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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024070323
(43)【公開日】2024-05-23
(54)【発明の名称】搬送装置
(51)【国際特許分類】
   B25J 5/00 20060101AFI20240516BHJP
【FI】
B25J5/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022180726
(22)【出願日】2022-11-11
(71)【出願人】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(74)【代理人】
【識別番号】100115749
【弁理士】
【氏名又は名称】谷川 英和
(74)【代理人】
【識別番号】100121223
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 悟道
(72)【発明者】
【氏名】坂原 洋人
(72)【発明者】
【氏名】泉 享延
【テーマコード(参考)】
3C707
【Fターム(参考)】
3C707AS01
3C707BS03
3C707CS08
3C707ES03
3C707ET08
3C707HT20
3C707HT22
3C707KS33
3C707KW03
3C707WA16
(57)【要約】
【課題】簡易な構成によって搬送対象物を位置決めできる搬送装置を提供する。
【解決手段】搬送装置100は、搬送対象物5を同時に保持する第1及び第2のハンド部1,2と、第1及び第2のハンド部1,2を3軸方向に移動させる移動部3と、移動部3を制御する制御部8とを備える。第1及び第2のハンド部1,2は、搬送対象物5を保持する第1及び第2の保持部1b,2bと、第1及び第2の保持部1b,2bに掛かる外力をそれぞれ検出する第1及び第2の力センサ1c,2cとをそれぞれ有している。制御部8は、第1及び第2の力センサ1c,2cによって検出された外力を用いて、載置面から浮かない範囲内の上向きの力を加えた状態の搬送対象物5を位置決め箇所に向かって移動させるように移動部3を制御する。このようにして、軸数を抑えた簡易な構成でも搬送対象物5の位置決めを行うことができるようになる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水平面内の第1の方向において離間して配置されており、搬送対象物を同時に保持する第1及び第2のハンド部を備え、
前記第1及び第2のハンド部は、
搬送対象物を保持する第1及び第2の保持部と、
前記第1及び第2の保持部に掛かる外力をそれぞれ検出する第1及び第2の力センサと、をそれぞれ有しており、
前記第1及び第2のハンド部を、前記第1の方向に独立して移動させると共に、水平面内の前記第1の方向に垂直な第2の方向、及び鉛直方向に移動させる移動部と、
前記第1及び第2の力センサによって検出された外力を用いて、載置面から浮かない範囲内の上向きの力を加えた状態の搬送対象物を、位置決め箇所に向かって移動させるように前記移動部を制御する制御部と、をさらに備えた搬送装置。
【請求項2】
前記制御部は、搬送対象物を位置決め箇所に向かって移動させる際に、載置面から浮かない範囲内において搬送対象物に加わる上向きの力を変化させる、請求項1記載の搬送装置。
【請求項3】
前記第1及び第2のハンド部が搬送対象物を保持した状態で、前記第1及び第2のハンド部と搬送対象物との間には遊びが存在する、請求項1記載の搬送装置。
【請求項4】
前記第1及び第2のハンド部が搬送対象物を保持した際に当該第1及び第2のハンド部における搬送対象物に当接する面は低摩擦係数の面である、請求項3記載の搬送装置。
【請求項5】
前記移動部の基端側の端部が固定された台車をさらに備えた、請求項1から請求項4のいずれか記載の搬送装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、搬送対象物を位置決め箇所に向かって移動させる搬送装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、製造現場などにおいて、人間では搬送することが困難な重量の搬送対象物、例えば、溶接の治具やプラズマ電源などを搬送したいという要望がある。そのような搬送対象物を搬送するため、フォークリフトを用いることも考えられるが、フォークリフトで搬送するほど搬送対象物の重量が大きくないこともある。また、搬送対象物がパレットに載置されていない場合には、フォークリフトで搬送することが困難である。
【0003】
そのような搬送対象物をマニピュレータで搬送することも考えられるが、マニピュレータのハンド部が、搬送対象物の重心付近を保持することができない場合には、搬送対象物の搬送時にハンド部に対してモーメントが掛かることになる。そのモーメントに対応するためにはマニピュレータの強度を向上させる必要があり、マニピュレータが大型化するという問題がある。
【0004】
このモーメントの問題は、双腕のマニピュレータを用いて搬送対象物を2箇所で同時に保持することによって解決することができる。そのような双腕ロボットについて、動作範囲や作業性を向上させるための工夫などが行われている(例えば、特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-189364号公報
【特許文献2】特開2022-108837号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、汎用性の高い双腕ロボットは軸数が多いため、マニピュレータ自体が重くなる。そのため、可搬重量を増やすためには、各軸に高出力のモータを使用する必要があり、双腕ロボットが大型化するという問題がある。一方、双腕ロボットを大型化しない場合には、可搬重量が小さくなるという問題がある。
【0007】
また、可搬重量を増やすために軸数を減らすことが考えられるが、軸数を減らした場合には位置決めのための細かい移動制御を行うことが難しくなるという問題もある。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、簡易な構成により、搬送対象物の位置決めを行うことができる搬送装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の一態様による搬送装置は、水平面内の第1の方向において離間して配置されており、搬送対象物を同時に保持する第1及び第2のハンド部を備え、第1及び第2のハンド部は、搬送対象物を保持する第1及び第2の保持部と、第1及び第2の保持部に掛かる外力をそれぞれ検出する第1及び第2の力センサと、をそれぞれ有しており、第1及び第2のハンド部を、第1の方向に独立して移動させると共に、水平面内の第1の方向に垂直な第2の方向、及び鉛直方向に移動させる移動部と、第1及び第2の力センサによって検出された外力を用いて、載置面から浮かない範囲内の上向きの力を加えた状態の搬送対象物を、位置決め箇所に向かって移動させるように移動部を制御する制御部と、をさらに備えたものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様による搬送装置によれば、搬送対象物を載置面上で滑らせながら移動させることができ、例えば、載置面に配置された位置決め部材による位置決めを行うことができるようになる。そのため、簡易な構成により搬送対象物の位置決めを実現することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施の形態による搬送装置の構成を示す斜視図
