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特開2024-70430新規高効率有機EL材料と高効率発光デバイス
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  • 特開-新規高効率有機EL材料と高効率発光デバイス 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024070430
(43)【公開日】2024-05-23
(54)【発明の名称】新規高効率有機EL材料と高効率発光デバイス
(51)【国際特許分類】
   H10K 50/10 20230101AFI20240516BHJP
   C09K 11/06 20060101ALI20240516BHJP
   C07F 9/535 20060101ALI20240516BHJP
【FI】
H05B33/14 B
C09K11/06 660
C07F9/535 CSP
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022180913
(22)【出願日】2022-11-11
(71)【出願人】
【識別番号】504147254
【氏名又は名称】国立大学法人愛媛大学
(71)【出願人】
【識別番号】518053747
【氏名又は名称】株式会社フラスク
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【弁理士】
【氏名又は名称】木下 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100187506
【弁理士】
【氏名又は名称】澤田 優子
(72)【発明者】
【氏名】林 実
(72)【発明者】
【氏名】太田 英俊
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 正拓
【テーマコード(参考)】
3K107
4H050
【Fターム(参考)】
3K107AA01
3K107BB01
3K107CC04
3K107CC07
3K107DD59
3K107DD66
3K107DD68
3K107DD69
3K107FF14
4H050AA01
4H050AA03
4H050AB92
(57)【要約】
【課題】ホスフィニン誘導体からなる青色発光有機EL用発光材料を提供するとともに、該有機EL用発光材料を含有する有機EL素子を提供する。
【解決手段】本発明の有機EL用発光材料は、リン原子を含む六員環のC4位に電子求引性基を有するホスフィニン誘導体からなることを特徴とする。さらに、本発明の有機EL素子では、一対の電極と、該一対の電極間に挟持された少なくとも一層の有機発光層とを有し、前記有機発光層の少なくとも一層がアントラセン系化合物とホスフィニン誘導体とを含有することを特徴としている。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示されるホスフィニン誘導体からなる有機EL用発光材料。
【化1】
(一般式(1)中、Xは電子求引性基を示し、R1及びR4はエステル基又はアミド基を示し、R2、R3、R5及びR6は水素、重水素、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、核原子数5~30のアリール基、シリル基、シアノ基、フォルミル基、カルボニル基、アミノ基、ニトロ基又はハロゲンを示す。)
【請求項2】
下記一般式(1)で示されるホスフィニン誘導体からなる有機EL用青色発光材料。
【化2】
(一般式(1)中、Xは電子求引性基を示し、R1及びR4はエステル基を示し、R2、R3、R5及びR6は水素、重水素、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、核原子数5~30のアリール基、シリル基、シアノ基、フォルミル基、カルボニル基、アミノ基、ニトロ基又はハロゲンを示す。)
【請求項3】
一対の電極と、該一対の電極間に挟持された少なくとも一層の有機発光層とを含み、
該有機発光層が、一般式(3)で示されるアントラセン誘導体と、一般式(2)で示されるホスフィニン誘導体とを含有することを特徴とする有機EL素子。
【化3】
【化4】
(一般式(3)及び一般式(2)中、R15及びR18はエステル基又はアミド基を示し、R11~R14、R16、R17、R19、R20及びAは、水素、重水素、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、核原子数5~30のアリール基、シリル基、シアノ基、フォルミル基、カルボニル基、アミノ基、ニトロ基又はハロゲンを示す。)
