(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024070319
(43)【公開日】2024-05-23
(54)【発明の名称】グラップル装置及び油圧ショベル
(51)【国際特許分類】
A01G 23/06 20060101AFI20240516BHJP
E02F 3/36 20060101ALI20240516BHJP
A01G 23/08 20060101ALI20240516BHJP
E02F 3/413 20060101ALI20240516BHJP
【FI】
A01G23/06 D
E02F3/36 A
A01G23/08 501E
E02F3/413
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022180717
(22)【出願日】2022-11-11
(71)【出願人】
【識別番号】508150337
【氏名又は名称】イワフジ工業株式会社
(74)【復代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】弁理士法人平和国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100093148
【弁理士】
【氏名又は名称】丸岡 裕作
(72)【発明者】
【氏名】馬場 勇
【テーマコード(参考)】
2D012
【Fターム(参考)】
2D012DA03
(57)【要約】
【課題】 係止体の耐荷重性を損なうことなく係止体の当接部材の伐根に対する係止を外れにくくして機能性の向上を図る。
【解決手段】 油圧ショベルS等の走行可能な車両に設けられるアーム5の先端に揺動軸Pを中心に揺動可能なブラケット10と、ブラケット10に回転軸Qを中心に回転可能に設けられるフレーム12と、フレーム12に設けられ木材を把持することのできる把持部材20とを備え、ブラケット10の車両側に、伐根Rに係止可能な係止体30を設け、係止体30を、ベース部材31と、これにブラケット12の車両側端縁Eよりも車両側に突出して立設され伐根Rに当接可能な当接部材32とを備えて構成し、この当接部材32を、その突出方向Xがフレーム12の回転軸Qに対してブラケット10の車両側端縁Eから離間する方向に傾斜するように設けた。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行可能な車両に設けられるアームの先端に揺動軸を中心に揺動可能に支持されるブラケットと、該ブラケットに対して回転機構を介して回転軸を中心に回転可能に設けられるフレームと、該フレームに開閉可能に設けられ木材を把持することのできる把持部材とを備え、
上記ブラケットの車両側であって上記フレーム側に、立木を伐倒した後に地面に残った伐根に係止可能な係止体を設け、該係止体を、上記ブラケットに固定されるベース部材と、該ベース部材に上記ブラケットの車両側端縁よりも車両側に突出して立設され伐根に当接可能な端面を有した当接部材とを備えて構成したグラップル装置において、
上記当接部材を、側面から見て、該当接部材の突出方向が上記フレームの回転軸に対して上記ブラケットの車両側端縁から離間する方向に傾斜するように設けたことを特徴とするグラップル装置。
【請求項2】
上記フレームの回転軸に対する上記当接部材の突出方向の角度をθとしたとき、5°≦θ≦60°にしたことを特徴とする請求項1記載のグラップル装置。
【請求項3】
上記ブラケットは、上記フレームの回転機構が設けられる台板と、該台板の両側に設けられ上記揺動軸が設けられる一対の側板と、該側板間の中央側に設けられ回転機構を覆う覆板とを備えて構成され、上記台板の上方の上記側板間に基板を架設し、該基板に、上記係止体のベース部材を着脱可能に取付けたことを特徴とする請求項2記載のグラップル装置。
【請求項4】
上記請求項1乃至3何れかに記載のグラップル装置を搭載したことを特徴とする油圧ショベル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧ショベル等の車両に設けられるアームの先端に木材を把持することのできる一対の把持部材を備えたグラップル装置に関し、特に、立木を伐倒した後に地面に残った伐根を効率よく除去できる機能を備えたグラップル装置及びこれを搭載した油圧ショベルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のグラップル装置としては、例えば、本願出願人が提案した特許文献1(特許第5469982号)に掲載されたものが知られている。
