(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024070352
(43)【公開日】2024-05-23
(54)【発明の名称】アルミニウム溶湯用不定形耐火物
(51)【国際特許分類】
C04B 35/66 20060101AFI20240516BHJP
C22B 21/06 20060101ALI20240516BHJP
【FI】
C04B35/66
C22B21/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022180780
(22)【出願日】2022-11-11
(71)【出願人】
【識別番号】591149344
【氏名又は名称】伊藤忠セラテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078190
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 三千雄
(74)【代理人】
【識別番号】100115174
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 正博
(72)【発明者】
【氏名】武藤 大夢
(72)【発明者】
【氏名】中村 貴彦
(72)【発明者】
【氏名】河野 静一郎
(72)【発明者】
【氏名】庄司 大記
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA02
4K001GA13
(57)【要約】
【課題】耐火製品の製造に際して、浸透抑制剤の添加を必須とするものではない、若しくはその使用量を低減させても、優れた浸透抑制機能を発揮せしめることが出来る、高機能なアルミニウム溶湯用不定形耐火物を提供する。
【解決手段】耐火物主原料と耐火性結合剤とを少なくとも含むアルミニウム溶湯用不定形耐火物において、耐火物主原料を、7%以下の見掛け気孔率を有する緻密なセラミック粉粒体にて構成すると共に、Al2O3の65質量%以上とMgOの0.06~35質量%とその他の成分の5質量%以下とからなる化学組成を全体として有するように構成し、且つ耐火物主原料が、1mm未満の粒度の微粉を40~95質量%含有すると共に、1mm-45μmの粒度の微粉:20~60質量%と、45μm未満の粒度の微粉:20~75質量%とを有するように構成した。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐火物主原料と耐火性結合剤とを少なくとも含む、アルミニウム溶湯に接触する耐火面を形成するための不定形耐火物にして、
該耐火物主原料が、7%以下の見掛け気孔率を有する緻密なセラミック粉粒体にて構成されると共に、Al2O3の65質量%以上とMgOの0.06~35質量%とその他の成分の5質量%以下とからなる化学組成を全体として有し、且つ該耐火物主原料の40~95質量%が、前記化学組成を有する1mm未満の粒度の微粉にて構成されており、更に該耐火物主原料が、1mm-45μmの粒度の微粉の20~60質量%と45μm未満の粒度の微粉の20~75質量%とを有していることを特徴とするアルミニウム溶湯用不定形耐火物。
【請求項2】
前記耐火物主原料が、前記化学組成を与える焼結体の破砕物であることを特徴とする請求項1に記載のアルミニウム溶湯用不定形耐火物。
【請求項3】
前記化学組成を有する1mm未満の粒度の微粉が、コランダムとスピネルの2相が共存する鉱物相を有するものであることを特徴とする請求項1に記載のアルミニウム溶湯用不定形耐火物。
【請求項4】
前記化学組成を有する1mm未満の粒度の微粉が、コランダム単相又はスピネル単相からなる鉱物相を有するものであることを特徴とする請求項1に記載のアルミニウム溶湯用不定形耐火物。
【請求項5】
前記耐火物主原料が、75~99質量%の割合で含有されていることを特徴とする請求項1に記載のアルミニウム溶湯用不定形耐火物。
【請求項6】
前記耐火性結合剤が、アルミナセメントであることを特徴とする請求項1に記載のアルミニウム溶湯用不定形耐火物。
【請求項7】
浸透抑制剤が、更に含有せしめられていることを特徴とする請求項1乃至請求項6の何れか1項に記載のアルミニウム溶湯用不定形耐火物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム溶湯用不定形耐火物に係り、特に、アルミニウム溶湯に接触する、溶解炉、保持炉、取鍋、樋等の内面(耐火面)を形成するために用いられる不定形耐火物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、アルミニウムやアルミニウム合金の溶解、鋳造等において、アルミニウム溶湯(アルミニウム合金溶湯を含む。以下同じ)が直接に接触する部位において、その接触面を耐火面とするべく用いられる耐火物には、(a)耐火物へのアルミニウムの付着、浸透によるオバケの成長防止、(b)溶湯の汚染及び成分変化の防止、更には(c)物理的摩耗や熱衝撃による破損耐性、長寿命化等が求められている。
【0003】
