(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024070365
(43)【公開日】2024-05-23
(54)【発明の名称】交流電動機制御装置
(51)【国際特許分類】
H02P 27/08 20060101AFI20240516BHJP
【FI】
H02P27/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022180805
(22)【出願日】2022-11-11
(71)【出願人】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】初瀬 渉
(72)【発明者】
【氏名】安島 俊幸
(72)【発明者】
【氏名】青柳 滋久
(72)【発明者】
【氏名】塚越 貴哉
【テーマコード(参考)】
5H505
【Fターム(参考)】
5H505AA16
5H505BB02
5H505BB05
5H505DD03
5H505DD08
5H505EE41
5H505EE50
5H505GG01
5H505GG04
5H505HA07
5H505HB01
5H505LL22
5H505LL41
5H505LL45
(57)【要約】
【課題】交流電動機に流れる電流高調波成分を抑制し、交流電動機で発生する損失を低減することが可能な交流電動機制御装置を実現する。
【解決手段】交流電動機制御装置10は、直流電力から交流電力への電力変換を行う電力変換器3と、交流電動機1を同期PWM制御する制御部2と、を備える。 制御部2は、キャリア波を生成するキャリア波生成部221、231、232と、キャリア波と電圧指令値21Aとに基づき、PWMパルスを生成するPWMパルス生成部22、23と、を有する。キャリア波生成部221、231、232は、PWMパルスに含まれる交流電動機1のdq直交座標における高調波成分が、d軸またはq軸のうち、インダクタンスの大きい軸側に集中するようにキャリア波の周期を変更する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電力から交流電力への電力変換を行う電力変換器と、
交流電動機を同期PWM制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、
キャリア波を生成するキャリア波生成部と、前記キャリア波と電圧指令値とに基づき、PWMパルスを生成するPWMパルス生成部と、を有し、
前記キャリア波生成部は、前記PWMパルスに含まれる前記交流電動機のdq直交座標における高調波成分が、d軸またはq軸のうち、インダクタンスの大きい軸側に集中するように前記キャリア波の周期を変更することを特徴とする交流電動機制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の交流電動機制御装置において、
前記キャリア波生成部は、前記キャリア波の周期を、6次周期で変化させることを特徴とする交流電動機制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の交流電動機制御装置において、
前記キャリア波生成部は、前記キャリア波の周期を6次周期で変化させる周期変更量を、電流高調波成分が最小となる周期変更量に設定することを特徴とする交流電動機制御装置。
【請求項4】
請求項2に記載の交流電動機制御装置において、
前記キャリア波生成部は、前記キャリア波の周期を6次周期で変化させる周期変更量を電流高調波成分により発生する前記交流電動機の損失が最小となる周期変更量に設定することを特徴とする交流電動機制御装置。
【請求項5】
請求項3に記載の交流電動機制御装置において、
前記キャリア波生成部は、高速な制御応答が要求される場合は、前記キャリア波の周期を6次周期で変化させる周期変更量を前記電流高調波成分または前記交流電動機の損失が最小となる周期変更量より小さな変更量に設定し、制御応答の低下を抑制することを特徴とする交流電動機制御装置。
【請求項6】
請求項1に記載の交流電動機制御装置において、
