(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024070318
(43)【公開日】2024-05-23
(54)【発明の名称】エンジン制御装置
(51)【国際特許分類】
F02D 29/02 20060101AFI20240516BHJP
【FI】
F02D29/02 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022180716
(22)【出願日】2022-11-11
(71)【出願人】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077665
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 剛宏
(72)【発明者】
【氏名】大井 徹
(72)【発明者】
【氏名】秋元 豊
【テーマコード(参考)】
3G093
【Fターム(参考)】
3G093AA02
3G093BA06
3G093CA11
3G093DA01
3G093DA06
3G093DB00
3G093DB02
3G093DB05
3G093DB11
3G093DB21
3G093DB23
3G093EA03
3G093EA05
3G093EA06
3G093FA10
3G093FA11
3G093FB05
(57)【要約】 (修正有)
【課題】車両のジャンプ中により良好にエンジン回転数を抑制し得るエンジン制御装置を提供する。
【解決手段】エンジン制御装置は、エンジン回転数を取得する回転数取得部50と、鞍乗型車両の車輪の回転速度である車輪速度を取得する速度取得部52と、鞍乗型車両がジャンプしたか否かを判定するジャンプ判定部60と、鞍乗型車両のジャンプ時に取得される車輪速度に基づいて、鞍乗型車両のジャンプ中のエンジン回転数の許容値である許容回転数を設定する回転数設定部62と、鞍乗型車両のジャンプ中のエンジン回転数が許容回転数に達した場合にエンジン回転数の上昇を抑制する制御部64とを備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鞍乗型車両のエンジン回転数を制御するエンジン制御装置であって、
前記エンジン回転数を取得する回転数取得部と、
前記鞍乗型車両の車輪の回転速度である車輪速度を取得する速度取得部と、
前記鞍乗型車両がジャンプしたか否かを判定するジャンプ判定部と、
前記鞍乗型車両のジャンプ時に取得される前記車輪速度に基づいて、前記鞍乗型車両のジャンプ中の前記エンジン回転数の許容値である許容回転数を設定する回転数設定部と、
前記鞍乗型車両のジャンプ中の前記エンジン回転数が前記許容回転数に達した場合に前記エンジン回転数の上昇を抑制する制御部と、
を備える、エンジン制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のエンジン制御装置であって、
前記速度取得部は、前記鞍乗型車両の前輪の前記車輪速度を取得する、エンジン制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載のエンジン制御装置であって、
前記回転数設定部は、前記鞍乗型車両のジャンプ時に取得される前記車輪速度に基づいて、着地時の前記鞍乗型車両の速度に適した前記エンジン回転数の適切回転数を決定し、前記適切回転数に所定回転数を加算することによって前記許容回転数を算出する、エンジン制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載のエンジン制御装置であって、
前記鞍乗型車両のギアポジションを取得するギアポジション取得部を更に備え、
前記回転数設定部は、前記所定回転数を、前記鞍乗型車両のジャンプ時に取得される前記ギアポジションに応じて設定する、エンジン制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鞍乗型車両のエンジン回転数を制御するエンジン制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鞍乗型車両(車両ともいう)のライダーは、山岳路等のこぶを通過する際に、
車両をジャンプさせることがある。車両のジャンプ中に駆動輪は路面から離れるため、エンジンには路面負荷がかからない。すると、エンジンの過回転によって駆動系部品(トランスミッション出力軸、プロペラシャフト、ディファレンシャルギア等)が破損する虞がる。
【0003】
