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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024070518
(43)【公開日】2024-05-23
(54)【発明の名称】ドア閉まり速度の予測方法
(51)【国際特許分類】
   G01M 17/007 20060101AFI20240516BHJP
   B60J 5/00 20060101ALI20240516BHJP
【FI】
G01M17/007 Z
B60J5/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022181058
(22)【出願日】2022-11-11
(71)【出願人】
【識別番号】000123549
【氏名又は名称】化成工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002033
【氏名又は名称】弁理士法人東名国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】神谷 拓
(57)【要約】
【課題】実車テストを実施することなく、評価対象のドアシール材のドア閉まり速度を予測可能なドア閉まり速度の予測方法の提供を課題とする。
【解決手段】ドア閉まり速度の予測方法1は、実車を利用し、ドア閉め操作に係る実車データを測定する実車測定工程S1と、測定された実車データを解析し、ドア閉まり速度-エネルギー近似式を算出する実車データ解析工程S2と、評価対象のドアシール材の荷重特性に係る荷重測定データを測定するドアシール材荷重測定工程S3と、測定された荷重測定データを解析し、ドアの一枚当たりのドアシール材損失エネルギー近似式を算出する荷重測定データ解析工程S4と、算出されたドアシール材損失エネルギーを、予め解析されたドア閉まり速度-エネルギー近似式に代入し、ドアシール材をドアに装着した場合のドア閉まり速度を予測し、算出するドア閉まり速度予測算出工程S5とを具備する。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
評価対象のドアシール材が装着されたドアを閉めるために加えた力と、前記ドアが閉まるために必要なドア操作エネルギーとが釣り合うドア閉まり速度を予測するためのドア閉まり速度の予測方法であって、
基本ドアシール材の装着された前記ドアを有する実車を利用し、前記ドアに測定機器を取り付けて、前記ドアのドア閉め操作に係る前記ドア操作エネルギー及び前記ドアの加速度変化を含む実車データを事前に測定する実車測定工程と、
測定された前記実車データを解析し、前記ドア閉まり速度と、ドア閉め損失エネルギー、入力エネルギー、基本ドアシール材損失エネルギー、及び、その他損失エネルギーとのそれぞれの関係から、ドア閉まり速度-エネルギー近似式を算出する実車データ解析工程と、
前記ドアシール材を荷重試験機にセットし、前記ドアシール材の荷重特性に係る荷重測定データを測定するドアシール材荷重測定工程と、
測定された前記荷重測定データを解析し、前記ドアの一枚当たりのドアシール材損失エネルギー近似式を算出する荷重測定データ解析工程と、
算出された前記ドアシール材損失エネルギー近似式を、予め解析された前記ドア閉まり速度-エネルギー近似式に代入し、前記ドアシール材を前記ドアに装着した場合の前記ドア閉まり速度を予測し、算出するドア閉まり速度予測算出工程と
を具備するドア閉まり速度の予測方法。
【請求項2】
前記実車測定工程は、
前記ドアからラッチを取り外し、前記実車をジャッキアップし、かつ、前記ドア閉め操作を行う以外のその他ドアを開け放した状態の第一測定条件と、
前記第一測定条件に加え、前記基本ドアシール材を前記ドアから取り外した状態の第二測定条件と、
前記ドアに前記ラッチを取り付け、前記ジャッキアップを解除し、前記その他ドアを全て閉じ、かつ、前記ドアに前記基本ドアシール材が装着された状態の第三測定条件と
のそれぞれの測定条件で前記ドア閉め操作にかかる前記実車データを測定する請求項1に記載のドア閉まり速度の予測方法。
【請求項3】
前記実車データ解析工程は、
測定された前記実車データに基づいて、ドア速度-ドア変位曲線を算出するドア速度-ドア変位曲線算出工程と、
算出された前記ドア速度-ドア変位曲線及び前記ドア閉め操作における反力に基づいて、前記ドア操作エネルギーを算出するドア操作エネルギー算出工程と、
前記第一測定条件により測定された前記実車データに基づいて、前記ドアの慣性質量を算出する慣性質量算出工程と、
算出された前記慣性質量に基づいて、ドア変位-ドア操作エネルギー曲線を算出するドア変位-ドア操作エネルギー曲線算出工程と、
作成された前記ドア変位-ドア操作エネルギー曲線に基づいて、前記ドア閉め損失エネルギーを算出するドア閉め損失エネルギー算出工程と、
前記第一測定条件及び前記第二測定条件により測定された前記実車データに基づいて、同一速度における前記ドア閉め損失エネルギーの差分に相当する前記基本ドアシール材損失エネルギーを算出する基本ドアシール材損失エネルギー算出工程と
を更に備える請求項2に記載のドア閉まり速度の予測方法。
【請求項4】
前記荷重試験機は、
前記ドアのそれぞれのセクションの形状に合わせて形成された荷重治具と、
前記荷重治具に相対して設けられた荷重測定部と、
前記荷重治具を所定の荷重試験速度で水平方向に沿って摺動させ、前記荷重測定部に向けて押し出し可能な摺動部と
を有する請求項1に記載のドア閉まり速度の予測方法。
【請求項5】
前記荷重測定データ解析工程は、
前記ドアシール材の当接開始からドア閉まり位置までの反力を合算し、ドアシール材損失エネルギーを算出するドアシール材損失エネルギー算出工程と、
算出された前記ドアシール材損失エネルギーとドア閉まり速度との関係からドア閉まり速度-ドアシール材損失エネルギー近似式を算出するドア閉まり速度-ドアシール材損失エネルギー近似式算出工程と、
算出された前記ドア閉まり速度-ドアシール材損失エネルギー近似式を前記ドアの寸法を反映させ、前記ドアの一枚当たりの前記ドアシール材損失エネルギー近似式を算出するドアシール材損失エネルギー近似式算出工程と