【請求項4】
前記有機発光層が、前記一般式(2)で示されるホスフィニン誘導体を0.1~10wt%含有することを特徴とする請求項3に記載の有機EL素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、青色発光をする有機EL用発光材料、及びそれらを含む有機発光層を有する有機EL素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子では、一対の電極間に電圧を印加することにより、陽極から正孔が、陰極から電子が、発光材料として有機化合物を含む発光層にそれぞれ注入され、注入された正孔及び電子が再結合することによって、発光性の有機化合物中に励起子が形成され、励起された有機化合物から発光を得ることができる。つまり、自己発光性素子であるため、有機EL素子は、液晶素子に比べて明るく視認性に優れ、鮮明な表示が可能である。そのため、有機EL素子は、自己発光性素子としての利点を活かし、高発光効率、高画質、低消費電力、長寿命さらには薄型のデザイン性に優れた発光素子として期待されている。
【0003】
有機EL素子の性能向上を果たすべく、発光層をホスト材料に発光材料(ゲスト材料)をドープしたホスト/ドーパントからなる有機層にすることが行われている。このような有機発光層を用いて、例えば、正孔輸送層、発光層及び電子輸送層からなる三層構造において、ホストのHOMO準位を正孔輸送層材料のHOMO準位に一致させ、正孔輸送層-LUMOを十分高くして、正孔が発光層に確実に移動できるようにするとともに、ホストと電子輸送層との界面でもLUMO準位を一致させ、電子輸送層-HOMOが十分に深くなるようにして電荷を閉じ込め、さらに、正孔輸送材料及び電子輸送材料の三重項励起子エネルギーを発光材料の三重項準位より十分に高くすることで、発光励起子の消光を防ぐことができる。
【0004】
有機発光層では、ホストに注入された電荷から効率よく励起子が生成され、該励起子のエネルギーをドーパントに移動させて、ドーパントから高効率の発光を得ている。
【0005】
青色発光するドーパントは、青色が光の三原色のひとつでもあることから極めて重要であるが、赤色や緑色に比べて発光効率が低く、発光寿命も短いため特に開発が望まれている。このような青色ドーパントとしては、例えば、無置換のピレン構造にジアリールアミノ基が結合した芳香族アミン誘導体がよく知られている(特許文献1)。
【0006】
またN-P-NユニットやP-N-Pユニット等を含む六員環構造を有するホスフィニン誘導体をホスト材料として用いた発光層を少なくとも一層有する有機EL素子が報告されている(特許文献2)。特許文献2には、特に好適な形態である三層系では、青色、緑色、橙色、及び赤色の組み合わせで発光させることができることも記載されている。
【0007】
発光材料として2,6-ジシアノ-1,1-ジフェニル-λ5σ4-ホスフィニン(DCNP)を用い、ホスト材料として4,4’-ビス[(N-カルバゾール)スチリル]ビフェニル(BSBCz)を用いた有機EL素子も報告されている。前記有機EL素子では、DCNPを1%ドープしたBSBCzを発光層とすることにより、DCNPの励起三重項状態をBSBCzが除去し、高輝度時の発光効率低下(ロールオフ)が抑制される(非特許文献1)。一方、ホスフィニン誘導体をアントラセン系ホストとともに用いた場合、BSBCzや、4,4’-ビス(カルバゾール-9-イル)ビフェニル(CBP)のようにアントラセン構造を持たないホスト材料と組み合わせた場合よりも、発光寿命が大きく改善され、従来の芳香族アミン系の青色ドーパントと比較して有意に高い発光効率が得られる青色有機EL素子も報告されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2006/030527A1号
【特許文献2】国際公開第2011/134577A1号
【特許文献3】特開2022―089533号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】NATURE COMMUNICATIONS(2020)11:4926
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、ホスフィニン誘導体からなる青色発光有機EL用発光材料と、それを有機発光層に用いた有機EL素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の有機EL用発光材料は、下記一般式(1)で示されるホスフィニン誘導体からなることを特徴とする。
【化1】