前記キャリア波生成部は、前記PWMパルスに含まれる前記交流電動機のdq直交座標における高調波成分が、d軸側のインダクタンスよりインダクタンスが大きいq軸側に集中するように前記キャリア波の周期を変更することを特徴とする交流電動機制御装置。
【請求項7】
請求項1から請求項6のうちのいずれか一項に記載の交流電動機制御装置において、
電気自動車の交流電動機を制御する制御装置であることを特徴とする交流電動機制御装置。
【請求項8】
請求項7に記載の交流電動機制御装置において、
前記PWMパルス生成部は、一定周期のキャリア波を生成するキャリア波生成部と周期的に変更するキャリア波を生成する周期一定キャリア波生成部と、前記周期一定キャリア波生成部と前記キャリア波生成部とを切り替えるキャリア波切り替え部と、をさらに備えることを特徴とする交流電動機制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、交流電動機を駆動する交流電動機制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、省エネルギー化の要求の高まりから、交流電動機を駆動する交流電動機制御装置が、家電、インフラ、車載機器など幅広い用途に適用されている。
【0003】
このような、交流電動機を駆動する交流電動機制御装置として、一般的にPWM制御が用いられている。PWM制御では、交流電動機へ印加する電圧指令信号を元に変調信号を作成し、変調信号とPWMキャリアとの比較により電力変換装置のスイッチング素子をオン・オフするPWMパルス信号を作成する。これにより、直流電力を、交流電動機を駆動する交流電力へ変換することを可能としている。
【0004】
このように、PWM制御を行うことで、直流電力を交流電力へ変換可能となるが、電力変換装置のスイッチング素子を高速にオン・オフする動作を繰り返すため、交流電動機に対して出力電圧はパルス状に印加される。
【0005】
このため、交流電動機に流れる電流に高調波成分が含まれ、ノイズや損失の原因となる。
【0006】
このような電力変換装置のスイッチング素子のオン・オフに起因するノイズや損失を低減するための技術が、例えば、特許文献1、特許文献2に開示されている。
【0007】
特許文献1に記載の方式では、PWMキャリアの周期を時間経過により変化させる構成である。また、特許文献2に記載の方式では、電流ゼロクロス付近のPWMキャリアの周期を短縮する構成である。
【0008】
このような方式により、交流電動機にパルス状に印加される電圧の高調波成分を分散することで、交流電動機に流れる電流の高調波成分を分散することができる。これにより、交流電動機に発生するノイズの低減や、直流電圧変動の抑制を行うことが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2010-41877号公報
【特許文献2】特開2019―47688号広報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前述の通り、PWM制御を行うことで、交流電動機に流れる電流に高調波成分が含まれ、ノイズや損失が増加する課題がある。
【0011】
しかしながら、特許文献1および特許文献2に記載の方式では、交流電動機にパルス状に印加される電圧の高調波成分を分散することは可能であるが、交流電動機に流れる電流の高調波成分を積極的に抑制する構成は開示されていない。
【0012】
交流電動機に流れる電流の高調波成分を抑制しなければ、高調波成分が原因となるノイズや損失の低減は困難である。
【0013】
本発明の目的は、交流電動機に流れる電流高調波成分を抑制し、交流電動機で発生する損失を低減することが可能な交流電動機制御装置を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するため、本発明は、次のように構成される。
【0015】
