(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024070491
(43)【公開日】2024-05-23
(54)【発明の名称】鋼材用加熱炉の操業方法および鋼材用加熱炉
(51)【国際特許分類】
F27D 7/06 20060101AFI20240516BHJP
【FI】
F27D7/06 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022181017
(22)【出願日】2022-11-11
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001542
【氏名又は名称】弁理士法人銀座マロニエ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 秀行
(72)【発明者】
【氏名】野島 佑介
【テーマコード(参考)】
4K063
【Fターム(参考)】
4K063AA08
4K063BA02
4K063CA01
4K063DA04
4K063DA07
(57)【要約】 (修正有)
【課題】アンモニアを燃料ガスとして使用することにより二酸化炭素の排出を抑制すると共に、窒素酸化物や未燃アンモニアが炉外に排出されるのを抑制する鋼材用加熱炉の操業方法および鋼材用加熱炉を提供する。
【解決手段】燃料ガスとして石炭ガスを供給する石炭ガス供給部を有する第1バーナー設備と、燃料ガスとして石炭ガスとアンモニアを混合した混合ガスを供給する混合ガス供給部を有する第2バーナー設備とを備え、任意選択的に、前記燃料ガスに水素ガスを混合、または前記燃料ガスを水素ガスに置換する水素ガス供給部を有する鋼材用加熱炉である。石炭ガスを燃料ガスとするバーナー加熱および石炭ガスとアンモニアガスの混合ガスを燃料ガスとするバーナー加熱を行い、任意選択的に、前記燃料ガスに水素ガスを混合するか、または、水素ガスをバーナー加熱に置換する、鋼材用加熱炉の操業方法である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼材を装入部から搬出部まで搬送しながら加熱する鋼材用加熱炉の操業方法であって、
石炭ガスを燃料ガスとするバーナー加熱および石炭ガスとアンモニアガスの混合ガスを燃料ガスとするバーナー加熱を行い、
任意選択的に、前記燃料ガスに水素ガスを混合するか、または、水素ガスを燃料ガスとするバーナー加熱に置換する、
鋼材用加熱炉の操業方法。
【請求項2】
前記鋼材用加熱炉内の前記装入部に近接する位置では、前記石炭ガスによるバーナー加熱を行い、前記鋼材用加熱炉内の前記搬出部に近接する位置では、前記石炭ガスによるバーナー加熱を行う、
請求項1に記載の鋼材用加熱炉の操業方法。
【請求項3】
前記石炭ガスによるバーナー加熱は、前記装入部または前記搬出部が開口しているときに行う、
請求項2に記載の鋼材用加熱炉の操業方法。
【請求項4】
前記混合ガスに含まれるアンモニアの混合比率を、前記鋼材の搬送方向に沿った加熱炉内部の圧力の測定値に基づいて設定する、請求項1から3のいずれか1項に記載の鋼材用加熱炉の操業方法。
【請求項5】
バーナー設備を有する鋼材用加熱炉であって、
前記バーナー設備は、
鋼材を加熱炉の装入部から搬出部まで搬送しながら加熱する鋼材の搬送方向に沿って複数配置され、
燃料ガスとして石炭ガスを供給する石炭ガス供給部を有する第1バーナー設備と、
燃料ガスとして石炭ガスとアンモニアを混合した混合ガスを供給する混合ガス供給部を有する第2バーナー設備と、を備え、
任意選択的に、前記燃料ガスに水素ガスを混合供給可能な、または前記燃料ガスを水素ガスに置換する水素ガス供給部を有する鋼材用加熱炉。
【請求項6】
前記第1バーナー設備は、前記鋼材用加熱炉の装入部および搬出部に近接する位置に配置し、
他のバーナー設備は、前記第2バーナー設備である、
請求項5に記載の鋼材用加熱炉。
【請求項7】
前記鋼材用加熱炉は、さらに、
前記混合ガス供給部から供給する混合ガスに含まれるアンモニアの混合比率を制御する制御部を備える、請求項5または6に記載の鋼材用加熱炉。
【請求項8】
バーナー設備を有する鋼材用加熱炉であって、
前記バーナー設備は、
鋼材を加熱炉の装入部から搬出部まで搬送しながら加熱する鋼材の搬送方向に沿って複数配置され、
燃料ガスとして石炭ガスとアンモニアを混合した混合ガスを供給する混合ガス供給部と、前記混合ガス供給部から供給する混合ガスに含まれるアンモニアの混合比率を制御する制御部と、を有するバーナー設備を含む鋼材用加熱炉。
【請求項9】
前記鋼材用加熱炉は、さらに、前記鋼材の搬送方向に沿って加熱炉内部の圧力を測定する複数の炉内圧力計と、前記複数の炉内圧力計の測定値に基づいて、前記制御部が制御する前記混合ガスに含まれるアンモニアの混合比率を設定する設定部とを備える、請求項8に記載の鋼材用加熱炉。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼材用加熱炉の操業方法および鋼材用加熱炉に関する。
【背景技術】
【0002】
銑鋼一貫製鉄所においては、鉄鉱石を還元して溶銑を製造する高炉の炉頂から排出される高炉ガスをはじめとして、転炉やコークス炉で発生する副生ガスを燃料ガスとして有効利用してきた。しかし、近年二酸化炭素の排出量削減の要求に伴い、これらの副生ガスの使用量を低減するための燃焼技術が求められるようになってきた。例えば、銑鋼一貫製鉄所の熱延ラインや厚板圧延ラインなどで鋼材の加熱を行う鋼材用加熱炉でも、副生ガスの使用量を低減し、二酸化炭素の排出量を削減することが求められるようになっている。この場合、鋼材用加熱炉の燃料ガスとして、アンモニアを利用する技術が着目される。すなわち、炭素元素を含まないアンモニアは、燃焼しても主として水と窒素を発生するのみであるから二酸化炭素排出量の削減効果が大きく、鋼材用加熱炉に適用するための技術開発が望まれている。
【0003】
一方、アンモニアは難燃性燃料であって、一般の燃料より着火しにくく燃焼速度も遅いという特性がある。例えば、アンモニアは、メタンやプロパンと言った広く用いられている炭化水素系燃料に比べて、燃焼速度が7分の1程度である。
【0004】
そこで、これらの問題を解決するため、加熱技術が提案されている。
特許文献1には、アンモニアを酸化剤と混合し、混合ガスを燃焼室内に供給する際に、燃焼室内で混合ガスを旋回させるスワラを設け、これによりアンモニアの燃焼を促進させ安定した燃焼を実現する技術が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、アンモニアガスから水素ガスを分離生成し、分離生成された水素ガスを燃焼室内に供給し、燃焼室内に供給された水素ガスに点火放電して水素ガスを燃焼させることにより、燃焼した水素ガスから燃焼室内のアンモニアガスに着火させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2016-130619号公報
【特許文献2】特開2021-25715号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記従来技術を鋼材用加熱炉に適用しようとすると、以下のような問題が生じる。
【0008】
特許文献1に記載された技術は、鋼材の加熱に用いるバーナーを新たに製造しなければならず、鋼材用加熱炉に配置される多数(例えば60~100本程度)のバーナーを交換する必要がある。そのため、既存の鋼材用加熱炉に適用する場合に、設備改造費が高価となると共に、設備改造を行う間は鋼材用加熱炉の操業を停止する必要があるため、機会損失が大きく経済的ではないという問題がある。
【0009】
