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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024070390
(43)【公開日】2024-05-23
(54)【発明の名称】玉軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/41 20060101AFI20240516BHJP
   F16C 19/06 20060101ALI20240516BHJP
   F16C 33/66 20060101ALI20240516BHJP
【FI】
F16C33/41
F16C19/06
F16C33/66 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022180847
(22)【出願日】2022-11-11
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】布川 公博
(72)【発明者】
【氏名】大宮 康裕
(72)【発明者】
【氏名】入谷 昌徳
(72)【発明者】
【氏名】村田 收
(72)【発明者】
【氏名】遠山 護
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 範和
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 みちる
(72)【発明者】
【氏名】鬼塚 高晃
【テーマコード(参考)】
3J701
【Fターム(参考)】
3J701AA02
3J701AA32
3J701AA42
3J701AA52
3J701BA25
3J701BA44
3J701BA49
3J701CA13
3J701CA14
3J701EA63
3J701FA32
3J701XB03
3J701XB19
3J701XB26
(57)【要約】
【課題】高速で回転しても、転動面における油量不足を抑制し、焼き付きや摩耗の発生を抑制できる玉軸受を提供する。
【解決手段】内輪10、外輪12、複数の転動体14、保持器16を備え、内輪10及び外輪12が中心軸を中心に相対的に回転可能な玉軸受100であって、保持器16は、保持器16の公転の上流側に設けられた上流側爪部16aと下流側に設けられた下流側爪部16bで構成されたポケットによって転動体14を保持し、上流側爪部16aの高さは転動体24の半径の1/2倍以上であり、下流側爪部16bの高さは公転軌道よりも高い非対称形状である。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内輪と、外輪と、前記内輪と前記外輪との間に配置された複数の転動体と、前記転動体を周方向に間隔を空けて転動可能に保持する保持器と、を備え、前記内輪及び前記外輪が中心軸を中心に相対的に回転可能な玉軸受であって、
前記保持器は、前記保持器の公転の上流側に設けられた上流側爪部と下流側に設けられた下流側爪部で構成されたポケットによって前記転動体を保持し、前記上流側爪部の高さは前記転動体の半径の1/2倍以上であり、前記下流側爪部の高さは前記公転軌道よりも高い非対称形状であることを特徴とする玉軸受。
【請求項2】
請求項1に記載の玉軸受であって、
前記転動体の中心を通る周方向に沿った前記保持器の断面において、前記ポケットに保持された前記転動体の中心である保持面中心点と前記上流側爪部の端部とを結ぶ第1ラインと、前記保持面中心点と前記下流側爪部の端部とを結ぶ第2ラインと、のなす保持角度が180°以上260°以下であることを特徴とする玉軸受。
【請求項3】
請求項1に記載の玉軸受であって、
前記上流側爪部の高さは前記転動体の半径の1倍を超えることを特徴とする玉軸受。
【請求項4】
請求項1又は3のいずれか1項に記載の玉軸受であって、
前記下流側爪部の高さは前記転動体の半径の1倍以上2倍以下であることを特徴とする玉軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、玉軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
外輪及び内輪の間に複数の転動体を保持器によって保持し、保持器にリブを形成することによって潤滑剤溜まりを設けた玉軸受が開示されている(特許文献1)。潤滑剤溜まりには転動体を保持するポケットと連通する貫通孔が設けられており、当該貫通孔を通して潤滑剤を転動体へ供給する構成とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010-60001号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、従来技術では、保持器に設けられた潤滑剤溜まりとポケットを連通する貫通孔を用いてグリースを転動体に供給する構成とされている。しかしながら、軸受を高速回転で使用することを想定した場合、遠心力に対する機械的強度の低下の観点から保持器の厚さを薄くしてしまう潤滑剤溜まりを設けることができない。
