(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024070569
(43)【公開日】2024-05-23
(54)【発明の名称】グリース組成物、及びステアリングギヤ装置
(51)【国際特許分類】
C10M 169/00 20060101AFI20240516BHJP
B62D 5/04 20060101ALI20240516BHJP
C10M 105/36 20060101ALN20240516BHJP
C10M 107/02 20060101ALN20240516BHJP
C10M 117/04 20060101ALN20240516BHJP
C10M 117/02 20060101ALN20240516BHJP
C10M 135/18 20060101ALN20240516BHJP
C10M 133/20 20060101ALN20240516BHJP
C10N 10/02 20060101ALN20240516BHJP
C10N 10/12 20060101ALN20240516BHJP
C10N 40/04 20060101ALN20240516BHJP
C10N 40/02 20060101ALN20240516BHJP
C10N 30/06 20060101ALN20240516BHJP
【FI】
C10M169/00
B62D5/04
C10M105/36
C10M107/02
C10M117/04
C10M117/02
C10M135/18
C10M133/20
C10N10:02
C10N10:12
C10N40:04
C10N40:02
C10N30:06
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022181153
(22)【出願日】2022-11-11
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】弁理士法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】萩野(山下) 侑里恵
(72)【発明者】
【氏名】新谷(高原) 加奈子
(72)【発明者】
【氏名】田中 裕貴
【テーマコード(参考)】
3D333
4H104
【Fターム(参考)】
3D333CB02
3D333CB15
3D333CE14
4H104BA07A
4H104BB17B
4H104BB19B
4H104BB33A
4H104BE13C
4H104BG10C
4H104FA01
4H104FA06
4H104LA03
4H104PA01
4H104PA02
4H104PA03
(57)【要約】
【課題】 貧潤滑状態になりやすい部位に使用した場合にも優れた潤滑性能を発揮するグリース組成物を提供する。
【解決手段】 基油と、増ちょう剤と、添加剤とを含み、前記基油は、トリメリット酸エステルとポリ-α-オレフィンとを含み、前記増ちょう剤は、12-ヒドロキシステアリン酸リチウムとステアリン酸リチウムとを含み、前記添加剤は、ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデンとウレア系添加剤とを含み、基油、増ちょう剤、及び添加剤のそれぞれを、基油、増ちょう剤、及び添加剤の合計量に対して所定の割合で含有するグリース組成物。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油と、増ちょう剤と、添加剤とを含み、
前記基油は、トリメリット酸エステルとポリ-α-オレフィンとを含み、
前記トリメリット酸エステルは、前記トリメリット酸エステル及び前記ポリ-α-オレフィンの合計量に対する割合が、10.0質量%以上60.0質量%以下であり、
前記増ちょう剤は、12-ヒドロキシステアリン酸リチウムとステアリン酸リチウムとを含み、
前記12-ヒドロキシステアリン酸リチウムは、前記12-ヒドロキシステアリン酸リチウム及び前記ステアリン酸リチウムの合計量に対する割合が、5.0質量%以上95.0質量%以下であり、
前記添加剤は、ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデンとウレア系添加剤とを含み、
前記ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデンは、前記トリメリット酸エステル、前記ポリ-α-オレフィン、前記12-ヒドロキシステアリン酸リチウム、前記ステアリン酸リチウム、前記ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデン、及び前記ウレア系添加剤の合計量に対する割合が、1.5質量%以上8.0質量%以下であり、
前記ウレア系添加剤は、直径0.2μm以上の粒子の直径の平均値が0.2μm以上1.0μm以下であり、
前記ウレア系添加剤は、前記トリメリット酸エステル、前記ポリ-α-オレフィン、前記12-ヒドロキシステアリン酸リチウム、前記ステアリン酸リチウム、前記ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデン、及び前記ウレア系添加剤の合計量に対する割合が、1.2質量%以上3.4質量%以下である、
グリース組成物。
【請求項2】
前記ウレア系添加剤は、ウレア化合物とスチレン系ポリマーとの混合物である、請求項1に記載のグリース組成物。
【請求項3】
ハウジングと、
ラック歯を有し、軸方向に沿って往復移動可能なラック軸と、
前記ラック歯と噛み合うピニオン歯を有するピニオン軸と、
前記ラック歯を前記ピニオン歯に付勢するラックガイド機構と、
互いに噛み合う前記ラック歯と前記ピニオン歯の間、及び、前記ラック軸の周面と前記ラックガイド機構の前記ラック軸に押し付けられる部分との間、に介在するグリース組成物と、を備え
前記グリース組成物が請求項1、又は2に記載のグリース組成物である、ステアリングギヤ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリース組成物、及びステアリングギヤ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電動パワーステアリング装置に使用されるステアリングギヤ装置が備えるラックアンドピニオンは、ラック歯を有するラック軸とピニオン歯を有するピニオン軸とを備えている。このステアリングギヤ装置は、ラック歯とピニオン歯との噛み合い部分にグリースを介在させて、ラック歯及びピニオン歯の摩耗を抑制している。このステアリングギヤ装置は、この摩耗の抑制によって、ラック歯とピニオン歯とのクリアランスの変化量を小さくし、電動パワーステアリング装置の操舵性能を維持している。
ステアリングギヤ装置に用いるグリースとして、例えば特許文献1~3に提案されたグリースがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001-064665号公報
【特許文献2】特開2009-203374号公報
【特許文献3】特開2004-269722号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ラックアンドピニオンを有するステアリングギヤ装置は、ラックアンドピニオンにおけるラック歯とピニオン歯との噛み合い部分にグリース組成物を介在させ、このグリース組成物は、ラック歯及びピニオン歯の摩耗を抑制している。また、上記ステアリングギヤ装置は、ラック歯をピニオン歯に付勢するためのラックガイド機構を備えており、このグリース組成物は、ラック軸と、ラックガイド機構のラック軸に押し付けられる部分との間に介在し、両者の摩耗を抑制している。
従って、上記ステアリングギヤ装置に使用されるグリース組成物は、ラックアンドピニオンにおけるラック歯とピニオン歯との噛み合い部分だけでなく、ラック軸とラックガイド機構との摺接部分も良好に潤滑することができる性能が求められている。
【0005】
しかしながら、特許文献1~3が提案するグリース組成物は、このような要求に充分に応えられなかった。
ラック歯とピニオン歯との噛み合い部分や、ラック軸とラックガイド機構との摺接部分は、貧潤滑状態になりやすい被潤滑部位であり、このような部位を良好に潤滑することは容易ではなかった。
また、ラックガイド機構のラック軸に押し付けられる部分は、例えばPTFE等の樹脂で構成されており、鉄鋼製のラック歯と鉄鋼製のピニオン歯との噛合い部分の潤滑のために設計されたグリース組成物は、ラック軸とラックガイド機構との摺接部分を十分に良好に潤滑できない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、このような状況のもと、貧潤滑状態になりやすい被潤滑部位に入り込みやすく、被潤滑部材の摩擦面を良好に潤滑することができるグリース組成物を見出し、本発明を完成した。
【0007】
(1)本発明のグリース組成物は、基油と、増ちょう剤と、添加剤とを含み、
上記基油は、トリメリット酸エステルとポリ-α-オレフィンとを含み、
上記トリメリット酸エステルは、上記トリメリット酸エステル及び上記ポリ-α-オレフィンの合計量に対する割合が、10.0質量%以上60.0質量%以下であり、
上記増ちょう剤は、12-ヒドロキシステアリン酸リチウムとステアリン酸リチウムとを含み、
上記12-ヒドロキシステアリン酸リチウムは、上記12-ヒドロキシステアリン酸リチウム及び上記ステアリン酸リチウムの合計量に対する割合が、5.0質量%以上95.0質量%以下であり、
上記添加剤は、ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデンとウレア系添加剤とを含み、
上記ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデンは、上記トリメリット酸エステル、上記ポリ-α-オレフィン、上記12-ヒドロキシステアリン酸リチウム、上記ステアリン酸リチウム、上記ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデン、及び上記ウレア系添加剤の合計量に対する割合が、1.5質量%以上8.0質量%以下であり、
