(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024070614
(43)【公開日】2024-05-23
(54)【発明の名称】自動墨出しシステム及び自動墨出し方法
(51)【国際特許分類】
G01C 15/02 20060101AFI20240516BHJP
G01C 15/00 20060101ALI20240516BHJP
G05D 1/43 20240101ALI20240516BHJP
B25H 7/04 20060101ALI20240516BHJP
E04G 21/18 20060101ALI20240516BHJP
【FI】
G01C15/02
G01C15/00 104C
G05D1/02 W
B25H7/04 D
E04G21/18 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022181226
(22)【出願日】2022-11-11
(71)【出願人】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】599085633
【氏名又は名称】株式会社タマディック
(71)【出願人】
【識別番号】520190388
【氏名又は名称】株式会社ROBOSHIN
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】水谷 亮
(72)【発明者】
【氏名】三谷 哲史
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 義秀
(72)【発明者】
【氏名】加藤 洋祐
(72)【発明者】
【氏名】大森 永
(72)【発明者】
【氏名】押田 健一
(72)【発明者】
【氏名】栗城 秀春
(72)【発明者】
【氏名】平野 慎也
【テーマコード(参考)】
2E174
5H301
【Fターム(参考)】
2E174DA41
5H301AA01
5H301AA10
5H301BB03
5H301BB14
5H301CC10
5H301DD06
5H301DD07
5H301DD15
5H301GG17
5H301HH01
5H301HH15
5H301JJ01
(57)【要約】
【課題】墨出し面に自動的に墨出しを行う。
【解決手段】移動しながら墨出しを行う墨出し装置10と、墨出し装置10の三次元空間位置を計測可能な三次元計測装置50と、墨出し装置10の走行及び墨出しを制御する制御装置30と、を備えた自動墨出しシステム100において、墨出し装置10は、墨出し面上を走行可能な走行部12と、墨出し面に墨出しを行う墨出し部18と、三次元計測装置50により追尾されるターゲット部20と、を有し、走行部12は、回転方向及び回転速度がそれぞれ独立して制御される複数の全方向移動車輪を有し、制御装置30は、墨出し装置10の向きを変えることなく予め設定された目標墨出し位置に墨出し部18が位置するように、複数の全方向移動車輪の回転をそれぞれ制御する。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動しながら墨出し面に墨出しを行う墨出し装置と、前記墨出し装置を追尾し前記墨出し装置の三次元空間位置を計測可能な三次元計測装置と、前記三次元計測装置により計測された前記墨出し装置の三次元空間位置に基づいて前記墨出し装置の走行及び墨出しを制御する制御装置と、を備えた自動墨出しシステムであって、
前記墨出し装置は、
前記墨出し面上を走行可能な走行部と、
前記墨出し面に墨出しを行う墨出し部と、
前記三次元計測装置により追尾されるターゲット部と、を有し、
前記走行部は、回転方向及び回転速度がそれぞれ独立して制御される複数の全方向移動車輪を有し、
前記制御装置は、前記墨出し装置の向きを変えることなく予め設定された目標墨出し位置に前記墨出し部が位置するように、複数の前記全方向移動車輪の回転をそれぞれ制御する、
自動墨出しシステム。
【請求項2】
前記制御装置は、前記目標墨出し位置に対する前記墨出し装置の位置の調整を、複数の前記全方向移動車輪の回転方向を変えることなく回転速度を変えることによって行う、
請求項1に記載の自動墨出しシステム。
【請求項3】
複数の前記全方向移動車輪は、各車軸の軸方向が共通の中心点を向くように配置された3つのオムニホイールである、
請求項1または2に記載の自動墨出しシステム。
【請求項4】
前記三次元計測装置は、
前記ターゲット部までの距離を光学的に計測する光学計測部と、
前記墨出し面上を移動可能な台車部と、を有し、
前記制御装置は、前記光学計測部と前記ターゲット部との間に光を遮る部材が入り込まないように、前記台車部を制御して前記三次元計測装置を移動させる、
請求項1または2に記載の自動墨出しシステム。
【請求項5】
前記制御装置は、設計データから描画データを生成する描画データ生成部を有し、
前記描画データ生成部は、前記設計データに折れ線が含まれている場合、折れ線を構成する2本の線分を折れ点においてそれぞれ延長し、前記折れ点を前記2本の線分が交差する交点に変換する、
請求項1または2に記載の自動墨出しシステム。
【請求項6】
前記制御装置は、
設計データから描画データを生成する描画データ生成部と、
前記描画データに基づいて前記目標墨出し位置を設定する墨出し位置設定部と、を有し、
前記描画データ生成部は、
前記三次元計測装置により計測された前記ターゲット部の位置と前記描画データに基づいて予め求められた前記ターゲット部の目標位置との差分に応じて前記描画データをオフセットし、
前記墨出し位置設定部は、オフセットされた前記描画データに基づいて前記目標墨出し位置を設定する、
請求項1または2に記載の自動墨出しシステム。
【請求項7】
前記制御装置は、前記墨出し装置の姿勢を認識する姿勢認識部を有し、
前記姿勢認識部は、前記三次元計測装置により計測された前記ターゲット部の位置を受信した後、予め設定された方向へと前記墨出し装置を移動させ、移動前に受信した前記ターゲット部の位置と、移動後に受信した前記ターゲット部の位置と、に基づいて、前記墨出し装置の姿勢を認識する、