を更に備える請求項1に記載のドア閉まり速度の予測方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドア閉まり速度の予測方法に関する。更に詳しくは、仕様の変更等により、既存のドアシール材の形状や材質等を変更した際におけるドア閉まり速度を、実車テストを実施することなく、ドアシール材のベンチ評価で予測可能なドア閉まり速度の予測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、主に車両用として用いられるドアシール材(車両用ドアシール材)は、可動部材としてのドア及び/または固定部材としての車両本体の車両開口部の周縁に沿って装着されている(例えば、特許文献1参照)。ドアを車両開口部に向かって近接させるドアの閉操作を行うことにより、ドア及び車両本体の間に取設されたドアシール材が両者によって挟まれた状態で弾性変形することができる。
【0003】
その結果、ドアシール材の弾性復元力(或いは弾性反発力)によって、当該ドアシール材がドアまたは車両本体に強く押し付けられることで、ドア及び車両本体の間の隙間を防ぎ、雨水の浸入等を遮断することができる。これにより、水の浸入、或いは水以外の塵や埃等の小さな夾雑物、アリ等の小さな昆虫等が車両内部へ侵入することを防いだり、車両外部の騒音や風等が侵入することを防いだりすることができる。更に走行時の風切り音等の車内への侵入を防ぎ、車内の遮音状態を保つことができるなど、ドアシール材によって運転中等のドライバーや同乗者を不快にさせることがなく、常に快適な車内空間を保つことが可能となる。
【0004】
ドアシール材の基本的な構成は、例えば、ドアや車両本体等(図示しない)に周知の固定手段(例えば、クリップ等)を介して固定されるシール基部と、当該シール基部と一体的に成形され、ドアを閉じた際にその一部が押し潰されて変形する中空構造のシール部と、シール部と一体的に成形され、シール部の外面から外方向に向かって突出した板状若しくは舌状のリップ部とを主に具備している。
【0005】
上記ドアシール材は、弾性変形可能なゴム材料を主原料として形成され、所定の温度に加熱して粘度を調整した溶融性の主原料を押出成形技術や型成形技術(射出成形技術)等の周知の樹脂成形技術を用いて所望の形状に成形することができる。なお、ドアシール材は、ドア等の周縁に沿って取設されるため、一般的に長尺状の形状を呈している。そのため、主として、押出成形技術によって形成されることが多い。また、主原料として使用される弾性変形可能なゴム材料等の樹脂材料としては、例えば、エチレン・プロピレン・ジエンゴム(EPDM)、或いはその他の熱可塑性エラストマー等が主に用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2016-78720号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記に示した通り、ドアシール材をドア等に装着することは多くの利点を備えている。しかしながら、ドアを閉じる操作(以下、「ドア操作」と称す。)を行った場合のドア閉まり性に大きな影響を及ぼすことが知られている。すなわち、ドアシール材の中空部やリップ部の形状、或いはドアシール材を構成するゴム材料等の性状によって弾性反発力などに大きな違いが生じることがある。そのため、ドアシール材の仕様変更によって形状や使用するゴム材料等が異なるものとなった場合、従前のドアシール材と同じ力でドア操作を行っても当該ドアが完全に閉まらない状態となったり(所謂「半ドア」の状態)、或いは従前よりもドア操作のために多くの力が必要となったりする可能性があった。そのため、ドア操作性に違和感を覚え、乗車時や降車時において運転者等の快適性を損なう可能性があった。
【0008】
ここで、本明細書において、ドア操作においてドアに加えた力と、当該ドアが閉まるために必要なエネルギーが釣り合った点を「ドア閉まり速度」と定義する。更に、ドア閉まり速度を正確に算出するために、実車のドアに加速度計や位置センサ等の各種計測機器を取り付け、実際に種々の測定条件でドア操作を実施するテスト(実車テスト)が繰り返し行われている。その結果、上記ドア閉まり速度を正確に算出することができる。このような、実車テストは、仕様変更等によりドアに装着するドアシール材を変更した場合においてもその都度実施がなされていた。
【0009】
しかしながら、このような実車テストは、比較的大掛かりな検査設備等を必要とし、更に実車テストに要する期間が長くなり、ドア閉まり速度の算出に時間がかかることや、実車テストのための測定コストが嵩むといった問題を生じることがあった。そのため、試験室レベルでのドアシール材の試験(ベンチ評価、或いはラボ評価)によって、より簡易的にドア閉まり速度を予測し、ドア閉まり性の評価を行うことが期待されていた。
【0010】
そこで、本発明は上記実情に鑑み、評価対象となるドアシール材による実車テストを実施することなく、ベンチ評価でのドア閉まり速度を予測可能なドア閉まり速度の予測方法の提供を課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記の課題を解決すべく、鋭意研究を重ねた結果、事前に実車を用いて実施した実車テストの測定結果を解析し、更に試験室において実施した評価対象となるドアシール材の荷重測定の結果及びその結果を組み合わせることにより、実車テストを実施することなくドア閉まり速度を精度良く予測可能なことを見出し、下記に示す本発明を完成するに至ったものである。
【0012】
