(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024007048
(43)【公開日】2024-01-18
(54)【発明の名称】円筒ころ軸受
(51)【国際特許分類】
F16C 33/58 20060101AFI20240111BHJP
F16C 19/26 20060101ALI20240111BHJP
【FI】
F16C33/58
F16C19/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022108231
(22)【出願日】2022-07-05
(71)【出願人】
【識別番号】515009952
【氏名又は名称】シェフラー テクノロジーズ アー・ゲー ウント コー. カー・ゲー
【氏名又は名称原語表記】Schaeffler Technologies AG & Co. KG
【住所又は居所原語表記】Industriestr. 1-3, 91074 Herzogenaurach, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】西山 慎一
【テーマコード(参考)】
3J701
【Fターム(参考)】
3J701AA13
3J701AA32
3J701AA42
3J701AA52
3J701AA62
3J701BA53
3J701BA54
3J701BA56
3J701BA69
3J701FA31
3J701XB03
3J701XB24
(57)【要約】
【課題】円筒ころ軸受にミスアライメントが生じ、外輪や内輪のフランジに転動体が接触した場合であっても転動体に対して回転モーメントの発生を軽減、抑制し、内輪や外輪の破損を防止する
【解決手段】円筒ころ軸受が、外周面に内輪軌道を有する内輪と、内周面に外輪軌道を有する外輪と、前記内輪軌道と前記外輪軌道との間に転動自在に設けられた複数の円筒状の転動体と、を備える。さらに前記内輪及び前記外輪は、軌道面上における前記転動体の軸方向への移動が規制されるようにフランジ部を有し、前記フランジ部は前記軌道面との隅部に形成される傾斜した第1の面を有し、前記複数の転動体は端面に前記第1の傾斜面に対向し接触可能な湾曲又は傾斜した第2の面を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒ころ軸受であって、
外周面に内輪軌道を有する内輪と、
内周面に外輪軌道を有する外輪と、
前記内輪軌道と前記外輪軌道との間に転動自在に設けられた複数の円筒状の転動体と、を備え、
前記内輪及び前記外輪は、軌道面上における前記転動体の軸方向への移動が規制されるようにフランジ部を有し、
前記フランジ部は前記軌道面との隅部に形成される傾斜した第1の面を有し、
前記複数の転動体は端面に前記第1の傾斜面に対向し接触可能な湾曲又は傾斜した第2の面を有することを特徴とする円筒ころ軸受。
【請求項2】
前記内輪及び前記外輪の両方が前記転動体の軸方向の両側に前記フランジ部を有することを特徴とする、請求項1記載の円筒ころ軸受。
【請求項3】
円周方向に垂直な断面において、前記軌道面に対する前記第1の面の傾斜角をα(°)、前記転動体の転動面と前記第2の面の接触点及び前記転動体の重心を結ぶ線とがなす角をβ(°)とした場合、αとβとの和が60°以上120°以下であることを特徴とする、請求項1または2記載の円筒ころ軸受。
【請求項4】
αとβとの和が略90°であることを特徴とする、請求項3記載の円筒ころ軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、円筒ころ軸受、特に軌道面上における転動体の軸方向への移動を規制するフランジを有する円筒ころ軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
斜板式のアキシアルピストンポンプやアキシアルピストンモータ用のベアリングとして円筒ころ軸受(Cylindrical roller bearing: CRB)や針状ころ軸受(Needle roller bearing: NRB)が使用される。特にフロントベアリングとしてNUP形の円筒ころ軸受、リアベアリングとして針状ころ軸受が使用されることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
円筒ころ軸受にミスアライメントが生じると、円筒ころ軸受の外輪や内輪のフランジに転動体が接触し、その接触点を中心とした回転モーメントが転動体に発生する。NUP形やNJ形、NF形のように対角にフランジを有するタイプの円筒ころ軸受では、この回転モーメントが発生すると、転動体から軌道面に印加される接触応力が増幅し、その結果、より小さな荷重で内輪や外輪が破損するおそれがある。