請求項1または2に記載の自動墨出しシステム。
【請求項8】
移動しながら墨出し面に墨出しを行う墨出し装置と、前記墨出し装置を追尾し前記墨出し装置の三次元空間位置を計測可能な三次元計測装置と、前記三次元計測装置により計測された前記墨出し装置の三次元空間位置に基づいて前記墨出し装置の走行及び墨出しを制御する制御装置と、を備えた自動墨出しシステムによる自動墨出し方法であって、
回転方向及び回転速度がそれぞれ独立して制御される複数の全方向移動車輪を有する前記墨出し装置の走行部を制御することにより、予め設定された目標墨出し位置に前記墨出し装置の墨出し部が位置するように、前記墨出し装置の向きを変えることなく前記墨出し装置を移動させる、
自動墨出し方法。
【請求項9】
前記目標墨出し位置に対する前記墨出し装置の位置の調整は、複数の前記全方向移動車輪の回転方向を変えることなく回転速度を変えることによって行われる、
請求項8に記載の自動墨出し方法。
【請求項10】
複数の前記全方向移動車輪は、各車軸の軸方向が共通の中心点を向くように配置された3つのオムニホイールである、
請求項8または9に記載の自動墨出し方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動墨出しシステム及び自動墨出し方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、墨出し面にマーキングを行う墨出しロボットを備えた自動墨出しシステムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された自動墨出しシステムは、墨出しロボットを指定された目標点へと移動させて、目標点にスタンプを押してマーキングを作成するものである。このため、マーキング同士を結ぶ墨出し線については、別途、墨出し作業を作業員が行う必要があり、作業員の作業負担を十分に軽減するには至っていない。
【0005】
本発明は、墨出し面に自動的に墨出しを行うことが可能な自動墨出しシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、移動しながら墨出し面に墨出しを行う墨出し装置と、墨出し装置を追尾し墨出し装置の三次元空間位置を計測可能な三次元計測装置と、三次元計測装置により計測された墨出し装置の三次元空間位置に基づいて墨出し装置の走行及び墨出しを制御する制御装置と、を備えた自動墨出しシステムであって、墨出し装置は、墨出し面上を走行可能な走行部と、墨出し面に墨出しを行う墨出し部と、三次元計測装置により追尾されるターゲット部と、を有し、走行部は、回転方向及び回転速度がそれぞれ独立して制御される複数の全方向移動車輪を有し、制御装置は、墨出し装置の向きを変えることなく予め設定された目標墨出し位置に墨出し部が位置するように、複数の全方向移動車輪の回転をそれぞれ制御する。
【0007】
また、本発明は、移動しながら墨出し面に墨出しを行う墨出し装置と、墨出し装置を追尾し墨出し装置の三次元空間位置を計測可能な三次元計測装置と、三次元計測装置により計測された墨出し装置の三次元空間位置に基づいて墨出し装置の走行及び墨出しを制御する制御装置と、を備えた自動墨出しシステムによる自動墨出し方法であって、回転方向及び回転速度がそれぞれ独立して制御される複数の全方向移動車輪を有する墨出し装置の走行部を制御することにより、予め設定された目標墨出し位置に墨出し装置の墨出し部が位置するように、墨出し装置の向きを変えることなく墨出し装置を移動させる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、自動墨出しシステムによって、墨出し面に自動的に墨出しを行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施形態に係る自動墨出しシステムによって行われる墨出し作業のイメージを示したイメージ図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る自動墨出しシステムの墨出し装置の概略構成を示した平面図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る自動墨出しシステムの全体構成を示すブロック図である。
【
図4】描画データについて説明するための図である。
【
図5】本発明の実施形態に係る自動墨出しシステムによって行われる墨出し作業の手順を示したフローチャートである。
【
図6】墨出し装置の姿勢認識方法について説明するための図である。
【
図7】墨出しを行う際の墨出し装置の姿勢について説明するための図である。
【
図8A】目標墨出し位置への墨出し装置の移動について説明するための図である。
【
図8B】目標墨出し位置への墨出し装置の移動について説明するための図である。
【
図9A】目標墨出し位置に対する墨出し装置の位置調整方法について説明するための図である。
【
図9B】目標墨出し位置に対する墨出し装置の位置調整方法について説明するための図である。
【
図10】描画データのオフセットについて説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係る自動墨出しシステム及び自動墨出し方法について説明する。
【0011】
本発明の実施形態に係る自動墨出しシステム100は、建築物の床面に工事の基準となる墨出し線等を自動的にマーキングするシステムであり、
図1に示すように、移動しながら墨出し面である床面1に墨出しを行う墨出し装置10と、墨出し装置10を追尾し墨出し装置10の三次元空間位置を計測可能な三次元計測装置50と、三次元計測装置50により計測された墨出し装置10の三次元空間位置に基づいて墨出し装置10の走行及び墨出しを制御する制御装置30と、を備える。なお、以下では、制御装置30が墨出し装置10に内蔵されている場合について説明するが、制御装置30は、三次元計測装置50に内蔵されていてもよいし、墨出し装置10及び三次元計測装置50とは別に設けられていてもよい。