特許文献2に記載された技術も同様であり、アンモニアガスから水素ガスを分離して生成するための改質器を含めたバーナー設備を新たに設置する必要があり、既存の鋼材用加熱炉に適用する場合には設備改造費や設備の休止期間の面から現実的でない。
さらに、鋼材用加熱炉は、鋼板を加熱炉に装入する装入部と、加熱された鋼材を搬出する搬出部を有しており、少なくとも鋼材を装入する際と鋼材を搬出する際には、加熱炉の一部が大気に開放される状態(開口状態)となる。そのため、アンモニアの燃焼によって生じる窒素酸化物(NOx)や未燃焼のアンモニア(未燃アンモニア)が大気中に放出されやすくなるという問題が生じる。窒素酸化物は、温室効果ガスの一種であり、その排出量は法的な規制もあるため、窒素酸化物の排出を抑制することが求められる。また、アンモニアは毒性を有するため高濃度のアンモニアガスは人体に有害であると共に、未燃アンモニアが流出すると作業場において悪臭となって作業環境を害するため、未燃アンモニアが作業場に流出することを防ぐ必要がある。
【0010】
本発明は、従来技術が抱える上記の問題点に鑑み開発したものであって、その目的は、既存の鋼材用加熱炉に対して大幅な設備改造を行うことなく適用でき、アンモニアを燃料ガスとして使用することにより二酸化炭素の排出を抑制すると共に、窒素酸化物や未燃アンモニアが炉外に排出されるのを抑制する鋼材用加熱炉の操業方法および鋼材用加熱炉を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を有利に解決する本発明に係る鋼材用加熱炉の操業方法は、以下のように構成される。
【0012】
[1]鋼材を装入部から搬出部まで搬送しながら加熱する鋼材用加熱炉の操業方法であって、石炭ガスを燃料ガスとするバーナー加熱および石炭ガスとアンモニアガスの混合ガスを燃料ガスとするバーナー加熱を行い、任意選択的に、前記燃料ガスに水素ガスを混合するか、または、水素ガスを燃料ガスとするバーナー加熱に置換する、鋼材用加熱炉の操業方法である。
[2]上記の[1]において、前記鋼材用加熱炉内の前記装入部に近接する位置では、前記石炭ガスによるバーナー加熱を行い、前記鋼材用加熱炉内の前記搬出部に近接する位置では、前記石炭ガスによるバーナー加熱を行う鋼材用加熱炉の操業方法である。
[3]上記の[2]において、前記石炭ガスによるバーナー加熱は、前記装入部または前記搬出部が開口しているときに行う、鋼材用加熱炉の操業方法である。
[4]上記の[1]から[3]のいずれかにおいて、前記混合ガスに含まれるアンモニアの混合比率を、前記鋼材の搬送方向に沿った加熱炉内部の圧力の測定値に基づいて設定する、鋼材用加熱炉の操業方法である。
【0013】
上記課題を有利に解決する本発明に係る鋼材用加熱炉は、以下のように構成される。
[5]バーナー設備を有する鋼材用加熱炉であって、前記バーナー設備は、鋼材を加熱炉の装入部から搬出部まで搬送しながら加熱する鋼材の搬送方向に沿って複数配置され、燃料ガスとして石炭ガスを供給する石炭ガス供給部を有する第1バーナー設備と、燃料ガスとして石炭ガスとアンモニアを混合した混合ガスを供給する混合ガス供給部を有する第2バーナー設備と、を備え、任意選択的に、前記燃料ガスに水素ガスを混合供給可能な、または前記燃料ガスを水素ガスに置換する水素ガス供給部を有する、鋼材用加熱炉である。
[6]上記の[5]において、前記第1バーナー設備は、前記鋼材用加熱炉の装入部および搬出部に近接する位置に配置し、他のバーナー設備は、前記第2バーナー設備である、鋼材用加熱炉である。
[7]上記の[5]または[6]において、前記鋼材用加熱炉は、さらに、前記混合ガス供給部から供給する混合ガスに含まれるアンモニアの混合比率を制御する制御部を備える、鋼材用加熱炉である。
[8]バーナー設備を有する鋼材用加熱炉であって、前記バーナー設備は、鋼材を加熱炉の装入部から搬出部まで搬送しながら加熱する鋼材の搬送方向に沿って複数配置され、燃料ガスとして石炭ガスとアンモニアを混合した混合ガスを供給する混合ガス供給部と、前記混合ガス供給部から供給する混合ガスに含まれるアンモニアの混合比率を制御する制御部と、を有する、バーナー設備を含む鋼材用加熱炉である。
[9]上記の[8]において、前記鋼材用加熱炉は、さらに、前記鋼材の搬送方向に沿って加熱炉内部の圧力を測定する複数の炉内圧力計と、前記複数の炉内圧力計の測定値に基づいて、前記制御部が制御する前記混合ガスに含まれるアンモニアの混合比率を設定する設定部とを備える、鋼材用加熱炉である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、既存の鋼材用加熱炉に対して大幅な設備改造を行うことなく適用でき、アンモニアを燃料ガスとして使用することにより二酸化炭素の排出を抑制すると共に、窒素酸化物や未燃アンモニアが炉外に排出されるのを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】一実施形態に係る、加熱炉のバーナー設備の概略構成を示すブロック図である。
【
図2】石炭ガスを供給するバーナー設備の一例の構成図である。
【
図3】石炭ガスとアンモニアの混合ガスを供給するバーナー設備の一例の構成図である。
【
図4】一実施形態に係る、混合ガス比率の制御部を備えた加熱炉のバーナー設備の概略構成を示すブロック図である。
【
図5】一実施形態に係る、炉内圧力計と制御部を備えた加熱炉のバーナー設備の概略構成を示すブロック図である。
【
図6】炉内圧力にもとづく混合ガス比率供給のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本実施形態に係る鋼材用加熱炉について説明する。
<鋼材用加熱炉>
図1は、本発明の一実施形態に係る鋼材用加熱炉の断面図を模式的に示したものである。鋼材用加熱炉は、例えば鋼板を製造する熱間圧延ラインに設置され、鋳造されたスラブを所定の加熱温度(1100~1300℃程度)に加熱するために用いられる。ただし、鋼材用加熱炉は、スラブを加熱する目的に限定されず、ビレットやブルームなど形鋼、棒線、鋼管などの素材となる鋼片を加熱するために設置されてよい。
本発明に係る鋼材用加熱炉(以下、「加熱炉」ともいう。)は、加熱する鋼材を装入する装入部と、加熱した鋼材を搬出(抽出)する搬出部とを備える。例えば、連続鋳造ラインで製造されたスラブは、加熱炉の装入側のヤードに搬送され、熱間圧延ライン等の生産スケジュールに従って装入部から加熱炉に装入される。鋼材用加熱炉の内部は複数の帯域に区切られており、一般に上流側には2~8個の帯域に区切られた加熱帯と、1~3個の均熱帯とから構成される。
【0017】
加熱炉の操業では、加熱炉内部の帯域ごとに異なる雰囲気温度に制御され、加熱炉に装入されたスラブの平均温度が徐々に昇温して所定の目標加熱温度(加熱炉から抽出される際のスラブの目標温度)になるように制御される。加熱炉に装入されたスラブは、加熱炉内部でウォーキングビームと呼ばれる不図示の搬送設備により装入部から搬出部に向けて加熱炉内部を通過する。また、加熱炉内には複数のスラブが同時に装入されており、加熱炉に装入される順番で、加熱炉の抽出側に搬出され、順次熱間圧延が行われる。
【0018】
鋼材用加熱炉の装入部は、スラブを炉内に装入するための開口部と、開口部を覆う開閉式の装入扉を備える。鋼材用加熱炉のスラブが装入される際には、装入扉が開放され開口部が開口した状態となってスラブが装入される、一方、スラブを装入する以外の状態では、装入扉の開口部は閉じた状態となる。加熱炉内部は高温状態に維持されているため、必要以外では熱エネルギーが外部に漏れないようにするためである。同様に、鋼材用加熱炉の搬出部も、スラブを炉外に搬出するための開口部と、開口部を覆う開閉式の搬出扉を備える。鋼材用加熱炉のスラブが熱間圧延ラインに搬出される際には、搬出扉が開放され開口部が開口した状態となってスラブが搬出される、一方、スラブを搬出する以外の状態では、搬出扉の開口部は閉じた状態となる。本発明の実施形態では、装入部の装入扉が開放された状態を、装入部が開口している状態とよび、搬出部の搬出扉が開放された状態を、搬出部が開口している状態とよぶ。