図9及び
図10に示すように、このグラップル装置Gaは、車両としての油圧ショベルSaに揺動可能に設けられるアーム100の先端に取付けられるもので、アーム100の先端に揺動軸101を中心に揺動可能に支持されるブラケット102と、ブラケット102に対して回転機構103を介して回転軸Paを中心に回転可能に設けられるフレーム104と、フレーム104に開閉可能に設けられ木材を把持することのできる一対の把持部材105と、ブラケット102の内側に設けられフレーム104を回転駆動する図示外の油圧モータと、フレーム104に設けられ一対の把持部材105を開閉駆動する図示外の油圧シリンダ装置とを備えている。
【0003】
また、ブラケット102の車両側には、立木を伐倒した後に地面に残った伐根Rに係止可能な係止体110が設けられている。係止体110は、ブラケット102に固定されるベース部材111と、ベース部材111にブラケット102の車両側端縁107よりも車両側に突出して立設され伐根Rに当接可能な鋸刃状の端面を有した板状の当接部材112とを備えて構成されている。板状の当接部材の突出方向Xa(面方向)は、フレーム104の回転軸Paと平行になっている。
【0004】
これにより、このグラップル装置Gaを搭載した車両としての油圧ショベルSaによって、伐根Rを引き抜く作業(「抜根」作業)を行うときは、把持部材105を閉じた状態でブラケット102を、揺動軸101を中心に揺動させてアーム100の前側にグラップル装置Gaを持ち上げ、ブラケット102の係止体110を下側に位置させる。それから、アーム100を動かすとともに油圧ショベルSaを動かして、係止体110の当接部材112を地面に残った伐根Rに係止して揺り動かし、主には、伐根Rの車両より遠い側の外周面に係止体110の当接部112を係止し、車両側に引き寄せて伐根Rを引き起こして抜くようにする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、この従来のグラップル装置Gaにおいては、
図10に示すように、係止体110の当接部材112を伐根Rに係止した際、当接部材112が伐根Rから外れ易くなることがあり、その改良が望まれているという実情があった。その理由は、係止体110の当接部材112の係止を確実にするために、当接部材112の突出方向Xaが伐根Rの外周面に直交するようにその端面を伐根Rの外周面に当接させるようにするが、係止体110の当接部材112は、その突出方向Xaが、フレーム104の回転軸Paと平行になって設けられているので、当接部材112の端面とブラケット102の車両側端縁107との間隔(所謂ふところ)が比較的小さくなっており、そのため、伐根Rの切断面にブラケット102の車両側端縁107が当接し易く、伐根Rの切断面から下側の当接部材112の端面が当接する位置が浅くなってしまい、即ち、伐根Rの切断面から当接部材112の端面が当接する位置までの寸法hが小さくなって、係止体110に荷重が作用した際に、伐根Rの切断面側のコーナ部Raが欠けてしまって、係止体110が外れることがあり、また、やり直しても欠けた部分に係止体110が係止できにくく、再び外れることがあるからである。
【0007】
また、
図9に示すように、当接部材112の突出方向Xaが伐根Rの外周面に直交するようにその端面を伐根Rの外周面に当接させるようにすると、アーム100を伸ばすとともにブラケット102も外側に伸ばすことになるので、車両から当接部材112までの距離Laが大きくなり、車両の近くでの伐根Rの処理ができにくく、車両からある程度離れたところにある伐根Rの処理に限られるとともに、車両が不安定になってしまうということも生じる。
【0008】
一方、ブラケット102の揺動を小さくして、できるだけ伐根Rの切断面から下側の当接部材112の端面が当接する位置までの寸法hを大きくすると、当接部材112が斜めになって伐根Rの外周面に当たるので、当接部材112にモーメント荷重が作用して、力の伝達が不十分になる。また、当接部材112の端面の係止も不十分になって、滑って外れる事態が生じ易くなるという不具合が生じる。