上記ウレア系添加剤は、直径0.2μm以上の粒子の直径の平均値が0.2μm以上1.0μm以下であり、
上記ウレア系添加剤は、上記トリメリット酸エステル、上記ポリ-α-オレフィン、上記12-ヒドロキシステアリン酸リチウム、上記ステアリン酸リチウム、上記ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデン、及び上記ウレア系添加剤の合計量に対する割合が、1.2質量%以上3.4質量%以下である。
【0008】
上記グリース組成物は、貧潤滑環境になりやすい被潤滑部材の摩擦面を潤滑し、この摩擦面の摩耗を抑制するのに適している。
上記グリース組成物は、基油が所定量のトリメリット酸エステルとポリ-α-オレフィンとを含み、増ちょう剤が所定量のステアリン酸リチウム及び12-ヒドロキシステアリン酸リチウムを含むため、被潤滑部材の摩擦面に吸着しやすく、かつ上記摩擦面から抜け出しにくい。
また、上記グリース組成物は、所定量のジアルキルジチオカルバミン酸モリブデンを含有するため、上記摩擦面にトライボ反応膜を生成しやすい。
更に、上記グリース組成物は、特定のサイズのウレア系添加剤(ウレア化合物を含有する添加剤)を所定量含有するため、被潤滑部材の摩擦面同士の間に介在し、摩擦面同士の接触を抑制することができる。また、ウレア系添加剤は摩擦面を傷付けにくい。
【0009】
(2)上記(1)のグリース組成物において、上記ウレア系添加剤は、ウレア化合物とスチレン系ポリマーとの混合物であることが好ましい。
この場合、摩擦面を傷付けることなく、被潤滑部材の摩擦面同士の接触を抑制するのにより適している。この理由は、上記ウレア系添加剤は、適度な凝集状態を保った状態で、被潤滑部材の摩擦面同士の間に介在しやすいためと考えられる。
【0010】
(3)本発明のステアリングギヤ装置は、
ハウジングと、
ラック歯を有し、軸方向に沿って往復移動可能なラック軸と、
上記ラック歯と噛み合うピニオン歯を有するピニオン軸と、
上記ラック歯を上記ピニオン歯に付勢するラックガイド機構と、
互いに噛み合う上記ラック歯と上記ピニオン歯の間、及び、上記ラック軸の周面と上記ラックガイド機構の上記ラック軸に押し付けられる部分との間、に介在するグリース組成物と、を備え
上記グリース組成物が上記(1)又は(2)のグリース組成物である。
【0011】
上記ステアリングギヤ装置は、互いに噛み合う上記ラック歯と上記ピニオン歯の間、及び、上記ラック軸の周面と上記ラックガイド機構の上記ラック軸に押し付けられる部分との間、に介在するグリース組成物が、本発明のグリース組成物からなる。この場合、ラック歯、ピニオン歯、ラック軸のラックガイド機構と摺接する周面、ラックガイド機構のラック軸に押し付けられる部分の摩耗が抑制される。そのため、摩耗による被潤滑部位のクリアランスの変化量が少なく、操舵性能の低下等が発生しにくい。
【発明の効果】
【0012】
本発明のグリース組成物は、貧潤滑状態になりやすい部位に使用した場合にも優れた潤滑性能を発揮し、被潤滑部材の摩擦面の摩耗を抑制することができる。そのため、本発明のグリース組成物は、ラックアンドピニオンを備えたステアリングギヤ装置に用いるグリース組成物として適している。
【0013】
本発明のステアリングギヤ装置は、本発明のグリース組成物が使用されているため、長期間に亘って、ラック歯及びピニオン歯や、ラック軸のラックガイド機構と摺接する周面、ラックガイド機構のラック軸に押し付けられる部分の摩耗を抑制することができる。そのため、上記ステアリングギヤ装置は、操舵性能を長期間維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明のグリース組成物が封入されたデュアルピニオンタイプ電動パワーステアリング装置の一例を模式的に示す構成図である。
【
図4】本発明のグリース組成物が封入されたコラムタイプ電動パワーステアリング装置の一例を模式的に示す構成図である。
【
図6】ウレア系添加剤の製造方法の一例を説明するための工程図である。
【
図7】ウレア系添加剤の製造方法の別の一例を説明するための工程図である。
【
図8】ウレア系添加剤の製造方法の別の一例を説明するための工程図である。
【
図9】実施例及び比較例の評価結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について説明する。
なお、本発明において、発明についての実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の権利範囲は、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれる。
【0016】
まず、本発明のグリース組成物が使用されるステアリンングギヤ装置の実施形態について説明し、その後、本発明のグリース組成物の実施形態を説明する。
<ステアリンングギヤ装置>
本発明のグリース組成物は、例えば、デュアルピニオンタイプ電動パワーステアリング装置、コラムタイプ電動パワーステアリング装置等に使用される。
【0017】
(デュアルピニオンタイプ電動パワーステアリング装置)
図1は、ステアリングギヤ装置3を含む、デュアルピニオンタイプ電動パワーステアリング装置1の一例を模式的に示す構成図である。
図2は、ステアリングギヤ装置3の一部を示す
図1のA-A断面図である。
図2では、図面の下方が車両搭載時における鉛直方向の下側にあたる。
図3は、ステアリングギヤ装置3の一部を示す
図1のB-B断面図である。
図3では、図面の下方が車両搭載時における鉛直方向の下側にあたる。
【0018】
デュアルピニオンタイプ電動パワーステアリング装置1は、ステアリングホイール10と、ステアリングシャフト2と、第1のピニオン軸32と、ラック軸31と、ハウジング33と、2つのラックブッシュ30、34と、2つの軸受35、36と、第1のラックガイド機構39と、操舵補助装置5と、を備える。操舵補助装置5は、コントローラ50と、トルクセンサ51と、電動モータ52と、減速機構53と、第2のピニオン軸54と、2つの軸受55、56と、ウォームハウジング57と、第2のラックガイド機構59と、を備える。減速機構53は、ウォーム531と、ウォームホイール532と、を備える。
【0019】
このデュアルピニオンタイプ電動パワーステアリング装置1を備える自動車を運転する運転者はステアリングホイール10を回転させることで操舵操作する。ステアリングシャフト2は、コラムシャフト21と、第1の自在継手23と、中間シャフト22と、第2の自在継手24と、を備える。第1の自在継手23は、図示しない第1のヨークと、図示しない複数の第1の転動体と、図示しない第1の十字軸と、図示しない複数の第2の転動体と、図示しない第2のヨークと、を備える。第2の自在継手24は、図示しない第3のヨークと、図示しない複数の第3の転動体と、図示しない第2の十字軸と、図示しない複数の第4の転動体と、図示しない第4のヨークと、を備える。
【0020】
コラムシャフト21は延在方向の一端にステアリングホイール10を固定する。コラムシャフト21は延在方向の他端に第1の自在継手23の第1のヨークを固定する。コラムシャフト21は延在方向の中心軸を中心に回転可能である。第1のヨークは複数の第1の転動体を介して第1の十字軸の同じ中心軸上にある第1の一対のトラニオンに揺動可能に嵌められる。第2のヨークは複数の第2の転動体を介して第1の十字軸の同じ中心軸上にある第2の一対のトラニオンに揺動可能に嵌められる。第1の一対のトラニオンの中心軸と第2の一対のトラニオンの中心軸とは90度の角度で交わる。
【0021】
第1の自在継手23の第2のヨークは中間シャフト22の延在方向の一端を固定する。中間シャフト22は延在方向の他端に第2の自在継手24の第3のヨークを固定する。第3のヨークは複数の第3の転動体を介して第2の十字軸の同じ中心軸上にある第3の一対のトラニオンに揺動可能に嵌められる。第4のヨークは複数の第4の転動体を介して第2の十字軸の同じ中心軸上にある第4の一対のトラニオンに揺動可能に嵌められる。第3の一対のトラニオンの中心軸と第4の一対のトラニオンの中心軸とは90度の角度で交わる。第2の自在継手24の第4のヨークは第1のピニオン軸32の延在方向の一端を固定する。これにより、運転者がステアリングホイール10を回転させると、コラムシャフト21がその延在方向の中心軸を中心に回転し、中間シャフト22もその延在方向の中心軸を中心に回転し、第1のピニオン軸32もその延在方向の中心軸を中心に回転する。
【0022】
デュアルピニオンタイプ電動パワーステアリング装置1の内、第1のピニオン軸32と、ラック軸31と、ハウジング33と2つのラックブッシュ30、34と、第1の軸受35と、第2の軸受36と、第1のラックガイド機構39と、電動モータ52と、減速機構53と、第2のピニオン軸54と、第3の軸受55と、第4の軸受56と、ウォームハウジング57と、第2のラックガイド機構59と、はラックアンドピニオン式操舵装置としてのステアリングギヤ装置3を構成する。
図1は、ハウジング33を仮想線(二点鎖線)で表し、その内部を図示している。
【0023】
第1のピニオン軸32は、自動車の鉛直方向の上側から下側に向かって延在する。第1のピニオン軸32は、延在方向に沿って一端側から他端に向かって、セレーション部324と、第1の軸部322と、第1のピニオン歯部320と、第1のボス部323と、を有する。セレーションがセレーション部324に形成されている。セレーション部324のセレーションは第2の自在継手24の第4のヨークが固定される。第1の軸部322は円柱の形状である。第1のピニオン歯部320は周方向の全面に第1のピニオン歯321が形成されている。第1のピニオン歯321の延在方向は、第1のピニオン軸32の中心軸の延在方向に対して90度ではない角度を有する。第1のボス部323は円柱の形状である。
【0024】
