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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024070340
(43)【公開日】2024-05-23
(54)【発明の名称】ポリフェニレンサルファイドフィルム
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20240516BHJP
【FI】
C08J5/18 CEZ
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022180757
(22)【出願日】2022-11-11
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】加藤 祥平
(72)【発明者】
【氏名】早野 知子
(72)【発明者】
【氏名】森下 健太
【テーマコード(参考)】
4F071
【Fターム(参考)】
4F071AA62
4F071AB21
4F071AE12
4F071AF14Y
4F071AF21Y
4F071AG28
4F071AH12
4F071BA01
4F071BB06
4F071BB08
4F071BC01
4F071BC12
(57)【要約】
【課題】手切れ性、加工性に優れたポリフェニレンサルファイドフィルムの提供に関する。
【解決手段】フィルムの長手方向の破断強度および幅方向の破断強度の平均値が205MPa以上であり、フィルムの長手方向の破断強度の幅方向の破断強度に対する比が1.2以上であり、フィルムの長手方向の破断伸度および幅方向の破断伸度の平均値が70%以上であるポリフェニレンサルファイドフィルム。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルムの長手方向の破断強度および幅方向の破断強度の平均値が205MPa以上であり、フィルムの長手方向の破断強度の幅方向の破断強度に対する比が1.2以上であり、フィルムの長手方向の破断伸度および幅方向の破断伸度の平均値が70%以上であるポリフェニレンサルファイドフィルム。
【請求項2】
フィルム厚みが30μm以上500μm以下である請求項1に記載のポリフェニレンサルファイドフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリフェニレンサルファイドフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
二軸配向ポリフェニレンサルファイドフィルムは、優れた耐熱性、難燃性、剛性、耐薬品性、耐熱水性および電気絶縁性などの特徴を有しており、特に電気・電子機器、機械部品および自動車部品に好適に使用されている。
【0003】
近年、その耐薬品性や耐熱水性を活かし、電解コンデンサー、燃料電池、回路基板等に用いられる粘着テープ基材へのポリフェニレンサルファイドフィルムの適用が進められている。上記用途へ好適に用いるには、加工工程や使用時に割れやクラック等の問題が生じないように、基材として加工性が優れている必要がある。中でも加工性に優れたポリフェニレンサルファイドフィルムを提供した一例として、突き刺し強度が大きいポリフェニレンサルファイドフィルムが提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010-70630号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながらポリフェニレンサルファイドフィルムは加工性がある程度良好である一方、手切れ性が悪く、粘着テープ等へ加工した製品としては取り扱いにくい問題があった。
【0006】
本発明は、手切れ性、加工性に優れたポリフェニレンサルファイドフィルムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は以下の構成をとる。すなわち、
