IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人 熊本大学の特許一覧

特開2024-70339研磨スラリーの製造方法及び研磨スラリー
<>
  • 特開-研磨スラリーの製造方法及び研磨スラリー 図1
  • 特開-研磨スラリーの製造方法及び研磨スラリー 図2
  • 特開-研磨スラリーの製造方法及び研磨スラリー 図3
  • 特開-研磨スラリーの製造方法及び研磨スラリー 図4
  • 特開-研磨スラリーの製造方法及び研磨スラリー 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024070339
(43)【公開日】2024-05-23
(54)【発明の名称】研磨スラリーの製造方法及び研磨スラリー
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/304 20060101AFI20240516BHJP
   B24B 37/00 20120101ALI20240516BHJP
   C09K 3/14 20060101ALI20240516BHJP
   C09G 1/02 20060101ALI20240516BHJP
【FI】
H01L21/304 622D
B24B37/00 H
H01L21/304 621D
C09K3/14 550D
C09K3/14 550F
C09K3/14 550E
C09K3/14 550Z
C09G1/02
H01L21/304 622W
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022180756
(22)【出願日】2022-11-11
(71)【出願人】
【識別番号】504159235
【氏名又は名称】国立大学法人 熊本大学
(74)【代理人】
【識別番号】100114627
【弁理士】
【氏名又は名称】有吉 修一朗
(74)【代理人】
【識別番号】100182501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 靖之
(74)【代理人】
【識別番号】100175271
【弁理士】
【氏名又は名称】筒井 宣圭
(74)【代理人】
【識別番号】100190975
【弁理士】
【氏名又は名称】遠藤 聡子
(72)【発明者】
【氏名】久保田 章亀
【テーマコード(参考)】
3C158
5F057
【Fターム(参考)】
3C158AA07
3C158AC04
3C158BA02
3C158BA04
3C158BA05
3C158CB03
3C158DA02
3C158DA12
3C158DA17
3C158EA11
3C158EB01
3C158ED02
3C158ED09
3C158ED10
3C158ED11
3C158ED12
3C158ED28
5F057AA12
5F057BA12
5F057BB06
5F057BB09
5F057DA03
5F057EA06
5F057EA12
5F057EB21
(57)【要約】
【課題】化学機械研磨において、簡易な構成でありながら、被加工物の研磨能率を向上させることが可能な研磨スラリーの製造方法及び研磨スラリーを提供する。
【解決手段】研磨スラリーAは、溶媒となる純水に酸化クロム砥粒(Cr)を含有しており、スラリー供給ボトル1に充填されている。また、スラリー供給ボトル1の内部には、研磨スラリーAにオゾンガスGを供給するオゾンガス供給部2が設けられている。また、スラリー供給ボトル1の下側には、ヒーター3が配置され、研磨スラリーAを加熱している。また、スラリー供給ボトルAは、その内部に撹拌子10が配置されている。また、スラリー供給ボトル1の内部には、研磨スラリーAに紫外光Lを照射する紫外光照射部4が設けられている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
研磨砥粒と溶媒を混合した混合物にオゾンガスを供給するオゾンガス供給工程と、
前記オゾンガス供給工程中に、前記混合物を加熱する加熱工程を備える
研磨スラリーの製造方法。
【請求項2】
前記オゾンガス供給工程中に、前記混合物に紫外光を照射する紫外光照射工程を備える
請求項1に記載の研磨スラリーの製造方法。
【請求項3】