【0019】
加熱炉内部には、鋼材の搬送方向に沿って複数のバーナー設備が備えられている。バーナー設備は、燃焼により加熱炉の内部を昇温するために配置される。バーナー設備により加熱炉の内部が昇温されると、加熱炉の炉壁からの輻射により鋼材の温度が上昇する。また、加熱炉の内部において雰囲気ガスの流動が生じ、対流により鋼材が昇温されることがある。さらに、バーナー設備の火炎が直接鋼材に接触することにより鋼材が昇温されてもよい。いずれにしても、バーナー設備は、加熱炉の内部を昇温させることにより、加熱炉内部を搬送する鋼材を昇温させる。
【0020】
バーナー設備は、加熱炉内部の複数の帯域ごとに配置される。ただし、帯域の数とバーナー設備の数とは必ずしも一致しなくてもよい。
図1に示す加熱炉には、装入部から搬出部に向けて、鋼材の上面側に5つのバーナー設備U1~U5が配置されている。また、鋼材の下面側に5つのバーナー設備L1~L5が配置されており、計10基のバーナー設備が配置されている。ただし、バーナー設備は加熱炉の側面部から加熱炉内部に向けて配置されてよい。
【0021】
それぞれのバーナー設備には、燃料ガスと燃料用空気(エア)が供給され、燃料ガスが空気中で拡散することにより燃焼し、火炎が加熱炉の内部に吹き込まれる。燃料用空気は、通常は空気が用いられるが、酸素を含有する酸素含有ガスとして、酸素、酸素富化空気、酸素と排ガスの混合ガス等が用いられてもよい。
【0022】
燃料用空気は、不図示のブロアを用いてバーナー設備に送られる。その際、燃焼用空気は、燃焼用空気流量弁で調整され、燃焼用空気流量計で測定される。ただし、燃焼用空気流量弁や燃焼用空気流量計は、個々のバーナー設備ごとに設けられる必要はない。例えば、加熱炉の上面側に配置されるバーナー設備U1~U5全体に対して供給する燃焼用空気の流量が調整されればよく、複数のバーナー設備を一つの群として、群単位で燃焼用空気の流量が調整されてもよい。
【0023】
燃料ガスは、バーナー設備ごとに設置される燃料ガス流量調整バルブによってバーナー設備への供給量が調整され、その流量は燃料ガス流量計によって測定される。燃料ガスの流量は、加熱炉において鋼材を所定の温度まで昇温するのに必要な熱エネルギーを確保できるように調整される。また、燃料ガスの流量は、加熱炉内部の帯域ごとに異なる雰囲気温度の目標値が設定され、帯域ごとの目標温度を達成するように調整されてよい。
【0024】
鋼材用加熱炉には、炉内で発生する排ガスを外部に排出するための煙道が設けられることがある。煙道からは加熱炉内のガスが排出されることがあるため、煙道は排ガス処理装置(不図示)と接続されており、通常は煙道を通じて加熱炉の外部に有害なガスが大気に排出されないように構成されている。そのため、鋼材用加熱炉の内部で、例えばアンモニアを燃焼させることにより窒素酸化物や未燃アンモニアが発生しても、煙道を通過して鋼材用加熱炉の外部に排出されることはない。しかし、上記の通り、鋼材用加熱炉は装入部と搬出部とを備え、少なくとも鋼材の搬入と搬出とを行う場合には、開口した状態となるため、開口部に排ガス処理装置を設置するのは困難であるため、それらの開口部を通じて窒素酸化物や未燃アンモニアが外部に排出される可能性がある点が問題となる。
【0025】
次に、本実施形態に係る鋼材用加熱炉とその操業方法について第一形態について説明する。
<第一形態のバーナー設備>
第一形態に係る鋼材用加熱炉は、燃料ガスとして石炭ガスを供給する石炭ガス供給部を有する第1バーナー設備と、燃料ガスとして石炭ガスとアンモニアを混合した混合ガスを供給する混合ガス供給部を有する第2バーナー設備とを含む。
図1に第一形態の鋼材用加熱炉Hを示す。
図1に示す実施形態は、燃料ガスとしてアンモニア3が供給されていないバーナー設備U1、U5、L1、L5が第1バーナー設備となる。また、燃料ガスとしてアンモニア3が供給されているバーナー設備U2~U4、L2~L4が第2バーナー設備となる。第1バーナー設備の石炭ガス供給部と、第2バーナー設備の混合ガス供給部については後述する。
【0026】
本実施形態のバーナー設備に用いられる燃料ガスである石炭ガスは、石炭から得られるガスを意味する。特に、製鉄所の高炉、コークス炉、転炉などで生成される副生ガスを用いるのが好ましい。高炉ガスは、高炉で鉄鉱石を還元して銑鉄を製造する際の副生ガスである。コークス炉ガスは、コークスを製造するために石炭を高温乾留して生成される副生ガスである。転炉ガスは、転炉における製鋼工程で生じる副生ガスである。
【0027】
副生ガスは、生成する工程により種々の成分組成を有する。例えば、高炉ガスは可燃成分の一酸化炭素が21~30体積%、不燃成分の窒素が50~60体積%、二酸化炭素が10~22体積%が代表的な組成である。高炉ガスの発火点は630~650℃であり、燃焼範囲は空気と混合した場合27~75体積%である。高炉ガスの低位発熱量は3.45MJ/Nm3程度が代表例である。コークス炉ガスは、水素46~60体積%、メタン20~35体積%、一酸化炭素5~10体積%、エチレンなどの炭化水素2~4体積%が代表的な組成である。コークス炉ガスの低位発熱量は18.0MJ/Nm3程度が代表例である。転炉ガスは、一酸化炭素が約75体積%、二酸化炭素が約13体積%であり、他に微量の酸素、窒素、水素が含有される。転炉ガスの低位発熱量は8.2MJ/Nm3程度が代表例である。
【0028】
石炭ガスは、高炉ガス、コークス炉ガス、転炉ガスが適宜混合されたガス(Mガスと呼ばれることがある。)が用いられることがある。発熱量が異なる石炭ガスを混合することにより、鋼材の加熱に必要な熱量を供給し、安定した鋼材用加熱炉の操業を行うためである。また、本実施形態のバーナー設備に用いられる燃料ガスは、これらの石炭ガスに加えて、石油ガスなどの気体燃料や微量の固体燃料が添加されていてもよい。石炭ガスの含有量が50体積%以上であれば、鋼材の加熱に対する熱源の主体は石炭ガスとみなすことができるからである。
【0029】
第2バーナー設備に用いられるアンモニアは、化学式NH3で表される常温で無色の気体をいう。アンモニアの発火点は651℃であり、燃焼範囲は空気と混合した場合15.5~27体積%である。アンモニアの低位発熱量は14.1MJ/Nm3である。ただし、第2バーナー設備に用いられるアンモニアには、任意で水素を混合させたガスを用いてもよい。水素もアンモニアと同様に燃焼によって二酸化炭素が排出しないからである。また、アンモニアを燃焼させると高温状態で水素を発生させるため、予めアンモニアと水素とを混合したガスと類似する燃焼特性を示すことがあるからである。この場合、アンモニアに添加する水素ガスは、最大で50体積%が許容される。つまり、本実施形態の第2バーナー設備に用いられるアンモニアには、最大50体積%の水素を含んでよい。
【0030】
第1バーナー設備
第1バーナー設備の構成例を
図2に示す。第1バーナー設備は、燃料ガスである石炭ガス10と燃焼用空気11を混合させ、先端から火炎を放出するバーナー1と、石炭ガスの流量を調整する石炭ガス流量調整バルブ101と、石炭ガスの流量を測定する石炭ガス流量計102とから構成される。本実施形態における石炭ガス供給部とは、バーナーに石炭ガスを供給するための石炭ガス流量調整バルブ101と石炭ガス流量計102のことである。
【0031】
