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  • 特開-筋萎縮抑制剤及び筋萎縮防止用組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024070649
(43)【公開日】2024-05-23
(54)【発明の名称】筋萎縮抑制剤及び筋萎縮防止用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/05 20060101AFI20240516BHJP
   A61K 31/4172 20060101ALI20240516BHJP
   A61K 31/198 20060101ALI20240516BHJP
   A61K 38/06 20060101ALI20240516BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20240516BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240516BHJP
   A61P 39/06 20060101ALI20240516BHJP
   A61P 17/18 20060101ALI20240516BHJP
   A23L 33/175 20160101ALI20240516BHJP
   A23L 33/18 20160101ALI20240516BHJP
【FI】
A61K38/05
A61K31/4172
A61K31/198
A61K38/06
A61P21/00
A61P43/00 107
A61P39/06
A61P17/18
A23L33/175
A23L33/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022181272
(22)【出願日】2022-11-11
(71)【出願人】
【識別番号】598008433
【氏名又は名称】東海物産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】川島 巧
(72)【発明者】
【氏名】坂野 太研
(72)【発明者】
【氏名】柳内 延也
(72)【発明者】
【氏名】塩谷 茂信
(72)【発明者】
【氏名】岡田 行夫
【テーマコード(参考)】
4B018
4C084
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4B018MD19
4B018MD20
4B018ME14
4C084AA01
4C084AA02
4C084BA10
4C084BA14
4C084BA15
4C084MA52
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZA94
4C084ZB22
4C084ZC37
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC38
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA52
4C086NA05
4C086NA14
4C086ZA94
4C086ZB22
4C086ZC37
4C206AA01
4C206AA02
4C206JA27
4C206MA01
4C206MA04
4C206MA72
4C206NA05
4C206NA14
4C206ZA94
4C206ZB22
4C206ZC37
(57)【要約】
【課題】本発明は、活性酸素種による筋芽細胞の細胞損傷や細胞死を防止し得る、筋萎縮抑制剤及び筋萎縮防止用組成物の提供を目的とする。
【解決手段】エルゴチオネイン、グルタチオン、メチオニン及びイミダゾールジペプチドから選ばれる少なくとも1種を有効成分として含有する筋萎縮抑制剤、またはエルゴチオネイン、グルタチオン、メチオニン及びイミダゾールジペプチドから選ばれる少なくとも1種を有効成分として含有する筋萎縮防止用組成物に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エルゴチオネイン、グルタチオン、メチオニン及びイミダゾールジペプチドから選ばれる少なくとも1種を有効成分として含有する、筋萎縮抑制剤。
【請求項2】
骨格筋を構成する細胞及び筋芽細胞の少なくとも一方における活性酸素種により引き起こされるDNA損傷又は細胞死を防止する、請求項1に記載の筋萎縮抑制剤。
【請求項3】
前記活性酸素種が、次亜塩素酸ラジカル、水酸化ラジカル、過酸化水素及び亜硝酸ラジカルから選ばれる少なくとも1である、請求項2に記載の筋萎縮抑制剤。
【請求項4】
エルゴチオネイン、グルタチオン、メチオニン及びイミダゾールジペプチドから選ばれる少なくとも1種を有効成分として含有する、筋萎縮防止用組成物。
【請求項5】
骨格筋を構成する細胞及び筋芽細胞の少なくとも一方における活性酸素種により引き起こされるDNA損傷又は細胞死を防止する、請求項4に記載の筋萎縮防止用組成物。
【請求項6】
前記活性酸素種が、次亜塩素酸ラジカル、水酸化ラジカル、過酸化水素及び亜硝酸ラジカルから選ばれる少なくとも1である、請求項5に記載の筋萎縮防止用組成物。
【請求項7】
請求項1~3のいずれか1項に記載の筋萎縮抑制剤、又は請求項4~6のいずれか1項に記載の筋萎縮防止用組成物の有効量を対象に摂取させることを含む、筋萎縮抑制方法(但し、ヒトへの医療行為を除く)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は筋萎縮抑制剤及び筋萎縮防止用組成物に関する。より詳しくは、筋萎縮の主要な原因となる活性酸素種による筋芽細胞の細胞損傷や細胞死を防止する、筋萎縮抑制剤及び筋萎縮防止用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
