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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024070650
(43)【公開日】2024-05-23
(54)【発明の名称】哺乳動物忌避剤
(51)【国際特許分類】
   A01N 43/10 20060101AFI20240516BHJP
   A01P 17/00 20060101ALI20240516BHJP
   A01N 65/36 20090101ALI20240516BHJP
   A01M 29/12 20110101ALI20240516BHJP
   A01M 7/00 20060101ALI20240516BHJP
【FI】
A01N43/10 C
A01P17/00
A01N65/36
A01M29/12
A01M7/00 S
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022181273
(22)【出願日】2022-11-11
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和4年10月12日に2022年度フマキラー園芸用品政策共有会で発表 令和4年10月12日に第16回国際ガーデンEXPOで発表 令和4年10月12日に自社ウェブサイトに掲載 令和4年10月12日に重工記者クラブ加盟社に電子メールを送信 令和4年9月7日に2022年園芸卸店様会で発表
(71)【出願人】
【識別番号】000112853
【氏名又は名称】フマキラー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉丸 勝郎
(72)【発明者】
【氏名】國寄 真希
【テーマコード(参考)】
2B121
4H011
【Fターム(参考)】
2B121AA02
2B121AA03
2B121AA04
2B121CA02
2B121CB07
2B121CC21
2B121EA05
2B121EA09
2B121EA26
2B121FA13
4H011AE02
4H011BA02
4H011BB10
4H011BC22
(57)【要約】
【課題】恐怖誘導物質の優れた忌避効果を使用者がより一層実感し易くする。
【解決手段】哺乳動物忌避剤は、哺乳動物に対して恐怖行動を誘発する恐怖誘導物質と、哺乳動物に対して刺激を与える刺激物質と、を含んでいる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳動物に対して恐怖行動を誘発する恐怖誘導物質と、
哺乳動物に対して刺激を与える刺激物質と、
を含むことを特徴とする哺乳動物忌避剤。
【請求項2】
請求項1に記載の哺乳動物忌避剤であって、
前記恐怖誘導物質が、2-アセチルチオフェンであることを特徴とする哺乳動物忌避剤。
【請求項3】
請求項1に記載の哺乳動物忌避剤であって、
前記刺激物質が、TRPA1受容体に作用する物質であることを特徴とする哺乳動物忌避剤。
【請求項4】
請求項3に記載の哺乳動物忌避剤であって、
TRPA1受容体に作用する前記刺激物質が、ペッパーオイル、アリルイソチオシアネート、マスタードオイル、アリシン、ジンゲロール、チモール、カンファー、クルクミンおよびピペリンから選択される一の物質または2以上を混合した物質であることを特徴とする哺乳動物忌避剤。
【請求項5】
請求項1に記載の哺乳動物忌避剤であって、
前記恐怖誘導物質が、2-アセチルチオフェンであり、
前記刺激物質が、ペッパーオイルまたはアリルイソチオシアネートであることを特徴とする哺乳動物忌避剤。
【請求項6】
請求項5に記載の哺乳動物忌避剤であって、
