IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ イビデン株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-熱伝達抑制シート及び組電池 図1
  • 特開-熱伝達抑制シート及び組電池 図2
  • 特開-熱伝達抑制シート及び組電池 図3
  • 特開-熱伝達抑制シート及び組電池 図4
  • 特開-熱伝達抑制シート及び組電池 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024070502
(43)【公開日】2024-05-23
(54)【発明の名称】熱伝達抑制シート及び組電池
(51)【国際特許分類】
   F16L 59/04 20060101AFI20240516BHJP
   H01M 10/658 20140101ALI20240516BHJP
   H01M 10/625 20140101ALI20240516BHJP
   F16L 59/05 20060101ALI20240516BHJP
【FI】
F16L59/04
H01M10/658
H01M10/625
F16L59/05
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022181036
(22)【出願日】2022-11-11
(71)【出願人】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】熊野 圭司
(72)【発明者】
【氏名】井戸 貴彦
【テーマコード(参考)】
3H036
5H031
【Fターム(参考)】
3H036AA09
3H036AB12
3H036AC03
3H036AD09
3H036AE07
3H036AE13
5H031KK02
(57)【要約】
【課題】弾性体を備える熱伝達抑制シートにおいて、通常の充放電に伴なう電池セルの膨張に対応できるとともに、熱暴走時においても弾性性能を発揮できる熱伝達抑制シート及びこの熱伝達抑制シートを有する組電池を提供する。
【解決手段】本発明の熱伝達抑制シート10は、90℃未満で圧縮状態であり、かつ、90℃以上で圧縮状態から解放される弾性体1を有する。弾性体1はバインダ物質により圧縮状態が維持されている。また、断熱材5と積層されていてもよく、その際、熱収縮性の包囲体20により圧縮状態が維持されていてもよい。さらには、弾性体1は、複数の弾性体分割片1Aで構成されていてもよい。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
90℃未満で圧縮状態であり、かつ、90℃以上で圧縮状態から解放される弾性体を有する、熱伝達抑制シート。
【請求項2】
前記弾性体が、配合バインダ物質により圧縮状態が維持されていることを特徴とする、請求項1に記載の熱伝達抑制シート。
【請求項3】
前記弾性体と、断熱材とを積層したことを特徴とする、請求項2に記載の熱伝達抑制シート。
【請求項4】
前記弾性体と前記断熱材とが、少なくとも一部分で接着していることを特徴とする、請求項3に記載の熱伝達抑制シート。
【請求項5】
前記弾性体が複数の弾性体分割片で構成されており、前記弾性体分割片が前記断熱材の面上に点在していることを特徴とする、請求項3又は4に記載の熱伝達抑制シート。
【請求項6】
圧縮状態から解放された際に、隣接する前記弾性体分割片の周端面同士が当接し合い、前記弾性体分割片間の隙間を埋めるか、もしくは山状の空隙を形成することを特徴とする、請求項5に記載の熱伝達抑制シート。
【請求項7】
前記弾性体と、断熱材とが積層され、熱収縮性の包囲体により圧縮状態が維持されていることを特徴とする、請求項1に記載の熱伝達抑制シート。
【請求項8】
前記弾性体と前記断熱材とが、少なくとも一部分で接着していることを特徴とする、請求項7に記載の熱伝達抑制シート。
【請求項9】
前記弾性体が複数の弾性体分割片で構成されており、前記弾性体分割片が前記断熱材の面上に点在していることを特徴とする、請求項7又は8に記載の熱伝達抑制シート。
【請求項10】
圧縮状態から解放された際に、隣接する前記弾性体分割片の周端面同士が当接し合い、前記弾性体分割片間の隙間を埋めるか、もしくは山状の空隙を形成することを特徴とする、請求項9に記載の熱伝達抑制シート。
【請求項11】
複数の電池セルと、請求項1に記載の熱伝達抑制シートを有し、前記複数の電池セルが直列又は並列に接続された、組電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝達抑制シート及び該熱伝達抑制シートを有する組電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保護の観点から電動モータで駆動する電気自動車又はハイブリッド車等の開発が盛んに進められている。この電気自動車又はハイブリッド車等には、駆動用電動モータの電源となるための、複数の電池セルが直列又は並列に接続された組電池が搭載されている。なお。電池セルには、鉛蓄電池やニッケル水素電池等に比べて、高容量かつ高出力が可能なリチウムイオン二次電池が主に用いられている。
【0003】
組電池では、電池セルが積層され、隣接する電池セル間に熱伝達抑制シートが介在しているのが一般的である。熱伝達抑制シートでは、電池セル間の熱の伝達を抑えるとともに、充放電により電池セルが膨張するため、この膨張を弾性体により吸収することも行われている。
【0004】
例えば、特許文献1には、断熱材と、断熱材の表面に積層してなる弾性体とを備えるとともに、弾性体が電池セルの膨張で変形する弾性突出部を有し、電池セルとの間に弾性突出部が押圧方向と直行する外周方向に移動する変形スペースを有する熱伝達抑制シートが記載されている。
【0005】
