(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024070356
(43)【公開日】2024-05-23
(54)【発明の名称】積層デバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/301 20060101AFI20240516BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20240516BHJP
H01L 21/683 20060101ALI20240516BHJP
H01L 25/07 20060101ALI20240516BHJP
【FI】
H01L21/78 Q
H01L21/78 L
H01L21/304 621B
H01L21/68 N
H01L25/08 Y
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022180788
(22)【出願日】2022-11-11
(71)【出願人】
【識別番号】000108753
【氏名又は名称】タツモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000970
【氏名又は名称】弁理士法人 楓国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山邊 浩
(72)【発明者】
【氏名】佐野 一郎
【テーマコード(参考)】
5F057
5F063
5F131
【Fターム(参考)】
5F057BA11
5F057CA14
5F057CA31
5F057CA36
5F057DA01
5F057DA22
5F057DA28
5F057DA31
5F063AA36
5F063BA11
5F063BA13
5F063CB05
5F063CB06
5F063CB07
5F063CB08
5F063CB29
5F063DD01
5F063DD25
5F063DD37
5F063DD46
5F063DD59
5F063DD68
5F063DG03
5F063DG23
5F063EE07
5F063EE09
5F063EE73
5F131AA02
5F131BA43
5F131BA52
5F131CA33
5F131EC32
5F131EC42
5F131EC52
5F131EC62
5F131EC67
5F131EC72
(57)【要約】
【課題】複数のチップが積層された積層デバイスの製造技術において、製造プロセスの顕著な簡略化を実現する。
【解決手段】積層デバイスの製造方法では、第1形成ステップと、第2形成ステップと、接合ステップと、を実行する。第1形成ステップでは、複数のチップ領域が設けられている第1接合対象を第1保持シートによって保持した状態で、当該複数のチップ領域をそれぞれ個片化するための切断部を第1接合対象に形成する。第2形成ステップでは、複数のチップ領域が設けられている第2接合対象を第2保持シートによって保持した状態で、当該複数のチップ領域をそれぞれ個片化するための切断部を第2接合対象に形成する。接合ステップでは、第1保持シート及び第2保持シートを互いに相対移動させることにより、第1接合対象と第2接合対象とを、それらのチップ領域どうしが所定の位置関係で積層されるように接合する。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のチップ領域が設けられている第1接合対象を第1保持シートによって保持した状態で、当該複数のチップ領域をそれぞれ個片化するための切断部を前記第1接合対象に形成する第1形成ステップと、
複数のチップ領域が設けられている第2接合対象を第2保持シートによって保持した状態で、当該複数のチップ領域をそれぞれ個片化するための切断部を前記第2接合対象に形成する第2形成ステップと、
前記第1保持シート及び前記第2保持シートを互いに相対移動させることにより、前記第1接合対象と前記第2接合対象とを、それらのチップ領域どうしが所定の位置関係で積層されるように接合する接合ステップと、
を実行する、積層デバイスの製造方法。
【請求項2】
前記接合ステップの後、前記第2接合対象から前記第2保持シートを剥離し、当該第2接合対象に対して、複数のチップ領域が設けられている別の接合対象を更に接合する、請求項1に記載の積層デバイスの製造方法であって、
前記接合ステップで接合された前記第1接合対象及び前記第2接合対象を新たな第1接合対象とし、且つ、前記別の接合対象を新たな第2接合対象として、前記第2形成ステップ及び前記接合ステップを更に実行する、積層デバイスの製造方法。
【請求項3】
前記第2形成ステップの前に前記第2接合対象を薄化する薄化ステップ
を更に実行する、請求項1又は2に記載の積層デバイスの製造方法。
【請求項4】
前記接合ステップの後、前記第1保持シート又は第2保持シートを剥離し、その後、別の保持シートである伸縮性シートへ前記第1接合対象及び前記第2接合対象を転写する転写ステップと、
