(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024070493
(43)【公開日】2024-05-23
(54)【発明の名称】レーザー装置および分析システム
(51)【国際特許分類】
H01S 3/083 20060101AFI20240516BHJP
H01S 3/00 20060101ALI20240516BHJP
H01S 3/136 20060101ALI20240516BHJP
G01N 21/01 20060101ALI20240516BHJP
G01N 21/3504 20140101ALI20240516BHJP
G02B 6/02 20060101ALI20240516BHJP
H01S 3/067 20060101ALI20240516BHJP
【FI】
H01S3/083
H01S3/00 F
H01S3/136
G01N21/01 D
G01N21/3504
G02B6/02 416
H01S3/067
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022181024
(22)【出願日】2022-11-11
(71)【出願人】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003177
【氏名又は名称】弁理士法人旺知国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大登 正敬
(72)【発明者】
【氏名】武田 直希
(72)【発明者】
【氏名】谷口 裕
【テーマコード(参考)】
2G059
2H250
5F172
【Fターム(参考)】
2G059AA01
2G059BB01
2G059CC05
2G059CC06
2G059EE01
2G059EE11
2G059GG01
2G059GG03
2G059GG06
2G059KK01
2H250AC38
2H250AH33
5F172AF03
5F172AM08
5F172CC04
5F172DD06
5F172NQ44
5F172NQ49
5F172NQ50
5F172NR13
5F172ZZ04
(57)【要約】
【課題】光パルスの特性(パルス強度およびパルス幅)を安定的に維持する。
【解決手段】レーザー装置100は、リング共振器20を備える。リング共振器20は、正の群速度分散を有する複数の正常分散ファイバー31と、負の群速度分散を有する複数の異常分散ファイバー32とを含む光導波路Qを備える。複数の正常分散ファイバー31の各々と複数の異常分散ファイバー32の各々とは、光導波路Qの周方向に交互に配置される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リング共振器を備えるレーザー装置であって、
前記リング共振器は、
正の群速度分散を有する複数の正常分散ファイバーと、
負の群速度分散を有する複数の異常分散ファイバーとを含む光導波路を備え、
前記複数の正常分散ファイバーの各々と前記複数の異常分散ファイバーの各々とは、前記光導波路の周方向に交互に配置される
レーザー装置。
【請求項2】
前記リング共振器における群速度分散の総和は、-0.1以上かつ0.1以下である
請求項1のレーザー装置。
【請求項3】
前記リング共振器は、
前記光導波路を進行する光パルスのパルス幅を伸長する第1光変調器
をさらに含む請求項1のレーザー装置。
【請求項4】
前記リング共振器は、
前記複数の正常分散ファイバーの何れかと前記複数の異常分散ファイバーの何れかとの間に設置された第1光サーキュレーターを含み、
前記第1光サーキュレーターは、
前記光導波路を進行する光パルスを前記第1光変調器に供給し、
前記第1光変調器による変調後の光パルスを前記光導波路に帰還する
請求項3のレーザー装置。
【請求項5】
前記リング共振器は、
前記光導波路を進行する光パルスのパルス幅を圧縮する第2光変調器
をさらに含む請求項1のレーザー装置。
【請求項6】
前記リング共振器は、
前記複数の正常分散ファイバーの何れかと前記複数の異常分散ファイバーの何れかとの間に設置された第2光サーキュレーターを含み、
前記第2光サーキュレーターは、
前記光導波路を進行する光パルスを前記第2光変調器に供給し、
前記第2光変調器による変調後の光パルスを前記光導波路に帰還する
請求項5のレーザー装置。
【請求項7】
第1レーザー装置と第2レーザー装置とを具備し、
前記第1レーザー装置および前記第2レーザー装置の各々は、リング共振器を備え、
前記リング共振器は、
正の群速度分散を有する複数の正常分散ファイバーと、
