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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024070605
(43)【公開日】2024-05-23
(54)【発明の名称】半導体装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 29/78 20060101AFI20240516BHJP
   H01L 29/739 20060101ALI20240516BHJP
   H01L 21/336 20060101ALI20240516BHJP
   H01L 29/861 20060101ALI20240516BHJP
【FI】
H01L29/78 657D
H01L29/78 653C
H01L29/78 652M
H01L29/78 652D
H01L29/78 655B
H01L29/78 658H
H01L29/78 652C
H01L29/78 655A
H01L29/91 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022181201
(22)【出願日】2022-11-11
(71)【出願人】
【識別番号】302062931
【氏名又は名称】ルネサスエレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】長田 尚
(57)【要約】
【課題】ダイオードのVFを低減することが可能なRC-IGBTを備える半導体装置を提供すること。
【解決手段】本開示に係る半導体装置は、第1面101と、第1面とは反対側である第2面102とを有する半導体基板100と、半導体基板に形成されるダイオードとを備え、ダイオードは、第1面側に第1導電型のドリフト層123と、ドリフト層上に第1導電型とは反対の導電型である第2導電型のアノード層110と、トレンチ112とを備え、第1面を基準とした時、アノード層の底面は、トレンチの底面よりも深い領域に位置するものである。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1面と、前記第1面とは反対側である第2面とを有する半導体基板と、
前記半導体基板に形成されるダイオードと、を備え、
前記ダイオードは、前記第1面側に第1導電型のドリフト層と、前記ドリフト層上に前記第1導電型とは反対の導電型である第2導電型のアノード層と、トレンチと、を備え、
前記第1面を基準とした時、前記アノード層の底面は、前記トレンチの底面よりも深い領域に位置する
半導体装置。
【請求項2】
前記ドリフト層と前記アノード層との間にpn接合部が形成され、
前記トレンチは、前記pn接合部を突き抜けない構造を有する
請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
ライフタイムキラーは、前記pn接合部に導入される
請求項2に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記ダイオードは、さらに前記トレンチと隣接する第2トレンチと、
前記半導体基板の断面視において、前記トレンチと前記第2トレンチとの間にある前記第2導電型のボディ層と、を備え、
前記ボディ層は、コンタクトホールを介して前記ダイオードのアノード電極と接続する
請求項1に記載の半導体装置。
【請求項5】
前記アノード層は、前記コンタクトホールが形成されていない領域において、キャリアを蓄積する機能を有する
請求項4に記載の半導体装置。
【請求項6】
前記コンタクトホールは、前記トレンチ及び前記第2トレンチと重畳する領域を有し、
前記トレンチ及び前記第2トレンチのトレンチ電極は、前記コンタクトホールを介して前記アノード電極と接続する
請求項4に記載の半導体装置。
【請求項7】
第1面と、前記第1面とは反対側である第2面とを有する半導体基板と、
前記半導体基板に形成されるダイオードと、を備え、
前記ダイオードは、前記第1面側に第1導電型のドリフト層と、前記ドリフト層上に前記第1導電型とは反対の導電型である第2導電型のアノード層と、第1トレンチ及び第2トレンチと、を備え、
前記第1面を基準とした時、前記アノード層の底面は、前記第1トレンチの底面よりも深い領域に位置し、
前記第2トレンチのトレンチ電極は、前記第1トレンチのトレンチ電極とは独立して電圧を印加する動作を行う
半導体装置。
【請求項8】
前記ドリフト層と前記アノード層との間にpn接合部が形成され、
前記第1トレンチは、前記pn接合部を突き抜けない構造を有する
請求項7に記載の半導体装置。
【請求項9】
ライフタイムキラーは、前記pn接合部に導入される