【0005】
したがって、本発明は円筒ころ軸受にミスアライメントなどが生じ、外輪や内輪のフランジに転動体が接触した場合であっても転動体に対して回転モーメントの発生を軽減、抑制し、内輪や外輪の破損を防止する円筒ころ軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る円筒ころ軸受は、外周面に内輪軌道を有する内輪と、内周面に外輪軌道を有する外輪と、前記内輪軌道と前記外輪軌道との間に転動自在に設けられた複数の円筒状の転動体と、を備え、前記内輪及び前記外輪は、軌道面上における前記転動体の軸方向への移動が規制されるようにフランジ部を有し、前記フランジ部は前記軌道面との隅部に形成される第1の傾斜面を有し、前記複数の転動体は端面に前記第1の傾斜面に対向し接触可能な湾曲又は傾斜した第2の面を有する。
【0007】
前記内輪及び前記外輪の両方が前記転動体の軸方向の両側に前記フランジ部を有してもよい。
【0008】
円周方向に垂直な断面において、前記軌道面に対する前記第1の傾斜面の傾斜角をα(°)、前記転動体の転動面と前記第2の面の接触点及び前記転動体の重心を結ぶ線とがなす角をβ(°)とした場合、αとβとの和が60°以上120°以下であってもよい。
【0009】
αとβとの和が略90°であってもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の上記態様は、円筒ころ軸受にミスアライメントが生じ、外輪や内輪のフランジに転動体が接触した場合であっても転動体に対して回転モーメントの発生を軽減、抑制し、内輪や外輪の破損を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態に係る単列円筒ころ軸受の円周方向に垂直な部分断面図を示す。
【
図3】
図1のAで示す領域の部分拡大図であり、フランジ部の傾斜面に転動体の端面が接触した際に作用する力学的成分を示す。
【
図4】
図1のAで示す領域の部分拡大図に相当し、転動体の端面の変形例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0013】
図1は、本発明の一実施形態に係る単列円筒ころ軸受1の、円周方向に垂直な部分断面図を示す。
円筒ころ軸受1は、内輪2と外輪3と転動体4と保持器5とで構成される。
内輪2は、リング状であり、外周面に内輪軌道21を有する。外輪3は、内輪2よりも大きなリング状で内輪2の内輪軌道21を覆うように形成され、内周面に外輪軌道31を有する。内輪軌道21と外輪軌道31とは径方向において対向している。
転動体4は円筒状であり、内輪軌道21と外輪軌道31との間に転動自在に複数設けられる。複数の転動体4は軸方向Xに回転軸が向くように配置され、円周方向Zに一定の間隔で充填される。
保持器5は、内輪軌道21と外輪軌道31との間に、円周方向Zにおいて隣り合う転動体4の間隔を一定に保つように配置される。内輪軌道21及び外輪軌道31の間には潤滑油が介在していてもよい。
【0014】
本実施形態における円筒ころ軸受1はNUP形であり、内輪2は、軌道面21上における転動体4の軸方向Xの両側への移動を規制する第1のフランジ部22を有する。同様に外輪3は、軌道面31上における転動体4の軸方向Xの両側への移動を規制する第2のフランジ部32を有する。
【0015】
図2は、
図1のAで示す領域の部分拡大図である。なお、後述する
図3及び
図4も含めて便宜上内輪2の一方のフランジ部22を用いて説明するが、内輪2の他方のフランジ部22、外輪1の両方のフランジ部32についても適宜同様の構成を採用可能である。
【0016】
図1及び
図2に示すようにフランジ部22は軌道面21との隅部に傾斜した面(第1の面)221を形成する。そして傾斜面221は転動体4の端面(第2の面)41に対向している。本実施形態において転動体4の端面41は面取りされており、傾斜面221に対向するように湾曲している。
【0017】
フランジ部に傾斜部がない場合、円筒ころ軸受1にミスアライメントなどが生じたとき転動体の側面とフランジ部の側面とが接触し、軸方向Xに反力がかかり、転動体4の重心を中心として回転モーメントが発生する。結果として、接触するフランジ部に近い内輪の軌道と、転動体を挟んで対角の外輪のフランジ部に近い軌道とに転動体から大きな接触応力がかかってしまう。したがって軌道に掛かる接触応力を起因として内輪や外輪に破損が発生するおそれがある。