ここで、上記の(a)における「オバケ」とは、耐火物へ付着、浸透したアルミニウムや揮発したガス成分が、空気と反応して、アルミニウム溶湯液面上部に生成、成長する固着物を指すものであって、そのようなオバケの生成は、メタルロスや効率低下に繋がり、更にオバケの欠片が溶湯に混入することで、非金属介在物の発生要因となるところから、かかるオバケの物理的な除去が行われることとなるが、その際、耐火物が損傷することも多い。また、上記の(b)に関しては、還元性の強いアルミニウム溶湯によって、耐火物組織が分解されて、生成する遊離成分によるところの溶湯の汚染や、オバケやアルミドロスの生成において、溶湯中の特定成分が濃縮されることにより、溶湯の成分変化が惹起される恐れを内在している。さらに、(c)の長寿命化に関しては、アルミニウム溶湯を取り扱う不定形耐火物の損耗は、主に、前述したアルミニウム溶湯による化学的浸食によるものと、溶湯の流動による摩耗や機械的衝撃、急激な昇降温に基づくところの熱衝撃といった物理的な損傷による影響が挙げられる。
【0004】
このため、従来より、オバケの抑制や耐火物の耐食性向上には、主に、アルミニウム溶湯に対する濡れ性を低下させることと、耐火物の緻密化を図ることにより、その対策が為されてきており、また熱衝撃に対しては、耐火物の断熱性向上や低熱膨張化によって、損耗の防止が図られてきている。例えば、アルミニウム溶湯に対する濡れ性を低下させる方法としては、フッ素化合物、ホウ素化合物、硫酸バリウム、ジルコンに代表される浸透抑制剤を添加したり(特許文献1~3参照)、そのような浸透抑制剤を用いて、耐火物表面コーティングを実施したり(特許文献4~5参照)、耐火物の主要材料を、黒鉛や炭化ケイ素、窒化ケイ素、ジルコンのようなアルミニウム溶湯に濡れ難い材質とすること(特許文献6~7参照)等が、提案されている。
【0005】
しかしながら、それら従来の濡れ性低減対策は、何れも、浸透抑制剤からなる添加成分を用いた特性の付与を、基本的な考え方とするものであり、アルミニウム溶湯用不定形耐火物の多くで使用されている耐火物主原料たるアルミナ原料そのものの特性改善に取り組んだ報告は為されていない。また、浸透抑制剤として多く用いられているフッ素化合物については、アルミニウム溶湯に混入すると、ガスとして大気中に放出されたり、産業廃棄物となるアルミドロスを生じたりすることとなるが、それらは人体に有害であったり、環境負荷が高いといった問題がある。このため、アルミニウムの溶解・製錬工程において、同じくフッ素化合物がよく用いられるフラックス材においては、既に、脱フッ素化が推進されているところから、同様に、耐火材においても、今後、脱フッ素化が必要になるものと考えられる。
【0006】
また、不定形耐火物において、その主要原料をSi系材料に変更した場合にあっては、アルミニウム溶湯に対する耐食性が向上せしめられ得たとしても、溶湯面の上方に位置する部位では、空気によって酸化されることにより、SiO2 が生成されるようになる。而して、かかるSiO2 は、アルミニウム溶湯によって分解され易く、そのために、不純物であるSi成分の混入が生じる問題を内在している。更に、アルミニウム溶湯において、Si成分の増加は、耐火物への浸透を促進することとなり、黒色化とも呼ばれる黒い変質層を形成することとなるが、この変質層は、元の耐火物よりも高い膨張率を有するものであるところから、構造スポーリングによる損傷の要因ともなる問題を内在しているのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭59-169971号公報
【特許文献2】特開平1-192773号公報
【特許文献3】特開2006-182576号公報
【特許文献4】特許第4783660号公報
【特許文献5】WO2013/111731
【特許文献6】特開2000-344575号公報
【特許文献7】特開2019-210180号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述の如く、アルミニウム溶湯用不定形耐火物においては、その配合成分の中でも、最も多くの割合を占める主原料たる、アルミナ原料そのものの機能向上に焦点を当てた提案は、殆ど為されておらず、現状では、費用対効果の観点から、ハイアルミナ質の低セメントキャスタブルに浸透抑制剤を添加することにより、機能向上を図る提案が、主流となっているのである。而して、アルミニウム製品の高品質化要求やコスト競争のためのメタルロスの軽減を図るべく、アルミニウム溶湯に接触する耐火面を有する耐火製品への浸透抑制効果の向上が求められる一方で、環境負荷低減のために、化学物質規制が強まっているという相反する状況下において、耐火物主原料であるアルミナ原料の機能向上は、必須のものとなっている。
【0009】
本発明は、かかる事情を背景にして為されたものであって、その解決課題とするところは、耐火物主原料たるセラミック原料そのものに、アルミニウム溶湯に対する浸透抑制機能を付与することで、耐火製品の製造に際して、浸透抑制剤の添加を必須とするものではない、若しくはその使用量を低減させても、優れた浸透抑制機能を発揮せしめることが出来る、高機能なアルミニウム溶湯用不定形耐火物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そして、本発明は、上記した課題を解決するために、以下に列挙せる如き各種の態様において、好適に実施され得るものであるが、また、以下に記載の各態様は、任意の組み合わせにおいて、採用可能である。なお、本発明の態様乃至は技術的特徴は、以下に記載のものに何等限定されることなく、明細書全体の記載、及びそこに開示の発明思想に基づいて、認識され得るものであることが、理解されるべきである。
【0011】
