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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024070540
(43)【公開日】2024-05-23
(54)【発明の名称】マウスピース
(51)【国際特許分類】
   A61C 19/06 20060101AFI20240516BHJP
   A61C 17/00 20060101ALI20240516BHJP
   A61M 16/06 20060101ALI20240516BHJP
   A61C 7/08 20060101ALI20240516BHJP
   A63B 71/08 20060101ALI20240516BHJP
【FI】
A61C19/06 Z
A61C17/00 Z
A61M16/06 D
A61C7/08
A63B71/08 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022181099
(22)【出願日】2022-11-11
(71)【出願人】
【識別番号】511112641
【氏名又は名称】上田 友和
(74)【代理人】
【識別番号】100092727
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 忠昭
(74)【代理人】
【識別番号】100146891
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 ひろ美
(72)【発明者】
【氏名】上田 友和
【テーマコード(参考)】
4C052
【Fターム(参考)】
4C052AA06
4C052JJ01
4C052MM05
(57)【要約】
【課題】形状や大きさの異なる歯列にも装着可能なマウスピースを提供する。
【解決手段】
マウスピース1は、使用者の歯列に装着されるものであって、外壁部2と、内壁部3と、外壁部2と内壁部3とを連結する連結壁部4と、備え、外壁部2,内壁部3,連結壁部4により、歯列を収容するための平面視U字状の溝Gが規定されている。内壁部3の側縁31には、その長手方向D1中央部に第1の切欠32aが設けられ、第1の切欠32aは、連結壁部4に向かうに従い幅寸法が漸減するテーパ状であって、中切歯に対応する箇所において、内壁部3の中切歯覆部位は咬合平面に対して30°以上の傾斜方向に沿って延びる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用者の歯列に装着されて前記歯列と歯肉を覆うマウスピースであって、
外壁部と、
内壁部と、
所定方向における一方側に位置し、前記外壁部と前記内壁部とを連結する連結壁部と、備え、
前記外壁部,前記内壁部,及び前記連結壁部により、前記歯列を収容するための平面視U字状の溝が規定され、
前記内壁部の側縁には、前記側縁の長手方向中央部に第1の切欠が設けられ、
前記第1の切欠は、前記連結壁部に向かうに従い幅寸法が漸減するテーパ状であって、
中切歯に対応する箇所において、前記内壁部は、前記中切歯を覆うための中切歯覆部位と、歯肉を覆うための歯肉覆部位と、を有し、前記中切歯覆部位は咬合平面に対して30°以上の傾斜方向に沿って延びるマウスピース。
【請求項2】
前記中切歯に相当する箇所において、切端から5mm離れた箇所における厚みが3.5mm~4.5mmであり、使用者の上顎に装着されて使用される請求項1に記載のマウスピース。
【請求項3】
使用者の歯列に装着されて前記歯列と歯肉を覆うマウスピースであって、
外壁部と、
内壁部と、
所定方向における一方側に位置し、前記外壁部と前記内壁部とを連結する連結壁部と、備え、
前記外壁部,前記内壁部,及び前記連結壁部により、前記歯列を収容するための平面視U字状の溝が規定され、
前記内壁部の側縁には、前記側縁の長手方向中央部に第1の切欠が設けられ、
前記第1の切欠は、前記連結壁部に向かうに従い幅寸法が漸減するテーパ状であって、
中切歯に対応する箇所において、前記内壁部は、前記中切歯を覆うための中切歯覆部位と、歯肉を覆うための歯肉覆部位と、を有し、前記中切歯覆部位は咬合平面に対して50°以上の傾斜方向に沿って延びるマウスピース。
