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特開2024-70638プログラム、情報処理方法、及び情報処理装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024070638
(43)【公開日】2024-05-23
(54)【発明の名称】プログラム、情報処理方法、及び情報処理装置
(51)【国際特許分類】
   E02B 9/02 20060101AFI20240516BHJP
   E02B 7/26 20060101ALI20240516BHJP
   G06N 20/00 20190101ALI20240516BHJP
【FI】
E02B9/02
E02B7/26 Z
G06N20/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022181257
(22)【出願日】2022-11-11
(71)【出願人】
【識別番号】000003687
【氏名又は名称】東京電力ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】中村 彩香
(72)【発明者】
【氏名】田中 斗志貴
【テーマコード(参考)】
2D019
【Fターム(参考)】
2D019BA03
2D019BA04
(57)【要約】
【課題】効率よく取水するように制水門を操作することが可能なプログラム等を提供する。
【解決手段】本開示の一実施形態に係るプログラムは、ダム水位、制水門開度、調整前水路水位、及び目標水路水位を取得し、前記ダム水位、前記制水門開度、前記調整前水路水位、及び前記目標水路水位を入力した場合に、制水門の開度に関する開度情報を出力する第1学習モデルに、前記ダム水位、前記制水門開度、前記調整前水路水位、及び前記目標水路水位を入力して前記開度情報を出力する処理をコンピュータに実行させる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダム水位、制水門開度、調整前水路水位、及び目標水路水位を取得し、
前記ダム水位、前記制水門開度、前記調整前水路水位、及び前記目標水路水位を入力した場合に、制水門の開度に関する開度情報を出力する第1学習モデルに、前記ダム水位、前記制水門開度、前記調整前水路水位、及び前記目標水路水位を入力して前記開度情報を出力する
処理をコンピュータに実行させるプログラム。
【請求項2】
実測水路水位の時系列データに基づいて、前記調整前水路水位を推測する
請求項1に記載のプログラム。
【請求項3】
前記実測水路水位の時系列データを入力した場合に、前記調整前水路水位を出力する第2学習モデルに、前記実測水路水位の時系列データを入力して前記調整前水路水位を出力する
請求項2に記載のプログラム。
【請求項4】
前記開度情報は、前記制水門を操作する際の前記制水門の動作量を示す
請求項1または2に記載のプログラム。
【請求項5】
前記調整前水路水位が許容上限水位を上回っているか否かを判定し、
前記調整前水路水位が前記許容上限水位を上回っていると判定した場合、前記第1学習モデルに、前記ダム水位、前記制水門開度、前記調整前水路水位、及び前記目標水路水位を入力して前記開度情報を出力する
請求項1または2に記載のプログラム。
【請求項6】
前記調整前水路水位が許容下限水位を下回っているか否かを判定し、
前記調整前水路水位が前記許容下限水位を下回っていると判定した場合、前記第1学習モデルに、前記ダム水位、前記制水門開度、前記調整前水路水位、及び前記目標水路水位を入力して前記開度情報を出力する
請求項1または2に記載のプログラム。
【請求項7】
前記ダム水位、前記調整前水路水位、前記目標水路水位、または前記制水門を操作後の調整後水路水位、及び前記制水門開度を表示部に出力する
請求項1または2に記載のプログラム。
【請求項8】
前記開度情報に基づいて前記制水門が操作された後、前記ダム水位、前記制水門開度、前記調整前水路水位、及び前記制水門を操作後の調整後水路水位に基づく訓練データを取得し、
取得した訓練データに基づき、前記第1学習モデルを学習する
請求項1または2に記載のプログラム。
【請求項9】
前記開度情報に基づいて前記制水門が操作された後、前記目標水路水位と前記制水門を操作後の調整後水路水位との誤差に応じた報酬に基づいて、前記第1学習モデルを学習する
請求項1または2に記載のプログラム。
【請求項10】
ダム水位、制水門開度、調整前水路水位、及び目標水路水位を取得し、
前記ダム水位、前記制水門開度、前記調整前水路水位、及び前記目標水路水位を入力した場合に、制水門の開度に関する開度情報を出力する第1学習モデルに、前記ダム水位、前記制水門開度、前記調整前水路水位、及び前記目標水路水位を入力して前記開度情報を出力する