ネズミが対象動物であることを特徴とする哺乳動物忌避剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、哺乳動物を忌避するための哺乳動物忌避剤に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばネズミなどの哺乳動物を忌避するための忌避剤として、特許文献1に開示されているようにフェニルエーテルを有効成分としたものが知られている。フェニルエーテルは、強いゲラニウム様の芳香を有する化合物であり、特許文献1には、フェニルエーテルを段ボール片に塗布することでネズミの忌避効果が発揮されるとの記載がある。
【0003】
また、特許文献2には、哺乳動物に対して先天的な恐怖行動を誘発する化合物(以下、恐怖誘導物質)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平2-25402号公報
【特許文献2】国際公開第2021/193834号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1のような香料を忌避剤として使用すると、使用開始初期であればある程度の高い忌避効果が得られると考えられるが、長期間に亘って使用すると、対象動物が匂い慣れしてしまい、忌避効果が低下してしまう。
【0006】
一方、特許文献2に開示されている恐怖誘導物質は、優れた忌避活性を有し、しかも匂い慣れなどが生じにくいため、忌避剤としての活用が大いに期待されている。特許文献1の実施例に記載されているように、恐怖誘導物質に哺乳動物が曝された際には、特有の「すくみ」反応が哺乳動物にみられ、恐怖が誘導されていることが観察で分かる。このような反応により忌避効果が発現すると考えられる。
【0007】
このように、特許文献2の恐怖誘導物質によって哺乳動物に対する優れた忌避効果が得られるが、一方で、すくみ反応を起こしている最中の哺乳動物はその場に留まっているように見えるため、一般使用者からすると必ずしも効果を十分に実感できない可能性がある。
【0008】
そこで、恐怖誘導物質の優れた効果に加えて、使用者が忌避効果をより一層実感し易くすることが求められる。
【0009】
本開示は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、恐怖誘導物質の優れた忌避効果を使用者がより一層実感し易くすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明者らは、恐怖誘導物質に刺激物質を加えることにより、忌避効果がより明確に観察されることを見出し、本発明に至った。その原因は必ずしも明らかではないが、哺乳動物が恐怖ですくむだけでなく、積極的に逃げ出すような行動が誘発されるためと考えられ、結果的に使用者が忌避効果をより実感しやすくなるものと考えられる。
【0011】
本開示の一態様に係る哺乳動物忌避剤は、哺乳動物に対して恐怖行動を誘発する恐怖誘導物質と、哺乳動物に対して刺激を与える刺激物質と、を含んでいる。刺激物質を含むことにより、恐怖誘導物質による先天的な恐怖の誘発に起因した忌避効果に加えて、刺激による忌避効果が得られる。刺激による忌避効果は、恐怖によるすくみとは異なり、哺乳動物が反射的に動いたり、退避行動、逃避行動等を起こしたりするので、使用者が効果をより実感しやすい忌避剤を得ることができる。
【0012】
前記恐怖誘導物質は2-アセチルチオフェンであってもよい。これにより、特にネズミに対して優れた忌避効果が得られる。
【0013】
前記刺激物質が、TRPA1受容体に作用する物質であってもよい。すなわち、特許文献1に記載されているように、TRPA1受容体は恐怖行動の誘発に主要な役割を果たすと考えられている。本態様の刺激物質が、恐怖行動の誘発に主要な役割を果たすTRPA1受容体に作用する物質であれば、恐怖誘導物質と刺激物質とによる何らかの複合作用が発現することになり、その結果、恐怖誘導物質と刺激物質との相乗効果により高い忌避効果が得られる。
【0014】
TRPA1受容体に作用する前記刺激物質は、例えば、ペッパーオイル、アリルイソチオシアネート、マスタードオイル、アリシン、ジンゲロール、チモール、カンファー、クルクミンおよびピペリン等から選択される一の物質またはこれらの中の2以上を混合した物質であってもよい。