前記伸縮性シートを伸展させることにより、前記切断部を介して隣接するチップ領域を離間させる伸展ステップと、
を更に実行する、請求項1に記載の積層デバイスの製造方法。
【請求項5】
前記第1保持シート及び前記第2保持シートの少なくとも何れか一方は伸縮性シートであり、
前記接合ステップの後、前記第1保持シート及び前記第2保持シートのうちの、前記伸縮性シートである何れか一方の保持シートを残して、もう一方の保持シートを剥離し、その後、剥離せずに残した前記保持シートを伸展させることにより、前記切断部を介して隣接するチップ領域を離間させる伸展ステップ
を更に実行する、請求項1に記載の積層デバイスの製造方法。
【請求項6】
前記第1形成ステップ及び前記第2形成ステップでは、前記切断部として、前記伸展ステップにて前記伸縮性シートを伸展させたときに前記第1接合対象及び前記第2接合対象を破断させる溝、孔、及び内部欠陥の少なくとも何れか1つを形成する、請求項4又は5に記載の積層デバイスの製造方法。
【請求項7】
前記第1保持シート及び前記第2保持シートは何れも、少なくとも吸着力を持った樹脂又はゴムを主成分とするシートであり、前記第1接合対象及び前記第2接合対象をそれぞれ保持する保持面に複数の凸部が設けられている、請求項2に記載の積層デバイスの製造方法。
【請求項8】
前記保持面には、前記第2保持シートに前記第2接合対象を保持させたときのそれらの接触面積が、前記第1保持シートに前記第1接合対象を保持させたときのそれらの接触面積より小さくなるように前記凸部が形成されている、請求項7に記載の積層デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のチップが積層された積層デバイスの製造技術に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体技術の分野では、LSI(Large Scale Integration)などのチップを3次元的に積層する積層技術として、COW(Chip on Wafer)方式やWOW(Wafer on Wafer)方式といった様々な方式が提案されている。
【0003】
COW方式(例えば、特許文献1、3参照)では、先ず、半導体ウェハに切断加工を施すことによって当該半導体ウェハを複数のチップに個片化し、次に、当該複数のチップをベースウェハ上に1つずつ積層していく。そして、所望の積層数になるまでチップを積層した後、ベースウェハに切断加工を施すことによって当該ベースウェハを複数のベース(積層デバイスの土台となる部分)に個片化することにより、当該ベース上に複数のチップが積層された積層デバイスを完成させる。
【0004】
WOW方式(例えば、特許文献2、3参照)では、先ず、ベースウェハ上に半導体ウェハを積層していく。そして、所望の積層数になるまで半導体ウェハを積層した後、ウェハ積層体に対して切断加工を施すことにより、当該ウェハ積層体を複数の積層デバイスに個片化する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5853754号公報
【特許文献2】特許第6391999号公報
【特許文献3】特許第6485897号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のCOW方式やWOW方式においては、以下のように製造プロセスが煩雑になるという問題があった。
【0007】
ベースウェハに、積層デバイスのベースとなる領域(ベース領域)がN個設けられている場合を考えると、COW方式においては、当該N個のベース領域にチップを1つずつ積層していくことが必要になる。このため、ベースウェハ上に1層目のチップを積層する場合には、N回の積層操作が必要になる。そして、ベースウェハ上にM層目までチップを積層する場合には、N×M回の積層操作が必要になる。
【0008】
また、WOW方式においては、薄化された半導体ウェハをベースウェハ上に積層していく必要がある場合において、薄化後の半導体ウェハをベースウェハに積層しようとすると、そのためのハンドリングが技術的に難しくなる。そこで、従来は、薄化前の半導体ウェハをベースウェハ上に接合(積層)した後に、当該半導体ウェハを研磨によって薄化していた。その一方で、研磨時においては、ウェハどうしの接合面に剪断応力が発生するが故に、接合強度が弱いと、ウェハどうしの接合(積層)が破壊されるおそれがあった。このため、研磨前に、接合強度を高めておくべく、積層体全体に熱処理を施す必要があった。従って、薄化された半導体ウェハをベースウェハ上に所望の積層数になるまで積層する場合には、半導体ウェハを1層積層するごとに、接合強度を高めるための熱処理を研磨前に行う必要があった。
【0009】