【0005】
また、従来技術では、転動体の自転方向を考慮することなくグリースを供給する貫通孔が形成されており、ラジアル荷重を受ける部位に貫通孔を通じてグリースを供給することができない。
【0006】
さらに、従来技術では、軸受の回転に伴ってグリースが掻き分けられて転動体に十分に供給されなくなる状態は考慮されていない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の1つの態様は、内輪と、外輪と、前記内輪と前記外輪との間に配置された複数の転動体と、前記転動体を周方向に間隔を空けて転動可能に保持する保持器と、を備え、前記内輪及び前記外輪が中心軸を中心に相対的に回転可能な玉軸受であって、前記保持器は、前記保持器の公転の上流側に設けられた上流側爪部と下流側に設けられた下流側爪部で構成されたポケットによって前記転動体を保持し、前記上流側爪部の高さは前記転動体の半径の1/2倍以上であり、前記下流側爪部の高さは前記公転軌道よりも高い非対称形状であることを特徴とする玉軸受である。
【0008】
ここで、前記転動体の中心を通る周方向に沿った前記保持器の断面において、前記ポケットに保持された前記転動体の中心である保持面中心点と前記上流側爪部の端部とを結ぶ第1ラインと、前記保持面中心点と前記下流側爪部の端部とを結ぶ第2ラインと、のなす保持角度が180°以上260°以下であることが好適である。
【0009】
また、前記上流側爪部の高さは前記転動体の半径の1倍を超えることが好適である。
【0010】
また、前記下流側爪部の高さは前記転動体の半径の1倍以上2倍以下であることが好適である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、回転速度に依らず、転動面における油量不足を抑制し、焼き付きや摩耗の発生を抑制できる玉軸受を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施の形態における玉軸受の外観を示す図である。
図2図1におけるラインA-Aに沿った断面を示す図である。
図3図1におけるラインB-Bに沿った断面を示す図である。
図4】従来の玉軸受の外観を示す図である。
図5図4におけるラインC-Cに沿った断面を示す図である。
図6図4におけるラインD-Dに沿った断面を示す図である。
図7】潤滑状態を観察するための試験機の構成を示す図である。
図8】低速状態における転動面周辺のグリース分布の観察結果を模式的に示した図である。
図9】高速状態における転動面周辺のグリース分布の観察結果を模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[従来の玉軸受]
図4は、従来の玉軸受200の構成を示す平面図である。また、図5は、図4におけるラインC-Cに沿った断面図を示す。図6は、図4におけるラインD-Dに沿った断面図を示す。なお、説明を明確にするために、図4においてシール28は除いて示している。
【0014】
玉軸受200は、内輪20、外輪22、転動体24、保持器26及びシール28を含んで構成される。玉軸受200は、内輪20と外輪22との間で転動体24が転動することによって、外輪22及び内輪20の中心軸を回転軸として外輪22と内輪20とが相対的に回転可能である。転動体24は、内輪20の内側軌道と外輪22の外側軌道とで形成される空間内に転動可能な状態で保持器26によって保持される。玉軸受200では、図5に示すように、保持器26の公転方向の前方の上流側爪部26aの上面26cと後方の下流側爪部26bの上面26dの高さが略等しくなるように構成されている。
【0015】
内輪20及び外輪22の間の空間には潤滑油であるグリースが注入されている。シール28は、注入されたグリースを内輪20と外輪22の間の空間に保持する。なお、玉軸受200では、内部の潤滑状態を確認できるように外輪22を石英等の透明な部材で構成している。
【0016】
図7は、高速で回転する玉軸受200の内部の潤滑状態を可視化できる試験機300の構成を示す。試験機300は、軸受付筐体30、回転軸32、モータ34、ハウジング36及びカメラ38を備える。観察対象となる玉軸受200は、ハウジング36内に保持され、モータ34によって内輪20を回転させることができるように回転軸32に結合される。軸受付筐体30及びハウジング36には、カメラ38によって玉軸受200を観察できるように観察用穴30a及び36aがそれぞれ設けられる。試験機300を用いることによって、モータ34によって回転軸32を回転させた状態においてカメラ38を用いて高速で回転する玉軸受200の内部の潤滑状態を観察することができる。なお、ハウジング36に荷重用の負荷となる錘を設けることで、図4に示した荷重方向に荷重を印加した状態で玉軸受200の潤滑状態を観察することができる。
