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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024070348
(43)【公開日】2024-05-23
(54)【発明の名称】ニーボルスター
(51)【国際特許分類】
   B60R 21/045 20060101AFI20240516BHJP
【FI】
B60R21/045 331
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022180773
(22)【出願日】2022-11-11
(71)【出願人】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】弁理士法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西久保 良
(72)【発明者】
【氏名】増田 泰士
(72)【発明者】
【氏名】三浦 渉
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 滋幸
(72)【発明者】
【氏名】柳澤 利仁
(57)【要約】
【課題】ニーボルスターを簡素な構成とする。
【解決手段】車両の乗員の膝部を拘束するためのニーボルスターは、乗員の膝部に当てられる膝あてパネルであって、車両内において運転する姿勢を取っている乗員の膝部と対向する位置に配置され、車両の幅方向に延びている膝あてパネルと、膝あてパネルを押し出す押出部であって、内装パネルの内側に配置され、車両の前後方向に延びている移動部材を有し、移動部材は、一方の先端が車両のフロントボディの内側に配置され、他方の先端に膝あてパネルが連結され、前後方向に移動可能である、押出部と、を備える。押出部は、一方の先端に衝撃が加わると、車両の後方へ向かって移動して膝あてパネルを押し出す。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の乗員の膝部を拘束するためのニーボルスターであって、
前記乗員の前記膝部に当てられる膝あてパネルであって、前記車両内において運転する姿勢を取っている前記乗員の前記膝部と対向する位置に配置され、前記車両の幅方向に延びている膝あてパネルと、
前記膝あてパネルを押し出す押出部であって、
前記車両の内装パネルの内側に配置され、前記車両の前後方向に延びている移動部材を有し、
前記移動部材は、一方の先端が前記車両のフロントボディの内側に配置され、他方の先端に前記膝あてパネルが連結され、前記前後方向に移動可能である、
押出部と、
を備え、
前記押出部は、前記移動部材の一方の先端に衝撃が加わると、前記車両の後方へ向かって移動して前記膝あてパネルを押し出す、
ニーボルスター。
【請求項2】
請求項1に記載のニーボルスターであって、
前記移動部材は、棒状の第1部材と、前記第1部材に連結されている棒状の第2部材と、を含み、
前記第1部材の一方の先端は、前記フロントボディの内側に配置され、他方の先端は、前記第2部材の一方の先端に連結され、
前記第2部材の他方の先端は前記膝あてパネルに連結されており、
前記移動部材が移動を開始した後に、前記移動部材に加えられる前記車両の後方方向の荷重の大きさがあらかじめ決められた基準値を超えると、前記第1部材と前記第2部材との連結が解除されるように、前記第1部材と前記第2部材とは連結されている、
ニーボルスター。
【請求項3】
請求項2に記載のニーボルスターであって、
前記第2部材は、
前記第1部材に連結されている前方部材と、
前記膝あてパネルに連結されている後方部材と、
前記後方部材を前記前方部材に対して回転可能に連結する連結部と、
を含み、
前記連結部は、前記幅方向に沿った回転軸まわりに、前記押出部の移動方向に対してあらかじめ決められた角度の範囲で、前記後方部材を前記前方部材に対して回転させることができる、
ニーボルスター。
【請求項4】
請求項3に記載のニーボルスターであって、
前記押出部は、
前記車両のステアリングコラムであって、決められた条件下において前記ステアリングコラムが前記車両の前方に向かって移動することが許容される衝撃吸収構造を備えたステアリングコラムに、前記車両に固定された支点部に架けられたワイヤにより連結されており、