前記研磨砥粒は、金属、無機酸化物、セラミックス又はダイヤモンドの少なくともいずれか1つからなる
請求項1または請求項2に記載の研磨スラリーの製造方法。
【請求項4】
前記研磨砥粒は、Crからなる
請求項1または請求項2に記載の研磨スラリーの製造方法。
【請求項5】
前記研磨砥粒は、ナノダイヤモンドからなる
請求項1または請求項2に記載の研磨スラリーの製造方法。
【請求項6】
研磨砥粒と溶媒を混合した混合物にオゾンガスを供給するオゾンガス供給工程を備える
研磨スラリーの製造方法。
【請求項7】
研磨砥粒と溶媒を混合した混合物にオゾンガスを供給すると共に、前記混合物を加熱して製造した
研磨スラリー。
【請求項8】
前記オゾンガスを供給する際に、前記混合物に紫外光を照射した
請求項7に記載の研磨スラリー
【請求項9】
前記研磨砥粒は、金属、無機酸化物、セラミックス又はダイヤモンドの少なくともいずれか1つからなる
請求項7または請求項8に記載の研磨スラリーの製造方法。
【請求項10】
前記研磨砥粒は、Crからなる
請求項7または請求項8に記載の研磨スラリーの製造方法。
【請求項11】
前記研磨砥粒は、ナノダイヤモンドからなる
請求項7または請求項8に記載の研磨スラリーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は研磨スラリーの製造方法及び研磨スラリーに関する。詳しくは、化学機械研磨において、簡易な構成でありながら、被加工物の研磨能率を向上させることが可能な研磨スラリーの製造方法及び研磨スラリーに係るものである。
【背景技術】
【0002】
近年、SiCやGaN、ダイヤモンド等の新素材を使った半導体材料の利用が試みられており、半導体デバイスで用いられる素材(ウエハ)の作製工程においては、原子レベルで平坦で無歪な表面が求められている。
【0003】
例えば、SiCやGaNウエハ基板の仕上げ工程では、基板を平坦/平滑に仕上げるために、研磨加工が適用されている。
【0004】
しかしながら、SiCやGaNは、高硬度かつ化学的に安定であるために加工・研磨することが難しく、研磨に要する時間の長時間化や、それに伴う研磨資材の高コスト化がウエハ製造における大きな課題となっている。
【0005】
また、材料の研磨加工の方法として、代表的には化学機械研磨(chemical mechanical polishing)プロセスが用いられる。
【0006】
この化学機械研磨は、研磨剤(研磨砥粒)自体が有する表面化学作用、または、研磨スラリーに含まれる化学成分の作用によって、研磨スラリーと研磨対象となる被加工物の相対運動による機械的研磨(表面除去)効果を増大させ、極めて平滑な研磨面を得る技術である。
【0007】
また、化学機械研磨は、SiC基板や窒化ガリウム(GaN)基板等、半導体基板の表面を平坦化研磨加工する際に用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2017-107993号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従前の化学機械研磨に用いられる研磨スラリーでは、種々の材料に対する研磨加工において、効率が不充分であり、生産性を向上するために、研磨処理の加工能率を高めることが求められていた。
【0010】
本発明は以上の点に鑑みて創案されたものであって、化学機械研磨において、簡易な構成でありながら、被加工物の研磨能率を向上させることが可能な研磨スラリーの製造方法及び研磨スラリーを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
[研磨スラリーの製造方法について]
上記の目的を達成するために、本発明の研磨スラリーの製造方法は、研磨砥粒と溶媒を混合した混合物にオゾンガスを供給するオゾンガス供給工程と、前記オゾンガス供給工程中に、前記混合物を加熱する加熱工程を備える。
【0012】
ここで、研磨砥粒と溶媒を混合することによって、研磨砥粒を溶媒に分散させ、スラリー状の物質を製造することができる。
【0013】
また、オゾンガス供給工程で、研磨砥粒と溶媒を混合した混合物にオゾンガスを供給することによって、溶媒中の研磨砥粒について、その微粒子表面の改質による親水化と、砥粒表面に付着している有機物不純物の分解・除去が促進される。この結果、研磨砥粒が有する表面化学作用が良好となり、化学機械研磨の被加工物に対する研磨能率を向上させることができる。