図2A】同実施の形態におけるハンド部と搬送対象物との一例を示す正面図
図2B】同実施の形態におけるハンド部と搬送対象物との一例を示す正面図
図2C】同実施の形態におけるハンド部と搬送対象物との一例を示す正面図
図3】同実施の形態による搬送装置の機能を示す機能ブロック図
図4】同実施の形態による搬送装置の動作を示すフローチャート
図5】同実施の形態における水平方向の移動制御の一例について説明するための図
図6A】同実施の形態における水平方向の移動制御の一例を示す図
図6B】同実施の形態における水平方向の移動制御の一例を示す図
図6C】同実施の形態における水平方向の移動制御の一例を示す図
図7】同実施の形態における位置決め部材の一例を示す図
図8】同実施の形態における搬送対象物の一例を示す斜視図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明による搬送装置について、実施の形態を用いて説明する。なお、以下の実施の形態において、同じ符号を付した構成要素及びステップは同一または相当するものであり、再度の説明を省略することがある。本実施の形態による搬送装置は、載置面から浮かない範囲内の上向きの力を加えた状態の搬送対象物を、位置決め箇所に向かって移動させるものである。
【0013】
図1は、本実施の形態による搬送装置100を示す斜視図であり、図2Aは、搬送対象物5を保持している状態の第1及び第2のハンド部1,2を示す正面図であり、図3は、搬送装置100の機能を示す機能ブロック図である。
【0014】
搬送装置100は、第1のハンド部1と、第2のハンド部2と、移動部3と、受付部7と、制御部8と、台車40とを備える。移動部3は、一例として、第1の移動部10と、第2の移動部20と、第3の移動部30とを備えてもよい。
【0015】
第1のハンド部1、及び第2のハンド部2は、水平面内の第1の方向において離間して配置されている。また、第1のハンド部1、及び第2のハンド部2は、搬送対象物5を同時に保持するものである。第1及び第2のハンド部1,2によって搬送対象物5を同時に保持することによって、上記したモーメントの問題を解決することができ、移動部3を大型化しなくてもよくなる。第1のハンド部1は、例えば、第1の基部1aと、搬送対象物5を保持する第1の保持部1bと、第1の保持部1bに掛かる外力を検出するための第1の力センサ1cとを有してもよい。第2のハンド部2は、例えば、第2の基部2aと、搬送対象物5を保持する第2の保持部2bと、第2の保持部2bに掛かる外力を検出するための第2の力センサ2cとを有してもよい。第1及び第2の保持部1b,2bはそれぞれ、第1及び第2の基部1a,2aに直接または間接に接続されていてもよい。
【0016】
第1及び第2の力センサ1c,2cは、例えば、3軸または6軸の力覚センサであってもよい。なお、第1及び第2の力センサ1c,2cによって、それぞれ第1及び第2の保持部1b,2bに掛かる重量も取得できるものとする。
【0017】
第1及び第2のハンド部1,2は、移動部3によって、水平面内における第1の方向及び第2の方向、並びに鉛直方向に移動される。なお、第2の方向は、第1の方向に垂直な方向である。すなわち、第1及び第2のハンド部1,2は、直交座標系における3軸の方向にそれぞれ移動されることになる。本実施の形態では、第1の方向、第2の方向、鉛直方向がそれぞれ、図1で示されるy軸方向、x軸方向、z軸方向であるとする。
【0018】
第1及び第2のハンド部1,2が搬送対象物5を保持する方法は問わない。図1図2Aで示されるように、第1及び第2のハンド部1,2は、搬送対象物5を吊り下げて保持してもよい。なお、本実施の形態では、搬送対象物5を吊り下げて保持する第1及び第2の保持部1b,2bの断面がJ字形状である場合について主に説明するが、後述するように、第1及び第2の保持部1b,2bの断面は他の形状であってもよい。また、後述するように、第1及び第2のハンド部1,2は、電磁石によって搬送対象物5を保持してもよく、真空吸着機構によって搬送対象物5を保持してもよく、その他の方法によって搬送対象物5を保持してもよい。
【0019】
搬送対象物5は特に限定されないが、例えば、プラズマ電源や溶接の治具などのように、製造現場で用いられるものであってもよい。搬送対象物5の重量は特に限定されないが、人間による搬送が困難な重量、例えば、30kg以上であってもよく、50kg以上であってもよい。また、搬送対象物5の重量は、フォークリフトなどの大型の運搬車両を用いる必要のない程度の重量、例えば、200kg以下であってもよく、150kg以下であってもよく、100kg以下であってもよい。
【0020】
図1等では、一例として、搬送対象物5が板状の部材である場合について示しているが、搬送対象物5は、立体的な物体であってもよく、板状の部材に別の装置などが載置されたものであってもよい。後者の場合には、例えば、板状の部材と、その板状の部材に載置されている装置などの載置物とが搬送対象物5であってもよい。また、搬送対象物5が第1及び第2のハンド部1,2によって吊り下げられる場合には、図1等に示されるように、搬送対象物5に取っ手などの2個の被保持部5aが設けられていてもよい。そして、被保持部5aが第1及び第2の保持部1b,2bによって吊り下げれられることによって、搬送対象物5が第1及び第2のハンド部1,2によって保持されてもよい。
【0021】
また、例えば、第1及び第2のハンド部1,2が搬送対象物5を保持した状態で、第1及び第2のハンド部1,2と搬送対象物5との間には遊びが存在してもよい。すなわち、第1及び第2のハンド部1,2が搬送対象物5を保持した状態で、第1及び第2のハンド部1,2と搬送対象物5との相対的な位置関係が固定されておらず、変化可能になっていてもよい。
【0022】