[1]フィルムの長手方向の破断強度および幅方向の破断強度の平均値が205MPa以上であり、フィルムの長手方向の破断強度の幅方向の破断強度に対する比が1.2以上であり、フィルムの長手方向の破断伸度および幅方向の破断伸度の平均値が70%以上であるポリフェニレンサルファイドフィルム。
[2]フィルム厚みが30μm以上500μm以下である[1]に記載のポリフェニレンサルファイドフィルム。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、手切れ性、加工性に優れたポリフェニレンサルファイドフィルムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明におけるポリフェニレンサルファイドとは、繰り返し単位の85モル%以上が下記構造式で示される構成単位からなる重合体をいう。かかる成分の比率が85モル%以上、好ましくは90モル%以上であることで、ポリマーの結晶性、軟化点等の低下を抑え、耐熱性、寸法安定性、機械特性、離型性等を維持することができる。
【0010】
【化1】
【0011】
上記ポリフェニレンサルファイドにおいて、本発明のフィルム破断強度や破断伸度に悪影響を与えない範囲であれば、共重合可能なスルフィド結合を含有する単位が繰り返し単位として含まれていても差し支えない。当該重合体の共重合の仕方はランダム、ブロック型を問わない。
【0012】
本発明のポリフェニレンサルファイドフィルムは、ポリフェニレンサルファイドフィルム全体を100質量%として、ポリフェニレンサルファイド以外の樹脂組成物(樹脂組成物(A))の含有率が5質量%未満であることが好ましく、より好ましくは1質量%未満であり、実質的に含有しないことが更に好ましい。樹脂組成物(A)の含有率を5質量%未満とすることで、製膜工程における押出機での樹脂溶融時に、樹脂組成物(A)がポリフェニレンサルファイドへ作用し変性させることでフィルム中に異物が発生し品位を損ねてしまうのを、防ぐことができる。
【0013】
本発明のポリフェニレンサルファイドフィルムは、フィルムの易滑性を高めるために粒子を含有することが好ましい。前記粒子の種類としては、本発明のフィルム破断強度、破断伸度に悪影響を与えない粒子を用いることができる。前記粒子は、1種が単独で使用されてもよく、また2種以上が併用されてもよい。前記粒子の中でも、炭酸カルシウム粒子が、ポリフェニレンサルファイドフィルム中での分散性が良いため好ましい。
【0014】
前記粒子の平均粒子径は0.1μm以上10μm以下であることが好ましい。当該平均粒子径を10μm以下、より好ましくは5μm以下、さらに好ましくは2μm以下とすることで、フィルム表面突起が大きくなるのを抑え、離型用途等に好適に使用できる。当該平均粒子径を0.1μ以上とすることで、フィルム表面の滑り性が悪くなりフィルム搬送時や加工時に傷が生じフィルムの品位が悪化するのを防ぐことができる。
【0015】
本発明のポリフェニレンサルファイドフィルムは、単膜であっても、複合フィルムであってもよい。複合フィルムとしては、2層以上の積層フィルムが挙げられる。例えば、A層/B層からなる2層積層フィルム、A層/B層/A層からなる3層積層フィルムであってもよく、積層フィルム全体として本発明のポリフェニレンサルファイドフィルムとしての特徴を具備していればよい。
【0016】
本発明のポリフェニレンサルファイドフィルムは、フィルムの長手方向の破断強度および幅方向の破断強度の平均値が205MPa以上である必要がある。当該破断強度の平均値が205MPa以上、好ましくは210MPa以上、より好ましくは215MPa以上であることで、フィルム加工工程や使用時に割れやクラック等の問題が生じるのを防ぐことができる。また当該破断強度の平均値の上限としては特に制限されないが、350MPa超とするには製膜時の延伸倍率を大きくする必要があり、後述するフィルムの破断伸度が低下することに繋がるため、本発明のポリフェニレンサルファイドフィルムの破断伸度を達成するには、実質的に350MPa以下であることが好ましく、更に好ましくは300MPa以下である。
【0017】