情報処理方法。
【請求項11】
ダム水位、制水門開度、調整前水路水位、及び目標水路水位を取得し、
前記ダム水位、前記制水門開度、前記調整前水路水位、及び前記目標水路水位を入力した場合に、制水門の開度に関する開度情報を出力する第1学習モデルに、前記ダム水位、前記制水門開度、前記調整前水路水位、及び前記目標水路水位を入力して前記開度情報を出力する
処理部
を備える情報処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、プログラム、情報処理方法、及び情報処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、河川をせき止めたダムから取水し、配管(水路)に水を流す際の水圧を利用して発電を行う水路式発電施設が開示されている(例えば、特許文献1)。特許文献1に記載の発電施設は河川の水を落下させることにより、電力を得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第2681429号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ダムから取水された水が流れる水路には、水路自体、または発電設備の破損を防ぐため、許容上限水位が設定されている。ダムから取水され、水路に流される水の水量は、制水門が操作されることによって制御される。水路に流される水の水量は、水路水位が許容上限水位を超えないように制御されるが、制水門の操作の結果、水路水位が許容上限水位を大きく下回ることもあり、発電のための取水の効率が悪い。
【0005】
本開示は斯かる事情に鑑みてなされたものであり、効率よく取水するように制水門を操作することが可能なプログラム等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一実施形態に係るプログラムは、ダム水位、制水門開度、調整前水路水位、及び目標水路水位を取得し、前記ダム水位、前記制水門開度、前記調整前水路水位、及び前記目標水路水位を入力した場合に、制水門の開度に関する開度情報を出力する第1学習モデルに、前記ダム水位、前記制水門開度、前記調整前水路水位、及び前記目標水路水位を入力して前記開度情報を出力する処理をコンピュータに実行させる。
【0007】
本開示の一実施形態に係る情報処理方法は、ダム水位、制水門開度、調整前水路水位、及び目標水路水位を取得し、前記ダム水位、前記制水門開度、前記調整前水路水位、及び前記目標水路水位を入力した場合に、制水門の開度に関する開度情報を出力する第1学習モデルに、前記ダム水位、前記制水門開度、前記調整前水路水位、及び前記目標水路水位を入力して前記開度情報を出力する。
【0008】
本開示の一実施形態に係る情報処理装置は、ダム水位、制水門開度、調整前水路水位、及び目標水路水位を取得し、前記ダム水位、前記制水門開度、前記調整前水路水位、及び前記目標水路水位を入力した場合に、制水門の開度に関する開度情報を出力する第1学習モデルに、前記ダム水位、前記制水門開度、前記調整前水路水位、及び前記目標水路水位を入力して前記開度情報を出力する処理部を備える。
【発明の効果】
【0009】
本開示の一実施形態に係るプログラムにあっては、効率よく取水するように制水門を操作することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】水力発電所の概要を示す説明図である。
図2】取水システムを示す模式図である。
図3】情報処理装置の構成例を示すブロック図である。
図4】水位予測モデルの一例を示す説明図である。
図5】開度情報出力モデルの一例を示す説明図である。
図6】履歴テーブルの一例を示す説明図である。
図7】表示部における表示画面の一例を示す説明図である。
図8】情報処理装置の処理部の処理の一例を示すフローチャートである。
図9】開度情報出力モデルの再学習処理を示すフローチャートである。
図10】実施形態2に係る開度情報出力モデルの一例を示す説明図である。
図11】実施形態2に係る開度情報出力モデルの再学習処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(実施形態1)
以下、実施形態について図面を参照し、実施形態について説明する。図1は、水力発電所Wの概要を示す説明図である。水力発電所Wは、例えば、水路式の発電所であり、堰堤(ダム)Dと、ダム湖Lと、水路Cと、発電機Eと、取水システムSとを備える。ダム湖Lは河川RをダムDによってせき止めることにより形成される人工湖である。水路Cはダム湖Lに接続し、取水システムSによってダム湖Lから取水された水を発電機Eに流す。水路Cを流れる水は、発電機Eを通過した後、河川RのダムDより下流に放出される。図1においては、左方が河川Rの上流側、右方が下流側を示す。