【請求項4】
前記所定方向において、左右の第1小臼歯~第2大臼歯に相当する箇所における前記内壁部の長さ寸法は、左右の中切歯~犬歯に相当する箇所における長さ寸法よりも大きく、
使用者の下顎に装着されて用いられる請求項3に記載のマウスピース。
【請求項5】
左右における第1小臼歯~第2大臼歯に対応する箇所において、前記溝の幅寸法は頬側最大豊隆部から前記所定方向における他方側に向かうに従い漸減する請求項1~4の何れかに記載のマウスピース。
【請求項6】
前記歯肉覆部位は、縦断面凹状に湾曲している請求項1~4の何れか記載のマウスピース
【請求項7】
前記外壁部の内面には、前記歯列に装着された際に前記使用者の歯頸部歯肉ラインに沿って延びるライン状の突部が設けられている請求項1~4の何れかに記載のマウスピース。
【請求項8】
前記外壁部,前記内壁部,及び前記連結壁部からなる外層と、
前記外層の内側に設けられた内層と、を有し、
前記内層は多孔層又は植毛層である請求項1~4の何れかに記載のマウスピース。
【請求項9】
前記内壁部の前記側縁には、第2の切欠と第3の切欠が更に設けられ、
前記第2の切欠は、左側の犬歯と左側の第1小臼歯の間に対応する箇所に設けられ、
前記第3の切欠は、右側の犬歯と右側の第1小臼歯の間に対応する箇所に設けられている請求項1~4の何れかに記載のマウスピース。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マウスピースに関し、特に形状や大きさの異なる歯列にも装着可能なマウスピースに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、使用者の歯列や歯肉を被覆するためのマウスピースが広く用いられてきた。マウスピースを用いる目的としては、歯のホワイトニング、歯周病の予防や治療、いびき防止、スポーツ時における歯列の保護等が挙げられる(例えば、特許文献1,2参照)。また、マウスピース型の歯ブラシとしての利用も提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【0003】
このようなマウスピースは、口腔内印象により使用者の正確な歯型と歯肉の石膏模型を調整して製造されるのが一般的であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-192217号公報
【特許文献2】特開2018-199777号公報
【特許文献3】特開2022-063101号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
口腔内印象により製造されるマウスピースは、使用者の歯列に合わせて製造されることから使用者の歯列にぴったり装着でき、使い勝手が良い一方で、製造に手間がかかる上に製造コストが高いという問題があった。また、使用者が成長期の場合には、使用者の成長に合わせてマウスピースを作り直す必要があった。
【0006】
このことから、汎用品としてのマウスピースに対する需要が高まっている。しかしながら、汎用品のマウスピースは廉価に入手できる一方で、使用者の歯列にフィットせず、使い勝手が悪いうえに、マウスピースの効果が半減してしまうという問題があった。
【0007】
本発明は、形状や大きさの異なる歯列にも装着可能なマウスピースの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るマウスピースは、使用者の歯列に装着されて前記歯列と歯肉を覆うマウスピースであって、外壁部と、内壁部と、所定方向における一方側に位置し、前記外壁部と前記内壁部とを連結する連結壁部と、備え、前記外壁部,前記内壁部,及び前記連結壁部により、前記歯列を収容するための平面視U字状の溝が規定され、前記内壁部の側縁には、前記側縁の長手方向中央部に第1の切欠が設けられ、前記第1の切欠は、前記連結壁部に向かうに従い幅寸法が漸減するテーパ状であって、中切歯に対応する箇所において、前記内壁部は、前記中切歯を覆うための中切歯覆部位と、歯肉を覆うための歯肉覆部位と、を有し、前記中切歯覆部位は咬合平面に対して30°以上の傾斜方向に沿って延びる。
【0009】
