(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024070321
(43)【公開日】2024-05-23
(54)【発明の名称】銅張積層板、プリント配線板、および銅張積層板
(51)【国際特許分類】
B32B 15/08 20060101AFI20240516BHJP
B32B 27/34 20060101ALI20240516BHJP
H05K 1/03 20060101ALI20240516BHJP
【FI】
B32B15/08 J
B32B27/34
H05K1/03 610N
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022180724
(22)【出願日】2022-11-11
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 卓
【テーマコード(参考)】
4F100
【Fターム(参考)】
4F100AA17B
4F100AA17D
4F100AB17C
4F100AB17E
4F100AG00A
4F100AK41A
4F100AK49A
4F100AK49B
4F100AK49D
4F100AK53A
4F100AS00A
4F100BA03
4F100BA04
4F100BA05
4F100BA06
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10C
4F100BA10D
4F100BA10E
4F100EJ19C
4F100EJ19E
4F100GB43
4F100JB16B
4F100JB16D
4F100JJ03A
4F100JK06
4F100YY00B
4F100YY00D
(57)【要約】 (修正有)
【課題】優れた密着性を示し、高い信頼性を要求される用途に対応できる銅張積層板、および前記銅張積層板を用いたプリント配線板を提供する。
【解決手段】耐熱性絶縁基材層X/層A/金属箔の順に積層されており、前記層Aは、フュームド金属酸化物および熱可塑性ポリイミド樹脂を含み、熱可塑性ポリイミド樹脂100重量部に対するフュームド金属酸化物の重量部数が10重量部から60重量部であり、前記金属箔が電解銅箔または圧延銅箔であり、前記耐熱性絶縁基材層Xは、非熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム、液晶ポリエステルフィルム、ガラスエポキシ基材、ガラス基材から選択される銅張積層板、とすることにより上記課題を解決することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐熱性絶縁基材層X/層A/金属箔の順に積層されており、前記層Aは、フュームド金属酸化物および熱可塑性ポリイミド樹脂を含み、熱可塑性ポリイミド樹脂100重量部に対するフュームド金属酸化物の重量部数が10重量部から60重量部であり、前記金属箔が電解銅箔または圧延銅箔であり、前記耐熱性絶縁基材層Xは、非熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム、液晶ポリエステルフィルム、ガラスエポキシ基材、ガラス基材から選択されることを特徴とする銅張積層板。
【請求項2】
前記層Aをさらにもう1層有し、層A/耐熱性絶縁基材層X/層A/金属箔の順に積層されていることを特徴とする請求項1に記載の銅張積層板。
【請求項3】
金属箔をさらにもう1層有し、金属箔/層A/耐熱性絶縁基材層X/層A/金属箔の順に積層されていることを特徴とする請求項2に記載の銅張積層板。
【請求項4】
前記耐熱性絶縁基材層Xが、非熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムである請求項1~3のいずれかに記載の銅張積層板。
【請求項5】
請求項1~3のいずれかに記載の銅張積層板を用いたプリント配線板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅張積層板、プリント配線板、および銅張積層板に関する。
【背景技術】
【0002】
絶縁基板上に金属導体からなる回路を備えるプリント配線板は、プリント配線板上に各種電子部品が実装され、電子機器の機能を発現させる部品として広く使用されている。中でも可撓性のあるフィルム部分に回路形成がなされたプリント配線板、具体的には、(a)フレキシブルプリント配線板、(b)リジッドフレックス基板、(c)多層フレキシブル基板、および(d)COF(チップオンフィルム)等は電子機器の内部にコンパクトに折り曲げて収納できる利点から小型軽量化、薄型化が求められる携帯端末用途に広く使われている。一方、自動車用途においても、環境対応の視点からの軽量化、車載機器への搭載性の良さから、前述の(a)、(b)、(c)、(d)等のプリント配線が利用されつつある。車載用途では携帯端末等の民生用途と比較し、使用される環境が厳しく、より高い信頼性が求められる。高い信頼性を得るためには金属導体と絶縁基板の密着性が高いことが求められる。
【0003】
金属導体と絶縁基板の密着性を向上させる方法として、特許文献1では、酸化銅及び亜酸化銅を含む針状結晶で構成される微細凹凸を備えた粗化処理面を少なくとも一方の側に有する粗化処理銅箔の粗化処理面に、シート状の熱可塑性樹脂を貼り付けて銅張積層板を得る方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本発明者が鋭意検討した結果、上述のような従来技術は一長一短であり、以下に示すような改善の余地または問題点があることを見出した。
【0006】
例えば、特許文献1では、絶縁基材と銅箔との密着性を確保するために意図的に銅箔表面に凹凸が形成されており、良好な密着性を示す。しかし、電気信号の損失を防ぐという面からは、銅箔にはより小さな凹凸であることが求められているが、銅箔を小さな凹凸のものにすれば、密着性が低下する傾向にある。そこで、密着性向上の為の別のアプローチとして絶縁基材材料側を改良することが求められている。
【0007】
本発明は、本発明は前記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、金属箔と絶縁基材との密着性が良好な銅張積層板、プリント配線板、および銅張積層板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、鋭意検討の結果、上記課題を下記構成により克服できることを見出した。
【0009】
1).耐熱性絶縁基材層X/層A/金属箔の順に積層されており、前記層Aは、フュームド金属酸化物および熱可塑性ポリイミド樹脂を含み、熱可塑性ポリイミド樹脂100重量部に対するフュームド金属酸化物の重量部数が10重量部から60重量部であり、前記金属箔が電解銅箔または圧延銅箔であり、前記耐熱性絶縁基材層Xは、非熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム、液晶ポリエステルフィルム、ガラスエポキシ基材、ガラス基材から選択されることを特徴とする銅張積層板。
【0010】
2).前記層Aをさらにもう1層有し、層A/耐熱性絶縁基材層X/層A/金属箔の順に積層されていることを特徴とする1)に記載の銅張積層板。
【0011】
3).金属箔をさらにもう1層有し、金属箔/層A/耐熱性絶縁基材層X/層A/金属箔の順に積層されていることを特徴とする2)に記載の銅張積層板。
【0012】
4).前記耐熱性絶縁基材層Xが、非熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムである1)~3)のいずれかに記載の銅張積層板。
【0013】
5).1)~4)のいずれかに記載の銅張積層板を用いたプリント配線板。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、金属箔と絶縁基材との密着性が良好な銅張積層板、プリント配線板、および銅張積層板を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