また、例えば、第1及び第2のハンド部1,2が搬送対象物5を保持した際に第1及び第2のハンド部1,2における搬送対象物5に当接する面が低摩擦係数の面となっていてもよい。低摩擦係数の面とは、例えば、フッ素樹脂や、モノマーキャストナイロンなどの低摩擦係数の素材で構成されたり、そのような素材でコーティングされたりした面であってもよい。フッ素樹脂は特に限定されないが、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、FEP(パーフルオロエチレンプロペンコポリマー)、PFA(パーフルオロアルコキシアルカン)などであってもよい。また、モノマーキャストナイロンは、特に摺動グレードのものが好適であり、例えば、摺動グレードのMCナイロン(登録商標)であってもよい。
【0023】
このように、第1及び第2のハンド部1,2が搬送対象物5を保持した状態で、両者の間に遊びが存在したり、第1及び第2のハンド部1,2における搬送対象物5に当接する面が低摩擦係数の面であったりすることによって、搬送対象物5の位置決めを行う際に搬送対象物5が第1及び第2のハンド部1,2に対してより容易に動くことができるようになり、その結果、第1及び第2のハンド部1,2が位置決めのための細かい動きを行うことができなかったとしても、適切に位置決めを行うことができるようになる。
【0024】
移動部3は、第1及び第2のハンド部1,2を、第1の方向に独立して移動させると共に、水平面内の第1の方向に垂直な第2の方向、及び鉛直方向に移動させる。なお、本実施の形態では、移動部3が、第1から第3の移動部10,20,30を有する場合について主に説明する。また、本実施の形態では、第2の方向及び鉛直方向については、移動部3が第1及び第2のハンド部1,2を一緒に移動させる場合について主に説明するが、そうでなくてもよい。移動部3は、第2の方向及び鉛直方向の少なくとも一方についても、第1及び第2のハンド部1,2をそれぞれ独立して移動させてもよい。
【0025】
第1の移動部10は、第1及び第2のハンド部1,2を支持しており、その第1及び第2のハンド部1,2をそれぞれ第1の方向に移動させる。第1の移動部10は、例えば、第1及び第2のハンド部1,2を第1の方向にそれぞれ独立して移動できることが好適である。第1の移動部10によって、第1及び第2のハンド部1,2を移動することによって、例えば、第1及び第2のハンド部1,2による搬送対象物5の保持を行ったり、その保持を解除したりすることができる。また、第1の移動部10によって、第1及び第2のハンド部1,2を同時に同じ向きに移動させることによって、例えば、第1及び第2のハンド部1,2によって保持されている搬送対象物5を第1の方向に移動させることもできる。
【0026】
第1の移動部10は、一例として、第1及び第2のハンド部1,2を支持する第1の支持部11と、第1の支持部11に対して第1及び第2のハンド部1,2をそれぞれ第1の方向に独立して移動させる第1及び第2のリニアアクチュエータとを有していてもよい。より具体的には、第1の方向に延びる第1の支持部11の底面に第1の方向に沿ったガイドが設けられており、そのガイドにスライダが第1の方向にスライド可能に組み付けられていてもよい。そして、第1及び第2のハンド部1,2の第1及び第2の基部1a,2aがそれぞれ異なるスライダに固定されていてもよい。
【0027】
第2の移動部20は、第1の移動部10を支持しており、その第1の移動部10を第2の方向に移動させる。したがって、第2の移動部20によって、第1及び第2のハンド部1,2が一緒に第2の方向に移動されることになる。第2の移動部20は、一例として、第1の移動部10の第1の支持部11を支持する第2の支持部21と、第2の支持部21に対して第1の支持部11を第2の方向に移動させるリニアアクチュエータとを有していてもよい。より具体的には、第2の方向に延びる第2の支持部21の底面に第2の方向に沿ったガイドが設けられており、そのガイドにスライダが第2の方向にスライド可能に組み付けられていてもよい。そして、第1の支持部11の上面がそのスライダに固定されていてもよい。
【0028】
第3の移動部30は、第2の移動部20を支持しており、その第2の移動部20を鉛直方向に移動させる。したがって、第3の移動部30によって、第1及び第2のハンド部1,2が一緒に鉛直方向に移動されることになる。第3の移動部30は、一例として、第1の方向に離間して配置された一対の支柱31,32と、支柱31,32の上端側を繋ぐ上面板33と、一対の支柱31,32によって端部が支持されており、第2の移動部20の第2の支持部21を支持する昇降部34と、昇降部34を一対の支柱31,32に対して鉛直方向に同期して移動させる一対のリニアアクチュエータとを有していてもよい。より具体的には、鉛直方向に延びる支柱31,32の昇降部34側の面にそれぞれ鉛直方向に沿ったガイドが設けられており、そのガイドにスライダが鉛直方向にスライド可能に組み付けられていてもよい。そして、昇降部34の第1の方向の両端がそれぞれスライダに固定されていてもよい。
【0029】
第1から第3の移動部10,20,30において、例えば、スライダは、平行に設けられた2以上のガイドに組み付けられていてもよい。また、第1から第3の移動部10,20,30が有するリニアアクチュエータはそれぞれ独立して、例えば、ラックアンドピニオン機構と、ピニオンを回転させる駆動手段とを有するものであってもよく、ボールねじ機構と、ボールねじ機構のねじ軸を回転させる駆動手段とを有するものであってもよく、一対のプーリと、その一対のプーリに掛け渡された無端のベルトと、プーリを回転させる駆動手段とを有するものであってもよく、そのプーリ及びベルトに代えてスプロケット及びチェーンを用いたものであってもよく、その他の構成であってもよい。なお、ガイドやスライダ、リニアアクチュエータなどを用いて支持対象を直線方向に移動させる機構はすでに公知であり、その詳細な説明を省略する。図1では、ガイドやスライダ、リニアアクチュエータの図示は省略している。
【0030】
受付部7は、ユーザから操作や指示を受け付けてもよい。受付部7は、例えば、移動部3に関する操作や指示を受け付けてもよく、台車40に関する操作や指示を受け付けてもよい。ここで、この受け付けは、例えば、入力デバイス(例えば、キーボードやマウス、タッチパネルなど)から入力された情報の受け付けでもよく、有線または無線の通信回線を介して送信された情報の受信でもよい。なお、受付部7は、受け付けを行うためのデバイス(例えば、入力デバイス、通信デバイスなど)を含んでもよく、あるいは含まなくてもよい。また、受付部7は、ハードウェアによって実現されてもよく、あるいは所定のデバイスを駆動するドライバ等のソフトウェアによって実現されてもよい。
【0031】