そこで、本発明は、先ず、前記した課題を解決すべく、耐火物主原料と耐火性結合剤とを少なくとも含む、アルミニウム溶湯に接触する耐火面を形成するための不定形耐火物にして、該耐火物主原料が、7%以下の見掛け気孔率を有する緻密なセラミック粉粒体にて構成されると共に、Al2O3の65質量%以上とMgOの0.06~35質量%とその他の成分の5質量%以下とからなる化学組成を全体として有し、且つ該耐火物主原料の40~95質量%が、前記化学組成を有する1mm未満の粒度の微粉にて構成されており、更に該耐火物主原料が、1mm-45μmの粒度の微粉の20~60質量%と45μm未満の粒度の微粉の20~75質量%とを有していることを特徴とするアルミニウム溶湯用不定形耐火物を、その要旨とするものである。
【0012】
なお、かかる本発明に従うアルミニウム溶湯用不定形耐火物の好ましい態様の一つによれば、前記耐火物主原料が、前記化学組成を与える焼結体の破砕物であることを特徴としている。
【0013】
また、本発明に従うアルミニウム溶湯用不定形耐火物の好ましい態様の他の一つによれば、前記化学組成を有する1mm未満の粒度の微粉が、コランダムとスピネルの2相が共存する鉱物相を有するものであり、或いは、コランダム単相又はスピネル単相からなる鉱物相を有するものであることを特徴とする。
【0014】
さらに、本発明に従うアルミニウム溶湯用不定形耐火物の好ましい別の態様の一つによれば、前記耐火物主原料が、75~99質量%の割合で含有されていることを特徴とするものである。
【0015】
加えて、本発明にあっては、望ましくは、前記耐火性結合剤は、アルミナセメントであることを特徴としている。
【0016】
そして、本発明に従うアルミニウム溶湯用不定形耐火物の望ましい態様の他の一つによれば、浸透抑制剤が、更に含有せしめられており、これによって、より優れた浸透抑制効果が発揮せしめられ得るようになっている。
【発明の効果】
【0017】
このように、本発明に従うアルミニウム溶湯用不定形耐火物にあっては、MgOを所定量含有する高機能Al2O3-MgO質セラミック原料を用いることで、従来のアルミナ原料との単純置換が可能となるのであり、これによって、アルミニウム溶湯に対する濡れ性が効果的に低減せしめられ得て、以下に列挙せる如き格別な作用乃至は効果を発揮し得るのである。
(1)従来のアルミナ原料との単純置換が可能となるために、基本となる配合設計を損な うことなく、アルミニウム溶湯に対する耐浸食性が向上する。
(2)アルミニウム溶湯の汚染が少なくなることにより、メタルロスを低減せしめ得て、 製品品質や生産性が向上する。
(3)従来の不定形耐火物としての機能を維持したまま、浸透抑制剤の添加量の低減が可 能となる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
ところで、本発明に係るアルミニウム溶湯用不定形耐火物は、原料そのものに、アルミニウム溶湯に対して濡れ難いという効果を付与することで、アルミニウム溶湯に対する不定形耐火物の耐浸透性を向上せしめてなるところに、大きな特徴を有するものであって、そこで用いられる耐火物主原料は、7%以下の見掛け気孔率を有する緻密なセラミック粉粒体にて構成されると共に、Al2O3の65質量%以上と、MgOの0.06~35質量%と、その他の成分の5質量%以下とからなる化学組成を、全体として有しているものである。
【0019】
ここで、かかる耐火物主原料を構成するセラミック粉粒体は、不定形耐火物の吸水量を低減せしめ、また、そのような不定形耐火物を用いて形成される炉壁や側壁等の耐火製品における、アルミニウム溶湯の浸透の抑制を図る上において、7%以下の見掛け気孔率を有する緻密質な構造を有していることが必要である。これに反して、その見掛け気孔率が7%を超えるようになると、セラミック粉粒体(骨材)中の気孔による吸水量が多くなり過ぎて、不定形耐火物の施工時における必要添加水分量が増加し、結果として、不定形耐火物の気孔率の増加や、耐食性の低下を惹起するようになる。
【0020】
また、本発明は、Al2O3の65質量%以上と、MgOの0.06~35質量%と、その他の成分の5質量%以下とからなるAl2O3-MgO系の化学組成を全体として有する高機能セラミック原料を、耐火物主原料として用いるものであるが、そのような化学組成において、MgOが1質量%以下となる場合にあっては、セラミック原料の構成鉱物は、コランダム単相となり、またMgOが1~20質量%の場合には、コランダムとスピネルの2相が共存するものとなり、更にMgOが20~35質量%の場合にあっては、スピネル単相となる。なお、ここで言うスピネルとは、Al2O3-MgOスピネルを指すものである。そして、MgO組成比率が増加し、35質量%を超えるようになると、スピネルに加えて、ペリクレースが晶出し始めるようになる。而して、その生じるペリクレースは、水和反応を生じ易く、ブルーサイトを生成して、脆化するようになるところから、長期保管が困難であり、水と混練して施工し、且つ数ヶ月~数年間使用されるアルミニウム溶湯用不定形耐火物には、不適となるものである。加えて、MgOを殆ど含まないコランダム単相のセラミック原料の場合においては、アルミニウム溶湯に対する浸透抑制機能は充分に発揮され得ないのである。このため、本発明において用いられる耐火物主原料におけるMgO組成比率は、0.06~35質量%である必要があり、より好ましくは0.08~30質量%である。
【0021】