ハウジング33は、ステアリングホイール10側に第1の開口332があり、第1の開口332とは反対側は密閉されている。第1のピニオン軸32はハウジング33の内部に収納される。第1のピニオン軸32はハウジング33に対して2つの軸受35,36によって回転可能に支持される。第1の軸受35は玉軸受である。第1の軸受35は内輪と、外輪と、玉と、を含み、内輪が第1の軸部322に固定されるとともに、外輪がハウジング33に固定され、玉が内輪と外輪とを転動する。第2の軸受36はころ軸受である。第2の軸受36はころと、外輪と、を含み、外輪がハウジング33に固定され、ころが第1のボス部323の外周面と外輪とを転動する。
【0025】
第1のピニオン軸32と第1の軸受35と第2の軸受36とがハウジング33に挿入された状態で、ハウジングの第1の開口332は第1のピニオン軸32が貫通する蓋37が固定されている。シールが蓋37に固定され、シールは第1のピニオン軸32の第1の軸部322の外周面322bに摺動可能である。さらにカバー部材38がハウジング33に固定されている。カバー部材38は第1のピニオン軸32の第1の軸部322の一部を径方向の外側から覆っている。
【0026】
ラック軸31は延在方向の一端から他端に向けて、第1の円柱部316と、第1のラック歯部310と、第2の円柱部317と、第2のラック歯部314と、第3の円柱部318と、を備える。第1のラック歯部310は周方向の一部に第1のラック歯311を有し、第1のラック歯部310は周方向の他部にラック軸31の延在方向を中心軸とする円筒面312を有する。第2のラック歯部314は周方向の一部に第2のラック歯315を有し、第1のラック歯部310は周方向の他部にラック軸31の延在方向を中心軸とする円筒面313を有する。第1の円柱部316の外周面と第2の円柱部317の外周面と第3の円柱部318の外周面とはそれぞれラック軸31の延在方向を中心軸とする円筒面である。第1のラック歯311の延在方向は、ラック軸の延在方向に対して90度でない角度を有している。第2のラック歯315の延在方向は、ラック軸31の延在方向に対して90度でない角度を有している。第1のラック歯311のラック軸31の延在方向に対する角度をXとすると、第2のラック歯315のラック軸31の延在方向に対する角度はπ-Xである。
【0027】
ハウジング33は、ステアリングホイール10側の第1の開口332とは異なる方向に延在し、延在方向の一端の第2の開口333と他端の第3の開口334とを有する。ラック軸31はハウジング33の延在方向に沿ってハウジング33の内部に収納される。ラック軸31の延在方向の一端にある第1の円柱部316はハウジング33の延在方向の一端の第2の開口333から突出している。ラック軸31の延在方向の他端にある第3の円柱部318はハウジング33の延在方向の他端の第3の開口334から突出している。ハウジング33は、第4の開口335を有する。第4の開口335は、第1の開口332よりもハウジングの延在方向の他端側にある。ハウジング33は、更に、第5の開口336と第6の開口337とを有する。第5の開口336は、第1の開口332とハウジング33の延在方向の略同じ位置でハウジング33の延在方向を中心軸とする径方向にあって、第1の開口332に垂直な方向にある。第6の開口337は、第4の開口335とハウジング33の延在方向の略同じ位置でハウジング33の延在方向を中心軸とする径方向にあって、第4の開口335に垂直な方向にある。
【0028】
第1のラックブッシュ30がハウジング33の延在方向の一端に固定されている。第1のラックブッシュ30は第2の開口333に隣接してハウジング33に固定されている。第1のラックブッシュ30はラック軸31の第1の円柱部316の外周面に摺動可能である。第2のラックブッシュ34がハウジング33の延在方向の他端に固定されている。第2のラックブッシュ34は第3の開口334に隣接してハウジング33に固定されている。第2のラックブッシュ34はラック軸31の第3の円柱部318の外周面に摺動可能である。
【0029】
第1のピニオン軸32の第1のピニオン歯部320に形成された第1のピニオン歯321とラック軸31の第1のラック歯部310に形成された第1のラック歯311とはグリース組成物Gを介して転がり滑り可能に接触している。第1のピニオン歯321と第1のラック歯311とはグリース組成物Gを介して噛み合っている。第1のピニオン軸32がその延在方向の中心軸を中心にハウジング33に対して回転すると、ラック軸31はハウジング33に対してハウジング33の延在方向に、直線方向に動く。
【0030】
第1のラックガイド機構39がハウジング33に固定されている。第1のラックガイド機構39は第5の開口336に固定される。第5の開口336は、ハウジング33の延在方向における第1のピニオン軸32がラック軸31と噛み合う位置の、ラック軸31の第1のラック歯部310の周方向の他部である円筒面312側にある。
【0031】
第1のラックガイド機構39は、第1のサポートヨーク391と、第1のシート部材392と、第1のコイルばね393と、第1のプラグ394と、を有する。第1のシート部材392はラック軸31の第1のラック歯部310の周方向の他部である円筒面312と、第1のサポートヨーク391の円筒面とに挟まれる。第1のシート部材392は第1のサポートヨーク391に固定される。第1のシート部材392とラック軸31の第1のラック歯部310の周方向の他部である円筒面312とはグリース組成物Gを介して滑り可能に接触している。第1のシート部材392は、例えば青銅などの金属層と、例えばPTFEなどの樹脂層とを含み、樹脂層がグリース組成物Gを介して円筒面312と接触する。第1のプラグ394はハウジング33の第5の開口336に固定される。第1のプラグ394は第1のコイルばね393の一端と接触する。第1のサポートヨーク391は第1のコイルばね393の他端と接触する。第1のコイルばね393は第1のプラグ394を第5の開口336に固定した状態で、自由長さより短くなっている。それで、第1のシート部材392はハウジング33に対してラック軸31に押し付けられている。
【0032】
第2のピニオン軸54は、自動車の鉛直方向の上側から下側に向かって延在する。第2のピニオン軸54は、延在方向に沿って一端側から他端に向かって、嵌合部544と、第2の軸部542と、第2のピニオン歯部540と、第2のボス部543と、を有する。嵌合部544は円柱の形状である。第2の軸部542は円柱の形状である。第2のピニオン歯部540は周方向の全面に第2のピニオン歯541が形成されている。第2のピニオン歯541の延在方向は、第2のピニオン軸54の中心軸の延在方向に対して90度ではない角度を有する。第2のボス部543は円柱の形状である。
【0033】
ウォームホイール532が嵌合部544に嵌合されている。ウォーム531は電動モータ52の出力軸521に固定されている。電動モータ52は、ウォームハウジング57に固定される。ウォームハウジング57は第7の開口571を有する。電動モータ52の出力軸521は第7の開口571を介してウォームハウジング57の内部空間に配置される。電動モータ52はウォームハウジング57の第7の開口571を塞ぐようにウォームハウジング57に固定される。
【0034】
ウォーム531はウォームハウジング57の内部空間に配置される。ウォームホイール532はウォームハウジング57の内部空間に配置される。ウォームハウジング57は鉛直上方に第8の開口572があり、第2のピニオン軸54とウォームホイール532の組み立て体は第8の開口572からウォームハウジング57の内部空間に挿入される。第8の開口は、蓋58で閉じられている。ウォームハウジング57は第8の開口572の反対側に第9の開口573を有する。第2のピニオン軸54の第2の軸部542の一部と、第2のピニオン歯部540と、第2のボス部543とはウォームハウジング57の第9の開口573から突出している。
【0035】
ウォームハウジング57はハウジング33に固定される。ウォームハウジング57の第9の開口573とハウジング33の第4の開口335とが連通し、外部空間から内部空間を密閉する。
【0036】
第3の軸受55は、玉軸受である。軸受55は内輪と、外輪と、玉と、を含み、内輪が第2の軸部542に固定されるとともに、外輪がウォームハウジング57に固定され、玉が内輪と外輪とを転動する。軸受56はころ軸受である。軸受56はころと、外輪と、を含み、外輪がハウジング33に固定され、ころが第2のボス部543の外周面と外輪とを転動する。
【0037】
第2のピニオン軸54の第2のピニオン歯部540に形成された第2のピニオン歯541とラック軸31の第2のラック歯部314に形成された第2のラック歯315とはグリース組成物Gを介して転がり滑り可能に接触している。第2のピニオン歯541と第2のラック歯315とはグリース組成物Gを介して噛み合っている。第2のピニオン軸54がその延在方向の中心軸を中心にハウジング33に対して回転すると、ラック軸31はハウジング33に対してハウジング33の延在方向に、直線方向に動く。
【0038】
ハウジング33は、第2のラックガイド機構59が固定されている。第2のラックガイド機構59は第6の開口337に固定される。第6の開口337は、ハウジング33の延在方向における第2のピニオン軸54がラック軸31と噛み合う位置の、ラック軸31の第2のラック歯部314の周方向の他部である円筒面313側にある。
【0039】
第2のラックガイド機構59は、第2のサポートヨーク591と、第2のシート部材592と、第2のコイルばね593と、第2のプラグ594と、を有する。第2のシート部材592はラック軸31の第2のラック歯部314の周方向の他部である円筒面313と、第2のサポートヨーク591の円筒面とに挟まれる。第2のシート部材592は第2のサポートヨーク591に固定される。第2のシート部材592とラック軸31の第2のラック歯部314の周方向の他部である円筒面313とはグリース組成物Gを介して滑り可能に接触している。第2のシート部材592は、例えば青銅などの金属層と、例えばPTFEなどの樹脂層とを含み、樹脂層がグリース組成物Gを介して円筒面313と接触する。第2のプラグ594はハウジング33の第6の開口337に固定される。第2のプラグ594は第2のコイルばね593の一端と接触する。第2のサポートヨーク591は第2のコイルばね593の他端と接触する。第2のコイルばね593は第2のプラグ594を第6の開口337に固定した状態で、自由長さより短くなっている。それで、第2のシート部材592はハウジング33に対してラック軸31に押し付けられている。