本発明のポリフェニレンサルファイドフィルムは、フィルムの長手方向の破断強度の幅方向の破断強度に対する比が1.2以上である必要がある。当該破断強度の比が1.2以上、より好ましくは1.3以上であることで、フィルム中のポリフェニレンサルファイドの分子配向が、破断強度が最大値の方向に偏っていることとなる。そして、ポリフェニレンサルファイドはベンゼン環と硫黄原子のみから構成されており、分子間力が小さいため、フィルムを裂くことが容易となり、手切れ性が良くなる。フィルムの手切れ性が良好となることで、粘着テープ等、手で切るテープ用途に好適に用いることができる。
【0018】
当該破断強度の比を1.2以上とする方法としては、製膜工程において延伸時の倍率を調整すると同時に、延伸時のフィルムの温度を、加熱ロールだけではなくラジエーションヒーターも用い、フィルム両面の温度を調整して延伸することを挙げることができる。
【0019】
本発明のポリフェニレンサルファイドフィルムは、フィルムの長手方向の破断伸度および幅方向の破断伸度の平均値が70%以上である必要があり、75%以上であることが好ましい。当該破断伸度の平均値が70%よりも小さいと、フィルム加工工程や使用時に割れやクラック等の問題が生じる場合がある。当該破断伸度の平均値の上限は特に制限されないが、250%以上とするには製膜時の延伸倍率を小さくする必要があり、前述のフィルムの破断強度が低下することに繋がるため、本発明のポリフェニレンサルファイドフィルムの破断強度を達成するには、250%以下であることが好ましく、より好ましくは200%以下である。
【0020】
本発明のポリフェニレンサルファイドフィルムは、厚みが30μm以上500μm以下であることが好ましい。当該厚みを30μm以上、より好ましくは40μm以上とすることで、フィルムのコシが良好となり、基材として好適に用いることができる。また、当該厚みを500μm以下、より好ましくは250μm以下とすることで、フィルムの加工時にバリが発生するのを抑制し、取扱が容易となる。
【0021】
(フィルムの製造方法)
本発明のポリフェニレンサルファイドフィルムは、例えば以下に示した工程によって製造することが好ましい。
【0022】
まず、前記ポリフェニレンサルファイドを製造する方法について述べる。ポリフェニレンサルファイドは、例えば、アルカリ金属硫化物(硫化アルカリ)とジハロベンゼンとを重合させることによって製造することができる。
【0023】
前記アルカリ金属硫化物としては、硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化ルビジウム、硫化セシウム等が挙げられ、その中でも硫化ナトリウムが好ましい。前記アルカリ金属硫化物は、水和物または水性混合物として、あるいは無水物の形で用いることができる。また、反応系においてin situで調製されるアルカリ金属硫化物、および、硫化物、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属水和物と硫化水素とから調製されるアルカリ金属硫化物等を用いることもできる。前記アルカリ金属硫化物は、1種が単独で用いられてもよく、また2種以上が併用されてもよい。
【0024】
前記ジハロベンゼンとしては例えば、p-ジクロロベンゼン、p-ジブロモベンゼンなどのp-ジハロベンゼン、m-ジクロロベンゼンなどのm-ジハロベンゼン、1-メトキシ-2,5-ジハロベンゼン、3,5-ジクロロ安息香酸等のハロゲン原子以外の置換基を含むジハロベンゼン等を挙げることができる。これらの中でも、p-ジハロベンゼンが好ましく、p-ジクロロベンゼンが特に好ましい。前記ジハロベンゼンは、1種が単独で用いられてもよく、また2種以上が併用されてもよい。
【0025】
前記ジハロベンゼンの使用量(仕込み量)は、前記のアルカリ金属硫化物の仕込み量1モル当たり、好ましくは0.9~2.0モル、より好ましくは1.0~1.3モルの範囲であることが、高分子量のポリフェニレンサルファイドを得るためには好ましい。この使用割合を前述の範囲とすることで、加工に適した高粘度(高重合度)の前記ポリフェニレンサルファイドを得ることが容易となる。