〔銅張積層板〕
本発明の一実施形態に係る銅張積層板は、耐熱性絶縁基材層X/層A/金属箔の順に積層されており、前記層Aは、フュームド金属酸化物および熱可塑性ポリイミド樹脂を含み、熱可塑性ポリイミド樹脂100重量部に対するフュームド金属酸化物の重量部数が10重量部から60重量部であり、前記金属箔が電解銅箔または圧延銅箔であり、前記耐熱性絶縁基材層Xは、非熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム、液晶ポリエステルフィルム、ガラスエポキシ基材、ガラス基材から選択されることを特徴とする。
【0016】
本発明の一実施形態に係る銅張積層板は、前記構成を有することにより、高い密着性を発現する。本明細書では、密着性はピール強度(N/cm)により評価している。
【0017】
本発明の銅張積層板は、熱可塑性ポリイミド樹脂およびフュームド金属酸化物を含む層Aと、金属箔、即ち電解銅箔または圧延銅箔が積層されており、この構成により層A/金属箔界面を強固に密着することができ、本発明の密着性に優れる銅張積層板を得ることできる。
【0018】
<金属箔>
金属箔につき説明する。金属箔は電解銅箔または圧延銅箔を指す。絶縁基材の表面に直接金属箔を析出させる方法である、物理的蒸着法(乾式めっき法)や無電解めっき(湿式めっき)により得られる金属箔は本発明には含まれない。本発明に係る金属箔は、プリント配線板用途で一般に用いられている、電解銅箔または圧延銅箔を好ましく使用可能である。金属箔の厚みは特に制約はなく、各種厚みの金属箔を本発明に用いることが可能であり、例えば1ミクロンから70ミクロン厚みの金属箔が工業的に入手可能であり、好ましく使用可能である。また、金属箔の表面が粗化処理や防錆処理がなされている金属箔も好ましく使用可能である。尚、金属箔の厚みが薄くなると取扱い性が悪くなり、取扱い性を改良したキャリア付き銅箔も好ましく使用可能である。
【0019】
<耐熱性絶縁基材層X>
本発明の銅張積層板をプリント配線板用途に用いる場合の寸法安定性の視点より、層Xの線膨張係数は20ppm/℃以下であることが好ましい。本発明の層Xに好ましく用いられる、非熱可塑性ポリイミド樹脂フィルム、液晶ポリエステルフィルム、ガラスエポキシ基材、ガラス基材はいずれも、化学構造の制御や、ガラス繊維等無機材料と樹脂の複合化、無機材料単体材料技術等の技術の活用により、線膨張係数を20ppm/℃以下に制御可能である。
これら耐熱性絶縁基材の選択肢の内、耐熱性、屈曲性、耐熱性等の観点より、層Xは非熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムであることがさらに好ましい。尚、本発明における非熱可塑性ポリイミド樹脂フィルムとは、フィルムの状態で金属製の固定枠に固定して加熱温度450℃の条件で2分間加熱した際に、シワが入ったり伸びたりせず、フィルム形状(平坦な膜形状)を保持しているポリイミドを非熱可塑性ポリイミド(樹脂)とし、シワが入ったり伸びたり、フィルム形状(平坦な膜形状)を保持していないポリイミドを熱可塑性ポリイミド(樹脂)という。
【0020】
<耐熱性絶縁基材層X-非熱可塑性ポリイミドフィルム>
次に、耐熱性絶縁基材層Xに用いる非熱可塑性ポリイミドフィルムについて説明する。 本発明の一実施形態の耐熱性絶縁基材層である層Xはその片面または両面に層Aが形成され、更にその片面または両面に金属箔が積層されている。
【0021】
ポリイミド樹脂フィルムの線膨張係数は使用するモノマー種により制御することができることが知られている。ポリイミド樹脂フィルムの線膨張係数を小さくするためには、剛直な化学構造を有するモノマーを使用し、その組成比を高くすることが有効である。剛直な化学構造を有するモノマーを使用し、その組成比を高くすることにより、フィルム状に成型(加工)した際に面方向にポリイミド分子鎖が配向し、さらに厚み方向に分子鎖が堆積した状態が形成され得る。逆に、ポリイミド樹脂フィルムの線膨張係数を大きくするためには、柔軟な化学構造を有するモノマーを使用し、その組成比を高くすることが有効である。柔軟な化学構造を有するモノマーを使用し、その組成比を高くすることにより、フィルム状に成型した際にポリイミド分子鎖は面方向に配向するだけではなく、厚み方向にも配向する、つまりランダム配向を示す傾向がある。層Bに非熱可塑性ポリイミドフィルムを用いる場合、非熱可塑性ポリイミドフィルムの製造に使用するジアミンについては特に限定されるものではないが、最終的に得られるポリイミドフィルムの線膨張係数を20ppm/℃以下にすることが好ましい。そのため、非熱可塑性ポリイミドフィルムの製造において、酸二無水物の構造に合わせて剛直構造のジアミンと柔軟構造のジアミンとを適切に組み合わせて使用することが好ましい。
【0022】
非熱可塑性ポリイミドフィルムの製造に好適に用いられる、剛直構造を有するジアミンは例えば、4,4’-ジアミノ-2,2’-ジメチルビフェニル、4,4’-ジアミノ-3,3’-ジメチルビフェニル、4,4’-ジアミノ-3,3’-ジヒドロキシビフェニル、1,4-ジアミノベンゼン、1,3-ジアミノベンゼン、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル4,4’-ジアミノベンズアニリドなどが挙げられる。
【0023】
非熱可塑性ポリイミドフィルムの製造に好適に用いられる、柔軟構造を有するジアミンは例えば、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、2,2-ビス{4-(4-アミノフェノキシ)フェニル}プロパン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼンなどが挙げられる。非熱可塑性ポリイミドフィルムの製造において、層Aの熱可塑性ポリイミド樹脂の説明に記載するジアミン類を適宜用いることも可能である。
【0024】
層Xに非熱可塑性ポリイミドフィルムを用いる場合、非熱可塑性ポリイミドフィルムの製造に使用する酸二無水物についても特に限定されるものではないが、最終的に得られるポリイミドの線膨張係数が20ppm/℃以下にすることが好ましい。そのため、非熱可塑性ポリイミドフィルムの製造において、ジアミンの構造に合わせて剛直構造の酸二無水物と柔軟構造の酸二無水物とを適切に組み合わせて使用することが好ましい。非熱可塑性ポリイミドフィルムの製造に好適に用いられる、具体的な剛直構造を有する酸二無水物としては、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ピロメリット酸二無水物などが挙げられる。非熱可塑性ポリイミドフィルムの製造に好適に用いられる、柔軟構造を有する酸二無水物は3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4,4’-オキシジフタル酸二無水物などが挙げられる。非熱可塑性ポリイミドフィルムの製造において、層Aの熱可塑性ポリイミド樹脂の説明に記載する酸二無水物類を適宜用いることも可能である。
【0025】
ポリイミドの前駆体であるポリアミド酸は、前記ジアミンと酸二無水物とを有機溶媒中で実質的に等モルまたは略等モルになるように混合し、これらを反応させることにより得られる。使用する有機溶媒は、ポリアミド酸を溶解できる溶媒であればいかなるものも用いることができる。前記有機溶媒としては、アミド系溶媒すなわちN,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドンなどが好ましく、N,N-ジメチルホルムアミドおよびN,N-ジメチルアセトアミドの少なくとも一方が特に好ましく用いられ得る。ポリアミド酸の固形分濃度は特に限定されず、5重量%~35重量%の範囲内であればポリイミドとした際に十分な機械強度を有するポリアミド酸が得られる。