特許文献1には、エンジン回転数が許容回転数を超えた場合にエンジン回転数を抑制する装置が開示される。この装置は、車両のジャンプ中に通常の許容回転数よりも低い許容回転数を設定する。このようにして、この装置は、車両のジャンプ中にエンジンの過回転を防止する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、車両のジャンプ中により良好にエンジン回転数を抑制することが好ましい。
【0006】
本発明は、上述した課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の態様は、鞍乗型車両のエンジン回転数を制御するエンジン制御装置であって、前記エンジン回転数を取得する回転数取得部と、前記鞍乗型車両の車輪の回転速度である車輪速度を取得する速度取得部と、前記鞍乗型車両がジャンプしたか否かを判定するジャンプ判定部と、前記鞍乗型車両のジャンプ時に取得される前記車輪速度に基づいて、前記鞍乗型車両のジャンプ中の前記エンジン回転数の許容値である許容回転数を設定する回転数設定部と、前記鞍乗型車両のジャンプ中の前記エンジン回転数が前記許容回転数に達した場合に前記エンジン回転数の上昇を抑制する制御部と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、車両のジャンプ中により良好にエンジン回転数を抑制し得るエンジン制御装置提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図3】
図3は、ジャンプ判定処理のフローチャートである。
【
図4】
図4は、ジャンプ終了判定処理のフローチャートである。
【
図5】
図5A~
図5Eは、
図3で示されるジャンプ判定処理及び
図4で示されるジャンプ終了判定処理の具体例の説明に供するタイムチャートである。
【
図6】
図6は、エンジン回転数の抑制制御処理のフローチャートである。
【
図7】
図7A~
図7Eは、
図6のステップS26において実行される燃料カット制御の一例の説明に供するタイムチャートである。
【
図8】
図8A、
図8Bは、鞍乗型車両のジャンプ中に実行される吸入空気量の制御の説明に供するタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
鞍乗型車両10のジャンプ中にエンジン回転数を過度に減少させると、鞍乗型車両10の着地時に鞍乗型車両10が過度に減速する虞がある。このため、鞍乗型車両10のジャンプ中にエンジン回転数を適切に制御することが望まれる。本発明は、このような目的を達成する。
【0011】
[1 鞍乗型車両10の構成]
図1は、鞍乗型車両10(車両10ともいう)の構成図である。
図2は、演算装置40の機能ブロック図である。車両10は、前輪12と、後輪14と、エンジン16と、動力伝達機構18と、エンジン制御システム20とを有する。エンジン16の出力軸は、動力伝達機構18を介して後輪14の回転軸に接続される。すなわち、後輪14は、駆動輪である。動力伝達機構18は、駆動系部品(トランスミッション出力軸、プロペラシャフト、ディファレンシャルギア等)を有する。
【0012】
エンジン制御システム20は、各種センサの検出結果に基づいてエンジン16の動作を制御する。エンジン制御システム20は、センサ群22と、エンジン制御装置24と、電子制御スロットル26と、フューエルインジェクタ28とを有する。センサ群22には、エンジン回転数センサ30と、車速センサ32と、慣性計測装置34(IMU34ともいう)と、アクセルポジションセンサ36と、スロットルポジションセンサ37と、ギアポジションセンサ38とが含まれる。
【0013】
エンジン回転数センサ30は、エンジン16の回転数(エンジン回転数)を検出する。車速センサ32は、前輪12の回転速度(車輪速度)を検出する。IMU34は、互いに直交する3軸方向(鉛直方向、進行方向、幅方向)の角速度及び加速度を検出する。アクセルポジションセンサ36は、アクセル操作量を検出する。スロットルポジションセンサ37は、電子制御スロットル26のスロットルバルブ(不図示)の開度を検出する。ギアポジションセンサ38は、ギアポジションを検出する。各々のセンサは、周期的に又は常時、検出結果をエンジン制御装置24に出力する。
【0014】
エンジン制御装置24は、ECUを有する。エンジン制御装置24は、演算装置40と、記憶装置42と、入出力装置(不図示)を有する。
【0015】
演算装置40は、処理回路を有する。処理回路は、CPU、GPU等のプロセッサであってもよい。処理回路は、ASIC、FPGA等の集積回路であってもよい。プロセッサは、記憶装置42に記憶されるプログラムを実行することによって各種の処理を実行可能である。例えば、