また、特許文献2には、断熱材と、特定の圧縮弾性率及び圧縮応力の弾性体とを含む熱伝達抑制シートが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2020/262080号
【特許文献2】特開2021-140968号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1,2に記載された熱伝達抑制シートは、何れも電池セルの熱暴走を想定していない。特許文献2では、弾性体の圧縮弾性率及び圧縮応力を特定しているが、それらはJIS K 6254で規定される値であり、試験温度は室温である。
【0008】
組電池では、内部短絡や過充電等が原因で、ある電池セルが急激に昇温し、その後も発熱を継続するような熱暴走を起こし、場合によっては火炎を発することもある。そして、熱暴走を起こした電池セルからの熱や火炎が、隣接する他の電池セルに伝播することで、他の電池セルの熱暴走を引き起こすおそれがある。そのため、特許文献1,2に記載された熱伝達抑制シートの弾性体では、熱暴走時の弾性性能が発揮されないことが十分に推察される。
【0009】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、弾性体を備える熱伝達抑制シートにおいて、通常の充放電に伴なう電池セルの膨張に対応できるとともに、熱暴走時においても弾性性能を発揮できる熱伝達抑制シート及びこの熱伝達抑制シートを有する組電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の上記目的は、熱伝達抑制シートに係る下記[1]の構成により達成される。
【0011】
[1]90℃未満で圧縮状態であり、かつ、90℃以上で圧縮状態から解放される弾性体を有する、熱伝達抑制シート。
【0012】
また、熱伝達抑制シートに係る本発明の好ましい実施形態は、以下の[2]~[10]に関する。
【0013】
[2]前記弾性体が、配合バインダ物質により圧縮状態が維持されていることを特徴とする、[1]に記載の熱伝達抑制シート。
[3]前記弾性体と、断熱材とを積層したことを特徴とする、[1]又は[2]に記載の熱伝達抑制シート。
[4]前記弾性体と前記断熱材とが、少なくとも一部分で接着していることを特徴とする、[3]に記載の熱伝達抑制シート。
[5]前記弾性体が複数の弾性体分割片で構成されており、前記弾性体分割片が前記断熱材の面上に点在していることを特徴とする、[3]又は[4]に記載の熱伝達抑制シート。
[6]圧縮状態から解放された際に、隣接する前記弾性体分割片の周端面同士が当接し合い、前記弾性体分割片間の隙間を埋めるか、もしくは山状の空隙を形成することを特徴とする、[5]に記載の熱伝達抑制シート。
[7]前記弾性体と、断熱材とが積層され、熱収縮性の包囲体により圧縮状態が維持されていることを特徴とする、[1]に記載の熱伝達抑制シート。
[8]前記弾性体と前記断熱材とが、少なくとも一部分で接着していることを特徴とする、[7]に記載の熱伝達抑制シート。
[9]前記弾性体が複数の弾性体分割片で構成されており、前記弾性体分割片が前記断熱材の面上に点在していることを特徴とする、[7]又は[8]に記載の熱伝達抑制シート。
[10]圧縮状態から解放された際に、隣接する前記弾性体分割片の周端面同士が当接し合い、前記弾性体分割片間の隙間を埋めるか、もしくは山状の空隙を形成することを特徴とする、[9]に記載の熱伝達抑制シート。
【0014】
本発明の上記目的は、組電池に係る下記[11]の構成により達成される。
【0015】
[11]複数の電池セルと、[1]に記載の熱伝達抑制シートを有し、前記複数の電池セルが直列又は並列に接続された、組電池。
【発明の効果】
【0016】
本発明の熱伝達抑制シートは、90℃未満では圧縮状態を維持し、90℃以上で圧縮状態が解放されて膨張する弾性体を備えており、通常の充放電に伴なう電池セルの膨張に対応できるとともに、熱暴走時においても弾性性能を発揮することができる。
【0017】
また、本発明の組電池は、上記の熱伝達抑制シートを有するため、通常の充放電に伴なう電池セルの膨張に対応できるとともに、熱暴走時においても弾性性能を発揮することができ、安全性がより高められている。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、本発明の第1の実施形態に係る熱伝達抑制シートの構造を示す斜視図である。
図2図2は、弾性体を弾性体分割片で構成した例を示す斜視図である。
図3図3は、弾性体分割片が膨張した際に、隣接する弾性体分割片同士で形成される山状の空隙を示す断面図である。
図4図4は、本発明の第2の実施形態に係る熱伝達抑制シートの構造を示す断面図である。
図5図5は、本発明の組電池の一実施形態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明者らは、熱伝達抑制シートとして、90℃未満では圧縮状態を維持し、90℃以上で圧縮状態が解放されて膨張する弾性体を備える構成とすることにより、通常の充放電に伴なう電池セルの膨張に対応できるとともに、熱暴走時においても弾性性能を発揮することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0020】
以下、本発明の実施形態に係る熱伝達抑制シート及び組電池について、詳細に説明する。なお、本発明は、以下で説明する実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変更して実施することができる。
【0021】
1.熱伝達抑制シート
まず、熱伝達抑制シートについて詳細に説明する。
【0022】
≪第1の実施形態≫
本発明の熱伝達抑制シートは、90℃未満では圧縮状態を維持し、90℃以上で圧縮状態が解放されて膨張する弾性体を備える。弾性体自体は公知のもので構わず、弾性材料には、例えば、ゴムや熱可塑性エラストマーを適宜用いることができる。
【0023】