【0026】
前記ポリフェニレンサルファイドの製造においては、その末端を形成させるか、あるいは重合反応や分子量を調節するなどのために、前記ジハロベンゼンと共に、モノハロ化合物(必ずしも芳香族化合物でなくともよい)を併用することができる。また、分岐または架橋重合体を形成させるために、1,2,4-トリクロロベンゼン、1,3,5-トリクロロベンゼンなどのトリハロ以上のポリハロ化合物(必ずしも芳香族化合物でなくともよい)、活性水素含有ハロゲン芳香族化合物、ハロゲン芳香族ニトロ化合物等を併用することも可能である。
【0027】
前記ポリフェニレンサルファイドの製造においては、重合度を調整するために、重合助剤を添加して反応させることが好ましい。前記重合助剤としては例えば、一般にポリフェニレンサルファイドの重合助剤として用いられる公知の重合助剤を用いることができ、例えば、アルカリ金属水酸化物(苛性アルカリ)、カルボン酸アルカリ金属塩、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ土類金属水酸化物、アルカリ土類金属炭酸塩などが挙げられる。これらの中でも、アルカリ金属水酸化物、カルボン酸アルカリ金属塩が好適に用いられる。
【0028】
前記アルカリ金属水酸化物としては例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムなどが挙げられる。
【0029】
前記カルボン酸アルカリ金属塩としては例えば、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、プロピオン酸ナトリウム、吉草酸リチウム、安息香酸ナトリウム、フェニル酢酸ナトリウム、p-トルイル酸カリウムなどが挙げられ、その中でも安価で入手し易いことから、酢酸ナトリウムが好適に用いられる。前記カルボン酸アルカリ金属塩は、無水物、水和物または水溶液として用いることができる。
【0030】
また、前記カルボン酸アルカリ金属塩は、溶媒中で、有機酸と、アルカリ金属水酸化物、炭酸アルカリ金属塩及び重炭酸アルカリ金属塩よりなる群から選ばれる一種以上の化合物とを、ほぼ等化学当量ずつ添加して反応させることにより形成させてもよい。
【0031】
前記重合助剤は、1種が単独で用いられてもよく、また2種以上が組み合わされて用いられてもよい。
【0032】
前記重合助剤の使用量は、重合助剤の種類、ならびにアルカリ金属硫化物およびジハロベンゼンの種類などに応じて広い範囲から適宜選択することができるが、前記アルカリ金属硫化物の仕込み量1モルに対し、0.01モル~5モルが好ましく、0.1~2モルがより好ましい。
【0033】
前記溶媒としては、有機アミド溶媒等の極性溶媒を使用することが好ましい。前記有機アミド溶媒の中でも、反応の安定性が高いことから、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドンなどのN-アルキルピロリドン、N-メチル-ε-カプロラクタムなどのカプロラクタム類、1,3-ジアルキル-2-イミダゾリジノン、テトラアルキル尿素、ヘキサアルキル燐酸トリアミドなどに代表されるアブロチック有機アミド溶媒などのアミド系高沸点極性溶媒が好適に用いられる。これらの中でもN-メチル-2-ピロリドン(以下、NMPと略記する場合もある)が特に好適に用いられる。
【0034】
前記溶媒の使用量は、前記アルカリ金属硫化物の仕込み量1モル当たり0.2~10モルが好ましく、2~5モルがより好ましい。
【0035】
(1)前記ポリフェニレンサルファイドは、前記アルカリ金属硫化物および前記ジハロベンゼンの適量、ならびに必要に応じてジハロベンゼン以外のハロゲン化化合物および前記重合助剤の適量を、前記アミド系高沸点溶媒などの前記極性溶媒中に加え、高温高圧下に反応させることによって製造することができる。
【0036】