請求項8に記載の半導体装置。
【請求項10】
さらに前記ダイオードは、前記半導体基板の断面視において、前記第1トレンチと前記第2トレンチとの間にある前記第2導電型のボディ層を備え、
前記ボディ層及び前記第1トレンチの前記トレンチ電極は、コンタクトホールを介して前記ダイオードのアノード電極と接続する
請求項7に記載の半導体装置。
【請求項11】
前記アノード層は、前記コンタクトホールが形成されていない領域において、キャリアを蓄積する機能を有する
請求項10に記載の半導体装置。
【請求項12】
第1面と、前記第1面とは反対側である第2面とを有する半導体基板と、
前記半導体基板に形成される絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(IGBT)及びダイオードを備え、
前記ダイオードは、前記第1面側に第1導電型のドリフト層と、前記ドリフト層上に前記第1導電型とは反対の導電型である第2導電型のアノード層と、第1トレンチ及び第2トレンチと、を備え、
前記第1面を基準とした時、前記アノード層の底面は、前記第1トレンチの底面よりも深い領域に位置し、
前記第2トレンチのトレンチ電極は、前記第1トレンチのトレンチ電極とは独立して電圧を印加する動作を行い、
前記第1トレンチ及び前記第2トレンチの間に、前記第1導電型の層を備える
半導体装置。
【請求項13】
前記半導体基板は、さらに絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(IGBT)を備え、
前記IGBT及び前記ダイオードによって逆導通IGBTが形成される
請求項1に記載の半導体装置。
【請求項14】
前記半導体基板は、さらに絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(IGBT)を備え、
前記IGBT及び前記ダイオードによって逆導通IGBTが形成される
請求項7に記載の半導体装置。
【請求項15】
前記半導体基板は、前記IGBT及び前記ダイオードが形成されているアクティブ領域と、前記IGBT及び前記ダイオードが形成されていない周辺領域と、を有し、
前記周辺領域における前記アノード層の厚さは、前記アクティブ領域における前記アノード層と比べて同じ或いは小さい
請求項12に記載の半導体装置。
【請求項16】
前記半導体基板は、前記IGBT及び前記ダイオードが形成されているアクティブ領域と、前記IGBT及び前記ダイオードが形成されていない周辺領域と、を有し、
前記周辺領域における前記アノード層の厚さは、前記アクティブ領域における前記アノード層と比べて同じ或いは小さい
請求項13に記載の半導体装置。
【請求項17】
前記半導体基板は、前記IGBT及び前記ダイオードが形成されているアクティブ領域と、前記IGBT及び前記ダイオードが形成されていない周辺領域と、を有し、
前記周辺領域における前記アノード層の厚さは、前記アクティブ領域における前記アノード層と比べて同じ或いは小さい
請求項14に記載の半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、半導体装置に関し、特に絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(IGBT:Insulated Gate Bipolar Transistor)を備える半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、絶縁ゲート型バイポーラトランジスタと還流ダイオード(FWD:Free Wheeling Diode)を1チップ化した逆導通IGBT(RC-IGBT:Reverse-Conducting IGBT)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-192743号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
RC-IGBTは、FWDをIGBTチップの中に組み込んだものであり、半導体装置に含まれる素子の低損失化及び小型化のメリットがある。一方、FWDのリカバリー損失(Err)や順方向降下電圧(VF)の悪化など、FWDの性能面には多くの課題が残されている。
【0005】
これらの損失や悪化を抑制するためには、局所的なライフタイムキラーの導入が考えられ、アノード層の下に導入することが理想的であると考えられる。
【0006】
特許文献1には、RC-IGBTが開示されているが、FWD領域において、アノード層がトレンチよりも浅く形成されている。このことから、トレンチのボトム部への電界強度が増えることによる破壊耐性や信頼性への影響、さらに、ライフタイムキラーの導入によるトレンチ酸化膜へのダメージが懸念される。
