IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

<>
  • -メタマテリアル 図1
  • -メタマテリアル 図2
  • -メタマテリアル 図3
  • -メタマテリアル 図4
  • -メタマテリアル 図5
  • -メタマテリアル 図6
  • -メタマテリアル 図7
  • -メタマテリアル 図8
  • -メタマテリアル 図9
  • -メタマテリアル 図10
  • -メタマテリアル 図11
  • -メタマテリアル 図12
  • -メタマテリアル 図13
  • -メタマテリアル 図14
  • -メタマテリアル 図15
  • -メタマテリアル 図16
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024070621
(43)【公開日】2024-05-23
(54)【発明の名称】メタマテリアル
(51)【国際特許分類】
   H01Q 15/14 20060101AFI20240516BHJP
   H01P 1/00 20060101ALI20240516BHJP
【FI】
H01Q15/14 Z
H01P1/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022181236
(22)【出願日】2022-11-11
(71)【出願人】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100109047
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 雄祐
(74)【代理人】
【識別番号】100109081
【弁理士】
【氏名又は名称】三木 友由
(74)【代理人】
【識別番号】100133215
【弁理士】
【氏名又は名称】真家 大樹
(72)【発明者】
【氏名】雨宮 智宏
(72)【発明者】
【氏名】高木 茉佑
【テーマコード(参考)】
5J011
5J020
【Fターム(参考)】
5J011CA00
5J020AA04
5J020BA02
5J020BA04
(57)【要約】
【課題】透磁率と誘電率を独立に制御可能なメタマテリアルを提供する。
【解決手段】メタマテリアル200は、空間的に分布して配置される複数の共振器構造体100を備える。共振器構造体100は、ピラー状の第1要素110と、第1要素110を取り囲む周回構造を有する第2要素120を含む。複数の共振器構造体100それぞれにおいて、第1要素110のサイズと第2要素120のサイズが独立して設計される。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
空間的に分布して配置される複数の共振器構造体を備え、
前記共振器構造体は、
ピラー状の第1要素と、
前記第1要素を取り囲む周回構造を有する第2要素と、
含み、
前記複数の共振器構造体それぞれにおいて、前記第1要素のサイズと前記第2要素のサイズが独立して設計されることを特徴とするメタマテリアル。
【請求項2】
前記第1要素のサイズは、前記第1要素の高さであることを特徴とする請求項1に記載のメタマテリアル。
【請求項3】
前記第2要素のサイズは、前記第2要素の周長であることを特徴とする請求項1または2に記載のメタマテリアル。
【請求項4】
前記第2要素は、井桁構造を有することを特徴とする請求項1または2に記載のメタマテリアル。
【請求項5】
前記複数の共振器構造体は、1枚のシート上に形成されることを特徴とする請求項1または2に記載のメタマテリアル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、メタマテリアルに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自然界に存在しない物質の特性を示すメタマテリアルに注目が集まっている。物質の電磁気学的な性質は、誘電率εと透磁率μの組み合わせによって規定される。代表的なものとしては、負の透磁率と負の誘電率を実現すると、負の屈折率を実現できることが知られている。メタマテリアルは、光学迷彩などの用途が期待されている。
【0003】
メタマテリアルは、対象とする波長よりも小さい構造(メタ原子という)によって、透磁率および誘電率を制御することで実現される。透磁率μの制御のために、メタ原子として、分割リング共振器(SRR:Split Ring Resonator)が利用される。SRRは、金属のリングに、ギャップを形成したものであり、ギャップ部分が容量C、金属部分がインダクタンスLとなり、LC共振器を形成している。このSRRを、入射電磁場の磁場が貫くと、電磁誘導により起電力が生じて、電流が流れ、この電流が磁気モーメントを生じさせる。このようにしてSRRは、磁気的な応答を示す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-072534号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のメタマテリアルでは、共振器構造体の透磁率と誘電率の一方のみを制御するものであったため、光の直交する2つの偏波のうち、一方のみの屈折率分布しか制御できかった。そのため、メタマテリアルを光学迷彩(透明マント)に利用する場合、透過率が低下するという問題があった。