【0012】
図2は取水システムSを示す模式図である。取水システムSは、情報処理装置1と、制水門Gと、巻上機1aと、水位計1bと、ダム水位計1cとを備える。情報処理装置1は、巻上機1a、水位計1b、及びダム水位計1cから取得した情報に基づいて開度情報を出力し、出力した開度情報に基づいて、巻上機1aに制水門Gを操作させる信号を出力する。本実施形態において開度情報は、水路水位を目標水路水位にするために制水門Gが操作される際の、制水門Gの動作量(制水門開度の変化量)を示す。なお、開度情報は制水門開度の目標値であってもよい。以下の説明では、開度情報は制水門Gの動作量であるものとして説明する。
【0013】
制水門Gは、ダム湖Lと水路Cとの境界に設けられる。制水門Gの開度(制水門開度)が大きいほど、水路Cに流れる水量は増加し、制水門開度が小さいほど水路Cを流れる水量は減少する。
【0014】
巻上機1aは、情報処理装置1からの信号に基づいて制水門Gを昇降させる。巻上機1aが制水門Gを上昇させると制水門開度は大きくなり、降下させると制水門開度は小さくなる。なお、制水門Gは、左右に開く方式、または水路Cの底部からせり上がる方式などでもよい。
【0015】
水路Cには、水位計1bが設けられる。水位計1bは、例えば水圧に基づいて水位を測定する圧力式水位計であり、水路Cの水位(実測水路水位)を計測し、情報処理装置1に出力する。
【0016】
ダム湖Lにはダム水位計1cが設けられる。ダム水位計1cは、例えば水圧に基づいて水位を測定する圧力式水位計であり、ダム湖Lの水位(ダム水位)を計測し、情報処理装置1に出力する。
【0017】
なお、情報処理装置1は、ダム湖L付近に設けられる構成に限られず、無線通信により遠隔で巻上機1a、水位計1b、及びダム水位計1cから各情報を取得してもよく、巻上機1aの制御を行ってもよい。
【0018】
図3は情報処理装置1の構成例を示すブロック図である。情報処理装置1は、処理部11と、記憶部12と、表示部13とを備える。巻上機1aは、情報処理装置1に制水門開度を出力する。また、情報処理装置1が出力した動作量を取得した場合、取得した動作量に基づいて制水門Gを操作し、制水門Gの開度を調整する。なお、本実施形態において、「巻上機1aを制御する」と「制水門Gを操作する」は同義である。水位計1bは、水路Cの実測水路水位を計測し、情報処理装置1に出力する。ダム水位計1cは、ダム湖Lのダム水位を計測し、情報処理装置1に出力する。
【0019】
情報処理装置1の処理部11は、例えばCPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro-Processing Unit)またはGPU(Graphics Processing Unit)等の演算装置を用いて構成されている。処理部11は、記憶部12に記憶されたプログラムを読み出して実行することにより、種々の処理を行うことができる。本実施形態において処理部11は、プログラム12a、水位予測モデル12b、開度情報出力モデル12c、及びデータベースを読み出して実行することにより、調整前水路水位を推測する処理、並びに動作量を出力する処理、制水門Gを操作する処理等の種々の処理を行う。なお情報処理装置1の外部にデータベースサーバ等を設け、該データベースサーバ等からデータベースを読み出してもよい。また、情報処理装置1は、複数のサーバ装置またはコンピュータによりその機能が実現されるものであってもよい。また、情報処理装置1は、ブロックチェーン上のノードに対応するもの、またはクラウドサーバなどであってもよい。
【0020】
記憶部12は、例えばハードディスクまたはSSD(Solid State Drive)等の大容量の記憶装置を用いて構成される。記憶部12は、処理部11が実行する各種のプログラム、及び処理部11の処理に必要な許容上限水位、許容下限水位、及び目標水路水位等の各種のデータを記憶する。許容上限水位は、水路Cにおいて許容される水位の上限値である。許容下限水位は、水路Cにおいて許容される水位の下限値である。目標水路水位は、例えば、許容上限水位よりも1cm低い水位であり、水路Cに流れる水の水位の目標値である。また、記憶部12は、水位計1bから取得した実測水路水位を、取得した時点と対応させて記憶する。本実施形態において記憶部12は、処理部11が実行するプログラム12a、プログラム12aの実行により行われる処理に用いられる水位予測モデル12b及び開度情報出力モデル12c、及び履歴テーブル12dを記憶している。