図2で示されるように、演算装置40は、回転数取得部50、速度取得部52、加速度取得部54、アクセルポジション取得部56、スロットルポジション取得部57、ギアポジション取得部58、ジャンプ判定部60、回転数設定部62及び制御部64等として機能する。複数の処理のうちの少なくとも一部が、ディスクリートデバイスを含む電子回路によって実行されてもよい。
【0016】
回転数取得部50は、エンジン回転数センサ30の検出結果(エンジン回転数)を取得する。速度取得部52は、車速センサ32の検出結果(車輪速度)を取得する。加速度取得部54は、IMU34の検出結果(3軸方向の各々の角速度及び加速度)を取得する。アクセルポジション取得部56は、アクセルポジションセンサ36の検出結果(アクセル操作量)を取得する。スロットルポジション取得部57は、スロットルポジションセンサ37の検出結果(スロットルバルブの開度)を取得する。ギアポジション取得部58は、ギアポジションセンサ38の検出結果(ギアポジション)を取得する。ジャンプ判定部60は、車両10がジャンプしているか否かを判定する。回転数設定部62は、速度取得部52で取得される車輪速度に基づいて、許容回転数を設定する。許容回転数は、車両10のジャンプ中のエンジン回転数の許容値であり、制御部64が抑制制御処理中の燃料カット制御を実行するための判定閾値でもある。制御部64は、所定の第1条件が成立する場合にエンジン回転数の上昇を抑制するための抑制制御処理中の燃料カット制御を実行する。また、制御部64は、抑制制御処理中に所定の第2条件が成立する場合に抑制制御処理中の燃料カット制御を解除する。
【0017】
記憶装置42は、揮発性メモリと不揮発性メモリとを有する。揮発性メモリとしては、例えばRAM等が挙げられる。揮発性メモリは、プロセッサのワーキングメモリとして使用される。揮発性メモリは、処理又は演算に必要なデータ等を一時的に記憶する。不揮発性メモリとしては、例えばROM、フラッシュメモリ等が挙げられる。不揮発性メモリは、保存用のメモリとして使用される。不揮発性メモリは、プログラム、テーブル、マップ等を記憶する。記憶装置42の少なくとも一部が、上述したようなプロセッサ、集積回路等に備えられてもよい。
【0018】
電子制御スロットル26は、スロットルバルブ(不図示)とスロットルモータ(不図示)とを有する。上述したスロットルポジションセンサ37は、電子制御スロットル26に設けられる。スロットルバルブは、エアクリーナ(不図示)からエンジン16に繋がる吸気通路の開口面積を変化させることによって、エンジン16に供給される吸入空気量を調整する。スロットルモータは、エンジン制御装置24から出力される制御信号に応じてスロットルバルブを動作させる。スロットルポジションセンサ37は、電子制御スロットル26のスロットルバルブの開度情報を電圧信号としてエンジン制御装置24に出力する。
【0019】
フューエルインジェクタ28は、電子制御式の燃料噴射弁である。フューエルインジェクタ28は、エンジン制御装置24から出力されるオンオフ信号に応じて電磁弁を開閉し、エンジン16への燃料の供給又は遮断を行う。
【0020】
[2 エンジン制御装置24の動作]
[2-1 エンジン制御の概要]
駆動輪である後輪14が空転すると、エンジン16にかかる路面負荷は小さくなる。特に、車両10のジャンプ中にはエンジン16に路面負荷がかからない。すると、エンジン16が過度に回転する虞がある。エンジン制御装置24は、車両10の走行中に、エンジン16の過回転を防止するためのエンジン制御を行う。具体的には、エンジン制御装置24は、エンジン回転数が許容できる上限値である許容回転数以上となる場合に、エンジン回転数の上昇を抑制する。本明細書では、この制御を燃料カット制御と称する。
【0021】
エンジン制御装置24の回転数設定部62は、車両10が路面を走行する状態から車両10がジャンプする状態に遷移した場合に、許容回転数をジャンプ用の許容回転数に切り替える。また、回転数設定部62は、車両10がジャンプする状態から車両10が路面を走行する状態に遷移した場合に、許容回転数を通常用の許容回転数に切り替える。
【0022】
[2-2 ジャンプ判定処理、ジャンプ終了判定処理]
図3は、ジャンプ判定処理のフローチャートである。
図4は、ジャンプ終了判定処理のフローチャートである。ジャンプ判定部60は、車両10の状態に応じてジャンプ判定フラグを0又は1にする。車両10の起動時に、ジャンプ判定フラグは0である。ジャンプ判定部60は、車両10がジャンプしていない場合(ジャンプ判定フラグ=0の場合)、