重合系内の圧力は、使用する助剤の種類や量、および所望する重合度等に応じて適宜選択される。また重合系内の温度および重合時間も、使用する助剤の種類や量、および所望する重合度等に応じて適宜選択されるが、好ましくは温度200~300℃において20分~50時間、より好ましくは温度230~280℃において1~10時間である。
【0037】
以上のようにして粉状または粒状のポリフェニレンサルファイドを得る。次いで、得られた粉状または粒状のポリフェニレンサルファイドを、水または/および溶媒で洗浄して、副製塩、重合助剤、未反応モノマ等を分離する。
【0038】
(2)本発明のポリフェニレンサルファイドフィルムに前述のように、ポリフェニレンサルファイド以外の樹脂(樹脂組成物(A))または粒子を添加する場合、まず、樹脂組成物(A)または粒子を、粉状または粒状の前記ポリフェニレンサルファイドに混ぜ、ヘンシェル等で均一混合する。また、酸化防止剤、熱安定剤、滑剤、紫外線吸収剤等の添加剤を添加する場合にも、同様にしてポリフェニレンサルファイドに混合する。
【0039】
次いで、得られた混合物を押出機、好ましくは1段以上のベント孔を有する押出機に供給し、290~360℃の温度で溶融混錬して適当な口金から押し出し、ポリフェニレンサルファイド樹脂組成物を得る。またガット状に溶融成形して、長さ2~10mm程度にカットし、ペレット状のポリフェニレンサルファイド樹脂組成物としてもよい。得られたポリフェニレンサルファイド樹脂組成物は、真空下の加熱式ドライヤで、温度100~180℃、時間1~5時間程度の条件で乾燥される。
【0040】
なお、樹脂組成物(A)や粒子を添加しない場合には、(1)で得られたポリフェニレンサルファイドに必要に応じて酸化防止剤、熱安定剤、滑剤、紫外線吸収剤などの添加剤を混合し、樹脂組成物(A)や粒子を含む混合物の場合と同様にして押出し成形または溶融成形し、ポリフェニレンサルファイド樹脂組成物として使用することができる。
【0041】
前記ポリフェニレンサルファイド樹脂組成物は、1種が単独で使用されてもよく、また2種以上が混合されて使用されてもよい。例えば、樹脂組成物(A)が添加されたポリフェニレンサルファイド樹脂ペレット(以後、マスターペレットとも称する)と、樹脂組成物(A)や粒子が添加されていないポリフェニレンサルファイド樹脂ペレット(以後、ベースペレットとも称する)とを混合して用いることができる。
【0042】
(3)次に、(2)で得られた前記ポリフェニレンサルファイド樹脂ペレットを用いて、本発明のポリフェニレンサルファイドフィルムを製造する。(2)で得られたポリフェニレン樹脂ペレットを減圧下、好ましくは真空度が0~50mmHgで120~230℃、好ましくは160~200℃の温度に加熱しながらミキサーで撹拌し、3時間以上、好ましくは5~10時間乾燥する。減圧が不十分であると、ポリフェニレンサルファイド樹脂同士が酸素で架橋され、変性ポリマーが生成されやすくなる。乾燥温度が230℃を越えると、乾燥原料が固まりフィルムの製膜に支障を来す懸念があり、また該温度が120℃未満では、ポリフェニレンサルファイド原料中の不純物、特に250℃程度にまで加熱して揮発するような高沸点化合物が残留し、フィルムの欠陥を引き起こす場合がある。
【0043】
前記ポリフェニレンサルファイド樹脂組成物の乾燥は、前述のようにして前記ポリフェニレンサルファイド樹脂組成物を乾燥した後、徐冷して室温まで戻し、再度乾燥させる等、多段階に分けて行ってもよい。
【0044】
次いで、乾燥された前記ポリフェニレンサルファイド樹脂組成物を用いて本発明のポリフェニレンサルファイドフィルムを作成するが、フィルムは単層でも複合層でもよい。複合フィルムを作製する場合、その積層方法としては、コーティング、ラミネートまたは共押出による方法等を用いることができる。その中でも、共押出による積層が、本発明のポリフェニレンサルファイドフィルムを構成する各層の厚みコントロールの上で好ましい。
【0045】
