとDmin:粒度分布の最大粒径と最小粒径である。
【0012】
〔8〕前記〔1〕ないし〔7〕のいずれか一つにおいて、前記積付工程後のスラグの下記の(5)式で求めた粒度偏析度合係数Isegを1.0~1.5の範囲に制御することを特徴とするスラグのエージング方法。
【0013】
【数3】
【0014】
【数4】
【0015】
【数5】
【0016】
ここで、aij:分割領域(i:1~m、j:1~n)、m:x方向に沿った分割領域数、n:y方向に沿った分割領域数、Nk(aij):分割領域aijにあるk成分粒子の個数、Ck(aij):分割領域aijにあるk成分粒子の個数濃度、
【0017】
【数6】
である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、エージング処理する際に、スラグを積み付けする前に、スラグに散水することにより、スラグ充填層内の空隙率を大きくし、スラグの粒度偏析を低減することができる。さらに、蒸気エージングの場合の蒸気偏流を抑制し、散水後攪拌することにより、粒度偏析が著しく低減され、より均一にスラグを反応させることができる。また、エージングの前に、昇温乾燥することにより、エージング処理時間の短縮が図れる。蒸気エージングの場合は、水蒸気量の低減を図ることができ、生産性が一層向上するという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明に係るスラグのエージング方法の工程を示すフローチャート図である。
図2】スラグの含水率と付着性の関係を示す図である。
図3】スラグの含水率別の粒度分布指標と粒度偏析係数の関係を示す図である。
図4】スラグの粒度分布指標別の含水率と平均空隙率の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照しながら、本発明に係るスラグのエージング方法の実施形態について詳細に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0021】
[スラグ]
まず、本発明の対象となるスラグについて説明する。鉄鋼スラグには、高炉で銑鉄を製造する際に生成する高炉スラグと、転炉等で銑鉄から鋼を製造する際、または電気炉で鉄スクラップを溶融・精錬する際に生成する製鋼スラグとがある。路盤材に用いる鉄鋼スラグとしては、高炉スラグ及び製鋼スラグを素材とし、これらの素材を単独又は混合して製造されるものであって、用途や品質に応じて、種々のスラグが用意されている。
【0022】
本発明に係るスラグのエージング方法において対象とするスラグは、特に限定されるものではないが、スラグの膨張及び崩壊を防止することができる本発明の優れた効果が最も発揮されるという観点から、製鋼スラグに適用することが好ましい。
【0023】
[スラグのエージング方法]
本発明に係るスラグのエージング方法の概要を図1に基づいて説明する。図1は、本発明のエージング方法の工程の流れを示すフローチャートである。
【0024】
本発明に係るスラグのエージング方法は、以下に示す基本的な工程を下記の順に有することを特徴とする。
〈1〉原料であるスラグを、破砕し粒度調整する「事前処理工程」
〈2〉事前処理工程後のスラグに散水して水分を付与する「散水工程」
〈3〉散水工程後のスラグをエージング処理設備に積み付けする「積付工程」
〈4〉積付工程後のスラグをエージング処理する「エージング工程」
さらに、必要に応じて、
〈5〉散水工程後で積付工程前に、散水工程後のスラグを攪拌する「攪拌工程」
または、
〈6〉積付工程後でエージング工程前に、積付工程後のスラグを昇温乾燥する「昇温乾燥工程」
を有することを特徴とする。
【0025】
[〈1〉事前処理工程]