負の群速度分散を有する複数の異常分散ファイバーとを含む光導波路を備え、
前記複数の正常分散ファイバーの各々と前記複数の異常分散ファイバーの各々とは、前記光導波路の周方向に交互に配置される
分析システム。
【請求項8】
前記第1レーザー装置および前記第2レーザー装置の各々から出力される光パルスを検出する光検出器であって、前記第1レーザー装置および前記第2レーザー装置の少なくとも一方については試料ガスを通過した光パルスを検出する光検出器と、
前記光検出器による検出結果を解析することで前記試料ガスの特性を分析する分析部と
をさらに具備する請求項7の分析システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、レーザー装置および分析システムに関する。
【背景技術】
【0002】
レーザー光の照射により試料の特性を分析する各種の技術が従来から提案されている。例えば特許文献1には、光周波数コムの光パルスを発生する超短光パルス増幅装置が開示されている。光周波数コムは、周波数軸上に等間隔に配列された複数の成分で構成される櫛状の周波数スペクトルを意味する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
光周波数コムの光パルスを利用して試料を高精度に分析するためには、例えばパルス幅またはパルス強度等の光パルスの特性が安定していることが重要である。以上の事情を考慮して、本開示のひとつの態様は、光パルスの特性(パルス強度およびパルス幅)を安定的に維持することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以上の課題を解決するために、本開示のひとつの態様に係るレーザー装置は、リング共振器を備えるレーザー装置であって、前記リング共振器は、正の群速度分散を有する複数の正常分散ファイバーと、負の群速度分散を有する複数の異常分散ファイバーとを含む光導波路を備え、前記複数の正常分散ファイバーの各々と前記複数の異常分散ファイバーの各々とは、前記光導波路の周方向に交互に配置される。
【0006】
本開示のひとつの態様に係る分析システムは、第1レーザー装置と第2レーザー装置とを具備し、前記第1レーザー装置および前記第2レーザー装置の各々は、リング共振器を備え、前記リング共振器は、正の群速度分散を有する複数の正常分散ファイバーと、負の群速度分散を有する複数の異常分散ファイバーとを含む光導波路を備え、前記複数の正常分散ファイバーの各々と前記複数の異常分散ファイバーの各々とは、前記光導波路の周方向に交互に配置される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】第1実施形態におけるレーザー装置の構成図である。
【
図2】対比例におけるレーザー装置の構成図である。
【
図3】第2実施形態におけるレーザー装置の構成図である。
【
図4】第3実施形態における分析システムのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本開示を実施するための形態について図面を参照して説明する。なお、各図面においては、各要素の寸法および縮尺が実際の製品とは相違する場合がある。また、以下に説明する形態は、本開示を実施する場合に想定される例示的な一形態である。したがって、本開示の範囲は、以下に例示する形態には限定されない。
【0009】
A:第1実施形態
図1は、第1実施形態におけるレーザー装置100の構成図である。第1実施形態のレーザー装置100は、光周波数コムの光パルスを周期的に発生する光パルス発生装置である。光周波数コムの光パルスは、周波数軸上に等間隔に配列された複数の成分で構成される。
【0010】
図1に例示される通り、レーザー装置100は、光源装置10とリング共振器20とを具備する。光源装置10は、パルス状の励起光を周期的に出射する励起光源である。例えばレーザーダイオードが光源装置10として利用される。
【0011】
リング共振器20は、閉ループ状の光導波路Qを含むモード同期ファイバーレーザーである。
図1に例示される通り、第1実施形態の光導波路Qは、入射カプラー21と出射カプラー22と光アイソレーター23と偏光コントローラー24と複数の光ファイバー30とで構成される。
【0012】
光源装置10から出射した励起光は、入射ファイバー11を通過して入射カプラー21に入射する。入射カプラー21は、入射ファイバー11から供給される励起光を光導波路Q内のレーザー光に合成するWDM(Wavelength Division Multiplexing)カプラーである。
