(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024070654
(43)【公開日】2024-05-23
(54)【発明の名称】プラズマ発生装置及びそれを用いた治療装置並びに植物処理装置
(51)【国際特許分類】
H05H 1/24 20060101AFI20240516BHJP
A61N 1/04 20060101ALI20240516BHJP
【FI】
H05H1/24
A61N1/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022181278
(22)【出願日】2022-11-11
(71)【出願人】
【識別番号】504237050
【氏名又は名称】独立行政法人国立高等専門学校機構
(71)【出願人】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100116687
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 爾
(74)【代理人】
【識別番号】100098383
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 純子
(74)【代理人】
【識別番号】100155860
【弁理士】
【氏名又は名称】藤松 正雄
(72)【発明者】
【氏名】柳生 義人
(72)【発明者】
【氏名】林 信哉
【テーマコード(参考)】
2G084
4C053
【Fターム(参考)】
2G084AA13
2G084AA14
2G084AA24
2G084AA25
2G084BB35
2G084CC08
2G084CC19
2G084CC34
2G084DD12
2G084DD22
2G084FF18
2G084FF38
2G084FF39
2G084FF40
4C053BB12
(57)【要約】
【課題】 液相と接触する環境でもプラズマにより生成した活性種が供給可能であり、プラズマ発生部もコンパクトなプラズマ発生装置を提供すること。
【解決手段】
内部空間を画定するチューブ状部材1(10)を有し、該チューブ状部材1の一部に開口部11が形成されると共に、該開口部11を覆う多孔質膜2が配置されており、該チューブ状部材1の内部に放電用電極3を配置し、該チューブ状部材の内部にガスを供給するガス供給手段5を有し、該放電用電極により該ガスの少なくとも一部を活性種に変換すると共に、該開口部を介して該活性種を外部に導出することを特徴とするプラズマ発生装置である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部空間を画定するチューブ状部材を有し、
該チューブ状部材の一部に開口部が形成されると共に、該開口部を覆う多孔質膜が配置されており、
該チューブ状部材の内部に放電用電極を配置し、
該チューブ状部材の内部にガスを供給するガス供給手段を有し、
該放電用電極により該ガスの少なくとも一部を活性種に変換すると共に、該開口部を介して該活性種を外部に導出することを特徴とするプラズマ発生装置。
【請求項2】
請求項1に記載のプラズマ発生装置において、
該チューブ状部材は可撓性を有し、
該放電用電極に通電する配線は、該チューブ状部材の内部に配置されていることを特徴とするプラズマ発生装置。
【請求項3】
請求項1に記載のプラズマ発生装置において、
該放電用電極は、表面に絶縁性被膜を設けた一本の導線と、前記一本の導線の周りに該絶縁性被膜を介して巻き付けた他の導線とからなることを特徴とするプラズマ発生装置。
【請求項4】
請求項3に記載のプラズマ発生装置において、
該放電用電極に通電する配線は、前記一本の導線と前記他の導線に接続する2本の配線を備え、前記2本の配線は共に絶縁体被覆されていることを特徴とするプラズマ発生装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載のプラズマ発生装置を用いた治療装置において、
該チューブ状部材の一部は、人体又は動物の体内に挿入可能であり、
該多孔質膜が配置された部位が処置すべき箇所又はその近傍に到達可能となっていることを特徴とする治療装置。
【請求項6】
請求項1乃至4のいずれかに記載のプラズマ発生装置を用いた植物処理装置において、
該チューブ状部材の一部は、植物に接触又は近接可能であり、