まず、事前処理工程は、転炉等から発生したスラグを回収し、破砕機により適当な粒度に調整した後、スラグをストックヤードに堆積して保管する工程をいう。ここで、破砕機とは、例えば、インパクトクラッシャなどを用いる。スラグの粒度分布は、JIS A 5015「道路用鉄鋼スラグ」で規格化されており、それに基づいて調整する。
【0026】
具体的には、排滓凝固したスラグをクラッシャなど用いて破砕を行った後、サイジング装置を通して粒度を所定範囲に調整する。
【0027】
[スラグの粒度分布指標k]
本発明者らは、スラグの事前粒度調整方法として、以下に説明する「粒度分布指標k」を用いることが有効であることを見出した。
【0028】
本発明者らが、スラグの粒度調整に関して行った検討結果を図3に示す。この図3は、路盤材に適用可能な粒度分布指標kを持つスラグにおいて、含水率の違いによる積み付け充填後の粒度偏析度合係数Isegを示したものである。
【0029】
ここで、粒度分布指標kとは、スラグ粒度の細かさを示す指標のことであり、下記の(2)式で求められる。
【0030】
【数1】
【0031】
【数2】
【0032】
ここで、Ds:上記の(1)式で求めた比表面積基準の平均粒径であり、wi:粒子群iの重量割合で、di:粒子群iの粒径である。Dsf:最細粒度分布の比表面積基準の平均粒径で、DmaxとDmin:粒度分布の最大粒径と最小粒径である。
【0033】
本発明に用いる原料であるスラグは、上記の粒度分布指標kが0.4以上である粒度特性を有することが好ましい。このkが0.4未満であると、スラグの粒度が大きすぎて路盤材にふさわしくないからである。
【0034】
なお、粒度分布の測定方法は、JIS Z 8801の篩装置を使用し、JIS Z 8815の粒度分布の測定方法に基づいて実施した。
【0035】
具体的には、比表面積基準の平均粒径の測定方法は、サンプリングしたスラグ粒子を分級し、スラグ粒子を球形と仮定し、分級したスラグ粒子径とスラグ密度を用いて算出したものである。また、最大粒径と最小粒径は、分級用篩の最大網径と最小網径のことであって、それにより求めることができる。
【0036】
[〈2〉散水工程]
この散水工程から後述するエージング工程までが、本発明の特徴である基本的な工程である。
【0037】
散水工程とは、前述の事前処理工程においてストックヤードに堆積されたスラグに対し、散水作業を行って、スラグ全体に適度な水分を付与するための工程である。散水装置は、特に限定されるものではなく、堆積しているスラグ全体に水分を付与又は供給することができる装置あるいは機械等を用いれば良い。散水する水量は、堆積しているスラグの量に対して適当な含水率となるように、決定すればよい。
【0038】
[含水率]
次の積付工程の前に、スラグに対し散水するのは、水分による液架橋力から形成される付着性をスラグに持たせるためである。ここで、図2は、路盤材用のスラグに散水処理後、スラグの含水率における付着性の変化傾向を示した図である。含水率が0.4wt%以下のほぼ水分を含まない状態の付着性を1.0とした場合、含水率の増加に従い付着性が増加し、含水率が10wt%前後に達したところで最大の付着性(水分を含まない状態の付着性の1.6倍程度)を示した。それ以上の水分を含ませると水分の過飽和状態となり付着性が減少していく。このように、スラグに付着性を持たせることにより、スラグの細粒が粗粒に付着するため、スラグ充填層内の粒度偏析を低減することができる。そのため、スラグの付着性は、少なくとも乾燥状態(水分を含まない状態)より1.5倍以上が好ましく、含水率としては、5wt%~12wt%とすることが好ましい。より好ましくは、6wt%~10wt%である。
【0039】
なお、含水率の測定は、サンプリングしたスラグ粒子を水分計により測定を行った。また、付着性の測定は、それぞれ異なる含水率を有するサンプリングしたスラグ粒子の安息角により評価した。
【0040】
[〈3〉積付工程]