そこで本発明の目的は、複数のチップが積層された積層デバイスの製造技術において、製造プロセスの顕著な簡略化を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る積層デバイスの製造方法では、第1形成ステップと、第2形成ステップと、接合ステップと、を実行する。第1形成ステップでは、複数のチップ領域が設けられている第1接合対象を第1保持シートによって保持した状態で、当該複数のチップ領域をそれぞれ個片化するための切断部を第1接合対象に形成する。第2形成ステップでは、複数のチップ領域が設けられている第2接合対象を第2保持シートによって保持した状態で、当該複数のチップ領域をそれぞれ個片化するための切断部を第2接合対象に形成する。接合ステップでは、第1保持シート及び第2保持シートを互いに相対移動させることにより、第1接合対象と第2接合対象とを、それらのチップ領域どうしが所定の位置関係で積層されるように接合する。
【0011】
上記製造方法によれば、第1接合対象に設けられている全てのチップ領域に対して、1回の接合で、第2接合対象に設けられている全てのチップ領域を纏めて接合(積層)することが可能になる。従って、第2接合対象から個片化されたチップ領域を、第1接合対象上に1つずつ積層していく場合に比べて、積層デバイスの製造プロセスを顕著に簡略化することができる。具体的には、第1接合対象及び第2接合対象にチップ領域がN個ずつ設けられている場合において、第2接合対象から個片化されたチップ領域を、第1接合対象のN個のチップ領域上に1つずつ積層していく場合には、N回の積層操作が必要になるのに対し、上記製造方法によれば、1回の接合で済むため、積層デバイスの製造プロセスを顕著に簡略化することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、複数のチップが積層された積層デバイスの製造技術において、製造プロセスの顕著な簡略化が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施形態に係る製造方法で得られる積層デバイスを概念的に示した斜視図である。
【
図2】チップ母材(接合対象)に設けられているチップ領域の一例を一点鎖線で示した平面図である。
【
図4】
図3の左上図に示されたYa領域の部分についての拡大斜視図である。
【
図5】
図3の左下図に示されたZa-Za線での縦断面を厚さ方向に拡大して示した概念図であり、(A)切断部としての溝が形成された場合と、(B)切断部としての空洞が形成された場合とをそれぞれ示したものである。
【
図7】
図6の左上図に示されたYb領域の部分についての拡大斜視図である。
【
図8】(A)接合ステップを示した概念図、及び(B)
図8(A)に示されたZb-Zb線での縦断面を厚さ方向に拡大して示した概念図である。
【
図9】(A)繰返しで実行される接合ステップを示した概念図、及び(B)
図9(A)に示されたZc-Zc線での縦断面を厚さ方向に拡大して示した概念図である。
【
図13】第2変形例にて1回目の接合ステップで得られるチップ母材の積層体の一例について、その縦断面を厚さ方向に拡大して示した概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[1]実施形態
[1-1]積層デバイスの構成
図1は、実施形態に係る製造方法で得られる積層デバイス10を概念的に示した斜視図である。
図1に示されるように、積層デバイス10は、ベース11と、チップ積層体12と、を備えている。ここで、ベース11は、積層デバイス10の土台となる部分であり、ベース11には、外部端子や配線などが形成されている。また、チップ積層体12は、ベース11上に3次元的に積層された複数のチップMcによって構成された部分である。
図1の例では、ベース11上にチップMcが1層目から7層目まで3次元的に積層された場合が示されている。チップMcは、特に限定されるものではないが、例えばLSIなどの半導体チップである。
【0015】
尚、ベース11には、端子や配線に限らず、チップMcと同じ又は別の回路が形成されていてもよい。また、チップ積層体12を構成するチップMcには、同じ回路を備えたものが含まれていてもよいし、別の回路を備えたものが含まれていてもよい。
【0016】
本実施形態では、全てのチップMcにおいて、形状が長方形(正方形を含む)であって同一であり、且つ、サイズも同一である。また、ベース11については、形状が長方形(正方形を含む)であり、サイズがチップMcより大きくなっている。尚、形状やサイズは、これに限らず、適宜変更することが可能である。ベース11及びチップMcの形状は、例えば円形に変更されてもよい。また、後述する第2変形例(
図13参照)のように、ベース11上にはサイズの異なるチップMcが積層されてもよい。
【0017】
[1-2]積層デバイスの製造方法
本実施形態の製造方法では、製造プロセスとして、積層デバイス10のうちのチップ積層体12を製造する第1プロセスと、第1プロセスで製造したチップ積層体12を用いて積層デバイス10を完成させる第2プロセスと、が実行される。尚、これらのプロセスは、周知の各種装置を用いて実現することができる。また、以下に説明する製造方法は、7層(