ゴムは合成ゴム及び天然ゴムの何れでもよく、合成ゴムとしては、例えば、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、イソプレンゴム、ブチルゴム、エチレンプロピレンゴム、ニトリルゴム、シリコーンゴム、ふっ素ゴム、アクリルゴム、ウレタンゴム、多硫化ゴム及びエビクロルヒドリンゴムなどを挙げることができる。
【0024】
熱可塑性エラストマーとしては、例えば、ポリスチレン系、ポリオレフィン系、塩化ビニル系、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリブタジエン系の各熱可塑性エラストマーなどを挙げることができる。また、エラストマーは、多孔性及び非多孔性の何れでもよい。なお、多孔性の場合、気泡構造は独立気泡型及び連通気泡型の何れでもよい。
【0025】
弾性体を圧縮状態で維持するために、本実施形態では、弾性材料にバインダ物質を配合し、所定の形状に加工する。バインダ物質としては、90℃以上で溶融して弾性体の圧縮状態を解放することを考慮すると、有機バインダが好ましい。有機バインダとしては、例えば、アクリル系、メタクリル系、スチレン系、ブタジエン系の各樹脂などを挙げることができる。また、バインダ物質の配合量は、バインダ物質の種類や弾性体の圧縮度合、弾性体の弾性能力に応じて適宜選択することができるが、弾性体1の全質量において、バインダ物質5~30質量%が適当である。
【0026】
図1に示すように、圧縮状態の弾性体1と断熱材5とを積層して熱伝達抑制シート10を構成してもよい。図1では、弾性体1は、断熱材5の片面のみに配設されているが、断熱材5の両面に配設されていてもよい。また、弾性体1と断熱材5とは、面同士が全面で接着していてもよく、部分的に点状に接着していてもよい。弾性体1と断熱材5とを接着することにより、熱伝達抑制シート10として取扱性が向上する。
【0027】
なお、弾性体1は圧縮状態が解放されて厚み方向及び面方向に膨張するため、面方向への膨張を妨げないように、部分的に接着する場合は、弾性体1の中央部分が断熱材5と接着していることが好ましい。
【0028】
図示されるように、弾性体1は面方向への膨張分を考慮して、断熱材5よりも一回り小さい形状になっているが、弾性体1を断熱材5と同一の形状にしてもよい。弾性体1と断熱材5とを同一の形状にした場合、弾性体1が膨張した際に断熱材5の周囲の空間にも広がり、例えば組電池に適用した場合、熱暴走を起こした電池セルに隣接する電池セルを保護することが期待される。
【0029】
図2に示すように、弾性体1は、複数の弾性体分割片1Aで構成されていてもよい。複数の弾性体分割片1Aは、図示されるように、断熱材5の面上に、ほぼ等間隔に配列されており、隣接する弾性体分割片1Aの間に空隙2を形成している。弾性体分割片1Aは、圧縮状態にあるため、90℃未満では、この空隙2が空気の流路となり、冷却効果が付与されるため、熱伝達抑制シート10の断熱性能を高める。
【0030】
一方、90℃以上になると、個々の弾性体分割片1Aが膨張して空隙2を閉塞して弾性性能を高める。また、図3に示すように、隣接する弾性体分割片1Aの端面同士が当接して山状の空隙2Aを形成する。この山状の空隙2Aが空気の流路となり、冷却効果が付与されるため、熱伝達抑制シート10の90℃以上での断熱性能を高める。
【0031】
≪第2の実施形態≫
第1の実施形態では、弾性材料にバインダ物質物質を配合して圧縮状態を維持しているが、本実施形態では、熱収縮性の包装体で圧縮状態を維持する。
【0032】
すなわち、図4に示すように、上記した弾性材料からなる弾性体1と断熱材5とを積層し、前端を熱収縮性の包装体15で包囲するとともに、包装体15に熱を加えて収縮させる。同図では包装体15を太い実線で示しているが、弾性体1と断熱材5との積層体の全体をほぼ隙間なく包囲する。また、断熱材5は殆ど形状変化はなく、弾性体1が包装体15の収縮を受けて断熱材5よりも一回り小面積となる。
【0033】
また、弾性体1は、第1の実施形態と同様に、複数の弾性体分割片1Aで構成することもでき、弾性体1と断熱材5とを一部又は全面で接着することもできる。
【0034】
包装体15は熱収縮性の樹脂からなるシートやフィルムを用いることができ、無孔であってもよく、有孔であってもよい。有孔の場合は、90℃以上で孔を起点として包装体15が破れて弾性体1が膨張しやすくなる。
【0035】
また、包装体15となる熱収縮性の樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、塩化ビニルなどが挙げられる。包装体15の厚さは、弾性体1の圧縮状態を維持できれば制限はなないが、包装体15の厚さが1mmを超えると、断熱材5の形状に追従させることが困難となり、ひびや割れが発生するおそれがある。従って、1mm以下であることが好ましく、0.1mm以下であることがより好ましく、0.05mm以下であることがさらに好ましい。一方、下限は、例えば組電池に適用した場合、電池セルとの摩擦により破れが発生しやすくなることを防止するために、0.005mm以上であることが好ましく、0.01mm以上であることがより好ましい。
【0036】
≪断熱材の材料構成≫
上記した第1の実施形態及び第2の実施形態において、弾性体1及び断熱材5の積層体には、必要に応じて他の層を含むことができる。また、断熱材5は公知の種々の材料構成とすることができるが、断熱性能から、下記に示す材料とすることが好ましい。
【0037】
[断熱材5]
断熱材5は、有機繊維と無機繊維、無機粒子を含む。それぞれの具体例を下記に示す。
【0038】
<有機繊維>
有機繊維は、断熱材5に柔軟性を与える効果を有するとともに、有機繊維が骨格を形成することにより、断熱材5の強度を高める効果を有する。また、有機繊維の表面に無機粒子及び他の有機繊維が溶着されていると、シートの強度を向上させる効果及び形状を保持する効果をより一層向上させることができる。また、断熱材5に適切な含有量で有機繊維が含まれていると、断熱材5の内部に複数の空隙部が形成され、断熱材5が加熱された際に、空気や水分を、空隙部を介して外部に放出することができる。
