(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024070311
(43)【公開日】2024-05-23
(54)【発明の名称】異方性磁石および異方性磁石の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01F 1/057 20060101AFI20240516BHJP
H01F 41/02 20060101ALI20240516BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20240516BHJP
B22F 1/14 20220101ALI20240516BHJP
B22F 3/00 20210101ALI20240516BHJP
B22F 3/14 20060101ALI20240516BHJP
B22F 3/24 20060101ALI20240516BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20240516BHJP
H01F 7/02 20060101ALI20240516BHJP
C22C 33/02 20060101ALN20240516BHJP
【FI】
H01F1/057 160
H01F41/02 G
B22F1/00 Y
B22F1/14 500
B22F3/00 F
B22F3/14 101B
B22F3/24 E
C22C38/00 303D
H01F7/02 C
C22C33/02 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022180706
(22)【出願日】2022-11-11
(71)【出願人】
【識別番号】000114215
【氏名又は名称】ミネベアミツミ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001771
【氏名又は名称】弁理士法人虎ノ門知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】幸村 治洋
(72)【発明者】
【氏名】大河原 遊
【テーマコード(参考)】
4K018
5E040
5E062
【Fターム(参考)】
4K018AA27
4K018BA18
4K018BC12
4K018CA02
4K018DA31
4K018DA32
4K018EA21
4K018FA01
4K018HA04
4K018KA45
4K018KA63
5E040AA04
5E040CA01
5E040HB07
5E040NN01
5E062CD04
5E062CG02
(57)【要約】
【課題】
優れた磁気特性を有する異方性磁石を提供すること。
【解決手段】
異方性磁石は、希土類元素が12at%を超え19at%未満の量で含まれるR-T-B系磁石(A)(Rは、Ndおよび/またはPrを含む希土類元素を表し、Tは、Fe、またはFeおよびCoを表す。)と、希土類元素が前記R-T-B系磁石(A)中の希土類元素の量よりも多く含まれ、かつ19at%以下の量で含まれるR-T-B系磁石(B)(Rは、Ndおよび/またはPrを含む希土類元素を表し、Tは、Fe、またはFeおよびCoを表す。)とを含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
希土類元素が12at%を超え19at%未満の量で含まれるR-T-B系磁石(A)(Rは、Ndおよび/またはPrを含む希土類元素を表し、Tは、Fe、またはFeおよびCoを表す。)と、
希土類元素が前記R-T-B系磁石(A)中の希土類元素の量よりも多く含まれ、かつ19at%以下の量で含まれるR-T-B系磁石(B)(Rは、Ndおよび/またはPrを含む希土類元素を表し、Tは、Fe、またはFeおよびCoを表す。)とを含む、
異方性磁石。
【請求項2】
前記R-T-B系磁石(A)において、前記希土類元素が、13at%以上19at%未満の量で含まれ、