【0007】
これらに加えて、プロセスコストの高いIGBT領域に、低コストのプロセスであるFWDを形成するため、コスト面でのメリットを出すためには、チップの電力高密度化(チップシュリンク)が重要となる。
【0008】
その他の課題と新規な特徴は、本明細書の記述及び添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示に係る半導体装置は、第1面と、前記第1面とは反対側である第2面とを有する半導体基板と、前記半導体基板に形成されるダイオードとを備え、前記ダイオードは、前記第1面側に第1導電型のドリフト層と、前記ドリフト層上に前記第1導電型とは反対の導電型である第2導電型のアノード層と、トレンチとを備え、前記第1面を基準とした時、前記アノード層の底面は、前記トレンチの底面よりも深い領域に位置するものである。
【0010】
本開示に係る半導体装置は、第1面と、前記第1面とは反対側である第2面とを有する半導体基板と、前記半導体基板に形成されるダイオードとを備え、前記ダイオードは、前記第1面側に第1導電型のドリフト層と、前記ドリフト層上に前記第1導電型とは反対の導電型である第2導電型のアノード層と、第1トレンチ及び第2トレンチとを備え、前記第1面を基準とした時、前記アノード層の底面は、前記第1トレンチの底面よりも深い領域に位置し、前記第2トレンチのトレンチ電極は、前記第1トレンチのトレンチ電極とは独立して電圧を印加する動作を行うものである。
【0011】
本開示に係る半導体装置は、第1面と、前記第1面とは反対側である第2面とを有する半導体基板と、前記半導体基板に形成される絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(IGBT)及びダイオードを備え、前記ダイオードは、前記第1面側に第1導電型のドリフト層と、前記ドリフト層上に前記第1導電型とは反対の導電型である第2導電型のアノード層と、第1トレンチ及び第2トレンチとを備え、前記第1面を基準とした時、前記アノード層の底面は、前記第1トレンチの底面よりも深い領域に位置し、前記第2トレンチのトレンチ電極は、前記第1トレンチのトレンチ電極とは独立して電圧を印加する動作を行い、前記第1トレンチ及び前記第2トレンチの間に、前記第1導電型の層を備えるものである。
【発明の効果】
【0012】
本開示により、ダイオードのVFを低減することが可能なRC-IGBTを備える半導体装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、実施の形態1に係る半導体装置の構成図である。
図2図2は、実施の形態1に係る半導体装置が備える半導体基板の平面図である。
図3図3は、実施の形態1に係る半導体装置のダイオード及び比較用ダイオードにおけるライフタイムキラーの制御を説明する図である。
図4図4は、実施の形態1に係る半導体装置及び比較用ダイオードにおける不純物濃度分布を表す図である。
図5図5は、実施の形態1に係る半導体装置及び比較用ダイオードにおける電界強度分布のシミュレーション結果である。
図6図6は、実施の形態1に係る半導体装置及び比較用ダイオードにおけるVF-IFカーブのシミュレーション結果である。
図7図7は、実施の形態2に係る半導体装置の構成図である。
図8図8は、実施の形態3に係る半導体装置の構成図である。
図9図9は、実施の形態3に係る半導体装置の製造フローを説明する図である。
図10図10は、実施の形態3に係る半導体装置及び比較用ダイオードにおけるVF-IFカーブ及びリカバリー波形のシミュレーション結果である。
図11図11は、実施の形態3に係る半導体装置及び比較用ダイオードにおけるトレードオフ曲線を示す図である。
図12図12は、実施の形態4に係る半導体装置の構成図である。
図13図13は、実施の形態4に係る半導体装置の動作を説明する図である。
図14図14は、実施の形態5に係る半導体装置の構成図である。
図15図15は、実施の形態6に係る半導体装置の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。明細書および図面において、同一の構成要件または対応する構成要件には、同一の符号を付し、重複する説明は省略する。また、図面では、説明の便宜上、構成を省略または簡略化している場合もある。また、各実施の形態の少なくとも一部は、互いに任意に組み合わされてもよい。
【0015】
本実施の形態に係る半導体装置では、半導体基板、半導体層、拡散層(拡散領域)などの導電型(p型もしくはn型)を反転させた構成としてもよい。そのため、n型、及びp型の一方の導電型を第1導電型とし、他方の導電型を第2導電型とした場合、第1導電型をp型、第2導電型をn型とすることもできるし、反対に第1導電型をn型、第2導電型をp型とすることもできる。