【0021】
本実施形態においてプログラム12a(プログラム製品)は、メモリーカード等の記録媒体121に記録された態様で提供され、情報処理装置1は記録媒体121からプログラム12aを読み出して記憶部12に記憶する。ただし、プログラム12aは、例えば情報処理装置1の製造段階において記憶部12に書き込まれてもよい。また、例えばプログラム12aは、記録媒体121に記録されたものを書き込み装置が読み出して情報処理装置1の記憶部12に書き込んでもよい。プログラム12aは、ネットワークを介した配信の態様で提供されてもよい。
【0022】
水位予測モデル12bは、水位計1bから取得した実測水路水位の時系列データに基づき、調整前水路水位を出力する。水位予測モデル12bは第2学習モデルに対応する。なお、水位予測モデル12bは外部サーバが備えるクラウド内に記憶されてもよい。また、水位予測モデル12bは外部サーバが備えるクラウド内において学習されてもよい。水位計1bが計測する実測水路水位は、水路Cの入り口付近に設けられるフィルタの詰まりなどにより変化しやすく、短時間で急激に変化することがある。また、水位計1bは制水門Gから離れた箇所に設けられており、水位計1bによって測定された実測水路水位に基づいて制水門Gを操作した場合、水路水位の推移に対して制水門Gの操作が遅れるおそれがある。そのため、処理部11は、実測水路水位の時系列データに基づき水位予測モデル12bによって予測された調整前水路水位を、後述する開度情報出力モデル12cの入力データとする。水位予測モデル12bの詳細については後述する。
【0023】
開度情報出力モデル12cは、ダム水位計1cから取得したダム水位、巻上機1aから取得した制水門開度、水位予測モデル12bが出力した調整前水路水位、及び記憶部12から読み出した目標水路水位が入力された場合、動作量を出力する。開度情報出力モデル12cは、第1学習モデルに対応する。なお、開度情報出力モデル12cは外部サーバが備えるクラウド内に記憶されてもよい。また、開度情報出力モデル12cは外部サーバが備えるクラウド内において学習されてもよい。開度情報出力モデル12cの詳細については後述する。
【0024】
履歴テーブル12dには、制水門Gが操作された時点におけるダム水位、制水門開度、調整前水路水位、動作量、出力された動作量に従って制水門を操作後に水位計1bが計測した実測水路水位である、調整後水路水位の履歴が記録される。履歴テーブル12dは外部サーバが備えるクラウド内に記憶されてもよい。履歴テーブル12dの詳細については後述する。
【0025】
表示部13は例えばディスプレイであり、各種情報を表示する。表示部13が表示する画面の詳細については後述する。
【0026】
図4は、水位予測モデル12bの一例を示す説明図である。本実施形態における開度情報出力モデル12cは、例えばオートエンコーダを用いた機械学習により生成されている。ただし機械学習はオートエンコーダ以外の手法により行われてもよい。例えば、カルマンフィルタ、ニューラルネットワーク、LSTM(Long Short Term Memory)、Transformer、SVM(Support Vector Machine)、決定木、又はk近傍法等の種々の機械学習の方法が採用され得る。
【0027】
情報処理装置1の処理部11は、一定時間ごとに水位計1bから実測水路水位lmを取得する。以下の説明において時点t(n)において水位計1bが測定した実測水路水位をlm(n)とする。なお、時点t(n―1)と時点t(n)の間隔は例えば数秒である。処理部11は、時点t(1)~t(n)の各時点において水位計1bが計測した実測水路水位lm(1)~lm(n)を含む時系列データを水位予測モデル12bに入力する。
【0028】
水位予測モデル12bは、例えば入力層、中間層、及び出力層を含む。入力層に含まれる複数のノードに、実測水路水位lm(1)~lm(n)の各実測水路水位が入力された場合、水位予測モデル12bは演算を行い、時点t(n+1)において予測される水路水位(調整前水路水位)を出力する。なお、水位予測モデル12bに入力される時系列データには、時点t(n)から遡って直近に計測された例えば10個の実測水路水位lmが含まれてもよい。また、直近の一定時間、例えば5分間の間に計測された実測水路水位lmが含まれてもよい。
【0029】