[1] 評価対象のドアシール材が装着されたドアを閉めるために加えた力と、前記ドアが閉まるために必要なドア操作エネルギーとが釣り合うドア閉まり速度を予測するためのドア閉まり速度の予測方法であって、基本ドアシール材の装着された前記ドアを有する実車を利用し、前記ドアに測定機器を取り付けて、前記ドアのドア閉め操作に係る前記ドア操作エネルギー及び前記ドアの加速度変化を含む実車データを事前に測定する実車測定工程と、測定された前記実車データを解析し、前記ドア閉まり速度と、ドア閉め損失エネルギー、入力エネルギー、基本ドアシール材損失エネルギー、及び、その他損失エネルギーとのそれぞれの関係から、ドア閉まり速度-エネルギー近似式を算出する実車データ解析工程と、前記ドアシール材を荷重試験機にセットし、前記ドアシール材の荷重特性に係る荷重測定データを測定するドアシール材荷重測定工程と、測定された前記荷重測定データを解析し、前記ドアの一枚当たりのドアシール材損失エネルギー近似式を算出する荷重測定データ解析工程と、算出された前記ドアシール材損失エネルギー近似式を、予め解析された前記ドア閉まり速度-エネルギー近似式に代入し、前記ドアシール材を前記ドアに装着した場合の前記ドア閉まり速度を予測し、算出するドア閉まり速度予測算出工程とを具備するドア閉まり速度の予測方法。
【0013】
[2] 前記実車測定工程は、前記ドアからラッチを取り外し、前記実車をジャッキアップし、かつ、前記ドア閉め操作を行う以外のその他ドアを開け放した状態の第一測定条件と、前記第一測定条件に加え、前記基本ドアシール材を前記ドアから取り外した状態の第二測定条件と、前記ドアに前記ラッチを取り付け、前記ジャッキアップを解除し、前記その他ドアを全て閉じ、かつ、前記ドアに前記基本ドアシール材が装着された状態の第三測定条件とのそれぞれの測定条件で前記ドア閉め操作にかかる前記実車データを測定する前記[1]に記載のドア閉まり速度の予測方法。
【0014】
[3] 前記実車データ解析工程は、測定された前記実車データに基づいて、ドア速度-ドア変位曲線を算出するドア速度-ドア変位曲線算出工程と、算出された前記ドア速度-ドア変位曲線及び前記ドア閉め操作における反力に基づいて、前記ドア操作エネルギーを算出するドア操作エネルギー算出工程と、前記第一測定条件により測定された前記実車データに基づいて、前記ドアの慣性質量を算出する慣性質量算出工程と、算出された前記慣性質量に基づいて、ドア変位-ドア操作エネルギー曲線を算出するドア変位-ドア操作エネルギー曲線算出工程と、作成された前記ドア変位-ドア操作エネルギー曲線に基づいて、前記ドア閉め損失エネルギーを算出するドア閉め損失エネルギー算出工程と、前記第一測定条件及び前記第二測定条件により測定された前記実車データに基づいて、同一速度における前記ドア閉め損失エネルギーの差分に相当する前記基本ドアシール材損失エネルギーを算出する基本ドアシール材損失エネルギー算出工程とを更に備える前記[2]に記載のドア閉まり速度の予測方法。
【0015】
[4] 前記荷重試験機は、前記ドアのそれぞれのセクションの形状に合わせて形成された荷重治具と、前記荷重治具に相対して設けられた荷重測定部と、前記荷重治具を所定の荷重試験速度で水平方向に沿って摺動させ、前記荷重測定部に向けて押し出し可能な摺動部とを有する前記[1]に記載のドア閉まり速度の予測方法。
【0016】
[5] 前記荷重測定データ解析工程は、前記ドアシール材の当接開始からドア閉まり位置までの反力を合算し、ドアシール材損失エネルギーを算出するドアシール材損失エネルギー算出工程と、算出された前記ドアシール材損失エネルギーとドア閉まり速度との関係からドア閉まり速度-ドアシール材損失エネルギー近似式を算出するドア閉まり速度-ドアシール材損失エネルギー近似式算出工程と、算出された前記ドア閉まり速度-ドアシール材損失エネルギー近似式を前記ドアの寸法を反映させ、前記ドアの一枚当たりの前記ドアシール材損失エネルギー近似式を算出するドアシール材損失エネルギー近似式算出工程とを更に備える前記[1]に記載のドア閉まり速度の予測方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明のドア閉まり速度の予測方法は、実車テストを実施することなく、ベンチ評価でのドア閉まり速度を予測することが可能となり、大掛かりな実車テストを実施するためのコストや評価結果を得るまでの期間を大幅に削減することができ、ドアシール材の仕様変更の決定から実車製造の際の切り換えを効率的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本実施形態のドア閉まり速度の予測方法におけるそれぞれの工程の流れの一例を示すフローチャートである。
図2】実車測定工程における車両及びドアへの各種測定機器の取り付けの一例を模式的に示す説明図である。
図3】ドアシール材荷重測定工程に用いられる荷重試験機の概略構成を模式的に示す説明図である。
図4】ドア速度-ドア操作エネルギー近似式の一例を示す説明図である。
図5】(a)時間-加速度曲線及び時間-通過検知(電圧)曲線、(b)ドア変位-ドア速度曲線、(c)基準位置変換後のドア変位-ドア速度曲線のそれぞれの一例を示す説明図である。
図6】ドア変位-ドア操作エネルギー曲線の一例を示す説明図である。
図7】基本ドアシール材の装着有無によるドア変位-ドア操作エネルギー曲線の対比、及び基本ドアシール材損失エネルギーの一例を示す説明図である。
図8】ドア閉まり速度-エネルギー近似式の一例を示す説明図である。
図9】荷重試験速度の違いによるドア閉位置における荷重を示す説明図である。
図10】ドア一枚当たりのドアシール材損失エネルギー近似式を算出するためのドアの領域の一例を示す説明図である。
図11】実車データ解析工程及び荷重測定データ解析工程による解析結果に基づく、ドア閉まり速度を予測算出の一例を示す説明図である。
図12図11におけるそれぞれの予測式をグラフ化して示すための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明のドア閉まり速度の予測方法の実施の形態について説明する。なお、本発明のドア閉まり速度の予測方法は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない限りにおいて、種々の変更、修正、及び改良等を加え得るものである。
【0020】
1.ドア閉まり速度の予測方法