【0016】
[実施の形態1]
図1は、本実施の形態に係る半導体装置が備える半導体基板において、ダイオード(FWD)が形成される領域を示している。半導体基板100は、断面視において、第1面101と、第1面101とは反対側である第2面102を有する。
【0017】
半導体基板100の第1面101側には、p型のアノード層110、アノード電極111、内部にトレンチ電極113及びトレンチ酸化膜114を有するトレンチ112、層間絶縁膜115、IGBTにおけるp+型のボディ層116、IGBTにおけるチャネル層117が形成される。ボディ層116にはコンタクトホール120が設けられており、アノード電極111は、コンタクトホール120を介してボディ層116と接続する。
【0018】
トレンチ112は、第1面101から第2面102の方向、即ち、鉛直方向に延びる形状を有する。トレンチ酸化膜114は、トレンチ112の内壁に沿うように形成され、トレンチ電極113は、トレンチ酸化膜114を間に介して、トレンチ112を埋めるように形成される。
【0019】
半導体基板100の第2面102側には、n++型のカソード層121、n+型のフィールドストップ層122、n-型のドリフト層123が形成される。アノード層110は、ドリフト層123上に位置する。
【0020】
また、図1中の破線にて囲まれる領域は、pn接合部130を表している。
【0021】
本実施の形態に係るダイオードにおいて、第1面101を基準とした時、アノード層110の底面は、トレンチ112の底面よりも深い領域に位置する。換言すると、本実施の形態に係るダイオードは、トレンチ112がpn接合部130を突き抜けない構造を有する。本実施の形態において、トレンチの底面よりも深い領域まで形成されたアノード層を「深いアノード層」と呼び、一般的なアノード層との区別をする。
【0022】
深いアノード層110を設けることにより、pn接合部130のトレンチ112の近傍領域がアノードとして機能するため、pn接合によって形成されるダイオード領域が拡大する。また、深いアノード層が形成された領域におけるトレンチによって、アノード層内におけるキャリアの蓄積効果が向上する。その結果、順方向降下電圧(VF)を低減させることが可能となる。
【0023】
図2は、本実施の形態に係る半導体基板100の平面図である。本実施の形態に係る逆導通絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(RC-IGBT)は、アクティブ領域160においてIGBT及びダイオードを備える。アクティブ終端領域170には、非アクティブ化したIGBTセルを配置してもよい。また、周辺領域180は、IGBT及びダイオードが形成されていないターミネーション領域である。
【0024】
第1面101を基準としたアノード層110の深さ(厚さ)は、少なくともダイオードを構成するアクティブ領域160において、一定であることが好ましく、アクティブ終端領域170において、当該深さが同じ或いは小さいことが好ましい。アクティブ終端領域170における当該深さが大きくなると、アクティブ終端領域170において、導通する能力が上がるため、オフ時に電力が集中しやすく、破壊を誘発する原因となる。
【0025】
また、VFの悪化を抑制し、ダイオードのスイッチング速度の高速化を促すために、ライフタイムキラーを導入することが好ましい。本実施の形態に係るダイオードのライフタイムキラーの導入の制御について、図3を用いて説明する。図3左図は、比較用ダイオードを表しており、図3右図は、本実施の形態に係るダイオードを表している。比較用ダイオードが備えるアノード層110は、トレンチ112よりも浅い領域において形成されており、したがって、pn接合が形成される領域をトレンチが突き抜けている構造を有する。
【0026】
ライフタイムキラー150は、半導体基板100の第2面102側より導入され、ダイオードの所望の領域に欠陥が形成される。ライフタイムキラー150は、ドリフト層123において、ドリフト層123と反対の導電型の領域の近傍に導入されることが好ましい。したがって、ライフタイムキラー150は、アノード層110の下に導入される。
【0027】
この時、比較用ダイオードにおいては、ライフタイムキラー150によって、トレンチ112が形成された領域に欠陥が形成されるため、トレンチ酸化膜114にダメージが入ってしまう。本実施の形態に係るダイオードにおいては、アノード層110の方が、トレンチ112よりも深い領域まで形成されているため、トレンチ酸化膜114へのダメージが抑制される。したがって、深いアノード層110を設けることにより、局所的にライフタイムキラーを導入する制御が容易となる。