前記R-T-B系磁石(B)において、前記希土類元素が、前記R-T-B系磁石(A)中の希土類元素の量よりも多く、19at%以下の量で含まれる、
請求項1に記載の異方性磁石。
【請求項3】
前記R-T-B系磁石(A)は、RとTとBとからなり、前記R-T-B系磁石(B)は、RとTとBとからなる、
請求項1または2に記載の異方性磁石。
【請求項4】
希土類元素が12at%を超え19at%未満の量で含まれるR-T-B系磁石粉末(A1)(Rは、Ndおよび/またはPrを含む希土類元素を表し、Tは、Fe、またはFeおよびCoを表す。)と、希土類元素が前記R-T-B系磁石(A)の希土類元素の量よりも多く含まれ、かつ19at%以下の量で含まれるR-T-B系磁石粉末(B1)(Rは、Ndおよび/またはPrを含む希土類元素を表し、Tは、Fe、またはFeおよびCoを表す。)とを混合して混合粉末を得る混合工程と、
前記混合工程で得られた前記混合粉末を熱間加工して異方性磁石を得る熱間加工工程とを含む、
異方性磁石の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異方性磁石および異方性磁石の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、Rx(T、M)100-x(但し、Rは希土類元素、Mは半金属であり、TはFe、Coを主成分とした遷移金属でZr、Nb、Ti、V、Hf、Ta、Wの一種以上を必須成分として含み、xはat%で5≦x<12である)の組成を有し、平均粒径2μm以下の微結晶を主体とする領域と、Rx1(T、M)100-x1(但し、Rは希土類元素、TはFeまたはFe、Coを主成分とする遷移金属、MはBを主成分とする半金属、x1はat%で12≦x1≦20である)の組成を有し、平均粒径2μm以下の微結晶を主体とする領域とを合わせ持った、磁気異方性を有する永久磁石材料が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載された磁気異方性を有する永久磁石材料は、磁気特性が低いという問題がある。
【0005】
従って、本発明の目的は、優れた磁気特性を有する異方性磁石を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の一態様に係る異方性磁石は、希土類元素が12at%を超え19at%未満の量で含まれるR-T-B系磁石(A)(Rは、Ndおよび/またはPrを含む希土類元素を表し、Tは、Fe、またはFeおよびCoを表す。)と、希土類元素が上記R-T-B系磁石(A)中の希土類元素の量よりも多く含まれ、かつ19at%以下の量で含まれるR-T-B系磁石(B)(Rは、Ndおよび/またはPrを含む希土類元素を表し、Tは、Fe、またはFeおよびCoを表す。)とを含む。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一態様によれば、優れた磁気特性を有する異方性磁石が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、実施例および比較例で作製した磁石の減磁曲線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明に係る実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。
【0010】
<異方性磁石>
実施形態の異方性磁石は、希土類元素が12at%を超え19at%未満の量で含まれるR-T-B(ホウ素)系磁石(A)(Rは、Nd(ネオジム)および/またはPr(プラセオジム)を含む希土類元素を表し、Tは、Fe(鉄)、またはFeおよびCo(コバルト)を表す。)と、希土類元素が上記R-T-B系磁石(A)中の希土類元素の量よりも多く含まれ、かつ19at%以下の量で含まれるR-T-B系磁石(B)(Rは、Ndおよび/またはPrを含む希土類元素を表し、Tは、Fe、またはFeおよびCoを表す。)とを含む。
【0011】