図1参照)に限定されない積層数(2層以上)でベース11上にチップMcが積層された積層デバイス10を製造する場合にも適用できる。
【0018】
[1-2-1]第1プロセス
第1プロセスでは、チップMcとなる領域(チップ領域Rc)が複数設けられているチップ母材Gc(
図2参照)を2枚以上用いて、それらを接合(積層)することによってチップ積層体12を製造する。
図2は、チップ母材Gcに設けられているチップ領域Rcの一例を一点鎖線で示した平面図である。チップ母材Gcは、特に限定されるものではないが、例えば半導体ウェハである。
【0019】
また、本実施形態においては、チップ母材Gcを接合する際にチップ領域Rcどうしを所定の位置関係で積層することが可能となるように、それらのチップ母材Gcには、互いの位置関係を決定するための位置決めマークPtが設けられている。ここで、所定の位置関係は、積層されるチップ領域Rcがそれぞれ備える回路を、積層デバイス10において正常に機能させるための位置関係(回路どうしの接続位置などを考慮した位置関係)である。
【0020】
そして本実施形態では、第1プロセスにおいて、薄化ステップと、第1形成ステップと、第2形成ステップと、接合ステップと、転写ステップと、伸展ステップと、が実行される。以下、各ステップについて具体的に説明する。尚、以下では、1回目の接合(積層)において当該接合の対象となる2枚のチップ母材Gcを、それぞれ「第1接合対象Gc1」及び「第2接合対象Gc2」と称す。
【0021】
<薄化ステップ>
薄化ステップでは、第1接合対象Gc1及び第2接合対象Gc2を、これらに研磨処理を施すことによって薄化する。一例として、第1接合対象Gc1及び第2接合対象Gc2を、150μm以下の厚さまで薄化する。本実施形態では、第1接合対象Gc1の薄化は、以下に説明する第1形成ステップの前に実行される。また、第2接合対象Gc2の薄化は、後述する第2形成ステップの前に実行される。
【0022】
ここで、従来のように接合(積層)後に第1接合対象Gc1及び第2接合対象Gc2の少なくとも何れか一方を薄化しようとすると、研磨時において、これらの接合面に剪断応力が発生するが故に、接合強度が弱いと積層が破壊されるおそれがある。このため、従来の方法で薄化するためには、研磨前に積層体全体に熱処理を施すことにより、接合強度を高めておくことが必要になる。そして、チップ母材Gcを3枚以上接合(積層)する場合には、2回以上の接合(積層)が必要になり、接合の都度、接合強度を高めるための熱処理を研磨前に行うことが必要になる。一方、本実施形態のように接合(積層)前に上記薄化ステップを実行することにより、接合のたびに熱処理を行う必要がなく、製造プロセスが簡略化されることになる。
【0023】
<第1形成ステップ>
図3は、第1形成ステップを示した概念図である。第1形成ステップでは、薄化ステップで薄化した第1接合対象Gc1を第1保持シート21によって保持する(
図3の左上図及び右図)。ここで、第1保持シート21は、少なくとも吸着力を持った樹脂(ポリオレフィンやシリコーンなど)又はゴム(フッ化ゴムなど)を主成分とするシートであり、当該主成分が持つ吸着力によって第1接合対象Gc1を保持することができる。本実施形態では、第1保持シート21は更に以下のような構成を有している。
【0024】
図4は、第1保持シート21のうちの
図3の左上図に示されたYa領域の部分についての拡大斜視図である。この図に示されるように、第1保持シート21には、第1接合対象Gc1を保持する保持面21aに複数の凸部21bが設けられている。また、凸部21bは、第1保持シート21を構成する上記主成分と同じ成分で、且つ、当該第1保持シート21と一体的に形成されている。そして、複数の凸部21bに第1接合対象Gc1が面接触することにより、当該凸部21bが持つ吸着力によって第1保持シート21に第1接合対象Gc1が保持される。
【0025】
その一方で、保持面21aに第1接合対象Gc1を保持した場合、当該保持面21aのうちの凸部21bが設けられた部分にだけ第1接合対象Gc1が面接触することになる。
図4の例では、凸部21bは、第1接合対象Gc1との接触面21cが長方形(正方形を含む)となるように形成されている。尚、凸部21bの接触面21cの形状は、第1接合対象Gc1を保持できてるものであれば、長方形に限らず、多角形や円形などを含む種々の形状に適宜変更されてもよい。
【0026】