【0028】
TCADシミュレーションを用いて、本実施の形態に係るダイオード及び比較用ダイオードの電界強度分布を比較した結果を示す。まず、本実施の形態に係るダイオードと比較用ダイオードの構造及び不純物濃度を、図4に示されるように設定した。図4左図は、トレンチ112よりも浅い領域に形成されたアノード層110を備える比較用ダイオードを表し、図4右図は、深いアノード層110を備える本実施の形態に係るダイオードを表している。
【0029】
次に、各ダイオードの電界強度分布のシミュレーション結果を図5に示す。比較用ダイオードは、トレンチ112の側面近傍において電界が集中していることが分かる。一方、本実施の形態に係るダイオードは、電界強度が緩和されていることが分かる。
【0030】
このことから、トレンチよりも深いアノード層を設けることにより、ダイナミックアバランシェ発生の抑制による逆バイアス安全動作領域(RBSOA:Reverse Bias Safe Operation Area)の耐量向上、加えて、ホットキャリアの影響の抑制が可能となることが分かる。
【0031】
次に、本実施の形態に係るダイオード及び比較用ダイオードのVF-IFカーブのシミュレーション結果を図6に示す。図6は、横軸を順方向電圧、縦軸を順方向電流としたグラフである。なお、図中の実線は、本実施の形態に係るダイオードをプロットしたものであり、点線は、比較用ダイオードをプロットしたものであり、他の実施の形態においても同様である。
【0032】
IFが100Aである時のVFは、本実施の形態に係るダイオードにおいて1.93Vであり、比較用ダイオードにおいて2.34Vであり、したがって、VFが17.5%程度低減している。これより、本実施の形態に係るダイオードは、VFを低減させる効果を有していることが分かる。
【0033】
このようにして、ダイオードのVFを低減することが可能なRC-IGBTを備える半導体装置を提供することができる。
【0034】
[実施の形態2]
本実施の形態は、実施の形態1を発展させた半導体装置について説明する。図7は、本実施の形態に係る半導体装置が備える半導体基板において、ダイオード(FWD)が形成される領域を示している。本実施の形態に係るダイオードは、実施の形態1と同様に、アノード層110は、トレンチ112よりも深い領域まで形成されている。
【0035】
本実施の形態に係るダイオードは、隣接する2つのトレンチ112、212と、その間のコンタクトホール120にて形成される領域を1つのユニットセルとし、実施の形態1に係るダイオードに比べてセル密度が小さい。このような構成により、アノード層110は、コンタクトホール120が形成されていない領域118を有するようになる。ダイオードとして導通する領域(例として、破線151で囲まれた領域)は、コンタクトホール120を介してキャリアが移動する。一方、当該領域118は、コンタクトホール120が形成されていないため、キャリアを蓄積する機能を有することができ、したがって、順方向降下電圧(VF)を低減することが可能となる。
【0036】
本実施の形態に係るダイオードのVF-IFカーブを、実施の形態1と同様の方法にてシミュレーションした結果、IFが100Aである時の本実施の形態に係るダイオードのVFは、1.78Vであった。実施の形態1の比較用ダイオードと比べて、VFが23.9%程度低減している。これより、本実施の形態に係るダイオードは、VFを低減させる効果を有していることが分かる。
【0037】
[実施の形態3]
本実施の形態は、実施の形態1、2を発展させた半導体装置について説明する。図8は、本実施の形態に係る半導体装置が備える半導体基板において、ダイオード(FWD)が形成される領域を示している。本実施の形態に係るダイオードは、実施の形態2と同様に、アノード層110は、トレンチ112よりも深い領域まで形成されており、コンタクトホール120が形成されていない領域118を有している。
【0038】
本実施の形態に係るダイオードは、コンタクトホール120を、2つのトレンチ112、212と重畳する領域まで広げることにより、アノード電極111とトレンチ電極113が接する領域119を備える。このような構成とすることにより、シェアコンタクト部140が形成される。
【0039】
シェアコンタクト部140を設けることにより、キャリアを引き抜く効果が向上するため、リカバリー損失(Err)を低減することが可能となる。
【0040】
本実施の形態に係るダイオードの製造フローについて、図9を用いて説明する。図9の上段は、IGBTが形成される領域の製造フローであり、図9の下段は、ダイオードが形成される領域の製造フローである。
【0041】