【0009】
これを解決するために、係止体110のベース部材111を長くして突出させることも考えられるが、長く突出する分、今度はベース部材111に作用するモーメント荷重が大きくなって、耐荷重性が弱くなる問題が生じる。
【0010】
本発明は上記の問題点に鑑みて為されたもので、係止体の耐荷重性を損なうことなく係止体の当接部材の伐根に対する係止を外れにくくして機能性の向上を図ったグラップル装置及び油圧ショベルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
このような目的を達成するための本発明のグラップル装置は、走行可能な車両に設けられるアームの先端に揺動軸を中心に揺動可能に支持されるブラケットと、該ブラケットに対して回転機構を介して回転軸を中心に回転可能に設けられるフレームと、該フレームに開閉可能に設けられ木材を把持することのできる把持部材とを備え、
上記ブラケットの車両側であって上記フレーム側に、立木を伐倒した後に地面に残った伐根に係止可能な係止体を設け、該係止体を、上記ブラケットに固定されるベース部材と、該ベース部材に上記ブラケットの車両側端縁よりも車両側に突出して立設され伐根に当接可能な端面を有した当接部材とを備えて構成したグラップル装置において、
上記当接部材を、側面から見て、該当接部材の突出方向が上記フレームの回転軸に対して上記ブラケットの車両側端縁から離間する方向に傾斜するように設けた構成としている。
【0012】
係止体としては、ブラケットと同材質の鉄などの金属製を用いることができ、ブラケットに溶接やボルト締めなどで追加的に取り付けることができる。そのため、製造が容易でコスト的にも有利になる。係止体のベース部材や当接部材の形状は適宜に形成して良い。また、当接部材の端面も適宜に形成して良い。例えば、当接部材を板状に形成した場合、その端面を凹曲形成するとともに、鋸刃状に形成する。あるいは、端面を尖らせて刃物状に形成し、更に、刃物状のものを鋸刃状に形成する等、適宜変更して差支えない。板状の端面を凹曲形成した場合には、伐根の外周曲面に沿って端面を当接させやすくなるので、伐根に局所的な荷重を分散させて一部を破壊せずに全力を伝えることができやすくなり、それだけ、伐根の引き抜き作業効率を向上させることができる。また、当接部材の端面を鋸刃状に形成した場合には、鋸刃状部分が伐根に食い込むので、係止が確実に行われ、そのため、より一層伐根に力を伝えやすくなり、それだけ、伐根の引き抜き作業効率を向上させることができる。
【0013】
これにより、このグラップル装置を搭載した車両によれば、例えば、山林などで用いられ、アームを揺動,旋回させるとともにグラップル装置の把持部材を開閉動作させ、伐倒した木材の集材,木口揃え,椪積,積込み,荷降ろし,枝条処理などの種々の作業を行なう。また、山林においては、伐倒した木材を集材する際、運材車や油圧ショベルの走行を容易にするために、走行路を形成して走行させるようにするが、その際に、立木を伐倒した後に地面に残った伐根が邪魔になることがあるので、これを引き抜く作業(「抜根」作業)を行い、走行路を整地するとともに、引き抜いた伐根は、路肩などに埋め戻して補強用に使用するなどする。
【0014】
この伐根の引き抜き作業の際は、把持部材を閉じた状態でブラケットを、揺動軸を中心に揺動させてアームの前側にグラップル装置を持ち上げ、ブラケットの係止体を下側に位置させる。それから、アームを動かすとともに車両を動かして、係止体の当接部材を地面に残った伐根の外周面に係止して揺り動かし、主には、伐根の車両より遠い側の伐根の側部に係止体の当接部材を係止し、車両側に引き寄せて伐根を引き起こして抜くようにする。
【0015】
この場合、係止体の当接部材の係止を確実にするために、当接部材の突出方向が伐根の外周面に直交するようにその端面を伐根の外周面に当接させるようにするが、係止体の当接部材は、側面から見て、当接部材の突出方向がフレームの回転軸に対してブラケットの車両側端縁から離間する方向に傾斜するように設けられているので、当接部材の端面とブラケットの車両側端縁との間隔(所謂ふところ)が従来に比較して大きくなっており、そのため、ブラケットの車両側端縁が伐根の切断面に当接しにくいことから、それだけ、伐根の切断面からこれより下側の当接部材の端面が当接する位置までの寸法を大きくとることができ、ブラケットを車両側に引き寄せて伐根を引き起こす際に、伐根の切断面側が欠けてしまう事態を防止することができ、係止体の当接部材の伐根に対する係止を外れにくくして、機能性の向上を図ることができる。