一方で本実施形態では、フランジ部22に傾斜部221を有することで、円筒ころ軸受1にミスアライメントなどが生じたときフランジ部22の傾斜面221と転動体4の端面41とが接触するように構成される。これにより、接触しても軸方向Xだけでなく径方向Yにも反力がかかるためその転動体4の重心を中心とした転動体4への回転モーメントの発生を軽減、抑制し、内輪2や外輪3の破損を防止することができる。
【0018】
以下、転動体4に作用する回転モーメントと好適な実施形態について詳述する。
図3は
図1のAで示す領域の部分拡大図であり、フランジ部22の傾斜面221に転動体4の端面41が接触した際に作用する力学的成分を示す。
正の回転方向を時計回り方向CW、負の回転方向を反時計周り方向CCWとした場合、円周方向Zに垂直な断面図においてフランジ部22から転動体4に働くモーメントMは次の等式で表される。
【0019】
【数1】
r:転動体4の重心と、フランジ部22と転動体4との接触点とを結ぶ線分Dの距離
F:フランジ部22から転動体4に掛かる荷重
F
a:Fの軸方向の分力。
F
r:Fの径方向の分力。
F
CW:CWのモーメントを発生させるDに直交する方向の力。
F
CCW:CCWのモーメントを発生させるDに直交する方向の力。
α:軌道面21に対するフランジ部22の傾斜面221の傾斜角度(0°<α<90°)。
β:軌道面21(転動体4の転動面)に対する rの角度(0°<β<90°)。
【0020】
つまり、上記式(1)からわかる通りモーメントMはcos(α+β)に依存し、α及びβを適切に設定することで、フランジ部22から転動体4に掛かるモーメントを制御することができる。
【0021】
まず、α+β≒90°の場合、cos(α+β)≒0となるためM≒0となりモーメントMはキャンセルされる。したがって、転動体4から軌道面21に対してさらなる接触応力は発生せず、内輪2や外輪3の破損を防止することができる。
続いて、α+β<90°の場合、モーメント方向はCCWとなり、転動体4から軌道面21に対するさらなる接触応力は低減します。ただしこの場合は径方向で対向する外輪3のフランジ部32に近い軌道面31に対してさらなる接触応力が発生する。そのため、外輪3のフランジ部32から転動体4に掛かるモーメントが0.5倍以下となるα+β>60°であれば内輪2や外輪3の破損を防止することが期待できると考えられる。
さらに、α+β>90°の場合、モーメント方向はCWとなるがフランジ部22が傾斜面221を有することで転動体4から軌道面21に対するさらなる接触応力は低減する。特にフランジ部22から転動体4に掛かるモーメントが0.5倍以下となるα+β<120°であれば内輪2や外輪3の破損を防止することが期待できると考えられる。
【0022】
したがってαとβとの和が60°以上120°以下であることが好ましく、αとβとの和が略90°であることがさらに好ましい。
【0023】
図4は
図1のAで示す領域の部分拡大図に相当し、転動体4の端面の変形例を示す。
図4では、転動体4の端面はフランジ部22の傾斜面221に対向する傾斜面(第2の面)41Aを有する。転動体4の傾斜面41Aは、対向するフランジ部22の傾斜面221とは平行となるように形成され、接触時に傾斜面41Aと傾斜面221とは面接触(断面においては線接触)する。これにより、傾斜面41Aと傾斜面221とが接触しても軸方向Xだけでなく径方向Yにも反力がかかるためその接触点を中心とした転動体4への回転モーメントの発生を軽減、抑制し、内輪2や外輪3の破損を防止することができる。
【0024】
転動体4が傾斜面41Aを有する場合も同様に、αとβとの和を60°以上120°以下、さらに好ましくはαとβとの和が略90°にすることが好ましい。ただしこの場合は
図3の線分Dは、円周方向に垂直な断面図において転動体4の重心と、フランジ部22と転動体4との接触線の中央とを結ぶ線分として定義される。
【0025】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形および変更が可能である。
上記実施形態ではNUP形の円筒ころ軸受を用いて説明したがNJ形またはNF形の円筒ころ軸受であっても適用可能である。その場合は内輪2の軌道面21の軸方向Xの一方への移動を規制するフランジ部と外輪3の軌道面31の軸方向Xの他方への移動を規制するフランジ部とが傾斜する面を有していればよい。
また
図1では保持器5を有する円筒ころ軸受を例示したが保持器はなくてもよい。
【符号の説明】
【0026】
1 円筒ころ軸受
2 内輪
21 内輪軌道(軌道)
22 フランジ部
221 傾斜面(第1の面)
3 外輪
31 外輪軌道(軌道)
32 フランジ部
4 転動体
41、41A 転動体の端面