本発明の一実施形態のドア閉まり速度の予測方法1(以下、単に「予測方法1」と称す。)は、図1図12に示されるように、仕様変更等によって、車両2のドア3に装着される予定のドアシール材4のドア閉まり性を評価するものであり、特に、ドアシール材4の装着されたドア3を閉めるために加えた力と、当該ドア3が閉まるために必要なドア閉め操作に係るドア操作エネルギーEとが釣り合うドア閉まり速度Vを、実車のドア3に装着し実車テストを実施することなく、試験室(または実験室)での試験による評価(ベンチ評価、ラボ評価)で予測し算出するためのものである。
【0021】
更に具体的に説明すると、本実施形態の予測方法1は、図1に示すように、複数の工程を具備して構成されており、実車測定工程S1と、実車データ解析工程S2と、ドアシール材荷重測定工程S3と、荷重測定データ解析工程S4と、ドア閉まり速度予測算出工程S5とを主に具備している。ここで、実車測定工程S1及び実車データ解析工程S2は、ドア閉まり速度Vの予測算出にかかる工程を実施する前に事前に実車及びそのドア3を利用して実施されており、その解析結果がデータベース等に記憶されている。すなわち、本実施形態の予測方法1は、実車測定工程S1及び実車データ解析工程S2と、ドアシール材荷重測定工程S3、荷重測定データ解析工程S4、及びドア閉まり速度予測算出工程S5とはそれぞれ異なるタイミングで実施される。
【0022】
実車データ解析工程S2は、更に複数の工程に細分化して構成されており、ドア速度-ドア変位曲線算出工程S2aと、ドア操作エネルギー算出工程S2bと、慣性質量算出工程S2cと、ドア変位-ドア操作エネルギー曲線算出工程S2dと、ドア閉め損失エネルギー算出工程S2eと、基本ドアシール材損失エネルギー算出工程S2fと、ドア閉まり速度-エネルギー近似式算出工程S2gとを備えて構成されている。
【0023】
一方、荷重測定データ解析工程S4も同様に、更に複数の工程に細分化して構成されており、ドアシール材損失エネルギー算出工程S4aと、ドア閉まり速度-ドアシール材損失エネルギー近似式算出工程S4bと、ドアシール材損失エネルギー近似式算出工程S4cとを更に備えて構成されている。以下、各工程の詳細についてそれぞれ説明を行うものとする。
【0024】
2.実車測定工程S1
実車測定工程S1は、図2に示すように、最終的にドア閉まり速度Vを予測算出する前段階の工程として予め実施されるものであり、車両2(実車)を使用し、当該車両2のドア3または車体側に各種測定機器(詳細は後述する)を取り付け、ドア閉め操作にかかるドア操作エネルギーE等の種々の実車データ5を測定し取得するためのものである。
【0025】
更に具体的に説明すると、本実施形態の予測方法1において、実車測定工程S1は、図2に示すように、測定機器として測定対象となるドア3にドア操作エネルギーEを計測するためのドアエネルギー計6(EZ Energy:東洋テクニカ株式会社製)と、ドア閉め操作におけるドア3にかかる速度変化(または加速度変化)を検出するための加速度計7(AMA-A-2:株式会社共和電業製)とがそれぞれ取り付けられ、更に車体側に、所定位置におけるドア3の通過を検知するための通過検知センサ8(FU-67:株式会社キーエンス製)が取り付けられている。
【0026】
ここで、ドアエネルギー計6は、既に周知のものであり、市販されているものを用いることができる。これにより、ドア3を閉めるドア閉め操作における反力、エネルギー等の各種データの測定等が可能なものである。なお、かかるドアエネルギー計6の代替として、従来から周知の荷重測定に用いられるロードセルを使用することができる。ロードセルに加わる荷重を電気信号に変換し、これに基づいてドア操作エネルギーEを求めることができる。
【0027】
更に、前述したドアエネルギー計6、加速度計7、及び通過検知センサ8は、実車データ5の測定開始からの時間経過をそれぞれ計測可能なデータロガー9a(GL980-UM-101:グラフテック株式会社製)と電気的に接続されており、これらの測定機器によって測定された各種データは、信号制御され、接続されたPC端末等に送出され、データロガー9aによる時間経過の情報と合わせて、それぞれ測定タイミングを同期して各種記憶媒体やネットワーク上の記憶領域に実車データ5として記憶することができる(図2参照)。
【0028】
ここで、実車測定工程S1は、以下に掲げる複数の測定条件に従ってそれぞれの実車テストが実施されている。すなわち、ドア3をドア閉まり状態に保持するために、車両開口部(図示しない)と相対する位置に設けられている金属製のラッチ(ロック、掛け金等)を当該ドア3から取り外し、タイヤが路面に接地していないように車両2自体をジャッキアップし、かつ、ドア閉め操作を実施するドア3以外のその他ドア(図示しない)を全て開け放し、エアタイトとならない状態の第一測定条件と、第一測定条件に加え、更にドア3に予め装着されている基本ドアシール材10をドア3から取り外した状態の第二測定条件と、ドア3にラッチを取り付け、車両2のジャッキアップを解除し、タイヤを路面に接地させ、その他ドアを全て閉じ、かつ、ドア3に基本ドアシール材10を装着した状態の第三測定条件との三つの測定条件によってそれぞれ実車データ5の測定が実施される。
【0029】
第一測定条件は、ドア閉め操作におけるラッチの影響やエアタイトの影響を排除したものであり、第二測定条件は、更に予め装着されている基本ドアシール材の影響を排除したものである。一方、第三測定条件は、第一測定条件及び第二測定条件の排除要因を全て含み、車両2を実際に使用する通常のドア閉め操作に近い状態を再現している。
【0030】
上記の各測定機器をそれぞれ稼働状態とし、測定者によってドア3のドア閉め操作を繰り返し実施する。すなわち、予め所定の位置までドア3を開いた状態から、ドア閉め操作を行い、ドア3の開閉状態を確認する。ドア閉め操作によって測定者からドア3にドアを閉めるための力が加えられ、かかる力によってドア3が完全に閉まった状態か、或いは所謂「半ドア」のように不完全な状態、或いはドア3が全く閉まっていない状態かが測定者による目視によって確認される。なお、ドア閉め操作によるドア3自体の速度(ドア速度v)の測定範囲は、ドア3が閉まる最低速度から、例えば、2.0m/s或いは0.8m/s程度までに設定して実施することができる。これにより、動的条件下でのドア閉め操作に係るドア操作エネルギーの測定が可能となる。