【0013】
出射カプラー22は、光導波路Q内のレーザー光の一部を分岐するWDMカプラーである。出射カプラー22による分岐後のレーザー光は、出射ファイバー12を通過して外部空間に出射する。すなわち、リング共振器20により増幅された光パルスがリング共振器20から周期的に出射する。
【0014】
光アイソレーター23は、順方向に進行する光のみを通過する光学素子である。偏光コントローラー24は、光導波路Qを進行するレーザー光の偏光状態を制御する光学素子であり、例えば1/4波長板または1/2波長板により構成される。なお、光導波路Q内のレーザー光を変調する他の光学素子が、
図1のリング共振器20に追加されてもよい。
【0015】
複数の光ファイバー30は、相互に接続されることで閉ループ状の光導波路Qを構成する。第1実施形態における複数の光ファイバー30は、2個の正常分散ファイバー31(31a,31b)と複数の異常分散ファイバー32(32a,32b)とを含む。
【0016】
2個の正常分散ファイバー31の各々と2個の異常分散ファイバー32の各々とは、光導波路Qの周方向に交互に配列される。具体的には、正常分散ファイバー31aの一端と正常分散ファイバー31bの一端との間に異常分散ファイバー32aが接続され、正常分散ファイバー31aの他端と正常分散ファイバー31bの他端との間に異常分散ファイバー32bが接続される。すなわち、光パルスが進行する方向に沿って、正常分散ファイバー31a→異常分散ファイバー32a→正常分散ファイバー31b→異常分散ファイバー32b→正常分散ファイバー31aという順番で光導波路Qが構成される。したがって、光導波路Q内を進行する光パルスは、正常分散ファイバー31と異常分散ファイバー32とを交互に通過する。
【0017】
各正常分散ファイバー31は、正の群速度分散(すなわち正常分散)を有する光ファイバー30である。すなわち、波長が長い光成分ほど、正常分散ファイバー31内における伝搬速度は速い。光パルスの前縁部の成分は長波長の成分であり、後縁部の成分は短波長の成分である。したがって、正常分散ファイバー31を通過することで、光パルスのパルス幅は時間軸上で伸長される。正常分散ファイバー31は、例えば増幅媒質である希土類元素がコアに添加された希土類ドープファイバーである。例えばエルビウム(Er)がコアに添加されたエルビウムドープファイバー(EDF:Erbium-Doped Fiber)が、正常分散ファイバー31として例示される。
【0018】
各異常分散ファイバー32は、負の群速度分散(すなわち異常分散)を有する光ファイバー30である。すなわち、波長が長い光成分ほど、異常分散ファイバー32内における伝搬速度は遅い。前述の通り、光パルスの前縁部の成分は長波長の成分であり、後縁部の成分は短波長の成分である。したがって、異常分散ファイバー32を通過することで、光パルスのパルス幅は時間軸上で圧縮される。例えばゲルマニウム(Ge)がコアに添加された光ファイバーが、異常分散ファイバー32として例示される。
【0019】
第1実施形態において、リング共振器20の光導波路Qの全周にわたる群速度分散の総和は、-0.1以上かつ0.1以下である。より好適な態様において、光導波路Qの全周にわたる群速度分散の総和は実質的に0である。
【0020】
なお、
図1においては、1個の正常分散ファイバー31の全長と1個の異常分散ファイバー32の全長とが同等である構成を便宜的に例示したが、1個の正常分散ファイバー31の全長と1個の異常分散ファイバー32の全長とは同等でも相違してもよい。また、正常分散ファイバー31aの全長と正常分散ファイバー31bの全長とは同等でも相違してもよい。同様に、異常分散ファイバー32aの全長と異常分散ファイバー32bの全長とは同等でも相違してもよい。複数の正常分散ファイバー31(31a,31b)の全長の合計と、複数の異常分散ファイバー32(32a,32b)の全長の合計との異同も不問である。
【0021】
以上に説明した通り、リング共振器20の光導波路Q内を進行する光パルスについては、正常分散ファイバー31によるパルス幅の伸長と異常分散ファイバー32によるパルス幅の圧縮とが交互に反復される。したがって、レーザー装置100から出射される光パルスの波形を維持することが可能である。第1実施形態においては特に、光導波路Qの全周にわたる群速度分散の総和が-0.1以上かつ0.1以下である。すなわち、光導波路Qの全体では正負の群速度分散が均衡する。したがって、レーザー装置100から出射される光パルスの特性を安定的に維持できるという効果は格別に顕著である。
【0022】