【0039】
断熱材5における有機繊維の材料として、単成分の有機繊維を使用することもできるが、芯鞘構造のバインダ繊維を使用することが好ましい。芯鞘構造のバインダ繊維は、繊維の長手方向に延びる芯部と、芯部の外周面を被覆するように形成された鞘部とを有するものである。この場合に、芯部は第1の有機材料からなり、鞘部は第2の有機材料からなり、第1の有機材料の融点は、第2の有機材料の融点よりも高いものとする。
【0040】
(第1の有機材料)
本実施形態において、芯鞘構造のバインダ繊維を使用する場合に、芯部を構成する第1の有機材料は、芯部の外周面に存在する鞘部、すなわち第2の有機材料の融点よりも高いものであれば、特に限定されない。第1の有機材料としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン及びナイロンから選択された少なくとも1種が挙げられる。
【0041】
(第2の有機材料)
第2の有機材料は、上記有機繊維を構成する第1の有機材料の融点よりも低いものであれば、特に限定されない。第2の有機材料としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン及びナイロンから選択された少なくとも1種が挙げられる。
なお、第2の有機材料の融点は、90℃以上であることが好ましく、100℃以上であることがより好ましい。また、第2の有機材料の融点は、150℃以下であることが好ましく、130℃以下であることがより好ましい。
【0042】
(有機繊維の含有量)
断熱材5における有機繊維の含有量が適切に制御されていると、骨格の補強効果を十分に得ることができる。
有機繊維の含有量は、断熱材5の全質量に対して5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましい。また、有機繊維の含有量が多くなりすぎると、無機粒子の含有量が相対的に減少するため、所望の断熱性能を得るためには、有機繊維の含有量は、断熱材5の全質量に対して25質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましい。
【0043】
(有機繊維の繊維長)
有機繊維の繊維長については特に限定されないが、成形性や加工性を確保する観点から、有機繊維の平均繊維長は10mm以下とすることが好ましい。
一方、有機繊維を骨格として機能させ、熱伝達抑制シートの圧縮強度を確保する観点から、有機繊維の平均繊維長は0.5mm以上とすることが好ましい。
【0044】
<無機粒子>
無機粒子として、単一の無機粒子を使用してもよいし、2種以上の無機粒子を組み合わせて使用してもよい。無機粒子の種類としては、熱伝達抑制効果の観点から、酸化物粒子、炭化物粒子、窒化物粒子及び無機水和物粒子から選択される少なくとも1種の無機材料からなる粒子を使用することが好ましく、酸化物粒子を使用することがより好ましい。また、形状についても特に限定されないが、ナノ粒子、中空粒子及び多孔質粒子から選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、具体的には、シリカナノ粒子、金属酸化物粒子、マイクロポーラス粒子や中空シリカ粒子等の無機バルーン、熱膨張性無機材料からなる粒子、含水多孔質体からなる粒子等を使用することもできる。
【0045】
無機粒子の平均二次粒子径が0.01μm以上であると、入手しやすく、製造コストの上昇を抑制することができる。また、200μm以下であると、所望の断熱効果を得ることができる。したがって、無機粒子の平均二次粒子径は、0.01μm以上200μm以下であることが好ましく、0.05μm以上100μm以下であることがより好ましい。
【0046】
なお、2種以上の熱伝達抑制効果が互いに異なる無機粒子を併用すると、発熱体を多段に冷却することができ、吸熱作用をより広い温度範囲で発現できる。具体的には、大径粒子と小径粒子とを混合使用することが好ましい。例えば、一方の無機粒子として、ナノ粒子を使用する場合に、他方の無機粒子として、金属酸化物からなる無機粒子を含むことが好ましい。以下、小径の無機粒子を第1の無機粒子、大径の無機粒子を第2の無機粒子として、無機粒子についてさらに詳細に説明する。
【0047】
<第1の無機粒子>
(酸化物粒子)
酸化物粒子は屈折率が高く、光を乱反射させる効果が強いため、第1の無機粒子として酸化物粒子を使用すると、特に異常発熱などの高温度領域において輻射伝熱を抑制することができる。酸化物粒子としては、シリカ、チタニア、ジルコニア、ジルコン、チタン酸バリウム、酸化亜鉛及びアルミナから選択された少なくとも1種の粒子を使用することができる。すなわち、無機粒子として使用することができる上記酸化物粒子のうち、1種のみを使用してもよいし、2種以上の酸化物粒子を使用してもよい。特に、シリカは断熱性が高い成分であり、チタニアは他の金属酸化物と比較して屈折率が高い成分であって、500℃以上の高温度領域において光を乱反射させ輻射熱を遮る効果が高いため、酸化物粒子としてシリカ及びチタニアを用いることが最も好ましい。
【0048】
(酸化物粒子の平均一次粒子径:0.001μm以上50μm以下)
酸化物粒子の粒子径は、輻射熱を反射する効果に影響を与えることがあるため、平均一次粒子径を所定の範囲に限定すると、より一層高い断熱性を得ることができる。
すなわち、酸化物粒子の平均一次粒子径が0.001μm以上であると、加熱に寄与する光の波長よりも十分に大きく、光を効率よく乱反射させるため、500℃以上の高温度領域において熱伝達抑制シート内における熱の輻射伝熱が抑制され、より一層断熱性を向上させることができる。