【0016】
また、係止体の当接部材は、側面から見て、当接部材の突出方向がフレームの回転軸に対してブラケットの車両側端縁から離間する方向に傾斜するように設けられているので、当接部材の突出方向が伐根の外周面に直交するようにその端面を伐根の外周面に当接させるようにする際に、従来に比較して、アームやブラケットの外側に伸ばす距離を小さくすることができる。そのため、車両の近くでの伐根の処理を行ない易くすることができるとともに、車両を安定させて伐根の処理を行なうことができる。
【0017】
更に、この場合、係止体の当接部材を傾斜させているので、ベース部材の長さを長く突出させる必要がないことから、荷重に対しても強く、係止体の耐荷重性を損なうことがない。また、係止体はブラケットに設けられているので、伐根に対する力がブラケットからアーム側に作用することになり、フレームやその回転機構に作用することがないことから、回転機構に負担がかかる事がなく損傷を与える事態が防止される。
【0018】
そして、伐根の引き抜きが終わったならば、グラップル装置を動かして、把持部材で伐根を把持して、適宜の場所に搬送する。この場合、伐根の引き抜き後に即座にグラップル装置の本来の機能を発揮させることができるので、専用機を用いたりアタッチメントを交換する場合に比較して、作業性が極めて良く、作業効率が向上させられるとともに、それだけ、作業のコストダウンを図ることができる。
【0019】
そして、必要に応じ、上記フレームの回転軸に対する上記当接部材の突出方向の角度をθとしたとき、5°≦θ≦60°にした構成としている。
これにより、本発明の作用,効果を確実に発揮させることができる。5°より小さいと、当接部材の端面とブラケットの車両側端縁との間隔(所謂ふところ)を十分に確保しにくい。60°より大きいと、ブラケットの揺動角度が浅くなるが、その分、把持部材が地面に接触し易くなり好ましくない。望ましくは、15°≦θ≦45°である。
【0020】
また、必要に応じ、上記ブラケットは、上記フレームの回転機構が設けられる台板と、該台板の両側に設けられ上記揺動軸が設けられる一対の側板と、該側板間の中央側に設けられ回転機構を覆う覆板とを備えて構成され、上記台板の上方の上記側板間に基板を架設し、該基板に、上記係止体のベース部材を着脱可能に取付けた構成としている。
【0021】
これにより、ベース部材をブラケットに直接設ける場合に比較して、基板にベース部材を取付けるので、それだけ、荷重に対して強くなり、耐荷重性を向上させることができる。また、係止体を、着脱可能にしたので、係止体は使用により摩耗するが、その場合には、係止体を取り外し、新しい係止体を取り付けて交換して用いることができる。また、当接部材の形状を変更したものにも交換することができ、汎用性が増す。
【0022】
この構成においては、上記ベース部材を、上記基板の表面に面接触により取付けられる板状に形成し、上記当接部材を、上記ブラケットの揺動軸に対して平行な方向に沿う面を有した板状に形成し、該当接部材を、上記ベース部材の上側に該ベース部材の表面及び該当接部材の表面が互いに直交するように溶接固定し、上記基板を、上端縁,下端縁及び一対の側縁を備えた矩形状に形成し、該基板に取付けた上記係止体の当接部材の突出方向が上記角度θになるように、上記上端縁を覆板に溶接固定し、上記下端縁を台板に溶接固定し、上記両側縁を対応する側板に溶接固定することができる。
【0023】
これにより、当接部材はベース部材に対して互いに直交するように溶接固定されるので、当接部材の突出方向に作用する荷重をベース部材で確実に受けることができるとともに、ベース部材が面接触する基板においてもその荷重を受けるので、より一層荷重に対して強くなり、耐荷重性を向上させることができる。しかも、基板は4辺を夫々対応する覆板,台板及び一対の側板に溶接固定しているので、ブラケットに対する支持強度が極めて高く、この点でも耐荷重性を向上させることができる。
【0024】