前記車両の前方から衝撃を受けると前記車両の後方へ向かって移動するとともに、前記ワイヤを介して前記ステアリングコラムに前記車両の前方方向の成分を含む方向の引張荷重を加える、
ニーボルスター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ニーボルスターに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、車両の衝突事故の際、運転者が前方へ移動することを抑制するため、運転者の膝を受け止めるニーボルスターについての技術が記載されている。特許文献1に記載されているニーボルスターは、フロントボディの内側に配置されている、内側膝あてパネルと、膝あてパネルを突出させるアクチュエータと、車両に対する衝撃荷重を検出するセンサとを備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005-280429号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、乗車定員が1~2名程度である超小型モビリティが手軽な移動手段として普及しつつある。このような超小型モビリティにおいては、フロントボディの内側に、特許文献1に記載されているアクチュエータを備えるニーボルスターを配置する十分なスペースを確保することが難しい。よって、ニーボルスターを簡素な構成とすることが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
(1)本開示の一形態によれば、車両の乗員の膝部を拘束するためのニーボルスターが提供される。このニーボルスターは、前記乗員の前記膝部に当てられる膝あてパネルであって、前記車両内において運転する姿勢を取っている前記乗員の前記膝部と対向する位置に配置され、前記車両の幅方向に延びている膝あてパネルと、前記膝あてパネルを押し出す押出部であって、前記車両の内装パネルの内側に配置され、前記車両の前後方向に延びている移動部材を有し、前記移動部材は、一方の先端が前記車両のフロントボディの内側に配置され、他方の先端に前記膝あてパネルが連結され、前記前後方向に移動可能である、押出部と、を備える。前記押出部は、前記移動部材の一方の先端に衝撃が加わると、前記車両の後方へ向かって移動して前記膝あてパネルを押し出す。
上記の形態によれば、車両が他の自動車、建造物等に衝突することにより前方から衝撃を受けると移動部材が移動する。移動部材の移動により膝あてパネルが押し出される。このように、アクチュエータ、センサを備えない簡素な構成のニーボルスターにより、車両が衝撃を受けたときに乗員の膝部を拘束することができる。
(2)上記形態のニーボルスターにおいて、前記移動部材は、棒状の第1部材と、前記第1部材に連結されている棒状の第2部材と、を含み、前記第1部材の一方の先端は、前記フロントボディの内側に配置され、他方の先端は、前記第2部材の一方の先端に連結され、前記第2部材の他方の先端は前記膝あてパネルに連結されており、前記移動部材が移動を開始した後に、前記移動部材に加えられる前記車両の後方方向の荷重の大きさがあらかじめ決められた基準値を超えると、前記第1部材と前記第2部材との連結が解除されるように、前記第1部材と前記第2部材とは連結されていてもよい。
上記の形態によれば、押出部が移動を開始した後に、押出部に加えられる荷重があらかじめ決められた基準値を超えると、第1部材と第2部材との連結が解除されるので、第2部材に連結されている膝あてパネルにより乗員の膝部が圧迫され続けることを回避できる。よって、膝あてパネルによる過度の圧迫に起因した乗員のケガの発生を防止できる。
(3)上記形態のニーボルスターにおいて、前記第2部材は、前記第1部材に連結されている前方部材と、前記膝あてパネルに連結されている後方部材と、前記後方部材を前記前方部材に対して回転可能に連結する連結部と、を含み、前記連結部は、前記幅方向に沿った回転軸まわりに、前記押出部の移動方向に対してあらかじめ決められた角度の範囲で、前記後方部材を前記前方部材に対して回転させてもよい。
上記の形態によれば、膝あてパネルが乗員の膝部に接触し、膝部にある程度の力が加わると、膝あてパネルが回転軸まわりに決められた角度の範囲内で回転移動する。よって、膝あてパネルから膝部に加わる衝撃を逃がすことができる。よって、膝あてパネルによる過度の圧迫に起因した乗員のケガの発生を防止できる。