【0014】
また、加熱工程で、オゾンガス供給工程中に、混合物を加熱することによって、溶媒中の研磨砥粒における化学反応が活性化され、かつ、研磨砥粒を構成する化学種のイオン化が促進される。この結果、化学機械研磨の被加工物に対する研磨能率を向上させることができる。
【0015】
また、オゾンガス供給工程中に、混合物に紫外光を照射する紫外光照射工程を備える場合には、溶媒中の研磨砥粒について、砥粒表面に付着している有機物不純物の分解・除去がより一層促進される。この結果、研磨砥粒が有する表面化学作用がより一層良好となり、化学機械研磨の被加工物に対する研磨能率を向上させることができる。
【0016】
また、研磨砥粒が、金属、無機酸化物、セラミックス又はダイヤモンドの少なくともいずれか1つからなる場合には、化学機械研磨の被加工物に対する研磨能率を充分に向上させることが可能となる。
【0017】
また、研磨砥粒が、Crからなる場合には、Cr砥粒について、その微粒子表面の改質による親水化と、砥粒表面に付着している有機物不純物の分解・除去が促進される。また、溶媒中のCr砥粒における化学反応が活性化され、かつ、Cr砥粒を構成する化学種のイオン化が促進される。この結果、化学機械研磨の被加工物に対する研磨能率を充分に向上させることが可能となる。
【0018】
また、研磨砥粒が、ナノダイヤモンドからなる場合には、ナノダイヤモンド砥粒について、その微粒子表面の改質による親水化と、砥粒表面に付着している有機物不純物の分解・除去が促進される。また、溶媒中のナノダイヤモンド砥粒における化学反応が活性化され、かつ、ナノダイヤモンド砥粒を構成する化学種のイオン化が促進される。この結果、化学機械研磨の被加工物に対する研磨能率を充分に向上させることが可能となる。
【0019】
また、上記の目的を達成するために、本発明の研磨スラリーの製造方法は、研磨砥粒と溶媒を混合した混合物にオゾンガスを供給するオゾンガス供給工程を備える。
【0020】
ここで、研磨砥粒と溶媒を混合することによって、研磨砥粒を溶媒に分散させ、スラリー状の物質を製造することができる。
【0021】
また、オゾンガス供給工程で、研磨砥粒と溶媒を混合した混合物にオゾンガスを供給することによって、溶媒中の研磨砥粒について、その微粒子表面の改質による親水化と、砥粒表面に付着している有機物不純物の分解・除去が促進される。この結果、研磨砥粒が有する表面化学作用が良好となり、化学機械研磨の被加工物に対する研磨能率を向上させることができる。
【0022】
[研磨スラリーについて]
また、上記の目的を達成するために、本発明に係る研磨スラリーは、研磨砥粒と溶媒を混合した混合物にオゾンガスを供給すると共に、前記混合物を加熱して製造したものとして構成されている。
【0023】
ここで、研磨砥粒と溶媒を混合した混合物によって、研磨砥粒を溶媒に分散させ、スラリー状の物質とすることができる。
【0024】
また、研磨砥粒と溶媒を混合した混合物にオゾンガスを供給することによって、溶媒中の研磨砥粒について、その微粒子表面の改質による親水化と、砥粒表面に付着している有機物不純物の分解・除去が促進される。この結果、研磨砥粒が有する表面化学作用が良好となり、化学機械研磨の被加工物に対する研磨能率を向上させることができる。
【0025】
また、混合物にオゾンガスを供給すると共に、混合物を加熱して製造したことによって、溶媒中の研磨砥粒における化学反応が活性化され、かつ、研磨砥粒を構成する化学種のイオン化が促進される。この結果、化学機械研磨の被加工物に対する研磨能率を向上させることができる。
【0026】
また、オゾンガスを供給する際に、混合物に紫外光を照射した場合には、溶媒中の研磨砥粒について、砥粒表面に付着している有機物不純物の分解・除去がより一層促進される。この結果、研磨砥粒が有する表面化学作用がより一層良好となり、化学機械研磨の被加工物に対する研磨能率を向上させることができる。
【0027】
また、研磨砥粒が、金属、無機酸化物、セラミックス又はダイヤモンドの少なくともいずれか1つからなる場合には、化学機械研磨の被加工物に対する研磨能率を充分に向上させることが可能となる。
【0028】