【0031】
更に、実車測定工程S1は、ドア3が閉まる直前の位置から低速で強制的に当該ドア3を閉める操作を実施する、静的条件下でのドア閉め操作も実施される。これにより、ドア速度vが極端に遅い条件でのドア閉め操作に係るドア操作エネルギーEの測定が可能となる。このように、通常のドア閉め操作に近い条件である動的条件下、及び最小限のドア操作エネルギーEに係る静的条件下等の種々の条件により、実車を用いたドア閉め操作に係る実車データ5の測定が繰り返し行われる。得られた実車データ5は、前述したように、データロガー9aを介して測定タイミングを同期した状態でPC端末等の記憶媒体に保存される。
【0032】
2.実車データ解析工程S2
一方、実車データ解析工程S2は、上述した実車測定工程S1によって種々の条件下で測定された実車データ5を解析するものであり、最終的にドア閉まり速度VとそれぞれのエネルギーE(例えば、後述するドア閉め損失エネルギーEloss等)とのドア閉まり速度-エネルギー近似式を算出するためのものである。
【0033】
更に具体的に説明すると、始めに測定された実車データ5に基づいて、ドア閉め操作におけるドア3の速度(ドア速度v(m/s))と当該ドア3のドア変位D(m)との関係を示すドア速度-ドア変位曲線をプロットし、算出する(ドア速度-ドア変位曲線算出工程S2a)。ここで、ドア速度vは、下記数1によって算出することが可能であり、一方、ドア変位Dは、下記数2によって算出することができる。
【0034】
【数1】
【数2】
【0035】
上記数1または数2において、αは加速度(m/s)を示し、tは時間(s)を示している。加速度αは、上述した加速度計7によって得ることができ、tは加速度計7等と接続されたデータロガー9aによって得ることができる。
【0036】
更に、上記数1において、ドア3から測定者の手が離れた瞬間、換言すれば、ドア閉め操作におけるドア3に加える力(=反力)が0(N)となった時点のドア速度vを初期ドア速度vとする。また、速度測定位置P1(例えば、図6等参照)におけるドア速度vが本発明におけるドア閉まり速度Vに相当する。
【0037】
上記ドア速度-ドア変位曲線算出工程S2aによって、ドア速度-ドア変位曲線(図示しない)を算出した後、算出されたドア変位Dと、ドア閉め操作を行っている間の反力に基づいてドア操作エネルギーE(J)を算出する(ドア操作エネルギー算出工程S2b)。ここで、ドア操作エネルギーEは、下記の数3に基づいて算出することができる。なお、本実施形態の予測方法1では、実車測定工程S1で使用したドアエネルギー計6により、当該ドア操作エネルギーEを直接得ることができる。
【0038】
【数3】
【0039】
上記数3において、Fはドア閉め操作に係る反力(N)を示している。一方、Eは、測定者がドア3を話した瞬間のドア速度v(=初期ドア速度v)におけるドア操作エネルギーEに相当する。
【0040】
その後、実車データ解析工程S2は、第一測定条件(ラッチなし、ジャッキアップ有り、その他ドア全開放)により測定された実車データ5に基づいて、ドア閉め操作における反力が0(N)となったタイミングのドア速度v(=初期ドア速度v)とドア操作エネルギーE(E)との関係をプロットする(図4参照)。これらのプロット結果に基づいて、2次単項式近似を行うことにより、数4に示す関係式を算出することができる。
【0041】
【数4】
【0042】
上記数4において、Aは定数を示す。すなわち、ドア操作エネルギーE(E)は、初期ドア速度vの2乗と比例の関係を有することが示される。次に、上記数4の結果を下記の数5に示す運動方程式に代入することで、慣性質量mの値を求めることができる(慣性質量算出工程S2c)。ここで、慣性質量mとは、物体の慣性の大きさで示される質量である。
【0043】
【数5】
【0044】
その後、算出された慣性質量mを用い、ドア変位-ドア操作エネルギー曲線(図6参照)を算出する(ドア変位-ドア操作エネルギー曲線算出工程S2d)。具体的に説明すると、加速度計7及び通過検知センサ8によって得られ、それぞれ重ね合わせて表示される時間-加速度曲線及び時間-通過検知(電圧)曲線(図5(a)参照)を積分し、ドア変位-ドア速度曲線を算出する(図5(b)参照)。
【0045】
ここで、図5(a)に示しした時間-通過検知曲線において、通過検知(電圧)(V)が最大となる位置が通過検知センサ8の設置された位置(=センサ設置位置P3)となる。そして、積分によって得られたドア変位-ドア変位曲線に対し、センサ設置位置P3に基づいて、ドア閉位置P2(詳細は後述する)を基準位置に変換した基準位置変換後のドア速度-ドア変位曲線を作成する(図5(c)参照)。
【0046】
上記操作によって得られた基準位置変換後のドア速度-ドア変位曲線に対し、上記数5(E=(1/2)×mV)によって規定された慣性質量m及びドア速度vとドア操作エネルギーEとの関係に基づいて、各変位におけるドア速度vをドア操作エネルギーEに変換する操作を行う。これにより、図6に示すドア変位-ドア操作エネルギー曲線が算出される。
【0047】
次に、ドア変位-ドア操作エネルギー曲線算出工程S2dにより算出されたドア変位-ドア操作エネルギー曲線(図6参照)に基づいて、ドア速度vを測定した速度測定位置P1におけるドア操作エネルギーEと、ドア閉位置P2におけるドア操作エネルギーEとの差分からなるドア閉め損失エネルギーElossを算出する(ドア閉め損失エネルギー算出工程S2e)。なお、かかる場合において測定者による目視確認によってドア3が閉まらなかった場合のデータは算出から除外される。
【0048】
【数6】
【0049】
上記数6において、Einは速度測定位置P1におけるドア操作エネルギーEであり、Ecloseはドア閉位置P2におけるドア操作エネルギーE(以下、「ドア閉め位置エネルギーEclose」と称す。)にそれぞれ相当する。また、第三測定条件により測定されたElossが本実施形態における「ドア閉め損失エネルギーEloss」に相当し、Einが「入力エネルギーEin」に相当する。