制御部8は、移動部3を制御する。この制御部8による制御によって、例えば、搬送対象物5が第1及び第2のハンド部1,2によって保持されたり、またその保持が解除されたりすることになる。また、この制御によって、例えば、搬送対象物5の積み下ろしなどが行われることになる。また、この制御によって、例えば、搬送対象物5の位置決めなどの局所的な搬送が行われることになる。これらの制御は、例えば、受付部7によって受け付けられた操作に応じて行われてもよく、または、制御部8によって自律的に行われてもよい。また、例えば、台車40が駆動手段を有している場合には、制御部8は、台車40の移動制御をも行ってもよい。台車40の移動制御は、例えば、受付部7によって受け付けられた操作に応じた移動方向や移動速度に関する移動制御であってもよく、あらかじめ決められた出発地から目的地までの自律的な移動制御であってもよい。なお、制御部8による具体的な制御については後述する。
【0032】
台車40には、移動部3の基端側の端部が固定されている。なお、移動部3の基端側の端部は、例えば、第3の移動部30の基端側、すなわち下方側の端部であってもよい。台車40は、一例として、第3の移動部30の基端側が固定された基台41と、基台41に固定されており、床面などの走行面を走行可能な複数の走行手段42とを有してもよい。基台41は、一例として、板状の部材であってもよい。走行手段42は、通常、車輪であるが、車輪以外のローラ、無限軌道、ボールを有するボールキャスタなどであってもよい。また、台車40は、走行手段42を駆動するための駆動手段を有していてもよく、または、そうでなくてもよい。後者の場合には、台車40は、手動で移動されてもよい。また、手動で移動される台車40は、移動部3による搬送対象物5の局所的な搬送を行う際に台車40が動かないように走行手段42を固定するための固定手段を有していてもよい。固定手段は、例えば、車輪のストッパなどであってもよい。本実施の形態では、台車40が駆動手段を有しておらず、手動で移動される場合について主に説明する。移動部3によって搬送対象物5が局所的に搬送されるのに対して、台車40によって搬送対象物5がより大域的に搬送されることになる。
【0033】
ここで、制御部8による移動部3の制御について説明する。制御部8による移動部3の制御は、上記したように、自律的なものであってもよく、または、受付部7によって受け付けられた操作に応じたものであってもよいが、制御部8は、少なくとも第1及び第2のハンド部1,2によって保持されている搬送対象物5の位置決めの制御を自律的に行うものとする。その位置決めの制御において、制御部8は、第1及び第2の力センサ1c,2cによって検出された外力を用いて、載置面から浮かない範囲内の上向きの力を加えた状態の搬送対象物5を、位置決め箇所に向かって移動させるように移動部3を制御してもよい。
【0034】
載置面から浮かない範囲内の上向きの力を加えた状態で搬送対象物5が保持されるようにするため、制御部8は、次のように制御を行ってもよい。まず、制御部8は、第1及び第2のハンド部1,2で保持している搬送対象物5が載置面から浮くように移動部3を制御する。その後、搬送対象物5の重量が第1及び第2のハンド部1,2のみによって支えられている状態において、制御部8は、第1及び第2の力センサ1c,2cによって検出された外力を用いて、搬送対象物5の重量を取得して図示しない記録媒体に記録する。この重量は、例えば、第1及び第2の力センサ1c,2cによってそれぞれ検出された重量の合計値であってもよく、また、第1及び第2の力センサ1c,2cによってそれぞれ検出された重量の代表値であってもよい。代表値は、例えば、平均値や、最大値、最小値などであってもよい。
【0035】
その後、制御部8は、移動部3を制御して搬送対象物5を降下させ、載置面から浮かない範囲内の上向きの力を加えた状態で搬送対象物5が保持されるようにする。より具体的には、制御部8は、第1及び第2の力センサ1c,2cによって検出された外力を用いて取得された重量が、記録された重量より小さくなるように移動部3を制御する。なお、この第1及び第2の力センサ1c,2cによって検出された外力を用いて取得された重量は、記録された重量と同じ種類であることが好適である。例えば、両者は、第1及び第2の力センサ1c,2cによってそれぞれ検出された重量の合計値であってもよく、第1及び第2の力センサ1c,2cによってそれぞれ検出された重量の平均値であってもよい。載置面から浮かない範囲内の上向きの力を加えた状態で搬送対象物5が保持されるようにする際に、制御部8は、第1及び第2の力センサ1c,2cによって検出された外力を用いて取得された重量が、記録された重量に1/2や1/3などの1より小さい正の実数を乗算した値、一例として、記録された重量の10%~90%の範囲内の値となるようにしてもよい。このように、載置面から浮かない範囲内の上向きの力を加えた状態で搬送対象物5が保持される場合には、搬送対象物5の重量は、第1及び第2のハンド部1,2と、搬送対象物5が載置されている載置面との両方によって分散して支えられていることになる。そのため、搬送対象物5の底面と載置面との間の摩擦が小さくなり、搬送対象物5をより小さい力によって載置面上を滑らしながら移動させることができるようになる。また、搬送対象物5の重量が大きい場合であっても、搬送対象物5を載置面上でより容易に移動させることができるようになる。
【0036】
なお、載置面から浮かない範囲内の上向きの力を加えた状態で搬送対象物5を保持する際には、通常、移動部3によって搬送対象物5の鉛直方向の高さを一定に保てばよいが、例えば、傾斜面において搬送対象物5の位置決めを行うような場合には、搬送対象物5の鉛直方向の高さを一定に保っていると、その傾斜面に沿った搬送対象物5の移動に応じて搬送対象物5が載置面から浮いたり、搬送対象物5に上向きの力が加わらなくなったりする可能性がある。そのため、位置決めのための搬送対象物5の水平方向の移動時に搬送対象物5の鉛直方向の高さが変化する可能性がある場合には、制御部8は、載置面から浮かない範囲内において搬送対象物5に加えられる上向きの力が一定になるように制御してもよい。すなわち、制御部8は、位置決めのための搬送対象物5の移動時に、第1及び第2の力センサ1c,2cによって検出された外力を用いて取得された重量が一定となるように移動部3を制御することによって、搬送対象物5の鉛直方向の高さを変化させてもよい。
【0037】
また、載置面から浮かない範囲内の上向きの力を加えた状態の搬送対象物5を位置決め箇所に向かって移動させるため、制御部8は、次のように制御を行ってもよい。位置決め箇所には、例えば、図5で示されるように、搬送対象物5の位置決めのための位置決め部材9が配置されていてもよい。この位置決め部材9の個数は、例えば、図5で示されるように2個であってもよく、1個または3個以上であってもよい。位置決め部材9は、例えば、搬送対象物5の特定の箇所(図5においては、平面視で矩形状の搬送対象物5における隣接した頂点部分)に係合することによって搬送対象物5の位置決めを行うものであってもよい。位置決め部材9は、例えば、搬送対象物5の載置面に固定されていてもよい。位置決め部材9は、搬送対象物5の位置決めを行うことができる程度の高さを有していることが好適である。その高さは特に限定されないが、例えば、2cm以上であってもよく、5cm以上であってもよく、10cm以上であってもよい。