一般式(1)中、Xは電子求引性基を示し、R1及びR4はエステル基又はアミド基を示し、R2、R3、R5及びR6は水素、重水素、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、核原子数5~30のアリール基、シリル基、シアノ基、フォルミル基、カルボニル基、アミノ基、ニトロ基又はハロゲンを示す。
【0012】
本発明の有機EL用青色発光材料は、下記一般式(1)で示されるホスフィニン誘導体からなることを特徴とする。
【化2】
一般式(1)中、Xは電子求引性基を示し、R1及びR4はエステル基又はアミド基を示し、R2、R3、R5及びR6は水素、重水素、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、核原子数5~30のアリール基、シリル基、シアノ基、フォルミル基、カルボニル基、アミノ基、ニトロ基又はハロゲンを示す。
【0013】
本発明の有機EL素子は、一対の電極と、該一対の電極間に挟持された少なくとも一層の有機発光層とを含み、該有機発光層が、一般式(3)で示されるアントラセン誘導体と、一般式(2)で示されるホスフィニン誘導体とを含有することを特徴とする。
【化3】
【化4】
一般式(3)及び一般式(2)中、R15及びR18はエステル基又はアミド基を示し、R11~R14、R16、R17、R19、R20及びAは、水素、重水素、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、核原子数5~30のアリール基、シリル基、シアノ基、フォルミル基、カルボニル基、アミノ基、ニトロ基又はハロゲンを示す。
【0014】
前記有機発光層は、前記一般式(2)で示されるホスフィニン誘導体を0.1~10wt%含有することが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の有機EL用発光材料は、フルカラーTVに必要とされる純青色の発光を発現するため、有機EL素子(OLED)用の青色発光材料に好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の有機EL素子の構成を表す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の有機EL用発光材料及び有機EL素子について詳細に説明する。
[有機EL用発光材料]
本発明の有機EL用発光材料は、下記一般式(1)で示されるホスフィニン誘導体からなる。ホスフィニン誘導体は、リン原子を含む六員環有機化合物である。このようなホスフィニン誘導体のC4位に電子求引性基を導入すると、無置換体や電子供与基を導入した場合に比べて発光波長が短波長化する。ホスフィニン誘導体は発光の量子収率が高く、このようなホスフィニン誘導体は青色発光用のドーパントとして有望である。
【0018】
【化5】
一般式(1)中、Xは電子求引性基を示す。
電子求引性基としては、例えば、シアノ基、フォルミル基、カルボニル基、スルフォンオキシド基、フェニルスルホニル基、スルフォンジオキシド基、ニトロ基、ホスフィンスルフィド基、ホスフィンオキシド基、ハロゲン、ハロゲン化アルキル基、ハロゲン化アリール基、ジフェニルトリアジニル基、及びジアリールホスフィニル(-P(=O)Ar2)基が挙げられる。
【0019】
カルボニル基としては、アルキルカルボニル基及びアリールカルボニル基が挙げられる。アルキルカルボニル基としては、例えば、メチルカルボニル基、及びエチルカルボニル基等が挙げられる。アルキルカルボニル基の水素原子の一部又は全部はハロゲン等で置換されていてもよく、例えば、トリフルオロメチルカルボニル(-C(=O)CF3)基であってもよい。アリールカルボニル基としては、例えば、フェニルカルボニル基及びピリジニルカルボニル基等の芳香環又は複素芳香環を有するカルボニル基が挙げられる。アリールカルボニル基の水素原子の一部又は全部はハロゲン等で置換されていてもよく、例えば、ペンタフルオロフェニルカルボニル(-C(=O)C65)基等であってもよい。
【0020】
ハロゲンとしては、フッ素、塩素、臭素、及びヨウ素が挙げられる。
ハロゲン化アルキル基としては、トリフルオロメチル基、及びトリクロロメチル基等が挙げられる。
ハロゲン化アリール基としては、フルオロフェニル基、ペンタフルオロフェニル基、及びヘキサフルオロフェニル基等が挙げられる。
【0021】
ジアリールホスフィニル(-P(=O)Ar2)基としては、例えば、ジフェニルホスフィニル基が挙げられる。
【0022】
1及びR4はエステル基又はアミド基を示す。