積付工程は、水分を付与されたスラグを搬送装置によりエージング設備に搬入して、設備内に充填し、天面均しなど積み付け作業を行う工程である。充填の方法や天面均しなどの具体的な方法については、特に限定されないが、例えば、重機を利用して天面部を均す方法などがある。
【0041】
[粒度偏析度合係数Iseg]
本発明者らは、さらに、積付工程後のスラグの粒度指標として、以下に説明する「粒度偏析度合係数Iseg」を用いることが有効であることを見出した。
【0042】
粒度偏析度合係数Isegとは、粒度の偏析状況を示す指標(係数)であり、この係数が小さいほど偏析の程度が大きいことを表している。このIsegは、下記の(3)式及び(4)式から導かれる(5)式により求めることができる。
【0043】
【数3】
【0044】
【数4】
【0045】
【数5】
【0046】
ここで、aij:分割領域(i:1~m、j:1~n)、m:x方向に沿った分割領域数、n:y方向に沿った分割領域数、Nk(aij):分割領域aijにあるk成分粒子の個数、Ck(aij):分割領域aijにあるk成分粒子の個数濃度、
【0047】
【数6】
である。
【0048】
なお、上記の個数濃度とは、分級後の各粒子径の粒子が領域aijにある個数割合のことであり、スラグ粒子を球形と仮定し、領域aijにある各粒子径の粒子群の質量と粒子径の関係より算出することができる。
【0049】
本発明における積付工程後のスラグの粒度偏析度合係数Isegが、1.0~1.5の範囲に制御することが好ましい。このIsegは1.0を最小値と持ち、1.5を超えると粒度偏析の度合が大きく、後続のエージング工程で明らかな蒸気偏流を起こすからである。より好ましくは、1.0~1.3である。
【0050】
図3からわかるように、異なる粒度分布指標kを持つスラグであっても、例えば、含水率が好適範囲内の8.3wt%の場合には、スラグ積み付け後の粒度偏析度合係数Isegが1.5以下であり、明らかに低下していることがわかった。
【0051】
[〈4〉エージング工程]
エージング処理とは、スラグの膨張及び崩壊を防止するために、水分と反応させてスラグの体積を安定化させる処理のことであり、大気中(露天下)で数ヶ月間暴露する大気エージング処理と、蒸気や温水により水和反応を促進させる促進エージング処理がある。本発明においては、特に製鋼スラグに適用する場合には、蒸気エージング処理を用いるのが好ましい。蒸気エージング処理とは、スラグ充填層の底面から水蒸気を吹き込んで、製鋼スラグ中の遊離石灰成分と水蒸気を接触させることにより、スラグの膨張崩壊を防止し、スラグの安定化を図るものである。
【0052】
ここで、水蒸気の使用量や吹き込み時間などは、対象とするスラグの充填量やエージング設備の仕様や処理能力にもよるが、一例として、水蒸気の使用量は、360ton/処理~720ton/処理とし、水蒸気の吹き込み時間は、48時間~96時間とするのが好ましい。
【0053】
なお、エージング処理されたスラグは、排出装置により設備外へ排出され、例えば、路盤材製造用の設備又は保管場所に送られる。
【0054】
[〈5〉攪拌工程]
攪拌工程は、上記の散水工程の後に、必要に応じて行うことができるが、散水したスラグを攪拌することにより、スラグ中に均一に水分を含ませることができるので、攪拌工程を経由した方が好ましい。攪拌方法としては、例えば、重機を利用した攪拌やミキサーに搬入して攪拌などの方法がある。
【0055】
なお、攪拌工程後のスラグの含水率としては、前述した散水工程後の含水率と同様に、5wt%~12wt%とすることが好ましい。より好ましくは、6wt%~10wt%である。
【0056】
[〈6〉昇温乾燥工程]
スラグ充填層内に水分を含ませた状態で、次のエージング工程において水蒸気を吹き込み、蒸気エージング処理を実施すると、前述したスラグ充填層内の空隙の減少分による通気性改悪の影響、またその水分を蒸発させるための熱量が余分に必要となる。それゆえ、蒸気エージング処理における水蒸気使用量が多くなり、水蒸気消費原単位が上昇する。