第1バーナー設備には、
図2に示すように石炭ガス10と燃焼用空気11とをバーナー内部で混合するノズルミックス型バーナーを用いるとよい。この場合、燃料ガスと混合する前に燃料用空気を、排ガスなどを用いて予熱しておくことで、省エネルギーを達成できる。また、第1バーナー設備には、蓄熱体と一体化した2台一対のバーナーを数十秒間隔で交互に燃焼させるリジェネバーナーを用いてもよい。この場合、一方のバーナーが燃焼しているときには、その排気を他方のバーナーの蓄熱体を通過させ、他方の蓄熱体を加熱することにより一方のバーナーからの排気が有する熱エネルギーを回収する。そして、次に他方のバーナーが燃焼するときには、燃焼用空気を他方の蓄熱体を通過させることによって予熱する。これにより、よりエネルギー効率に優れた燃焼を実現できる。ただし、第1バーナー設備は、
図2に示すノズルミックス型バーナーに限定されず、プレミックス型バーナーを用いてもよい。プレミックス型バーナーは、石炭ガスの流動方向における石炭ガス流量計102の下流側に、石炭ガス10と燃焼用空気11とを混合する混合器(ミキサー)を設け、石炭ガス10と燃焼用空気11が混合されたガスをバーナー1の先端部から噴出する方式のバーナー設備である。
【0032】
第1バーナー設備では、一例として燃料用空気は625Nm3/hr、石炭ガスは185Nm3/hrとする操業条件で燃焼が行われる。ただし、燃料ガスである石炭ガスの供給量は、加熱炉内部を所定の温度に制御するように石炭ガス流量調整バルブ101の開度設定により調整されるようにしてよい。
【0033】
第2バーナー設備
一方、本実施形態に適用される第2バーナー設備の構成例を
図3に示す。第2バーナー設備に用いられるバーナーは、第1バーナー設備と同様の形式のものを適用できる。第2バーナー設備は、石炭ガスの流量を調整する石炭ガス流量調整バルブ101と、石炭ガスの流量を測定する石炭ガス流量計102と、アンモニアの流量を調整するアンモニア流量調整バルブ31と、アンモニアの流量を測定するアンモニア流量計32とを含む。
【0034】
また、第2バーナー設備は、石炭ガスとアンモニアとを配管内で混合する混合部15を備える。本実施形態における混合ガス供給部とは、バーナーに混合ガスを供給するための、石炭ガス流量調整バルブ101、石炭ガス流量計102、アンモニア流量調整バルブ31、アンモニア流量計32および混合部15のことをいう。
【0035】
図3に示す第2バーナー設備は、石炭ガスとアンモニアの配管が合流することにより内部を流動するガスを混合するものであり、この場合の混合部は石炭ガスの供給配管とアンモニアの供給配管とが合流する部分を指す。ただし、石炭ガスとアンモニアとはそれぞれの供給配管から供給されることで、特別な攪拌機構を設けなくても混合が行われるので、混合部15は燃焼用空気11の供給配管よりも上流側に一定の空間として構成すればよい。
第2バーナー設備についても、
図3に示すノズルミックス型バーナーに限定されず、プレミックス型バーナーを用いてもよい。この場合、燃料ガスの流動方向における混合部15の下流側に、燃料ガスと燃焼用空気11とを混合する混合器(ミキサー)を設け、燃料ガスと燃焼用空気11が混合されたガスをバーナーの先端部から噴出する方式のバーナー設備を用いることができる。
【0036】
第2バーナー設備は、混合ガス供給部に加えて、混合ガス供給部が供給する混合ガス16に含まれるアンモニア3の混合比率を制御する制御部14を含むのが好ましい。制御部14は、石炭ガスの流量調整バルブ101の開度とアンモニア流量調整バルブ32の開度の比率を設定し、混合ガスに含まれるアンモニアの混合比率を制御する。この場合、石炭ガス流量調整バルブ101とアンモニア流量調整バルブ32との電磁弁を用いて構成し、石炭ガスおよびアンモニアの流量が所定の混合比率となるように制御部が電磁弁の開度を制御するとよい。
制御部14において、石炭ガスに対するアンモニアの比率を大きくすると、鋼材用加熱炉で発生する二酸化炭素量を低減できるものの、アンモニアの燃焼速度が遅いため火炎の安定性が低下する。一方、石炭ガスに対するアンモニアの比率を小さくすると、火炎の安定性は向上するものの、鋼材用加熱炉で発生する二酸化炭素量の低減効果が十分ではなくなる。そのため、本実施形態の第2バーナー設備では、混合ガスに占めるアンモニアの比率は、2~60体積%であることが好ましい。
【0037】
第2バーナー設備では、一例として燃料用空気625Nm3/hrに対して、燃料ガスとして石炭ガス150Nm3/hr、アンモニア30Nm3/hr程度の混合ガスを用いてよい。これにより、上記の第1バーナー設備の例と同程度の熱量を得ることができる。
【0038】
以上のように、第1バーナー設備と第2バーナー設備は、バーナーに対して供給する燃料ガスの供給機器の構成が異なる。しかし、バーナーおよび燃料用空気の供給機器は共通の設備を用いることができるので、鋼材用加熱炉に適用される第1バーナー設備の一部について、大掛かりな設備更新を行うことなく、第2バーナー設備に更新することができる。
【0039】
第2バーナー設備で用いる混合ガスに含まれるアンモニアの混合比率は、石炭ガスのウォッベ指数に基づいて設定することができる。ウォッベ指数は、燃料ガスの互換性を表す指標であり、燃料ガスが熱エネルギーを生成する相対的な能力を特定するために用いられる。ウォッベ指数WIは、燃料ガスの総発熱量H(MJ/Nm3)と、燃料ガスの比重S(空気はS=1)とを用いて、以下の式(1)により求められる。
WI=H/√S ・・・(1)
【0040】
ウォッベ指数は、燃焼設備を変更することなく燃料ガスを変更する場合に、燃焼速度と共に所定の範囲に収める必要がある。そのため、制御部によって制御する混合比率は、石炭ガスとアンモニアのウォッベ指数に基づいて設定するのが好ましい。
【0041】
表1に、アンモニアと石炭ガスのウォッベ指数と最大燃焼速度の代表例を示す。表1に記載されたMガスは、高炉ガス、コークス炉ガスおよび転炉ガスを混合した石炭ガスを指す。なお、石炭ガスは副生ガスの原料となる石炭の産地や石炭ガスの生成源の操業条件などにより大きく変化するため、表1に示す数値はあくまで一例である。
表1からは、アンモニアの燃焼速度は非常に遅く、ウォッベ指数が低いことから燃焼により生成される熱エネルギーが他に比べて低いことが分かる。したがって、石炭ガスとしてコークス炉ガスを用いるバーナー設備では、コークス炉ガスにアンモニアを混合させると燃焼性(最大燃焼速度とウォッベ指数)が低下しやすいため、アンモニアの混合比率が過大にならないように設定する。一方、石炭ガスとしてMガスを用いるバーナー設備では、Mガスのウォッベ指数がアンモニアよりも低いため、アンモニアの混合比率を大きくすると熱負荷が過大となるおそれがある。この場合には、Mガスとアンモニアの混合ガスに不燃性ガスである窒素を加えることにより、混合ガスのウォッベ指数を調整できる。また、Mガスを構成する高炉ガスには比較的多量の窒素を含むため、Mガスに含まれる高炉ガスの比率を高めて混合ガスを生成するとよい。
【0042】
【0043】
なお、任意であるが、第1バーナー設備または第2バーナー設備の燃料ガスに水素ガスを混合して供給する、または燃料ガスを水素ガスに置換する水素ガス供給部を有することが可能である。
【0044】
<第一形態の操業方法>
石炭ガスを燃料ガスとするバーナー加熱および石炭ガスとアンモニアガスの混合ガスを燃料ガスとするバーナー加熱を行い、任意選択的に、前記燃料ガスに水素ガスを混合するか、または、水素ガスを燃料ガスとするバーナー加熱に置換する、鋼材用加熱炉の操業方法である。
【0045】
加熱炉内でのバーナー配置