健康寿命の延伸において、高齢者の健康機能の維持は重要な課題であるが、加齢及び不活動により生じる筋力低下は深刻な問題であり、寝たきり状態や代謝障害などのリスク増加につながり、高齢者の生活の質(QOL)の低下をもたらす。高齢者の筋力低下の原因としては、例えば、サルコペニアの発症に伴う筋萎縮又は廃用性筋萎縮が挙げられる。サルコペニアは、加齢による筋量及び筋力の低下より発症する。また、廃用性筋萎縮は、地域社会とのつながりの希薄化や感染症の拡大に伴うひきこもり化による運動機会の低減により筋が萎縮するものである。
【0003】
骨格筋組織の形成過程において、骨格筋前駆細胞である筋芽細胞が必要に応じて増殖分化し、細胞融合することにより長い筋組織が形成される。当該過程では筋組織を構成するタンパク質の合成と運動刺激が必要である。筋萎縮の原因として、例えば、筋芽細胞の細胞損傷や細胞死、及び栄養学的要因や運動などの日常生活上の要因などが挙げられる。前記栄養学的要因及び日常生活上の要因は栄養摂取(食事)や運動習慣の改善などで予防し得る。
【0004】
前記筋萎縮の原因の中でも、直接的なものとして、エネルギー代謝や免疫反応の過程において生体内で産生される活性酸素種による、筋芽細胞の細胞損傷や細胞死が考えられている(非特許文献1)。したがって、活性酸素種による筋芽細胞の細胞損傷や細胞死を防止することは、筋萎縮を防止して筋力の低下を抑制し、健康機能を維持する上で極めて重要である。
【0005】
活性酸素種として、例えば、過酸化水素、水酸化ラジカル及び亜硝酸ラジカルが挙げられる(非特許文献2)。次亜塩素酸ラジカルは好中球にてMPO(ミエロペルオキシダーゼ)を介し過酸化水素から生成される(非特許文献3)。筋損傷部位での好中球の蓄積とMPOレベルの増加について報告がある(非特許文献4)ことから、次亜塩素酸ラジカルも同様に筋組織に影響を及ぼすと考えられる。従って、生体内で恒常的に産生されている主要な活性酸素種としてこれら4種が挙げられる(非特許文献5)。
【0006】
一方で、筋芽細胞の細胞死に起因する筋萎縮のリスクを低減するための運動以外の手段として、従来、栄養学的視点からのアプローチがなされている。例えば、筋萎縮に関連する遺伝子としてアトロジン-1やMuRF-1などがあり、ネギ属植物又はアブラナ属植物に含まれるシステインスルフォキシド類がこれら遺伝子の発現を抑制することが知られている(特許文献1)。またビタミンの一種であるビオチンが筋芽細胞の分化促進作用を有するとともに、筋量の増加作用や筋力増強作用を有することが見出されている(特許文献2)。
【0007】
さらにはチロシン化合物、ロイシン及びイソロイシンが筋タンパク質合成シグナルを活性化すること(特許文献3)、ケニア産紫茶に含まれる1,2-di-O-galloyl-4,6-O-(S)-hexahydroxy-diphenoyl-b-D-glucoseが骨格筋の構築に直接的に結びつくAMPK(AMP activated proteinkinase)を活性化すること(特許文献4)が知られている。また、活性酸素種である過酸化水素による筋芽細胞の細胞死の防止において、多肉植物に含まれるフロレチンが有効であることが知られている(非特許文献6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第6863832号明細書
【特許文献2】特許第6664956号明細書
【特許文献3】特許第6496599号明細書
【特許文献4】国際公開第2020/110674号
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】S. Damianoら、Int. J. Mol. Sci. 20:3815, 2019.
【非特許文献2】奥津ら、体力科学 第67巻 第3 号 245-249(2018). doi:10.7600/jspfsm.67.245
【非特許文献3】Sugama et al., Exerc Immunol Rev. 2015;21:130-42.
【非特許文献4】Suzuki, Gen Int Med Clin Innov, 2018. doi: 10.15761/GIMCI.1000170
【非特許文献5】L. J. Marnettら、J. Clin. Invest. 111:583-593, 2003.
【非特許文献6】Jie Liら、Front. Cell Dev. Biol. 8:541260, 2020.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記のように、活性酸素種による筋芽細胞の細胞損傷や細胞死を防止することは、筋萎縮を抑制して筋力の低下を防ぎ、健康機能を維持する上で極めて重要である。しかしながら、上記した活性酸素種による筋芽細胞の細胞損傷や細胞死の防止に関しては、過酸化水素に対する抗酸化剤の利用についての報告(非特許文献6)があるのみであり、他の活性酸素種についての報告はない。
【0011】
したがって、本発明は、活性酸素種による筋芽細胞の細胞損傷や細胞死を防止し得る、筋萎縮抑制剤及び筋萎縮防止用組成物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、活性酸素種に対する抗酸化活性を有する成分の検索を行い、食品成分であるエルゴチオネイン、グルタチオン、メチオニン及びイミダゾールジペプチドが活性酸素種に対して抗酸化活性を有することを見出し、本発明の完成に至った。
【0013】
すなわち本発明は、以下の通りである。