このような第1保持シート21によれば、凸部21bの数や接触面21cの面積を調整することにより、第1接合対象Gc1との接触面積を調整することができ、その結果として、第1接合対象Gc1に対する第1保持シート21の保持力(即ち、凸部21bが持つ吸着力の総和)を調整することができる。そして、第1保持シート21の保持力を調整することにより、第1プロセスにて必要な保持力を維持しつつ、後述する接合ステップにて第1接合対象Gc1及び第2接合対象Gc2を接合(積層)した後においては、第1接合対象Gc1からの第1保持シート21の剥離を容易にすることができる。具体的には、第1接合対象Gc1からの第1保持シート21の剥離時に接合部分を破壊してしまうことがないように、第1保持シート21の保持力を適度な大きさに調整することができる。従って、そのような第1保持シート21を用いて第1接合対象Gc1を保持することにより、第1接合対象Gc1を強固に保持しつつ、剥離や転写が必要になったときには、接合部分などに悪影響(破壊など)を及ぼさずに剥離や転写を容易に行うことが可能になる。よって、薄化された第1接合対象Gc1であってもハンドリングしやすくなる。
【0027】
第1形成ステップでは、第1保持シート21による第1接合対象Gc1の保持後、その状態で、複数のチップ領域Rcをそれぞれ個片化するための切断部Ecを第1接合対象Gc1に形成する(
図3の左下図)。本実施形態では、切断部Ecとして、後述する伸展ステップ(
図11参照)にて伸縮性シート23を伸展させたときに第1接合対象Gc1を破断させる溝、孔、及び内部欠陥の少なくとも何れか1つを形成する。ここで、対象物(ここでは第1接合対象Gc1)を所定の線で破断させることを予定している場合(以下、この所定の線を「破断予定線」と称す)、溝は、破断予定線に沿って形成される有底の溝であり、孔は、破断予定線の位置において複数箇所に形成される貫通孔である。また、内部欠陥は、破断予定線の位置において、レーザ光を用いて対象物の内部に形成される空洞、亀裂、改質層などの欠陥である。そのような内部欠陥は、レーザ光を用いて対象物の内部に焦点を合わせることで形成することができる。尚、内部欠陥を用いて対象物を破断させる技術は、ステルスダイシングと呼ばれる技術である。
【0028】
図5(A)は、
図3の左下図に示されたZa-Za線での縦断面を厚さ方向に拡大して示した概念図であり、
図5(A)には、切断部Ecとして溝が形成された場合が示されている。このような溝は、ブレード、レーザ光、プラズマなどを用いて、第1接合対象Gc1を、第1保持シート21側の面(第1保持シート21によって保持されている面)に到達する直前の深さまで切断することによって形成することができる。
【0029】
尚、切断部Ecとして、溝に代えて孔や内部欠陥を形成してもよい。
図5(B)には、切断部Ecとして、内部欠陥である空洞が形成された場合が示されている。
【0030】
このような切断部Ecの構成によれば、隣接するチップ領域Rcについて繋がった状態が維持されるため、第1接合対象Gc1の搬送時や接合時におけるチップ領域Rcの位置ずれが生じにくくなる。
【0031】
<第2形成ステップ>
図6は、第2形成ステップを示した概念図である。第2形成ステップでは、薄化ステップで薄化した第2接合対象Gc2を第2保持シート22によって保持する(
図6の左上図及び右図)。ここで、第2保持シート22は、第1保持シート21と同様、少なくとも吸着力を持った樹脂(ポリオレフィンやシリコーンなど)又はゴム(フッ化ゴムなど)を主成分とするシートであり、当該主成分が持つ吸着力によって第2接合対象Gc2を保持することができる。本実施形態では、第2保持シート22は更に以下のような構成を有している。
【0032】
図7は、第2保持シート22のうちの
図6の左上図に示されたYb領域の部分についての拡大斜視図である。この図に示されるように、第2保持シート22には、第2接合対象Gc2を保持する保持面22aに複数の凸部22bが設けられている。また、凸部22bは、第2保持シート22を構成する上記主成分と同じ成分で、且つ、当該第2保持シート22と一体的に形成されている。そして、複数の凸部22bに第2接合対象Gc2が面接触することにより、当該凸部22bが持つ吸着力によって第2保持シート22に第2接合対象Gc2が保持される。
【0033】
その一方で、保持面22aに第2接合対象Gc2を保持した場合、当該保持面22aのうちの凸部22bが設けられた部分にだけ第2接合対象Gc2が面接触することになる。
図7の例では、凸部22bは、第2接合対象Gc2との接触面22cが長方形(正方形を含む)となるように形成されている。尚、凸部22bの接触面22cの形状は、第2接合対象Gc2を保持できてるものであれば、長方形に限らず、多角形や円形などを含む種々の形状に適宜変更されてもよい。
【0034】