また、この構成においては、上記基板及び上記係止体のベース部材に、ボルトが挿通される複数の挿通孔を設け、各挿通孔にボルトを挿通しナットを螺合することにより、上記基板に対して上記係止体を取付けるようにし、上記基板に対面する上記台板に、ボルトとナットの螺合操作をするための長孔を形成することが有効である。これにより、係止体を、ボルト及びナットにより着脱可能にしたので、着脱操作がやり易く、作業性を向上させることができる。また、台板に、ボルトとナットの螺合操作をするための長孔を形成したので、この点でも、着脱操作がやり易く、作業性を向上させることができる。
【0025】
そして、本発明は、上記のグラップル装置を搭載した油圧ショベルにある。この油圧ショベルによれば、上記と同様の作用,効果を奏する。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、係止体の当接部材を伐根の外周面に係止して揺り動かして抜くようにする際、係止体の耐荷重性を損なうことなく係止体の当接部材の伐根に対する係止を外れにくくして機能性の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明の実施の形態に係るグラップル装置及びこれを搭載した油圧ショベルを、伐根の引き抜き作業を行うときの状態とともに示す図である。
【
図2】本発明の実施の形態に係るグラップル装置を示す斜視図である。
【
図3】本発明の実施の形態に係るグラップル装置を示す分解斜視図である。
【
図4】本発明の実施の形態に係るグラップル装置のブラケットを示す図であり、(a)は平面図、(b)は底面図、(c)は後面図である。
【
図5】本発明の実施の形態に係るグラップル装置のブラケットを示す
図4(a)中A-A線断面図である。
【
図6】本発明の実施の形態に係るグラップル装置により伐根の引き抜き作業を行うときの状態を示す図である。
【
図7】本発明の別の実施の形態に係るグラップル装置を、伐根の引き抜き作業を行うときの状態で示す図である。
【
図8】本発明の実施の形態に係るグラップル装置において、係止体の別の例を示す部分断面図である。
【
図9】従来のグラップル装置及びこれを搭載した油圧ショベルを、伐根の引き抜き作業を行うときの状態とともに示す図である。
【
図10】従来のグラップル装置により伐根の引き抜き作業を行うときの状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、添付図面に基づいて、本発明の実施の形態に係るグラップル装置及びこれが搭載される車両としての油圧ショベルについて詳細に説明する。
図1乃至
図6に示すように、本発明の実施の形態に係るグラップル装置Gが搭載される本発明の実施の形態に係る車両としての油圧ショベルS(
図1)は、クローラ式の走行体2を備えた車体1と、この車体1に旋回機構3を介して旋回自在に取付けられた旋回体4と、この旋回体4に上下揺動自在に取付けられたアーム5とを備えている。アーム5は、旋回体4に上下揺動自在に設けられ油圧シリンダで揺動駆動させられるブーム5aと、このブーム5aの先端部に上下揺動自在に設けられ油圧シリンダで揺動駆動させられる作業アーム5bとから構成されている。グラップル装置Gは、アーム5の作業アーム5bの先端に搭載される。
【0029】
実施の形態に係るグラップル装置Gは、アーム5の先端に揺動軸Pを中心に揺動自在に取付けられリンク機構7を介して油圧シリンダ装置8で揺動駆動させられる鉄などの金属製のブラケット10と、ブラケット10に対して上記の揺動軸Pに直交する方向の回転軸Qを中心に回転機構11を介して回転可能に設けられる鉄などの金属製のフレーム12とを備えている。ブラケット10にはフレーム12を回転機構11を介して回転駆動する図示外の油圧モータが設けられている。ブラケット10は、下側にフレーム12の回転機構11が設けられるとともに上側に油圧モータが設けられ回転軸Qに直交する面を有した台板14と、台板14の両側に設けられ揺動軸Pが設けられる一対の側板15と、側板15間の中央側に設けられ回転機構11の油圧モータを覆う覆板16とを備えて構成されている。
【0030】
また、フレーム12には、開閉可能に設けられ木材を把持することのできる一対の鉄などの金属製の把持部材20(A)(B)を備えている。