(4)上記形態のニーボルスターにおいて、前記押出部は、前記車両のステアリングコラムであって、決められた条件下において前記ステアリングコラムが前記車両の前方に向かって移動することが許容される衝撃吸収構造を備えたステアリングコラムに、前記車両に固定された支点部に架けられたワイヤにより連結されており、前記車両の前方から衝撃を受けると前記車両の後方へ向かって移動するとともに、前記ワイヤを介して前記ステアリングコラムに前記車両の前方方向の成分を含む方向の引張荷重を加えてもよい。
上記の形態によれば、押出部が移動するとともに、ワイヤにより連結されているステアリングコラムに引張荷重を加えるので、ステアリングコラムおよびステアリングホイールが車両の前方に移動させられる。従来は、車両が他の自動車、建造物等に衝突することにより、乗員がステアリングホイールに二次衝突した衝撃により、ステアリングコラムを車両の前方に移動させていた。この場合、ステアリングホイールに二次衝突することにより、乗員が頭部あるいは胸部にケガを負うことが多い。一方、上記の形態によれば、膝あてパネルを押し出す押出部の移動に連動して、ステアリングコラムおよびステアリングホイールが車両の前方に移動する。よって、乗員がステアリングホイールに衝突してケガを負うことを回避できる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】本実施形態にかかるニーボルスターの概略構成を示す図である。
図2】車両の斜め前方から見た場合のニーボルスターの概略構成を示す図である。
図3】車両の斜め後方から見た場合のニーボルスターの概略構成を示す図である。
図4】車両の上部から見た場合のニーボルスターの平面図である。
図5】部材23aの回転についての説明図である。
図6】第1部材と前方部材との連結部分の構成の一例を示す図である。
図7】膝あてパネル側から見た場合の第1部材と前方部材との連結部分を示す図である。
図8】第1部材と前方部材との連結の解除についての説明図である。
図9】第1部材と前方部材との連結部分の構成の他の例を示す図である。
図10】第1部材と前方部材との連結の解除についての説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
A.第1実施形態
図1は、本実施形態にかかるニーボルスターの概略構成を示す図である。図1においては、車両1を側面から見た場合のニーボルスターの構成を示す。図2は、車両の斜め前方から見た場合のニーボルスターの概略構成を示す図である。図3は、車両の斜め後方から見た場合のニーボルスターの概略構成を示す図である。図4は、車両の上部から見た場合のニーボルスターの平面図である。図1図4においては、車両1の幅方向に平行な方向をX軸とし、車両1の前後方向に平行な方向をY軸とし、鉛直方向に平行な方向をZ軸とする直交座標系を設定する。車両1の前方をY軸正方向とし、鉛直上方をZ軸正方向とする。ニーボルスター100は、乗員Pを保護するため車両1に備えられた装置である。車両1は、乗車定員が1人の低速EV(Low Speed Electric Vehicle :LSEV)である。車両1の最高速度は時速40キロメートル程度である。
【0008】
図1図3において、技術の理解を容易にするため、車両1が備える部品のうち、シート2、フロアパネル3、ダッシュボード4、ステアリングホイール5、ステアリングコラム6、支持部材7、ニーボルスター100を除くものについては図示していない。
【0009】
支持部材7は、ステアリングコラム6を車両1に取り付けている。支持部材7は、ダッシュボード4上面の裏側に取り付けられている第1ブラケット71と、第1ブラケット71にステアリングコラム6を固定する第2ブラケット72と、第1ブラケット71に第2ブラケット72を固定するネジ73とを含む。ダッシュボード4は、運転席の前方であって、フロントガラスより-Z側に配置される内装パネルである。また、図1においては、ステアリングコラム6とステアリングギアとを繋ぐ継ぎ手部品である中間軸等の図示を省略している。図4においては、ステアリングコラムが配置されている位置を破線の四角形として図示している。
【0010】