【0012】
墨出し装置10は、外部からの操作を必要としない自律走行型ロボットであり、
図2に示されるように、墨出し面である床面1上を走行するための走行部12と、床面1に墨出しを行う墨出し部18と、三次元計測装置50により追尾されるターゲット部20と、これら走行部12、墨出し部18及びターゲット部20が取り付けられるベース部24と、を有する。
図2は、墨出し装置10を上方から見た平面図であり、走行部12及び墨出し部18を覆うようにベース部24に取り付けられるカバー部材25が取り外された状態を示している。
【0013】
走行部12は、回転方向及び回転速度がそれぞれ独立して制御される3つのオムニホイール13(全方向移動車輪)を有する。各オムニホイール13は、車軸14を介して電動モータ15により回転駆動される。なお、車軸14と電動モータ15とは、図示しない減速機を介して連結されていてもよい。
【0014】
3つのオムニホイール13は、共通円の円周上に等間隔(120°間隔)で配置されており、それらの車軸14の軸方向は、共通円の中心を向いている。換言すれば、3つのオムニホイール13は、各車軸14の軸方向が共通の中心点を向くように配置されている。
【0015】
各電動モータ15は、制御装置30によって回転方向および回転速度がそれぞれ別々に制御される。つまり、3つのオムニホイール13は、回転方向及び回転速度がそれぞれ独立して制御される。
【0016】
なお、走行部12は、4つのオムニホイール13を有するものであってもよい。この場合も4つのオムニホイール13は、共通円の円周上に等間隔(90°間隔)で配置されるとともに、各車軸14の軸方向が共通の中心点を向くように配置される。但し、オムニホイール13を4つとした場合、床面1が平らではなく凹凸があると、何れかのオムニホイール13が接地せず、走行安定性が低下するおそれがあることから、オムニホイール13の数は3つとすることが好ましい。
【0017】
また、走行部12の全方向移動車輪は、オムニホイール13に限定されず、車軸14の軸線方向へも墨出し装置10の移動を可能とする車輪であればどのような構成のものであってもよく、例えば、メカナムホイールやメビウスホイールであってもよい。
【0018】
このように走行部12を複数の全方向移動車輪を有する構成とすることによって、墨出し装置10は、旋回することなく、全方向へと円滑に移動することができる。
【0019】
墨出し部18は、所定の墨出し可能幅W1を有するインクジェット式の印字装置であり、床面1に対してインクを吐出可能なノズルが所定の微小な間隔で複数設けられた図示しないノズルヘッドと、ノズルヘッドにインクを供給する図示しないインク供給部と、を有する。ノズルヘッドは、墨出し可能幅W1方向に沿って複数のノズルが並ぶようにベース部24に取り付けられている。
【0020】
したがって、墨出し可能幅W1方向に直交する方向に墨出し装置10を走行させた場合、墨出し可能幅W1内に文字や線を自由に描き出すことが可能である。なお、墨出し可能幅W1方向と同じ方向に墨出し装置10を走行させた場合であっても、比較的早い速度でノズルからインクを吐出することにより墨出し装置10の移動方向に沿って線を描き出すことができる。また、墨出し可能幅W1方向に沿ってノズルヘッドを複数配置することによって、墨出し可能幅W1を必要に応じて拡大することも可能である。
【0021】
ここで、上述のように、墨出し装置10は、全方向へと自由に移動することが可能であって、特に「前方」という概念はないが、以下では、説明の便宜上、上述のように墨出し部18を介して床面1に文字や線を自由に描き出すことが可能となる墨出し可能幅W1方向に略直交する走行方向を墨出し装置10の基本走行方向とする。また、基本走行方向に墨出し装置10を走行させる際に車軸14が回転しない第1オムニホイール13A側(
図2中の右側)を墨出し装置10の「前方」とし、前方に配置された第1オムニホイール13Aを墨出し装置10の移動方向を操舵する「操舵輪」とする。なお、墨出し装置10の「前方」の定義はこれに限定されるものではない。
【0022】
ターゲット部20は、三次元計測装置50から照射されたレーザ光を反射可能な指向性プリズムであり、三次元計測装置50を常時指向するようにターゲット回転部21によって回転される。ターゲット回転部21は、サーボモータであり、その回転角度は制御装置30によって後述のように制御される。なお、ターゲット部20は、360度プリズムであってもよく、この場合、ターゲット回転部21は設けられなくともよい。
【0023】
墨出し装置10のベース部24には、上述の走行部12、墨出し部18及びターゲット部20以外に、走行中の墨出し装置10の姿勢を検知可能な姿勢検知部26と、三次元計測装置50や外部のサーバ120とデータの送受信を行うための通信部27と、走行部12やその他の電装品に電力を供給するバッテリ28と、が設けられている。また、ベース部24には、制御装置30も設置されている。
【0024】
姿勢検知部26は、墨出し装置10の姿勢を検知可能な加速度センサ、ジャイロセンサ及び地磁気センサがユニット化された、いわゆる、慣性計測装置(IMU:Inertial Measurement Unit)であり、例えば、墨出し装置10が走行している方向に対して墨出し装置10の「前方」がどちらを向いているのか、すなわち、墨出し装置10の走行方向に対して墨出し可能幅W1方向がどの程度傾いた状態となっているかを検知することが可能である。
【0025】
通信部27は、BLE(Bluetooth(登録商標) Low Energy)やWi-Fi(登録商標)といった近距離無線通信機器であり、主に三次元計測装置50とデータを送受信する際に用いられる。なお、通信部27は、インターネット回線を介してデータを送受信可能な一般的な無線通信機器を備えていてもよい。
【0026】
三次元計測装置50は、
図1に示すように、墨出し面である床面1上を移動可能な台車部60と、ターゲット部20に照射されたレーザ光の反射光に基づいてターゲット部20の三次元空間位置を計測可能な光学計測部55と、を備える。