該多孔質膜が配置された部位が処理すべき箇所又はその近傍に到達可能となっていることを特徴とする植物処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマ発生装置及びそれを用いた治療装置並びに植物処理装置に関し、特に、患部など体内等の処置すべき場所や植物の処理を施す場所に近接してプラズマ発生部を配置可能なプラズマ発生装置及びそれを用いた治療装置並びに植物処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、プラズマを種々の処理対象物に照射し、例えば、コーティング処理、親水化処理、撥水化処理、殺菌処理などの種々の処理を行うことが提案されている(特許文献1参照)。また一方では、「がん」などの疾患に対して、プラズマ照射を活用することにも、注目が集まっている。
【0003】
「がん」は日本人の死因第1位の疾患であり、効果的な治療法の開発は喫緊の課題である。近年、プラズマ照射によるがん細胞の不活化は世界的に注目され、副作用が少なく低侵襲な新しい治療法として有望視されている。
【0004】
がん細胞へのプラズマ照射は、皮膚や口腔内など体外に露出した部位に発生したがんについては、プラズマを直接照射できるが、多くのがんが発生する内臓では、他の臓器や体液によりプラズマ生成が阻害されるため、内臓へのプラズマ照射は困難を極める。
【0005】
また、農業分野においても、植物の生長促進、発芽促進、発芽勢の制御、収穫量の増加・品質改善、水耕栽培の培養液の殺菌や窒素供給などに、プラズマ照射を活用することも提案されている。植物処理に際しても、空気中に露出している部位には、種々のプラズマ発生装置が利用可能であるが、水中など液層と接触している部位にプラズマを照射することは極めて困難である。
【0006】
特許文献2において、多孔質構造体を使用するオゾナイザが提案されている。これは、多孔質構造体の表面に電極を密着配置しており、多孔質構造体の一側面側を液相とし、他側面側を気相とした状態で、気相側から酸素を供給しながら電極に交流電圧を印加することで、液相側の表面発生する微細気泡内で放電を発生し、オゾンを生成するものである。
【0007】
多孔質構造体は、多孔質ガラス又はセラミックから形成する板状体もしくは筒状体であり、酸素を供給する配管や電源に係る配線等も考慮すると、装置自体が大きくなり、人体等の内部に挿入又は配置することが極めて難しい。また、密集する植物の中で、特定の植物のみにアプローチしてプラズマ処理を施す場合も、装置が大きく、取り扱いも煩雑なものとなる。
【0008】
液中に存在する微生物または細胞を、不活化または活性化可能とする技術が確立できれば、医療や食品等の多くの分野に大きく貢献する技術となる。しかしながら、液中に存在する微生物または細胞にピンポイント的に化学活性種を到達させ、不活化または活性化に必要な反応を生じさせることは非常に困難である。現状では、液中に存在する微生物または細胞に到達するまでの経路上に存在する菌や細胞、その他タンパク質等の生体物質にも影響を与えてしまい、副作用の原因となっている。
【0009】
外部で生成した化学活性種をバブリング等で液中に輸送することも可能であるが、液中で放出した気泡とともに活性種は速やかに液面位に到達し揮散することから、微生物または細胞と十分に反応する時間が得られず、不活化または活性化させることは困難であった。また、生体内での気泡の生成は生体に大きなダメージを与える。
【0010】
プラズマを用いれば化学活性種を局所的に発生させることが可能であるが、プラズマ(電子、イオン)は気相中でのみ発生し、液中で発生させることは不可能である。液中に浸漬した二つの電極間で、外部よりガスを導入せず放電を発生させる場合でも、電極間で必ず気泡が生じてしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2011-222404号公報
【特許文献2】特開2009-234900号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は上述した課題を解決するためになされたものであり、プラズマにより生成された化学活性種を、気泡を伴うことなく、液相、気相、固相もしくはそれらを組み合わせた環境中の対象物近傍に安定的に供給可能であるとともに、プラズマ発生部もコンパクトなプラズマ発生装置を提供することである。また、このプラズマ発生装置を用いた治療装置並びに植物処理装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述した課題を解決するため、本発明のプラズマ発生装置及びそれを用いた治療装置並びに植物処理装置は、以下のような特徴を有する。