【0026】
原料であるジアミンおよび酸二無水物の添加順序についても特に限定されない。原料であるジアミンおよび酸二無水物の化学構造だけでなく、これらの添加順序を制御することによっても、得られるポリイミドの特性を制御することが可能である。
【0027】
前記ポリアミド酸には、摺動性、熱伝導性、導電性、耐コロナ性、ループスティフネス等のフィルムの諸特性を改善する目的でフィラーを添加することもできる。フィラーとしてはいかなるものを用いても良いが、好ましい例としてはシリカ、酸化チタン、アルミナ、窒化珪素、窒化ホウ素、リン酸水素カルシウム、リン酸カルシウム、雲母などが挙げられる。
【0028】
また、得られる樹脂層全体としての特性を損なわない範囲で、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂などの熱硬化性樹脂、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトンなどの熱可塑性樹脂を使用しても良い。これら樹脂の添加方法としては、溶剤に可溶のものであれば前記ポリアミド酸に添加する方法が挙げられる。ポリイミドも可溶性のポリイミドであるなら、ポリイミド溶液に添加しても良い。溶剤に不溶のポリイミドであれば、前記ポリアミド酸を先にイミド化した後、イミド化により得られたポリイミドと、さらに添加する溶剤に不溶のポリイミドとを、溶融混練で複合化する方法が挙げられる。但し、得られるフレキシブル金属張積層体の半田耐熱性および/または加熱収縮率などが悪化する可能性があるため、本発明の一実施形態では溶融性のあるポリイミドは使用しないことが望ましい。従って、ポリイミドと混合する樹脂は可溶性のものを用いることが望ましい。
【0029】
本発明の一実施形態の層Xに好ましく用いられる非熱可塑性ポリイミドフィルムを得る方法は、以下の工程(i)~(iv)を含むことが好ましい。
(i)有機溶剤中で芳香族ジアミンと芳香族テトラカルボン酸二無水物とを反応させてポリアミド酸溶液を得る工程、
(ii)前記ポリアミド酸溶液を含む製膜ドープを支持体上に流延する工程、
(iii)支持体上で前記製膜ドープを加熱した後、支持体から得られたゲルフィルムを引き剥がす工程、
(iv)ゲルフィルムを更に加熱して、ゲルフィルム中に残ったポリアミド酸をイミド化し、かつ乾燥させる工程。
【0030】
(ii)以降の工程の方法は、熱イミド化法と化学イミド化法とに大別される。熱イミド化法は、脱水閉環剤等を使用せず、ポリアミド酸溶液を製膜ドープとして支持体に流延、加熱だけでイミド化を進める方法である。一方の化学イミド化法は、ポリアミド酸溶液に、イミド化促進剤として脱水閉環剤及び触媒の少なくともいずれかを添加したものを製膜ドープとして使用し、イミド化を促進する方法である。どちらの方法を用いても構わないが、化学イミド化法の方が生産性に優れる。
【0031】
脱水閉環剤としては、無水酢酸に代表される酸無水物が好適に用いられ得る。触媒としては、脂肪族第三級アミン、芳香族第三級アミン、複素環式第三級アミン等の三級アミンが好適に用いられ得る。
【0032】
製膜ドープを流延する支持体としては、ガラス板、アルミ箔、エンドレスステンレスベルト、ステンレスドラム等が好適に用いられ得る。最終的に得られるフィルムの厚みおよび/または生産速度に応じて加熱条件を設定し、製膜ドープについて部分的にイミド化または乾燥のいずれか一方を行った後、支持体からイミド化物を剥離してポリアミド酸フィルム(以下、ゲルフィルムという)を得る。
【0033】
前記ゲルフィルムの端部を固定して硬化時の収縮を回避しながらゲルフィルムを乾燥し、ゲルフィルムから、水、残留溶媒、イミド化促進剤を除去する。そうして、ゲルフィルム中に残ったアミド酸を完全にイミド化して、ポリイミドを含有するフィルムが得られる。加熱条件については、最終的に得られるフィルムの厚みおよび/または生産速度に応じて適宜設定すれば良い。
【0034】
また、本発明の一実施形態の層Bとして工業的に入手可能なポリイミドフィルムを使用することが好ましく使用可能である。市販されている層Bとして利用可能なポリイミドフィルムの例としては、例えば、「アピカル」(カネカ製)、「カプトン」(デュポン、東レ・デュポン製)、「ユーピレックス」(宇部興産製)などが挙げられる。
【0035】
<層Aの熱可塑性ポリイミド樹脂>
層Aは熱可塑性ポリイミド樹脂およびフュームド金属酸化物を含み、層Aは金属箔と強固に密着することが特徴である。層Aの熱可塑性ポリイミド樹脂につき説明する。本発明の一実施形態の銅張積層板をプリント配線板用に使うことを想定した場合、層Aの熱可塑性ポリイミド樹脂がその加工プロセス中の高温プロセスの温度、および部品実装される際の高温にも耐えることが好ましい。それ故、層Aに用いる熱可塑性ポリイミド樹脂はガラス転移温度が高いことが好ましく、また高温での弾性率が高い方が好ましい。これらが高いことにより、高温時における層Aと金属箔との密着性を高く保つことができ、高温プロセスの温度、および部品実装工程に耐えることが可能になる。またこれらが高すぎると金属箔と熱ラミネートする際の加工温度が高くなり、工業的に不利になる。以上より、耐熱性の視点からは、熱可塑性ポリイミド樹脂のガラス転移温度は、できるだけ高いことが好ましく、例えば好ましくは180℃以上であり、更に好ましくは210℃以上、特に好ましくは230℃以上である。一方、加工温度の視点からは、300℃以下であることが好ましい。また、良好な半田耐熱性発現のためには層Aに用いる熱可塑性ポリイミド樹脂は半田の融点近傍においても一定以上の弾性率を有していることが好ましい。具体的に、層A中に含まれる熱可塑性ポリイミド樹脂は300℃における貯蔵弾性率が0.02×109Pa以上であり、0.05×109Pa以上であることが好ましく、0.08×109Pa以上であることがより好ましく、0.1×109Pa以上であることがさらに好ましい。
【0036】
<層Aの熱可塑性ポリイミド樹脂の処方>
次に層Aに用いるポリイミド樹脂に用いるモノマー種、重合方法等につき説明する。ポリイミド樹脂は、ガラス転移温度、高温時の貯蔵弾性率等の物性を適切に制御することが好ましい。これら物性を適切な範囲に制御する手段としては、使用する原料モノマーの選定が挙げられる。ポリイミド樹脂の原料モノマーとしては柔軟な骨格を有するモノマーと剛直な骨格を有するモノマーと、があり、これらを適宜選択し、更に配合比を調整することにより、所望の物性を実現することが可能となる。
【0037】
柔軟な骨格を有するジアミンとしては、4,4'-オキシジアニリン、3,3’-オキシジアニリン、3,4’-オキシジアニリン、ビス{4-(4-アミノフェノキシ)フェニル}スルホン、2,2’-ビス{4-(4-アミノフェノキシ)フェニル}プロパン、ビス{4-(3-アミノフェノキシ)フェニル}スルホン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,3’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルチオエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルチオエーテル、3,3’-ジアミノジフェニルチオエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルプロパン、3,4’-ジアミノジフェニルプロパン、3,3’-ジアミノジフェニルプロパン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノベンゾフェノン、3,4’-ジアミノベンゾフェノン、3,3’-ジアミノベンゾフェノン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、2,2-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス[3-(3-アミノフェノキシ)フェニル]-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニル、などが挙げられる。