交流電動機制御装置において、直流電力から交流電力への電力変換を行う電力変換器と、交流電動機を同期PWM制御する制御部と、を備え、前記制御部は、キャリア波を生成するキャリア波生成部と、前記キャリア波と電圧指令値とに基づき、PWMパルスを生成するPWMパルス生成部と、を有し、前記キャリア波生成部は、前記PWMパルスに含まれる前記交流電動機のdq直交座標における高調波成分が、d軸またはq軸のうち、インダクタンスの大きい軸側に集中するように前記キャリア波の周期を変更する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、交流電動機に流れる電流高調波成分を抑制し、交流電動機で発生する損失を低減することが可能な交流電動機制御装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施例1の交流電動機制御装置の全体構成図を示すブロック図である。
【
図2】本発明の実施例1のPWMパルス生成部を示すブロック図である。
【
図3】本発明とは異なる比較例における同期PWM制御時のキャリア波の周期を一定とした場合の波形例を示す図である。
【
図4】本発明の実施例1における同期PWM制御時のキャリア波の周期を周期的に変更した場合の波形例を示す図である。
【
図5】ベクトル制御における直交dq軸座標系と電圧・電流の概略関係図である。
【
図6A】キャリア波の周期が一定の場合の出力電圧の高調波成分を示す図である。
【
図6B】キャリア波の周期を周期的に変更した場合の出力電圧の高調波成分を示す図である。
【
図7A】埋め込み型永久磁石同期電動機に
図6Aに示した電圧高調波成分が印加された場合に発生する電流高調波成分を示す図である。
【
図7B】埋め込み型永久磁石同期電動機に
図6Bに示した電圧高調波成分が印加された場合に発生する電流高調波成分を示す図である。
【
図8】周期変更量を変化させた場合の電流高調波成分の変化を示すグラフである。
【
図9】本発明の実施例2による交流電動機制御装置を電気自動車に適用した例を示す図である。
【
図10】実施例2におけるPWMパルス生成部の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。
【実施例0019】
(実施例1)
本発明の実施例1を、
図1から
図10を用いて説明する。
【0020】
本実施例1は、交流電動機1を本発明の交流電動機制御装置10で駆動する例を説明する。
【0021】
図1は、実施例1による交流電動機制御装置10の概略構成図である。交流電動機制御装置10は、制御部2と、インバータ(電力変換器)3と、電流検出部4と、を備える。制御部2は、ベクトル制御部21と、PWMパルス生成部22と、を備える。
図2は、制御部2が有するPWMパルス生成部22の説明図であり、PWMパルス生成部22は、キャリア波生成部221と、キャリア電圧指令比較部222と、を備える。
【0022】
制御部2のベクトル制御部21は、交流電動機1に流れる電流を検出する電流検出部4からの情報と、交流電動機1の回転位置を検出する位置センサ5からの情報5Aと、を元に変調率指令値(電圧指令値)21Aを演算する。
【0023】
演算された変調率指令値21Aを元にしてPWMパルス生成部22によりPWMパルス22Aを生成し、生成されたPWMパルス22Aを元に、インバータ3が直流電力から交流電力への電力変換を行い、交流電動機1に交流電力を供給する。
【0024】
PWMパルス生成部22では、
図2に示す通り、キャリア波生成部221により三角波などのキャリア波が生成され、生成されたキャリア波と変調率指令値21Aとが比較部222により比較され、PWMパルス22Aが生成される。
【0025】
交流電動機1をPWMパルスにより制御する方式の一つとして同期PWM制御方式があげられる。制御部2は、交流電動機1を同期PWM制御する。
【0026】
図3は、本発明とは異なる比較例における同期PWM制御時のキャリア波と変調率指令値の概略図を示す。
図3に示すように、同期PWM制御方式では、交流電動機の回転数に応じてPWMキャリア波の周期を変更することで、1回転に含まれるPWMキャリア波の数を固定する方式となっている。
【0027】
例えば、
図3に示した例では、交流変調率指令1回転の半周期(0°~180°)で、キャリア波の上り(山)と下り(谷)がそれぞれ4.5周期分含まれており、交流変調率指令1回転(0°~360°)ではキャリア波の上り(山)と下り(谷)がそれぞれ9周期分、計18周期分含まれる構成を示している。