【0006】
本開示はかかる状況においてなされたものであり、そのある態様の例示的な目的のひとつは、透磁率と誘電率を独立に制御可能なメタマテリアルの提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示のある態様は、メタマテリアルに関する。メタマテリアルは、空間的に分布して配置される複数の共振器構造体を備える。共振器構造体は、ピラー状の第1要素と、第1要素を取り囲む周回構造を有する第2要素と、含む。複数の共振器構造体それぞれにおいて、第1要素のサイズと第2要素のサイズが独立して設計される。
【発明の効果】
【0008】
本開示のある態様によれば、透磁率と誘電率を独立に制御できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態に係るメタマテリアルの構造を示す斜視図である。
図2】実施形態に係る共振器構造体の斜視図である。
図3】第1要素の設計パラメータを説明する図である。
図4】第1要素を単独で配置したときの誘電率εのシミュレーション結果を示す図である。
図5】第1要素の高さhと誘電率εの関係を示す図である。
図6】第2要素の設計パラメータを説明する図である。
図7】第2要素を単独で配置したときの透磁率μのシミュレーション結果を示す図である。
図8】第2要素の長さaと透磁率μの関係を示す図である。
図9】第1要素の設計パラメータhに加えて、第2要素の設計パラメータaを同時に変化させたときの誘電率εを示す図である。
図10図5のプロットに、図9の誘電率εを重ねてプロットした図である。
図11】第2要素の設計パラメータaに加えて、第1要素の設計パラメータhを同時に変化させたときの透磁率μを示す図である。
図12図8のプロットに、図11の透磁率μを重ねてプロットした図である。
図13】一実施例に係るメタマテリアルシートを示す図である。
図14図13のメタマテリアルシートの使用形態を説明する図である。
図15】偏光に依存しない光学迷彩を実現するためのパラメータhの分布を示す図である。
図16】光学迷彩を実現するためのパラメータaの分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(実施形態の概要)
本開示のいくつかの例示的な実施形態の概要を説明する。この概要は、後述する詳細な説明の前置きとして、実施形態の基本的な理解を目的として、1つまたは複数の実施形態のいくつかの概念を簡略化して説明するものであり、発明あるいは開示の広さを限定するものではない。またこの概要は、考えられるすべての実施形態の包括的な概要ではなく、実施形態の欠くべからざる構成要素を限定するものではない。便宜上、「一実施形態」は、本明細書に開示するひとつの実施形態(実施例や変形例)または複数の実施形態(実施例や変形例)を指すものとして用いる場合がある。
【0011】
一実施形態に係るメタマテリアルは、空間的に分布して配置される複数の共振器構造体を備える。共振器構造体は、ピラー状の第1要素と、第1要素を取り囲む周回構造を有する第2要素と、含む。複数の共振器構造体それぞれにおいて、第1要素のサイズと第2要素のサイズが独立して設計される。
【0012】
この構成によると、共振器構造体ごとに、第1要素のサイズに応じて誘電率を制御し、第2要素のサイズに応じて透磁率を制御することができ、誘電率と透磁率について独立した空間分布を形成することができる。
【0013】
一実施形態において、第1要素のサイズは、第1要素の高さであってもよい。第1要素の断面の大きさは一定としつつ、高さを変化させることで、誘電率を簡易に制御することができる。
【0014】
一実施形態において、第2要素のサイズは、第2要素の周長であってもよい。第2要素の周方向に垂直な断面の大きさは一定としつつ、周方向の長さを変化させることで、透磁率を簡易に制御することができる。
【0015】
一実施形態において、第2要素は、井桁構造を有してもよい。
【0016】
一実施形態において、複数の共振器構造体は、1枚のシート上に形成されてもよい。このシートを、物体に何重にも巻き付けることにより、物体の表面に、複数の共振器構造体が3次元的に分布し、誘電率と透磁率の独立した分布が形成される。これにより直交する2つの偏光成分の両方を利用した透過率の高い光学迷彩を実現できる。
【0017】
(実施形態)