ところで、省重希土類元素対策として、温度特性が小さく耐熱性を併せ持つ異方性希土類鉄系バルク磁石として、熱間加工磁石が注目されている。熱間加工磁石は異方化の際、粒界相に液相成分が必要になる。液相成分は主に希土類成分のため、塑性変形に必要な組成として、Nd2Fe14B相の化学量論組成(Nd11.76Fe82.36B5.88)よりも希土類元素Rの量を大きくすることが必要で、希土類元素量が13at%以上であることが好ましい。しかしながら、塑性変形に伴い、熱履歴が追加されて保磁力は減少するため、保磁力と磁化はトレードオフの関係にある。このため、保磁力の減少を抑えつつ、磁化を上げることがさらなる技術課題となっている。
【0012】
また、熱間加工磁石を製造する際、磁化を上げるため、Nd2Fe14B相の化学量論組成よりも希土類元素Rの量が大きい磁石(Rリッチの磁石)とともに、Nd2Fe14B相の化学量論組成よりも希土類元素Rの量が小さい磁石(Tリッチの磁石)を併用することも試みられている(たとえば、特許文献1)。しかしながら、この場合は、後述する比較例のように、異方化が不十分であり、保磁力とともに磁化が低下する。
【0013】
これに対して、実施形態の異方性磁石のように、Rリッチの磁石として、上記R-T-B系磁石(B)とともに、上記Tリッチの磁石ではなく、上記Rリッチの磁石ではあるものの、上記R-T-B系磁石(B)よりはT量が多い上記R-T-B系磁石(A)を含んでいると、保磁力の減少は抑えられ、磁化が向上される。このように、実施形態の異方性磁石は、優れた磁気特性を有する。これは、実施形態の異方性磁石の製造の際に、充分に異方化が起こるためと考えられる。実施形態の異方性磁石は、たとえば、後述のように、Rリッチの磁石粉末と、Rリッチの磁石ではあるものの、前者よりはT量が多い磁石粉末を併用して、熱間加工して製造することができる。この場合、熱間加工の際に、充分に異方化が起こり、保磁力の減少を抑えつつ、磁化を向上できると考えられる。
【0014】
なお、特許文献1は、「R-T-M系磁石において希土類元素Rが12at%以上で変形抵抗が小さく加圧成形や塑性加工がし易いことに注目し、Rが12at%未満の改良型R-T-M系磁石の変形抵抗性を改善すること」を目的としている。その手段は、「R<12at%およびR≧12at%の2種の粉末を混合し、両者を合着させて成形性、塑性加工性を向上させる」ものである。これにより、「R<12at%の磁石材料の高特性により全体の特性を向上させ、同時にR≧12at%の磁石材料の塑性変形性により全体の加工性を改善する」ものが開示されている。いいかえると、特許文献1は、Nd2Fe14B相の化学量論組成(Nd11.76Fe82.36B5.88)よりも希土類元素Rの量を小さくしFeリッチにして軟磁性相を構成した磁石粉末と、Nd2Fe14B相の化学量論組成よりも希土類元素Rの量を大きくしNdリッチ相を構成した磁石粉末を混合し、変形抵抗が小さく、加圧成形または塑性加工などにすぐれ、高密度化や高異方性化が可能なR-T-M系磁石材料を提供することを目的としたものである。
【0015】
しかしながら、特許文献1のようなNd2Fe14B相の化学量論組成(Nd11.76Fe82.36B5.88)よりも希土類元素Rの量を小さくしFeリッチにした磁石粉末と、Nd2Fe14B相の化学量論組成よりも希土類元素Rの量を大きくしNdリッチ相を構成した磁石粉末を混合し、熱間塑性加工した場合は、異方化が充分でなく、磁気特性が低くなる。
【0016】
実施形態の異方性磁石では、R-T-B系磁石(A)において、上記希土類元素が、13at%以上19at%未満の量で含まれ、R-T-B系磁石(B)において、上記希土類元素が、R-T-B系磁石(A)中の希土類元素の量よりも多く含まれ、かつ19at%以下の量で含まれることが好ましい。希土類元素の量が上記範囲にあると、充分に塑性変形が起こり、残留磁束密度Brをより向上できる。また、保磁力の減少もより抑えられる。
【0017】