【0038】
図5で示される場合には、制御部8は、例えば、位置決め制御の開始位置に載置された、載置面から浮かない範囲内の上向きの力を加えた状態の搬送対象物5を、まず、矢印Aの向きに移動させる。矢印Aの向きは、x軸の正の向きである。なお、制御部8は、その移動中に第1及び第2の力センサ1c,2cによってそれぞれ取得された水平方向の外力を参照し、第1の力センサ1cのみによって矢印B1の向きの力、すなわちx軸の負の向きの力が検出された場合には、搬送対象物5が図5の右側の位置決め部材9のみに当接したと考えられ、搬送対象物5を左方向に移動させる必要があるため、搬送対象物5を矢印A1の向きに移動させるように移動部3を制御し、第2の力センサ2cのみによって矢印B2の方向の力、すなわちx軸の負の向きの力が検出された場合には、搬送対象物5が図5の左側の位置決め部材9のみに当接したと考えられ、搬送対象物5を右方向に移動させる必要があるため、搬送対象物5を矢印A2の向きに移動させるように移動部3を制御してもよい。
【0039】
なお、第1の力センサ1cのみによって矢印B1の向きの力が検出されたとは、例えば、第1及び第2の力センサ1c,2cによって検出されたy軸方向の力の絶対値がそれぞれ第1の閾値より小さく、第1の力センサ1cによって検出されたx軸の負の向きの力から、第2の力センサ2cによって検出されたx軸の負の向きの力を減算した結果が、正の実数である第2の閾値より大きい場合であってもよい。また、第2の力センサ2cのみによって矢印B2の向きの力が検出されたとは、例えば、第1及び第2の力センサ1c,2cによって検出されたy軸方向の力の絶対値がそれぞれ第1の閾値より小さく、第2の力センサ2cによって検出されたx軸の負の向きの力から、第1の力センサ1cによって検出されたx軸の負の向きの力を減算した結果が、正の実数である第2の閾値より大きい場合であってもよい。
【0040】
また、制御部8は、搬送対象物5を矢印A1の向きに移動させるように移動部3を制御している際に、矢印B1の向きの力が第1の力センサ1cによって検出されなくなった場合には、再度、搬送対象物5を矢印Aの向きに移動させるように移動部3を制御してもよい。同様に、制御部8は、搬送対象物5を矢印A2の向きに移動させるように移動部3を制御している際に、矢印B2の向きの力が第2の力センサ2cによって検出されなくなった場合には、再度、搬送対象物5を矢印Aの向きに移動させるように移動部3を制御してもよい。
【0041】
また、制御部8は、搬送対象物5を矢印Aの向きに移動させるように移動部3を制御している際に、第1及び第2の力センサ1c,2cの両方によってそれぞれ矢印B1,B2の向きの力が検出された場合には、搬送対象物5が位置決め位置に到達したと考えられるため、搬送対象物5の移動を終了してもよい。なお、第1及び第2の力センサ1c,2cの両方によってそれぞれ矢印B1,B2の向きの力が検出されたとは、例えば、第1及び第2の力センサ1c,2cによって検出されたx軸方向の力の差の絶対値が第2の閾値より小さく、また、第1及び第2の力センサ1c,2cによって検出されたx軸方向の力の和の絶対値が第3の閾値より大きい場合であってもよい。
【0042】
なお、制御部8は、載置面から浮かない範囲内の上向きの力を加えた状態の搬送対象物5を位置決め箇所に向かって移動させるための制御として、上記した以外の制御を行ってもよい。例えば、制御部8は、搬送対象物5を位置決めの開始位置から位置決め箇所に向かって水平方向に移動させる場合に、その移動方向のベクトル(例えば、図5における矢印Aの向きのベクトル)と、第1及び第2の力センサ1c,2cによって検出された水平方向の外力のベクトルとを合成し、その合成結果のベクトルの方向に搬送対象物5を移動させるようにしてもよい。第1及び第2の力センサ1c,2cによって検出された水平方向の外力のベクトルは、例えば、第1及び第2の力センサ1c,2cによってそれぞれ検出された水平方向の外力に相当する2個のベクトルの合成結果であってもよい。この場合には、例えば、第1及び第2の力センサ1c,2cによって検出された水平方向の外力のベクトルが、位置決め開始位置から位置決め箇所に向かう移動方向のベクトルと逆向きになると共に、そのベクトルの大きさが所定の閾値より大きくなった際に、水平方向の移動が終了されてもよい。
【0043】
なお、制御部8は、第1及び第2の力センサ1c,2cによって検出された外力を移動平均フィルタに掛けた値を、第1及び第2の力センサ1c,2cによって検出された外力として用いてもよい。また、上記した各閾値は、目的とする位置決めを行うことができるように適宜、設定されることが好適である。
【0044】
また、搬送対象物5を矢印Aの向きに移動させる際には、制御部8は、一例として、第2の移動部20が有するリニアアクチュエータの駆動手段を動作させることによって、第1の移動部10を矢印Aの向きに移動させてもよい。また、搬送対象物5を矢印A1または矢印A2の向きに移動させる際には、制御部8は、一例として、第1の移動部10が有する第1及び第2のリニアアクチュエータの駆動手段を同期して動作させることによって、第1及び第2のハンド部1,2の両方を第1の方向に同期して移動させると共に、第2の移動部20が有するリニアアクチュエータの駆動手段を動作させることによって、第1の移動部10を第2の方向に移動させてもよい。また、第1及び第2のハンド部1,2によって保持されている搬送対象物5を昇降させる際には、制御部8は、一例として、第3の移動部30が有する一対のリニアアクチュエータの駆動手段を同期して動作させることによって、昇降部34を鉛直方向に昇降させてもよい。
【0045】
次に、搬送装置100による搬送対象物5の位置決めの動作について図4のフローチャートを用いて説明する。
(ステップS101)制御部8は、移動部3を制御することによって、第1及び第2のハンド部1,2で保持されている搬送対象物5が載置面から浮いた状態となるまで第1及び第2のハンド部1,2を上昇させる。
【0046】
(ステップS102)制御部8は、第1及び第2の力センサ1c,2cによって検出された搬送対象物5の重量を取得して記録する。
【0047】
(ステップS103)制御部8は、移動部3を制御することによって、第1及び第2のハンド部1,2で保持されている搬送対象物5が、載置面から浮かない範囲内の上向きの力を加えた状態となるように、第1及び第2のハンド部1,2を下降させる。なお、第1及び第2のハンド部1,2を下降させた時点において、搬送対象物5が、位置決めの制御を開始する位置となっていることが好適である。
【0048】