【0050】
上記数6及び図6におけるドア閉め損失エネルギーElossは、ドア閉め操作において当該ドア3が車両開口部等に当接し、ドア閉め操作によって運動している状態のドア3の運動を停止するために損失されるエネルギーに相当するものであり、上記の通り、入力エネルギーEinと、ドア閉め位置エネルギーEcloseとの差分から求めることができる。
【0051】
更に、算出及び作成されたドア変位-ドア操作エネルギー曲線(図6参照)に基づいて、基本ドアシール材損失エネルギーEblossを算出する(基本ドアシール材損失エネルギー算出工程S2f)。
【0052】
ここで、前述したように、第一測定条件及び第二測定条件は、基本ドアシール材10のドア3への装着の有無のみが異なり、その他条件は同一である。第一測定条件及び第二測定条件によってそれぞれ得られたドア変位-ドア操作エネルギー曲線(図7参照)は、基本ドアシール材10の有無の違い、すなわち、基本ドアシール材10の影響によって異なっている。そのため、それぞれの測定条件におけるドア閉位置P2、P2’での同一速度におけるドア閉め損失エネルギーElossの差分を求めることにより、基本ドアシール材損失エネルギーEblossを算出することができる。
【0053】
更に、ドア閉め損失エネルギーElossと、基本ドアシール材損失エネルギーEblossとの差分が、基本ドアシール材10を除く、その他損失エネルギーEotherとして算出することができる。
【0054】
以上の解析の結果から、ドア閉め損失エネルギーEloss、入力エネルギーEin、及び基本ドアシール材損失エネルギーEblossを実車データ5に基付いて解析し、それぞれ算出することができる。そして算出されたこれらのエネルギーE(ドア閉め損失エネルギーEloss等)と、ドア閉まり速度Vとの関係について近似式を算出する(図8参照、ドア閉まり速度-エネルギー近似式算出工程S2g)。
【0055】
図8に示したドア閉まり速度-エネルギー近似式によれば、ドア閉まり速度Vと、入力エネルギーEin、ドア閉め損失エネルギーEloss、基本ドアシール材損失エネルギーEbloss、及びその他損失エネルギーEotherとの関係をグラフ化して示すことができる。
【0056】
これにより、実車測定工程S1及び実車データ解析工程S2が完了する。なお、既に説明したように、実車データ解析工程S2による解析結果(ドア閉まり速度-エネルギー近似式等)は、データベース等に保存される。そして、後述する評価対象のドアシール材4についてのドア閉まり性の評価(ドア閉まり速度V)の予測算出が必要となった場合、当該データベース等から必要に応じて適宜読み出しされ、利用することができる。したがって、実車データ解析工程S2による解析完了からドアシール材荷重測定工程S3の実施を開始するまでは、月単位若しくは年単位の間隔で待機が行われることがある。
【0057】
4.ドアシール材荷重測定工程S3
本実施形態の予測方法1におけるドアシール材荷重測定工程S3は、図3に模式的に示す荷重試験機11を用い、仕様変更等によりドア閉まり性の評価を行う評価対象のドアシール材4の荷重特性に係る荷重測定データ21を測定するものである。また、荷重試験機11は、試験室或いは実験室等に設置されるものであり、実車測定工程S1のように実車(車両2)を使用することなく実施される。
【0058】
更に具体的に荷重試験機11の構成について説明すると、図3に示すように、予測対象となるドアシール材4を所定位置にセットするための荷重治具12と、荷重治具12に相対して設けられ、ドアシール材4と当接可能なドアシール材当接部13を有する荷重測定部14と、荷重治具12を支持するとともに当該荷重治具12に装着されたドアシール材4を摺動レール15に沿って水平方向に摺動させ、予め規定された荷重試験速度vでドアシール材4をドアシール材当接部13に向けて押し出し、荷重LO(図3における矢印参照)を加えることが可能な荷重摺動部16とを主に具備して構成されている。
【0059】
更に荷重測定部14は、ドアシール材当接部13がドアシール材4と当接した際に加わる荷重LOを検出し、当該荷重LOを電気信号に変換可能なロードセル17(LBM-A-50N:株式会社共和電業製)と、ドアシール材当接部13及びロードセル17を支持する試験機基部18と、試験機基部18の上部側に設置され、相対する荷重摺動部16の上部に設けられたレーザー反射部19にレーザー20を照射し、荷重測定部14(ドアシール材当接部13)及び荷重摺動部16(荷重治具12)との距離Lを計測可能なレーザー変位計22(CD5-85:オプテックス・エフエー株式会社製)とを具備して主に構成されている。
【0060】
ここで、荷重治具12は、車両2のドア3のそれぞれのセクションA、B,C(図10参照、詳細は後述する)の形状に合わせて形成されており、当該セクションA等に対応するドアシール材4を所定の荷重試験速度vでドアシール材当接部13に向かって押し出す操作を実施することが可能なものである。これにより、個々のセクションA等に分割されたドアシール材4による当接開始からドア閉まり位置に至るまでのドアシール材当接部13が受ける荷重LOの大きさ、及び当接のタイミング、ドアシール材当接部13及びドアシール材4(荷重治具12)との距離Lをそれぞれ測定することができる。
【0061】
なお、荷重試験機11を構成するロードセル17及びレーザー変位計22等は、種々の形態のもの用いることが可能である。また、これらの測定機器は、実車測定工程S1と同様にデータロガー9b(NR-600:株式会社キーエンス製)と電気的に接続することが可能であり、測定された測定データは、信号制御され、接続されたPC端末等の制御端末に送出され、データロガー9bによる時間経過と合わせてそれぞれタイミングを同期して記憶媒体に荷重測定データ21として記憶することができる。ここで、本実施形態の予測方法1においては、実車測定工程S1に使用されるデータロガー9aと、ドアシール材荷重測定工程S3に使用されるデータロガー9bとは、基本的な機能は同一ではあるものの異なる型番のものをそれぞれ使用している。
【0062】