R-T-B系磁石(A)、R-T-B系磁石(B)において、それぞれ、Rは、Ndおよび/またはPrを含む希土類元素を表す。Rは、Ndを必須成分として含むことが好ましく、RはNdであるか、NdおよびPrであることがより好ましい。希土類元素として、さらに、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)およびルテチウム(Lu)から選ばれる少なくとも1種が含まれていてもよい。
【0018】
R-T-B系磁石(A)およびR-T-B系磁石(B)において、それぞれ、FeおよびCoの合計量を100at%としたときに、Feを50at%以上の量で含むことが好ましい。また、Tは、Feであること(Feのみからなること)がより好ましい。
【0019】
R-T-B系磁石(A)、R-T-B系磁石(B)において、それぞれ、Bが、4at%以上8at%以下の量で含まれることが好ましい。塑性変形、残留磁束密度Brおよび保磁力の観点から、Bの量が上記範囲にあることが好ましい。
【0020】
また、R-T-B系磁石(A)、R-T-B系磁石(B)は、RとTとBとからなることが好ましい。具体的には、R-T-B系磁石(A)、R-T-B系磁石(B)は、それぞれ、RとTとBと不可避的に含まれる元素とからなることが好ましい。塑性変形、残留磁束密度Brおよび保磁力の観点から、R、T、B以外の元素を含まないことが好ましい。
【0021】
また、実施形態の異方性磁石では、R-T-B系磁石(A)およびR-T-B系磁石(B)の合計を100vоl%としたときに、R-T-B系磁石(A)を30vоl%以上50vоl%以下の量で、R-T-B系磁石(B)を50vоl%以上70vоl%以下の量で含むことが好ましい。なお、R-T-B系磁石(A)、R-T-B系磁石(B)の量は、EPMAによる領域のスポット的な組成分析や、SEM-EDXによる面あるいは線分析による組成分析で確認することが可能である。ここで、実施形態の異方性磁石の組成分析は、磁化容易軸と垂直な断面を観察して行うことができる。
【0022】
また、実施形態の異方性磁石は、磁化容易軸と垂直な断面を観察した場合、R-T-B系磁石(A)を含む領域の大きさ、R-T-B系磁石(B)を含む領域の大きさは、それぞれ、通常30μm以上500μm以下である。なお、領域の分析は、EPMAによる領域のスポット的な組成分析や、SEM-EDXによる面あるいは線分析による組成分析で確認することが可能である。
【0023】
実施形態の異方性磁石は、Optical Image Stabilization(OIS)のような、光学アクチュエータに特に好適に使用できる。
【0024】
<異方性磁石の製造方法>
実施形態の異方性磁石の製造方法は、混合工程と、熱間加工工程とを含む。上記製造方法によれば、上述した異方性磁石を製造できる。
【0025】
(混合工程)
混合工程は、希土類元素が12at%を超え19at%未満の量で含まれるR-T-B系磁石粉末(A1)(Rは、Ndおよび/またはPrを含む希土類元素を表し、Tは、Fe、またはFeおよびCoを表す。)と、希土類元素が上記R-T-B系磁石(A)中の希土類元素の量よりも多く含まれ、かつ19at%以下の量で含まれるR-T-B系磁石粉末(B1)(Rは、Ndおよび/またはPrを含む希土類元素を表し、Tは、Fe、またはFeおよびCoを表す。)とを混合して混合粉末を得る工程である。
【0026】
まず、R-T-B系磁石粉末(A1)、R-T-B系磁石粉末(B1)を準備する。R-T-B系磁石粉末(A1)、R-T-B系磁石粉末(B1)は、それぞれ、三元系正方晶化合物であるR2Fe14B相(たとえばR2Fe14B型化合物相)を主相として含む。また、R-T-B系磁石粉末(A1)、R-T-B系磁石粉末(B1)は、それぞれ、通常Rリッチ相などをさらに含む。Rは、Ndおよび/またはPrを含む希土類元素を表す。Rは、Ndを必須成分として含むことが好ましく、RはNdであるか、NdおよびPrであることがより好ましい。希土類元素として、さらに、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)およびルテチウム(Lu)から選ばれる少なくとも1種が含まれていてもよい。Tは、Fe、またはFeおよびCoを表す。TがFeおよびCoである場合は、FeおよびCoの合計量を100at%としたときに、Feを50at%以上の量で含むことが好ましい。また、Tは、Feであること(Feのみからなること)がより好ましい。