図3で示されるジャンプ判定処理を行う。ジャンプ判定部60は、ジャンプ判定処理を行い、車両10がジャンプしたか否かを判定する。また、ジャンプ判定部60は、車両10がジャンプしている場合(ジャンプ判定フラグ=1の場合)、
図4で示されるジャンプ終了判定処理を行う。ジャンプ判定部60は、ジャンプ終了判定処理を行い、車両10のジャンプが終了したか否かを判定する。ジャンプ判定部60は、ジャンプ判定処理とジャンプ終了判定処理のいずれか一方を所定周期で行う。
【0023】
図3で示されるステップS1において、ジャンプ判定部60は、ジャンプ条件が成立するか否かを判定する。ジャンプ条件は、車両10がジャンプしているか否かの判定条件である。ジャンプ判定部60は、加速度取得部54によって取得される鉛直方向の加速度が所定の上限値と所定の下限値とで定められる第1範囲に達した場合に、第1ジャンプ条件が成立すると判定する。また、ジャンプ判定部60は、加速度取得部54によって取得される進行方向の加速度が所定の上限値と所定の下限値とで定められる第2範囲に達した場合に、第2ジャンプ条件が成立すると判定する。鉛直方向の加速度の上限値と、進行方向の加速度の上限値とは相違する。同様に、鉛直方向の加速度の下限値と、進行方向の加速度の下限値とは相違する。鉛直方向の加速度の上限値及び下限値と、進行方向の加速度の上限値及び下限値の各々は、記憶装置42に予め記憶される。ジャンプ判定部60は、第1ジャンプ条件と第2ジャンプ条件の両方が成立している場合に、ジャンプ条件が成立すると判定する。ジャンプ条件が成立する場合(ステップS1:YES)、処理はステップS3に移行する。一方、ジャンプ条件が成立しない場合(ステップS1:NO)、処理はステップS2に移行する。
【0024】
ステップS1からステップS2に移行すると、ジャンプ判定部60は、ジャンプ判定フラグを0にする。言い換えると、ジャンプ判定部60は、ジャンプ判定フラグを0のまま維持する。ステップS2が終了すると、この周期におけるジャンプ判定処理は終了する。この後、ジャンプ判定部60は、引き続きジャンプ判定処理を行う。
【0025】
ステップS1からステップS3に移行すると、ジャンプ判定部60は、演算装置40に備えられるジャンプ判定タイマを使用して計時を行う。
【0026】
ステップS4において、ジャンプ判定部60は、ジャンプ判定タイマの計測時間が所定の第1時間閾値に達したか否かを判定する。第1時間閾値は、車両10がジャンプしているか否かを判定するための閾値である。第1時間閾値は、記憶装置42に予め記憶される。計測時間が第1時間閾値に達した場合(ステップS4:YES)、処理はステップS5に移行する。一方、計測時間が第1時間閾値に達していない場合(ステップS4:NO)、処理はステップS1に戻る。
【0027】
ステップS4からステップS5に移行すると、ジャンプ判定部60は、車両10がジャンプしていると判定する。すなわち、ジャンプ判定部60は、ジャンプ判定タイマの計測時間(ジャンプ条件が成立している期間)が第1時間閾値に達した場合に、車両10のジャンプを検出する。ジャンプ判定部60は、車両10のジャンプを検出した時点で、ジャンプ判定フラグを1にする。ステップS5が終了すると、この周期におけるジャンプ判定処理は終了する。
【0028】
なお、ジャンプ判定部60がステップS3及びステップS4を行うのは、ジャンプの誤判定を低減するためである。
【0029】
図4で示されるステップS11において、ジャンプ判定部60は、ジャンプ終了条件が成立するか否かを判定する。ジャンプ判定部60は、加速度取得部54によって取得される鉛直方向の加速度が所定の上限値と所定の下限値とで定める第1範囲に達していない場合に、第1ジャンプ終了条件が成立すると判定する。また、ジャンプ判定部60は、加速度取得部54によって取得される進行方向の加速度が所定の上限値と所定の下限値とで定める第2範囲に達していない場合に、第2ジャンプ終了条件が成立すると判定する。ジャンプ判定部60は、第1ジャンプ終了条件と第2ジャンプ終了条件のいずれかが成立する場合に、ジャンプ終了条件が成立すると判定する。ジャンプ終了条件が成立する場合(ステップS11:YES)、処理はステップS13に移行する。一方、ジャンプ終了条件が成立しない場合(ステップS11:NO)、処理はステップS12に移行する。
【0030】