なお、本実施形態の予測方法1において使用される荷重試験機11は、静的荷重条件下、換言すれば、ドアシール材当接部13にドアシール材4の一部が当接する直前位置からの押し出し操作の場合、例えば、3.3×10-4m/s、3.3×10-3m/s、6.6×10-3m/sの速度範囲で荷重測定を行うことが可能であり、一方、動的荷重条件下、換言すれば、ドアシール材当接部13から所定の距離L(レーザー変位計22により測定)だけ離間した位置からの押し出し操作では、0.3m/s~最も低いドア閉まり速度+0.2m/sの速度範囲で荷重測定を行うことができる。
【0063】
ここで、荷重治具12とレーザー変位計22との距離L(mm)、ドアシール材4に対する反力F(N)、測定時の経過時間t(s)とし、ドアシール材4がドアシール材当接部13に当たる直前(ここでは、ドア閉まり位置を-20mm~-19.9mm)の速度(荷重試験速度v)は、v=(L20-L19.9)/(t20-t19.9)で表すことができる。押出速度に相当する荷重試験速度v(静的荷重条件下、0.3m/s、0.6m/s、0.9m/s、1.2m/s)における距離Lと荷重LO(N)との関係を図9に示す。動的測定条件下では、これにより求められたドア閉位置(距離L=0)における値を荷重試験機11によるドア閉まり速度Vと本実施形態において規定している。
【0064】
5.荷重測定データ解析工程S4
次に、測定された荷重測定データ21に基づき、ドアシール材4がドアシール材当接部13に当接を開始する時点、換言するとドアシール材4の当たり始めからドア閉位置までの反力Fを合算し、ドアシール材4に係るドアシール材損失エネルギーEdlossを算出する。更に具体的に説明すると、本実施形態の予測方法1においては、ドアシール材4の100mm当たりのドアシール材損失エネルギーEdlossを各セクションA等についてそれぞれ算出する。なお、ドアシール材損失エネルギーEdlossは、下記に示す数7に基づいて算出される(ドアシール材損失エネルギー算出工程S4a)。なお、数7は、既に上記において示した数3と同一である。
【0065】
【数7】
【0066】
図3に示した荷重試験機11を利用して測定されるドアシール材4は、既に説明した通り、ドア3のそれぞれのセクションA1等の形状に合わせて形成されている。ここで、本実施形態の予測方法1では、図10に示すように、ヒンジ23を介して開閉可能に軸支されたドア3を当該ヒンジ23からドア先端24までの距離に応じて3つのセクションA,B,Cに分けている。
【0067】
すなわち、ドア3のヒンジ23の近傍付近の領域をセクションA、ヒンジ23とドア先端24までの中間位置に相当する領域をセクションB、及び、ドア先端24近傍に相当する領域をセクションCとそれぞれ規定している。更に、それぞれのセクションA,B,Cを細分化している。図10に示すように、セクションAにおけるルーフ25に相当する箇所をルーフセクションA1、ヒンジ23に相当する箇所をヒンジセクションA2、ドア下部26に相当する箇所をドア下部セクションA3とし、セクションBにおけるルーフ25に相当する箇所をルーフセクションB1、及びドア下部26に相当する箇所をドア下部セクションB2とし、セクションCにおけるルーフ25に相当する箇所をルーフセクションC1、及びドア下部26に相当する箇所をドア下部セクションC2と規定している。なお、本発明の予測方法において、図10で示したドア3におけるそれぞれのセクションA,B,C及びその形状はこれに限定されるものではなく、対象となる車両のドア形状に応じて適宜調整することができる。この場合、荷重試験機11における荷重治具12の形状やサイズ等もこれに応じて調整することができる。
【0068】
これにより、細分化されたそれぞれのセクションA1等毎にドアシール材4及び荷重治具12が形成されて、測定された荷重測定データ21に基づいてドアシール材4の100mm当たりのドアシール材損失エネルギーEdlossを算出する。
【0069】
更に、上記により算出されたドアシール材損失エネルギーEdlossと、ドア閉まり速度Vとの関係からドアシール材4の100mm当たりのドア閉まり速度-ドアシール材損失エネルギー近似式を算出する(ドア閉まり速度-ドアシール材損失エネルギー近似式算出工程S4b)。かかる算出については、既に説明した実車データ解析工程S2による操作と略同一のため詳細な説明は省略する。
【0070】
その後、セクションA1等毎に算出されたドア閉まり速度-ドアシール材損失エネルギー近似式からドア3の寸法、すなわち、ドア3におけるヒンジ23からの距離及びドアシール材4のシール長さを反映させた状態で合算し、ドア一枚当たりのドアシール材損失エネルギー近似式を算出する。
【0071】
具体的に説明すると、ドア閉まり速度Vの測定位置以外のドア閉まり速度Vは、下記数8に示す角速度の公式、及び、数9及び数10の数式に基づいて、ヒンジ23からの距離rに依存する。
【0072】
【数8】
【0073】
【数9】
【0074】
【数10】
【0075】
ここで、数8-数10において、ωは角速度、V,V,Vはドア閉まり速度、r,r,rは半径(=ヒンジ23からの距離)を示している。
【0076】
したがって、図10に示すように、ヒンジ23からの距離r毎にドアシール材4を複数のセクションA1等毎に細かく細分化することで、ドア閉まり速度Vによるドア一枚当たりの速度分布を算出することができる。更に、算出されたドア閉まり速度-ドアシール材損失エネルギー近似式によって、それぞれのセクションA1等毎におけるドアシール材4の100mm当たりのドアシール材損失エネルギーEdlossを算出することができる。
【0077】
これにより、図10に示すように、ドア3の周囲に沿ってドアシール材4を取り付けた状態におけるそれぞれのセクションA1等毎のドアシール材4のシール長さを求め、算出された100mm当たりのドアシール材損失エネルギーEdlossに当該シール長さを掛け合わせることにより、それぞれのセクションA1等におけるドアシール材損失エネルギーEdlossが求められる。
【0078】