このような第2保持シート22によれば、凸部22bの数や接触面22cの面積を調整することにより、第2接合対象Gc2との接触面積を調整することができ、その結果として、第2接合対象Gc2に対する第2保持シート22の保持力(即ち、凸部22bが持つ吸着力の総和)を調整することができる。そして、第2保持シート22の保持力を調整することにより、第1プロセスにて必要な保持力を維持しつつ、後述する接合ステップにて第1接合対象Gc1及び第2接合対象Gc2を接合(積層)した後においては、第2接合対象Gc2からの第2保持シート22の剥離を容易にすることができる。具体的には、第2接合対象Gc2からの第2保持シート22の剥離時に接合部分を破壊してしまうことがないように、第2保持シート22の保持力を適度な大きさに調整することができる。従って、そのような第2保持シート22を用いて第2接合対象Gc2を保持することにより、第2接合対象Gc2を強固に保持しつつ、剥離や転写が必要になったときには、接合部分などに悪影響(破壊など)を及ぼさずに剥離や転写を容易に行うことが可能になる。よって、薄化された第2接合対象Gc2であってもハンドリングしやすくなる。
【0035】
更に本実施形態では、第1保持シート21及び第2保持シート22(
図4及び
図7参照)において、それらの保持面21a及び22aには、第2保持シート22に第2接合対象Gc2を保持させたときのそれらの接触面積が、第1保持シート21に第1接合対象Gc1を保持させたときのそれらの接触面積より小さくなるように凸部21b及び22bが形成されている。このような構成によれば、接触面積の大きさに差を設けることで、保持力に差を生じさせ、その結果として剥離強度にも差を生じさせることができる(具体的には、接触面積が小さいほど剥離しやすくなる)。従って、後述する接合ステップにて第1接合対象Gc1及び第2接合対象Gc2を接合(積層)した後に、第2保持シート22を剥離したい場合には、上記の保持力の差(ここでは、剥離強度の差)を利用して第2保持シート22だけを容易に剥離することができる。
【0036】
第2形成ステップでは、第2保持シート22による第2接合対象Gc2の保持後、その状態で、第1形成ステップと同様、複数のチップ領域Rcをそれぞれ個片化するための切断部Ecを第2接合対象Gc2に形成する(
図6の左下図)。具体的には、切断部Ecとして、第1接合対象Gc1に形成する切断部Ecと同様、後述する伸展ステップ(
図11参照)にて伸縮性シート23を伸展させたときに第2接合対象Gc2を破断させる溝、孔、及び内部欠陥の少なくとも何れか1つを形成する(
図5(A)及び
図5(B)参照)。このような切断部Ecの構成によれば、隣接するチップ領域Rcについて繋がった状態が維持されるため、第2接合対象Gc2の搬送時や接合時におけるチップ領域Rcの位置ずれが生じにくくなる。
【0037】
<接合ステップ>
図8(A)は、接合ステップを示した概念図である。第1形成ステップ及び第2形成ステップを何れも実行した後に、接合ステップにおいて、第1保持シート21及び第2保持シート22を互いに相対移動させることにより、第1接合対象Gc1と第2接合対象Gc2とを、それらのチップ領域Rcどうしが所定の位置関係で積層されるように接合する。
【0038】
本実施形態では、第1接合対象Gc1及び第2接合対象Gc2にそれぞれ設けられている位置決めマークPtが合致するように、第1保持シート21及び第2保持シート22を互いに相対移動させて第1接合対象Gc1と第2接合対象Gc2とを接合(積層)する。
【0039】
図8(B)は、
図8(A)に示されたYb-Yb線での縦断面を厚さ方向に拡大して示した概念図である。この図に示されるように、上記接合ステップによれば、チップ領域Rcどうしが所定の位置関係で積層されるため、第1接合対象Gc1及び第2接合対象Gc2に形成されている切断部Ecは、対応するものどうしが、平面視で(
図8(B)の紙面において上方から見て)合致することになる。
【0040】
このようなプロセスによれば、第1接合対象Gc1に設けられている全てのチップ領域Rcに対して、1回の接合で、第2接合対象Gc2に設けられている全てのチップ領域Rcを纏めて接合(積層)することが可能になる。従って、第2接合対象Gc2から個片化されたチップ領域Rcを、第1接合対象Gc1上に1つずつ積層していく場合に比べて、積層デバイス10の製造プロセスを顕著に簡略化することができる。具体的には、第1接合対象Gc1及び第2接合対象Gc2にチップ領域RcがN個ずつ設けられている場合において、第2接合対象Gc2から個片化されたチップ領域Rcを、第1接合対象Gc1のN個のチップ領域Rc上に1つずつ積層していく場合には、N回の積層操作が必要になるのに対し、本実施形態の上記プロセスによれば、1回の接合で済むため、積層デバイス10の製造プロセスを顕著に簡略化することができる。
【0041】
<薄化ステップ~接合ステップの繰返し>
本実施形態のように、製造しようとする積層デバイス10が、ベース11上にチップMcを3層以上積層したものである場合(
図1参照)には、チップ母材Gcを3枚以上接合する必要がある。この場合、後述する転写ステップへ移行する前に、上述した薄化ステップ、第2形成ステップ、及び接合ステップが、接合するチップ母材Gcの枚数に応じて繰り返し実行される。以下、薄化ステップ~接合ステップの繰返しについて、具体的に説明する。
【0042】