【0027】
台車部60は、墨出し装置10の走行部12と同様に、3つのオムニホイール61と、オムニホイール61毎に設けられた図示しないモータと、モータに電力を供給する図示しないバッテリと、を有する。これにより三次元計測装置50は、墨出し装置10と同様に、旋回することなく、全方向へと円滑に移動することが可能である。
【0028】
なお、台車部60は、4つのオムニホイール61を有するものであってもよい。また、台車部60の車輪は、オムニホイール61に限定されず、メカナムホイールやメビウスホイールであってもよい。また、台車部60の移動は、墨出し装置10ほど頻繁ではないことから、台車部60は、前後左右に自走可能であって所定の位置へと移動することが可能な一般的な走行装置であってもよい。
【0029】
また、台車部60には、光学計測部55を台車部60に設置するための設置台62が設けられる。なお、
図1に示される設置台62は、単なる柱状構造であるが、上下方向に伸縮自在な構成であってもよい。
【0030】
光学計測部55は、レーザ光を照射する発光部56と、発光部56と同じ位置に設けられ、反射したレーザ光を受光する受光部57と、を有し、ターゲット部20等の計測対象物に向けてレーザ光が照射されてから反射したレーザ光が受光されるまでの時間に基づいて計測対象物までの距離を測定し、その三次元空間位置座標を計測することが可能な、いわゆるレーザートラッカや追尾式トータルステーションといった、三次元座標測量器である。
【0031】
発光部56及び受光部57は、鉛直方向軸C1を中心に水平方向に回転可能であるとともに、水平方向軸C2を中心に鉛直方向に回動可能な構成となっている。これにより、光学計測部55は、ターゲット部20が移動する場合であってもターゲット部20で反射されたレーザ光を常に受光部57において受光することが可能な構成、すなわち、ターゲット部20を追尾することが可能な構成となっている。なお、ターゲット部20に対する追従性を向上させるためにカメラが設けられていてもよい。
【0032】
また、三次元計測装置50は、
図3に示されるように、制御部51としてのCPU(Central Processing Unit)や、記憶部52としてのROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)、入出力インタフェース(I/Oインタフェース)を備えたマイクロコンピュータと、墨出し装置10や外部のサーバ120とデータの送受信を行うための通信部53と、を有する。
【0033】
制御部51は、制御装置30からの指令に基づいて、台車部60や光学計測部55の作動を制御し、光学計測部55によって計測された計測値を墨出し装置10や外部のサーバ120へと通信部53を介して送信する。
【0034】
記憶部52には、制御部51で実行される制御プログラム等が予め記憶されているとともに、光学計測部55で計測された計測値や通信部53を通じて外部のサーバ120等から取得されたデータが記憶される。
【0035】
通信部53は、墨出し装置10の通信部27と同様の近距離無線通信機器であり、主に墨出し装置10とデータを送受信する際に用いられる。なお、通信部53は、インターネット回線を介してデータを送受信可能な一般的な無線通信機器を備えていてもよい。
【0036】
このように構成された三次元計測装置50は、墨出し装置10の走行に伴って移動するターゲット部20を光学計測部55によって追尾し、墨出しが行われる空間内におけるターゲット部20の三次元空間位置(位置座標)を計測する。
【0037】
光学計測部55は、墨出しが行われる空間内に予め設置された複数の基準プリズムまでの距離及び角度を計測することにより、空間内における自己位置を自動的に特定する。また、光学計測部55は、三次元計測装置50が移動して停止する度に、自己位置を自動的に更新する。このように光学計測部55は、墨出しが行われる空間内における自己位置座標を常に把握していることから、墨出しが行われる空間内におけるターゲット部20の三次元空間位置座標を常時、計測することができる。
【0038】
なお、三次元計測装置50からは、予め設定された座標系におけるターゲット部20の位置座標が制御装置30に送信されてもよいし、ターゲット部20の位置座標を算出するために必要な距離及び角度等のデータが制御装置30に送信されてもよい。また、三次元計測装置50から制御装置30へは、ターゲット回転部21の回転角度を制御するために必要な光学計測部55の俯角及び旋回角が送信される。
【0039】
制御装置30は、三次元計測装置50により計測された墨出し装置10の三次元空間位置と、予め読み込まれた設計データと、に基づいて、墨出し装置10の走行部12や墨出し部18の作動を制御する。制御装置30が行う具体的な制御については、床面1に自動的に墨出しを行う後述の自動墨出し方法の説明において詳述する。
【0040】
制御装置30は、
図3に示されるように、制御部31としてのCPU(Central Processing Unit)や、記憶部32としてのROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)、入出力インタフェース(I/Oインタフェース)を備えたマイクロコンピュータである。
【0041】
制御部31は、墨出し装置10の姿勢を認識する姿勢認識部33と、墨出し装置10の三次元空間位置を認識する位置認識部34と、設計データから描画データを生成する描画データ生成部35と、描画データに基づいて目標墨出し位置を設定する墨出し位置設定部36と、を有する。なお、これら姿勢認識部33等は、制御部31の各機能を、仮想的なユニットとして示したものであり、物理的に存在することを意味するものではない。また、上記機能は、制御部31が実行する制御の一部であり、制御部31では、これら以外の機能に関連する制御も随時実行される。
【0042】
姿勢認識部33は、墨出し装置10の姿勢を検知可能な姿勢検知部26の検出値に基づいて、走行中の墨出し装置10の「前方」がどちらを向いているかを認識する。
【0043】