(1) 内部空間を画定するチューブ状部材を有し、該チューブ状部材の一部に開口部が形成されると共に、該開口部を覆う多孔質膜が配置されており、該チューブ状部材の内部に放電用電極を配置し、該チューブ状部材の内部にガスを供給するガス供給手段を有し、該放電用電極により該ガスの少なくとも一部を活性種に変換すると共に、該開口部を介して該活性種を外部に導出することを特徴とするプラズマ発生装置である。
【0014】
(2) 上記(1)に記載のプラズマ発生装置において、該チューブ状部材は可撓性を有し、該放電用電極に通電する配線は、該チューブ状部材の内部に配置されていることを特徴とする。
【0015】
(3) 上記(1)に記載のプラズマ発生装置において、該放電用電極は、表面に絶縁性被膜を設けた一本の導線と、前記一本の導線の周りに該絶縁性被膜を介して巻き付けた他の導線とからなることを特徴とする。
【0016】
(4) 上記(3)に記載のプラズマ発生装置において、該放電用電極に通電する配線は、前記一本の導線と前記他の導線に接続する2本の配線を備え、前記2本の配線は共に絶縁体被覆されていることを特徴とする。
【0017】
(5) 上記(1)乃至(4)のいずれかに記載のプラズマ発生装置を用いた治療装置において、該チューブ状部材の一部は、人体又は動物の体内に挿入可能であり、該多孔質膜が配置された部位が処置すべき箇所又はその近傍に到達可能となっていることを特徴とする。
【0018】
(6) 上記(1)乃至(4)のいずれかに記載のプラズマ発生装置を用いた植物処理装置において、該チューブ状部材の一部は、植物に接触又は近接可能であり、該多孔質膜が配置された部位が処理すべき箇所又はその近傍に到達可能となっていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、内部空間を画定するチューブ状部材を有し、該チューブ状部材の一部に開口部が形成されると共に、該開口部を覆う多孔質膜が配置されており、該チューブ状部材の内部に放電用電極を配置し、該チューブ状部材の内部にガスを供給するガス供給手段を有し、該放電用電極により該ガスの少なくとも一部を活性種に変換すると共に、該開口部を介して該活性種を外部に導出することを特徴とするプラズマ発生装置であるため、チューブ状部材の内部を気相としながら、一方、チューブ状部材の外部を液相、あるいは気相や固相とすることが可能である。しかも、多孔質膜とは分離して放電用電極が形成できるため、放電用電極もコンパクトなものが採用でき、結果として、チューブ状部材全体をコンパクトに形成することが可能となる。
【0020】
本発明のプラズマ発生装置を用いた治療装置や農業処理装置は、プラズマ発生装置の上述した利点を兼ね備え、体内への挿入や、特定の植物へのアクセスなど、利便性が格段に向上する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明に係るプラズマ発生装置を説明する概略図である。
【
図2】多孔質膜と放電用電極との配置の例を示す図である。
【
図4】
図3の放電用電極の配線部分を説明する図である。
【
図6】本発明に係るプラズマ発生装置をカテーテルに用いた例を説明する図である。
【
図7】本発明に係るプラズマ発生装置を内視鏡に用いた例を説明する図である。
【
図8】本発明に係るプラズマ発生装置を鉗子などの医療器具に用いた例を説明する図である。
【
図9】プラズマ処理による悪性腫瘍への影響を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明に係るプラズマ発生装置及びそれを用いた治療装置並びに植物処理装置について、以下に詳細に説明する。
本発明の特徴は、
図1に示すように、内部空間を画定するチューブ状部材1(10)を有し、該チューブ状部材1の一部に開口部11が形成されると共に、該開口部11を覆う多孔質膜2が配置されており、該チューブ状部材1の内部に放電用電極3を配置し、該チューブ状部材の内部にガスを供給するガス供給手段5を有し、該放電用電極3により該ガスの少なくとも一部を活性種に変換すると共に、該開口部11を介して該活性種を外部に導出することを特徴とするプラズマ発生装置である。
【0023】