[1]エルゴチオネイン、グルタチオン、メチオニン及びイミダゾールジペプチドから選ばれる少なくとも1種を有効成分として含有する、筋萎縮抑制剤。
[2]骨格筋を構成する細胞及び筋芽細胞の少なくとも一方における活性酸素種により引き起こされる細胞死を防止する、[1]に記載の筋萎縮抑制剤。
[3]前記活性酸素種が、次亜塩素酸ラジカル、水酸化ラジカル、過酸化水素及び亜硝酸ラジカルから選ばれる少なくとも1である、[2]に記載の筋萎縮抑制剤。
[4]エルゴチオネイン、グルタチオン、メチオニン及びイミダゾールジペプチドから選ばれる少なくとも1種を有効成分として含有する、筋萎縮防止用組成物。
[5]骨格筋を構成する細胞及び筋芽細胞の少なくとも一方における活性酸素種により引き起こされるDNA損傷又は細胞死を防止する、[4]に記載の筋萎縮防止用組成物。
[6]前記活性酸素種が、次亜塩素酸ラジカル、水酸化ラジカル、過酸化水素及び亜硝酸ラジカルから選ばれる少なくとも1である、[5]に記載の筋萎縮防止用組成物。
[7][1]~[3]のいずれか1に記載の筋萎縮抑制剤、又は[4]~[6]のいずれか1に記載の筋萎縮防止用組成物の有効量を対象に摂取させることを含む、筋萎縮抑制方法(但し、ヒトへの医療行為を除く)。
【発明の効果】
【0014】
本発明の筋萎縮抑制剤及び筋萎縮防止用組成物は、エルゴチオネイン、グルタチオン、メチオニン及びイミダゾールジペプチドから選ばれる少なくとも1種を有効成分として含有することで、過酸化水素、水酸化ラジカル、亜硝酸ラジカル及び次亜塩素酸ラジカルの少なくとも1に対する抗酸化活性を有する。これにより、サルコペニアや廃用性筋萎縮に伴う筋萎縮を抑制でき、筋力の低下を防止し得る。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、0~4点の細胞DNA損傷度合いについての代表的な細胞DNAの形状を示した図である。0点では細胞DNA損傷はないが、細胞DNAが損傷を受けて断片化して尾を引くに従い最大4点で点数が高くなる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る筋萎縮抑制剤(以下、本発明の剤とも略す)又は筋萎縮防止用組成物(以下、本発明の組成物とも略す)について説明する。本発明の剤又は組成物は、エルゴチオネイン、グルタチオン、メチオニン及びイミダゾールジペプチドからなる群より選択される少なくとも1種を有効成分として含む。
【0017】
本明細書における筋萎縮としては、サルコペニアの発症に伴う筋萎縮又は廃用性筋萎縮が挙げられる。「サルコペニア」は、加齢、運動不足、疾病、栄養不良などにより筋量が減少することに伴う筋力低下、身体的機能低下である。「廃用性筋萎縮」とは、廃用(例えば、筋肉の不動化)による筋萎縮、及び無重力環境下等での機械的な負荷の減少による筋萎縮を含む概念である。サルコペニア及び廃用性筋萎縮の発症や症状の進行においては、活性酸素種が関与しており、これらが併発する場合もある。本発明の剤又は組成物は、エルゴチオネイン、グルタチオン、メチオニン及びイミダゾールジペプチドからなる群より選択される少なくとも1種を有効成分として含むことにより、活性酸素種による筋芽細胞の細胞損傷や細胞死を防止することで、筋萎縮を抑制及び/又は防止できる。
【0018】
本明細書において、「細胞損傷」は、細胞を構成する物質又は構造の損傷をいう。細胞損傷としては、例えば、DNA損傷が挙げられる。本明細書において、「活性酸素種」とは、エネルギー代謝や免疫反応の過程において生体内で産生される活性酸素種をいう。活性酸素種としては、次亜塩素酸ラジカル、水酸化ラジカル、過酸化水素及び亜硝酸ラジカルが挙げられる。
【0019】
<エルゴチオネイン>
エルゴチオネインは、下記式1で表される化合物である。エルゴチオネインはキノコ(担子菌類)若しくは麹菌などの真菌類、放線菌又はシアノバクテリアといった一部の微生物のみが合成する希少アミノ酸である。
【0020】
【化1】
【0021】
本実施形態におけるエルゴチオネインは、前記菌類そのものから抽出して用いてもよく、前記菌類による培養液から抽出して用いてもよい。菌類そのものからの抽出に使用する溶媒や温度条件等については、特に限定されるものではなく、任意に選択、設定できるが、好ましくは親水性溶媒を用いるのがよく、なかでも水、温水、熱水又はエタノールを含む水溶液などがよい。抽出液や培養液はそのまま利用できるが、精製したものを利用してもよい。精製方法としては、遠心分離や珪藻土ろ過に加えて、例えば、活性炭処理、樹脂吸着処理、イオン交換樹脂、限外ろ過膜処理等の方法が挙げられる。
【0022】
また本実施形態におけるエルゴチオネインとしては、例えば、遺伝子組換え技術を用いて生産したもの、化学合成又は酵素合成により合成したもの、市販の試薬又はエルゴチオネインを多く含む機能性食品等が挙げられる。さらに上記により得られたエルゴチオネインは、必要に応じて噴霧乾燥、凍結乾燥又は結晶化等の手段により乾燥粉末化させて用いてもよい。
【0023】
<グルタチオン>
グルタチオンは、グルタミン酸、システイン及びグリシンからなるトリペプチド(L-γ-グルタミル-L-システイニル-グリシン)である。グルタチオンにはグルタミン酸、システイン及びグリシンから構成される、γグルタミル構造を有する(すなわち、γ-Glu-Cys-Glyという構造を有する)トリペプチドである「還元型グルタチオン」と、還元型グルタチオン二分子がジスルフィド結合(S-S結合)により結合した「酸化型グルタチオン」があり、そのどちらを利用してもよいが、好ましくは「還元型グルタチオン」がよい。
【0024】