【0017】
試験機300を用いて、回転軸32の上方向から300Nのラジアル荷重を掛けた状態において、カメラ38を用いて外輪22の最頂部付近を視野23.6mm×17.7mmで観察した。玉軸受200には、蛍光材であるクマリン-6を混入させたグリースを潤滑剤として用いた。グリースに対する励起光として、波長405nmのLEDフラッシュ証明を用いた。
【0018】
LEDフラッシュ照明の1回発光あたりの時間4μsとしてカメラ38のフレームレート40fpsに合わせて照射しつつ、モータ34によって回転させている玉軸受200の内部のグリース分布を観察した。先ず、玉軸受200にグリースを封入した直後の状態で、回転軸32の回転速度470r/minの低速条件での観察を行った。その後、回転軸32の回転速度を徐々に上げてのべ約15分間の回転を行い、回転軸32の回転速度16000r/minでの高速条件での観察を行った。
【0019】
図8は、低速状態における転動面周辺のグリース分布の観察結果を模式的に示す。図9は、高速状態における転動面周辺のグリース分布の観察結果を模式的に示す。図8及び図9において、グリースが多く存在するほど黒に近い暗色で示す。また、転動体24の位置を実線で示し、転動体24の中心線を1点破線で示し、保持器26の位置を2点破線で示している。転動体24の公転方向は図の右方向である。
【0020】
図8に示すように、グリース封入直後の低回転条件では、転動体24と転動体24の間、転動体24及び保持器26の公転軌道部にグリースが存在していた。この状態では、内輪20及び外輪22と転動体24との転動面にも十分にグリースが供給されていると判断できる。一方、図9に示すように、高回転条件では、転動体24及び保持器26の公転によるグリースの掻き分けによって、グリースは公転方向の左右側(図9の上下方向)に堆積した。この状態では、転動体24及び保持器26の公転軌道部にはグリースがほとんど無くなっていると判断できる。これは、流動性の低いグリース潤滑では、掻き分けられたグリースの軌道部への再流入が少なくなっているためと考えられる。いずれにしても、低速度条件に比べて高速条件では、内輪20及び外輪22と転動体24との転動面を含む転動体24の公転軌道部にはグリースがほとんど存在しなくなっており、潤滑不足が生じ、摩耗や焼き付きを発生し易い状態となっていると判断できる。
【0021】
[本発明の実施の形態]
本発明の実施の形態における玉軸受100は、図1図3に示すように、内輪10、外輪12、転動体14、保持器16及びシール18を含んで構成される。
【0022】
図1は、本発明の実施の形態における玉軸受100の構成を示す平面図である。また、図2は、図1におけるラインA-Aに沿った断面図を示す。ラインA-Aは、内輪10及び外輪12と同軸であり、転動体14の中心を通る円弧の一部である。図3は、図1におけるラインB-Bに沿った断面図を示す。ラインB-Bは、内輪10及び外輪12の径方向に沿って、内輪10、外輪12及び保持器16を通る直線である。なお、説明を明確にするために、図1においてシール18は除いて示している。
【0023】
玉軸受100は、内輪10と外輪12との間で転動体14が転動することによって、外輪12及び内輪10の中心軸を回転軸として外輪12と内輪10とが相対的に回転可能である。内輪10の外周面には、転動体14の表面に沿うような形状の内側軌道が設けられる。外輪12の内周面には、球である転動体14の表面に沿うような形状の外側軌道が設けられる。転動体14は、内輪10の内側軌道と外輪12の外側軌道とで形成される空間内に転動可能な状態で保持器16によって保持される。保持器16は、外輪12と内輪10との間に配置され、複数の転動体14を周方向に所定の間隔を空けて転動可能に保持する。なお、玉軸受100では、転動体14の数を12にしているが、これに限定されるものではなく他の数にしてもよい。
【0024】
内輪10及び外輪12の間の空間には潤滑油であるグリースが注入されている。シール18は、注入されたグリースを内輪10と外輪12の間の空間に保持する。シール18は、例えば、ゴム等の弾性力のある部材で構成することが好適である。
【0025】
図2に示すように、保持器16の外周面及び内周面の少なくとも一方には転動体14を保持するために玉軸受100の中心軸方向に突出する突起部である上流側爪部16a及び下流側爪部16bが設けられる。上流側爪部16aは、内輪10及び外輪12を相対的に回転させたときに内輪10及び外輪12の回転軸を中心として保持器16が移動する公転方向(図2中の矢印で示す)の上流側に配置される。下流側爪部16bは、公転方向(図2中の矢印で示す)の下流側に配置される。上流側爪部16aの下流側の面及び下流側爪部16bの上流側の面によって囲まれた空間によって保持器16のポケットが形成され、当該ポケットによって抱き込まれるように転動体14が保持される。