本発明に係るマウスピースは、使用者の歯列に装着されて前記歯列と歯肉を覆うマウスピースであって、外壁部と、内壁部と、所定方向における一方側に位置し、前記外壁部と前記内壁部とを連結する連結壁部と、備え、前記外壁部,前記内壁部,及び前記連結壁部により、前記歯列を収容するための平面視U字状の溝が規定され、前記内壁部の側縁には、前記側縁の長手方向中央部に第1の切欠が設けられ、前記第1の切欠は、前記連結壁部に向かうに従い幅寸法が漸減するテーパ状であって、中切歯に対応する箇所において、前記内壁部は、前記中切歯を覆うための中切歯覆部位と、前記歯肉を覆うための歯肉覆部位と、を有し、前記中切歯覆部位は咬合平面に対して50°以上の傾斜方向に沿って延びる。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係るマウスピースによれば、内壁部の側縁には切欠が設けられ、当該切欠は連結壁部に向かうに従い幅寸法が漸減するテーパ状に形成されているので、マウスピースが使用者の歯列に装着された際に幅方向が狭まる方向に変形した場合であってもマウスピースが歯列から浮き上がるのを防止して、マウスピースを使用者の歯列に良好に装着できる。また、マウスピースが幅方向に押し広げられるように変形した場合であっても、歯列に過度な負荷がかかるのを防止できる。
【0011】
更に、中切歯に対応する箇所において、前記内壁部の中切歯覆部位は咬合平面に対して30°又は50°以上の傾斜方向に沿って延びるので、マウスピースが使用者の歯列に装着された際に幅方向が狭まる方向に変形した場合であっても、マウスピースの内壁部は歯列側(唇側)に押されるようになり、マウスピースと歯列との間に隙間が生じるのを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の第1実施形態に係るマウスピースを示す図であって、(a)は平面図、(b)は底面図。
図2図1に示すマウスピースの長手方向展開図。
図3図1に示すマウスピースが変形して切欠が閉じていく様子を示す説明図。
図4】標準的な人の上顎の中切歯を示す図。
図5図1のV-V線断面図。
図6図1のVI-VI線断面図。
図7図1のVII-VII線断面図。
図8】本発明の第2実施形態に係るマウスピースを示す平面図。
図9図8に示すマウスピースの製作に使用される歯形模型の正面図。
図10図8に示すマウスピースの長手方向展開図。
図11図8のXI-XI線断面図。
図12図8のXII-XII線断面図。
図13図8のXIII-XIII線断面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[第1実施形態]
以下、添付図面を参照して、本発明の第1実施形態に係るマウスピースについて説明する。図1を参照して、本実施形態に係るマウスピース1は上顎用であって、使用者の上顎の歯列及び歯肉を覆うように口腔内の所定位置に着脱自在に装着されて使用されるものである。
【0014】
マウスピース1は平面視略U字状を有し、使用者の歯列及び歯肉(以下、歯列等という)を収容するための溝Gが設けられている。溝Gはマウスピース1のU字の長手方向D1に沿って延び、平面視略U字状を有する。マウスピース1は全体的に可撓性を有し、使用者の歯列等の大きさや形状に応じて変形可能に形成されている。
【0015】
図7に示す様に、マウスピース1は、熱可塑性樹脂製の外層1Aと、外層1Aの内側に配設された内層1Bからなり、外層1Aとしては、例えばエチレンビニルアセテート(EVA)製又はシリコン製であるのが好ましく、ビッカース硬度は25~100であるのがより好ましい。内層1Bは例えばスポンジ状の多孔層或いは植毛層であって、弾力性を有する。内層1Bを多孔層とすれば、内層1Bに薬剤を含ませてマウスピース1を装着することで、当該薬剤を歯列や歯肉に効率良く付すことができ、薬剤としては、歯のホワイトニング剤や歯周病治療薬、フッ素、洗口剤、再生治療薬等があげられる。また、口腔内絆創膏としての利用も可能である。更に、歯科治療後の内層1Bを植毛層とすれば、マウスピース1を歯ブラシとして用いることができる。
【0016】