【0040】
トルクセンサ51はコラムシャフト21で運転者がステアリングホイール10に付与する操舵トルクを検出する。減速機構53は、電動モータ52の出力軸521と一体に回転するウォーム531と、第2のピニオン軸54と一体に回転するウォームホイール532とが噛み合わされた組み立て体である。モータ電流がコントローラ50から電動モータ52に供給される。コントローラ50は、トルクセンサ51によって検出された操舵トルクや車速等に基づいて電動モータ52を制御し、減速機構53で減速された電動モータ52の出力軸521の回転力を第2のピニオン軸54に伝達する。第2のピニオン軸54の回転力は、操舵補助力として第2のピニオン歯541から第2のラック歯315に付与される。
【0041】
ハウジング33は図示しない自動車に、その車幅方向にハウジング33の延在方向を一致させて固定されている。ボールジョイントソケット11,11がそれぞれラック軸31の一端と他端とに固定され、これらのボールジョイントソケット11,11にそれぞれ連結されたタイロッド12,12が、ナックルアーム13,13を介して左右一対の前輪14,14を回転可能に支持する転がり軸受の軌道輪に連結されている。ラック軸31がハウジング33の延在方向に直線方向に動くことで、転舵輪である左右の前輪14,14を転舵させる。
【0042】
グリース組成物Gがハウジング33内に封入されている。グリース組成物Gは、第1のピニオン歯321と第1のラック歯311とが互いに噛み合うことによって接触する、第1のピニオン歯321の転がり滑り面と第1のラック歯311の転がり滑り面との間に介在することで、両転がり滑り面の間を潤滑する。グリース組成物Gは、第1のシート部材392とラック軸31とが互いに押し付けられることによって接触する、第1のシート部材392の滑り面とラック軸31の第1のラック歯部310の周方向の他部である円筒面312の滑り面との間に介在することで、両滑り面の間を潤滑する。グリース組成物Gは、第2のピニオン歯541と第2のラック歯315とが互いに噛み合うことによって接触する、第2のピニオン歯541の転がり滑り面と第2のラック歯315の転がり滑り面との間に介在することで、両転がり滑り面の間を潤滑する。グリース組成物Gは、第2のシート部材592とラック軸31とが互いに押し付けられることによって接触する、第2のシート部材592の滑り面とラック軸31の第2のラック歯部314の周方向の他部である円筒面313の滑り面との間に介在することで、両滑り面の間を潤滑する。
【0043】
本発明のグリース組成物は、このように構成されたステアリングギヤ装置3にグリース組成物Gとして、封入されている。本発明のグリース組成物は、第1のピニオン歯321と第1のラック歯311との噛合い部分、第2のピニオン歯541と第2のラック歯315との噛合い部分、第1のラックガイド機構39が有する第1のシート部材392とラック軸31との摺接部分、及び、第2のラックガイド機構59が有する第2のシート部材592とラック軸31との摺接部分、を良好に潤滑することができる。よって、本発明のグリース組成物は、これらの部分の摩耗量を低減することができる。
【0044】
(コラムタイプ電動パワーステアリング装置)
図4は、ステアリングギヤ装置603を含む、コラムタイプ電動パワーステアリング装置601の一例を模式的に示す構成図である。
図5は、ステアリングギヤ装置603の一部を示す
図4のA-A断面図である。
図5では、図面の下方が車両搭載時における鉛直方向の下側にあたる。
【0045】
コラムタイプ電動パワーステアリング装置601は、ステアリングホイール610と、ステアリングシャフト602と、ピニオン軸632と、ラック軸631と、ハウジング633と、2つのラックブッシュ630、634と、2つの軸受635,636と、ラックガイド機構639と、操舵補助装置4と、を備える。このコラムタイプ電動パワーステアリング装置601を備える自動車を運転する運転者はステアリングホイール610を回転させることで操舵操作する。ステアリングシャフト602は、コラムシャフト621と、第1の自在継手623と、中間シャフト622と、第2の自在継手624と、を備える。第1の自在継手623は、図示しない第1のヨークと、図示しない複数の第1の転動体と、図示しない第1の十字軸と、図示しない複数の第2の転動体と、図示しない第2のヨークと、を備える。第2の自在継手624は、図示しない第3のヨークと、図示しない複数の第3の転動体と、図示しない第2の十字軸と、図示しない複数の第4の転動体と、図示しない第4のヨークと、を備える。
【0046】
コラムシャフト621は延在方向の一端にステアリングホイール610を固定する。コラムシャフト621は延在方向の他端に第1の自在継手623の第1のヨークを固定する。コラムシャフト621は延在方向の中心軸を中心に回転可能である。第1のヨークは複数の第1の転動体を介して第1の十字軸の同じ中心軸上にある第1の一対のトラニオンに揺動可能に嵌められる。第2のヨークは複数の第2の転動体を介して第1の十字軸の同じ中心軸上にある第2の一対のトラニオンに揺動可能に嵌められる。第1の一対のトラニオンの中心軸と第2の一対のトラニオンの中心軸とは90度の角度で交わる。
【0047】
第1の自在継手623の第2のヨークは中間シャフト622の延在方向の一端を固定する。中間シャフト622は延在方向の他端に第2の自在継手624の第3のヨークを固定する。第3のヨークは複数の第3の転動体を介して第2の十字軸の同じ中心軸上にある第3の一対のトラニオンに揺動可能に嵌められる。第4のヨークは複数の第4の転動体を介して第2の十字軸の同じ中心軸上にある第4の一対のトラニオンに揺動可能に嵌められる。第3の一対のトラニオンの中心軸と第4の一対のトラニオンの中心軸とは90度の角度で交わる。第2の自在継手624の第4のヨークはピニオン軸632の延在方向の一端を固定する。これにより、運転者がステアリングホイール610を回転させると、コラムシャフト621がその延在方向の中心軸を中心に回転し、中間シャフト622もその延在方向の中心軸を中心に回転し、ピニオン軸632もその延在方向の中心軸を中心に回転する。
【0048】
コラムタイプ電動パワーステアリング装置601の内、ピニオン軸632と、ラック軸631と、ハウジング633と2つのラックブッシュ630、634と、2つの軸受635,636と、ラックガイド機構639と、はラックアンドピニオン式操舵装置としてのステアリングギヤ装置603を構成する。
図4は、ハウジング633を仮想線(二点鎖線)で表し、その内部を図示している。
【0049】
ピニオン軸632は、自動車の鉛直方向の上側から下側に向かって延在する。ピニオン軸632は、延在方向に沿って一端側から他端に向かって、セレーション部724と、軸部722と、ピニオン歯部720と、ボス部723と、を有する。セレーションがセレーション部724に形成されている。セレーション部724のセレーションは第2の自在継ぎ手624の第4のヨークが固定される。軸部722は円柱の形状である。ピニオン歯部720は周方向の全面にピニオン歯721が形成されている。ピニオン歯721の延在方向は、ピニオン軸632の中心軸の延在方向に対して90度ではない角度を有する。ボス部723は円柱の形状である。
【0050】
ハウジング633は、ステアリングホイール610側に第1の開口732があり、第1の開口732とは反対側は密閉されている。ピニオン軸632はハウジング633の内部に収納される。ピニオン軸632はハウジング633に対して2つの軸受635,636によって回転可能に支持される。軸受635は玉軸受である。軸受635は内輪と、外輪と、玉と、を含み、内輪が軸部722に固定されるとともに、外輪がハウジング633に固定され、玉が内輪と外輪とを転動する。軸受636はころ軸受である。軸受636はころと、外輪と、を含み、外輪がハウジング633に固定され、ころがボス部723の外周面と外輪とを転動する。
【0051】
ピニオン軸632と2つの軸受635,636がハウジング633に挿入された状態で、ハウジングの第1の開口732はピニオン軸632が貫通する蓋637が固定されている。シールが蓋637に固定され、シールはピニオン軸632の軸部722の外周面722bに摺動可能である。さらにカバー部材638がハウジング633に固定されている。カバー部材638はピニオン軸632の軸部722の一部を径方向の外側から覆っている。
【0052】
ラック軸631は延在方向の一端から他端に向けて、第1の円柱部716と、ラック歯部710と、第2の円柱部717と、を備える。ラック歯部710は周方向の一部にラック歯711を有し、ラック歯部710は周方向の他部にラック軸631の延在方向を中心軸とする円筒面712を有する。第1の円柱部716の外周面と第2の円柱部717の外周面とはそれぞれラック軸631の延在方向を中心軸とする円筒面である。ラック歯711の延在方向は、ラック軸631の延在方向に対して90度でない角度を有している。
【0053】
ハウジング633は、ステアリングホイール610側の第1の開口732とは異なる方向に延在し、延在方向の一端の第2の開口733と他端の第3の開口734とを有する。ラック軸631はハウジング633の延在方向に沿ってハウジング633の内部に収納される。ラック軸631の延在方向の一端はハウジング633の延在方向の一端の第2の開口733から突出している。ラック軸631の延在方向の他端はハウジング633の延在方向の他端の第3の開口734から突出している。
【0054】
第1のラックブッシュ630がハウジング633の延在方向の一端に固定されている。第1のラックブッシュ630は第2の開口733に隣接してハウジング633に固定されている。第1のラックブッシュ630はラック軸631の第1の円柱部716の外周面に摺動可能である。第2のラックブッシュ634がハウジング633の延在方向の他端に固定されている。第2のラックブッシュ634は第3の開口734に隣接してハウジング633に固定されている。第2のラックブッシュ634はラック軸631の第2の円柱部717の外周面に摺動可能である。