ニーボルスター100は、車両1の衝突の際に、乗員Pの膝部の移動を抑制する。ニーボルスター100は、膝あてパネル10と、押出部20と、引張部30とを備える。
【0011】
膝あてパネル10は、車両1が他の車両、建造物等に衝突した際に、押出部20により車両1の後方(-Y方向)に向かって押し出される。膝あてパネル10が乗員Pの膝部に当てられることにより、乗員Pの膝部が拘束される。これにより、乗員Pが前方(+Y方向)に向かって移動することが抑制される。
【0012】
膝あてパネル10は、車両1内において運転する姿勢を取っている乗員Pの膝部と対向する位置に配置されている。膝あてパネル10は、ダッシュボード4に設けられた開口を塞ぐように配置されている。膝あてパネル10は、X軸方向に沿って延びている略長方形の板状部材である。膝あてパネル10は、合成樹脂により形成されている。車両1の側面から見た場合に、膝あてパネル10の+Z側の端部が後方側に、-Z側の端部が前方側に位置するように、膝あてパネル10は、垂直方向に対して傾けられて配置されている。
【0013】
押出部20は、+Y側の先端に車両1の前方から衝撃を受けると、車両1の後方(-Y方向)に向かって移動することにより膝あてパネル10を押し出す。押出部20は、ダッシュボード4の内側において、ステアリングコラム6より-Z側に配置されている。押出部20は、第1部材21と、前方部材22と、後方部材23と、連結部24と、衝撃吸収体25とを含む。第1部材21と、前方部材22と、後方部材23と、を合わせて移動部材ともよぶ。前方部材22と後方部材23とを合わせて第2部材ともよぶ。
【0014】
第1部材21は、押出部20を構成する部材のうち、車両1内において最も前方に配置されている。第1部材21は、部材21a、21b、21cを含む。第1部材21を構成する各部材は、合成樹脂により形成されている。部材21aおよび21bは、Y軸方向にそって延びている一対の棒状の部材である。部材21cは、X軸方向に沿って延びている棒状の部材である。部材21cは、フロントバンパーの裏側に配置される。部材21cは、部材21aおよび部材21bの間隔を維持するように、部材21aおよび部材21bを連結する。なお、部材21a、21b、21cのうち、1つ以上の部材を板状の部材として構成してもよい。
【0015】
前方部材22は、第1部材21に連結され、第1部材21より後方に配置されている。前方部材22は、部材22a、22b、22cを含む。前方部材22を構成する各部材は、合成樹脂により形成されている。部材22aおよび22bは、Y軸方向に沿って延びている一対の棒状の部材である。部材22aの前方側の先端は、第1部材21の部材21aの後方側の先端に連結されている。部材22bの前方側の先端は、第1部材21の部材21bの後方側の先端に連結されている。部材22cは、X軸方向に沿って延びている棒状の部材である。部材22cは、部材22aおよび22bの間隔を維持するように、部材22aおよび22bを連結する。なお、部材22a、22b、22cのうち、1つ以上の部材を板状の部材として構成してもよい。
【0016】
後方部材23は、前方部材22に連結され、前方部材22より後方に配置されている。後方部材23は、部材23a、23bを含む。後方部材23を構成する各部材は、合成樹脂により形成されている。部材23aおよび23bは、Y軸方向に沿って延びている一対の棒状の部材である。部材23aの前方側の先端は、部材22aの後方側の先端に連結されている。部材23aの前方側の先端は、部材22aの後方側の先端に連結されている。部材23aおよび部材23bの後方側の先端それぞれは、膝あてパネル10の膝部に対向面とは逆の面、即ち、膝あてパネル10の+Y側の面に連結されている。相互に連結された状態において、第1部材21と前方部材22と後方部材23のY軸方向における長さは、例えば、フロントバンパーから膝あてパネル10に到達する程度の長さに設定されている。第1部材21が後述の板部材31上を滑り動くことにより、第1部材21と、前方部材22と、後方部材23とは、車両1の前後方向に移動可能である。なお、部材23a、23bのうち、1つ以上の部材を板状の部材として構成してもよい。
【0017】
連結部24は、前方部材22と後方部材23とを連結する。連結部24は、一対の連結部24a、24bを含む。連結部24aは、ヒンジ構造を有し、部材23aを部材22aに対して回転可能に連結する。以下、連結部24aについて説明するが、連結部24bも同様の構成を備える。