マウスピース1の外層1Aは、歯列等の外面(唇側や頬側)を覆う外壁部2と、歯列等の内面(口蓋側)を覆う内壁部3と、外壁部2と内壁部3とを連結して歯列(歯牙)の頭頂部を覆うための連結壁部4と、を有し、これら外壁部2,内壁部3,及び連結壁部4により上述の溝Gが規定され、図1(b)に示す様に長手方向D1における溝Gの両端は開口している。また、内層1Bは外層1A(外壁部2,内壁部3,及び連結壁部4)の内面全域にわたって設けられている。
【0017】
以下、マウスピース1のうち、溝Gの長手方向D1に沿って延びる開口側(高さ方向D3において連結壁部4と反対側(図7参照))をマウスピース1の底部側(他方側)と称し、高さ方向D3において当該底部側と反対側(連結壁部4側)を頂部側(一方側)と称するものとする。
【0018】
本実施形態に係るマウスピース1は、図示しない歯型模型を用いた加熱成形により形成することができる。この場合、マウスピース1の外層1Aの内面形状は、歯形模型の外面形状とほぼ相似形を有する。また、外層1Aはほぼ均一の厚みを有することから、マウスピース1の外面形状(即ち、外層1Aの外面形状)は、外層1Aの内面形状とほぼ相似形を有する。
【0019】
図1を参照して、内壁部3の側縁31(長手方向L1に沿って延びる側縁)には切欠32が設けられており、図1に示す例では、切欠32として第1~第3切欠32a~32cが設けられている。
【0020】
図1及び図2を参照して、第1切欠32aは、内壁部3の側縁31の長手方向D1中央部(左側の中切歯L1と右側の中切歯R1の間に対応する箇所)に設けられ、第2及び第3切欠32b,32cは第1切欠32aの左右両側(図に示す例では、左側の犬歯L3と左側の第1小臼歯L4の間に対応する箇所、及び右側の犬歯R3と右側の第1小臼歯R4の間に対応する箇所)に設けられている。
【0021】
また、各切欠32は、内壁部3の側縁31から連結壁部4に向けて幅寸法が漸減するテーパ状に形成され、第1切欠32aは第2及び第3切欠32b,32cよりも幾分大きく形成されている。
【0022】
使用者の歯列弓は、幅の狭いV字型のものから幅の広いU字型のものまで様々であるが、このようにマウスピース1に切欠32を設けることで、マウスピース1は使用者の歯列弓の形状に応じて良好に変形して適合することができる。
【0023】
即ち、比較的幅の狭い歯列弓の歯列等にマウスピース1を装着すると、マウスピース1は幅方向D2が狭まる方向に変形するが、仮に切欠32が設けられていないとマウスピース1が歯列等(特に前歯)から浮き上がり、マウスピース1と歯列等との間に隙間が生じてしまう。切欠32を直線状のスリットとした場合も同様である。
【0024】
しかしながら、本実施形態のように切欠32を設けることで、マウスピース1が幅方向D2に狭まる方向に変形すると、切欠32は図3(a)に示す状態から図3(b)に示す状態へ、切欠32が閉じる様にして変形し、マウスピース1(特に内壁部3)が歯列等から浮き上がるのを防止して、マウスピース1を使用者の歯列等に良好に装着できる。
【0025】
また、比較的幅の広い歯列弓の歯列等にマウスピース1を装着すると、マウスピース1は幅方向D2に押し広げられるように変形するが、このように変形した際も同様に、切欠32が無いと内マウスピース1が歯列等(特に前歯)から浮き上がるのに加え、マウスピース1が無理に広げられるために歯列等に過度な負荷がかかってしまう。この点、切欠32を設けることで、マウスピース1が幅方向D2に押し広げられても使用者の歯列等から浮き上がるのを防止すると共に、歯列等に過度な負荷がかかるのを防止できる。
【0026】
なお、切欠32は任意の箇所に設けることができるが、特に側縁31の長手方向D1中央部に第1切欠32aを設けることで、上述のような効果が良好に発揮され、これに加えて左犬歯L3と左第1小臼歯L4の間及び右犬歯R3と右第1小臼歯R4の間に対応する箇所に第2,第3切欠32b,32cをそれぞれ設けることで、犬歯から第1小臼歯における浮き上がりを防止できる。
【0027】
更に、上述の様にマウスピース1は使用者の歯列弓の形状に応じて良好に適合できることから、発育途中の使用者に用いても歯牙等の発育を邪魔しない。
【0028】
また、図2,図5,図7に示す様に、外壁部2の内面には、使用者の歯頸部歯肉ラインに沿って延びるライン状の突部22が設けられている。図2に示す例では、ライン状の突部22として第1~第3突部22a~22cが設けられている。
【0029】