【0038】
一方、剛直な骨格を有するジアミンとしては、1,4-ジアミノベンゼン(p-フェニレンジアミン)、1,3-ジアミノベンゼン、1,2-ジアミノベンゼン、ベンジジン、3,3’-ジクロロベンジジン、3,3’-ジメチルベンジジン、2,2’-ジメチルベンジジン、3,3’-ジメトキシベンジジン、2,2’-ジメトキシベンジジン、3,3’-ジヒドロキシ-4,4’-ジアミノビフェニル、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、1,5-ジアミノナフタレン、4,4’-ジアミノベンズアニリド、3,4’-ジアミノベンズアニリド、3,3’-ジアミノベンズアニリド、などが挙げられる。
【0039】
これらのうち、熱特性の制御ならびに工業的に入手しやすい点から、柔軟な骨格を有するジアミンとして、4,4’-オキシジアニリン、4,4’-ジアミノジフェニルプロパン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-オキシジアニリン、3,4’-オキシジアニリン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、ビス{4-(4-アミノフェノキシ)フェニル}スルホン、2,2’-ビス{4-(4-アミノフェノキシ)フェニル}プロパン、ビス{4-(3-アミノフェノキシ)フェニル}スルホン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、3,3’-ジアミノベンゾフェノンおよび4,4'-ジアミノベンゾフェノンからなる群から選択される1種以上が好ましく用いられ得る。特に、4,4'-オキシジアニリン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼンおよび2,2’-ビス{4-(4-アミノフェノキシ)フェニル}プロパンからなる群から選択される1種以上が好ましく用いられ得る。
【0040】
剛直な骨格を有するジアミンとしては、比較的少量で高分子鎖を固くする効果を発現する点、および工業的に入手しやすい点から、1,4-ジアミノベンゼン(p-フェニレンジアミン)、1,3-ジアミノベンゼンおよび2,2’-ジメチルベンジジンからなる群から選択される1種以上が好ましく用いられ得る。特に、1,4-ジアミノベンゼン(p-フェニレンジアミン)および2,2’-ジメチルベンジジンの少なくとも一方が好ましく用いられ得る。これらのジアミンは一種を単独で用いてもよく、二種以上を混合して(組み合わせて)用いても良い。
【0041】
柔軟な骨格を有するテトラカルボン酸二無水物としては、3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,4’-オキシジフタル酸無水物、4,4’-オキシジフタル酸無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルスルフォンテトラカルボン酸二無水物、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)フタル酸無水物、4,4’-(4,4’-イソプロピリデンジフェノキシ)ジフタル酸無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、1,1-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、p-フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、エチレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、ビスフェノールAビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)などが挙げられる。
【0042】
一方、剛直な骨格を有するテトラカルボン酸二無水物としては、ピロメリット酸二無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3,4,9,10-ペリレンテトラカルボン酸二無水物などが挙げられる。
【0043】
これらのうち、熱特性の制御ならびに工業的に入手しやすい点から、柔軟な骨格を有するテトラカルボン酸二無水物として、3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物および4,4’-オキシジフタル酸無水物からなる群から選択される1種以上が好ましく用いられ得る。中でも、3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物がより好ましく、本発明の好ましい一実施形態で所望される各種物性、即ち金属箔との密着性、高温時の弾性率、ガラス転移温度等をバランスよく発現させるために有効に用いることができる。
【0044】
剛直な骨格を有するテトラカルボン酸二無水物としては、比較的少量で高分子鎖を固くする効果を発現する点、および工業的に入手しやすい点から、ピロメリット酸二無水物が好ましく用いられ得る。これらのテトラカルボン酸二無水物は二種以上を混合して用いても良い。
【0045】
上述の原料モノマー類を適宜選択し、更に配合比を調整し、更にフュームド金属酸化物を適切な種類と配合量で組み合わせることにより、本発明の一実施形態の金属箔との密着性を向上することができ、好ましい。尚、高温時の弾性率、ガラス転移温度等をバランスよく発現させるために、上述した好ましいジアミンおよび酸二無水物と共に、その他のジアミンおよび酸二無水物を併用することも好ましく実施可能である。
【0046】
層Aのポリイミドの前駆体であるポリアミド酸は、前記ジアミンと酸二無水物とを有機溶媒中で実質的に等モルまたは略等モルになるように混合し、これらを反応させることにより得られる。使用する有機溶媒は、ポリアミド酸を溶解できる溶媒であればいかなるものも用いることができる。前記有機溶媒としては、アミド系溶媒すなわちN,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドンなどが好ましく、N,N-ジメチルホルムアミドおよびN,N-ジメチルアセトアミドの少なくとも一方が特に好ましく用いられ得る。ポリアミド酸の固形分濃度は特に限定されず、5重量%~35重量%の範囲内であればポリイミドとした際に十分な機械強度を有するポリアミド酸が得られる。
【0047】
原料であるジアミンおよび酸二無水物の添加順序についても特に限定されない。原料であるジアミンおよび酸二無水物の化学構造だけでなく、これらの添加順序を制御することによっても、得られるポリイミドの特性を制御することが可能である。
【0048】
また、原料として1,4-ジアミノベンゼンおよびピロメリット酸二無水物を用いる場合、両者が結合して得られるポリイミド構造はデスミア液に対する耐久性が低いため、1,4-ジアミノベンゼンおよびピロメリット酸二無水物の添加順序を調整して両者が直接結合した構造を形成しないようにすることが好ましい。
【0049】
層Aは、樹脂成分として、上述したポリイミド樹脂以外の樹脂を含んでいてもよい。層Aに含まれる樹脂成分中のポリイミド樹脂の含有比率は、多いことが好ましい。例えば、層Aに含まれている樹脂成分100重量%中、ポリイミド樹脂が50重量%以上であることが好ましく、60重量%以上であることがより好ましく、70重量%以上であることがより好ましく、80重量%以上であることがより好ましく、90重量%以上であることが更に好ましく、95重量%以上であることがより特に好ましい。層Aに含まれている樹脂成分100重量%中、ポリイミド樹脂が100重量%であることが最も好ましく、換言すれば、層Aは、樹脂成分としてポリイミド樹脂のみを含むことが最も好ましい。