一方、酸化物粒子の平均一次粒子径が50μm以下であると、圧縮されても粒子間の接点や数が増えず、伝導伝熱のパスを形成しにくいため、特に伝導伝熱が支配的な通常温度域の断熱性への影響を小さくすることができる。
【0049】
なお、本発明において平均一次粒子径は、顕微鏡で粒子を観察し、標準スケールと比較し、任意の粒子10個の平均をとることにより求めることができる。
【0050】
(ナノ粒子)
本発明において、ナノ粒子とは、球形又は球形に近い平均一次粒子径が1μm未満のナノメートルオーダーの粒子を表す。ナノ粒子は低密度であるため伝導伝熱を抑制し、第1の無機粒子としてナノ粒子を使用すると、さらに細かい空隙部が分散するため、対流伝熱を抑制する優れた断熱性を得ることができる。このため、通常の常温域の電池使用時において、隣接するナノ粒子間の熱の伝導を抑制することができる点で、ナノ粒子を使用することが好ましい。
さらに、酸化物粒子として、平均一次粒子径が小さいナノ粒子を使用すると、電池セルの熱暴走に伴う膨張によって熱伝達抑制シートが圧縮され、内部の密度が上がった場合であっても、熱伝達抑制シートの伝導伝熱の上昇を抑制することができる。これは、ナノ粒子が静電気による反発力で粒子間に細かな空隙部ができやすく、かさ密度が低いため、クッション性があるように粒子が充填されるからであると考えられる。
【0051】
なお、第1の無機粒子としてナノ粒子を使用する場合に、上記ナノ粒子の定義に沿ったものであれば、材質について特に限定されない。例えば、シリカナノ粒子は、断熱性が高い材料であることに加えて、粒子同士の接点が小さいため、シリカナノ粒子により伝導される熱量は、粒子径が大きいシリカ粒子を使用した場合と比較して小さくなる。また、一般的に入手されるシリカナノ粒子は、かさ密度が0.1(g/cm)程度であるため、例えば、熱伝達抑制シートの両側に配置された電池セルが熱膨張し、熱伝達抑制シートに対して大きな圧縮応力が加わった場合であっても、シリカナノ粒子同士の接点の大きさ(面積)や数が著しく大きくなることはなく、断熱性を維持することができる。したがって、ナノ粒子としてはシリカナノ粒子を使用することが好ましい。シリカナノ粒子としては、湿式シリカ、乾式シリカ及びエアロゲル等が挙げられるが、本実施形態に特に好適であるシリカナノ粒子について、以下に説明する。
【0052】
一般的に、湿式シリカは粒子が凝集しているのに対し、乾式シリカは粒子を分散させることができる。90℃以下の温度範囲において、熱の伝導は伝導伝熱が支配的であるため、粒子を分散させることができる乾式シリカの方が、湿式シリカと比較して、優れた断熱性能を得ることができる。
なお、本実施形態に係る熱伝達抑制シートは、材料を含む混合物を、乾式法によりシート状に加工する製造方法を用いることが好ましい。したがって、無機粒子としては、熱伝導率が低い乾式シリカ、シリカエアロゲル等を使用することが好ましい。
【0053】
(ナノ粒子の平均一次粒子径:1nm以上100nm以下)
ナノ粒子の平均一次粒子径を所定の範囲に限定すると、より一層高い断熱性を得ることができる。
すなわち、ナノ粒子の平均一次粒子径を1nm以上100nm以下とすると、特に500℃未満の温度領域において、熱伝達抑制シート内における熱の対流伝熱及び伝導伝熱を抑制することができ、断熱性をより一層向上させることができる。また、圧縮応力が印加された場合であっても、ナノ粒子間に残った空隙部と、多くの粒子間の接点が伝導伝熱を抑制し、熱伝達抑制シートの断熱性を維持することができる。
なお、ナノ粒子の平均一次粒子径は、2nm以上であることがより好ましく、3nm以上であることが更に好ましい。一方、ナノ粒子の平均一次粒子径は、50nm以下であることがより好ましく、10nm以下であることが更に好ましい。
【0054】
(無機水和物粒子)
無機水和物粒子は、発熱体からの熱を受けて熱分解開始温度以上になると熱分解し、自身が持つ結晶水を放出して発熱体及びその周囲の温度を下げる、所謂「吸熱作用」を発現する。また、結晶水を放出した後は多孔質体となり、無数の空気孔により断熱作用を発現する。
無機水和物の具体例として、水酸化アルミニウム(Al(OH))、水酸化マグネシウム(Mg(OH))、水酸化カルシウム(Ca(OH))、水酸化亜鉛(Zn(OH))、水酸化鉄(Fe(OH))、水酸化マンガン(Mn(OH))、水酸化ジルコニウム(Zr(OH))、水酸化ガリウム(Ga(OH))等が挙げられる。
【0055】
例えば、水酸化アルミニウムは約35%の結晶水を有しており、下記式に示すように、熱分解して結晶水を放出して吸熱作用を発現する。そして、結晶水を放出した後は多孔質体であるアルミナ(Al)となり、断熱材として機能する。
2Al(OH)→Al+3H
【0056】
なお、上述のとおり、熱伝達抑制シート10は、例えば、電池セル間に介在されることが好適であるが、熱暴走を起こした電池セルでは、200℃を超える温度に急上昇し、700℃付近まで温度上昇を続ける。したがって、断熱材5に含まれる無機粒子としては、熱分解開始温度が200℃以上である無機水和物からなることが好ましい。
上記に挙げた無機水和物の熱分解開始温度は、水酸化アルミニウムは約200℃、水酸化マグネシウムは約330℃、水酸化カルシウムは約580℃、水酸化亜鉛は約200℃、水酸化鉄は約350℃、水酸化マンガンは約300℃、水酸化ジルコニウムは約300℃、水酸化ガリウムは約300℃であり、いずれも熱暴走を起こした電池セルの急激な昇温の温度範囲とほぼ重なり、温度上昇を効率よく抑えることができることから、好ましい無機水和物であるといえる。
【0057】
(無機水和物粒子の平均二次粒子径:0.01μm以上200μm以下)
また、第1の無機粒子として、無機水和物粒子を使用した場合に、その平均粒子径が大きすぎると、断熱材5の中心付近にある第1の無機粒子(無機水和物)が、その熱分解温度に達するまでにある程度の時間を要するため、断熱材5の中心付近の第1の無機粒子が熱分解しきれない場合がある。このため、無機水和物粒子の平均二次粒子径は、0.01μm以上200μm以下であることが好ましく、0.05μm以上100μm以下であることがより好ましい。