そして、それぞれのセクションA1等のドアシール材損失エネルギーEdlossの総和(図10におけるA1+A2+A3+B1+B2+C1+C2の合計)がドア一枚当たりのドアシール材損失エネルギーEdlossとなる。
【0079】
上記のような操作を、ドア閉まり速度V毎に実施し、プロットした結果を近似することにより、ドア閉まり速度-ドアシール材損失エネルギー近似式を算出することができる。これにより、荷重測定データ解析工程S4が完了する。
【0080】
6.ドア閉まり速度予測算出工程S5
荷重測定データ解析工程S4の完了により算出されたドアシール材損失エネルギーEdlossを、既に解析の完了している実車データ解析工程S2による解析結果に代入し、評価対象のドアシール材4を使用した場合のドア閉まり速度Vの予測算出を行う(ドア閉まり速度予測算出工程S5)。
【0081】
例えば、図11に示すように、実車測定工程S1及び実車データ解析工程S2によって算出された「<1>ドア操作エネルギーE(5.00X)」と、「基本ドアシール材損失エネルギーEbloss(0.05ln(x)+1.00)及びその他損失エネルギーEother(1.00X+3.0X+1.15)」の和で表される「<2>ドア閉め損失エネルギーEloss(1.00X+3.0X+0.05ln(x)+2.15)」の関係式に、ドアシール材荷重測定工程S3及び荷重測定データ解析工程S4によって算出された「<3>ドアシール材損失エネルギーEdloss(0.04ln(x)+0.80)」を代入する。
【0082】
本実施形態の場合、ドアシール材4に仕様変更した際の「<4>ドア閉め損失エネルギーEloss’」は、図11に示すように、「1.00X+3.00X+0.04ln(x)+1.80」で示される。更に、求められたドア閉め損失エネルギーEloss’を利用し、ドア閉まり速度Vの算出を行うことにより、基本ドアシール材10を使用した場合の「<5>ドア閉まり速度V」が1.20m/sであるのに対し、上記算出予測により求めたドアシール材4を使用した場合は、「<5>ドア閉まり速度V」は、1.17m/sとして予測算出される。
【0083】
図12は、上記<1>~<6>にそれぞれ対応する近似式若しくはドア閉まり速度Vの値を、ドア閉まり速度-エネルギー近似式にそれぞれ表示したものである。これにより、<1>ドア操作エネルギーE及び<2>ドア閉め損失エネルギーElossの交点で示される仕様変更前の基本ドアシール材10を用いた場合の<5>ドア閉まり速度V(V=1.20m/s)に対し、<1>ドア操作エネルギーEd及び<4>変更後のドア閉め損失エネルギーEloss’の交点で示されるドアシール材4を用いた場合の<5>ドア閉まり速度V(V=1.17m/s)の値が僅かに変化していることが示される。
【0084】
以上説明したように、本実施形態の予測方法1は、予め実車に対して実施した実車テストによる実車データ5を解析し、ドア閉まり速度VとエネルギーEとの近似式を算出し、更に、荷重試験機11を利用して測定されたドアシール材4の荷重測定データ21によって得られた値を当該近似式に代入することにより、実車テストを実施することなくドア閉まり速度Vを予測算出することができる。
【0085】
すなわち、ドアシール材4のベンチ評価に基づいて、ドア閉まり性を評価することが可能となり、実車テストに要するコストの大幅な削減や、評価に要する期間等を大幅な短縮を図ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明のドア閉まり速度の予測方法は、自動車等の車両製造に係る自動車産業分野、特に、車両のドアに装着されるドアシール材の評価及び製造においてその利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0087】
1:予測方法(ドア閉まり速度の予測方法)、2:車両、3:ドア、4:ドアシール材、5:実車データ、6:ドアエネルギー計(測定機器)、7:加速度計(測定機器)、8:通過検知センサ(測定機器)、9a,9b:データロガー(測定機器)、10:基本ドアシール材、11:荷重試験機、12:荷重治具、13:ドアシール材当接部、14:荷重測定部、15:摺動レール、16:荷重摺動部、17:ロードセル、18:試験機基部、19:レーザー反射部、20:レーザー、21:荷重測定データ、22:レーザー変位計、23:ヒンジ、24:ドア先端、25:ルーフ、26:ドア下部、A,B,C:セクション、A1,B1,C1:ルーフセクション、A2:ヒンジセクション、A3,B2,C2:ドア下部セクション、D:ドア変位、E:エネルギー、Ebloss:基本ドアシール材損失エネルギー、Eclose:ドア閉め位置エネルギー、E:ドア操作エネルギー、Edloss:ドアシール材損失エネルギー、Ein:入力エネルギー、Eloss,Eloss’:ドア閉め損失エネルギー、Eother:その他損失エネルギー、F:反力、L:距離、P1:速度測定位置、P2,P2’:ドア閉位置、P3:センサ設置位置、r、r,r:半径,S1:実車測定工程、S2:実車データ解析工程、S2a:ドア速度-ドア変位曲線算出工程(実車データ解析工程)、S2b:ドア操作エネルギー算出工程(実車データ解析工程)、S2c:慣性質量算出工程(実車データ解析工程)、S2d:ドア変位-ドア操作エネルギー曲線算出工程(実車データ解析工程)、S2e:ドア閉め損失エネルギー算出工程(実車データ解析工程)、S2f:基本ドアシール材損失エネルギー算出工程(実車データ解析工程)、S2g:ドア閉まり速度-エネルギー近似式算出工程(実車データ解析工程)、S3:ドアシール材荷重測定工程、S4:荷重測定データ解析工程、S4a:ドアシール材損失エネルギー算出工程(荷重測定データ解析工程)、S4b:ドア閉まり速度-ドアシール材損失エネルギー近似式算出工程(荷重測定データ解析工程)、S4c:ドアシール材損失エネルギー近似式算出工程(荷重測定データ解析工程)、S5:ドア閉まり速度予測算出工程、LO:荷重、m:慣性質量、t:経過時間、v:ドア速度、v:初期ドア速度、v:荷重試験速度、V,V,V:ドア閉まり速度、α:加速度,ω:角速度。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12