【0057】
そこで、スラグ充填層の底面から100℃以上の高温ガスを均一に吹き込むことで内部の水分を蒸発させ、スラグ充填層を乾燥状態にすることができる昇温乾燥工程を経た後に水蒸気を吹き込む蒸気エージング処理を実施することが好ましい。
【0058】
ここで、100℃以上の高温ガスとしては、例えば、Arガスなどが用いられる。エージング設備の外部にある設備(例えば、熱風炉)から送風された高温ガスをエージング設備内に吹き込む。このときの吹き込むガスの温度は、100℃以上が好ましく、より好ましくは、100℃~120℃である。送風量や送風時間は、エージング処理量や処理設備の容量に応じて適宜調整すればよい。例えば、送風量は、200000~1200000L/minで、送風時間は、6時間~24時間とするのが好ましい。
【0059】
以上のように、高温ガスをスラグ充填層に吹き込み昇温乾燥することで、その後のエージング工程における昇温時間を短縮することができ、蒸気エージング処理における水蒸気使用量を低減することで効率的な蒸気エージング処理が可能になる。
【0060】
なお、蒸気エージング処理において、水蒸気をスラグ充填層内にスムーズに通すためには、スラグ充填層の空隙率が大きいことが望ましい。
【0061】
しかしながら、積付工程後のスラグ充填層内では、水分を含ませたことにより、スラグ粒子間の空隙の一部が水分に満たされて、空隙が減少することになる。
【0062】
この空隙率の減少分(Δε)は、下記の式(7)で表せる。
【0063】
【数7】
【0064】
ここで、Δε:スラグ充填層内の空隙率減少分、ε:散水前のスラグの空隙率、ε':散水後のスラグの空隙率、mw:散水した水の質量(kg)、ρw:水の密度、V:スラグ充填層の体積(m3)。
【0065】
水分を含ませた状態で水蒸気を吹き込み、蒸気エージング処理を実施すると、上記の空隙の減少分による通気性改悪の影響により、また、その水分を蒸発させるための熱量が余分に必要となるため、蒸気エージング処理における水蒸気使用量が多くなる。そのため、スラグ充填層に100℃以上の高温ガスを吹き込むことで、充填層内部の水分を蒸発させることができる。そして、スラグ充填層を乾燥状態にした後に、水蒸気を吹き込む蒸気エージングを実施することで、水蒸気消費原単位を抑えることができる。
【実施例0066】
以下、実施例を挙げて本発明の実施形態をさらに詳しく説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0067】
蒸気エージング処理における、含水率とスラグ充填層の空隙率との関係を検討した。
路盤材に適用可能な粒度分布指標kを持つ3種類の製鋼スラグ(試料a:k=0.4、試料b:k=0.6、試料c:k=1.0)を用意した。それぞれに、散水及び攪拌処理を調整して、スラグ充填層内の含水率が0.4wt%、3.3wt%、8.3wt%となるように調整した。その調整後のスラグをサンプリングして、それぞれの平均空隙率を測定した。ここで、平均空隙率の測定は、充填したスラグの見掛け体積、質量及びスラグの密度を用いて算出した。
【0068】
その結果を表1及び図4に示す。
【0069】
【表1】
【0070】
3種類の製鋼スラグのいずれにおいても、含水率が8.3wt%の場合に平均空隙率が明らかに向上することがわかった。
【0071】
以上のように、本発明の実施形態によれば、スラグの粒度を調整し、散水・攪拌処理することで、積み付けしたスラグ充填層の含水率を調整し、スラグ充填層の空隙率を改善することができる。それにより、蒸気エージング処理する際の粒度偏析低減及び通気性改善が達成された。さらには、エージング処理前の高温ガス吹込みにより、蒸気エージング処理の昇温時間が短縮され、蒸気エージング処理における蒸気偏流抑制と水蒸気消費原単位の低減が可能になる。
図1
図2
図3
図4