【0050】
ジアミン類と酸二無水物類の組合せとしては、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼンと3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物の組合せを含むものが好ましく、更にモノマー種を一部を別のモノマー類に置き換えた組み合わせも好ましい。具体的には、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼンの一部を、4,4'-オキシジアニリン、2,2’-ビス{4-(4-アミノフェノキシ)フェニル}プロパン、1,4-ジアミノベンゼン(p-フェニレンジアミン)、2,2’-ジメチルベンジジンに置き換えた組み合わせも好ましい。更には、3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物の一部を、2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4,4’-オキシジフタル酸無水物、ピロメリット酸二無水物に置き換えた組み合わせも好ましい。これらの組合せ以外にも2,2’-ビス{4-(4-アミノフェノキシ)フェニル}プロパンとピロメリット酸二無水物の組合せも好ましく、更にモノマー種を一部を別のモノマー類に置き換えた組み合わせも好ましい。具体的には、2,2’-ビス{4-(4-アミノフェノキシ)フェニル}プロパンの一部を、4,4'-オキシジアニリン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ジアミノベンゼン(p-フェニレンジアミン)、2,2’-ジメチルベンジジンに置き換えた組み合わせも好ましい。更には、ピロメリット酸二無水物の一部を、3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4,4’-オキシジフタル酸無水物に置き換えた組み合わせも好ましい。
【0051】
<層Aのフュームド金属酸化物>
層Aは熱可塑性ポリイミド樹脂およびフュームド金属酸化物を含み、層Aは金属箔と強固に密着することが特徴である。層Aのフュームド金属酸化物につき説明する。本発明のフュームド金属酸化物はシリカ、アルミナ、チタニア、銅、鉄、ジルコニア、マグネシウム、バリウム等を主成分とする金属酸化物である。
【0052】
本発明のフュームド金属酸化物は、気相合成により得られる。気相合成の製法上の特徴から、得られるフュームド金属酸化物は、一次粒子が凝集した構造体が構造単位となっているという特徴がある。換言すれば、フュームド金属酸化物は、一次粒子が凝集した構造体が構造単位となっている(例えば、ブドウの房のような凝集構造を有する)ことが好ましい。フュームド金属酸化物は熱可塑性ポリイミド樹脂と混合され本発明の層Aを構成する。本発明者の種々検討の結果、層Aは、(i)空隙が低い状態でフュームド金属酸化物の構造単位が熱可塑性ポリイミド樹脂中に埋没しており、(ii)当該構造単位が層Aの表面および/または表面近傍からバルク方向にかけて存在し、かつ(iii)当該構造単位が層A中に均等に存在および分散している状態、であることが好ましく、そのような状態が本発明の目的である金属箔との密着性発現に有効であると考えている。
【0053】
熱可塑性ポリイミド樹脂とフュームド金属酸化物との配合において、フュームド金属酸化物の配合比率を高くすると層A中の空隙率があがる傾向がある。層A中の空隙率が高すぎない場合、熱可塑性ポリイミド樹脂とフュームド金属酸化物との結着力が低下することが無く、層A自体の強度が良好となる傾向を示し、結果として金属箔との密着性が良好となる傾向がある。そのため、熱可塑性ポリイミド樹脂とフュームド金属酸化物と配合において、フュームド金属酸化物の配合比率は、高すぎないことが好ましい。熱可塑性ポリイミド樹脂とフュームド金属酸化物と配合において、逆にフュームド金属酸化物の配合比率が低くなると空隙率は低くなる傾向がある。層A中の空隙率が低すぎない場合、金属箔との十分な密着性を発現し易くなり好ましい。
【0054】
以上より、良好な密着性発現の為には熱可塑性ポリイミド樹脂とフュームド金属酸化物との配合比率を適切な範囲に制御することが好ましい。一方、フュームド金属酸化物には一次粒子径、一次粒子が凝集した構造体の構造および表面処理種が異なる各種グレードがあり、これらも影響した適切な配合比率が存在すると考えている。
【0055】
<フュームド金属酸化物の一次粒子径および比表面積>
フュームド金属酸化物の一次粒子径は特に制約はなく、好ましくは5ナノメートル以上1,000ナノメートル以下、より好ましくは5ナノメートル以上100ナノメートル以下、更に好ましくは5ナノメートル以上50ナノメートル以下、更に好ましくは10ナノメートル以上20ナノメートル以下である。また、フュームド金属酸化物の比表面積も一次粒子径を表現する物性値であり、一次粒子径が大きいほど比表面積は小さくなる。フュームド金属酸化物の比表面積は30平方メートル/グラム以上400平方メートル/グラム以下であることが好ましく、より好ましくは100平方メートル/グラム以上250平方メートル/グラム以下である。
【0056】
<フュームド金属酸化物の見掛比重>
フュームド金属酸化物は一次粒子径が凝集した構造体であり、フュームド金属酸化物の構造の状態を表す指標として見掛比重を用いることができる。フュームド金属酸化物の見掛比重が小さければ、フュームド金属酸化物の構造体は嵩張った構造を有しており、空隙が大きいことを表す。逆に、フュームド金属酸化物の見掛比重が大きければ、フュームド金属酸化物の構造体は嵩張りの程度が低い構造を有しており、空隙は小さいことを表す。
【0057】
フュームド金属酸化物の一次粒子径が凝集した構造体が有する空隙を熱可塑性ポリイミド樹脂成分で満たすことにより、空隙率の小さい層Aを作製することができる。フュームド金属酸化物の見掛比重が小さいなるほど、フュームド金属酸化物の構造体の空隙が多く、多くの熱可塑性ポリイミド樹脂成分を使用することで当該空隙を満たすことが可能となる。フュームド金属酸化物の見掛比重が大きくなるほど、少量の熱可塑性ポリイミド樹脂成分でもフュームド金属酸化物の構造体の空隙を満たすことが可能となる。逆に表現すると、ある一定量の熱可塑性ポリイミド樹脂にフュームド金属酸化物を配合して空隙率の小さい層Aを作製するにあたり、(i)見掛比重が小さいフュームド金属酸化物の場合、フュームド金属酸化物の配合量の上限は低くなり、逆に(ii)見掛比重が大きいフュームド金属酸化物の場合、多くのフュームド金属酸化物を配合することができ、すなわちフュームド金属酸化物の配合量の上限は高くなる。先にも記載したがフュームド金属酸化物の配合量が多すぎない場合、層A中に過剰な空隙が発生する虞がない。その結果、熱可塑性ポリイミド樹脂とフュームド金属酸化物との結着力が低下することが無く、層A自体の強度が良好となる傾向を示し、結果として金属箔との密着性も良好となる傾向がある。そのため、熱可塑性ポリイミド樹脂とフュームド金属酸化物と配合において、フュームド金属酸化物の配合比率は、高すぎないことが好ましい。逆にフュームド金属酸化物の比率が低すぎない場合、金属箔との十分な密着性を発現し易い。つまり、熱可塑性ポリイミド樹脂とフュームド金属酸化物と配合において、フュームド金属酸化物を配合量の上限付近で配合することが、良好な密着性の発現に効果的である。
【0058】