第1突部22aは、左側の側切歯L2から右側の側切歯R2に対応して(即ち、左側の側切歯L2と左側の犬歯L3の間から右側の側切歯R2と右側の犬歯R3の間まで)設けられ、第2突部22cは、左側の第2小臼歯L5と左側の第1大臼歯L6に対応して設けられ、第3突部22cは、右側の第2小臼歯R2と側の右第1大臼歯R3に対応して設けられている。
【0030】
このように、ライン状の突部22を設けることにより、突部22が使用者の歯列に緩やかに係止され、歯列等に装着されたマウスピース1を外れにくくすることができ、また、歯列等に装着されたマウスピース1がブカブカと浮き上がるのを防止できる。更に、突部22を設けることにより内層2Bを使用者の歯頸部歯肉ラインに良好に当接させることができ、内層2Bに含ませた薬剤等を歯頸部歯肉ラインに良好に付すことができる。
【0031】
なお、突部22は、例えば歯形模型(図示せず)の対応箇所に溝を設けることで形成できる。マウスピース1を歯形模型を用いた加熱成形により形成する場合には、マウスピース1の外面にはライン状の突部22に対応してライン状の凹部が形成されることになる。
【0032】
更に、図1に示すように、連結壁部4の外面のうち、左右の第1小臼歯~第2大臼歯(L4~L7,R4~R7)に対応する箇所には、歯の溝を模した溝41が設けられている。このように連結壁部4の外面に溝41を設けることにより、使用者がマウスピース1を装着した際の噛み合わせが良好になり、マウスピース1が歯列等から浮き上がりにくくできる。また、仮にマウスピース1が歯列等からズレた場合であっても、咬合によってズレを直すことができる。
【0033】
図4を参照して、平均的な人の上顎の中切歯(L1,R1)では、その切端P1から5mm程度離れた箇所における中切歯(L1,R1)の厚みT1は9mm程度である。
【0034】
これに対し、本実施形態では、図5に示す様に、左右の中切歯L1,R1に相当する箇所において、マウスピース1の溝Gの幅は平均的な中切歯(L1,R1)の厚みよりも小さいのが好ましく、本実施形態では切端P1から5mm程度離れた箇所におけるマウスピース1の厚みT2を3.5mm~4.5mmとしている。
【0035】
このように、左右の中切歯L1,R1に相当する箇所において、マウスピース1の厚みを、平均的な中切歯の厚みよりも小さくすることで、マウスピース1が使用者の左右の中切歯L1,R1を唇側と口蓋側から挟み込むようになり、マウスピース1を使用者の歯列等から外れ難くすることができる。
【0036】
なお、このようにしてマウスピース1の厚み(及び溝Gの幅寸法)を、平均的な中切歯の厚みよりも小さくしても、外層1Aと内層1Bが変形するのに加え、内層1Bがクッションの役割を果たすため、無理なくマウスピース1を歯列に密着させて装着することができる。
【0037】
更に、左右の中切歯L1,R1に相当する箇所においてマウスピース1の厚みを平均的な中切歯の厚みよりも小さくすることで、マウスピース1を萌出中等の低位歯に装着した場合であっても、マウスピース1と歯牙(低位歯)の間に隙間が生じるのが防止され、内層1Bを歯牙(低位歯)に密着させることができる。
【0038】
また、左右の中切歯L1,R1に相当する箇所において、外壁部2の咬合平面X(上顎咬合平面)に対する傾斜角度α1は、図4に示す平均的な人の中切歯における唇側側面S1の咬合平面Xに対する角度よりも小さいのが好ましく、具体的には、外壁部2は咬合平面Xに対して60°~70°の傾斜方向に沿って延びるのが好ましく(α1=60°~70°)、65°の傾斜方向に沿って延びるのがより好ましい(α1=65°)。
【0039】
一方、左右の中切歯L1,R1に相当する箇所において、内壁部3のうち、中切歯L1,R1を覆うための中切歯覆部位3aの咬合平面Xに対する傾斜角度α2は、図4に示す平均的な人の中切歯における口蓋側側面S2の咬合平面Xに対する角度よりも大きく、少なくとも30°以上であるのが好ましい(α2≧30°)。より具体的に、内壁部3の中切歯覆部位3aは咬合平面Xに対して30°~60°の傾斜方向に沿って延びるのが好ましく(α2=30°~60°)、55°の傾斜方向に沿って延びるのがより好ましい(α2=55°)。
【0040】