【0027】
また、R-T-B系磁石粉末(A1)、R-T-B系磁石粉末(B1)において、それぞれ、Bが、4at%以上8at%以下の量で含まれることが好ましい。
【0028】
また、R-T-B系磁石粉末(A1)、R-T-B系磁石粉末(B1)は、それぞれ、RとTとBとからなることが好ましい。すなわち、R-T-B系磁石粉末(A1)、R-T-B系磁石粉末(B1)は、それぞれ、RとTとBと不可避的に含まれる元素とからなることが好ましい。塑性変形、残留磁束密度Brおよび保磁力の観点から、R、T、B以外の元素を含まないことが好ましい。
【0029】
Nd-T-B系磁石粉末(A1)、R-T-B系磁石粉末(B1)は、それぞれ、たとえば超急冷法(メルトスパン法)により製造する。具体的には、Nd-T-B系合金を、減圧下またはアルゴン雰囲気中で、高周波誘導加熱して溶解させる。ここで、次に、溶解させた合金の溶湯を銅製の回転ロール上に噴射して超急冷(高速冷却)して、リボン状の薄帯片を作製する。次に、この薄帯片を粉砕する。たとえば、薄帯片を数mmから数十mm程度に破断した後、粉砕機などで粉砕することが好ましい。この薄帯片を粉砕して粉砕粉末を得る。
【0030】
リボン状の薄帯片を粉砕して粉砕粉末を得た後、これに熱処理を行い、磁石粉末を得る。この段階では、磁石粉末の各結晶粒の磁化容易軸の方向が一方向に揃っていないため、磁気的に等方性である。なお、Nd-T-B系磁石粉末(A1)、R-T-B系磁石粉末(B1)は、それぞれ、希土類元素の量が上記の範囲になるように調整したNd-T-B系合金を用いることにより製造できる。
【0031】
なお、磁石粉末の実際の製造に代え、予め製造された磁石粉末を代用することができる。たとえば、超急冷法にて作製されたNd-T-B系の薄帯が粉砕されて磁気的に等方性の磁石粉末が、ホットプレス成形で密度が高められた磁石粉末として、マグネクエンチ社から提供されている。
【0032】
上記のようにR-T-B系磁石粉末(A1)およびR-T-B系磁石粉末(B1)を混合する。この際、R-T-B系磁石粉末(A1)およびR-T-B系磁石粉末(B1)の合計を100vоl%としたときに、R-T-B系磁石粉末(A1)を30vоl%以上50vоl%以下の量で、R-T-B系磁石粉末(B1)を50vоl%以上70vоl%以下の量で混合することが好ましい。
【0033】
(熱間加工工程)
熱間加工工程は、上記混合工程で得られた上記混合粉末を熱間加工して、異方性磁石を得る工程である。以下では、リング形状の異方性磁石を製造する場合を例に挙げて説明する。
【0034】
具体的には、上記混合粉末をホットプレスして、焼結磁石体を作製する。まず、第1の金型を準備する。第1の金型は、中空円筒状のダイスと、ダイスの内側に挿入される中空円筒状の上パンチおよび下パンチと、上パンチおよび下パンチの内側に配置される円柱状のコアとから構成されている。ダイス、上パンチ、下パンチおよびコアは、導電材(例えば、グラファイト、超硬合金等)で形成されている。
【0035】
次いで、第1の金型に混合粉末を充填し、焼結装置(SPS装置:放電プラズマ焼結装置)にセットして焼結し、第1の金型から焼結磁石体(ホットプレス磁石体)を取り出す。
【0036】
第1の金型のキャビティに充填された混合粉末は、上側電極と下側電極との間に加えられる圧力により、上パンチと下パンチとにより加圧される。また、上側電極から上パンチに電流が流れ、それがダイス、コアおよび混合粉末に流れ、下パンチを介して下側電極に流れることで、ジュール熱が発生すると共に、混合粉末内において放電プラズマが発生することで、混合粉末が加熱される。たとえば、30~50MPaで加圧されながら、600~700℃まで加熱される(ホットプレス)。また、焼結は減圧下、不活性雰囲気中が好ましく、具体的にはアルゴンや窒素雰囲気中が好ましい。
【0037】