本実施形態におけるグルタチオンは、動植物や酵母等から抽出し精製して用いてもよく、化学的または酵素反応により合成して用いてもよい。グルタチオンの生産能を有する微生物を培養して得られた培養液、菌体、培養上清等の発酵生産物や、そこから抽出し精製したものを用いてもよい。またこれらグルタチオンの塩でもよい。市販の試薬やグルタチオンを多く含む機能性食品等を用いてもよい。さらに上記により得られたグルタチオンは、必要に応じて噴霧乾燥、凍結乾燥又は結晶化等の手段により乾燥粉末化させて使用してもよい。
【0025】
<メチオニン>
メチオニンは必須アミノ酸のひとつである。本実施形態におけるメチオニンは、動植物から抽出し精製したタンパク質やペプチドの形態でも遊離アミノ酸の形態でも構わないが、メチオニンの生産能を有する微生物を培養して得られた培養液、菌体、培養上清等の発酵生産物や、そこから抽出し精製したものを用いてもよい。化学合成により合成されたものでもよく、またこれらメチオニンの塩であってもよい。市販の試薬やメチオニンを多く含む機能性食品等を用いてもよい。さらに上記により得られたメチオニンは、必要に応じて噴霧乾燥、凍結乾燥又は結晶化等の手段により乾燥粉末化させてもよい。
【0026】
<イミダゾールジペプチド>
イミダゾールジペプチドは鶏肉、魚肉又は鯨肉など様々な動物に含まれるイミダゾール環を持つジペプチドである。イミダゾールジペプチドとしては、例えば、下記式2で表されるカルノシン、下記式3で表されるアンセリン、下記式4で表されるバレニンなどが挙げられる。
【0027】
【化2】
【0028】
【化3】
【0029】
【化4】
【0030】
本実施形態におけるイミダゾールジペプチドはこれらを含む動物から抽出して用いてもよい。抽出に使用する溶媒や温度条件等については、特に限定されるものではなく、任意に選択、設定できるが、好ましくは親水性溶媒を用いるのがよく、なかでも水、温水、熱水又はエタノールを含む水溶液などがよい。抽出液はそのまま利用できるが、精製したものを利用してもよい。精製方法としては、遠心分離や珪藻土ろ過に加えて、例えば、活性炭処理、樹脂吸着処理、イオン交換樹脂、限外ろ過膜処理等の方法が挙げられる。
【0031】
また本実施形態におけるイミダゾールジペプチドとしては、遺伝子組換え技術を用いて生産したもの、化学合成又は酵素合成により合成したもの、市販の試薬又はイミダゾールジペプチドを多く含む機能性食品等が挙げられる。さらに上記により得られたイミダゾールジペプチドは、必要に応じて噴霧乾燥、凍結乾燥又は結晶化等の手段により乾燥粉末化させて使用することも可能である。
【0032】
本発明の一態様においては、イミダゾールジペプチドに包含される1の化合物を単独で用いてもよいし、複数の化合物を混合して用いてもよい。
【0033】
本発明の剤又は組成物は、エルゴチオネイン、グルタチオン、メチオニン及びイミダゾールジペプチドの少なくとも1種以上を有効成分として含有することで、加齢等に伴い生じる酸化ストレスにより引き起こされる骨格筋を構成する細胞若しくは筋芽細胞の細胞死やDNAの断片化が原因で生じる筋萎縮のリスクを低減し得る。
【0034】
本発明の剤又は組成物の摂取対象は特に限定されず、ヒトに摂取されても、非ヒト哺乳動物に摂取されてもよい。上記した各有効成分について、本発明の剤又は組成物における有効量はそれぞれの剤や食品の形態、摂取対象の状態や年齢などにより適宜設定できる。例えば、成人1日あたりの各成分の摂取量がエルゴチオネインであれば1~10mg、グルタチオンであれば50~1000mg、メチオニンであれば50~1000mg、イミダゾールジペプチドであれば50~1000mgとなる配合量とすることが好ましい。
【0035】
上記量を1日1回摂取(投与)してもよいし、1日に複数回に分けて摂取(投与)してもよい。本明細書において、「有効量」とは、摂取者の筋萎縮を抑制又は防止するのに有意な量を意味する。当該有意な量は、本明細書の実施例の記載等を参酌して、当業者が適宜設定できる。
【0036】
本発明の剤は、サプリメント等としてそのまま摂取(投与)してもよいし、飲食品等の組成物に筋萎縮を抑制又は防止する作用の少なくとも一方を付与するための添加剤として使用してもよい。また、本発明の組成物には、有効成分であるエルゴチオネイン、グルタチオン、メチオニン及びイミダゾールジペプチドの少なくとも1種を含む剤の形態で配合できる。
【0037】
本発明の剤を、筋萎縮を抑制又は防止する作用の少なくとも一方を付加するための添加剤として配合し得る組成物、及び本発明の組成物としては、特に制限されず、例えば、飲食品、医薬組成物が挙げられる。
【0038】
本発明において、飲食品には、美容食品・健康食品、機能性表示食品、特定保健用食品、栄養補助食品、疾病リスク低減表示を付した食品、又は病者用食品(例えば、病院食、病人食又は介護食等)のような分類のものも包含される。疾病リスク低減表示としては、例えば、筋萎縮を抑制及び/又は防止するためものである旨の表示、筋力低下の抑制及び/又は防止するためのものである旨、ロコモティブシンドロームを防ぐ旨、加齢によって衰える筋量や筋力の維持に役立つ機能がある旨、自立した日常生活を送る上で必要な身体を支える力の維持に役立つ筋量や筋力の維持をサポートする機能がある旨の表示が挙げられる。
【0039】
飲食品の具体例としては、例えば、練り製品(例えば、かまぼこやソーセージ等)、スープ類(例えば、鶏ガラスープ、豚骨スープ、魚介スープ等)、ルー製品(カレー、シチュー等)、清涼飲料、茶飲料、ゼリー飲料、スポーツ飲料、コーヒー飲料、炭酸飲料、野菜飲料、果汁飲料、醗酵野菜飲料、醗酵果汁飲料、発酵乳飲料(ヨーグルト等)、乳酸菌飲料、乳飲料、粉末飲料、ココア飲料、菓子(例えば、ビスケットやクッキー類、チョコレート、キャンディ、チューインガム、タブレット)、サプリメント類、顆粒、カプセル、錠剤等などが挙げられる。