【0058】
(熱膨張性無機材料からなる粒子)
熱膨張性無機材料としては、バーミキュライト、ベントナイト、雲母、パーライト等を挙げることができる。
【0059】
(含水多孔質体からなる粒子)
含水多孔質体の具体例としては、ゼオライト、カオリナイト、モンモリロナイト、酸性白土、珪藻土、湿式シリカ、乾式シリカ、エアロゲル、マイカ、バーミキュライト等が挙げられる。
【0060】
(無機バルーン)
本発明に用いる断熱材は、第1の無機粒子として無機バルーンを含んでいてもよい。
無機バルーンが含まれると、500℃未満の温度領域において、断熱材内における熱の対流伝熱又は伝導伝熱を抑制することができ、断熱材の断熱性をより一層向上させることができる。
無機バルーンとしては、シラスバルーン、シリカバルーン、フライアッシュバルーン、バーライトバルーン、及びガラスバルーンから選択された少なくとも1種を用いることができる。
【0061】
(無機バルーンの含有量:断熱材全質量に対して60質量%以下)
無機バルーンの含有量としては、断熱材全質量に対し、60質量%以下が好ましい。
【0062】
(無機バルーンの平均粒子径:1μm以上100μm以下)
無機バルーンの平均粒子径としては、1μm以上100μm以下が好ましい。
【0063】
<第2の無機粒子>
熱伝達抑制シート10に2種の無機粒子が含有されている場合に、第2の無機粒子は、第1の無機粒子と材質や粒子径等が異なっていれば特に限定されない。第2の無機粒子としては、酸化物粒子、炭化物粒子、窒化物粒子、無機水和物粒子、シリカナノ粒子、金属酸化物粒子、マイクロポーラス粒子や中空シリカ粒子等の無機バルーン、熱膨張性無機材料からなる粒子、含水多孔質体からなる粒子等を使用することができ、これらの詳細については、上述のとおりである。
【0064】
なお、ナノ粒子は伝導伝熱が極めて小さいとともに、熱伝達抑制シートに圧縮応力が加わった場合であっても、優れた断熱性を維持することができる。また、チタニア等の金属酸化物粒子は、輻射熱を遮る効果が高い。さらに、大径の無機粒子と小径の無機粒子とを使用すると、大径の無機粒子同士の隙間に小径の無機粒子が入り込むことにより、より緻密な構造となり、熱伝達抑制効果を向上させることができる。したがって、上記第1の無機粒子として、例えばナノ粒子を使用した場合に、さらに、第2の無機粒子として、第1の無機粒子よりも大径である金属酸化物からなる粒子を、熱伝達抑制シートに含有させることが好ましい。
金属酸化物としては、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化アルミニウム、チタン酸バリウム、酸化亜鉛、ジルコン、酸化ジルコニウム等を挙げることがでる。特に、酸化チタン(チタニア)は他の金属酸化物と比較して屈折率が高い成分であり、500℃以上の高温度領域において光を乱反射させ輻射熱を遮る効果が高いため、チタニアを用いることが最も好ましい。
【0065】
第1の無機粒子として、乾式シリカ粒子及びシリカエアロゲルから選択された少なくとも1種の粒子を使用し、第2の無機粒子として、チタニア、ジルコン、ジルコニア、炭化ケイ素、酸化亜鉛及びアルミナから選択された少なくとも1種の粒子を使用する場合に、90℃以下の温度範囲内において、優れた断熱性能を得るためには、第1の無機粒子は、無機粒子全質量に対して、50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることがさらに好ましい。また、第1の無機粒子は、無機粒子全質量に対して、95質量%以下であることが好ましく、90質量%以下であることがより好ましく、80質量%以下であることがさらに好ましい。
【0066】
一方、90℃を超える温度範囲内において、優れた断熱性能を得るためには、第2の無機粒子は、無機粒子全質量に対して、5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、20質量%以上であることがさらに好ましい。また、第2の無機粒子は、無機粒子全質量に対して、50質量%以下であることが好ましく、40質量%以下であることがより好ましく、30質量%以下であることがさらに好ましい。
【0067】
(第2の無機粒子の平均一次粒子径)
金属酸化物からなる第2の無機粒子を熱伝達抑制シートに含有させる場合に、第2の無機粒子の平均一次粒子径は、1μm以上50μm以下であると、500℃以上の高温度領域で効率よく輻射伝熱を抑制することができる。第2の無機粒子の平均一次粒子径は、5μm以上30μm以下であることが更に好ましく、10μm以下であることが最も好ましい。
【0068】
(無機粒子の含有量)
本実施形態において、断熱材5中の無機粒子の合計の含有量が適切に制御されていると、断熱材5の断熱性を十分に確保することができる。
無機粒子の合計の含有量は、断熱材5の全質量に対して60質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましい。また、無機粒子の合計の含有量が多くなりすぎると、有機繊維の含有量が相対的に減少するため、骨格の補強効果及び無機粒子の保持効果を十分に得るためには、無機粒子の合計の含有量は、断熱材5の全質量に対して95質量%以下であることが好ましく、90質量%以下であることがより好ましい。
【0069】
なお、断熱材5中の無機粒子の含有量は、例えば、断熱材5を800℃で加熱し、有機分を分解後、残部の質量を測定することにより、算出することができる。
【0070】
断熱材5には、上記有機繊維及び無機粒子の他に、上記第1の有機材料とは異なる有機材料により構成された有機繊維や、無機繊維等が含まれていてもよい。断熱材5が無機繊維を含む場合に、本実施形態において含有されることが好ましい無機繊維について、以下に説明する。