ここで、墨出し装置10のターゲット部20の三次元空間位置は、三次元計測装置50によって計測されるが、床面1に墨出しを行う墨出し部18は、墨出し装置10内において、ターゲット部20が設けられた位置から所定の距離だけ離れた位置に配置されている。このため、墨出し部18の三次元空間位置を特定するには、三次元空間位置が特定されたターゲット部20を基準として墨出し装置10の「前方」がどちらを向いているかを把握する必要がある。
【0044】
このため、姿勢認識部33では、姿勢検知部26で検出された検出値に基づいて公知の自律航法(DR:Dead Reckoning)により、墨出し装置10の姿勢を常時認識するようにしている。なお、墨出し装置10が墨出し作業を始める前の初期姿勢については、後述の姿勢認識工程において認識される。
【0045】
このように姿勢認識部33よって常時認識される墨出し装置10の姿勢は、三次元計測装置50によって計測されるターゲット部20の三次元空間位置と共に、墨出しが行われる空間内における墨出し装置10の三次元空間位置を認識する位置認識部34において用いられる。位置認識部34では、ターゲット部20の三次元空間位置と墨出し装置10の姿勢とに基づいて、床面1に墨出しを行う墨出し部18の三次元空間位置座標が求められる。
【0046】
また、外部のサーバ120等から制御装置30に予め送信され、記憶部32に記憶された設計データには、墨出しを行うべき箇所に関するデータが含まれているが、これらのデータは、墨出し装置10による墨出し作業の効率等を考慮して作成されたものではないため、設計データに忠実に墨出しを行おうとすると、作業時間が長くなってしまう場合がある。
【0047】
そこで、描画データ生成部35は、設計データを墨出し装置10による墨出しに適した描画データに変換している。
【0048】
具体的には、例えば、
図4の左側に示されるような折れ線を正確に描き出すには、折れ点BP1,BP2の手前から墨出し装置10を十分に減速させて折れ点BP1,BP2において一旦停止させた後、墨出し装置10の走行方向を変更することになる。しかしながら、折れ点BP1,BP2上に墨出し装置10の墨出し部18を厳密に位置させた状態で墨出し装置10を一旦停止させることは難しく、設計上の折れ点BP1,BP2の位置に対して墨出しによって描き出された折れ線の頂点の位置がずれてしまうおそれがある。
【0049】
一方で、所定の長さの線分を墨出し装置10によって精度よく墨出しすることは比較的容易である。
【0050】
このため、
図4の左側に示されるように設計データに折れ点BP1,BP2を有する折れ線が含まれている場合は、折れ線を構成する2本の線分L1,L2を第1折れ点BP1においてそれぞれ延長して、第1折れ点BP1を2本の線分L1,L2が交差する第1交点IP1へと変換し、折れ線を構成する2本の線分L2,L3を第2折れ点BP2においてそれぞれ延長して、第2折れ点BP2を2本の線分L2,L3が交差する第2交点IP2へと変換することによって、
図4の右側に示されるような描画データを生成することが好ましい。
【0051】
このように描画データ生成部35により生成される描画データに、折れ線が含まれないようにすることによって、墨出しの作業効率を向上させることができるとともに、設計上の折れ点BP1,BP2の位置に対して墨出しによって描き出された交点の位置をほぼ一致させることが可能となる。描画データ生成部35によって設計データから生成された描画データは、記憶部32に記憶される。
【0052】
このように描画データ生成部35によって生成された描画データに基づいて、墨出し装置10の墨出し部18が墨出しを行う目標墨出し位置(目標位置座標)が、墨出し位置設定部36により設定される。墨出し装置10は、墨出し位置設定部36によって設定された目標墨出し位置をなぞって墨出し部18が進むように、制御装置30により制御される。換言すれば、制御装置30は、墨出し位置設定部36によって設定された目標墨出し位置(目標位置座標)と、位置認識部34において求められた墨出し部18の三次元空間位置座標と、が常に一致するように、墨出し装置10の走行部12を制御する。
【0053】
また、ターゲット部20が光学計測部55側を向いていない場合、三次元計測装置50によってターゲット部20の三次元空間位置を計測することができず、結果として、墨出し装置10を目標墨出し位置に沿って走行させることもできなくなってしまう。
【0054】
このため、制御部31は、ターゲット部20が常に光学計測部55側を向くように、三次元計測装置50から送信される光学計測部55の角度データに基づいてターゲット回転部21の回転角度を制御している。
【0055】
続いて、
図5~9を参照し、上記構成の自動墨出しシステム100によって、床面1に自動的に墨出しを行う自動墨出し方法について説明する。
図5は、自動墨出しシステム100が自動的に墨出し作業を行う際の手順を示したフロー図であり、
図6は、墨出し装置10の姿勢を認識する方法について説明するための図であり、
図7は、墨出しを行う際の墨出し装置10の姿勢について説明するための図である。また、
図8A及び
図8Bは、目標墨出し位置への墨出し装置10の移動について説明するための図であり、
図9A及び
図9Bは、目標墨出し位置に対して墨出し装置10の位置を調整する方法について説明するための図であり、
図10は、描画データのオフセットについて説明するための図である。
【0056】
まず、ステップS11において、制御装置30は、BIM(Building Information Modeling)等の墨出し作業が行われる空間の設計データを外部のサーバ120等から読み込む。ここで読み込まれる設計データには、墨出しを行うべき箇所に関するデータが含まれている。なお、設計データは、予め制御装置30の記憶部32に記憶されていてもよい。
【0057】
次に、ステップS12において、制御装置30は、ステップS11で読み込まれた設計データから描画データを描画データ生成部35により生成する。そして、生成された描画データに基づいて、墨出し装置10の墨出し部18により墨出しが行われる目標墨出し位置(目標位置座標)が墨出し位置設定部36によって設定される。