【0028】
また、一般的にPWMキャリア波の周期は一定間隔に設定されており、
図3に示した例の構成では同期9パルス制御と呼ばれている。
【0029】
このように、同期PWM制御方式とすることで、波形の対称性が保たれ、偶数次の高調波が発生しないなどの利点があげられる。一方、PWMキャリア波の数を固定するため、キャリア波の1次成分の側帯波(
図3に示した例の構成では6次・12次成分)や2次成分(
図3に示した例の構成では18次成分)の電圧高調波成分が大きく発生する構成となる。
【0030】
また、このような高調波成分が含まれる電圧が交流電動機に印加されることで、電流にもこれらの高調波成分の影響で電流高調波成分が発生する。
【0031】
本願の実施例1では、
図3に示した例のような同期PWM制御時に、交流電動機に発生する電流の高調波成分を抑制するため、同期PWM制御時のキャリア波の周期を周期的に変更する。
【0032】
図4は、本発明の実施例1の構成である同期PWM制御のキャリア波の周期を周期的に変更した同期9パル時の概略図を示す図である。
図4に示すように、キャリア波の周期を、短い周期Sと長い周期Lとを2回分を繰り返す構成としている。
具体的には、同期PWMの山谷の数をP(
図4の場合はP=9)、キャリア波の周期の順序をnとして、キャリア波の周期を下記の式(1)に示すような6次周期で変化するように設定する。
【0033】
【0034】
上記式(1)において、正弦波関数に積算されているCは、周期変更量に相当する値である。また、nは次数である。
【0035】
例えば、同期9パルスでC=0として各周期間の変化を0とすると、
図3に示した比較例のように、キャリア波の周期は(2π/18)=20[deg]固定となる。また、同期9パルスでC>0とすると、下記の式(2)、(3)、(4)の通りとなり、
図4に示す本発明のように、n=1、2、3の繰返しとなる。
【0036】
【0037】
【0038】
【0039】
上記式(1)を用いて、同期PWMの山谷の数Pを変更することで、例えば同期15パルス時の周期変化も同様に設定することが可能である。
【0040】
図5は、ベクトル制御時のdq直交座標と電圧・電流の概略を示す図である。
【0041】
図5において、交流電動機では、dq直交座標はd軸を磁石軸方向、q軸を磁石軸方向に直交する座標として設定する。ベクトル制御では、このようなdq直交座標を用いて電圧・電流の制御を行っている。
【0042】
図6Aおよび
図6Bは、キャリア波の周期が一定の場合と、本願の周期を周期的に変更した場合の出力電圧の高調波成分を示す図である。
図6Aが周期一定の場合の図であり、
図6Bが一実施例のキャリア波の周期を周期的に変更した場合の図である。
【0043】
図6A及び
図6Bの横軸は次数、縦軸は振幅である。
図6Aおよび
図6Bの実線の成分が前述したd軸(磁石軸方向)成分であり、点線が前述したq軸(磁石軸直交方向)成分を示している。
【0044】
図6Aの周期一定の同期PWM制御の場合では、振幅が最大の成分はq軸成分(点線)の2次成分である。また、d軸成分(実線)成分が1次成分・3次成分の側帯波成分として2次成分の左右に発生している。
【0045】
ここで、
図6Bに示すように、周期を周期的に変更することで、高調波成分が変化する結果を得られる。
図6Bでは、d軸成分(実線)成分の1次成分・3次成分の側帯波成分が減少していることが確認できる。また、q軸成分(点線)の2次成の前後の成分が増加していることが確認できる。言い換えると、キャリア波の周期を周期的に変更することで、d軸高調波成分をq軸高調波成分へシフトする電圧高調波成分構成となる。
【0046】
ここで、交流電動機では
図6Aまたは
図6Bに示した高調波成分を含む電圧が印加され、電圧高調波成分に起因した電流高調波成分が発生する。高調波成分に関する電圧と電流は、d軸成分(磁石軸方向)とq軸(磁石軸直交成分)について下記式(5)および式(6)のような関係となる。
【0047】
式(5)において、idh(n)はd軸電流、vdh(n)はd軸電圧、Ldhはd軸インダクタンスである。また、式(6)において、iqh(n)はq軸電流、vqh(n)はq軸電圧、Lqhはq軸インダクタンスである。