空隙率の小さい層Aを作るための、ある一定量の熱可塑性ポリイミド樹脂に対するフュームド金属酸化物の配合量の上限は、フュームド金属酸化物の見掛比重および表面処理種により変わる。つまり、フュームド金属酸化物の見掛比重および表面処理種に応じて、ある一定量の熱可塑性ポリイミド樹脂に対するフュームド金属酸化物の配合量を調節することにより、密着性をさらに向上させることができる。本発明の一実施形態において、フュームド金属酸化物の見掛比重は20グラム/リットル以上250グラム/リットル以下であることが好ましく、20グラム/リットル以上220グラム/リットル以下であることがより好ましい。また、フュームド金属酸化物の見掛比重が大きいほど、フュームド金属酸化物の配合量の上限があがり、密着性もより改善される傾向がある。その為、フュームド金属酸化物の見掛比重が50グラム/リットルより大きく250グラム/リットル以下であることがより好ましく、60グラム/リットル以上250グラム/リットル以下であることがより好ましく、70グラム/リットル以上250グラム/リットル以下であることが更に好ましく、70グラム/リットル以上220グラム/リットル以下であることがより更に好ましい。尚、フュームド金属酸化物の見掛比重は、フュームド金属酸化物に対して機械的にせん断等の応力を加えることによるフュームド金属酸化物の構造改質により、変化させることも可能である。
【0059】
フュームド金属酸化物に対し、各種表面処理が可能である。フュームド金属酸化物の表面状態としてシラノール(未処理)、ジメチルシリル、オクチルシリル、トリメチルシリル、ジメチルシロキサン、ジメチルポリシロキサン、アミノアルキルシリル、メタクリルシリル等があり、いずれも工業的に入手可能である。フュームド金属酸化物の表面処理種とポリイミド樹脂成分の極性とが近い場合、フュームド金属酸化物の配合量の上限は高くなる傾向がある。層Aの熱可塑性ポリイミド樹脂との相性も考慮し、適切な選択をすることが好ましい。尚、フュームド金属酸化物の見掛比重はISO787/XIにより測定することが可能である。
【0060】
<フュームド金属酸化物の具体例>
以下、本発明の一実施形態において好ましく使用可能なフュームド金属酸化物について具体例を示すが、これらに限らない。見掛比重を含む各種特性の要件を満たすフュームド金属酸化物が、本発明の一実施形態においてより好適に使用可能である。一次粒子径、比表面積、表面処理種、見掛比重および金属酸化物種の異なる各種グレードのフュームド金属酸化物を日本アエロジル社、旭化成ワッカーシリコーン社およびキャボット社から入手可能であり、好ましく使用可能である。以下日本アエロジル社製品のフュームド金属酸化物を例として具体的に説明する。見掛比重以外は略同等であるアエロジルR972、R972CF、R972Vなどを好ましく使用可能であり、この中で見掛比重の高いR972(50グラム/リットル)をより好ましく使用可能である。同様に、見掛比重以外は同等であるアエロジルR974、R9200、VP RS920などを好ましく使用可能であり、この中で見掛比重の高いアエロジルR9200(200グラム/リットル)およびアエロジルVP RS920(80グラム/リットル以上120グラム/リットル以下)をより好ましく使用可能である。また、これら以外にも本発明の一実施形態の好ましい物性の一つである見掛比重が比較的低く、70グラム/リットル以下の日本アエロジル社製フュームド金属酸化物として、アエロジルNX130、RY200S、R976、NAX50、NX90G、NX90S、RX200、RX300、R812、R812S等を好ましく使用可能である。また、見掛比重が比較的高く、70グラム/リットル以上の日本アエロジル社製フュームド金属酸化物として、アエロジル200V、AEROIDE TiO2 P90、AEROIDE TiO2 NKT90、OX50、RY50、RY51、AEROIDE TiO2 P25、R8200、RM50、RX50、AEROIDE TiO2 T805、R7200等も好ましく使用可能である。尚、アエロジルVP RS920は、2021年11月以降、「アエロジルE9200」という名称で販売されている。
【0061】
また、「アエロジル」または「AEROSIL」は、エボニック オペレーションズ ゲーエムベーハーの登録商標である。また、フュームド金属酸化物としては、気相合成で合成されたものであり、それにより一次粒子径が凝集した構造体を有するフュームド金属酸化物が、好ましく使用可能である。
【0062】
これらのフュームド金属酸化物の中でも、アエロジルR972、972V、NX130、R9200、VP RS920、R974,R976、R8200等のフュームドシリカが、アルカリ性環境での溶解により形成される層Aの表面形状が良好で、表面粗度も適切な範囲となる点で好ましい。
【0063】
<フュームド金属酸化物の配合部数>
層Aの熱可塑性ポリイミド樹脂100重量部に対し、フュームド金属酸化物の配合部数が、10重量部から60重量部であり、15重量部から55重量部であることが好ましく、20重量部から50重量部であることがより好ましい。(ここで、10重量部から60重量部とは、10重量部以上60重量部以下を意味する。)尚、この配合部数は本発明者が検討した結果、導いた好ましい配合部数の範囲であり、フュームド金属酸化物を添加しなかった場合に比べ、20%以上改善することができる。
【0064】
<熱可塑性ポリイミド樹脂とフュームド金属酸化物の混合方法、層Aの作製方法>
層Aの製造方法は、熱可塑性ポリイミド樹脂の特徴に応じて適切な方法を選択することができる。
i)層Aの熱可塑性ポリイミド樹脂の前駆体であるポリアミド酸の溶液をフュームド金属酸化物と混合・分散せしめた層A分散液を得、次いで支持体に塗布・加熱することでポリアミド酸をポリイミド樹脂にイミド化し、層Aを得ることも好ましく実施可能である。
ii)熱可塑性ポリイミド樹脂が溶媒可溶性を示す場合、フュームド金属酸化物を有機溶媒に分散させ、同分散液を熱可塑性ポリイミド樹脂の溶液に添加した層A分散液を得たのち、適当な支持体上に層A分散液を塗工し、乾燥し、層Aを得ることも好ましく実施可能である。
iii)フュームド金属酸化物を熱可塑性ポリイミドの融点以上の温度で混錬し、層A樹脂バルクを得、加熱・加圧しながら、または溶融押出機を用い、支持体を用いる方法、または用いない方法でフィルム状に成型し、層Aを得る方法があげられる。
【0065】
高密着強度を発現させるためにフュームド金属酸化物は均一に分散していることが好ましく、一次粒子が凝集した構造体の構造単位まで分散させることが好ましく、用いる熱可塑性ポリイミド樹脂、フュームド金属酸化物の種類・性状に合わせ適切な分散方法を選択することが好ましい。
【0066】
i)およびii)の方法の場合、分散の方法はディスパー、ホモジナイザー、プラネタリーミキサー、ビーズミル、自転公転ミキサー、ロール、ニーダー、高圧分散機、超音波、レゾルバ等が挙げられる。iii)の方法の場合、スクリュ押出機、溶融混錬機等の装置を挙げることができる。
【0067】
尚、本発明の効果が得られる限り、フュームド金属酸化物を前記構造単位まで分散しなくても構わない。また、フュームド金属酸化物の構造単位をさらに小さくする条件で分散および粉砕することも可能である。有機溶媒はポリアミド酸の重合に用いる溶媒などを用いることができアミド系溶媒すなわちN,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドンなどが好ましく用いられ得るが、これに限定されない。
【0068】
本発明の銅張積層板は、熱可塑性ポリイミド樹脂およびフュームド金属酸化物を含む層Aと、その表面に形成した金属箔と、また層Aのもう一つの面が、別の耐熱性絶縁基材層Xと接していることを必須とする。予め層Aと層Xが積層された層X/層Aなる構成体または層A/層X/層Aなる構成体を作っておき、次いで金属箔を積層することにより、層X/層A/金属箔なる構成体、または、層A/層X/層A/金属箔なる構成体、または、金属箔/層A/層X/層A/金属箔なる構成体、即ち銅張積層板を得てもよい。耐熱性絶縁基材層Xにはポリイミド樹脂フィルム、液晶ポリエステルフィルム、ガラスエポキシ基材、ガラス基材などを好ましく使用可能である。本発明の銅張積層板が両面フレキシブルプリント配線板に使用されることを想定すると金属箔/層A/層X/層A/金属箔なる順に構成された銅張積層板であることが好ましい。また、耐熱性絶縁基材層Xにガラス基材を用いた場合、ガラス基材が有する低粗度の表面性、高寸法安定性等の利点より、半導体実装用のプリント配線板、ガラスインターポーザにも本発明の銅張積層板は好ましく利用可能である。