【0055】
ピニオン軸632のピニオン歯部720に形成されたピニオン歯721とラック軸631のラック歯部710に形成されたラック歯711とはグリース組成物Gを介して転がり滑り可能に接触している。ピニオン歯721とラック歯711とはグリース組成物Gを介して噛み合っている。ピニオン軸632がその延在方向の中心軸を中心にハウジング633に対して回転すると、ラック軸631はハウジング633に対してハウジング633の延在方向に、直線方向に動く。
【0056】
ハウジング633は図示しない自動車に、その車幅方向にハウジング633の延在方向を一致させて固定されている。ボールジョイントソケット11,11がそれぞれラック軸631の一端と他端とに固定され、これらのボールジョイントソケット11,11にそれぞれ連結されたタイロッド12,12が、ナックルアーム13,13を介して左右一対の前輪14,14を回転可能に支持する転がり軸受の軌道輪に連結されている。ラック軸631がハウジング633の延在方向に直線方向に動くことで、転舵輪である左右の前輪14,14を転舵させる。
【0057】
ハウジング633は、ラックガイド機構639が固定されている。ハウジング633は、延在方向におけるピニオン軸632がラック軸631と噛み合う位置の、ラック軸631のラック歯部710の周方向の他部である円筒面712側に第4の開口736を有する。
【0058】
ラックガイド機構639は、サポートヨーク791と、シート部材792と、コイルばね793と、プラグ794と、を有する。シート部材792はラック軸631のラック歯部710の周方向の他部である円筒面712と、サポートヨーク791の円筒面とに挟まれる。シート部材792はサポートヨーク791に固定される。シート部材792とラック軸631のラック歯部710の周方向の他部である円筒面712とはグリース組成物Gを介して滑り可能に接触している。シート部材792は、例えば青銅などの金属層と、例えばPTFEなどの樹脂層とを含み、樹脂層がグリース組成物Gを介して円筒面712と接触する。プラグ794はハウジング633の第4の開口736に固定される。プラグ794はコイルばね793の一端と接触する。サポートヨーク791はコイルばね793の他端と接触する。コイルばね793はプラグ794を第4の開口736に固定した状態で、自由長さより短くなっている。それで、シート部材792はハウジング633に対してラック軸631に押し付けられている。
【0059】
操舵補助装置4は、コントローラ40と、運転者がステアリングホイール610に付与する操舵トルクを検出するトルクセンサ41と、電動モータ42と、電動モータ42の出力軸421の回転力を減速してコラムシャフト621に伝達する減速機構43とを有している。減速機構43は、電動モータ42の出力軸421と一体に回転するウォーム431と、コラムシャフト621と一体に回転するウォームホイール432とが噛み合わされた組み立て体である。モータ電流がコントローラ40から電動モータ42に供給される。コントローラ40は、トルクセンサ41によって検出された操舵トルクや車速等に基づいて電動モータ42を制御し、減速機構43で減速された電動モータ42の出力軸421の回転力は操舵補助力としてコラムシャフト621に付与される。
【0060】
グリース組成物Gがハウジング633内に封入されている。グリース組成物Gは、ピニオン歯721とラック歯711とが互いに噛み合うことによって接触する、ピニオン歯721の転がり滑り面とラック歯711の転がり滑り面との間に介在することで、両転がり滑り面の間を潤滑する。グリース組成物Gは、シート部材792とラック軸631とが互いに押し付けられることによって接触する、シート部材792の滑り面とラック軸631のラック歯部710の周方向の他部である円筒面712の滑り面との間に介在することで、両滑り面の間を潤滑する。
【0061】
本発明のグリース組成物は、このように構成されたステアリングギヤ装置603にグリース組成物Gとして、封入されている。本発明のグリース組成物は、ピニオン歯721と第1のラック歯711との噛合い部分、及び、ラックガイド機構639が有するシート部材792とラック軸631との摺接部分を良好に潤滑することができる。よって、本発明のグリース組成物は、これらの部分の摩耗量を低減することができる。
【0062】
本発明のグリース組成物は、上述したデュアルピニオンタイプ電動パワーステアリング装置、コラムタイプ電動パワーステアリング装置等に封入して使用することができる。
【0063】
<グリース組成物>
本発明の実施形態に係るグリース組成物は、基油と、増ちょう剤と、添加剤とを含む。
【0064】
(基油)
上記基油は、ポリ-α-オレフィン(PAO)とトリメリット酸エステルとを含む混合物からなる。
【0065】
上記ポリ-α-オレフィンとして、例えば、1-ヘキセン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン等のα-オレフィンを、オリゴマー化又はポリマー化したもの、更にはこれらを水素化したものが挙げられる。
上記ポリ-α-オレフィンとして、1-デセンをオリゴマー化した、PAO4~PAO10が好ましい。
【0066】
上記ポリ-α-オレフィンの好ましい40℃における基油動粘度は、20~60mm2/sである。より好ましい上記基油動粘度(40℃)は、25~55mm2/sである。
【0067】
上記トリメリット酸エステルとして、トリメリット酸トリエステルが好ましい。トリメリット酸トリエステルが好ましい理由は、グリース組成物の耐熱性を向上させるのに適しているからである。
上記トリメリット酸トリエステルとして、例えば、トリメリット酸と炭素数6~18のモノアルコールとの反応物が挙げられる。これらの中で、トリメリット酸と、炭素数8及び/又は10のモノアルコールとの反応物が好ましい。
上記トリメリット酸トリエステルの具体例として、トリメリット酸トリ2-エチルヘキシル、トリメリット酸トリノルマルアルキル(C8、C10)、トリメリット酸トリイソデシル、トリメリット酸トリノルマルオクチル等が挙げられる。
上記トリメリット酸トリエステルは、1種類のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0068】
上記トリメリット酸トリエステルの好ましい40℃における基油動粘度は、37~57mm2/sである。
【0069】
上記トリメリット酸エステルの上記トリメリット酸エステル及び上記ポリ-α-オレフィンの合計量に対する割合は、10.0質量%以上60.0質量%以下である。
上記基油が10質量%以上のトリメリット酸エステルを含有するため、上記グリース組成物は、被潤滑部材の摩擦面に吸着しやすい。また、上記グリース組成物の上記基油におけるトリメリット酸エステルの割合が60質量%以下であることによって、上記グリース組成物が被潤滑部材を腐食することを回避している。一般にエステル油の割合が大きいと、グリース組成物がゴム製の周辺部品を腐食してしまうことがある。
【0070】
(増ちょう剤)
本発明のグリース組成物は、増ちょう剤として、12-ヒドロキシステアリン酸リチウムとステアリン酸リチウムとを含む。
ステアリン酸リチウムは、摩擦の低減に高い効果を発揮しうるものの、これを単独で使用した場合には、低温でのトルクが上昇する傾向を有する。上記グリース組成物は、ステアリン酸リチウムと12-ヒドロキシステアリン酸リチウムとを併用しているため、低温でのトルク上昇が抑制されている。
【0071】
上記増ちょう剤において、12-ヒドロキシステアリン酸リチウムの12-ヒドロキシステアリン酸リチウム及びステアリン酸リチウムの合計量に対する割合は、5.0質量%以上95.0質量%以下である。
12-ヒドロキシステアリン酸リチウムの上記割合が5.0質量%未満であると、上記の併用効果を十分に発揮できない場合がある。また、12-ヒドロキシステアリン酸リチウムの上記割合が95.0質量%を超える場合、上記の併用効果を十分に発揮できない場合がある。
12-ヒドロキシステアリン酸リチウムの、12-ヒドロキシステアリン酸リチウム及びステアリン酸リチウムの合計量に対する好ましい割合は、20.0質量%以上75.0質量%以下であり、より好ましい割合は、25.0質量%以上60.0質量%以下である。
【0072】
(添加剤)
本発明のグリース組成物は、添加剤として、ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデンとウレア系添加剤とを含む。
【0073】
[ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデン]
上記ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデンは、極圧添加剤として働くことができる。上記ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデンを含有するグリース組成物を用いることで、被潤滑部材の摩擦面の摩耗を低減することができる。
【0074】
上記グリース組成物において、上記ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデン(以下、MoDTCともいう)の、上記トリメリット酸エステル、上記ポリ-α-オレフィン、上記12-ヒドロキシステアリン酸リチウム、上記ステアリン酸リチウム、上記ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデン、及び上記ウレア系添加剤の合計量に対する割合(以下、MoDTC比率ともいう)は、1.5質量%以上8.0質量%以下である。
【0075】
この場合、グリース組成物は、被潤滑部材の摩擦面にトライボ反応膜を形成するのに適しており、これによって、当該摩擦面の摩耗を低減することができる。特に、グリース組成物は、鋼材からなる被潤滑部材の摩擦面における摩耗抑制、及び、フッ素樹脂等の樹脂からなる被潤滑部材の摩擦面における摩耗抑制を両立するのに適している。