本発明のポリフェニレンサルファイドフィルムは、以下のようにして製膜されることが好ましい。まず、前記ポリフェニレンサルファイド樹脂組成物を溶融押出装置に供給し、前記ポリフェニレンサルファイド樹脂組成物の融点以上、好ましくは290~360℃の温度に加熱して溶融する。次いで、この溶融物をスリット状の口金出口から押出し、キャスティングロールと呼ばれる回転する金属ドラム上で冷却固化させる(キャストする)等の方法で急冷して未延伸フィルムを作製する。このとき、ポリマー流路にギアポンプ、スタティックミキサー、濾過装置を設置することが好ましい。
【0046】
得られた未延伸フィルムを、ロール群とテンターとを用いてフィルム長手方向(縦方向)およびフィルム幅方向(横方向)の延伸を順次行う逐次二軸延伸法、フィルム長手方向およびフィルム幅方向の延伸を同時に行う同時二軸延伸法等により延伸して延伸フィルムとすることができる。延伸方法の中でも逐次二軸延伸法が好ましい。
【0047】
逐次二軸延伸法を用いる場合の延伸条件は、前記ポリフェニレンサルファイド樹脂組成物に含まれるポリフェニレンサルファイドの種類、ならびにその他の樹脂や添加物の有無および種類などの各種条件に応じて広い範囲から適宜選択することができるが、温度80~120℃、より好ましくは90~110℃で、長手方向(縦方向)を3.5~5.0倍、より好ましくは3.9~4.4倍の倍率で延伸し、幅方向(横方向)を2.5~4.5倍、より好ましくは3.0~4.0倍の倍率で延伸することが好ましい。
【0048】
また、長手方向延伸時のフィルム加熱方法として、搬送ロールからの熱伝導による加熱と合わせて、ラジエーションヒーターによる加熱を行い、フィルム両面の温度を適正な範囲に調整することが、ポリフェニレンサルファイドの分子配向を制御することに繋がり更に好ましい。
【0049】
得られた延伸フィルムには、さらに熱処理を施すことが好ましい。このときの熱処理条件は、ポリフェニレンサルファイド樹脂組成物に含まれるポリフェニレンサルファイドの種類、ならびにその他の樹脂や添加剤の有無および種類などの各種条件に応じて広い範囲から適宜選択することができるが、温度は180℃以上、ポリフェニレンサルファイド組成物の融点以下、より好ましくは200℃以上、ポリフェニレンサルファイド樹脂組成物の融点(℃)-5℃の範囲で、定長または15%以下の制限収縮下に1~60秒間行うことが、耐熱性、機械特性、熱的寸法安定性の点で好ましい。さらに、該フィルムの熱寸法安定性を向上させるために、一方向もしくは二方向にリラックスしてもよい。特に、フィルムの幅方向に5.5%以上リラックスさせると、寸法変化率を小さくしやすくなるため好ましい。フィルムの幅方向に6.5%以上15%以下リラックスさせることがより好ましい。
【0050】
このようにして得られたポリフェニレンサルファイドフィルムは巻取コアに巻き取られポリフェニレンサルファイドフィルムロールとして出荷される。
【0051】
本発明のポリフェニレンサルファイドフィルムは、様々な工業用途に用いることができ、ポリフェニレンサルファイド樹脂の特性である電絶性を兼ね備えるため、絶縁粘着テープ基材用途に特に好適に用いることができる。
【実施例0052】
[測定方法]
(1)厚み(μm)
ミクロトーム(日本ミクロトーム研究所製電動ミクロトームST-201)を用いて断面切削したフィルムのスライス片を透過光顕微鏡で観察し、厚み(μm)を測定した。
【0053】
(2)破断強度(MPa)
JIS C2151(2019年)に基づいて、フィルムを10mm幅の短冊型に切り出し、標線距離を100mmとし、引張試験機を用いて試験速度200mm/分で引っ張り、試験フィルムが破断したときの応力を測定した。
【0054】
(3)破断伸度(%)
JIS C2151(2019年)に基づいて、フィルムを10mm幅の短冊型に切り出し、標線距離を100mmとし、引張試験機を用いて試験速度200mm/分で引っ張り、試験フィルムが破断したときの破断伸度を以下のように算出した。
破断伸度(%)=(B-A)/A×100
ここに、
A:試験前標線距離:A(100mm)
B:フィルム破断時の標線距離(mm)。
【0055】
(4)フィルムの手切れ性
フィルムを250mm×250mmに切り出し、長手方向における、すなわち裂け目が長手方向に進行する手切れ性を以下の通り評価した。