上述した接合ステップの後、第2接合対象Gc2から第2保持シート22を剥離する。本実施形態では、上述したように、第2保持シート22の保持力は、そのシートの剥離時に第1接合対象Gc1と第2接合対象Gc2との接合部分を破壊してしまうことのない大きさに調整されている。従って、上記接合部分には、第2保持シート22の剥離に起因した破壊は殆ど生じることがない。また、第1保持シート21及び第2保持シート22において、それらの保持面21a及び22aには、第2保持シート22に第2接合対象Gc2を保持させたときのそれらの接触面積が、第1保持シート21に第1接合対象Gc1を保持させたときのそれらの接触面積より小さくなるように凸部21b及び22bが形成されている。従って、第1保持シート21と第2保持シート22とには、接合対象に対する保持力に差が生じており、その結果として剥離強度にも差が生じている(具体的には、接触面積が小さい第2保持シート22のほうが剥離しやすくなっている)。よって本実施形態では、そのような保持力の差(ここでは、剥離強度の差)を利用して第2保持シート22だけを容易に剥離することが可能になっている。
【0043】
その後、第2接合対象Gc2上に、別のチップ母材Gcを更に接合する。具体的には、上述した接合ステップ(
図8(A)参照)で接合された第1接合対象Gc1及び第2接合対象Gc2を新たな第1接合対象Gc1とし、且つ、上記別のチップ母材Gcを新たな第2接合対象Gc2として、当該第2接合対象Gc2の薄化、並びに、上述した第2形成ステップ(
図6参照)及び接合ステップ(
図9(A)及び
図9(B)参照)を更に実行する。
【0044】
そして、接合するチップ母材Gcの枚数に応じて、第2保持シート22の剥離、第2接合対象Gc2の薄化、第2形成ステップ(
図6参照)、及び接合ステップ(
図9(A)参照)を繰り返し実行する。本実施形態では、チップ母材Gcを7枚接合する必要があるため、1回目の接合ステップ(
図8(A)参照)の後、3層目から7層目までのチップ母材Gcを更に接合するために、上述した繰返しが5回行われることになる。
【0045】
このような繰返しのプロセスによれば、第1接合対象Gc1に対して、チップ母材Gc(接合対象)を第2接合対象Gc2として複数接合(積層)していく場合でも、当該チップ母材Gcごとに、1回の接合で、そのチップ母材Gcに設けられている全てのチップ領域Rcを纏めて接合(積層)することができる。具体的には、第1接合対象Gc1及び別のチップ母材Gc(第2接合対象Gc2)にチップ領域RcがN個ずつ設けられている場合において、当該別のチップ母材Gc(第2接合対象Gc2)から個片化されたチップ領域Rcを、第1接合対象Gc1のN個のチップ領域Rc上に1つずつ且つ3次元的にM回積層していく場合には、N×M回の積層操作が必要になるのに対し、上記繰返しのプロセスによれば、M回の接合で済むため、積層デバイス10の製造プロセスを顕著に簡略化することができる。
【0046】
<転写ステップ>
図10は、転写ステップを示した概念図である。チップ母材Gcを所望の枚数接合した後、転写ステップにおいて、チップ母材Gcの積層体である母材積層体Hmから第2保持シート22を剥離し、その後、別の保持シートである伸縮性シート23へ母材積層体Hmを転写する。尚、転写ステップでは、母材積層体Hmから第1保持シート21を剥離し、その後、伸縮性シート23への転写を行ってもよい。ここで、上述したように、第1保持シート21及び第2保持シート22の保持力(接合対象に対する保持力)は、それらのシートの剥離時に第1接合対象Gc1と第2接合対象Gc2との接合部分(ここでは、母材積層体Hm内に形成されている接合部分)を破壊してしまうことのない大きさに調整されている。従って、上記接合部分には、第1保持シート21又は第2保持シート22の剥離(転写時に必要となる剥離を含む)に起因した破壊は殆ど生じることがない。
【0047】
ここで、伸縮性シート23には、その端を掴んで引っ張ることが可能となるように、チップ母材Gcの面積よりも大きいシートが用いられる。また、伸縮性シート23には、そのシートに伸縮性を持たせるために、吸着力に加えて伸縮性を持った樹脂(ポリオレフィンやシリコーンなど)又はゴム(フッ化ゴムなど)を主成分とするシートを用いることができる。このとき、伸縮性シート23には、第1保持シート21や第2保持シート22と同様、母材積層体Hmが転写される面に複数の凸部が設けられていてもよい。
【0048】
<伸展ステップ>
図11は、伸展ステップを示した概念図である。転写ステップの後、伸展ステップにおいて、伸縮性シート23を伸展させることにより、切断部Ecを介して隣接するチップ領域Rcを離間させる。
【0049】
上記転写ステップ及び伸展ステップによれば、伸縮性シート23を伸展させるといった簡易な1回のプロセスで、接合された複数のチップ母材Gc(接合対象)を切断部Ecにて破断させることができる。これにより、接合された複数のチップ母材Gc(接合対象)に設けられている複数のチップ領域Rcを、1組(本実施形態では1組に7層分のチップ領域Rcが含まれる)ずつ接合(積層)された状態のまま個片化し、それによってチップ積層体12を形成することができる。