【0018】
図5は、部材23aの回転についての説明図である。図5の上部に示すように、膝あてパネル10が-Y方向に突出したときに、連結部24aは、X軸方向に沿った回転軸まわりに部材23aを回転させる。連結部24aは、矢印D1が示す回転方向に部材23aを回転させる。部材23aは、押出部20が移動する方向(-Y方向)に対して、決められた角度の範囲で回転させられる。決められた角度は、例えば、25度である。また、部材23aは、矢印D1が示す方向とは反対方向に回転しないように構成されている。さらに、部材23aは、膝あてパネル10が-Y方向に突出する前に回転しないように構成されている。
【0019】
図5の上部に示すように、膝あてパネル10が-Y方向に突出して乗員Pの膝部に接触すると、膝あてパネル10から膝部に力が加えられる。膝部に膝あてパネル10からある程度の力が加わると、膝あてパネル10に膝部から反力が加わる。よって、図5の下部に示すように、部材23aおよび膝あてパネル10は上に向かって回転移動する。このように、部材23aが回転可能に部材22aに連結されているので、膝あてパネル10から膝部に加わる衝撃を逃がすことができる。よって、膝あてパネルによる過度の圧迫に起因した乗員のケガの発生を防止できる。
【0020】
衝撃吸収体25は、膝あてパネル10の膝部に接触する面とは逆の面、即ち、膝あてパネル10の+Y側の面に取り付けられている。衝撃吸収体25は、例えば、合成樹脂により形成されている。衝撃吸収体25は、乗員Pの膝部が膝あてパネルに衝突することにより衝撃を受けたときに、変形して衝突エネルギーを吸収する。
【0021】
図1図4に示す、引張部30は、押出部20の移動に伴い、ステアリングコラム6に引張荷重を加える。引張部30は、板部材31と、滑車32と、ワイヤ33とを備える。板部材31は、ダッシュボード4内において車両1に固定される。押出部20が移動する際には、第1部材21が板部材31上を滑り動く。滑車32は板部材31の上に固定されることにより、車両1に固定される。滑車32には、後述するワイヤ33が架けられる。滑車32は、押出部20の移動の妨げとならないように、例えば、部材22aと22bとの間に配置される。滑車32を支点部ともよぶ。
【0022】
ワイヤ33は、金属製のワイヤであり、押出部20とステアリングコラム6とを繋ぐ。ワイヤ33は、例えば、部材22cに連結されている。押出部20が車両1の後方に向かって移動すると、ワイヤ33を介してステアリングコラム6に車両1の前方方向の成分を含む方向の引張荷重が加えられる。
【0023】
本実施形態において、ステアリングコラム6は衝撃吸収構造を備える。衝撃吸収構造により、決められた条件下においてステアリングコラム6が車両1の前方に向かって移動することが許容される。決められた条件とは、ステアリングコラム6に一定の引張荷重が加えられることである。衝撃吸収構造は、例えば、以下のような周知技術を用いたものであってもよい。ステアリングシャフトを収容するコラムジャケットは、アウタジャケットとインナジャケットを含み、筒状のアウタジャケットの内周面に筒状のインナジャケットが圧入される。インナジャケットの内部にステアリングシャフトが収容される。ステアリングシャフトはインナジャケットに体して相対的に移動できない。ワイヤ33は、例えば、ステアリングシャフトに連結される。一定の引張荷重が加えられると、インナジャケットとアウタジャケットとの相対移動が許容され、ステアリングコラム6が収縮する。ステアリングコラム6が収縮することにより、ステアリングホイール5が前方に移動する。これにより、乗員Pがステアリングホイール5に衝突した際の衝撃を低減することができる。
【0024】
続いて、図1に示すニーボルスター100が乗員Pの膝部を拘束する様子を説明する。例えば、車両1が建造物に衝突することにより、車両1に前方から衝撃が加わったとする。前方から-Y方向に加えられた衝撃により、押出部20が後方(-Y方向)に向かって移動する。押出部20が移動することにより、後方(-Y方向)に向かって膝あてパネル10が押し出される。図5の上部に示すように、押出部20がさらに-Y方向に移動することにより、膝あてパネル10は乗員Pの膝部に接触する。図5の下部に示すように、膝あてパネル10に膝部から反力が加わると、部材23aおよび膝あてパネル10が+Z方向に移動するように回転移動する。また、押出部20が膝あてパネル10を押し出すのと並行して、ワイヤ33を介して車両1の前方方向(+Y方向)の成分を含む方向の引張荷重がステアリングコラム6に加えられる。一定の引張荷重が加えられるとステアリングコラム6が収縮する。よって、ステアリングホイール5が前方(+Y方向)に移動する。