図2に示すように、一方の把持部材20(A)はバケット状に形成されてフレーム12に固定されている。他方の把持部材(B)は、回動可能にフレーム12に設けられており、図示外の油圧シリンダ装置によって一方の把持部材20(A)に対して開閉させられる。把持部材20(B)は、所定間隔に離間した1対のトング22と、トング22の先端間に架設される架設杆23とを備え、把持部材20の開時にフレーム12の下側を開放し、各把持部材20の閉時にトング22を他方の把持部材20(A)の内側に位置させる。
【0031】
そして、このグラップル装置Gにおいては、ブラケット10の油圧ショベルS側であってフレーム12側に、立木を伐倒した後に地面に残った伐根Rに係止可能な係止体30が設けられている。この係止体30は、ブラケット10と同材質の鉄などの金属製で形成され、ブラケット10に固定されるベース部材31と、ベース部材31にブラケット10の側板15の車両側端縁Eよりも車両側に突出して立設され伐根Rに当接可能な端面33を有した当接部材32とを備えて構成されている。
【0032】
係止体30において、ベース部材31は、後述の基板40の表面に面接触により取付けられる矩形板状に形成され、当接部材32は、ブラケット10の揺動軸Pに対して平行な方向に沿う面を有した板状に形成されている。当接部材32は、ベース部材31の上側の一側縁側に、ベース部材31の表面及び当接部材32の表面が互いに直交するように溶接固定されている。また、当接部材32の端面33は、当接部材32の表面に対して直交する面を有し、凹曲形成されているとともに、鋸刃状に形成されている。
【0033】
また、当接部材32は、側面(
図5)から見て、当接部材32の突出方向X(表面の面方向)がフレーム12の回転軸Qに対してブラケット10の車両側端縁Eから離間する方向に傾斜するように設けられている。フレーム12の回転軸Qに対する当接部材32の突出方向Xの角度をθとしたとき、5°≦θ≦60°にしている。
5°より小さいと、当接部材32の端面33とブラケット10の車両側端縁Eとの間隔(所謂ふところ)を十分に確保しにくい。60°より大きいと、ブラケット10の揺動角度が浅くなるが、その分、把持部材20が地面に接触し易くなり好ましくない。望ましくは、15°≦θ≦45°である。実施の形態ではθ=20°に設定している。角度θの設定はこれに限定されない。
【0034】
詳しくは、台板14の上方の側板15間には、基板40が架設されており、この基板40に、係止体30のベース部材31が着脱可能に取付けられている。基板40は、上端縁,下端縁及び一対の側縁を備えた矩形状に形成され、基板40に取付けた係止体30の当接部材32の突出方向Xが上記の角度θになるように、台板14に対して傾斜して配置され、上端縁が覆板16に溶接固定され、下端縁が台板14に溶接固定され、両側縁が対応する側板15に溶接固定されている。
【0035】
また、基板40及び係止体30のベース部材31には、
図3に示すように、ボルト43が挿通される複数(実施の形態では4つ)の挿通孔41,42が所定の間隔で設けられており、各挿通孔41,42にボルト43を挿通しナット44を螺合することにより、基板40に対して係止体30を取付けるようにしている。46はワッシャである。ベース部材31の一側縁は、基板40の下端縁より僅かに突出して基板40に取付けられるとともに、当接部材32の溶接された基端は、基板40の下端縁より僅かに突出して設けられる。また、
図4(b)に示すように、基板40に対面する台板14には、ボルト43とナット44の螺合操作をするための一対の長孔45が形成されている。即ち、係止体30のベース部材31は、4組のボルト43及びナット44によって基板40を介してブラケット10に対して着脱可能になっている。係止体30が基板40に取り付けられた状態では、係止体30の当接部材32は、基板40の下端縁側から突出するようになる。
【0036】
従って、このグラップル装置Gを搭載した油圧ショベルSは、例えば、山林などで用いられ、アーム5を揺動,旋回させるとともにグラップル装置Gの把持部材20を油圧シリンダ装置により開閉動作させ、伐倒した木材の集材,木口揃え,椪積,積込み,荷降ろし,枝条処理などの種々の作業を行なう。また、山林においては、伐倒した木材を集材する際、油圧ショベルSの走行を容易にするために、走行路を形成して走行させるようにするが、その際に、立木を伐倒した後に地面に残った伐根Rが邪魔になることがあるので、これを引き抜く作業(「抜根」作業)を行い、走行路を整地するとともに、引き抜いた伐根Rは、路肩などに埋め戻して補強用に使用するなどする。