また、研磨砥粒が、Crからなる場合には、Cr砥粒について、その微粒子表面の改質による親水化と、砥粒表面に付着している有機物不純物の分解・除去が促進される。また、溶媒中のCr砥粒における化学反応が活性化され、かつ、Cr砥粒を構成する化学種のイオン化が促進される。この結果、化学機械研磨の被加工物に対する研磨能率を充分に向上させることが可能となる。
【0029】
また、研磨砥粒が、ナノダイヤモンドからなる場合には、ナノダイヤモンド砥粒について、その微粒子表面の改質による親水化と、砥粒表面に付着している有機物不純物の分解・除去が促進される。また、溶媒中のナノダイヤモンド砥粒における化学反応が活性化され、かつ、ナノダイヤモンド砥粒を構成する化学種のイオン化が促進される。この結果、化学機械研磨の被加工物に対する研磨能率を充分に向上させることが可能となる。
【発明の効果】
【0030】
本発明を適用した研磨スラリーの製造方法及び研磨スラリーでは、化学機械研磨において、簡易な構成でありながら、被加工物の研磨能率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】(a)は、本発明を適用した研磨スラリーの製造方法を説明するための模式図であり、(b)は、本発明を適用した研磨スラリーを用いた加工方法における加工装置を説明するための模式図である。
図2】GaNを被加工物とした実施例1、実施例2、比較例1及び比較例2の加工能率を示すグラフである。
図3】SiCを被加工物とした実施例1、実施例2、比較例1及び比較例2の加工能率を示すグラフである。
図4】実施例3及び比較例3の研磨スラリーのFT-IR(フーリエ変換赤外分光光度計)による解析結果のスペクトルである。
図5】実施例3及び比較例3の加工能率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0032】
[発明の実施の形態]
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本発明の実施の形態」と称する)について説明する。
図1(a)は、本発明を適用した研磨スラリーの製造方法を説明するための模式図である。図1(a)に示す研磨スラリーAは、溶媒となる純水に酸化クロム砥粒(Cr)を含有しており、スラリー供給ボトル1に充填されている。
【0033】
また、スラリー供給ボトル1の内部には、研磨スラリーAにオゾンガスGを供給するオゾンガス供給部2が設けられている。また、スラリー供給ボトル1の下側には、ヒーター3が配置され、研磨スラリーAを加熱している。
【0034】
即ち、研磨スラリーAにオゾンガスGが供給され、かつ、一定温度(75℃)になるように加熱して、研磨スラリーAが製造されている。
【0035】
また、スラリー供給ボトルAは、その内部に撹拌子10が配置されている。また、スラリー供給ボトル1の内部には、研磨スラリーAに紫外光Lを照射する紫外光照射部4が設けられている。
【0036】
ここで、必ずしも、研磨スラリーAの溶媒は純水に限定されるものではなく、研磨砥粒の種類、被加工物の種類または研磨剤の種類等に応じて、適宜設定することができる。例えば、酸やアルカリ成分を持つ水溶液や、pH調整した溶液を用いることができる。
【0037】
また、必ずしも、研磨砥粒の種類は、酸化クロム砥粒(Cr)に限定されるものではない。例えば、鉄、ニッケル、Co等の金属、SiO、ZrO、Al、TiO2等の無機酸化物、SiC、SiN、Al等のセラミックス、または、ダイヤモンドで構成された微粒子等を研磨砥粒として採用することができる。
【0038】
また、必ずしも、研磨スラリーAの温度は75℃に限定されるものではなく、研磨砥粒や溶媒の種類に応じて、加温による温度は適宜設定することができる。
【0039】
また、必ずしも、研磨スラリーAを製造する際に、紫外光が照射される必要はない。但し、オゾンガスの供給と混合物の加熱に加えて、紫外光を照射することで、砥粒表面に付着している有機物不純物の分解・除去がより一層促進され、研磨砥粒が有する表面化学作用がより一層良好となり、研磨スラリーAを用いた化学機械研磨の被加工物に対する研磨能率を向上させることができることから、研磨スラリーAを製造する際に、紫外光が照射されることが好ましい。
【0040】
続いて、上述した方法で製造された研磨スラリーAを用いた化学機械研磨の一例について説明する。研磨スラリーAは、例えば、図1(b)に示すような構成の加工装置において供給され、化学機械研磨に用いることができる。