ステップS11からステップS12に移行すると、ジャンプ判定部60は、ジャンプ判定フラグを1にする。言い換えると、ジャンプ判定部60は、ジャンプ判定フラグを1のまま維持する。ステップS12が終了すると、この周期におけるジャンプ終了判定処理は終了する。この後、ジャンプ判定部60は、引き続きジャンプ終了判定処理を行う。
【0031】
ステップS11からステップS13に移行すると、ジャンプ判定部60は、演算装置40に備えられるジャンプ終了判定タイマを使用して計時を行う。
【0032】
ステップS14において、ジャンプ判定部60は、ジャンプ終了判定タイマの計測時間が所定の第2時間閾値に達したか否かを判定する。第2時間閾値は、車両10のジャンプが終了したか否かを判定するための閾値である。第2時間は、第1時間閾値と同じであってもよいし、異なっていてもよい。第2時間閾値は、記憶装置42に予め記憶される。計測時間が第2時間閾値に達した場合(ステップS14:YES)、処理はステップS15に移行する。一方、計測時間が第2時間閾値に達していない場合(ステップS14:NO)、処理はステップS11に戻る。
【0033】
ステップS14からステップS15に移行すると、ジャンプ判定部60は、車両10のジャンプが終了したと判定する。すなわち、ジャンプ判定部60は、ジャンプ終了判定タイマの計測時間(ジャンプ終了条件が成立している期間)が第2時間閾値に達した場合に、車両10のジャンプ終了を検出する。ジャンプ判定部60は、車両10のジャンプ終了を検出した時点で、ジャンプ判定フラグを0にする。ステップS15が終了すると、この周期におけるジャンプ終了判定処理は終了する。
【0034】
なお、ジャンプ判定部60がステップS13及びステップS14を行うのは、ジャンプ終了の誤判定を低減するためである。
【0035】
図5A~
図5Eは、
図3で示されるジャンプ判定処理及び
図4で示されるジャンプ終了判定処理の具体例の説明に供するタイムチャートである。
図5Aは、鉛直方向の車両10の加速度の時間変化を示すタイムチャートである。
図5Bは、進行方向の車両10の加速度の時間変化を示すタイムチャートである。
図5Cは、ジャンプ判定タイマの時間変化を示すタイムチャートである。
図5Dは、ジャンプ終了判定タイマの時間変化を示すタイムチャートである。
図5Eは、ジャンプ判定フラグの時間変化を示すタイムチャートである。
【0036】
時点ta1で、鉛直方向の加速度は上限値と下限値とで定める第1範囲に達しており、且つ、進行方向の加速度は上限値と下限値とで定める第2範囲に達している。このため、ジャンプ判定部60は、時点ta1でジャンプ判定タイマによる計時を開始する。
【0037】
時点ta1から時点ta2までの間、鉛直方向の加速度は上限値と下限値とで定める第1範囲内に維持され、且つ、進行方向の加速度は上限値と下限値とで定める第2範囲内に維持される。時点ta2で、ジャンプ判定タイマの計測時間は第1時間閾値に達する。これにより、ジャンプ判定部60は、車両10のジャンプを検出する。ジャンプ判定部60は、ジャンプ判定フラグを1にする。
【0038】
時点ta3で、鉛直方向の加速度は上限値以上となり、第1範囲外となる。ジャンプ判定部60は、時点ta3でジャンプ終了判定タイマによる計時を開始する。
【0039】
時点ta3から時点ta4までの間、鉛直方向の加速度は上限値以上となり、第1範囲外に維持される。時点ta4で、ジャンプ終了判定タイマの計測時間は、第2時間閾値に達する。これにより、ジャンプ判定部60は、車両10のジャンプ終了を検出する。ジャンプ判定部60は、ジャンプ判定フラグを0にする。
【0040】
[2-3 エンジン回転数の抑制制御処理]
図6は、エンジン回転数の抑制制御処理のフローチャートである。
図6の処理における抑制制御処理とは、エンジン回転数が許容回転数に達した場合にエンジン回転数の上昇を抑制するために、エンジン16への燃料供給を遮断するか否かを判断する処理である。すなわち、抑制制御処理とは、燃料カット制御を実行するか否かを判断する処理である。エンジン制御装置24は、
図3で示されるジャンプ判定処理又は
図4で示されるジャンプ終了判定処理と並行して、
図6で示されるエンジン回転数の抑制制御処理を所定周期で行う。エンジン制御装置24は、ジャンプ判定処理及びジャンプ終了判定処理によって設定されるジャンプ判定フラグを使用して、エンジン制御を行う。
【0041】