(ステップS104)制御部8は、第1及び第2の力センサ1c,2cによって検出された水平方向の外力を用いて移動部3を制御することによって、載置面から浮かない範囲内の上向きの力を加えた状態となっている搬送対象物5を水平方向に移動させる。なお、このステップS104の処理が繰り返されることによって、搬送対象物5は、位置決め制御の開始位置から、位置決めされた位置まで水平方向に移動されることになる。
【0049】
(ステップS105)制御部8は、位置決めの制御が完了したかどうか判断する。そして、位置決めの制御が完了した場合には、ステップS106に進み、そうでない場合には、ステップS104に戻る。
【0050】
(ステップS106)制御部8は、搬送対象物5に加えている上向きの力を解除する。その結果、搬送対象物5の重量が載置面のみで支えられるようになる。そして、搬送対象物5を位置決めするための一連の処理が終了される。
【0051】
なお、位置決めの動作の開始時点において第1及び第2のハンド部1,2によって搬送対象物5が載置面から浮いた状態で保持されている場合には、ステップS101の処理が行われなくてもよい。また、図4のフローチャートには含まれていないが、搬送対象物5を第1及び第2のハンド部1,2によって保持する処理や、その保持を解除する処理などの位置決め以外の処理が制御部8によって行われてもよい。その処理は、例えば、受付部7によって受け付けられた操作に応じて行われてもよい。
【0052】
次に、本実施の形態による搬送装置100の動作について、具体例を用いて説明する。本具体例では、搬送対象物5を第1の位置から第2の位置に搬送し、第2の位置において位置決めを行う場合について説明する。なお、第2の位置において、図5で示される2個の位置決め部材9が載置面に配置されているものとする。
【0053】
まず、ユーザは、第1の位置に存在する搬送対象物5の近傍まで搬送装置100を手動で移動させる。そして、搬送装置100を搬送対象物5の近傍に移動させた後に、ユーザは、台車40の走行手段42を固定して動かないようにする。
【0054】
その後、ユーザは、第1の位置に載置されている搬送対象物5をピックアップして、平面視で搬送対象物5が台車40の中央付近に位置するように移動させるための操作を入力する。その操作は、受付部7によって受け付けられて制御部8に渡される。そして、制御部8は、その操作に応じて移動部3を制御して、第1及び第2のハンド部1,2によって保持された搬送対象物5を持ち上げて、平面視で搬送対象物5が台車40の中央付近に位置するように移動させる。
【0055】
次に、ユーザは、走行手段42の固定を解除し、第2の位置の近傍まで搬送装置100を手動で移動させる。その後、ユーザは、台車40の走行手段42を固定して動かないようにする。そして、ユーザは、搬送対象物5を第2の位置における位置決めの開始位置に下降させるための操作を入力する。その操作は、受付部7によって受け付けられて制御部8に渡される。そして、制御部8は、その操作に応じて移動部3を制御して、搬送対象物5を位置決めの開始位置に載置させる。
【0056】
その後、ユーザが位置決めを行う旨の指示を入力すると、その指示は受付部7によって受け付けられて制御部8に渡される。そして、制御部8は、位置決めの制御を開始する。具体的には、制御部8はまず、第3の移動部30を制御して、第1及び第2のハンド部1,2を上昇させ、搬送対象物5が載置面から浮くようにする(ステップS101)。また、制御部8は、その時点において、第1及び第2の力センサ1c,2cによって検出された外力を用いて、搬送対象物5の重量を取得して記録する(ステップS102)。この重量は、第1及び第2の力センサ1c,2cによってそれぞれ検出された重量の合計値であるとする。
【0057】
次に、制御部8は、第3の移動部30を制御して、第1及び第2のハンド部1,2を下降させ、搬送対象物5が載置面から浮かない範囲内の上向きの力を加えた状態となるようにする(ステップS103)。具体的には、制御部8は、第1及び第2の力センサ1c,2cによって検出された重量の合計値が、記録された重量の1/2や1/3となるまで第3の移動部30によって第1及び第2のハンド部1,2を下降させてもよい。
【0058】
次に、制御部8は、移動部30を制御して、載置面から浮かない範囲内の上向きの力を加えた状態で搬送対象物5を図5の矢印Aの向きに移動させる(ステップS104)。この処理が継続されることによって、搬送対象物5は、載置面上を滑りながら2個の位置決め部材9に近づいていくことになる(ステップS104,S105)。
【0059】
その後、図6Aで示されるように、搬送対象物5の右上の頂点が位置決め部材9に当接したとする。なお、図6Aでは、被保持部5aや第1及び第2のハンド部1,2の図示を省略しているが、図5と同様に、搬送対象物5の右側及び左側がそれぞれ第1及び第2のハンド部1,2によって保持されているものとする。図6B図6Cにおいても同様であるとする。
【0060】
搬送対象物5の右上の頂点が位置決め部材9に当接すると、第1の力センサ1cのみによって矢印B1の向きの力が検出されることになる。そのため、制御部8は、搬送対象物5を矢印A1の向きに移動させるように移動部3を制御する(ステップS104)。この処理が継続されることによって、図6Bで示されるように、搬送対象物5の右上の頂点が位置決め部材9に当接しなくなったとする。すると、矢印B1の向きの力が第1の力センサ1cによって検出されなくなるため、制御部8は、搬送対象物5を矢印Aの向きに移動させるように移動部3を制御する(ステップS104)。
【0061】
その後、図6Cで示されるように、搬送対象物5が位置決め位置に到達すると、第1及び第2の力センサ1c,2cの両方によってそれぞれ矢印B1,B2の向きの力が検出されることになる。すると、制御部8は、搬送対象物5の位置決めが完了したと判断して、搬送対象物5に加えている上向きの力を解除する(ステップS105,S106)。このようにして、搬送対象物5を位置決めするための一連の処理が終了される。なお、この後、制御部8は、第1及び第2の保持部1b,2bによる被保持部5aの保持を解除するための制御を行ってもよい。具体的には、制御部8は、第3の移動部30を制御して第1及び第2のハンド部1,2を下降させると共に、第1の移動部10を制御して第1及び第2のハンド部1,2がそれぞれ被保持部5aから離れるように第1の方向に移動させてもよい。
【0062】
なお、この具体例では、位置決め以外の制御が、ユーザから受け付けられた操作に応じて行われる場合について説明したが、そうでなくてもよい。搬送装置100は、例えば、搬送対象物5の積み下ろしなども自律的に行ってもよく、さらに、台車40による移動も自律的に行ってもよい。
【0063】