【0015】
前記恐怖誘導物質として2-アセチルチオフェンを用い、前記刺激物質としてペッパーオイルまたはアリルイソチオシアネートを用いた哺乳動物忌避剤とすることもできる。この場合、対象動物を例えばネズミとするのが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように、恐怖誘導物質による先天的な恐怖の誘発に加えて、哺乳動物が刺激物質による行動を起こすので、使用者が効果をより実感しやすい忌避剤を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施形態に係る哺乳動物忌避剤が収容された哺乳動物忌避具の斜視図である。
図2】忌避効果試験で使用した試験装置の模式図である。
図3】エアゾール剤による忌避効果試験で使用した試験装置の模式図である。
図4】持続性試験で使用した試験装置の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0019】
図1は、本発明の実施形態に係る哺乳動物忌避剤が収容された哺乳動物忌避具1の斜視図である。哺乳動物忌避具1は、容器2と、上部カバー3とを備えている。容器2には、哺乳動物忌避剤が収容されている。容器2の上部には、開口部2aが形成されている。容器2に収容されている哺乳動物忌避剤は、有効成分が常温で揮散する性質を持っており、開口部2aから容器2の外部へ放出される。有効成分の単位時間当たりの揮散量は、特に限定されるものではないが、例えば、哺乳動物忌避剤の組成、各成分の配合量、哺乳動物忌避剤を担持させる担体の選択、哺乳動物忌避剤を保持させる保持体の選択等によって変更することができる。この実施形態では、哺乳動物忌避具1の使用開始を起算点として、有効成分が1ヶ月以上、または2ヶ月以上、または3ヶ月以上の間、放出されるように、当該有効成分の単位時間当たりの揮散量が設定されている。
【0020】
上部カバー3は、容器2を上方から覆うように配置される上板部30と、上板部30の周縁部から下方へ延びる複数の縦板部31とを有しており、容器2の上部に取り付けられている。複数の縦板部31は、上板部30の周方向に互いに間隔をあけて設けられており、周方向に隣合う縦板部31の間には、哺乳動物忌避剤を上部カバー3の外部に放出させるための放出口3aが形成されている。上部カバー3は容器2に対して上下動可能に取り付けられている。上部カバー3を上方へ移動させることで、上部カバー3と容器2との間が拡大し、ここから哺乳動物忌避剤の有効成分の放出量が増加する。つまり、哺乳動物忌避具1は、哺乳動物忌避剤の有効成分の放出量を増減させる放出量調整機構を備えている。
【0021】
尚、図1に示す哺乳動物忌避具1は一例であり、哺乳動物忌避具1の形状及び構造は、特に限定されるものではなく、哺乳動物忌避剤を収容するとともに、収容した哺乳動物忌避剤を外部に放出させることが可能なものであればよい。
【0022】
哺乳動物忌避剤は、哺乳動物に対して恐怖行動を誘発する恐怖誘導物質と、哺乳動物に対して刺激を与える刺激物質と、を含んでいる。本実施形態の哺乳動物忌避剤の有効成分は、恐怖誘導物質と刺激物質とで構成されているが、他の忌避効果を増強させる成分を含んでいてもよい。哺乳動物忌避剤は、有効成分を構成している恐怖誘導物質及び刺激物質以外にも、例えば、水、界面活性剤、補助溶剤、防腐剤、着色料、誤食防止剤等を含んでいてもよい。
【0023】
哺乳動物忌避剤は、例えば水のような液体であってもよいし、水よりも粘度の高い液体であってもよい。また、哺乳動物忌避剤は、例えば、ゲル状、ゼリー状、水よりも粘性の高いペースト状であってもよい。高吸水性樹脂(高分子吸収体、吸収性ポリマー)に液状の哺乳動物忌避剤を吸収させることにより、ゲル状やゼリー状にすることができる。その他、例えば粘度調整剤を添加することで、ゲル状、ゼリー状、ペースト状にすることができる。
【0024】