【0041】
図1(b)に示すように、加工装置5は、研磨定盤6と、GaN7を保持する試料ホルダー8を有している。また、研磨定盤6の上面には、研磨パッド9が交換可能に被着されている。また、研磨パッド9はポリウレタンで形成されている。なお、GaN7は被加工物の一例である。
【0042】
また、加工装置5は、研磨パッド9上に研磨スラリーAを滴下するスラリー供給部100を有している。また、スラリー供給部100は、図1(a)に示すスラリー供給ボトル1に接続されている。
【0043】
また、研磨定盤6は、回転数が制御可能な回転機構(図示省略)に固定され、この回転機構の回転によって研磨定盤6及び研磨パッド9が一体的に、図1(b)中符号R1で示す方向に回転可能に構成されている。
【0044】
また、試料ホルダー8は、研磨定盤6の回転軸に対して偏心した回転軸(図示省略)を中心として、図1(b)中符号R2で示す方向に回転可能に構成されている。また、試料ホルダー8は、GaN7を保持した状態で、上方からGaN7と研磨パッド9が接触する位置まで下降する。なお、図中の符号Yは荷重をかける方向を示している。
【0045】
この加工装置5では、円板状の研磨定盤6の上面に被着された研磨パッド9に、スラリー供給ボトル100から供給された研磨スラリーAが、スラリー供給部100を介して滴下され、研磨パッド9の上面に被加工物であるGaN7が接した状態で、研磨定盤6及び研磨パッド9と、試料ホルダー8のそれぞれが回転することで、被加工物が研磨されることとなる。
【0046】
即ち、研磨スラリーAに含まれる酸化クロム砥粒の表面の改質による親水化と、酸化クロム砥粒の表面に付着している有機物不純物の分解・除去が促進され、酸化クロム砥粒が有するGaN7の表面への表面化学作用と、研磨スラリーAとGaN7の相対運動による機械的研磨(表面除去)が生じ、GaN7を加工することができる。
【0047】
また、スラリー供給ボトル1の内部で、研磨スラリーAに、オゾンガスGが供給されることで、酸化クロム砥粒の表面に付着している有機物(ゴミや不純物)を、オゾンガスで除去して、酸化クロム砥粒の表面の改質による親水化を促進させることができる。
【0048】
また、研磨スラリーAに、オゾンガスGが供給され、かつ、これを加熱することで、溶媒中の酸化クロム砥粒における化学反応が活性化され、かつ、酸化クロム砥粒を構成する化学種のイオン化が促進される。この結果、研磨スラリーAによる化学機械研磨での、被加工物に対する研磨能率を向上させることができる。
【0049】
また、スラリー供給ボトル1の内部で、研磨スラリーAに、オゾンガスGが供給され、かつ、紫外光を照射されることで、酸化クロム砥粒の表面に付着している有機物(ゴミや不純物)は、紫外光及びオゾンガスを介して、より一層除去されやすくなる。
【0050】
ここで、本実施の形態では、試料ホルダー8に保持される被加工物としてGaN7を例に挙げて説明を行っているが、被加工物はGaN7に限定されるものではなく、種々の被加工物を対象とすることができる。即ち、半導体材料、セラミクス材料、金属、非金属を問わず、幅広い素材が被加工物となり得る。また、一例として、SiC、Ga、Al、サファイア、SiCセラミックス、Siセラミックス、AlN、ガラス等の硬脆材料を、高能率かつ高精度に加工することが可能となる。
【0051】
以下、上記の様に構成された加工装置5を用いた加工方法について説明を行う。即ち、本発明を適用した研磨スラリーを用いた化学機械研磨における加工方法の一例について説明を行う。
【0052】
本加工方法の一例では、研磨定盤6及び研磨パッド9と、試料ホルダー8のそれぞれを回転させながら、研磨パッド9上に、スラリー供給部100から研磨スラリーAを滴下する。
【0053】
即ち、研磨パッド9とGaN7の接触部位に、研磨スラリーAを供給しながら、研磨パッド9及び試料ホルダー8のそれぞれを回転させて、研磨パッド9とGaN7を接触させた状態で変位させることによって、酸化クロム砥粒が有するGaN7の表面への表面化学作用と、研磨スラリーAとGaN7の相対運動による機械的研磨(表面除去)が生じ、GaN7を加工することができる。
【0054】