また、図5図6A等で用いられる位置決め部材9は一例であり、他の位置決め部材が用いられてもよい。例えば、図7の平面図で示されるように、三角形状の位置決め部材9が載置面に配置されており、搬送対象物5に設けられた切り欠き51が、位置決め部材9に係合するように搬送対象物5が移動されることによって、位置決めが行われてもよい。このように、結果として位置決めを行うことができるのであれば、種々の位置決め部材を用いることができる。また、図7で示されるように、位置決め部材9に係合する切り欠きなどの形状が搬送対象物5に設けられていてもよく、または、図5で示されるように、搬送対象物5の頂点などが位置決め部材9に係合するようになっていてもよい。
【0064】
以上のように、本実施の形態による搬送装置100によれば、第1及び第2の力センサ1c,2cによって検出された外力を用いて、載置面から浮かない範囲内の上向きの力を加えた状態の搬送対象物5を位置決め箇所に向かって移動させることによって、搬送対象物5を載置面上で滑らせながら移動させることができ、載置面に配置された位置決め部材9を用いた位置決めを行うことができるようになる。例えば、溶接の治具などの搬送対象物5については、高い精度で配置する必要があるが、本実施の形態による搬送装置100によって、高精度の位置決めを実現することができるようになる。また、位置決め部材9を用いた位置決めを行うことによって、移動部3によって高精度な移動制御を行うことができない場合、例えば、移動部3の軸数が少ない場合であっても、高精度な位置決めを実現することができる。したがって、移動部3の構成を簡易なものとすることもできる。また、移動部3が台車40上に設けられている場合には、台車40による移動制御は通常、それほど精度が高くないため、仮に移動部3が高精度の移動を実現できたとしても、移動先における台車40の位置誤差が存在する結果として、精度の高い移動制御を実現できないこともあり得る。一方、本実施の形態による搬送装置100のように、位置決め部材9を用いた位置決めを行う場合には、移動先における台車40の位置の誤差が存在したとしても、目的とする位置決めを実現することができるようになる。
【0065】
また、第1及び第2のハンド部1,2が搬送対象物5を保持した状態で、第1及び第2のハンド部1,2と搬送対象物5との間には遊びが存在することによって、移動部3による搬送対象物5の移動が高精度でなかったとしても、その遊びの範囲内において搬送対象物5が位置決め部材9に沿うことができるため、適切な位置決めを行うことができるようになる。また、第1及び第2のハンド部1,2が搬送対象物5を保持した際に第1及び第2のハンド部1,2における搬送対象物5に当接する面が低摩擦係数の面であることによって、遊びの範囲内における搬送対象物5の位置の変化が容易になり、結果として、搬送対象物5の位置決めをより適切に行うことができるようになる。
【0066】
また、移動部3が台車40上に乗っている場合には、移動部3による搬送対象物5の局所的な位置決めのみでなく、搬送対象物5の大域的な移動も実現することができるようになる。
【0067】
なお、本実施の形態では、移動部3が搬送対象物5を載置面上で滑らせながら移動させる際に、搬送対象物5に加える上向きの力が一定である場合について主に説明したが、そうでなくてもよい。制御部8は、搬送対象物5を位置決め箇所に向かって移動させる際に、載置面から浮かない範囲内において搬送対象物5に加わる上向きの力を変化させてもよい。この場合には、例えば、制御部8は、搬送対象物5が載置面から浮かない範囲内において、上向きの力の増加と減少とを繰り返すようにしてもよい。より具体的には、制御部8は、第1及び第2の力センサ1c,2cによって検出された外力を用いて取得された重量が、記録された重量の20%~80%の範囲内において増加と減少とを繰り返すように移動部3、例えば、第3の移動部30を制御してもよい。このようにすることで、載置面の摩擦の大きさに関わらず、搬送対象物5を滑らせながら移動することができるようになる。また、例えば、制御部8は、搬送対象物5を載置面上で水平方向に移動させるために必要とされる力が大きい場合に、より小さい力で搬送対象物5を移動させることができるようにするため、搬送対象物5が載置面から浮かない範囲内において上向きの力を増加させてもよい。すなわち、制御部8は、例えば、あらかじめ決められた力で搬送対象物5を載置面上で水平方向に移動させることができるようにするため、搬送対象物5が載置面から浮かない範囲内において上向きの力を適応的に増加させてもよい。そのあらかじめ決められた力は、通常、小さな力である。
【0068】
また、制御部8は、載置面から浮かない範囲内の上向きの力を加えた状態の搬送対象物5を位置決め箇所に向かって移動させるための制御として、上記した以外の制御を行ってもよい。制御部8は、例えば、位置決めの開始位置から位置決め位置に向かって搬送対象物5を移動させる際に、進行方向と直交する方向に搬送対象物5の位置をランダムに変化させるようにしてもよい。その変化の程度は、位置決めの開始位置から位置決め位置に向かって搬送対象物5を移動させる際に、搬送対象物5と位置決め部材との間に生じ得るずれの程度であってもよい。このような制御におけるランダムな位置の変化によって、搬送対象物5を位置決め部材に係合する位置に誘導することができ、最終的に位置決め部材を用いた位置決めを実現することができるようになる。なお、位置決めを完了する際の処理は、上記したとおりであってもよい。
【0069】
また、上記したように、搬送対象物5を吊り下げて保持する第1及び第2の保持部1b,2bの断面は、J字形状以外であってもよい。第1及び第2のハンド部1,2は、例えば、図2Bで示されるように、断面がL字形状の第1及び第2の保持部1b,2bによって、搬送対象物5を吊り下げて保持してもよい。
【0070】
また、第1及び第2のハンド部1,2は、電磁石によって搬送対象物5を保持してもよい。この場合には、例えば、図2Cで示されるように、電磁石である第1及び第2の保持部1b,2bによって、搬送対象物5の上面を保持してもよい。なお、電磁石である第1及び第2の保持部1b,2bによって保持される搬送対象物5は、通常、鉄などの強磁性体によって構成されていることが好適である。また、搬送対象物5が強磁性体以外の材料によって構成されている場合には、例えば、強磁性体の被保持部を搬送対象物5に設けてもよい。また、電磁石である第1及び第2の保持部1b,2bが当接する搬送対象物5の面は、平坦であることが好適である。第1及び第2の保持部1b,2bが電磁石である場合には、搬送対象物5を保持する際には電磁石に通電し、その保持を解除する際には電磁石への通電を停止してもよい。第1及び第2のハンド部1,2が電磁石によって搬送対象物5を保持する場合にも、その保持を解除する際に搬送対象物5の位置がずれないようにすることができ、精度の高い位置決めが可能となる。また、搬送対象物5が強磁性体によって構成されている場合には、搬送対象物5側に被保持部を設ける必要もない。
【0071】