A:手で切り裂くことができ、裂いた部分の断面にバリが見られない。
B:手で切り裂くことができるが、裂いた部分の断面にバリが見られる。
C:手で切り裂くことができない。
【0056】
(5)成形加工性
モーター加工機(小田原エンジニアリング社製)を用いて、フィルムを12×80mmのサイズに打ち抜き、さらに折り目をつける加工をトータルの加工速度2個/秒の速度で1,000個(うち長手方向80mmのサンプルが500個、幅方向80mmのサンプルが500個)のサンプルを作製し、割れや亀裂の発生数を数えて、以下のように評価した。
合格:割れや亀裂の発生数が150個未満。
不合格:割れや亀裂の発生数が150個以上。
【0057】
[樹脂粉末およびペレットの製造]
(ポリフェニレンサルファイド粉末の製造)
撹拌機付きの70Lのオートクレーブに、濃度48質量%の水硫化ナトリウム水溶液を8.181kg(70.00モル)、純度96%の水酸化ナトリウムを2.943kg(70.63モル)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)を11.45kg(115.5モル)、無水酢酸ナトリウムを2.239kg(27.30モル)、及びイオン交換水を4.900kg(272.2モル)仕込み、常圧で窒素を通じながら240℃まで約3時間かけて徐々に加熱し、水9.12kgおよびNMP0.14kgを留出した後、反応容器を160℃に冷却した。この反応における撹拌速度は毎分240回転(240rpm)とした。
【0058】
仕込んだアルカリ金属硫化物1モル当たりの系内残存水分量およびNMPの加水分解に消費された水分量の合計は72.0モルであった。また、仕込んだアルカリ金属硫化物1モル当たり0.020モルの硫化水素が反応系外に飛散した。
【0059】
次に、p-ジクロロベンゼン(p-DCB)を10.29kg(69.97モル)、NMPを9.090kg(91.70モル)、反応系に加えた。反応容器を窒素ガス下に密封した後、400rpmで撹拌しながら、200℃から227℃まで0.8℃/分の速度で昇温し、次いで227℃から270℃まで0.6℃/分の速度で昇温し、270℃で140分保持した。
【0060】
その後、イオン交換水2.346kg(130.3モル)を15分かけて系内に添加しながら、250℃まで徐々に反応系を冷却した。次いで250℃から200℃まで1.0℃/分の速度で徐々に反応系を冷却し、その後、室温近傍まで急冷した。
【0061】
得られたポリフェニレンサルファイドの理論量1kg当たり、15kg(浴比1:15)のN-メチル-2-ピロリドン溶剤で90℃、1.5時間洗浄し、濾過を行った。得られたケークを、イオン交換水(浴比1:15)を用いて70℃、1.5時間で2回洗浄・濾過した。その後、酢酸カルシウムを1質量%含有するイオン交換水(浴比1:15)を用いて70℃、1.5時間で洗浄・濾過し、再度、イオン交換水(浴比1:15)を用いて70℃、1.5時間で2回、洗浄・濾過を行った。
【0062】
得られたポリマーを温度150℃にて真空下で4日間乾燥して、ポリフェニレンサルファイド粉末を得た。
【0063】
(粒子マスターペレットの作製)
平均粒径1.0μmの炭酸カルシウム粒子をエチレングリコール中に50質量%分散させたスラリーを調製した。このスラリーをフィルターで濾過した後、ヘンシェルミキサーを用いて、上記のポリフェニレンサルファイド粉末に炭酸カルシウムの含有量が7.0質量%となるよう混合した。得られた混合物を溶融押出し、粒子含有量7.0質量%の粒子ペレットを得た。以下、これをPPS樹脂Aと呼ぶ。
【0064】
(無粒子ペレットの作成)
上記ポリフェニレンサルファイド粉末ポリマーのみを溶融押出し、ポリフェニレンサルファイド樹脂のベースペレットを得た。以下、これをPPS樹脂Bと呼ぶ。
【0065】
[実施例1]
PPS樹脂AおよびPPS樹脂Bを樹脂合計量に対して炭酸カルシウムの含有量が1.0質量%となるよう混合した後、回転式真空乾燥機を用いて、3mmHgの減圧下にて温度180℃で4時間乾燥させた。
【0066】