【0058】
ステップS12において目標墨出し位置が設定されると、続くステップS13において、三次元計測装置50により墨出し装置10が捕捉される。具体的には、三次元計測装置50の光学計測部55により墨出し装置10のターゲット部20の三次元空間位置(位置座標)が計測される。
【0059】
この時点では、まだ墨出し装置10の姿勢、すなわち、三次元空間位置が特定されたターゲット部20を基準として墨出し装置10の「前方」がどちらを向いているのかが不明である。
【0060】
このため、続くステップS14では、制御装置30の姿勢認識部33において、墨出し装置10の姿勢の認識が行われる(姿勢認識工程)。
【0061】
具体的には、
図6に示すように、ステップS13において三次元計測装置50により墨出し装置10が捕捉された位置、すなわち、墨出し装置10の「前方」がどちらを向いているのかまだわからない位置から予め設定された方向、例えば、墨出し装置10において「前方」として定義された方向に墨出し装置10を所定の距離だけ移動させる。
【0062】
例えば、「前方」と定義された方向に配置された第1オムニホイール13Aを電動モータ15によって回転駆動させることなく、他の二つのオムニホイール13を第1オムニホイール13Aに向けて同じ回転速度で回転駆動することにより、「前方」として定義された方向に向けて墨出し装置10を移動させることが可能である。
【0063】
そして、墨出し装置10を移動させる前に制御装置30が三次元計測装置50から受信したターゲット部20の位置座標と、墨出し装置10を移動させた後に制御装置30が三次元計測装置50から受信したターゲット部20の位置座標と、の差分から求められる墨出し装置10が移動した方向が、現時点における墨出し装置10の「前方」として姿勢認識部33により認識される。また、このとき姿勢検知部26によって検知された方向が墨出し装置10の「前方」として設定され、これ以降の墨出し装置10の姿勢を求めるための基準とされる。
【0064】
これにより、墨出しが行われる空間内において、墨出し装置10の「前方」が現時点においてどちらを向いているかを認識することができ、また、これ以降の墨出し装置10の姿勢の変化については、姿勢検知部26により検知された検出値に基づいて推定することが可能となる。なお、墨出し装置10の初期姿勢を認識する方法は、上記方法に限定されず、墨出し装置10を所定の方向に移動させる前後に計測されたターゲット部20の位置座標の差分に基づいて特定する方法であれば、どのような方法であってもよい。
【0065】
このように墨出し装置10の姿勢(向き)が把握されることによって、三次元計測装置50により計測されたターゲット部20の三次元座標に基づいて、墨出し部18の三次元座標を求めることが可能となる。つまり、ステップS12において設定された目標墨出し位置に沿って墨出し部18を移動させることが可能な状態となる。
【0066】
したがって、続くステップS15において、墨出し装置10による墨出しが開始される。
【0067】
具体的には、
図7に示すように、ステップS12において設定された目標墨出し位置をなぞるように墨出し部18が位置するように、墨出し装置10の走行部12が制御装置30によって制御される。
【0068】
上述のように、墨出し装置10の走行部12は、複数のオムニホイール13(全方向移動車輪)を有する構成となっており、墨出し装置10は、旋回することなく、全方向へと円滑に移動することが可能である。したがって、
図7に示すように、目標墨出し位置に鋭角または鈍角に折れ曲がるような部分があっても、墨出し装置10は、旋回や切り返し動作を行うことなく、「前方」と定義された側面を常に同じ方向に向けた状態で走行し、墨出しを行うことができる。
【0069】
このように墨出し装置10は、その姿勢(向き)が変わることなく、予め設定された目標墨出し位置に墨出し部18が位置するように、制御装置30によって複数のオムニホイール13の回転がそれぞれ制御される。つまり、墨出しを行う過程において、墨出し装置10は、旋回して向きを変えたり、切り返しを行って向きを変えたりすることがないことから、墨出し作業に要する時間が短縮され、結果として、床面1へと効率よく自動的に墨出しを行うことができる。なお、
図7には、目標墨出し位置が直線状である場合が示されているが、目標墨出し位置は、曲線状であってもよい。
【0070】
また、墨出し装置10は、旋回することなく、全方向へと円滑に移動することができることから、例えば、指定された目標墨出し位置へ向かって速やかに移動することも可能である。
【0071】
具体的には、墨出し装置の走行部が全方向移動車輪を有するものではなく、
図8Aに示すように、墨出し装置の前方に配置された前輪を転舵することによって、墨出し装置の移動方向を変える一般的な走行装置である場合、指定された目標墨出し位置へと向かうには、前輪を転舵して墨出し装置の「前方」を一旦、目標墨出し位置へと向けた状態で走行した後、再度、前輪を転舵して墨出し装置の「前方」が目標墨出し位置に沿った方向を向くようにする必要がある。
【0072】
つまり、墨出し装置の走行部が一般的な走行装置である場合、墨出し装置の「前方」を目標に向ける動作、すなわち、墨出し装置の姿勢(向き)を変える動作を行う必要があるため、目標墨出し位置への到達に時間がかかってしまったり、墨出し部を目標墨出し位置に位置させることができなかったりするおそれがある。
【0073】
これに対して本実施形態に係る墨出し装置10は、走行部12の3つのオムニホイール13の回転方向及び回転速度がそれぞれ別々に制御装置30によって制御されることにより、
図8Bに示すように、その姿勢(向き)が変わることなく、「前方」と定義された側面を常に同じ方向に向けた状態で、指定された目標墨出し位置へ向かって移動し、墨出し部18を目標墨出し位置に速やかに位置させることが可能である。また、墨出し中に墨出し装置10の位置がずれた場合も速やかに正しい位置へと戻すことができる。