更に、左右の中切歯L1,R1に相当する箇所において、内壁部3のうち、歯肉を覆うための歯肉覆部位3bは、図5に示す縦断面視において凹状に湾曲している。
【0041】
このように、本実施形態においては、マウスピース1の左右の中切歯L1,R1に相当する箇所において、外壁部2は咬合平面Xに対して上記唇側側面S1よりも小さい角度で傾斜することから、マウスピース1が使用者の歯列等に装着された状態において、外壁部2が歯列等を内側(口蓋側)へ向けて押圧するように力が働き、これによりマウスピース1を歯列等から外れ難くすることができる。
【0042】
また、内壁部3の中切歯覆部位3aが咬合平面Xに対して30°以上の傾斜方向に沿って延びるので、(α2≧30°)、マウスピース1が比較的幅の狭い歯列弓の歯列等に装着されて幅方向D2に狭まる方向に大きく変形した場合であっても、内壁部3の中央部が中切歯から浮き上がるのを防止できる。
【0043】
即ち、上述した様にマウスピース1が方向D2に狭まる方向に変形すると、図3(b)に示す様に切欠32が閉じるように変形するが、マウスピース1が更に大きく変形すると、図3(c)に示す様に、切欠32の両側が重なるようになる。このとき、内壁部3の咬合平面Xに対する傾斜が小さすぎると、内壁部3の中央部には口蓋側に変形する方向に力が働き、内壁部3の中央部が中切歯から浮き上がり、マウスピース1と中切歯の内側(口蓋側)との間に隙間が生じてしまう。
【0044】
これに対し、上記唇側側面S1の傾斜方向と比較して、内壁部3が咬合平面Xに対して大きく傾斜する方向に延びることで、マウスピース1が幅方向D2に狭まる方向に大きく変形して切欠32(より具体的に、切欠32a)の両側が図3(c)に示す様に重なっても、内壁部3の中央部には歯列側(唇側)に変形する方向に力が働くことから、マウスピース1と前歯の内側(口蓋側)との間に隙間が生じるのを防止できる。
【0045】
更に、図4に示すように、人の歯肉は縦断面視凸状に湾曲しているところ、図5に示すように、歯肉を覆うための内壁部3の歯肉覆部位3bは縦断面視において凹状に湾曲していることから、これによってもマウスピース1と歯肉とを良好に密着させることができる。
【0046】
図6を参照して、マウスピース1の左右の犬歯L3,R3に相当する箇所において、その外壁部2は、犬歯L3,R3の唇側最大豊隆部Zaから底部側に向かって直線状に延び、当該直線部分の咬合平面Xに対する傾斜角度α3は65°~75°であるのが好ましく、70°であるのがより好ましい。また、その内壁部3は、咬合平面Xに対して65°~75°の傾斜方向に沿って延びるのが好ましく(α4=65°~75°)、70°の傾斜方向に沿って延びるのがより好ましい(α4=70°)。更に、内壁部3は、外壁部2の上記直線部分と平行に延びるのが好ましい。
【0047】
図7を参照して、マウスピース1の左右の第1小臼歯~第2大臼歯L4~L7,R4~R7に相当する箇所においては、頬側最大豊隆部Zcよりも底部側部位において、溝Gの幅寸法は底部側に向かうに従い漸減している。また、その外壁部2は、第1小臼歯~第2大臼歯L4~L7,R4~R7の各々の頬側最大豊隆部Zcから底部側に向かって直線状に延び(突部22に対応する上記凹部は除く)、当該直線部分の咬合平面Xに対する傾斜角度α5は70°~80°であるのが好ましく(α5=70°~80°)、75°であるのがより好ましい(α5=75°)。一方、その内壁部3は、第1小臼歯~第2大臼歯L4~L7,R4~R7の各々の口蓋側最大豊隆部Zdから底部側に向かって直線状に延び、当該直線部分の咬合平面Xに対する傾斜角度α6は95°~105°であるのが好ましく(α6=95°~105°)、100°であるのがより好ましい(α6=100°)。
【0048】
歯肉の厚さは歯肉が支える歯の最大径(厚さ方向における最大厚み)よりも大きいところ、上述のように左右の第1小臼歯~第2大臼歯L4~L7,R4~R7に相当する箇所において溝Gの幅寸法が底部側に向かって漸減するように構成したので、マウスピース1が使用者の歯列等に装着された際に、使用者の歯肉がマウスピース1により頬側と口蓋側から挟持されるようになり、これによってもマウスピース1を形状や寸法の異なる歯列等に良好に装着させることができる。
【0049】