また、水位予測モデル12bは、実測水路水位lm(1)~lm(n)と、実測水路水位lm(n+1)を対応させた訓練データに基づき、学習される。具体的には、実測水路水位lm(1)~lm(n)が入力された際に出力する調整前水路水位と、実測水路水位lm(n+1)との誤差が最小になるように、例えば誤差逆伝播法により処理が繰り返され、水位予測モデル12bに含まれる各ノードの演算のパラメータが調整される。情報処理装置1の処理部11は、実測水路水位lm(n+1)を水位計1bから取得すると上述した水位予測モデル12bの学習を実行する。なお、水位予測モデル12bの学習は情報処理装置1以外の装置において実行されてもよい。また、水位予測モデル12bは定期的に再学習されてもよい。
【0030】
図5は、開度情報出力モデル12cの一例を示す説明図である。本実施形態における開度情報出力モデル12cは、例えばニューラルネットワークを用いた機械学習により生成されている。ただし機械学習はニューラルネットワーク以外の手法により行われてもよい。例えば、カルマンフィルタ、LSTM、Transformer、SVM、決定木、又はk近傍法等の種々の機械学習の方法が採用され得る。開度情報出力モデル12cは、水力発電所Wとは異なる他の水力発電所において構築された学習モデルまたはシミュレータによって構築された学習モデルを転移学習することによって生成された学習モデルであってもよい。
【0031】
開度情報出力モデル12cに含まれる入力層は、処理部11がダム水位計1cから取得したダム水位、処理部11が巻上機1aから取得した制水門開度、水位予測モデル12bが出力した調整前水路水位、及び処理部11が記憶部12から読み出した目標水路水位の入力を受け付ける複数のニューロンを有し、入力されたプロセスデータを中間層に受け渡す。中間層は、入力層に入力されて各データの特徴量を抽出する複数のニューロンを有し、抽出した特徴量を出力層に受け渡す。出力層は、制水門Gの動作量(開度情報)を出力するニューロンを有し、中間層から出力された特徴量に基づいて動作量を出力する。なお、開度情報出力モデル12cには、ダム水位及び制水門開度に基づいて算出される押し込み圧が入力されてもよい。
【0032】
本実施形態に係る開度情報出力モデル12cの機械学習では、制水門Gの操作を行った時点におけるダム水位、制水門開度、調整前水路水位、動作量、及び出力された動作量に従って制水門Gを操作した直後に水位計1bが計測した実測水路水位である、調整後水路水位に基づく訓練データを用いることが可能である。なお、調整後水路水位は、制水門Gが操作されてから一定時間経過後に計測された実測水路水位でもよい。ダム水位、制水門開度、及び調整前水路水位を入力した場合、目標水路水位と調整後水路水位が同値となる動作量を出力するよう、ニューラルネットワークを用いた機械学習を行う。開度情報出力モデル12cは、多数の訓練データを用いて学習される。
【0033】
開度情報出力モデル12cの機械学習は最初の一度に限られない。必要に応じて、新たな訓練データを用いて開度情報出力モデル12cの再学習を行ってもよく、これまでの訓練データに新たな訓練データを追加して再学習を行ってもよい。開度情報出力モデル12cは、例えば、特定の曜日の特定の時刻に、記憶部12の履歴テーブル12dに記録された各時点のダム水位、制水門開度、調整前水路水位、動作量、及び調整後水路水位に基づく訓練データによって再学習される。すなわち開度情報出力モデル12cは、一週間分の各時点の訓練データに基づいて定期的に再学習される。
【0034】
図6は履歴テーブル12dの一例を示す説明図である。図6においては、許容上限水位が74cm、許容下限水位が70cm、目標水路水位が73cmである場合の、各情報の履歴の一例を示す。履歴テーブル12dの項目(フィールド)は、例えば、制水門操作日時フィールド、ダム水位フィールド、制水門開度フィールド、調整前水路水位フィールド、動作量フィールド、及び調整後水路水位フィールドを含む。制水門操作日時フィールドには、制水門Gが操作された時点の日時が格納される。ダム水位フィールドには、制水門Gの動作量を出力する際に開度情報出力モデル12cに入力されたダム水位が格納される。制水門開度フィールドには、制水門Gの動作量を出力する際に開度情報出力モデル12cに入力された制水門開度が格納される。調整前水路水位フィールドには、制水門Gの動作量を出力する際に開度情報出力モデル12cに入力された調整前水路水位が格納される。動作量フィールドには、開度情報出力モデル12cが出力し、制水門Gが操作された際の制水門Gの動作量が格納される。なお、動作量フィールドには、制水門開度が小さくなるように制水門Gが降下された場合、マイナスの値が格納され、制水門開度が大きくなるように制水門Gが上昇された場合、プラスの値が格納される。調整後水路水位フィールドには、制水門Gを操作後の調整後水路水位が格納される。情報処理装置1の処理部11は、制水門Gが操作された時点における各情報を履歴テーブル12dに格納する。また、処理部11は、開度情報出力モデル12cの再学習の際に、履歴テーブル12dから各情報を読み出し、訓練データを作成する。