【0069】
尚、前記の層Aの作製方法のi)、ii)、iii)で記載した支持体に層Xを用いることで、層X/層A/なる構成体または層A/層X/層Aなる構成体を得、更に金属箔と積層することで本発明の銅張積層板を得ることも好ましく実施可能である。
【0070】
また、層Xが非熱可塑ポリイミド樹脂フィルムの場合、層Xのポリイミド樹脂の前駆体である層Xのポリアミド酸樹脂溶液と、前記の層Aの作製方法のi)で記載した、層Aの熱可塑性ポリイミド樹脂の前駆体であるポリアミド酸の溶液をフュームド金属酸化物と混合・分散せしめた層A分散液を共押出しし、得られた押出物を乾燥し、層Xおよび層Aの両ポリイミド樹脂の前駆体をイミド化し、層Aと層Xが積層された層X/層Aなる構成体または層A/層X/層Aなる構成体を得ることも好ましく実施可能である。
【0071】
層Aの厚みは特に制約はないが、表面が粗化されている金属箔と積層する場合、表面粗度Rz以上の厚みである事が好ましく、これにより本発明の効果を発揮する。
【0072】
<積層>
本発明の銅張積層板は層Aと層Xと金属箔が積層されている。金属箔は前記の通り、電解銅箔または圧延銅箔であり、層Aと金属箔が対向した状態で貼り合わせることにより、本発明の銅張積層板を得ることができる。貼り合わせの方法は特に限定されるものではなく、一対以上の金属ロールを有する熱ロールラミネート装置或いはダブルベルトプレス(DBP)による連続処理により行うことが好ましく実施可能である。また熱プレス装置による積層も好ましく実施可能である。
【0073】
金属層との張り合わせは、装置構成が単純であり保守コストの面で有利であるという点から、一対以上の金属ロールを有する熱ロールラミネート装置を用いることが好ましい。ここでいう「一対以上の金属ロールを有する熱ロールラミネート装置」とは、材料を加熱加圧するための金属ロールを有している装置であればよく、その具体的な装置構成は特に限定されるものではない。
【0074】
上記熱ロールラミネートを実施する手段の具体的な構成は特に限定されるものではないが、得られる銅張積層板の外観を良好なものとするために、加圧面と金属箔との間に保護材料を配置することが好ましい。保護材料としては、熱ラミネート工程の加熱温度に耐えうるものであれば特に限定されず、非熱可塑性ポリイミドフィルム等の耐熱性プラスチック、銅箔、アルミニウム箔、SUS箔等の金属箔等を好適に用いることができる。中でも、耐熱性、再利用性等のバランスが優れる点から、非熱可塑性ポリイミドフィルムがより好ましく用いられる。また、厚みが薄いとラミネート時の緩衝並びに保護の役目を十分に果たさなくなるため、非熱可塑性ポリイミドフィルムの厚みは75μm以上であることが好ましい。
【0075】
また、この保護材料は必ずしも1層である必要はなく、異なる特性を有する2層以上の多層構造でも良い。
【0076】
上記熱ラミネート手段における、層X/層Aなる構成体または層A/層X/層Aなる構成体および金属箔(以下、被積層材料ということもある)の加熱方式は特に限定されるものではなく、例えば、熱循環方式、熱風加熱方式、誘導加熱方式等、所定の温度で加熱し得る従来公知の方式を採用した加熱手段を用いることができる。同様に、上記熱ラミネート手段における被積層材料の加圧方式も特に限定されるものではなく、例えば、油圧方式、空気圧方式、ギャップ間圧力方式等、所定の圧力を加えることができる従来公知の方式を採用した加圧手段を用いることができる。
【0077】
上記熱ラミネート工程における加熱温度、すなわちラミネート温度は、層Aに用いる熱可塑性ポリイミド樹脂のガラス転移温度(Tg)+50℃以上の温度であることが好ましく、同Tg+100℃以上がより好ましい。Tg+50℃以上の温度であれば、層Aと金属箔とを良好に熱ラミネートすることができる。またTg+100℃以上であれば、ラミネート速度を上昇させてその生産性をより向上させることができる。
【0078】
上記熱ラミネート工程におけるラミネート速度は、0.5m/分以上であることが好ましく、1.0m/分以上であることがより好ましい。0.5m/分以上であれば十分な熱ラミネートが可能になり、1.0m/分以上であれば生産性をより一層向上することができる。
【0079】
上記熱ラミネート工程における圧力、すなわちラミネート圧力は、高ければ高いほどラミネート温度を低く、かつラミネート速度を速くすることができる利点があるが、一般にラミネート圧力が高すぎると得られる積層板の寸法変化が悪化する傾向がある。また、逆にラミネート圧力が低すぎると得られる積層板の金属箔の接着強度が低くなる。そのためラミネート圧力は、49~490N/cm(5~50kgf/cm)の範囲内であることが好ましく、98~294N/cm(10~30kgf/cm)の範囲内であることがより好ましい。この範囲内であれば、ラミネート温度、ラミネート速度およびラミネート圧力の三条件を良好なものにすることができ、生産性をより一層向上することができる。
【0080】
上記ラミネート工程における接着フィルム張力は、0.01~4N/cm、さらには0.02~2.5N/cm、特には0.05~1.5N/cmが好ましい。張力が上記範囲を下回ると、ラミネートの搬送時にたるみや蛇行が生じ、均一に加熱ロールに送り込まれないために外観の良好な銅張積層板を得ることが困難となることがある。逆に、上記範囲を上回ると、接着層のTgと貯蔵弾性率の制御では緩和できないほど張力の影響が強くなり、寸法安定性が劣ることがある。
【0081】
本発明にかかる銅張積層板を得るためには、連続的に被積層材料を加熱しながら圧着する熱ラミネート装置を用いることが好ましいが、この熱ラミネート装置では、熱ラミネート手段の前段に、被積層材料を繰り出す被積層材料繰出手段を設けてもよいし、熱ラミネート手段の後段に、被積層材料を巻き取る被積層材料巻取手段を設けてもよい。これらの手段を設けることで、上記熱ラミネート装置の生産性をより一層向上させることができる。上記被積層材料繰出手段および被積層材料巻取手段の具体的な構成は特に限定されるものではなく、例えば、接着フィルムや金属箔、あるいは得られる積層板を巻き取ることのできる公知のロール状巻取機等を挙げることができる。
【0082】
また、別の積層の方法として、金属箔の表面に前記の層Aの作製方法で記載した、層A分散液を塗布する方法[i)、ii)の場合]、またはiii)の場合は層A樹脂バルクを溶融させた状態で金属箔に塗布する方法も好ましく実施可能である。
【0083】
<プリント配線板>
本発明の銅張積層板を用いたプリント配線板もまた、本発明の一実施形態である。本発明の銅張積層板は層Aと金属箔が強固に密着していることが特徴であり、車載用途等厳しい信頼性を要求される用途に好ましく使用可能である。
【0084】
ピール強度はプリント配線板用途で求められる信頼性の観点からはできるだけ高いことが好ましい。具体的には、4N/cm以上が好ましく、より好ましくは6N/cm以上、更に好ましくは9N/cm以上である。本発明ではフュームド金属酸化物および熱可塑性ポリイミド樹脂を含む層Aと、金属箔が強固に密着することが特徴であるが、熱可塑性ポリイミド樹脂100重量部に対するフュームド金属酸化物の重量部数が10部2から60部の場合、フュームド金属酸化物を添加しなかった場合に比べ、20%以上改善することができる。
【実施例0085】
以下、実施例及び比較例に基づき、本発明の一実施形態について更に具体的に説明する。なお、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
<層Aの熱可塑性ポリイミド樹脂の単層フィルムの作製>