恐怖誘導物質は、哺乳動物に対して先天的な恐怖行動を誘発し、かつ適度な揮発性を有する化合物であればよく、特に限定されないが、例えば特許文献2に記載されている2-アセチルチオフェン(2AT)を挙げることができる。複数種の恐怖誘導物質を混合して使用してもよい。哺乳動物の恐怖行動としては、例えばすくみ行動があり、接した哺乳動物がすくみ行動を起こす物質は、恐怖誘導物質である。尚、すくみ行動に加えて退避行動や逃避行動を誘発する物質が恐怖誘導物質であってもよい。
【0025】
哺乳動物忌避剤に含まれている恐怖誘導物質は、哺乳動物の嗅覚受容体と、三叉神経節にあるTRPA1受容体の両方を刺激すると考えられており、哺乳動物は、香りと恐怖の両方の感覚を認識する。特に、TRPA1受容体で認識した恐怖の感覚は馴化しないので、哺乳動物が恐怖誘導物質に対して匂い慣れすることはなく、長期間に亘って所期の忌避効果を発揮する。
【0026】
刺激物質は、哺乳動物のTRPA1受容体に作用し、哺乳動物に対して「痛み」などの刺激を与える物質であり、かつ適度な揮発性を有しているものである。TRPA1受容体に作用する刺激物質としては、例えば、ペッパーオイル、アリルイソチオシアネート、マスタードオイル、アリシン、ジンゲロール、チモール、カンファー、クルクミンおよびピペリン等を挙げることができ、これらの中から任意に選択される一の物質、またはこれらの中から任意に選択される2以上を混合した物質を刺激物質として用いることができる。恐怖誘導物質を2-アセチルチオフェンとし、刺激物質をペッパーオイルまたはアリルイソチオシアネートとすることで、特にネズミに対する忌避効果を高めることができる。
【0027】
刺激物質の配合量の下限は、重量比で恐怖物質の1/50以上が好ましく、1/30以上がより好ましい。刺激物質の配合量の上限は特に限定されないが、多すぎると人間に対しても刺激がある可能性があるため、重量比で恐怖物質の等量以下が好ましく、1/2倍以下がより好ましい。
【0028】
また、哺乳動物忌避剤は、更に非刺激性の香料物質を含んでいても良い。非刺激性の香料物質は、哺乳動物に対する忌避性があるものが好ましく、哺乳動物のTRPA1受容体に作用する物質であれば特に好ましい。このような非刺激性の香料物質としては、メントール、シンナムアルデヒドなどが挙げられる。非刺激性の香料物質は、「匂い慣れ」の問題があるため長期間の忌避効果は期待できないが、短期間であれば忌避効果の向上に寄与することが期待できる。
【0029】
哺乳動物忌避剤が対象とする哺乳動物は、例えばネズミ、イタチ、モグラ、ウサギ、シカ、イノシシ、サル、クマ、ネコ等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。これら哺乳動物の中で、特にネズミ目動物を対象とすることができ、対象となるネズミ目動物としては、マウスと呼ばれるハツカネズミの他、クマネズミ、ドブネズミ等を挙げることができる。
【0030】
哺乳動物忌避剤には、恐怖誘導物質および刺激物質を溶解するための溶剤が含まれていても良い。溶剤としては、水、アルコール系溶剤、炭化水素系溶剤など適宜の溶剤成分を使用できる。哺乳動物忌避剤に水が含まれている場合、その水はイオン交換水であってもよいし、水道水であってもよい。哺乳動物忌避剤に界面活性剤が含まれている場合、その界面活性剤としては例えばアニオン界面活性剤を挙げることができる。哺乳動物忌避剤に補助溶剤が含まれている場合、その補助溶剤としては例えばプロピレングリコール等を挙げることができる。哺乳動物忌避剤に防腐剤が含まれている場合、その防腐剤としては忌避効果を低減させることなく、防腐効果を発揮する各種防腐剤を挙げることができる。
【0031】
また、哺乳動物忌避剤を例えば多孔質材などの担体に担持させて使用しても良い。多孔質材としては、例えばスポンジ、多孔質シリカ、ゼオライト等を挙げることができる。また、哺乳動物忌避剤を含浸体(保持体ともいう)に含浸させて使用することもできる。含浸体としては、例えば布材、不織布、紙、フェルト、網等を挙げることができる。また、哺乳動物忌避剤を例えば樹脂等に練り込んで固形状として使用することもできる。
【0032】