【0040】
また、本発明における飲食品は、上記有効成分の他、栄養補助成分などの他の成分を含むことができる。かかる成分としては、例えば、ビタミン類、ミネラル類、各種植物体並びにその抽出物、精製物及び分画物、微生物並びにその増殖因子及び微生物生産物、食物繊維及びその酵素分解物、動物体並びにその抽出物、精製物、分解物及び生産物、各種オリゴ糖、脂質、各種タンパク質並びにタンパク分解物などが挙げられる。
【0041】
本発明における医薬組成物は、当分野で通常行われている手法により、薬学上許容される担体を用いて製剤化できる。
【0042】
本発明の剤又は組成物は、本発明の所望の効果を得られる限り、摂取(投与)経路は特に限定されない。例えば、経口(例えば、口腔内、舌下など)、非経口(例えば、点眼、静脈内、筋肉内、皮下、経皮、経鼻、経肺など)等の経路が挙げられる。これらの中でも侵襲性の少ない経路が好ましく、経口がより好ましい。
【0043】
経口摂取(経口投与)の場合の本発明の剤又は組成物の一態様としては、例えば、粉末、細粒、顆粒、カプセル、サシェ、錠剤、タブレット、ボーラス、ロゼンジ等の固体態様;水溶液、エキス、懸濁液、シロップ、エリキシル、エマルジョン、分散体等の液体態様;半液体状、クリーム状、ペースト状等の態様が挙げられる。
【0044】
本発明の剤又は組成物は、ピルの形態(カプセル中の粉末又は濃縮液)、又は(粉末茶を飲むのと同様に)水やお湯等の液体に入れたり又は溶かしたりした後で摂取され得る粉末形態や顆粒形態(フリーズドライ顆粒を含む)で摂取(投与)してもよい。
【0045】
本発明の剤又は組成物へのエルゴチオネイン、グルタチオン、メチオニン又はイミダゾールジペプチドの配合方法は、最終的にこれらの成分を含む素材が配合される方法であれば特に制限は無く、例えば、製造後の組成物に添加する方法、組成物を製造する工程において他の原材料と共に用いる方法等が挙げられる。
【0046】
非経口投与の場合の本発明の剤又は組成物の一態様としては、例えば、水溶液、懸濁液、エマルジョン、分散体等の液体などの点眼剤または組成物;半液体状、クリーム状、ペーストなどの眼科用剤または組成物;水溶液、懸濁液、エマルジョン、分散体等の液体などの点滴剤または組成物;水溶液、懸濁液、エマルジョン、分散体等の液体などの静脈内注射剤若しくは組成物、筋肉内注射剤若しくは組成物又は皮下注射剤若しくは組成物;水溶液、懸濁液、エマルジョン、分散体等の液体などの経皮投与剤または組成物;水溶液、懸濁液、エマルジョン、分散体等の液体、粉末、細粒などの経鼻投与剤若しくは組成物または経肺投与剤若しくは組成物;直腸坐剤若しくは組成物または膣坐剤若しくは組成物などの坐剤若しくは組成物などの態様が挙げられる。
【0047】
本発明の剤又は組成物は、上記した有効成分に加えて、固形剤形または液体剤形を製造するのに用いられている慣用の任意の補助成分、例えば、賦形剤、希釈剤、緩衝剤、着香剤、着色剤、矯味剤、結合剤、界面活性剤、増粘剤、滑択剤、懸濁剤、防腐剤、酸化防止剤などの1種以上を含有してもよい。
【0048】
本発明の剤又は組成物を摂取(投与)するタイミングは、特に限定されるものではないが、筋力の低下を感じた時、筋力の低下を防止したい時などに摂取(投与)するのが好ましい。また、本発明の剤又は組成物を日常的に摂取することで、骨格筋を構成する細胞や筋芽細胞を加齢や運動不足に伴い生じる酸化ストレスから保護し、これらの細胞の細胞死やDNAの断片化を防ぐことで、筋萎縮を抑制し、筋力の低下を防止し得る。
【0049】
本発明の剤又は組成物は、継続的に摂取されることにより、筋萎縮抑制/予防がより一層優れたものとなる。本発明の剤又は組成物は、4週間以上継続して摂取されてもよく、8週間以上継続して摂取されてもよく、12週間以上継続して摂取されてもよい。
【0050】
本発明の一態様として、上記した筋萎縮抑制剤、又は前記筋萎縮防止用組成物の有効量を対象に摂取させることを含む筋萎縮抑制方法を含む。具体的には、トレーニングジム、介護施設等における筋萎縮抑制剤の摂取、筋萎縮防止用組成物の摂食などを含む。本発明の筋萎縮抑制方法における「筋萎縮抑制剤」及び「筋萎縮防止用組成物」は、それぞれ上記したものである。
【実施例0051】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0052】
試験例1 活性酸素種に対するエルゴチオネインのDNA損傷抑制効果
(1)活性酸素溶液の調製
活性酸素溶液は以下の通り調製した。
<次亜塩素酸ラジカル溶液の調製>
次亜塩素酸ラジカル溶液は、次亜塩素酸ナトリウム溶液(富士フイルム和光純薬株式会社、以下和光純薬)をPBSで希釈することによって調製した。
【0053】
<水酸化ラジカル溶液の調製>
水酸化ラジカル溶液は塩化第二鉄を用いるフェントン反応により調製した。すなわち、0.1M塩化鉄(III)(和光純薬)、0.1Mアスコルビン酸ナトリウム(和光純薬)及び0.1Mエデト酸ナトリウム溶液(和光純薬)をそれぞれ100μLずつ1.5mLチューブにとり、0.13M過酸化水素溶液(和光純薬)1000μL加えることにより100mMの水酸化ラジカルを生成させた。この作業は、試験直前に行った。
【0054】
<過酸化水素溶液の調製>
過酸化水素溶液は、31%過酸化水素溶液(和光純薬)をPBSで希釈して調製した。
【0055】
<亜硝酸ラジカル溶液の調製>