エステル基は、アルコキシカルボニル基又はアリールオキシカルボニル基ともいう。すなわち、エステル(R(C=O)OR’)のうち、-(C=O)OR’の構造を有する置換基をいう。エステル基としては、メチルエステル基(-(C=O)OCH3)、エチルエステル基(-(C=O)OCH2CH3)、t-ブチルエステル基(-(C=O)OC(CH33)、フェニルエステル基(-(C=O)OC65)、ベンジルエステル基(-(C=O)OCH265)等が挙げられる。
【0023】
アミド基は-(C=O)NR’R”の構造を有する置換基をいう。アミド基としては、アセトアミド基(-(C=O)NH2)、N,N-ジメチルホルムアミド基(-(C=O)N(CH32)、N,N-ジエチルホルムアミド基(-(C=O)N(CH2CH32)、N,N-ジフェニルアミド基(-(C=O)N(C652)等が挙げられる。
【0024】
2、R3、R5及びR6は水素、重水素、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、核原子数5~30のアリール基、シリル基、シアノ基、フォルミル基、カルボニル基、アミノ基、ニトロ基、及びハロゲンを示す。
炭素数1~6のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、n-ブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、シクロブチル基、n-ペンチル基、シクロペンチル基、n-ヘキシル基、及びシクロヘキシル基等が挙げられる。
【0025】
炭素数1~6のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n-プロピルオキシ基、イソプロピルオキシ基、シクロプロピルオキシ基、n-ブチルオキシ基、s-ブチルオキシ基、t-ブチルオキシ基、シクロブチルオキシ基、n-ペンチルオキシ基、シクロペンチルオキシ基、n-ヘキシルオキシ基、及びシクロヘキシルオキシ基等が挙げられる。
【0026】
核原子数5~30のアリール基としては、単環式の芳香族化合物(例えば、ベンゼン、重水素化ベンゼン、スチレン、シロール、ジオキシン、ピリジン、ピリミジン、トリアジン、ピロール、フラン、チオフェン、オキサゾール、オキサジアゾール、チアゾール、イミダゾール、及びビス(3,5-ジ(トリフルオロメチル)ベンゼン)、二環式の芳香族化合物(例えば、ビフェニル、ナフタレン、インドール、キノリン、キノキサリン、ベンゾフラン、ベンゾチオフェン、ベンゾシロール、ベンゾチアゾール、ベンゾイミダゾール、ベンゾチオキシン、-フェニルナフタレン、及び4-(1-ナフチル)ベンゼン)、三環式の芳香族化合物(例えば、フルオレン、アントラセン、フェナントレン、アセナフテン、アズレン、カルバゾール、アクリジン、9,10-ジヒドロ-9,9-ジメチルアクリジン、フェノキサジン、フェノチアジン、ジベンゾフラン、フェナザボリン、フェナザシリン、フェナジン、ジベンゾチオフェン、ジベンゾシロール、ジベンゾチオキシン、及びチアンスレン)、四環式の芳香族化合物(例えば、ピレン、クリセン、トリフェニレン、及びベンゾナフトフラン)、及び五環式の芳香族化合物(例えば、ペリレン)から水素原子1個以上を除いた基が挙げられる。前記アリール基は、本発明の効果を損なわない範囲内で、ケイ素やホウ素等の置換基を有していてもよい。
【0027】
シリル基としては、例えば、トリフェニルシリル基等が挙げられる。
カルボニル基としては、アルキルカルボニル基及びアリールカルボニル基が挙げられる。アルキルカルボニル基としては、例えば、メチルカルボニル基、及びエチルカルボニル基等が挙げられる。アリールカルボニル基としては、例えば、フェニルカルボニル基、及びピリジルカルボニル基等の芳香環又は複素芳香環を有するカルボニル基が挙げられる。
アミノ基としては、例えば、ジエチルアミノ基、ジフェニルアミノ基、及びフェニルナフチルアミノ基、ジナフチルアミノアミノ基、並びに、アクリジン、フェノチアジン、フェノキサジン、カルバゾール及びフェナジンから水素原子1個以上を除いた基等が挙げられる。
ハロゲンは、前記のとおりである。
【0028】
一般式(1)の具体例としては、以下の化合物PH1~PH24が挙げられる。ただしこれらの化合物に限定されるものではない。
【化6】
【0029】
【化7】
【0030】
本発明の有機EL用発光材料は、種々の公知の方法で合成することができる。一例として、前記PH1の合成方法を示す。
【化8】
2,6-ジメトキシカルボニル-1,1-ジフェニル-λ5σ4-ホスフィニン(DCNP)をN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)に溶解し、オキシ塩化リンを加え、0℃で30分間攪拌する。その後、室温に戻して3時間攪拌する。反応を止めて、抽出及び精製を行い、黄色固体のPH1を収率88%で得る。