【0025】
本実施形態においては、車両1が前方から衝撃を受けると、押出部20が移動し、膝あてパネル10が後方に向かって押し出される。このように、アクチュエータ、センサを備えない簡素な構成のニーボルスター100により、車両1が衝撃を受けたときに乗員Pの膝部を拘束することができる。また、超小型モビリティにおいては、フロントボディの内側に、アクチュエータ、センサを備える十分なスペースを確保することが難しい。よって、本実施形態にかかる構成は超小型モビリティに好適である。また、アクチュエータ、センサを必要としないので、ニーボルスター100を安価に提供することができる。
【0026】
また、押出部20が移動するとともに、ワイヤ33により繋がれているステアリングコラム6に引張荷重が加えられるので、ステアリングコラム6およびステアリングホイール5が前方に移動させられる。従来は、車両が他の自動車、建造物等に衝突することにより、乗員がステアリングホイールに二次衝突した衝撃により、ステアリングコラムを前方に移動させていた。この場合、ステアリングホイールに二次衝突することにより、乗員が頭部あるいは胸部にケガを負うことが多い。本実施形態にかかる構成によれば、膝あてパネル10を押し出す押出部20の移動に連動して、ステアリングコラム6およびステアリングホイール5が前方に移動する。よって、乗員Pがステアリングホイール5に衝突してケガを負うことを回避できる。
【0027】
B.第2実施形態
第1実施形態においては、第1部材21と前方部材22とが単に連結されている例を説明した。あるいは、第1部材21と前方部材22とは、以下に説明するような構成により連結されていてもよい。第2実施形態において、第1部材と前方部材22との連結構造以外については第1実施形態と同様である。以下、第1実施形態と異なる構成を中心に説明し、第1実施形態と同様の構成については説明を省略する。
【0028】
本実施形態において、あらかじめ決められた条件が満たされたときに、第1部材21と前方部材22との連結が解除されるように、第1部材21と前方部材22とが連結されている。あらかじめ決められた条件は、押出部20が移動を開始した後に、押出部20に加えられる車両1の後方方向の荷重の大きさがあらかじめ決められた基準値を超えることである。
【0029】
図6は、第1部材21と前方部材22との連結部分の構成の一例を示す図である。図7は、膝あてパネル10側から見た場合の第1部材21と前方部材22との連結部分を示す図である。図8は、第1部材21と前方部材22との連結の解除についての説明図である。以下、第1部材21の部材21aと前方部材22の部材22aとの連結部分を例に説明するが、第1部材21の部材21bと前方部材22の部材22bとの連結部分も同様に構成されている。
【0030】
本実施形態において、部材21aは、中空の四角柱である。部材22aは、中空の四角柱である。部材21aの内部空間は、部材22aを収納できる大きさを有するように構成されている。なお、部材22aについては必ずしも中空である必要はない。部材22aの外側の4つの側面には、それぞれ凸部81が設けられている。凸部81は、それぞれ半球状の形状に構成されている。部材22aが部材21aの内部空間に挿入されると、凸部81が部材21aの内壁に押し当てられる。凸部81と部材21aの内壁との間の静止摩擦力により、部材22aは部材21aに固定される。また、部材22aに凸部81が設けられているので、部材22aが部材21aの内部空間においてガタつくことが防止される。なお、凸部81との形状は任意の形状に変更可能である。
【0031】