加熱後、電流が遮断され、冷却される。所定温度まで冷却された後、焼結装置から第1の金型が取り出される。具体的には、混合粉末の焼結によって形成されたリング状の焼結磁石体が第1の金型から取り出される。この状態におけるリング状の焼結磁石体は、その相対密度は約90%であり、その結晶粒の磁化容易軸の配向はランダムで、磁気的に等方性である。
【0038】
次に、焼結磁石体から熱間加工磁石を作製する。まず、第2の金型を準備する。なお、第2の金型の準備は、第1の金型の準備と並行して行われるものであってもよく、第1の金型の準備よりも先に行われるものであってもよい。
【0039】
第2の金型に、上記焼結磁石体をセットし、第2の金型を焼結装置にセットして熱間塑性加工を行う。
【0040】
焼結装置において、パンチの上端には上側電極が配置され、ダイスの下端には下側電極が配置されている。上側電極および下側電極は、導電材(たとえば、グラファイト、超硬合金等)で形成されている。焼結装置には、上側電極および下側電極との間に所定の電圧を印加して、所定の電流を供給する電源装置と制御装置とを備えている。焼結装置は、上記ホットプレスに用いた焼結装置を兼用してもよく、別の装置としてもよい。
【0041】
第2金型のダイスとパンチとの間に配置された焼結磁石体は、ダイスとパンチとにより加圧される。また、上側電極→パンチ→焼結磁石体→ダイス→下側電極の経路で電流が流れることで発生する放電プラズマおよびジュール熱により加熱される。熱間塑性加工は、30~100MPaで圧力が印加された後、加熱が開始され、たとえば、600℃以上700℃以下に加熱されながら加圧される。加熱の際には、焼結磁石体に対してON-OFF直流パルス通電が行われる。熱間塑性加工中は、加工速度が大きくならないよう、好ましくは、加工速度が一定になるよう、圧力が調整されることが望ましい。熱間塑性加工は、減圧下または不活性雰囲気中、具体的には、アルゴン、窒素雰囲気中で行われることが好ましい。熱間塑性加工は、変位がモニターされながら、変位が始まってから変位が完了するまで行われることが好ましい。ここでは、変位のモニターについては、通常、圧力制御しているサーボモータの変位量がモニタリングされている。
【0042】
熱間塑性加工による熱間加工磁石の結晶粒は扁平形状を有し、結晶粒の磁化容易軸が結晶粒の扁平面に対し垂直方向に向いている。超急冷法による薄帯作製時の結晶粒は、等方的な形状であるが、熱間塑性加工によって、結晶粒は扁平形状に粒成長し、機械的に加圧方向に粒子の扁平面がそろう。つまり、加圧方向(結晶粒の短軸方向)と磁化容易軸がそろうことを意味している。このため、磁石内の結晶粒の磁化容易軸は、熱間加工磁石(熱間塑性加工により焼結磁石体が熱間加工磁石に変化)の厚み方向にそろう。なお、熱間加工磁石は、いわゆる熱間押出加工によって、異方性磁石を作製する製造方法が応用されたものである。
【0043】
焼結装置は、加熱の後、電流が遮断され、冷却される。所定温度まで冷却された後、焼結装置から第2の金型が取り出され、焼結磁石体から熱間塑性加工により得られたリング形状の熱間加工磁石(異方性磁石)が第2の金型から取り出される。
【0044】
熱間塑性加工で得られた異方性磁石は、磁気的に異方性を有し、たとえば、リング形状であり、その相対密度がほぼ真密度である。このようにして得られた異方性磁石では、保磁力の減少が抑えられており、磁化は向上している。すなわち、上記異方性磁石は、優れた磁気特性を有しており、充分に異方化されていると考えられる。
【0045】
なお、通常、実施形態の異方性磁石の製造方法に用いたR-T-B系磁石粉末(A1)およびR-T-B系磁石粉末(B1)の組成は、得られた異方性磁石においてもそのまま保たれると考えられる。このため、R-T-B系磁石粉末(A1)およびR-T-B系磁石粉末(B1)の組成は、それぞれ、R-T-B系磁石(A)およびR-T-B系磁石(B)の組成と同じであると考えられる。また、通常、実施形態の異方性磁石の製造方法に用いたR-T-B系磁石粉末(A1)およびR-T-B系磁石粉末(B1)の混合割合は、得られた異方性磁石においてもそのまま保たれると考えられる。このため、R-T-B系磁石粉末(A1)およびR-T-B系磁石粉末(B1)の混合割合は、それぞれ、異方性磁石におけるR-T-B系磁石(A)およびR-T-B系磁石(B)の割合と同じであると考えられる。