【0031】
[有機EL素子]
本発明の有機EL素子(OLED)は、陽極2及び陰極7からなる一対の電極と、該一対の電極間に有機発光層5を含む少なくとも一層の有機層とを有し、前記有機発光層5が一般式(3)で示されるアントラセン誘導体と、一般式(2)で示されるホスフィニン誘導体とを含有することを特徴とする。
【0032】
【化9】
【化10】
【0033】
一般式(3)及び一般式(2)中、R15及びR18はエステル基を示し、R11~R14、R16、R17、R19、R20及びAは、水素、重水素、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、核原子数5~30のアリール基、シリル基、シアノ基、フォルミル基、カルボニル基、アミノ基、ニトロ基、ハロゲンを示す。
11~R14、R15~R20及びAの詳細な説明は、一般式(1)のR1~R6の定義に準じる。
一般式(3)の具体例としては、以下の化合物(3-1)~(3-20)が挙げられる。ただし、これらの化合物に限定されるものではない。
【0034】
【化11】
【0035】
一般式(2)の具体例としては、一般式(1)の具体例として開示したものの他に以下の化合物(Ph1)~(Ph13)が挙げられる。
【化12】
【0036】
前記有機EL素子は、典型的には、基板1の上に、酸化インジウムスズ(ITO)等を陽極2として成膜し、正孔注入層3、正孔輸送層4、電子阻止層、有機発光層5、正孔阻止層、電子輸送層6、電子注入層及び陰極7がこの順に積層した構造を有する。前記多層構造において、いくつかの層を省略してもよいし、例えば、電子注入層を電子輸送層6の機能も併せ持つ電子注入・輸送層としてもよい。図1は、本発明の実施例の形態であり、ITO透明電極2上に、正孔注入層3として、ヘキサアザトリフェニレンカルボニトリル(HAT-CN)を5nm、正孔輸送層4として、4,4’-ビス[フェニル(1-ナフチル)アミノ]ビフェニル(NPB)を60nm、有機発光層5として9-(ジベンゾフラン-2-イル)-10-フェニルアントラセン(BH1)と本発明のホスフィニン誘導体(4wt%)とを30nm、電子輸送層6として、2,9-ジ(2-ナフチル)-4,7-ジフェニル-1,10-フェナントロリン(ET1)を20nm、陰極7としてアルミニウムを100nm積層した有機EL素子を表している。
【0037】
基板1には、透明かつ平滑であって、少なくとも70%以上の全光線透過率を有するものが用いられ、具体的には、フレキシブルな透明基板である、数μm厚のガラス基板や特殊な透明プラスチック等が用いられる。
【0038】
陽極2は、正孔を、正孔注入層3、正孔輸送層4、及び有機発光層5に注入する機能を有する電極である。陽極2の材料には、一般的に、仕事関数が4.5eV以上の金属酸化物、金属、合金及び導電性材料等が用いられるが、発光した光を透過させる観点から、全光線透過率は通常80%以上であるものが好ましい。具体的には、ITOやZnO(酸化亜鉛)等の透明導電性セラミックスや、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)/ポリ(4-スチレンスルホン酸)(PEDOT/PSS)、ポリアニリン及びその他の透明導電性材料が用いられる。陽極2の膜厚は、通常5~500nm、好ましくは10~200nmである。
陽極2は、蒸着法、電子線ビーム法、スパッタリング法、化学反応法、及び塗布法等により形成される。
【0039】
陰極7は、電子を、電子輸送層6及び有機発光層5に注入する機能を有する電極である。陰極7の材料としては、一般的に、仕事関数がおおよそ4eV以下の金属や合金が適している。陰極7に使用される金属には、例えば、アルミニウム、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム及びマグネシウム等が用いられる。合金を使用した陰極としては、これらの低仕事関数の金属とアルミニウムもしくは銀等の金属との合金からなる電極、又は、これら低仕事関数の金属とアルミニウムもしくは銀等の金属とを積層した構造の電極等が挙げられる。陰極7の膜厚は、通常10~200nmである。
陰極7は、蒸着法、電子線ビーム法、スパッタリング法、化学反応法、及び塗布法等により形成される。
【0040】