図2は、第1実施形態と同等の周長の光導波路Qが、単一の正常分散ファイバー31と単一の異常分散ファイバー32とで構成された形態(以下「対比例」という)の構成図である。
【0023】
第1実施形態における2個の正常分散ファイバー31(31a,31b)の全長の合計は、対比例における1個の正常分散ファイバー31の全長と同等である。したがって、光導波路Qの全周にわたる正の群速度分散の総和は、第1実施形態と対比例との間で同等である。同様に、第1実施形態における2個の異常分散ファイバー32(32a,32b)の全長の合計は、対比例における1個の異常分散ファイバー32の全長と同等である。したがって、光導波路Qの全周にわたる負の群速度分散の総和は、第1実施形態と対比例との間で同等である。
【0024】
図2に例示される通り、対比例においては、第1実施形態と比較して、正常分散ファイバー31および異常分散ファイバー32の各々の全長を充分に確保する必要がある。しかし、光導波路Q内において異常分散ファイバー32が連続する経路が過度に長い形態では、異常分散ファイバー32内を通過する光パルスが過剰に圧縮され、結果的に非線形の波形歪が発生し得る。したがって、異常分散ファイバー32を通過した光パルスを正常分散ファイバー31に通過させても波形は完全には回復しない。すなわち、対比例においては、光パルスのパルス強度またはパルス幅等の特性が不安定に変動する可能性がある。例えば、周期的に発生する光パルスの特性が光パルス毎に相違し得る。
【0025】
以上の事情を考慮して、第1実施形態においては、光導波路Qのうち正の群速度分散を有する範囲が複数の部分(正常分散ファイバー31)に分割され、負の群速度分散を有する範囲が複数の部分(異常分散ファイバー32)に分割され、正常分散ファイバー31と異常分散ファイバー32とが交互に配列される。以上の構成によれば、個々の異常分散ファイバー32の全長が対比例と比較して短縮される。したがって、異常分散ファイバー32によるパルス幅の圧縮に起因した非線形の波形歪が低減される。以上のように光パルスの波形歪が低減される結果、第1実施形態によれば、光パルスの特性を安定的に維持できる。すなわち、パルス強度またはパルス幅等の特性が同等の光パルスを周期的に生成できる。
【0026】
以上の説明から理解される通り、第1実施形態は、
図2の対比例における正常分散ファイバー31を複数の部分に分割し、かつ、対比例における異常分散ファイバー32を複数の部分に分割した形態と解釈できる。
【0027】
B:第2実施形態
本開示の第2実施形態を説明する。なお、以下に例示する各態様において機能が第1実施形態と同様である要素については、第1実施形態の説明と同様の符号を流用して各々の詳細な説明を適宜に省略する。
【0028】
図3は、第2実施形態におけるレーザー装置100の構成図である。第2実施形態のレーザー装置100におけるリング共振器20は、第1実施形態と同様の要素に加えて、第1光サーキュレーター41と第2光サーキュレーター42と第1光変調器43と第2光変調器44とを具備する。
【0029】
第1光サーキュレーター41および第2光サーキュレーター42の各々は、光導波路Qの相異なる位置に設置される。例えば、第1光サーキュレーター41は、正常分散ファイバー31bと異常分散ファイバー32bとの間に設置される。第2光サーキュレーター42は、正常分散ファイバー31aと異常分散ファイバー32bとの間に設置される。第1光変調器43は第1光サーキュレーター41に接続され、第2光変調器44は第2光サーキュレーター42に接続される。
【0030】
第1光変調器43は、光導波路Qを進行する光パルスのパルス幅を伸長する光学素子である。他方、第2光変調器44は、光導波路Qを進行する光パルスのパルス幅を圧縮する光学素子である。具体的には、光ファイバーのコア内の回折格子(屈折率変調)で構成されるFBG(Fiber Bragg Grating)が、第1光変調器43および第2光変調器44として例示される。
【0031】
第1光サーキュレーター41は、光導波路Qを進行する光パルスを第1光変調器43に供給し、第1光変調器43による変調後の光パルスを光導波路Qに帰還する光学素子である。同様に、第2光サーキュレーター42は、光導波路Qを進行する光パルスを第2光変調器44に供給し、第2光変調器44による変調後の光パルスを光導波路Qに帰還する光学素子である。なお、第1光サーキュレーター41および第1光変調器43の組と、第2光サーキュレーター42および第2光変調器44の組との一方は省略されてもよい。
【0032】