合成例で得られたポリアミド酸溶液をアルミ箔に塗工し、当該ポリアミド酸溶液を120℃で360秒、200℃で60秒、350℃で200秒、および450℃で30秒、順次加熱し、イミド化を行った。次いでエッチング液を用いてアルミ箔の溶解および除去を行い、層Aのポリイミド樹脂の単層フィルムを得た。当該単層フィルムを用い、貯蔵弾性率、ガラス転移温度の評価を行った。
【0086】
<層Aの熱可塑性ポリイミド樹脂の貯蔵弾性率およびガラス転移温度の測定>
前記<層Aのポリイミド樹脂の単層フィルムの作製>の項で得られた単層フィルムを試料(サンプル)として、セイコー電子(株)社製のDMS6100を用いて貯蔵弾性率およびガラス転移温度の測定を行った。サンプルサイズは、幅9mmおよび長さ50mmとした。周波数は1、5および10Hzで、昇温速度3℃/minで20℃から400℃までの温度範囲で測定し、300℃の貯蔵弾性率の値を読み取った。ガラス転移温度(以下、「Tg」という)は貯蔵弾性率の変曲点の値によりもとめた。
【0087】
<銅張積層板の作製>
実施例ならびに比較例で得られた樹脂フィルムの両側に12μm電解銅箔(3EC-HTE,三井金属鉱業社製)を、さらに銅箔の両側に保護材料(アピカル125NPI;株式会社カネカ製)を用いて、ポリイミドフィルムの張力0.4N/cm、ラミネート温度380℃、ラミネート圧力196N/cm(20kgf/cm)、ラミネート速度1.5m/分の条件で熱ラミネートを行い、本発明にかかる両面銅張積層板を作製した。
【0088】
<ピール強度>
本発明の一実施形態では、銅張積層板における樹脂フィルムと金属箔との十分な密着性を発現することができる。これにより、回路形成工程で回路が樹脂フィルム基材から剥離する等の信頼性低下の問題を回避することができ、信頼性の高いプリント配線板を得ることができる。以上を鑑み、密着性の評価のため、以下の手順でピール強度の測定を行った。
【0089】
(ピール強度測定用サンプル作製)
実施例ならびに比較例で得られた樹脂フィルムから作製した両面銅張積層板の片方の面の銅層に対しマスキングテープを用いたエッチング法で1mm幅の銅パターンを作製し、その裏面には全面に銅層がある状態の評価用パターンを作製した。次に示す手順でピール強度を測定した。
【0090】
(ピール強度測定)
一つの両面銅張積層板に対し、ピール強度の測定を行った。クロスヘッドスピード50mm/分および剥離角度180°で剥離し、その荷重を測定した。
【0091】
(合成例1;層Aのポリイミド樹脂前駆体の合成)
容量2000mlのガラス製フラスコにN,N-ジメチルホルムアミド(以下、DMFともいう)を322.3gおよび1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン(以下、TPE-Rと称することもある)を33.9g加えた。次いで、フラスコ内の溶液を、窒素雰囲気下で撹拌しながら、フラスコ内に3,3‘、4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(以下、BPDAと称することもある)33.6gを添加し、フラスコ内の溶液を25℃で1時間撹拌した。0.51gのBPDAを9.7gのDMFに溶解させた溶液(以下、BPDA溶液(1)と称することもある)を別途調製した。BPDA溶液(1)を前記反応溶液に、粘度に注意しながら徐々に添加し、フラスコ内の反応溶液の撹拌を行った。反応溶液の粘度が1000poiseに達したところでBPDA溶液(1)の添加および反応溶液の撹拌をやめた。かかる操作により、ポリイミド前駆体であるポリアミド酸溶液を得た。
【0092】
(調合例1;層A用のフュームド金属酸化物の分散液)
日本アエロジル株式会社製アエロジルE9200を20gとDMF80gとを混合した。得られた混合物を、回転刃式ホモジナイザー(回転刃直径は20mm)にて回転数10,000rpmで5分間攪拌を行いフュームド金属酸化物の分散液を得た。
【0093】
(調合例2;層A用のフュームド金属酸化物の分散液)
日本アエロジル株式会社製アエロジルR9200を20gとDMF80gとを混合した。得られた混合物を、回転刃式ホモジナイザー(回転刃直径は20mm)にて回転数10,000rpmで5分間攪拌を行いフュームド金属酸化物の分散液を得た。
【0094】
(調合例3;層A用のフュームド金属酸化物の分散液)
日本アエロジル株式会社製アエロジルNX130を20gとDMF80gとを混合した。得られた混合物を、回転刃式ホモジナイザー(回転刃直径は20mm)にて回転数10,000rpmで5分間攪拌を行いフュームド金属酸化物の分散液を得た。
【0095】
(実施例1)
合成例1のポリアミド酸溶液40.0gと調合例1の分散液3.4gとを混合し、得られた混合物に更にDMF40gおよびルチジン2.0gを混合し、層A分散液を得た。当該層A分散液を非熱可塑性ポリイミドフィルム(アピカルFP、厚み17ミクロン、株式会社カネカ製)の片面に最終の片面の層Aの厚みが4ミクロンとなるように塗布し、120℃×2分の条件で層A分散液の乾燥を行い、次いで残る面にも同様の手順で前記層A分散液を塗布および乾燥した。続いて、層A分散液が塗布された非熱可塑性ポリイミドフィルムを450℃で12秒間加熱して層Aのポリアミド酸をイミド化させ、層A(熱可塑性ポリイミド樹脂とフュームド金属酸化物とを含む)/層X(非熱可塑性ポリイミドフィルム)/層Aがこの順で積層してなる構成の樹脂フィルムを得た。尚、非熱可塑性ポリイミドフィルム(アピカルFP)は層Xに相当する。すなわち、実施例1において、層Xはポリイミド樹脂からなり、具体的に非熱可塑性ポリイミドフィルムのみから構成されている。また、当該アピカルFPの線膨張係数は12ppm/℃であった。
【0096】
前記樹脂フィルムを、前記<銅張積層板の作製>で記載した条件で銅箔を熱ラミネートし、両面銅張積層板を作製し、ピール強度を評価した。組成および結果を表1に示す。
【0097】
(実施例2)
実施例1で用いた調合例1の分散液の添加量を8.5gに変更した以外は実施例1と同様の操作を行い、銅張積層板を得、同様の評価を行った。組成および結果を表1に示す。
【0098】
(実施例3)
実施例1で用いた調合例1の分散液の添加量を17gに変更した以外は実施例1と同様の操作を行い、銅張積層板を得、同様の評価を行った。組成および結果を表1に示す。
【0099】
(実施例4)
実施例1で用いた調合例1の分散液の添加量を20.4gに変更した以外は実施例1と同様の操作を行い、銅張積層板を得、同様の評価を行った。組成および結果を表1に示す。
【0100】
(実施例5)
実施例3で用いた調合例1の分散液を調合例2の分散液に変更した以外は実施例3と同様の操作を行い、銅張積層板を得、同様の評価を行った。組成および結果を表1に示す。
【0101】
(実施例6)
実施例3で用いた調合例1の分散液を調合例3の分散液に変更した以外は実施例3と同様の操作を行い、銅張積層板を得、同様の評価を行った。組成および結果を表1に示す。
【0102】
(比較例1)
実施例1で用いた調合例1の分散液を用いなかった以外は実施例1と同様の操作を行い、銅張積層板を得、同様の評価を行った。組成および結果を表1に示す。
【0103】
(比較例2)
実施例1で用いた調合例1の分散液の添加量を1.7gに変更した以外は実施例1と同様の操作を行い、銅張積層板を得、同様の評価を行った。組成および結果を表1に示す。フュームド金属酸化物を添加したが十分なピール強度改善の効果は観られなかった。
【0104】
(比較例3)
実施例1で用いた調合例1の分散液の添加量を23.8gに変更した以外は実施例1と同様の操作を行い、銅張積層板を得、同様の評価を行った。組成および結果を表1に示す。フュームド金属酸化物を添加した効果は観られず、逆に無添加系(比較例1)よりも低いピール強度を示した。
【0105】
(比較例4)
実施例1で用いた調合例1の分散液の添加量を34.0gに変更した以外は実施例1と同様の操作を行い、銅張積層板を得、同様の評価を行った。組成および結果を表1に示す。フュームド金属酸化物を添加した効果は観られず、逆に無添加系(比較例1)よりも低いピール強度を示した。
【表1】