【0026】
玉軸受100において、上流側爪部16aの高さH1は転動体14の半径の1/2倍以上であることが好適である。また、上流側爪部16aの高さH1は転動体14の半径の1倍を超えることが好適である。また、下流側爪部16bの高さH2は公転軌道Xよりも高くすることが好適である。すなわち、保持器16において、上流側爪部16aと下流側爪部16bは周方向に沿って非対称形状を有する。ここで、公転軌道Xは、内輪10と外輪12とを相対的に回転させたときに内輪10及び外輪12の回転軸を中心として転動体14の中心が動く軌道である。また、上流側爪部16aの高さH1は、保持器16のポケットの底部から上流側爪部16aの端部16cまでの径方向に沿った長さであり、下流側爪部16bの高さH2は、保持器16のポケットの底部から下流側爪部16bの端部16dまでの径方向に沿った長さである。
【0027】
また、転動体14の中心を通り内輪10及び外輪12の周方向に沿った保持器16の断面(ラインA-Aに沿った断面)において、保持器16のポケットに保持された転動体14の中心を保持面中心点Pとして、保持面中心点Pと上流側爪部16aの端部16cのポケット側の点aとを結ぶ第1ラインと、保持面中心点Pと下流側爪部16bの端部16dのポケット側の点bとを結ぶ第2ラインとのなす保持角度θを180°以上260°以下とすることが好適である。なお、保持角度θは、上流側爪部16aが設けられておらず保持器16が開放された側ではなく、保持器16のポケットが形成された側の角度である。
【0028】
保持角度θを180°以上とすることによって、保持器16のポケットによる転動体14の保持を確実なものとし、転動体14の位置決め精度を高く維持することができる。また、保持角度θを260°以下とすることによって、保持器16への転動体14の組み付けが容易になる。
【0029】
また、上流側爪部16aの高さH1は、転動体14の半径の1/2倍以上とすることが好適であり、1倍を超えることがより好適である。また、下流側爪部16bの高さH2は、転動体14の半径の1倍以上2倍以下とすることが好適である。
【0030】
玉軸受100では、上流側爪部16aの高さH1に対して下流側爪部16bの高さH2を高くすることによって、保持器16のポケットと転動体14との摺動面に潤滑油であるグリースを効果的に供給することができる。特に、上流側爪部16aの高さH1が転動体14の半径の1/2倍以上、より好適には1倍を超えることによって、グリースの供給を向上させると共に、保持器16の機械的な強度の低下を防ぐことができる。また、下流側爪部16bの高さH2を転動体14の半径の1倍以上2倍以下とすることによって、公転方向に対して下流側爪部16bは高さ方向に突き出すことなく転動体14の背後に隠れる。したがって、下流側爪部16bによるグリースの掻き分けを抑制することができ、下流側爪部16bの背後にある別の転動体14へのグリースの供給を効率的に行うことができる。
【0031】
[本願発明の構成]
構成1:
内輪と、外輪と、前記内輪と前記外輪との間に配置された複数の転動体と、前記転動体を周方向に間隔を空けて転動可能に保持する保持器と、を備え、前記内輪及び前記外輪が中心軸を中心に相対的に回転可能な玉軸受であって、
前記保持器は、前記保持器の公転の上流側に設けられた上流側爪部と下流側に設けられた下流側爪部で構成されたポケットによって前記転動体を保持し、前記上流側爪部の高さは前記転動体の半径の1/2倍以上であり、前記下流側爪部の高さは前記公転軌道よりも高い非対称形状であることを特徴とする玉軸受。
構成2:
構成1に記載の玉軸受であって、
前記転動体の中心を通る周方向に沿った前記保持器の断面において、前記ポケットに保持された前記転動体の中心である保持面中心点と前記上流側爪部の端部とを結ぶ第1ラインと、前記保持面中心点と前記下流側爪部の端部とを結ぶ第2ラインと、のなす保持角度が180°以上260°以下であることを特徴とする玉軸受。
構成3:
構成1又は2に記載の玉軸受であって、
前記上流側爪部の高さは前記転動体の半径の1倍を超えることを特徴とする玉軸受。
構成4:
構成1~3のいずれか1つに記載の玉軸受であって、
前記下流側爪部の高さは前記転動体の半径の1倍以上2倍以下であることを特徴とする玉軸受。
【符号の説明】
【0032】
10 内輪、12 外輪、14 転動体、16 保持器、16a 上流側爪部、16b 下流側爪部、16c 端部、16d 端部、18 シール、20 内輪、22 外輪、24 転動体、26 保持器、26a 上流側爪部、26b 下流側爪部、26c 上面、26d 上面、28 シール、30 軸受付筐体、30a 観察用穴、32 回転軸、34 モータ、36 ハウジング、38 カメラ、100 玉軸受、200 玉軸受。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9