第一形態の鋼材用加熱炉は、鋼材の搬送方向に沿って複数のバーナー設備を有し、複数のバーナー設備の少なくとも一つは第1バーナー設備であり、他のバーナー設備の少なくとも一つは第2バーナー設備を用いる。この場合、鋼材用加熱炉には、第1バーナー設備および第2バーナー設備以外のバーナー設備を用いてもよい。例えば、石油ガスを主体とする燃料ガスを使用するものや、水素を燃料ガスとするもの、さらに固体燃料を主体として燃焼を生じさせるものなど、一部に第1バーナー設備や第2バーナー設備とは異なるバーナー設備が含まれてよい。
【0046】
図1に示す鋼材用加熱炉Hには、第1バーナー設備U1、U5、L1、L5が配置され、第2バーナー設備U2~U4、L2~L4が配置されている。第1バーナー設備は、石炭ガスを用いるので燃焼の安定性に優れるものの、二酸化炭素の排出量は従来の加熱炉と変わらない。一方、第2バーナー設備は、石炭ガスとアンモニアの混合ガスを用いるので、アンモニアの混合比率が増加するほど二酸化炭素の排出量を低減できる。一方、第2バーナー設備においてアンモニアを燃焼させる場合に、窒素酸化物(NOx)が発生することがある。窒素酸化物が鋼材用加熱炉の装入部や搬出部から大気に放出されると、温室効果ガスとして作用するため、その排出量を抑制する必要がある。この場合、第2バーナー設備において、アンモニアの混合比を高くすることで、アンモニアの脱硝反応が生じるため、これにより窒素酸化物(NOx)は、窒素と水に分解され無害化される。また、この場合、アンモニア当量比をリッチ側(アンモニア過剰側)で燃焼させる必要があるものの、未燃アンモニアが生じやすく、鋼材用加熱炉の外部に未燃アンモニアが漏洩するリスクが高まる。すなわち、第2バーナー設備では、アンモニアを燃料ガスに用いることにより、窒素酸化物と未燃アンモニアのいずれかが生成され、これらによる環境リスクが高まる点が問題となる。
【0047】
これに対して、本実施形態では、第1バーナー設備と第2バーナー設備とを備えてバーナー加熱するので、第2バーナー設備で生成する可能性のある窒素酸化物や未燃アンモニアが、燃料ガスとしてアンモニアを含有しない第1バーナー設備により分解され、窒素と水に変化する。これにより、鋼材用加熱炉が鋼材の装入部と搬出部を備え、鋼材の装入や搬出時に外部へ開口する状態が生じたとしても、鋼材用加熱炉から窒素酸化物や未燃アンモニアが流出するのを防止できる。
【0048】
燃料ガスとして石炭ガスを用いる第1バーナー設備により、窒素酸化物が分解されるのは、第1バーナー設備で発生する火炎では還元物質としてシアン化水素(HCN)などが生成するため、これにより第2バーナー設備で生成する窒素酸化物が窒素に分解されるからである。また、第1バーナー設備により、未燃アンモニアが分解されるのは、第1バーナー設備のバーナーから発する火炎により未燃アンモニアが燃焼し、窒素と水に分解されるからである。なお、通常は、第1バーナー設備は燃焼用空気がリッチ(燃料用空気に対して石炭ガスの当量比が1未満の条件)で燃焼を行うため、第1バーナー設備で生じる余剰酸素によって未燃のアンモニアを分解することになる。
【0049】
なお、第2バーナー設備において、アンモニア当量比をリッチ側(過剰側)で燃焼させることにより、アンモニアの脱硝反応が生じることにより窒素酸化物が窒素と水に分解されやすくなるが、アンモニア当量比をリッチ側とすることにより、未燃アンモニアが発生しやすくなる。これに対して、第1バーナー設備によって第2バーナー設備で発生する未燃アンモニアを燃焼することにより、第2バーナー設備で窒素酸化物が生成するのを抑制し、第1バーナー設備で未燃アンモニアを燃焼させることで、窒素酸化物および未燃アンモニアの両者を低減することができる。特に、第1バーナー設備において、燃料用空気に対して石炭ガスの当量比を1未満とした希薄燃料側で燃焼させることで、第1バーナー設備の未燃アンモニアを燃焼させやすくなるため好ましい。
【0050】
さらに、上記第一形態では、第1バーナー設備は鋼材用加熱炉の装入部51および搬出部61に近接する位置に配置し、他のバーナー設備は第2バーナー設備を配置するのが好ましい。ここで、鋼材用加熱炉の装入部51に近接する位置とは、鋼材Sの搬送方向に沿って設置される複数のバーナー設備のなかで、装入部に最も近い位置をいう。また、鋼材用加熱炉の搬出部61に近接する位置とは、鋼材Sの搬送方向に沿って設置される複数のバーナー設備のなかで、搬出部に最も近い位置をいう。つまり、鋼材用加熱炉の装入部51と搬出部61に最も近い位置には、第1バーナー設備以外のバーナー設備が配置されていないことをいう。
【0051】
鋼材用加熱炉の装入部51に近接する位置に第1バーナー設備を配置するのは、第2バーナー設備により窒素酸化物や未燃アンモニアが発生しても、装入部に近接する位置に配置する第1バーナー設備により窒素酸化物や未燃アンモニアが分解されるからである。
これにより、鋼材用加熱炉にスラブを装入する際に開口した状態となる装入部51から窒素酸化物や未燃アンモニアが鋼材用加熱炉から外部に流出することを防止できる。
同様に、鋼材用加熱炉の搬出部61に近接する位置に第1バーナー設備を配置するのは、第2バーナー設備により窒素酸化物や未燃アンモニアが発生しても、搬出部61に近接する位置に配置する第1バーナー設備により窒素酸化物や未燃アンモニアが分解されるからである。
これにより、鋼材用加熱炉からスラブを搬出する際に開口した状態となる搬出部から窒素酸化物や未燃アンモニアが鋼材用加熱炉から外部に流出することを防止できる。
【0052】
なお、
図1に示す鋼材用加熱炉Hには、炉内で発生する排ガスを外部に排出するための煙道9が設けられている。煙道は加熱炉内のガスを外部に排出するガス流路を区画する。この場合、煙道9には不図示の排ガス処理装置が配置されており、煙道を通じて加熱炉の外部に窒素酸化物や未燃アンモニアを含む有害なガスが大気に排出されないように構成されている。
しかし、鋼材用加熱炉の装入部51と搬出部61では、加熱炉内のガス流路を限定することができないため、排ガス処理装置を設置することが困難である。これに対して、本実施形態の鋼材用加熱炉を用いることにより、装入部51および搬出部61が開口した状態でも窒素酸化物や未燃アンモニアが開口部を通じて外部に流出することを防止できる。その結果、煙道に配置される排ガス処理装置と併せて、鋼材用加熱炉の外部に窒素酸化物や未燃アンモニアが排出されるのを防止することができる。
【0053】
なお、任意ではあるが、上記の燃料ガスに水素ガスを混合するか、または、水素ガスを燃料ガスとするバーナー加熱に置換して鋼材加熱の操業をすることは可能である。
【0054】
次に、本実施形態に係る鋼材用加熱炉とその操業方法について第二形態を説明する。
<第二形態のバーナー設備>
本発明の第二形態のバーナー設備は、上記第一形態と同様に、鋼材用加熱炉が鋼材の搬送方向に沿って鋼材用加熱炉の内部を昇温させる複数のバーナー設備を有する。複数のバーナー設備のうち少なくとも1つは、燃料ガスとして石炭ガスとアンモニアを混合した混合ガスを供給する混合ガス供給部と、混合ガス供給部から供給する混合ガスに含まれるアンモニア混合比率を制御する制御部1とを有するバーナー設備を備える。
【0055】
第二形態の加熱炉の炉体構造や鋼材の搬送装置等は第一形態と同様である。第二形態は、加熱炉に上記第一形態における第2バーナー設備を少なくとも1つ有し、第2バーナー設備の混合ガス供給部は混合ガス16に含まれるアンモニアの混合比率をそれぞれ制御する制御部14を有する。この場合、第2バーナー設備の制御部14は、石炭ガスとアンモニアとを所定の比率で混合できるだけでなく、混合ガス16に含まれるアンモニアの混合比率をゼロに制御できる。制御部14において、混合ガス16のアンモニア混合比率をゼロに制御することで、上記第一形態における石炭ガスを供給する第1バーナー設備の機能を発揮できる。