【0035】
図7は表示部13における表示画面の一例を示す説明図である。表示画面には、例えば、ダム水位、制水門開度、及び実測水路水位の推移を示す水路水位グラフが表示される。水路水位グラフは、横軸を時刻(時点)、縦軸を水位とし、水位計1bが各時点(時刻)において測定した実測水路水位が表示される。また、水路水位グラフには、許容上限水位、及び許容下限水位が表示される。処理部11は、水位予測モデル12bによって出力した調整前水路水位が許容上限水位を上回っている、あるいは許容下限水位を下回っている場合、開度情報出力モデル12cによって動作量を出力し、動作量に従って制水門Gを操作する。また、水位グラフには、目標水路水位が表示される。
【0036】
水位グラフには、制水門Gが操作された時刻が表示される。制水門Gが操作された直後に水位計1bが計測した実測水路水位は調整後水路水位である。また、水位グラフには、最新の実測水路水位に基づいて水位予測モデル12bによって出力された調整前水路水位が表示される。図7に示す例においては、最新の実測水路水位から調整前水路水位への推移が点線によって示される。
【0037】
図8は、情報処理装置1の処理部11の処理の一例を示すフローチャートである。情報処理装置1の処理部11は、例えば、制水門Gの操作を指示する信号が入力された場合、以下の処理を開始する。処理部11は、水位計1bから実測水路水位を取得する(S1)。処理部11は、記憶部12から過去に計測された実測水路水位を読み出し(S2)、読み出した過去の実測水路水位と水位計1bから取得した実測水路水位を含めた実測水路水位の時系列データを作成する(S3)。なお、処理部11は、記憶部12から読み出した実測水路水位のみに基づいて時系列データを作成してもよい。処理部11は作成した実測水路水位の時系列データを水位予測モデル12bに入力し(S4)、調整前水路水位を出力する(S5)。処理部11は、調整前水路水位が許容上限水位を上回っているか否かを判定する(S6)。調整前水路水位が許容上限水位を上回っている場合(S6:YES)、処理部11は処理をS8に進める。調整前水路水位が許容上限水位を上回っていない場合(S6:NO)、処理部11は、調整前水路水位が許容下限水位を下回っているか否かを判定する(S7)。調整前水路水位が許容下限水位を下回っている場合(S7:YES)、処理部11は処理をS8に進める。調整前水路水位が許容下限水位を下回っていない場合(S7:NO)、処理部11は、処理をS1に返す。
【0038】
処理部11は、ダム水位計1cからダム水位、及び巻上機1aから制水門開度を取得する(S8)。処理部11は、記憶部12から目標水路水位を読み出す(S9)。処理部11は、ダム水位、制水門開度、調整前水路水位、及び目標水路水位を開度情報出力モデル12cに入力し(S10)、動作量を出力する(S11)。処理部11は、動作量に基づき、巻上機1aを制御することによって制水門Gを操作する(S12)。処理部11は、調整後水路水位を水位計1bから取得し(S13)、制水門Gの操作を行った時点におけるダム水位、制水門開度、調整前水路水位、動作量及び調整後水路水位を記憶部12に記憶させ(S14)、処理をS1に返す。
【0039】
図9は開度情報出力モデル12cの再学習処理を示すフローチャートである。処理部11は、開度情報出力モデル12cを再学習させるタイミングであるか否かを判定する(S21)。開度情報出力モデル12cを再学習させるタイミングでない場合(S21:NO)、処理部11は処理をS21に返す。
【0040】
特定の曜日の特定の時刻であり、開度情報出力モデル12cを再学習させるタイミングである場合(S21:YES)、処理部11は、記憶部12の履歴テーブル12dからダム水位、制水門開度、調整前水路水位、動作量及び調整後水路水位を読み出す(S22)。処理部11は、調整後水路水位と記憶部12に記憶された目標水路水位との誤差の絶対値を算出する(S23)。処理部11は、算出した誤差に基づいて動作量を補正することによって補正動作量を算出する(S24)。S24において、処理部11は、例えば、調整後水路水位が目標水路水位よりも高い場合、操作後の制水門開度が小さくなるように動作量をマイナス側に補正し、調整後水路水位が目標水路水位よりも低い場合、操作後の制水門開度が大きくなるように動作量をプラス側に補正する。また、動作量の補正量は、例えば、S23において算出された誤差の絶対値と同等の長さである。
【0041】