また、スラリー供給ボトル100の内部で、研磨スラリーAに、オゾンガスGが供給され、これを加熱することで、溶媒中の酸化クロム砥粒における化学反応が活性化され、かつ、酸化クロム砥粒を構成する化学種のイオン化が促進される。
【0055】
これにより、酸化クロム砥粒を含む研磨スラリーAによる化学機械研磨での、GaN7に対する加工の加工能率を向上させることができる。
【0056】
このように、本発明を適用した研磨スラリーの製造方法及び研磨スラリーでは、化学機械研磨において、簡易な構成でありながら、被加工物の研磨能率を向上させることができる。また、本発明を適用した研磨スラリーを用いた加工方法では、被加工物の加工面の表面粗さを短時間で改善することができる。
【0057】
また、本発明を適用した研磨スラリーの製造方法は、オゾンガス供給部、及び、ヒーターを、既存のスラリー供給ボトルに配置するのみで容易に構築することができるものとなっている。
【0058】
以下、本発明の実施例について説明する。なお、ここで示す実施例は一例であり本発明を限定するものではない。
【0059】
[実施例1及び実施例2]
本発明の実施例1、実施例2、比較例1及び比較例2の研磨スラリーを以下の内容で製造した。
先ず、本発明の実施例1の研磨スラリーとして、上述した本発明の実施の形態と同様の内容で研磨スラリーを製造した。溶媒として純水を用い、スラリー供給ボトルの内部で、酸化クロム砥粒を含有した0.1wt%、1wt%及び5wt%の各濃度の混合物(Cr/HO)に対して、オゾンガス供給部より50g/mのオゾンガスを1L/minで供給し、かつ、スラリー供給ボトルの下部に設置したヒーターで75℃に加熱した。
実施例1と同様の方法で、ヒーターによる加熱を行わないものを実施例2とした。また、酸化クロム砥粒が0.1wt%、1wt%及び5wt%の各濃度になるように純水に分散させ、オゾンガスを供給せず、かつ、ヒーターによる加熱もしないものを比較例1とした。また、比較例1と同様の方法で、オゾンガス供給部によるオゾンガス供給を行わず、かつ、ヒーターによる加熱のみを行うものを比較例2とした。
【0060】
また、実施例1、実施例2、比較例1及び比較例2の研磨スラリーを用いた加工方法として、以下の条件で加工を行った。
研磨定盤上に被着したポリウレタン製(IC-1000)の研磨パッドに、被加工物としてGaNを4kgの荷重で押圧し、研磨定盤及び研磨パッドを回転数70rpmで回転させると共に、試料ホルダーを回転数70rpmの条件で回転させた。また、実施例1、実施例2、比較例1及び比較例2の研磨スラリーを、スラリー供給部から研磨パッド上に、流速6ml/minで滴下した。加工時間は30分とした。
【0061】
また、実施例1、実施例2、比較例1及び比較例2の研磨スラリーを用いて、酸化クロム砥粒を0.1wt%の濃度にし、被加工物を2インチサイズの単結晶GaNウエハから2インチサイズの単結晶SiCウエハに代えた加工方法も行った。
【0062】
上述した実施例1、実施例2、比較例1及び比較例2の研磨スラリーを用いた加工方法について加工能率を確認した。
【0063】
図2に、被加工物をGaNにした加工方法における実施例1、実施例2、比較例1及び比較例2の研磨スラリーを用いた加工能率の結果を示す。なお、図2では、実施例1、実施例2、比較例1及び比較例2のそれぞれについて、酸化クロム砥粒が0.1wt%、1wt%及び5wt%の各濃度である結果を示す。また、図2中の左から順に、比較例1の結果を示すデータ群、比較例2の結果を示すデータ群、実施例2の結果を示すデータ群及び実施例1の結果を示すデータ群となっている。また、図2では、縦軸が加工能率(1時間あたりの被加工物表面の除去量(nm))を示している。
【0064】
実施例1、実施例2、比較例1及び比較例2の研磨スラリーは、いずれも濃度が大きくなると加工能率が上昇する傾向が確認された。また、いずれの濃度でも、比較例1及び比較例2と比べて、実施例1及び実施例2における加工能率の大幅な向上が見られた。また、実施例2よりも実施例1の方が高い加工能率を示した。
【0065】
また、比較例1と比較例2の間では、加工能率の変動はほぼ見られず、研磨スラリーにおける加熱の有無のみでは、加工能率に大きな影響を与えないことが明らかとなった。また、実施例1と実施例2の間では、実施例1の方が高い加工能率を示すことから、オゾンガスの供給と加熱を組み合わせることで、研磨スラリーの加工能率に良好な影響を及ぼすことが確認された。