【0048】
【0049】
【0050】
上記式(5)および(6)は、電動機に発生する高調波電流は、高調波電圧の次数に対応した周波数とインダクタンスで割った値となることを示している。
【0051】
ここで、車載機器の動力源となる主機モータでは、埋め込み型永久磁石同期電動機が使用されることが多い。このような埋め込み型永久磁石同期電動機では、上記式(5)に示したd軸インダクタンスより、上記式(6)に示したq軸インダクタンスが大きい突極比が大きいモータとなる(Ldh<Lqh)。言い換えると、同一の振幅の電圧高調波が印可された場合、q軸電流高調波成分の方がd軸電流高調波成分よりも小さくなる特性の電動機となっている。
【0052】
ここで、
図7Aおよび
図7Bに、このような埋め込み型永久磁石同期電動機に
図6Aおよび
図6Bに示した電圧高調波成分が印加された場合に発生する電流高調波成分を示す。
【0053】
図7Aが周期一定の場合、
図7Bが一実施例のキャリア波の周期を周期的に変更した場合の図である。
図7Aおよび
図7Bにおいて、横軸は次数、縦軸は振幅である。実線の成分がd軸(磁石軸方向)成分であり、点線がq軸(磁石軸直交方向)成分を示している。
【0054】
周期一定の
図7Aの場合、
図6Aの電圧高調波成分ではq軸成分の2次成分が最大の電圧振幅となっているが、埋め込み型永久磁石同期電動機ではq軸インダクタンスが大きいため、
図7Aの電流高調波成分ではq軸2次成分の電流振幅は小さな値となっており、d軸の1次成分の側帯波の電流高調波振幅が最大値となっている。
【0055】
ここで、実施例1の構成であるキャリア波の周期を周期的に変更する構成では、
図6Bに示す通り、電圧高調波成分をd軸成分からq軸成分へシフトする構成となっている。このため、埋め込み型永久磁石同期電動機に一実施例による電圧が印加されると、
図7Bに示す電流高調波成分のように、d軸電流高調波成分が減少する。
【0056】
また、q軸電流高調波成分については、q軸インダクタンスが大きいため、増加幅は小さく、電流高調波成分としては微増する結果となる。言い換えると、dq軸を総合すると、全体の電流高調波成分を抑制することが可能となる。
【0057】
以上のように、PWMパルスに含まれる交流電動機のdq直交座標における高調波成分をインダクタンスの大きい軸側に集中するようにPWMキャリア波を周期的に変更することで、交流電動機に流れる電流高調波成分を抑制することが可能となる。
【0058】
また、電流高調波成分が抑制されることで、交流電動機で発生する損失を低減することが可能となる。
【0059】
ここで、
図8に、横軸に上記式(1)の周期変更量C、縦軸に電流高調波成分の二乗平均平方根(RMS値)をプロットした概略図を示す。
【0060】
上記式(1)の周期変更量Cを大きくすることで、前述の通りd軸電圧高調波成分をq軸電圧高調波成分へシフトすることができ、埋め込み型永久磁石同期電動機では電流高調波成分を抑制することが可能となる。
【0061】
これにより、
図8に示すように、電流高調波成分を抑制することが可能である。しかしながら、
図8に示すように、周期変更量を大きくしていくとパルス波形のひずみが大きくなり、電流高調波が増加する傾向が確認できる。言い換えると、周期変更量に対して電流高調波のRMS値は最小点(
図8の丸印で示す)を持った下に凸な関数となる。
【0062】
このため、キャリア波の周期を周期的に変更する場合は、キャリア波生成部221が、6次周期で変化させる周期変更量Cを電流高調波のRMS値が最小となる点に設定することで、電流高調波成分を抑制した状態で交流電動機を駆動することが可能となる。
【0063】
また、
図8の縦軸を電流高調波成分により発生する交流電動機の損失とすることで、損失が最小となる周期変更量Cを設定することが可能となる。つまり、キャリア波生成部221が、6次周期で変化させる周期変更量を電流高調波成分により発生する交流電動機の損失が最小となる周期変更量に設定する。
【0064】
これにより、電流高調波成分により交流電動機に発生する損失を抑制した状態で駆動することが可能となる。