上記MoDTC比率が1.5質量%未満の場合、グリース組成物は、MoDTCを添加する効果が得られない。一方、上記MoDTC比率が8.0質量%を超える場合、グリース組成物が硬くなり、当該グリース組成物は、被潤滑部材の摩擦面同士の間に入り込みにくくなる。
【0076】
上記MoDTCとして、例えば、下記式(1)で表される化合物が挙げられる。
【0077】
【0078】
(式中、R1~R4はそれぞれ独立して、直鎖状又は分岐を有するアルキル基である。)
【0079】
上記MoDTCとして、市販品を使用することができる。上記市販品として、例えば、アデカサクラルーブ200、アデカサクラルーブ165、アデカサクラルーブ525、アデカサクラルーブ600(いずれも、ADEKA社製)等が挙げられる。
【0080】
[ウレア系添加剤]
上記ウレア系添加剤は、ウレア化合物を含有する添加剤である。
上記ウレア系添加剤は、直径0.2μm以上の粒子の直径の平均値が0.2μm以上1.0μm以下である。
このような寸法のウレア系添加剤を含有するため、グリース組成物は、被潤滑部位(例えば、上述した、ステアリングギヤ装置におけるピニオン歯とラック歯との噛合い部分や、ラックガイド機構が有するシート部材とラック軸との摺接部分など)に入り込みやすくなる。そのため、上記ウレア系添加剤を含有するグリース組成物を用いることにより被潤滑部材の摩擦面同士は、接触しにくくなり、摩擦面の摩耗は、抑制される。
一方、上記直径の平均値が1.0μmを超えると、グリース組成物は、被潤滑部材の摩擦面同士の間に入り込みにくくなる。
【0081】
上記ウレア系添加剤の、上記トリメリット酸エステル、上記ポリ-α-オレフィン、上記12-ヒドロキシステアリン酸リチウム、上記ステアリン酸リチウム、上記ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデン、及び上記ウレア系添加剤の合計量に対する割合(以下、ウレア系添加剤比率ともいう)は、1.2質量%以上3.4質量%以下である。
上記ウレア系添加剤比率が上記範囲にあるグリース組成物を用いることで、グリース組成物は、被潤滑部材の摩擦面を顕著に摩耗されにくくできる。
【0082】
上記ウレア系添加剤として、ウレア化合物とスチレン系ポリマーとが絡み合った状態で存在する、ウレア化合物とスチレン系ポリマーとの混合物が好ましい。
ウレア化合物とスチレン系ポリマーとが絡み合った状態で存在するウレア系添加剤は、後述する方法で製造することができる。
【0083】
上記ウレア化合物として、例えば、ジウレア、トリウレア、テトラウレア、ポリウレア(ジウレア、トリウレア、テトラウレアを除く)等のウレア化合物、ウレア・ウレタン化合物、及び、これらの混合物等が挙げられる。
【0084】
上記グリース組成物が良好な耐熱性を有する理由で、好ましい上記ウレア化合物は、下記構造式(1)で表されるジウレアである。
R1-NHCONH-R2-NHCONH-R3・・・(1)
(式(1)中、R1及びR3は互いに独立してアミノ残基を示し、R2はジイソシアネート残基を示す。)
上記構造式(1)で表されるジウレアは、アミン化合物とジイソシアネート化合物との反応物である。
【0085】
上記アミン化合物は、増ちょう剤として知られているジウレアを合成するためのアミン化合物として公知のものであればよい。
上記アミン化合物として、例えば、アルキルアミン、アルキルフェニルアミン、シクロヘキシルアミン等が挙げられる。
好ましいアミン化合物は、グリース組成物が、良好な低トルク性を有する点、及び、グリース組成物が、良好な耐熱性を有する点でアルキルアミンである。
【0086】
上記ジイソシアネート化合物は、増ちょう剤として知られているジウレアを合成するためのジイソシアネート化合物として公知のものであればよい。
上記ジイソシアネート化合物として、例えば、2,4-トルエンジイソシアネート(2,4-TDI)、2,6-トルエンジイソシアネート(2,6-TDI)、2,4-TDIと2,6-TDIとの混合物、4,4′-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)等が挙げられる。
【0087】
上記スチレン系ポリマーは、単量体成分としてスチレン又はその誘導体を含むポリマーである。
上記スチレン系ポリマーは、スチレン又はその誘導体の単独重合体であってもよいし、スチレン及びその誘導体から選択される第1単量体成分と、他の単量体成分との共重合体であってもよい。上記他の単量体成分は、第1単量体成分と異なれば、スチレン又はその誘導体でもよい。
上記共重体として、例えば、ランダム共重合、交互共重合、ブロック共重合、グラフト共重体が挙げられる。
【0088】
上記スチレンの単独重合体として、例えば、アタクチックポリスチレン、イソタクチックポリスチレン、ポリ-p-メチルスチレン、ポリ-p-エチルスチレン、ポリ-p-イソプロピルスチレン、ポリ-α-メチルスチレン等が挙げられる。
【0089】
上記共重合体として、例えば、スチレン及びその誘導体から選択される第1単量体成分と、第1単量体成分以外のスチレン又はその誘導体との共重合体が挙げられる。
上記共重合体として、例えば、上記第1単量体成分と、アルカジエンとの共重合体も挙げられる。上記アルカジエンとして、ブタジエン、イソプレン、ペンタジエン、ヘキサジエン等が挙げられる。
【0090】
上記共重合体として、スチレン・イソプレン共重合体が好ましい。
上記スチレン・イソプレン共重合体において、スチレンとイソプレンとの割合(モル比)は、スチレン:イソプレン=1:9~9:1とすればよい。
上記共重合体は、2種類の単量体成分の共重合体に限定されず、3種類以上の単量体成分の共重合体であってもよい。
【0091】
上記スチレン系ポリマーの好ましい数平均分子量は、1万以上50万以下であり、より好ましい数平均分子量は、2万以上20万以下である。
上記数平均分量の測定は、ゲル透過クロマトグラフィーを用いて行う。
【0092】
上記スチレン系ポリマーとして、市販品を使用することができる。
市販品の具体例として、例えば、Lubrizol(登録商標) 7306(日本ルーブリゾール社製)、同7308、同7460、Infineum(登録商標) SV140(Infineum社製)、同150、同160、Septon(登録商標) 1001(クラレ社製)、同1020等が挙げられる。
【0093】
スチレン系ポリマーの好ましい含有量は、上記ウレア化合物及び上記スチレン系ポリマーの合計量に対して2質量%以上30質量%以下である。この場合、ウレア系添加剤の直径の平均値を上記の範囲に調整することが容易である。
上記スチレン系ポリマーの好ましい含有量は、上記ウレア化合物及び上記スチレン系ポリマーの合計量に対して、2質量%以上20質量%以下であり、より好ましくは、2質量%以上9質量%以下である。
【0094】
上記ウレア系添加剤の大きさは、上述した通り、直径0.2μm以上の粒子の直径の平均値が0.2μm以上1.0μm以下である。上記ウレア系添加剤の直径の平均値は、ウレア系添加剤の粒子の形状を真球とみなし、当該粒子の体積から算出した直径の平均値である。
上記ウレア系添加剤の直径の平均値は、共焦点レーザ顕微鏡を使用し、波長488nmのレーザ光を励起光に用いて計測する。
共焦点レーザ顕微鏡によるウレア系添加剤の観察は、共焦点レーザ顕微鏡の分解能のため、直径0.2μm未満の粒子を観察できない。そのため、上記グリース組成物は、ウレア系添加剤の直径の平均値として、直径0.2μm以上のウレア系添加剤の粒子の直径の平均値を規定している。また、共焦点レーザ顕微鏡によるウレア系添加剤の観察は、直径が0.2μm未満のウレア系添加剤の粒子を観察できないため、上記直径の平均値の下限値は、0.2μmである。
ただし、このことは、上記グリース組成物が、直径0.2μm未満のウレア系添加剤を含有しないことを意味するわけではない。
【0095】
上記ウレア系添加剤を含有するグリース組成物に、波長488nmのレーザ光を照射した場合、上記ウレア系添加剤に含まれるウレア化合物は蛍光を発光するため、ウレア化合物が蛍光画像として観察される。
そして、上記グリース組成物のウレア系添加剤の観察において、共焦点レーザー蛍光顕微鏡で観察されるウレア化合物の蛍光画像は、上記ウレア系添加剤の粒子の蛍光画像とみなされる。
また、上記ウレア系添加剤の大きさは、上記の観察された蛍光画像について、ウレア系添加剤の粒子の体積を計測し、ウレア系添加剤の粒子の形状を真球とみなし、計測された体積からウレア系添加剤の粒子の直径を算出し、その平均値を算出することで求められる。
上記直径の平均値の算出は、市販の解析ソフトで行えばよい。
【0096】
上記グリース組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデンとウレア系添加剤以外の添加剤(以下、本明細書においては、他の添加剤ともいう。)を含有してもよい。
上記他の添加剤として、例えば、酸化防止剤、防錆剤、耐摩耗剤、染料、色相安定剤、増粘剤、構造安定剤、金属不活性剤、粘度指数向上剤などが挙げられる。
上記グリース組成物が他の添加剤を含有する場合、グリース組成物における上記他の添加剤の総含有質量は、好ましくは、基油と増ちょう剤の合計質量に対して15質量%以下である。
【0097】
上記グリース組成物の混和ちょう度は、好ましくは、00号ちょう度~2号ちょう度である。
上記グリース組成物は、上記混和ちょう度をこのような範囲に調整することにより、ステアリングギヤ装置に封入した際の十分な耐漏洩性を確保できるとともに、被潤滑部材の摩擦面に良好に流入させることができる。
【0098】
本発明のグリース組成物は、上述したように、自動車のステアリングギヤ装置等に好適に使用することができる。
上記グリース組成物は、その他、転がり軸受などに封入するグリース組成物として使用することもできる。
【0099】
<グリース組成物の製造方法>
上記グリース組成物は、各含有成分を混合することによって、製造される。具体的に言うと、上記グリース組成物を、例えば、下記の手順で製造することができる。
【0100】
(1)ポリ-α-オレフィンに、ステアリン酸リチウムと12-ヒドロキシステアリン酸リチウムとを添加し、攪拌しながら加熱して(例えば、230℃)ステアリン酸リチウム及び12-ヒドロキシステアリン酸リチウムをポリ-α-オレフィンに溶解させる。