【0066】
図3に、被加工物をSiCにした加工方法における実施例1、実施例2、比較例1及び比較例2の研磨スラリーを用いた加工能率の結果を示す。なお、図2中の左から順に、比較例1の結果を示すデータ、比較例2の結果を示すデータ、実施例2の結果を示すデータ及び実施例1の結果を示すデータとなっている。また、図3では、縦軸が加工能率(1時間あたりの被加工物表面の除去量(nm))を示している。
【0067】
比較例1及び比較例2と比べて、実施例1及び実施例2における加工能率の大幅な向上が見られた。また、実施例2よりも実施例1の方が、加工能率が大幅に向上していた。
【0068】
また、被加工物をSiCにした場合でも、比較例1と比較例2の間では、加工能率の変動はほぼ見られず、研磨スラリーにおける加熱の有無のみでは、加工能率に大きな影響を与えないことが明らかとなった。また、実施例1と実施例2の間では、実施例1の方が高い加工能率を示すことから、オゾンガスの供給と加熱を組み合わせることで、研磨スラリーの加工能率に良好な影響を及ぼすことが確認された。
【0069】
[実施例3]
本発明の実施例3及び比較例3の研磨スラリーを以下の内容で製造した。
先ず、本発明の実施例3の研磨スラリーとして、以下の内容で、研磨スラリーを製造した。溶媒として純水を用い、スラリー供給ボトルの内部で、ナノダイヤモンド砥粒を含有した0.1wt%の濃度の混合物に対して、オゾンガス供給部より50g/mのオゾンガスを1L/minで供給した。また、研磨スラリーには、オゾンガスを供給しながら、紫外光照射部より、紫外光(波長230-400nm)を照射した。
また、ナノダイヤモンド砥粒が0.1wt%の濃度になるように純水に分散させ、オゾンガスを供給せず、かつ、紫外光を照射しないものを比較例3とした。
【0070】
また、研磨砥粒であるナノダイヤモンドは、粒径が6nm程の市販のナノダイヤモンドである。
【0071】
また、実施例3及び比較例3の研磨スラリーを用いた加工方法として、以下の条件で加工を行った。
研磨定盤上に被着したポリウレタン製(IC-1000)の研磨パッドに、被加工物としてGaNを4kgの荷重で押圧し、研磨定盤及び研磨パッドを回転数70rpmで回転させると共に、試料ホルダーを回転数70rpmの条件で回転させた。また、実施例3及び比較例3の研磨スラリーを、スラリー供給部から研磨パッド上に、流速8ml/minで滴下した。
【0072】
上述した実施例3及び比較例3の研磨スラリーに対して、FT-IR(フーリエ変換赤外分光光度計)による構造解析を行った。
また、実施例3及び比較例3について、加工能率を確認した。
【0073】
図4にFT-IRの分析結果のスペクトルを示す。なお、図4では、縦軸が透過率、横軸が波数を示している。また、2つのスペクトルのうち、上側に位置したスペクトルが、比較例3の研磨スラリーのスペクトルであり、下側に位置したスペクトルが、実施例3の研磨スラリーのスペクトルである。
【0074】
図4に示すように、スペクトルの符号A及び符号Bで示す領域において、実施例3及び比較例3の2つのスペクトルのピークに変化が見られた。符号Aで示す領域の1つのピーク及び符号Bで示す領域の右側のピークは、水酸基(-OH)に起因する領域であり、符号Bで示す領域の左側のピークは、カルボキシル基(-COOH)に起因する領域である。これらのピークの変化から、研磨スラリーにオゾンガスを供給し、かつ、紫外光を照射したことで、研磨スラリーに含まれるナノダイヤモンド砥粒の表面において、有機物が除去され、同表面に水酸基(-OH)が増加していることが確認された。
【0075】
また、図5に、実施例3及び比較例3の研磨スラリーを用いた加工能率の結果を示す。なお、図2中の左から順に、比較例3の結果を示すデータ及び実施例3の結果を示すデータとなっている。また、図5では、縦軸が加工能率(1時間あたりの被加工物表面の除去量(nm))を示している。
【0076】
比較例3と比べて、実施例3における加工能率の大幅な向上が見られた。
【符号の説明】
【0077】
A 研磨スラリー
G オゾンガス
L 紫外光
1 スラリー供給ボトル
10 撹拌子
2 オゾンガス供給部
3 ヒーター
4 真空紫外光照射部
5 加工装置
6 研磨定盤
7 GaN
8 試料ホルダー
9 研磨パッド
100 スラリー供給部
図1
図2
図3
図4
図5