同期PWM制御では、キャリア波の周期以下ではパルスを変化させることが出来ないため、キャリア波の周期を制御周期として設定することが一般的に行われている。
【0065】
ここで、周期変更量Cを大きく設定すると、キャリア波の周期の変化量が大きくなり、周期が長い区間が発生する。言い換えると、制御周期が長い領域が発生するため、制御応答を低くする必要が発生する。
このため、高速な制御応答が要求される場合などは、キャリア波生成部221は、電流高調波成分や交流電動機1の損失を最小化する周期変更量Cより小さい値を設定して駆動することで、周期間の変化・制御応答の低下の抑制と電流高調波成分や損失の抑制をバランスさせて駆動することが可能となる。
【0066】
以上のように、本発明の実施例1によれば、PWMパルスに含まれる交流電動機のdq直交座標における高調波成分がインダクタンスの大きい軸側に集中するようにキャリア波の周期を所定の間隔で変更するように構成したので、交流電動機で発生する損失を低減することが可能な交流電動機制御装置10を実現することができる。
【0067】
(実施例2)
次に、本発明の実施例2について説明する。
【0068】
実施例2は、本発明を電気自動車の交流電動機を制御する交流電動機制御装置に適用した場合の例である。
実施例2に説明においては、実施例1と共通する部分は、図示および説明を省略する。
【0069】
図9に示すように、電気自動車100に前述した制御部2を適用した交流電動機1を車載電動機主機101として適用することで、電流高調波成分および交流電動機を低減した高効率な電気自動車100を提供することが可能となる。
【0070】
電気自動車向けに適用した車載電動機主機101では、極低温で起動すると電動機の回転部などが凍結するため暖機運転等を行う場合がある。このような暖機運転時は電動機から発生する損失は大きい方が望ましい。
【0071】
このため、
図10に示すように、PWMパルス生成部23(PWMパルス生成部2の変形例)において、キャリア波生成部231(一定周期のキャリア波を生成する)と、キャリア波生成部232(キャリア波の周期を変更する)と、から生成されるキャリア波をキャリア波切り替え部233により、交流電動機温度情報1Aを元に切り替える構成とする。交流電動機温度情報1Aは、交流電動機1の温度を検出する温度センサ(図示せず)からキャリア波切り替え部233に出力することができる。
【0072】
このような構成とすることで、交流電動機温度情報1Aが一定以下の場合は一定周期のキャリア波生成部231側のキャリア波を選択し、交流電動機温度情報1Aが一定以上の場合は、周期的変更の233側のキャリア波を選択することができ、暖機運転時に交流電動機1から発生する損失を大きくすることが可能となる。キャリア波生成部231は、周期一定キャリア波生成部と定義することができる。
【0073】
交流電動機1の温度を上昇させるためのヒータが別個設けられている場合にも、PWMパルス生成部23を上記のような構成とすることにより、暖機運転をより早期に開始することができる。
【0074】
実施例2によれば、実施例1と同様な効果を得ることができる他、上述したように、暖機運転をより早期に開始することができるという効果がある。
【0075】
なお、上述した例は、d軸インダクタンスよりq軸インダクタンスの方が大きい例について説明したが、q軸インダクタンスよりd軸インダクタンスの方が大きい例にも適用可能である。この場合は、高調波成分をインダクアンスの大きいd軸側に集中するように、PWMキャリア波の周期を所定の間隔で変更するように構成する。
1・・・交流電動機、2・・・制御部、3・・・インバータ、4・・・電流検出部、5・・・位置センサ、10・・・交流電動機制御装置、21・・・ベクトル制御部、21A・・・変調率指令値(電圧指令値)、22・・・ PWMパルス生成部、23・・・PWMパルス生成部の変形例、100・・・電気自動車、101・・・車載電動機主機、221・・・キャリア波生成部、222・・・キャリア・電圧指令比較部、 231・・・キャリア波生成部(周期一定キャリア波生成部)、232・・・キャリア波生成部(周期)、233・・・キャリア波切り替え部