さらに、上述の如き化学組成を有する耐火物主原料は、単一組成のAl2O3-MgO系のセラミック原料にて構成される他、そのようなAl2O3-MgO系セラミック原料に、他の組成のAl2O3-MgO系セラミック原料や、別の成分組成のセラミック原料等を混合してなる配合物を用いることも可能であるが、2種以上のセラミック原料の配合物にあっては、その全体としての化学組成が、前記した本発明にて規定される範囲内のAl2O3やMgOを含有している必要がある。そして、それらセラミック原料は、不定形耐火物の配合で通常採用される各種の粒度、具体的には、5-3mm(粗粒)、3-1mm(中粒)、1mm-45μm(微粒)、-45μm(微粉)等の粒度に整粒して、それらを適宜の割合において配合して、耐火物主原料が構成されることとなる。また、目的とする耐火製品のサイズに応じて、5mmを超えるような粒度のセラミック原料(粒子)も、適宜に用いられることとなる。
【0022】
そして、本発明にあっては、上述の如き特定の化学組成を全体として有する耐火物主原料において、その40~95質量%が、かかる特定の化学組成を有する1mm未満の粒度の微粉にて構成されている必要があると共に、更に耐火物主原料の20~60質量%が、1mm-45μm(1mm未満、45μm以上)の粒度の微粉にて構成されており、且つ耐火物主原料の20~75質量%が-45μm、換言すれば45μm未満の粒度の微粉にて構成されている必要があり、これによって、原料そのものにおけるアルミニウム溶湯に対する濡れ難さの効果を有利に高め得て、不定形耐火物の耐浸透性が効果的に向上せしめられ得ることとなるのである。なお、前記した化学組成を有する1mm未満の粒度の微粉の割合や、1mm-45μmの粒度の微粉の割合、更には45μm未満の粒度の微粉の割合が、少なくなり過ぎると、本発明の効果が充分に発揮され難くなるからであり、一方、それらの割合が多くなり過ぎると、不定形耐火物を用いた施工上において、各種の問題等を生じて、目的とする特性を発揮し難くなる等の問題がある。
【0023】
なお、本発明に従う耐火物主原料を構成する上述の如き化学組成を有するセラミック原料は、主原料である仮焼アルミナに、マグネシウム成分添加剤、更にバインダを加えて、混練した後、加圧成形によってペレットの如き造粒体を形成し、次いで、その得られた造粒体を、水分率が1%以下になるまで乾燥させた後、ロータリーキルン等の焼成炉を用いて、1700℃以上の温度で焼成せしめ、そしてその得られた焼結体を、従来と同様にして、機械的な破砕機を用いて破砕して、破砕粒子として製造されるものであって、実際には、そのような破砕粒子が各種の粒度に整粒されて、用いられることとなる。なお、かかる焼成に際しては、得られる焼結体の見掛け気孔率が7%以下となるまで、充分に焼成(焼結)を行う必要がある。そして、そこで仮焼アルミナに配合されるマグネシウム成分添加剤としては、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム等のマグネシウム無機酸塩や、硫酸マグネシウム、炭酸マグネシウム等のマグネシウムオキソ酸塩、ステアリン酸マグネシウムやスルホン酸マグネシウム等のマグネシウムの有機酸塩が使用可能であり、またバインダの一部に、マグネシウム成分を含んでいるものであっても、何等差し支えない。
【0024】
また、かかる焼結体を破砕して得られるセラミック原料(粒子)は、主にコランダムやスピネルの鉱物相からなる緻密な焼結構造を有しており、そのようなセラミック原料を主体として、これに、アルミナセメント等の耐火性結合剤を配合して、作製される不定形耐火物にあっては、一般的なアルミナ原料を使用した場合と比較して、アルミニウム溶湯に対する濡れ性が効果的に低減せしめられ得て、従来から用いられている浸透抑制剤を添加しなくても、アルミニウム溶湯の浸透を抑制乃至は阻止する効果を、有利に発現し得ることとなるのである。
【0025】
ところで、本発明に従う耐火物主原料を構成する、所定の化学組成を有するセラミック原料が、アルミニウム溶湯に対して非濡れ性を示す要因については、以下のように考察されている。先ず、アルミニウムは、非常に酸化し易い金属であり、同時に溶湯表面に生成した酸化皮膜は、緻密且つ内部保護作用を有している。液体と固体の濡れ角は、それぞれの表面張力によって決定されるものであるが、アルミニウム溶湯においては、酸化皮膜の有無によって、表面張力が大きく左右されることが知られており、酸化皮膜がある場合は0.8~0.9N/m、酸化皮膜がない場合は1.0~1.1N/mと報告されている。そして、液相/固相/気相間における濡れ角は、以下のYoungの式(1)で表すことが出来るのである。
【数1】
ここで、θは接触角であり、アルミニウム溶湯と固体のコランダムやスピネル間においてはθ>90°となる。γ
LGは液体・気体界面に働く表面張力であり、γ
SGは固体・気体界面に働く表面張力であり、γ
SLは固体・液体界面に働く表面張力を示している。γ
SGはアルミニウム溶湯の影響を受けないので変動せず、酸化被膜は液相/気相界面で新規生成されるものであるところから、γ
SLも変動しないと考えた場合に、酸化被膜を生成して、γ
LGが小さくなると、接触角θは増大し、濡れ難くなることが分かる。
【0026】
また、工業的なアルミニウム合金溶湯においては、材料品種によって、100分の数質量%~10質量%強のMgを含有しており、その酸化被膜及びアルミドロスは、たとえMgの含有比率が僅かであっても、Al
2O