ステップS21において、回転数設定部62は、許容回転数の1つ又は複数の切り替え条件が成立しているか否かを判定する。1つ又は複数の切り替え条件には、「ジャンプ判定フラグ=1(車両10がジャンプ中である)」という条件が含まれる。なお、複数の切り替え条件に、「ギアポジション取得部58によって取得されているギアポジションが所定ポジション範囲内である」という条件が含まれていてもよい。また、複数の切り替え条件に、「速度取得部52によって取得されたジャンプ検出時の車輪速度が所定速度範囲内である」という条件が含まれていてもよい。全ての切り替え条件が成立している場合(ステップS21:YES)、処理はステップS22に移行する。一方、いずれかの切り替え条件が成立していない場合(ステップS21:NO)、処理はステップS24に移行する。
【0042】
ステップS21からステップS22に移行すると、回転数設定部62は、車両10のジャンプ用の許容回転数を取得する。先ず、回転数設定部62は、ジャンプ検出時の前輪12の車輪速度に基づいて、適切回転数を決定する。適切回転数は、着地時の車両10の速度に適したエンジン回転数である。回転数設定部62は、所定のテーブルによって適切回転数を決定してもよいし、所定の演算式によって適切回転数を算出してもよい。次に、回転数設定部62は、適切回転数に所定回転数を加算することによって許容回転数を算出する。後述するように、エンジン回転数が許容回転数以下に制限されると、着地時に車両10には過度な加速及び過度な減速が発生しなくなる。
【0043】
回転数設定部62は、許容回転数に一定の範囲、所謂ヒステリシスを設定してもよい。この場合、所定回転数として第1回転数及び第2回転数(<第1回転数)が設定される。回転数設定部62は、適切回転数に第1回転数を加算することによって許容回転数の上限値を算出する。また、回転数設定部62は、適切回転数に第2回転数を加算することによって許容回転数の下限値を算出する。
【0044】
なお、回転数設定部62は、車両10のジャンプ時にギアポジション取得部58によって取得されたギアポジションに応じて所定回転数(第1回転数及び第2回転数)を決定してもよい。ギアポジションと所定回転数との関係は、記憶装置42に予め記憶されていることが好ましい。ギアポジションに応じて所定回転数を決定することにより、許容回転数はより適切な値となる。なお、所定回転数は、一定値であってもよい。回転数設定部62は、以上の算出を行う代わりに、車輪速度とギアポジションと許容回転数との関係を定めたテーブル又はマップを使用して、許容回転数を判定してもよい。
【0045】
ステップS23において、回転数設定部62は、次のステップS25で使用される許容回転数として、ステップS22で取得されたジャンプ用の許容回転数を設定する。
【0046】
ステップS21からステップS24に移行すると、回転数設定部62は、次のステップS25で使用される許容回転数として、通常用の許容回転数を設定する。車両10のジャンプ用の許容回転数と同様に、回転数設定部62は、通常用の許容回転数に一定の範囲、所謂ヒステリシスを設定してもよい。通常用の許容回転数は、記憶装置42に記憶される。
【0047】
ステップS23とステップS24のいずれか一方からステップS25に移行すると、制御部64は、回転数取得部50によって取得された現在のエンジン回転数と、回転数設定部62によって設定された許容回転数とを比較する。エンジン回転数が許容回転数以上である場合(ステップS25:YES)、処理はステップS26に移行する。一方、エンジン回転数が許容回転数未満である場合(ステップS25:NO)、処理はステップS27に移行する。
【0048】
ステップS25からステップS26に移行すると、制御部64は、燃料カット制御を実行する。制御部64は、燃料カット制御として、エンジン回転数が少なくなるように、フューエルインジェクタ28を制御する。ステップS26が終了すると、この周期におけるエンジン回転数の抑制制御処理は終了する。
【0049】
ステップS25からステップS27に移行すると、制御部64は、燃料カット制御を実行しない。ステップS27が終了すると、この周期におけるエンジン回転数の抑制制御処理は終了する。
【0050】
[2-4 抑制制御処理(燃料カット)]
図7A~
図7Eは、
図6のステップS26において実行される燃料カット制御の一例の説明に供するタイムチャートである。
図7Aは、ジャンプ判定フラグの時間変化を示すタイムチャートである。
図7Bは、ギアポジションの時間変化を示すタイムチャートである。
図7Cは、前輪12の車輪速度を示すタイムチャートである。
図7Dは、エンジン回転数の時間変化を示すタイムチャートである。なお、
図7Dは、許容回転数にヒステリシスが設定されている場合のタイムチャートである。
図7Eは、燃料カット制御の実行状態を示すタイムチャートである。
【0051】