なお、上記実施例では哺乳動物忌避剤を哺乳動物忌避具1に収容した構成としたが、これに限らない。例えば、液体の哺乳動物忌避剤を例えばエアゾール容器の噴霧容器に収容しておき、噴霧容器から噴霧することによって使用することもできる。また、哺乳動物忌避剤を刷毛で塗布したり、散布器によって散布することによって使用することもできる。
【0033】
哺乳動物忌避剤は、屋内で使用することや、屋外で使用することができる。屋内で使用する場合、例えば居室、屋根裏、床下、物置、倉庫等を使用場所として挙げることができる。屋外で使用する場合、例えば果樹園、畑等を使用場所として挙げることができる。哺乳動物忌避剤は、開放された空間で使用してもよいし、閉鎖された空間で使用してもよい。
【実施例0034】
実施例としては、例えば液状の哺乳動物忌避剤を水性ゲルに含ませた形態を挙げることができる。哺乳動物忌避剤を含んだ水性ゲルは、図1に示すような哺乳動物忌避具1の容器2に収容することができる。この実施例では、1個の哺乳動物忌避具1に収容される哺乳動物忌避剤には、イオン交換水が350g、2-アセチルチオフェンが6g、ペッパーオイルが0.3g、界面活性剤および補助溶剤が30g、水性ゲルが8g含まれている。この実施例に係る哺乳動物忌避具1によれば、後述するように、2.5ヶ月以上の長期間に亘ってネズミの忌避効果を発揮する。
【0035】
他の実施例として、上記実施例のペッパーオイルの代わりに、またはペッパーオイルに加えて、アリルイソチオシアネート、マスタードオイル、アリシン、ジンゲロール、チモール、カンファー、クルクミンおよびピペリンの中から任意に選択される一の物質、またはこれらの中から任意に選択される2以上を混合した物質を用いた例も挙げることができる。
【0036】
哺乳動物忌避剤に含まれる水の量は、重量換算で2-アセチルチオフェンの40倍以上または50倍以上に設定すればよい。また、2-アセチルチオフェンの量は、重量換算でペッパーオイル(刺激物質)の10倍以上または15倍以上に設定すればよい。また、他の実施例として、水性ゲルを含まない哺乳動物忌避剤を挙げることもできる。
【0037】
さらに別の実施例として、哺乳動物忌避剤をエアゾール容器に収容した例を挙げることもできる。この場合、哺乳動物忌避剤を空間に噴霧してもよいし、物品等に噴霧してもよい。エアゾール容器の構造は特に限定されるものではないが、噴射ボタンを押している間だけ哺乳動物忌避剤が噴霧される構造であってもよいし、噴射ボタンを一度押すと、エアゾール容器内の哺乳動物忌避剤が全量噴射される全量噴射型であってもよい。
【0038】
(忌避効果試験)
次に、哺乳動物忌避剤の忌避効果試験について説明する。供試動物は、ネズミ(ICR雄)である。図2には、平面的に見たときの試験装置100の概略を示している。試験装置100は、哺乳動物忌避剤による処理を実施しない無処理区101と、哺乳動物忌避剤による処理を実施する処理区102とを有している。無処理区101と処理区102はそれぞれ1mで同じ広さである。試験装置100の中央部に設置された仕切板100aによって無処理区101と処理区102とが区画されている。仕切板100aには、ネズミの通過が可能な直径5cmの孔が形成されている。試験装置100内の温度は25℃であり、湿度は24%であった。
【0039】
無処理区101と処理区102には、それぞれ、水が入った水容器103と、粉末飼料が入った餌容器104とが置かれている。無処理区101には、直径7cmのろ紙106がシャーレの上に置かれている。一方、処理区102には、供試剤として、比較例1、2及び実施例1をそれぞれ1mlだけ含浸させた直径7cmのろ紙106が置かれている。
【0040】
比較例1は、2-アセチルチオフェンの1.5%液のみを供試剤とした。比較例2は、ペッパーオイルの0.07%液のみを供試剤とした。実施例1は、本発明の乳動物忌避剤であり、2-アセチルチオフェンの1.5%液と、ペッパーオイルの0.07%液とを有効成分として含んだものである。なお、2-アセチルチオフェンの1.5%液は、2-アセチルチオフェンをアセトンで希釈することによって得た。また、ペッパーオイルの0.07%液は、ペッパーオイルをアセトンで希釈することによって得た。以下同様である。