以下、実施形態についていくつかの図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下の説明において、略同一の機能及び構成を有する構成要素については、同一符号を付し、重複説明は必要な場合にのみ行う。
【0018】
以下、好適な実施形態について、図面を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、実施形態は、開示および発明を限定するものではなく例示であって、実施形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも開示および発明の本質的なものであるとは限らない。
【0019】
また図面に記載される各部材の寸法(厚み、長さ、幅など)は、理解の容易化のために適宜、拡大縮小されている場合がある。さらには複数の部材の寸法は、必ずしもそれらの大小関係を表しているとは限らず、図面上で、ある部材Aが、別の部材Bよりも厚く描かれていても、部材Aが部材Bよりも薄いこともあり得る。
【0020】
図1は、実施形態に係るメタマテリアル200の構造を示す斜視図である。メタマテリアル200は、空間中に三次元(あるいは二次元)に分布する複数のメタ原子202を備える。各メタ原子202は、透磁率μおよび誘電率εを制御可能であり、したがって屈折率を制御することができる。メタ原子202は、後述する共振器構造体100で構成される。メタ原子202の集合体であるメタマテリアル200は、任意の屈折率の空間分布を持つ。たとえばメタマテリアル200によって空間中に負の屈折率分布を形成することで、光学迷彩やその他の光学素子を実現できる。
【0021】
図2は、実施形態に係る共振器構造体100の斜視図である。この共振器構造体100は、図1に示したように、メタマテリアル200のメタ原子202として利用され、誘電率εと透磁率μが制御可能である。
【0022】
共振器構造体100は、第1要素110および第2要素120を備える。第1要素110はピラー形状を有している。この例では第1要素110は四角柱であるが、円柱や多角柱であってもよい。第1要素110を、インナーバーとも称する。
【0023】
第2要素120は、第1要素110を取り囲む周回構造を有する。第2要素120をアウターリングとも称する。第1要素110は、等価回路で見たときに周方向に直列に接続されるインダクタとキャパシタを含む共振回路となるように構成される。本実施形態において、第1要素110は、井桁構造を有しており、第1方向に平行に伸びる第1配線対122と、第2方向に平行に伸びる第2配線対124と、を含み、第1配線対122と第2配線対124は異なる高さに形成される。
【0024】
共振器構造体100は、第1要素110のサイズと、第2要素120のサイズが設計パラメータであり、それらの組み合わせによって、誘電率εと透磁率μが制御される。
【0025】
続いて、設計パラメータについて説明する。
【0026】
図3は、第1要素110の設計パラメータを説明する図である。この例において第1要素110は四角柱であり、そのサイズは、高さh、断面の矩形の寸法w,dで規定され、これらの任意のひとつまたは複数を、誘電率制御のための設計パラメータとすることができる。ただし設計パラメータの個数を増やすと、組み合わせが指数関数的に増加するため、設計パラメータは少ないことが好ましい。そこで、w,dは固定し、高さhを設計パラメータとするとよい。
【0027】
図4は、第1要素110を単独で配置したときの誘電率εのシミュレーション結果を示す図である。ここでは、w=d=10nmに固定し、高さhを設計パラメータに選び、高さhを100nm~170nmの範囲で10nm刻みで変化させて、誘電率εの変化を調べた。
【0028】
図5は、第1要素110の高さhと誘電率εの関係を示す図である。第1要素110の高さhを制御パラメータとすることで、誘電率εを0~1.4に渡る広い範囲において制御できる。
【0029】
図6は、第2要素120の設計パラメータを説明する図である。この第2要素120は、第1配線対122に関して、配線の断面サイズd,w、2本の配線間の距離aを設計パラメータとして選ぶことができる。また第2配線対124に関して、配線の断面サイズd,w、2本の配線間の距離aを設計パラメータとして選ぶことができる。さらに第1配線対122と第2配線対124の高さ方向の距離bを設計パラメータとして選ぶことができる。
【0030】
なお、第1配線対122の配線長lと、第2配線対124の配線長lも設計パラメータとして捉えることができるが、l=a+2×d、l=a+2×dであることから、l,lは従属的な設計パラメータであると言える。
【0031】
第2要素120についても設計パラメータの個数を増やすと、組み合わせが指数関数的に増加するため、設計パラメータは少ないことが好ましい。そこで、w,d,w,d,bは固定し、a=a=aという制約条件のもと、aを設計パラメータとするとよい。長さaを変化させることは、第2要素120の周長を変化させることに他ならない。