3-MgOスピネルを主要鉱物として形成することとなる。これは、以下の反応式(2)及び(3)で示すように、Mgの方が、Alよりも酸化され易く、優先的に酸化されると共に、スピネルとして析出することとなるからである。
【数2】
【数3】
【0027】
ここで、アルミニウム溶湯とAl2O3-MgOスピネルとが接した場合において、アルミニウム溶湯に殆どMgが含まれない場合でも、スピネルよりMg2+イオンが拡散することで、スピネル被膜を生成するようになるのである。このスピネル被膜は、アルミナ被膜と比較して、熱力学的に安定であり、例えば1000℃以上の温度において、アルミナ被膜はアルミニウム溶湯によって還元分解されて、Al2O(g)を生成し、消失する場合があるが、スピネル被膜の場合は、同条件でも、還元分解されることはないのである。
【0028】
本発明者らの研究の結果、このようなスピネル被膜の生成促進作用は、Al2O3-MgO理論組成スピネル(MgAl2O4:MgO 28.3質量%)でなくとも生じる可能性があり、その結果、MgOを0.06~35質量%含有したコランダム及び/又はスピネルから成るセラミック原料を、アルミニウム溶湯用不定形耐火物の耐火物主原料として用いることで、それによって形成された耐火面と接するアルミニウム溶湯表面に、スピネル被膜を形成し、耐火面とアルミニウム溶湯間の濡れ性を低下させることにより、耐火面へのアルミニウム溶湯の浸透が効果的に抑制され得るものと考えられている。
【0029】
また、上述の如き特定の化学組成を有する高機能セラミック原料は、不定形耐火物における耐火物主原料の構成成分の一つとして用いられるものであり、他の緻密なセラミック原料を併用することも可能であって、その場合においては、耐火物主原料の全体として、前記した特定の化学組成を満たす範囲内において、公知のセラミック原料、例えばアルミナや黒鉛、炭化ケイ素、窒化ケイ素、ジルコン、ムライト、シャモット、溶融シリカ等の骨材や粉粒体を用いることが可能である。なお、その際、本発明の特徴である、アルミニウム溶湯に対する非濡れ性の特性を充分に機能させるためには、アルミニウム溶湯により還元分解が生じるムライトやシャモットの如きAl2O3-SiO2 系の原料の使用は、可及的に少量に止めることが望ましいと言うことが出来る。
【0030】
そして、本発明に従う不定形耐火物には、上述の如き耐火物主原料と共に、それを結合するための耐火性結合剤、例えばアルミナセメント、水硬性アルミナ、リン酸塩、ケイ酸塩、シリカゾル、樹脂等の公知の結合剤が、配合せしめられることとなる。この耐火性結合剤の使用量は、従来の不定形耐火物における含有割合と同様であり、一般に、不定形耐火物の1~30質量%程度の割合において、用いられることとなる。
【0031】
さらに、本発明に従う不定形耐火物は、従来の如き浸透抑制剤を用いることなく、アルミニウム溶湯に対して優れた浸透抑制効果を発揮し得るものであるが、そのような浸透抑制剤を併用することによって、アルミニウム溶湯の浸透抑制効果を、更に向上せしめることが可能となる。この浸透抑制剤としては、特に制限はなく、従来と同様なものを使用することが可能である。けだし、アルミニウムの融点は約660℃であり、アルミニウム溶解炉の操業温度は高くとも1000℃程度であるところから、例えばフッ化カルシウムやホウ酸アルミニウム、硫酸バリウム、ジルコンのような浸透抑制剤に対して、本発明に係る不定形耐火物の耐火物主原料を構成するコランダムやスピネルは、安定となるものであるために、それぞれの効果を損なうことはないからである。そして、かかる浸透抑制剤の使用量としては、従来と同様な割合、例えば、不定形耐火物の1~20質量%程度となる割合において、用いられることとなる。
【0032】
なお、本発明に従う不定形耐火物には、分散剤として、リン酸ナトリウムやポリカルボン酸、ポリアクリル酸等の公知のものが適宜に配合され得る等、公知の各種の添加剤が、必要に応じて配合せしめられ得ることは、言うまでもないところである。
【0033】
本発明に従うアルミニウム溶湯用不定形耐火物は、上述の如き特定の化学組成を有する耐火物主原料や耐火性結合剤を必須成分として含み、更に必要に応じて、浸透抑制剤、分散剤等の公知の各種の添加剤を配合することによって、構成されるものであるところ、かかる耐火物主原料の不定形耐火物中の含有割合としては、本発明の目的を達成し得る範囲内において、適宜に選定されるところであるが、一般に、75~99質量%の範囲内となるように設定されることとなる。不定形耐火物中の耐火物主原料の含有割合が少なくなり過ぎると、不定形耐火物としての使用が困難となったり、本発明の特徴を効果的に発揮し難くなる等の問題を生じ易くなるのである。
【実施例0034】
以下に、本発明の幾つかの実施例を示し、比較例と対比することにより、本発明を更に具体的に明らかにすることとするが、本発明が、そのような実施例や比較例の記載によって、何等の制約をも受けるものでないことは、言うまでもないところである。また、本発明には、以下の実施例の他にも、更には上記の具体的記述以外にも、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々なる変更、修正、改良等を加え得るものであることが理解されるべきである。
【0035】