【0037】
この伐根Rの引き抜き作業の際は、例えば、
図6に示すように、把持部材20を閉じた状態でブラケット10を、揺動軸Pを中心に揺動させてアーム5の前側にグラップル装置Gを持ち上げ、ブラケット10の車両側に突設した係止体30を下側に位置させる。それから、アーム5を動かすとともに油圧ショベルSを動かして、係止体30の当接部材32の端面33を地面に残った伐根Rの車両より遠い側の側部に係止させ、それからこの伐根Rを油圧ショベルS側に引き寄せて伐根Rを揺り動かし、引き起こして抜くようにする。尚、この際、フレーム12の回転位置は
図6の位置に限定される事なく、どの回転位置であっても伐根Rを抜く事ができる。
【0038】
この場合、
図6に示すように、係止体30の当接部材32の係止を確実にするために、当接部材32の突出方向Xが伐根Rの外周面に直交するようにその端面33を伐根Rの外周面に当接させるようにするが、係止体30の当接部材32は、側面から見て、当接部材32の突出方向Xがフレーム12の回転軸Qに対してブラケット10の車両側端縁Eから離間する方向に傾斜するように設けられているので、当接部材32の端面33とブラケット10の車両側端縁Eとの間隔(所謂ふところ)が従来に比較して大きくなっており、そのため、ブラケット10の車両側端縁Eが伐根Rの切断面に当接しにくいことから、それだけ、伐根Rの切断面からこれより下側の当接部材32の端面33が当接する位置までの寸法Hを大きくとることができ、ブラケット10を車両側に引き寄せて伐根Rを引き起こす際に、伐根Rの切断面側が欠けてしまう事態を防止することができ、係止体30の当接部材32の伐根Rに対する係止を外れにくくして、機能性の向上を図ることができる。
【0039】
また、係止体30の当接部材32は、側面から見て、当接部材32の突出方向Xがフレーム12の回転軸Qに対してブラケット10の車両側端縁Eから離間する方向に傾斜するように設けられているので、当接部材32の突出方向Xが伐根Rの外周面に直交するようにその端面33を伐根Rの外周面に当接させるようにする際に、従来(
図9の距離La)に比較して、アーム5やブラケット10の外側に伸ばす車両からの距離L(
図1)を小さくすることができる。そのため、車両の近くでの伐根Rの処理を行ない易くすることができるとともに、車両を安定させて伐根Rの処理を行なうことができる。
【0040】
更に、この場合、係止体30の当接部材32を傾斜させているので、ベース部材31の長さを長く突出させる必要がないことから、荷重に対しても強く、係止体30の耐荷重性を損なうことがない。また、係止体30はブラケット10に設けられているので、伐根Rに対する力がブラケット10からアーム5側に作用することになり、フレーム12やその回転機構11に作用することがないことから、回転機構11に負担がかかる事がなく損傷を与える事態が防止される。
【0041】
更にまた、係止体30のベース部材31は、基板40に取付けられているので、ベース部材31をブラケット10に直接設ける場合に比較して、荷重に対して強くなり、耐荷重性を向上させることができる。特に、当接部材32はベース部材31に対して互いに直交するように溶接固定されるので、当接部材32の突出方向Xに作用する荷重をベース部材31で確実に受けることができるとともに、ベース部材31が面接触する基板40においてもその荷重を受けるので、より一層荷重に対して強くなり、耐荷重性を向上させることができる。しかも、基板40は4辺を夫々対応する覆板16,台板14及び一対の側板15に溶接固定しているので、ブラケット10に対する支持強度が極めて高く、この点でも耐荷重性を向上させることができる。
【0042】
また、この場合、係止体30はブラケット10に設けられるので、伐根Rに対する力がブラケット10からアーム5側に作用することになり、フレーム12やその回転機構11に作用することがないことから、回転機構11に負担がかかる事がなく損傷を与える事態が防止される。更に、係止体30は、ベース部材31の上側に立設された当接部材32の端面33を伐根Rに係止するので、伐根Rに力を伝えやすくなり、それだけ、伐根Rの引き抜き作業効率が向上させられる。更にまた、当接部材32の端面33は凹曲形成されているので、伐根Rの外周曲面に沿って端面33を当接させやすくなるとともに、伐根Rに局所的な荷重を分散させて一部を破壊せずに全力を伝えることができやすくなり、そのため、より一層、伐根Rに力を伝えやすくなり、それだけ、伐根Rの引き抜き作業効率が向上させられる。また、当接部材32の端面33は鋸刃状に形成されているので、この鋸刃状部分が伐根Rに食い込むことになり、そのため、係止が確実に行われ、この点でも、より一層伐根Rに力を伝えやすくなり、それだけ、伐根Rの引き抜き作業効率が向上させられる。