【0032】
図7は、第2要素120を単独で配置したときの透磁率μのシミュレーション結果を示す図である。ここでは、w=w=30nm、d=d=30nm、b=60nmに固定し、長さaを設計パラメータに選び、長さaを50nm~90nmの範囲で5nm刻みで変化させて、透磁率μの変化を調べた。410.1THzの光の振動数において、透磁率μは、0.05~0.44の範囲で変化させることができることが分かる。なお透磁率μを負の領域で設計すると、負の屈折率を得ることができる。
【0033】
図8は、第2要素120の長さaと透磁率μの関係を示す図である。第2要素120の配線要素の長さa(つまり周長)を制御パラメータとすることで、透磁率μを0.05~0.42に渡る広い範囲において制御できる。
【0034】
これまでは、第1要素110と第2要素120それぞれの個別の特性について検討した。第1要素110と第2要素120を組み合わせて使用する場合、それらは空間的に近接するため、相互作用する。そのため、第1要素110単体で誘電率εが制御でき、あるいは第2要素120単体で透磁率μが制御できたからといって、それらの組み合わせにおいて、誘電率εと透磁率μが独立に制御できるとは限らない。そこでこの懸念についてシミュレーションにより確認した。
【0035】
図9は、第1要素110の設計パラメータhに加えて、第2要素120の設計パラメータaを同時に変化させたときの誘電率εを示す図である。図10は、図5のプロットに、図9の誘電率εを重ねてプロットした図である。図10から分かるように、誘電率εは、設計パラメータaの影響はほとんど受けずに、本来の設計パラメータであるhによって決まることが分かる。
【0036】
図11は、第2要素120の設計パラメータaに加えて、第1要素110の設計パラメータhを同時に変化させたときの透磁率μを示す図である。図12は、図8のプロットに、図11の透磁率μを重ねてプロットした図である。図12から分かるように、透磁率μは、設計パラメータhの影響はほとんど受けずに、本来の設計パラメータであるaによって決まることが分かる。
【0037】
図10図12から分かるように、図2の共振器構造体100では、第1要素110の高さhによって誘電率εを制御でき、第2要素120の長さaによって、透磁率μを制御できる。つまり、誘電率εと透磁率μを独立に制御できることが分かる。
【0038】
図13は、一実施例に係るメタマテリアルシート300を示す図である。このメタマテリアルシート300は、複数の共振器構造体100を、1枚のシート状のフィルム302上に形成したものである。
【0039】
図14は、図13のメタマテリアルシート300の使用形態を説明する図である。メタマテリアルシート300は、物体OBJに巻き付けて使用される。メタマテリアルシート300は光学迷彩あるいは透明マントであり、物体OBJに向かう光を、物体OBJの表面のメタマテリアルシート300に沿って導波させ、物体OBJの反対側から放出する。これにより、人間の目には、物体OBJが存在しないかのように見える。
【0040】
図15は、偏光に依存しない光学迷彩を実現するためのパラメータhの分布を示す図である。横軸は、図13のフィルムの長さ方向の位置に対応する。図16は、光学迷彩を実現するためのパラメータaの分布を示す図である。横軸は、図13のフィルムの長さ方向の位置に対応する。フィルム302の厚さは725nmとし、巻数を68、物体OBJの直径を50μm、透過波長を410THzとして計算している。パラメータh,aは、互いに直交する2つの偏光成分の両方について、光学迷彩の条件を満たしていることに留意されたい。
【0041】
このように、本実施形態では、2つの設計パラメータaとhのシートの長さ方向に対する分布を最適化することにより、光学迷彩を実現することができる。この光学迷彩は、直交する2つの偏光成分について、光を透過させる偏光無依存型である。従来技術では、1つの偏光成分についてのみ、光学迷彩の条件が成立していたが、本実施形態では、2つの偏光成分について光学迷彩の条件を成立させることができるため、透過率を高めることができる。
【0042】
(変形例1)
実施形態では、第1要素110について高さhのみを、第2要素120について長さaのみを設計パラメータとしたが、本開示はそれに限定されず、その他の寸法を設計パラメータとして用いてもよい。
【0043】
(変形例2)
実施形態では、第2要素120について井桁型の共振器を説明したがそれに限定されない。たとえば第2要素120としては、C字型の共振器構造を採用してもよい。
【符号の説明】
【0044】
100 共振器構造体
110 第1要素
120 第2要素
122 第1配線対
124 第2配線対
200 メタマテリアル
202 メタ原子
300 メタマテリアルシート
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16