【0056】
鋼材用加熱炉の内部に、石炭ガスを燃料ガスとする第1バーナー設備を備える場合には、本第二形態の混合ガス供給部と制御部とを有するバーナー設備は、石炭ガスとアンモニアの混合ガスを燃料ガスとして燃焼を行えばよい。
これにより、二酸化炭素の排出量を削減しながら、第1バーナー設備により窒素酸化物や未燃アンモニアを燃焼し分解することができる。一方、鋼材用加熱炉の内部に、石炭ガスとアンモニアの混合ガスを燃料ガスとする第2バーナー設備を備える場合には、本実施形態の混合ガス供給部と制御部とを有するバーナー設備は、混合ガスのアンモニア混合比率をゼロとすればよい。このような態様であっても同様の効果が得られる。
【0057】
一方、複数のバーナー設備のうち少なくとも2つ以上は、燃料ガスとして石炭ガスとアンモニアを混合した混合ガスを供給する混合ガス供給部と、混合ガス供給部から供給する混合ガスの混合比率を制御する制御部とを含むバーナー設備を用いるのが好ましい。混合ガス供給部と制御部とを有するバーナー設備の少なくとも1つは、石炭ガスとアンモニアの混合ガスを燃料ガスとして燃焼を行い、他は制御部により混合ガスのアンモニア混合比率をゼロとして燃焼を行うことでも同様の効果が得られるからである。
【0058】
<第二形態の操業方法>
図4を用いて本第二形態の鋼材用加熱炉Hを説明する。
図4に示すバーナー設備U1~U5、L1~L5はそれぞれのバーナー設備に制御部14を有し、制御部14は石炭ガスとアンモニアの混合比率を制御できるように構成される。
これにより、バーナー設備U1~U5、L1~L5の一部は、制御部14により燃料ガスとして石炭ガス2を用いて加熱炉の内部を昇温し、他のバーナー設備は燃料ガスとして石炭ガス2とアンモニア3の混合ガスを用いて加熱炉の内部を昇温することができる。したがって、石炭ガスとアンモニアの混合ガス16を用いた燃焼により生成し得る窒素酸化物や未燃アンモニアを、石炭ガスを燃料ガスとする燃焼により分解でき、加熱炉の外部に窒素酸化物や未燃アンモニアが流出するのを防止できる。
【0059】
例えば、
図4に示す鋼材用加熱炉Hを用いた操業として、鋼材用加熱炉の装入部51に近接する位置に配置されるバーナー設備U1またはL1のうち少なくとも一方については、制御部14により混合ガスのアンモニア混合比率をゼロに制御する。また、鋼材用加熱炉の搬出部61に近接する位置に配置されるバーナー設備U5またはL5のうち少なくとも一方についても、制御部14により燃料ガスのアンモニア混合比率をゼロに制御する。そして、鋼材用加熱炉の装入部および搬出部に近接する位置を除く位置に配置されるバーナー設備U2~U4、L2~L4のうち少なくとも一つのバーナー設備では、制御部14がアンモニアを含む混合ガスを用いるように制御する。
これにより、アンモニアを含む混合ガスを用いた燃焼により鋼材用加熱炉から排出される二酸化炭素量を低減でき、窒素酸化物や未燃アンモニアが加熱炉の外部に流出するのを防止できる。
【0060】
さらに、混合ガス16に含まれるアンモニアの混合比率は、バーナー設備ごとに設定するとよい。例えば、加熱炉内部の鋼材の搬送方向に対して、隣接するバーナー設備の一方で燃料ガスとして石炭ガス10とアンモニア3の混合ガス16を使用し、他方はアンモニアを混合させない石炭ガスを使用してもよい。
これにより、隣接する一方のバーナー設備で発生する窒素酸化物や未燃アンモニアを、他方のバーナー設備で分解することができる。
【0061】
次に、本実施形態に係る鋼材用加熱炉とその操業方法について第三形態について説明する。
<第三形態のバーナー設備>
本発明の第三形態は、上記第二形態の鋼材用加熱炉において、鋼材の搬送方向に沿って加熱炉内部の圧力を測定する複数の炉内圧力計を備える加熱炉であり、複数の炉内圧力計の測定値に基づいて、制御部が制御する混合ガスの混合比率を設定する設定部を有するものである。
【0062】
本実施形態における炉内圧力計は、加熱炉の内部で鋼材が搬送する方向に複数配置する。
図5の例では、それぞれのバーナー設備が配置される位置の近傍に炉内圧力計が配置されている。
本実施形態では、制御部が制御する混合ガスの混合比率を設定する設定部を有する。
図6に設定部の構成例を示す。設定部は、複数の炉内圧力計により測定した炉内の圧力の測定値を取得する。設定部は、加熱炉内部の雰囲気ガスが炉内圧力の高い位置から低い位置に向けて流動することに対応して、複数の炉内圧力計による測定値の相対的な大小関係により、雰囲気ガスの流動方向を特定する。そして、設定部は、雰囲気ガスの流動方向の下流側に配置されるバーナー設備では、燃料ガスに対するアンモニアの混合比率を小さくする。
さらに、設定部は、雰囲気ガスの流動方向の上流側に配置されるバーナー設備では、燃料ガスに対するアンモニアの混合比率を大きくするように混合ガスの混合比率を設定する。これにより、雰囲気ガスの流動方向の上流側に位置するバーナー設備はアンモニアリッチで燃焼させることにより加熱炉の二酸化炭素排出量を低減させることができる。また、雰囲気ガスの流動方向の下流側に位置するバーナー設備では、上流側に発生する窒素酸化物や未燃アンモニアを分解することができる。
【0063】
<第三形態の操業方法>
例えば、
図5において、炉内圧力が装入側5で高く搬出側6で低い場合には、雰囲気ガスの流動方向が装入側5から搬出側6となっていると推定される。この場合、設定部は、雰囲気ガスの流動方向の下流側にあるバーナー設備U5またはL5の少なくとも一方は雰囲気ガスの流動方向の上流側に位置するバーナー設備に比べてアンモニアの混合比率が低くなるように設定する。また、雰囲気ガスの流動方向の下流側にあるバーナー設備U5、L5だけでなく、バーナー設備U4、L4のアンモニアの混合比率がバーナー設備U1~U3、L1~L3よりも低くなるように設定してよい。これにより、搬出口61から窒素酸化物や未燃アンモニアが流出することを防止できる。
【0064】
一方、炉内圧力が装入側5で低く搬出側6で高い場合には、雰囲気ガスの流動方向が搬出側6から装入側5となっていると推定される。この場合、設定部は、雰囲気ガスの流動方向の上流側にあるバーナー設備U1またはL1の少なくとも一方は雰囲気ガスの流動方向の上流側に位置するバーナー設備に比べてアンモニアの混合比率が低くなるように設定する。これにより、装入口51を通じて未燃アンモニアが流出することを防止できる。
【0065】
ところで、加熱炉内部の雰囲気ガスの流動方向は、装入部51の装入扉の開閉や、搬出部61の搬出扉の開閉に応じて変化することがある。加熱炉の内部は外部に比べて圧力が高い状態になっていることが多く、装入部が開口した状態では、加熱炉内部の雰囲気ガスは装入部の開口部の方向に流動し、装入部から外部に流出しやすい状態となる。搬出部が開口した状態でも同様であり、その場合には加熱炉内部の雰囲気ガスは搬出部の開口部の方向に流動し、搬出部から外部に流出しやすい状態となる。
【0066】
したがって、加熱炉の装入部に近接する位置に配置したバーナー設備は、装入部51が開口している状態では、燃料ガスとして石炭ガスを用いた燃焼を行うのが好ましい。また、加熱炉の搬出部に近接する位置に配置したバーナー設備は、搬出部61が開口している状態では、燃料ガスとして石炭ガスを用いた燃焼を行うのが好ましい。
ただし、装入部51が開口している状態では、装入部に近接する位置に設置した炉内圧力計の測定が、装入部に近接する位置よりも下流側に設置した炉内圧力計の測定よりも小さくなる。このような場合でも、上記のように、設定部が複数の炉内圧力計による測定値の相対的な大小関係により、雰囲気ガスの流動方向を特定することによって、雰囲気ガスの流動方向の下流側に配置されるバーナー設備の燃料ガスに対するアンモニアの混合比率を小さくすることで同様の効果が得られる。