本発明を構成するチューブ状部材1(10)は、チューブ状部材の内部に放電用電極3が収納されると共に、チューブ状部材の一部から供給されるガスの少なくとも一部を、該放電用電極3が生成するプラズマ(放電)により活性種へと転換し、該活性種をチューブ状部材の外部に導出する構造を必要とする。また、チューブ状部材は、放電用電極3が配置され、活性種を含むガスが導出される開口部11を含むプラズマ発生部分(活性種を導出する部分)1と、該プラズマ発生部分1の放電用電極3に電力を供給する配線4を被覆し、該プラズマ発生部分1にガスを供給するガス流路の役割をする配管部分10とから構成される。ここでは、「プラズマ発生部分」とは、放電用電極で生成されるプラズマや活性種が、チューブ状部材の外部に供給される部分を意味する。例えば、
図1のように、開口部11の近傍に放電用電極3を配置することが、放電用電極で生成した活性種をチューブ状部材の外部に効率的に提供する上では好ましい。ただし、開口部11から離して放電用電極3を設け、オゾンのような比較的寿命の長い活性種を外部に提供することも可能である。
【0024】
プラズマ発生部分1は、
図1に示すように、常にチューブ状部材の先端に位置する必要は無く、チューブ状部材の先端から少し手前側に戻った位置や、チューブ状部材の途中に形成することも可能である。また、プラズマ発生部分1は1つのチューブ状部材の中に1カ所のみ設置するのではなく、複数個所に設置することも可能である。また、チューブ状部材の太さ(サイズ)については、
図1に示すように、プラズマ発生部分1や放電用電極3が配置された位置の太さを、配管部分10より太くするだけでなく、両者を同じサイズに設定することも可能である。また、放電用電極3が配置されたチューブ状部材の内部側のサイズを局所的に狭く構成し、ガスが放電用電極3に効率よく接触するように設定することも可能である。
【0025】
チューブ状部材は、ガス流路を兼ねているため気密性が必要である。形成材料としては、気密性が維持できる材料であれば、金属や樹脂又はセラミックでも可能であるが、プラズマ発生部分1では、金属以外の材料を使用することが好ましい。また、配管部分10については、金属を含むいずれの材料を使用しても良い。さらに、プラズマ発生装置の用途により、例えば、カテーテルや内視鏡などの細長いパイプで可撓性が必要な場合は、樹脂材料が好適に使用される。
【0026】
チューブ状部材には、開口部11が形成されている。開口部11付近では、配管部分を通じて供給されたガスを、放電用電極でプラズマ化し、活性種を多く形成する。例えば、酸素ガスO2が供給されると、プラズマ化した電子やイオンと反応して、オゾンO3や酸素ラジカルなどの活性種が発生する。これらの活性種をチューブ状部材の外部に導出し、がん患部などに供給する。後述する多孔質膜を介して活性種を外部に導出すると、多孔質膜の片面に液相が接している場合には、気泡を伴わず、多孔質膜に表面張力によって維持された水分などの液体に活性種が濃度拡散によって液相もしくはチューブ状部材の外部に浸透していくこととなる。
【0027】
本発明では、当該開口部11に多孔質膜2を配置している。多孔質膜2は、気体は透過させるが液体は遮断する特性を有している。多孔質膜の微細孔のサイズは、0.1~10μm程度であり、膜体の厚みは0.1~0.2mm程度のものが利用されるが、これに限定されるものではなく、上記特性を有するものであれば種々の寸法のものが使用可能である。
【0028】
多孔質膜2の例としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を延伸加工して形成した多孔質膜が利用可能である。
チューブ状部材1に形成した開口部11の位置や形状、また多孔質膜2の形状や配置について、
図2に示すように、種々のものが採用可能である。
図2(a)は、チューブ状部材の先端に開口部11を形成し、この開口部を塞ぐように多孔質膜2を配置している。多孔質膜2と開口部11の周囲に接着して取り付けることも可能であるが、多孔質膜2を配置したキャップを別途用意し、開口部に被せる又は開口部に嵌め込むことも可能である。
【0029】
図2(b)では、チューブ状部材1の先端を除いた側面の一部に開口部11を形成するものである。開口部は、側面の一部のみとしても良いし、側面で周面を取り囲むように(
図2(d)参照)開口部を形成しても良い。
【0030】
図2(c)では、開口部11から突出するように放電用電極3を配置し、当該放電用電極3を取り囲むように多孔質膜2を配置することも可能である。多孔質膜2は薄い膜体であり、仮に