【0050】
このような第1プロセスによれば、積層デバイス10の製造技術において、製造プロセスの顕著な簡略化を実現することができる。
【0051】
[1-2-2]第2プロセス
第2プロセスでは、ベース11となる領域(ベース領域Rb)が複数設けられているベース母材Gbと、第1プロセスで製造したチップ積層体12とを用いて、
図1に例示した積層デバイス10を完成させる。ここで、ベース母材Gbは、特に限定されるものではないが、例えば半導体ウェハである。
【0052】
図12は、第2プロセスを示した概念図である。第2プロセスでは、ベース母材Gbに設けられている複数のベース領域Rbに、チップ積層体12を1つずつ所定の位置関係で接合していく。このとき、ベース母材Gbは、保持シート24で保持されていてもよい。保持シート24には、第1保持シート21や第2保持シート22と同様のシートを用いることができる。そして、上記ベース領域Rbの全てにおいてチップ積層体12の接合が完了した後、ベース母材Gbに切断加工を施すことにより(
図12の例では、一点鎖線の位置でベース母材Gbを切断することにより)、複数のベース領域Rbをそれぞれ個片化する。これにより、積層デバイス10(
図1参照)が完成する。
【0053】
[2]変形例
[2-1]第1変形例
上記実施形態の第1プロセスにおいて、転写ステップを実行することに代えて、第1保持シート21及び第2保持シート22の何れか一方を伸縮性シートとして用いてもよい。
【0054】
具体的には、第1保持シート21及び第2保持シート22の少なくとも何れか一方を、伸縮性シートであって、且つ、チップ母材Gcの面積よりも大きいものにしておく。尚、上記実施形態において、第1保持シート21及び第2保持シート22が、吸着力に加えて伸縮性を持った樹脂(ポリオレフィンやシリコーンなど)又はゴム(フッ化ゴムなど)を主成分としている場合には、それらのシートは、吸着力に加えて伸縮性をも持ったものになる。その場合には、少なくとも何れか一方のシートにおいて、その面積をチップ母材Gcの面積よりも大きくすればよい。そして、第1保持シート21及び第2保持シート22のうちの、伸縮性シートである何れか一方の保持シートを残して、もう一方の保持シートを剥離し、その後、剥離せずに残した保持シートを伸展させることにより、切断部Ecを介して隣接するチップ領域Rcを離間させる。
【0055】
このような構成によれば、第1プロセスを、より簡略化することが可能になる。
【0056】
[2-2]第2変形例
上記実施形態において、製造しようとする積層デバイス10を、サイズの異なるチップMcがベース11上に積層されたものに適宜変更してもよい。この場合、上記実施形態の第1プロセスにおいて、第1形成ステップや第2形成ステップにてチップ母材Gcに形成する切断部Ecの幅を適宜変更することにより、積層するチップMcのサイズを異ならせることができる。
【0057】
図13は、本変形例にて1回目の接合ステップで得られるチップ母材Gcの積層体の一例について、その縦断面を厚さ方向に拡大して示した概念図である。
図13の例では、第2接合対象Gc2から得られるチップMcのサイズが、第1接合対象Gc1から得られるチップMcのサイズより小さくなるように、第2接合対象Gc2に形成する溝(切断部Ec)の幅を、第1接合対象Gc1に形成する溝(切断部Ec)の幅よりも大きくした場合が示されている。
【0058】
[2-3]他の変形例
上記実施形態において、第1保持シート21や第2保持シート22には、ダイシングテープが適宜用いられてもよい。
【0059】
上記実施形態において、切断部Ecは、ブレード、レーザ光、プラズマなどを用いてチップ母材Gcを完全に切断することによって形成されたものに適宜変更されてもよい。
【0060】
上述の実施形態及び変形例の説明は、すべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上述の実施形態や変形例ではなく、特許請求の範囲によって示される。更に、本発明の範囲には、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【0061】
また、上述の実施形態や変形例からは、発明の対象として、積層デバイス10の製造方法を構成する幾つかのステップが部分的に抽出されてもよいし、各ステップが個々に抽出されてもよい。
【符号の説明】
【0062】
10 積層デバイス
11 ベース
12 チップ積層体
21 第1保持シート
22 第2保持シート
21a、22a 保持面
21b、22b 凸部
21c、22c 接触面
23 伸縮性シート
24 保持シート
Ec 切断部
Gb ベース母材
Gc チップ母材
Hm 母材積層体
Mc チップ
Pt 位置決めマーク
Rb ベース領域
Rc チップ領域
Gc1 第1接合対象
Gc2 第2接合対象