第2実施形態においても第1実施形態と同様の効果が実現される。また、第2実施形態においては、光導波路Qを進行する光パルスのパルス幅を伸長する第1光変調器43が設置されるから、光導波路Qの全体におけるパルス幅の伸長効果を第1光変調器43により調整できる。例えば、2個の正常分散ファイバー31の作用だけではパルス幅の伸長が不足する場合に、第1光変調器43により、光導波路Qの全体における群速度分散の総和をゼロに近付けることが可能である。
【0033】
また、第2実施形態においては、光導波路Qを進行する光パルスのパルス幅を圧縮する第2光変調器44が設置されるから、光導波路Qの全体におけるパルス幅の圧縮効果を第2光変調器44により調整できる。例えば、2個の異常分散ファイバー32の作用だけではパルス幅の圧縮が不足する場合に、第2光変調器44により、光導波路Qの全体における群速度分散の総和をゼロに近付けることが可能である。
【0034】
第2実施形態においては、正常分散ファイバー31bと異常分散ファイバー32bとの間に第1光サーキュレーター41が設置される。したがって、正常分散ファイバー31または異常分散ファイバー32の途中に第1光サーキュレーター41が設置される形態と比較して、光導波路Qにおける光損失を低減できる。同様に、正常分散ファイバー31aと異常分散ファイバー32bとの間に第2光サーキュレーター42が設置されるから、光導波路Qにおける光損失を低減できる。
【0035】
C:第3実施形態
図4は、第3実施形態における分析システム200のブロック図である。分析システム200は、試料ガス60の特性を光学的に分析する光学測定器である。試料ガス60は、分析対象となる任意のガスである。例えば、窒素酸化物(NOx)または硫黄酸化物(SOx)等を含む排気ガスが、試料ガス60の一例である。
【0036】
図4に例示される通り、分析システム200は、第1レーザー装置51と第2レーザー装置52と同期制御装置53と光検出器54と情報処理装置55とを具備する。なお、同期制御装置53および光検出器54の一方または双方は、情報処理装置55と一体に構成されてもよい。また、第1レーザー装置51と第2レーザー装置52とは一体に構成されてもよい。
【0037】
第1レーザー装置51および第2レーザー装置52の各々は、第1実施形態に例示したレーザー装置100であり、光周波数コムの光パルスを周期的に発生する。具体的には、第1レーザー装置51および第2レーザー装置52の各々は、複数の正常分散ファイバー31の各々と複数の異常分散ファイバー32の各々とが、光導波路Qの周方向に交互に配置されたリング共振器20を具備する。
【0038】
第1レーザー装置51が出力する光パルスの周波数スペクトルと、第2レーザーが出力する光パルスの周波数スペクトルとの間では、周波数軸上において相互に隣合う各成分の間隔(繰返し周波数)が僅かに相違する。
【0039】
同期制御装置53は、第1レーザー装置51が出力する光パルスの位相と第2レーザー装置52が出力する光パルスの位相とを同期させる。位相同期の実現には、例えば電気光学変調(EOM:Electro-Optic Modulator)等の公知の技術が任意に採用される。
【0040】
第1レーザー装置51が出力する光パルスと第1レーザー装置51が出力する光パルスとは、合波後に試料ガス60を通過する。例えばガスセル等の容器に収容された試料ガス60に光パルスが照射される。なお、試料ガス60が流通する流路内に第1レーザー装置51および第2レーザー装置52が設置されてもよい。
【0041】
光検出器54は、第1レーザー装置51および第2レーザー装置52の各々から出力される光パルスを検出する受光素子である。具体的には、光検出器54は、第1レーザー装置51および第2レーザー装置52の各々による出射後に試料ガス60を通過した光パルス(干渉光)を受光する。
【0042】
情報処理装置55は、例えばCPU等の演算装置と、半導体メモリまたは磁気記録媒体等の記憶装置とを具備するコンピュータシステムである。記憶装置に記憶されたプログラムを実行することで、演算装置は各種の処理を実行する。
【0043】
具体的には、情報処理装置55は、光検出器54による検出結果を解析することで試料ガス60の特性(例えば吸収スペクトルおよび濃度)を分析する。例えば、情報処理装置55は、光検出器54が生成する検出信号に対して離散フーリエ変換等の周波数解析を実行することで、試料ガス60の吸収スペクトルを生成する。また、情報処理装置55は、吸収スペクトルを解析することで、試料ガス60に関する濃度を算定する。例えば、試料ガス60に含まれる窒素酸化物(NOx)または硫黄酸化物(SOx)等の成分の濃度が算定される。情報処理装置55は、「分析部」の一例である。