正孔注入層3は発光効率の向上のために導入される層である。正孔注入層3は低電圧で電流を流すため、膜厚を1~20nm、すなわち、ピンホール等が発生しない程度に薄く、かつ、均一にすることが好ましい。このような正孔注入材料には、例えば、トリフェニルアミン含有ポリマー:(4-イソプロピル-4’-メチルジフェニルヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート(KLHIP:PPBI)、トリフェニルアミン含有ポリエーテルケトン(TPAPEK)、ヘキサアザトリフェニレンカルボニトリル(HAT-CN)、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT:PSS)、フェニルアミン系、スターバースト型アミン系、ポリ(エーテルケトン)(PEK)、及びポリアニリン等が挙げられる。
【0041】
電子阻止層は、正孔輸送層4と有機発光層5の間に設けられ、電子が正孔輸送層4に向かって有機発光層5を通過することを阻止する役割を有する。電子阻止層及び後述する正孔阻止層は、それぞれ励起子阻止層としての機能も兼ね備える。
【0042】
正孔輸送層4は、陽極2と有機発光層5との間に設けられ、陽極2から正孔を効率良く有機発光層5に輸送するための層である。正孔輸送材料には、イオン化ポテンシャルが小さいもの、すなわち、HOMOから電子が励起されやすく、正孔が生成されやすいものが用いられる。具体的には、4,4’-ビス[フェニル(1-ナフチル)アミノ]ビフェニル(NPB)、ヘキサフェニルベンゼン誘導体(4DBTHPB)、ポリ(9,9-ジオクチルフルオレン-アルト-N-(4-ブチルフェニル)ジフェニルアミン)(TFB)、4,4’-シクロヘキシリデンビス[N,N-ビス(4-メチルフェニル)ベンゼンアミン](TAPC)、N,N’-ジフェニル-N,N’-ジ(m-トリル)ベンジジン(TPD)、4,4’,4’’-トリ-9-カルバゾリルトリフェニルアミン(TCTA)及び4,4’,4’’-トリス[フェニル(m-トリル)アミノ]トリフェニルアミン)等が挙げられる。
【0043】
有機発光層5は、ドーパントとホストとを含み、ホストとして一般式(3)で示されるアントラセン誘導体を用いる。それ以外に併せて用いることができるホスト材料としては、正孔輸送層4や電子輸送層6からの電荷注入障壁を最小限にし、電荷を有機発光層5に閉じ込め、かつ、発光励起子の消光を防ぐものであれば、特に制限はなく、例えば、ジスチリルアリーレン誘導体、オキサジアゾール誘導体、ポリビニルカルバゾール誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、9,9’-ジフェニル-9H,9’H-3,3’-ジカルバゾール(BCzPh)、ビス[2-(ジフェニルホスフィノ)フェニル]エーテルオキシド(DPEPO)、3,6-ビス(ジフェニルホルホリル)-9-フェニルカルバゾール(PO9)、4,4’-ビス(N-カルバゾリル)-1,1’-ビフェニル(CBP)、3,3’-ビス(N-カルバゾリル)-1,1’-ビフェニル(mCBP)、トリス(4-カルバゾイル-9-イルフェニル)アミン(TCTA)、2,8-ビス(ジフェニルホスホリル)ジベンゾチオフェン(PPT)、アダマンタン・アントラセン(Ad-Ant)、ルブレン、及び2,2’-ビ(9,10-ジフェニルアントラセン)(TPBA)、及び1,4-ジ(1,10-フェナントロリン-2-イル)ベンゼン(DPB)等が挙げられる。
【0044】
ドーパントには、一般式(1)又は一般式(2)で表されるホスフィニン誘導体を用いるが、それ以外に併せて用いることができるドーパントして、例えば、ペリレン誘導体、クマリン誘導体、ルブレン誘導体、キナクリドン誘導体、スクアリウム誘導体、ポルフィリン誘導体、スチリル系色素、テトラセン誘導体、ピラゾロン誘導体、デカシクレン及びフェノキサゾン等が挙げられる。
ドーパントの添加量は、ホスト及びドーパントの合計に対して、概ね0.1~10wt%、好ましくは0.5~5wt%である。
【0045】
正孔阻止層は、有機発光層5と電子輸送層6の間に設けられ、電子を輸送しつつ、正孔が電子輸送層6に到達することを阻止することで、有機発光層5中で電子及び正孔が再結合する確率を向上させる役割を有する。正孔阻止材料には、例えば、ジブチルスズ-トリフェニルトリアジン(DBT-TRZ)、バソクプロイン(BCP)等のフェナントロリン誘導体、及びアルミニウム(III)ビス(2-メチル-8-キノリナート)-4-フェニルフェノレート(BAlq)等のキノリノール誘導体の金属錯体、各種の希土類錯体、オキサゾール誘導体、トリアゾール誘導体、トリアジン誘導体、ピリミジン誘導体、オキサジアゾール誘導体、及びベンゾアゾール誘導体等が用いられる。これらの材料は電子輸送層6の材料を兼ねてもよい。
【0046】