亜硝酸ラジカル溶液は、Radiらのquenching reactorを用いる方法を改変して調製した。すなわち、0.6M亜硝酸ナトリウム(和光純薬)500μLと0.6M塩酸(和光純薬)と0.7M過酸化水素を含む溶液500μLをそれぞれ取り、500μLの1.5M水酸化ナトリウムを予め入れた試験管に混和させながら流し込み、次いで少量の二酸化マンガン粉末(和光純薬)を加えて余剰の過酸化水素を分解した。0.45μmフィルターでろ過し、二酸化マンガンを除去した後、黄色を吸収する302nmにおける吸光度を分光光度計U-2001(株式会社日立製作所)で測定し、亜硝酸ラジカルの分光光度係数1670M-1よりその濃度を算出し、試験時に適宜希釈して使用した。亜硝酸ラジカル溶液は、使用するまで-80℃で保存した。
【0056】
(2)マウス由来筋芽細胞株(C2C12細胞)の培養
マウス由来筋芽細胞株(C2C12細胞)を、10%ウシ胎児血清(Sigma)及び抗生剤(100units/mLペニシリン、100μg/mLストレプトマイシン、292μg/mL L-グルタミン、(和光純薬))含有ダルベッコ変法イーグル培地「ニッスイ」(2)(日水製薬株式会社)(以下、10%FBS含有DMEM培地)で、37℃、5%CO存在下にて継代培養を行った。その後、C2C12細胞を1×10個を直径3.5cm培養プレートに播種し、48時間後、細胞が80%コンフルエントの状態であることを確認した。培地を除去し、リン酸緩衝食塩水(-)(cellgro)(以下、PBS)を用い細胞を洗浄した。
【0057】
(3)エルゴチオネインによるC2C12細胞の処理
(2)で調製したC2C12細胞に、終濃度0.5、1、5mMとなるようにエルゴチオネイン(ナカライテスク株式会社)を添加した10%FBS含有DMEM培地中を加えて懸濁し、37℃、5%CO存在下にて1時間培養を行なった。なお次亜塩素酸ラジカル、亜硝酸ラジカルに対するDNA損傷の抑制効果測定試験においてはエルゴチオネインの終濃度0.05及び0.1mMについても実施した。
【0058】
(4)活性酸素種によるC2C12細胞の処理
(3)のエルゴチオネインで処理したC2C12細胞の培養液に(1)で調製した活性酸素種溶液を添加し、37℃、5%CO存在下にて30分間培養した。添加量は終濃度で次亜塩素酸ラジカルは3mM、水酸化ラジカルは1mM、過酸化水素は1mM、亜硝酸ラジカルは3mMとなるようにした。
【0059】
活性酸素種と反応後の細胞はPBS0.5mLにトリプシン(和光純薬)を0.25%となるよう添加して細胞を剥離し、10%FBS含有DMEM培地中でトリプシンを失活させたのち、遠心分離機CFS-400R(IWAKI)で1000×g、3分間の条件にて遠心分離を行なって細胞を沈殿させて、上清を除したのち、1×10個/mLとなるようPBSにて細胞懸濁液を調製した。
【0060】
(5)DNA損傷レベルの確認(コメットアッセイ)
細胞懸濁液20μLを37℃に保温しておいた0.5%低融点アガロース(Sigma)含有PBS溶液200μLと混合したのち、スライドガラスへ75μLとり、カバーガラスで封入した。その後、冷蔵庫にて30分間冷やしてゲル化した。ゲル化後、カバーガラスを取り外し、細胞溶解緩衝液(100mMエチレンジアミン四酢酸(和光純薬)、2.5M塩化ナトリウム(和光純薬)、1%N-ドデカノイルサルコシン酸ナトリウム(和光純薬)、10mMトリス塩基(Sigma)、1%ポリオキシエチレン(10)オクチルフェニルエーテル(Sigma)、pH10)に1時間浸漬した。
【0061】
その後、あらかじめ8℃に保冷しておいたアルカリ性泳動緩衝液(1mMエチレンジアミン四酢酸、300mM水酸化ナトリウム(和光純薬)、pH13)の入ったサブマリンゲル電気泳動槽ISEP-1010(アズワン株式会社)に20分間浸漬させたのち、直流安定化電源PS60V3A01(アズワン株式会社)で25V、20分間の条件で電気泳動を行なった。泳動後のスライドガラスを0.4Mトリス-塩酸緩衝液(pH7.5)に5分間浸漬し、これを3回繰り返した。その後、99.5%エタノール(和光純薬)に5分間浸漬し、脱水させたのち、DNA染色液であるSYBR(登録商標)Gold(Thermo Fisher Scientific)へ10分間浸漬した。染色後のスライドガラスは純水へ浸漬し、5分間脱色を行った。
【0062】
培養倒立顕微鏡ECLIPSE Ts2(株式会社ニコン)電気泳動後の細胞DNAの形状について観察し、図1に示すコメットスコア基準にもとづいて細胞DNAの損傷度合いを0~4点に分けて点数化し、細胞100個あたりの合計コメットスコアを算出した。そのコメットスコアのうち、エルゴチオネインは添加せず活性酸素種のみを添加した被検体のコメットスコアを細胞DNA損傷率100%として被験物質添加により細胞DNA損傷抑制率を下記式より求めて比較をした。
DNA損傷抑制率(%)=100%-被験物質添加した被検体の細胞DNA損傷率(%)
【0063】
表1に結果を示す。
【0064】
【表1】
【0065】
表1に示すように、次亜塩素酸ラジカル3mMの細胞DNA損傷に対して、エルゴチオネイン0.05mM、0.1mMにてそれぞれ25%、42%の抑制効果を示した。さらに、エルゴチオネイン0.5mM、1mM、5mMにてすべての濃度で93~95%以上の非常に強い抑制効果を示した。水酸化ラジカル1mMの細胞DNA損傷に対して、エルゴチオネイン1mM、5mMにて、それぞれ22%、42%の抑制効果がみられた。
【0066】
過酸化水素1mMの細胞DNA損傷に対して、エルゴチオネイン1mM、5mMにて、それぞれ30%、54%の抑制効果がみられた。亜硝酸ラジカル3mMの細胞DNA損傷に対して、エルゴチオネイン0.05mM、0.1mMにてそれぞれ56%、59%と抑制効果がみられた。エルゴチオネイン0.5mMの抑制効果は76%と強い抑制効果がみられた。エルゴチオネイン1mM、5mMにてそれぞれ81%、88%と非常に強い抑制効果がみられた。
【0067】