このように、本実施形態に係るマウスピース1は、異なる形状や寸法の歯列等にも良好に装着できるので、口腔内印象により使用者の正確な歯型と歯肉の石膏模型を調整する必要がなく、マウスピース1を安価に提供できる。また、マウスピース1は異なる形状や寸法の歯列等に装着されても歯列や歯肉に密着するため、内層1Bに含ませた薬剤を歯列や歯肉に効率良く付すことができる。
【0050】
ここで、マウスピース1は、歯列等に装着された際に、幅方向D2に狭まる方向へは比較的容易に変形する一方で、幅方向D2に広がる方向へは比較的変形し難いことから、マウスピース1の全体の寸法としては、標準的な人の歯列の大きさよりも若干大きめとするのが好ましい。このような寸法とすることで、マウスピース1が異なる寸法の歯列に装着されて変形しても、その変形方向は幅寸法D2が狭まる方向となり、歯列への装着をより容易にできる。
【0051】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態に係るマウスピース101について説明する。図8を参照して、本実施形態に係るマウスピース101は上述したマウスピース1と略同一であるが、マウスピース101は下顎用であって、使用者の下顎の歯列及び歯肉を覆うように口腔内の所定位置に着脱自在に装着されて使用されるものであり、以下の点においてマウスピース1と相違する。
【0052】
まず、マウスピース101は、例えば図9に示す歯形模型Mを用いたプレス成形により形成することができ、図9に示す歯形模型Mにおいて、その長手方向D1中央部(左側切歯L2から右側切歯R2)は、正面視において凹状に湾曲している。
【0053】
このことから、図10に示すように、マウスピース101の連結壁部4の中央領域Q1(左側切歯L2から右側切歯R2に対応する部位)は、正面視において凹状に湾曲している。人の下顎における歯列においては、左右の側切歯L2、R2と左右の中切歯L1,R1は実質同一高さを有するのが一般的であるが、このように中央領域Q1を凹状に湾曲させることによって、歯列等に装着されたマウスピース101が幅方向D2に狭まる方向に変形した際にマウスピース101の中央部分が前歯(左側の側切歯L2~右側の側切歯R2)の頭頂部から浮き上がるのを効果的に防止できる。
【0054】
図11を参照して、マウスピース101の下顎の左右の中切歯L1,R1に相当する箇所において、外壁部2の咬合平面X’(下顎咬合平面)に対する傾斜角度α7は、平均的な人の下顎の中切歯(図示せず)の唇側側面の咬合平面X’に対する角度よりも小さいのが好ましく、具体的には、外壁部2は咬合平面X’に対して75°~85°の傾斜方向に沿って延びるのが好ましく(α7=75°~85°)、80°の傾斜方向に沿って延びるのがより好ましい(α7=80°)。
【0055】
一方、左右の中切歯L1,R1に相当する箇所において、内壁部3のうち、中切歯L1,R1を覆うための中切歯覆部位3aの咬合平面X’に対する傾斜角度α8は、平均的な人の下顎中切歯(図示せず)における下側側面の咬合平面X’に対する角度よりも大きいのが好ましく、少なくとも50°以上であるのが好ましい(α8≧50°)。より具体的には、内壁部3は咬合平面X’に対して50°~75°の傾斜方向に沿って延びるのが好ましく(α8=50°~75°)、65°の傾斜方向に沿って延びるのがより好ましい(α8=65°)。更に、左右の中切歯L1,R1に相当する箇所において、内壁部3のうち、歯肉を覆うための歯肉覆部位3bは、図11に示す縦断面視において凹状に湾曲している。
【0056】
このように、内壁部3の中切歯覆部位3aが咬合平面X’に対して50°以上の傾斜方向に沿って延びるので(α8≧50°)、上述した第1実施形態と同様に、マウスピース101が比較的幅の狭い歯列弓の歯列等に装着されて幅方向D2に狭まる方向に大きく変形し、切欠32(切欠32a)の両側が重なり合っても、内壁部3の中央部には唇側に押される方向に力が働き、マウスピース101が前歯(中切歯)から浮き上がるのを防止できる。
【0057】
また、図12に示す様に、マウスピース101の左右の犬歯L3,R3に相当する箇所において、その外壁部2は、犬歯L3,R3の唇側最大豊隆部Zaから底部側に向かって直線状に延び、当該直線部分の咬合平面X’に対する傾斜角度α9は75°~85°であるのが好ましく、80°であるのがより好ましい。また、その内壁部3は、咬合平面X’に対して75°~85°の傾斜方向に沿って延びるのが好ましく(α10=75°~85°)、80°の傾斜方向に沿って延びるのがより好ましい(α10=80°)。更に、内壁部3は、外壁部2の上記直線部分と平行に延びるのが好ましい。