乾燥させたペレットを単軸押出機に供給し310℃で溶融させ、Tダイ口金よりシート状にして押し出した。次いで、このシート状物を、静電印加キャスト法を用いて表面温度25℃のキャスティングドラムに巻きつけて冷却固化し、未延伸フィルムを作製した。
【0067】
得られた未延伸フィルムに対し、逐次二軸延伸法を用い、加熱搬送ロールとラジエーションヒーターにてフィルム両面を温度100℃に加熱して長手方向に4.2倍に延伸し、さらにテンターを通して、温度100℃で幅方向に3.6倍に延伸した。さらに幅方向に延伸するために用いたテンターに後続する熱処理室にて、温度265℃で熱処理し、6.8%の制限収縮下で幅方向にリラックス処理し、フィルムをコアに巻き取り、厚み50μmのポリフェニレンサルファイドフィルムを得た。
【0068】
[実施例2]
フィルム厚み、縦延伸条件、横延伸条件を表に記載のとおりとした以外は実施例1と同様にして、ポリフェニレンサルファイドフィルムを得た。
【0069】
[実施例3]
縦延伸条件を表に記載のとおりとした以外は実施例1と同様にして、ポリフェニレンサルファイドフィルムを得た。
【0070】
[比較例1]
縦延伸条件、横延伸条件、熱固定温度、リラックス率を表に記載のとおりとした以外は実施例1と同様にして、ポリフェニレンサルファイドフィルムを得た。
【0071】
[比較例2]
縦延伸条件、横延伸条件を表に記載のとおりとした以外は実施例1と同様にして、ポリフェニレンサルファイドフィルムを得た。
【0072】
[比較例3]
縦延伸条件を表に記載のとおりとした以外は実施例1と同様にして、ポリフェニレンサルファイドフィルムを得た。
【0073】
[比較例4]
縦延伸条件を表に記載のとおりとした以外は実施例1と同様にして、ポリフェニレンサルファイドフィルムを得た。
【0074】
[比較例5]
縦延伸条件を表に記載のとおりとした以外は実施例1と同様にして、ポリフェニレンサルファイドフィルムを得た。
【0075】
【表1】
【0076】
[観察まとめ]
実施例1~3では、フィルムの長手方向の破断強度および幅方向の破断強度の平均値が205MPa以上であり、フィルムの長手方向の破断強度の幅方向の破断強度に対する比が1.2以上であり、かつフィルムの長手方向の破断伸度および幅方向の破断伸度の平均値が70%以上であるために、手切れ性が良く、かつ成形加工性に優れたポリフェニレンサルファイドフィルムを得ることができた。
【0077】
比較例1では、フィルムの長手方向の破断強度の幅方向の破断強度に対する比が1.2未満であるために、手切れ性の悪いポリフェニレンサルファイドフィルムを得た。本比較例で得られたポリフェニレンサルファイドフィルムは、粘着テープ等へ加工した製品の取り扱い性が悪く、好適に用いることが難しい。
【0078】
比較例2では、フィルムの長手方向の破断強度の幅方向の破断強度に対する比が1.2未満であるために、手切れ性が悪いポリフェニレンサルファイドフィルムを得た。本比較例で得られたポリフェニレンサルファイドフィルムは、粘着テープ等へ加工した製品の取り扱い性が悪く、好適に用いることが難しい。
【0079】
比較例3では、フィルムの長手方向の破断強度の幅方向の破断強度に対する比が1.2未満であるために、手切れ性の悪いポリフェニレンサルファイドフィルムを得た。本比較例で得られたポリフェニレンサルファイドフィルムは、粘着テープ等へ加工した製品の取り扱い性が悪く、好適に用いることが難しい。
【0080】
比較例4では、フィルムの長手方向の破断伸度および幅方向の破断伸度の平均値が70%未満であるために、成形加工性が悪いポリフェニレンサルファイドフィルムが得られた。本比較例で得られたポリフェニレンサルファイドフィルムは、折り曲げ加工工程を含む製品へ好適に用いることが難しい。
【0081】
比較例5では、フィルムの長手方向の破断伸度および幅方向の破断伸度の平均値が70%未満であるために、成形加工性が悪いポリフェニレンサルファイドフィルムが得られた。本比較例で得られたポリフェニレンサルファイドフィルムは、折り曲げ加工工程を含む製品へ好適に用いることが難しい。