コメットアッセイの結果より、エルゴチオネインは、すべての活性酸素種に対してDNA損傷を抑制する効果があった。その抑制効果については、活性酸素種ごとに違いみられたが特に次亜塩素酸ラジカルと亜硝酸ラジカルに対して抑制効果が強かった。
【0068】
試験例2 活性酸素種に対するエルゴチオネインの細胞生存率向上効果
(1)マウス由来筋芽細胞株(C2C12細胞)の培養
マウス由来筋芽細胞株(C2C12細胞)を10%FBS含有DMEM培地で、37℃、5%CO存在下にて継代培養を行った。その後、C2C12細胞を100μLあたり0.5×10個となるよう96wellプレートに播種し、37℃、5%CO存在下にて24時間培養した。その後、培地を除去し、PBSを用いて細胞を洗浄した。
【0069】
(2)エルゴチオネインによるC2C12細胞の処理
終濃度0.5、1、5mMとなるようにエルゴチオネインを添加した10%FBS含有DMEM培地中を加えて細胞を懸濁し、37℃、5%CO存在下にて1時間培養を行なった。
【0070】
(3)活性酸素種によるC2C12細胞の処理
(2)のエルゴチオネインで処理したC2C12細胞の培養液に試験例1(1)で調製した活性酸素種溶液を添加し、37℃、5%CO存在下にて30分間培養した。活性酸素種溶液の添加量は終濃度で次亜塩素酸ラジカルは2mM、水酸化ラジカルは1mM、過酸化水素は1mM、亜硝酸ラジカルは1mMとなるようにした。
【0071】
(4)細胞生存率の測定
(3)の上清を除去し、10%FBS含有DMEM培地を用いて細胞を洗浄したのち、10%FBS含有DMEM培地を各wellに100μLずつ添加し、37℃、5%CO存在下にて24時間培養した。その後Cell Counting Kit-8(株式会社同仁化学研究所)を10μL/wellずつ添加し、37℃、5%CO存在下にて4時間呈色反応を行い、マイクロプレートリーダー(BIO RAD)で450nmの吸光度を測定した。活性酸素種及びエルゴチオネイン添加による吸光度の変化、すなわちエルゴチオネイン添加による活性酸素誘発性の細胞死に対する抑制効果を、活性酸素種及びエルゴチオネイン添加なしの場合を100%として細胞生存率で比較した。
【0072】
表2に結果を示す。
【0073】
【表2】
【0074】
表2に示すように、次亜塩素酸ラジカル2mM添加における細胞生存率は、エルゴチオネイン無添加で7%まで減少した。該細胞生存率はエルゴチオネイン0.05mM、0.1mM添加ではそれぞれ10%、12%であった。該細胞生存率がエルゴチオネイン0.5mM、1mM添加ではそれぞれ28%、31%と向上した。該細胞生存率がエルゴチオネイン5mM添加では94%と大きく向上した。
【0075】
水酸化ラジカル1mM添加における細胞生存率は、エルゴチオネイン無添加で28%に減少した。該細胞生存率はエルゴチオネイン1mM添加では42%に向上し、5mM添加では89%と大きく向上した。
【0076】
過酸化水素1mM添加における細胞生存率は、エルゴチオネイン無添加で71%に減少した。該細胞生存率はエルゴチオネイン0.05mM、0.1mM添加ではそれぞれ81%、87%と向上がみられた。さらに該細胞生存率はエルゴチオネイン濃度を高めた0.5mM、1mM、5mM添加ではいずれも100%以上となった。
【0077】
亜硝酸ラジカル1mMにおける細胞生存率は、エルゴチオネイン無添加で細胞生存率は29%まで減少した。該細胞生存率はエルゴチオネイン0.1mM、0.5mM、1mM、5mM添加ではそれぞれ53%、56%、68%、83%と濃度依存的な向上を示した。
【0078】
これらの結果より、エルゴチオネインはすべての活性酸素種による細胞生存率の低下を抑制させた。特に、エルゴチオネイン5mM添加では特に大きく細胞生存率を向上させた。
【0079】
試験例3 活性酸素種に対するグルタチオンのDNA損傷抑制効果
活性酸素種に対するグルタチオンのDNA損傷抑制効果は、エルゴチオネインの代わりに終濃度1mMの還元型グルタチオンを加えることで試験例1と同様に行った。表3に結果を示す。
【0080】
【表3】
【0081】
表3に示すように、次亜塩素酸ラジカル3mMの細胞DNA損傷に対して、還元型グルタチオン1mMの抑制効果は97%と、非常に強い抑制効果を示した。水酸化ラジカル1mMの細胞DNA損傷に対しては44%の抑制効果がみられた。また過酸化水素1mMの細胞DNA損傷に対しては、57%の抑制効果がみられた。さらに亜硝酸ラジカル3mMの細胞DNA損傷に対しては、25%の抑制効果がみられた。
【0082】
したがって、還元型グルタチオンは亜硝酸ラジカルを除く活性酸素種に対して抑制効果を示し、その抑制効果は同濃度のエルゴチオネインと比較して次亜塩素酸ラジカルに対しては同等であり、水酸化ラジカルと過酸化水素に対しては強いことがわかった。
【0083】
試験例4 活性酸素種に対するグルタチオンの細胞生存率向上効果
活性酸素種に対するグルタチオンの細胞生存率向上効果は、エルゴチオネインの代わりに終濃度1mMの還元型グルタチオンを加えることで試験例2と同様に行った。表4に結果を示す。
【0084】
【表4】
【0085】
表4に示すように、次亜塩素酸ラジカル2mM添加における細胞生存率は、還元型グルタチオン無添加では10%まで減少した。一方で、該細胞生存率は、還元型グルタチオン1mM添加では61%に向上した。
【0086】
水酸化ラジカル1mM添加における細胞生存率は、還元型グルタチオン無添加では細胞生存率は48%に減少した。一方で、該細胞生存率は、還元型グルタチオン1mM添加では細胞生存率は92%まで大きく向上した。
【0087】
過酸化水素1mM添加における細胞生存率は、還元型グルタチオン無添加で71%に減少した。一方で、該細胞生存率は、還元型グルタチオン1mM添加では細胞生存率は87%まで向上した。