【0101】
(2)その後、ステアリン酸リチウム及び12-ヒドロキシステアリン酸リチウムが溶解したポリ-α-オレフィンを冷却し、所定の温度(例えば、150℃)まで冷却した時点で、トリメリット酸エステルを混合し、更に冷却を続けてステアリン酸リチウム及び12-ヒドロキシステアリン酸リチウムを析出させて、ベースグリースを調製する。
冷却後、必要に応じて、ロール等を用いた均質化処理を行ってもよい。
【0102】
(3)工程(2)で調製したベースグリースに、MoDTCと、ウレア系添加剤と、必要に応じて含有させる他の添加剤とを添加して混合する。
このような工程(1)~(3)を経ることにより、上記グリース組成物を製造することができる。
【0103】
また、上記ウレア系添加剤は、下記の方法で製造することができる。下記の方法で製造されたウレア系添加剤は、ウレア化合物とスチレン系ポリマーとが絡み合った状態のウレア系添加剤である。
上記ウレア系添加剤は、スチレン系ポリマーの共存下、アミン化合物とイソシアネート化合物とを所定のモル比で混合し、アミン化合物とイソシアネート化合物とを反応させることによって製造される。ここで、イソシアネート化合物としてジイソシアネート化合物を使用し、ウレア化合物としてジウレアを合成する場合を例に上記ウレア系添加剤の製造方法を説明する。
【0104】
(ウレア系添加剤の製造方法)
上記ウレア系添加剤は、例えば、下記の製造方法A~Cのいずれかの方法等で製造される。
【0105】
[製造方法A]
図6は、ウレア系添加剤の製造方法の一例(製造方法A)を説明するための工程図である。
(1)アミン化合物と、ジイソシアネート化合物と、スチレン系ポリマーと、溶媒Aと、溶媒Bとをそれぞれ所定量ずつ準備する。
アミン化合物、ジイソシアネート化合物、及びスチレン系ポリマーの具体例は、上述した通りである。
【0106】
好ましい溶媒A及び溶媒Bのそれぞれは、準備したスチレン系ポリマーよりも沸点が低く、かつ準備したスチレン系ポリマーを溶解するものである。
上記溶媒A及び上記溶媒Bの具体例として、例えば、トルエン、ヘキサン、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、p-キシレン、m-キシレン、o-キシレン、酢酸メチル等が挙げられる。なお、アミン基を有する物質、水酸基を有する物質等のイソシアネート基を有する物質と反応する物質や、アミン基を有する物質と反応する物質を上記溶媒A、溶媒Bとして使用することを避けることが、好ましい。
好ましい上記溶媒A及び上記溶媒Bは、準備したスチレン系ポリマーよりも粘度が低い。
本発明において、溶媒及びスチレン系ポリマーの粘度は、JIS Z8803:2011の方法で、キャノン-フェンスケ粘度計を用いて測定される。
【0107】
上記溶媒Aと上記溶媒Bとは、同一であってもよいし、異なっていてもよい。上記溶媒Aと上記溶媒Bとが同一であることが好ましい。
後工程で、溶媒Aを含む混合液Aと溶媒Bを含む混合液Bを混合した際に、上記混合液Aと上記混合液Bとが確実に混ざり合うように、上記溶媒Aと上記溶媒Bとが同一であることは、アミン化合物とジイソシアネート化合物との反応を進行させるのに適している。また、その後の工程で、溶媒A及び溶媒Bを除去する際に、上記溶媒Aと上記溶媒Bとが同一であることは、除去方法や除去条件の選択が容易になる。
【0108】
(2)次に、溶媒Aにスチレン系ポリマーの一部とアミン化合物とを添加して混合液Aを得る(S111)。
このとき、スチレン系ポリマー及びアミン化合物を溶媒Aに添加するタイミングは特に限定されず、
(a)溶媒Aにスチレン系ポリマーを溶解させて溶液を調製し、その後、得られた溶液にアミン化合物を溶解又は分散させて混合液Aとしてもよいし、
(b)溶媒Aにアミン化合物を溶解又は分散させて混合液を調製し、その後、得られた混合液にスチレン系ポリマーを溶解させて混合液Aとしてもよいし、
(c)溶媒Aにアミン化合物とスチレン系ポリマーとを同時に添加し、その後、全成分を混合して混合液Aとしてもよい。
このとき、アミン化合物の量は、例えば溶媒A100質量%に対して、5質量%以上60質量%以下である。
また、スチレン系ポリマーの量は、例えば溶媒A100質量%に対して、0.3質量%以上30質量%以下である。
【0109】
(3)上記(2)の工程とは別に、溶媒Bに残りのスチレン系ポリマーとジイソシアネート化合物とを添加して混合液Bを得る(S112)。
このとき、スチレン系ポリマー及びジイソシアネート化合物を溶媒Bに添加するタイミングは特に限定されず、
(a)溶媒Bにスチレン系ポリマーを溶解させて溶液を調製し、その後、得られた溶液にジイソシアネート化合物を溶解又は分散させて混合液Bとしてもよいし、
(b)溶媒Bにジイソシアネート化合物を溶解又は分散させて混合液を調製し、その後、得られた混合液にスチレン系ポリマーを溶解させて混合液Bとしてもよいし、
(c)溶媒Bにジイソシアネート化合物とスチレン系ポリマーとを同時に添加し、その後、全成分を混合して混合液Bとしてもよい。
このとき、ジイソシアネート化合物の量は、例えば溶媒B100質量%に対して、5質量%以上60質量%以下である。
また、スチレン系ポリマーの量は、例えば溶媒B100質量%に対して、0.3質量%市場30質量%以下である。
【0110】
(4)次に、混合液Aと混合液Bとを混合して、アミン化合物とジイソシアネート化合物とを反応させて、ジウレアを合成する(S113)。
混合液Aと混合液Bとの混合は、混合液Aを攪拌しつつ、そこに混合液Bを滴下して両者を混合してもよいし、混合液Bを攪拌しつつ、そこに混合液Aを滴下して両者を混合してもよい。
混合液Aと混合液Bとの混合は、室温下で行ってもよいし、加熱下で行ってもよい。
混合液Aと混合液Bとの混合を加熱下で行う場合、好ましい加熱温度は、例えば40℃以上110℃以下である。
【0111】
混合液Aと混合液Bとは、アミン化合物2~2.2molに対してジイソシアネート化合物1molとなるように混合してもよい。
アミン化合物とジイソシアネート化合物とを反応させる時間は特に限定されず、反応が充分に進行する時間であればよい。反応させる時間は、具体的に言うと、例えば0.2時間以上5時間以下である。
【0112】
上記(2)~(4)の工程において、アミン化合物、ジイソシアネート化合物、及びスチレン系ポリマーのそれぞれの溶媒への混合、並びに、混合液Aと混合液Bとの混合は、例えば、メカニカルスターラやマグネットスターラ等を用いて行う。好ましい混合液Aと混合液Bとの混合は、各成分を均一に混合しやすい点からメカニカルスターラを用いる方法である。
【0113】
このような(1)~(4)の工程を経ることにより、ジウレアと、スチレン系ポリマーと、溶媒A及び溶媒Bとを含む混合物を得ることができる。
【0114】
(5)上記(4)の工程で得た混合物から、溶媒Aと溶媒Bとを除去する(S114)。
溶媒Aと溶媒Bとを除去する方法は特に限定されず、例えば、室温で、又は、必要に応じて加熱、減圧、攪拌等を適宜行いながら、溶媒Aと溶媒Bとを気化させることが挙げられる。具体的な方法は、溶媒A及び溶媒Bの種類に応じて適宜選択すればよく、下記の方法が例示できる。
例えば、上記混合物を室温・大気圧下で放置して溶媒Aと溶媒Bとを気化させる方法が挙げられる。
また、例えば、大気圧下、溶媒A及び溶媒Bの沸点よりも低い温度で上記混合物を加熱して溶媒Aと溶媒Bとを気化させる方法が挙げられる。この場合、加熱条件は、例えば、大気圧下、40℃の恒温槽で5時間以上10時間以下の加熱等である。
これらの方法は組み合わせてもよい。
【0115】
(6)次に、溶媒Aと溶媒Bとを除去した後に残った混合物を洗浄する(S115)。
この洗浄工程を行うことにより、混合物中に残留していた、未反応のアミン化合物やジイソシアネート化合物を除去することができる。
ここで、洗浄方法の具体例として、例えば、下記の方法等が挙げられる。
まず、溶媒Aと溶媒Bとを除去した後の上記混合物を水と混合し、メンブランフィルターで濾過し、残渣を回収する。その後、水の沸点よりも低く、スチレン系ポリマーの沸点よりも低い温度で、上記残渣を加熱して上記残渣に付着している水を気化させ、上記残渣から水を除去する。このとき、加熱条件は、例えば、大気圧下、80℃の高温槽で5時間以上10時間以下の加熱等である。
【0116】
(7)洗浄した混合物を回収し、ジウレアとスチレン系ポリマーとを含むウレア系添加剤を得る(S116)。
得られたウレア系添加剤は、通常、粉末状である。このウレア系添加剤に、必要に応じて粉砕処理を施してもよい。粉砕処理を施すことで、ウレア系添加剤の微細化や均一化を図ることができる。また、粉砕処理によってウレア系添加剤の粒子径を調整することもできる。
上記粉砕処理を行う場合、簡便な装置で、低コストで行うことができる理由から、小型粉砕機(例えば、大阪ケミカル製、ラボミルサー等)による粉砕処理を行うことが好ましい。
【0117】
このような工程を経ることにより、上記ウレア系添加剤を製造することができる。
【0118】
[製造方法B]
図7は、ウレア系添加剤の製造方法の別の一例(製造方法B)を説明するための工程図である。
この製造方法Bは、図に示すような工程(S121~S126)を含む。
この製造方法Bは、溶媒Aにアミン化合物を添加して得られた混合液A′(S121)を、溶媒Aにスチレン系ポリマーの一部とアミン化合物とを添加して得られた混合液A(製造方法AのS111)に代えたことを除き、上述した製造方法Aと同様にして行うウレア系添加剤の製造方法と同じである。
この製造方法Bにおいて、スチレン系ポリマーは、混合液A′に配合されず、混合液Bにのみ配合される。
【0119】
混合液A′は、溶媒Aにアミン化合物を添加して得られる(S121)。
このとき、アミン化合物の量は、製造方法AのS111と同様、溶媒A100質量%に対して、例えば5質量%以上60質量%以下である。
アミン化合物の溶媒Aへの混合は、製造方法AのS111と同様、例えば、メカニカルスターラやマグネットスターラ等を用いて行えばよい。好ましいアミン化合物の溶媒Aへの混合は、メカニカルスターラを用いて行う。