図2(c)のように開口部から突出した配置する場合には、多孔質膜2の形状を維持することが難しい。このため、多孔質膜2の表側又は内側に沿って、枠組みとなる支持部材を別途配置することも可能である。支持部材は、多孔質膜と同様に樹脂材料で構成され、多孔質膜と一体的に接合されていることが好ましい。当然、支持部材は、
図2(c)のものに限定されず、
図2(a)乃至(d)のいずれに使用しても良い。
【0031】
図2(d)は、チューブ状部材1(10)の途中に開口部11を配置したものである。例えば、チューブ状部材に沿って離散的に複数の開口部を形成する場合に利用できる形態である。開口部11は、
図2(d)のようにチューブ状部材1の側面の周囲に渡って形成されるだけでなく、
図2(b)のように側面の一部のみに形成することも可能である。
【0032】
次に放電用電極3について説明する。放電用電極としては、大気圧非熱平衡プラズマを形成するため、誘電体バリア放電を形成する電極が、好適に利用可能である。これは、プラズマ発生部が高温になり、人体や植物等に損傷を与えることを避けるためである。
【0033】
放電用電極3にも種々のものが利用可能であるが、
図3では、一本の導線30の表面に絶縁性被膜32を形成し、該絶縁性被膜32に周りに他の導線31を巻き付けている。
図3に示すように、2つの導線(30、31)に高電圧パルス電源Bを接続し、2つの導線間にバイア放電を発生させる。例えば、8kVの電圧で500ppsのパルス電圧を印加し、安定な誘電体バリア放電が確認できた。より具体的には、プラズマ生成部は、直径0.2mmのステンレス線を厚さ0.2mmのフッ素樹脂で被覆した電線と直径0.2mmのステンレス線で構成されており、
図3に示すように、フッ素樹脂の絶縁電線に裸電線を巻き数7回/cmで巻き付けて作製する。プラズマ生成部が隠れるようにフッ素樹脂製多孔質チューブで覆い、輪状にしてから、両端を熱収縮チューブで固定する。電線の長さや多孔質チューブの長さ、巻回数やピッチ、内径などは、照射する状況に合わせて製作することができる。また、電線の組合せは、絶縁電線―裸電線、絶縁電線―絶縁電線とすることができ、活性種の種類や濃度に応じて調整することが可能である。プラズマを生成するには、パルスパワー電源(MPC3010S-50SP、(株)末松電子製作所)などを用いて電圧を印加する。今回、開発したプラズマデバイスにおいて、安定してプラズマが生成可能な最低電圧値が8kVであったため、印加電圧8kV、パルス繰り返し周波数500ppsとした。
【0034】
放電用電極3と高電圧パルス電源Bとの間は、
図4のように配線4が設けられている。配線4では、放電現象が発生しないよう、2つの配線(40、42)について、共に絶縁体被覆(41、43)が設けられている。また、配線4を取り囲むチューブ状部材(10、配管部分)に金属材料などを使用することで、放電の発生を抑制することが可能となる。絶縁体被覆と放電用電極に使用した絶縁性被膜とは同じ材料であっても良いし、異なる材料で構成しても良い。
【0035】
図5(a)は、他の放電用電極の形状を示す図である。導線(30、31)を並べて配置し、一方には絶縁性被膜32を形成し、他方は裸(絶縁性被膜なし)の状態とする。なお、配線の部分については、両者とも絶縁体被膜(41、43)が形成されている。
【0036】
図5(b)は、2つの導線(30、31)の先端部分をバリア放電に適した誘電体被膜33で覆い、配線の部分については、放電が発生しないように、絶縁体被覆(41、43)で覆っている。誘電体被膜としては、シリコンやフッ素樹脂製の多孔質膜が好ましい。
図5(b)ように、誘電体33が2つの導線(30、31)の間隔を一定に保持し、安定した放電を実現することに寄与する。放電用電極3を取り囲むチューブ状部材の内径は特に限定されないが、チューブ状部材を接触させる患部などに合わせて、例えば、1cm以下、より局所的な部位には1mm以下に設定することも可能である。
【0037】
プラズマ発生装置に供給されるガスとしては、酸素、窒素、又はこれらの混合ガスなど種々の気体を目的に応じて導入することができる。プラズマ発生部でこれらのガスは、活性酸素種や活性窒素種となり、多孔質膜を通過し液相と接触することで、例えば、ヒドロキシラジカル、スーパーオキシド、一重項酸素、過酸化水素、一酸化窒素、二酸化窒素、亜酸化窒素、亜硝酸イオン、硝酸イオンなどに変換される。実際に、酸素リッチ(O290%、N210%)では、液体内でのH2O2の増加が確認でき、窒素リッチ(O21%、N299%)では、亜硝酸イオンや硝酸イオンの増加が確認されている。
【0038】