【0041】
比較例1、2及び実施例1を別々に試験した。各試験において、無処理区101または処理区102に供試動物を3匹放ち、1時間馴化させた。その後、ろ紙105、106を無処理区101及び処理区102に置いてから24時間経過後、無処理区101に置かれている餌容器104内の粉末飼料の喫食量(無処理区喫食量)と、処理区102に置かれている餌容器104内の粉末飼料の喫食量(処理区喫食量)とを計測した。そして、以下の式に基づいて忌避率を算出した。
【0042】
忌避率(%)=(1-処理区喫食量÷無処理区喫食量)×100
【0043】
【表1】
【0044】
比較例1の場合の忌避率は14%であった。比較例2の場合の忌避率は6%であった。実施例1の場合の忌避率は93%であった。2-アセチルチオフェンのみの比較例1では供試動物が恐怖によって食欲をなくしたものと考えられ、喫食量自体が極めて少なくっている。このように比較例1は供試動物に対する効果は高いものの、処理区と無処理区で喫食量に差が出なかったために忌避率としては低い結果になった。また、ペッパーオイル単体の比較例2では忌避効果は殆どない。しかし、2-アセチルチオフェンとペッパーオイルとを含む実施例1では、93%という極めて高い忌避率が得られた。忌避率93%という値は、2-アセチルチオフェンによる忌避率(比較例1)と、ペッパーオイルによる忌避率(比較例2)との単なる相加的な効果でなく、2-アセチルチオフェンとペッパーオイルとによる何らかの複合作用が発現することになり、相乗効果により高い忌避効果が得られたと考えらえる。より具体的には、恐怖によるすくみ反応だけでなく、ペッパーオイルによる刺激によって供試動物に何らかの行動を誘発したと考えられ、結果的に一般使用者であっても十分に効果を実感できる結果となっている。尚、ペッパーオイル以外の刺激物質であっても同様な忌避効果が得られる。
【0045】
次に、哺乳動物忌避剤が充填されたエアゾール剤による忌避試験について説明する。供試動物はネズミ(ICR雄)である。図3は、エアゾール剤による忌避試験で使用した試験装置110の概略を示している。試験装置110は、それぞれ縦80cm×横40cm×高さ20cmの明室111と暗室112とを有している。明室111と暗室112とは通路110aによって連通しており、ネズミの行き来が可能になっている。暗室112には、水が入った水容器113と、粉末飼料が入った餌容器114とが置かれている。つまり、ネズミが暗室112に滞在し易い環境を作った。
【0046】
供試資材は、供試剤(エアゾール原液)と噴射剤をエアゾール容器に充填したエアゾール製品である。噴射剤としては、LPG4.0を充填した。エアゾール原液と噴射剤の液容量比率(液ガス比)は、40:60となるように設定した。供試剤は、比較例3、比較例4、比較例5、比較例6と実施例2である。
【0047】
【表2】
【0048】
比較例3は、2-アセチルチオフェンの0.5%液を供試剤とした。比較例4は、アリルイソチオシアネート3.0%液を供試剤とした。尚、アリルイソチオシアネートは、ワサビに含まれる刺激成分である。比較例5は、2-アセチルチオフェンの0.5%と、Lメントール(非刺激性の物質)3.0%の混合物を供試剤とした。比較例6は、2-アセチルチオフェンの0.5%と、シンナムアルデヒド(非刺激性の物質)3.0%の混合物を供試剤とした。一方、実施例2は、2-アセチルチオフェンの0.5%と、アリルイソチオシアネート3.0%を有効成分として混合した哺乳動物忌避剤である。なお、上記各供試剤(エアゾール原液)は、各成分をケロシン(ネオチオゾールF)で希釈することにより調整した。
【0049】
比較例3、比較例4、比較例5、比較例6及び実施例2を別々に試験した。各試験において、明室111または暗室112に供試動物を3匹放ち、4時間馴化させた。その後、暗室112に、供試剤をエアゾール容器から0.3秒間噴射した。噴射後、15分間明室111を撮影し、ネズミの時間当たりの平均滞在数を計算し、以下の式に基づいて忌避率を算出した。