時点tb1で、ジャンプ判定部60は、ジャンプ判定フラグを1にする。すなわち、ジャンプ判定部60は、車両10がジャンプ中と判定する。また、時点tb1で、ギアポジションは所定ポジション範囲内である。また、時点tb1で、前輪12の車輪速度は、所定速度範囲内である。従って、時点tb1で、回転数設定部62は、ジャンプ用の許容回転数(第1回転数及び第2回転数)を設定する。
【0052】
時点tb2で、エンジン回転数は、ジャンプ用の許容回転数の上限値(第1回転数)以上になる。制御部64は、このタイミングで抑制制御処理としての燃料カット制御を実行する。制御部64は、燃料カット制御の実行中に、フューエルインジェクタ28に出力するパルス信号をオフにする。これにより、ライダーのアクセル操作にかかわらず、エンジン16には燃料が供給されない。従って、燃料カット制御を実行しない状態と比較して、エンジン回転数の上昇は抑制される。
【0053】
時点tb3で、エンジン回転数は、ジャンプ用の許容回転数の下限値(第2回転数)未満になる。制御部64は、このタイミングで燃料カット制御を停止する。これにより、制御部64は、ライダーのアクセル操作に応じて、エンジン16に燃料を供給する。
【0054】
制御部64は、時点tb4で燃料カット制御を実行し、時点tb5で燃料カット制御を停止する。
【0055】
[2-5 吸入空気量の制御]
図8A及び
図8Bは、鞍乗型車両10のジャンプ中に実行される吸入空気量の制御の説明に供するタイムチャートである。
図8Aは、ジャンプ判定フラグの時間変化を示すタイムチャートである。
図8Bは、電子制御スロットル26のスロットル開度の時間変化を示すタイムチャートである。制御部64は、車両10のジャンプ中に、燃料カットの制御とは別に、電子制御スロットル26を制御することによってエンジン16に供給する吸入空気量を抑制してもよい。
【0056】
時点tc1で、ジャンプ判定部60は、ジャンプ判定フラグを1にする。すなわち、ジャンプ判定部60は、車両10がジャンプ中と判定する。ジャンプ判定フラグが1になったことをトリガにして、制御部64は、電子制御スロットル26の開度(スロットル開度)を、ライダーが要求する開度(要求開度)を通常制御よりも減少させたジャンプ判定時の要求開度とする。
【0057】
制御部64は、車両10がジャンプ中と判定していない場合には、アクセルポジション取得部56によって取得されたアクセル操作量と回転数取得部50によって取得されたエンジン回転数とに基づいて、通常用のマップデータから算出された要求開度とスロットル開度との偏差に応じた制御信号をスロットルモータに出力する。制御部64は、ジャンプ判定フラグが1になった時点で、使用するマップを、通常用のマップからジャンプ用のマップに切り替える。制御部64は、アクセルポジション取得部56によって取得されたアクセル操作量と回転数取得部50によって取得されたエンジン回転数とに基づいて、ジャンプ用のマップデータから算出されたジャンプ判定時要求開度とスロットル開度との偏差に応じた制御信号をスロットルモータに出力する。なお、要求開度よりもジャンプ判定時要求開度は小さくなるように通常用のマップデータに比してジャンプ用のマップデータには小さな値が設定される。これにより、抑制制御処理のスロットル開度は、通常制御のスロットル開度よりも小さくなる。このため、ジャンプ中にライダーがアクセル操作量を大きくしたとしても、エンジン16に供給される吸入空気量は通常時の吸入空気量よりも抑制される。
【0058】
時点tc2で、ジャンプ判定部60は、ジャンプ判定フラグを0にする。すなわち、ジャンプ判定部60は、車両10のジャンプが終了したと判定する。ジャンプ判定フラグが0になったことをトリガにして、制御部64は、スロットル開度を、要求開度に戻す。仮に、時点tc2でスロットル開度が要求開度に戻されると、動力伝達機構18に大きな負荷がかかる。そこで、本実施形態では、制御部64は、スロットル開度を、徐々に要求開度に近づける。例えば、制御部64は、
図8Bで示されるように、スロットル開度を段階的に増加させて要求開度に近づける。又は、制御部64は、スロットル開度を一定の変化率で連続的に増加させて要求開度に近づけてもよい。これにより、車両10の着地時に、動力伝達機構18にかかる負荷を小さくすることができる。
【0059】
[3 変形例]
上述した実施形態において、制御部64は、抑制制御処理として上記[2-4]で説明した燃料カット制御を行い、抑制制御処理とは別に上記[2-5]で説明した吸入空気量の制御を行う。これに代わり、制御部64は、抑制制御処理として燃料カット制御を行い、吸入空気量の制御を行わなくてもよい。また、制御部64は、抑制制御処理として吸入空気量の制御を行ってもよい。