【0044】
第3実施形態においても第1実施形態と同様の効果が実現される。前述の通り、正常分散ファイバー31と異常分散ファイバー32とが交互に配列される構成により光パルスの特性が安定的に維持されるから、第3実施形態によれば、試料ガス60の特性を高精度に分析できる。
【0045】
なお、以上の説明においては、分析システム200による分析の対象として気体(試料ガス60)を例示したが、液体または固体の試料も同様の構成により分析可能である。なお、低濃度の試料ガス60の分析においては、液体または固体の試料の分析と比較して、光パルスの特性に高い安定性が要求される傾向がある。したがって、リング共振器20の構成により光パルスの構成を安定的に維持できる第3実施形態の構成は、低濃度の試料ガス60の分析のために格別に好適である。
【0046】
以上の説明においては第1実施形態のレーザー装置100を利用した分析システム200を例示したが、分析システム200の第1レーザー装置51および第2レーザー装置52として、第2実施形態のレーザー装置100が利用されてもよい。第2実施形態のレーザー装置100を利用した分析システム200によれば、第2実施形態と同様の効果が実現される。
【0047】
D:変形例
以上に例示した各態様に付加される具体的な変形の態様を以下に例示する。以下の例示から任意に選択された2以上の態様を、相互に矛盾しない範囲で適宜に併合してもよい。
【0048】
(1)前述の各形態においては、リング共振器20の光導波路Qが2個の正常分散ファイバー31と2個の異常分散ファイバー32とで構成される形態を例示したが、正常分散ファイバー31の個数と異常分散ファイバー32の個数とは、任意に変更される。例えば、光導波路Qが3個以上の正常分散ファイバー31を含む形態、または、光導波路Qが3個以上の異常分散ファイバー32を含む形態も想定される。
【0049】
(2)リング共振器20を構成する複数の正常分散ファイバー31は、正数の範囲内(すなわち正常分散)で群速度分散が相違する複数種の正常分散ファイバー31を含んでもよい。同様に、複数の異常分散ファイバー32は、負数の範囲内(すなわち異常分散)で群速度分散が相違する複数種の異常分散ファイバー32を含んでもよい。
【0050】
(3)正常分散ファイバー31と異常分散ファイバー32とは直接的に連結される必要はない。例えば、正常分散ファイバー31と異常分散ファイバー32とが他の光学素子を介して間接的に接続された構成も想定される。
【0051】
(4)第3実施形態においては、第1レーザー装置51から出力される光パルスと第2レーザー装置52から出力される光パルスの双方が試料ガス60を通過する形態を例示したが、一方の光パルスのみが試料ガス60を通過する形態も想定される。以上の説明から理解される通り、光検出器54は、第1レーザー装置51および第2レーザー装置52の少なくとも一方については試料ガス60を通過した光パルスを検出する。
【0052】
(5)光アイソレーター23または偏光コントローラー24等の光学素子が設置される位置は、前述の各形態の例示に限定されない。例えば、光アイソレーター23および偏光コントローラー24の一方または双方が正常分散ファイバー31に設置されてもよい。入射カプラー21および出射カプラー22についても同様に、正常分散ファイバー31および異常分散ファイバー32の何れに設置されてもよい。
【0053】
E:付記
以上に例示した形態から、例えば以下の構成が把握される。
【0054】
本開示のひとつの態様(態様1)に係るレーザー装置は、リング共振器を備えるレーザー装置であって、前記リング共振器は、正の群速度分散を有する複数の正常分散ファイバーと、負の群速度分散を有する複数の異常分散ファイバーとを含む光導波路を備え、前記複数の正常分散ファイバーの各々と前記複数の異常分散ファイバーの各々とは、前記光導波路の周方向に交互に配置される。以上の態様においては、複数の正常分散ファイバーの各々と複数の異常分散ファイバーの各々とが光導波路の周方向に交互に配置される。すなわち、単一の正常分散ファイバーと単一の異常分散ファイバーとで同等の周長のリング共振器が構成される形態と比較して、リング共振器に入力される光パルスのパルス幅が各ファイバーにおいて変化(伸長/圧縮)する度合が低減される。したがって、レーザー装置から出射される光パルスについて非線形の波形歪が低減され、結果的に光パルスの特性(パルス強度およびパルス幅)を安定的に維持できる。
【0055】