【0120】
[製造方法C]
図8は、ウレア系添加剤の製造方法の別の一例(製造方法C)を説明するための工程図である。
この製造方法Cは、図に示すような工程(S131~S136)を含む。
この製造方法Cは、溶媒Bにジイソシアネート化合物を添加して得られた混合液B′(S132)を、溶媒Bにスチレン系ポリマーの一部とジイソシアネート化合物とを添加して得られた混合液B(製造方法AのS112)に代えたことを除き、上述した製造方法Aと同様にして行うウレア系添加剤の製造方法と同じである。
この製造方法Cにおいて、スチレン系ポリマーは、混合液B′に配合されず、混合液Aにのみ配合される。
【0121】
混合液B′は、溶媒Bにジイソシアネート化合物を添加して得られる(S132)。
このとき、ジイソシアネート化合物の量は、製造方法AのS112と同様、溶媒B100質量%に対して、例えば5質量%以上60質量%以下である。
ジイソシアネート化合物の溶媒Bへの混合は、製造方法AのS112と同様、例えば、メカニカルスターラやマグネットスターラ等を用いて行えばよい。好ましいジイソシアネート化合物の溶媒Bへの混合は、メカニカルスターラを用いて行う。
【0122】
[製造方法A~Cの変形例]
溶媒Aと溶媒Bとを除去する工程(S114、S124、S134)と、混合物を洗浄する工程(S115、S125、S135)とは順序が逆であってもよい。この場合、例えば、下記の方法等を採用することができる。
ジウレアが溶媒A及び溶媒Bに分散した上記混合物を分液ロートに入れ、更に、この分液ロートに水を入れて、未反応のアミン化合物及び未反応のジイソシアネート化合物を水相に移す。次に、未反応のアミン化合物やジイソシアネート化合物を含む水を、分液ロートから除去する。その後、溶媒Aと溶媒Bとを除去する工程(S114、S124、S134)の方法によって、分液ロートを用いて洗浄した上記混合物から、溶媒Aと溶媒Bとを除去する。
【0123】
混合物を洗浄する工程(S115、S125、S135)は、必須の工程ではなく、省略されてもよい。
【実施例0124】
次に、本発明を本発明の実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明は実施例のみに限定されるものではない。
【0125】
実施例/比較例において、下記の原料を使用した。
基油:
ポリ-α-オレフィン:PAO8(40℃における基油動粘度が46mm2/s)
トリメリット酸エステル:トリメックス N-08NB(花王社製、トリメリット酸トリエステル)
【0126】
増ちょう剤:
ステアリン酸リチウム
12-ヒドロキシステアリン酸リチウム
【0127】
添加剤:
ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデン(MoDTC):サクラルーブ600(ADEKA社製)
ウレア系添加剤:下記の方法で製造した。使用された原料は、オクチルアミン、MDI(4,4‘-ジフェニルメタンジイソシアネート)、及び、スチレン系ポリマー(スチレン・イソプレン共重合体:日本ルーブリゾール社製、Lubrizol 7306)であり、使用された溶媒は、トルエンである。
【0128】
(ウレア系添加剤の製造)
(1)トルエンにスチレン・イソプレン共重合体を溶解した。更に、得られた溶液に所定量のオクチルアミンを混合し、混合液Aを得た。
(2)上記(1)の工程とは別に、トルエンにスチレン・イソプレン共重合体を溶解した溶液に、所定量のMDIを混合し、混合液Bを得た。
ここで、混合液Aを得るために添加するスチレン・イソプレン共重合体の量と、混合液Bを得るために添加するスチレン・イソプレン共重合体の量とは、同量とした。
【0129】
この(1)及び(2)の工程において、上記オクチルアミンと上記MDIとの配合比(オクチルアミン:MDI)は、モル比で2:1となり、かつ生成したジウレアの量は、トルエン100質量%に対して40質量%となる量とした。
また、スチレン・イソプレン共重合体の添加量の、後述する、ジウレアとスチレン・イソプレン共重合体との混合物に含まれるスチレン・イソプレン共重合体の量は、ジウレアとスチレン・イソプレン共重合体との合計量に対して7.00質量%となる量とした。
【0130】
混合液Aの調製は、メカニカルスターラでトルエンを攪拌しながら、スチレン・イソプレン共重合体、及びオクチルアミンを添加することにより行われた。
また、混合液Bの調製は、メカニカルスターラでトルエンを攪拌しながら、スチレン・イソプレン共重合体、及びMDIを添加することにより行われた。
【0131】
(3)混合液Aをメカニカルスターラで攪拌しながら、混合液Bを混合液Aに滴下して両者を混合した。
混合液Bの滴下が完了した後、0.5時間攪拌をつづけながら、室温下でオクチルアミンとMDIとを反応させ、ジウレアを生成した。
【0132】
(4)その後、ジウレアとスチレン・イソプレン共重合体とトルエンとを含む混合物を、室温で24時間放置して、トルエンを蒸発させて除去し、ジウレアとスチレン・イソプレン共重合体との混合物(ウレア系添加剤)を完成させた。
【0133】
(比較例1:均質化処理されたベースグリース)
(1)ポリ-α-オレフィン71.2質量部に、ステアリン酸リチウム7.7質量部及び12-ヒドロキシステアリン酸リチウム3.3質量部を添加し、攪拌しながら230℃まで加熱して、ステアリン酸リチウム及び12-ヒドロキシステアリン酸リチウムをポリ-α-オレフィンに溶解させた。
その後、攪拌しながら放冷し、150℃まで冷却したタイミングでトリメリット酸エステル17.8質量部を混合した。その後、攪拌しながら放冷を続け、60℃まで冷却させた。
これによって、ステアリン酸リチウム及び12-ヒドロキシステアリン酸リチウムが析出したベースグリースを調製した。
【0134】
このベースグリースに含まれる基油は、ポリ-α-オレフィンとトリメリット酸エステルとの質量比が4:1である。
このベースグリースに含まれる増ちょう剤における、ステアリン酸リチウムと12-ヒドロキシステアリンリチウムとの質量比は、7:3である。
このベースグリースに含まれる基油と増ちょう剤との質量比は、89:11である。
【0135】
(2)次に、三本ロールミルで均質化処理を実施した。このとき、処理条件は、
ロール間すき間:50μm
ロール間圧力:1MPa
回転速度:200r/min
処理温度:25℃
とした。
【0136】
このような工程を経て、均質化処理されたベースグリースを得た。得られたベースグリースを比較例1のグリース組成物とした。
【0137】
(実施例1)
比較例1で得られた均質化処理後のベースグリース96.2質量部に、MoDTC1.9質量部、及びウレア系添加剤1.9質量部を添加した。その後、自転・公転ミキサーを使用して、回転数:2000rpm、時間:3分間の条件で混合して、グリース組成物を完成した。
【0138】
得られたグリース組成物に含まれるウレア系添加剤の平均粒子径を、共焦点レーザ顕微鏡(ライカマイクロシステムズ社製、TCS SP08)を用いて測定した。共焦点レーザ顕微鏡の構成は、表1に示した構成である。
この装置に、観察物の平均粒子径を算出することができるソフトウエア(Leica Application Suite X (LAS X)Version 4.4.0)が内蔵されている。このソフトウエアは、取得された3次元画像からウレア系添加剤の体積を粒子ごとに算出し、各粒子の形状を真球と仮定して粒子の直径を算出し、各粒子の直径の平均値を測定値(平均粒子径)として算出する。
得られたウレア系添加剤の直径の平均値は、0.6μmであった。
【0139】
【0140】
(比較例2)
比較例1で得られた均質化処理後のベースグリース98.0質量部に、MoDTC2.0質量部を添加した。その後、自転・公転ミキサーを使用して、回転数:2000rpm、時間:3分間の条件で混合して、グリース組成物を完成した。
【0141】
(比較例3)
比較例1で得られた均質化処理後のベースグリース97.1質量部に、MoDTC1.9質量部、及びウレア系添加剤1.0質量部を添加した。その後、自転・公転ミキサーを使用して、回転数:2000rpm、時間:3分間の条件で混合して、グリース組成物を完成した。
【0142】
(比較例4)
比較例1で得られた均質化処理後のベースグリース93.4質量部に、MoDTC1.9質量部、及びウレア系添加剤4.7質量部を添加した。その後、自転・公転ミキサーを使用して、回転数:2000rpm、時間:3分間の条件で混合して、グリース組成物を完成した。
【0143】
(比較例5)
比較例1で得られた均質化処理後のベースグリース89.3質量部に、MoDTC1.8質量部、及びウレア系添加剤8.9質量部を添加した。その後、自転・公転ミキサーを使用して、回転数:2000rpm、時間:3分間の条件で混合して、グリース組成物を完成した。
【0144】
実施例及び比較例で製造したグリース組成物について、摩擦摩耗試験を行い、貧潤滑環境下での耐摩耗性能を評価した。結果を表3及び
図9に示した。
なお、
図9に、実施例1及び比較例2~5の結果を示した。
【0145】
(摩擦摩耗試験)
ASTM D5707の規格に基づいて試験を行った。試験装置は、SRV2 振動摩擦摩耗試験機(OPTIMOL社製)である。
本試験において、上部試験片はSUJ2製の軸受用円筒ころ(Φ15mm×22mm、Ra0.1μm)であり、下部試験片の上部は平板のPTFEシート(Φ24mm×16mm、Ra0.5μm)である。
本試験は、上部試験片を下部試験片に荷重100Nで押し付けた状態で、上部試験片である円筒ころを円筒ころの軸方向に沿って下部試験片の上部である平板のPTFEシートに60分間往復運動させ、平板に生じた摩耗痕の深さを測定する試験である。
試験条件の詳細は、表2に示される。
【0146】
【0147】
【0148】
表3、及び
図9に示した結果の通り、本発明の実施形態に係るグリース組成物は、貧潤滑環境下で、被潤滑部材の摩擦面の摩耗量を低減できる。
特に、
図9に示したグラフから明らかな通り、ウレア系添加剤比率を1.2質量%以上3.4質量%以下にすることで、摩擦摩耗試験における摩耗量を顕著に小さくすることができる。