【0074】
このように墨出し装置10は、その姿勢(向き)が変わることなく、予め設定された目標墨出し位置に墨出し部18が位置するように、制御装置30によって複数のオムニホイール13の回転がそれぞれ制御される。つまり、目標墨出し位置への移動過程において、墨出し装置10は、旋回して向きを変えたり、切り返しを行って向きを変えたりすることがないことから、移動に要する時間が短縮され、結果として、床面1へと効率よく墨出しを行うことができる。なお、墨出し装置10が目標墨出し位置へと移動する状況としては、所定の箇所への墨出しが完了し、新たな目標墨出し位置へと移動する場合の他、例えば、何らかの要因で墨出し装置10が目標墨出し位置から離れてしまった後、目標墨出し位置へと戻るために移動する場合などがある。
【0075】
ここで、上述のように墨出し部18から目標墨出し位置へと墨出しを行う際の墨出し精度を向上させるには、墨出し装置10の位置、特に墨出し部18の位置を目標墨出し位置に対して正確に合わせる必要がある。
【0076】
目標墨出し位置に対して墨出し装置10の位置を調整する方法としては、
図9Aに示すように、目標墨出し位置と墨出し部18の位置との間に差分が生じた場合にのみ、差分が無くなる方向に操舵輪である第1オムニホイール13Aを電動モータ15によって回転駆動させる方法が考えられる。
【0077】
しかしながら、
図9Aに示す例では、差分が生じる方向に応じて、第1オムニホイール13Aの回転方向が切り換わることになる。一般的に回転方向の切換時には減速機のバックラッシュ等に起因するタイムラグが生じることから、墨出し部18の位置と目標墨出し位置との差分を十分に小さくすることができず、結果的に墨出し精度が低下してしまうおそれがある。
【0078】
これに対して、本実施形態では、
図9Bに示すように、目標墨出し位置と墨出し部18の位置との間に差分が生じているか否かに関わらず、操舵輪である第1オムニホイール13Aを電動モータ15によって所定の回転方向に常に回転駆動させるようにしている。
【0079】
具体的には、
図9Bの左側に示されるように、墨出し部18の位置が目標墨出し位置に一致した状態において、操舵輪である第1オムニホイール13Aの位置が目標墨出し位置から所定の距離だけ離れた姿勢で墨出し装置10を走行させている。換言すると、第1オムニホイール13Aの車軸14の軸線方向と目標墨出し位置との間に所定の大きさの傾斜角度αが形成されるように、墨出し装置10の「前方」が進行方向に対して水平方向に傾けられた姿勢で走行させている。
【0080】
このように墨出し装置10の「前方」を進行方向に対して傾けた状態で走行させることによって、目標墨出し位置に対する墨出し装置10の位置の調整は、すべてのオムニホイール13の回転方向を変えることなく、その回転速度のみを変えることによって行うことが可能となる。
【0081】
例えば、墨出し部18の位置が目標墨出し位置から傾斜角度αが形成された方向にずれた場合には、第1オムニホイール13Aの回転速度が上昇される一方、傾斜角度αが形成された方向とは反対側に墨出し部18の位置が目標墨出し位置からずれた場合には、第1オムニホイール13Aの回転速度が低下される(
図9B参照)。
【0082】
このように
図9Bに示す例では、第1オムニホイール13Aの回転方向が切り換わることなく、差分が生じる方向に応じて、第1オムニホイール13Aの回転速度が調整されることになる。このため、回転方向の切換によるタイムラグが生じることがないことから、目標墨出し位置への墨出し部18の位置の収束性を向上させることが可能となり、結果として、墨出し部18から目標墨出し位置へと精度よく墨出しを行うことができる。
【0083】
また、墨出し部18から目標墨出し位置への墨出し精度を向上させるために、
図10に示すように、三次元計測装置50により計測されたターゲット部20の三次元空間位置と、描画データに基づいて求められたターゲット部20の目標位置と、の差分eに応じて描画データをオフセットさせてもよい。
【0084】
通常、墨出し部18からの墨出しは、墨出し部18の中央付近で行われ、描画データも墨出しが墨出し部18の中央付近で行われることを想定して描画データ生成部35により生成される。したがって、墨出し精度を確保するには、墨出し部18の中心位置を目標墨出し位置に一致させる必要がある。
【0085】
一方で、墨出し部18は、上述のように、所定の墨出し可能幅W1内において床面1に対して墨出しを行うことが可能である。つまり、
図10に示されるように、墨出し部18の中心位置が目標墨出し位置と一致していない場合であっても、目標墨出し位置が墨出し可能幅W1内にあれば、目標墨出し位置に対して墨出しすることができる。
【0086】
このため、例えば、操舵輪である第1オムニホイール13Aの回転数を調整して墨出し部18の位置を目標墨出し位置へと近づけている途中であり、まだ、墨出し部18の中心位置が目標墨出し位置に一致していない場合であっても、描画データ生成部35により生成された描画データを、三次元計測装置50により計測されたターゲット部20の三次元空間位置と、描画データに基づいて求められたターゲット部20の目標位置と、の差分eだけオフセットし、このオフセットされた描画データに基づいて墨出し部18から墨出しを行うことによって、目標墨出し位置へと墨出しを行うことが可能である。
【0087】
このように差分eに応じて描画データをオフセットさせることに加えて、上述のように、差分eが生じる方向に応じて、第1オムニホイール13Aの回転速度を調整するようにすることによって、目標墨出し位置へと精度よく墨出しを行うことができる。
【0088】
以上のような墨出し精度及び墨出し効率を向上させるための手段を用いて墨出し装置10により墨出しが行われている間、制御装置30は、ステップS16において、三次元計測装置50と走行する墨出し装置10との間に仕切壁等の既設部材が入り込むことによって、装置間が遮断されるおそれがあるか否かを判定する。
【0089】