部材22aの4つの側面には、それぞれテーパ部83が形成されている。テーパ部83は、凸部81より、車両1の後方側、即ち、-Y側に配置されている。テーパ部83は、正方形の板状部材を含む。テーパ部83の一辺は、部材22aの側面に固定されている。残りの3辺は、部材22aの側面に固定されていない。テーパ部83は、部材21aの移動方向A1(-Y方向)に向かうにしたがって広がるように構成されている。具体的には、テーパ部83は、部材22aの側面に対して、例えば、25度傾けられて部材22aの側面に固定されている。テーパ部83と部材22aの側面との間にはバネ84が配置されている。バネ84の一方の端部は部材22aの側面に接触している。バネ84の他方の端部はテーパ部83における部材22aの側面と対向する面に接触している。バネ84は、あらかじめ決められた荷重が加えられると、部材22aの内側方向に縮む。なお、部材22aの4つの側面すべてではなく、対向する2つの側面それぞれにテーパ部83およびバネ84が設けられてもよい。
【0032】
図6に示す状態のとき、車両1が前方から衝撃を受けたとする。この結果、車両1の後方方向(-Y方向)の成分を含む方向の荷重が部材21aに加えられる。静止摩擦力を超える荷重が部材21aに加えられると、部材21aは移動方向A1に向かって移動し始める。しかしながら、テーパ部83およびバネ84に加えられる荷重の大きさがあらかじめ決められた基準値を超えない間は、部材21aと部材22aとは一体となって移動する。さらに、テーパ部83およびバネ84に加えられる荷重の大きさがあらかじめ決められた基準値を超えると、図8に示すように、バネ84が縮む。よって、部材21aと部材22aとの連結が解除される。したがって、部材21aのみが移動方向A1に移動する。
【0033】
上述した構成により、押出部20が移動を開始した後に、押出部20に加えられる荷重があらかじめ決められた基準値を超えると、部材21aと部材22aとの連結が解除される。よって、部材22a、部材22b、膝あてパネル10が移動し続けない。仮に、部材21aと部材22aとの連結が解除されない場合、膝あてパネル10により乗員Pの膝部が圧迫され続けてしまう。しかしながら、本実施形態にかかる構成においては、膝あてパネル10により乗員の膝部が圧迫され続けることを回避できる。よって、膝あてパネルによる過度の圧迫に起因した乗員Pのケガの発生を防止できる。
【0034】
C1.他の実施形態1
図9は、第1部材21と前方部材22との連結部分の構成の他の例を示す図である。本実施形態においても、第2実施形態と同様に、押出部20が移動を開始した後に、押出部20に加えられる荷重の大きさがあらかじめ決められた基準値を超えると、第1部材21と前方部材22との連結が解除されるように、第1部材21と前方部材22とは連結されている。以下、第1実施形態、第2実施形態と異なる構成を中心に説明し、同様の構成については説明を省略する。以下、第1部材21の部材21aと前方部材22の部材22aとの連結部分を例に説明するが、第1部材21の部材21bと前方部材22の部材22bとの連結部分も同様に構成されている。
【0035】
部材22aの対向する2つの側面には、それぞれ爪部85が形成されている。爪部85は、凸部81より、車両1の後方側、即ち、-Y側に配置されている。爪部85は、板状部材を折り曲げて形成したようなV字形状として構成されている。爪部85の一辺は、部材22aの側面に固定されている。爪部85は、部材21aの移動方向A1と反対の方向(+Y方向)に向かうにしたがって広がるように配置されている。爪部85は、あらかじめ決められた荷重が加えられると塑性変形する。なお、部材22aの4つの側面すべてにそれぞれ爪部85が設けられてもよい。
【0036】
図10は、第1部材21と前方部材22との連結の解除についての説明図である。車両1が前方から衝撃を受けた結果、車両1の後方方向(-Y方向)の成分を含む方向の荷重が部材21aに加えられる。静止摩擦力を超える荷重が部材21aに加えられると、図10の上段に示すように、部材21aは移動方向A1に向かって移動し始める。しかしながら、爪部85に加えられる荷重の大きさがあらかじめ決められた基準値を超えない間は、部材21aと部材22aとは一体となって移動する。さらに、爪部85に加えられる荷重の大きさがあらかじめ決められた基準値を超えると、図10の中段に示すように、部材21aから爪部85にあらかじめ決められた荷重が加えられると、爪部85は塑性変形する。図10の下段に示すように、爪部85は塑性変形により溝部を有しない形状に変形する。よって、部材21aと部材22aとの連結が解除される。この結果、部材21aのみが移動方向A1に移動する。