まず、半導体基板100の第1面101側に不純物を導入し、不純物導入領域201を形成する(図9(a)参照)。次に、半導体基板100の第1面101側にトレンチ112、212を形成する(図9(b)参照)。次に、不純物導入領域201を拡散させ、IGBT側にホールバリア層202及びフローティング層203を形成し、ダイオード側にアノード層110を形成する(図9(c)参照)。
【0042】
その後、トレンチ電極113、層間絶縁膜115、ボディ層116、チャネル層117、及びコンタクトホール120を形成し(図9(d)参照)、コンタクトホール120においてトレンチ電極113及びボディ層116と接するアノード電極111を形成する(図9(e)参照)。最後に、半導体基板100の第2面102側に、カソード層121及びフィールドストップ層122を形成する(図9(f)参照)。
【0043】
図9に示されるように、本実施の形態に係るダイオードは、IGBTと同じ工程によって、即ち、追加の工程を設けることなく、形成することが可能である。
【0044】
次に、本実施の形態に係るダイオード及び比較用ダイオードのVF-IFカーブ及びリカバリー波形のシミュレーション結果を図10に示す。なお、比較用ダイオードについては、実施の形態1と同じシミュレーション結果を用いている。
【0045】
まず、図10上図に示されるVF-IFカーブのシミュレーション結果について説明する。IFが100Aである時のVFは、本実施の形態に係るダイオードにおいて1.59Vであり、比較用ダイオードにおいて2.34Vであり、したがって、VFが32.1%程度低減している。これより、本実施の形態に係るダイオードは、VFを低減させる効果を有していることが分かる。
【0046】
次に、図10下図に示されるリカバリー波形のシミュレーション結果について説明する。図10下図は、横軸をリカバリー時間、縦軸を逆方向電流としたグラフである。これらのシミュレーション結果から算出されるリカバリー損失(Err)は、本実施の形態に係るダイオードにおいて8.9mJであり、比較用ダイオードにおいて14.4mJであり、したがって、Errが38.2%程度低減している。これより、本実施の形態に係るダイオードは、Errを低減させる効果を有していることが分かる。
【0047】
図11は、本実施の形態に係るダイオード及び比較用ダイオードのシミュレーション結果に対し、横軸をVF、縦軸をErrとしたグラフであり、即ち、トレードオフ曲線を示したものである。本実施の形態に係るダイオードは、VF及びErrを低減させる効果を有しているため、比較用ダイオードと比べて、トレードオフ曲線が大きく改善されていることが分かる。
【0048】
このようにして、ダイオードのVF及びErrを低減することが可能なRC-IGBTを備える半導体装置を提供することができる。
【0049】
[実施の形態4]
本実施の形態は、実施の形態1~3を発展させた半導体装置について説明する。図12は、本実施の形態に係る半導体装置が備える半導体基板において、ダイオード(FWD)が形成される領域を示している。本実施の形態に係るダイオードは、実施の形態3と同様に、アノード層110は、トレンチ112よりも深い領域まで形成されており、コンタクトホール120が形成されていない領域118を有しており、シェアコンタクト部140を有している。なお、図面のスペースの都合上、図12において、シェアコンタクト部140を指す破線部が省略されているが、実施の形態3と同様に、領域119の近傍において、シェアコンタクト部140が形成されている。
【0050】
本実施の形態に係るダイオードは、電気的に独立した制御トレンチ電極133を備えている。これにより、実施の形態1~3のダイオードと同様に、ダイオードのVF及びErrを低減する性能を有しつつ、4端子制御が可能となる。
【0051】
制御トレンチ電極133を備えたRC-IGBTの動作について、図13を用いて説明する。図13上図は電流I及び電圧Vを、図13下図は制御トレンチ電極133の電位Vtを縦軸とした時間変化を表している。電流Iをプロットしたものを線301、電圧Vをプロットしたものを線302、制御トレンチ電極133の電位Vtをプロットしたものを線303として示す。
【0052】
導通期間311からオフ期間312に変わる時に、電流Iにおいて、リカバリー損失(Err)321が発生する。このリカバリー損失を低減するため、導通期間311において、制御トレンチ電極133からマイナスの電位-Vaを印加し、オフ期間312において、制御トレンチ電極133からプラスの電位+Vaを印加する。このように動作することにより、リカバリーを高速化することが可能となる。
【0053】
また、オフ期間312から導通期間313に変わる時に、電圧Vにおいて、導通損失(VF)322が発生する。この導通損失を低減するため、オフ期間312から導通期間313に変わる時に、制御トレンチ電極133によって+Vaから-Vaとなるように印加する。このように動作することにより、導通損失を低減することが可能となる。