【0067】
また、搬出部61が開口している状態も同様に、搬出部に近接する位置に設置した炉内圧力計の測定が、搬出部に近接する位置よりも上流側に設置した炉内圧力計の測定よりも小さくなる。したがって、設定部が複数の炉内圧力計による測定値の相対的な大小関係により、雰囲気ガスの流動方向を特定し、雰囲気ガスの流動方向の下流側に配置されるバーナー設備の燃料ガスに対するアンモニアの混合比率を小さくすればよい。
【0068】
本実施形態の鋼材用加熱炉にはガス検知器をさらに配置して、窒素酸化物または未燃アンモニアを検知するようにしてもよい。
図5の例では、加熱炉の装入側外部、搬出側外部および煙道にガス検知器17を配置している。ガス検知器は窒素酸化物(NOx)または未燃アンモニア(NH
3)を検知できるものを用いる。好ましくは、窒素酸化物および未燃アンモニアを検出可能なガス検知器を用いる。
【0069】
ガス検知器17によるガス濃度の測定値は、例えば設定部に送られるようにする。これによりガス検知器が検出するガス濃度(窒素酸化物濃度、未燃アンモニア濃度)が、予め設定した値を超える場合には、設定部はバーナー設備U1~U5、L1~L5で用いる混合ガスのアンモニア混合比率を下げるように再設定する。バーナー設備に使用する混合ガスのアンモニア混合比率を下げることにより、加熱炉の外部への窒素酸化物や未燃アンモニアの排出を抑制できるからである。
なお、予め設定する窒素酸化物濃度は、ガス検知器を加熱炉の外部に設置する場合に、例えば5ppm程度に設定するとよい。一方、予め設定する未燃アンモニア濃度は、ガス検知器を加熱炉の外部に設置する場合に、例えば5ppm程度に設定するとよい。
【0070】
また、ガス検知器により窒素酸化物または未燃アンモニアの濃度が予め設定した値を超えたと判定した場合に、設定部はそのように検知したガス検知器から最も近い位置に配置されるバーナー設備のアンモニア混合比率を下げるように設定してよい。
これにより、加熱炉内部の窒素酸化物や未燃アンモニアの分解を促進し、窒素酸化物や未燃アンモニアの加熱炉外部への流出を防止できる。
特に、鋼材用加熱炉の操業条件が経時的に変化して、これにより加熱炉内の雰囲気ガスの流動状態が変化する場合であっても、設定部がバーナー設備のアンモニア混合比率を再設定することにより、確実に窒素酸化物や未燃アンモニアの炉外への流出を防止できる。
【0071】
ところで、上記実施形態において、
図5に示すように、炉内ガスを排出するためのガス流路である煙道9が配置される場合には、煙道9にも炉内圧力計18が配置されるようにしてよい。また、煙道9に窒素酸化物または未燃アンモニアを検知するガス検知器17を設けてもよい。煙道に配置される炉内圧力計の測定値を含めて、加熱炉内部の雰囲気ガスの流動方向を検出することにより、加熱炉の装入部から搬出部にかけての水平方向のガス流れだけでなく、上下方向のガス流れも検出できるからである。
これにより、例えばバーナー設備U1とL1など、鋼材の上下面に配置されるバーナー設備の混合ガスのアンモニア混合比率を調整して、より効果的に窒素酸化物や未燃アンモニアの燃焼および分解を促進できる。
【0072】
さらに、煙道に配置される炉内圧力計の測定値が他に比べて低い場合には、煙道に近接する位置に配置されるバーナー設備(例えば、
図5に示す加熱炉ではバーナー設備U1)のアンモニア混合比率を下げるように設定するのが好ましい。煙道から排出される窒素酸化物や未燃アンモニアの濃度を低下させることにより、排ガス処理装置の処理負荷を低減させることができるからである。
また、煙道に設置したガス検知器により窒素酸化物または未燃アンモニアの濃度が予め設定した値を超えたと判定した場合に、設定部は煙道に近接する位置に配置されるバーナー設備のアンモニア混合比率を下げるように設定するのが好ましい。排ガス処理装置の処理負荷を低減させることができるからである。
なお、煙道に配置されるガス検知器に予め設定される窒素酸化物の濃度は100ppm程度に設定してよい。また、煙道に配置されるガス検知器に予め設定される未燃アンモニアの濃度は25ppm程度とするとよい。煙道に配置される排ガス処理装置により、加熱炉の炉外では窒素酸化物や未燃アンモニアの濃度が十分抑制されるからである。
【0073】
ところで、炉内圧力計が測定する圧力の測定値については、炉内圧力計が配置される高さに応じて補正を行うのがよい。通常は、加熱炉の炉内の雰囲気ガスは高温になっており、外気に比べて密度が低い状態にある。そのため、炉内圧力計が配置される高さが高いほど、圧力の測定値が高くなる。この場合、複数の炉内圧力計の設置高さが異なると、それらの測定値の違いには、炉内圧力計が配置される高さの影響が含まれることがある。
しかし、炉内圧力計が配置される高さの影響による圧力差は、加熱炉内の雰囲気ガスの横方向の流動には影響しないため、加熱炉内の雰囲気ガスの流動方向を特定するためには、炉内圧力計が配置される高さの影響を除外する必要がある。具体的には、圧力測定の基準高さを設定し、それぞれの炉内圧力計が設置される高さとの差ΔHを用いて、炉内圧力計による圧力の補正量ΔPは以下の式(2)により表される。
ΔP=Δρ×g×ΔH ・・・(2)
ここで、Δρは外気の密度と炉内ガスの密度との差であり、gは重力加速度を表す。
このようにして、炉内圧力計が配置される高さが異なる場合であっても、上記補正を行うことにより炉内の雰囲気ガスの流動方向を特定できる。
【実施例0074】
以下、本実施形態の効果を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
本発明の実施例として、熱延鋼板を製造する熱間圧延ラインの加熱炉に適用した例について説明する。本実施例に用いた鋼材用加熱炉は、
図5に示す構成であり、連続鋳造ラインで製造されたスラブ(鋼材)が、加熱炉の装入側のヤードに搬送され、加熱炉の装入部から順次加熱炉の内部に装入される。そして、所定の抽出温度まで加熱されたスラブは、搬出部から搬出され、抽出側に配置する熱間圧延ラインで鋼板が製造される。
【0075】
加熱炉に配置されるバーナー設備U1~U5、L1~L5は、燃料ガスとして石炭ガスとアンモニアを混合した混合ガスを供給する混合ガス供給部を有すると共に、混合ガスに含まれるアンモニアの混合比率を制御する制御部を備える。バーナー設備U1~U5、L1~L5は、
図3に示すように、バーナーに対して燃焼用空気と、石炭ガスとアンモニアとの混合ガスが供給される構造となっている。
また、制御部は、石炭ガス流量調整バルブとアンモニア流量調整バルブの開度を制御することにより、混合ガスのアンモニア混合比率を制御できる。この場合、制御部は、アンモニア混合比率をゼロに設定することができ、この場合には燃料ガスとして石炭ガスのみをバーナーに供給し、アンモニアを供給しない条件を実現できる。
【0076】
さらに、本実施例では、加熱炉内の鋼材の搬送方向に沿った方向に圧力を測定する圧力計を配置した。また、加熱炉の装入側外部と抽出側外部に窒素酸化物NOxと未燃アンモニアNH3の濃度を測定するガス検知器を配置した。
【0077】
本実施例では、このような鋼材用加熱炉により熱間圧延用のスラブを加熱する操業を行った。加熱炉の操業条件としては、スラブの厚み235mm、幅1500mm、長さ7200mmを平均サイズとして、平均重量20トンのスラブを加熱炉能率160トン/hrで加熱した。なお、この場合の加熱炉能率は1時間で概ね8つのスラブを加熱する条件に相当する。スラブの加熱温度は平均で1200℃、加熱時間は平均で60分であった。
【0078】