態様1の具体例(態様2)において、前記リング共振器における群速度分散の総和は、-0.1以上かつ0.1以下である。以上の態様においては、リング共振器の全体における群速度分散の総和が-0.1以上かつ0.1以下である。したがって、レーザー装置から出射される光パルスの特性を安定的に維持できるという効果は格別に顕著である。
【0056】
態様1または態様2の具体例(態様3)において、前記リング共振器は、前記光導波路を進行する光パルスのパルス幅を伸長する第1光変調器をさらに含む。以上の態様においては、光パルスのパルス幅を伸長する第1光変調器が設置される。したがって、複数の正常分散ファイバーの作用だけではパルス幅の伸長が不足する場合に、第1光変調器により、光導波路の全体における群速度分散の総和をゼロに近付けることが可能である。
【0057】
態様3の具体例(態様4)において、前記リング共振器は、前記複数の正常分散ファイバーの何れかと前記複数の異常分散ファイバーの何れかとの間に設置された第1光サーキュレーターを含み、前記第1光サーキュレーターは、前記光導波路を進行する光パルスを前記第1光変調器に供給し、前記第1光変調器による変調後の光パルスを前記光導波路に帰還する。以上の態様によれば、正常分散ファイバーと異常分散ファイバーとの間に第1光サーキュレーターが設置されるから、正常分散ファイバーまたは異常分散ファイバーの途中に第1光サーキュレーターが設置される形態と比較して、光導波路における光損失を低減できる。
【0058】
態様1から態様4の何れかの具体例(態様5)において、前記リング共振器は、前記光導波路を進行する光パルスのパルス幅を圧縮する第2光変調器をさらに含む。以上の態様においては、光パルスのパルス幅を圧縮する第2光変調器が設置される。したがって、複数の異常分散ファイバーの作用だけではパルス幅の圧縮が不足する場合に、第2光変調器により、光導波路の全体における群速度分散の総和をゼロに近付けることが可能である。
【0059】
態様5の具体例(態様6)において、前記リング共振器は、前記複数の正常分散ファイバーの何れかと前記複数の異常分散ファイバーの何れかとの間に設置された第2光サーキュレーターを含み、前記第2光サーキュレーターは、前記光導波路を進行する光パルスを前記第2光変調器に供給し、前記第2光変調器による変調後の光パルスを前記光導波路に帰還する。以上の態様によれば、正常分散ファイバーと異常分散ファイバーとの間に第2光サーキュレーターが設置されるから、正常分散ファイバーまたは異常分散ファイバーの途中に第2光サーキュレーターが設置される形態と比較して、光導波路における光損失を低減できる。
【0060】
本開示のひとつの態様(態様7)に係る分析システムは、第1レーザー装置と第2レーザー装置とを具備し、前記第1レーザー装置および前記第2レーザー装置の各々は、リング共振器を備え、前記リング共振器は、正の群速度分散を有する複数の正常分散ファイバーと、負の群速度分散を有する複数の異常分散ファイバーとを含む光導波路を備え、前記複数の正常分散ファイバーの各々と前記複数の異常分散ファイバーの各々とは、前記光導波路の周方向に交互に配置される。以上の態様においては、複数の正常分散ファイバーの各々と複数の異常分散ファイバーの各々とが周方向に交互に配置される。したがって、第1レーザー装置および第2レーザー装置の各々から出射される光パルスについて非線形の波形歪が低減され、結果的に光パルスの特性(パルス強度およびパルス幅)を安定的に維持できる。
【0061】
態様7の具体例(態様8)において、前記第1レーザー装置および前記第2レーザー装置の各々から出力される光パルスを検出する光検出器であって、前記第1レーザー装置および前記第2レーザー装置の少なくとも一方については試料ガスを通過した光パルスを検出する光検出器と、前記光検出器による検出結果を解析することで前記試料ガスの特性を分析する分析部とをさらに具備する。前述の通り、第1レーザー装置および第2レーザー装置の各々から出力される光パルスの特性が安定的に維持される。したがって、第1レーザー装置および第2レーザー装置の各々の光パルスを利用することで、試料ガスの特性を高精度に分析できる。
【符号の説明】
【0062】
100…レーザー装置、10…光源装置、11…入射ファイバー、12…出射ファイバー、20…リング共振器、21…入射カプラー、22…出射カプラー、23…光アイソレーター、24…偏光コントローラー、30…光ファイバー、31(31a,31b)…正常分散ファイバー、32(32a,32b)…異常分散ファイバー、41…第1光サーキュレーター、42…第2光サーキュレーター、43…第1光変調器、44…第2光変調器、51…第1レーザー装置、52…第2レーザー装置、53…同期制御装置、54…光検出器、55…情報処理装置、Q…光導波路。