先ず、不定形耐火物における耐火物主原料として、下記表1に示される各種の耐火物原料を準備した。そこにおいて、各焼結品A~Dは、それぞれ、仮焼アルミナに、所定量のマグネシウム成分(酸化マグネシウム)やバインダを加えて、混練した後、ペレット状に造粒し、次いで、その得られた造粒物を乾燥した後、1700℃以上の温度で焼成することによって、焼結体を形成せしめ、更にその焼結体を機械的に破砕して、製造されたものである。なお、それら焼結体の破砕粒子は整粒されて、それぞれの粒度の耐火物原料として、使用されることとなる。また、耐火物原料として準備されるタビュラーアルミナは、市販の焼結アルミナ材料であり、電融アルミナ(WA)は、市販品であり、更にムライトは、公知のAl2O3-SiO2 質材料である。
【0036】
そして、それぞれの耐火物原料について、その主要鉱物相は、X線回折装置を用いて同定され、またAl2O3、MgO及びSiO2 の各成分の含有比率は、蛍光X線分析装置で測定されたものであり、更に見掛け気孔率は、JIS-R-2205に準じて、測定されたものである。それらの測定結果が、下記表1に示されている。なお、化学成分におけるSiO2 は、Al2O3及びMgO以外のその他の成分の一つである。勿論、かかるその他の成分には、SiO2 のみならず、他の不純物成分も含まれることとなることは、言うまでもないところである。
【0037】
【0038】
次いで、かかる準備された各種の耐火物原料を用いて、下記表2及び表3に示される各種の不定形耐火物を、各種粒度組成において、それぞれ調製した。即ち、実施例1では、耐火物主原料として、MgO含有量が0.08質量%の焼結品A材料が用いられ、また実施例2では、MgO含有量が10.5質量%の焼結品B材料が用いられ、更に実施例3においては、MgO含有量が25.7質量%の焼結品C材料が用いられている。そして、実施例4~6では、何れも、上記焼結品A材料が用いられている一方、実施例7では、5-3mmや3-1mmの粗粒・中粒部に、MgO含有量が痕跡量(Tr)の焼結品D材料が用いられる一方、1mm-45μmや-45μmの微粒・微粉部に、上記焼結品C材料が用いられてなる混合粉粒体にて、耐火物主原料が構成されるようにした。
【0039】
一方、比較例1~3では、耐火物主原料として、何れも、MgOを殆ど含有しない(Tr)、前記焼結品D材料、焼結アルミナ(タビュラーアルミナ)材料、又は市販の電融アルミナ(WA)材料が用いられ、そして比較例4では、Al2O3-SiO2 質のムライト材料が用いられている。また、比較例5,6では、前記焼結品A材料を用いて、各粒度比率が変動させられており、比較例7では、粗粒・中粒部に前記焼結品D材料が用いられる一方、微粒・微粉部には、前記焼結品A材料が用いられているが、耐火物主原料の全体としてのMg含有量は、0.05質量%に留まっている。更に、比較例8は、粗粒・中粒部に、前記焼結品C材料を用いる一方、微粒・微粉部に、前記焼結品D材料を用いたものであり、比較例9においては、粗粒・中粒部に、ムライト材料を用いる一方、微粒・微粉部には、前記焼結品A材料が用いられている。
【0040】
ところで、実施例及び比較例において調製された耐火物主原料は、下記表2及び表3に示される5-3mmの粗粒部と、3-1mmの中粒部と、1mm-45μmの微粒部と、-45μmの微粉部とからなる粒度構成を有するものとされているが、そこにおいて、「5-3mm」の粒度の粗粒とは、破砕粒子の分級に際して、粒子が5mm目の金網を通過し、且つ3mm目の金網は通過しない大きさを有するものであることを意味している。同様に、「3-1mm」の粒度の中粒は、3mm目の金網は通過するが、1mm目の金網は通過しないものを意味し、また「1mm-45μm」の粒度の微粒は、1mm目の金網は通過するが、45μm目の金網は通過しないものを意味し、更に「-45μm」の粒度の微粉は、45μm目の金網を通過する大きさのものであることを意味している。
【0041】
なお、下表に示される実施例や比較例に係る不定形耐火物には、何れも、主原料以外の材料として、市販の仮焼アルミナと、硬化剤(耐火性結合剤)としてのハイアルミナセメントと、分散剤とが、それぞれ、下表に示される割合において、配合されている。そこで、分散剤のみが、外掛けによる割合において示されている。
【0042】
そして、実施例及び比較例において採用される不定形耐火物の全ての配合組成を評価するに際しては、同程度の作業性であることを前提として、評価用の試験片を作製した。具体的には、作業性の指標として、タップフローが約160~170mmとなるように、添加水分量を調整し、混練時間5分、鋳込み作業完了までを10分以内とした。フロー値の測定は、JIS-R-2521に準じて行い、フローコーンを取り去ってから1分後の最大径部とその直交方向の径の平均値をフリーフロー値とし、このフリーフロー値の測定直後に、フロー台に約30秒で10回の落下衝撃を加えた後の最大径部とその直交方向の径の平均値をタップフロー値として、測定した。そして、試験片としては、物性/強度/対スポーリング性試験用の直方体形状と、浸食試験用の坩堝形状の2種類を作製した。具体的には、直方体形状は、40mm×40mm×160mmのサイズを採用する一方、坩堝形状の各寸法は、外径85mm、上部内径65mm、底部内径60mm、高さ60mm、底面厚さ10mmとした。更に、各試験片は、各不定形耐火物を、それぞれの形状の型枠に約3Gの振動を加えて鋳込んだ後、常温で24時間養生して、脱枠し、更に110℃の乾燥機で24時間の乾燥を行うことにより、作製した。その後、直方体試料については、850℃の温度で、72時間の焼成を実施した。
【0043】