【0060】
上述した実施形態において、ジャンプ判定部60は、車両10の鉛直方向の加速度及び進行方向の加速度に基づいて、車両10のジャンプの有無を判定する。これに代わり、ジャンプ判定部60は、サスペンションにかかる負荷又はサスペンションの伸縮量等に基づいて、車両10のジャンプの有無を判定してもよい。
【0061】
図3で示されるジャンプ判定処理において、ジャンプ判定部60は、ジャンプ条件が成立してから第1時間閾値が経過した時点で、車両10がジャンプしたと判定する。これに代わり、ジャンプ判定部60は、ジャンプ条件が成立した時点(ステップS1:YES)で、車両10がジャンプしたと判定してもよい。この場合、ステップS3及びステップS4は不要である。
【0062】
図4で示されるジャンプ終了判定処理において、ジャンプ判定部60は、ジャンプ終了条件が成立してから第2時間閾値が経過した時点で、車両10のジャンプが終了したと判定する。これに代わり、ジャンプ判定部60は、ジャンプ終了条件が成立した時点(ステップS11:YES)で、車両10のジャンプが終了したと判定してもよい。この場合、ステップS13及びステップS14は不要である。
【0063】
速度取得部52は、前輪12の車輪速度ではなく、後輪14の車輪速度を取得してもよい。
【0064】
[4 実施形態から得られる発明]
上記実施形態から把握しうる発明について、以下に記載する。
【0065】
本発明の態様は、鞍乗型車両(10)のエンジン回転数を制御するエンジン制御装置(24)であって、前記エンジン回転数を取得する回転数取得部(50)と、前記鞍乗型車両の車輪の回転速度である車輪速度を取得する速度取得部(52)と、前記鞍乗型車両がジャンプしたか否かを判定するジャンプ判定部(60)と、前記鞍乗型車両のジャンプ時に取得される前記車輪速度に基づいて、前記鞍乗型車両のジャンプ中の前記エンジン回転数の許容値である許容回転数を設定する回転数設定部(62)と、前記鞍乗型車両のジャンプ中の前記エンジン回転数が前記許容回転数に達した場合に前記エンジン回転数の上昇を抑制する制御部(64)と、を備える。
【0066】
上記構成においては、車両のジャンプ中にエンジン回転数の上昇を抑制する抑制制御処理を実行する。このため、上記構成によれば、エンジンの過回転を抑制することができ、車両の着地時に車両の急加速を抑制することができる。また、上記構成によれば、駆動系部品にかかる負荷が小さくなるため、駆動系部品の破損を防止することができる。しかも、上記構成においては、車両がジャンプした時点で取得される車輪速度に基づいて、エンジン回転数の抑制制御処理を実行するか否かの判定閾値(許容回転数)が設定される。つまり、ジャンプの状態に応じた判定閾値が設定される。このため、上記構成によれば、車両の着地時に車両が過度に減速することを抑制することができる。
【0067】
本発明の態様において、前記速度取得部は、前記鞍乗型車両の前輪(12)の前記車輪速度を取得してもよい。
【0068】
駆動輪である後輪は、路面に接地している状態で空転することがある。このため、後輪の回転速度は、前輪の回転速度よりも高い傾向にある。上記構成によれば、抑制制御処理を行うために前輪の車輪速度を使用するため、抑制制御処理をより正確に行うことができる。
【0069】
本発明の態様において、前記回転数設定部は、前記鞍乗型車両のジャンプ時に取得される前記車輪速度に基づいて、着地時の前記鞍乗型車両の速度に適した前記エンジン回転数の適切回転数を決定し、前記適切回転数に所定回転数を加算することによって前記許容回転数を算出してもよい。
【0070】
上記構成によれば、着地時の車両のエンジン回転数が適切回転数よりも所定回転数だけ高く設定されるため、エンジンの過回転を抑制することができる。更に、上記構成によれば、着地時の車両の速度を適切にすることができる。
【0071】
本発明の態様において、前記鞍乗型車両のギアポジションを取得するギアポジション取得部(58)を更に備え、前記回転数設定部は、前記所定回転数を、前記鞍乗型車両のジャンプ時に取得される前記ギアポジションに応じて設定してもよい。
【0072】
上記構成によれば、車両の着地時の車速をより適切にすることができる。
【0073】
なお、本発明は、上述した開示に限らず、本発明の要旨を逸脱することなく、種々の構成を採り得る。
【符号の説明】
【0074】
10…鞍乗型車両、車両 12…前輪
24…エンジン制御装置 50…回転数取得部
52…速度取得部 54…加速度取得部
58…ギアポジション取得部 60…ジャンプ判定部
62…回転数設定部 64…制御部