本発明のプラズマ発生装置は、プラズマ発生部がコンパクトな上、プラズマ処理したガスを液相に効果的に提供できるため、治療装置や植物処理装置など種々の装置に組み込むことができる。治療装置としては、
図6のカテーテル、
図7の内視鏡、
図8の鉗子等の体内挿入器具などに装着が可能である。
図6のカテーテルでは、カテーテル6の先端部Aにプラズマ発生部を組み込み、細管本体60の手元側に配置された操作部61から電力供給やガス供給が行われる。細管の外径は数mm程度であるが、実際のバルーンで血管を拡張するように、ガスの供給は十分可能である。
【0039】
図7の内視鏡7では、外径が1cm程度のチューブ状部材70が体内に挿入される。プラズマ発生部はチューブ状部材70の先端部に形成され、操作部71側から電力やガスの供給が行われる。チューブ状部材70自体をガス供給手段として利用することも可能であるが、チューブ状部材70内にガス供給用細管を配置しても良い。
【0040】
図8は腹腔鏡手術等で使用される鉗子等にプラズマ発生装置を組み込むものである。当然、プラズマ発生装置専用の挿入器具として構成することも可能である。器具8は把持部81に外径1cm程度の導入管80を取り付け、その先端部Aにプラズマ発生部を設けている。導入管80を介して、プラズマ発生部に電力やガスを供給可能である。
図6乃至
図8のような治療器具は、がん患部などに直接アプローチでき、患部に接触又は近傍でプラズマを発生させることができるため、効果的に活性種を患部に供給することができる。
【0041】
このように、本発明のプラズマ発生装置を用いた治療装置では、チューブ状部材の一部は、人体又は動物の体内に挿入可能であり、多孔質膜が配置された部位が処置すべき箇所又はその近傍に到達可能となっている。このため、例えば、がん細胞の治療、免疫細胞の活性化、創傷治癒、低侵襲・無侵襲の止血、遺伝子導入、細胞や微生物の殺菌・不活化などに効果的に活用することが可能となる。
【0042】
また、本発明のプラズマ発生装置は、植物処理装置に組み込むことも可能であり、チューブ状部材の一部は、水中又は湿度の高い環境にある植物に接触又は近接可能であり、多孔質膜が配置された部位が処理すべき箇所又はその近傍に到達可能となっている。これにより、植物の生長促進、発芽促進、発芽勢の制御、収穫量の増加・品質改善、水耕栽培の培植物の生長促進、発芽促進、発芽勢の制御、収穫量の増加・品質改善、水耕栽培の培養液の殺菌養液の殺菌や窒素供給や窒素供給など、種々の目的で活用することが可能となる。
【0043】
プラズマ処理による悪性腫瘍(がん)への影響を検討するために、
図9に示すように、プラズマ処理後の生細胞数の変化を調査した。プラズマ照射試験に用いた悪性腫瘍(がん)は、15歳、白人、男性から分離され、上皮様形態を示す細胞株であるHep G2細胞を使用した。この細胞数を1.0×10
5cell/mlに調整し、96ウェルプレートに100μlずつ播種し、24h前培養を行った。プラズマにより生成される活性種にはガスも含まれる。そのため、プラズマ処理時に他のウェルの細胞へ影響が出ないように2ウェル分空け、96ウェルプレートに細胞を播種した。前培養後、上清を除去し、播種した細胞とプラズマ発生装置(プラズマ発生部)が接触するように静置し、プラズマ処理した。雰囲気ガスは空気を用い、処理時間0~120sとした。プラズマを照射した後、速やかに新しい培地を100μl添加し、再びインキュベーターで24h培養し、生細胞数を測定した。生細胞の測定には、Cell Counting Kit-8試薬(同仁化学)を用いた。吸光度は、マイクロプレートリーダー(MTP-320、コロナ電気株式会社)を使用して測定した。その結果、悪性腫瘍(がん)Hep G2細胞をプラズマ処理すると、処理時間に依存して吸光度の減少を確認した。吸光度と生細胞数は相関があり、吸光度が小さくなると細胞数が減少したことを意味している。このプラズマ発生装置により、プラズマ処理することで、がん細胞を不活化できていることが明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0044】
以上説明したように、本発明によれば、液相と接触する環境でもプラズマにより生成した活性種が供給可能であり、プラズマ発生部もコンパクトなプラズマ発生装置を提供することが可能となる。また、このプラズマ発生装置を用いた治療装置並びに植物処理装置を提供することも可能となる。
【符号の説明】
【0045】
1 チューブ状部材(プラズマ発生部分)
2 多孔質膜
3 放電用電極
4 配線
5 ガス供給手段
10 チューブ状部材(配管部分)