実施例及び比較例の各不定形耐火物について、それぞれの流動性の評価は、添加水分とタップフロー値を総合して実施し、流動性が最も高いものを「++++」と評価すると共に、流動性が低下する毎に、「+++」、「++」、「+」として評価した。即ち、添加水分は、6%未満、6~7%、7%以上で区分し、タップフロー値は150mm未満、150~160mm、160~170mm、170mm以上に区分した上で、添加水分6%未満且つタップフロー値160~170mmを「++++」とし、添加水分6%未満且つタップフロー値150~160mm若しくは添加水分6~7%且つタップフロー値160~170mm及び170mm以上を「+++」とし、添加水分6~7%且つタップフロー値150~160mm若しくは添加水分7%以上且つタップフロー値160~170mm及び170mm以上を「++」、添加水分7%以上且つタップフロー値150~160mm若しくはタップフロー値150mm未満を「+」として、評価し、ここでは、「+」の区分を、流動性不良と判定した。なお、上記した流動性評価以外の特異な挙動を示した配合については、流動性評価の結果に、※を付けて、区別した。
【0044】
また、嵩比重及び見掛け気孔率の測定については、850℃で焼成して得られた直方体試料を用いて、JIS-R-2205に準じて実施すると共に、圧縮強度の測定については、かかる850℃で焼成した直方体試料を用いて、JIS-R-2553に準じて実施した。
【0045】
さらに、耐スポーリング性については、水冷スポーリング試験により評価した。この試験には、850℃で焼成して得られた直方体試料を用い、予め1000℃に加熱、保持した電気炉内に試料を投入して、15分間加熱した後、電気炉から試料を取り出して、直ちに水槽に沈めることにより、5分間急冷した。このとき、水槽の水温は50~70℃とした。そして、試料を水中から取り出した後、室温で10分間放置した。この加熱15分-水冷5分-放置10分を1回の熱衝撃サイクルとし、試料に亀裂が生じた熱衝撃サイクルの回数にて、耐スポーリング性を比較した。そして、最初に亀裂が確認された熱衝撃サイクルが、7回以上である場合には、「++++」とし、熱衝撃サイクルが5~6回の場合には、「+++」とし、熱衝撃サイクルが3~4回の場合には、「++」とし、2回以下で亀裂が生じた場合には、「+」とした。従って、耐スポーリング性が最も高いものは、「++++」であり、「+++」、「++」、「+」の順に、熱衝撃に弱くなることを示しており、ここでは、「+」の区分を、耐スポーリング性不良と判定した。
【0046】
更にまた、耐浸透性の評価は、アルミニウム溶湯を用いた坩堝浸食試験により、実施した。具体的には、乾燥した坩堝形状の試料(成形体)に、アルミニウム合金(AC2B)溶湯を注湯して、電気炉内で850℃×72時間保持した後に、自然放冷し、そしてダイヤモンドカッターで縦方向に二分割した後、その断面部分へのアルミニウム合金の浸透状況及びアルミニウム合金と坩堝試料との付着状体を観察して、評価した。そこで、耐浸透性が最も高いものを、「++++」として、耐浸透性が低下する毎に、「+++」、「++」、「+」とした。より具体的には、坩堝形状試料の分割断面に、アルミニウム合金の浸透が確認出来ず、坩堝形状試料とアルミニウム合金とが、特に力を加えなくても、容易に剥離可能で有り且つ剥離後の坩堝形状試料とアルミニウム合金の接触面において、特に坩堝形状試料側に浸透の痕跡や黒色化した酸化皮膜の付着が確認されないものを、「++++」として評価した。また、断面にアルミニウム合金の浸透が確認出来ず、坩堝形状試料とアルミニウム合金とが、特に力を加えなくても、容易に剥離可能であるが、剥離後の坩堝形状試料とアルミニウム合金の接触面において、特に坩堝形状試料側に、数mm程度の浸透の痕跡や黒色化した酸化皮膜の付着が確認される場合を、「+++」と評価し、更に坩堝形状試料の分割断面にアルミニウム合金が一部浸透しており、坩堝形状試料とアルミニウム合金の剥離が困難である場合を、「++」と評価し、加えて、坩堝形状試料の分割断面及び坩堝形状試料の背面までアルミニウム合金の浸透が確認され、坩堝形状試料の上部にオバケの生成が確認される場合を、「+」と評価した。そして、ここでは、「++」、「+」の区分を、耐浸透性不良と判定した。
【0047】
そして、上記した各種特性の評価結果を踏まえて、総合評価として、「◎」、「○」、「△」、「×」の四段階の評価を実施した。本発明においては、特に耐浸透性に重点を置いているため、耐浸透性の四段階評価を基本として、耐浸透性が「++++」の場合は、「◎」とする一方、「+」の場合は、「×」とした。加えて、流動性及び耐スポーリング性で、不良判定がある場合には、不良判定毎に総合評価を一段階下げ、更に、流動性及び耐スポーリング性の両方が不良ではないものの、優れていない「++」評価であった場合も、総合評価を一段階下げている。従って、総合評価「◎」は、耐浸透性に優れ、他の特性も実用上問題ない配合であることを意味しており、また総合評価「○」は、耐浸透性に優れるが、一部の特性が劣る若しくは実用上問題ない範囲ではあるが、特に優れた特徴のない配合となるものであり、更に「△」、「×」に関しては、一部若しくは全体的に劣る特性を有するものであると評価されたものである。
【0048】
以上の測定方法乃至は評価方法に従って、実施例及び比較例における各種不定形耐火物について求められた、フリーフロー値、タップフロー値、流動性、嵩比重、見掛け気孔率、圧縮強度、耐スポーリング性、及び耐浸透性、更にはそれらの総合評価について、それらの結果を、下記表2及び表3に併せ示した。