【0046】
[実施例]
[実施例1]
(混合工程)
Nd-Fe-B系磁石粉末(A1)(Nd13FeBalB6(Nd含有量:13at%、B含有量:6at%、残部はFe)、MQP-A(商品名)、マグネクエンチ社製)50Vol%と、Nd-Fe-B系磁石粉末(B1)(Nd14.5FeBalB6(Nd含有量:14.5at%、B含有量:6at%、残部はFe)、MQU(商品名)シリーズ、マグネクエンチ社製)50Vol%とを混合して、混合粉末を得た。
(熱間加工工程)
上述したように、混合粉末をホットプレスして、焼結磁石体を作製した。次いで、熱間塑性加工により、熱間加工磁石(R-T-B系磁石(A)およびR-T-B系磁石(B)を含む異方性磁石)を作製した。
【0047】
[実施例2]
混合粉末として以下のように調製した混合粉末を用いた以外は、実施例1と同様にして、熱間加工磁石(R-T-B系磁石(A)およびR-T-B系磁石(B)を含む異方性磁石)を作製した。
Nd-Fe-B系磁石粉末(A1)(Nd13FeBalB6(Nd含有量:13at%、B含有量:6at%、残部はFe)、MQP-A(商品名)、マグネクエンチ社製)30Vol%と、Nd-Fe-B系磁石粉末(B1)(Nd14.5FeBalB6(Nd含有量:14.5at%、B含有量:6at%、残部はFe)、MQU(商品名)シリーズ、マグネクエンチ社製)70Vol%とを混合して、混合粉末を得た。
【0048】
[比較例1]
混合粉末の代わりに、Nd-Fe-B系磁石粉末(Nd14.5FeBalB6(Nd含有量:14.5at%、B含有量:6at%、残部はFe)、MQU(商品名)シリーズ、マグネクエンチ社製)を単独で用いた以外は、実施例1と同様にして、熱間加工磁石(異方性磁石)を作製した。
【0049】
[比較例2]
混合粉末の代わりに、Nd-Fe-B系磁石粉末(Nd13FeBalB6(Nd含有量:13at%、B含有量:6at%、残部はFe)、MQP-A(商品名)、マグネクエンチ社製)を単独で用いた以外は、実施例1と同様にして、熱間加工磁石(異方性磁石)を作製した。
【0050】
[比較例3]
混合粉末として以下のように調製した混合粉末を用いた以外は、実施例1と同様にして、熱間加工磁石(異方性磁石)を作製した。
Nd-Fe-B系磁石粉末(A1)(Nd11.5FeBalB5.8Nb1.5(Nd含有量:11.5at%、B含有量:5.8at%、Nb含有量:1.5at%、残部はFe)、MQP14-12(商品名)、マグネクエンチ社製)30Vol%と、Nd-Fe-B系磁石粉末(B1)(Nd14.5FeBalB6(Nd含有量:14.5at%、B含有量:6at%、残部はFe)、MQU(商品名)シリーズ、マグネクエンチ社製)70Vol%とを混合して、混合粉末を得た。
【0051】
<磁気特性の測定>
得られた異方性磁石の静磁気特性を調べた。具体的には、異方性磁石に5Tの磁場を印加して、異方性磁石の厚さ方向(磁化容易軸方向)に着磁した後、振動試料型磁力計(VSM)を用いて測定した。
図1にその結果を示す。すなわち、
図1は、実施例および比較例で作製した磁石の減磁曲線を示す図である。
比較例3は、変形に必要な液相が足りず、加工性が悪く異方化が不十分であった。また、加熱により主相が悪影響を受け磁化および保磁力が大きく低下した。一方、実施例1、2では、保磁力の減少を抑えつつ、磁化を向上できた。
なお、実施例、比較例において、R-T-B系磁石(A)およびR-T-B系磁石(B)の組成は、それぞれ、R-T-B系磁石粉末(A1)およびR-T-B系磁石粉末(B1)の組成と同じであると考えられる。また、異方性磁石におけるR-T-B系磁石(A)およびR-T-B系磁石(B)の割合は、それぞれ、R-T-B系磁石粉末(A1)およびR-T-B系磁石粉末(B1)の混合割合と同じであると考えられる。