以下、図6に示す履歴テーブル12dの最上のレコードが開度情報出力モデル12cの再学習に用いられる場合を例とし、S23及びS24の詳細を説明する。図6に示す履歴テーブル12dの最上のレコードにおいては、調整後水路水位は72.5cmであるので、目標水路水位(73cm)との誤差の絶対値は0.5cmである。処理部11は、該誤差の絶対値を動作量の補正量とする。調整後水路水位は目標水路水位を下回っているため、動作量はプラス側に0.5cm補正され、補正動作量は―1.5cmとなる。なお、補正量の算出方法はこれに限られず、例えば、誤差の絶対値に一定の係数を乗算して算出してもよい。
【0042】
処理部11は、記憶部12から読み出したダム水位、制水門開度、調整前水路水位、及び目標水路水位と、S24において算出された補正動作量を対応させた訓練データを作成する(S25)。処理部11は、訓練データを開度情報出力モデル12cに入力し(S26)、開度情報出力モデル12cを再学習させて(S27)、処理を終了する。
【0043】
以上の処理によれば、水路水位が許容上限水位を超えないように制御しながら、許容上限水位に近い水路水位を保つことが出来るので、発電のために必要な水を効率的に取水することが可能である。
【0044】
(実施形態2)
開度情報出力モデル12cを再学習させる方法は、実施形態1に係る方法に限られない。実施形態2に係る情報処理装置1の処理部11は、開度情報出力モデル12cが出力した動作量に従って制水門Gを操作後に水位計1bが計測した調整後水路水位と目標水路水位との誤差に応じた報酬に基づき、強化学習によって開度情報出力モデル12cを再学習させる。以下では、Q学習による開度情報出力モデル12cの強化学習について説明するが、強化学習の手法はこれに限られず、例えばSARSA(State-Action-Reward-State-Action)でもよい。
【0045】
図10は、実施形態2に係る開度情報出力モデル12cの一例を示す説明図である。実施形態2に係る開度情報出力モデル12cは、例えば、履歴テーブル12dに記録されたある時点におけるダム水位、制水門開度、及び調整前水路水位と、目標水路水位とを「状態」とし、動作量を「行動」とし、目標水路水位と調整後水路水位との誤差に基づいて「報酬」を算出して、Q関数(行動評価関数)の値を学習する。
【0046】
開度情報出力モデル12cは例えばdeep―Q―netwоrkであり、状態として、ダム水位、制水門開度、調整前水路水位、及び目標水路水位が入力される。本実施形態において開度情報出力モデル12cは、行動の選択肢ごとのQ関数の値を出力するニューロンを備える。本実施形態における行動の選択肢は、例えば、制水門Gの動作量の選択肢であり、―3.0cm、―2.5cm、―2.0cm、―1.5cm、―1.0cm、―0.5cm、0cm、0.5cm、1.0cm、1.5cm、2.0cm、2.5cm、及び3.0cmの動作量で制水門Gを操作する選択肢が含まれる。開度情報出力モデル12cは、行動の選択肢のうち、Q関数の値が一番高い選択肢の動作量を、開度情報として出力する。
【0047】
情報処理装置の処理部11は、開度情報出力モデル12cの再学習の際、開度情報出力モデル12cが出力した動作量の選択肢の行動について、目標水路水位と調整後水路水位との誤差に基づいて報酬を算出する。報酬の算出は、目標水路水位と調整後水路水位との誤差がなし、または所定範囲内であれば正(報酬あり)となるようにし、誤差が所定範囲内にならない場合、0(報酬なし)または負(ペナルティ)となるようにする。なお、報酬の算出方法はこれに限られず、例えば、処理部11は、制水門Gの操作後一定時間内の制水門Gの操作回数が一定数以上である場合、報酬にペナルティを加算してもよい。また、処理部11は、制水門Gの下流側かつ発電機Eの上流側に設けられ、発電機Eに流れる水量を調整するための水槽において、水槽の水位が水位上限値を上回り越流が生じた場合、報酬にペナルティを加算してもよい。
【0048】
処理部11は、算出された報酬と、動作量が出力された行動の選択肢のQ関数の値との差が0になるように、開度情報出力モデル12cのニューラルネットワークの各パラメータを学習する。別言すれば、処理部11は、報酬の期待値と行動評価との誤差を0に近づけるように、開度情報出力モデル12cのニューラルネットワークの各パラメータを更新する。
【0049】
図11は、実施形態2に係る開度情報出力モデル12cの再学習処理を示すフローチャートである。情報処理装置1の処理部11は、例えば、図9に示すS21において開度情報出力モデル12cを再学習させるタイミングであると判定した場合、以下の処理を開始する。処理部11は、記憶部12から、制水門Gの操作を行った時点における調整後水路水位及び目標水路水位を読み出す(S31)。処理部11は、調整後水路水位と目標水路水位との誤差に基づき、報酬を算出する(S32)。処理部11は、記憶部12の履歴テーブル12dから、ダム水位、制水門開度、調整前水路水位、及び動作量を読み出す(S33)。処理部11は、ダム水位、制水門開度、調整前水路水位、及び目標水路水位を開度情報出力モデル12cに入力した場合に、履歴テーブル12dから読み出した動作量の行動の選択肢のQ関数の値と報酬との誤差を0に近づけるように開度情報出力モデル12cのパラメータを更新し(S34)、処理を終了する。処理部11は、履歴テーブル12dに記録されている各時点における情報について上述の処理を行う。