【0058】
図13を参照して、マウスピース101の左右の第1小臼歯~第2大臼歯L4~L7,R4~R7に相当する箇所において、頬側最大豊隆部Zcよりも底部側部位において、溝Gの幅寸法は底部側に向かうに従い漸減している。また、その外壁部2は、第1小臼歯~第2大臼歯L4~L7,R4~R7の頬側最大豊隆部Zcから底部側に向かって直線状に延び(突部22に対応する上記凹部は除く)、当該直線部分の咬合平面X’に対する傾斜角度α11は75°~90°であるのが好ましく(α11=75°~90°)、80°であるのがより好ましい(α11=80°)。また、その内壁部3は、第1小臼歯~第2大臼歯L4~L7,R4~R7の各々の舌側最大豊隆部Zeから底部側に向かって直線状に延び、当該直線部分の咬合平面X’に対する傾斜角度α12は95°~110°であるのが好ましく(α12=95°~110°)、100°であるのがより好ましい(α12=100°)。
【0059】
更に、図10及び図13に示すように、マウスピース101の左右の第1小臼歯~第2大臼歯L4~L7,R4~R7に相当する箇所において、その内壁部3は外壁部2よりも底部側に延出し、高さ方向D3において、左右の第1小臼歯~第2大臼歯L4~L7,R4~R7に相当する箇所における内壁部3の長さ寸法は、左右の中切歯~犬歯L1~L3,R1~R3に相当する箇所における内壁部3の長さ寸法よりも大きく設定されている。これにより、第1小臼歯~第2大臼歯L4~L7,R4~R7に相当する箇所において、マウスピース101と歯肉との密着面積が大きくなり、マウスピース101の浮き上がりをより良好に防止できる。また、このように内壁部3の長さ寸法を比較的長くすることにより、内壁部3の側縁31は装着者の舌よりも下方に位置することになるから、舌が内壁部3の側縁31に引っ掛かってマウスピース101が舌により押し上げられて浮き上がるのを防止できる。
【0060】
以上、本発明の実施形態に係るマウスピースについて添付の図面を参照して説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されず、本発明の範囲を逸脱することなく種々の変形、修正が可能である。
【0061】
例えば、上記実施形態では切欠32を3カ所に設けたが、切欠32の数や形成箇所は上述のものに限定されず、任意の箇所に任意の数だけ設けることができ、例えば中央部の第1切欠32aのみを設けてもよく、或いは第2,第3切欠32b,32cよりも更に奥側(咽頭側)に第4,第5の切欠を設けても良い。
【0062】
また、上記実施形態では、ライン状の突部22を3本設けたが、突部22の数や形成箇所は上述のものに限定されない。例えば、左第2大臼歯L1から右第2大臼歯R1までの全域にわたって延びる1本の突部22を設けてもよい。
【0063】
また、本発明に係るマウスピースは、歯形模型を利用せずに、例えば3Dプリンタを用いて形成されてもよい。
【0064】
上記実施形態のマウスピース1,101は、左側第2大臼歯~右側第2大臼歯に対応して構成され、左側第2大臼歯~右側第2大臼歯の歯列等に装着されて用いられるが、本発明に係るマウスピースはこれに限定されず、左側第2大臼歯~右側第2大臼歯のうちの一部のみに対応するように構成することもできる。例えば、左側第1大臼歯~右側第1大臼歯に対応させて構成することで、小児用に用いることが想定される。また、用途に応じて左側犬歯~右側犬歯に対応させたものや、左側第1小臼歯~右側第1小臼歯に対応させたもの、片側の中切歯~第2大臼歯に対応させたもの等も可能である。
【符号の説明】
【0065】
1, 101 マウスピース
1A 外層
1B 内層
2 外壁部
3 内壁部
3a 中切歯覆部位
3b 歯肉覆部位
4 連結壁部
22 突部
32 切欠
D3 高さ方向(所定方向)
G 溝
X,X’ 咬合平面


図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13