【0037】
上述した構成により、押出部20が移動を開始した後に、押出部20に加えられる荷重があらかじめ決められた基準値を超えると、部材21aと部材22aとの連結が解除される。よって、部材22a、部材22b、膝あてパネル10が移動し続けない。仮に、部材21aと部材22aとの連結が解除されない場合、膝あてパネル10により乗員Pの膝部が圧迫され続けてしまう。しかしながら、本実施形態にかかる構成においては、膝あてパネル10により乗員の膝部が圧迫され続けることを回避できる。よって、膝あてパネルによる過度の圧迫に起因した乗員Pのケガの発生を防止できる。
【0038】
C2.他の実施形態2
第1実施形態において、ヒンジ構造を有する連結部24により、前方部材22と後方部材23とを連結することで、膝あてパネル10が乗員Pの膝部に接触したときに、後方部材23の部材23aおよび23bが回転移動する構成について説明した。しかしながら、ニーボルスター100はこのような構成を備えなくてもよい。この場合、前方部材22の部材22aと後方部材23の部材23aを車両1の前後方向に延びている一本の棒状の部材として構成することができる。また、前方部材22の部材22bと後方部材23の部材23bを車両1の前後方向に延びている一本の棒状の部材として構成することができる。このように構成することで、ニーボルスター100を第1実施形態より簡素な構成とすることができる。
【0039】
C3.他の実施形態3
第1実施形態において、ワイヤ33により押出部20とステアリングコラム6とを繋ぐ連結例を説明した。しかしながら、押出部20とステアリングコラム6とは連結されなくてもよい。
【0040】
この場合、ステアリングコラムは、以下のような周知技術を用いた衝撃吸収構造を備えていてもよい。ステアリングコラムを車両に取り付ける際は、コラム側ブラケットが、コラム側ブラケットに形成された切欠き溝に通された樹脂ピンを介して、車体側ブラケットに連結される。二次衝突時には、樹脂ピンの破断に伴って、コラム側ブラケットが車体側ブラケットから車両体前方へ離脱する。よって、乗員がステアリングホイールに衝突した際の衝撃を低減することができる。
【0041】
あるいは、第1実施形態で説明したように、ステアリングコラムは収縮する構成を備えていてもよい。二次衝突時のみ、インナジャケットとアウタジャケットとの相対移動が許容されるよう構成される。第1実施形態とは異なり、押出部20とステアリングコラム6とが連結されていないためである。ステアリングコラムが収縮することにより、乗員がステアリングホイールに衝突した際の衝撃を低減することができる。本実施形態においては、ワイヤ33と滑車32とが不要となるので、ニーボルスター100をより簡素な構成とすることができる。
【0042】
本開示は、上述の実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態中の技術的特徴は、上述の課題の一部または全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部または全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【符号の説明】
【0043】
1…車両、2…シート、3…フロアパネル、4…ダッシュボード、5…ステアリングホイール、6…ステアリングコラム、7…支持部材、10…膝あてパネル、20…押出部、21…第1部材、21a…部材、21b…部材、21c…部材、22…前方部材、22a…部材、22b…部材、22c…部材、23…後方部材、23a…部材、23b…部材、24…連結部、24a…連結部、24b…連結部、25…衝撃吸収体、30…引張部、31…板部材、32…滑車、33…ワイヤ、60…ステアリングコラム、71…第1ブラケット、72…第2ブラケット、73…ネジ、81…凸部、83…テーパ部、84…バネ、85…爪部、100…ニーボルスター、A1…移動方向、D1…矢印、P…乗員
図1
図2
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図7
図8
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図10