【0043】
そして、伐根Rの引き抜きが終わったならば、グラップル装置Gを動かして、把持部材20で伐根Rを把持して、適宜の場所に搬送する。この場合、伐根Rの引き抜き後に即座にグラップル装置Gの本来の機能を発揮させることができるので、専用機を用いたりアタッチメントを交換する場合に比較して、作業性が極めて良く、作業効率が向上させられるとともに、それだけ、作業のコストダウンを図ることができる。
【0044】
また、係止体30は使用により摩耗するが、係止体30は、ボルト43及びナット44によりブラケット10に対して着脱可能になっているので、その場合には、ボルト43及びナット44を緩めて外して係止体30を取り外し、新しい係止体30を取り付け、再びボルト43及びナット44を締め付けて交換して用いることができる。係止体30を、ボルト43及びナット44により着脱可能にしたので、着脱操作がやり易く、作業性を向上させることができる。また、台板14に、ボルト43とナット44の螺合操作をするための長孔45を形成したので、この点でも、着脱操作がやり易く、作業性を向上させることができる。また、当接部材32の形状を変更したものにも交換することができ、汎用性が増す。
【0045】
図7には、本発明の別の実施の形態に係るグラップル装置Gを示す。これは、上記と異なって、一方の把持部材20(A)と他方の把持部材20(B)との両方が回動して開閉するタイプのものである。他の構成は上記と同様であり、同様の作用,効果を奏する。
【0046】
図8には、係止体30の別の例を示す。
図8(a)に示す係止体30は、上面が傾斜したブロック状のベース部材31を備え、このベース部材31の傾斜した上面に板状の当接部材32を溶接固定したものである。そして、上記の基板40を用いることなく、台板14にベース部材31をボルト43及びナット44で直接固定するようにしている。これによっても上記と同様の作用,効果を奏する。
【0047】
また、
図8(b)に示す係止体30は、ベース部材31と当接部材32とを一体にし、当接部材32が所定の突出方向を向くように底面を傾斜させた断面矩形状のブロック状の部材で構成したものである。そして、上記の基板40を用いることなく、台板14にベース部材31をボルト43及びナット44で直接固定するようにしている。これによっても上記と同様の作用,効果を奏する。
【0048】
尚、上記グラップル装置Gにおいて、係止体30の形状は上述したものに限定されるものではなく、適宜変更して差支えない。また、車両としては上記の油圧ショベルSに限定されるものではなく、作業アーム5bが伸張するタイプの油圧ショベル等、どのような車両に適用しても良い。更に、本発明を、木材を割る把持部材20としてのトングを備えたスプリッタ等旋回駆動機構を有するアタッチメントに適用しても良く、適宜に適用しても良いことは勿論である。要するに、本発明は、上述した本発明の実施の形態に限定されず、当業者は、本発明の新規な教示及び効果から実質的に離れることなく、これら例示である実施の形態に多くの変更を加えることが容易であり、これらの多くの変更は本発明の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0049】
S 油圧ショベル(車両)
G グラップル装置
R 伐根
1 車体
2 走行体
3 旋回機構
4 旋回体
5 アーム
5a ブーム
5b 作業アーム
P 揺動軸
7 リンク機構
8 シリンダ装置
10 ブラケット
11 回転機構
Q 回転軸
12 フレーム
14 台板
15 側板
E 車両側端縁
16 覆板
20 把持部材
22 トング
23 架設杆
30 係止体
31 ベース部材
32 当接部材
33 端面
X 突出方向
40 基板
41,42 挿通孔
43 ボルト
44 ナット
45 長孔