【0054】
上述のように4端子制御を行うことによって、ダイオードのVF及びErrを低減することが可能なRC-IGBTを備える半導体装置を提供することができる。
【0055】
[実施の形態5]
本実施の形態は、実施の形態4を発展させた半導体装置について説明する。図14は、本実施の形態に係る半導体装置が備える半導体基板において、ダイオード(FWD)が形成される領域を示している。本実施の形態に係るダイオードは、制御トレンチ電極133を、トレンチ112の内部に設ける構造を有している。
【0056】
図14左図は、トレンチ112の内部において、トレンチ酸化膜114を間に介して、制御トレンチ電極133をトレンチ電極113の下に設ける構造である。図14右図は、制御トレンチ電極133を、トレンチ電極113の下に設ける点においては図14左図と同じだが、トレンチ酸化膜114の中に制御トレンチ電極133を設ける点において異なる。
【0057】
このような構成とすることにより、4端子制御を全トレンチにおいて行うことが可能となるため、ダイオードのVF及びErrを低減することが可能なRC-IGBTを備える半導体装置を提供することができる。
【0058】
[実施の形態6]
本実施の形態は、実施の形態1~5とは異なり、IGBTとダイオードを異なる領域に設けた半導体装置について説明する。図15は、本実施の形態に係る半導体装置が備える半導体基板を示している。図15において、破線にて囲まれる領域は、ダイオードが形成される領域であり、IGBTとダイオードが交互に形成されることが示されている。また、第2面102側において、カソード層121とコレクタ層204が形成される。
【0059】
図15上図において、ダイオードが形成される領域におけるトレンチには、制御トレンチ電極133が形成されている。制御トレンチ電極133は、エミッタ電位と同電位となるよう固定されてもよいし、独立して電圧を印加するように構成されてもよい。後者の場合は、実施の形態5と同様に、4端子制御が可能となる。
【0060】
また、図15下図に示されるように、2つの制御トレンチ電極133の間に、高濃度のn+層205を形成してもよい。n+層205を形成することにより、IGBTのフローティング領域を使って、トレンチの電位の制御を行うことが可能となる。IGBTがオンして導通状態となる時に、制御トレンチ電極133によってプラスの電位が印加され、n+層205からのホールの排出が抑制され、IGBTのIE効果(Injection Enhancement Effect)が向上する。また、IGBTがオフする際は、制御トレンチ電極133によってマイナスの電位が印加され、n+層205は、p反転層を形成する。これにより、p反転層からのホールの排出が増えるため、IGBTのターンオフが高速となる。p反転層が形成されることでフローティング層がアノード層として機能するようになる。
【0061】
このような構成とすることにより、ダイオードのVF及びErrを低減することが可能なRC-IGBTを備える半導体装置を提供することができる。
【0062】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は既に述べた実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0063】
100 半導体基板
101 第1面
102 第2面
110 アノード層
111 アノード電極
112、212 トレンチ
113 トレンチ電極
114 トレンチ酸化膜
115 層間絶縁膜
116 ボディ層
117 チャネル層
118 領域
119 領域
120 コンタクトホール
121 カソード層
122 フィールドストップ層
123 ドリフト層
130 pn接合部
133 制御トレンチ電極
140 シェアコンタクト部
150 ライフタイムキラー
151 ダイオードとして導通する領域
160 アクティブ領域
170 アクティブ終端領域
180 周辺領域
201 不純物導入領域
202 ホールバリア層
203 フローティング層
204 コレクタ層
205 n+層
301、302、303 線
311、313 導通期間
312 オフ期間
321 リカバリー損失
322 導通損失
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
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図9
図10
図11
図12
図13
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図15