なお、第1及び第2のハンド部1,2が搬送対象物5を保持した状態で、第1及び第2のハンド部1,2と搬送対象物5との間に遊びが存在している場合であっても、搬送対象物5が第1及び第2のハンド部1,2から落下しないようになっていることが好適である。そのため、例えば、図2Cで示されるように電磁石である第1及び第2の保持部1b,2bによって搬送対象物5を保持する場合には、図8で示されるように、搬送対象物5の上面に設けられた凹部5bの位置において、電磁石である第1及び第2の保持部1b,2bによって搬送対象物5を保持してもよい。凹部5bは、搬送対象物5の上面から下方側に陥没した領域である。また、凹部5bの底面は平坦であることが好適である。なお、平面視における凹部5bの領域は、第1及び第2の保持部1b,2bの搬送対象物5への接触面よりも大きいものとする。このようにすることで、電磁石である第1及び第2の保持部1b,2bが保持する位置が変化したとしても、第1及び第2の保持部1b,2bの当接面は凹部5bの領域内に存在することになり、第1及び第2の保持部1b,2bが搬送対象物5から外れることを防止することができる。
【0072】
また、本実施の形態において、制御部8は、移動部3を制御して第1及び第2のハンド部1,2を上方に移動させる際に、第1及び第2のハンド部1,2が有する第1及び第2の力センサ1c,2cによって取得された重量が一致している場合に、第1及び第2のハンド部1,2の上方への移動を実行させ、そうでない場合に、第1及び第2のハンド部1,2の上方への移動を実行させなくてもよい。このようにすることで、例えば、第1及び第2のハンド部1,2のうち、一方のみによって搬送対象物5が保持されている状態で第1及び第2のハンド部1,2を上方に移動させる事態を回避することができる。なお、第1及び第2の力センサ1c,2cによって取得された重量が一致しているとは、例えば、両者が厳密に一致していることであってもよく、誤差の範囲内において両者が一致していることであってもよい。その誤差は、例えば、測定誤差であってもよく、搬送対象物5の重心の偏りに応じた誤差であってもよい。
【0073】
また、本実施の形態では、移動部3が、第1から第3の移動部10,20,30を有する場合について主に説明したが、結果として、第1及び第2のハンド部1,2を、第1の方向に独立して移動させることができると共に、第1及び第2のハンド部1,2を、第2の方向及び鉛直方向に独立して、または一括して移動させることができるのであれば、移動部3は他の構成であってもよい。移動部3は、例えば、第1のハンド部1を鉛直方向に移動させるための第1の移動部と、第2のハンド部2を鉛直方向に移動させるための第2の移動部と、第1の移動部を第1の方向に移動させるための第3の移動部と、第2の移動部を第1の方向に移動させるための第4の移動部と、第3及び第4の移動部を第2の方向に移動させるための第5の移動部とを有していてもよい。また、移動部3は、例えば、第1のハンド部1を第1及び第2の方向、並びに鉛直方向に移動させるための第1の移動部と、第2のハンド部2を第1及び第2の方向、並びに鉛直方向に移動させるための第2の移動部とを有していてもよい。この場合には、第1及び第2の移動部の基端側は、1個の台車40に固定されていてもよく、または、別々の台車に固定されていてもよい。
【0074】
また、本実施の形態において、第1及び第2の保持部1b,2bの少なくとも一部は、例えば、弾性部材によって構成されてもよい。この場合には、第1及び第2の保持部1b,2b自体が弾性変形することにより、第1及び第2の保持部1b,2bによって保持されている搬送対象物5の位置が、その弾性変形の範囲内において変化することができるようになり、第1及び第2のハンド部1,2と搬送対象物5との間に遊びが存在する場合と同様の状況にすることができる。なお、第1及び第2の保持部1b,2bは、ある程度の重量の搬送対象物5を保持できなくてはならないため、弾性部材は高強度のものであることが好適である。高強度の弾性部材としては、例えば、板バネやコイルバネなどが用いられてもよい。
【0075】
また、本実施の形態では、移動部3の基端側が台車40に固定されている場合について主に説明したが、そうでなくてもよい。この場合には、搬送装置100は、移動部3の動作範囲内において、搬送対象物5を搬送するものであってもよい。
【0076】
また、上記実施の形態において、各処理または各機能は、単一の装置または単一のシステムによって集中処理されることによって実現されてもよく、または、複数の装置または複数のシステムによって分散処理されることによって実現されてもよい。
【0077】
また、上記実施の形態において、各構成要素は専用のハードウェアにより構成されてもよく、または、ソフトウェアにより実現可能な構成要素については、プログラムを実行することによって実現されてもよい。例えば、ハードディスクや半導体メモリ等の記録媒体に記録されたソフトウェア・プログラムをCPU等のプログラム実行部が読み出して実行することによって、各構成要素が実現され得る。その実行時に、プログラム実行部は、記憶部や記録媒体にアクセスしながらプログラムを実行してもよい。また、そのプログラムは、サーバなどからダウンロードされることによって実行されてもよく、所定の記録媒体(例えば、光ディスクや磁気ディスク、半導体メモリなど)に記録されたプログラムが読み出されることによって実行されてもよい。また、このプログラムは、プログラムプロダクトを構成するプログラムとして用いられてもよい。また、そのプログラムを実行するコンピュータは、単数であってもよく、複数であってもよい。すなわち、集中処理を行ってもよく、または分散処理を行ってもよい。
【0078】
また、以上の実施の形態は、本発明を具体的に実施するための例示であって、本発明の技術的範囲を制限するものではない。本発明の技術的範囲は、実施の形態の説明ではなく、特許請求の範囲によって示されるものであり、特許請求の範囲の文言上の範囲及び均等の意味の範囲内での変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0079】
1 第1のハンド部、2 第2のハンド部、1c 第1の力センサ、2c 第2の力センサ、3 移動部、5 搬送対象物、8 制御部、40 台車、100 搬送装置
図1
図2A
図2B
図2C
図3
図4
図5
図6A
図6B
図6C
図7
図8
【手続補正書】
【提出日】2023-11-13
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0058
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0058】
次に、制御部8は、移動部3を制御して、載置面から浮かない範囲内の上向きの力を加えた状態で搬送対象物5を図5の矢印Aの向きに移動させる(ステップS104)。この処理が継続されることによって、搬送対象物5は、載置面上を滑りながら2個の位置決め部材9に近づいていくことになる(ステップS104,S105)。