上述のように、三次元計測装置50は、走行する墨出し装置10に対してレーザ光を照射することによって、その三次元空間位置を測定しているため、仕切壁等によってレーザ光が遮られると墨出し装置10の三次元空間位置を測定することができなくなり、結果として、墨出し装置10は精度よく墨出しを継続することができなくなってしまう。
【0090】
このため、制御装置30は、墨出し装置10により墨出しが行われている間中、墨出し作業が行われる空間内の仕切壁等の位置データが含まれるBIM等の設計データと、現在の三次元計測装置50の位置と、墨出し装置10の走行予定経路と、に基づいて、三次元計測装置50と墨出し装置10との間に仕切壁等の既設部材が入り込むおそれがあるか否かを常時監視する。
【0091】
ステップS16において、装置間が遮断されるおそれがあると判定されると、ステップS17において、制御装置30は、墨出し装置10による墨出しを一時停止させる。
【0092】
続くステップS18において、制御装置30は、三次元計測装置50の台車部60を制御し、三次元計測装置50と墨出し装置10との間に仕切壁等の既設部材が入り込むおそれがない位置へと三次元計測装置50を移動させる。
【0093】
移動が完了し停止した三次元計測装置50は、上述のように、墨出しが行われる空間内における自己位置を自動的に更新し、ターゲット部20の三次元空間位置を計測することが可能な状態となる。
【0094】
このようにターゲット部20の三次元空間位置を三次元計測装置50により計測可能な状態となったことが確認されると、ステップS19に進み、制御装置30は、墨出し装置10による墨出しを再開させる。
【0095】
なお、三次元計測装置50と墨出し装置10との間に仕切壁等の既設部材が入り込むか否かは、三次元計測装置50を停止させる停止予定位置と墨出し装置10の走行予定経路とに基づいて、予測することが可能である。このため、三次元計測装置50の移動は計画的に行われてもよく、例えば、墨出し装置10が予定された走行経路の所定の位置に到達したことを条件として、三次元計測装置50を移動させるようにしてもよい。
【0096】
ステップS19において墨出し装置10による墨出しが再開した後、または、ステップS16において、装置間が遮断されるおそれがないと判定されると、ステップS20に進み、制御装置30は、予定されていた墨出し作業がすべて完了したか否かを判定する。
【0097】
予定されていた墨出し作業がすべて完了した場合、処理を終了し、次の作業の指示をサーバ120から受信するまで墨出し装置10は待機状態となる。
【0098】
一方、予定されていた墨出し作業がまだ完了していない場合、ステップS16へと戻り、墨出し作業が継続される。以降、上述のような工程を経て、予定されていた墨出し作業が完了するまで墨出し作業が行われる。
【0099】
以上の実施形態によれば、以下に示す効果を奏する。
【0100】
上記構成の自動墨出しシステム100において、制御装置30は、墨出し装置10の姿勢(向き)を変えることなく、予め設定された目標墨出し位置に墨出し部18が位置するように、複数のオムニホイール13(全方向移動車輪)の回転をそれぞれ制御する。また、制御装置30は、移動する墨出し装置10の墨出し部18から予め設定された目標墨出し位置に墨出しが行われるように、墨出し部18を制御するとともに、墨出し装置10が向きを変えることなく目標墨出し位置に沿って走行するように、複数のオムニホイール13(全方向移動車輪)の回転をそれぞれ制御する。
【0101】
墨出し装置10の走行部12は、複数のオムニホイール13を有する構成となっており、墨出し装置10は、旋回することなく、全方向へと円滑に移動することが可能である。したがって、目標墨出し位置に鋭角または鈍角に折れ曲がるような部分があっても、墨出し装置10は、旋回や切り返し動作を行うことなく、例えば「前方」と定義された側面を常に同じ方向に向けた状態で走行し、墨出しを行うことができる。また、指定された目標墨出し位置へ向かって移動する場合も、墨出し装置10は、「前方」と定義された側面を常に同じ方向に向けた状態で走行し、予め設定された目標墨出し位置に対して墨出し部18を速やかに位置させることができる。
【0102】
このように墨出し装置10は、その向きを変えることなく目標墨出し位置に沿って走行するように、制御装置30によって複数のオムニホイール13の回転がそれぞれ制御される。つまり、墨出しを行う過程や移動する過程において、墨出し装置10は、旋回して向きを変えたり、切り返しを行って向きを変えたりすることがないことから、墨出し作業に要する時間が短縮され、結果として、床面1へと効率よく自動的に墨出しを行うことができる。
【0103】
なお、次のような変形例も本発明の範囲内であり、変形例に示す構成と上述の実施形態で説明した構成を組み合わせたり、以下の異なる変形例で説明する構成同士を組み合わせたりすることも可能である。
【0104】
上記実施形態では、1台の三次元計測装置50により1台の墨出し装置10の三次元空間位置を計測している。これに代えて三次元計測装置50は、複数台の墨出し装置10の三次元空間位置を計測してもよい。このように複数台の墨出し装置10の三次元空間位置を1台の三次元計測装置50によって計測する場合、何れか1つの墨出し装置10の三次元空間位置が計測される間は、他の墨出し装置10の三次元空間位置が一時的に計測されないことになるが、墨出し装置10は、慣性計測装置(IMU)を姿勢検知部26として備えていることから、三次元空間位置が計測されない間は、自律航法(DR)を用いて、目標墨出し位置に沿って走行し、墨出しを行うことが可能である。
【0105】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【符号の説明】
【0106】
100・・・自動墨出しシステム
1・・・床面(墨出し面)
10・・・墨出し装置
12・・・走行部
13,13A・・・オムニホイール(全方向移動車輪)
14・・・車軸
18・・・墨出し部
20・・・ターゲット部
26・・・姿勢検知部
30・・・制御装置
50・・・三次元計測装置
55・・・光学計測部