【0050】
忌避率(%)=明室滞在数/15分間の合計滞在時間(秒)÷(3匹×900秒)
×100
【0051】
【表3】
【0052】
表3に示すように、2-アセチルチオフェンのみの比較例3の場合は、62%という高い忌避率を示した。しかしながら、恐怖による「すくみ」によって暗室での滞在時間が若干長引く傾向があったため、一般使用者には効果が十分に実感できない可能性がある。一方、アリルイソチオシオネートのみの比較例4の場合の忌避率は38%であった。なお、溶剤(ケロシン)のみを供試材とした場合の忌避率は24%であった。このように、アリルイソチオシアネート単体の比較例4では忌避効果が低い。
【0053】
これに対し、2-アセチルチオフェンとアリルイソチオシアネートとを含む実施例2では、2-アセチルチオフェンのみの比較例3の忌避率を大きく超えて、71%という高い忌避率が得られている。このことは、単にネズミを恐怖させるだけでなく、暗室112から明室111へと積極的に退避させるような行動を誘発させる効果があると言える。これにより、一般使用者でも十分に効果を実感できる。
【0054】
また、このような効果は、非刺激性の物質と恐怖誘導物質の組み合わせでは得られないことが分かる。すなわち、非刺激性の物質(Lメントールやシンナムアルデヒド)と2-アセチルチオフェンとを組み合わせた比較例5、6は、それぞれ忌避率が23%と29%であり、2-アセチルチオフェン単体(比較例3)に比べても忌避効果が低くなる。このように、刺激物質と2-アセチルチオフェンとの組み合わせでのみ、忌避効果が顕著に高くなることが分かる。尚、アリルイソチオシアネート以外の刺激物質についても同様な効果を発揮する。
【0055】
次に、忌避効果の持続性について説明する。供試剤は、実施例の液状の哺乳動物忌避剤を水性ゲルに含ませたものを有する哺乳動物忌避具1であり、その組成は上述のとおりである。図4に示す試験装置120は、試験室121を有している。試験室121のサイズは1m×2mであり、換気回数は3回/時間に設定した。試験室121には、水が入った容器122と、哺乳動物忌避具1と、ベニア板123とが置かれている。哺乳動物忌避具1を設置してから24時間後(0ヶ月後)、0.5ヶ月後、1ヶ月後、1.5ヶ月後、2ヶ月後、2.5ヶ月後、、それぞれのタイミングでの試験室121に供試動物としてのネズミを放ち、24時間後のベニア板123のネズミによる食害の有無を観察した。試験室121は、温度が5℃で湿度が35%の部屋と、温度が25℃で湿度が20%の部屋と、温度が40℃で湿度が75%の部屋との3つを用意し、それぞれで同様な試験を行った。試験結果は、表4に示す。
【0056】
【表4】
【0057】
温度が5℃で湿度が35%の部屋、及び温度が40℃で湿度が75%の部屋では、2.5ヶ月間、食害が発生しなかった。なお、比較対照として同様の試験を市販のネズミ忌避剤で行ったところ、温度が5℃の条件では1ヶ月後、温度が25℃または40℃の条件では0.5ヶ月後には食害が確認された。
【0058】
本実施例の哺乳動物忌避剤では食害が発生しないということは、ネズミが忌避されているということであり、上述した忌避効果は少なくとも2.5ヶ月以上の長期間に亘って持続する。温度が25℃で湿度が20%の部屋では、2ヶ月と、2.5ヶ月が未実施となっているが、これは哺乳動物忌避具1内のゲルが無くなったため、結果が得られなかったことによる。哺乳動物忌避具1内のゲルがあれば、他の部屋と同様に、忌避効果が持続していたと推定される。
【0059】
上述の実施形態はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0060】
以上説明したように、本開示に係る哺乳動物忌避剤は、例えばネズミ等の哺乳動物を忌避する場合に利用できる。
【符号の説明】
【0061】
1 哺乳動物忌避具
2 容器
3 上部カバー
図1
図2
図3
図4