【0050】
(変形例)
上述の各実施形態において、開度情報出力モデル12cは、水路水位を目標水路水位にするために制水門Gを操作する際の、制水門の動作量(制水門開度の変化量)を開度情報として出力するが、これに限られない。開度情報出力モデル12cは、水路水位を目標水路水位にするために制水門Gを操作後の制水門開度の目標値を開度情報として出力してもよい。この場合、処理部11は、制水門開度と開度情報に基づいて、巻上機1aを制御することによって制水門Gを操作する。
【0051】
上述の各実施形態において、調整前水路水位は水位予測モデル12bによって出力された推測値であるが、実測水路水位が調整前水路水位とされてもよい。すなわち、処理部11は、実測水路水位が許容上限水位を上回っている場合、または許容下限水位を下回っている場合に、開度情報出力モデル12cによって開度情報を出力し、出力された開度情報に基づいて制水門Gを操作してもよい。また、処理部11は、一定時間以上連続して実測水路水位が許容上限水位を上回っている場合、または許容下限水位を下回っている場合に、開度情報出力モデル12cによって開度情報を出力し、出力された開度情報に基づいて制水門Gを操作してもよい。また、直近の一定時間以内に計測された実測水路水位の平均値が調整前水路水位とされてもよい。
【0052】
上述の各実施形態において、処理部11は、調整前水路水位が許容上限水位を上回っている場合、または許容下限水位を下回っている場合に、開度情報出力モデル12cによって開度情報を出力し、出力された開度情報に基づいて制水門Gを操作したが、これに限られない。処理部11は、例えば水位予測モデル12bが調整前水路水位を出力する毎に、または一定時間毎に開度情報出力モデル12cによって開度情報を出力し、出力された開度情報に基づいて制水門Gを操作してもよい。
【0053】
上述の各実施形態において、開度情報出力モデル12cに入力される目標水路水位の値は一つの値に定められているが、これに限られない。目標水路水位は、例えば、調整前水路水位が許容上限水位を上回っている場合と許容下限水位を下回っている場合とで異なる値とされてもよい。また、発電機Eの上流側に設けられる水槽の水位上限値、または発電機Eが発電する電気の必要量に応じて目標水路水位が変動する構成であってもよい。
【0054】
上述の各実施形態において、処理部11は、開度情報出力モデル12cが出力した動作量が一定値以上であるか否かを判定し、動作量が一定値未満である場合、処理部11は制水門Gを操作しなくてもよい。また、動作量の上限値または下限値が設定されてもよく、開度情報出力モデル12cが出力した動作量が上限値を超えている場合、処理部11は、制水門Gを操作する際の動作量を該上限値としてもよい。また、開度情報出力モデル12cが出力した動作量が下限値未満である場合、処理部11は、制水門Gを操作する際の動作量を該下限値としてもよい。
【0055】
今回開示した実施の形態は、全ての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。各実施例にて記載されている技術的特徴は互いに組み合わせることができ、本発明の範囲は、特許請求の範囲内での全ての変更及び特許請求の範囲と均等の範囲が含まれることが意図される。また、特許請求の範囲に記載した独立請求項及び従属請求項は、引用形式に関わらず全てのあらゆる組み合わせにおいて、相互に組み合わせることが可能である。さらに、特許請求の範囲には他の2以上のクレームを引用するクレームを記載する形式(マルチクレーム形式)を用いているが、これに限るものではない。マルチクレームを少なくとも一つ引用するマルチクレーム(マルチマルチクレーム)を記載する形式を用いて記載しても良い。
【符号の説明】
【0056】
1 情報処理装置
1a 巻上機
1b 水位計
1c ダム水位計
11 処理部
12 記憶部
12a プログラム
12b 水位予測モデル
12c 開度情報出力モデル
12d 履歴テーブル
13 表示部
121 記録媒体
C 水路
D 堰堤(ダム)
E 発電機
G 制水門
L ダム湖
R 河川
S 取水システム
W 水力発電所
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11