【0071】
<無機繊維>
無機繊維として、単一の無機繊維を使用してもよいし、2種以上の無機繊維を組み合わせて使用してもよい。無機繊維としては、例えば、シリカ繊維、アルミナ繊維、アルミナシリケート繊維、ジルコニア繊維、カーボンファイバ、ソルブルファイバ、リフラクトリーセラミック繊維、エアロゲル複合材、マグネシウムシリケート繊維、アルカリアースシリケート繊維、チタン酸カリウム繊維、炭化ケイ素繊維、チタン酸カリウムウィスカ繊維等のセラミックス系繊維、ガラス繊維、グラスウール、スラグウール等のガラス系繊維、ロックウール、バサルトファイバ、ウォラストナイト、ムライト繊維等の鉱物系繊維等が挙げられる。
これらの無機繊維は、耐熱性、強度、入手容易性などの点で好ましい。無機繊維のうち、取り扱い性の観点から、特にシリカ-アルミナ繊維、アルミナ繊維、シリカ繊維、ロックウール、アルカリアースシリケート繊維、ガラス繊維が好ましい。
【0072】
無機繊維の断面形状は、特に限定されず、円形断面、平断面、中空断面、多角断面、芯断面などが挙げられる。中でも、中空断面、平断面又は多角断面を有する異形断面繊維は、断熱性が若干向上されるため好適に使用することができる。
【0073】
無機繊維の平均繊維長の好ましい下限は0.1mmであり、より好ましい下限は0.5mmである。一方、無機繊維の平均繊維長の好ましい上限は50mmであり、より好ましい上限は10mmである。無機繊維の平均繊維長が0.1mm未満であると、無機繊維同士の絡み合いが生じにくく、断熱材5の機械的強度が低下するおそれがある。一方、50mmを超えると、補強効果は得られるものの、無機繊維同士が緊密に絡み合うことができなったり、単一の無機繊維だけで丸まったりし、それにより断熱性の低下を招くおそれがある。
【0074】
無機繊維の平均繊維径の好ましい下限は1μmであり、より好ましい下限は2μmであり、更に好ましい下限は3μmである。一方、無機繊維の平均繊維径の好ましい上限は15μmであり、より好ましい上限は10μmである。無機繊維の平均繊維径が1μm未満であると、無機繊維自体の機械的強度が低下するおそれがある。また、人体の健康に対する影響の観点より、無機繊維の平均繊維径が3μm以上であることが好ましい。一方、無機繊維の平均繊維径が15μmより大きいと、無機繊維を媒体とする固体伝熱が増加して断熱性の低下を招くおそれがあり、また、熱伝達抑制シートの成形性及び強度が悪化するおそれがある。
【0075】
(無機繊維の含有量)
本実施形態において、断熱材5が無機繊維を含む場合に、無機繊維の含有量は、断熱材5の全質量に対して3質量%以上15質量%以下であることが好ましい。
【0076】
また、無機繊維の含有量は、断熱材5の全質量に対して、5質量%以上10質量%以下であることがより好ましい。このような含有量にすることにより、無機繊維による保形性や押圧力耐性、抗風圧性や、無機粒子の保持能力がバランスよく発現される。また、無機繊維の含有量を適切に制御することにより、有機繊維及び無機繊維が互いに絡み合って3次元ネットワークを形成するため、無機粒子、及び後述する他の配合材料を保持する効果をより一層向上させることができる。
【0077】
<他の配合材料>
(ホットメルトパウダー)
熱伝達抑制シート10には、上記バインダ繊維、無機粒子の他に、混合物中にホットメルトパウダーを含有させてもよい。ホットメルトパウダーは、例えば上記第1の有機材料及び第2の有機材料とは異なる第3の有機材料を含有し、加熱により溶融する性質を有する粉体である。混合物中にホットメルトパウダーを含有させ、加熱することにより、ホットメルトパウダーは溶融し、その後冷却すると、周囲の無機粒子を含んだ状態で硬化する。したがって、断熱材5の無機粒子の脱落をより一層抑制することができる。
【0078】
ホットメルトパウダーとしては、種々の融点を有するものが挙げられるが、使用するバインダ繊維の芯部及び鞘部の融点を考慮して、適切な融点を有するホットメルトパウダーを選択すればよい。具体的に、ホットメルトパウダーを構成する成分である第3の有機材料は、上記有機繊維を構成する第1の有機材料の融点よりも低いものであれば、芯部を残して、鞘部及びホットメルトパウダーを溶融させるための加熱温度を設定することができる。例えば、ホットメルトパウダーの融点が、鞘部の融点以下であると、製造時の加熱温度は、芯部の融点と鞘部の融点との間で設定すればよいため、より一層容易に加熱温度を設定することができる。
【0079】
一方、ホットメルトパウダーの融点が、芯部の融点と鞘部の融点との間となるように、使用するホットメルトパウダーの種類を選択することもできる。このような融点を有するホットメルトパウダーを使用すると、鞘部及びホットメルトパウダーがともに溶融した後、冷却されて硬化する際に、先に有機繊維(芯部)とその周囲の溶融した鞘部、及び無機粒子の隙間に存在するホットメルトパウダーが硬化する。その結果、有機繊維の位置を固定することができ、その後、溶融していた鞘部が有機繊維に溶着することにより、立体的な骨格が形成されやすくなる。したがって、シート全体の強度をより一層向上させることができる。
【0080】
ホットメルトパウダーを構成する第3の有機材料の融点が、芯部を構成する第1の有機材料の融点よりも十分に低いと、加熱する工程における加熱温度の設定裕度を広げることができ、より一層所望の構造を得るための温度設定を容易にすることができる。例えば、第1の有機材料の融点は、第3の有機材料の融点よりも60℃以上高いことが好ましく、70℃以上高いことがより好ましく、80℃以上高いことがさらに好ましい。
【0081】
なお、ホットメルトパウダー(第3の有機材料)の融点は、80℃以上であることが好ましく、90℃以上であることがより好ましい。また、ホットメルトパウダー(第3の有機材料)の融点は、180℃以下であることが好ましく、150℃以下であることがより好ましい。ホットメルトパウダーを構成する成分としては、ポリエチレン、ポリエステル、ポリアミド、エチレン酢酸ビニル等が挙げられる。