電子輸送層6は、陰極7と有機発光層5との間に設けられ、陰極7から電子を効率良く有機発光層5に輸送するための層である。電子輸送材料には、電子親和力が大きいもの、すなわち、LUMOのエネルギーが小さく、励起電子が存在しやすくする材料が挙げられる。例えば、2,9-ジ(2-ナフチル)-4,7-ジフェニル-1,10-フェナントロリン(ET1)、3,3”,5,5’-テトラ(3-ピリジル)-1,1’;3’,1”-ターフェニル(B3PyPB)、4,6-ビス(3,5-ジ(ピリジン-3-イル)フェニル)-2-メチルピリミジン(B3PyMPM)、2-(4-ビフェニリル)-5-(p-t-ブチルフェニル)-1,3,4-オキサジアゾール(tBu-PBD)、1,3-ビス[5-(4-t-ブチルフェニル)-2-[1,3,4]オキサジアゾリル]ベンゼン(OXD-7)、3-(ビフェニル-4-イル)-5-(4-t-ブチルフェニル)-4-フェニル-4H-1,2,4-トリアゾール(TAZ)、バソクプロイン(BCP)、1,3,5-トリス(1-フェニル-1H-ベンズイミダゾール-2-イル)ベンゼン(TPBi)等がある。
【0047】
電子注入層は陰極7に接し、電子を輸送する役割を有する層である。電子注入材料には、例えば、フッ化リチウム(LiF)、8-ヒドロキシキノリノラト-リチウム(Liq)及びリチウム2-(2’,2’’-ビピリジン-6’-イル)フェノラート(Libpp)等が挙げられる。
【0048】
基板1上に形成される、正孔注入層3、正孔輸送層4、有機発光層5、電子輸送層6、及び電子注入層等の薄膜は、真空蒸着法又は塗布法で積層される。
真空蒸着法には、抵抗加熱蒸着法、電子ビーム蒸着法、スパッタリング法、及び分子積層法等が挙げられる。真空蒸着法を用いる場合、通常10-3Pa以下に減圧した雰囲気で、蒸着物を300~400℃に加熱して行う。
【0049】
塗布法を用いる場合、各層の構成材料を例えば、クロロホルム、塩化メチレン、ジクロロエタン、テトラヒドロフラン、トルエン、キシレン、アセトン、メチルエチルケトン、酢酸エチル、酢酸ブチル、エチルセルソルブアセテート及び水等に溶解させて公知の塗布法により各層を形成する。塗布法には、例えば、バーコート法、キャピラリーコート法、スリットコート法、インクジェット法、スプレーコート法、ノズルコート法、及び印刷法が挙げられる。各層の形成にすべて同じ塗布法を用いてもよいし、インクの種類に応じて適宜最適な塗布法を個別に用いてもよい。
【0050】
陽極2及び陰極7の間の各有機層の膜厚は、構成材料の抵抗値や電荷移動度によって異なるが、通常1~100nm、好ましくは1~50nmである。
なお、本発明の有機EL素子は、枚葉方式によって各層を形成する以外に、例えば、ロール・ツー・ロール法によって形成してもよい。
【実施例0051】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに具体的に説明するが、本発明は下記実施例により制限されるものではない。
【0052】
〔実施例1〕
(i)エステル無置換体の合成
塩化ジフェニル(ビスメトキシカルボニルメチル)ホスホニウム(111mg,0.30mmol)、N,N’-ジフェニル-1,3-プロパンジイミン(80.8mg,0.36mmol,1.2equiv)及びTBD(1,5,7-トリアザビシクロ[4.4.0]デカ-5-エン,82.7mg,0.59mmol,2.0equiv)をDMSO(0.6mL)に溶解し、室温で24時間撹拌した。反応混合物に1N塩酸を加え、酢酸エチルで2回抽出し、有機層を飽和食塩水で洗浄、硫酸ナトリウムで乾燥後、濃縮して得られる粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:酢酸エチル/ヘキサン=1/5)で精製した後、CH2Cl2/ヘキサンから再結晶すると、2,6-ビス(メトキシカルボニル)-1,1-ジフェニル-λ5-ホスフィニンが収量61mg(収率55%)、橙色固体として得られた。
【0053】
1H-NMR(400MHz,CDCl3):δ3.52(s,6H),5.43(td,J=8.4,2.2Hz,1H),7.49-7.45(m,6H),7.80-7.74(m,4H),7.98(dd,J=28.7,8.4Hz,2H);
13C-NMR(100MHz,CDCl3):δ51.08,81.94(d,J=102.6Hz),100.96(d,J=13.0Hz),127.62(d,J=96.0H),128.06(d,J=13.4Hz),131.33(d,J=3.1Hz),133.53(d,J=11.4Hz),146.24(d,J=4.1Hz),167.34(d,J=12.4Hz);
31P-NMR(162MHz,CDCl3):δ 6.36.
HRMS(FAB):m/z calcd. forC21194P:367.1094([M+H]+);found.367.1086.
Absorption λmax463nm(CHCl3);
Emission λmax490nm(CHCl3).