本実施例におけるバーナー設備の燃料ガスとしてアンモニアの混合比率をゼロとする石炭ガスを用いた燃焼の基準条件は次のとおりである。すなわち、上記の鋼材用加熱炉における従来の操業条件は、燃料ガスとして表2に示すMガスを用いるものであり、その燃料ガスの流量は一つのバーナー設備あたり188Nm3/hrであり、燃焼用空気の流量は625Nm3/hrである。この場合、表2に示すMガスの組成からは、理論空気量(燃料ガスを完全燃焼させるのに必要な空気量)は2.47であり、この当量比(空気比の逆数)が0.74となることから、希薄燃焼の条件(空気が過剰)となっている。
【0079】
一方、本実施例におけるバーナー設備の燃料ガスとして石炭ガスとアンモニアを混合した混合ガスを用いる場合の操業条件は以下のようにして設定した。石炭ガスの流量をVc、アンモニアの流量をVaとして、それぞれの低位発熱量をHc、Haとすると、石炭ガスが燃焼することによる低位発熱量はVc×Hcであり、アンモニアが燃焼することによる低位発熱量はVa×Haとなる。この場合、混合ガスの低位発熱量がVc×HcとVa×Haとの和になるため、この値が上記の石炭ガスを用いた低位発熱量と同等になるように混合ガスの流量と混合比率を設定した。
【0080】
例えば、Mガスの流量を150.5Nm3/hrとして、アンモニアの流量を28.5Nm3/hrとすると、混合ガスに含まれるアンモニアの混合比率は15.9%であり、混合ガスの低位発熱量は2012KJ/hrとなる。この低位発熱量は、Mガスのみを用いて流量188Nm3/hrの石炭ガスを燃焼させたときの低位発熱量と等しくなる。このようにして、混合ガスに含まれるアンモニアの混合比率を設定して、混合ガスによる低位発熱量が上記の石炭ガスのみを燃焼させたときの低位発熱量と同じになるように石炭ガスとアンモニアの流量を設定して操業を行った。
【0081】
ここでは混合ガスの燃焼による低位発熱量に対する、アンモニアの燃焼による低位発熱量の比率を「燃料比率」または「アンモニア燃料比率」と呼ぶ。すなわち、燃料比率は、Va×Ha/(Va×Ha+Vc×Hc)によって表される。そして、制御部は、混合ガスの低位発熱量(Va×Ha+Vc×Hc)が一定の値になるように、石炭ガスの流量Vcとアンモニアの流量Vaを算出する。
さらに、制御部は、算出された石炭ガスの流量Vcとアンモニアの流量Vaから混合比率Va/(Va+Vc)を決定し、これらの値に基づきバーナー設備の石炭ガス流量調整バルブおよびアンモニア流量調整バルブを設定した。
【0082】
表3―3に、加熱炉の操業中にガス検知器が検出した窒素酸化物濃度の最大値(炉外最大NOx)および未燃アンモニア濃度の最大値(炉外最大NH3)を含む操業結果を示す。ただし、加熱炉は操業中に、装入部と搬出部とが一時的に開口した状態になるので、表3―1および3-2は装入部および搬出部がいずれも開口していない状態(条件1A~4A)と、搬出部のみが開口した状態(条件1B~4B)にあるときに測定された窒素酸化物および未燃アンモニア濃度の最大値をそれぞれ示している。
【0083】
また、表3―1および3-2中の「圧力」は、それぞれのバーナー設備の近傍で炉内圧力計を用いて測定された圧力の測定値に対して、上記(2)式の補正を行った値を示している。また、各バーナー設備の燃料比率は上記のとおりであり、表3-3中の「平均燃料比率」は、本実施例に用いた加熱炉に投入した燃料ガスの低位発熱量の総量に対するアンモニアの低位発熱量の総量の比率を表す。すなわち、平均燃料比率が大きいほど加熱炉の燃焼エネルギーに対するアンモニアの寄与率が大きく、加熱炉の二酸化炭素排出量の低減効果を代表する指標となる。
【0084】
条件1(A、B)は、アンモニアを使用しない基準条件での操業結果を示す。基準条件では、アンモニアの混合燃焼を行わないので、すべてのバーナー設備の燃料比率はゼロであり、炉外最大NOxは管理基準である5ppmを満足し、炉外最大NH3も管理基準である5ppmを満足する条件で操業が行われている。ただし、アンモニアを用いていないので、二酸化炭素排出量は従来通りとなる。
【0085】
条件2(A、B)は、バーナー設備U1~U5、L1~L5のアンモニア燃料比率を15%に設定した。これにより平均燃料比率も15%となった。一方、炉外最大NOxは条件1より増加し、管理基準である5ppmを超える濃度を示した。また、炉外最大NH3についても管理基準である5ppmを超える濃度を示した。すなわち、加熱炉内のバーナー設備のすべてでアンモニア混合燃焼を行うことで、加熱炉の外部に排出される窒素酸化物と未燃アンモニアが、石炭ガスのみを用いた条件1に対して大幅に増加した。
【0086】
これに対して、条件3(A、B)は、加熱炉の装入部に近接する位置に配置するバーナー設備U1と、搬出部に近接する位置に配置するバーナー設備U5、L5のアンモニア燃料比率がゼロになるように設定した。また、その他のバーナー設備U2~U4、L1~L4については、アンモニア燃料比率を20%または30%に設定した。この場合、バーナー設備L3の近傍に配置した炉内圧力計で測定された圧力が他に比べて高いことから、バーナー設備L3の位置が加熱炉内のガス流れの上流にあると判定して、バーナー設備L3の燃料比率を他に比べて大きくした。
なお、加熱炉の装入部に近接する位置で加熱炉の下部に配置するバーナー設備L1については、その近傍の測定圧力が、上部に配置されるバーナー設備U1の近傍の測定圧力に比べて高いため、加熱炉の装入部の近傍では、加熱炉内の雰囲気ガスが炉内下部から上部に向けて流動していると判定し、バーナー設備U1の燃料比率をゼロ、バーナー設備L1の燃料比率を20%に設定した。
【0087】
その結果、条件3(A、B)では、加熱炉の平均燃料比率15%に保ちながら、炉外最大NOxおよび炉外最大NH3は、石炭ガスを燃料とする条件1とほぼ同等のレベルに抑制できた。この場合、炉外最大NOxについては、搬出部が開口した状態では0.1ppmの濃度となり、条件1(A、B)に比べて増加しているものの、条件2(A、B)に比べて大幅に低減していると共に、管理基準である5ppmを十分満足するレベルとなった。
【0088】
さらに、本実施例では、条件4(A、B)として、鋼材用加熱炉の搬出部の扉の開閉により生じる炉内圧力の変化に基づき、設定部がバーナー設備の混合ガス比率を設定した例を示す。条件4は、搬出部の扉が閉じた状態(条件4A)では加熱炉の平均燃料比率を高く設定し、搬出部の扉が開口した状態(条件4B)では搬出部に近い位置に配置されるバーナー設備U5、L5の平均燃料比率を低下させた例である。
この場合、バーナー設備U5の近傍で想定される炉内圧力は搬出部の扉が閉から開に変化することで、11.6Paから7.8Paに低下し、バーナー設備L5の近傍で想定される炉内圧力も12.7Paから2.1Paに低下した。そのため、搬出部が開口した状態(条件4B)ではバーナー設備U5とL5の近傍では、炉内から搬出部に向かうガス流れが形成されることになるため、設定部は搬出部が開口した状態でバーナー設備U5とL5のアンモニア燃料比率を低下させた。
その結果、加熱炉の搬出部が開口していない状態(条件4A)では加熱炉の平均燃料比率を34%と高く保ちながら、加熱炉の搬出部が開口した状態(条件4B)でも平均燃料比率を26%と高くすることができた。これにより、条件4(A、B)は、条件3(A、B)に比べて二酸化炭素の排出量をより低減させながら、炉外最大NOxおよび炉外最大NH3を条件3(A、B)と同等にすることができた。
【0089】
以上から、本実施例により、石炭ガスを燃料ガスとする従来の加熱炉に比べて二酸化炭素排出量を低減しながら、窒素酸化物および未燃アンモニアの排出量を抑制した加熱炉の操業が可能であることが分かった。
【0090】
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【0093】