【0082】
(ホットメルトパウダーの含有量)
無機粒子の脱落を抑制するために、断熱材5の材料中にホットメルトパウダーを含有させる場合に、その含有量は微量でも粉落ち抑制の効果を得ることができる。したがって、ホットメルトパウダーの含有量は、断熱材の材料全質量に対して0.5質量%以上であることが好ましく、1質量%以上であることがより好ましい。
一方、ホットメルトパウダーの含有量を増加させると、無機粒子等の含有量が相対的に減少するため、所望の断熱性能を得るためには、ホットメルトパウダーの含有量は、断熱材の材料全質量に対して5質量%以下であることが好ましく、4質量%以下であることがより好ましい。
【0083】
断熱材5の材料としてホットメルトパウダーを含む場合に、加熱する工程における加熱温度は、鞘部を構成する第2の有機材料の融点、及びホットメルトパウダーを構成する第3の有機材料の融点のいずれか高い方よりも10℃以上高く設定することが好ましく、20℃以上高く設定することがより好ましい。一方、加熱温度は、芯部を構成する第1の有機材料の融点よりも10℃以上低く設定することが好ましく、20℃以上低く設定することがより好ましい。このような加熱温度に設定することにより、強固な骨格を形成することができ、シートの強度をより一層向上させることができるとともに、無機粒子の脱落を防止することができる。
【0084】
なお、断熱材5は、さらに、必要に応じて、他の結合材、着色剤等を含有させることができる。これらはいずれも断熱材5の補強や成形性の向上等を目的とする上で有用であり、断熱材5の全質量に対して合計量で、10質量%以下とすることが好ましい。
【0085】
2.組電池
続いて、組電池について詳細に説明する。
【0086】
本発明の組電池は、上記の熱伝達抑制シート10を有する。すなわち、図5に示すように、組電池100は、複数の電池セル20a、20b、20cと、上記の熱伝達抑制シート10とを有し、各電池セル20a、20b、20cが直列又は並列に接続されたものである。そして、熱伝達抑制シート10は、電池セル20aと電池セル20bとの間、及び電池セル20bと電池セル20cとの間に介在されている。また、電池セル20a、20b、20c及び熱伝達抑制シート10は、電池ケース30に収容されている。
【0087】
このように構成された組電池100においては、90℃未満では、電池セル20a、20b、20cの充放電に伴なう膨張が弾性体1により吸収される。一方、90℃以上になると、弾性体1が膨張し、熱暴走を起こした電池セルと、それに隣接する電池セルとの間隔を広くして保護する。また、断熱材5により、隣接する電池セルへの熱の伝播を抑制することができる。
【0088】
なお、組電池100は、図5に例示した組電池100に限定されない。例えば、熱伝達抑制シート10は、電池セル20aと電池セル20bとの間、及び電池セル20bと電池セル20cとの間のみでなく、電池セル20a、20b、20cと電池ケース30との間に配置されたり、電池ケース30の内面に貼り付けられるものであってもよい。
【0089】
このように構成された組電池100においては、ある電池セルが発火した場合に、電池ケース30の外側に炎が広がることを抑制することができる。
例えば、本実施形態に係る組電池100は、電気自動車(EV:Electric Vehicle)等に使用され、搭乗者の床下に配置されることがある。この場合に、仮に電池セルが発火しても、搭乗者の安全を確保することができる。
また、熱伝達抑制シート10を、各電池セル間に介在させるだけでなく、電池セル20a、20b、20cと電池ケース30との間に配置することができるため、新たに防炎材等を作製する必要がなく、容易に低コストで安全な組電池100を構成することができる。
【符号の説明】
【0090】
1 弾性体
1A 弾性体分割片
2,2A 空隙
5 断熱材
10 熱伝達抑制シート
15 包装体
20a,20b,20c 電池セル
30 電池ケース
100 組電池
図1
図2
図3
図4
図5
【手続補正書】
【提出日】2024-02-09
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
90℃未満で圧縮状態であり、かつ、90℃以上で圧縮状態から解放される弾性体を有し、
前記弾性体と、断熱材とが積層され、熱収縮性の包囲体により圧縮状態が維持されている、熱伝達抑制シート。
【請求項2】
前記弾性体と前記断熱材とが、少なくとも一部分で接着していることを特徴とする、請求項に記載の熱伝達抑制シート。
【請求項3】
前記弾性体が複数の弾性体分割片で構成されており、前記弾性体分割片が前記断熱材の面上に点在していることを特徴とする、請求項に記載の熱伝達抑制シート。
【請求項4】
圧縮状態から解放された際に、隣接する前記弾性体分割片の周端面同士が当接し合い、前記弾性体分割片間の隙間を埋めるか、もしくは山状の空隙を形成することを特徴とする、請求項に記載の熱伝達抑制シート。
【請求項5】
90℃未満で圧縮状態であり、かつ、90℃以上で圧縮状態から解放される弾性体を有し、
前記弾性体が、配合バインダ物質により圧縮状態が維持されており、
前記弾性体と、断熱材とを積層し、
前記弾性体が複数の弾性体分割片で構成されており、前記弾性体分割片が前記断熱材の面上に点在している、熱伝達抑制シート。
【請求項6】
前記弾性体と前記断熱材とが、少なくとも一部分で接着していることを特徴とする、請求項に記載の熱伝達抑制シート。
【請求項7】
圧縮状態から解放された際に、隣接する前記弾性体分割片の周端面同士が当接し合い、前記弾性体分割片間の隙間を埋めるか、もしくは山状の空隙を形成することを特徴とする、請求項5に記載の熱伝達抑制シート。
【請求項8】
複数の電池セルと、請求項1~7のいずれか1項に記載の熱伝達抑制シートを有し、前記複数の電池セルが直列又は並列に接続された、組電池。