【0049】
【0050】
【0051】
かかる表2及び表3の結果の対比から明らかな如く、実施例1~3及び比較例1は、同様な製法で作製された焼結品からなるセラミック骨材を用いた配合を採用するものであるが、MgO含有量の多い焼結品B材料や焼結品C材料を使用した配合では、耐浸透性が優れているのに対して、MgO含有量の減少に伴い、耐浸透性が低下することが、認められる。特に、MgOを殆ど含まない焼結品D材料を使用した比較例1では、僅か72時間の浸透試験で、アルミニウム合金が坩堝形状試料の背面まで達していることが認められた。このことは、製法の異なるアルミナ骨材を用いた比較例2や比較例3でも、比較例1と殆ど同様に、激しく浸透する結果となったことから、セラミック原料に含まれるMgOの有無によって、アルミニウム合金溶湯に対する耐浸透性が、大きく変動することが認められる。また、比較例4で用いたムライト骨材は、MgO含有量において、焼結品A材料の約3倍となるものであるが、アルミニウム合金溶湯に対する耐浸透性は大きく劣る結果となった。これは、耐火物主原料におけるAl2O3及びMgO以外の他の成分(SiO2 )の含有量が5質量%を遙かに超えるものであることに加えて、ムライトが還元雰囲気下で分解する鉱物であるところから、アルミニウム溶湯によって骨材が分解されることで、浸透が促進されているものと考えられる。
【0052】
また、実施例4~6及び比較例5~6は、実施例1における不定形耐火物の配合組成について、その耐火物主原料の粒度構成を、細目~粗目に極端に変更したものである。一般に、不定形耐火物における粒度構成は、FurnasやAndreasen等による細密充填モデルを基本として、使用用途に応じて調整、最適化することで、各粒度の配合比率が決定されている。そのため、極端な粒度構成では、充分な性能が発揮出来ない場合がある。例えば、実施例4では、粗粒である5-3mmの粒度のものを無くして、微粉の-45μmのものを65%とした微粉過多な配合が採用されており、全体として良好な結果ではあるが、その流動特性はフリーフローとタップフローの値の差異から明らかなように、高いチキソトロピー性を示す傾向が確認されている。また、比較例5,6の場合にあっては、3-1mmや5-3mmの粒度のものが多い、中~粗粒過多な配合となっているのであるが、流動性が悪いだけでなく、加振によって微粉部と添加水分によるスラリーと骨材(中~粗粒)が分離する現象も確認されており、焼成後の試料強度も低下傾向となっている。更に、比較例6においては、粗粒間の大きな空隙が残存するところから、アルミニウム合金溶湯に対する耐浸透性も低下していることが認められるのである。
【0053】
更にまた、実施例7と比較例7の配合組成は、比較例1の配合組成において、微粒・微粉部のみを焼結品C材料又は焼結品A材料に置換してなる配合組成を採用するものであるが、実施例7においては、耐火物主原料における全体としてのMgO含有量は、本発明の範囲内となるものである一方、比較例7においては、MgO含有量が、耐火物主原料の全体として、本発明の範囲外の値(0.05%)となっている。その結果、実施例7や比較例7では、実施例1,3と比較例1の中間の特性を示すものとなったが、本発明に従うMgO含有量を全体として有する実施例7に係る不定形耐火物にあっては、充分な浸透抑制効果を発現し、その効果の程度は、一部置換によって変化するMgOの含有量と相関関係があることが認められる。
【0054】
加えて、比較例8では、粗粒・中粒部に焼結品C材料を用いてはいるものの、1mm-45μmや-45μmの微粒・微粉部を含む1mm未満の粒度の微粉が、本発明に規定される化学組成を有するものではないところから、アルミニウム合金溶湯に対する非濡れ性の特徴が充分に発揮され得ないことが理解される。また、比較例9においては、微粒・微粉部に、本発明に従う化学組成を有する焼結品A材料が用いられてはいるものの、粗粒・中粒部に使用されたムライト骨材によって、耐火物主原料の全体としてのSiO2 含有量が5%を越えるようになるために、そのようなムライト骨材成分による影響が大きく現れて、アルミニウム合金溶湯が背面まで浸透する結果となっているのである。
【0055】
また、かくの如き本発明に従う不定形耐火物の特徴は、更に、浸透抑制剤を併用することにより、有利に向上せしめられ得ることとなる。下記表4に示される実施例8~10及び比較例10~11の結果は、実施例1及び比較例1における不定形耐火物の配合組成を基本とし、浸透抑制剤としてフッ化カルシウム(CaF2 )を、外掛けで、2~10%添加した場合における耐火物評価を明らかにしている。
【0056】
【0057】
かかる表4の結果より明らかなように、実施例8~10においては、浸透抑制剤(フッ化カルシウム)の更なる添加により、先の表2における実施例1の結果よりも、アルミニウム合金溶湯に対する耐湿潤性が向上することが認められる。また、MgOを含有する焼結品A材料を骨材として用いた実施例8~10の方が、一般に流通しているアルミナ骨材と同様に、MgOを含有しない焼結品D材料を骨材とする比較例10,11と比較して、浸透抑制剤の添加量が同量でも、より耐浸透性が高い結果を示すものとなった。これは、同時に、焼結品A材料を使用することで、より少ない浸透抑制剤の添加にて、耐浸透性に優れた不定形耐火物を得ることが出来ることを示しているのである。