【0088】
亜硝酸ラジカル1mM添加における細胞生存率は、還元型グルタチオン無添加では38%まで減少した。一方で、該細胞生存率は、還元型グルタチオン1mM添加で46%であった。
【0089】
試験例5 活性酸素種に対するメチオニンのDNA損傷抑制効果
活性酸素種に対するメチオニンのDNA損傷抑制効果は、エルゴチオネインの代わりに終濃度1mMのメチオニンを加えることで試験例1と同様に行った。表5に結果を示す。
【0090】
【表5】
【0091】
表5に示すように、次亜塩素酸ラジカル3mMの細胞DNA損傷に対するメチオニン1mMの抑制効果は77%と強い抑制効果を示した。水酸化ラジカル1mMの細胞DNA損傷に対しては、メチオニン1mMの抑制効果はほとんどみられなかった。過酸化水素1mMの細胞DNA損傷に対しても、メチオニン1mMの抑制効果はほとんどみられなかった。亜硝酸ラジカル3mMの細胞DNA損傷に対しても、メチオニン1mMの抑制効果はほとんどみられなかった。したがって、メチオニンは、活性酸素種の中でも特に次亜塩素酸ラジカルに対して強い抑制効果を示すことがわかった。
【0092】
試験例6 活性酸素種に対するメチオニンの細胞生存率向上効果
活性酸素種に対するメチオニンの細胞生存率向上効果は、エルゴチオネインの代わりに終濃度1mMのメチオニンを加えることで試験例2と同様に行った。表6に結果を示す。
【0093】
【表6】
【0094】
表6に示すように、次亜塩素酸ラジカル2mM添加において、メチオニン無添加では細胞生存率は10%まで減少した。一方でメチオニン1mM添加では細胞生存率の向上がみられ、55%の細胞生存率であった。
【0095】
水酸化ラジカル1mM添加においては、メチオニン無添加で細胞生存率は48%に減少した。一方で、水酸化ラジカル1mM添加において、メチオニン1mM添加で細胞生存率は55%であった。
【0096】
過酸化水素1mM添加においては、メチオニン無添加で細胞生存率は71%に減少した。一方で、過酸化水素1mM添加において、メチオニン1mM添加では細胞生存率は65%であった。
【0097】
亜硝酸ラジカル1mM添加で細胞生存率は38%まで減少した。一方で、亜硝酸ラジカル1mM添加において、メチオニン1mM添加では細胞生存率は32%であった。
【0098】
したがって、メチオニンは、活性酸素種の中でも特に次亜塩素酸ラジカルによる細胞生存率の低下を抑制することがわかった。
【0099】
試験例7 活性酸素種に対するイミダゾールジペプチドのDNA損傷抑制効果
活性酸素種に対するイミダゾールジペプチドのDNA損傷抑制効果は、エルゴチオネインの代わりに終濃度5mMのカルノシンまたはアンセリンを加えることで試験例1と同様に行った。但し、活性酸素種処理においては各活性酸素種の終濃度を次亜塩素酸ラジカルでは2mM、水酸化ラジカルでは1mM、過酸化水素では1mM、亜硝酸ラジカルでは1mMとした。表7に結果を示す。
【0100】
【表7】
【0101】
表7において、次亜塩素酸ラジカル2mMの細胞DNA損傷に対するイミダゾールジペプチドのDNA損傷抑制効果は、カルノシン5mM添加時で37%、アンセリン5mM添加時で27%であった。
【0102】
水酸化ラジカル1mMの細胞DNA損傷に対するイミダゾールジペプチドのDNA損傷抑制効果は、カルノシン5mM添加時、アンセリン5mM添加時のいずれについてもほとんど抑制効果はみられなかった。
【0103】
同じく過酸化水素1mMの細胞DNA損傷に対してもカルノシン5mM添加時、アンセリン5mM添加時のいずれについてもほとんど抑制効果がみられなかった。
【0104】
亜硝酸ラジカル1mMの細胞DNA損傷に対しては、カルノシン5mM添加時とアンセリン5mM添加時でそれぞれ23%、24%の抑制効果がみられた。
【0105】
したがって、カルノシン及びアンセリンは、特に次亜塩素酸ラジカル及び亜硝酸ラジカルに対する抑制効果を示すことがわかった。
【0106】
試験例7 活性酸素種に対するイミダゾールジペプチドの細胞生存率向上効果
活性酸素種に対するイミダゾールジペプチドの細胞生存率向上効果は、エルゴチオネインの代わりに終濃度5mMのカルノシンまたはアンセリンを加えることで試験例2と同様に行った。表8に結果を示す。
【0107】
【表8】
【0108】
表8に示すように、次亜塩素酸ラジカル2mM添加における細胞生存率は、イミダゾールジペプチド無添加では9%まで減少した。一方で、該細胞生存率は、カルノシン5mM添加で30%、アンセリン5mM添加で26%まで向上した。
【0109】
水酸化ラジカル1mM添加における細胞生存率は、イミダゾールジペプチド無添加では62%に減少した。一方で、該細胞生存率は、カルノシン5mM及びアンセリン5mM添加ではともに57%であった。
【0110】
過酸化水素1mM添加における細胞生存率は、イミダゾールジペプチド無添加では62%まで減少した。一方で、該細胞生存率は、カルノシン5mM及びアンセリン5mM添加ではそれぞれ67%、65%であった。
【0111】
亜硝酸ラジカル1mM添加における細胞生存率は、イミダゾールジペプチド無添加では4%まで減少した。一方で、該細胞生存率は、カルノシン5mM及びアンセリン5mM添加ではそれぞれ13%、6%であった。すわなち、カルノシン及びアンセリンは、特に次亜塩素酸ラジカルに対して細胞生存率の向上を示すことがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0112】
本発明の筋萎縮抑制剤または筋萎縮防止用組成物は、加齢や運動不足に伴い生じる酸化ストレスから骨格筋を構成する細胞を保護し、サルコペニアや廃用性筋萎縮に伴う筋萎縮を抑制し、筋力の低下を防止し得る。
図1