【0054】
【化13】
(ii)2,6-ビス(メトキシカルボニル)-1,1-ジフェニル-4-フォルミル-λ5σ4-ホスフィニン(PH1)の合成
【化14】
Ar雰囲気下、2,6-ビス(メトキシカルボニル)-1,1-ジフェニル-λ5σ4-ホスフィニン(141.3mg,0.39mmol)をDMF(1mL)に溶解し、0℃で攪拌しながら塩化ホスホリル(91.6mg,0.59mmol,1.5当量)を加え、0℃で30分攪拌した、その後、室温に戻して3時間攪拌した。反応終了後、水を加えて10分間攪拌した後、飽和NaHCO3水溶液で中性にし、CHCl3を加えて分液漏斗に移した。有機層を水、飽和NaCl水溶液で洗浄し、Na2SO4で乾燥後、濃縮した。残渣をカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/ヘキサン=1/2)を用いて精製し、黄色固体の目的物を得た(133.1mg,0.34mmol,88%)。
【0055】
1H-NMR(400MHz,CDCl3)δ3.61(s,6H),7.51-7.59(m,6H),7.75-7.81(m,4H),8.61(br,2H),9.60(d,J=0.90Hz,1H);
13C-NMR(100MHz,CDCl3)δ51.69(s,7-C×2),86.79(br,5-C×2),114.04(d,J=10.0Hz,9-C×1),125.05(d,J=97.2Hz,4-C×2),128.52(d,J=13.4Hz,2-C×4),132.32(d,J=3.2Hz,1-C×2),133.61(d,J=11.6Hz,3-C×4),148.28(br,8-C×2),166.15(d,J=13.6Hz,6-C×2),188.03(s,10-C×1);
31P-NMR(162MHz,CDCl3)δ6.27.
【0056】
【化15】
[実施例2]有機EL素子の作製及び素子評価
スパッタリングにより180nmの厚さに製膜したITOを150nmまで研磨して得られる26mm×28mm×0.7mmのガラス基板((株)オプトサイエンス製)を透明支持基板とした。この透明支持基板を市販の蒸着装置((株)昭和真空製)の基板ホルダーに固定し、ヘキサアザトリフェニレンカルボニトリル(HAT-CN)を入れたモリブデン製蒸着用ボート、4,4’-ビス[フェニル(1-ナフチル)アミノ]ビフェニル(NPB)を入れたモリブデン製蒸着用ボート、BH1を入れたモリブデン製蒸着用ボート、実施例1で得られたPH1を入れたモリブデン製蒸着用ボート、2,9-ジ(2-ナフチル)-4,7-ジフェニル-1,10-フェナントロリン(ET1)を入れたモリブデン製蒸着用ボート、及びアルミニウムを入れたタングステン製蒸着用ボートを装着した。
【0057】
透明支持基板のITO膜の上に順次、下記各層を形成した。真空槽を5×10-4Paまで減圧し、まずHAT-CNが入った蒸着用ボートを加熱して膜厚5nmになるように蒸着して正孔注入層3を形成した。次にNPBが入った蒸着用ボートを加熱して膜厚60nmになるように蒸着して正孔輸送層4を形成した。
さらにBH1が入った蒸着用ボートとPH1が入った蒸着用ボートを加熱して共蒸着し膜厚30nmになるように蒸着して有機発光層5を形成した。このときPH1は有機発光層中に4wt%含有するように蒸着速度を調整した。
次にET1が入った蒸着用ボートを加熱して膜厚20nmになるように蒸着して電子輸送層6を形成した。
【0058】
各層の蒸着速度は1~2nm/秒であった。
最後にアルミニウムが入った蒸着用ボートを加熱して100nmになるように0.01~2nm/秒の蒸着速度で蒸着することにより陰極を形成し、有機EL素子を得た。
ITO電極を陽極、LiF/アルミニウム電極を陰極として直流電圧を印加すると青色発光が得られた。
【0059】
【化16】
【0060】
[比較例1]有機EL素子の作製及び素子評価
実施例2において、PH1を2,6-ジシアノ-1,1-ジフェニル-λ5σ4-ホスフィニン(PH0、以下構造式)に置き換えた以外は、実施例2と同様にして素子を作製した。
【化17】
【0061】
【表1】
【0062】
L/J/yは発光色度の違いを勘案した発光効率であるが、本発明のホスフィニン誘導体を用いた有機EL素子は、従来知られている芳香族アミン系の青色ドーパントと比較して優位に青色純度に優れていて発光効率が高い。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の有機EL用発光材料を、有機EL素子の発光材料として用いれば、フルカラーTVに必要とされる純青色の発光を得ることができる。
【符号の説明】
【0064】
1 基板
2 陽極
3 正孔注入層
4 正孔輸送層
5 有機発光層
6 電子輸送層
7 陰極
図1